電子装置に対して、非接触により、入力指令を与える装置として、下記特許文献1、2に開示の技術が知られている。特許文献1において、人体を励振して人体の表面に沿って電磁場を形成し、離間して置かれた一対の電極間において、指先を移動させることで、一対の電極で検出される2つの信号の位相差の変動により、指先の位置の変動を検出する装置が知られている。
また、特許文献2においては、周囲に電磁波として伝搬しない電磁場を形成する出力電極と、この出力電極の周囲に複数の検出電極を配置して、電磁場の変動を検出電極で検出する入力装置が知られている。この装置では、出力電極により、その周囲に形成された電磁場が、操作者の指先の移動により、変調を受けることを利用して、複数の検出電極により検出された各検出信号の位相差により、指先の移動や指先の位置を検出することで、それらを操作入力としている。
また、特許文献3においては、特許文献1、2と同様な装置が開示されている。この特許文献3には、電磁場を近接場とする他、アンテナを用いて伝搬する電磁波空間を形成して、その空間において、操作者が手のひらなどを移動させ、複数のアンテナで受信した受信信号間の位相差により、操作入力を検出する装置が開示されている。
また、特許文献4においては、人体の表面に電磁場を励起して、ドアに設置された入力電極に手を接触させることで、その人のIDを人体から受信装置に通信させて、ドアの開閉を制御する装置が開示されている。そして、人と電極との接触面積により、受信信号の強度が変化し難いように、電極を円弧状に形成することが提案されている。
ところが、上記の入力装置によると、非接触により電子装置に対する指示を与えることができるが、操作入力を連続して行うような場合には、非接触のため、操作者の腕や指先などが支持されず、疲れるという問題がある。
そこで、本発明は、この課題を解決するために成されたものであり、本発明の目的は、操作者の特定部が支持部により支持された状態で、特定部の動作により支持部が変形することで、電磁場を変調させて、電極でその電磁場を検出できるようにすることである。
第1の発明は、操作者の特定部の動作により、電子装置に対する操作指令を入力する入力装置であって、操作者の少なくとも特定部を励振信号により励振する励振装置と、特定部から形成される電磁場を検出する少なくとも一つの検出電極と、検出電極と操作者の特定部との間に存在し、特定部の接触による動作に応じて形状が変化し、検出電極から見た容量が変化する変形性物体と、検出電極により検出された検出信号と、励振信号との振幅の和と振幅の差に応じて、特定部の動作を検出する動作検出装置と、を有することを特徴とする入力装置である。
また、第2発明は、操作者の特定部の動作により、電子装置に対する操作指令を入力する入力装置であって、励振信号を出力する励振装置と、励振装置の出力する励振信号を入力して、励振信号により電磁場を形成する励振電極と、励振電極により形成された電磁場を検出する少なくとも一つの検出電極と、励振電極又は検出電極と操作者の特定部との間に存在し、特定部の接触による動作に応じて形状が変化し、検出電極から見た容量が変化する変形性物体と、検出電極により検出された検出信号と、励振信号との振幅の和と振幅の差に応じて、特定部の動作を検出する動作検出装置と、を有することを特徴とする入力装置である。
操作者の特定部とは、手や足の指先、手のひら、腕、足、鼻、顎など、変形性物体を変形や変位させることができる部分でありさえすれば、任意である。変形性物体は、液体、ゲル、又は、ゾルを柔軟性部材で内包した物体とすることが望ましい。変形性物体は操作者の手のひらなどで、押しつぶしたり、変形させたり、変位させることができるものであれば任意である。また、変形性物体は誘電体であるので、これらの変形により、電極から見た静電容量は変化する。この静電容量の変化が電極による検出信号に現れる。本発明は、この検出信号と操作者による動作とが関連していることに注目して、この検出信号を電子装置に対する操作入力としている。
第1発明においては、操作者の少なくとも特定部を励振信号により励振する励振装置を有し、電磁場は特定部から形成される電磁場であり、電極は電磁場を検出する少なくとも一つの検出電極としている。この方法は、操作者を励振する方法である。
