図1は、第1の実施例による液晶表示素子を示す概略的な断面図である。
まず第1の実施例による液晶表示素子の製造方法を説明する。
透明導電膜、たとえばITO膜が形成された透明基板、たとえばガラス基板を2枚(上側透明基板11a、下側透明基板11b)準備し、これらを洗浄した。
上側透明基板11a上のITO膜をフォトリソ工程を用いてパターニングし、上側透明基板11a上に上側ベタ電極12aを形成した。パターニングは、取り出し電極部分(端子部分)と表示の画素に当たる部分にITO膜が残るように行った。ITO膜のエッチングは、第二塩化鉄を用いたウェットエッチングで実施した。なおレーザビームを照射し、照射位置のITO膜を除去することでパターニングを行ってもよい。
下側透明基板11b上のITO膜をフォトリソ工程を用いてパターニングし、下側透明基板11b上に下側ベタ電極12bを形成した。形成方法は、上側透明基板11a上の上側ベタ電極12aの形成方法と同様である。
下側ベタ電極12bの形成後、下側ベタ電極12b上を含む下側透明基板11b上に絶縁膜13を形成した。絶縁膜13は、たとえば下側ベタ電極12bの取り出し電極部分には形成しない。絶縁膜13は、下側ベタ電極12bの取り出し電極部分にレジストを形成し、絶縁膜13成膜後にリフトオフでレジストを除去する方法、メタルマスクで取り出し電極部分を覆った状態でスパッタ等により形成する方法により形成可能である。絶縁膜13は、有機絶縁膜やSiO2、SiNx等の無機絶縁膜とすることができる。それらの組み合わせで形成してもよい。実施例においては、アクリル系有機絶縁膜とSiO2の積層膜を絶縁膜13として用いた。
実施例においては、まず下側ベタ電極12bの取り出し電極部分に耐熱性フィルム(ポリイミドテープ)を貼り、その状態で有機絶縁膜をスピンコートした。2000rpmで30秒間スピンさせる条件で、膜厚1μmの有機絶縁膜を得た。
次に、有機絶縁膜が形成された下側透明基板11bを、クリーンオーブンにて220℃で1時間焼成し、その後耐熱性フィルムを貼ったままで下側透明基板11bを80℃に加熱し、SiO2膜をスパッタ法(交流放電)により厚さ1000Åに成膜した。SiO2膜は、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD(chemical vapor deposition)法等を用いて成膜することもできる。
ここで耐熱性フィルムを剥がすと、耐熱性フィルムの貼付箇所につき、有機絶縁膜及びSiO2膜を除去することができた。続いて、SiO2膜の絶縁性と透明性とを向上させるために、下側透明基板11bをクリーンオーブンにて220℃で1時間焼成した。
SiO2膜の形成は必須ではないが、SiO2膜を成膜することで絶縁膜13の絶縁性を向上させることができる。また、絶縁膜13上に形成する第1、第2櫛歯電極12c、12dの密着性及びパターニング性を向上させることが可能である。
有機絶縁膜を形成せず、絶縁膜13をSiO2膜のみで構成してもよい。SiO2膜は多孔質になりやすいため、この場合には、SiO2膜の厚さを4000Å〜8000Åとすることが望ましい。SiO2膜とSiNx膜との積層膜からなる無機絶縁膜13とすることもできる。
絶縁膜13上にITO膜を形成した。ITO膜は、下側透明基板11bを100℃に加熱し、スパッタ法(交流放電)により基板全面に成膜した。膜厚は約1200Åとした。このITO膜をフォトリソ工程でパターニングし、第1櫛歯電極12c、第2櫛歯電極12d、及び電極12c、12dの取り出し電極を形成した。
図2は、ITO膜のエッチングに使用するフォトマスクを示す概略的な平面図である。フォトマスクは、第1櫛歯電極12c対応部分、第2櫛歯電極12d対応部分、第1櫛歯電極12cの取り出し電極対応部分、及び、第2櫛歯電極12dの取り出し電極対応部分を含む。エッチング時、各対応部分で覆われたITO膜で電極が形成される。なお本願発明者らは、櫛状電極の櫛歯部分の電極幅を20μm、30μm、2つの櫛状電極の櫛歯部分を交互に配置したときの電極間隔を20μm、30μm、50μm、100μm、200μmとする複数の電極パターンで、第1櫛歯電極12c及び第2櫛歯電極12dを作製した。
以上のような工程を経て、上側ベタ電極12aの形成された上側透明基板11a、及び、下側ベタ電極12b及びその上方に絶縁膜13を介して第1、第2櫛歯電極12c、12dが形成された下側透明基板11bを準備した。そしてこの2枚の電極付透明基板11a、11bを洗浄、乾燥した。洗浄は、たとえば水洗、一例として、洗剤を使用したまたは使用しない純水洗浄を実施する。ブラシ洗浄、スプレー洗浄等とすることができる。水切りの後、UV洗浄をし、IR乾燥を行う。
電極付透明基板上11a、11bに、電極12a、12c、12dを覆うように配向膜材料を塗布する。配向膜材料の塗布はスピンコートを用いて行った。フレキソ印刷やインクジェット印刷を用いて行ってもよい。実施例においては、通常は垂直配向膜の形成に使用される、ポリイミド配向膜材料の側鎖密度をコントロールし、配向膜材料として用いた。側鎖密度のコントロールは、適度なプレティルト角の付与を可能とするためである。配向膜材料は、配向膜の厚さが500Å〜800Åとなるように塗布した。
配向膜材料を塗布した基板11a、11bについて、クリーンオーブンで焼成温度を200℃とし1時間の焼成を行った。こうして上側ベタ電極12aを覆う上側配向膜14a、及び第1、第2櫛歯電極12c、12dを覆う下側配向膜14bが形成された。
次に、ラビング処理(配向処理)を行った。ラビング処理は、押し込み量を0.8mm(ストロングラビング条件)として行った。またラビング処理は、液晶表示素子のツイスト角が70°または90°となるように実施した。
こうして上側基板10a、及び下側基板10bが作製された。上側基板10aは、上側透明基板11a、上側透明基板11a上に形成された上側ベタ電極12a、及び上側ベタ電極12aを覆うように形成された上側配向膜14aを備える。下側基板10bは、下側透明基板11b、下側透明基板11b上に形成された下側ベタ電極12b、下側ベタ電極12b上に形成された絶縁膜13、絶縁膜13上に櫛歯部分がインターデジタルに配置された第1、第2櫛歯電極12c、12d、及び第1、第2櫛歯電極12c、12dを覆うように形成された下側配向膜14bを備える。
続いて、液晶セルの厚さを一定に保つため、基板10a、10bの一方の面上にギャップコントロール材をたとえば乾式散布法にて散布した。ギャップコントロール材には粒径4μmのプラスチックボールを使用し、液晶セルの厚さが4μmとなるようにした。
基板10a、10bの他方の面上にはシール材を印刷し、メインシールパターンを形成した。たとえば粒径4μmのグラスファイバーを含んだ熱硬化性のシール材を、スクリーン印刷法で印刷する。ディスペンサを用いてシール材を塗布することもできる。また、熱硬化性ではなく、光硬化性のシール材や、光・熱併用硬化型のシール材を使ってもよい。
基板10a、10bを重ね合わせた。基板10a、10bを所定の位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理を施しシール材を硬化させた。たとえばホットプレス法を用い、シール材の熱硬化を行う。こうして空セルが作製される。
たとえば真空注入法で空セルにネマチック液晶材料、一例として(株)メルク製のZLI−2293を注入した。液晶材料中にはカイラル剤を添加した。カイラル剤には(株)メルク製のCB15を使用した。カイラル剤は、カイラルピッチp、液晶層の厚さ(セル厚)dとしたとき、d/pがたとえば0.5(d=4μm、p=8μm)となるように添加した。
液晶注入口を、たとえば紫外線硬化タイプのエンドシール材で封止し、液晶分子の配向を整えるため、液晶の相転移温度以上にセルを加熱した。
その後、スクライバ装置で透明基板11a、11bにつけた傷に沿ってブレイキングし、個別のセルに小割した。
小割されたセルに対し、面取りと洗浄を実施した。
最後に、2枚の透明基板11a、11bの液晶層15と反対側の面に、偏光板16a、16bを貼付した。2枚の偏光板16a、16bはクロスニコルに、かつ透過軸の方向とラビング方向とが平行となるように配置した。直交するように配置することもできる。電極12a、12b、12c、12d間には電源20を接続した。
こうして第1の実施例による液晶表示素子が作製された。
第1の実施例による液晶表示素子は、相互に平行に対向配置された上側基板10a、下側基板10b、及び両基板10a、10b間に挟持されたツイストネマチック液晶層15を含んで構成される。
