JP6158401B1 - 麹菌と乳酸菌を利用した蒸留酒の製造方法 - Google Patents

麹菌と乳酸菌を利用した蒸留酒の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】特徴的な香味を有する蒸留酒を製造する方法を提供する。【解決手段】麹菌と乳酸菌を共発酵により好気培養した乳酸菌発酵液をアルコール製造工程へ添加してアルコール発酵させる特徴的な香味を付与した蒸留酒の製造方法であり、好ましくは、麹菌が黄醪菌または白醪菌から選択され、乳酸菌がLactobacillusplantarumまたはLactobacilluscurvatusから選択される。【効果】従来とは異なるまろやかな味と果実香を有する蒸留酒が製造されブレンド用の原酒として有用である。【選択図】 図4

Description

本発明は、乳酸菌を利用した蒸留酒の製造方法に関し、詳しくは、乳酸菌に由来する好ましい香味が付与されながら、乳酸菌、野生酵母および/またはカビなどの増殖による発酵不良およびオフフレーバーの発生が防止された蒸留酒、好ましくは乳酸菌による好ましい香味特徴を有する蒸留酒の製造方法に関する。
乳酸菌は、伝統的発酵食品に多く含まれ、各国の食文化において古くから活用されている。酒類においても、製品の品質向上に乳酸菌を活用する方法がいくつか知られている(例えば、非特許文献1)。これまで焼酎の製造においては排除されていた乳酸菌を逆に利用する焼酎の製造方法が提案されている。乳酸菌ラクトバシルス属、β-酸化には酵母サッカロミセス属が一般的に使用されているが、焼酎製造工程では麹由来のクエン酸やアルコール発酵を担う酵母が存在するため、乳酸菌増殖とのバランスが重要になる。そのため、クエン酸耐性を付与した乳酸菌を用いている。特許文献1には、乳酸菌が1g/l以上のクエン酸に耐性を有し、かつ12重量%以上のエタノールに感受性を有する乳酸菌であるラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌ATCC8014株であり、焼酎原料に酵母を仕込む前に乳酸菌を添加する方法が提案されている。
また、特定の乳酸菌を使用することにより、蒸留酒オフフレーバーを生じることなく、優れた香味を付与することができる蒸留酒の香味増強方法が提案されている(特許文献2)。蒸留酒原料にラクトバチルス カゼイグループに属する乳酸菌〔ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)〕を蒸留酒原料に酵母を仕込むと同時または仕込み前後に添加する方法である。
また、仕込方法そのものを改変して酵母とは別の系で培養後に低アルコール醪で培養する場合もある。乳酸菌にとってストレスがなければ焼酎オフフレーバーの発生は抑制される。麹菌および/または酵母で発酵させた醪の調製工程の何れかの段階において、フェルラ酸を、バニリンの前駆体である4−ビニルグアヤコール(4−VG)に転化することができる乳酸菌ラクトコッカス・ラクチスを接種することが記載されている。しかし、醪の腐造によるオフフレーバーの発生の課題については記載されていない(特許文献3)。
また、ラクトバチルス カゼイグループに属する乳酸菌、具体的にはpH3.5以下の酸性条件に耐性を有し、かつ、一定以上のエタノール濃度、例えば、15重量%以上のエタノールに感受性を有する乳酸菌を、蒸留工程以前に添加すること、焼酎オフフレーバー生成の抑制は、当該乳酸菌が一定濃度以上のエタノールにより増殖抑制されることによって達成されることが記載されている(特許文献4)。
ウイスキー発酵における乳酸菌の効果を焼酎製造に応用した技術として、γ-ラクトン類を含有する醸造物を製造し、蒸留する方法がある。γ-ラクトン類の合成には基質に不飽和脂肪酸が必要であることから、原料にオレイン酸、玄米、酵母を使用している。特に酵母は溶解を促すために長時間(40℃、24時間以上)の加熱溶解処理が必要である。特許文献5には、ピーチ様の香気を有する香料化合物であって従来から香料組成物の調合成分に用いられているγ−ドデカラクトンを、オレイン酸に所定の乳酸菌を作用させて、10−ヒドロキシステアリン酸を得るとともに、全ての工程において微生物を用いることにより、製造する方法が開示されている。オレイン酸に、炭素−炭素二重結合に係る炭素をヒドロキシル化する能力を有する第1微生物を作用させて、10−ヒドロキシステアリン酸を得る第1工程と、得られた前記10−ヒドロキシステアリン酸にβ−酸化能を有する第2微生物を作用させてγ−ドデカラクトンを得る第2工程とを有するγ−ドデカラクトンの製造方法であって、前記第1微生物が、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、またはペディオコッカス(Pediococcus)属に属する乳酸菌であること、前記第2微生物が、サッカロミセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、またはカンディダ(Candida)属に属することを特徴とする。