電磁場は単一周波数の正弦波、余弦波であっても、これらの波の振幅、位相、周波数などを変調をした信号であっても良い。また、方形波であっても良い。電極は、平板金属やアンテナである。検出電極は単一であっても、複数であっても良い。検出電極が一つの場合には、2値指令、すなわち、例えば、装置の電源のオンオフの指令などに用いることができる。
特定部からは、入力指令を与える周囲に電磁波を放射することなく、エバネセット波のような伝搬モードを有さない近接場が形成される。特定部の大きさが、電磁場の波長の1/100程度以下に十分小さいと、特定部の周囲には、放射モードはなく、エバネセット波による近接場が形成される。特定部を励振する信号の周波数としては、1〜100MHzを用いることができる。したがって、50MHzでの励振であれば、特定部が6cm以下であれば、この条件を満たすことができる。特定部と検出電極との距離は、60cm以下、6cm以上が望ましい。望ましくは、20cm以下、6cm以上を用いることができる。1MHzでの励振であれば、3m以下の大きさからは放射モードではなく近接場が形成できるので、人体の特定部からは近接場が形成される。また、特定部と検出電極との関係も、波長程度以下に拡大することができる。操作者の励振は、操作者が椅子に座っている場合には、椅子を励振することで、操作者の人体を電磁場が伝搬して間接的に操作者の特定部を励振することができる。また、特定部の近くに電極を貼付して、その電極から特定部を励振するようにしても良い。これらの励振により特定部からは外部に電磁場が形成される。操作者を励振した場合には、励振させた操作者のみが操作入力可能となる。
また、第2発明においては、励振信号により電磁場を形成する励振電極と、この励振電極により形成された電磁場を検出する少なくとも一つの検出電極とを有している。この場合には、操作者を励振するのではなく、環境に励振電極を設けている。変形性物体は、励振電極上、検出電極上、又は、励振電極と検出電極との間の空間に設けられる。操作者の特定部の動作により変形性物体が変形、変位すれば、検出電極から見た静電容量が変化するので、特定部の動作を検出することができる。検出電極の数は任意である。
両発明において、検出電極により検出された検出信号と、励振信号との振幅の和と振幅の差に応じて、特定部の動作を検出する動作検出装置を有している。具体的には、動作検出装置は、検出電極により検出された検出信号と励振信号との振幅の和に対する振幅の差の比に応じて、特定部の動作を検出するようにしても良い。
操作者を励振する第1発明の場合と、操作者を励振することなく励振電極により電磁場を形成する第2発明の場合とにおいて、検出電極は、複数の検出電極を有し、任意の2つの検出電極により検出された2つの検出信号の振幅の和と振幅の差に応じて、特定部の動作を検出する動作検出装置を設けても良い。この場合も、具体的には、任意の2つの検出電極により検出された2つの検出信号の振幅の和に対する振幅の差の比に応じて、特定部の動作を検出する動作検出装置を設けても良い。
上記の第1発明及び第2発明とは別に、本明細書には下記の発明も記載されている。次のように、位相同期された電磁場空間の中に変形性物体が置かれても良い。すなわち、入力装置において、基準信号を生成する基準信号発生装置と、検出電極により検出された検出信号と基準信号との同一周波数に変換された後の両信号の位相差、及び、励振信号と基準信号との同一周波数に変換された後の両信号の位相差が一定になるように、励振信号を基準信号に対して位相同期させる位相同期装置と、位相差に基づいて特定部の動作を検出する検出装置とから成る動作検出装置とを設けても良い。この場合には、励振信号と検出信号と基準信号とが同一周波数に変換された後の信号において、励振信号と検出信号とが、基準信号に対してある位相差をもって位相同期されている。この位相差は、操作者の特定部の動作に応じて変化する。これにより、特定部の動作を確実に検出することができる。位相差を求めるには、同一周波数で比較することが必要であるので、一般的には、基準周波数と同一周波数、又は、基準周波数を逓倍又は分周した周波数に変換して、それらの3信号の位相を比較することになる。
