JP6161589B2 - 溶加材、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造、マグネシウム(Mg)合金材料の溶融溶接による接合方法、マグネシウム(Mg)合金材料接合構造体、及びマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法 - Google Patents

溶加材、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造、マグネシウム(Mg)合金材料の溶融溶接による接合方法、マグネシウム(Mg)合金材料接合構造体、及びマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法 Download PDF

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本発明は、マグネシウム(Mg)合金材料を溶融溶接する際に用いる溶加材、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造、マグネシウム(Mg)合金材料の溶融溶接による接合方法、マグネシウム(Mg)合金材料接合構造体、及びマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法に関する。
マグネシウム(Mg)合金(以下、「マグネシウム(Mg)合金」を、「Mg合金」、また、「マグネシウム」を「Mg」ということがある)は、展伸性、機械的強度等に優れることから、圧延板材や押出形材等の展伸材に、また軽量であることから、鋳造材等に好適に用いられている。Mg合金の中でも、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)を含むAM系、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)を含むAZ系が好適に用いられている。
最近、車両等の大きな輸送設備の速力増加及び質量削減のため、0.03〜5質量%のカルシウム(Ca)(以下、「Ca」ということがある)を含む難燃性マグネシウム(Mg)合金が注目を集めている。中でもアルミニウム(Al)、マンガン(Mn)を含むAM系、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)を含むAZ系において、XがCaである難燃性のAMX系マグネシウム合金、AZX系マグネシウム合金が注目されている。ところでMg合金を大きな構造材料に使用するためには、溶接技術が極めて重要である。溶接には溶融溶接方法のTIG(Tungsten Inert Gas)溶接やMIG(Metal Inert Gas)溶接が用いられている。しかし、Mg合金の溶接技術については、まだ十分には研究されていないのが現状である。
このような、Mg合金の展伸材及び鋳造材(以下、単に「Mg合金材料」ということがある)を溶融溶接した場合、一般に、ホール・ペッチ(Hall−Petch)の法則として知られているように、金属の機械的強度は、結晶粒径dの(−1/2)乗に比例する、すなわち、結晶粒径が大きくなる程減少することから、溶融部(以下、「溶融部」を「溶接部」、「溶融部以外の金属部分」を「非溶接部」ということがある)の結晶粒径が大きくなり、溶接部の機械的性質(降伏点や引張強度)が非溶接部よりも減少してしまうという問題があった。これに対しては、例えば、結晶粒径を小さくするための結晶粒子の中心になる核を生成することが開示されている(特許文献1参照)。あるいは、強化機構は不明であるが、溶融部に母材であるマグネシウム(Mg)と異なる、ホウ素(B)(以下、「B」ということがある)、チタン(Ti)(以下、「Ti」ということがある)等の非固溶元素を添加することにより、溶融部の強度を大きくすることも開示されている(特許文献2参照)。
ただ、Ca:0.01〜5.0質量%、Al:0.01〜12質量%を含むMg合金に更にAgやその他の添加元素を含む展伸材及びその製造方法が知られている(特許文献3)。しかし展伸材そのものであって、溶加材ではない。
又、マグネシウム基合金にAl、Zn、Mn、Si、Cu、Ag、Y、Zrなどの元素群を含むマグネシウム溶接線が知られている(特許文献4)。添加元素の合計は20質量%以下とあるのみであり、Ag単独の添加元素としての添加量は記載も示唆もない。
他方、溶融部に母材であるマグネシウム(Mg)と異なる元素を固溶させることにより、溶接部の強度を大きくすること(固溶強化)も可能である。例えば、本発明者は、アルミニウム(Al)(以下、「Al」ということがある)を含むマグネシウム(Mg)合金の溶接において、溶加材に母材よりもAlがより多く固溶しているMg合金を用いることが効果的であることを公表している(非特許文献1参照)。固溶強化は、第2相分散などの強化に比べて伸びの低下が少ないという特徴があり、有効な強化法である。固溶強化による強化量は第一原理計算から求めたミスフィットひずみを用いて、公知の式を組み合わせることにより予測することが可能であり、本発明者はアルミニウム合金について公表している(非特許文献2参照)。
しかしながら、Al以外の金属について、どのような金属がMg合金材料の溶接部の機械的性質を向上させるかについては明らかになっていない。従って、例えば、Alが固溶限界に近い5at%(原子濃度)以上固溶しているMg合金材料の溶接部の機械的性質を固溶強化により向上させることについては、まだ具体的な解決策が示されていないのが現状である。
特開2008−213041号公報 特開2010−36221号公報 特開2006−16655号公報 WO2006/100860
上田光二,木ノ本裕,瀧川順庸,東健司、「マグネシウム合金TI G溶接棒」アルトピア43,30−36(2013) T. Uesugi, Y. Takigawa and K. Higashi,"Atomistic Studies Of Deformation Mechanism Of Nanocrystalline Al−Ti and Al−Fe alloys from first−principles", Materials Science Forum Vols.561−565 (2007) p977−980
