JP6183678B2 - 溶液型グラウト及びそれを用いたグラウト工法 - Google Patents

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本発明は、主として高レベル放射性廃棄物の地層処分施設に用いられる溶液型グラウト及びそれを用いたグラウト工法に関する。
原子力発電所からの使用済み燃料を再処理することで生じる高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体、オーバーパック及び緩衝材からなる人工バリアに閉じ込められた状態で天然バリアである地下数百mの岩盤内に深地層処分することが予定されており、かかる処分施設においては、坑道掘削時に生じる湧水を確実に抑制できる信頼性が高いグラウチングが求められる。
グラウチングを行うにあたっては、要求性能に応じて多種多様なグラウト材料が開発されており、ダム工事で実績が豊富なセメント系グラウト材と、主剤と硬化剤との組み合わせによりゲルタイムを自在に調整可能でトンネル工事や地盤掘削工事あるいは地盤改良工事等で数多く採用されている非セメント系グラウト材に大別される。
ここで、非セメント系グラウト材としては、水ガラス溶液のアルカリ成分による使用環境への悪影響を防止すべく、酸による中和やイオン交換樹脂への通水によって水ガラス溶液のアルカリ分を除去してなる非アルカリ性の水ガラス溶液を主剤とした溶液型グラウトが開発されており、地層処分施設においても、アルカリ環境下では人工バリアの緩衝材を構成するベントナイトの膨潤性に問題が生じる懸念があることから、上述した非アルカリ性の水ガラス溶液を主剤とした溶液型グラウト材が検討されている。
特開2004−35584号公報 特開2000−63833号公報
非アルカリ性の水ガラス溶液には、水ガラス溶液中のアルカリ成分を酸で中和したシリカゾル(登録商標)や、イオン交換法で脱アルカリ増粒させた活性シリカ(コロイダルシリカ)が知られており、これらを主剤とした溶液型グラウトは、懸濁型グラウトであるセメント系グラウト材よりも浸透性に優れ、この点においても岩盤内の微細な亀裂に浸透し得る能力が要求される地層処分施設に適したものと言われている。
しかしながら、高レベル放射性廃棄物の地層処分施設では、上述したように高い止水性が要求されるところ、非アルカリ性の水ガラス溶液を主剤とした従来の溶液型グラウトは、セメント系グラウト材や水ガラス溶液を主剤とした非セメント系グラウト材に比べて強度が大幅に劣るため、地下水圧の上昇で破壊し、その結果、止水性能が低下する懸念があるという問題を生じていた。
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、高レベル放射性廃棄物の地層処分施設に適した浸透性及び強度を有する溶液型グラウト及びそれを用いたグラウト工法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る溶液型グラウトは請求項1に記載したように、非セメント系グラウト材であって、水ガラス溶液中のアルカリ成分を除去してなる非アルカリ性の水ガラス溶液を主剤とし、前記主剤に該主剤を硬化させる硬化剤と動植物由来のナノファイバーとが添加混合されてなるものである。
また、本発明に係る溶液型グラウトは、前記ナノファイバーを、径が10〜100nmのナノファイバーとしたものである。
また、本発明に係る溶液型グラウトは、前記ナノファイバーを、セルロースからなるナノファイバー又はキチンからなるナノファイバーとしたものである。
また、本発明に係る溶液型グラウトは、前記非アルカリ性の水ガラス溶液をコロイダルシリカとしたものである。
また、本発明に係る溶液型グラウトを用いたグラウト工法は、請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の溶液型グラウトを岩盤の亀裂に浸透注入するものである。
また、本発明に係る溶液型グラウトを用いたグラウト工法は、請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の溶液型グラウトを高レベル放射性廃棄物の地層処分施設を構成する人工バリア又は天然バリアの亀裂に浸透注入するものである。
