以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る光ファイバレーザ装置について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
〔基本構成〕
まず、光ファイバレーザ装置の基本構成について説明する。図1は、光ファイバレーザ装置1000の基本構成を示す模式図である。図2〜図7は、光ファイバレーザ装置1000が備えるレーザ発振器100の構成例であり、図8〜図10は、光ファイバレーザ装置1000が備えるレーザ増幅器200の構成例である。また、図11は、光ファイバレーザ装置1000が備える出力側の監視部300の構成例であり、図12は、光ファイバレーザ装置1000が備える戻り光側の監視部400の構成例である。
図1に示されるように、光ファイバレーザ装置1000は、レーザ発振器100とレーザ増幅器200と出力側の監視部300と戻り光側の監視部400とを備えている。ただし、レーザ増幅器200は、必要に応じて追加すればよい構成であり、出力側の監視部300および戻り光側の監視部400は、いずれか一方または両方を備える構成とすることができる。
図1に示されるように、戻り光側の監視部400とレーザ発振器100とレーザ増幅器200と出力側の監視部300とは、それぞれが光ファイバ1001,1002,1003,1004,1005で繋がれている。光ファイバ1001,1002,1003,1004,1005は、例えば波長1000nm〜1200nmの光をシングルモードで伝搬するシングルモード光ファイバであるが、技術的観点に基づいて実質的には基本モードを伝搬しつつ、数個程度の低次モードを僅かに(例えば1%程度)伝搬する、いわゆるフューモード光ファイバやマルチモード光ファイバ等を要所的に用いても構わない。
次に、光ファイバレーザ装置1000が備えるレーザ発振器100の構成例について説明する。
(発振器の第1構成例)
図2は、第1構成例に係るレーザ発振器110を示す模式図である。図2に示されるように、第1構成例に係るレーザ発振器110は、増幅用光ファイバ111と、第1の光反射器112と、第2の光反射器113と、第1の励起光合波器114aと、第2の励起光合波器114bと、励起用光源115a,115b,115c,115dとを備えている。
図2に示されるように、第1構成例に係るレーザ発振器110は、いわゆる双方向励起型の構成を採用している。すなわち、第1構成例に係るレーザ発振器110は、第1の光反射器112の前段から、第1の光反射器112を介して増幅用光ファイバ111へ向かって前方に励起光を導入すると共に、第2の光反射器113の後段から、第2の光反射器113を介して増幅用光ファイバ111へ向かって後方に励起光を導入している。
第1の光反射器112の前段には、励起用光源115a,115bが出力する励起光を合波し、第1の光反射器112へ励起光を出力するための第1の励起光合波器114aが設けられ、第2の光反射器113の後段には、励起用光源115c,115dが出力する励起光を合波し、第2の光反射器113へ励起光を出力するための第2の励起光合波器114bが設けられている。
増幅用光ファイバ111は、石英系ガラスからなるコア部に増幅物質であるイッテルビウム(Yb)イオンが添加され、コア部の外周には石英系ガラスからなる内側クラッド層と樹脂等からなる外側クラッド層とが順次形成されたダブルクラッド型の光ファイバである。
第1の光反射器112および第2の光反射器113は、波長特性の異なる例えばファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)で構成されている。第1の光反射器112および第2の光反射器113は、波長1000nm〜1200nmの光をシングルモードで伝搬する特性のコアを有する光ファイバにおいて、そのコアに回折格子を設けることによって構成されている。
第1の光反射器112は、中心波長が例えば1084nmであり、中心波長およびその周辺の約2nmの幅の波長帯域における反射率が約100%である。また、励起光として波長915nmの光を用いる場合、第1の光反射器112は波長915nmの光はほとんど透過する特性を有する。一方、第2の光反射器113は、中心波長が第1の光反射器112と略同じの例えば1084nmであり、中心波長における反射率が10%〜30%程度であり、反射波長帯域の半値全幅が約1nmである。また、励起光として波長915nmの光を用いる場合、第2の光反射器113は波長915nmの光はほとんど透過する特性を有する。なお、波長915nmの励起光ではなく、例えば波長975nmの励起光を用いる場合、第1の光反射器112および第2の光反射器113は、波長975nmの光はほとんど透過する特性とすることが好ましい。
励起光合波器114a,114bは、例えばTFB(Tapered Fiber Bundle)によって構成されている。励起光合波器114a,114bは、それぞれが光ファイバからなるAシグナルポートとBシグナルポートと励起用光源に接続される複数の励起光用ポートとを備えている。ここで、Aシグナルポートとは、励起光用ポートからの入力が出力されるポートと定義し、BシグナルポートはAシグナルポートに対向するポートと定義する。なお、励起光合波器のポートの名称は、以下の本明細書中で同様の定義を採用する。
AシグナルポートおよびBシグナルポートの間にはコアが延伸しており、該コアはレーザ発振波長においてシングルモード伝搬特性を有することが好ましいが、いわゆるフューモード伝搬特性を有する構成であってもよい。
一方、励起光用ポートは、励起光波長においてマルチモード伝搬特性を有する(マルチモード)コアを備えた光ファイバで構成されている。各励起光用ポートを構成するマルチモード光ファイバは、そのマルチモードコアがAシグナルポートを構成する光ファイバのコアの周りを囲むように構成されている。
励起光合波器114a,114bのAシグナルポートは、Bシグナルポートから延伸しているコアがシングルモードコアに、各励起光用ポートから延伸しているコアが内側クラッドに結合するように、ダブルクラッド型の光ファイバに接続されている。これにより、光ファイバ1002、1003と光ファイバ共振器との間が、本実施形態においてはシングルモードで結合される。一方、各励起光用ポートに入力された励起光波長の光は、マルチモードで増幅用光ファイバ111の内側クラッドに結合する。
上記構成により、レーザ発振器110は、波長915nmの励起光が導入された場合に波長1084nmのレーザ光を発振し、当該レーザ光を光ファイバ1003へ出力する構成となる。
(発振器の第2構成例)
図3は、第2構成例に係るレーザ発振器120を示す模式図である。図3に示されるように、第2構成例に係るレーザ発振器120は、増幅用光ファイバ121と、第1の光反射器122と、第2の光反射器123と、励起光合波器124と、励起用光源125a,125bとを備えている。
図3に示されるように、第2構成例に係るレーザ発振器120は、いわゆる前方向励起型の構成を採用している。すなわち、第2構成例に係るレーザ発振器120は、第1の光反射器122の前段から、第1の光反射器122を介して増幅用光ファイバ121へ向かって前方に励起光を導入している。
第1の光反射器122の前段には、励起用光源125a,125bが出力する励起光を合波し、第1の光反射器122へ励起光を出力するための励起光合波器124が設けられている。
なお、増幅用光ファイバ121、第1の光反射器122、第2の光反射器123、および励起光合波器124の構成は、先述の第1構成例と同様である。
上記構成により、レーザ発振器120は、波長915nmの励起光が導入された場合に波長1084nmのレーザ光を発振し、当該レーザ光を光ファイバ1003へ出力する構成となる。
(発振器の第3構成例)
