JP6173277B2 - 人工血管及びその製造方法 - Google Patents
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[1]生体由来管状体の少なくとも一部が架橋剤により化学架橋されてなる、内径6mm以下の人工血管であって、前記生体由来管状体が弾性線維及び内弾性板を有するとともに、前記弾性線維及び前記内弾性板が化学架橋されており、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定される曲率半径が4cm以下であり、流路方向の可逆的伸展率が10%以上である人工血管。
[2]前記生体由来管状体が、綿羊頸動脈、山羊頸動脈、仔牛頸動脈、駝鳥頸動脈、七面鳥頸動脈、鶏頸動脈、アヒル頸動脈、合鴨頸動脈、ホロホロ鳥頸動脈、綿羊尿管、山羊尿管、豚尿管、牛尿管、馬尿管、綿羊頸静脈、山羊頸静脈、駝鳥頸静脈、牛頸静脈、及び馬頸静脈からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の人工血管。
[3]前記内弾性板の流路方向に直交する断面の内側形状が波形であり、
前記波形の深さ(D)に対する幅(W)の比(W/D)の平均値が1〜5である前記[1]又は[2]に記載の人工血管。
[4]酸性ムコ多糖類、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリビニルアルコール、中性アミノ酸、親水性アミノ酸、及び酸性アミノ酸からなる群より選択される少なくとも一種が前記生体由来管状体の内面組織に共有結合し、前記生体由来管状体の内面組織に親水性が付与されている前記[1]〜[3]のいずれかに記載の人工血管。
[5]前記生体由来管状体の内面組織に塩基性タンパク質を介してヘパリンが結合している前記[1]〜[4]のいずれかに記載の人工血管。
[6]前記生体由来管状体の外面組織にはヘパリンが結合していない前記[5]に記載の人工血管。
[7]外側に配置される合成高分子材料製のメッシュをさらに備える前記[1]〜[6]のいずれかに記載の人工血管。
[8]血液透析用内シャント人工血管、静脈用代用血管、心臓血管系のパッチ材、内径6mm以下の領域の代用血管、心血管系弁付血液導管、又は心血管系弁付パッチとして用いられる前記[1]〜[7]のいずれかに記載の人工血管。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の人工血管の製造方法であって、生体由来管状体の少なくとも一部を、前記生体由来管状体の管腔内圧を10〜100mmHg加圧した条件で、多官能脂肪族エポキシ化合物及び水溶性有機溶媒を含有する架橋剤溶解液を用いて化学架橋する工程を有する人工血管の製造方法。
[10]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の人工血管の製造方法であって、生体由来管状体を下記(1)又は(2)の状態として、多官能脂肪族エポキシ化合物及び水溶性有機溶媒を含有する架橋剤溶解液を用いて化学架橋する工程を有する人工血管の製造方法。
(1)流路方向に0.01〜40%短縮した状態
(2)流路方向への伸展を、前記生体由来管状体の流路方向の長さの0〜40%に制限した状態
[11]前記水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、及びアセトンの少なくともいずれかである前記[9]又は[10]に記載の人口血管の製造方法。
[12]前記生体由来管状体の内腔に塩基性タンパク質溶液を注入して管腔内圧を負荷した後、前記生体由来管状体の内腔にヘパリンを注入して、前記生体由来管状体の内面組織に抗血栓性を付与する工程をさらに有する前記[9]〜[11]のいずれかに記載の人工血管の製造方法。
[13]管腔内圧100〜180mmHgの加圧条件下で前記生体由来管状体の漏れ箇所を検出する工程をさらに有する前記[9]〜[12]のいずれかに記載の人工血管の製造方法。
天然の血管は屈曲性に富む、特に内圧がかかった状態に於いては血管の太さにもよるが、内径6mm程度の血管の場合は曲率半径が4.0cmまで曲げること可能である。人工血管の物性を表現するにはANSI/AAMI基準の耐kink試験に従って計測することが一般的であることから、本発明における「可能な限り生体由来組織の持つ特有な柔軟性」の一つである屈曲性に関しては、曲率半径4.0cm以下を目標とした。
