以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1(A)は本実施形態を適用する内燃機関システムの概略構成図である。図1(B)は図1(A)のI−I線に沿った断面図である。
内燃機関1は、シリンダ4と、シリンダ4内を往復動するピストン5と、シリンダ4に吸入空気を供給するための吸気通路2と、シリンダ4から排気を排出するための排気通路9を備える。吸気通路2のシリンダ側端部は、吸気カムシャフト12に駆動される吸気弁3により開閉される。排気通路9のシリンダ側端部は、排気カムシャフト13に駆動される排気弁8により開閉される。なお、内燃機関1は、吸気弁3が各気筒にそれぞれ2本ずつ配置された、いわゆる吸気2弁式であり、吸気通路2は途中で分岐してそれぞれシリンダ4と連通している。
吸気通路2の分岐部には、後述するスワールコントロールバルブ19が配置されている。また、スワールコントロールバルブ19より上流側には、図示しないスロットルバルブが配置されている。排気通路9には、排気の空燃比を検出する空燃比センサ10と、空燃比センサ10よりも下流側に配置された三元触媒11と、三元触媒11のベッド温度を検出する触媒温度センサ18が配置されている。
シリンダ4には、点火プラグ6及び燃料噴射弁7がシリンダ内に臨むよう配置されている。ここでは、シリンダ4の天井面の中央には点火プラグ6が配置され、その近傍には燃料噴射弁7が配置されている。
燃料噴射弁7は、コモンレール14からデリバリーパイプ15を介して供給された燃料をシリンダ4内に噴射するものである。また、デリバリーパイプ15には、燃料噴射圧力を検出する燃圧センサ16が配置されている。
空燃比センサ10、燃圧センサ16、及び触媒温度センサ18の検出値は、コントローラ17に読み込まれる。コントローラ17は、他にも図示しないエアフローメータ、アクセル開度センサ、クランク角センサ、冷却水温センサ、スロットル開度センサ等の信号を読み込む。そして、これらの信号に基づいて、点火プラグ6、燃料噴射弁7、スワールコントロールバルブ19等の制御を行なう。
なお、コントローラ17は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ17を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
図2は、スワールコントロールバルブ19及びスワール流動の一例を示す図である。
スワールコントロールバルブ19は、吸気通路2の分岐点よりも上流側に配置され、閉弁することで、一方の吸気通路2への吸入空気の流入を制限する弁体である。したがって、スワールコントロールバルブ19を閉じると、シリンダ4への吸入経路はスワールコントロールバルブ19によって制限されていない方の吸気通路2に偏る。その結果、図2に矢印で示したように、シリンダ4の中心軸を回転中心とする螺旋状のガス流動、すなわちスワール流動が生成される。
なお、シリンダ4内にガス流動を生成する装置としてスワールコントロールバルブ19を用いているが、他の装置を用いてもよい。
図3は、シリンダ4内にガス流動を生成する装置の他の例としての、タンブルコントロールバルブ20について説明するための図である。タンブルコントロールバルブ20を用いる場合は、吸気通路2を上下に二分割し、タンブルコントロールバルブ20によって一方の吸気通路を開閉する。なお、ここでは、ピストン5上死点側を上、下死点側を下とする。
図3のようにタンブルコントロールバルブ20によって下側の吸気通路2を閉じると、シリンダ4への吸入経路は、吸気通路2のシリンダ側端部のシリンダ中央よりに偏る。その結果、シリンダ4内には上下方向の回転渦、すなわちタンブル流動が生成される。
次に、コントローラ17が実行する運転モードの切り換え制御について説明する。
コントローラ17は、燃料消費量低減のため、いわゆる燃料カットを実行する。そのため、走行中に燃料カット条件が成立したか否かの判定を繰り返し実行する。燃料カット条件とは、例えば、スロットル開度がゼロになったときに、車速及びエンジン回転数が所定の閾値以上であることである。なお、スロットル開度にかえて、アクセルペダル開度を用いてもよい。
そして、燃料カット条件が成立したら、急激なトルク変動を回避するために、後述するカットインディレイ制御を実行し、それが終了したら燃料カットを開始する。以下、カットインディレイ制御を実行する運転モードをカットインディレイ運転モード、燃料カットを実行する運転モードを燃料カット運転モード、これら以外の運転モードを通常運転モードと称する。
図4は、運転モードを設定するためにコントローラ17が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、例えば数ミリ秒程度の短周期で繰り返し実行される。以下、ステップにしたがって説明する。
ステップS100で、コントローラ17はスロットル開度TVO、吸入空気量Qa、エンジン回転数Ne、点火時期ADVを読み込む。スロットル開度TVOはスロットル開度センサ、吸入空気量Qaはエアフローメータ、エンジン回転数Neはクランク角センサの各センサの検出信号を読み込む。点火時期ADVは、これらの検出信号に基づいてコントローラ17自身が算出したものである。
ステップS101で、コントローラ17は燃料カット実行フラグfFCがゼロか否かを判定する。燃料カット実行フラグfFCは、ゼロの場合は燃料カットを実行していないことを示し、1の場合は燃料カット実行中であることを示す。
燃料カット実行フラグfFCがゼロの場合はステップS102の処理を実行し、ゼロでない場合はステップS109の処理を実行する。
ステップS102で、コントローラ17は、スロットル開度TVOがゼロ、かつエンジン回転数Neが燃料カット許可回転数Neth1より高い、という条件を満たすか否かを判定する。燃料カット許可回転数Neth1とは、燃料カット許可条件の一つであり、例えば2000[rpm]程度に設定する。
条件を満たす場合はステップS103の処理を実行し、満たさない場合はステップS107の処理を実行する。
ステップS103で、コントローラ17は燃料カット条件成立フラグfFC0を1に設定する。燃料カット条件成立フラグfFC0は、1の場合は燃料カット条件が成立していることを示し、0の場合は燃料カット条件が成立していないことを示す。
