JP6177733B2 - 加工硬化能が大きく一様伸びと溶接性に優れた低降伏比高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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C:0.05%以上0.10%以下、
Si:0%超0.50%以下、
Mn:1.00%以上1.60%以下、
P:0%超0.010%以下、
S:0%超0.003%以下、
Al:0.010%以上0.050%以下、
Mo:0.20%以上0.50%以下、
V:0.005%以上0.080%以下、
Nb:0.005%以上0.030%以下、
Ti:0.005%以上0.020%以下、
N:0.0040%以上0.0060%以下、および
Ca:0.0005%以上0.0030%以下
を含有し、残部は鉄および不可避不純物からなり、
下記式(1)で定義されるCeqが0.40%以上0.47%以下、かつ、
下記式(2)で定義されるPcmが0.220%以下を満足し、
板厚の1/4位置の組織が軟質相と硬質相の複相組織からなり、
前記硬質相の分率が10〜20面積%であり、
前記硬質相の硬さ:Hv310〜370と前記軟質相の硬さ:Hv160〜190を満たし、かつ、
前記軟質相に、Nb、V、およびMoの合計量が析出物に占める割合で50質量%超、かつ円相当直径が5nm以上の炭化物と炭窒化物が、平均円相当直径:50nm以下かつ個数密度:10個/μm2以上を満たすように存在するところに特徴を有する。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
…(1)
式(1)において、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Vは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示す。
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B …(2)
式(2)において、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示す。
Cu:0%超0.50%以下、
Ni:0%超0.50%以下、および
Cr:0%超0.50%以下
よりなる群から選択される1種以上の元素を含んでいてもよい。
本発明では、まず、低降伏比を得るために軟質相と硬質相の複相組織とする必要がある。また所望の強度と低降伏比を併せて確保するには、前記複相組織を構成する硬質相の硬さがHv310〜370、前記複相組織を構成する軟質相の硬さがHv160〜190を満たす必要がある。
高強度と低降伏比を併せて確保するには、上記硬さを有する硬質相の分率を10〜20面積%とする必要もある。前記硬質相の分率が10面積%を下回ると、強度不足や降伏比上昇を招く。前記硬質相の分率は、好ましくは12面積%以上、より好ましくは14面積%以上である。一方、前記硬質相の分率が20面積%を超えると、後述する再加熱時、即ち、二相域加熱時の成分濃縮が少なく、硬質相の硬さが低下する。そしてその結果、複相組織の軟質相と硬質相の硬さ比が低下し、降伏比が上昇するため好ましくない。前記硬質相の分率は、好ましくは18面積%以下、より好ましくは16面積%以下である。
鋼の強化機構には、固溶強化、転位強化、結晶粒微細化、析出強化などがあるが、本発明の加工硬化能が大きく一様伸びの高められた鋼板を得るには、軟質相の強化機構として、析出強化を活用し、引張変形時に硬質相よりも先に変形する軟質相にて、析出物による転位の増殖を促進させることが必要である。そのためには軟質相に、Fe3C以外の炭化物として、Nb、V、およびMoの合計量が析出物に占める割合で50質量%超、かつ円相当直径が5nm以上の炭化物と炭窒化物が、平均円相当直径:50nm以下かつ個数密度:10個/μm2以上を満たすように存在する必要がある。以下では、前記炭化物と炭窒化物を「(Nb、V、Mo)系炭・窒化物」ということがある。この平均円相当直径と個数密度の制御では、前記炭化物、炭窒化物のどちらか一方のみが析出している場合は、前記炭化物または前記炭窒化物が上記範囲を満たせばよく、前記炭化物と炭窒化物の両方が析出している場合は、前記炭化物と前記炭窒化物の合計が上記範囲を満たせばよい。本発明で、析出物として、前記(Nb、V、Mo)系炭・窒化物を析出させることとした理由は、後述する再加熱温度、つまり二相域加熱の温度でこれらの析出物が析出するためである。
