以下、液晶層を挟持する両基板に施された配向処理(プレティルト角)の関係から、液晶分子がねじれやすい方向(第1旋回方向)とは、反対方向(第2旋回方向)のねじれ力(カイラリティ)を有するカイラル剤が添加されたツイステッドネマチック型液晶表示素子の実施例について説明する。
図1は、実施例による液晶表示素子の製造方法を示すフローチャートである。本願発明者らは、まず本図に示すフローチャートに沿って複数の液晶表示素子を作製し、良好な表示が実現される条件を予備的に考察した。
透明電極、たとえばITO(indium tin oxide)電極が形成された透明基板を2枚準備する(ステップS101)。ここでは平行平板タイプの電極をもつテストセルを用い、2枚の透明基板を洗浄、乾燥した(ステップS102)。
透明基板上に、ITO電極を覆うように配向膜材料を塗布する(ステップS103)。配向膜材料の塗布は、スピンコートを用いて行った。フレキソ印刷やインクジェット印刷を用いて行ってもよい。本例においては、通常は垂直配向膜の形成に使用されるポリイミド配向膜材料の側鎖密度を低くし、配向膜材料として用いた。側鎖密度のコントロールは、適度なプレティルト角の付与を可能とするためである。配向膜材料は、配向膜の厚さが500Å〜800Åとなるように塗布した。
配向膜材料を塗布した透明基板の仮焼成(ステップS104)、及び本焼成(ステップS105)を実施する。本焼成は160℃〜200℃の間で焼成温度を変えて行った。こうしてITO電極を覆う配向膜が形成された(ステップS103〜S105)。
次に、ラビング処理(配向処理)を行う(ステップS106)。ラビング処理は、たとえば布を巻いた円筒状のロールを高速に回転させ配向膜上を擦る工程であり、これにより基板に接する液晶分子を一方向に並べる(配向する)ことができる。ラビング処理は、押し込み量を0.4mm、0.8mm、1.2mmとする3条件で行った。またラビング処理は、液晶表示素子のツイスト角が70°または90°となるように実施した。
続いて、液晶セルの厚さ(基板間距離)を一定に保つため、一方の透明基板面上にギャップコントロール材をたとえば乾式散布法にて散布する(ステップS107)。ギャップコントロール材には粒径4μmのプラスチックボールを使用し、液晶セルの厚さが4μmとなるようにした。
他方の透明基板面上にはシール材を印刷し、メインシールパターンを形成する(ステップS108)。たとえば粒径4μmのグラスファイバーを含んだ熱硬化性のシール材を、スクリーン印刷法で印刷する。ディスペンサを用いて、シール材を塗布することもできる。また、熱硬化性ではなく、光硬化性のシール材や、光・熱併用硬化型のシール材を使ってもよい。
透明基板を重ね合わせる(ステップS109)。2枚の透明基板を所定の位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理を施しシール材を硬化させる。たとえばホットプレス法を用い、シール材の熱硬化を行う。こうして空セルが作製される。
たとえば真空注入法で空セルにネマチック液晶を注入する(ステップS110)。液晶中にはカイラル剤を添加した。カイラル剤には(株)メルク製のCB15またはS−811を使用した。カイラル剤の添加量は、カイラルピッチp、液晶層の厚さ(セル厚)dとしたとき、d/pがたとえば0.5〜1.2となるように調整した。
液晶注入口を、たとえば紫外線(UV)硬化タイプのエンドシール材で封止し(ステップS111)、液晶分子の配向を整えるため、液晶の相転移温度以上にセルを加熱する(ステップS112)。その後、スクライバ装置で透明基板につけた傷に沿ってブレイキングし、個別のセルに小割する。
小割されたセルに対し、面取り(ステップS113)と洗浄(ステップS114)を実施する。
最後に、2枚の透明基板の液晶層と反対側の面に、偏光板を貼付する(ステップS115)。2枚の偏光板はクロスニコルに、かつ透過軸の方向とラビング方向とが平行となるように配置した。直交するように配置することもできる。両透明基板のITO電極間には電源を接続した。
