JP6191270B2 - 自動染色処理装置 - Google Patents

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Description

本発明は病理診断に使用される自動染色処理装置に関し、特に染色結果のバラツキ発生を抑制しうる技術に関する。
病理診断では、まず採取した組織を固定するために脱水し、パラフィンによるブロック化といった処理を行った後、2〜8μmの厚さの薄片に切り、パラフィンを取り除き、染色して顕微鏡にセットして観察を行う。病理診断の分野では、特許文献1〜3に見られるように顕微鏡観察は広く用いられている手法であり、病理医は、この顕微鏡観察において、細胞の核の大きさや形の変化、組織としてのパターンの変化等の形態学的な情報、染色情報をもとに診断を行っている。
ところで、組織切片の染色にあたっては従来から自動染色の普及が望まれており、たとえば特許文献4では、組織切片(試料)と染色試薬とを接触させて超音波振動を与え、反応時間の短縮を図っている。近年では、特許文献5のような自動染色処理装置が使用されるようになっており、かかる自動染色処理装置では、図7に示すとおり、試薬ボトル100と組織切片102とがあらかじめセットされ、試薬ボトル100からノズル104で染色試薬を吸引し、そのままノズル104を移動させ、吸引した染色試薬を組織切片102上に滴下するようになっている。
特開平9−197290号公報 特開2007−271503号公報 特開2010−078377号公報 特開平8−304388号公報 特表2007−501878号公報
しかしながら、自動染色処理装置を用いても、染色結果にバラツキが生じている。かかる事象を本発明者が検討したところ、そのバラツキは、試薬ボトルの染色試薬中で成分分布が不均一となることに起因し、その不均一性から結果的に染色結果にバラツキが生じることがわかってきた。
したがって、本発明の主な目的は、染色結果のバラツキを抑制することができる自動染色処理装置を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明によれば、
生物学的サンプルを自動染色するための自動染色処理装置であって、
試薬ボトルを冷却するための冷却機構と、
前記試薬ボトル中の染色試薬を撹拌するための撹拌装置と、
前記冷却機構および前記撹拌装置の作動を制御する制御装置と、
を備え
前記染色試薬には蛍光標識材料が含まれ、
前記蛍光標識材料には蛍光物質内包ナノ粒子と生体物質認識部位とが含まれることを特徴とする自動染色処理装置が提供される。
本発明によれば、試薬ボトル中で染色試薬の成分分布の均一化を図り、染色結果のバラツキを抑制することができる。
自動染色処理装置の外観を示す斜視図である。 自動染色処理装置に内蔵された染色部の概略構成を示す斜視図である。 染色部のノズル動作を概略的に説明するための拡大図である。 染色部の制御構成を概略的に示す図である。 図4の変形例を示す図である。 経時変化に伴う蛍光強度の関係を概略的に示す図である。 課題を説明するための図である。
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
[自動染色処理装置]
図1に示すとおり、自動染色処理装置1は組織切片を染色するための染色部10(図2参照)を内蔵しており、染色部10はフレーム12を有している。
フレーム12の下部には試薬ステーション14およびスライドセクション16が設けられている。
試薬ステーション14には複数の試薬ボトル18が設置されている。試薬ボトル18には染色試薬が注入されている。染色試薬としてはたとえば後述の試薬が使用される。試薬ボトル18は試薬ステーション14に対し着脱自在のディスポーザブル(使い捨て)型容器であり、染色試薬が消費されるごとに新しいものと交換される。なお、試薬ボトル18は試薬ステーション14に対し固定され、染色試薬が消費されるごとに新しい染色試薬が注入(補充)されるものとされてもよい。スライドセクション16には複数の顕微鏡スライド20が収容されている。
他方、フレーム12の上部にはロボットアーム30が設置されている。ロボットアーム30はX方向に延在する支持体により支持され、X方向に移動自在となっている。ロボットアーム30にはロボットヘッド32が設置されている。ロボットヘッド32はロボットアーム30により支持され、Y方向に移動自在となっている。ロボットヘッド32にはノズル34が設置されている(図3参照)。図3に示すとおり、ノズル34はZ方向に昇降自在となっており、試薬ボトル18中の染色試薬を吸引することができるようになっている。
自動染色処理装置1では、染色しようとする組織切片が顕微鏡スライド20にセットされ、ロボットアーム30、ロボットヘッド32およびノズル34が協働して作動し、ノズル14が試薬ボトル18中の染色試薬を吸引し、その後顕微鏡スライド22上に移動し、吸引した染色試薬をその上方から滴下するようになっている。