また、特許文献6には、食品や医薬品に使用されている酵母菌体を基質として用い、この酵母菌体に含まれる不飽和脂肪酸を、不飽和脂肪酸のヒドロキシル化能を有する第1の微生物によってヒドロキシル化し、更にβ-酸化能を持つ第2の微生物によって処理することにより、アルコール飲料、食品、香料などに用いることができるγ-デカラクトンおよび/またはγ-ドデカラクトンを含有する液体組成物を製造する方法が開示されている。非特許文献2によると、醪前半の乳酸菌の増殖により菌体数が増加することで水和化反応も進行し、後半に酵母によるβ-酸化、ついで分子内エステル化が起こり、ラクトンの生成が増加していくことが推察される。醪でのラクトン類の生成は極めて不安定であり、その理由として各醪でのβ-酸化に対する酵母の活性状態の違い、乳酸菌数の違いによる水和反応進行の差異等の影響が考えられる。
以上のように、従来知られている乳酸菌を利用した蒸留酒の製造方法は、特定の性質を有する乳酸菌を、該蒸留酒の製造工程の任意の段階で醪に接種して、所望の品質の蒸留酒を得ることを特徴としている。一方、焼酎オフフレーバーの発生を防止する方法は、具体的に開示されていないか、開示されていても添加した乳酸菌自身が焼酎オフフレーバーを生成しない、またはエタノール感受性を有するために醪中で過剰増殖しない、といった性質を有するために実現できることが開示されているに過ぎず、その他の具体的な技術手段は明らかにされていなかった。
特開2000−60531号公報 特開2009−153506号公報 特開2008−75号公報 特開2009−153506号公報 特許第3479337号公報 特許第3953601号公報
百瀬等,J.Brew.,Soc.Japan.,92(6),452-457(1997) 「乳酸菌利用による焼酎もろみでのγ-ラクトン類の生成」東京農大、醸協108(2013)
従来、焼酎製造は解放系の環境下で比較的高温の発酵管理をすることから、製麹時もしくは一次、二次仕込時に雑菌汚染することを防止するための対策がなされている。微生物管理の視点では麹菌と酵母菌の純粋培養が基本的な考え方である。その結果として、腐造もろみが発生する頻度は低く保たれている。一方、他の醸造物(日本酒、ワイン、ウィスキー、泡盛など)において、乳酸菌が最終製品の香味に影響を与えていることが知られている。そこで、具体的には蒸留酒として麦焼酎を取り上げ、麦焼酎に積極的に乳酸菌を利用した焼酎製造を検討し、乳酸菌による香味の異なる蒸留酒を製造することを目標として試験を行った。その結果、麹菌と乳酸菌を共発酵により好気培養した乳酸菌発酵液の培養条件について検討することにより新しい香味を有する蒸留酒を製造することが可能になった。
本発明は、乳酸菌発酵液の乳酸菌以外の蒸留酒製造用の原料、微生物および製造工程には変更がなく通常の蒸留酒の製造技術を利用して、有害菌の増殖による発酵不良および焼酎オフフレーバーの発生を防止しながら、乳酸菌による好ましい香味特徴を有する蒸留酒を製造することを目的とする。
本発明は、以下の(1)ないし(11)に記載の蒸留酒の製造方法を要旨とする。
(1)黄麹菌、不活化酵母菌およびラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)を共発酵により好気培養した第1乳酸菌発酵液をアルコール製造工程へ添加してアルコール発酵させることを特徴とする蒸留酒の製造方法。
(2)前記第1乳酸菌発酵液がラクトン類を含む、上記(1)に記載の蒸留酒の製造方法。
)アルコール製造工程が、少なくとも発酵可能な基質に転換する工程、酵母によるア
ルコール発酵工程および蒸留工程を含む、上記(1)または(2)に記載の蒸留酒の製造方法。
)アルコール製造工程が、少なくとも一次仕込工程、二次仕込工程および蒸留工程を
含む、上記(1)から(3)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
)アルコール製造工程が、製麹工程、一次仕込工程、二次仕込工程および蒸留工程か