上側基板10aは、上側透明基板11a、上側透明基板11a上に形成された上側ベタ電極12a、及び上側ベタ電極12a上に形成された上側配向膜14aを含む。下側基板10bは、下側透明基板11b、下側透明基板11b上に形成された下側ベタ電極12b、下側ベタ電極12b上に形成された絶縁膜13、絶縁膜13上に形成された第1、第2櫛歯電極12c、12d、及び、第1、第2櫛歯電極12c、12dを覆うように絶縁膜13上に形成された下側配向膜14bを含む。
上側、下側透明基板11a、11bは、たとえばガラスで形成される。上側、下側ベタ電極12a、12b、及び第1、第2櫛歯電極12c、12dは、たとえばITO等の透明導電材料で形成される。第1、第2櫛歯電極12c、12dは、それぞれ複数の櫛歯部分を備える櫛状電極である。第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分は、図1の左右方向に沿って互い違いに配置されている。
液晶層15は、上側基板10aの上側配向膜14aと、下側基板10bの下側配向膜14bとの間に配置される。
上側及び下側配向膜14a、14bには、ラビングにより配向処理が施されている。上側配向膜14aと下側配向膜14bの配向処理方向は、上側及び下側基板10a、10bの法線方向から見たとき、たとえば70°または90°の角度をなしている。上側配向膜14aのラビング方向を第1の方向、下側配向膜14bのラビング方向を第2の方向とすると、第2の方向は上側基板10aの法線方向から見て、第1の方向を基準に、右回り方向に70°または90°をなす方向である。上側及び下側基板10a、10bの配向処理方向とプレティルト角の組み合わせで規定される液晶層15の液晶分子の配列状態は、第1旋回方向に捩れるリバースツイスト配列状態である。
液晶層15を形成する液晶材料にはカイラル剤が添加されている。カイラル剤の影響力のもとで生じる液晶分子の配列状態は、第1旋回方向とは逆の第2旋回方向に捩れるスプレイツイスト配列である。
電源20が、上側、下側ベタ電極12a、12b、及び第1、第2櫛歯電極12c、12dに、電気的に接続されている。電源20によって、電極12a〜12dに電圧を印加する(電位差を与える)ことが可能である。
図3A〜図3Eは、電圧印加時の電界方向を示す概略的な断面図である。
図3Aを参照する。たとえば上側、下側ベタ電極12a、12b間に交流電圧を印加することにより、液晶層15(画素領域)全体(上側、下側ベタ電極12a、12b間に配置される液晶層15)に縦電界(液晶層15の厚さ方向の電界)を付加することができる。
図3Bを参照する。たとえば下側ベタ電極12b及び第1、第2櫛歯電極12c、12d間(下側ベタ電極12bと第1櫛歯電極12c間、及び、下側ベタ電極12bと第2櫛歯電極12d間)に交流電圧を印加することで、液晶層15(画素領域)全体(下側ベタ電極12b上方の液晶層15。第1、第2櫛歯電極12c、12d上方、及び、第1、第2櫛歯電極12c、12d間の領域上方の液晶層15)に横電界(液晶層15の厚さ方向と直交する方向の電界、基板10a、10b面内方向の電界)を発生させることができる。なお、電極12bと電極12c、12dとの間に電圧を印加することにより、液晶層15に横電界を生じさせて、液晶表示素子を駆動する駆動モードをFFSモード(fringe field switching mode)と呼ぶ。図3Bに示す態様のFFSモードで液晶層15に発生する横電界は、図1における左右方向に沿う電界である。
図3Cを参照する。上側ベタ電極12aと、第1、第2櫛歯電極12c、12dとの間に交流電圧を印加することにより、液晶層15(画素領域)の一部、たとえば第1、第2櫛歯電極12c、12d上方の液晶層15に縦電界を付加することができる。
図3Dを参照する。第1櫛歯電極12cと第2櫛歯電極12dとの間に交流電圧を印加することにより、液晶層15(画素領域)の一部、たとえば第1櫛歯電極12cと第2櫛歯電極12dとの間の液晶層15に横電界を付加することができる。なお、第1、第2櫛歯電極12c、12d間への電圧の印加により液晶層(画素領域)の一部に横電界を生じさせて、液晶表示素子を駆動する駆動モードをIPSモード(in-plane switching mode)と呼ぶ。
図3Eを参照する。下側ベタ電極12bと第1櫛歯電極12cとの間に交流電圧を印加することにより、液晶層15(画素領域)の一部、たとえば第1櫛歯電極12cの櫛歯部分及びその近傍上方の液晶層15に横電界を付加することができる。なお同様に、下側ベタ電極12bと第2櫛歯電極12dとの間に交流電圧を印加することにより、第2櫛歯電極12dの櫛歯部分及びその近傍上方の液晶層15に横電界を付加することも可能である。
図4A〜図4Cは、第1の実施例による液晶表示素子の外観写真である。なお、図4A〜図4Cに示すのは、第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分の電極幅を20μm、両櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分を交互に配置したときの電極間隔を20μmとして作製した液晶表示素子の、櫛歯電極12c、12d形成領域の外観写真である。
図4Aに、第1の実施例による液晶表示素子が完成した状態(初期状態)の外観写真を示す。初期状態においては、液晶分子はスプレイツイスト配列状態となる。明るい白表示が得られている。
この状態において、図3Aに示すように、上側ベタ電極12aと下側ベタ電極12bとの間に閾値電圧以上の交流電圧を印加した。両電極12a、12b間への電圧の印加により、液晶層15(画素領域)全体に縦電界が生じる。
図4Bは、電極12a、12b間に電圧を印加した後の外観写真である。正面観察においても、明瞭な黒表示が得られている。全体がスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移したことがわかる。逆にこのことから両電極12a、12b間への電圧の印加で、液晶層15(画素領域)全体に縦電界が発生することが確認される。
図5A〜図5Cは、第1の実施例による液晶表示素子の光学特性を示すグラフである。図5A〜図5Cには、上側基板10a、下側基板10bのラビング処理方向間の角度を70°として作製した液晶表示素子についての光学特性を示した。
図5Aを参照する。図5Aは、コントラスト比(スプレイツイスト配列状態での透過率/リバースツイスト配列状態での透過率)の方位及び極角依存性を示す。図中のRUは上側基板10aに対して行われたラビング処理の方向を示し、RLは下側基板10bに対するそれを示す。Aの矢印方向と平行な方向で上側偏光板16aの透過軸方向を表し、Pの矢印方向と平行な方向で下側偏光板16bの透過軸方向を表す。また、太い矢印方向と平行な方向(90°−270°方位)は、液晶層15の液晶分子の配列状態がリバースツイスト配列状態であるときの、液晶層15の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方向を示す。ここで0°−180°方位は、図1における左右方向に相当する。すなわち、液晶層15の液晶分子の配列状態がリバースツイスト配列状態であるときの、液晶層15の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方向と、図3Bに示す態様のFFSモードで発生する横電界の方向とは、相互に直交する方向である。なおこの点は、上側基板10a、下側基板10bのラビング処理方向間の角度を90°として作製した液晶表示素子についても同様である。
図5Bに、90°−270°方位に関する透過率の極角依存性を示す。基板10a、10bの法線方向(液晶表示素子の正面観察方向)の極角を0°とし、270°方位に傾く傾き角を正の極角で表し、90°方位に傾く傾き角を負の極角で表した。図5Bのグラフの横軸は極角を単位「°」で示し、縦軸は透過率を単位「%」で示す。黒菱形を結んだ曲線(「S−t」と表記)は、液晶分子がスプレイツイスト配列状態であるときの透過率の極角依存性を示し、黒四角を結んだ曲線(「U−t」と表記)は、液晶分子がリバースツイスト配列状態であるときのそれを示す。
スプレイツイスト配列状態であるときの正面観察時透過率は約12.6%であり、リバースツイスト配列状態であるときのそれは約0.02%である。
図5Cに、90°−270°方位に関するコントラスト比の極角依存性を示す。図5Cのグラフの横軸は、図5Bのそれと等しい。縦軸はコントラスト比を示す。第1の実施例による液晶表示素子においては、正面観察時にコントラスト比が最大(最大値566)となる。