生体由来管状体を化学架橋すれば、グルタールアルデヒドに関して述べた通り、硬化して生体由来組織の特徴である柔軟性は失われる。架橋剤のうちで架橋後も素材の柔軟性を維持させる手法は特許文献4及び8示す様にNoishikiによって多官能脂肪族エポキシ化合物による架橋方法である。しかし特許文献4及び8に示される手法をそのまま踏襲しても、上記の「可能な限り生体由来組織の持つ特有な柔軟性」の維持、すなわち、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に従って計測する曲率半径が4.0cm以下、及び、長軸方向の可逆的伸展率が10%以上、という2つの要件を満たすことはできない。
弾性線維や内弾性板は伸び切った状態で架橋されると弾力性が発揮できない事を本発明では明らかにした。そこで弾性線維や内弾性板が伸び切った状態になるのを防ぐため管腔内圧を低くして弾性線維や内弾性板が縮んだ状態で架橋することを本発明で編み出した。具体的手法としては予め生体由来管状体を長軸方向に縮めておくか、あるいは長軸方向への伸展性を制限した状態に保ったまま架橋を行う。更には架橋時の管腔内圧は少なくとも100mmHg以下に維持する。これらを実施することで「曲率半径が4.0cm以下」と「長軸方向の可逆的伸展率が10%以上」の要件を満たす工夫である。
生体由来管状体の素材としては、可能な限り枝分かれの少ない、細くて均質な管状体が好ましい。具体的には綿羊頸動脈、山羊頸動脈、仔牛頸動脈、駝鳥頸動脈、七面鳥頸動脈、鶏頸動脈、アヒル頸動脈、合鴨頸動脈、ホロホロ鳥頸動脈、綿羊尿管、山羊尿管、豚尿管、牛尿管、馬尿管、綿羊頸静脈、山羊頸静脈、駝鳥頸静脈、牛頸静脈、及び馬頸静脈からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましいが、これ以外にも枝分かれが少なく、細くて均質な管状体があれば、素材として使用可能である。これらの素材の特性に応じて、架橋時の形状を整えれば、要件に掲げた耐キンク性や伸展性を満たすことができる。
従来技術の手法に則って化学架橋した動脈を見ると、弾性線維や内弾性板が架橋されていないことを本発明では見出した。弾性線維は動脈や静脈など、血管組織に於いては主要な構成要素の一つであるが、従来技術では、その架橋を行っていない。もしくは弾性線維には注意を払っていなかった。しかし弾性線維は血管壁内に網の目のように分布し、血管の柔軟性を生み出す主要な構成物である。特に血管の内腔面近くにある内弾性板は力学的に主要な構成要素であるが、先行技術ではそれを架橋する記述が見当たらない。また、先行技術の手法ではそれらを架橋することができない。そこで、本発明では弾性線維と内弾性板の化学架橋を行う方法を編み出した。
内弾性板の形状に関して、生体由来管状体基材の代表的な一例として動物から採取した動脈を例にとって説明する。図2に動脈の横断面の光学顕微鏡写真を示す。動脈は大まかには筋型動脈と弾性型動脈とに分類され、人工血管などの素材として転用される末梢の動脈は筋型動脈であり、太い胸部や腹部の大動脈は弾性型動脈である。図2は典型的な筋型動脈を示す。弾性繊維が黒く染める弾性線維染色が施されている。内腔面近くに、あたかもコイル状に見えるほど深い波型を呈して染め出されているのが内弾性板であり、その外側にも細かい波型を有する黒い線は弾性線維である。図3は、その部分的拡大図であり、内腔面近くの内弾性板と外側の弾性線維とが黒く染めだされている。動脈を体内から切り出すと内圧がかかっていないので、図2及び3の如く弾性繊維や内弾性板のみならず動脈全体が縮んだ状態となる。
次に内径6mm以下の人工血管に要求される抗血栓性の付与に関して述べる。口径が細くなればなるほど、小さな血栓付着でも閉塞するため、強力な抗血栓性の付与が必須となる。本発明では基本的には管腔の内表面にのみ抗血栓性を賦与し、外面には抗血栓性の要素を持たせないことを重視した。
内表面に親水性を賦与すると、血栓性が低下することは指摘されている。本発明では酸性ムコ多糖類、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリビニルアルコール、中性アミノ酸、親水性アミン酸、及び酸性アミノ酸からなる群より選択される少なくとも一種を前記内膜組織に共有結合させて固定することで親水性を賦与している。それらの固定に関しては、従来技術を転用することが可能である。本発明では、内表面の親水性付与が血栓形成阻止にどのように関与するかに関して検討を行ったところ、基材の柔軟性があれば親水性付与が効果的であることを明らかにした。すなわち、基材をグルタールアルデヒド処理した場合、内面に親水性を賦与すれば血液が付着した直後の血栓形成が阻止可能であった。この成果は既に指摘されている事である。しかしながら、本発明では、基材に柔軟性があれば、内表面の親水性との相乗効果が血栓付着阻止に特に有効であることを明らかにした。その意味から前述の基材架橋時における柔軟性維持・弾力性維持を行った基材に親水性を賦与すると、従来技術では得られなかった相乗効果としての血栓付着阻止作用を発揮することを見出した。
