本発明の鋳造物品の製造方法は、特許文献1に開示されたガスを利用した鋳造法、即ち金属溶湯を通気性鋳型に重力注湯して得られる鋳造物品の製造方法において、通気性鋳型のキャビティーの一部であり、通気性鋳型のキャビティーの全体の体積よりも小さい所望のキャビティー部分に金属溶湯を充填するため、通気性鋳型のキャビティーの全体よりも小さい体積の金属溶湯を注湯開始後、注湯された金属溶湯が所望のキャビティー部分に充填される前に、湯口部からガスを送気して所望のキャビティー部分に金属溶湯を充填する鋳造物品の製造方法に適用するものである。この製造方法によれば、従来、溶湯を鋳型キャビティーの全ての部分に充填していたものが、送気したガスの圧力(動圧)により溶湯を所望のキャビティー部分のみに充填して凝固させるので、高い注入歩留りを有し、後工程の削減が可能となる。
くわえて、本発明の鋳造物品の製造方法は、湯口部より上流に金属溶湯の少なくとも一部を貯留する溶湯貯留部を設け、金属溶湯を溶湯貯留部に給湯して貯留し、溶湯貯留部から流出させて通気性鋳型に注湯し、遅くとも金属溶湯が溶湯貯留部から流出している期間中に溶湯貯留部にガスを吐出する送気ノズルを配置させ、金属溶湯がキャビティーに流入している期間中にガスの送気を開始する、という本発明の重要な技術的思想となる構成要件を特許文献1の鋳造法に付帯するものである。上記付帯した構成要件により、注湯開始後、最後の溶湯が湯口部を通過中又は通過後に速やかにガスを送気する方がよい、という特許文献1に開示の望ましい実施態様を具体的に実現可能となる。この結果、キャビティー内での溶湯の停滞に起因する鋳造欠陥の発生が抑制され、健全な鋳造物品を得ることができる。
以下、付帯した構成要件の作用について説明する。本発明は、湯口部の上流に貯留部を設け、貯留部に給湯した溶湯が一定期間、貯留部に滞留することを利用して、ガスの送気を準備する時間を確保し、注湯開始後、速やかなガスの送気開始を可能としている。これにより、注湯段階から充填段階への移行をスムーズとして、溶湯を所望のキャビティーに充填するための駆動力の切り替えのタイミングにおいて溶湯を停滞させないようにすることができる。
本発明の鋳造物品の製造方法では、湯口部より上流に溶湯の少なくとも一部を一時的に貯留する貯留部を設けておいて溶湯を貯留部に給湯する。貯留部に給湯された溶湯は、一定期間、貯留部に滞留し、貯留部から鋳型に画成された湯口部に流出し、湯口部を経由して湯道部、押湯部及び製品部に供給されて注湯を終了する。ここで、遅くとも貯留部に給湯された溶湯が貯留部から流出している期間中に、貯留部にガスを吐出する送気ノズルを配置するとともに、金属溶湯がキャビティーに流入している期間中にガスの送気を開始する。これにより、キャビティー内で溶湯を停滞させないようにすることができる。なお、送気ノズルは、その吐出口が湯口部の鉛直上であって、貯留部の流出口の近傍に配置されることが好ましい。本発明での金属溶湯がキャビティーに流入している期間とは、特許文献1でいう最後の溶湯が湯口部を通過中又は通過後の期間に限定されず、湯口部を含めて、キャビティー内に流入している期間をいう。貯留部での溶湯の滞留時間は、貯留部からの溶湯の流出量を調整することで適宜設定できる。
本発明の鋳造物品の製造方法においては、貯留部の付設は、鋳型と一体の湯溜、或いは鋳型とは別体の掛けぜき又は底注ぎ取鍋として設けることができる。
貯留部を鋳型と一体に設けた湯溜とすることで、後述する別体の設備が不要であり付設費や維持管理費を抑えて鋳造物品の製造コストを抑制できる。湯溜は従来知られた方法で成形することができる。例えば鋳型を造型する際に湯溜となる模型(雄型)を用いて成形してもよいし、鋳型を造型した後ドリルやカッターなどにより鋳型を掘削して成形してもよい。なお鋳造分野において、湯溜とは鋳型と別体のものを指す場合もあるが、本発明においては、湯溜とは鋳型と一体のものと定義する。
また、貯留部を鋳型と別体に設けた掛けぜき又は底注ぎ取鍋とすることで、前述した一体の湯溜を成形する場合に想定される鋳型の造型時間の遅延による製造タクトの延長を抑制できる。また、製品部などの配置状態によっては、キャビティーと湯溜とが干渉するために湯溜を成形できない虞があるが、鋳型と別体に設けた掛けぜき又は底注ぎ取鍋ならばキャビティーとの干渉はない。なお鋳造分野において、掛けぜきとは鋳型と一体に成形したものを指す場合もあるが、本発明においては、掛けぜきとは鋳型と別体のものと定義する。