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、Mg合金材料の溶接部の機械的性質を向上させることが可能な溶加材、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造、Mg合金材料の溶融溶接による接合方法、Mg合金材料接合構造体、及びMg合金材料接合構造体の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者等は、溶接継手の微細構造及び機械的特性、並びに溶加材の効果等について鋭意研究した結果、接合部の組成の調整を図ることにより機械的性質を向上させるべく、溶融溶接に用いる溶加材に特定の元素を含ませることにより、接合強度が向上することを知見し、本発明を完成させた。すなわち、本発明によって、以下の、溶加材、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造、Mg合金材料の溶融溶接による接合方法、Mg合金材料接合構造体、及びMg合金材料接合構造体の製造方法が提供される。
請求項1記載の溶加材は、マグネシウム(Mg)合金材料を溶融溶接によって接合する際に用いられる溶加材であって、AZ系、AZX系、AM系、AMX系のマグネシウム(Mg)合金に更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材である。
請求項2記載の溶加材は、AZ系合金がAZ31、AZ61、AZ91、AZX系合金がAZX911、AZX912、AM系合金がAM60、AMX系合金がAMX602である、請求項1記載の溶加材である。
請求項3記載の溶加材は、マグネシウム(Mg)合金材料を溶融溶接によって接合する際に用いられる溶加材であって、AZX系又はAMX系のマグネシウム(Mg)合金更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材である。
請求項記載の接合構造は、マグネシウム(Mg)合金材料が溶加材を介して溶融溶接によって接合された前記マグネシウム(Mg)合金材料と前記溶加材との接合構造であって、前記溶加材は、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材である、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造である。
請求項記載の接合方法は、マグネシウム(Mg)合金材料を、溶加材を用いて溶融溶接によって接合する方法であって、前記溶加材として、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材を用いることを特徴とするマグネシウム(Mg)合金材料の溶融溶接による接合方法である。
請求項記載の合金材料接合構造体は、マグネシウム(Mg)合金材料が溶加材を介して溶融溶接によって接合されたマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体であって、前記溶加材は、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材であることを特徴とするマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体である。
請求項記載のマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法は、マグネシウム(Mg)合金材料を、溶加材を用いて溶融溶接によって接合するマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法であって、前記溶加材として、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材を用いることを特徴とするマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法である。
本発明によれば、Mg合金材料の溶接部の機械的性質を向上させることが可能な溶加材、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造、Mg合金材料の溶融溶接による接合方法、Mg合金材料接合構造体、及びMg合金材料接合構造体の製造方法が提供される。
本発明に用いられるAg添加及びその組成成分の妥当性を説明するためのグラフである。 本発明に用いられるGa添加及びその組成成分の妥当性を説明するためのグラフである。 実施例における引張試験の試験片の形状等を示す図である。発明を実施するための形態
1.溶加材
本発明の実施の形態に係る溶加材は、マグネシウム(Mg)合金材料を溶融溶接によって接合する際に用いられる溶加材であって、AZ系、AZX系、AM系、AMX系のマグネシウム(Mg)合金に更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成である。
また、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合、銀 (Ag)単独での下限量0.01質量%以下又は、ガリウム(Ga)単独での下限量0.08以下であっても、下記条件を満たす場合、すなわち、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有し、銀(Ag)の合金中の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の合金中の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)の含有量であることが好ましい。銀(Ag)又はガリウム(Ga)が他方の元素の固溶強化効果を補うからである。
溶加材の組成は、接合すべき材料(マグネシウム(Mg)合金材料)の組成と同じ又は近似した組成の母材であって、さらに、上記一定量のAg及び/又はGaを含む組成であることが好ましい。Ag及び又はGaを加えることで合金の残部Mgの量を減じたものであってもよい。
Mg合金はその必要とされる特性により、各種元素が意図的に混じられ、種々のMg合金とされている。溶加材の合金組成は、被接合体の組成に応じ、被接合体がAM系であれば溶加材は、前記マグネシウム(Mg)、並びに銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)に加えて、さらに、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、を含有することが好ましく、被接合体がAZ系であれば溶加材もアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)をさらに含有するAZ系が好ましい。更にカルシウム(Ca)を含むことが好ましい。特に被接合材がカルシウム(Ca)を含む場合は溶加材もカルシウム(Ca)を含むことが好ましく、AM系、AZ系であって更にカルシウム(Ca)を含むものが好ましい。