入力装置において、操作者を励振する場合と、操作者を励振することなく励振電極により電磁場を形成する場合とにおいて、検出電極は、複数の検出電極を有し、任意の2つの検出電極により検出された2つの検出信号の位相差に応じて、特定部の動作を検出する動作検出装置を設けても良い。
また、入力装置において、形成される電磁場を位相同期されたものとすることができる。すなわち、入力装置において、電極は、励振信号により電磁場を形成する第1出力電極と、この電磁場を検出する第1検出電極と、第1検出電極で検出した電磁場の周波数を変化させて、他の周波数の電磁場を出力する第2出力電極と、第2出力電極で形成された電磁場を検出する第2検出電極とを有し、基準信号を生成する基準信号発生装置と、第2検出電極により検出された検出信号と基準信号との同一周波数に変換された後の両信号の位相差、及び、励振信号と基準信号との同一周波数に変換された後の両信号の位相差が一定になるように、励振信号を基準信号に対して位相同期させる位相同期装置と、位相差に基づいて特定部の動作を検出する検出装置とから成る動作検出装置を、さらに、設けても良い。
この場合には、変形性物体は、第1出力電極、第1検出電極、第2出力電極、第2検出電極のうちの、少なくとも1電極の上や、任意の2つの電極間、各電極間の間に設けても良い。また、変形性物体は複数設けても良い。例えば、第1出力電極と第2検出電極との間に第1変形性物体を設け、第1検出電極と第2出力電極との間に第2変形性物体を設けても良い。そして、第1変形性物体は右手の手のひらで、第2変形性物体は左手の手のひらで、変形させるようにしても良い。そのようにすると、操作者の右手と左手で、異なる操作指令を電子装置などに与えることができる。一巡のループで電磁場が位相同期しているので、励振信号又は第2検出電極により検出された検出信号と基準信号との同一周波数に変換された後の周波数において、励振信号又は検出信号の基準信号に対する正確な位相差を求めることができ、操作者の特定部の動作を正確に検出することができる。
また、入力装置において、上記の位相同期をかける方式は、操作者の特定部を励振する場合にも、応用できる。すなわち、入力装置において、操作者の少なくとも特定部を励振信号により励振する励振装置を有し、電磁場は特定部から形成される電磁場であり、電極は、電磁場を検出する第1検出電極と、第1検出電極で検出した電磁場の周波数を変化させて、他の周波数の電磁場を出力する出力電極と、出力電極で形成された電磁場を検出する第2検出電極とを有し、基準信号を生成する基準信号発生装置と、第2検出電極により検出された検出信号と基準信号との同一周波数に変換された後の両信号の位相差、及び、励振信号と基準信号との同一周波数に変換された後の両信号の位相差が一定になるように、励振信号を基準信号に対して位相同期させる位相同期装置と、位相差に基づいて特定部の動作を検出する検出装置とから成る動作検出装置を、設けても良い。
本発明の入力装置では、操作者の手、腕などの特定部が変形性物体で支持されているので、車のウインドの開閉操作、身体障害者用装置、又は、ゲーム機、その他一般の電子装置に対する各種の指令を、操作者に疲労感を与えることなく入力するための装置とすることができる。
本発明の入力装置は、変形性物体の上に操作者の手のひらや指などの特定部を接触させて、その変形性物体を変形や変位させることで、その変形や変位に応じた検出信号を取得することができる。これにより、操作者の特定部は変形性物体により支持されたまま、変形性物体に動作を与えることができ、接触自体を入力指令とはしない非接触の入力装置であっても、操作者に疲労感を与えることがない。
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