本発明の鋳造物品の製造方法においては、送気ノズルと貯留部の流出口を封止するストッパとを一体に構成して、貯留部での溶湯の貯留及び流出はストッパの昇降により行うとともに、ガスの送気はストッパの内部に設けた送気孔から行うようにすることができる。この製造方法は、予め溶湯貯留部にガスを吐出する送気ノズルを配置しておく形態に対応する。
貯留部への溶湯の貯留及び流出をストッパの昇降により行うことで、溶湯を一定期間、貯留部に滞留させることが容易となり、貯留部での溶湯の滞留時間の設定が簡便となる。またストッパを兼備した送気ノズルを予め貯留部に配置しているので、鋳型への注湯量が少ない即ち貯留部への給湯量が少なくて、溶湯が貯留部から流出している時間が短い場合であっても、ガスの送気を準備する時間を確保できる。またガスの送気をストッパの内部に設けた送気孔から行うことで、金属溶湯がキャビティーに流入している期間中、例えば貯留部からの溶湯の流出終了とほぼ同時にガスの送気を開始することが可能となる。
ストッパを兼備した送気ノズルは、貯留部の流出口を封止することで、1)貯留部に溶湯を給湯する際に、貯留部に溶湯を滞留させる作用と、2)鋳型にガスを送気する際に、送気ノズルと貯留部の流出口の接触部からのガスの漏れを抑制する作用とを有する。
ストッパを下降して貯留部の流出口を封止して貯留部に溶湯を給湯した後、ストッパを上昇して流出口を開口することで、貯留部への溶湯の給湯と貯留部からの溶湯の流出とを区別した工程とすることができる。これにより、貯留部の流出口とストッパで形成される流路の開口の程度によって貯留部からの流出量の調整が容易で、貯留部での溶湯の滞留時間を簡便に設定できる。また、ストッパの昇降により流出口を封止又は開口して注湯する方法は、鋳造分野で従来使用されている所謂ストッパ式注湯法となり、貯留部に滞留した溶湯の湯面に介在物(スラグ)を浮上させることで製品部への介在物の混入を抑制するという利点を享受できる。
なお、貯留部に溶湯を給湯する際にストッパで流出口を封止しないものとすることもできる。この場合には、封止のためにストッパと流出口を密着させる必要がないので、例えば貯留部を前述の通気性鋳型と一体に設けた湯溜としたり、掛けぜきを砂型で成形するなど、貯留部を比較的強度の低い砂型で構成した場合であってもストッパの密着で流出口を損傷しない。これにより、製品部への損傷した砂の混入を抑制できる。ガスの送気のために送気ノズルを下降して流出口を封止する際は、注湯終了に近いので、流出口が損傷しても製品部に損傷した砂が混入する虞はない。さらに、流出口を封止する場合にはストッパと流出口の密着が不十分だと溶湯が漏洩するため、溶湯の漏洩対策が必要なことがあるが、流出口を封止しない場合には漏洩対策は不要なので設備の構造を簡単にできる。
以下、本発明の実施の形態について、具体的な構成を示した図面を用いて説明する。なお本発明は、以下の実施の形態の構成により何ら限定されるものではなく、また本発明の技術的思想の範囲において、実施の形態の構成を適宜変更可能である。
(実施の形態1)
本発明の基本的な構成を具備した実施の形態1について図1を参照して説明する。図1は実施の形態1に係る製造工程を示す図である。なお、図1において、図1(a)は、貯留部に溶湯を給湯後の状態を示す図であり、図1(b)は、貯留部に送気ノズルを配置した状態を示す図であり、図1(c)は、ガスの送気後の状態を示す図であり、図1(d)は、溶湯の充填を完了した状態を示す図である。
まず通気性鋳型の構成について説明する。図1において、鋳型1は、硅砂等を主成分とする砂粒子からなる骨材、ベントナイト等の粘結材及び水分を主体に構成された生型からなる通気性を有する砂型であって、上枠2a内に造型された上型3a及び下枠2b内に造型された下型3bが型合わせされて定盤4に載置されている。鋳型1に画成されたキャビティー10は、押湯部7及び製品部8からなる所望のキャビティー10a、並びに湯口部5及び湯道部6からなるその他のキャビティー10bから構成されている。製品部8は、その断面が略H形の形状を有し、図視右側に押湯部7が連結されて、溶湯流路を構成する湯口部5、湯道部6、押湯部7を経由して溶湯Mが供給される。一般に鋳造物品を製造する場合には、押湯部を有することが多いが、鋳鉄鋳物のように凝固過程で黒鉛が晶出して体積膨張を生じる鋳造物品では、製品の健全性を補償できれば押湯部は不要である。