Cは、鋼板の強度を高める効果があるが、耐溶接割れ性等の溶接性を劣化させる元素でもある。C含有量が0.05%未満であると必要な強度を確保することが困難になる。よってC含有量は0.05%以上とする。C含有量は、好ましくは0.06%以上、より好ましくは0.07%以上である。一方、C含有量が0.10%を超えると、強度は確保しやすくなるが、耐溶接割れ性の劣化につながる。よってC含有量は0.10%以下とする。C含有量は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.08%以下である。
Siは、脱酸材として、また母材強度向上に有効な元素である。これらの効果を発揮させるには、Siを0.01%以上含有させることが好ましい。しかしSi含有量が過剰になると、母材靭性やHAZ靭性、溶接性が劣化するので、Si含有量は0.50%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.35%以下、より好ましくは0.30%以下である。
Mnは、オーステナイトを安定化させ、変態温度を低温化させることで、焼入れ性を向上させ、強度と靭性を確保する上で有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mnを1.00%以上含有させる必要がある。Mn含有量は、好ましくは1.05%以上、より好ましくは1.20%以上である。しかしながらMnを過剰に含有させると、MnSが粗大化し、母材靭性が劣化するため、上限を1.60%とする。Mn含有量は、好ましくは1.55%以下、より好ましくは1.50%以下である。
不可避不純物であるPは、母材と溶接部の靭性に悪影響を及ぼす。こうした不都合を招かないように、その含有量を0.010%以下に抑制する必要がある。P含有量は、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.005%以下である。尚、工業上0%にすることは困難であり、下限は0.002%程度である。
Sは、靭性や鋼板の板厚方向の延性に悪影響を及ぼすので少ない方が好ましい。こうした観点から、S含有量は0.003%以下に抑制する必要がある。S含有量は好ましくは0.002%以下である。尚、工業上0%にすることは困難であり、下限は0.001%程度である。
Alは、脱酸に必要な元素であるとともに、鋼中のNを固定して、固溶Nによる母材靭性劣化を防ぐ効果もある。このような効果を発揮させるためには、Alを0.010%以上含有させる必要がある。Al含有量は、好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上である。一方、Alが過剰に含まれると、アルミナ系の粗大な介在物が形成され母材靭性が低下するので、Al含有量は0.050%以下とする必要がある。Al含有量は、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.040%以下である。
Moは、焼入れ性を高めるとともに、鋼中で炭化物を生成しやすい元素であり、本発明において重要な元素の1つである。これらの効果を得るには、Moを0.20%以上含有させる必要がある。Mo含有量は、好ましくは0.25%以上、より好ましくは0.30%以上である。一方、Moが過剰に含まれると焼入れ性が過剰となり、結果として耐溶接割れ性が劣化するので、Mo含有量は0.50%以下とする必要がある。Mo含有量は、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.43%以下である。
Vは、炭化物、窒化物を形成して強度を向上させると共に、焼入れ性を高めるのに有効な元素であり、本発明においてはMoと共に重要な元素の1つである。これらの効果を得るにはVを0.005%以上含有させる必要がある。V含有量は、好ましくは0.020%以上、より好ましくは0.030%以上、更に好ましくは0.040%以上である。一方、Vが過剰に含まれると、二相域加熱時に軟質相へ析出する炭化物や炭窒化物が過多となり、軟質相の析出強化能が過剰となり、降伏比増大につながる。よって、V含有量は0.080%以下とする必要がある。V含有量は、好ましくは0.070%以下、より好ましくは0.060%以下である。