抗血栓性物質の固定の中で、特にヘパリンを固定化する技術として特許文献6及び8に記載があるが、本発明では内表面に塩基性タンパク質を共有結合させる手法を採択する。具体的には塩基性タンパク質を代表するプロタミンを使用する。その手法に関しては、既に特許文献8にその記載がある。しかしながら、特許文献8ではプロタミンを人工血管壁内にしみこます際に100mmHgの内腔圧をかけたり、架橋前にプロタミンを浸み込ませている。その操作は結果的には壁全体にプロタミンをしみこませる事となる。この手法に則って人工血管を作製すると、血管壁の内面、壁内部、そして壁外面にまでプロタミンが染み渡り、浸み込んだプロタミンすべてがヘパリンを吸着するため、壁全層に抗血栓性が付与される。その結果として、吻合部の針穴からの出血が止まらなくなる。この現象は、その人工血管を血液透析用のシャントグラフトとして使用した場合も、穿刺針を抜去した後に止血困難となる危険性を抱え込むこととなる。天然の血管壁を見ると、抗血栓性は最内層にのみ存在し、中層と外面には止血のための血栓性が備えられている。すなわち、人工血管に於いても、抗血栓性は外面にまで及ばせてはならない。先行技術ではその配慮が施されていなかったので技術の実用化には至らなかった。本発明では、プロタミンの浸透に関して工夫を凝らし先行技術の欠点を補う事に成功した。
本発明では、特許文献8の記載を実施したことからその欠点を見出したので、その欠点を補うべく創意工夫を凝らした。すなわち、架橋と塩基性タンパク質の代表としてのプロタミンの浸み込み、そしてヘパリンのイオン結合に3つの段階を独立して持たせることにした結果、特許文献8の持つ欠点を解消することに成功した。
内径約4mm、長さが約80cmで、柔軟性に富んだ駝鳥の頸動脈を用意した。駝鳥の頸動脈の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入し、管腔内圧150mmHgでフィルターを通した空気を送り込んで水の中に漬けた。一方の末端の塩ビチューブを閉鎖するとともに、他方の末端の塩ビチューブから空気を送り続けて空気漏れの個所である小さな動脈枝の切断端を見つけ出し、ポリエステル糸で結紮した。これにより、空気漏れのない基材を得た。なお、送り込む空気の空気圧を100mmHg未満とした場合には、空気漏れの個所を見つけ出すことは困難であった。また、空気圧を180mmHg超とした場合には、駝鳥の頸動脈が過剰に膨らんで不可逆的に伸び切ってしまった。このため、空気漏れの個所を見つけ出すには、空気圧を100〜180mmHgに設定することが好ましいことが分かる。得られた基材の長さは約80cmであり、不可逆的に構造変化したものではなかった。このため、管腔内圧による構造破壊は生じなかったと判断される。
管腔内圧を190〜220mmHgとしたこと以外は、前述の製造例1と同様にして空気漏れの個所である小さな動脈枝の切断端を見つけ出してポリエステル糸で結紮し、空気漏れのない基材を得た。得られた基材の長さは約86cmであり、不可逆的に構造変化したものであった。このため、管腔内圧によって頸動脈の一部に構造破壊が生じたものと考えられる。
エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「EX−810」、ナガセケムテックス社製)を、炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に溶解させて架橋剤液(1)を調製した。山羊頸動脈(内径5mm、長さ20cm)の一部(長さ3cm)を室温で24時間架橋剤液(1)に浸漬した。浸漬後、観察用切片として作製した試料の一部を顕微鏡で観察したところ、弾性線維及び内弾性板が架橋されているか否かを確認することができなかった。