ステップS104で、コントローラ17は、吸入空気量Qa、エンジン回転数Ne、点火時期ADVに基づいて燃料カット移行トルク変化量ΔTqを算出する。燃料カット移行トルク変化量ΔTqは、現時点で仮に燃料カットを開始した場合に発生するトルク変化量である。
ステップS105で、コントローラ17は、燃料カット移行トルク変化量ΔTqがトルクショック閾値ΔTqthより大きいか否かを判定する。トルクショック閾値ΔTqthは、燃料カット移行時に発生しても許容し得るトルク変化量の閾値である。許容し得るトルク変化量は車種やグレードによって異なるので、トルクショック閾値ΔTqthの大きさは、本実施形態を適用する車種等に応じて予め設定する。
判定の結果、燃料カット移行トルク変化量ΔTqがトルクショック閾値ΔTqthより小さい場合はステップS106の処理を実行し、大きい場合はステップS108の処理を実行する。
ステップS106で、コントローラ17は燃料カット実行フラグfFCを1に設定して、本ルーチンを終了する。一方、ステップS108では、コントローラ17は燃料カット実行フラグfFCをゼロに設定して本ルーチンを終了する。
ステップS102で、スロットル開度TVOがゼロ、かつエンジン回転数Neが燃料カット許可回転数Neth1より高い、という条件を満たさなかった場合には、コントローラ17はステップS107で燃料カット条件成立フラグfFC0をゼロに設定し、ステップS108で燃料カット実行フラグfFCをゼロに設定して、本ルーチンを終了する。
一方、ステップS101で燃料カット実行フラグfFCが1の場合に実行するステップS109では、コントローラ17はスロットル開度TVOがゼロではなく、かつ、エンジン回転数Neが燃料カットリカバー回転数Neth2より低い、という条件を満たすか否かを判定する。燃料カットリカバー回転数Neth2は、燃料カットの終了時期を判定するための閾値であり、燃料カット許可回転数Neth1よりも低い値である。すなわち、燃料カット中にエンジン回転数Neが燃料カットリカバー回転数Neth2まで低下したら、燃料噴射を再開する。
ステップS109の条件を満たす場合は、コントローラ17はステップS110で燃料カット条件成立フラグfFC0をゼロに設定し、ステップS111で燃料カット実行フラグfFCをゼロに設定して本ルーチンを終了する。
また、ステップS109の条件を満たさなかった場合は、コントローラ17はステップS112で燃料カット条件成立フラグfFC0を1に設定し、ステップS113で燃料カット実行フラグfFCを1に設定して本ルーチンを終了する。
上記のように、コントローラ17は、まず燃料カット実行中か否かを判定し(S101)、実行していなければ燃料カット条件が成立しているか否かを判定する(S102)。燃料カット条件が成立していない場合は通常運転モードを継続する(S102、S107、S108)。燃料カット条件が成立していれば、燃料カット運転モードに移行する際のトルク変化量が許容し得る大きさであるか否かを判定する(S105)。そして、許容し得る場合は燃料カット運転モードを実行し(S106)、許容し得ない場合はカットインディレイ運転モードを実行する(S102−S105、S108)。
また、燃料カット実行中であれば、燃料カットリカバー条件が成立しているか否かを判定し(S109)、成立している場合は通常運転モードを実行し(S110、S111)、成立していない場合は燃料カット運転モードを継続する(S112、S113)。
次に、カットインディレイ運転モード実行中の、シリンダ4内のガス流動について説明する。図5は、火炎伝播の様子を、ガス流動が強い場合と弱い場合で比較したものであり、図5(A)はガス流動が強い場合、図5(B)はガス流動が弱い場合である。なお、ここではタンブル流動を用いて説明する。
カットインディレイ運転モード中は、燃料カット条件が成立しているので、内燃機関1の要求トルクは通常運転モードに比べて大幅に低い。すなわち、吸入空気量及び燃料噴射量は通常運転モードに比べて大幅に少ない。このような状態でタンブル流動を強めると、図5(A)に示すように、火花点火により発生した火炎面はタンブル流動によって偏った方向に発達する。つまり、火炎伝播方向が偏る。このように火炎伝播方向が偏ると、燃焼状態が不安定になる。これに対して、タンブル流動が弱い場合には、図5(B)に示すように、火炎面は点火プラグ6から放射状に発達する。このように火炎伝播方向に偏りがなければ、安定した燃焼状態が得られる。上述したガス流動と燃焼安定の関係は、スワール流動の場合も同様である。
そこで、コントローラ17は、後述するようにスワールコントロールバルブ19を制御することで、カットインディレイ運転モードにおいても安定した燃焼状態を実現する。
図6は、コントローラ17が実行するシリンダ4内のガス流動及び点火時期の制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、通常運転モード、カットインディレイ運転モード、又は燃料カット運転モードのいずれの運転モードであるかを判別し、それぞれの運転モードに応じて、ガス流動強さ及び点火時期を制御する。以下、ステップに従って説明する。
コントローラ17は、ステップS200でスロットル開度TVO及びエンジン回転数Neを読み込み、ステップS201でスロットル開度TVO及びエンジン回転数Neに基づいて基本点火時期ADV0を算出する。具体的には、スロットル開度TVOとエンジン回転数Neで割り付けられた基本点火時期マップを予め作成しておき、マップ検索によって算出する。なお、基本点火時期ADV0及び後述する点火時期ADVは、数値が大きいほど進角側であることを示す。
図7は基本点火時期マップの一例である。縦軸がスロットル開度TVO、横軸がエンジン回転数Neであり、スロットル開度TVOが小さくなるほど、かつエンジン回転数Neが高くなるほど、進角した点火時期となっている。このマップは、最適点火時期やノッキング限界等に基づいて予め作成し、コントローラ17に記憶しておく。
ステップS202で、コントローラ17は、スロットル開度TVO及びエンジン回転数Neで割り付けたマップを用いて、スワールコントロールバルブ19の基本開口率SCV0を算出する。ここでいう開口率とは、スワールコントロールバルブ19が全開状態での吸気通路断面積に対する、スワールコントロールバルブ19で絞られた状態での吸気通路断面積の割合である。
ステップS203で、コントローラ17は燃料カット実行フラグfFCがゼロか否か、つまり燃料カット非実行中か否か、を判定する。ゼロの場合、つまり燃料カット非実行中の場合はステップS204の処理を実行し、1の場合、つまり燃料カット実行中の場合はステップS206の処理を実行する。