試薬ステーション14では、図4に示すとおり、各試薬ボトル18が設置される位置に冷却機構40と撹拌装置50とが設置されている。冷却機構40は試薬ボトル18の側面部に対向配置され、撹拌装置50は試薬ボトル18の底部に対向配置されている。
冷却機構40は試薬ボトル18を冷却するための機構であり、主に冷却板42とペルチェ素子44とから構成されている。冷却板42は金属材料から構成された板状部材であり、たとえば電気伝導性の高いCu、Ag、Alなどから構成されている。冷却板42にはペルチェ素子44が接続されている。冷却板42には温度センサ46も設置されている。
撹拌装置50は試薬ボトル18中の染色試薬を撹拌する装置である。本実施形態では、撹拌装置50の一例としていわゆる超音波発生装置52が使用されている。図5に示すとおり、撹拌装置50としては、これに代えて、マグネティックスターラー54が使用されてもよい。マグネティックスターラー54は主に撹拌子スターラー56(撹拌子、回転子)とドライブ58とで構成される。
ペルチェ素子44、温度センサ46および撹拌装置50は制御装置60に接続されている。制御装置60は温度センサ46の検出結果に基づきペルチェ素子44の動作を制御し、試薬ボトル18中の染色試薬を最適温度に調整(冷却)しうるようになっている。制御装置60は撹拌装置50の動作も制御し、超音波の出力やスターラー56の回転などを調整し、試薬ボトル18中の染色試薬を撹拌させうるようになっている。
なお、制御装置60にはロボットアーム30、ロボットヘッド32およびノズル34も接続され、制御装置60はこれら部材の動作も制御するようになっている。
[染色試薬]
本実施形態にかかる染色試薬としては、たとえば、蛍光標識材料を含む試薬が使用される。蛍光標識材料には、生体物質認識部位およびこれに結合した蛍光物質内包ナノ粒子が含まれる。
(1)蛍光物質
蛍光物質内包ナノ粒子に内包される蛍光物質は、具体的には、蛍光有機色素または量子ドットである。200〜700nmの範囲内の波長の紫外〜近赤外光により励起されたときに、400〜900nmの範囲内の波長の可視〜近赤外光の発光を示す蛍光物質を用いることが好ましい。蛍光物質内包ナノ粒子には、いずれか1種の蛍光物質のみを内包させてもよいし、2種以上の蛍光物質の混合物を内包させてもよい。
蛍光有機色素としては、フルオレセイン系色素分子、ローダミン系色素分子、Alexa Fluor(登録商標、インビトロジェン社製)系色素分子、BODIPY(登録商標、インビトロジェン社製)系色素分子、カスケード系色素分子、クマリン系色素分子、エオジン系色素分子、NBD系色素分子、ピレン系色素分子、Texas Red(登録商標)系色素分子、シアニン系色素分子、ペリレン系色素分子、オキサジン系色素分子等を挙げることができる。
量子ドットとしては、II−VI族化合物、III−V族化合物、又はIV族元素を成分として含有する量子ドット(それぞれ、「II−VI族量子ドット」、「III−V族量子ドット」、「IV族量子ドット」ともいう。)のいずれかを好適に用いることができる。
具体例としては、CdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS、ZnTe、InP、InN、InAs、InGaP、GaP、GaAs、Si、Geが挙げられる。
上記量子ドットをコアとし、その上にシェルを設けた量子ドットを用いることもできる。以下本明細書中シェルを有する量子ドットの表記法として、コアがCdSe、シェルがZnSの場合、CdSe/ZnSと表記する。例えば、CdSe/ZnS、CdS/ZnS、InP/ZnS、InGaP/ZnS、Si/SiO2、Si/ZnS、Ge/GeO2、Ge/ZnSなどが挙げられる。
さらに量子ドットとして、I−III−VI族化合物を成分として含有する量子ドット(「I−III−IV族量子ドット」ともいう。)を用いることもできる。「I−III−IV族量子ドット」とは、I族元素とIII族元素とVI族元素との化合物を含む半導体であって、I族元素にCu,Agのいずれかを含み、III族元素にAl,Ga,Inのいずれかを含み、VI族元素にS,Se,Teのいずれかを含む半導体である。
具体例としては、AgInTe,AgInSe,AgInS,AgGaTe,AgGaSe,AgGaS,CuInTe,CuInSe,CuInS,CuGaTe,CuGaSe,CuGaS,CuAlTe,CuAlSeなどが挙げられる。
I−III−IV族量子ドットも、上記と同様に、コア−シェル構造を有していてもよい。
量子ドットは必要に応じて、有機ポリマーなどにより表面処理が施されているものを用いてもよい。例えば、表面カルボキシ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)、表面アミノ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)などがあげられる。