エチレングリコールジグリシジルエーテルを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)100mLに溶解させるとともに、レゾルシノール0.5gをさらに溶解させて架橋剤液(3)を調製した。山羊頸動脈(内径5mm、長さ20cm)の一部(長さ3cm)を室温で24時間架橋剤液(3)に浸漬した。浸漬後、観察用切片として作製した試料の一部を顕微鏡で観察したところ、弾性線維及び内弾性板は染色されておらず、架橋剤が弾性線維及び内弾性板の内部に入り込んでいないことが確認された。以上より、水溶性有機溶媒を含有しない架橋剤液では、弾性線維及び内弾性板を架橋できないことが分かった。
グルタールアルデヒドを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)100mLに2.5%となるように溶解させるとともに、レゾルシノール0.5gをさらに溶解させて架橋剤液(4)を調製した。山羊頸動脈(内径5mm、長さ20cm)の一部(長さ3cm)を室温で24時間架橋剤液(4)に浸漬した。浸漬後、観察用切片として作製した試料の一部を顕微鏡で観察したところ、弾性線維及び内弾性板は染色されておらず、架橋剤が弾性線維及び内弾性板の内部に入り込んでいないことが確認された。以上より、水溶性有機溶媒を含有しない架橋剤液では、弾性線維及び内弾性板を架橋できないことが分かった。
グルタールアルデヒドを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に2.5%となるように溶解させるとともに、レゾルシノール0.5gをさらに溶解させて架橋剤液(5)を調製した。山羊頸動脈(内径5mm、長さ20cm)の一部(長さ3cm)を室温で24時間架橋剤液(5)に浸漬した。浸漬後、観察用切片として作製した試料の一部を顕微鏡で観察したところ、弾性線維及び内弾性板は黒く染色されており、架橋剤がレゾルシノールとともに弾性線維及び内弾性板の内部まで入り込んだことを確認することができた。以上より、水溶性有機溶媒としてエタノールを含有すれば、架橋剤としてグルタールアルデヒドを用いた架橋剤液(5)であっても、弾性線維及び内弾性板を架橋できることが分かった。
参考例1で得た山羊頸動脈の架橋物の熱収縮温度を測定したところ、78℃であった。また、参考例2で得た山羊頸動脈の架橋物の熱収縮温度を測定したところ、72℃であった。両者を比較することにより、水溶性有機溶媒を含有する架橋剤液を用いた場合には動脈壁全体が架橋されており、水溶性有機溶媒を含有しない架橋剤液を用いた場合と比べて、弾性線維及び内弾性板が架橋した分だけ緻密な架橋構造になったことが明らかとなった。
内径約4mm、長さが約40cmで、柔軟性に富んだ駝鳥の頸動脈を用意した。この頸動脈を用いたこと、及び管腔内圧を190〜220mmHgとしたこと以外は、前述の製造例1と同様にして空気漏れの個所である小さな動脈枝の切断端を見つけ出してポリエステル糸で結紮し、空気漏れのない基材を得た。得られた基材の管腔内に中子(外径3.5mmの塩ビチューブ)を挿入し、中子を軸にして基材の長さを34cmまで縮めた。これにより、基材の長さは流路方向に15%短縮した状態となった。参考例1で用いた架橋剤液(1)に15%短縮した基材を室温で24時間浸漬して人工血管を得た。得られた人工血管(架橋後の駝鳥頸動脈)は弾力性に富んでいた。また、得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は3.2cmであり、可逆的伸展率は28%であった。
グルタールアルデヒドを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に2.5%となるように溶解させて得た架橋剤液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして人工血管を得た。得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は4.0cmであり、可逆的伸展率は8%であった。