Nbは、炭化物、炭窒化物を形成して強度を向上させるのに有効な元素であり、本発明においては前述のMo、Vと共に重要な元素の1つである。上記効果を得るには、Nbを0.005%以上含有させる必要がある。Nb含有量は、好ましくは0.010%以上、より好ましくは0.014%以上である。一方、Nbが過剰に含まれると、Vの場合と同様に二相域加熱時に軟質相へ析出する炭化物や炭窒化物が過多となり、軟質相の析出強化能が過剰となり、降伏比増大につながる。よってNb含有量は0.030%以下とする必要がある。Nb含有量は、好ましくは0.025%以下、より好ましくは0.021%以下、更に好ましくは0.020%以下である。
Tiは、Nと結合してTiNを形成し、熱間圧延前の加熱時におけるオーステナイト粒、即ちγ粒の粗大化を防止し、母材靭性の向上に寄与する元素である。また、鋼中のNを固定して、固溶Nによる母材靭性の劣化を防ぐ効果もある。これらの効果を発揮させるには、Tiを0.005%以上含有させる必要がある。Ti含有量は、好ましくは0.008%以上、より好ましくは0.010%以上である。一方、Ti含有量が過剰になると、TiNが粗大化して母材靭性が劣化するので、0.020%以下とする必要がある。Ti含有量は、好ましくは0.018%以下、より好ましくは0.015%以下である。
Nは、TiN、AlNを生成し、熱間圧延前の加熱時、および溶接時におけるγ粒の粗大化を防止し、母材靭性やHAZ靭性を向上させるのに有効な元素である。Nの含有量が0.0040%未満であると、上記TiN等が不足し、上記γ粒が粗大になり、母材靭性が劣化する。よってN含有量は0.0040%以上とする必要がある。N含有量は、好ましくは0.0045%以上であり、より好ましくは0.0047%以上である。一方、N含有量が0.0060%を超えて過剰になると、固溶Nの増大により、母材靭性が劣化する。よって、N含有量は0.0060%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0055%以下、より好ましくは0.0053%以下である。
Caは、MnSの球状化に寄与し、母材靭性や板厚方向の延性の改善に有効な元素である。該効果を発揮させるには、Ca含有量を0.0005%以上とする必要がある。Ca含有量は、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0013%以上である。しかしながら、Ca含有量が0.0030%を超えて過剰になると、介在物が粗大化し、母材靭性が劣化する。よってCa含有量は0.0030%以下とする。Ca含有量は、好ましくは0.0025%以下、より好ましくは0.0020%以下である。
Cu、Ni、Crは、いずれも溶接性、HAZ靭性に大きな悪影響を及ぼすことなく、焼入れ性を向上させ、母材の強度、靭性を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるには、いずれの元素を含有させる場合も、各含有量を0.05%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.10%以上である。ただし、これらの元素が過剰に含まれると、原料コストの上昇の他、Pcmの上昇を招き、かえって溶接性に悪影響を及ぼす。よっていずれの元素を含有させる場合も、各含有量を0.50%以下とすることが好ましく、各含有量はより好ましくは0.45%以下である。
板厚が100mmの厚肉材を対象とする場合にも高強度を確保するには、下記式(1)で定義されるCeqが、0.40%以上を満たすようにする必要がある。前記Ceqは、好ましくは0.420%以上、より好ましくは0.430%以上である。一方、Ceqが0.47%を超えて多量の合金元素を含有する場合には、溶接性、特に耐溶接割れ性が低下する。よって、前記Ceqを0.47%以下とした。前記Ceqは、好ましくは0.465%以下、より好ましくは0.460%以下、更に好ましくは0.455%以下である。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
…(1)
式(1)において、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Vは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示す。尚、式(1)に記載の元素が含まれない場合は、その元素をゼロとして計算する。