(2)蛍光物質内包ナノ粒子の作製方法
蛍光物質内包ナノ粒子は、上述したような蛍光物質がナノ粒子内部に分散したものであり、蛍光物質はそれを被覆するナノ粒子と化学的に結合していても、していなくてもよい。
ナノ粒子を構成する素材は特に限定されるものではなく、シリカ、ポリスチレン、ポリ乳酸などを挙げることができる。
蛍光物質内包ナノ粒子は、公知の方法により作製することができる。例えば、蛍光有機色素を内包したシリカナノ粒子は、ラングミュア8巻2921ページ(1992)に記載されているFITC内包シリカ粒子の合成を参考に合成することができる。FITCの代わりに所望の蛍光有機色素を用いることで種々の蛍光有機色素内包シリカナノ粒子が合成できる。
量子ドットを内包したシリカナノ粒子は、ニュー・ジャーナル・オブ・ケミストリー33巻561ページ(2009)に記載されているCdTe内包シリカナノ粒子の合成を参考に合成することができる。
蛍光有機色素を内包したポリスチレンナノ粒子は、米国特許第4326008号(1982)に記載されている重合性官能基をもつ有機色素を用いた共重合法や、米国特許第5326692号(1992)に記載されているポリスチレンナノ粒子への蛍光有機色素の含浸法を用いて作製することができる。
量子ドットを内包したポリマーナノ粒子は、ネイチャー・バイオテクノロジー19巻631ページ(2001)に記載されているポリスチレンナノ粒子への量子ドットの含浸法を用いて作製することができる。
蛍光物質内包ナノ粒子の平均粒径は特に限定されないが、通常は30〜800nm程度である。また、粒径のばらつきを示す変動係数も特に限定されないが、通常は20%程度である。ここでいう平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数(たとえば1000個)の蛍光物質ナノ粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求められる算術平均であり、変動係数は、上記のようにして測定した粒径分布から算出した値(100×粒径の標準偏差/平均粒径)である。
(3)蛍光標識材料の作製方法
蛍光標識材料における生体物質認識部位は、目的とする生体物質と特異的に結合する物質により構成される部位である。目的とする生体物質は、それと特異的に結合する物質が存在するものであれば特に限定されるものではないが、代表的にはタンパク質(ペプチド)および核酸(オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)が挙げられる。したがって、そのような目的とする生体物質に結合する物質としては、前記タンパク質を抗原として認識する抗体やそれに特異的に結合する他のタンパク質等、および前記核酸にハイブリダイズする塩基配列を有する核酸等が挙げられる。具体的には、細胞表面に存在するタンパク質であるヒト上皮細胞成長因子受容体2(HER2)に特異的に結合する抗HER2抗体、細胞核に存在するエストロゲン受容体(ER)に特異的に結合する抗ER抗体、細胞骨格を形成するアクチンに特異的に結合する抗アクチン抗体などが挙げられる。中でも抗HER2抗体および抗ER抗体は、免疫組織化学法を乳がんの投薬選定のために利用する際の好ましい生体物質認識部位である。
生体物質認識部位と蛍光物質内包ナノ粒子の結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
また生体物質認識部位と蛍光物質内包ナノ粒子の間を連結する有機分子があってもよい。例えば生体物質との非特異的吸着を抑制するためポリエチレングリコール鎖を用いることができ、例えばThermoScientific社製SM(PEG)12を用いることができる。
蛍光物質内包シリカナノ粒子へ生体物質認識部位を結合させる場合、蛍光物質が蛍光有機色素の場合でも、量子ドットの場合でも同様の手順を適用することができる。例えば、無機物と有機物を結合させるために広く用いられている化合物であるシランカップリング剤を用いることができる。このシランカップリング剤は、分子の一端に加水分解でシラノール基を与えるアルコキシシリル基を有し、他端に、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルデヒド基などの官能基を有する化合物であり、上記シラノール基の酸素原子を介して無機物と結合する。具体的には、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ポリエチレングリコール鎖をもつシランカップリング剤(例えば、Gelest社製PEG−silane no.SIM6492.7)などがあげられる。