内径5.5mm、長さ30cmの豚の尿管を基材として用意した。また、エチレングリコールジグリシジルエーテルを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に溶解させて架橋剤液を調製した。基材の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入して結紮固定するとともに、一方の末端から架橋剤液を注入して管腔内圧を30mmHg加圧したところ、基材の長さは34cmとなった。これにより、基材の長さは流路方向に13%伸展した状態となった。次いで、基材の長さを31cm、すなわち、流路方向への伸展を、基材の流路方向の長さの10%に制限した状態とし、管腔内圧を30mmHg加圧に固定して24時間架橋して人工血管を得た。得られた人工血管(架橋後の豚尿管)は弾力性に富んでいた。また、得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は4.0cmであり、可逆的伸展率は10%であった。得られた人工血管の管腔内面を観察したところ、輪状の皺は認められず、平滑であることが分かった。
内径5.5mm、長さ30cmの豚の尿管を基材として用意した。また、エチレングリコールジグリシジルエーテルを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に溶解させて架橋剤液を調製した。基材の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入して結紮固定するとともに、一方の末端から架橋剤液を注入して管腔内圧を30mmHg加圧したところ、基材の長さは33cmとなった。これにより、基材の長さは流路方向に10%伸展した状態となった。次いで、管腔内圧を30mmHg加圧に固定して24時間架橋して人工血管を得た。得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は4.5cmであり、可逆的伸展率は8.5%であった。得られた人工血管の管腔内面を観察したところ、輪状の皺は認められず、平滑であることが分かった。
内径5.5mm、長さ30cmの豚の尿管を基材として用意した。また、エチレングリコールジグリシジルエーテルを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に溶解させて架橋剤液を調製した。基材の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入して結紮固定するとともに、一方の末端から架橋剤液を注入して管腔内圧を120mmHg加圧して24時間架橋して人工血管を得た。得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は4.5cmであり、可逆的伸展率は7.0%であった。
内径5.5mm、長さ30cmの豚の尿管を基材として用意した。また、グルタールアルデヒドを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に2.5%となるように溶解させて架橋剤液を調製した。基材の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入して結紮固定するとともに、一方の末端から架橋剤液を注入して管腔内圧を30mmHg加圧して24時間架橋して人工血管を得た。得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は9.0cmであり、可逆的伸展率は5%であった。
内径5.5mm、長さ30cmの豚の尿管を基材として用意した。また、グルタールアルデヒドを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に2.5%となるように溶解させて架橋剤液を調製した。基材の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入して結紮固定するとともに、管腔内に中子を挿入し、中子を軸にして基材の長さを流路方向に15%短縮した状態とした。塩ビチューブの一方の末端から架橋剤液を注入して管腔内圧を30mmHg加圧して24時間架橋して人工血管を得た。得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は5.0cmであり、可逆的伸展率は7.1%であった。
内径5.5mm、長さ30cmの豚の尿管を基材として用意した。また、グルタールアルデヒドを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に2.5%となるように溶解させて架橋剤液を調製した。基材の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入して結紮固定するとともに、一方の末端から架橋剤液を注入して管腔内圧を120mmHg加圧して24時間架橋して人工血管を得た。得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は10.0cmであり、可逆的伸展率は3.5%であった。