図1は、実施例1に係る入力装置100の機構を示した構成図である。樹脂板50の裏面には、第1検出電極10Aと第2検出電極10Bとが設けられている。操作者の手のひら30は、励振装置40により励振されている。ゲルを樹脂シートの袋で内包した変形性物体35が樹脂板50の上に設けられている。変形性物体35は第1検出電極10Aと第2検出電極10Bとの間に設けられている。
励振装置40は、発振器44、バンドパスフィルタ43、増幅器42、励振電極41とによって構成されている。発振器44の発振周波数は、電磁場が人体表面を伝搬することができる周波数であり、1〜100MHzである。バンドパスフィルタ43は、発振器44の発振する電気信号の周波数帯のみを透過させるものであり、増幅器42はバンドパスフィルタ43を透過した電気信号を増幅するものである。また、励振電極41は、増幅器42から出力される励振信号によって電磁場を励振し、人体表面に電磁場を伝搬させるものである。人体の表面に励振された電磁場は、操作者の手のひら30から変形性物体35などの周囲の環境に近接場を形成することになる。励振装置40による人体の励振は、人体に、直接、励振電極41を貼り付けて励振するものの他、操作者の着座している椅子を励振し、椅子を介して人体を励振するものであっても良い。また、作業者が車両の運転者である場合には、ハンドルを励振装置40で励振して、ハンドルからハンドルを握る片腕を介して運転者を励振し、指令を付与する他方の手の手のひら30からその周囲に近接場を形成するようにしても良い。バンドパスフィルタ43や増幅器42は必ずしも必要なものではないが、ノイズ等を除去して位置測定精度を高めるためにはこれらを設けることが望ましい。
第1検出電極10A、第2検出電極10Bは、それぞれ、樹脂板50の裏面に接合された銅薄膜61A、61Bを有している。その銅薄膜61A、61Bは、それぞれ、樹脂スペーサ63A、63B上に形成されており、中心ピン62A、62Bに接続されている。樹脂スペーサ63A、63Bの裏面には同軸ケーブルの外被導体に接続さたアース銅薄膜64A、64Bが、それぞれ、設けられている。また、外導体がアース銅薄膜64A、64Bに接合し、中心ピン62A、62Bを内在したコネクタ65A、65Bが設けられている。コネクタ65A、65Bに接続された図示しない同軸ケーブルを介して、第1検出電極10A、第2検出電極10Bの検出する各検出信号は、図2の動作検出装置150に入力している。
図2は、入力装置100の動作検出装置150の構成を示したブロック図である。図2の動作検出装置150は、第1検出電極10Aの検出する第1検出信号を入力する増幅器11A、バンドパスフィルタ12A、ログアンプ13Aと、第2検出電極10Bの検出する第2検出信号を入力する増幅器11B、バンドパスフィルタ12B、ログアンプ13Bを有している。ログアンプ13A、Bは、電力−電圧変換回路である。
また、図2の動作検出装置150は、加算器15、減算器14、除算器16を有している。加算器15、減算器14にはそれぞれ、ログアンプ13Aとログアンプ13Bの出力が接続されている。加算器15は、ログアンプ13Aからの出力信号とログアンプ13Bからの出力信号とを加算して出力するものであり、減算器14は、ログアンプ13Aからの出力信号からログアンプ13Bからの出力信号を減算して出力するものである。また、加算器15の出力と減算器14の出力は除算器16に接続されている。除算器16は、減算器14からの出力信号を加算器15からの出力信号で除算して出力するものである。除算器16の出力は、増幅器17、ローパスフィルタ18を介して出力される。
このローパスフィルタ18から出力される電気信号の電圧値Vpは、ログアンプ13Aからの出力信号の電圧値をVA、ログアンプ13Bからの電気信号の電圧値をVBとすれば、Vp=(VA−VB)/(VA+VB)である。電圧値Vpは、操作者の手のひら30の動作による変形性物体35の変形や変位の程度に応じて変化する値である。