蛍光物質内包シリカナノ粒子とシランカップリング剤との反応手順は、公知の手法を用いることができる。例えば、得られた蛍光色素内包シリカナノ粒子を純水中に分散させ、アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、室温で12時間反応させる。反応終了後、遠心分離又はろ過により、表面がアミノプロピル基で修飾された蛍光物質内包シリカナノ粒子を得ることができる。続いてアミノ基と抗体中のカルボキシル基とを反応させることで、アミド結合を介して抗体を蛍光有機色素内包シリカナノ粒子と結合させることができる。必要に応じEDC(1-Ethyl-3-[3-Dimethylaminopropyl]carbodiimide Hydrochloride:Pierce社製)のような縮合剤を用いることもできる。
必要により、有機分子修飾された蛍光物質内包シリカナノ粒子と直接結合しうる部位と、分子標的物質と結合しうる部位とを有するリンカー化合物を用いることができる。具体例として、アミノ基と選択的に反応する部位とメルカプト基と選択的に反応する部位の両方をもつsulfo−SMCC(Sulfosuccinimidyl 4[N-maleimidomethyl]-cyclohexane-1-carboxylate:Pierce社製)をリンカー化合物として用いて、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した蛍光物質内包シリカナノ粒子のアミノ基、および抗体中のメルカプト基のそれぞれと上記リンカー化合物の有する官能基とを反応させることにより、上記リンカー化合物を介して抗体が結合した蛍光物質内包シリカナノ粒子を作製することができる。
蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子へ生体物質認識部位を結合させる場合、蛍光物質が蛍光有機色素の場合でも、量子ドットの場合でも同様の手順を適用することができる。すなわち、アミノ基など官能基をもつポリスチレンナノ粒子へ蛍光有機色素または量子ドットを含浸して、上記官能基をもつ蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子を作製し、以降前記と同様にEDCもしくはsulfo−SMCCを用いることで、抗体が結合した蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子ができる。
以上の蛍光物質内包ナノ粒子を含む蛍光標識材料は、たとえば、PBS(Phosphate Buffered Saline;リン酸緩衝液生理的食塩水)に懸濁され、その懸濁液が染色試薬として試薬ボトル18に注入される。
[免疫組織化学法]
続いて、自動染色処理装置1を用いた自動染色処理を含む免疫組織化学法について説明する。
本実施形態にかかる免疫組織化学法は、前述したような蛍光標識材料を用いて組織切片を染色する工程(「染色工程」と称する。)と、励起光を照射して所定の情報を得る工程(「観察工程」と称する。)とを含む。
組織切片は染色対象たる生物学的サンプルの一例であり、他の病理切片が染色対象とされてもよい。
(1)染色工程
染色工程では、上述したような特定の蛍光標識材料を用いて組織切片の染色を行う。切片の作製法は特に限定されるものではなく、公知の方法により作製された切片を用いることができる。たとえば、病理切片として汎用されているパラフィン包埋切片を用いる場合は、次のような手順で染色すればよい。
(1.1)脱パラフィン処理
キシレンを入れた容器に病理切片を浸漬させ、パラフィンを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は3分以上30分以下であることが好ましい。必要により浸漬途中でキシレンを交換してもよい。
ついで、エタノールを入れた容器に病理切片を浸漬させ、キシレンを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は3分以上30分以下であることが好ましい。必要により浸漬途中でエタノールを交換してもよい。
さらに、水を入れた容器に病理切片を浸漬させ、エタノールを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は3分以上30分以下であることが好ましい。必要により浸漬途中で水を交換してもよい。
(1.2)賦活化処理
公知の方法にならい、目的とする生体物質の賦活化処理を行う。賦活化条件に特に定めはないが、賦活液としては、0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)、1mMEDTA溶液(pH8.0)、5%尿素、0.1Mトリス塩酸緩衝液などを用いることができる。加熱機器はオートクレーブ、マイクロウェーブ、圧力鍋、ウォーターバスなどを用いることができる。温度は50〜130℃、時間は5〜30分で行うことができる。