ここで、通気性鋳型とは、キャビティー10に溶湯Mを満たしたとき、キャビティー10に残留する例えば空気などの気体がキャビティー10の表面から押し出されるように即ち通気可能なように構成された、通気性を有している鋳型を指す。このような鋳型としては、前述の生型の他にシェル型、ガス硬化型、自硬性型等の砂粒子を用いて造型された砂型が一般的であるが、セラミックス粒子や金属粒子を用いて造型された鋳型も通気性鋳型に含まれる。また、石膏などのほとんど通気性のない鋳型でも、通気性材料を混在させる、または通気性材料を部分的に用いて通気性を付与したものも通気性鋳型である。さらに、全く通気性のない例えば金型などの鋳型でも、通気穴やベントホール等を設けて通気性を付与したものは通気性鋳型である。
図1の符号20で示す部位は本発明で重要な構成となる貯留部であって、湯口部5の上流に溶湯Mの少なくとも一部を貯留するために、実施の形態1では貯留部20は、鋳型1と一体に設けた湯溜21として設けている。
次に、溶湯Mを上述の鋳型1に重力注湯して得られる鋳造物品の製造方法である実施の形態1の製造方法では、鋳型1のキャビティー10の一部であり、キャビティー10の全体の体積よりも小さい所望のキャビティー10aに溶湯Mを充填するため、鋳型1のキャビティー10の全体よりも小さい体積の溶湯Mを注湯開始する。
注湯の初期段階について図1(a)を用いて説明する。給湯取鍋30には少なくとも所望のキャビティー10aを満たすに十分な溶湯Mが収納されており、給湯取鍋30から押湯部7及び製品部8からなる所望のキャビティー10aの体積とほぼ等しい体積の溶湯Mが、貯留部20の湯溜21に給湯される。貯留部20に溶湯Mを給湯後の状態では、図1(a)に示すように、溶湯Mは、その一部が湯溜21から重力によって流出して、鋳型1に注湯されて、少なくとも湯口部5とそれより下流の部位に流れ、その一部が湯溜21に滞留する。図1(a)に示すように、この段階で、溶湯Mは、キャビティー10に流入し、少なくとも湯口部5とそれより下流の部位を通過中であり停滞することはない。
次に、注湯の中期段階について図1(b)を用いて説明する。湯溜21に給湯された溶湯Mは、重力によって湯溜21からの流出を続け、湯口部5、湯道部6、押湯部7、製品部8を停滞することなく流れ続ける。図1(b)に示すように、この段階で湯溜21に滞留する溶湯Mは減少して湯面は降下している。この溶湯Mが貯留部20から流出している期間中に貯留部20の湯溜21に向後のガスを吐出するための送気ノズル11を挿入して配置する。ここでガスの送気ノズル11は、一方の端が貯留部20の上部開口を閉塞するように配置され、他方の端が図示しないガス吐出装置に接続されている。貯留部20の上部開口を例えばフランジなどシール部材12で閉塞することが、貯留部20からのガスの漏れを抑制し、後述するキャビティー10に注湯された溶湯Mを効果的に加圧すために望ましい。
なお、この段階で図1(b)の破線の矢印gで示すように図示しないガス吐出装置から吐出したガスgを、送気ノズル11を介して湯溜21内に送気して、湯溜21内の溶湯Mの加圧を開始してもよい。この段階でガスgの送気を開始することで、後述するガスGの送気による注湯段階から充填段階への移行がよりスムーズとなる。また、湯溜21内の溶湯Mを加圧することで注湯時間の短縮にも寄与する。この段階で溶湯Mは、重力で湯溜21から流下してキャビティー10を流動しつつ充填しているので、送気するガスgの圧力は、必ずしもキャビティー10に溶湯Mを充填するための圧力である必要はなく、溶湯Mの湯面の波立ちや溶湯Mへのガスの巻き込みなどを生じない程度に適宜設定すればよい。