ステップS204で、コントローラ17は燃料カット条件成立フラグfFC0がゼロか否か、つまり燃料カット条件が非成立か否かを判定する。fFC0がゼロの場合、つまり燃料カット条件が非成立の場合は、ステップS205の処理を実行し、fFC0が1の場合、つまり燃料カット条件が成立している場合はステップS206の処理を実行する。
ステップS205で、コントローラ17は、点火時期ADV及びスワールコントロールバルブ19の開口率SCVを式(1)、(2)のように制御する。なお、ステップS205を実行するのは、燃料カット非実行かつ燃料カット条件非成立の状態、つまり、通常運転モードである。
ADV=ADV0+L ・・・(1)
SCV=SCV0 ・・・(2)
式(1)のLは、一般的な点火時期制御においても用いられる点火時期学習補正量である。例えば、ノッキングセンサによりノッキングを検出した場合には、ノッキングが解消するまで点火時期を遅角し、その遅角量を点火時期学習補正量とする。
一方、ステップS204で燃料カット条件が成立していた場合に実行するステップS206では、コントローラ17は燃料カット条件成立フラグ前回値fFC0zがゼロか否かを判定する。燃料カット条件成立フラグ前回値fFC0zがゼロの場合はステップS207の処理を実行し、ゼロでない場合はステップS208の処理を実行する。
ステップS207で、コントローラ17は、燃料カット条件成立後の経過時間を計測するタイマの値(タイマ値)Timerをゼロに設定する。一方、ステップS208では、コントローラ17はタイマの前回値Timerzに前回演算時からの経過時間Δtを加算したものを今回のタイマ値Timerとして設定する。
ステップS209で、コントローラ17はタイマ値Timerが所定のタイマ値Timerthより小さいか否かを判定する。所定のタイマ値Timerthは、スワールコントロールバルブ19の応答遅れ時間以上の値を設定する。これは、後述する点火時期遅角補正を、シリンダ4内のガス流動が弱まってから開始させるためである。
判定の結果、タイマ値Timerが所定のタイマ値Timerzより小さい場合は、ステップS210の処理を実行し、大きい場合はステップS211の処理を実行する。
ステップS210では、コントローラ17は点火時期ADV及びスワールコントロールバルブ19の開口率SCVを式(3)、(4)のように制御する。
ADV=ADV0+L ・・・(3)
SCV=SCV0+hSCV・・・(4)
なお、hSCVはスワールコントロールバルブ19の開口率増加補正量である。この開口率増加補正量hSCVは固定値でもよいし、エンジン回転数Neに応じて変更するようにしてもよい。
式(4)のように開口率SCVを増大させることで、シリンダ4内のガス流動を弱める。ここでいう「弱める」とは、吸入空気量が同じで開口率SCVが基本開口率SCV0であると仮定した場合に比べて弱くすることを意味している。つまり、エンジン回転数Ne及び要求エンジントルク(吸入空気量)が低下すれば基本開口率SCV0のままでもガス流動も弱まるが、式(4)のように開口率SCVを制御することで、積極的にガス流動を弱くする。
一方、ステップS211では、コントローラ17は、点火時期遅角補正量RTDをエンジン回転数Neに基づいて算出する。具体的には、まず、基本点火時期遅角補正量RTD0を設定する。基本点火時期遅角補正量RTD0は、エンジン回転数Neが低いほど、つまりフリクションが小さいほど大となる。そして、演算周期毎に、基本点火時期遅角補正量RTD0に向けて、点火時期遅角補正量RTDを徐々に大きくする。
ステップS212で、コントローラ17は点火時期ADV及びスワールコントロールバルブ19の開口率SCVを式(5)、(6)のように制御する。
ADV=ADV0+L−RTD ・・・(5)
SCV=SCV0+hSCV ・・・(6)
なお、ステップS210及びS212を実行するのは、燃料カット非実行かつ燃料カット条件成立の状態、つまりカットインディレイ運転モードである。
燃料カット実行中のステップS213では、コントローラ17は点火をせず、スワールコントロールバルブ19の開口率SCVはSCV0に制御する。なお、カットインディレイ運転モード中にエンジン回転数Neが低下しているので、ステップS213での基本開口率SCV0とステップS205での基本開口率SCV0は異なる大きさになる。
図8は、上述した図4及び図6の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。ここでは、通常運転モード実行中のタイミングT1で燃料カット条件が成立し、燃料カット運転モード実行中のタイミングT4で燃料カットリカバー条件が成立したものとする。また、スワールコントロールバルブ19の開口率増加補正量hTCVは固定値とする。
タイミングT1以前は、通常運転モードなので、点火時期ADV及びスワールコントロールバルブ19の開口率SCVは図6のステップS205で設定される。
タイミングT1で燃料カット条件が成立すると、内燃機関1の要求されるトルク(要求エンジントルク)は小さくなり、エンジン回転数Neは徐々に低下する。そして、カットインディレイ運転モードに切り替わり、点火時期ADV及びスワールコントロールバルブ19の開口率SCVは図6のステップS210で設定される。
すなわち、点火時期ADVは通常運転モードと同じで、スワールコントロールバルブ19の開口率SCVは増大する。開口率SCVが徐々に増大しているのは、スワールコントロールバルブ19の応答遅れによるものである。
カットインディレイ運転モード開始から所定時間Timerth経過後のタイミングT2を過ぎると、点火時期ADV及びスワールコントロールバルブ19の開口率SCVは、図6のステップS212により設定される。すなわち、スワールコントロールバルブ19の開口率SCVは一定のまま、点火時期ADVは点火時期遅角補正量RTDによって補正され、エンジン回転数Neの低下に応じて徐々に遅角する。
タイミングT3において、図4のステップS105の判定で燃料カット移行トルク変化量ΔTqがトルクショック閾値ΔTqthより小さくなり、燃料カット運転モードへ移行する。その後、タイミングT4で燃料カットリカバー条件が成立すると、図4のステップS101、S109の判定の結果、通常運転モードへ移行し、点火時期ADV及びスワールコントロールバルブ19の開口率SCVは図6のステップS205で設定される。