ついで、PBSを入れた容器に賦活処理後の切片を浸漬させ、洗浄する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は3分以上30分以下であることが好ましい。必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。
(1.3)蛍光標識材料による染色処理
生体物質認識部位および蛍光物質ナノ粒子を備えた蛍光標識材料のPBS分散液(染色試薬)を調製して試薬ボトル18に注入し、これを自動染色処理装置1の試薬ステーション14に設置する。これと併せて、スライドセクション16に顕微鏡スライド20を収容させ、病理切片を顕微鏡スライド20上に載せる。
ここで、現実の染色処理の前に、制御装置60により、ペルチェ素子44を制御して温度センサ46の検出結果に基づき試薬ボトル18中の染色試薬を最適温度に調整(冷却)しながら、撹拌装置50を制御して試薬ボトル18中の染色試薬に超音波振動を与えるか、またはスターラー56を回転させ、染色試薬を撹拌させ、染色試薬中で蛍光物質内包ナノ粒子を分散させる。
その後、制御装置60により、ロボットアーム30、ロボットヘッド32およびノズル34を制御して、試薬ボトル18からノズル34で染色試薬を吸引し、その後ロボットヘッド32を顕微鏡スライド20上に移動させ、ノズル34から染色試薬を病理切片に滴下し、現実の染色処理を実行する。反応温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。反応時間は30分以上24時間以下であることが好ましい。
その後、染色後の病理切片を、PBSを入れた容器に浸漬させ、未反応蛍光物質内包ナノ粒子を除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は3分以上30分以下であることが好ましい。必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。
その後、カバーガラスを切片に載せて封入する。必要に応じて市販の封入剤を使用してもよい。
(2)観察工程
観察工程では、上記工程により染色された組織切片に励起光を照射することにより、前記蛍光標識材料による蛍光に基づく細胞または組織内の前記特定抗原分子の情報(抗原分子情報)を取得する。
抗原分子情報は、迅速な観察が行えるよう(蛍光)顕微鏡の鏡筒から取得するようにしてもよいし、(蛍光)顕微鏡に設置されたカメラが撮影した画像を別途モニタ等に表示し、それを観察することにより取得するようにしてもよい。用いる蛍光物質によるが、顕微鏡の鏡筒からの目視により十分に抗原分子情報を取得することができなくても、カメラが撮影した画像から抗原分子情報を取得することが可能な場合もある。
前記抗原分子情報を取得することとしては、たとえば、蛍光の輝点数または発光輝度を基に、一細胞あたりの標的抗原分子数もしくは標的抗原輝度を計測することが挙げられる。用いた蛍光物質の吸収極大波長および蛍光波長に対応した励起光源および蛍光検出用光学フィルターを選択すればよい。
輝点数または発光輝度の計測には、市販の画像解析ソフト(例えば、株式会社ジーオングストローム社製全輝点自動計測ソフトG-Count)を用いることが好適であるが、計測手段は特に限定されるものではない。
以上の本実施形態によれば、自動染色処理装置1において撹拌装置50を備え、現実の染色処理の前に、染色試薬中で蛍光物質内包ナノ粒子を分散可能させるため、蛍光物質内包ナノ粒子の凝集・沈降が防止される。そのため、染色試薬中で蛍光物質内包ナノ粒子の分散度(分布)の均一化が図られ、染色結果のバラツキを抑制することができる。
特に、本実施形態では、自動染色処理装置1において冷却機構40も備え、現実の染色処理の前に、試薬ボトル18中の染色試薬を冷却可能であるから、染色試薬中の抗体が失活するのも防止することができ、より確実に染色結果のバラツキを抑制することができる。
(1)染色試薬の調製
蛍光物質内包ナノ粒子として、コアフロント(株)製蛍光シリカ粒子(−機能性ナノ・マイクロ粒子 標準品リスト−2011年WEB版に掲載の製品番号40-00-202、製品名sicasutar(登録商標)-redF)を、粒径150nmにカスタム作製したものを準備した。
その後、上記蛍光物質内包ナノ粒子に、以下の手順により抗HER2抗体を結合させ、蛍光標識材料(染色試薬)を作製した。
工程(1):上記蛍光物質内包ナノ粒子1mgを純水5mLに分散させた。アミノプロピルトリエトキシシラン水分散液100μLを添加し、室温で12時間撹拌した。