図2A及び図2Bは、作製された複数の液晶表示素子について、表示状態の偏光顕微鏡観察結果を示す写真である。図2Aの写真は、プレティルト角を約35°、d/pを0.57とする条件で作製した液晶表示素子の正面観察時表示状態を示し、図2Bの写真は、プレティルト角を約45°、d/pを0.8とする条件で作製した液晶表示素子のそれを示す。
図2Aにおいて、黒く写っている(黒表示)部分は、両透明基板の電極間に電圧を印加した領域であり、白く写っている(白表示)部分は、電圧無印加の領域である。図2Bにおいても同様である。図2Bには、白く写っている部分の拡大写真もあわせて示した。
白く写っている部分は、目視では均一な白表示に見えるが、顕微鏡で拡大して観察すると細かな配向の模様が認められる。これはフォーカルコニック配向と考えられる。
図2Cに、フォーカルコニック配向の液晶分子配列の概略を示す。フォーカルコニック配向とは、螺旋の軸が基板(上側基板及び下側基板)面と平行となるように、液晶分子が液晶層の中で螺旋構造をとる配列状態をいう。
一方、図2A及び図2Bの写真に黒く写っている部分においては、液晶分子は、カイラル剤によって付与される捩れ力に逆らい、上下基板のプレティルト角の関係からねじれやすい方向にねじれるリバースツイスト配列状態を示していると考えられる。液晶層の厚さ方向の中央に位置する液晶分子が、ある程度垂直方向に立ち上がっているため、黒表示が得られているものであろう。図2Aの写真に示す液晶セルの作製条件、及び、図2Bの写真に示す液晶セルの作製条件においては、カイラル剤の添加量が比較的多いため、液晶層内部の歪が大きく、液晶層の厚さ方向中央分子が、垂直近く立ち上がっている状態となっていると推察される。
作製された液晶表示素子は、初期状態においてフォーカルコニック配列状態となる。両透明基板のITO電極間に、電気光学特性の飽和電圧値以上の電圧を印加する(閾値以上の強さの縦電界を生じさせる)と、リバースツイスト配列状態に遷移する。図2A及び図2Bに示す写真から、作製された液晶表示素子においては、正面から観察した場合でも、高いコントラスト比で表示が行われることがわかる。
なお、白表示(フォーカルコニック配列状態)、及び、黒表示(リバースツイスト配列状態)のメモリ性は非常に安定であり、顕微鏡によって液晶分子の微細な配列状態の変化を観察したが、長期、少なくとも半年以上に渡り安定であった。
図3Aは、プレティルト角を約45°、d/pを0.8とする条件で作製した液晶表示素子(図2Bに表示状態を示す液晶表示素子)について、0°−180°方位(左右方位)の透過率視角依存性を示すグラフである。グラフの横軸は、正面方向(基板法線方向)を0°としたときの観察角度を単位「°」で表す。右方位に傾いた観察角度をプラスの角度で示し、左方位に傾いた観察角度をマイナスの角度で示した。グラフの縦軸は、透過率を単位「%」で表す。菱形をつないだ曲線(S−tと表記)は、フォーカルコニック配列状態における透過率の視角依存性を示す。正方形をつないだ曲線(U−tと表記)は、リバースツイスト配列状態におけるそれを示す。
また、図3Bに、プレティルト角を約45°、d/pを0.8とする条件で作製した液晶表示素子(図2Bに表示状態を示す液晶表示素子)の等コントラスト曲線を示す。
図3Bからわかるように、作製した液晶表示素子について、全方位に関し、ほぼ対称な等コントラスト曲線が得られている。また、図3Aに示されるように、フォーカルコニック配列状態(白表示)においても、リバースツイスト配列状態(黒表示)においても、ほぼ左右対称な透過率視角依存性が得られていることから、作製した液晶表示素子は、左右対称なコントラスト特性を備えていることが明瞭にわかる。このように、作製した液晶表示素子は視角特性に優れた液晶表示素子である。