例えば、接合すべき材料、すなわち被接合材が(マグネシウム(Mg)合金材料)として、AZX912(合金組成:9質量%Al、1質量%Zn、2質量%Ca、残部Mg)を用いる場合、溶加材は、合金組成として、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)(以下、「Zn」ということがある)、Ca、が質量比でほぼ9質量%:1質量%:2質量%で含まれ更にAg及び/又はGaを所定量含有し、残部Mgの組成から構成されていることが好ましい。
同様に、接合すべき材料、被接合材が(マグネシウム(Mg)合金材料)として、AMX602(合金組成:6質量%Al、0.5質量%マンガン(Mn)(以下、「Mn」ということがある)、2質量%Ca、残部Mg)を用いる場合、溶加材は、合金組成として、Al、Mn、Ca、が質量比でほぼ6質量%:0.5質量%:2質量%で含まれ、更にAg及び/又はGaを所定量含有し、残部Mgの組成から構成されていることが好ましい。
溶接部の組成中に所定量の銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)が含まれればよい。従って、添加成分である銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)が溶接部に均一に含有され固溶体になっていればよく、溶加材トータル中の濃度は上記に限定されるが、溶加材の部分における、銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)の部分濃度は限定されない。従って、溶加材の製造方法においても限定されず、全成分を一度粉体にして混ぜ合わせ、溶加材形状に固化してもよく、全成分を溶解した後板等に成形しその後溶加材形状に切り出してもよく、添加成分を元の溶加材合金成分の棒状体又は線状体に吹き付け等にて塗膜形成してもよく、添加成分固体を芯にして、母材合金成分を巻きつけ形成してもよく、添加成分を芯にして、筒形状の元の溶加材合金成分(母材)の中に入れてもよく、元の溶加材合金成分(母材)と添加成分を別々に成形した後縒り合わせる等であってもよい。
溶加材の外形は限定されないが、棒状、線状のものが好適に用いられる。例えば、TIG溶接用溶接棒、MIG溶接用溶接線である。
本実施の形態に用いられるMg合金材料(Mg合金材料)としては、特に制限はないが、例えば、展伸材又は鋳造材を好適に用いることができる。なお、本発明において、展伸材とは、圧延、押出し、引抜き、鍛造等の熱間又は冷間の塑性加工によって製造された板、条、管、棒、線等の製品の総称である。展伸材は結晶粒が小さいため、本溶加材による溶接は特に有効である。
一方、鋳造材の場合、通常は、元々結晶粒径が大きいので、溶接しても結晶粒径の粗大化が少なく、固溶強化による効果が少ないと考えられるが、急冷凝固等の技術で鋳造材の結晶粒径を小さくしておく技術が存在するので、本発明を好適に適用することができる場合がある。
本実施の形態の溶加材は、例えば、一般構造用として用いられるAM系、AZ系用元素の他に難燃性能付加のためカルシウム(Ca)等の成分をさらに含むことができる。
Mg合金材料とは、合金中のMgが50at%以上の組成を有するものを意味する。例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)及びカルシウム(Ca)を含む合金材料、又はマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)及びカルシウム(Ca)を含む合金材料を挙げることができる。具体的には、AZ31、AZ61、AZ91、AM60、AMX602、AZ912、AZX911等を挙げることができる。
すなわち、溶加材のAg又はGaを添加する母材組成として、AM系、AZ系、AMX系、AZX系、を挙げることができる。従って、溶加材のそれぞれの成分の含有量としては、例えば、0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)、又は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)に加えて、AM系では1.5質量%以上10.5質量%以下のアルミニウム(Al)、AZ系では2.5質量%以上9.5質量%以下のアルミニウム(Al)、AMX系では1.5質量%以上10.5質量%以下のアルミニウム(Al)と0.5質量%以上2.5質量%以下のカルシウム(Ca)、AZX系では2.5質量%以上9.5質量%以下のアルミニウム(Al)と0.5質量%以上2.5質量%以下のカルシウム(Ca)、を含むものを挙げることができる。これらの合金はMgに所定の元素を所定量添加することにより種々の有益な特性を得ることを企図して製造されるものであり、特性を実質的に損ねない範囲で他の元素を含むことができる。しかし本発明では、Ag及び又はGaの効果を阻害する金属が合金中に存在することは好ましくない。言い換えると、Mg以外の金属でAg及び/又はGaと容易に相互作用する金属の添加については、本発明の意図するところではない。Ag及び/又はGaと容易に相互作用しないものであれば上記以外の他の元素を合金の特性、例えば機械的性質、を実質的に損なわない範囲で含んでいてもよい。
上述の実施の形態においては、溶加材としてAg又はGaのうちのいずれかの元素だけを固溶したものを示すが、これに限定されず、例えば、AgとGaとを同時に固溶させた合金にしてもよい。
Ag又はGaの数値範囲を特定したのは、以下のことによる。すなわち、上述のように、一般に、金属の機械的強度は、結晶粒径dの(−1/2)乗に比例する、すなわち、結晶粒径が大きくなる程減少することが知られている(ホール・ペッチ(Hall−Petch)の法則)。
また、一般に、母材中に固溶される金属元素が、その母材中に生じさせる結晶のひずみ(ミスフィットひずみ)によって、機械的な強度が大きくなることが知られている(固溶強化理論)。その関係は、下記式(1)で示される。
上記式(1)中、
Δσは、Mg合金の降伏応力
σmatrixは、Mgの降伏応力
Δσは、固溶による強化量
kは、Mgに固有の値=220(MPa/μm)
dは、粒径(μm)、をそれぞれ示す。
結晶粒径が変化し、かつ他元素が固溶することにより結晶のひずみが生じているMg合金材料の降伏応力は、上記式(1)で表すことができる。Mg合金材料の降伏応力は、Mgの降伏応力、結晶粒径に基づく降伏応力、および固溶による強化量の和から成り立つ。