図4は、第3構成例に係るレーザ発振器130を示す模式図である。図4に示されるように、第3構成例に係るレーザ発振器130は、増幅用光ファイバ131と、第1の光反射器132と、第2の光反射器133と、励起光合波器134と、励起用光源135a,135bとを備えている。
図4に示されるように、第3構成例に係るレーザ発振器130は、いわゆる後方向励起型の構成を採用している。すなわち、第3構成例に係るレーザ発振器130は、第2の光反射器133の後段から、第2の光反射器133を介して増幅用光ファイバ131へ向かって後方に励起光を導入している。
第2の光反射器133の後段には、励起用光源135a,135bが出力する励起光を合波し、第2の光反射器133へ励起光を出力するための励起光合波器134が設けられている。
なお、増幅用光ファイバ131、第1の光反射器132、第2の光反射器133、および励起光合波器134の構成は、先述の第1構成例と同様である。
上記構成により、レーザ発振器130は、波長915nmの励起光が導入された場合に波長1084nmのレーザ光を発振し、当該レーザ光を光ファイバ1003へ出力する構成となる。
(発振器の第4構成例)
図5は、第4構成例に係るレーザ発振器140を示す模式図である。図5に示されるように、第4構成例に係るレーザ発振器140は、増幅用光ファイバ141と、第1の光反射器142と、第2の光反射器143と、第1の励起光合波器144aと、第2の励起光合波器144bと、励起用光源145a,145b,145c,145dとを備えている。
図5に示されるように、第4構成例に係るレーザ発振器140は、いわゆる双方向励起型の構成を採用している。しかしながら、第1構成例とは異なり、第4構成例に係るレーザ発振器140は、第1の光反射器142を介さず増幅用光ファイバ141へ向かって前方に励起光を導入すると共に、第2の光反射器143を介さず増幅用光ファイバ141へ向かって後方に励起光を導入している。
第1の光反射器142と増幅用光ファイバ141との間には、励起用光源145a,145bが出力する励起光を合波し、増幅用光ファイバ141へ励起光を出力するための第1の励起光合波器144aが設けられ、第2の光反射器143と増幅用光ファイバ141との間には、励起用光源145c,145dが出力する励起光を合波し、増幅用光ファイバ141へ励起光を出力するための第2の励起光合波器144bが設けられている。
なお、増幅用光ファイバ141、第1の光反射器142、第2の光反射器143、および、第1および第2の励起光合波器144a,144bの構成は、先述の第1構成例と同様である。
上記構成により、レーザ発振器140は、波長915nmの励起光が導入された場合に波長1084nmのレーザ光を発振し、当該レーザ光を光ファイバ1003へ出力する構成となる。
(発振器の第5構成例)
図6は、第5構成例に係るレーザ発振器150を示す模式図である。図6に示されるように、第5構成例に係るレーザ発振器150は、増幅用光ファイバ151と、第1の光反射器152と、第2の光反射器153と、励起光合波器154と励起用光源155a,155bとを備えている。
図6に示されるように、第5構成例に係るレーザ発振器150は、いわゆる前方向励起型の構成を採用している。しかしながら、第2構成例とは異なり、第5構成例に係るレーザ発振器150は、第1の光反射器152を介さず増幅用光ファイバ151へ向かって前方に励起光を導入している。
第1の光反射器152と増幅用光ファイバ151との間には、励起用光源155a,155bが出力する励起光を合波し、増幅用光ファイバ151へ励起光を出力するための励起光合波器154が設けられている。
なお、増幅用光ファイバ151、第1の光反射器152、第2の光反射器153、および励起光合波器154の構成は、先述の第1構成例と同様である。
上記構成により、レーザ発振器150は、波長915nmの励起光が導入された場合に波長1084nmのレーザ光を発振し、当該レーザ光を光ファイバ1003へ出力する構成となる。
(発振器の第6構成例)
図7は、第6構成例に係るレーザ発振器160を示す模式図である。図7に示されるように、第6構成例に係るレーザ発振器160は、増幅用光ファイバ161と、第1の光反射器162と、第2の光反射器163と、励起光合波器164と、励起用光源165a,165bとを備えている。
図7に示されるように、第6構成例に係るレーザ発振器160は、いわゆる後方向励起型の構成を採用している。しかしながら、第3構成例とは異なり、第6構成例に係るレーザ発振器160は、第2の光反射器163を介さず増幅用光ファイバ161へ向かって後方に励起光を導入している。
第2の光反射器163と増幅用光ファイバ161との間には、励起用光源165a,165bが出力する励起光を合波し、増幅用光ファイバ161へ励起光を出力するための励起光合波器164が設けられている。
なお、増幅用光ファイバ161、第1の光反射器162、第2の光反射器163、および励起光合波器164の構成は、先述の第1構成例と同様である。
上記構成により、レーザ発振器160は、波長915nmの励起光が導入された場合に波長1084nmのレーザ光を発振し、当該レーザ光を光ファイバ1003へ出力する構成となる。
次に、光ファイバレーザ装置1000が備えるレーザ増幅器200の構成例について説明する。
(増幅器の第1構成例)
図8は、第1構成例に係るレーザ増幅器210を示す模式図である。図8に示されるように、第1構成例に係るレーザ増幅器210は、増幅用光ファイバ211と、第1の励起光合波器212aと、第2の励起光合波器212bと、励起用光源213a,213b,213c,213dとを備えている。
第1構成例に係るレーザ増幅器210は、レーザ発振器が発振したレーザ光を増幅させるMOPA(Master Oscillator Power-Amplifier)構成を採用している。すなわち、レーザ増幅器210は、光ファイバ1003を介して入力されたレーザ光を増幅用光ファイバ211にて増幅し、増幅されたレーザ光を光ファイバ1004へ出力する構成を有する。
第1の励起光合波器212aおよび第2の励起光合波器212bは、例えば先述のTFBによって構成されている。光ファイバ1003は第1の励起光合波器212aのBシグナルポートに接続され、増幅用光ファイバ211は第1の励起光合波器212aのAシグナルポートに接続され、励起用光源213a,213bは第1の励起光合波器212aの励起光用ポートに接続されている。光ファイバ1004は第2の励起光合波器212bのBシグナルポートに接続され、増幅用光ファイバ211は第2の励起光合波器212bのAシグナルポートに接続され、励起用光源213c,213dは第2の励起光合波器212bの励起光用ポートに接続されている。
上記構成により、光ファイバ1003から入力されたレーザ光は、励起用光源213a,213b,213c,213dから入力された励起光の作用により、増幅用光ファイバ211にて増幅され、光ファイバ1004へ出力される。
(増幅器の第2構成例)
図9は、第2構成例に係るレーザ増幅器220を示す模式図である。図9に示されるように、第2構成例に係るレーザ増幅器220は、増幅用光ファイバ221と、励起光合波器222と、励起用光源223a,223bとを備えている。
第2構成例に係るレーザ増幅器220は、レーザ発振器が発振したレーザ光を増幅させるMOPA構成を採用している。すなわち、レーザ増幅器220は、光ファイバ1003を介して入力されたレーザ光を増幅用光ファイバ221にて増幅し、増幅されたレーザ光を光ファイバ1004へ出力する構成を有する。
励起光合波器222は、例えば先述のTFBによって構成されている。光ファイバ1003は励起光合波器222のBシグナルポートに接続され、増幅用光ファイバ221は励起光合波器222のAシグナルポートに接続され、励起用光源223a,223bは励起光合波器222の励起光用ポートに接続されている。光ファイバ1004は増幅用光ファイバ221に接続されている。
