図1から図8を参照して、車両の制御装置を変速機制御装置として具体化した一実施形態を説明する。以下では、変速機制御装置および変速機制御装置の制御対象を含む変速システムの概略構成、シフト部の構成、検出スイッチの構成、変速機制御装置の電気的構成、および、変速機制御装置が行う処理の手順を順に説明する。
[変速システムの構成]
図1を参照して変速システムの構成を説明する。
図1に示されるように、変速システム10は、機械式自動変速機11(以下、変速機11)、パーキング部12、シフト部13、ブレーキ16、変速機制御装置21、および、発進補助制御装置22を備えている。
変速機11は、車両の動力源、例えば、エンジンあるいはモーターと、作動装置とに接続し、変速比が相互に異なる複数の前進ギヤの組、および、出力軸の回転方向を他のギヤとは異なる方向に変える後進ギヤの組を備えている。変速機11は、変速アクチュエーター11aを備えている。変速アクチュエーター11aは、複数のギヤの組のいずれかを出力軸に結合する。
変速アクチュエーター11aは、入力された制御信号に基づき、出力軸に結合する前進ギヤの組を1つの前進ギヤの組から他のギヤの組に変えることで、変速機11の変速比を所定の変速比から他の変速比に変える。あるいは、変速アクチュエーター11aは、入力された制御信号に基づき、出力軸に結合するギヤの組を前進ギヤの組のいずれかから後進ギヤの組に変えることで、出力軸の回転方向を変える。変速アクチュエーター11aは、例えば、電動モーターである。
パーキング部12は変速機11に搭載されている。パーキング部12は、例えば、変速機11の出力軸に取り付けられたパーキングギヤ、パーキングポール、および、パーキングギヤに対するパーキングポールの位置を変える位置変更部を備えている。パーキングポールがパーキングギヤに嵌ることによって、パーキング部12は、変速機11の出力軸を回転できない状態にする。
シフト部13は、変速機11の出力軸に結合するギヤを変える。シフト部13は、運転者が操作するシフトレバー14と、シフトレバー14の位置を特定するためのシフト機構15とを備えている。シフト部13は、パーキング部12とケーブルによって接続され、シフト部13が駐車位置に配置されることによって、ケーブルが、位置変更部にパーキングポールの位置を変えさせる。これにより、パーキングポールの位置が、パーキングギヤに嵌らない位置からパーキングギヤに嵌る位置に変わる。結果として、変速機11の出力軸の状態が、回転できる状態から回転できない状態に変わる。
ブレーキ16は、例えば、油圧式のブレーキであり、ブレーキ16の油圧を保持することによって、ブレーキ16の制動力を保持する保持機構を備えている。保持機構は、例えば、油圧回路に取り付けられて油圧回路内の圧力を保持する電磁弁である。
変速機制御装置21は、変速アクチュエーター11a、シフト部13、および、発進補助制御装置22に接続している。変速機制御装置21は、例えば、シフト部13の出力したシフトレバー14の位置の検出値を取得し、検出値を用いて変速アクチュエーター11aを制御するための制御信号を生成する。また、変速機制御装置21は、例えば、ブレーキ16の制動力の検出値を取得し、位置の検出値と制動力の検出値とを用いてブレーキ16の制動力を保持するための制御信号を生成する。変速機制御装置21は、制動力を保持するための制御信号に基づき、発進補助制御装置22に向けて出力する通信信号を生成する。
発進補助制御装置22は、ブレーキ16の制動力を保持するための通信信号を取得し、通信信号に基づいてブレーキ16の保持機構を制御するための制御信号を生成する。
[シフト部13の構成]
図2を参照してシフト部13の構成を説明する。
図2に示されるように、シフト機構15は、筐体31を備え、筐体31は、筐体31の上面を貫通する案内孔32を有している。案内孔32は、例えば、紙面の上方から下方へ延びる途中で、紙面の左右方向あるいは上下方向に屈曲する複数の屈曲部を有している。案内孔32は、例えば、上方端32aから第1屈曲部32bに向けて左方に延び、第1屈曲部32bにて下方に屈曲して第2屈曲部32cに向けて延びる。案内孔32は、第2屈曲部32cにて右方に屈曲して第3屈曲部32dに向けて延び、第3屈曲部32dにて下方に屈曲して第4屈曲部32eに向けて延びる。