工程(2):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(3):エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。生成物のFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、上記蛍光物質内包ナノ粒子をアミノ基修飾できたことを確認できた。
工程(4):工程(3)で得られたアミノ基修飾した上記蛍光物質内包ナノ粒子を、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBS(リン酸緩衝液生理的食塩水)を用いて3nMに調整した。
工程(5):工程(4)で調製した溶液に、最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl-[(N-maleomidopropionamid)-dodecaethyleneglycol]ester)を混合し、1時間反応させた。
工程(6):反応混合液を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(7):EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に500μLPBSを用い再分散させた。
工程(8):抗HER2抗体100μgを100μLのPBSに溶解させたところに、1Mジチオスレイトール(DTT)を添加し、30分反応させた。
工程(9):反応混合物についてゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去し、還元化抗HER2抗体溶液を得た。
工程(10):上記蛍光物質内包ナノ粒子を出発原料にして工程(7)で得られた粒子分散液と工程(9)で得られた還元化抗HER2抗体溶液とをPBS中で混合し、1時間反応させた。
工程(11):10mMメルカプトエタノール4μLを添加し、反応を停止させた。
工程(12):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した後EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に5mLのPBSを用い再分散させた抗HER2抗体が結合した蛍光標識材料(染色試薬)を得た。
(2)染色試薬中の粒子分布の測定
上記で調製した染色試薬5mLを試薬ボトル(容量10mL)に注入し、かかる試薬ボトルを、図1〜図5に示すような自動染色処理装置に設置した。
ここでは、冷却機構および撹拌装置を有しない自動染色処理装置Aと、冷却機構および撹拌装置(超音波発生装置)を有する自動染色処理装置Bと、冷却機構および撹拌装置(マグネティックスターラー)を有する自動染色処理装置Cとの3種類の装置を準備し、各装置における染色試薬中の蛍光物質内包ナノ粒子の分散度(分布)の経時変化を測定した。
詳しくは、3種の自動染色処理装置A、B、Cに対して染色試薬入りの試薬ボトルを設置し、その後冷却機構および撹拌装置を作動させ、設置直後、1日後、1週間後、1ヶ月後にそれぞれ試薬ボトル中から染色試薬100μLを分注した。冷却機構は自動染色処理装置B、Cにおいて作動させ続け(冷却温度4℃)、染色試薬中の抗体が失活するのを防止した。撹拌装置は、自動染色処理装置Bでは、超音波発生装置としてアズワン社製超音波洗浄器を使用し、分注するごとにその分注の直前で、150Wの出力で1分間超音波振動を与え、自動染色処理装置Cでは、分注するごとにその分注の直前で、1500rpmで5分間撹拌した。
各分注液について、蛍光強度を測定し、設置直後の蛍光強度に対する1日後、1週間後、1ヶ月後の蛍光強度(相対値(%))を算出した。
算出結果を図6に示す。図6では、自動染色処理装置Aを用いた場合を「□(四角形状)」で、自動染色処理装置Bを用いた場合を「▲(三角形状)」で、自動染色処理装置Cを用いた場合を「○(円形状)」で、それぞれ示している。
図6に示すとおり、自動染色処理装置Aを用いた場合では、経時変化に伴い蛍光強度が顕著に低下している。これに対し、自動染色処理装置B、Cを用いた場合では、経時変化があっても蛍光強度はほとんど変動しなかった。
このことから、撹拌装置を備える自動染色処理装置は、染色試薬中で蛍光物質内包ナノ粒子の分散度(分布)を均一にするのに、有用であることがわかる。
(1)組織切片の染色
蛍光物質内包ナノ粒子として、コアフロント(株)製蛍光シリカ粒子(−機能性ナノ・マイクロ粒子 標準品リスト−2011年WEB版に掲載の製品番号40-00-202、製品名sicasutar(登録商標)-redF)を、粒径80nm、150nm、200nm、300nmにそれぞれカスタム作製したものを準備した。
その後、上記蛍光物質内包ナノ粒子に、実施例1と同様の手順により抗HER2抗体を結合させ、蛍光標識材料(染色試薬)を作製した。