上記構成により、光ファイバ1003から入力されたレーザ光は、励起用光源223a,223bから入力された励起光の作用により、増幅用光ファイバ221にて増幅され、光ファイバ1004へ出力される。
(増幅器の第3構成例)
図10は、第3構成例に係るレーザ増幅器230を示す模式図である。図10に示されるように、第3構成例に係るレーザ増幅器230は、増幅用光ファイバ231と、励起光合波器232と、励起用光源233a,233bとを備えている。
第3構成例に係るレーザ増幅器230は、レーザ発振器が発振したレーザ光を増幅させるMOPA構成を採用している。すなわち、レーザ増幅器230は、光ファイバ1003を介して入力されたレーザ光を増幅用光ファイバ231にて増幅し、増幅されたレーザ光を光ファイバ1004へ出力する構成を有する。
励起光合波器232は、例えば先述のTFBによって構成されている。光ファイバ1003は増幅用光ファイバ231に接続されている。光ファイバ1004は励起光合波器232のBシグナルポートに接続され、増幅用光ファイバ231は励起光合波器232のAシグナルポートに接続され、励起用光源233a,233bは励起光合波器232の励起光用ポートに接続されている。
上記構成により、光ファイバ1003から入力されたレーザ光は、励起用光源233a,233bから入力された励起光の作用により、増幅用光ファイバ231にて増幅され、光ファイバ1004へ出力される。
(監視部の構成例)
ここで、図11および図12を参照しながら、光ファイバレーザ装置1000が備える出力側の監視部300および戻り光側の監視部400の構成例の説明を行う。
図11に示される監視部310は、レーザ光の出力を監視するための典型的な構成を概略的に示したものである。監視部310は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子311と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器312と、分岐素子311と検出器312とを接続する光ファイバ313とを備えている。
光ファイバ1004を介して分岐素子311に入力されたレーザ光は、所定の分岐比で分岐され、光ファイバ1005と光ファイバ313とに出力される。ここで、光ファイバ1005に出力されるレーザ光が装置の出力レーザ光となり、光ファイバ313に出力されるレーザ光が検出に用いられる検出レーザ光となる。したがって、光ファイバ1004に接続されている分岐素子311のポートを入力ポートと呼び、光ファイバ1005に接続されている分岐素子311のポートを出力ポートと呼び、光ファイバ313に接続されている分岐素子311のポートを検出ポートと呼ぶものとする。以下、他の分岐素子のポートについても同様の呼び名を定義する。
分岐素子311に入力されるレーザ光の強度をPiとし、分岐素子311の分岐比をt:aとした場合、理想的には、光ファイバ1005に出力されるレーザ光の強度はPo=t*Piとなり、光ファイバ313に出力されるレーザ光の強度はPd=a*Piとなる。
そこで、レーザ光の強度Pdを検出器312にて測定すれば、光ファイバ1005に出力されるレーザ光の強度Poは、Po=Pd*t/aとして算出できる。
また、検出器312が出力する光電流は、理想的には、光ファイバ313から検出器312に入力されるレーザ光の強度に比例する。つまり、検出器312の感度を示す係数をsとし、光電流をIdとした場合、光ファイバ1005に出力されるレーザ光の強度Poは、Po=Id*s*t/aとなる。
なお、戻り光の検出についても同様な関係が成り立つ。図12に示される監視部410は、レーザ光の出力を監視するための典型的な構成を概略的に示したものである。すなわち、監視部410は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子411と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器412と、分岐素子411と検出器412とを接続する光ファイバ413とを備えている。
この場合も、分岐素子411に入力される戻り光の強度Pbは、Pr=t*PbとPd=a*Pbに分岐されるので、検出器412でレーザ光の強度Pdを測定すれば、光ファイバ1001に出力される戻り光の強度Prは、Pr=Pd*t/aとして算出できる。また、検出器412の感度を示す係数をsとし、光電流をIdとした場合、光ファイバ1005に出力される戻り光の強度Prは、Pr=Id*s*t/aとなる。
以上は、理想的な条件の下、レーザ光の強度を計算したが、例えばレーザ発振器100が出力するレーザ光の波長が複数である場合、上記の計算が成立しなくなる。
以下に、レーザ発振器100が出力するレーザ光の波長が複数である場合の例として、誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)が発生している場合を考える。
SRSとは、非線形光学現象の一つであり、強度が高められたレーザ光が光ファイバ中を伝搬することによって発生する。このSRS光は、本来のレーザ光の主成分と比較しても数割程度まで大きく発生することがあり、このSRS光を含めたレーザ光を出力を正確に測定することが重要である。
例えば、上記説明した構成例のように、Ybドープファイバを利得媒体に用い、波長915nmの励起光で励起して波長1084nmのレーザ発振を行うレーザ発振器を用いた場合、SRS光は、波長1135nm付近に発生する。なお、励起光の波長は例えば915nmや975nmがあり、これに対応して発振波長は例えば1070nmや1084nmとなる(1030〜1120nm)。SRS光はレーザ発振器の発振波長に応じて変化するので、以下で用いる波長は一例として捉えるべきものである。
図13は、分岐素子311が波長依存性を持つ場合の問題点を示す図である。図13は、上記説明した監視部310における分岐素子311が波長依存性を持つ場合に、本来のレーザ光の主成分(以下、これをシグナル光という)とSRS光が監視部310に入力されたことを想定している。ここで、シグナル光の波長をλ1とし、SRS光の波長をλ2とする。なお、別段の断りのない限り、シグナル光の波長をλ1とし、SRS光の波長をλ2として、以下の説明および図面中で用いる。
図13(a)は、監視部310の構成にシグナル光とSRS光とが入力された場合、分岐素子311がレーザ光をどのように分岐するかを示している。図13(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図13(c)は、分岐素子311における入力ポートから出力ポートについての波長に関する透過率分布を示している。図13(d)は、分岐素子311における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布を示している。
図13(c)と図13(d)とを比較すると解るように、入力ポートから出力ポートに関する分岐素子311の透過率t(λ1),t(λ2)は、シグナル光とSRS光とで略等しいが、入力ポートから検出ポートに関する分岐素子311の透過率a(λ1),a(λ2)は、シグナル光とSRS光とで異なる。これは、一般に分岐素子311が出力ポートと検出ポートの透過率の比が999:1や9999:1などの大きな比を有するために、検出ポートの透過率の方が、出力ポートの透過率よりも、波長依存性の差異の影響を大きく受けるからである。