次に、注湯の終期段階について図1(c)を用いて説明する。図1(c)は、ガスGの送気後の状態を示す図である。注湯の終期では溶湯Mは湯溜21から全て流出する一方で、湯口部5、湯道部6、押湯部7、製品部8を停滞することなく流れ続ける。詳述すると注湯の終期では湯溜21から溶湯Mが供給されなくなるので、最後の溶湯Mが湯口部5を通過中又は通過後の状態とるが、この段階で溶湯Mは、重力によって流動しておりまだ完全に停滞していない。なお、図1(c)では最後の溶湯Mが湯口部5を通過中の状態を例示している。また、この段階では注湯された溶湯Mは、押湯部7及び製品部8とほぼ等しい所望のキャビティー10aの体積であるので、鋳型1の全てのキャビティー10の体積を満たすことはできず、図1(c)に例示するように例えば湯道部6は満たすものの、溶湯Mで充填したい押湯部7や製品部8の上部など一部を満たしていない。
この段階、即ち注湯された溶湯Mが、キャビティー10に流入している期間、詳しくは押湯部7及び製品部8からなる所望のキャビティー10aで停滞しておらず、かつ所望のキャビティー10aに充填される前の段階において、図1(c)に示すように、図示しないガス吐出装置から吐出したガスGを、送気ノズル11を介して湯口部5から鋳型1のキャビティー10内に送気し、溶湯Mを加圧して、押湯部7及び製品部8に充填を開始する。これにより注湯段階から充填段階への移行がスムーズとなり、溶湯Mを所望のキャビティー10aに充填するための駆動力の切り替えのタイミングにおいて溶湯Mを停滞させることがない。
次に、溶湯Mの充填段階について図1(d)を用いて説明する。上記した注湯段階から継続して湯口部5からガスGを送気して、その風圧によって溶湯Mを加圧して所望のキャビティー10aに溶湯Mを充填する。注湯段階における溶湯Mの注湯量は押湯部7及び製品部8の体積とほぼ等しい量なので、図1(d)に示すように、最終的には溶湯Mは所望のキャビティー10aである押湯部7及び製品部8にのみ充填することになる。その後、この状態で所望のキャビティー10aの溶湯Mが凝固して鋳造を完了する。
なお、充填段階に先だって、送気ノズル11を図1(d)の破線で示すごとく湯口部5に近接するように移動することが、より効果的に溶湯Mを加圧できるので好ましい。さらに送気ノズル11を湯口部5に嵌め合わせ、くわえてさらに送気ノズル11を湯口部5に擦り合せるように回動することもできる。これにより送気ノズル11と湯口部5との密着性が向上してより一層効果的に溶湯Mを加圧できるので好ましい。また、送気ノズル11の外径を、湯口部5と嵌め合わせる部分の径よりもやや大きくし、湯口部5に圧入して嵌め合わせた状態で、ガスの送気方向に送気ノズル11を加圧すると、密着性がさらに高まるのでより好ましい。
なお、本発明に適用するガスは、各種のガスを利用することができる。コスト面からは例えば空気を使用してもよく、溶湯の酸化防止の面からは非酸化性ガスである例えばアルゴン、窒素又は二酸化炭素などを使用してもよい。くわえてガスの形態としては、ガス吐出装置として例えばファンやブロワー等により発生させた旋風を用いてもよいが、ガス吐出装置として例えばコンプレッサー等で圧縮され加圧されたガスであることが、一定の加圧力(動圧)で溶湯を均一に押すという点から好ましい。
ガスの流量や圧力は、通気性を有する鋳型などからのガスの抜けや漏れを考慮して、溶湯を適宜な力で押すことが可能な条件を設定すればよい。また、ガスを送気する際の流量や圧力のパターンは、注湯段階から充填段階の期間を通じて一定であってもよいし、所定のパターンで変化させてもよい。ガスの送気開始の時期は、本発明の構成の溶湯がキャビティーに流入している期間中であれば特に限定されず、適宜な時期に設定すればよい。
所望のキャビティー10aの溶湯Mの凝固においては、押湯部7及び製品部8の全体が凝固する前に、所望のキャビティー10aに充填された溶湯Mの端部(実施の形態1においては、押湯部7のうちその他のキャビティー10bと接する端部)が、部分的に凝固し、充填された溶湯Mがその他のキャビティー10bの湯口部6に向かって流動(逆流)しなくなることが望ましい。充填された溶湯Mの端部の凝固のためには、ガスGの送気を継続することの他に、より積極的な凝固促進のために、充填の開始時、途中またはその完了後に、送気するガスGに例えば水からなるミスト等の冷媒を含ませて溶湯Mの端部を冷却する又は冷媒のみを直接、溶湯Mの端部に接触するなど、凝固を促進する手段が適用できる。また、充填された溶湯Mの流動(逆流)を阻止するためには、所望のキャビティー10aとその他のキャビティー10bとの境界部を機械的に遮断する又はその他のキャビティー10bに耐火物粒子等の固形物を供給して流動を拘束するなど、逆流を阻止する手段を適用できる。