らなる、上記(1)から()のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(6)前記第1乳酸菌発酵液を、アルコール発酵工程または二次仕込み工程の後であり、かつ、前記蒸留工程の前に添加する、上記(2)から(5)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(7)さらに黒麹菌および/または白麹菌並びにラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)を共発酵により好気培養した第2乳酸菌発酵液をアルコール製造工程へ添加してアルコール発酵させる、上記(1)から(6)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
前記第2乳酸菌発酵液が二次仕込工程に添加される、上記()に記載の蒸留酒の製造方法。
(9)第1乳酸菌発酵液または第2乳酸菌発酵液は、好気培養により、グルコースの含有量が0.2g/L以下である、請求項1から8のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
10)麹が破砕処理されている、(1)から()のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
11)乳酸菌に由来する香味が付与されながら、発酵不良およびオフフレーバーの発生が防止された蒸留酒である、(1)から(10)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
12)蒸留酒が焼酎である、(1)から(11)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
乳酸菌発酵液の乳酸菌以外の蒸留酒製造用の原料、微生物および製造工程には変更がなく通常の蒸留酒の製造技術を利用して、有害菌の増殖による発酵不良および焼酎オフフレーバーの発生を防止しながら、乳酸菌による好ましい香味特徴を有する蒸留酒を製造することができる。本発明の製造方法で製造された蒸留酒は、乳酸菌の利用による香味品質の向上および多様性を付与することができるとともにオフフレーバーの発生抑制の効果を発揮することができる。もしくは、味にまろやかさを付与した蒸留酒および香りに果実香を付与した蒸留酒を製造することができる。これらの蒸留酒は、乳酸菌発酵液を発酵工程に添加するタイミングを調整することにより簡便に製造できる。
本発明の黄麹+乳酸菌発酵をウイスキー発酵(従来法)と対比して説明する図面である。 実施例2の予備小仕込試験の発酵経過を示す図面である。 実施例3の小仕込試験の発酵経過を示す図面である。 乳酸菌発酵液を添加するタイミングについて、(1)乳酸菌培養液Aタイプを蒸留前段階でのみ添加する00A仕込、(2)一次仕込前と蒸留前段階で乳酸菌培養液Aタイプおよび二次仕込前段階で乳酸菌培養液Bタイプを添加するABA仕込(三段)の仕込方法を説明する図面である。
本発明は、麹菌と乳酸菌を共発酵により好気培養した乳酸菌発酵液をアルコール発酵工程へ添加してアルコール発酵させることにより特徴的な香味を付与した蒸留酒の製造方法に関するものであり、味にまろやかさを付与した蒸留酒、および香りに果実香を付与した蒸留酒を製造することができる。本発明の蒸留酒の製造方法は、蒸留酒の製造に関するものであれば、蒸留酒の製造用原料や製造工程、製造された製品には特に限定されないが、米、芋、大麦、麦芽、などを発酵原料として製造される焼酎、ウイスキーなどの蒸留酒の製造に特に適している。
以下における本発明の説明には、蒸留酒として焼酎を例にしてその製造工程を詳細に説明する。
[蒸留酒の製造工程の概略]
本発明の蒸留酒の主原料には米や麦などの穀類、甘藷、馬鈴薯などのいも類、清酒製造の副産物である白糠、酒粕などの加工原料、黒糖などの糖質原料、木の実やその他の原料が使用され、この主原料により焼酎の風味特徴が形成され蒸留酒の種類や特性が決まる。
発酵に用いる微生物は発酵酒それぞれに特徴的であり、ビールにはビール酵母、ワインにはワイン酵母、そして焼酎には焼酎酵母が使われている。例えば、焼酎酵母にはさまざまな種類があり、どれを使うかによって焼酎の味や香りが微妙に異なる。焼酎麹は、醪で原料の溶解・分解に必要な酵素および雑菌の汚染防止に必要なクエン酸を供給する役割を担っている。いずれもアスペルギルス属の麹菌であるが、沖縄県の泡盛には黒麹菌が使われ、九州をはじめとする諸県では白麹菌が使われている。また、最近では風味の多様化の面から清酒用の黄麹菌も一部で使われている。
麹原料および主原料は、洗浄、浸漬、水切り、蒸きょう、冷却が行われ、麹原料は製麹工程へ、主原料は二次醪の仕込工程へと運ばれる。麹菌を使用した蒸留酒は、焼酎、泡盛であり、製麹工程、一次仕込工程、二次仕込工程からなる製造方法は焼酎の製造方法である。製麹工程のある代表的な蒸留酒(焼酎)の製造は以下の工程よりなる。