比較のため、図3Cに、本願発明者らの先の発明における実施例による液晶表示素子の視角−コントラスト特性を示す。本図は、特許文献4の図面(図13(A))に記載されたものと同一の図面である。図3Cからわかるように、先の発明に係る液晶表示素子においては、コントラスト比が左右非対称である。実施例による液晶表示素子の製造方法を示すフローチャート(図1)に沿って予備的に作製された液晶表示素子は、先の発明と比較して、コントラスト比の左右対称性が実現されている点において、視角特性に優れている。更に、図3Cから、先の発明の実施例においては、正面観察時のコントラスト比は3強であるが、図3Aに示すグラフからは、実施例による製造方法に従って作製された液晶表示素子の正面観察時コントラスト比は4弱であると計算される。このように、正面から観察した場合に、高いコントラスト比で表示を行うことが可能な点においても、視角特性に優れている。なお、これらの特徴(表示品質の高さ)は、実施例による液晶表示素子(後述)も備えている。
本願発明者は、たとえば液晶層に物理的作用を与えることにより、リバースツイスト配列状態とフォーカルコニック配列状態とが可換的に実現可能であり、液晶分子の各配列状態が、ともに安定となる条件を鋭意研究した。
図4は、リバースツイスト配列状態、及び、フォーカルコニック配列状態の双安定状態を実現可能な条件を示すグラフである。グラフの横軸はプレティルト角を単位「°」で示し、縦軸は、カイラル剤の添加量をd/pを用いて示す。
本図において、菱形をつないだ曲線よりも下の範囲にあるプレティルト角及びd/pの組み合わせにおいては、フォーカルコニック配列状態が発現しない。すなわちカイラル剤の添加量が少なすぎると、フォーカルコニック配列状態ではなくスプレイツイスト配列状態が現れる。
また、正方形をつないだ曲線よりも上の範囲にあるプレティルト角及びd/pの組み合わせにおいては、常にフォーカルコニック配列状態となる。すなわちカイラル剤の添加量が多すぎると、フォーカルコニック配列状態からリバースツイスト配列状態に相転移させることができない。
界面のアンカリング強度や液晶の弾性定数によって曲線は多少上下するが、両曲線の間の範囲にあるプレティルト角及びd/pの組み合わせにおいて、リバースツイスト配列状態、及び、フォーカルコニック配列状態の双安定状態が実現される。リバースツイスト配列状態とフォーカルコニック配列状態の双安定状態は、カイラル剤のねじれ力(カイラリティ)を、ある範囲内に制御したときに現れる特殊な状態である。
なお、丸印は、図2Bに表示状態を示し、図3A及び図3Bに視角特性を示した液晶表示素子のプレティルト角(約45°)とd/p(0.8)を示す。
本図に示す結果から、プレティルト角が垂直に近いほど、d/pの値が低くてもフォーカルコニック配列状態となりやすいことがわかる。本願発明者らが繰り返し行った実験によれば、プレティルト角が低くても、電圧により液晶分子配向を垂直に近くすれば、フォーカルコニック配列状態が観察されるようになるが、界面の影響のためか、d/pの値は比較的高くないとフォーカルコニック配列状態は発現しなかった。
リバースツイスト配列状態、及び、フォーカルコニック配列状態の双安定状態が実現されるのは、液晶層を挟持する上下基板の双方に、20°以上85°以下のプレティルト角が発現するような配向処理がなされ、液晶層にカイラル剤が、d/pが0.5以上2以下となるような範囲で添加されている場合であるといえるであろう。また、上下基板の双方に、35°以上55°以下のプレティルト角が発現するように配向処理がなされているときには、d/pが0.5以上1.2以下となる範囲でカイラル剤が添加されている場合に、リバースツイスト配列状態とフォーカルコニック配列状態の双安定状態が実現可能であるといえるであろう。
本願発明者らは、以上の予備的考察を踏まえ、実施例による液晶表示素子を作製した。
図5は、実施例による液晶表示素子の一画素内の概略的な断面図である。
実施例による液晶表示素子は、相互に平行に対向配置された上側基板10a、下側基板10b、及び両基板10a、10b間に配置されたツイストネマチック液晶層15を含んで構成される。