本発明は、上述の「第一原理計算から求めたミスフィットひずみを用いて、公知の式を組み合わせることによりアルミニウム(Al)合金の強度を説明する」という考え方を、マグネシウム(Mg)合金にさらに応用したものである。すなわち、溶接により結晶粒径が大きくなり機械的性質が劣化してしまうことを補うため、ミスフィットひずみ効果の大きい金属元素を固溶させた合金を溶加材として開発したものである。このミスフィットひずみ効果の大きさは、第一原理計算を用いることにより算出することができる。
なお、算出の具体的方法は、Mg結晶中の一つの原子を他の金属元素に置き換え、量子論に基づいて電子状態を計算することにより、元のMg元素同士の距離と、ある元素で置換したときの原子間距離とを算出することができる。この距離の違いから計算したものがミスフィットひずみである。
このような固溶強化に有効な元素が、固溶するかどうかについては、合金状態図と照らし合わせて予測する。しかしながら、合金状態図の多くは2元系又は3元系であり、4種類以上の元素が含まれる合金の場合、固溶するかどうかは実験により確認するしかない。特に、添加した元素と合金に含まれる他の元素が優先的に化合物を形成する場合、固溶の効果は失われてしまう。多くの元素に対して実験を行った結果、銀(Ag)又はガリウム(Ga)が、Al、Zn、Ca、Mnなどの元素と優先的に化合物を形成することなく、固溶強化元素として有効であることを見出した。
銀(Ag)又はガリウム(Ga)の固溶強化元素としての有効性を、例えば、結晶粒径が20μmのマグネシウム合金展伸材を溶接して、溶融部の結晶粒径が200μmへと結晶粒が粗大化したケースで説明する。
図1は、Mg−5at%(原子濃度)Al固溶体合金(実験的に得られるAlが固溶限界まで固溶した合金)の0.2%耐力と結晶粒径の(−1/2)乗との関係を示した理論線、及びMg−5at%Al固溶体合金押出材を母材とした場合の一般的に得られる結晶粒径に対する予測耐力、Mg−5at%Al固溶体合金を溶加材として用いた場合の溶接体溶融部結晶粒径に対する予測耐力、並びにMg−5at%Al固溶体合金に0.1at%Agを固溶させた合金の0.2%耐力と結晶粒径の(−1/2)乗との関係を示した理論線、及び溶加材としてMg−5at%Al−0.1at%Ag固溶体合金を用いた場合の溶融部結晶粒径に対する予測耐力を示す。
図2は、Mg−5at%Al固溶体合金(実験的に得られるAlが固溶限界まで固溶した合金)の0.2%耐力と結晶粒径の(−1/2)乗との関係を示した理論線、およびMg−5at%Al固溶体合金押出材を母材とした場合の一般的に得られる結晶粒径に対する予測耐力、Mg−5at%Al固溶体合金を溶加材として用いた場合の溶接体溶融部結晶粒径に対する予測耐力、並びにMg−5at%Al固溶体合金に1at%Gaを固溶させた合金の0.2%耐力と結晶粒径の(−1/2)乗との関係を示した理論線および溶加材としてMg−5at%Al−1at%Ga固溶体合金を用いた場合の溶融部結晶粒径に対する予測耐力を示す。
図1、2に示すように、母材であるMg−5at%Al固溶体合金に対して、同じMg−5at%Al固溶体合金溶加材を用いて溶接した場合、母材の降伏強度は177MPa、溶融部の降伏強度は135MPaとなり、溶融部の強度が著しく低下してしまう。これに対して、母材であるMg−5at%Al固溶体合金にさらに0.1at%のAgを固溶させた場合、溶融部の降伏強度は177MPaとなり、母材と同等の強度が実現可能である。同様に、母材であるMg−5at%Al固溶体合金にさらに1at%のGaを固溶させた場合、溶融部の降伏強度は177MPaとなり、母材と同等の強度が実現可能である。
実際のMg合金展伸材では結晶粒径が数μmから100μm程度までの幅があり、また、溶接条件あるいは組成により溶融部の結晶粒径は数百μmにまで粗大化する場合があることから、母材と溶融部の強度を同等にするための添加量は様々な量が必要となる。例えば、母材の結晶粒径を100μm、溶融部の結晶粒径を200μmとした場合、母材と溶融部の強度を同等にするためには、0.007at%Ag又は0.036at%Gaを固溶させることが必要である。これらを質量%に換算すると0.03質量%Ag、0.1質量%Gaとなる。これらの値は原子が単独で固溶した場合を仮定して算出したものであり、複数の原子が集団で固溶した場合、より少ない量で効果を発揮する場合もある。得られた数値を元に実験により検討した結果、0.01質量%Ag、0.08質量%Gaを下限とした。一方、実際にAg及び/又はGaがMg合金に固溶可能な量は1.5at%程度であることから、これを質量%に換算した6.3質量%Ag、4.2質量%が上限になる。
2.マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造
本発明の実施の形態に係るマグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造は、マグネシウム(Mg)合金材料が溶加材を介して溶融溶接によって接合された前記マグネシウム(Mg)合金材料と前記溶加材との接合構造であって、前記溶加材は、上述の溶加材、すなわち、AZ系、AZX系、AM系、AMX系のマグネシウム(Mg)合金に更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材、
AZ系合金がAZ31、AZ61、AZ91、AZX系合金がAZX911、AZX912、AM系合金がAM60、AMX系合金がAMX602である溶加材、
又は、AZX系又はAMX系合金更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材である。
本実施の形態において用いられるMg合金材料としては、上述の溶加材における発明の場合と同様の展伸材又は鋳造材を用いることができる。
3.Mg合金材料の溶融溶接による接合方法
本発明の実施の形態に係るMg合金材料の溶融溶接による接合方法は、マグネシウム(Mg)を50質量%以上含有する複数のマグネシウム(Mg)合金材料を、溶加材を用いて溶融溶接によって接合する方法であって、溶加材として、上述の溶加材、すなわち、AZ系、AZX系、AM系、AMX系のマグネシウム(Mg)合金に更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材、
AZ系合金がAZ31、AZ61、AZ91、AZX系合金がAZX911、AZX912、AM系合金がAM60、AMX系合金がAMX602である溶加材、
又は、AZX系又はAMX系合金更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材である。
