JP6179840B2 - サルナシ由来の高極性有機溶媒抽出物とその利用 - Google Patents
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(1)サルナシ果汁又はサルナシ果汁の高極性有機溶媒抽出物を有効成分とする、発癌抑制に用いる組成物において、高極性有機溶媒抽出物が、酢酸エチル及び/又はヘキサン不溶性である発癌抑制に用いる組成物。
(2)発癌物質によるイニシエーション活性及びプロモーション活性の阻害作用を有する、(1)記載の組成物。
(3)発癌抑制が、発癌物質による炎症の抑制作用である、(1)記載の組成物。
(4)高極性有機溶媒がメタノール、エタノール、n−プロパノール及びアセトンから選択される1つ又はそれ以上の混合溶媒、又はそれらと水の混合溶媒である、(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物を含有する発癌抑制に用いる医薬組成物。
(6)癌の予防剤である、(5)記載の医薬組成物。
(7)(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物を含有する、保健機能食品、食品補助剤、及び一般飲食品から選択される発癌抑制に用いる食品。
(8)(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物を含有する発癌抑制に用いる飼料。
本発明の組成物は、癌予防のための医薬組成物、食品、飼料等、様々な形態で提供することが可能である。
また、食品等の形で継続摂取することが可能であり、癌の発現や再発を予防することで社会に貢献することができる。
さらに、発癌と深く関係している炎症性疾患に対しても、塗布または飲用による抑制効果が期待できる。
まずサルナシ果汁に対し、容量比で3倍の低極性溶媒(好ましくは50%ヘキサン−50%酢酸エチル混液)を加え、25℃で30分振とうし、有機溶媒層を分液除去する。次いで、得られた水層に対して容量比で3倍の酢酸エチルを加え、25℃で30分振とうし、酢酸エチル可溶性分画を分離する。得られた水層を凍結乾燥し、残留物に適量の100%メタノールに加え、25℃で30分振とうし、メタノール不溶性の残留物を分離する。
得られた100%メタノール不溶性残留物に適量のメタノール−水(1:1)混液を加え、25℃で30分振とうすることにより、抽出する。各抽出工程における溶媒の量は、被抽出物が液体である場合は、被抽出物1重量部に対して溶媒を2〜10、好ましくは5〜10重量部用いる。また、被抽出物が粉末等の固体である場合は、被抽出物1重量部に対して、溶媒を2〜10、好ましくは10重量部用いる。各抽出工程は、同一溶媒で1回〜数回、好ましくは3〜4回行う。
食品は、本発明の発癌抑制剤を常法に従って、一般食品の原料と配合することにより、加工製造することができる。
サルナシの果実を搾汁機(エアープレス)にて処理し、95℃にてドラム缶に詰め、2〜3ヶ月間保存して、酒石酸結晶を析出させ、酒袋で絞ることによってヤマブドウ果汁を得る。
皮膚2段階発癌実験は、発癌過程のモデルとして確立されており、イニシエーション処理として発癌性変異原ジメチルベンツアンスラセン(DMBA)を塗布し、続いて、プロモーション処置としてホルボールエステル(TPA)を塗布して,皮膚発癌を起こさせることからなる。本試験では、サルナシ果汁の各発癌過程に対する予防・抑制効果を調べた。
発癌性物質の変異原性に対するサルナシ果汁の抑制効果をエイムステストで調べた。 発癌性物質(変異原)として、DMBAを含む以下の6つの発癌性の化合物を用い、各化合物の変異原性が、共存するサルナシ果汁で抑制されるかどうかを調べた。エイムステストでは発癌性物質の存在下、ヒスチジン要求性(His-)のサルモネラ菌が遺伝子変異を起こしてヒスチジン非要求性(His+)に変化する程度に基づいて、該発癌性物質の変異原性を判定することができる。
(1)正常細胞に突然変異を起こさせることで、発癌のイニシエーションをする物質である、DMBA(9,10-ジメチル-1,2-ベンゾアントラセン)
(2)豆類などに寄生するカビ類が産生するカビ毒の一種で、発癌物質の中でも最強、すなわち最も少量の投与で癌発生させる,肝発癌物質アフラトキシンB1
(3)肝発癌物質アフラトキシンB1、燃焼ガスやタバコ煙に含まれる発癌性物質であるベンツピレン(B(a)P)