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
カットインディレイ運転モード実行時に、点火時期ADVを基本点火時期ADV0より遅角させ、シリンダ4内のガス流動を、等吸入空気量条件での通常運転モードにおけるガス流動よりも弱くするので、火炎伝播の偏りを抑制し、燃焼効率と燃焼安定度を向上させることができる。また、燃焼安定度が向上することで、排出ガス中の未燃燃料の増大や失火を抑制することができ、いわゆる後燃えによる排気浄化触媒11の熱劣化を抑制できる。さらに、カットインディレイ運転モード中の燃料噴射量をより低減できるので、燃料カット運転モードへ移行する際のトルクショックを抑制できる。
カットインディレイ運転モードに切り換える際に、シリンダ4内のガス流動を弱めてから点火時期を遅角させる。これは、スワールコントロールバルブ19の開口率SCVを変更してから実際にガス流動が弱まるまでには、点火時期を変更するのに比べて時間を要するためである。すなわち、ガス流動が弱まってから点火時期を遅角することで、失火を回避することができる。
点火時期遅角補正量RTDを、内燃機関1のフリクションの低下に応じて増大させることにより、内燃機関1の発生トルクを概ね一定値以下に抑えることができるので、燃料カット運転モードへ移行する際のトルクショックをより低減できる。
スワールコントロールバルブ19又はタンブルコントロールバルブ20といったガス流動を制御するデバイスを備え、カットインディレイ運転モード実行時に通常運転モード実行時よりもデバイスの開口率を増大させるので、簡便な制御でガス流動を弱めることができる。
(第2実施形態)
図9は第2実施形態を適用するシステムの概略構成図である。図1とは、吸気側に可変動弁機構21を備えること、スワールコントロールバルブ19を備えないこと、が相違する。
可変動弁機構21は、吸気カムシャフト12のクランクシャフトに対する回転位相を変更することで吸気弁3の開閉タイミングを変更するという、公知の機構である。
本実施形態では、可変動弁機構21の制御によって、カットインディレイ運転モード実行時にシリンダ4内のガス流動を弱める。
図10は、コントローラ17が実行するシリンダ4内のガス流動及び点火時期の制御ルーチンを示すフローチャートであり、第1実施形態の図6に対応するものである。
なお、本実施形態においても、図4の制御ルーチンを並行して実行する。
図10の図6との相違点は、ステップS302、S305、S310、S312、S313である。以下、これらのステップについて説明する。
ステップS302で、コントローラ17はスロットル開度TVO及びエンジン回転数Neに基づいて基本吸気弁閉タイミングIVC0を算出する。具体的には、スロットル開度TVOとエンジン回転数Neで割り付けられたマップを予め作成しておき、マップ検索によって算出する。なお、基本吸気弁閉タイミングIVC0は圧縮行程中となるように設定される。
ステップS309では、図6のステップS209と同様にタイマ値Timerが所定のタイマ値Timerthより小さいか否かを判定する。ここでの所定のタイマ値Timerthは、可変動弁機構21の応答遅れ時間以上に設定する。すなわち、可変動弁機構21の作動によってガス流動が弱まってから、点火時期遅角補正が開始されるようにする。
ステップS305で、コントローラ17は点火時期ADV及び吸気弁閉タイミングIVCを式(7)、(8)のように制御する。なお、ステップS305を実行するのは、燃料カット非実行かつ燃料カット条件非成立の状態、つまり、通常運転モードである。
ADV=ADV0+L ・・・(7)
IVC=IVC0 ・・・(8)
ステップS310で、コントローラ17は点火時期ADV及び吸気弁閉タイミングIVCを式(9)、(10)のように制御する。吸気弁閉タイミングIVCは、ゼロのときが下死点を意味し、値が大きくなるほど下死点より遅角側になることを意味する。
ADV=ADV0+L ・・・(9)
IVC=IVC0+rIVC・・・(10)
なお、rIVCは吸気弁閉タイミング遅角補正量である。吸気弁閉タイミング遅角補正量rIVCは固定値でもよいし、エンジン回転数Neに応じて変化させるようにしてもよい。
式(10)では、圧縮行程中に設定された基本吸気弁閉タイミングIVC0を遅角補正することになる。これにより、一旦シリンダ4内に吸入された空気の吸気通路2への戻り量が多くなり、吸入時に生成されたガス流動が減衰する。すなわち、等吸入空気量の条件下で通常運転モードと同様の吸気弁閉タイミングにする場合よりも、シリンダ4内のガス流動が弱まる。
ステップS312で、コントローラ17は点火時期ADV及び吸気弁閉タイミングIVCを式(11)、(12)のように制御する。
ADV=ADV0+L−RTD ・・・(11)
IVC=IVC0+rIVC ・・・(12)
すなわち、吸気弁閉タイミングIVCはステップS310と同様に設定し、点火時期ADVは図4のステップS212と同様に制御する。
上記のステップS310、S312がカットインディレイ運転モードでの制御である。
ステップS313は、燃料カット運転モード実行中の制御であり、コントローラ17は点火をせず、吸気弁閉タイミングIVCは基本吸気弁閉タイミングIVC0に制御する。
図11は、上記制御を実行した場合のタイミングチャートである。図8と同様に、タイミングT1で燃料カット条件が成立し、タイミングT3で燃料カット移行トルク変化量ΔTqがトルクショック閾値ΔTqthより小さくなり、タイミングT4で燃料カットリカバー条件が成立するものとする。
タイミングT1で、吸気弁閉タイミングIVCの遅角を開始している。所定のタイマ値Timerthが経過したタイミングT2になったら、その時点の吸気弁閉タイミングIVCを維持している。点火時期ADVの遅角補正については第1実施形態と同様である。
そして、タイミングT3で燃料カット運転モードへ移行すると、吸気弁閉タイミングIVCは通常運転モードと同じ基本吸気弁閉タイミングIVC0に変更される。これは、燃料カットリカバー条件が成立したときに、直ちに通常運転モードに適した吸気弁閉タイミングで運転を再開できるようにするためである。
以上のように、カットインディレイ運転モード中の吸気弁閉タイミングIVCを圧縮行程内で遅角させることにより、吸入空気の吸気通路2への戻り量が増加し、シリンダ4内のガス流動が弱まる。すなわち、可変動弁機構21によってカットインディレエイ運転モード中のシリンダ4内のガス流動を弱めることができ、第1実施形態と同様に燃焼効率及び燃焼安定性の向上を図ることができる。