上側基板10aは、上側透明基板11a、上側透明基板11a上に形成された上側ベタ電極12a、及び上側ベタ電極12a上に形成された上側配向膜14aを含む。下側基板10bは、下側透明基板11b、下側透明基板11b上に形成された下側ベタ電極12b、下側ベタ電極12b上に形成された絶縁膜13、絶縁膜13上に形成された第1、第2櫛歯電極12c、12d、及び、第1、第2櫛歯電極12c、12dを覆うように絶縁膜13上に形成された下側配向膜14bを含む。
上側、下側透明基板11a、11bは、たとえばガラスで形成される。上側、下側ベタ電極12a、12b、及び第1、第2櫛歯電極12c、12dは、たとえばITO等の透明導電材料で形成される。第1、第2櫛歯電極12c、12dは、それぞれ複数の櫛歯部分を備える櫛状電極である。第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分は、本図左右方向に沿って互い違いに配置されている。
液晶層15は、上側基板10aの上側配向膜14aと、下側基板10bの下側配向膜14bとの間に配置される。
上側及び下側配向膜14a、14bには、ラビングにより配向処理が施されている。上側配向膜14aと下側配向膜14bの配向処理方向は、上側及び下側基板10a、10bの法線方向から見たとき、相互に直交している。上側配向膜14aのラビング方向を第1の方向、下側配向膜14bのラビング方向を第2の方向とすると、第2の方向は上側基板10aの法線方向から見て、第1の方向を基準に、右回り方向に90°をなす方向である。
液晶層15を形成する液晶材料にはカイラル剤が添加されている。液晶セル完成状態(初期状態)での液晶分子の配列状態は、フォーカルコニック配列であった。
電源20が、上側、下側ベタ電極12a、12b、及び第1、第2櫛歯電極12c、12dに、電気的に接続されている。電源20によって、電極12a〜12dに電圧を印加することが可能である。たとえば両ベタ電極12a、12b間に、閾値電圧以上の交流電圧を印加することで、液晶分子の配列状態を、フォーカルコニック配列からリバースツイスト配列に転移させることができる。
上側基板10a、下側基板10bの液晶層15と反対側の面には、それぞれ上側偏光板16a、下側偏光板16bが配置される。両偏光板16a、16bは、クロスニコルに、かつ、光透過軸が、上側及び下側基板10a、10bのラビング方向と平行になるように配置される。実施例による液晶表示素子は、ノーマリホワイトタイプの液晶表示素子である。
図6〜図10を参照し、実施例による液晶表示素子の構成及び製造方法について詳細に説明する。
図6は、上側透明基板11a上に形成されるITO膜のパターンを示す概略的な平面図である。本図に示すITO膜で、たとえば画素電極(各画素において上側ベタ電極12aを形成する電極)及び当該画素電極の取り出し電極が形成される。
ITO膜パターンは、たとえば本図左右方向にITO膜がストライプ状に延在するように形成される。本図においては、画素電極を構成するITO膜に12A1〜12A10の符号を付して示した。
ITO膜のパターニングは、ITO付きガラス基板を洗浄した後、フォトリソ工程を用いて行った。ITOのエッチングは、第二塩化鉄を用いたウェットエッチングで実施した。レーザビームを照射し、ITO膜を除去することでパターニングを行ってもよい。
図7は、下側透明基板11b上に形成されるITO膜のパターンを示す概略的な平面図である。本図に示すITO膜で、たとえば画素電極(各画素において下側ベタ電極12bを形成する電極)及び当該画素電極の取り出し電極が形成される。
ITO膜パターンは、たとえば本図上下方向にITO膜がストライプ状に延在するように形成される。本図においては、画素電極を構成するITO膜の一部に12B1〜12B9の符号を付して示した。なお、本図上下方向と図6の左右方向は相互に直交する方向である。
ITO膜のパターニングは、図6を参照して説明したITO膜パターンの形成方法と同様の方法で行うことができる。