良好な耐低温割れ性を有し、板厚が100mmの厚肉材を対象とする場合であっても、ほぼ予熱を必要としない溶接性を確保するためは、下記式(2)で定義されるPcmを0.220%以下とする必要がある。Pcmが0.220%を超えて多量の合金元素が含まれる場合、溶接割れが多発する。このため、前記Pcmを0.220%以下とした。該Pcmは、好ましくは0.210%以下、より好ましくは0.200%以下である。尚、前記Pcmは、低ければ低いほど好ましいが、本発明で規定の成分組成を考慮すると、その下限はおおよそ0.17%程度となる。
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B …(2)
式(2)において、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示す。尚、式(2)に記載の元素が含まれない場合は、その元素をゼロとして計算する。
[1050℃以上に加熱]
熱間圧延時の加熱温度が低いと、Nbが全固溶せず、後述する二相域での再加熱焼入れ時に、軟質相に炭化物や炭窒化物を十分に析出させることができない。その結果、本発明で規定の通り、軟質相の硬さを確保することができず、また軟質相に析出物を存在させることができず、強度不足や加工硬化能の低下、一様伸びの低下につながる。よって本発明では、前記加熱温度を1050℃以上とする。前記加熱温度は、好ましくは1100℃以上、より好ましくは1120℃以上である。前記加熱温度の上限は、本発明においては特に規定しないが、スケール疵防止等の観点からは、その上限を1250℃以下とすることが好ましい。
上記熱間圧延後は、Ar3変態点以上の冷却開始温度から200℃以下の冷却停止温度まで、3〜30℃/秒の平均冷却速度で冷却する。前記冷却開始温度が、Ar3変態点を下回ると、軟質な初析フェライトが過度に生成し、特に降伏強度が低下する。前記冷却開始温度は、好ましくはAr3変態点+30℃以上、より好ましくはAr3変態点+40℃以上であり、上限は前記熱間圧延の完了温度未満程度となる。
Ar3=910−310×C−80×Mn−20×Cu−15×Cr−55×Ni−80×Mo+0.35×(t−8) …(3)
式(3)において、C、Mn、Cu、Cr、Ni、Moは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示し、tは、mmでの板厚を示す。尚、式(3)に記載の元素が含まれない場合は、その元素をゼロとして計算する。
前記冷却後は、再加熱温度として720℃以上800℃以下の温度域に再加熱する。該温度域は二相域の温度に該当する。よって以下では、この再加熱を二相域加熱という場合がある。上記再加熱温度が720℃を下回ると、逆変態分率が不足し、硬質相の分率が不足して高強度を達成できない。前記再加熱温度は、好ましくは740℃以上、より好ましくは760℃以上である。一方、再加熱温度が800℃を超えると、逆変態分率は増加するが、硬質相となる部分の成分濃縮が不足し、硬質相の硬さが低下して軟質相と硬質相の硬さ比が低下し、降伏比が上昇する。前記再加熱温度は、好ましくは790℃以下である。
前記焼入れ後は、焼戻し温度:440℃以上560℃以下で焼戻しを行う。前記焼戻し温度が440℃を下回ると、硬質相が硬くなりすぎて脆くなり靭性が低下する。焼戻し温度は、好ましくは450℃以上、より好ましくは480℃以上である。一方、焼戻し温度が560℃を超えると、硬質相の硬さが低下し、強度不足となりやすく、軟質相と硬質相の硬さ比が低下して降伏比が上昇する。焼戻し温度は、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下である。
製造方法2では、熱間圧延について特に限定されない。前記成分組成を満たす鋼片を、例えば加熱温度1000〜1200℃に加熱した後、熱間圧延を行えばよい。熱間圧延の完了温度は、特に限定されず、鋼板の表面温度で例えば850℃以上950℃以下とすることができる。
前記熱間圧延後、第1の再加熱として、Ac3変態点以上の温度に加熱する。以下、このAc3変態点以上の温度を「第1再加熱温度」ということがある。尚、該第1再加熱温度までの平均加熱速度は特に問わないが、一般的な雰囲気加熱の場合、板厚にもよるが、例えば0.1〜2℃/秒程度とすることが挙げられる。
Ac3=908−223.7×C+30.5×Si−34.4×Mn+438.5×P−23×Ni+37.9×V+2×(100×C+6×Ni−54) …(4)
式(4)において、C、Si、Mn、P、Ni、Vは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示す。尚、式(4)の( )内の「100×C+6×Ni−54」が負の値となる場合、2×(100×C+6×Ni−54)はゼロとして計算する。また式(4)に記載の元素が含まれない場合は、その元素をゼロとして計算する。