なお、上側、下側基板10a、10bのラビング処理方向間の角度を90°として作製した液晶表示素子についても同様の結果が得られた。このように第1の実施例による液晶表示素子は、たとえば明るい白表示、明瞭な黒表示で表示を行うことのできる、光学特性のすぐれた液晶表示素子である。
図4Cを参照する。本願発明者らは、次に、図3Bに示すように、下側ベタ電極12bと第1、第2櫛歯電極12c、12dとの間に閾値電圧以上の交流電圧を印加し、液晶層15(画素領域)全体に横電界(第1、第2櫛歯電極12c、12dが互い違いに配置される方向、図1及び図3Bにおいては左右方向に沿う電界)を発生させた。
図4Cは、図4Bに示す状態の液晶表示素子に、図3Bに示す態様の横電界を付加した後の外観写真である。全面が初期状態と同様の白表示状態を示すスプレイツイスト配列状態に再遷移していることがわかる。
液晶層15の厚さ方向の中央に位置する液晶分子が、縦電界の付加により、横方向(水平方向)から縦方向(垂直方向)に傾くことで、スプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態へのスイッチングが行われるものと考えられる。また、液晶層15の厚さ方向の中央に位置する液晶分子が、横電界の付加により、縦方向から横方向(液晶層15の厚さ方向の中央に位置する液晶分子のスプレイツイスト配列状態におけるダイレクタ方向)に傾くことで、リバースツイスト配列状態からスプレイツイスト配列状態へのスイッチングが行われるものと考えられる。
なお、リバースツイスト配列状態の液晶層15に縦電界を付加した場合は、リバースツイスト配列状態が維持され、スプレイツイスト配列状態の液晶層15に横電界を付加した場合は、スプレイツイスト配列状態が維持される。
続いて図3Cに示すように、上側ベタ電極12aと、第1、第2櫛歯電極12c、12dとの間に、閾値電圧以上の交流電圧を印加した。電極12aと電極12c、12dとの間への電圧の印加により、液晶層15の一部(第1、第2櫛歯電極12c、12d上方の液晶層15)に効果的に縦電界が生じる。このため、第1、第2櫛歯電極12c、12d上方の液晶分子が、スプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移する。両櫛歯電極12c、12d間の領域上方については、スプレイツイスト配列状態が維持される。
図6A〜図6Cは、液晶層の一部に縦電界を付加した液晶表示素子の写真である。図6Aが全体写真、図6Bが拡大写真、図6Cが顕微鏡写真を示す。なお、図6A〜図6Cに示すのは、第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分の電極幅を20μm、両櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分を交互に配置したときの電極間隔を20μmとして作製した液晶表示素子の写真である。たとえば「S」、「T」、「A」、「N」、「L」、「E」、「Y」、「L」、「C」、「D」、「s」の各文字は、20μm/20μmのライン(第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分の電極幅)/スペース(互い違いに配置された第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分間の距離)でパターニングされている部分(第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分の配置領域)で表示される。
図6A及び図6Bを参照すると、「S」、「T」、「A」、「N」、「L」、「E」、「Y」、「L」、「C」、「D」、「s」の各文字が、白(スプレイツイスト配列状態による表示)と黒(リバースツイスト配列状態による表示)の中間的な色調(明るさ)、すなわちグレイで表示されているのがわかる。
図6Cはグレイ表示(中間調表示)されている部分を含む領域の顕微鏡写真である。グレイ表示部分には、微視的には、黒表示部分(リバースツイスト配列状態部分)と白表示部分(スプレイツイスト配列状態部分)とがストライプ状に配置している。電極12aと電極12c、12dとの間に電圧を印加することで、黒表示(リバースツイスト配列状態)に遷移したのは、平面視上、第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分配置領域もしくは櫛歯部分の幅より少し広い領域であった。その他の領域は、白表示(スプレイツイスト配列状態)が維持された。顕微鏡観察によれば、黒表示部分と白表示部分とがストライプ状に配置しているが、目視では黒と白のストライプは観察されず、自然なグレイ表示となる。これは黒表示部分と白表示部分のストライプ状分布が、人間の目の分解能以上の精細度を有しているためと考えられる。
なお、図6A〜図6Cの写真に示した例においては、ライン/スペースが20μm/20μmであったが、50μm〜100μm/50μm〜100μm程度以下であれば、目視では自然なグレイ表示が観察される。
本願発明者らは、リバースツイスト配列状態による黒表示、スプレイツイスト配列状態による白表示、及び、グレイ表示(リバースツイスト配列状態となる領域とスプレイツイスト配列状態となる領域とを1画素中に共存、混在させることによる表示)が、別途電圧を印加しない限り、そのままの状態で保持(メモリ)されていたことを確認した。
第1の実施例による液晶表示素子は、液晶分子の配列状態がリバースツイスト配列状態及びスプレイツイスト配列状態の双方で安定な、配列状態の双安定性を有する液晶表示素子であり、また、中間調表示により多様な表示が可能な液晶表示素子である。
本願発明者らは、ライン/スペースが20μm/20μm、セル厚4μmの実施例に対し、ライン/スペースが20μm/20μm、セル厚10μmの参考例による液晶表示素子を作製し、同様の実験を行った。参考例による液晶表示素子の上側ベタ電極と、第1、第2櫛歯電極との間に電圧を印加したところ、第1の実施例とは異なり、グレイ表示を得ることはできなかった。顕微鏡で観察したところ、第1、第2櫛歯電極上方の液晶分子のみならず、両櫛歯電極間の領域上方の液晶分子もリバースツイスト配列状態に遷移していることが確認された。
参考例に対する実験から、ライン/スペースのサイズとセル厚がある条件をみたすときにグレイ表示(中間調表示)が実現されると考えられる。本願発明者らは、鋭意研究の結果、中間調表示の実現条件が、基本的にラインサイズ(第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分の電極幅)には依存せず、スペースサイズ(互い違いに配置された第1、第2櫛歯電極の櫛歯部分間の距離)とセル厚との関係が、中間調表示の実現に重要であることを見出した。セル厚dが10μm未満の場合には中間調表示が得られたことから、櫛歯状電極のスペースサイズsが、下式(1)
s>2×d ・・(1)
を満たすときに、中間調表示が可能であるといえるであろう。
第1の実施例においては、上側ベタ電極12aと第1、第2櫛歯電極12c、12dとの間に電圧を印加して、第1、第2櫛歯電極12c、12d上方の液晶層15に縦電界を付加し、その位置の液晶分子をリバースツイスト配列状態に遷移させたが、上側ベタ電極12aと第1櫛歯電極12cとの間のみ、もしくは上側ベタ電極12aと第2櫛歯電極12dとの間のみに閾値電圧以上の交流電圧を印加しても中間調表示を実現することができる。
上側ベタ電極12aと第1櫛歯電極12cとの間に電圧を印加した場合、第1櫛歯電極12c上方の液晶層15に縦電界が付加され、その位置の液晶分子がスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移する。上側ベタ電極12aと第2櫛歯電極12dとの間に電圧を印加した場合、第2櫛歯電極12d上方の液晶層15に縦電界が付加されて、その位置の液晶分子がスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移する。
また実施例においては、ライン/スペースが20μm/20μm(ライン:スペース=1:1)であるため、たとえば白表示(画素領域のすべての液晶分子がスプレイツイスト配列状態)時の透過率を100%、黒表示(画素領域のすべての液晶分子がリバースツイスト配列状態)時の透過率を0%としたとき、透過率が約50%となるグレイ表示が得られるが、ライン/スペースの比率を調整することにより、中間調表示の色調(明るさ)レベルを変更することも可能である。ライン及びスペースのサイズは、式(1)の条件の下で、任意に選択することができる。