(第3実施形態)
本実施形態は、吸気弁3のバルブタイミングを制御することによって、カットインディレイ運転モード中のシリンダ4内のガス流動を弱める点では第2実施形態と同様だが、用いる可変動弁機構21の構成及びバルブタイミングの制御が異なる。
図12は、本実施形態で用いる可変動弁機構21の概略構成図である。この可変動弁機構21を用いるために、吸気カムシャフト12の形状及び作動メカニズムが図9とは異なる。
可変動弁機構21は、リフト量及び作動角を連続的に可変制御可能な機構である。なお、ここでいうリフト量とは最大リフト量のことをいう。また、リフト量の可変制御とは最大リフト量を可変制御することをいい、クランクシャフトの回転に同期して開閉する際のリフト量変化は除くものである。
可変動弁機構21は、吸気弁3のリフト量及び作動角を変化させるリフト・作動角可変機構43と、そのリフトの中心角の位相(クランクシャフトに対する位相)を進角もしくは遅角させる位相可変機構42と、が組み合わされて構成されている。
なお、このリフト・作動角可変機構43は、本出願人が先に提案し、位相可変機構42とともに特開2002−89303号公報や特開2002−89341号公報等によって公知となっているので、その概要のみを説明する。
リフト・作動角可変機構43は、シリンダヘッド上部の図示せぬカムブラケットに回転自在に支持された中空状の駆動軸31と、この駆動軸31に圧入等により固定された偏心カム32と、を含んで構成されている。また、駆動軸31の上方位置に同じカムブラケットによって回転自在に支持されるとともに駆動軸31と平行に配置された制御軸37と、この制御軸37の偏心カム部38に揺動自在に支持された可変動弁用ロッカーアーム34と、を含んで構成される。さらに、一方の端部付近が可変動弁用ロッカーアーム34の一方の端部付近と連結ピン39を介して連結されるリンク部材35と、駆動軸31と同軸状に配置されリンク部材35の他方の端部付近と連結ピン41で連結された揺動カム36と、を含んで構成される。
また、駆動軸31の回転角を検出する駆動軸角センサ47と、制御軸37の回転角を検出する制御軸角センサ48とを備える。これらのセンサの検出値はコントローラ17に読み込まれる。
駆動軸31は、タイミングチェーンないしはタイミングベルトを介して機関のクランクシャフトによって駆動されるものである。
偏心カム32は、円形外周面を有し、該外周面の中心が駆動軸31の軸心から所定量だけオフセットしているとともに、この外周面に、リンクアーム33の環状部33aが回転可能に嵌合している。
可変動弁用ロッカーアーム34は、略中央部を上記偏心カム部38が回転可能に貫通している。偏心カム部38は、制御軸37の軸心から偏心しており、従って、制御軸37の角度位置に応じて可変動弁用ロッカーアーム34の揺動中心は変化する。
揺動カム36は、駆動軸31の外周に嵌合して回転自在に支持されており、駆動軸31の軸方向に対して直角方向へ延びた端部付近に、前述したようにリンク部材35の下端部が連結ピン41を介して連結している。この揺動カム36の下面には、駆動軸31と同心状の円弧をなす基円面と、該基円面から上記端部へと所定の曲線を描いて延びるカム面と、が連続して形成されている。そして、これらの基円面ならびにカム面が、揺動カム36の揺動位置に応じて吸気弁3上部に備えたバルブリフタ3Aに接触するようになっている。
すなわち、基円面はベースサークル区間として、リフト量がゼロとなる区間であり、揺動カム36が揺動してカム面がバルブリフタ3Aに接触すると、吸気弁3は徐々にリフトしていくことになる。なお、ベースサークル区間とリフト区間との間には若干のランプ区間が設けられている。
制御軸37は、一方の端部に設けられたリフト・作動角制御用モータ(以下、単に「モータ」という)44によって所定角度範囲内で回転するように構成されている。このモータ44への電力供給は、コントローラ17からの制御信号に基づいて制御されている。
また、モータ44は、作動角を変更する際に制御軸37を目標角度に回転させるのみならず、運転中に制御軸37の角度が目標角度からずれないように保持する機能も有する。この目標角度を保持するためにモータ44に流す電流、つまり目標角度を保持するために必要なトルク(保持トルク)を発生させるのに必要な電流を保持電流とよぶ。
このリフト・作動角可変機構43の作用を説明する。駆動軸31が回転すると、偏心カム32のカム作用によってリンクアーム33が上下動し、これに伴って可変動弁用ロッカーアーム34が制御軸37を揺動軸として揺動する。この可変動弁用ロッカーアーム34の揺動は、リンク部材35を介して揺動カム36へ伝達され、該揺動カム36が揺動する。この揺動カム36のカム作用によって、吸気弁3がリフトする。
ここで、モータ44を介して制御軸37の角度が変化すると、可変動弁用ロッカーアーム34の揺動中心位置が変化し、ひいては揺動カム36の初期揺動位置が変化する。
例えば、偏心カム部38が上方に位置しているとすると、可変動弁用ロッカーアーム34は全体として上方へ位置し、連結ピン41が相対的に上方へ引き上げられた状態となる。つまり、揺動カム36の初期揺動位置は、そのカム面36bがバルブリフタ3Aから離れる方向に傾く。従って、駆動軸31の回転に伴って揺動カム36が揺動した際に、基円面が長い間バルブリフタ3Aに接触し続け、カム面がバルブリフタ3Aに接触する期間は短い。このためリフト量が全体として小さくなり、かつ、その開時期から閉時期までの角度範囲、すなわち作動角も縮小する。
逆に、偏心カム部38が下方へ位置しているとすると、可変動弁用ロッカーアーム34は全体として下方へ位置し、揺動カム36の端部が相対的に下方へ押し下げられた状態となる。つまり、揺動カム36の初期揺動位置は、そのカム面がバルブリフタ3Aに近付く方向に傾く。従って、駆動軸31の回転に伴って揺動カム36が揺動した際に、バルブリフタ3Aと接触する部位が基円面からカム面へと直ちに移行する。このためリフト量が全体として大きくなり、かつその作動角も拡大する。
上記の偏心カム部38の初期位置は連続的に変化させ得るので、これに伴って、バルブリフト特性も連続的に変化する。つまり、図13に示すように、リフト量ならびに作動角を、両者同時にかつ連続的に拡大,縮小させることができる。なお、この実施例では、リフト量・作動角の大小変化に伴い、吸気弁3の開時期と閉時期がほぼ対称に変化する。