コンクリートやモルタルの強度を高めることを目的として繊維を混入することは従来から知られており、グラウト材についても例えば、特開2011-144103号公報には直径12μm〜40μm、長さ3mm〜12mmの有機短繊維又は無機短繊維が混合されたグラウト材が、特開2011-088793号公報には短繊維長が1〜15mmの短繊維を含むグラウト材が、特開2008-247677号公報には繊維の直径が0.004〜0.15mmで長さが1〜20mmであるグラウト組成物が、特開2007-270470号公報には繊維長4〜10mmの短繊維を含むポリマーセメント系グラウト材が、特開2007-197298号公報には繊維径が0.1〜0.3mmでかつ繊維長が9〜16mmの有機系短繊維を含むセメント組成物が、特開2005-082416号公報には長さ3〜30mmの繊維物質を含むポリマーセメント組成物が、特開2003-247392号公報には直径が0.005〜1.0mm、且つ繊維長が2〜30mmの有機繊維が含有されたグラウトが、特開2001-253738号公報には直径8〜80μm、繊維長1〜20mmの繊維を含有するグラウト材が、特開2001-240452号公報には径0.005〜1.0mm、長さ2〜30mmの有機繊維を含む高強度グラウト材が、特開2001-214604号公報には径0.005〜1.0mm、長さ2〜30mmの有機繊維を含むフロアブルグラウトパッド工法用グラウト材が、特開平08-113938号公報には繊維長が8〜50mmの水膨潤性繊維を含む岩盤のグラウト材がそれぞれ開示されている。
しかしながら、主剤である非アルカリ性の水ガラス溶液に含有されるシリカ粒子あるいはコロイダルシリカ(シリカコロイド)の粒径がnmオーダーであるのに対し、上述した各公報記載の繊維は径がμmオーダー、長さがmmオーダーであって、シリカ粒子あるいはコロイダルシリカ(シリカコロイド)よりも10倍程度の太さとなる。
そのため、グラウト材の補強繊維として従来知られているものを非アルカリ性の水ガラス溶液に添加したところで、シリカ粒子あるいはコロイダルシリカとの絡み合いによる強度向上を期待することは困難であるとともに、このような繊維を添加したグラウト材では、岩盤の微細な亀裂に浸透させることがそもそも難しい。
加えて、微細な亀裂、特に亀裂開口幅が50μmを下回る岩盤亀裂に浸透可能なグラウト材として、非アルカリ性の水ガラス溶液を主剤とした溶液型グラウトが知られているものの、その強度は、セメント系グラウト材や水ガラス溶液を主剤とした非セメント系グラウト材に比べて大幅に劣るところ、繊維補強が可能かどうか、可能だとして具体的にどのような繊維が採用可能かといったことも含めて、強度を向上させるための手段は全く見出されていない。
本出願人は、かかる状況を踏まえつつ多数の試験を繰り返し行った結果、岩盤の微細な亀裂にも十分な浸透性を有しかつ従来よりも強度が改善された新規な溶液型グラウトを得るに至ったものである。
すなわち、本発明に係る溶液型グラウトは、水ガラス溶液中のアルカリ成分を除去してなる非アルカリ性の水ガラス溶液を主剤とし、この主剤に該主剤を硬化させる硬化剤と動植物由来のナノファイバーとが添加混合されてなる。
このようにすると、主剤である非アルカリ性の水ガラス溶液は、動植物由来のナノファイバーが含有される形で硬化するところ、ナノファイバーは、繊維径がnmオーダーであるため、主剤に含まれるシリカ粒子やコロイダルシリカと絡み合って繊維補強作用を発揮し、かくして溶液型グラウトの強度が大幅に向上する。
主剤は、水ガラス溶液中のアルカリ成分が除去されてなる非アルカリ性の水ガラス溶液であればどのようなものでもよく、例えば水ガラス溶液中のアルカリ分を酸による中和によって除去したものでもよいが、イオン交換法で脱アルカリ増粒した活性シリカ(コロイダルシリカ)で構成するようにすれば、耐久性及び安定性に優れた溶液型グラウトとすることができる。
動植物由来のナノファイバー、すなわちバイオナノファイバーは、セルロースナノファイバー(セルロースミクロフィブリル)又はキチンナノファイバーで構成することが可能であり、セルロースナノファイバーは、木材、パルプ、紙、布などの植物由来資源から、キチンナノファイバーは、甲殻類などの動物由来資源からそれぞれ公知の手段によって得ることができる。