手のひら30で、変形性物体35を変形させたり変位させたりした時の上記の電圧値Vpの波形を図3に示す。図3は、変形性物体35を前後に移動させた場合の検出波形である。手のひら30の周期的動作に伴い電圧値Vpが周期的に変化していることが理解される。これは、電磁場を形成する手のひら30と第1検出電極10A及び第2検出電極10B間の静電容量が、異なって変化するために発生する現象である。すなわち、変形性物体35の変形、変位に応じて、第1検出電極10Aの検出する第1検出信号の振幅が大きく第2検出電極10Bの検出する第2検出信号が小さくなり、逆に、第1検出電極10Aの検出する第1検出信号の振幅が小さく第2検出電極10Bの検出する第2検出信号が大きくなる結果である。このような波形の電圧レベル、周期、電圧レベルの増減方向などを、電子装置に対する指令入力とすることができる。
本実施例の入力装置101は、動作検出装置151を2つの検出信号の位相差により操作者の動作を検出するようにした例である。図4において、操作者を励振する励振装置40は実施例1と同一構成である。本実施例は、実施例1と同様に、第1検出電極20A、第2検出電極20Bは、操作者の励振によって、手のひら30から発生した周波数10.7MHz、波長28mの近接場を電気信号として受信する電極である。動作検出装置151は、第1検出電極20Aの検出する電気信号を入力するバンドパスフィルタ21A、増幅器22A、第2検出電極20Bの検出する電気信号を入力するバンドパスフィルタ21B、増幅器22Bを有している。バンドパスフィルタ21A、21Bは、発振器10の発振周波数帯のみを透過するものであり、増幅器22A、22Bは、それぞれバンドパスフィルタ21A、21Bからの電気信号を増幅するものである。
また、動作検出装置151は、乗算器23A、23Bをそれぞれ有している。乗算器23Aには、増幅器241を介して増幅器22Aの出力が接続され、移相器25A、増幅器242を介して増幅器22Bの出力が接続されている。一方、乗算器23Bには、移相器25B、増幅器243を介して増幅器22Aの出力が接続され、増幅器244を介して増幅器22Bの出力が接続されている。移相器25Aは第2検出電極20Bからの電気信号を、移相器25Bは第1検出電極20Aからの電気信号を、それぞれ、移相して出力するものであり、その移相量は等しく設定されている。乗算器23Aは、第1検出電極20Aからの電気信号と、移相器25Aによって移相された第2検出電極20Bからの電気信号とを乗算して出力するものである。また、乗算器23Bは、第2検出電極20Bからの電気信号と、移相器25Bによって移相された第1検出電極20Aからの電気信号とを乗算して出力するものである。
乗算器23A、23Bの出力は減算器26に接続しており、減算器26は、それぞれの入力された電気信号の差分をとって出力する。減算器26の出力側は、増幅器27、ローパスフィルタ28を介して、ローパスフィルタ28の出力をディジタル値に変換するA/D変換器29に接続されている。そして、A/D変換器29は、操作指令を与えるための電子装置(図示しない)に接続されている。増幅器27は、減算器26の出力する電気信号を増幅するものであり、ローパスフィルタ28は、高周波成分(直流成分に近い電気信号以外)をカットして出力するものである。
次に、動作検出装置151の動作について説明する。操作者の手のひら30の動作により変形性物体35の変形又は変位によって、第1検出電極20A、第2検出電極20Bの見る静電容量が変化する。この静電容量の変化により、第1検出電極20A、第2検出電極20Bで検出されるそれぞれの検出信号の位相が異なり、かつ、変化する。以下、説明の簡略化のため、第1検出電極20Aで受信する電気信号をcos(ωt+θA)、第2検出電極20Bで受信する電気信号をcos(ωt+θB)として考察する。ただし、θA、θBは進み位相を正、遅れ位相を負としている。ωは2πfであり、fは発振器44の発振周波数である。
第1検出電極20Aで受信した電気信号cos(ωt+θA)は、バンドパスフィルタ21Aによって発振器10の周波数帯域のみが透過され、増幅器22Aによって信号が増幅される。また、第2検出電極20Bで受信した電気信号cos(ωt+θB)は、バンドパスフィルタ21Bによって発振器10の周波数帯域のみが透過され、増幅器22Bによって信号が増幅される。増幅器22Aからの出力は、2つに分岐されて一方は増幅器241によってさらに信号が増幅されたのち乗算器23Aへ、他方は移相器25Bによって位相がφ遅延されてcos(ωt+θA−φ)の電気信号となり、その電気信号が増幅器243によって増幅されたのち乗算器23Bへ入力される。