参考例1で得た山羊頸動脈の架橋物の管腔内に2%アスパラギン酸水溶液(炭酸ナトリウム緩衝液、pH8.0)を注入して50℃に保温するとともに、管腔内圧を30mmHg加圧して24時間処理した後、蒸留水で洗浄した。次いで、管腔内に新鮮な血液を注入し、5分ごとに観察した。その結果、5分後には血液凝固が認められなかったが、10分後には血液凝固が認められた。なお、対照例として、アスパラギン酸水溶液で処理していない山羊頸動脈の架橋物の管腔内に新鮮な血液を注入し、5分ごとに観察した。その結果、5分後に血液凝固が認められた。
参考例1で得た山羊頸動脈の架橋物の管腔内に中子を入れ、流路方向に15%短縮した状態とした。そして、管腔内に2%アスパラギン酸水溶液(炭酸ナトリウム緩衝液、pH8.0)を注入して50℃に保温するとともに、管腔内圧を30mmHg加圧して24時間処理した後、蒸留水で洗浄した。得られた処理物を犬の大腿動脈に植え込み、6時間後に採取して管腔内を肉眼で観察した。その結果、血栓付着は認められなかった。次いで、管腔内を走査型電子顕微鏡で観察したところ、散在的な血小板の付着が認められたが、フィブリンの析出は認められなかった。
山羊頸動脈の管腔内に中子を入れ、流路方向に15%短縮した状態とした。そして、管腔内に2%アスパラギン酸水溶液(炭酸ナトリウム緩衝液、pH8.0)を注入して50℃に保温するとともに、管腔内圧を30mmHg加圧して24時間処理した後、蒸留水で洗浄した。得られた処理物を犬の大腿動脈に植え込み、6時間後に採取して管腔内を肉眼で観察した。その結果、血栓付着は認められなかった。次いで、管腔内を走査型電子顕微鏡で観察したところ、管腔内面がフィブリンの網で覆われていることが分かった。
エチレングリコールジグリシジルエーテルを炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)50mLとエタノール50mLの混合液に溶解させて架橋剤液を調製した。製造例1で得た空気漏れのない基材(駝鳥頸動脈)の管腔内に調製した架橋剤液を注入し、管腔内圧を30mmHg加圧して24時間架橋した。管腔内の架橋剤を除去した後、10%硫酸プロタミン水溶液を管腔内に注入し、管腔内圧を30mmHg加圧して12時間放置した。管腔内を蒸留水で洗浄した後、2%ヘパリン水溶液を管腔内に注入して12時間室温で放置した。基材の内外面を蒸留水で洗浄して人工血管を得た。得られた人工血管の管腔内に新鮮な血液を注入し、5分ごとに血液凝固を観察した。その結果、2時間経過しても血液凝固は認められなかった。このことから、管腔内面に高度な抗血栓性が付与されていることが判明した。
参考例9で製造した人工血管を犬の頸動脈に長さ6cmにわたって植え込んだ。縫合には6−0プロリーン針付き縫合糸を用いたが、針孔からの出血は認められなかった。植え込んだ人工血管の外表面に新鮮な血液を垂らして観察したところ、5分後に血液は凝固した。すなわち、所定の方法でヘパリンを固定しても、人工血管の外表面まではヘパリンが固定されていないことが分る。植え込み後、人工血管の中央部に、血液透析で使用する16Gの注射針を壁面に対して45°の角度で刺して5分後に抜去した。抜去部分を指で軽く圧迫したところ、圧迫後7分で止血が完了した。これは、人工血管の外表面は抗血栓性を有しないため、抜去部分を軽く圧迫することで局所的にミクロな血栓が生じて針孔が塞がれたことを意味する。すなわち、外面組織にヘパリンが結合していない効果が発揮されたことが分かる。
特許文献8に記載の方法にしたがってヘパリンの固定を行った。まず、成犬の頸動脈を基材として用意した。0.01%フィシン酵素で蛋白質を除去して洗浄した。基材の管腔内に10%プロタミン水溶液(pH5.0)を注入し、室温下で管腔内圧を100mmHgに加圧して1時間後にプロタミン水溶液を流した。次いで、10%ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液(pH8.0)を注入し、室温下で管腔内圧を100mmHgに加圧して1時間後に蒸留水で洗浄した。その後、1%ヘパリン水溶液(pH6.0)中に基材を1時間浸漬し、水で洗浄して人工血管を得た。得られた人工血管を犬の頸動脈に植え込み、6−0プロリーン針付き縫合糸で縫合したところ、針孔からの出血が持続して圧迫止血が困難な状態となった。