ここで、動植物由来のナノファイバーは、径をnmオーダー、すなわち1μm未満とすることで、非アルカリ性の水ガラス溶液中に存在するシリカ粒子やコロイダルシリカと絡み合う限り、その具体的構成は問わないが、特に径が10〜100nmのナノファイバーとした場合においては、シリカ粒子やコロイダルシリカとの良好な絡み合いによって大幅な強度向上を期待することができる。
本発明に係る溶液型グラウトは、トンネル工事や地盤掘削工事あるいは地盤改良工事といった任意の土木建築工事におけるグラウチングに用いることができるが、主剤に含まれるシリカ粒子やコロイダルシリカあるいはナノファイバーといった構成要素がいずれもnmオーダーであるため、浸透性がきわめて高い。
そのため、岩盤の亀裂や高レベル放射性廃棄物の地層処分施設を構成する人工バリア又は天然バリアの亀裂に浸透注入するようにすれば、微細な亀裂であっても確実に止水性を確保することが可能となり、かくして施設の信頼性を大幅に高めることが可能となる。
溶液型グラウトに対する試験結果を示したグラフであり、(a)は横軸に繊維溶液の濃度を、(b)は横軸に材齢をとった場合の一軸圧縮強度をそれぞれ示したもの。 ケース3(0.6%濃度)の場合の溶液型グラウト1の電子顕微鏡写真。
以下、本発明に係る溶液型グラウト及びそれを用いたグラウト工法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
本実施形態に係る溶液型グラウトは、水ガラス溶液中のアルカリ成分を除去してなる非アルカリ性の水ガラス溶液としてのコロイダルシリカ溶液を主剤とし、この主剤に該主剤を硬化させる硬化剤と動植物由来のナノファイバーとしてのセルロースナノファイバーが添加混合されてなる。
コロイダルシリカ溶液は例えば、強化土エンジニアリング株式会社から「パーマロック(登録商標)AT」という商品名で販売されている活性シリカ溶液で構成することが可能であり、硬化剤は、同じく強化土エンジニアリング株式会社から「アクターα」という商品名で販売されている中性無機塩の硬化促進剤で構成することが可能である。
セルロースナノファイバーは例えば、パルプ等の植物繊維を超高圧ホモジナイザー処理でせん断力を加えることでミクロフィブリル化した10〜100nm径のセルロースナノファイバー、具体的にはダイセルファインケム株式会社から「セリッシュ」の商品名で販売されている微小繊維状セルロースを用いることができる。
本実施形態に係る溶液型グラウトを用いてグラウチングを行うには、まず、所要のゲルタイムに応じた量の硬化剤をセルロースナノファイバーが含まれた繊維溶液に添加し、次いで、これを主剤であるコロイダルシリカ溶液と混合することで溶液型グラウトを作製する。
次に、作製された溶液型グラウトを、岩盤の亀裂や高レベル放射性廃棄物の地層処分施設を構成する人工バリア又は天然バリアの亀裂に浸透注入する。
以上説明したように、本実施形態に係る溶液型グラウトによれば、主剤である非アルカリ性の水ガラス溶液は、セルロースナノファイバーが含有される形で硬化するが、かかるセルロースナノファイバーは、繊維径がnmオーダーであるため、主剤に含まれるシリカ粒子やコロイダルシリカと絡み合って繊維補強作用を発揮する。そのため、非アルカリ性の水ガラス溶液を用いた従来の溶液型グラウトに比べ、その強度を大幅に高めることが可能となる。
また、本実施形態に係る溶液型グラウトによれば、主剤を、イオン交換法で脱アルカリ増粒した活性シリカ(コロイダルシリカ)で構成するようにしたので、耐久性及び安定性に優れた溶液型グラウトとすることができる。
また、本実施形態に係る溶液型グラウトによれば、セルロースナノファイバーを、径が10〜100nmのセルロースナノファイバーで構成するようにしたので、シリカ粒子やコロイダルシリカとの絡み合いがさらに良好となり、かくして大幅な強度向上を期待することができる。
また、本実施形態に係る溶液型グラウトを用いたグラウト工法によれば、本実施形態に係る溶液型グラウトを、岩盤の亀裂や高レベル放射性廃棄物の地層処分施設を構成する人工バリア又は天然バリアの亀裂に浸透注入するようにしたので、微細な亀裂であっても確実に止水性を確保することが可能となり、かくして施設の信頼性を大幅に高めることが可能となる。
次に、溶液型グラウトに対して行った試験について説明する。