また、増幅器22Bからの出力は、2つに分岐されて一方は増幅器244によってさらに信号が増幅されたのち、乗算器23Bへ、他方は移相器25Aによって位相がφ遅延されてcos(ωt+θB−φ)の電気信号となり、その電気信号が増幅器242によって増幅されたのち乗算器23Aへ入力される。
つまり、乗算器23Aには、cos(ωt+θA)の電気信号と、cos(ωt+θB−φ)の電気信号が入力され、乗算器23Bには、cos(ωt+θA−φ)の電気信号と、cos(ωt+θB)の電気信号が入力される。したがって、乗算器23Aの出力は、cos(ωt+θA)・cos(ωt+θB−φ)であり、後段のローパスフィルタ28でカットされる高周波成分を除けば、(1/2)・cos(ψ+φ)である。ここで、θA−θB、すなわち位相差をψと置いた。同様に乗算器23Bの出力は、(1/2)・cos(ψ−φ)となる。
乗算器23A、23Bから出力される電気信号(1/2)・cos(ψ+φ)および(1/2)・cos(ψ−φ)は、減算器26に入力される。減算器26からの出力は、(1/2)・cos(ψ−φ)−(1/2)・cos(ψ+φ)=sinψ・sinφとなる。その後、増幅器27で信号が増幅されたのち、ローパスフィルタ28によってすでに計算上省略した高周波数成分がカットされて、レベルsinψ・sinφがA/D変換器29に入力されて、ディジタル値に変換されて、位相差ψに比例した値が出力される。
A/D変換器29からは、電気信号sinψ・sinφの電圧値(ディデタル値)が出力される。この電圧値は、第1検出電極20A、第2検出電極20Bで受信する電気信号の位相差ψ(=θA−θB)に対応した値であり、さらにその位相差ψは、変形性物体35の変形、変位に関係した値である。したがって、電気信号sinψ・sinφの電圧値から、変形性物体35の変形又は変位に応じた操作者の指令する動作量や動作方向を測定することができる。なお、この結果が示すように、φが90°のときにsinφ=1より、出力が最大となるため、移相器25A、Bの移相量φは90°に設定することが望ましい。位置測定の感度を向上させることができるためである。
上記実施例1、実施例2は、検出電極を2つ設けて、各検出電極の検出する信号の振幅、又は、位相に応じて、操作者の動作入力を検出するものである。本実施例は、図1に示す検出電極を検出電極10Aの1つだけにして、操作者を励振する励振電極41に出力される励振信号の振幅Eと、電極と検出電極10Aの出力する検出信号の振幅Dとにより、変形性物体35の変形、変位量を検出するようにしている。すなわち、図2の検出電極10Aから検出信号を入力して、検出電極10Bには励振電極41に入力する励振信号を入力すようにした実施例である。この構成により、ローパスフィルタ18の出力信号の電圧値VpはVp=(E−D)/(E+D)で与えられ、実施例1と同様に操作者の手のひら30の動作を検出することができる。この場合には、変形性物体35は、検出電極10Aの上方に設けられることが望ましい。
また、同様に、実施例2の図4において、検出電極20Aから検出信号を入力して、検出電極20Bには励振電極41に入力する励振信号を入力すようにしても良い。この構成により、A/D変換器29の出力から、検出電極20Aの検出信号の位相θAと、励振電極41に出力される励振信号の位相θBとの位相差ψ(=θA−θB)を出力することができる。実施例2と同様に操作者の手のひら30の動作を検出することができる。