また、1時間以上圧迫しても止血しないため、フィブリン糊を塗布して針孔を抑え込むようにして止血させた。次に、植え込んだ人工血管の外表面に新鮮な血液を垂らして観察したところ、1時間以上経過しても血液凝固は認められなかった。すなわち、特許文献8に記載の方法によると、人工血管の外表面までヘパリンが固定化されることが分かった。次に、人工血管の中央部に、血液透析で使用する16Gの注射針を壁面に対して45°の角度で刺して5分後に抜去した。抜去部分を指で軽く圧迫したところ、2時間圧迫しても止血することができなかった。以上の結果、特許文献8に記載の方法では、ヘパリンが人工血管の壁内部まで浸み込むとともに、壁外面にもヘパリンが固定化されるので、臨床での使用は困難であると推測される。
参考例10で犬に植え込んだ人工血管を、植え込んでから24時間後に採取し、内部を生理的食塩水で静かに洗浄した。洗浄後の人工血管を縦方向に切開して管腔内面を肉眼で観察した。その後、走査型電子顕微鏡で200〜3000倍の倍率で観察した。肉眼で観察した結果、管腔内面には血液の付着が認められなかった。また、走査型電子顕微鏡で観察した結果、管腔内面にはフィブリンの析出が認められなかったが、1000倍の観察した1視野内に、平均3個の血小板付着が認められた。但し、血小板は、形状が丸くて偽足を出しておらず、強い粘着状態でないことが分かった。以上の結果、作製した人工血管は、その管腔内面では血液に触れても血栓形成が進行せず、その外表面には生体内でも効果を発揮しうる抗血栓性が付与されていることが分かった。
参考例9で製造した人工血管を犬の頸動脈から頸静脈にかけて、動静脈シャント血管として植え込んだ。人工血管の内径は3.5mmであり、長さは15cmであった。手術操作は容易であって吻合部からの過剰な出血もなく、吻合に使用した縫合糸の針孔からの出血も見られず、天然の血管同志を縫合しているような感じであった。特に、頸静脈側の吻合は、e−PTFE graftの吻合に比べると、比較にならないぐらい容易であった。植え込み後の人工血管について、血圧が負荷した状態で耐キンク性を評価したところ、天然血管とほぼ同じく、曲率半径4.0cm以下であり、実際には3.5cmまで屈曲させてもキンク現象は生じなかった。植え込みから1ヶ月経過後に超音波装置で確認したところ、人工血管の開存性が維持されていることが判明した。
内弾性板の形状チェックを行った。実施例1で製造した人工血管を流路と直角に切断した。切断面を含む切片をワイゲルト弾性線維染色し、切断面を光学顕微鏡で観察した。弾性線維の波型の幅(W)と深さ(D)の比(W/D)を5個所測定した平均値は2.8であった。また、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は3.2cmであり、可逆的伸展率は28%であった。
5%グルタールアルデヒド水溶液とエタノールを等量混合して架橋剤液を調製した。製造例1で得た基材の両末端に外径2.5mmの塩ビチューブを挿入して結紮固定するとともに、一方の末端から架橋剤液を注入して管腔内圧を120mmHg加圧して24時間架橋して人工血管を得た。得られた人工血管の、ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定した曲率半径は10.5cmであり、可逆的伸展率は5%であった。また、得られた人工血管を流路と直角に切断し、切断面を含む切片をワイゲルト弾性線維染色し、光学顕微鏡で観察した。その結果、内弾性板はほぼ平坦な状態にまで伸展していることが分かった。また、弾性線維の波型の幅(W)と深さ(D)の比(W/D)を5個所測定した平均値は7.0であった。
基材として仔牛の頸静脈を選び、静脈弁のある個所を用いて、参考例9で示した手法で人工血管を作製した。その結果、中央部に一方通行の弁がある人工血管を得た。動物実験として成犬の右心室壁に穴をあけ、そこに作成した人工血管の末端を吻合し、片方の末端を肺動脈に吻合することで、右心室から肺動脈へのバイパスを形成させた。次にもとからあった肺動脈の起始部を絹糸で結紮することで、すべての右心室からの血液がバイパスを通って肺動脈に至る設計の手術を終了した。手術直後の超音波装置による検査では植え込んだ肺動脈弁付バイパスの一方通行の弁は肺動脈弁として機能し、逆流は認められなかった。次に、一ヵ月経過後、再び超音波装置による検査でも肺動脈弁付バイパスの一方通行の弁は肺動脈弁として機能し、逆流は認められなかった。