原料およびその処理 → 製麹 → 一次仕込 → 二次仕込 → 蒸留 → 熟成
[麹造り、麹菌]
焼酎麹は、醪で原料の溶解と分解に必要な酵素類および雑菌の汚染防止に必要なクエン酸を供給する役割を担うものであり、蒸した米や麦に焼酎用の麹菌を植えつけて繁殖させたものである。例えば、麹原料を水で洗い、水に浸して水分を吸収させた後に水切りし蒸す。そして、麹菌を加えて麹を造る。次の日に、麹を麹棚に移して一日寝かせた後、3日目に麹を取り出し、一次仕込に移される。
本格焼酎の麹造りに使用される麹菌の種類には、主に白麹菌、黒麹菌、および黄麹菌がある。白麹菌や黒麹菌は、雑菌繁殖を抑制するのに役立つクエン酸を大量に生成するので、気温や湿度の高い南九州、沖縄などにおいては、安全に焼酎を造り出すために不可欠とされる。黄麹菌では、通常白麹菌、黒麹菌を使用したものより揮発性の酸が多くなり、甘味を感じやすい商品になることが特徴である。
[一次仕込]
一次仕込とは、麹に純粋培養した酵母菌を添加して酵母を大量に培養することと、二次仕込に必要な酵素や、醪の腐敗を防ぐクエン酸の溶出を目的としている。例えば、厳しい温度管理のもとで約一週間の間で一次醪ができあがる。その一週間の間は、通常、醪の温度が30℃以上にならないよう慎重に管理をする必要があり、30℃以上になると酵母が弱ってしまい、次の二次仕込の際に、もろみが腐りやすくなる。
[二次仕込]
一次仕込でできた一次醪に、蒸した主原料(芋、麦、黒糖、など)と水を加えて混合し、例えば、25℃から30℃の温度で約8日から20日間かけて発酵することにより芳醇な醪とする。ここでも温度管理が重要で、醪の温度が高くなりすぎると酵母によるアルコール発酵が抑えられるため、32℃以上にならないようにする。ここで仕込む主原料により蒸留酒の性質が決定される。例えば、芋であれば「芋焼酎」、麦であれば「麦焼酎」、黒糖であれば「黒糖焼酎」となる。
[蒸留]
二次仕込でアルコール発酵が終わった醪を、例えば、単式蒸留機に移し替える。醪の温度が85℃から90℃に達するとアルコールが留出し、蒸留の初めの頃は約70度のアルコールが溜出されるが、徐々にアルコール度数が少なくなり、8度から10度以下になると終了する。蒸留でできた全体のアルコール度数は40度前後になり、次いで熟成される。
単式蒸留には大別して大気圧下で蒸留する常圧蒸留と、気圧を下げて低い温度で蒸留する減圧蒸留があり、常圧蒸留では、原料や醪由来の香味成分の他に蒸留中の加熱によって製成される香味成分も原酒中に入ってくるので、濃醇な焼酎に仕上がる。また、減圧蒸留では、沸騰温度が低いため醪中から原酒に移る香気成分は、低い温度で沸騰しやすい成分(華やかな香りの成分)の比率が高まる。
[本発明の蒸留酒の製造]
以下に、蒸留酒の製造において、麹菌と乳酸菌を用いた共発酵による好気培養について説明する。
麹菌と乳酸菌を同一容器内での共発酵により好気培養することで乳酸菌発酵液を製造した後にアルコール発酵に供することにより特徴的な香味を付与できる。
従来法の乳酸菌を利用した優れた香味を有する蒸留酒の製造方法と異なる点は、共発酵により麹菌と乳酸菌を好気培養することにあり、安定した乳酸菌による効果が期待され、味にまろやかさを付与した蒸留酒および香りに果実香を付与した蒸留酒を得ることができる。
乳酸菌以外の原料、微生物および製造工程については通常の蒸留酒製造で採用されているところであり、好ましくは、麹菌には黄麹菌または黒麹菌および/または白麹菌を、乳酸菌にはラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)またはラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いることができる。通常の蒸留酒製造で採用されているアルコール製造工程は、少なくとも発酵可能な基質に転換する工程、酵母によるアルコール発酵工程および蒸留工程を含む。あるいは少なくとも一次仕込工程、二次仕込工程および蒸留工程を含む。あるいは通常の焼酎製造で採用されているアルコール製造工程は、製麹工程、一次仕込工程、二次仕込工程および蒸留工程からなる。
[麹菌と乳酸菌]
本発明で使用する麹菌としては、好ましくは、黄麹菌または黒麹菌および/または白麹菌を使用することができる。
本発明で使用する乳酸菌として次のものを検討したところ、乳酸菌ごとに独特の香味を呈することが判明した(表1)。