図13(e)は、図13(c)に示される透過率を有する分岐素子311を、シグナル光とSRS光とが合成されたレーザ光が透過した結果のレーザ光の強度分布を示している。図13(a)に示されるように、シグナル光とSRS光とが合成されたレーザ光の強度は、Pi=P(λ1)+P(λ2)であり、シグナル光とSRS光とに透過率t(λ1),t(λ2)が作用し、光ファイバ1005へ出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)となる。ここで、t(λ1)≒t(λ2)≒1であるので、入力されたレーザ光の強度Piと出力されるレーザ光の強度Poとは略等しくなる。
一方、光ファイバ313へ出力されるレーザ光の場合、状況が異なる。図13(f)は、図13(d)に示される透過率を有する分岐素子311を、シグナル光とSRS光とが合成されたレーザ光が透過した結果のレーザ光の強度分布を示している。図13(a)に示されるように、シグナル光とSRS光とが合成されたレーザ光の強度は、Pi=P(λ1)+P(λ2)であり、シグナル光とSRS光とに透過率a(λ1),a(λ2)が作用し、光ファイバ313へ出力されるレーザ光の強度はPd=a(λ1)P(λ1)+a(λ2)P(λ2)となる。ここで、a(λ1)とa(λ2)は異なるので、入力されたレーザ光の強度Piと出力されるレーザ光の強度Pdとは相似形にならない。つまり、検出器312で測定されるレーザ光の強度Pdを定数倍しても、光ファイバ1005へ出力されるレーザ光の強度Poを計算することができない。
以上のように、分岐素子311が波長依存性を持つ場合には、光ファイバ1005へ出力されるレーザ光の強度Poを正確に計算することができないという問題が発生する。
また、検出器312の感度が波長依存性を持つ場合にも、同様の問題が発生する。
図14は、検出器312が波長依存性を持つ場合の問題点を示す図である。図14は、上記説明した監視部310における分岐素子311が波長依存性を持つ場合に、シグナル光とSRS光とが監視部310に入力されたことを想定している。
図14(a)は、監視部310にシグナル光とSRS光とが入力された場合、検出器312が出力する光電流の様子を示している。図14(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図14(c)は、分岐素子311における入力ポートから出力ポートについての波長に関する透過率分布を示している。図14(d)は、検出器312の分光感度を示している。
図14(d)に示されるように、光ファイバ313から入力されたレーザ光に対する検出器312の感度s(λ1),s(λ2)は、シグナル光とSRS光とで異なる。これは、検出器312の受光素子の物性に起因するものであり、ある程度は不可避的に発生してしまう特性である。図15および図16は、それぞれシリコン(Si)およびインジウムガリウムヒ素(InGaAs)を受光素子に用いたフォトダイオードの分光感度を示している。なお、図15では、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に感度の最大値を1にした相対感度を示し、図16では、横軸に波長(μm)を示し、縦軸には入射光量(W)に対する光電流(A)である。
図15に示されるように、Siを用いたフォトダイオードの場合、シグナル光の波長(1084nm)とSRS光の波長(1135nm)との間で感度が大きく異なる。図15に示される例では、波長(1084nm)での感度は、波長(1135nm)での感度よりも数倍〜十倍程度大きい。また、図16に示されるように、InGaAsを用いたフォトダイオードの場合も、シグナル光の波長(1084nm)とSRS光の波長(1135nm)との間で感度が異なる。図16に示される例では、波長(1084nm)での感度は、波長(1135nm)での感度よりも数割程度小さい。
以上のように、Ybドープの利得媒体によるファイバレーザの場合、シグナル光とSRS光とを含む波長域において、Siを用いたフォトダイオードでは、波長に対し感度が負のスロープを有し(s(λ1)>s(λ2))、InGaAsを用いたフォトダイオードでは、波長に対し感度が正のスロープを有する(s(λ1)<s(λ2))。なお、受光素子の種類に依存してスロープの正負は異なるが、他の受光素子を用いても、一般にシグナル光の波長とSRS光の波長との間で検出器312の感度が異なる。
ここで、図14の説明に戻る。図14(e)は、図14(c)に示される透過率を有する分岐素子311を、シグナル光とSRS光とが合成されたレーザ光が透過した結果のレーザ光の強度分布を示している。一方、図14(f)は、図14(d)に示される分光感度を有する検出器312における、光ファイバ313から入力されるレーザ光に対する光電流の強度を示している。図14(a)に示されるように、分岐素子311から光ファイバ313を介して検出器312へ入力されるレーザ光の強度Pdに対し、シグナル光とSRS光とにおける感度s(λ1),s(λ2)が作用するので、検出器312が出力する光電流は、Id=s(λ1)Pd(λ1)+s(λ2)Pd(λ2)となる。
この場合もやはり、s(λ1)とs(λ2)とは異なるので、検出器312が出力する光電流の強度Idを定数倍しても、光ファイバ1005へ出力されるレーザ光の強度Poを計算することができないという問題が発生する。
以下、上記説明した問題点を解決する実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
第1実施形態は、シグナル光とSRS光とにおいて、分岐素子における分岐比を同じにするものである。
(第1実施例)
図17は、第1実施例の光ファイバレーザ装置における監視部320を示す図である。図17(a)に示されるように、監視部320は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子321と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器322と、分岐素子321と検出器322とを接続する光ファイバ323とを備えている。分岐素子321は、光ファイバ1004を入力ポートに接続し、光ファイバ1005を出力ポートに接続し、光ファイバ323を検出ポートに接続している。
入力ポートから出力ポートに関する透過率を、シグナル光およびSRS光のそれぞれに対して、t(λ1)およびt(λ2)とする。また、入力ポートから検出ポートに関する透過率を、シグナル光およびSRS光のそれぞれに対して、a(λ1)およびa(λ2)とする。このとき、光ファイバ1004から入力されるシグナル光とSRS光との合成光の強度がPi=P(λ1)+P(λ2)とすると、分岐素子321から光ファイバ1005へ出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)であり、分岐素子321から光ファイバ323へ出力されるレーザ光の強度はPd=a(λ1)P(λ1)+a(λ2)P(λ2)である。
ここで、分岐素子321は、シグナル光とSRS光との波長で同じ分岐とするのが好ましい。すなわち、透過率t(λ1)およびt(λ2)と透過率a(λ1)およびa(λ2)において、a(λ1):t(λ1)=a(λ2):t(λ2)となることが好ましい。典型的には、透過率t(λ1)およびt(λ2)は、t(λ1)≒t(λ2)≒1であり、したがって、透過率a(λ1)およびa(λ2)は、a(λ1)=a(λ2)となる。なお、理想的には、光ファイバ1004から光ファイバ323への透過率は、シグナル光とSRS光との間の波長域で平坦であることが望ましい。
また、例えばInGaAsを用いたフォトダイオードを用いた場合、シグナル光とSRS光との波長間における検出器322の感度差は、それ程大きくはない。そこで、検出器322へ入力されるレーザ光の強度を、検出器322が出力する光電流から計算する。