図7に、第1、第2櫛歯電極12c、12dの形成態様の他の例(変形例)を示す。本図には、第1櫛歯電極12cのラインサイズ(櫛歯部分の電極幅)を20μm、第2櫛歯電極12dのそれを40μm、両電極12c、12dのスペースサイズを10μmとして形成した第1、第2櫛歯電極12c、12dを示した。すなわち、電極12cのラインサイズ:電極12dのラインサイズ:スペースサイズ=2:4:1である。
このように第1、第2櫛歯電極12c、12dを形成した場合、上側ベタ電極12aと第1櫛歯電極12cとの間に閾値電圧以上の電圧を印加すると、第1櫛歯電極12c上方の液晶層15に縦電界が発生し、その位置の液晶分子がスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移する。このため、この電圧印加態様においては、透過率が約25%の中間調表示が実現される。
また、上側ベタ電極12aと第2櫛歯電極12dとの間に閾値電圧以上の電圧を印加すると、第2櫛歯電極12d上方の液晶層15に縦電界が発生し、その位置の液晶分子がスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移するため、透過率が約50%の中間調表示が実現される。
更に、上側ベタ電極12aと第1、第2櫛歯電極12c、12dとの間に閾値電圧以上の電圧を印加すると、第1及び第2櫛歯電極12c、12d上方の液晶層15に縦電界が発生し、その位置の液晶分子がスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移し、透過率が約75%の中間調表示が実現される。
これらの中間調表示と、と液晶層15(画素領域)全体の液晶分子がスプレイツイスト配列状態であるときの白表示、及び、液晶層15(画素領域)全体の液晶分子がリバースツイスト配列状態であるときの黒表示を加え、変形例による液晶表示素子においては、透過率が均等な比率で(比例的に)変化する、5階調の表示を実現することができる。
変形例による液晶表示素子は、第1及び第2櫛歯電極12c、12dのラインサイズが相互に異なる点に特徴を有する。更に、均等な比率で透過率が変更可能なように、各電極12c、12dのラインサイズとスペースサイズを工夫している点に特徴を有する。変形例による液晶表示素子によれば、第1の実施例による液晶表示素子に比して、一層多様な表示を行うことができる。
ここまでの説明においては、スプレイツイスト配列状態である液晶層15(画素領域)の一部に縦電界を発生させ中間調表示を行ったが、たとえば第1の実施例及び変形例による液晶表示素子に対し、図3Dを参照して説明したIPSモードで液晶層15(画素領域)の一部に横電界を生じさせて、中間調表示を行うことも可能である。たとえば液晶層15(画素領域)全体の液晶分子がリバースツイスト配列状態である場合に、第1櫛歯電極12cと第2櫛歯電極12dとの間に交流電圧を印加すると、両電極12c、12dの櫛歯部分間の領域及びその上方に横電界が発生し、その位置の液晶層15の液晶分子がスプレイツイスト配列状態に遷移して中間調表示が行われる。
たとえば液晶層15の液晶分子がリバースツイスト配列状態である第1の実施例による液晶表示素子にIPSモードで横電界を付加(第1、第2櫛歯電極12c、12d間に交流電圧を印加)したときに得られる中間調表示の色調(明るさ)は、スプレイツイスト配列状態である液晶層15(画素領域)の一部に縦電界を付加(上側ベタ電極12aと、第1、第2櫛歯電極12c、12dとの間に交流電圧を印加)して行った中間調表示のそれとほぼ等しく、黒表示時の透過率を0%とし、白表示時の透過率を100%としたときの透過率が約50%となる。
また、図3Eを参照して説明した態様の電界を付加してリバースツイスト配列状態の液晶層15(画素領域)の一部をスプレイツイスト配列状態に遷移させて、中間調表示を行うことも可能である。図3Eに示す態様の場合、第1櫛歯電極12cの櫛歯部分形成領域及びその近傍上方の液晶層15の液晶分子をスプレイツイスト配列状態に遷移させ、中間調表示を実現する。
液晶層15(画素領域)の一部に横電界を発生させ、その領域の液晶分子をリバースツイスト配列状態からスプレイツイスト配列状態に遷移させる方法によれば、前記式(1)の関係が満たされていない場合であっても、中間調表示を得ることが可能である。このため、液晶層15(画素領域)の一部に横電界を発生させ、その領域の液晶分子をリバースツイスト配列状態からスプレイツイスト配列状態に遷移させる駆動方法は、液晶層15(画素領域)の一部に縦電界を発生させ、その領域の液晶分子をスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移させる駆動方法よりも、汎用性の高い駆動方法(表示切り替え方法)であるともいえる。ただし縦電界を利用する前記変形例の場合は5階調表示を行うことができるが、横電界を利用する場合は、たとえば3階調表示までしか行うことができない。
前述のように、実施例による液晶表示素子は、液晶分子の配列状態がリバースツイスト配列状態及びスプレイツイスト配列状態の双方で安定な、メモリ性を有する液晶表示素子である。双安定性を利用してディスプレイに応用することができ、その場合、メモリ性を利用した駆動が可能である。たとえばドットマトリクス表示を行う場合、ラインごとに表示の書き換えを行えばよく、白表示したい画素には横電界を付加し、黒表示したい画素には縦電界を付加する。また中間調表示を行いたい画素には、液晶層(画素領域)の一部に縦電界または横電界を付加する。様々な駆動方法が考えられる。以下、第2の実施例として、XY電極を使用したマトリクス表示を行う液晶表示装置について説明する。
図8Aは、第2の実施例による液晶表示装置を示す模式図であり、図8Bは、画素部34の電極構造を示す概略的な平面図である。
第2の実施例による液晶表示装置は、複数の画素部34をマトリクス状に配列して構成される単純マトリクス型の液晶表示装置であり、各画素部34として、第1の実施例による液晶表示素子と同様の画素構成が用いられている。具体的には、第2の実施例による液晶表示装置は、X方向に延びるm本の制御線B1〜Bmと、これらの制御線B1〜Bmに対して制御信号を与えるドライバー31と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線A1〜Anと、これらの制御線A1〜Anに対して制御信号を与えるドライバー32と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線C1〜Cn及びD1〜Dnと、これらの制御線C1〜Cn及びD1〜Dnに対して制御信号を与えるドライバー33と、制御線B1〜Bmと制御線A1〜Anとの各交点領域に画定された画素部34とを含んで構成される。
各制御線B1〜Bm、A1〜An、C1〜Cn及びD1〜Dnは、たとえばストライプ状に形成されたITO等の透明導電膜からなる。制御線B1〜BmとA1〜Anとが交差する部分が上側ベタ電極12a及び下側ベタ電極12bとして機能する(図8B参照)。また、制御線C1〜Cnについては、各画素部34に相当する領域に設けられた、第1櫛歯電極12cの櫛歯部分と接続されている。同様に、制御線D1〜Dnについては、各画素部34に相当する領域に設けられた、第2櫛歯電極12dの櫛歯部分と接続されている。
第2の実施例による液晶表示装置の駆動方法の一例として、制御線B1、B2、B3、・・とライン毎に表示書き換えを行う方法(線順次駆動法)について説明する。この場合、たとえば相対的に明るい表示(白表示に近くなる表示)としたい画素部34には横電界を印加し、相対的に暗い表示(黒表示に近くなる表示)としたい画素部34には縦電界を印加する。
一例として、黒表示または白表示を行う場合は、制御線B1には配向状態の遷移が生じない程度の矩形波電圧(たとえば1.5V程度で150Hz)を印加し、制御線A1〜An、C1〜Cn及びD1〜Dnにはそれと同期し、もしくは半周期ずれた閾値電圧程度の矩形波電圧(たとえば1.5V程度で150Hz)を印加する。
詳細には、制御線A1〜Anのうち、黒表示としたい画素部34に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線C1〜Cn及びD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、画素部34には実効的に3.0V程度の電圧が印加され、縦電界が付加される。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層15に配向状態の遷移(リバースツイスト配列状態への遷移)を生じさせ、当該画素部34の光透過率を変化させることができる。