実施の形態1の製造方法によれば、鋳型1のキャビティー10の全体よりも小さい体積の溶湯M、具体的には押湯部7及び製品部8を満たすに足る体積の溶湯Mが鋳型1に注湯されているので、溶湯Mは、所望のキャビティー10aである押湯部7及び製品部8を満たすものの、鋳型1の全てのキャビティー10を満たすことはない。その結果、製品部8に充填された溶湯Mが凝固して所望の鋳造物品を得ることができる一方で、キャビティー10にはその全体よりも小さい体積の溶湯Mしか注湯されていない。したがって、押湯部7を除いて、製品として必要な鋳造物品以外の不要な部分が形成されず、高い注入歩留まりで鋳造物品を製造することが可能となる。
しかも、実施の形態1の製造方法によれば、注湯開始後、速やかなガスGの送気開始を実現できるので、注湯段階から充填段階への移行がスムーズとなり、溶湯Mは所望のキャビティー10aへの充填完了まで、湯口部5、湯道部6、押湯部7及び製品部8を停滞することなく連続して流れ続けることとなる。この結果、キャビティー10内での溶湯Mの停滞に起因する鋳造欠陥の発生が抑制され、健全な鋳造物品を製造することが可能となる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2について図2を参照して説明する。図2は実施の形態2に係るガスの送気後の状態を示す図である。なお、図2において、図1を参照して説明した実施の形態1と同様な構成については、同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。以下に説明する実施の形態3乃至実施の形態5においても同様である。
実施の形態2の製造方法は、基本的に上記の実施の形態1と同様であるが、図2に示すように、湯口部5の上流に溶湯Mの少なくとも一部を貯留するための貯留部20を、鋳型1とは別体に設けた掛けぜき22として、鋳型1の上型3aに載置している点で相違する。図2は、図示しない給湯取鍋から掛けぜき22の上部の一点鎖線で示す位置まで給湯された所望のキャビティー10aの体積とほぼ等しい体積の溶湯Mが、その一部は掛けぜき22より流出して鋳型1に注湯され、その一部は掛けぜき22に滞留しつつ、掛けぜき22内の湯面が降下した、注湯の中期段階の状態を示している。掛けぜき22に給湯した溶湯Mが、貯留部20から流出している期間中、より具体的には溶湯Mの湯面が、掛けぜき22内の一点鎖線の位置から、図2に示す位置に降下するまでの時間に、図2に示すように、貯留部20の掛けぜき22にガスを吐出するための送気ノズル11を挿入して配置した後、溶湯Mがキャビティー10に流入している期間中にガスGの送気を開始し、溶湯Mを加圧して押湯部7及び製品部8に充填する。この結果、キャビティー10内での溶湯の停滞に起因する鋳造欠陥の発生が抑制される。
貯留部20を鋳型1とは別体とすることで、貯留部20を鋳型1と一体に成形するのに要する造型時間によって製造タクトが延長することを抑制できる。また、貯留部20が鋳型1のキャビティー10と干渉する虞がない。掛けぜき22は、例えば取鍋のライニング材料などに用いられる耐火物等で成形すれば繰り返し使用できるので寿命の面で好ましく、ガス硬化型、自硬性型等の砂型で成形すれば安価となりコスト面で好ましい。掛けぜき22を生型を強固に突き固めて成形すればコスト面でより好適である。掛けぜき22を上型3aに載置するときには、両者の隙間から溶湯やガスが漏れないように、隙間を接着材等によりシールしたり両者の境界を砂粒子等で土留めしておくことが好ましい。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3について図3を参照して説明する。図3は実施の形態3に係る製造工程を示す図である。なお、図3において、図3(a)は、貯留部に溶湯を給湯後の状態を示す図であり、図3(b)は、ストッパを上昇した状態を示す図であり、図3(c)は、ガスの送気後の状態を示す図であり、図3(d)は、溶湯の充填を完了した状態を示す図である。
実施の形態3の製造方法は、基本的に上記の実施の形態1と同様であるが、図3に示すように、