図17(b)〜図17(f)は、上記説明した監視部320におけるレーザ光の分岐の様子を示している。図17(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図17(c)は、分岐素子321における入力ポートから出力ポートについての波長に関する透過率分布を示している。図17(d)は、分岐素子321における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布を示している。
図17(e)は、図17(c)に示される透過率を有する分岐素子321を、シグナル光とSRS光とが合成されたレーザ光が透過した結果のレーザ光の強度分布を示している。図17(f)は、図17(d)に示される透過率を有する分岐素子321を、シグナル光とSRS光とが合成されたレーザ光が透過した結果のレーザ光の強度分布を示している。
図17(c)および図17(d)に示されるように、透過率t(λ1)とt(λ2)とが等しく、透過率a(λ1)とa(λ2)とが等しいので、図17(e)および図17(f)に示されるレーザ光の強度分布は相似形となっている。すなわち、検出器322に入力されるレーザ光の強度Pd=a(λ1)P(λ1)+a(λ2)P(λ2)が測定されれば、その強度Pdを定数倍することにより、分岐素子321の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Po=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)を求めることができる。
ところで、上述のように、例えばInGaAsを用いたフォトダイオードを用いた場合、シグナル光とSRS光との波長間における検出器322の感度差は、それ程大きくはないので、検出器322が出力する光電流の強度Idから強度Poを計算することができる。結果として、検出器322が出力する光電流の強度Idを用いて、分岐素子321の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Poを求めることができる。
(第2実施例)
図18は、第2実施例の光ファイバレーザ装置における監視部330を示す図である。図18(a)に示されるように、監視部330は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子331と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器332と、分岐素子331と検出器332とを接続する光ファイバ333とを備えている。分岐素子331は、光ファイバ1004を入力ポートに接続し、光ファイバ1005を出力ポートに接続し、光ファイバ333を検出ポートに接続している。
なお、第2実施例と同様に、分岐素子331の透過率をt(λ1),t(λ2),a(λ1),a(λ2)と定義し、分岐素子331の入力ポートに入力するレーザ光の強度をPi=P(λ1)+P(λ2)とすると、出力ポートから出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)であり、検出ポートへ出力されるレーザ光の強度はPd=a(λ1)P(λ1)+a(λ2)P(λ2)である。
図18(b)〜図18(e)は、監視部330におけるレーザ光の分岐の様子を示している。図18(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図18(c)および(d)は、分岐素子331における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布の例を示している。
TAPカプラやWDMカプラなど分岐素子331では、透過率の波長依存性が、波長に関して周期性を持つ。そこで、第2実施例では、この波長に関する透過率の周期性を利用して、シグナル光の波長とSRS光の波長との透過率差を調整する。
図18(c)に示されるように、波長に関する透過率の周期性を利用する一つの方法として、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2との間、好ましくは中間に透過率の極値を設定する方法がある。なお、この場合の極値は極小値であっても極大値であっても構わない。このように透過率の極値を設定することによって、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とでは、透過率a(λ1)とa(λ2)とが略等しくなる。
また、図18(d)に示されるように、波長に関する透過率の周期性を利用する一つの方法として、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2との少なくとも一方、またはそれぞれを極値に設定する方法がある。なお、極小値または極大値の種別は、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とで種別を一致させるものとする。このように透過率の極値を設定することによって、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とでは、透過率a(λ1)とa(λ2)とが略等しくなる。
以上のように、波長に関する透過率の周期性を利用して、λ1およびλ2以外の波長、例えばλ1とλ2の間の波長における透過率を異ならせ、波長依存性を残存させることにより、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とにおける透過率a(λ1)とa(λ2)とを略等しくする。その結果、t(λ1)≒t(λ2)≒1なので、a(λ1):a(λ2)=t(λ1):t(λ2)が満たされることになり、波長依存性を有する分岐素子331を用いた場合でも、比較的容易にλ1とλ2の透過率を略一致させることができる。
このことは、検出器332に入力されるレーザ光の強度Pd=a(λ1)P(λ1)+a(λ2)P(λ2)が測定されれば、この強度Pdを定数倍することにより、分岐素子331の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Po=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)を求めることができることを意味する。
その後、第1実施例と同様に、検出器332が出力する光電流の強度Idから検出器332へ入力されるレーザ光の強度を計算することができる。結果として、検出器332が出力する光電流の強度Idを用いて、分岐素子331の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Poを求めることができる。
なお、TAPカプラやWDMカプラとして、複数のファイバを近接させた状態で融着後に溶融延伸して製作されるファイバ溶融型カプラを用いることで、耐パワー性が高く所望の波長特性を有するものを比較的容易に得ることができる。また、このようなTAPカプラやWDMカプラにおいては、シグナル光の波長とSRS光の波長とにおいてのみ上記関係を満足しているものは、より容易に製造することができる。
(第3実施例)
図19は、第3実施例の光ファイバレーザ装置における監視部340を示す図である。図19(a)に示されるように、監視部340は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子341と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器342と、分岐素子341と検出器342との間に配置されたもう一つの分岐素子343と、分岐素子341と分岐素子343とを接続する光ファイバ344と、分岐素子343と検出器342とを接続する光ファイバ345とを備えている。分岐素子341は、光ファイバ1004を入力ポートに接続し、光ファイバ1005を出力ポートに接続し、光ファイバ344を検出ポートに接続している。