(4)食品の焼けこげに生じることが知られる3種の発癌性変異原物質ヘテロサイクリックアミン類(MeIQx、PhIP及びTrp-P-2)
DMBA(50nmol)を、突然変異検出用のネズミチフス菌TA100株約108個の懸濁液0.1mL 及び代謝酵素溶液0.5mLと混合して全量を0.75mLとした。この混合物をすべて固形培地に広げて48時間培養すると平均713個の突然変異したネズミチフス菌が生じた。この713個を100%とおいた。
結果を図2に示す。DMBA (50 nmol)の変異原性は、サルナシ果汁を入れない時の値(713 His+)を100%とし、試験系にサルナシ果汁を約20μL添加すると、50%に抑制された。
DMBAの代わりにアフラトキシンB1を用いる外は上記(1)と同様にして試験を行った。サルナシ果汁は肝発癌物質アフラトキシンB1の変異原性に対して抑制作用を示し、変異原性を50%抑制するサルナシ果汁量(IC50)は約30μLであった(図2)。
DMBAの代わりにベンツピレン(B(a)P)を用いる外は上記(1)と同様にして試験を行った。サルナシ果汁はベンツピレン(B(a)P)の変異原性に対しても抑制効果を示し、B(a)Pの変異原性を50%抑制するサルナシ果汁量(IC50)は約50μLであった(図2)。
TPAは強力な発がんプロモーターであり、プロテインキナーゼC (PKC) の下流のシグナル伝達経路を活性化させること、また、炎症を起こすことが良く知られている。また、慢性炎症は発癌過程の進展に重要なことも良く知られている。マウスの耳にTPAを塗布すると炎症性の浮腫が起きて、耳が腫れ、耳重量が増加する。従って、サルナシ果汁をマウスの耳に塗布して耳重量の変化を調べ、TPAの起炎症活性に対する抑制作用、即ち発癌プロモーター活性の抑制作用を検討した。
(TPA処理群)
TPA処理群として、溶媒であるアセトン(66%アセトン水)のみをTPA塗布30分前に塗布し、次にマウス(SENCARマウス・オス6週令)8匹の片耳の前面と後面ともに炎症性物質12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (以下TPAと省略する)のアセトン溶液(85μM)を10μLずつ滴下塗布した。TPA塗布の6時間後に耳重量を測定した。ここで耳重量とは、直径6mmのパンチで耳に穴を開け、その時取れる円形の部分の重量をいう(以下同様)。TPAを塗布したマウスの耳は、6時間後に炎症が起こり、耳が腫れて、耳重量が増加した。無処理群としてとして、溶媒であるアセトン(66%アセトン水)のみを塗布したところ、耳は腫れず、重量も増えなかった。
まず参考例1で得られたサルナシ果汁の凍結乾燥粉末(果汁1mLあたり151 mg)をアセトン水混液(66%のアセトンと蒸留水の混合溶液;アセトン:蒸留水=2:1(v/v))に元の果汁の2倍の濃度(302 mg/ mL)、または10倍の濃度(1510 mg/ mL)になるように調製した。このヤマブドウ果汁を、マウス(同上)8匹の耳に、片耳の前面及び後面ともに、10μLを塗布し、その30分後にTPA(85μMの溶液)を片耳の前面及び後面に10μL塗布した。6時間後、マウスの耳は腫れて耳重量は増加したが、果汁を塗らない場合の耳重量と比べて、重量増加が有意に少なかった。
図3に示すように、TPAによる耳重量の増加に対し、サルナシ果汁は有意に抑制効果を示し、浮腫が予防された。すなわち、サルナシ果汁がTPAの作用を予防・抑制することが分かった。
肝癌等の発癌物質であるMeIQxは、体内に入って遺伝子を損傷し,突然変異を起こし、発癌のイニシエーションを起こす事が知られている。本試験では、サルナシ果汁が発癌のどの過程を抑制するか、という点を、MeIQx投与マウスを用い、肝臓における遺伝子損傷のひとつDNA付加体形成に基づいて調べた。
MeIQx投与群としてマウス(CC57BL/6N マウス 6週令 オス)8匹に、まず2日間普通の餌を与えたのち、次の3日間は最終濃度0.005%となるようにMeIQxを混ぜた餌を与え、自由に摂取させた。サルナシ-MeIQx投与群としては、まず2日間サルナシ果汁の凍結乾燥粉末0.35g (元の果汁3mL相当)を餌に混ぜて与え、自由摂取させた。次の3日間はサルナシ果汁の凍結乾燥粉末0.35gとMeIQx(最終濃度0.005%)を餌に混ぜて与え、自由に摂取させた。投与後、マウスから肝臓を取り、肝臓からDNAを抽出した。抽出したDNAにMeIQxが化学的に結合した、MeIQx-DNA付加体量を、DNAの108ヌクレオチド当たりに換算して、ポストラベル法で定量した。すなわちMeIQx-DNA付加体のみに放射性リン酸を結合させ、放射能強度を測定することにより、付加体量を定量した。MeIQx投与群とサルナシ-MeIQx投与群とで8匹の平均と標準偏差を出して、比較した。