案内孔32は、第4屈曲部32eにて右方に屈曲して第5屈曲部32fに向けて延び、第5屈曲部32fにて下方に屈曲して第6屈曲部32gに向けて延びる。案内孔32は、第6屈曲部32gにて左方に屈曲して下方端32hに向けて延びる。下方端32hは、案内孔32の第6屈曲部32gと下方端32hとを結ぶ部分よりも上方および下方に延びている。
シフトレバー14は、経路の一例である案内孔32内に通されて案内孔32の上方端32aと下方端32hとの間を案内孔32に沿って移動する。シフト機構15は、シフトレバー14を案内孔32に沿って移動させることによって、シフト機構15におけるシフトレバー14の位置を特定する。
例えば、シフトレバー14が案内孔32の上方端32aである駐車位置33に位置するとき、パーキング部12が出力軸に結合する。シフトレバー14が第3屈曲部32dである後進位置34に位置するとき、後進ギヤが出力軸に結合する。シフトレバー14が第5屈曲部32fであるニュートラル位置35に位置するとき、いずれのギヤも出力軸に結合しない。シフトレバー14が第6屈曲部32gである前進位置36に位置するとき、複数の前進ギヤのいずれかが出力軸に結合する。
シフトレバー14が下方端32hでの上下方向の中央である手動位置37に位置するとき、運転者によるシフトレバー14の操作に応じて出力軸に結合するギヤが変わる。シフトレバー14が手動位置37よりも上方の位置であるシフトアップ位置37aに位置するとき、出力軸に結合するギヤが、現在のギヤよりも変速比の小さいギヤに変わる。一方、シフトレバー14が手動位置37よりも下方の位置であるシフトダウン位置37bに位置するとき、出力軸に結合するギヤが、現在のギヤよりも変速比の大きいギヤに変わる。
シフト機構15は、シフトレバー14の移動を規制する規制部の一例であるシフトロック38を有している。シフトロック38は、シフトレバー14が駐車位置33から他の位置の一例である後進位置34に向けて移動することを規制する。すなわち、シフトロック38は、シフトレバー14の移動を規制しているとき、シフトレバー14にシフトロック38の位置を超えさせない。シフトロック38は、所定の条件が成立するときのみ、シフトレバー14の移動の規制を解除する。すなわち、シフトロック38は、シフトレバー14の移動の規制を解除するとき、シフトレバー14にシフトロック38の位置を超えさせる。なお、シフトレバー14が駐車位置33に位置してからシフトロック38を超えるまで、パーキング部12は、出力軸を回転できない状態に保つ。
一方、シフトロック38は、シフトレバー14が案内孔32に沿って後進位置34から駐車位置33に向けて移動することを規制しない。
[検出スイッチの構成]
図3を参照して第1検出スイッチおよび第2検出スイッチの構成を説明する。なお、図3では、説明の便宜上、2つの検出スイッチを各スイッチの検出範囲によって示している。
シフト機構15は、シフトレバー14の位置を検出する第1検出スイッチ24と第2検出スイッチ25とを備えている。第1検出スイッチ24および第2検出スイッチ25は、シフトレバー14と接触した状態、あるいは、シフトレバー14と接触しない状態でシフトレバー14を検出する。第1検出スイッチ24および第2検出スイッチ25は、シフトレバー14を検出しているときにオンの状態である一方、シフトレバー14を検出していないときにオフの状態である。
第1検出スイッチ24は、案内孔32上の第1位置P1と第2位置P2との間に位置するシフトレバー14を検出する。第1位置P1は、後進位置34よりもシフトロック38に近く、かつ、シフトロック38よりも後進位置34に近い案内孔32上の位置である。すなわち、第1位置P1は、後進位置34とシフトロック38との間の位置であって、かつ、後進位置34とシフトロック38とを除く位置である。
第2位置P2は、駐車位置33よりもシフトロック38に近く、かつ、シフトロック38よりも駐車位置33に近い案内孔32上の位置である。すなわち、第2位置P2は、駐車位置33とシフトロック38との間の位置であって、かつ、駐車位置33とシフトロック38とを除く位置である。
第2検出スイッチ25は、案内孔32上の第3位置P3と第2位置P2との間に位置するシフトレバー14を検出する。第3位置P3は、シフトロック38よりも第2位置P2に近く、かつ、第2位置P2よりもシフトロック38に近い案内孔32上の位置である。すなわち、第3位置P3は、シフトロック38と第2位置P2との間の位置であって、かつ、シフトロック38と第2位置P2とを除く位置である。