試験を行うにあたっては、木材パルプを、径が10〜100nm、アスペクト比(長さ/径)が50となるようにミクロフィブリル化してセルロースナノファイバーとし、このセルロースナノファイバーを、蒸留水中に解繊された繊維溶液として、主剤である「パーマロック(登録商標)AT」及び硬化促進剤である「アクターα」と混合した。
表1に配合を示す。
同表に示すケース1は、繊維溶液を添加しない標準配合溶液であって、120分後にせん断粘度が20mPa・s程度に達するように作製した。また、ケース2〜ケース5は、標準配合溶液中の水を、0.12濃度、0.6%濃度、1.0%濃度、1.2%濃度の繊維溶液にそれぞれ置換して作製した。
なお、標準配合溶液であるケース1については、硬化促進剤を水に添加混合してからこれを主剤と混合することで、繊維溶液が混合されたケース2〜ケース5については、硬化促進剤を繊維溶液に添加混合してからこれを主剤と混合することで、それぞれの溶液型グラウトを作製した。
表2は、混合直後の初期粘性を示したものである。同表でわかるように、初期粘性はいずれも20mPa・sを下回った。また、20mPa・sに達するまでに要した時間を計測した結果、約100分程度となった。これらのことから、作製した溶液型グラウトはいずれも、岩盤の亀裂、特に微細な岩盤亀裂への浸透注入に適した粘性であることがわかる。
一軸圧縮強度試験の結果を図1に示す。
ここで、図1(a)は横軸に繊維溶液の濃度を、図1(b)は横軸に材齢をとった場合の一軸圧縮強度をそれぞれ示したグラフであり、ケース3,4,5においては、ケース1,2よりも一軸圧縮強度が25%程度高くなることがわかる。
ここで、同グラフ中、ケース6と記したものは、ダイセルファインケム株式会社から「セリッシュ」の商品名で販売されている微小繊維状セルロースを1%濃度となるように調整したものであるが、その結果は、やはり1.0%濃度であるケース4とほぼ同等の結果となった。
これに対し、同グラフ中、ケース7と記したものは、「KCフロック(登録商標)」の名称で日本製紙ケミカル株式会社から販売されているセルロースパウダーを1%濃度に調整したものであるが、ケース1,2と同等の結果となった。
これは、上述のセルロースパウダーに含まれるセルロースナノファイバーがμmオーダーであるために、主剤への繊維補強作用が十分に発揮されなかったことによるものと思われる。
図2は、ケース3(0.6%濃度)の場合の溶液型グラウト1の電子顕微鏡写真である。同写真からわかるように、セルロースナノファイバー2がコロイダルシリカ3(スポンジ状に見える物質)に絡まって三次元網目構造が形成されており、これが強度向上に結びついていることが推測できる。
1 溶液型グラウト
2 セルロースナノファイバー(動植物由来のナノファイバー)
3 コロイダルシリカ(主剤)

Claims (7)

  1. 非セメント系グラウト材であって、水ガラス溶液中のアルカリ成分を除去してなる非アルカリ性の水ガラス溶液を主剤とし、前記主剤に該主剤を硬化させる硬化剤と動植物由来のナノファイバーとが添加混合されてなることを特徴とする溶液型グラウト。
  2. 初期粘性を20mPa・s未満とした請求項1記載の溶液型グラウト。
  3. 前記ナノファイバーを、径が10〜100nmのナノファイバーとした請求項1又は請求項2記載の溶液型グラウト。
  4. 前記ナノファイバーを、セルロースからなるナノファイバー又はキチンからなるナノファイバーとした請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の溶液型グラウト。
  5. 前記非アルカリ性の水ガラス溶液をコロイダルシリカとした請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の溶液型グラウト。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の溶液型グラウトを岩盤の亀裂に浸透注入することを特徴とするグラウト工法。
  7. 請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の溶液型グラウトを高レベル放射性廃棄物の地層処分施設を構成する人工バリア又は天然バリアの亀裂に浸透注入することを特徴とするグラウト工法。
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