図4に示すように、マウスに発癌物質MeIQxを経口投与すると、遺伝子損傷を示すDNA付加体が形成された。マウスに発癌物質とともにサルナシ果汁を経口投与すると、肝臓のDNA付加体が減少し、遺伝子損傷が抑制され、DNAが保護されることが分かった。
発癌物質が体内に入って遺伝子を損傷し,突然変異を起こし、発癌のイニシエーションを起こす過程のどこをサルナシ果汁が抑制するのか明らかにするために、体内に入った発癌物質を代謝活性化する酵素をサルナシ果汁が阻害するかどうかを調べた。
CYP1A2酵素活性の測定は、7-メトキシレゾルフィン(0.1mM)と酵素溶液をいれた反応液を37℃で5分間反応させ、7-メトキシレゾルフィンがO-脱メチル化反応によりレゾルフィンに変わる酵素反応を測定することにより行った。生成したレゾルフィンの吸光度を測定することにより、酵素活性を定量した。反応液にサルナシ果汁を入れないときを1とし、反応液にサルナシ果汁を0-0.05mL加えたときのレゾルフィン生成量を定量して、サルナシ果汁を入れないときと比較した。
図5に示すように、DMBAやB(a)Pなどを活性化するCYP1A1酵素およびヘテロサイクリックアミン類を活性化するCYP1A2酵素が、ともに、サルナシ果汁で酵素活性抑制されることが分かった。従って、少なくともサルナシ果汁の作用点の一つは代謝活性化を抑制して、発癌物質をDNAと反応できる活性化体へと変化させる反応を抑制することにあることが分かった。
発癌物質によるイニシエーションにかかわる遺伝子損傷は、DNA付加体形成だけでなく、発癌物質の生体内反応に伴う酸素ラジカルなどのラジカル発生による酸化的DNA損傷が知られている。また、プロモーション過程にも酸化的損傷が関わっていることが知られている。そこで、本試験では、サルナシ果汁にラジカル消去作用があるかどうかを調べた。
1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)溶液(0.2 mM)1mL にサルナシ果汁(0-0.05mL)をふくむ水溶液0.1mLを加え、全量を5mLとし、30分暗所で室温においたのち、517nmの吸光度を測定した。DPPHは紫色をしているが、消去されると無色となるので、517nmの吸光度の減少を測定し、DPPHラジカル消去量を定量した。
図6に示すように、サルナシ果汁はラジカルの一種1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)を消去する活性があることが分かった。従って、サルナシ果汁は、体内で発生したラジカルを消去することで、発癌のイニシエーション過程、プロモーション過程を阻害する可能性のあることが分かった。
試験例1〜4に記載の通り、サルナシ果汁に発癌性物質のイニシエーション抑制作用(抗変異原性、DNA付加体抑制、代謝活性化抑制、ラジカル消去)並びにプロモーション抑制作用(浮腫の予防、ラジカル消去)があることが明らかになったので、図1に記載の工程に従って部分精製を行った。
これを再度繰り返して、計3回で得られたものを合わせた。
次いで、得られた分画の発癌抑制効果を検討した。
(1)実施例1で調製した各部分精製分画のどこに抗変異原性成分を入っているかを発癌性変異原物質MeIQxの変異原性に対する抗変異原性で調べた。サルナシ果汁の代わりに、各精製工程で得た分画を用いる外は、試験例1の1(エイムステスト)と同様にして行った。
発癌のプロモーター作用抑制において、サルナシ果汁がTPAによる炎症性反応の一つ、浮腫を抑制したことから、部分精製分画の抗炎症作用を調べた。
(1)一酸化窒素(NO)放出試験
マウスのマクロファージ様細胞株であるRAW264細胞はリポ多糖(LPS)により刺激されて炎症性反応の1つである一酸化窒素(NO)放出を行う。放出されたNOは生体内で炎症性因子であるだけでなく、発癌性にも関与している。そこで、RAW細胞からのNO放出をサルナシ分画が抑制できるかどうかを調べた。