ITO膜をパターニングした後、ITO膜上を含む下側透明基板11b上に絶縁膜13を形成する。絶縁膜13は、たとえば取り出し電極12BT1〜12BT9部分(端子部分)には形成しない。本図においては、絶縁膜13を形成しない領域に斜線を付した。絶縁膜13は、取り出し電極部分等にレジストを形成し、絶縁膜成膜後にリフトオフでレジストを除去する方法、メタルマスクで取り出し電極部分等を覆った状態でスパッタにより形成する方法により形成可能である。また、絶縁膜13は、有機絶縁膜やSiO2、SiNx等の無機絶縁膜とすることができる。それらの組み合わせで形成してもよい。実施例においては、アクリル系有機絶縁膜とSiO2の積層膜を絶縁膜13として用いた。
実施例においては、まず取り出し電極部分等に耐熱性フィルム(ポリイミドテープ)を貼り、膜厚1μmに有機絶縁膜をスピンコート(2000rpmで30秒間スピン)した。次に、有機絶縁膜がスピンコートされた下側透明基板11bを、クリーンオーブンにて220℃で1時間焼成し、その後耐熱性フィルムを貼ったままで下側透明基板11bを80℃に加熱し、SiO2膜をスパッタ法(交流放電)により厚さ1000Åに成膜した。SiO2膜は、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD法等を用いて成膜することもできる。
ここで耐熱性フィルムを剥がすと、耐熱性フィルムの貼付箇所につき、有機絶縁膜及びSiO2膜を除去することができた。続いて、SiO2膜の絶縁性と透明性とを向上させるために、下側透明基板11bをクリーンオーブンにて220℃で1時間焼成した。
SiO2膜の形成は必須ではないが、SiO2膜を成膜することで絶縁膜13の絶縁性を向上させることができる。また、絶縁膜13上に形成する第1、第2櫛歯電極12c、12dの密着性及びパターニング性を向上させることが可能である。
有機絶縁膜を形成せず、絶縁膜13をSiO2膜のみで構成してもよい。SiO2膜は多孔質になりやすいため、この場合には、SiO2膜の厚さを4000Å〜8000Åとすることが望ましい。SiO2膜とSiNx膜との積層からなる無機絶縁膜13とすることもできる。
絶縁膜13上にITO膜を形成した。ITO膜は、下側透明基板11bを100℃に加熱し、スパッタ法(交流放電)により基板全面に成膜した。膜厚は約1200Åとした。ITO膜は、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD法等を用いて形成することもできる。このITO膜をフォトリソ工程でパターニングし、第1櫛歯電極12c、第2櫛歯電極12d、及びそれらの電極12c、12dの取り出し電極を形成した。
図8は、ITO膜のエッチングに使用するフォトマスクを示す概略的な平面図である。フォトマスクは、第1櫛歯電極12c対応部分、第2櫛歯電極12d対応部分、第1櫛歯電極12cの取り出し電極対応部分、第2櫛歯電極12dの取り出し電極対応部分、及び下側ベタ電極12bの取り出し電極対応部分を含む。エッチング時、各対応部分で覆われたITO膜で、電極が形成される。なお、本願発明者らは、櫛状電極の櫛歯部分の電極幅を20μm、30μm、2つの櫛状電極の櫛歯部分を交互に配置したときの電極間隔を20μm、30μm、50μm、100μm、200μmとする複数の電極パターンで、第1櫛歯電極12c及び第2櫛歯電極12dを作製した。
以上のような工程を経て、電極付基板を2枚準備した(図1のステップS101)。2枚の電極付基板を洗浄し乾燥する(ステップS102)。水洗の場合は、純水洗浄を行う。洗剤を使用して行ってもよい。ブラシ洗浄、スプレー洗浄のいずれで洗浄することもできる。その後水切りをし、乾燥させる。水洗以外の方法として、UV洗浄、IR乾燥を実施することが可能である。
2枚の電極付基板上に、ITO電極を覆うように配向膜材料を塗布した(ステップS103)。配向膜材料の塗布は、スピンコートを用いて行った。フレキソ印刷やインクジェット印刷を用いて行ってもよい。通常は垂直配向膜の形成に使用されるポリイミド配向膜材料の側鎖密度を低くし、配向膜材料として用いた。これは予備的考察のために作製した液晶表示素子に使用した配向膜材料と等しい材料である。配向膜材料は、配向膜の厚さが500Å〜800Åとなるように塗布した。配向膜材料を塗布した電極付基板の仮焼成(ステップS104)、及び本焼成(ステップS105)を実施した。本焼成はクリーンオーブンにて、180℃で1時間行った。160℃以上180℃以下の温度で行ってもよい。こうしてITO電極を覆う配向膜を形成した(ステップS103〜S105)。