ここで、第1実施例と同様に、分岐素子341の透過率をt(λ1),t(λ2),a(λ1),a(λ2)と定義し、さらに、分岐素子343における光ファイバ344から光ファイバ345へ(検出ポート)の透過率をb(λ1),b(λ2)と定義する。以上の定義によれば、分岐素子341の入力ポートに入力するレーザ光の強度をPi=P(λ1)+P(λ2)とすると、分岐素子341の出力ポートに出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)であり、光ファイバ345に出力されるレーザ光の強度はPd=a(λ1)b(λ1)P(λ1)+a(λ2)b(λ2)P(λ2)である。
図19(b)〜図19(g)は、監視部340におけるレーザ光の分岐の様子を示している。図19(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図19(c)および(d)は、分岐素子341における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布の例を示している。図19(e)〜(g)は、分岐素子343における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布の例を示している。
第3実施例では、分岐素子341と分岐素子343とで波長依存性を相殺することにより、シグナル光の波長とSRS光の波長との透過率差を調整する。
例えば、分岐素子341の検出ポートの透過率が図19(c)に示されるような波長依存性を有している場合、例えば、図19(e)または(f)に示されるような波長依存性を有している分岐素子343と組み合わせることにより、a(λ1)b(λ1)=a(λ2)b(λ2)とし得る。なお、図19(e)に示される波長依存性は、相互にb(λ1)とb(λ2)とが一致しているので、実線で示された透過率であっても破線で示された透過率であっても構わない。
以上のように、分岐素子341と分岐素子343とを組み合わせて、λ1とλ2における透過率波長依存性を相殺し、λ1およびλ2以外の波長、例えばλ1とλ2の間における透過率を異ならせ波長依存性を残存させるようにして、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とにおける透過率a(λ1)b(λ1)とa(λ2)b(λ2)とを略等しくする。結果、t(λ1)≒t(λ2)≒1なので、a(λ1)b(λ1):a(λ2)b(λ2)=t(λ1):t(λ2)となり、波長依存性を有する分岐素子341,343を用いた場合でも比較的容易にλ1およびλ2の透過率を略一致させることができる。
このことは、検出器342に入力されるレーザ光の強度Pd=a(λ1)b(λ1)P(λ1)+a(λ2)b(λ2)P(λ2)が測定されれば、この強度Pdを定数倍することにより、分岐素子341の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Po=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)を求めることができることを意味する。
その後、第1実施例と同様に、検出器342が出力する光電流の強度Idから検出器342へ入力されるレーザ光の強度を計算することができる。結果として、検出器342が出力する光電流の強度Idを用いて、分岐素子341の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Poを求めることができる。
なお、分岐素子341と分岐素子343とで波長依存性の組み合わせとして、シグナル光の波長λ1の近傍における分岐素子341および分岐素子343の透過率の傾きは、正負が反対であることが好ましい。同様に、SRS光の波長λ2の近傍における分岐素子341および分岐素子343の透過率の傾きは、正負が反対であることが好ましい。分岐素子341と分岐素子343とで透過率を掛け合わせた後の透過率の傾きがより小さくなるからである。
(第4実施例)
図20は、第4実施例の光ファイバレーザ装置における監視部350を示す図である。図20(a)に示されるように、監視部350は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子351と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器352と、分岐素子351と検出器352との間に配置されたもう一つの光学フィルタ353と、分岐素子351と光学フィルタ353とを接続する光ファイバ354と、光学フィルタ353と検出器352とを接続する光ファイバ355とを備えている。分岐素子351は、光ファイバ1004を入力ポートに接続し、光ファイバ1005を出力ポートに接続し、光ファイバ354を検出ポートに接続している。
ここで、第1実施例と同様に、分岐素子351の透過率をt(λ1),t(λ2),a(λ1),a(λ2)と定義し、さらに、光学フィルタ353の透過率をb(λ1),b(λ2)と定義する。以上の定義によれば、分岐素子351の入力ポートに入力するレーザ光の強度をPi=P(λ1)+P(λ2)とすると、分岐素子351の出力ポートに出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)であり、光ファイバ355に出力されるレーザ光の強度はPd=a(λ1)b(λ1)P(λ1)+a(λ2)b(λ2)P(λ2)である。
図20(b)〜図20(g)は、監視部350におけるレーザ光の分岐の様子を示している。図20(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図20(c)および(d)は、分岐素子351における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布の例を示している。図20(e)〜(g)は、光学フィルタ353における波長に関する透過率分布の例を示している。
第4実施例では、分岐素子351の波長依存性と光学フィルタ353の波長特性とを相殺することにより、シグナル光の波長とSRS光の波長との透過率差を調整する。
例えば、分岐素子351の検出ポートの透過率が図20(c)に示されるような波長依存性を有している場合、例えば、図20(e)または(f)に示されるような波長特性を有している光学フィルタ353と組み合わせることにより、a(λ1)b(λ1)=a(λ2)b(λ2)とし得る。なお、図20(e)に示される波長依存性は、相互にb(λ1)とb(λ2)とが一致しているので、実線で示された透過率であっても破線で示された透過率であっても構わない。
以上のように、分岐素子351の波長依存性と光学フィルタ353の波長特性とを組み合わせて、λ1およびλ2における透過率を相殺し、λ1およびλ2以外の波長、例えばλ1とλ2の間の波長における透過率を異ならせ、波長依存性を残存させることにより、すべての波長域での透過率が等しくなるわけではないが、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とにおける透過率a(λ1)b(λ1)とa(λ2)b(λ2)とを略等しくする。その結果、t(λ1)≒t(λ2)≒1なので、a(λ1)b(λ1):a(λ2)b(λ2)=t(λ1):t(λ2)が満たされることになり、波長依存性を有する分岐素子351を用いた場合でも比較的容易にλ1およびλ2の透過率を略一致させることができる。
したがって、第3実施例と同様に、検出器352が出力する光電流の強度Idを用いて、分岐素子351の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Poを求めることができる。