第1検出スイッチ24および第2検出スイッチ25の各々は、オンの状態あるいはオフの状態を検出値として出力する。
[変速機制御装置21の電気的構成]
図4を参照して変速機制御装置21の電気的構成を説明する。なお、変速機制御装置21の電気的構成は、変速制御プログラム、論理回路や演算回路等のハードウエア、あるいは、これらの複合構成によって具体化される。
図4に示されるように、変速機制御装置21は、制動力センサー23、第1検出スイッチ24、第2検出スイッチ25、勾配センサー26、および、車速センサー27に接続している。制動力センサー23は、ブレーキ16の制動力を測定する。制動力センサー23は、油圧回路内の油圧を測定し、現在の油圧を測定結果として出力する。勾配センサー26は、車両が停止している路面の勾配を測定し、現在の勾配を測定結果として出力する。車速センサー27は、車両の走行速度を測定し、現在の走行速度を測定結果として出力する。
変速機制御装置21は、入力部41、処理部42、出力部43、および、通信部44を備えている。変速機制御装置21は、シフトロック38の解除処理、および、制動力の保持の開始処理に必要な検出値および測定値を入力値として入力部41を通じて取得する。
入力部41は、例えば、車両が停止している路面の勾配、車両の速度、ブレーキ16の制動力、第1検出スイッチ24の検出結果、および、第2検出スイッチ25の検出結果の各々を入力値として取得する。入力部41は、各入力値を所定の制御周期ごとに取得する構成であってもよいし、変速機制御装置21からの要求に応じて各入力値を取得する構成でもよい。入力部41は、勾配取得部、制動力取得部、および、位置取得部の一例である。
目標値算出部52は、車両の重量と路面の勾配とを用いて、勾配を有する路面に沿って車両が移動することを抑える制動力を目標値として算出する。目標値算出部52は、車両の重量が大きいほど大きい目標値を算出し、かつ、路面の勾配が大きいほど大きい目標値を算出する。また、水平方向と路面とがなす角度、すなわち、路面の勾配がθであり、車両の重量がWであるとき、車両の重量Wの分力であるW・sinθが、車両を路面に沿って停止位置から移動させる力として車両に作用する。そこで、目標値算出部52は、W・sinθよりも大きい制動力を目標値として算出する。目標値算出部は、重量取得部の一例である。
ロック解除部53は、シフトロック38の解除条件を有する。ロック解除部53は、解除条件が成立するとき、シフトロック38によるシフトレバー14の移動の規制を解除する。ロック解除部53は、第1検出スイッチ24の検出結果、ブレーキ16の制動力、および、制動力の目標値を用いてシフトロック38の解除条件が成立しているか否かを判断する。シフトレバー14が駐車位置33から操作され、すなわち、第1検出スイッチ24がシフトレバー14を検出し、かつ、ブレーキ16の制動力が目標値を超えたとき、ロック解除部53はシフトロック38の解除条件が成立していると判断し、シフトロック38による規制を解除する。ロック解除部53が規制を解除するとき、ロック解除部53は、シフトロック38の規制を解除するためのロック制御信号を生成する。ロック解除部53は、解除部の一例である。
保持開始部54は、制動力の保持開始条件を有する。保持開始部54は、保持開始条件が成立するとき、ブレーキ16の保持機構による制動力の保持を開始する。保持開始部54は、第1検出スイッチ24の検出値、第2検出スイッチ25の検出値、ブレーキ16の制動力、および、制動力の目標値を用いて、ブレーキ16の保持機構による制動力の保持開始条件が成立しているか否かを判断する。シフトレバー14が駐車位置33から操作され、すなわち、シフトレバー14が第2検出スイッチ25の検出範囲よりもシフトロック38側に位置し、かつ、制動力が目標値を超えたとき、保持開始部54は保持開始条件が成立していると判断する。保持開始部54は、保持開始条件の成立を判断したとき、保持機構に制動力の保持を開始させるための保持制御信号を生成する。
出力部43は、処理部42が生成したロック制御信号をシフトロック38の駆動信号に変換して出力する。通信部44は、処理部42が生成した保持制御信号を通信信号に変換し、通信信号を発進補助制御装置22に向けて出力する。
[変速機制御装置21での処理手順]