位相可変機構42は、駆動軸31の前端部に設けられたスプロケット45と、このスプロケット45と駆動軸31とを、所定の角度範囲内において相対的に回転させる位相制御用アクチュエータ46と、から構成されている。
スプロケット45は、図示せぬタイミングチェーンもしくはタイミングベルトを介して、クランクシャフトと同期して回転している。位相制御用アクチュエータ46は、コントローラ17からの制御信号に基づいて制御される。この位相制御用アクチュエータ46の制御によって、スプロケット45と駆動軸31とが相対的に回転し、リフト中心角が遅進する。つまり、リフト特性の曲線自体は変わらずに、全体が進角もしくは遅角する。また、この変化も連続的に得ることができる。位相可変機構42としては、油圧式、電磁式アクチュエータを利用したものなど、種々の構成が可能であるが、本実施形態では油圧式アクチュエータを用いることとする。
上述したように、図12の可変動弁機構21によれば、吸気弁3の開タイミング、閉タイミング、作動角を制御することができる。
次に、上記のような可変動弁機構21を用いたカットインディレイ運転モード中の制御について説明する。
図14は、コントローラ17が実行するシリンダ4内のガス流動及び点火時期の制御ルーチンを示すフローチャートであり、第2実施形態の図10に対応するものである。
図14の図10との相違点は、ステップS402、S405、S410、S412、S413である。以下、これらのステップについて説明する。
ステップS402で、コントローラ17はスロットル開度TVO及びエンジン回転数Neに基づいて基本吸気弁作動角IVE0、基本吸気弁閉タイミングIVC0を算出する。基本吸気弁作動角IVE0も、基本吸気弁閉タイミングIVC0と同様に、スロットル開度TVOとエンジン回転数Neに割り付けられたマップを検索することによって算出する。
ステップS405で、コントローラ17は、点火時期ADV、吸気弁作動角IVE、及び吸気弁閉タイミングIVCを式(13)、(14)、(15)のように制御する。なお、ステップS305は、燃料カット非実行かつ燃料カット条件非成立の状態、つまり、通常運転モードで実行する。
ADV=ADV0+L ・・・(13)
IVE=IVE0 ・・・(14)
IVC=IVC0 ・・・(15)
吸気弁作動角IVEは、値が大きいほど作動角が大きいことを示す。
ステップS410で、コントローラ17は点火時期ADV、吸気弁作動角IVE及び吸気弁閉タイミングIVCを式(16)、(17)、(18)のように制御する。吸気弁閉タイミングIVCは、ゼロのときが下死点を意味し、値が大きくなるほど下死点より遅角側になることを意味する。
ADV=ADV0+L ・・・(16)
IVE=IVE0−hIVE・・・(17)
IVC=IVC0−aIVC・・・(18)
式(17)のhIVEは、吸気弁作動角減少補正量である。吸気弁作動角減少補正量hIVEは固定値であってもよいし、エンジン回転数Neに応じて変化させるようにしてもよい。このように吸気弁作動角IVEを減少補正するのは、吸気弁閉タイミングIVCを後述するように進角補正したときに、バルブーバーラップが過大になることを回避するためである。望ましくは、吸気弁開タイミングが排気弁閉タイミング以降となるように、つまりバルブオーバーラップが生じないようなhIVEを設定する。
式(18)のaIVCは、吸気弁閉タイミング進角補正量である。aIVCは固定値であってもよいし、エンジン回転数Neに応じて変化させるようにしてもよい。また、吸気弁閉タイミング進角補正量aIVCは正の値であって、IVC0<aIVCの関係が成立する。つまり、式(18)によって吸気弁閉タイミングIVCは負の値となるので、吸気弁は下死点より進角側の吸気行程中で閉弁することになる。
ステップS412で、コントローラ17は点火時期ADV、吸気弁作動角IVE及び吸気弁閉タイミングIVCを式(19)、(20)、(21)のように制御する。
ADV=ADV0+L−RTD・・・(19)
IVE=IVE0−hIVE・・・(20)
IVC=IVC0−aIVC・・・(21)
すなわち、吸気弁作動角IVE及び吸気弁閉タイミングIVCはステップS410と同様に制御し、点火時期ADVの遅角補正を開始する。
ステップS410、S412のように、吸気弁作動角IVEを小さくし、かつ吸気弁閉タイミングIVCを進角させることで、シリンダ4内のガス流動の減衰開始タイミングが早まり、点火時期におけるシリンダ4内のガス流動が弱まる。すなわち、等吸入空気量の条件下で通常運転モードと同様の吸気弁作動角及び吸気弁閉タイミングにする場合よりも、シリンダ4内のガス流動が弱まる。上記のステップS410、S412がカットインディレイ運転モードでの制御である。
ステップS413は、燃料カット運転モード実行中の制御であり、コントローラ17は点火をせず、吸気弁作動角IVE及び吸気弁閉タイミングIVCはそれぞれ基本吸気弁作動角IVE0、基本吸気弁閉タイミングIVC0に制御する。
図15(A)は、図14の制御によるカットインディレイ運転モードでのバルブタイミングを示している。吸気弁閉タイミングIVCは吸気行程中になっている。また、作動角を減少補正することにより、吸気弁開タイミングは排気弁閉タイミングの後になっており、バルブオーバーラップが生じていない。すなわち、カットインディレイ運転モード実行中は、いわゆる早閉じミラーサイクルになっている。これにより、シリンダ4内のガス流動の減衰開始タイミングが早まり、点火時期におけるシリンダ4内のガス流動が弱くなる。その結果、第2実施形態と同様に、カットインディレエイ運転モード中の燃焼効率及び燃焼安定性の向上を図ることができる。
なお、ステップS410、S412において吸気弁作動角IVEを増大補正し、かつ吸気弁閉タイミングIVCを遅角補正して、図15(B)のような、いわゆる遅閉じミラーサイクルにしてもよい。この場合、第2実施形態と同様の作用により、シリンダ4内のガス流動が弱まる。
図16は、本実施形態の制御を実行した場合のタイミングチャートである。図8、図11と同様に、タイミングT1で燃料カット条件が成立し、タイミングT3で燃料カット移行トルク変化量ΔTqがトルクショック閾値ΔTqthより小さくなり、タイミングT4で燃料カットリカバー条件が成立するものとする。
タイミングT1で、吸気弁作動角IVEの減少補正及び吸気弁閉タイミングIVCの遅角補正を開始する。そして、タイミングT2になったら点火時期の遅角補正を開始する。つまり、シリンダ4内のガス流動が弱まってから点火時期の遅角補正を開始する。点火時期ADVの遅角補正については第1実施形態、第2実施形態と同様である。