参考例9で示した手法で作成した駝鳥頸動脈を基材とした人工血管を成犬の頸動脈に長さ6cmにわたり植え込んだ。この時、人工血管周囲を孔サイズ1.2mmのポリエステルメッシュ(レースのカーテン生地)で覆い、力学的な補強とした。植え込み1か月後に採取して観察したところ、人工血管とポリエステルメッシュ及び周囲組織とが一体化し、生体内で安定して存在していることが判明した。ポリエステル繊維は1957年以降全世界で植え込み用人工臓器素材として副作用もなく使用され、生体内での劣化も無視できる範囲であることが判明しているので、一体化した後は半永久的に力学的強度を維持すると考えられる。従って、度重なる人工血管の穿刺による破壊が生じても、人工血管が破裂する危険性は考えられないと判断された。
Claims (13)
- 生体由来管状体の少なくとも一部が架橋剤により化学架橋されてなる、内径6mm以下の人工血管であって、
前記生体由来管状体が弾性線維及び内弾性板を有するとともに、前記弾性線維及び前記内弾性板が化学架橋されており、
ANSI/AAMI基準の耐kink試験に準拠して測定される曲率半径が4cm以下であり、
流路方向の可逆的伸展率が10%以上である人工血管。 - 前記生体由来管状体が、綿羊頸動脈、山羊頸動脈、仔牛頸動脈、駝鳥頸動脈、七面鳥頸動脈、鶏頸動脈、アヒル頸動脈、合鴨頸動脈、ホロホロ鳥頸動脈、綿羊尿管、山羊尿管、豚尿管、牛尿管、馬尿管、綿羊頸静脈、山羊頸静脈、駝鳥頸静脈、牛頸静脈、及び馬頸静脈からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の人工血管。
- 前記内弾性板の流路方向に直交する断面の内側形状が波形であり、
前記波形の深さ(D)に対する幅(W)の比(W/D)の平均値が1〜5である請求項1又は2に記載の人工血管。 - 酸性ムコ多糖類、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリビニルアルコール、中性アミノ酸、親水性アミノ酸、及び酸性アミノ酸からなる群より選択される少なくとも一種が前記生体由来管状体の内面組織に共有結合し、前記生体由来管状体の内面組織に親水性が付与されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の人工血管。
- 前記生体由来管状体の内面組織に塩基性タンパク質を介してヘパリンが結合している請求項1〜4のいずれか一項に記載の人工血管。
- 前記生体由来管状体の外面組織にはヘパリンが結合していない請求項5に記載の人工血管。
- 外側に配置される合成高分子材料製のメッシュをさらに備える請求項1〜6のいずれか一項に記載の人工血管。
- 血液透析用内シャント人工血管、静脈用代用血管、心臓血管系のパッチ材、内径6mm以下の領域の代用血管、心血管系弁付血液導管、又は心血管系弁付パッチとして用いられる請求項1〜7のいずれか一項に記載の人工血管。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載の人工血管の製造方法であって、
生体由来管状体の少なくとも一部を、前記生体由来管状体の管腔内圧を10〜100mmHg加圧した条件で、多官能脂肪族エポキシ化合物及び水溶性有機溶媒を含有する架橋剤溶解液を用いて化学架橋する工程を有する人工血管の製造方法。 - 請求項1〜8のいずれか一項に記載の人工血管の製造方法であって、
生体由来管状体を下記(1)又は(2)の状態として、多官能脂肪族エポキシ化合物及び水溶性有機溶媒を含有する架橋剤溶解液を用いて化学架橋する工程を有する人工血管の製造方法。
(1)流路方向に0.01〜40%短縮した状態
(2)流路方向への伸展を、前記生体由来管状体の流路方向の長さの0〜40%に制限した状態 - 前記水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、及びアセトンの少なくともいずれかである請求項9又は10に記載の人口血管の製造方法。
- 前記生体由来管状体の内腔に塩基性タンパク質溶液を注入して管腔内圧を負荷した後、前記生体由来管状体の内腔にヘパリンを注入して、前記生体由来管状体の内面組織に抗血栓性を付与する工程をさらに有する請求項9〜11のいずれか一項に記載の人工血管の製造方法。
- 管腔内圧100〜180mmHgの加圧条件下で前記生体由来管状体の漏れ箇所を検出する工程をさらに有する請求項9〜12のいずれか一項に記載の人工血管の製造方法。
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