その後、実施例1で使用した3種の自動染色処理装置A、B、Cを準備し、3種の自動染色処理装置A、B、Cに対して染色試薬入りの試薬ボトルを設置し、その後冷却機構を作動させ(冷却温度4℃)、この状態で1ヶ月放置した。
その後、3種の自動染色処理装置A、B、Cに対して顕微鏡スライドを収容し、その顕微鏡スライド上に、組織切片としてUS Biomax社製BR042a(Microarray Panel : Breast carcinoma tissue microarray, containing 4 cases of invasive ductal carcinoma, single core per case)を載せた。
その後、自動染色処理装置Aではそのまま染色処理を実行し、自動染色処理装置Bでは冷却機構を作動させつつ150Wの出力で1分間超音波振動を与えてから、自動染色処理装置Cでは冷却機構を作動させつつ1500rpmで5分間撹拌してから、それぞれ染色処理を実行した。
(2)輝点数の測定
染色処理後の組織切片に励起光を照射することにより、染色試薬による蛍光に基づく組織内の抗原分子情報を取得した。
詳しくは、(蛍光)顕微鏡に設置されたカメラで撮影し、その画像から蛍光の輝点数を測定した。輝点数の計測には、市販の画像解析ソフト(例えば、株式会社ジーオングストローム社製全輝点自動計測ソフトG-Count)を用いた。
染色処理に供した組織切片は装置ごとに5サンプル(各サンプルごとに100細胞を選択)として1細胞あたりの輝点数を測定し、細胞単位での標準偏差を求めた。
測定結果を表1に示す。表1中、○、×の基準は下記のとおりである。
「○」;標準偏差が2以内である
「×」;標準偏差が10以上である
Figure 0006191270
(3)まとめ
表1に示すとおり、自動染色処理装置Aを用いた場合では、染色結果に大きなバラツキが確認された。これに対し、自動染色処理装置B、Cを用いた場合では、染色結果にバラツキが顕著に少なかった。
このことから、冷却機構および撹拌装置を備える自動染色処理装置は、染色結果のバラツキを抑制するのに、有用であることがわかる。さらに、自動染色処理装置が冷却機構を備えることにより、特に超音波発生装置を用いた撹拌を行った場合に懸念される染色試薬の温度上昇を効果的に防止することができ、温度上昇によって染色試薬中の抗体が失活するのを防止していることがわかる。
なお、実施例1、2中、染色試薬の蛍光物質内包ナノ粒子として、上記コアフロント(株)製蛍光シリカ粒子に代えて、下記の方法で合成した量子ドット(CdSe/ZnS)内包シリカナノ粒子を使用した場合も、実施例1、2と同様の結果を得られた。
工程(1):CdSe/ZnSデカン分散液(インビトロジェン社Qdot655)10μLとテトラエトキシシラン40μLを混合した。
工程(2):エタノール4mLと14%アンモニア水1mLを混合した。
工程(3):工程(2)で調製した混合液を室温下で撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたナノ粒子Bの1000個についてSEM観察を行ったところ、平均粒径は130nm、変動係数は13%であった。
1 自動染色処理装置
10 染色部
12 フレーム
14 試薬ステーション
16 スライドセクション
18 試薬ボトル
20 顕微鏡スライド
30 ロボットアーム
32 ロボットヘッド
34 ノズル
40 冷却機構
42 冷却板
44 ペルチェ素子
46 温度センサ
50 撹拌装置
52 超音波発生装置
54 マグネティックスターラー
56 スターラー
58 ドライブ
60 制御装置

Claims (4)

  1. 生物学的サンプルを自動染色するための自動染色処理装置であって、
    試薬ボトルを冷却するための冷却機構と、
    前記試薬ボトル中の染色試薬を撹拌するための撹拌装置と、
    前記冷却機構および前記撹拌装置の作動を制御する制御装置と、
    を備え
    前記染色試薬には蛍光標識材料が含まれ、
    前記蛍光標識材料には蛍光物質内包ナノ粒子と生体物質認識部位とが含まれることを特徴とする自動染色処理装置。
  2. 請求項1に記載の自動染色処理装置において、
    前記撹拌装置が超音波発生装置であることを特徴とする自動染色処理装置。
  3. 請求項1に記載の自動染色処理装置において、
    前記撹拌装置がマグネティックスターラーであることを特徴とする自動染色処理装置。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動染色処理装置において、
    前記生物学的サンプルとして、前記染色試薬の生体物質認識部位に対応する生体物質を含む組織切片が使用されることを特徴とする自動染色処理装置。
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