前記冷却後は、第2の再加熱として、720℃以上810℃以下の温度域に加熱する。以下、この720℃以上810℃以下の温度域を「第2再加熱温度」ということがある。該温度域は二相域の温度に該当する。よって以下では、この再加熱を二相域加熱という場合がある。上記第2再加熱温度が720℃を下回ると、逆変態分率が不足し、硬質相の分率が不足して強度が不足する。前記第2再加熱温度は、好ましくは740℃以上、より好ましくは760℃以上である。一方、第2再加熱温度が810℃を超えると、逆変態分率は増加するが、硬質相となる部分の成分濃縮が不足し、硬質相硬さが低下して軟質相と硬質相の硬さ比が低下し、降伏比が上昇する。前記第2再加熱温度は、好ましくは800℃以下である。
前記焼入れ後は、焼戻し温度:350℃以上560℃以下で焼戻しを行う。前記焼戻し温度が350℃を下回ると、硬質相が硬くなりすぎて脆くなり靭性が低下する。焼戻し温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは440℃以上である。一方、焼戻し温度が560℃を超えると、硬質相の硬さが低下し、軟質相と硬質相の硬さ比が低下して降伏比が上昇する。また強度不足にもなりやすい。前記焼戻し温度は、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下である。
金属組織の観察、具体的に軟質相と硬質相の観察は以下の順に実施した。
(1)圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な、鋼板表裏面を含む板厚断面を観察できるよう上記鋼板からサンプルを採取した。
(2)湿式エメリー研磨紙(#150〜#1000)での研磨、またはそれと同等の機能を有する研磨として、例えばダイヤモンドスラリー等の研磨剤を用いた研磨等により、観察面の鏡面仕上を行った。
(3)研磨されたサンプルを、3%ナイタール溶液を用いて腐食し、結晶粒界を現出させた。
(4)板厚t/4部位において、現出させた組織を400倍の倍率で写真撮影した。本実施例では6cm×8cmの写真として撮影した。次に、撮影した写真にて、セメンタイトが凝集している部分を硬質相と判別し、黒く塗りつぶした。次に、前記写真を画像解析装置に取り込んだ。前記写真の領域は、倍率が前記400倍の場合150μm×200μmに相当する。画像解析装置への取り込みは、いずれの倍率の場合も、領域の合計が1mm×1mm以上となるよう取り込んだ。即ち、倍率が前記400倍の場合は上記写真を少なくとも35枚取り込んだ。
(5)画像解析装置において、写真毎に黒色の面積率を算出し、全ての写真の平均値を硬質相の分率とした。尚、軟質相の分率は、全体から前記硬質相の分率を差し引いた値となる。
軟質相と硬質相の各相の硬さは、上記腐食されたサンプルを用い、マイクロビッカース硬度計を用いて測定した。測定荷重は0.03Nとした。軟質相の硬さは、セメンタイトが存在しない部分の硬さを測定し、硬質相の硬さはセメンタイトが凝集している部分の硬さを測定した。この測定は、板厚1/4部位にて少なくとも各相10点以上で行った。
軟質相中のNb、V、Mo系の炭化物または炭窒化物は、透過型電子顕微鏡を用いて、抽出レプリカ法により観察した。倍率7500倍でセメンタイトが存在しない軟質相を確認し、更に該軟質相を倍率150000倍に拡大して5視野観察した。前記視野内に存在する析出物をEDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy)法により組成分析を行い、析出物におけるNb、V、およびMoの合計量が50質量%を超える炭化物と炭窒化物を測定対象とした。尚、観察できる析出物の円相当直径の下限値はおおよそ5nm程度である。
板厚t/4の部位から、試験片の長手方向が圧延方向と直角となるよう丸棒引張試験片を採取して、JIS Z 2241(2011)の要領で引張試験を行い、降伏強度、引張強度、降伏比、一様伸び、および加工硬化指数を測定した。そして、降伏強度が440MPa以上、引張強度が590MPa以上、降伏比が80%以下、一様伸びが5%以上、および加工硬化指数が0.20以上のものを、高強度かつ低降伏比であり、加工硬化能が大きく一様伸びに優れていると評価した。尚、下記表5および表6では、降伏強度、引張強度、降伏比、一様伸び、および加工硬化指数をそれぞれ、YS、TS、YR、UE、n値と示す。