1)湯口部5の上流に溶湯Mの少なくとも一部を貯留するための貯留部20を、鋳型1とは別体に設けた掛けぜき22として、鋳型1の上型3aに載置している点
2)送気ノズル11と貯留部20の流出口20aを封止するストッパ24とを一体に構成して、貯留部20での溶湯Mの貯留及び流出をストッパ24の昇降により行うとともに、ガスGの送気はストッパ24の内部に設けた送気孔11bから行う点、
で相違する。
給湯段階について図3(a)を用いて説明する。送気ノズル11を兼備するストッパ24を下降して貯留部20の掛けぜき22の流出口20aに密着して流出口20aを封止(止栓)する。ここでストッパ24は、一方の端が貯留部20の流出口20aに着脱可能に配置され、他方の端が図示しない昇降装置に接続されている。そしてストッパ24は送気ノズル11を兼備して、その内部に送気孔11bを設け、一方の端が貯留部20の流出口20aに着脱可能に配置され、他方の端が図示しないガス吐出装置に接続されている。ストッパ24は、例えば黒鉛、アルミナグラファイト、窒化ケイ素、サイアロン等の耐熱性材料からなることが好ましい。
実施の形態3の製造方法のごとく送気ノズル11を兼備するストッパ24を適用する態様においては、この段階で既に貯留部20にガスを吐出する送気ノズル11を配置した状態におかれる。給湯取鍋30には少なくとも所望のキャビティー10aを満たすに十分な溶湯Mが収納されており、給湯取鍋30から押湯部7及び製品部8からなる所望のキャビティー10aの体積とほぼ等しい体積の溶湯Mが、流出口20aを封止した貯留部20の掛けぜき22に給湯される。給湯後の状態は図3(a)に示すように、掛けぜき22に給湯された溶湯Mは、その全量が掛けぜき22に滞留する。ストッパ24により貯留部20に溶湯Mを滞留することで、湯面に介在物(スラグ)を浮上させて製品部への介在物の混入を抑制する効果が向上する。また、ストッパ24を使用することで、貯留部20への給湯と鋳型1への注湯とを別個に切り離した工程にできるので、貯留部20への給湯の段階で、向後の注湯量について高精度に管理できる。
ストッパ24は、貯留部20の流出口20aに押し付けることでストッパ24と流出口20aの密着性が向上して貯留部20からの溶湯Mの漏洩を防止できるので好ましい。さらにストッパ24を流出口20aに擦り合せるように回動することでストッパ24と流出口20aとの密着性がさらに向上して溶湯Mの漏洩をより確実に防止できるので好ましい。なお、溶湯Mの漏洩防止手段は上記の例示に限定されず、鋳造分野で従来使用されている所謂ストッパ式注湯法におけるストッパ部からの溶湯の漏洩防止手段を採用可能である。
次に、注湯の初期段階について図3(b)を用いて説明する。図3(a)の状態から、ストッパ24を上昇して、流出口20aを開口することで、図3(b)に示すように、掛けぜき22に給湯された溶湯Mは、その一部が貯留部20の流出口20aとストッパ24で形成される流路を経由して、流出口20aから重力によって流出して、鋳型1に注湯されて、少なくとも湯口部5とそれより下流の部位に流れ、その一部が掛けぜき22に滞留する。図3(b)に示すように、この段階で、溶湯Mは、キャビティー10に流入し、少なくとも湯口部5とそれより下流の部位を通過中であり停滞することはない。なお、ストッパ24の上昇に先だって、図示しないガス吐出装置から吐出したガスを、送気ノズル11の送気孔11bに送気することで、溶湯Mが送気孔11bに侵入することを防止できるので好ましい。また、この段階でガスの送気を開始することで、後述するガスGの送気による注湯段階から充填段階への移行がよりスムーズとなる。この段階で送気するガスの圧力は、バブリングにより溶湯Mにガスを巻き込まない程度に適宜設定すればよい。
次に、注湯の終期段階について図3(c)を用いて説明する。図3(c)は、ガスGの送気後の状態を示す図である。注湯の終期では溶湯Mは掛けぜき22から全て流出する一方で、湯口部5、湯道部6、押湯部7、製品部8を停滞することなく流れ続ける。詳述すると注湯の終期では掛けぜき22から溶湯Mが供給されなくなるので、最後の溶湯Mが湯口部5を通過中又は通過後の状態となるが、この段階で溶湯Mは、重力によって流動しておりまだ完全に停滞していない。なお、図3(c)では最後の溶湯Mが湯口部5を通過中の状態を例示している。また、この段階では注湯された溶湯Mは、押湯部7及び製品部8とほぼ等しい所望のキャビティー10aの体積であるので、鋳型1の全てのキャビティー10の体積を満たすことはできず、図1(c)に例示するように例えば湯道部6は満たすものの、溶湯Mで充填したい押湯部7や製品部8の上部など一部を満たしていない。