図5から図7を参照して変速機制御装置21での処理の手順を説明する。以下では、まず、図5を参照して、ロック解除部53が行う解除処理の手順を説明し、次に、図6および図7を参照して、保持開始部54が行う制動力の保持を開始する開始フラグ設定処理、および、保持開始処理の手順を説明する。なお、変速機制御装置21は、例えば、解除処理、開始フラグ設定処理、および、保持開始処理をこの順番に行う。変速機制御装置21は、一連の処理を所定の制御周期で行う。
図5に示されるように、ロック解除部53は、第1検出スイッチ24がオンの状態であるか否かを判断する(ステップS11)。この際、ロック解除部53は、第1検出スイッチ24の検出結果を用いて、第1検出スイッチ24の状態を判断する。ロック解除部53が、第1検出スイッチ24がオンの状態であると判断すると(ステップS11:YES)、ロック解除部53は、ブレーキ16の制動力が目標値よりも大きいか否かを判断する(ステップS12)。この際、ロック解除部53は、目標値算出部52の算出した制動力の目標値と、入力部41の取得した最新の制動力とを比べる。
シフトロック38の規制を解除する解除条件は、第1検出スイッチ24がオンの状態であることを含む。そのため、ブレーキ16の制動力が、走行している車両の制動や、車両の一時的な停止に用いられているときには、ロック解除部53が規制の解除を判断しない。これにより、シフトロック38による規制が、ほぼ解除を必要とする状況で解除されるため、不要な規制の解除によって、シフトロック38が消耗しにくくなる。
ロック解除部53は制動力が目標値よりも大きいと判断すると(ステップS12:YES)、ロック解除部53は、シフトロック38の規制を解除するためのロック制御信号を生成する(ステップS13)。これにより、シフトロック38によるシフトレバー14の移動の規制が解除される。ロック解除部53は、ステップS13の処理を行うと、解除処理を一旦終了する。
一方、ロック解除部53は、第1検出スイッチ24がオンの状態ではないと判断すると(ステップS11:NO)、あるいは、制動力が目標値よりも大きくないと判断すると(ステップS12:NO)、ロック解除部53は、解除処理を一旦終了する。
シフトロック38の規制を解除する解除条件は、ブレーキ16の制動力が目標値よりも大きいことを含む。そのため、シフトレバー14がシフトロック38を超えるとき、制動力が目標値よりも大きい。結果として、車両が路面に沿って停止位置から移動することが抑えられる。
図6に示されるように、保持開始部54は、保持開始フラグFが1であるか否かを判断する(ステップS21)。保持開始部54が、保持開始フラグFが1でないと判断すると(ステップS21:NO)、保持開始部54は、第2検出スイッチ25がオンの状態からオフの状態に変わったか否かを判断する(ステップS22)。例えば、最新の第2検出スイッチ25の検出結果がオフであり、前回の第2検出スイッチ25の検出結果がオンであるとき、保持開始部54は、第2検出スイッチ25の状態がオンからオフに変わったと判断する。
保持開始部54が、第2検出スイッチ25がオンの状態からオフの状態に変わったと判断すると(ステップS22:YES)、保持開始部54は、第1検出スイッチ24がオンの状態であるか否かを判断する(ステップS23)。保持開始部54が、第1検出スイッチ24がオンの状態であると判断すると(ステップS23:YES)、保持開始部54が保持開始フラグFを1に設定する(ステップS24)。保持開始部54は、ステップS24の処理を行うと、開始フラグ設定処理を一旦終了する。
一方、保持開始部54が、保持開始フラグFが1であると判断すると(ステップS21:YES)、保持開始部54は、第2検出スイッチ25がオンの状態であるか否かを判断する(ステップS25)。保持開始部54が、第2検出スイッチ25がオンの状態であると判断すると(ステップS25:YES)、保持開始部54は、保持開始フラグFを0に設定する(ステップS26)。保持開始部54は、ステップS26の処理を行うと、開始フラグ設定処理を一旦終了する。
また、保持開始部54が、第2検出スイッチ25がオンの状態でないと判断すると(ステップS25:NO)、保持開始部54は、保持開始フラグFを1に保った状態で、開始フラグ設定処理を一旦終了する。