図9は、下側基板10bに形成される下側配向膜14bの形成領域の一部を示す概略的な平面図である。下側配向膜14bは、たとえば第1、第2櫛歯電極12c、12dが配置され、画素が画定される領域に形成される。本図には、下側配向膜14bの形成領域として左上の部分のみを示したが、その他の櫛歯電極12c、12d配置領域についても同様である。
次に、ラビング処理(配向処理)を行った(ステップS106)。ラビング処理は、押し込み量を0.8mmとし、上側配向膜14a、下側配向膜14bの双方に20°以上85°以下、たとえば35°以上55°以下、一例として45°のプレティルト角が発現するように行った。また、液晶表示素子のツイスト角が90°となるように実施した。
なお、この領域のプレティルト角は、測定が非常に困難であり、45°という数値は少なからぬ誤差を含む可能性がある。測定方法の違いや測定精度の問題により、±15°〜±30°程度のばらつきが存在する可能性がある。
セル厚を4μmとするため、一方の基板面上に、粒径4μmのギャップコントロール材を散布した(ステップS107)。セル厚を3μm以上5μm以下とするため、粒径3μm以上5μm以下のギャップコントロール材を散布することも可能である。他方の基板面上にはシール材を印刷し、メインシールパターンを形成した(ステップS108)。2枚の基板を所定の位置で重ね合わせて(ステップS109)、シール材を硬化させた。
2枚の基板の重ね合わせは、上側配向膜14aのラビング方向を第1の方向、下側配向膜14bのラビング方向を第2の方向としたとき、第2の方向が上側基板10aの法線方向(上方)から見て、第1の方向を基準に、右回り方向に90°をなす方向となるように行った。
真空注入法でネマチック液晶を注入した(ステップS110)。液晶材料には屈折率異方性Δnが0.067である、低屈折率異方性材料を用いた。液晶中にはカイラル剤を添加した。カイラル剤には(株)メルク製のCB15を使用した。カイラル剤の添加量は、カイラルピッチをp、液晶層の厚さをdとしたとき、d/pが0.8(p=5μm)となるように調整した。d/pは、プレティルト角に応じ、たとえば上側及び下側配向膜14a、14bに20°以上85°以下のプレティルト角が発現するように配向処理がなされているときには0.5以上2以下、35°以上55°以下のプレティルト角が発現するように配向処理がなされているときには0.5以上1.2以下とすることができる。
液晶注入口を、紫外線硬化タイプのエンドシール材で封止し(ステップS111)、液晶分子の配向を整えるため、液晶の相転移温度以上にセルを加熱した(ステップS112)。その後、スクライバ装置で透明基板につけた傷に沿ってブレイキングし、個別のセルに小割した。小割されたセルに対し、面取り(ステップS113)と洗浄(ステップS114)を実施した。
最後に、2枚の基板の液晶層と反対側の面に、偏光板を貼付した(ステップS115)。2枚の偏光板はクロスニコルに、かつ透過軸の方向とラビング方向とが平行となるように配置した。直交するように配置することもできる。両基板のITO電極(上側、下側ベタ電極12a、12b、及び第1、第2櫛歯電極12c、12d)には電源を接続した。
図10は、実施例による液晶表示素子の構造を示す概略的な平面図である。図10には、図6〜図9に表した構造をすべて重ね合わせて示してある。左右方向に延在する横電極と、上下方向に延在する縦電極とで一つの画素が画定される。本図においては、横電極に12A1〜12A10の符号を付して示し、縦電極の一部に12B1〜12B9の符号を付して示した。矢印で示したのは、横電極12A9と縦電極12B8とが基板法線方向から見て重なる領域に画定される画素である。この画素における横電極12A9は、図5の上側ベタ電極12aに相当し、縦電極12B8は下側ベタ電極12bに相当する。