一方、制御線A1〜Anのうち、表示を変化させる必要がない画素部34に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線C1〜Cn及びD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、当該画素部34では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層15には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
また、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、白表示としたい画素部34に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、画素部34には実効的に3.0V程度の電圧が印加され、横電界が付加される。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層15に配向状態の遷移(スプレイツイスト配列状態への遷移)を生じさせ、当該画素部34の光透過率を変化させることができる。
一方、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、表示を変化させる必要がない画素部34に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、当該画素部34では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって液晶層15には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
更に、グレイ表示(中間調表示)を行う場合は、一例として、黒表示を行っている(リバースツイスト配列状態である)画素部34に対して、制御線B1には配向状態の遷移が生じない程度の矩形波電圧(たとえば1.5V程度で150Hz)を印加し、制御線C1〜Cnにはそれと同期し、もしくは半周期ずれた閾値電圧程度の矩形波電圧(たとえば1.5V程度で150Hz)を印加する。
詳細には、制御線C1〜Cnのうち、グレイ表示としたい画素部34に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線A1〜An及びD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、画素部34のうち、第1櫛歯電極12cの櫛歯部分及びその近傍上方の液晶分子には実効的に3.0V程度の電圧が印加され、横電界が付加される。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、当該領域の液晶分子に配列状態の遷移(スプレイツイスト配列状態への遷移)を生じさせ、当該領域(画素部34の約半分の領域)の光透過率を変化させることができる。
一方、制御線C1〜Cnのうち、表示を変化させる必要がない画素部34に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線A1〜An及びD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、当該画素部34では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって液晶層15には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
なお、制御線B1と制御線C1〜Cnに同期し、もしくは半周期ずれた電圧を印加する例を示したが、制御線B1と制御線D1〜Dnに同期し、もしくは半周期ずれた電圧を印加してもよい。
以上のような駆動を制御線B2、B3、・・と順次実行していくことによりドットマトリクス表示が可能となる。このような駆動により書き換えられた表示状態は半永久的に保持することが可能である。この表示を書き換えるには再び制御線B1から上記の制御を実行すればよい。
なお、C1〜CnもしくはD1〜Dnの電極幅や、印加する電圧の周期を変えることにより、更に細かな中間調表示も可能である。
また、ここでは櫛歯電極の電極幅が均一である場合について述べたが、場所により電極幅が異なっていてもよい。電極幅が均一である場合、得られる中間調表示の濃淡のパターンによりモアレ模様が見えることがあるが、それを低減させることが可能である。
なお、ここではいわゆる単純マトリクス型の液晶表示装置の例を示したが、TFT等を用いたアクティブマトリクス型の液晶表示装置とすることも可能である。アクティブマトリクス型の液晶表示装置の場合には制御線B1等のライン毎に書き換える必要がなくなるので、書き換え時間を短縮できる。また、閾値に対してたとえば2倍以上の電圧の印加も可能になるため、更に高速に書き換えが可能となる。
以下、第3、第4の実施例としてTFTを用いた液晶表示素子について説明する。
図9A及び図9Bは、それぞれ第3の実施例による液晶表示素子を示す概略的な断面図及び平面図である。図9Aは、図9Bの9A−9A線に沿う断面図である。図9Bは、およそ1画素を示し、X方向、Y方向に沿って同様の画素が多数形成されている。
第3の実施例による液晶表示素子は、相互に平行に対向配置された上側基板10a、下側基板10b、及び両基板10a、10b間に挟持されたツイストネマチック液晶層15を含んで構成される。
上側基板10aは、上側透明基板11a、上側透明基板11a上に形成された共通電極(上側ベタ電極)12a、及び共通電極12a上に形成された上側配向膜14aを含む。下側基板10bは、下側透明基板11b、下側透明基板11b上に形成された下側ベタ電極12b、コモン線22、走査線23、それらを覆うように下側透明基板11b上に形成された絶縁膜13、絶縁膜13上に形成されたスリット電極(画素電極)21、半導体膜24、ソース電極25、ドレイン電極26、及び、それらを覆うように絶縁膜13上に形成された下側配向膜14bを含む。
上側、下側透明基板11a、11bは、相互に対向配置されるたとえば透明ガラス基板である。透明なプラスチック基板であってもよい。上側、下側配向膜14a、14b間には、たとえば多数のスペーサー(粒状体)が分散して配置されており(図示せず)、それらのスペーサーによって両基板11a、11b間の相互間隔が保たれる。
下側ベタ電極12bは、下側透明基板11bの一面側に設けられている。下側ベタ電極12bは、図9Bに示すようにたとえば略矩形状に形成されており、かつ、一部がコモン線22と電気的に接続されている。下側ベタ電極12bは、ITOなどの透明導電膜をパターニングすることによって得られる。
コモン線22は、下側透明基板11bの一面側に設けられており、一方向(図9BのY方向)に延在する。コモン線22は下側ベタ電極12bと接続されており、コモン線22を介して、図示しない電圧供給手段から下側ベタ電極12bに対して所定の電位が与えられる。コモン線22は、たとえばアルミニウムとモリブデンの積層膜などの金属膜で形成される。
走査線23は、下側透明基板11bの一面側に設けられており、一方向(図9BのY方向)に延在する。図9Bに示すように、本例の走査線23は、コモン線22との間に下側ベタ電極12bを挟んで配置されている。走査線23は、たとえばアルミニウムとモリブデンの積層膜などの金属膜で形成される。
絶縁膜13は、下側透明基板11bの一面側に、下側ベタ電極12b、コモン線22、及び走査線23を覆って設けられている。絶縁膜13としては、たとえば窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、あるいはこれらの積層膜が用いられる。
半導体膜24は、絶縁膜13上であって、走査線23と重畳する所定位置に設けられている。半導体膜24は、図9Bに示すように、島状にパターニングされている。半導体膜24としては、たとえばアモルファスシリコン膜を用いることができる。走査線23の半導体膜24と重なる部分は、TFTのゲート電極として機能する。また、絶縁膜13の半導体膜24と重なる部分は、TFTのゲート絶縁膜として機能する。
ソース電極25は、絶縁膜13上の所定位置に設けられており、一部が半導体膜24と接続されている。本例のソース電極25は、図9Bに示すように、信号線27と一体に形成されている。ソース電極25及び信号線27は、たとえばアルミニウムとモリブデンの積層膜などの金属膜で形成される。