タイミングT3になったら燃料カット運転モードへ移行する。そして、タイミングT4で燃料カットリカバー条件が成立したら通常運転モードへ移行する。
なお、燃料カット運転モード実行中の吸気弁作動角IVE及び吸気弁閉タイミングIVCが通常運転モードと異なるのは、通常運転モード実行中に比べてエンジン回転数Neが低下したことで、マップ検索により算出された値が異なるからである。
以上のように、本実施形態ではカットインディレイ運転モード実行中に吸気弁作動角を小さく、かつ吸気弁閉タイミングを吸気行程中にすることで、シリンダ4内のガス流動の減衰開始タイミングを早め、点火時期におけるガス流動を弱める。これにより、第1実施形態と同様に燃焼効率及び燃焼安定性の向上を図ることができる。
(第4実施形態)
図17は、本実施形態を適用する内燃機関1の一例を示す図である。図3と同様にタンブルコントロールバルブ20を備える構成であるが、燃料噴射弁7が吸気通路2の開口部の下方に配置されている点で図3とは異なる。また、コモンレール14は、内圧を可変設定し得る機構を備える。すなわち、本実施形態では燃料噴射圧力を可変に制御し得る。
本実施形態では、タンブルコントロールバルブ20は用いずに、燃料噴霧の運動量を利用して、カットインディレイ運転モードにおけるシリンダ4内のガス流動を弱める。
ここで、燃料噴霧がタンブル流動に与える影響について説明する。
図18は燃料噴霧とタンブル流動の関係を示す図であり、図18(A)は基本燃料噴射タイミングの場合、図18(B)は基本燃料噴射タイミングよりも進角したタイミングで噴射した場合である。なお、燃料噴射圧力は同じとする。また、「燃料噴射タイミング」とは、燃料噴射を開始するタイミングのことをいう。
燃料噴霧の進行方向がタンブル流動の回転を妨げる方向であれば、タンブル流動は減速し、燃料噴霧の進行方向がタンブル流動の回転を助長する方向であれば、タンブル流動は加速する。すなわち、図18(A)では、噴霧範囲Aで燃料噴霧がタンブル流動を加速させ、噴霧範囲Bで燃料噴霧はタンブル流動を減速させる。
一方、図18(B)では、燃料噴射タイミングを早めたことで、タンブル流動が図18(A)の場合に比べて扁平し、タンブル流動中心が図18(A)に比べてシリンダ4の上方向にずれている。その結果、燃料噴霧がタンブル流動を加速させる範囲が、減速させる範囲に比べて狭くなっている。すなわち、燃料噴射タイミングを進角させることで、燃料噴霧がタンブル流動を加速させる区間が短くなり、減速させる区間が長くなる。
なお、基本燃料噴射タイミングより遅角させた場合は、図18(B)とは反対にタンブル流動中心がシリンダ4の下方向に移動し、燃料噴霧がタンブル流動を加速させる区間が減速させる区間より広くなる。
図19は、タンブル流動の強さ(タンブル比)の履歴を、燃料噴射タイミングを変えて比較したものであり、縦軸はタンブル比、横軸はクランク角である。図中の破線Iは基本燃料噴射タイミングより進角させたタイミングで噴射した場合、破線IIは同じく遅角させたタイミングで噴射した場合、実線IIIは比較例としての燃流噴射無しの場合である。また、クランク角C1は基本燃料噴射タイミングより進角させた燃料噴射タイミング、クランク角C2は基本燃料噴射タイミングより遅角させた燃料噴射タイミングである。なお、燃料噴射圧力はすべてのパターンで同じとする。
進角させた場合は、燃料噴射開始とともに燃料噴射無しの場合よりもタンブル比が低下している。これに対し、遅角させた場合は、燃料噴射開始とともに燃料噴射無しの場合よりタンブル比が増大していることがわかる。
上記のように、シリンダ4内に直接燃料を噴射する内燃機関1では、燃料噴射タイミングを進角させるほど、燃料噴霧の運動量によってシリンダ4内のガス流動が弱まるという特性がある。なお、燃料噴射圧力を高くするほど、燃料噴霧がガス流動に与える影響が大きくなるので、同じ燃料噴射タイミングであれば、燃料噴射圧力を高くするほど上記特性が顕著となる。
この特性を利用して、コントローラ17はカットインディレイ運転モード実行中にシリンダ4内のガス流動を弱める。
図20は、コントローラ17が実行するシリンダ4内のガス流動燃料噴射タイミング、及び燃料噴射圧力の制御ルーチンを示すフローチャートである。
ステップS500、S501、S503、S504は、図6のステップS200、S201、S203、S204と同様なので説明を省略する。
なお、図20には、図6のステップS206−S209に相当するステップがない。つまり、カットインディレイ運転モード開始からの経過時間に関する制御がない。これは、燃料噴射タイミングは点火時期と同様にほとんど遅れ時間なく変更可能だからである。このため、点火時期の補正と後述する燃料噴射タイミング及び燃料噴射圧力とが同じタイミングで開始することとなる。ただし、点火時期の補正開始を、燃料噴射タイミング等の補正よりも所定時間(例えば、数燃焼サイクル)だけ送らせて、シリンダ4内のガス流動を弱めてから点火時期の補正を開始するようにしてもよい。
ステップS502で、コントローラ17は基本燃料噴射タイミングIT0を算出する。基本燃料噴射タイミングIT0は、スロットル開度TVO及びエンジン回転数Neで割り付けたマップを検索することで算出する。
ステップS505で、コントローラ17は点火時期ADV、燃料噴射タイミングIT、及び燃料噴射圧力Pを式(22)、(23)、(24)のように制御する。なお、ステップS505を実行するのは通常運転モードである。
ADV=ADV0+L ・・・(22)
IT=IT0 ・・・(23)
P=P0 ・・・(24)
燃料噴射タイミングITは吸気行程中の値(クランク角)であり、この値が大きくなるほど遅角側であることを意味する。
燃料噴射圧力Pはコモンレール14内の圧力であり、基本燃料噴射圧力P0は固定値である。
ステップS506で、コントローラ17はエンジン回転数Neに基づいて点火時期遅角補正量RTD、燃料噴射タイミング進角補正量hIT、及び燃料噴射圧力増大補正量hPを算出する。
燃料噴射タイミング進角補正量hITは、エンジン回転数Neが低くなるほど、つまり内燃機関1のフリクションが小さくなるほど大きい値になる。一方、燃料噴射圧力増大補正量hPは、エンジン回転数Neが低くなるほど、つまり内燃機関1のフリクションが小さくなるほど小さい値になる。