この段階、即ち注湯された溶湯Mが、キャビティー10に流入している期間、詳しくは押湯部7及び製品部8からなる所望のキャビティー10aで停滞しておらず、かつ所望のキャビティー10aに充填される前の段階において、図3(c)に示すように、送気ノズル11を兼備するストッパ24を下降して貯留部20の掛けぜき22の流出口20aに密着して流出口20aを封止するとともに、図示しないガス吐出装置から吐出したガスGを、ストッパ24を兼備する送気ノズル11の吐出口11aを介して湯口部5から鋳型1のキャビティー10内に送気し、溶湯Mを加圧して、押湯部7及び製品部8に充填を開始する。
実施の形態3の製造方法のごとく送気ノズル11を兼備するストッパ24を適用する構成においては、溶湯Mが貯留部20から流出している期間中に送気ノズル11を貯留部20の流出口20aに近接して配置しているので、溶湯Mがキャビティー10に流入している期間中、例えば貯留部20からの溶湯Mの流出終了とほぼ同時にガスGの送気を開始することが可能となる。これにより注湯段階から充填段階への移行がスムーズとなり、溶湯Mを所望のキャビティー10aに充填するための駆動力の切り替えのタイミングにおいて溶湯Mを停滞させることがない。
なお、送気ノズル11を流出口20aに押し付けることで送気ノズル11と流出口20aの密着性が向上して、貯留部20からのガスGの漏れを抑制し、キャビティー10に注湯された溶湯Mを効果的に加圧できるので好ましい。さらに送気ノズル11を流出口20aに擦り合せるように回動することで送気ノズル11と流出口20aとの密着性がさらに向上してより一層効果的に溶湯Mを加圧できるので好ましい。送気ノズル11と流出口20aとの密着性を向上してガスGの漏洩を防止する手段と、前述したストッパ24と流出口20aとの密着性を向上して溶湯Mの漏洩を防止する手段とは、漏洩防止の対象が、溶湯MかガスGかで相違するものの同一の手段を適用できる。従って、ガスGの漏洩防止手段は上記の例示に限定されず、ストッパ式注湯法におけるストッパ部からの溶湯の漏洩防止手段を採用可能である。
次に、溶湯Mの充填段階について図3(d)を用いて説明する。上記した注湯段階から継続して湯口部5からガスGを送気して、その風圧によって溶湯Mを加圧して所望のキャビティー10aに溶湯Mを充填する。注湯段階における溶湯Mの注湯量は押湯部7及び製品部8の体積とほぼ等しい量なので、図3(d)に示すように、最終的には溶湯Mは所望のキャビティー10aである押湯部7及び製品部8にのみ充填することになる。その後、この状態で所望のキャビティー10aの溶湯Mが凝固して鋳造を完了する。実施の形態3の製造方法によれば、高い注入歩留まりで鋳造物品を製造でき、注湯開始後、速やかなガスGの送気開始を実現できるので、注湯段階から充填段階への移行がスムーズとなり、キャビティー10内での溶湯Mの停滞に起因する鋳造欠陥の発生が抑制される。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4について図4を参照して説明する。図4は実施の形態4に係るガスの送気後の状態を示す図である。
実施の形態4の製造方法は、基本的に上記の実施の形態3と同様であるが、図4に示すように、湯口部5の上流に溶湯Mの少なくとも一部を貯留するための貯留部20を、鋳型1とは別体に設けた底注ぎ取鍋23としている点で相違する。そして、底注ぎ取鍋23は、図示しない給湯取鍋から給湯された複数の鋳型1に注湯可能な量の溶湯Mを収納している。
図4は、底注ぎ取鍋23から鋳型1に注湯された所望のキャビティー10aの体積とほぼ等しい体積の溶湯Mが、キャビティー10に流入している期間、詳しくは押湯部7及び製品部8からなる所望のキャビティー10aで停滞しておらず、かつ所望のキャビティー10aに充填される前の注湯の終期段階を示している。この段階において、図4に示すように、送気ノズル11を兼備するストッパ24を下降して貯留部20の底注ぎ取鍋23の流出口20aに密着して流出口20aを封止するとともに、図示しないガス吐出装置から吐出したガスGを、ストッパ24を兼備する送気ノズル11の吐出口11aを介して湯口部5から鋳型1のキャビティー10内に送気し、溶湯Mを加圧して押湯部7及び製品部8に充填する。