ドレイン電極26は、絶縁膜13上の所定位置に設けられており、一部が半導体膜24と接続されている。ドレイン電極26は、たとえばアルミニウムとモリブデンの積層膜などの金属膜で形成される。
スリット電極21は、絶縁膜13上であって、少なくとも一部が下側ベタ電極12bと重畳する所定位置に設けられている。スリット電極21は、図9Bに示すように、たとえば複数の矩形状スリット(開口部)21aを有する。スリット電極21は、ITOなどの透明導電膜をパターニングすることによって得られる。第3の実施例においては、スリット電極21のサイズを、各スリット21aの間に存在する直線部の幅(電極幅、図9BのX方向における長さ)が20μm、各スリット21aの幅(図9BのX方向における長さ)が20μmとなるように設定した。なお、サイズはこれに制限されない。たとえばスリット21aの幅をsとしたとき、前述の式(1)をみたすように設定することが可能である。スリット電極21は、ドレイン電極26と接続されている。スリット電極21と下側ベタ電極12bとの間に電圧を印加することにより、液晶層15に横電界を与えることができる。
下側配向膜14bは、下側透明基板11bの一面側であって、絶縁膜13上に、半導体膜24、ソース電極25、ドレイン電極26、及びスリット電極21を覆って設けられている。
同様に、上側配向膜14aは、上側透明基板11aの一面側に共通電極12aを覆って設けられている。上側及び下側配向膜14a、14bのそれぞれに対しては、たとえばラビングにより一軸配向処理が施されている。配向膜14a、14bとしては、比較的高いプレティルト角(20°以上、好ましくは35°±10°程度)を発現させるものが用いられる。上側配向膜14aの配向処理の方向RUと下側配向膜14bの配向処理の方向RLは、液晶層15の液晶分子の配列状態がリバースツイスト配列状態であるときの、液晶層15の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方向Dが、下側ベタ電極12bとスリット電極21との間に電圧を印加したとき発生する横電界方向E(スリット21aの配列方向と平行な方向)と略直交するように設定されている(図9B参照)。
共通電極12aは、上側透明基板11aの一面側に設けられている。共通電極12aは、少なくとも一部が、下側ベタ電極12b及びスリット電極21と重畳するように形成されている。共通電極12aは、ITOなどの透明導電膜をパターニングすることによって得られる。共通電極12aと下側ベタ電極12bとの間に電圧を印加することにより、液晶層15(画素領域)に対して縦電界を与えることができる。また、共通電極12aとスリット電極21との間に電圧を印加することにより、液晶層15(画素領域)の一部(スリット21a上方を除く、スリット電極21上方の液晶層15)に縦電界を付加することができる。
液晶層15は、上側基板10aと下側基板10bの間に配置され、たとえば誘電率異方性Δεが正のネマチック液晶材料を用いて構成されている。図9Aの液晶層15に図示した太線は、液晶層15内の液晶分子を模式的に示したものである。電圧無印加時における液晶分子は、上側基板10a、下側基板10bの各基板面に対して所定のプレティルト角を有して配向する。また、上側配向膜14aと下側配向膜14bの各々の配向処理の方向RU、RL(図9B参照)のなす角度が、たとえば90°前後に設定されることにより、電圧無印加時における液晶層15の液晶分子は上側基板10aと下側基板10bとの間で方位角方向にねじれて配向する。また液晶層15には、カイラル剤が添加されている。
信号線27は、絶縁膜13の一面側に設けられており、コモン線22及び走査線23の延在する方向と略直交する一方向(図9BのX方向)に延在する。
上側偏光板16aは、上側基板10aの外側に配置されている。また、下側偏光板16bは、下側基板10bの外側に配置されている。第3の実施例による液晶表示素子の表示は、上側偏光板16a側から利用者に視認される。上側及び下側偏光板16a、16bは、たとえばクロスニコルに配置される。
第3の実施例による液晶表示素子も、リバースツイステッドネマチック型液晶表示素子である。第3の実施例においても、上側及び下側基板10a、10bの配向処理方向とプレティルト角の組み合わせで規定される液晶層15の液晶分子の配列状態は、第1旋回方向に捩れるリバースツイスト配列である。カイラル剤の影響力のもとで生じる液晶分子の配列状態は、第1旋回方向とは逆の第2旋回方向に捩れるスプレイツイスト配列である。液晶層15に縦電界を付加することで、付加された領域の液晶層15の液晶分子をスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移させることができる。また、液晶層15に横電界を付加することで、付加された領域の液晶層15の液晶分子をリバースツイスト配列状態からスプレイツイスト配列状態に遷移させることができる。
図10A〜図10G、及び、図11A〜図11Dは、第3の実施例による液晶表示素子の製造方法を示す概略的な断面図である。
上側透明基板11a、下側透明基板11bとして用いるガラス基板を準備する。たとえば厚さが0.7mmの無アルカリガラスからなるガラス基板を使用することができる。
図10Aを参照する。下側透明基板11b用のガラス基板の一面上にコモン線22及び走査線23を形成する。たとえばスパッタ法などの成膜法により、下側透明基板11b上にアルミニウム膜を形成し、更にその上にモリブデン膜を形成する。その後、アルミニウム膜及びモリブデン膜の積層膜を、ドライエッチング法などによってパターニングする。
図10Bを参照する。下側透明基板11bの一面側の所定位置に下側ベタ電極12bを形成する。具体的には、スパッタ法などの成膜法により、下側透明基板11b上にITO膜を成膜し、このITO膜をウェットエッチング法などによってパターニングする。
図10Cを参照する。下側透明基板11bの一面側に、下側ベタ電極12b、コモン線22、及び走査線23を覆うようにして絶縁膜13を形成する。たとえばスパッタ法やプラズマCVD法などの成膜法によって、窒化シリコン膜を形成する。
図10Dを参照する。絶縁膜13上の所定位置に半導体膜24を形成する。プラズマCVD法などの成膜法によって、アモルファスシリコン膜を絶縁膜13上に形成し、このアモルファスシリコン膜をドライエッチング法などによって島状にパターニングする。
図10Eを参照する。絶縁膜13上の所定位置にソース電極25、ドレイン電極26、及び信号線27を形成する。たとえば、スパッタ法などの成膜法により、絶縁膜13上及び半導体膜24上に、モリブデン膜/アルミニウム膜/モリブデン膜の積層膜を形成し、この積層膜をドライエッチング法などによってパターニングする。
図10Fを参照する。絶縁膜13上の所定位置に、スリット電極21を形成する。スパッタ法などの成膜法により絶縁膜13上にITO膜を形成し、このITO膜をウェットエッチング法などによってパターニングする。なお、更に絶縁膜13上にパシベーション膜を設けてもよい。
図10Gを参照する。一方、上側透明基板11a用ガラス基板上に、共通電極12aを形成する。具体的には、スパッタ法などの成膜法により、上側透明基板11a上の一面全体にわたってITO膜を形成する。なお、実際の製造工程においては、基板全面に共通電極12aが存在した場合には、メインシール部によるショートや、スクライブからブレイキング時の膜剥離などを生じる可能性があるため、スパッタリング時にメタルマスクなどで外周を遮蔽することが好ましい。
以下、第1の実施例による液晶表示素子の製造方法と同様の方法で、第3の実施例による液晶表示素子を製造することができる。ただし、液晶材料、配向膜材料等は、TFT駆動に適した材料を使用することが望ましい。
図11Aを参照する。下側透明基板11b上の絶縁膜13上に、下側配向膜14bを形成する。
また、図11Bに示すように、上側透明基板11a上の共通電極12a上に、上側配向膜14aを形成する。
電極等が形成された上側、下側透明基板11a、11bを洗浄する。洗浄は、たとえば水洗、一例として純水洗浄を実施する。洗剤は使用しないことが望ましい。ブラシ洗浄、スプレー洗浄等とすることができる。水切りの後、UV洗浄をし、IR乾燥を行う。大気圧プラズマ洗浄としてもよい。