図7に示されるように、保持開始部54は、保持開始フラグFが1であるか否かを判断する(ステップS31)。保持開始部54が、保持開始フラグFが1であると判断すると(ステップS31:YES)、保持開始部54は、ブレーキ16の制動力が目標値よりも大きいか否かを判断する(ステップS32)。この際、保持開始部54は、ステップS12での処理と同様、目標値算出部52の算出した制動力の目標値と、入力部41の取得した最新の制動力とを比べる。
保持開始部54が、制動力が目標値よりも大きいと判断すると(ステップS32:YES)、保持開始部54は、ブレーキ16の保持機構に制動力の保持を開始させるための保持制御信号を生成する(ステップS33)。保持開始部54は、ステップS33の処理を行うと、保持開始処理を一旦終了する。
一方、保持開始部54が、保持開始フラグFが1でないと判断すると(ステップS31:NO)、保持開始部54は、保持開始処理を一旦終了する。
なお、車両の駆動力が所定の値を超えたとき、保持機構による制動力の保持が解除される。
[変速機制御装置21の作用]
図8を参照して変速機制御装置21の作用を説明する。
図8に示されるように、例えば、上り勾配を有する路面に停止した車両を運転者が発進させるとき、運転者はブレーキペダルの踏み込みを開始する(タイミングt1)。この際、シフトレバー14は駐車位置Pに位置しているため、第1検出スイッチ24、および、第2検出スイッチ25の各々はオフの状態であり、シフトロック38は駐車位置Pから後進位置へのシフトレバー14の移動を規制している。
運転者がシフトレバー14の操作を開始し(タイミングt2)、シフトレバー14が第2位置P2に位置すると、第1検出スイッチ24および第2検出スイッチ25の各々が、オフの状態からオンの状態に変わる(タイミングt3)。この際、ブレーキ16の制動力が目標値Tを超えているため、すなわち、シフトロック38の解除条件が成立しているため、シフトロック38によるシフトレバー14の移動の規制が解除される。
運転者がブレーキペダルの踏み込みを保った状態で、シフトレバー14が第3位置P3を超えると、第2検出スイッチ25がオンの状態からオフの状態に変わる一方、第1検出スイッチ24はオンの状態である。(タイミングt4)。これにより、保持開始フラグFが0から1に変わる。しかも、ブレーキ16の制動力は、タイミングt4以前から目標値Tを超えているため、すなわち、制動力の保持開始条件が成立しているため、ブレーキ16による制動力の保持が開始される。
シフトレバー14がシフトロックSL(38)に位置すると、シフトロック38による規制が解除されているため、シフトレバー14はシフトロック38を超えて後進位置に向けて移動する(タイミングt5)。この際、パーキング部12による出力軸の回転の規制が解除されるものの、目標値Tよりも大きい制動力が保たれているため、車両が、路面に沿って停止位置から移動することが抑えられる。
このように、シフトレバー14の位置が、シフトロック38を挟んで駐車位置33側から後進位置34側に向けて変わるときには、制動力が目標値よりも大きくなる。しかも、車両の重量や路面の勾配が変われば制動力の目標値も変わるため、車両が、路面に沿って停止位置から移動することが抑えられる。
加えて、シフトレバー14の位置が、シフトロック38よりも駐車位置33側から後進位置34側に変わる前のタイミングt4にて、保持開始部54が、目標値Tよりも大きい制動力を保持することを判断する。そのため、タイミングt4よりも後に運転者がブレーキペダルの踏み込み量を小さくしても、目標値Tよりも大きい制動力が保たれるため、車両が路面に沿って停止位置から移動することがより抑えられる。
また、タイミングt4からタイミングt5の間に、ブレーキペダルの踏み込み量が、制動力が目標値T以下になる大きさに変わっても、ブレーキ16の制動力はタイミングt4での制動力に保たれる。そのため、シフトロック38がシフトレバー14の移動の規制を解除した状態に保たれる。それゆえに、一旦シフトロック38による規制が解除されると、運転者がブレーキ16の踏み込み量を小さくしても、シフトロック38が解除された状態に保たれやすくなる。
また、シフトロック38の解除条件と制動力の保持開始条件とには、制動力の目標値として、同じ目標値が含まれる。ここで、解除条件に含まれる目標値が保持開始条件に含まれる目標値よりも大きいとき、ブレーキ16の制動力が、保持開始条件の目標値よりも大きく、かつ、解除条件の目標値よりも小さい制動力で保持される場合がある。こうした場合には、制動力が保持されている間はシフトロック38が解除されないため、制動力の保持が一旦解除される必要がある。また、制動力の保持が開始されるときの制動力が、解除条件の目標値よりも大きい値でない限りは、シフトロック38が解除されない。