本実施の形態において用いられるMg合金材料としては、上述の溶加材における発明の場合と同様の展伸材又は鋳造材を用いることができる。
4.マグネシウム(Mg)合金材料接合構造体
本発明の実施の形態に係るマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体は、マグネシウム(Mg)を50質量%以上含有する複数のマグネシウム(Mg)合金材料が溶加材を介して溶融溶接によって接合されたマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体であって、溶加材は、上述の溶加材、すなわち、AZ系、AZX系、AM系、AMX系のマグネシウム(Mg)合金に更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材、
AZ系合金がAZ31、AZ61、AZ91、AZX系合金がAZX911、AZX912、AM系合金がAM60、AMX系合金がAMX602である溶加材、
又は、AZX系又はAMX系合金更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材である。
本実施の形態の接合構造体においては、その溶接部の組成中に所定量の銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)が含まれ、固溶体が形成されていればよい。従って、添加成分である銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)が溶接部に所定量含まれていればよい。例えば、出発材料として、接合される複数のMg合金材料と同様の成分を有する溶加材と、上述の銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含む溶加材とを併用して、最終的な溶接部の合金組成として、銀(Ag)又はガリウム(Ga)を含有する場合、0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)又は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、また、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合、銀(Ag)の合金中の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の合金中の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)含有するものであるように構成してもよい。
5.マグネシウム(Mg)合金材料溶接接合構造体の製造方法
本発明の実施の形態に係るマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法は、マグネシウム(Mg)を50質量%以上含有する複数のマグネシウム(Mg)合金材料を、溶加材を用いて溶融溶接によって接合するマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法であって、溶加材として、上述の溶加材、すなわち、AZ系、AZX系、AM系、AMX系のマグネシウム(Mg)合金に更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材、
AZ系合金がAZ31、AZ61、AZ91、AZX系合金がAZX911、AZX912、AM系合金がAM60、AMX系合金がAMX602である溶加材、
又は、AZX系又はAMX系合金更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材である。


本実施の形態において用いられるマグネシウム(Mg)を50質量%以上含有するマグネシウム(Mg)合金材料としては、上述の場合と同様の展伸材又は鋳造材を用いることができる。
以下に、本発明の溶加材、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造、Mg合金材料の溶融溶接による接合方法、Mg合金材料接合構造体、及びMg合金材料接合構造体の製造方法を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって、いかなる制限を受けるものではない。
合金組成を変えた各種溶加材を用いて、同一のMg合金材料の展伸材を溶接し、溶接部について各種評価試験を行った。
なお、母材中のAlの固溶量は、電子線マイクロアナライザ(電子線を対象物に照射する事により発生する特性X線の波長と強度から構成元素を分析する装置)を用いて定量分析した。
(実施例1)
(溶加材の作製)
AZ91D合金に難燃性付与のために、2.0質量%のカルシウム(Ca)を添加したマグネシウム(Mg)合金「AZ91D−2質量%Ca」をベースにして、これに追加添加物として、ガリウム(Ga)を、合金組成100質量%において0.08質量%になるように添加した。次に、溶解鋳造炉のるつぼの中で、AZ91D合金、カルシウム(Ca)及び追加添加物(ガリウム(Ga))を600〜750℃で溶解し、溶解した溶湯が均質になるよう撹拌した後、円筒状に固化形成した。次に、これをビレットとして、押し出し比を150、押し出し温度を420℃で熱間押し出し加工、次に冷間での伸線加工を経て直径3mmの棒状の溶加材(AZX912+0.08質量%Ga)を作製した。ここで、AZX912は、9質量%Al、1質量%Zn、2質量%Ca、残部がMgおよび不可避不純物からなる。すなわち、溶加材は、合金組成100質量%中に、9質量%Al、1質量%Zn、2質量%Ca、0.08質量%Ga、残部がMgおよび不可避不純物から構成されている。組成は、固形形成した円筒形状の塊から一部を切り出し、酸分解後にICP発光分光分析法で成分分析した。以下の実施例及び比較例においても同様である。
(溶接接合構造体(接合構造)の作製)
厚さが3mm、幅が120mm、成形方向に長さが300mmのMg合金材料(AZX912:組成:9質量%Al、1質量%Zn、2質量%Ca、残部Mg)からなる2枚の試験板、及び直径が3mmの、上述のようにして作製されたMg合金溶加材(AZX912+0.08質量%Ga)を1本用いた。溶接方法は、ティグ(TIG)溶接法で、TIG溶接機(ダイヘン社製:商品名:DA300P)を用いてAZX912溶接接合構造体(接合構造)(溶接継手)を作製した。接合構造体(接合構造)の形状は、幅が240mm、長さが300mmになるように並べて、成形方向に平行に突合せ部を溶接した。主な溶接条件は以下の通りである。すなわち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と試験版の距離は2mm、交流式で電流120A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。なお、以下、「溶接接合構造体(接合構造)」及び「接合構造体(接合構造)」は、「接合構造体」ということがある。