NO放出試験で炎症抑制効果が高い「100%メタノール分画」を用いて、TPAによるマウスの耳の浮腫に対する予防効果を試験例1の2に記載の方法に従い、検討した。結果を図10に示す。
試験例4と同様にして、サルナシ分画にラジカル消去作用があるかどうかを調べた。結果を図11に示す。図11から明らかに、「100%メタノール分画」に最も強いラジカル消去活性があり、「50%メタノール分画」及び「100%EtOAc分画」にもラジカル消去活性が存在する。これは、サルナシにはラジカル消去活性物質が複数存在し、それらが精製に伴って異なる分画に分かれたことを示唆している。
50%メタノール-50%水抽出画分」又は「50%メタノール分画」による、皮膚発癌の抑制効果を調べた。
方法:原理を述べると、マウスの皮膚腫瘍形成は、イニシエーションとプロモーションの二段階からなり、イニシエーション物質を1回塗布し、その1週間後からプロモーション物質を週2回20週間塗ると、その20週の間に皮膚腫瘍が発生する。この間に第3の物質を塗布して腫瘍発生が抑制されれば、発癌が予防されたと言える。この方法が標準的に使われている。
グループII(サルナシ群):50%メタノール分画を150μL塗布した30分後にTPAを100μL塗布した。
グループ III (陰性対照群):50%メタノール分画を150μL塗布し、その30分後に溶媒のアセトンを100μL塗布し、TPAは塗布しなかった。
このプロモーションを週に2回20週間続け、1週間ごとに腫瘍の形成を、2週間ごとに体重の変化を観察した。
サルナシ果実は生食のほか食品加工されるため、加工あるいは殺菌過程で加熱される可能性がある。そこで、サルナシの50%メタノール分画の抗変異原性の熱安定性を検討した。
方法:50%メタノール分画を凍結乾燥した後、元の用量の10分の一量の滅菌水に溶かし直して,10倍濃度としたものを用意した。この溶液を非加熱試料と呼ぶ。非加熱試料をチューブにいれ、90℃の湯浴に10分浸けることにより加熱し、遠心分離(3500rmp、15分)で沈殿を除去したものを加熱試料とした。抗変異原性は次のようにして試験した。発癌性ヘテロサイクリックアミン(MeIQx, 60 pmol) を、突然変異検出用のネズミチフス菌TA98株約108個の懸濁液0.1mL 及び代謝酵素溶液0.5mLと混合して全量を0.75mLとした。この混合物をすべて固形培地に広げて48時間培養すると平均1591個の突然変異したネズミチフス菌が生じた。この1591個を100%とおいた。50%メタノール分画の加熱および非加熱試料を,元の果汁換算で0-0.5 mLとなるようにして、MeIQx 60 pmolと、突然変異検出用のネズミチフス菌TA98株が約108個入った懸濁液0.1mL と代謝酵素溶液0.5mLとに混合して全量を0.7 mLとした。この混合物をすべて固形培地に広げて48時間培養したところ、変異したネズミチフス菌の生じた数は、50%メタノール分画の加熱・非加熱試料ともに用量依存的に減少した。
Claims (8)
- サルナシ果汁又はサルナシ果汁の高極性有機溶媒抽出物を有効成分とする、発癌抑制に用いる組成物において、
高極性有機溶媒抽出物が、酢酸エチル及び/又はヘキサン不溶性である発癌抑制に用いる組成物。 - 発癌物質によるイニシエーション活性及びプロモーション活性の阻害作用を有する、請求項1記載の組成物。
- 前記発癌抑制が、発癌物質による炎症の抑制である、請求項1記載の組成物。
- 高極性有機溶媒がメタノール、エタノール、n−プロパノール及びアセトンから選択される1つ又はそれ以上の混合溶媒、又はそれらと水の混合溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を含有する発癌抑制に用いる医薬組成物。
- 癌の予防剤である、請求項5記載の医薬組成物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を含有する、保健機能食品、食品補助剤、及び一般飲食品から選択される発癌抑制に用いる食品。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を含有する発癌抑制に用いる飼料。
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