ステップS507で、コントローラ17は点火時期ADV、燃料噴射タイミングIT、及び燃料噴射圧力Pを式(25)、(26)、(27)のように制御する。ステップS507を実行するのは、カットインディレイ運転モードである。
ADV=ADV0+L-RTD ・・・(25)
IT=IT0-hIT ・・・(26)
P=P0+hP ・・・(27)
式(26)により、燃料噴射タイミングITは基本燃料噴射タイミングIT0から進角する。これにより、上述したようにタンブル流動が弱くなる。また、式(27)により燃料噴射圧力Pは基本燃料噴射圧力P0から増大する。これにより燃料噴霧の運動量が増大するので、燃料噴霧がタンブル流動を弱める効果がより大きくなる。
ステップS508は燃料カット運転モード実行中の制御であり、コントローラ17は点火及び燃料噴射をせず、燃料噴射圧力Pを基本燃料噴射圧力P0に制御する。
図21は、本実施形態の制御を実行した場合のタイミングチャートである。図8、図11、図16と同様に、タイミングT1で燃料カット条件が成立し、タイミングT3で燃料カット移行トルク変化量ΔTqがトルクショック閾値ΔTqthより小さくなり、タイミングT4で燃料カットリカバー条件が成立するものとする。
タイミングT1で、点火時期の遅角補正、燃料噴射タイミングの進角補正、及び燃料噴射圧力の増大補正を開始する。これにより、カットインディレイ運転モード実行中のシリンダ4内のガス流動が弱まる。そして、タイミングT3で燃料カット運転モードへ移行する。
以上のように、本実施形態では、燃料噴霧の運動量を利用して、カットインディレイ運転モード中のシリンダ4内のガス流動を弱める。具体的には、カットインディレイ運転モード実行中に燃料噴射タイミングを進角させ、燃料噴射圧力を増大させる。これにより、第1実施形態と同様に燃焼効率及び燃焼安定性の向上を図ることができる。特に、燃料噴射タイミングは点火時期と同様にサイクル毎の変更が可能であり、制御性が高いので、本実施形態によればカットインディレイ運転モードにおける制御性をより高めることができる。
また、燃料噴射圧力を増大させることで、燃料噴霧の運動量が増大して燃料噴霧がガス流動に与える影響が大きくなるので、確実にガス流動を弱めることができる。
さらに、燃料噴射圧力をエンジン回転数Neの低下に伴って、つまり内燃機関1のフリクションの低下に伴って低下させるので、燃費性能と燃焼安定度を両立することができる。すなわち、要求吸入空気量が低下してシリンダ4内のガス流動の運動量が低下した場合に燃料噴射圧力を低下させるので、シリンダ4内のガス流動を弱めるための燃料噴射量を抑制することができる。
(第5実施形態)
本実施形態は、第4実施形態の燃料噴射を分割噴射に変更したものである。ここでは、パイロット噴射(1回目噴射)とメイン噴射(2回目噴射)の2回に分けて燃料を噴射するものとする。
図22は、コントローラ17が実行するシリンダ4内のガス流動燃料噴射タイミング、及び燃料噴射圧力の制御ルーチンを示すフローチャートである。図20との相違点は、ステップS602、S605、S607、S608である。
ステップS602で、コントローラ17はスロットル開度TVO及びエンジン回転数Neに基づいて、パイロット噴射の基本燃料噴射タイミングIT10、メイン噴射の基本燃料噴射タイミングIT20を算出する。
ステップS605で、コントローラ17は点火時期ADV、燃料噴射タイミングIT、及び燃料噴射圧力Pを式(28)、(29)、(30)、(31)のように制御する。なお、ステップS605を実行するのは通常運転モードである。
ADV=ADV0+L ・・・(28)
IT1=IT10 ・・・(29)
IT2=IT20 ・・・(30)
P=P0 ・・・(31)
燃料噴射タイミングIT1、IT2は吸気行程中の値(クランク角)であり、この値が大きくなるほど遅角側であることを意味する。
燃料噴射圧力Pはコモンレール14内の圧力であり、基本燃料噴射圧力P0は固定値である。
ステップS606で、コントローラ17はエンジン回転数Neに基づいて点火時期遅角補正量RTD、燃料噴射タイミング進角補正量hIT1、及び燃料噴射圧力増大補正量hPを算出する。
燃料噴射タイミング進角補正量hIT1は、エンジン回転数Neが低くなるほど、つまり内燃機関1のフリクションが小さくなるほど大きい値になる。一方、燃料噴射圧力増大補正量hPは、エンジン回転数Neが低くなるほど、つまり内燃機関1のフリクションが小さくなるほど小さい値になる。
ステップS607で、コントローラ17は点火時期ADV、燃料噴射タイミングIT1、IT2、及び燃料噴射圧力Pを式(32)、(33)、(34)、(35)のように制御する。ステップS607を実行するのは、カットインディレイ運転モードである。
ADV=ADV0+L-RTD ・・・(32)
IT1=IT10-hIT1 ・・・(33)
IT2=IT20 ・・・(34)
P=P0+hP ・・・(35)
式(33)により、パイロット噴射の燃料噴射タイミングIT1は基本燃料噴射タイミングIT0から進角する。このようにパイロット噴射の燃料噴射タイミングIT1を進角させることで、燃料噴射全体の重心が進角し、上述したようにタンブル流動が弱くなる。
なお、燃料噴射全体の重心とは、いわゆる燃焼重心であり、当該サイクル中の燃焼による全熱発生量の50%が発生する位置である。
また、式(35)により燃料噴射圧力Pは基本燃料噴射圧力P0から増大する。これにより燃料噴霧の運動量が増大するので、燃料噴霧がタンブル流動を弱める効果がより大きくなる。
ステップS608は燃料カット運転モード実行中の制御であり、コントローラ17は点火及び燃料噴射をせず、燃料噴射圧力Pを基本燃料噴射圧力P0に制御する。
以上のように、本実施形態では燃料噴射をパイロット噴射とメイン噴射を行なう分割噴射とし、カットインディレイ運転モード実行中は通常運転モードに比べてパイロット噴射の噴射タイミングを進角させる。これにより、第4実施形態と同様に、燃料噴霧の運動量を利用してタンブル流動を弱めることができる。
また、パイロット噴射の燃料噴射タイミングを進角させ、メイン噴射の燃料噴射タイミングは変化させないので、タンブル流動を弱める効果を得つつ、混合気の均質度の低下や壁流の増大を抑制することができる。
なお、上記説明では燃料噴射をパイロット噴射とメイン噴射の2段に分割したが、さらに多段化してもよい。その場合も、カットインディレイ運転モード実行中は燃料噴射の重心が進角するよう制御する。
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。