(実施例2〜7)
(溶加材の作製)
ガリウム(Ga)を、合金組成100質量%において実施例2では0.15質量%、実施例3では0.22質量%、実施例4では0.30質量%、実施例5では0.59質量%、実施例6では1.28質量%、そして実施例7では2.68質量%にしたこと以外は、実施例1と同様に溶加材を作製した。
(溶接接合構造体の作製)
Mg合金溶加材が、実施例2では(AZX912+0.15質量%Ga)、実施例3では(AZX912+0.22質量%Ga)、実施例4では(AZX912+0.30質量%Ga)、実施例5では(AZX912+0.59質量%Ga)、実施例6では(AZX912+1.28質量%Ga)、そして実施例7では(AZX912+2.68質量%Ga)のものを用いたこと以外は、実施例1と同様に溶接接合構造体を作製した。
(実施例8)
(溶加材の作製)
AZ91D合金に難燃性付与のために、2.0質量%のカルシウム(Ca)を添加したマグネシウム(Mg)合金「AZ91D−2質量%Ca」をベースにして、これに追加添加物として、銀(Ag)を、合金組成において0.01質量%になるように添加した。次に、溶解鋳造炉のるつぼの中で、AZ91D合金、カルシウム(Ca)及び追加添加物(銀(Ag))を600〜750℃で溶解し、溶解した溶湯が均質になるよう撹拌した後、円筒状に固化形成した。次に、これをビレットとして、押し出し比を150、押し出し温度を420℃で熱間押し出し加工、次に冷間での伸線加工を経て直径3mmの棒状の溶加材(AZX912+0.01質量%Ag)を作製した。
(溶接接合構造体の作製)
厚さが3mm、幅が120mm、成形方向に長さが300mmのMg合金材料(AZX912:組成:9質量%Al、1質量%Zn、2質量%Ca、残部Mg)からなる2枚の試験板、及び直径が3mmの、上述のようにして作製されたMg合金溶加材(AZX912+0.01質量%Ag)を1本用いた。溶接方法は、ティグ(TIG)溶接法で、TIG溶接機(ダイヘン社製:商品名:DA300P)を用いてAZX912溶接接合構造体(溶接継手)を作製した。接合構造体の形状は、幅が240mm、長さが300mmになるように並べて、成形方向に平行に突合せ部を溶接した。主な溶接条件は以下のとおりである。すなわち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と試験版の距離は2mm、交流式で電流120A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。
(実施例9〜16)
(溶加材の作製)
銀(Ag)を、合金組成100質量%において実施例9では0.03質量%、実施例10では0.05質量%、実施例11では0.10質量%、実施例12では0.22質量%、実施例13では0.43質量%、実施例14では0.84質量%、実施例15では1.00質量%、そして実施例16では3.81質量%にしたこと以外は、実施例8と同様に溶加材を作製した。
(溶接接合構造体の作製)
Mg合金溶加材が、実施例9では(AZX912+0.03質量%Ag)、実施例10では(AZX912+0.05質量%Ag)、実施例11では(AZX912+0.10質量%Ag)、実施例12では(AZX912+0.22質量%Ag)、実施例13では(AZX912+0.43質量%Ag)、実施例14では(AZX912+0.84質量%Ag)、実施例15では(AZX912+1.00質量%Ag)、そして実施例16では(AZX912+3.81質量%Ag)のものを用いたこと以外は、実施例8と同様に溶接接合構造体を作製した。
(実施例17)
(溶加材の作製)
AZ91D合金に難燃性付与のために、2.0質量%のカルシウム(Ca)を添加したマグネシウム(Mg)合金「AZ91D−2質量%Ca」をベースにして、これに追加添加物として、ガリウム(Ga)を、合金組成100質量%において0.55質量%になるように、また銀(Ag)を、合金組成において0.81質量%になるように添加した。次に、溶解鋳造炉のるつぼの中で、AZ91D合金、カルシウム(Ca)及び追加添加物(ガリウム(Ga)および銀(Ag))を600〜750℃で溶解し、溶解した溶湯が均質になるよう撹拌した後、円筒状に固化形成した。次に、これをビレットとして、押し出し比を150、押し出し温度を420℃で熱間押し出し加工、次に冷間での伸線加工を経て直径3mmの棒状の溶加材(AZX912+0.55質量%Ga+0.81質量%Ag)を作製した。
この場合、銀(Ag)の添加による銀(Ag)の含有量は0.81質量%であって銀(Ag)単独の下限値0.01%よりも大きく、同じくガリウム(Ga)の添加によるガリウム(Ga)の含有量は0.55質量%であって、ガリウム(Ga)単独の下限値0.08%よりも大きい場合に相当する。
(溶接接合構造体の作製)
厚さが3mm、幅が120mm、成形方向に長さが300mmのMg合金材料(AZX912:組成:9質量%Al、1質量%Zn、2質量%Ca、残部Mg)からなる2枚の試験板、及び直径が3mmの、上述のようにして作製されたMg合金溶加材(AZX912+0.55質量%Ga+0.01質量%Ag)を1本用いた。溶接方法は、ティグ(TIG)溶接法で、TIG溶接機(ダイヘン社製:商品名:DA300P)を用いてAZX912溶接接合構造体(溶接継手)を作製した。接合構造体の形状は、幅が240mm、長さが300mmになるように並べて、成形方向に平行に突合せ部を溶接した。主な溶接条件は以下のとおりである。すなわち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と試験版の距離は2mm、交流式で電流120A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。
(実施例18)
(溶加材の作製)