本実施例は操作者の人体に励振電極41を貼付して人体を励振するのではなく、図5に示すように、励振電極70により電磁場空間を形成し、励振電極70の両側に配設されせた第1検出電極10Aと第2検出電極10Bにより変形性物体35の変形や変位により変調された電磁場を検出するようにした入力装置104である。実施例1、2と同一機能を有する部分には同一符号が付されている。図5に示されているように、樹脂板50の裏面に、第1検出電極10A、励振電極70、第2検出電極10Bが、直線上に配設されている。励振電極70は第1検出電極10Aと第2検出電極10Bとの中点に位置している。共通の板状の樹脂スペーサ63の裏面にはアース銅薄膜64が形成されている。第1検出電極10A、第2検出電極10Bの構造は、樹脂スペーサ63とアース銅薄膜64が共通の連続した板状であることを除き、実施例1の図1に示す構造と同一である。励振電極70の銅薄膜71は樹脂版50の裏面に接合している。銅薄膜71は、中心ピン72に接続されており、外導体がアース銅薄膜63に接合し、中心ピン72を内在したコネクタ75が設けられている。コネクタ75に接続された図示しない同軸ケーブルを介して励振装置40の増幅器42(図1)から入力された励振信号により励振電極70の銅薄膜71が励振される。また、第1検出電極10A、第2検出電極10Bの銅薄膜61A、61Bで検出される電磁場による信号は、コネクタ65A、65Bに接続された図示しない同軸ケーブルを介して、図2の動作検出装置150、又は、図4の動作検出装置151に伝送される。
この構成においても、樹脂板50上を変形性物体35が操作者の手のひら30により左右に移動され、又は、変形されることにより、励振電極71と第1検出電極10Aの間、励振電極71と第2検出電極10Bの間に形成された電磁場が変調を受ける。これにより、変形性物体35の変形、変位に応じて、第1検出電極10Aの検出する第1検出信号及び第2検出電極10Bの検出する第2検出信号の振幅や位相が変化する。この結果、実施例1、2と同様に、両検出信号の振幅に関して、Vp=(VA−VB)/(VA+VB)により、両検出信号の位相に関して、位相差ψ(=θA−θB)により、操作者の手のひらの動作方向や動作量を検出することができる。
実施例5に係る入力装置105は、電磁場に関して、一巡の位相同期を実現した装置である。図6において、第1出力電極(アンテナ)81により出力された周波数fs の電磁場は、第1検出電極(アンテナ)83により検出され、周波数fR に周波数変換された後、第2出力電極(アンテナ)82から出力されて、第2検出電極(アンテナ)84で受信される。第1出力電極81と第2検出電極84は、図7に示されているように、内側と外側に平行に2重に螺旋に巻かれた構造である。同様に、第1検出電極83と第2出力電極82は、内側と外側に平行に2重に螺旋に巻かれた構造である。そして、第1出力電極81と第2検出電極84の上方に、第1変形性物体35Aが設けられており、第1検出電極83と第2出力電極82の上方に、第2変形性物体35Bが設けられている。
本発明は、信号は単一周波数の正弦波に限定するものではないが、以下、信号は、全て、単一周波数の正弦波とする。動作検出装置155は、親機155Aと子機155Bとから成る。図6の親機155Aは、基準周波数f0 の基準信号S0 を発振する基準発振器86と、子機155Bから出力された電磁場を検出する第2検出電極84と、その検出信号SR を増幅する受信器87と、その受信器87の出力信号を基準信号S0 と同一の周波数f0 の正弦波に周波数変換する分周器88と、基準発振器86の出力する基準信号f0 の位相θ0 と、分周期88の出力信号の位相θR とを比較して位相差ΔθR (=θR −θ0 )を出力する第1位相比較器89とを有している。また、親機155Aは、第1位相比較器89の出力する位相差信号を積分するループフィルタ90と、そのループフィルタ90の出力電圧に応じて、発振周波数を変化させる電圧制御発振器91と、その出力信号を増幅し、第1出力電極81を周波数fs の励振信号SE で励振する送信器92とを有している。
また、親機155Aは、電圧制御発振器91の出力信号の周波数を基準周波数f0 に分周する分周器93と、基準発振器86の出力する基準信号S0 の位相θ0 と、分周器93の出力信号の位相θS とを比較して位相差ΔθS (=θS −θ0 )を出力する第2位相比較器94とを有している。さらに、親機155Aは、第2位相比較器94の出力を積分するローパスフィルタ95と、その出力をA/D変換するA/D変換器96とを有している。第2位相比較器94、ローパスフィルタ95、A/D変換器96とが、位相差に基づいて特定部の動作を検出する検出装置を構成している。