図11A〜図11Cは、実施例による液晶表示素子の外観写真であり、図11D〜図11Fは、電極間に電圧を印加した時の電界方向を示す概略的な断面図である。なお、図11A〜図11Cに示すのは、第1、第2櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分の電極幅を20μm、両櫛歯電極12c、12dの櫛歯部分を交互に配置したときの電極間隔を20μmとして作製した液晶表示素子の、櫛歯電極12c、12d形成領域の正面観察写真である。
図11Aに、液晶表示素子が完成した状態(初期状態)の外観写真を示す。初期状態においては、液晶分子はフォーカルコニック配列状態となる。目視では均一な白表示が得られた。
この状態において、図11Dに示すように、上側ベタ電極12aと下側ベタ電極12bとの間に電圧を印加した。両電極12a、12bへの電圧の印加により、液晶層には縦電界(液晶層の厚さ方向の電界)が生じる。
図11Bは、電極12a、12bに電圧を印加した後の外観写真である。全体がフォーカルコニック配列状態からリバースツイスト配列状態に遷移したことがわかる。また、正面から見て黒表示が得られていることがわかる。更に、逆にこのことから両電極12a、12bへの電圧の印加で、液晶層に縦電界が発生することが確認される。
次に、図11Eに示すように、下側ベタ電極12b、第1櫛歯電極12c、第2櫛歯電極12dに電圧を印加した。電極12b、12c、12dへの電圧の印加により、液晶層には横電界(液晶層の厚さ方向と直交する方向の電界、基板面内方向の電界)が生じる。なお、電極12b、12c、12dへの電圧の印加により、液晶層に横電界を生じさせて、液晶表示素子を駆動する駆動モードをFFSモード(fringe field switching mode)と呼ぶ。
図11Cは、図11Bに示す状態の液晶表示素子をFFSモードで駆動した後の外観写真である。全面が初期状態と同様の状態(フォーカルコニック配列状態)に再遷移していることがわかる。
実施例による液晶表示素子は、フォーカルコニック配列状態とリバースツイスト配列状態とをスイッチング可能な液晶表示素子である。縦電界の印加により、前者を後者に遷移させることができる。また横電界の印加により、後者を前者に遷移させることができる。リバースツイスト配列状態をフォーカルコニック配列状態に遷移させる方法として、FFSモードでの駆動のほか、IPSモード(in-plane switching mode)での駆動を採用することができる。
図11Fに、IPSモードで生じる電界方向を示す。第1櫛歯電極12cと第2櫛歯電極12dへの電圧の印加により、液晶層には横電界が生じる。第1、第2櫛歯電極12c、12dへの電圧の印加により液晶層に横電界を生じさせて、液晶表示素子を駆動する駆動モードをIPSモードと呼ぶ。
液晶分子が面内方向に螺旋を描いているフォーカルコニック配列状態にある液晶層に縦電界を付加すると、界面の影響力で90°ねじれ配向となり、液晶層厚さ方向の中央に位置する液晶分子は垂直方向に傾く。こうしてフォーカルコニック配列状態からリバースツイスト配列状態へのスイッチングが行われるものと考えられる。また、横電界の付加により、リバースツイスト配列状態の界面の液晶分子配向を乱すことで、リバースツイスト配列状態からフォーカルコニック配列状態へのスイッチングが行われるものと考えられる。
実施例による液晶表示素子は、付加する電界の方向により、フォーカルコニック配列状態とリバースツイスト配列状態とが相互に遷移し、かつ、各々の状態が安定的に保持される液晶表示素子である。コントラストの高い白表示状態、黒表示状態の双安定表示を簡便に実現することができる。特に、黒表示が暗く、正面から見たときもはっきりとした表示を実現可能である。このため、透過型ディスプレイ、透反ディスプレイ、反射型ディスプレイのいずれにも好適に適用することができる。また、実施例による液晶表示素子は、左右対称なコントラスト比を有する液晶表示素子である。