AM60B合金に難燃性付与のために2.0質量%のカルシウム(Ca)が添加されたマグネシウム(Mg)合金「AM60B−2質量%Ca」をベースにし、これに追加添加物として、ガリウム(Ga)を、合金組成において1.4質量%になるように添加した。次に、溶解鋳造炉のるつぼの中で、AM60B合金、カルシウム(Ca)及び追加添加物(ガリウム(Ga))を600〜750℃で溶解し、溶解した溶湯が均質になるよう撹拌した後、円筒状に固化形成した。次に、これをビレットとして、押し出し比を150、押し出し温度を420℃で熱間押し出し加工、次に冷間での伸線加工を経て直径3mmの棒状の溶加材(AMX602+1.4質量%Ga)を作製した。ここで、AMX602は、6質量%Al、0.5質量%Mn、2質量%Ca、残部Mgの組成からなる。すなわち、溶加材は、合金組成100質量%中に、6質量%Al、0.5質量%Mn、2質量%Ca、1.4質量%Ga、残部Mgの組成から構成されている。組成は、固形形成した円筒形状の塊から一部を切り出し、酸分解後にICP発光分光分析法で成分分析した。以下の実施例及び比較例においても同様である。
(溶接接合構造体の作製)
厚さが3mm、幅が120mm、成形方向に長さが300mmのMg合金材料(AMX602:組成:6質量%Al、0.5質量%Mn、2質量%Ca、残部Mg)からなる2枚の試験板、並びに直径が3mmの、上述のようにして作製されたMg合金溶加材(AMX602+1.4質量%Ga)を1本用いた。溶接方法はティグ(TIG)溶接法で、TIG溶接機(ダイヘン社製:商品名:DA300P)を用いてAMX602溶接接合構造体(溶接継手)を作製した。接合構造体の形状は、幅が240mm、長さが300mmになるように並べて、成形方向に平行に突合せ部を溶接した。主な溶接条件は以下のとおりである。すなわち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と試験版の距離は2mm、交流式で電流120A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。
(実施例19)
(溶加材の作製)
AM60B合金に難燃性付与のために2.0質量%のカルシウム(Ca)が添加されたマグネシウム(Mg)合金「AM60B−2質量%Ca」をベースにし、これに追加添加物として、ガリウム(Ga)を、合金組成において2.8質量%になるように添加した。次に、溶解鋳造炉のるつぼの中で、AM60B合金、カルシウム(Ca)及び追加添加物(ガリウム(Ga))を600〜750℃で溶解し、溶解した溶湯が均質になるよう撹拌した後、円筒状に固化形成した。次に、これをビレットとして、押し出し比を150、押し出し温度を420℃で熱間押し出し加工、次に冷間での伸線加工を経て直径3mmの棒状の溶加材(AMX602+2.8質量%Ga)を作製した。
(溶接接合構造体の作製)
厚さが3mm、幅が120mm、成形方向に長さが300mmのMg合金材料(AMX602:組成:6質量%Al、0.5質量%Mn、2質量%Ca、残部Mg)からなる2枚の試験板、並びに直径が3mmの、上述のようにして作製されたMg合金溶加材(AMX602+2.8質量%Ga)を1本用いた。溶接方法はティグ(TIG)溶接法で、TIG溶接機(ダイヘン社製:商品名:DA300P)を用いてAMX602溶接接合構造体(溶接継手)を作製した。接合構造体の形状は、幅が240mm、長さが300mmになるように並べて、成形方向に平行に突合せ部を溶接した。主な溶接条件は以下のとおりである。すなわち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と試験版の距離は2mm、交流式で電流120A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。
(実施例20)
(溶加材の作製)
AM60B合金に難燃性付与のために2.0質量%のカルシウム(Ca)が添加されたマグネシウム(Mg)合金「AM60B−2質量%Ca」をベースにし、これに追加添加物として、銀(Ag)を、合金組成において1.6質量%になるように添加した。次に、溶解鋳造炉のるつぼの中で、AM60B合金、カルシウム(Ca)及び追加添加物(銀(Ag))を600〜750℃で溶解し、溶解した溶湯が均質になるよう撹拌した後、円筒状に固化形成した。次に、これをビレットとして、押し出し比を150、押し出し温度を420℃で熱間押し出し加工、次に冷間での伸線加工を経て直径3mmの棒状の溶加材(AMX602+1.6質量%Ag)を作製した。
(溶接接合構造体の作製)
厚さが3mm、幅が120mm、成形方向に長さが300mmのMg合金材料(AMX602:組成:6質量%Al、0.5質量%Mn、2質量%Ca、残部Mg)からなる2枚の試験板、並びに直径が3mmの、上述のようにして作製されたMg合金溶加材(AMX602+1.6質量%Ag)を1本用いた。溶接方法はティグ(TIG)溶接法で、TIG溶接機(ダイヘン社製:商品名:DA300P)を用いてAMX602溶接接合構造体(溶接継手)を作製した。接合構造体の形状は、幅が240mm、長さが300mmになるように並べて、成形方向に平行に突合せ部を溶接した。主な溶接条件は以下のとおりである。すなわち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と試験版の距離は2mm、交流式で電流120A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。
(実施例21)
(溶加材の作製)
AM60B合金に難燃性付与のために2.0質量%のカルシウム(Ca)が添加されたマグネシウム(Mg)合金「AM60B−2質量%Ca」をベースにし、これに追加添加物として、銀(Ag)を、合金組成において2.1質量%になるように添加した。次に、溶解鋳造炉のるつぼの中で、AM60B合金、カルシウム及び追加添加物(銀(Ag))を600〜750℃で溶解し、溶解した溶湯が均質になるよう撹拌した後、円筒状に固化形成した。
次に、これをビレットとして、押し出し比を150、押し出し温度を420℃で熱間押し出し加工、次に冷間での伸線加工を経て直径3mmの棒状の溶加材(AMX602+2.1質量%Ag)を作製した。
(溶接接合構造体の作製)
厚さが3mm、幅が120mm、成形方向に長さが300mmのMg合金材料(AMX602:組成:6質量%Al、0.5質量%Mn、2質量%Ca、残部Mg)からなる2枚の試験板、並びに直径が3mmの、上述のようにして作製されたMg合金溶加材(AMX602+2.1質量%Ag)を1本用いた。溶接方法はティグ(TIG)溶接法で、TIG溶接機(ダイヘン社製:商品名:DA300P)を用いてAMX602溶接接合構造体(溶接継手)を作製した。接合構造体の形状は、幅が240mm、長さが300mmになるように並べて、成形方向に平行に突合せ部を溶接した。主な溶接条件は以下のとおりである。すなわち、直径2.4mmの純タングステン電極を用い、電極と試験版の距離は2mm、交流式で電流120A、溶接速度は200mm/min、不活性ガスにはアルゴンガスを用い、その流量は12L/minとした。