一方、保持開始条件に含まれる目標値が解除条件に含まれる目標値よりも大きいとき、シフトロック38の規制が解除されても、制動力の保持が開始されない場合がある。こうした場合には、シフトレバー14がシフトロック38を超え、かつ、変速機11の出力軸に動力が伝わる前にブレーキ16の制動力が目標値よりも小さくなると、出力軸に動力が伝わるまでの間に、車両が路面に沿って移動してしまう。
これに対して、本実施形態では、保持開始条件に含まれる目標値と解除条件に含まれる目標値とが等しい。そのため、シフトロック38の規制の解除が制動力の保持によって妨げられず、かつ、シフトレバー14がシフトロック38を超えるときには、制動力が目標値よりも大きい値に保たれる。それゆえに、シフトロック38が解除されにくくなることを抑えながら、車両が路面に沿って移動することが確実に抑えられる。
シフトレバー14の位置が第1位置P1に位置すると、第1検出スイッチ24がオンの状態からオフの状態に変わる(タイミングt6)。この際、シフトロック38は、再びシフトレバー14の移動の規制を開始する。
なお、以上では、車両が上り勾配を有する路面に停止しているときを例に、変速機制御装置21の作用を説明したが、車両が下り勾配を有する路面に停止しているときにも、変速機制御装置21は、上述と同等に作用する。
これに対して、二点鎖線で示されるように、ブレーキ16の制動力が目標値T以下であるとき、シフトロック38によるシフトレバー14の移動の規制が解除されない。そのため、シフトレバー14の移動はシフトロック38よりも後進位置34側には進まず、かつ、パーキング部12が、変速機11の出力軸の回転ができない状態に保つ。そのため、ブレーキ16の制動力が十分でないために、車両が路面における停車位置よりも下方に移動することが抑えられる。
また、一点鎖線で示されるように、保持機構による制動力の保持が行われない場合には、例えば、タイミングt4から運転者がブレーキペダルの踏み込み量を次第に小さくすることによって、ブレーキ16の制動力が、タイミングt5よりも前に目標値を下回ることもある。この場合には、制動力が目標値を下回るために、シフトロック38が再びシフトレバー14の移動を規制する。
以上説明したように、一実施形態の変速機制御装置によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)シフトレバー14の位置が、シフトロック38を挟んで駐車位置33側から後進位置34側に向けて変わるときには、制動力が目標値よりも大きい。しかも、車両の重量や路面の勾配が変われば制動力の目標値も変わるため、シフトレバー14がシフトロック38をこえるとき、車両が路面に沿って停止位置から移動することが抑えられる。
(2)ブレーキ16の制動力が走行している車両の制動や、車両の一時的な停止に用いられているときには、ロック解除部53が規制の解除を判断しない。これにより、シフトロック38による規制が、ほぼ解除を必要とする状況で解除されるため、不要な規制の解除によって、シフトロック38の機構が消耗しにくくなる。
(3)シフトレバー14の位置が、シフトレバー14の案内孔32におけるシフトロック38よりも駐車位置33側から後進位置34側に変わる前に、保持開始部54が、制動力を目標値よりも大きい制動力で保持し始める。そのため、運転者がブレーキペダルの踏み込み量を小さくしても、目標値よりも大きい制動力が保たれるため、車両が路面に沿って停止位置から移動することがより抑えられる。
(4)車両の移動を抑えるために必要な制動力が大きくなるほど、大きい目標値が算出されるため、車両が路面に沿って停止位置から移動することがより抑えられる。
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・目標値算出部52は、重量が大きいほど算出する目標値を大きくし、かつ、勾配が大きいほど算出する目標値を大きくする。これに限らず、重量が大きいほど目標値を大きくし、かつ、勾配が大きくなっても目標値を大きくしない構成でもよい。一方、重量が大きくなっても目標値を大きくせず、かつ、勾配が大きいほど目標値を大きくする構成でもよい。要は、目標値が、勾配と車両の重量とを用いて算出される算出値であって、勾配を有する路面に沿って車両が移動することを抑える制動力であればよい。