子機155Bは、親機155Aの第1出力電極81により形成された電磁場を検出する第1検出電極83と、第1検出電極83により検出された周波数fS の信号を増幅する受信器97と、受信器97の出力信号を周波数fR に周波数変換した後、増幅して第2出力電極82を励振する周波数変換送信器98とを有している。基準信号の周波数f0 は5MHz、第1出力電極81の励振信号の周波数fs は64.2MHz、第2出力電極82の励振信号の周波数fR は53.5MHzを用いている。
本装置では、第2検出電極84の出力する検出信号SR を基準周波数f0 に周波数変換した信号の位相θR と、基準信号S0 の位相θ0 とが一致とするように、すなわち、位相差ΔθR (=θR −θ0 )が零となるように、第1出力電極81を励振する励振信号SE の位相と周波数fS とが決定される。すなわち、励振信号SE と検出信号SR とは周波数f0 の領域において位相が一定の位相差で同期している。そして、励振信号SE を周波数f0 に周波数変換して得られる信号の位相θs と基準信号S0 の位相θ0 との位相差ΔθS (=θS −θ0 )の値がA/D変換器96の出力信号として得られる。この出力信号が操作者が入力した電子装置などに対する指令信号となる。
今、図8に示すように、本実施例装置は、シートの右側のアームレストに、親機155Aと第1出力電極81と第2検出電極84とが組み込まれ、アームレストの表面に第1変形性物体35Aが配設されている。また、左側のアームレストに、子機155Bと第1検出電極83と第2出力電極82とが組み込まれ、アームレストの表面に第2変形性物体35Bが配設されている。操作者が右手の手のひらで第1変形性物体35Aを変形又は変位させ、左手の手のひらで第2変形性物体35Bを変形又は変位させると、第1出力電極81、第1検出電極83、第2出力電極82、第2検出電極84から見た静電容量が、それぞれ、変化する。これにより、検出信号SR の位相θR が変化して、位相差ΔθR (=θR −θ0 )が零となるように、励振信号SE の周波数f0 領域での位相θS が制御される。したがって、作業者の左右の手のひらの動作の方向や動作量に応じて、位相差ΔθS (=θS −θ0 )が変化することになる。例えば、右手の手のひらを前方に進出させて第1変形性物体35Aを伸長し、左手の手のひらを手前に引いて第2変形性物体35Bを丸めるようにすることで、位相差θS を正の方向に増加させることができる。逆に、右手の手のひらを手前に引いて第1変形性物体35Aを丸め、左手の手のひらを前方に伸ばして第2変形性物体35Bを伸長するようにすることで、位相差θS を負の方向に減少させることができる。これにより、ある駆動装置に対して加速又は減速の指令としたり、右回転又は左回転の指令とすることができる。このようにして、作業者が入力装置105に入力した操作指令を検出することができる。本装置では、位相が同期した電磁場空間での変調を利用しているので、正確な位相差ΔθS を得ることができ、操作指令の検出精度を向上させることができる。
本実施例は、操作者の人体を励振する場合に用いる装置である。本実施例では、実施例5における第1出力電極(励振電極)81が、操作者の人体に貼付されている。この場合には、第2検出電極84は、第1出力電極81とは分離された独立の電極であり、第1の変形性物体35Aは、第2検出電極84上に存在する。本実施例でも、実施例5と同様に、変形性物体の変形又は変位に応答して、検出信号SR の位相θR が変化して、位相差ΔθR (=θR −θ0 )が零となるように、励振信号SE の周波数f0 領域での位相θS が制御される。これにより、位相差ΔθS (=θS −θ0 )が変化し、位相差ΔθS から作業者が入力装置105に入力した操作指令を検出することができる。本装置では、位相が同期した電磁場空間での変調を利用しているので、正確な位相差ΔθS を得ることができ、操作指令の検出精度を向上させることができる。