(実施例22)
(溶加材の作製)
ガリウム(Ga)を、合金組成100質量%において0.05質量%になるように、銀(Ag)を、合金組成100質量%において0.004質量%、にしたこと以外は、実施例17と同様に溶加材を作製した。
この場合、銀(Ag)含有量X質量%は0.004%であって、銀(Ag)単独での下限値0.01%以下であり、かつガリウム(Ga)の含有量Y質量%は0.05%であって、ガリウム(Ga)単独での下限値0.08%以下であり、かつ
0.004/0.01+0.05/0.08=0.4+0.625=1.025≧ 1を満たす場合に相当する。
(溶接接合構造体の作製)
Mg合金溶加材が、(AZX912+0.04質量%Ga+0.004質量%Ag)のものを用いたこと以外は、実施例17と同様に溶接接合構造体を作製した。
(比較例1)
溶加材として、直径が3mmのMg合金溶加材(AZX912単独)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてAZX912溶接継手を形成した。
(比較例2)
溶加材として、直径が3mmのMg合金溶加材(AMX602単独)を用いたこと以外は、実施例18と同様にしてAMX602溶接継手を形成した。
(比較例3〜4)
(溶加材の作製)
銀(Ag)を、合金組成100質量%において比較例3では0.0025質量%、そして比較例4では0.00125質量%にしたこと以外は、実施例8と同様に溶加材を作製した。
(溶接接合構造体の作製)
Mg合金溶加材が、比較例3では(AZX912+0.0025質量%Ag)、そして比較例4では(AZX912+0.00125質量%Ag)のものを用いたこと以外は、実施例8と同様に溶接接合構造体を作製した。
(評価試験)
実施例1〜22及び比較例1〜4で得られた溶接継手(溶接部)について、以下の評価試験を行った。その結果を表1に示す。
3.引張試験
引張試験は、JISZ2241「金属材料引張試験方法」に基づき行った。図3に示すように、JIS1A号試験片に準じ、引張試験用試料の寸法は、外形寸法の長さが240mm、幅が37mmで、評価部の幅は25mmとした。溶接部の幅方向の中央が図中の「斜線部」の中央に位置するようにした。試験片は、フライス加工で溶接における余盛り部を取り除き、帯鋸で37mm幅に切断した後、フライス加工でダンベル形状に切り出して引張試験片形状とした。なお、溶接部の余盛りは削除し肉厚が元厚である3mmになるようにした。引張試験は、室温で行った。破断強度を接合強度とした。
4.継手効率
継手効率は、溶接材の強度を母材強度で除し、100を掛けて%として算出した。
表1から、実施例1〜17、22において得られた継手効率は比較例1、3、4の結果を、実施例18〜21において得られた継手効率は比較例2の結果をそれぞれ大幅に上回っており、かつ比較例の破断部が溶融部であるのに対し、実施例の破断部は多くが熱影響部であるので、本発明の効果を明確に認めることができた。
産業上の利用可能性
本発明は、従来の溶接装置や溶接方法をそのまま又は若干改造して用いることによって、複数のMg合金材料を簡易に溶融溶接することができるとともに、優れた機械的強度の溶接構造体を得ることができるため、大きな機械強度を要する用途、例えば、鉄道車両、産業車両及び道路交通法上の車両等の大きな輸送設備や大きな構造材料等を扱う、各種製造業、輸送業、建築業、機械工業、化学工業等の分野において、好適に利用されることができる。

Claims (7)

  1. マグネシウム(Mg)合金材料を溶融溶接によって接合する際に用いられる溶加材であって、AZ系、AZX系、AM系、AMX系のマグネシウム(Mg)合金に更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材。
  2. AZ系合金がAZ31、AZ61、AZ91、AZX系合金がAZX911、AZX912、AM系合金がAM60、AMX系合金がAMX602である、請求項1記載の溶加材。
  3. マグネシウム(Mg)合金材料を溶融溶接によって接合する際に用いられる溶加材であって、AZX系又はAMX系のマグネシウム(Mg)合金更に銀(Ag)及び/又はガリウム(Ga)を含有する合金組成からなり、銀(Ag)単独を含有する場合は0.01質量%以上6.3質量%以下の銀(Ag)を含有する合金組成、ガリウム(Ga)単独を含有する場合は0.08質量%以上4.2質量%以下のガリウム(Ga)を含有する合金組成、銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する場合は、銀(Ag)の質量%をXとすると0<X<0.01であり、ガリウム(Ga)の質量%をYとすると0<Y<0.08であって、かつ、X/0.01+Y/0.08≧ 1となる銀(Ag)及びガリウム(Ga)を含有する合金組成から構成されてなる溶加材。
  4. マグネシウム(Mg)合金材料が溶加材を介して溶融溶接によって接合された前記マグネシウム(Mg)合金材料と前記溶加材との接合構造であって、前記溶加材は、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材である、マグネシウム(Mg)合金材料と溶加材との接合構造。
  5. マグネシウム(Mg)合金材料を、溶加材を用いて溶融溶接によって接合する方法であって、前記溶加材として、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材を用いることを特徴とするマグネシウム(Mg)合金材料の溶融溶接による接合方法。
  6. マグネシウム(Mg)合金材料が溶加材を介して溶融溶接によって接合されたマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体であって、前記溶加材は、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材であることを特徴とするマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体。
  7. マグネシウム(Mg)合金材料を、溶加材を用いて溶融溶接によって接合するマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法であって、前記溶加材として、請求項1乃至のいずれかに記載の溶加材を用いることを特徴とするマグネシウム(Mg)合金材料接合構造体の製造方法。
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