〔第2実施形態〕
第2実施形態は、第1実施形態に加えて検出器の分光感度の影響を考慮する。
(第5実施例)
図21は、第5実施例の光ファイバレーザ装置における監視部360を示す図である。図21(a)に示されるように、監視部360は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子361と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器362と、分岐素子361と検出器362との間に配置されたもう一つの分岐素子363と、分岐素子361と分岐素子363とを接続する光ファイバ364と、分岐素子363と検出器362とを接続する光ファイバ365とを備えている。分岐素子361は、光ファイバ1004を入力ポートに接続し、光ファイバ1005を出力ポートに接続し、光ファイバ364を検出ポートに接続している。
ここで、第3実施例と同様に、分岐素子361および分岐素子363の透過率をt(λ1),t(λ2),a(λ1),a(λ2),b(λ1),b(λ2)と定義し、さらに、検出器362の分光感度をs(λ1),s(λ2)と定義する。以上の定義によれば、分岐素子361の入力ポートに入力するレーザ光の強度をPi=P(λ1)+P(λ2)とすると、分岐素子361の出力ポートに出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)であり、検出器362が出力する光電流の強度はId=a(λ1)b(λ1)s(λ1)P(λ1)+a(λ2)b(λ2)s(λ2)P(λ2)である。
図21(b)〜図21(g)は、監視部360におけるレーザ光の分岐の様子を示している。図21(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図21(c)および(d)は、分岐素子361における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布の例を示している。図21(e)および(f)は、分岐素子363における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布の例を示している。図21(g)および(h)は、検出器362の分光感度を示している。
第5実施例では、分岐素子361と分岐素子363と検出器362とで波長依存性を相殺することにより、シグナル光の波長とSRS光の波長との透過率差を調整する。
例えば、分岐素子361の検出ポートの透過率が図21(c)に示されるような波長依存性を有している場合、例えば、図21(e)または(f)に示されるような波長依存性を有している分岐素子363と、さらに、例えば、図21(g)または(h)に示されるような分光感度を有している検出器362とを組み合わせることにより、a(λ1)b(λ1)s(λ1)=a(λ2)b(λ2)s(λ2)とし得る。なお、図21(e)〜(g)に示される波長依存性は、相互にb(λ1)とb(λ2)とまたはs(λ1)とs(λ2)とが一致しているので、実線で示された透過率であっても破線で示された透過率であっても構わない。
以上のように、分岐素子361と分岐素子363と検出器362とを組み合わせてλ1とλ2における透過率の波長依存性を相殺して、λ1およびλ2以外の波長、例えばλ1とλ2の間の波長における透過率を異ならせ、波長依存性を残存させることにより、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とにおける透過率a(λ1)b(λ1)s(λ1)とa(λ2)b(λ2)s(λ2)とを略等しくする。結果、t(λ1)≒t(λ2)≒1なので、a(λ1)b(λ1)s(λ1):a(λ2)b(λ2)s(λ2)=t(λ1):t(λ2)が満たされることになり、波長依存性を有する分岐素子361,363を用いた場合でも比較的容易にλ1およびλ2の透過率を略一致させることができる。
このことは、検出器362が出力する光電流の強度Id=a(λ1)b(λ1)s(λ1)P(λ1)+a(λ2)b(λ2)s(λ2)P(λ2)が測定されれば、この強度Idを定数倍することにより、分岐素子361の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Po=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)を求めることができることを意味する。
以上の構成によれば、検出器362が出力する光電流の強度Idを定数倍すれば、直接的に分岐素子361の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Poを求めることができるので、第1実施形態よりも計算が容易である。
(第6実施例)
図22は、第6実施例の光ファイバレーザ装置における監視部370を示す図である。図22(a)に示されるように、監視部370は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子371と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器372と、分岐素子371と検出器372との間に配置された光学フィルタ373と、分岐素子371と光学フィルタ373とを接続する光ファイバ374と、光学フィルタ373と検出器372とを接続する光ファイバ375とを備えている。分岐素子371は、光ファイバ1004を入力ポートに接続し、光ファイバ1005を出力ポートに接続し、光ファイバ374を検出ポートに接続している。
ここで、第4実施例と同様に、分岐素子371および光学フィルタ373の透過率をt(λ1),t(λ2),a(λ1),a(λ2),b(λ1),b(λ2)と定義し、さらに、検出器372の分光感度をs(λ1),s(λ2)と定義する。以上の定義によれば、分岐素子371の入力ポートに入力するレーザ光の強度をPi=P(λ1)+P(λ2)とすると、分岐素子371の出力ポートに出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)であり、検出器372が出力する光電流の強度はId=a(λ1)b(λ1)s(λ1)P(λ1)+a(λ2)b(λ2)s(λ2)P(λ2)である。
図22(b)〜図22(g)は、監視部370におけるレーザ光の分岐の様子を示している。図22(b)は、シグナル光の強度P(λ1)およびSRS光の強度P(λ2)の分布を示している。図22(c)および(d)は、分岐素子371における入力ポートから検出ポートについての波長に関する透過率分布の例を示している。図22(e)および(f)は、光学フィルタ373における波長に関する透過率分布の例を示している。図22(g)および(h)は、検出器372の分光感度を示している。
第6実施例では、分岐素子371と光学フィルタ373と検出器372とで波長依存性を相殺することにより、シグナル光の波長とSRS光の波長との透過率差を調整する。
例えば、分岐素子371の検出ポートの透過率が図22(c)に示されるような波長依存性を有している場合、例えば、図22(e)または(f)に示されるような波長特性を有している光学フィルタ373と、さらに、例えば、図21(g)または(h)に示されるような分光感度を有している検出器372とを組み合わせることにより、a(λ1)b(λ1)s(λ1)=a(λ2)b(λ2)s(λ2)とし得る。なお、図22(e)〜(g)に示される波長依存性は、相互にb(λ1)とb(λ2)とまたはs(λ1)とs(λ2)とが一致しているので、実線で示された透過率であっても破線で示された透過率であっても構わない。