配向膜14a、14bの形成にあたっては、電圧保持率が高い配向膜を選択し、具体的には、通常は垂直配向膜として用いられる材料の側鎖密度を低くしたポリイミド膜を用いた。フレキソ印刷、インクジェット印刷、スピンコート等の適宜の方法、ここではスピンコート法で、配向膜材料を上側、下側透明基板11a、11b上方に、それぞれ適当な膜厚、たとえば500Å〜800Å程度の厚さに塗布し、熱処理(たとえばクリーンオーブンにて、160℃〜180℃で1時間の焼成)を行った。その後、上側、下側配向膜14a、14bの各々に対して配向処理、たとえば押し込み量を0.8mmとしてラビング処理を実施した。ラビング方向は、たとえば上側透明基板11aと下側透明基板11bとを重ね合わせたときに、各基板11a、11b上の液晶分子のツイスト角が略90°となるように設定した。
ラビング処理後には、基板11a、11bの洗浄を行ってもよいが、ここでは実施しなかった。
こうして上側基板10a及び下側基板10bが作製された。
図11Cを参照する。続いて、液晶セルの厚さを一定に保つため、基板10a、10bの一方の面上にギャップコントロール材をたとえば乾式散布法にて散布した。ギャップコントロール材には粒径4μmのプラスチックボールを使用し、液晶セルの厚さが4μmとなるようにした。ギャップコントロールは、このようにギャップコントロール材を基板面に散布してもよいし、リブパターンをたとえば上側基板10aに形成し、それにより所定のセル厚を保ってもよい。
基板10a、10bの他方の面上にはシール材を印刷し、メインシールパターンを形成した。たとえば粒径4μmのグラスファイバーを含んだ熱硬化性のシール材を、スクリーン印刷法で印刷する。ディスペンサを用いてシール材を塗布することもできる。また、熱硬化性ではなく、光硬化性のシール材や、光・熱併用硬化型のシール材を使用してもよい。
基板10a、10bを重ね合わせた。基板10a、10bを所定の位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理を施しシール材を硬化させた。たとえばホットプレス法を用い、シール材の熱硬化を行う。こうして空セルが作製された。
図11Dを参照する。たとえば真空注入法で空セルに液晶材料を注入する。ODF方式を用いてもよい。ここでは真空注入法を使用した。液晶材料は、ネマチックタイプで誘電率異方性が正、そして電圧保持率の高い材料が好ましい。たとえば一般的にTFTで駆動するツイステッドネマチックタイプの液晶表示素子に用いられる液晶材料であれば、特に制約はない。
液晶材料中にはカイラル剤を添加した。カイラル剤には、一例として(株)メルク製のR−811を使用し、d/pが0.16となるように添加した。
液晶注入後に、プレスしながらエンドシール処理を行った。セルを高温(液晶の相転移温度以上の温度)で熱処理し、液晶分子の配向状態を整えた。
最後に、2枚の透明基板11a、11bの液晶層15と反対側の面に、偏光板16a、16bを貼付した。2枚の偏光板16a、16bはクロスニコルに、かつ透過軸の方向とラビング方向とが平行となるように配置した。直交するように配置することもできる。
こうして第3の実施例による液晶表示素子が作製された。
本願発明者らは、第3の実施例による液晶表示素子の表示を確認した。
図12Aは、第3の実施例による液晶表示素子完成後(初期状態)の画素領域を示す写真である。全面がスプレイツイスト配列状態であり、明るい白表示が得られている。
図12Bは、共通電極12aと下側ベタ電極12bとの間に電圧を印加し、液晶層15に縦電界を付加した後の画素領域を示す写真である。ここでは10V、100Hzの交流電圧(矩形波)を1秒程度印加した。全面がスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移し、暗い黒表示が得られている。
たとえば図9Bに示す構成においては、画素ごとにスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移させるよう電圧を制御することができないため、白表示から黒表示への切り替えは、少なくとも走査線22のラインごとに行う。通常は全ライン(全面)切り替えが好ましいであろう。
次に、個々の画素(TFT)に電圧を印加し、液晶層15に横電界を発生させた。具体的には、走査線23(ゲートライン)と信号線27(ソースライン)に電圧を印加し、下側ベタ電極12bとの間に電位差を与えることにより、液晶層15に横電界を付加した。ゲート電圧として10Vのパルス波、ソース電圧として±10Vをフレームごとに反転させた電圧を加えた。この結果、図12Aに示す写真のような白表示が得られることが確認された。横電界の付加により、液晶分子はリバースツイスト配列状態からスプレイツイスト配列状態に遷移する。黒表示から白表示に切り替えるのに、電圧の印加時間は1秒程度で十分である。なお、電圧の印加を停止した直後は、スリット電極21上に黒表示状態(リバースツイスト配列状態)が点状に残存していたが、3秒〜4秒後にはスリット電極21上はすべて白表示状態(スプレイツイスト配列状態)となった。
黒表示から白表示への切り替えは、電圧を印加する走査線23と信号線27を選択することで、画素ごとに制御可能であるため、TFTに加える波形によって様々な表示を実現することができる。
続いてグレイ表示(中間調表示)を行った。液晶層15の液晶分子がスプレイツイスト配列である状態で、TFTを通じ、ドレイン電極26と共通電極12aの間に電圧を印加した。ここではグレイ表示を行いたい画素のある信号線27(ソースライン)に10V、100Hzの交流電圧(矩形波)を印加し、それに同期させてゲート電圧を印加した。これにより、液晶層15の一部(スリット21a上方を除く、スリット電極21上方の液晶層15)に縦電界が付加され、その位置にある液晶分子がリバースツイスト配列状態に遷移した。その後、部分的にリバースツイスト配列状態となった画素のある信号線27(ソースライン)に0Vを印加し、それに同期させてゲート電圧を印加した。このようにしてグレイ表示を実現した。
図13A及び図13Bは、それぞれ第4の実施例による液晶表示素子を示す概略的な断面図及び平面図である。図13Aは、図13Bの13A−13A線に沿う断面図である。図13Bは、およそ1画素を示し、X方向、Y方向に沿って同様の画素が多数形成されている。
図9A及び図9Bに示す第3の実施例とは、コモン線22aが下側ベタ電極12bではなく、スリット電極21と電気的に接続するように、絶縁膜28上に形成されている点、ドレイン電極26aが、スリット電極21ではなく下側ベタ電極12bと接続されている点において相違する。
以下、第3の実施例と共通する構成要素については同一符号を用い、それらの詳細な説明は省略する。
第4の実施例による液晶表示素子は、相互に平行に対向配置された上側基板10a、下側基板10b、及び両基板10a、10b間に挟持されたツイストネマチック液晶層15を含んで構成される。
上側基板10aは、上側透明基板11a、上側透明基板11a上に形成された共通電極(上側ベタ電極)12a、及び共通電極12a上に形成された上側配向膜14aを含む。下側基板10bは、下側透明基板11b、下側透明基板11b上に形成された下側ベタ電極12b、走査線23、それらを覆うように下側透明基板11b上に形成された絶縁膜13、絶縁膜13上に形成された半導体膜24、ソース電極25、ドレイン電極26a、それらを覆うように絶縁膜13上に形成された絶縁膜28、絶縁膜28上に形成されたスリット電極(画素電極)21、コモン線22a、及びそれらを覆うように絶縁膜28上に形成された下側配向膜14bを含む。ここでドレイン電極26aは、絶縁膜13を貫通して下側ベタ電極12bと電気的に接続するように形成されている。
コモン線22aは、下側透明基板11bの一面側の絶縁膜28上に設けられており、一方向(図13BのY方向)に延在する。コモン線22aは、図13Bに示すようにスリット電極21と接続されており、コモン線22aを介して図示しない電圧供給手段から、スリット電極21に対して所定の電位が与えられる。コモン線22aは、たとえばアルミニウムとモリブデンの積層膜などの金属膜で形成される。
ドレイン電極26aは、絶縁膜28上の所定位置に設けられており、かつ一部が絶縁膜13を貫通して下側ベタ電極12bと接続されている。ドレイン電極26aは、たとえばアルミニウムとモリブデンの積層膜などの金属膜で形成される。
絶縁膜28は、下側透明基板11bの一面側の絶縁膜13上に、半導体膜24、ソース電極25、及びドレイン電極26aを覆って設けられる。絶縁膜28としては、たとえば窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、あるいはこれらの積層膜が用いられる。