板厚t/4の部位から、試験片の長手方向が圧延方向と平行となるようフルサイズのVノッチ試験片を採取して、JIS Z 2242(2005)の要領でシャルピー衝撃試験を行い、vTrsを測定した。なお、各試験温度での結果は3本の平均値を採用した。そしてvTrsが−20℃以下のものを衝撃特性に優れている、つまり母材靭性に優れていると評価した。
JIS Z 3101(1990)に記載の要領で試験を行い、耐溶接割れ性を評価した。詳細には、鋼板表面黒皮を残した状態の、サイズが20mm厚×75mm幅×200mm長の試験片を各鋼No.につき1つ採取した。そして該試験片に対し、予熱温度を0℃として長さ50mmのストリンガビードを置いた。その後、JIS Z 3101(1990)の要領に従い、溶接熱影響部の最高硬さを測定した。そして、最高硬さがHv350以下であるものを耐溶接割れ性が優れていると評価した。
Claims (4)
- 成分組成が、質量%で、
C:0.05%以上0.10%以下、
Si:0%超0.50%以下、
Mn:1.00%以上1.60%以下、
P:0%超0.010%以下、
S:0%超0.003%以下、
Al:0.010%以上0.050%以下、
Mo:0.20%以上0.50%以下、
V:0.005%以上0.080%以下、
Nb:0.005%以上0.030%以下、
Ti:0.005%以上0.020%以下、
N:0.0040%以上0.0060%以下、および
Ca:0.0005%以上0.0030%以下
を含有し、残部は鉄および不可避不純物からなり、
下記式(1)で定義されるCeqが0.40%以上0.47%以下、かつ、
下記式(2)で定義されるPcmが0.220%以下を満足し、
板厚の1/4位置の組織が軟質相と硬質相の複相組織からなり、
前記硬質相の分率が10〜20面積%であり、
前記硬質相の硬さ:Hv310〜370と前記軟質相の硬さ:Hv160〜190を満たし、かつ、
前記軟質相に、Nb、V、およびMoの合計量が析出物に占める割合で50質量%超、かつ円相当直径が5nm以上の炭化物と炭窒化物が、平均円相当直径:50nm以下かつ個数密度:10個/μm2以上を満たすように存在することを特徴とする、加工硬化能が大きく一様伸びと溶接性に優れた低降伏比高強度鋼板。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
…(1)
式(1)において、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Vは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示す。
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B …(2)
式(2)において、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bは、質量%での、鋼中の各元素の含有量を示す。 - 前記成分組成は、更に、質量%で、
Cu:0%超0.50%以下、
Ni:0%超0.50%以下、および
Cr:0%超0.50%以下
よりなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1に記載の鋼板。 - 請求項1または2に記載の鋼板の製造方法であって、前記成分組成を満たす鋼片を1050℃以上に加熱して熱間圧延を行った後、Ar3変態点以上の温度から200℃以下までを3〜30℃/秒の平均冷却速度で冷却し、次いで720℃以上800℃以下の温度域に再加熱し、該温度域で5分以上60分以下保持してから焼入れを行い、その後、440℃以上560℃以下の温度で焼戻しを行うことを特徴とする、加工硬化能が大きく一様伸びと溶接性に優れた低降伏比高強度鋼板の製造方法。
- 請求項1または2に記載の鋼板の製造方法であって、前記成分組成を満たす鋼片の熱間圧延を行った後、Ac3変態点以上の温度に加熱する第1の再加熱を行ってから200℃以下までを3〜50℃/秒の平均冷却速度で冷却し、次いで、第2の再加熱として720℃以上810℃以下の温度域に加熱し、該温度域で5分以上60分以下保持してから焼入れを行い、その後、350℃以上560℃以下の温度で焼戻しを行うことを特徴とする、加工硬化能が大きく一様伸びと溶接性に優れた低降伏比高強度鋼板の製造方法。
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