実施の形態4の製造方法においても、溶湯Mが貯留部20から流出している期間中に送気ノズル11を貯留部20の流出口20aに近接して配置しているので、溶湯Mがキャビティー10に流入している期間中、例えば貯留部20からの溶湯Mの流出終了とほぼ同時に、ガスGの送気を開始することが可能となる。これにより注湯段階から充填段階への移行がスムーズとなり、溶湯Mを所望のキャビティー10aに充填するための駆動力の切り替えのタイミングにおいて溶湯Mを停滞させることがない。この結果、キャビティー内での溶湯の停滞に起因する鋳造欠陥の発生が抑制される。
底注ぎ取鍋23に複数の鋳型に注湯可能な多量の溶湯を収納することで、貯留部での溶湯の温度降下を抑制して、湯じわ、湯回り(不廻り)、湯境などの鋳造欠陥の発生を低減できる。また、傾動式取鍋で注湯するときに生ずる取鍋内での湯面搖動による注湯量のバラツキを抑制できるので、注湯量を高精度に管理できる。また、底注ぎ取鍋23に複数の鋳型に注湯可能な多量の溶湯を収納して、溶湯の貯留及び流出をストッパの昇降により行うことで、所謂ストッパ式注湯法が実現できるので、鋳型が連続的に搬送される自動化された鋳造ラインにおいても本発明の製造方法が容易に適用可能となる。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5について図5を参照して説明する。図5は実施の形態5に係るガスの送気後の状態を示す図である。
実施の形態5の製造方法は、基本的に上記の実施の形態3と同様であるが、図5に示すように、湯口部5の上流に溶湯Mの少なくとも一部を貯留するための貯留部20を、掛けぜき22を用いずに鋳型1と一体に設けた湯溜21としている点で相違する。
図5は、湯溜21から鋳型1に注湯された所望のキャビティー10aの体積とほぼ等しい体積の溶湯Mが、キャビティー10に流入している期間、詳しくは押湯部7及び製品部8からなる所望のキャビティー10aで停滞しておらず、かつ所望のキャビティー10aに充填される前の注湯の終期段階を示している。この段階において、図5に示すように、送気ノズル11を兼備するストッパ24を下降して貯留部20の湯溜21の流出口20aに密着して流出口20aを封止するとともに、図示しないガス吐出装置から吐出したガスGを、ストッパ24を兼備する送気ノズル11の吐出口11aを介して湯口部5から鋳型1のキャビティー10内に送気し、溶湯Mを加圧して押湯部7及び製品部8に充填する。
実施の形態5の製造方法においても、溶湯Mが貯留部20から流出している期間中に送気ノズル11を貯留部20の流出口20aに近接して配置しているので、溶湯Mがキャビティー10に流入している期間中、例えば貯留部20からの溶湯Mの流出終了とほぼ同時に、ガスGの送気を開始することが可能となる。これにより注湯段階から充填段階への移行がスムーズとなり、溶湯Mを所望のキャビティー10aに充填するための駆動力の切り替えのタイミングにおいて溶湯Mを停滞させることがない。この結果、キャビティー内での溶湯の停滞に起因する鋳造欠陥の発生が抑制される。
前述の実施の形態3及び実施の形態4においては、貯留部20に溶湯Mを滞留させる際に、ストッパ24で貯留部20の流出口20aを封止する場合について説明したが、実施の形態5においては、図示しない給湯取鍋から貯留部20に溶湯Mを給湯する際に、ストッパ24で流出口20aを封止しないものとすることもできる。この場合は、貯留部20を鋳型1と一体の砂型で構成した場合であっても、ストッパ24の密着による流出口20aの損傷がないので、製品部8への損傷した砂の混入を抑制できる。なお、図5に示すように、ガスGの送気のために送気ノズル11を下降して流出口20aに密着して流出口20aを封止する段階では流出口20aが損傷しても、注湯の終期段階のため最早製品部8に損傷した砂が混入する虞はない。また、貯留部20に溶湯Mを滞留させる際に、流出口20aを封止しない場合には、当然に溶湯Mの漏洩対策は不要であって、設備の構造を簡単にできる。