スリット電極21は、絶縁膜28上であって、少なくとも一部が下側ベタ電極12bと重畳する所定位置に設けられている。スリット電極21は、図13Bに示すように、複数のスリット(開口部)21aを有し、コモン線22aと接続されている。第4の実施例においては、スリット電極21とコモン線22aとは一体に形成されている。スリット電極21は、ITOなどの透明導電膜をパターニングすることによって得られる。スリット電極21と下側ベタ電極12bとの間に電圧を印加することにより、液晶層15に横電界を与えることができる。
下側配向膜14bは、下側透明基板11bの一面側であって、絶縁膜28上に、コモン線22a及びスリット電極21を覆って設けられている。
第4の実施例による液晶表示素子も、リバースツイステッドネマチック型液晶表示素子である。第4の実施例においても、上側及び下側基板10a、10bの配向処理方向とプレティルト角の組み合わせで規定される液晶層15の液晶分子の配列状態は、第1旋回方向に捩れるリバースツイスト配列であり、カイラル剤の影響力のもとで生じる液晶分子の配列状態は、第1旋回方向とは逆の第2旋回方向に捩れるスプレイツイスト配列である。液晶層15に縦電界を付加することで、付加された領域の液晶層15の液晶分子をスプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移させることができる。また、液晶層15に横電界を付加することで、付加された領域の液晶層15の液晶分子をリバースツイスト配列状態からスプレイツイスト配列状態に遷移させることができる。
図14A〜図14G、及び、図15A〜図15Eは、第4の実施例による液晶表示素子の製造方法を示す概略的な断面図である。以下、製造方法の説明においても、第3の実施例と共通する内容については適宜説明を省略する。
図14Aに示すように、下側透明基板11bの一面上に所定の金属膜からなる走査線23を形成する。
図14Bに示すように、下側透明基板11bの一面側の所定位置に、たとえばITOからなる下側ベタ電極12bを形成する。
図14Cに示すように、下側透明基板11bの一面側に、下側ベタ電極12b及び走査線23を覆うようにして絶縁膜13を形成する。
図14Dに示すように、絶縁膜13上の所定位置に半導体膜24を形成する。
図14Eに示すように、ソース電極25、ドレイン電極26a、及び信号線27を形成する。ドレイン電極26aについては、あらかじめ絶縁膜13の所定位置に下側ベタ電極12bの一部を露出させる開口部を設けておき、その後スパッタ法等によって金属膜を成膜し、パターニングすることによって形成可能である。
図14Fに示すように、絶縁膜13上に、半導体膜24、ソース電極25、ドレイン電極26a、及び信号線27を覆う絶縁膜28を形成する。
図14Gに示すように、絶縁膜28上の所定位置にコモン線22a及びスリット電極21を形成する。更に、絶縁膜28上にパシベーション膜を設けてもよい。
一方、図15Aに示すように、上側透明基板11aの一面上に、共通電極12aを形成する。
また、図15Bに示すように、下側透明基板11b上方の絶縁膜28上に、下側配向膜14bを形成する。
更に、図15Cに示すように、上側透明基板11a上の共通電極12a上に、上側配向膜14aを形成する。
上側及び下側配向膜14a、14bに配向処理を施し、図15D及び図15Eに示す、基板重ね合わせ工程、液晶層15形成工程等、第3の実施例と同様の工程を経て、第4の実施例による液晶表示素子が作製される。
第4の実施例による液晶表示素子も、液晶層15(画素領域)の一部に有効な縦電界を付加し、他の実施例と同様に、リバースツイスト配列状態とスプレイツイスト配列状態の共存、混在する状態を形成し、中間調表示を行うことのできる液晶表示素子である。
第3、第4の実施例による液晶表示素子においては、各画素にTFTが1つ形成されているが、複数のTFTが形成されていてもよい。この場合、たとえば画素電極を分割すれば一層の多階調表示を実現することができる。写真などの画像表示を行うことも可能である。ここで画素電極は相互に等しい面積に分割する必要はない。
なお、第3、第4の実施例は透過型の液晶表示素子であるが、たとえば下側ベタ電極12bを反射電極とし、反射型の液晶表示素子とすることができる。その場合はツイスト角を略70°に設定することが好ましい。
実施例及び変形例による液晶表示素子は、コントラストの高い白表示状態、黒表示状態、及び、中間調表示状態の安定表示を簡便に実現可能な液晶表示素子である。画素を構成する電極として櫛歯電極またはスリット電極が用いられる。実施例による液晶表示素子によれば、画素領域の液晶層中に部分的に縦電界または横電界を発生させて、画素内で透過率の分布をつけ(画素内に相互に透過率の異なる領域、すなわちたとえば基板法線方向から見たとき、液晶層の液晶分子がリバースツイスト配列状態である領域とスプレイツイスト配列状態である領域を形成し)、多様な表示を行うことができる。第1の実施例の変形例に示したように、電極サイズ(幅、面積等)を工夫することで、たとえば5段階の多段階階調表示も可能である。なお、画素領域の液晶層の一部がリバースツイスト配列状態であり、他の一部がスプレイツイスト配列状態であればよく、たとえば基板法線方向に沿って見たとき、同一の配列状態である必要はない。実施例及び変形例による液晶表示素子は、画素領域の液晶層の一部がリバースツイスト配列状態となり、他の一部がスプレイツイスト配列状態となるような電界を生じさせることのできる電極を備えている。
また、実施例による液晶表示素子は安価に製造することができる。製造方法は、配向膜材料、ラビング条件(押し込み量の制御)、配向膜の焼成条件等を除き、一般的なツイステッドネマチック型液晶表示素子の製造方法とほぼ等しいため、一般的なツイステッドネマチック型液晶表示素子と比較してコストアップの要因は少ない。
実施例による液晶表示素子においては、液晶層15のリバースツイスト配列状態、スプレイツイスト配列状態、及びそれらの混在状態は安定的に維持される。このため白表示、黒表示、グレイ表示のいずれの場合にも、表示を書き換えた後は、電圧無印加のままで、その表示状態が保持される。表示の書き換え時以外は電力を消費しない。このため消費電力を極めて低く抑えた、超低消費電力駆動が可能である。特に反射型ディスプレイに適用した場合、メリットは大きい。表示は半永久的に保持することが可能であり、高コントラスト比と両立可能である。
第2の実施例に示したように、駆動方法として、たとえば線順次駆動法等の、メモリ性を利用した駆動方法を適用することができる。したがってこの場合、高価なTFT等を用いることなく、単純マトリクス表示により、大容量のドットマトリクス表示を行うことができる。すなわち、低コストで大容量の表示を行うことが可能である。
TFT等のスイッチング素子を用いる場合、大容量の表示切替を高速に行うことができる。TFTを用いた液晶表示素子とする場合、たとえばIPS液晶で広く用いられているTFT基板をそのまま用いることも可能である。対向基板には、たとえば透明電極を形成する必要があるものの、マスクスパッタなどを使用して簡便に形成可能であるため、コストアップの要素は少ない。対向基板が電極を備えることで、ラビング時、静電気による悪影響を受けにくいというメリットもある。
更に、実施例及び変形例による液晶表示素子によれば、透過型ディスプレイ、透反ディスプレイ、反射型ディスプレイのいずれの場合にも好適なディスプレイを実現することができる。
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
たとえば、実施例においては、偏光板をクロスニコルに配置しノーマリホワイト表示の液晶表示素子としたが、偏光板を平行ニコルに配置しノーマリブラック表示の液晶表示素子としてもよい。ただノーマリホワイトとした方が高コントラスト比での表示を実現しやすいであろう。ノーマリホワイト表示の場合、良好な黒表示を得るためには、上側及び下側偏光板16a、16bの透過軸方向のなす角度は、90°付近であることが望ましい。
また、実施例においては、配向処理をラビングで行ったが、たとえば光配向法、斜方蒸着法等、他の配向処理方法を用いて配向処理を行うことができる。
更に、実施例においては下側基板10bにのみ、液晶層15(画素領域)の全体及び一部に横電界を生じさせる電極を形成したが、下側基板10bだけでなく、上側基板10aにも形成することができる。横電界を生じさせる電極は、上側基板10a、下側基板10bのうちの少なくとも一方に形成すればよい。
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。