以上のように、分岐素子371と光学フィルタ373と検出器372とを組み合わせてλ1およびλ2における透過率の波長依存性を相殺して、λ1およびλ2以外の波長、例えばλ1とλ2の間の波長における透過率を異ならせ、波長依存性を残存させることにより、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とにおける透過率a(λ1)b(λ1)s(λ1)とa(λ2)b(λ2)s(λ2)とを略等しくする。結果、t(λ1)≒t(λ2)≒1なので、a(λ1)b(λ1)s(λ1):a(λ2)b(λ2)s(λ2)=t(λ1):t(λ2)が満たされることになり、波長依存性を有する分岐素子371を用いた場合でも比較的容易にλ1およびλ2の透過率を略一致させることができる。
このことは、検出器372が出力する光電流の強度Id=a(λ1)b(λ1)s(λ1)P(λ1)+a(λ2)b(λ2)s(λ2)P(λ2)が測定されれば、この強度Idを定数倍することにより、分岐素子371の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Po=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)を求めることができることを意味する。
(第7実施例)
図23は、第7実施例の光ファイバレーザ装置における監視部380を示す図である。図23(a)に示されるように、監視部380は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子381と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器382と、分岐素子381と検出器382とを接続する光ファイバ383とを備えている。分岐素子381は、光ファイバ1004を入力ポートに接続し、光ファイバ1005を出力ポートに接続し、光ファイバ383を検出ポートに接続している。
ここで、第1実施例と同様に、分岐素子381の透過率をt(λ1),t(λ2),a(λ1),a(λ2)と定義し、さらに、検出器382の分光感度をs(λ1),s(λ2)と定義する。以上の定義によれば、分岐素子381の入力ポートに入力するレーザ光の強度をPi=P(λ1)+P(λ2)とすると、分岐素子381の出力ポートに出力されるレーザ光の強度はPo=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)であり、検出器382が出力する光電流の強度はId=a(λ1)s(λ1)P(λ1)+a(λ2)s(λ2)P(λ2)である。
第7実施例では、分岐素子381と検出器382とで波長依存性を相殺することにより、シグナル光の波長とSRS光の波長との透過率差を調整する。
例えば、分岐素子381の検出ポートの透過率が図23(c)または(d)に示されるような波長依存性を有している場合、例えば、図23(e)または(f)に示されるような分光感度を有している検出器382を組み合わせることにより、a(λ1)s(λ1)=a(λ2)s(λ2)とし得る。なお、図23(e)に示される波長依存性は、相互にs(λ1)とs(λ2)とが一致しているので、実線で示された透過率であっても破線で示された透過率であっても構わない。
以上のように、分岐素子381と検出器382とを組み合わせてλ1およびλ2における透過率の波長依存性を相殺し、λ1およびλ2以外の波長、例えばλ1とλ2の間の波長における透過率を異ならせ、波長依存性を残存させることにより、シグナル光の波長λ1とSRS光の波長λ2とにおける透過率a(λ1)s(λ1)とa(λ2)s(λ2)とを略等しくする。結果、t(λ1)≒t(λ2)≒1なので、a(λ1)b(λ1)s(λ1):a(λ2)b(λ2)s(λ2)=t(λ1):t(λ2)が満たされることになり、波長依存性を有する分岐素子381を用いた場合でも比較的容易にλ1およびλ2の透過率を略一致させることができる。
このことは、検出器382が出力する光電流の強度Id=a(λ1)s(λ1)P(λ1)+a(λ2)s(λ2)P(λ2)が測定されれば、その強度Idを定数倍することにより、分岐素子381の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Po=t(λ1)P(λ1)+t(λ2)P(λ2)を求めることができることを意味する。
上記構成によれば、第5実施例および第6実施例よりも部品点数が少なく、かつ、検出器382が出力する光電流の強度Idを定数倍すれば、直接的に分岐素子381の出力ポートから出力されるレーザ光の強度Poを求めることができるので、第1実施形態よりも計算が容易である。
〔第3実施形態〕
以下、上記説明した実施例を自動出力制御(APC)へ適用した光ファイバレーザ装置の実施形態について説明する。
図24は、第3実施形態に係る光ファイバレーザ装置2000の概略構成を示す図である。図24に示されるように、光ファイバレーザ装置2000は、レーザ発振器190と監視部390と制御部590を備えている。ただし、上記構成に限らず、光ファイバレーザ装置2000は、レーザ発振器190と監視部390との間にレーザ増幅器をさらに備えてもよく、光ファイバ2002の後段に戻り光側の監視部をさらに備えてもよい。
図24に示されるように、レーザ発振器190は、増幅用光ファイバ191と、第1の光反射器192と、第2の光反射器193と、励起光合波器194と、励起用光源195a,195bとを備えている。すなわち、レーザ発振器190は、先述の発振器の第2構成例と同様の構成を有している。ただし、レーザ発振器190の具体的構成については、上記例に限らず、通常のレーザ発振器の構成を採用することができる。
また、図24に示されるように、監視部390は、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子391と、入力されたレーザ光を光電流に光電変換する検出器392と、分岐素子391と検出器392とを接続する光ファイバ393とを備えている。しかしながら、監視部390の構成についても本構成に限らず、先述の各実施例で説明した監視部の構成も採用することができる。
制御部590は、検出器392が出力する光電流に基づいて励起用光源195a,195bの出力をフィードバック制御するための制御機器である。先述の各実施例で説明したように、本発明を適用した検出器392が出力する光電流を用いれば、分岐素子391から光ファイバ2005へ透過するレーザ光の強度を高精度に測定することができる。制御部590は、このように高精度に測定されたレーザ光の強度が一定に維持されるように、励起用光源195a,195bの出力を調整する。
従来技術では、レーザ光におけるシグナル光とSRS光との間の分岐比の誤差により測定されるレーザ光の強度にも誤差が生じてしまっていた。しかしながら、本実施形態に係る自動出力制御では、レーザ光におけるシグナル光とSRS光との間の分岐比の誤差が抑制されているので、励起用光源195a,195bの出力を適切に調整することができる。
以上、本発明に実施形態に基づいて説明してきたが、本発明の実施は上記説明した実施形態に限定されるものではない。上記説明では、第1の波長と第2の波長とを含むレーザ光として、シグナル光とSRS光とを含むレーザ光を用いたが、本発明の実施はこの例に限定されるものではない。また、異なる波長のレーザ光の数も、2つに限定されず、3つ以上の場合においても、そのうちの任意の2つのレーザ光に関して本発明の実施を適用することができる。また、異なる2波長間で透過率が異なる波長依存性素子として、TAPカプラやWDMカプラなどの分岐素子と光学フィルタとを用いて実施形態を説明してきたが、これらの波長依存性素子以外であっても本発明を適切に実施することが可能である。