・目標値算出部52は、車両の重量が大きいほど算出する目標値を大きくする、すなわち、車両の重量が連続して大きくなれば、連続して大きくなる目標値を算出する。また、目標値算出部52は、勾配が大きいほど目標値を大きくする、すなわち、重量が連続して大きくなれば、連続して大きくなる目標値を算出する。これに限らず、目標値算出部52は、車両の重量を所定の範囲ごとに区分し、勾配が同じ前提では、車両の重量が同じ区分に含まれるとき、同じ目標値を算出する一方、重量が最小値のより大きい区分に含まれるほど、大きい目標値を算出する構成でもよい。また、目標値算出部52は、勾配を所定の範囲ごとに区分し、重量が同じ前提では、勾配が同じ区分に含まれるとき、同じ目標値を算出する一方、勾配が最小値のより大きい区分に含まれるほど、大きい目標値を算出する構成でもよい。要は、目標値が、勾配と車両の重量とを用いて算出される算出値であって、勾配を有する路面に沿って車両が移動することを抑える制動力であればよい。
・保持開始部54の有する保持開始条件は、シフトレバー14の位置が第2位置P2を超えることを含む。これに限らず、保持開始条件は、シフトレバー14がシフトロック38と駐車位置33との間であって、シフトロック38を含まない位置に位置することを含んでもよい。こうした構成であっても、保持開始部54が、シフトレバー14がシフトロック38を超える前に制動力の保持を開始する以上は、上述した(2)に準じた効果を得ることはできる。
・変速機制御装置21は保持開始部54を備えている。これに限らず、変速機制御装置21は保持開始部54を備えていなくともよく、こうした構成であっても、ロック解除部53による解除の判断と、判断結果に基づくシフトロック38の制御とが行われる以上、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
・ロック解除部53の有する解除条件は、第1位置P1と駐車位置33との間であって、駐車位置33を含まない位置にシフトレバー14が位置することを含む。これに限らず、シフトロック38による規制を解除する条件は、シフトレバー14が駐車位置33に位置することを含んでもよい。こうした構成であっても、ロック解除部53が、ブレーキ16の制動力が目標値を超えることを含む以上は、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
・ロック解除部53の解除条件は、シフトレバー14が、第1位置P1と駐車位置33との間であって、駐車位置33を含まない位置に位置することを含む。これに限らず、ロック解除部53は、シフト機構15におけるシフトレバー14の位置に限らず、ブレーキ16の制動力が重量と路面の勾配とを用いて算出される制動力の目標値を超えるとき、シフトロック38によるシフトレバー14の移動を解除してもよい。こうした構成であっても、ブレーキ16の制動力が目標値を超えるとき、シフトロック38の規制を解除する以上は、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
・変速アクチュエーター11aは、電動モーターに限らず、例えば、油圧式のアクチュエーターや、空圧式のアクチュエーターとして具体化されてもよい。
・シフト部13は、ケーブルによってパーキング部12に接続する構成でなくともよい。例えば、変速機制御装置21が、シフトレバー14の位置として駐車位置を入力したとき、変速機制御装置21が、パーキング部12を駆動するための制御信号を生成する構成でもよい。
・変速機制御装置21の入力する路面の勾配は、勾配センサー26によって測定された測定値でなくともよく、例えば、変速機制御装置21以外の他の制御装置に入力された測定値や、他の制御装置が推定した推定値などであってもよい。
・変速機制御装置21の入力する車速は、車速センサー27によって測定された測定値でなくともよく、例えば、変速機制御装置21以外の他の制御装置に入力された測定値や、他の制御装置が推定した推定値などであってもよい。なお、他の制御装置から入力値が入力される場合には、入力値は、通信部44を通じて変速機制御装置21に入力されればよい。
・変速機制御装置21の重量算出部51は、上述した重量の算出方法に限らず、公知の他の重量の算出方法を用いることによって、車両の重量を算出してもよい。