実施例による液晶表示素子においては、たとえばメモリ性を利用した表示が可能である。
白表示したい画素は、フォーカルコニック配列状態とし、黒表示したい画素は、リバースツイスト配列状態とする。少なくとも白表示から黒表示に変えたい画素には縦電界を加える。黒表示を維持したい画素にも、縦電界を加えてもよい。逆に、少なくとも黒表示から白表示に変えたい画素には横電界を加える。白表示を維持したい画素にも、横電界を加えてもよい。
表示の書き換えは、たとえばラインごとに行うことができる。一例として、図10において、縦電極12B1〜12B9のうちの1本、たとえば縦電極12B1に、配列状態の遷移が生じない程度の矩形波(たとえば150Hz、5V程度)を印加する。これとともに、横電極12A6〜12A10または第1、第2櫛歯電極に、縦電極12B1に印加する電圧と同期したもしくは半周期ずれた矩形波(たとえば150Hz、5V程度)を印加する。
縦電極12B1に加えた波形と同期した波形を加えた画素においては、実効的に電圧が印加されていない状態となるため表示は変化せず、縦電極12B1に加えた波形と半周期ずれた波形を加えた画素においては、実効的には10V程度の電圧が印加される状態となるため、飽和電圧以上の電圧となり、白表示と黒表示との間を相互に変化させ得る。
たとえば白表示したい画素には、第1、第2櫛歯電極に半周期ずれた矩形波を印加し、横電極12A6〜12A10には電圧を印加しない。黒表示したい画素には、横電極12A6〜12A10に半周期ずれた矩形波を印加し、第1、第2櫛歯電極には電圧を印加しない。
縦電極12B1の後、縦電極12B2〜12B9に対しても矩形波を印加し、同様に駆動することで、マトリクス表示が可能となる。書き換えられた表示は半永久的に保持することが可能であり、高コントラスト比と両立できる。
実施例による液晶表示素子は、たとえば上述の線順次書き換え法(線順次駆動法)等の、メモリ性を利用した駆動方法で駆動することができる。表示の書き換え時以外は電力を消費しない、超低消費電力駆動が可能である。特に反射型ディスプレイに適用した場合、メリットは大きい。また、高価なTFT等を用いることなく、単純マトリクス表示により、大容量のドットマトリクス表示を行うことができる。すなわち、低コストで大容量の表示を行うことが可能である。
更に、実施例による液晶表示素子は、たとえば図1及び図6〜図10を参照して説明した製造方法で、安価に製造することができる。製造方法は、配向膜材料、ラビング条件(押し込み量の制御)、配向膜の焼成条件等を除き、一般的なツイステッドネマチック型液晶表示素子の製造方法とほぼ等しいため、一般的なツイステッドネマチック型液晶表示素子と比較してコストアップの要因は少ない。
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
たとえば、実施例においては、偏光板をクロスニコルに配置しノーマリホワイト表示の液晶表示素子としたが、偏光板を平行ニコルに配置しノーマリブラック表示の液晶表示素子としてもよい。ただノーマリホワイトとした方が高コントラスト比での表示を実現しやすいであろう。ノーマリホワイト表示の場合、良好な黒表示を得るためには、上側及び下側偏光板16a、16bの透過軸方向のなす角度は、90°付近であることが望ましい。
また、実施例においてはツイスト角を90°としたが、その他の角度とすることもできる。その場合、白表示での明るさを明るくするために、液晶層内のリターデーション値を調整する必要があろう。
更に、実施例においては下側基板10bにのみ、横電界を生じさせる電極を形成したが、下側基板10bだけでなく、上側基板10aにも形成することができる。横電界を生じさせる電極は、上側基板10a、下側基板10bのうちの少なくとも一方に形成すればよい。
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。