・変速機制御装置21は、車両の重量を算出する重量算出部51を備える。これに限らず、変速機制御装置21は、重量算出部51を備えていない構成でもよく、変速機制御装置21は、例えば、車両に取り付けられた重量センサーが測定した測定値を入力する構成でもよい。この場合には、変速機制御装置21の入力部41が、重量取得部の一例である。
・変速機制御装置21は、解除処理、開始フラグ設定処理、および、保持開始処理をこの順に行う。これに限らず、変速機制御装置21は、開始フラグ設定処理、保持開始処理、および、解除処理の順番で各処理を行ってもよいし、開始フラグ設定処理、解除処理、および、保持開始処理の順番で各処理を行ってもよい。要は、変速機制御装置21は、シフトロック38の規制を解除するための処理と、制動力の保持を開始するための処理とをいずれを先に行ってもよい。
・変速機制御装置21が論理回路や演算回路などのハードウエアによって具体化されるとき、変速機制御装置21は、シフトロック38の規制の解除に関わる処理を行うハードウエアと、制動力の保持の開始に関わる処理を行うハードウエアとの2つのハードウエアによって構成されてもよい。例えば、上述した図5の処理である解除処置を行うハードウエアと、図6の処理である開始フラグ設定処理、および、図7の処理である保持開始処理を行うハードウエアとによって、変速機制御装置21が構成されればよい。こうした構成では、2つのハードウエアの各々が、相互に独立した周期で各処理を行うことができる。
・図5から図7に示される各処理は、変速機制御装置21が行う処理の一例である。要は、変速機制御装置21は、制動力センサー23の測定値、第1検出スイッチ24の検出値、第2検出スイッチ25の検出値、および、目標値を取得し、これらの値を用いて、解除条件の成立時にシフトロック38の規制を解除し、保持開始条件の成立時に制動力の保持を開始すればよい。
そのため、例えば、変速機制御装置21は、以下のように構成することもできる。すなわち、変速機制御装置21は、まず、第1検出スイッチ24の検出値、第2検出スイッチ25の検出値、および、制動力センサー23の測定値を取得する。そして、変速機制御装置21は、取得した制動力と目標値とを比べることによって比較結果を得る。次いで、変速機制御装置21は、第1検出スイッチ24の検出値、および、比較結果を用いて解除条件が成立しているか否かを判断する。また、変速機制御装置21は、第1検出スイッチ24の検出値、第2検出スイッチ25の検出値、および、比較結果を用いて保持開始条件が成立しているか否かを判断する。最後に、変速機制御装置21は、解除条件が成立していればロック制御信号を生成し、保持開始条件が成立していれば保持制御信号を生成する。
・ブレーキ16は油圧式のブレーキに限らず、空圧式のブレーキでもよい。こうした構成であっても、ロック解除部53が、車両の重量と路面の勾配とを用いて算出される制動力の目標値を越えるとき、シフトロック38によるシフトレバー14の移動を解除する構成であればよい。こうした構成によれば、上述した(1)に準じた効果を得ることができる。
・シフト機構15の有する案内孔32は、上述した構成に限らない。案内孔32は、例えば、駐車位置、後進位置、ニュートラル位置、および、前進位置のみを有する構成でもよいし、駐車位置、変速比の相互に異なる複数の後進位置、ニュートラル位置、および、変速比の相互に異なる複数の前進位置を有する構成でもよい。要は、シフト機構15は、変速機11が備える複数のギヤに対応付けられた位置にシフトレバー14が位置することのできる構成であればよい。
・変速システム10は変速機として機械式自動変速機11を備えている。これに限らず、変速機はトルクコンバーターによって動力源に接続された自動変速機として具体化されてもよい。こうした自動変速機を備える変速システムであっても、例えば上り勾配を有する路面では、トルクコンバーターが車両を停止位置から前進させる力が、車両を路面に沿って停止位置から後進させる力よりも小さいとき、車両が路面に沿って停止位置から移動する。そのため、変速機が自動変速機として具体化された構成でも、車両の重量と路面の勾配とを用いて算出される制動力の目標値を越えるとき、シフトロック38によるシフトレバー14の移動を解除する構成であればよい。こうした構成によれば、上述した(1)に準じた効果を得ることができる。