すなわち、殺菌した300ml三角フラスコに大麦麹(白麹菌)30gと水140mlを加え、焼酎酵母BAW-6培養液10mlと50mlMRS培地で培養した乳酸菌〔ラクトバチラス ブレビス(Lactobacillus brevis) NBRC12005、ラクトバチルス プランタルム サブスピーシーズ プランタルム(Lactobacillus plantarum subsp. Plantarum) NBRC3070、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)NBRC12007、ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)NBRC15884〕を遠心分離し10cells/mlになるように添加し、25℃で5日間静置培養した。発酵終了時に蒸留機によりアルコール度数が約10%になるように回収したアルコール原酒を用いて官能検査を実施したラクトバチラス ブレビス(Lactobacillus brevis)およびラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)はオフフレーバーの発生が多く感じられたので、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)およびラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)を選抜した。
麹菌との乳酸菌の組み合わせは大きな要素となるが、黄麹菌または黒麹菌および/または白麹菌と乳酸菌、例えば、ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)を共発酵にて好気培養することで、麹菌による糖化と乳酸菌増殖が行われることが好ましい。
好ましい組み合わせとしての乳酸菌発酵液(A)では、黄麹、乳酸菌(ラクトバチルス クルヴァトゥス)、不活化酵母菌からなり、γ-ラクトン類の生成を目的としている。基質である不飽和脂肪酸は不活化させた酵母菌から産生される。不活化酵母菌は黄麹菌の産生するリパーゼにより不飽和脂肪酸に変換され、乳酸菌は不飽和脂肪酸を酸化してヒドロキシ脂肪酸をなす。黄麹菌はヒドロキシ脂肪酸をβ-酸化することによりラクトンを生成すると推察した。
例えば、黄麹菌を使用し、乳酸菌にはラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus) NBRC15884を10cells/ml添加して30℃、3日間好気培養させるとよい。麹菌は不活化酵母菌の分解作用も促すと考えられる。不飽和脂肪酸を含有する不活化酵母菌を基質として用い、当該基質に含有される不飽和脂肪酸を、不飽和脂肪酸のヒドロキシル化能を有する乳酸菌ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)によってヒドロキシル化し、更にβ-酸化能を有する黄麹菌によって処理してラクトン類を生成する。このように、黄麹菌と乳酸菌ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)を共発酵にて好気培養することで、麹による糖化と乳酸菌増殖、ならびに、乳酸菌のβ-酸化する基質との反応を行う(図1右図参照)。
また、他の好ましい組み合わせとしての乳酸菌発酵液(B)では、白麹菌と乳酸菌、例えば、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)を共発酵にて好気培養することにより麹菌による糖化と乳酸菌増殖を行う。この乳酸菌発酵液(B)は、蒸留酒に味のまろやかさを付与することを目的としており、麹菌には白麹菌を使用し、乳酸菌にはラクトバチルス プランタルム サブスピーシーズ プランタルム((Lactobacillus plantarum subsp. Plantarum))NBRC3070を10cells/ml添加して30℃、3日間好気培養させることができる。
乳酸菌発酵液(A)の香り付与効果と、乳酸菌発酵液(B)による味付与効果は、単独もしくは複数に分けて添加することにより、また、添加時期を特定することにより多様な酒質を製造することが可能である。
本発明により、当該乳酸菌に由来する好ましい香味が付与されながら、乳酸菌、野生酵母および/またはカビなどの増殖による発酵不良およびオフフレーバーの発生が防止された蒸留酒が製造される。
従来、乳酸菌を使用して製造する蒸留酒としては、ウイスキーが知られている。ウイスキーの製造における発酵には、ビール酵母などが共存していて、糖源の枯渇あるいはアルコール濃度の上昇とともにビール酵母は不活化して不飽和脂肪酸を放出する、この不飽和脂肪酸を乳酸菌が酸化してヒドロキシ脂肪酸となし、これをβ−酸化により酵母がラクトンに変換して香味を付与することが知られている。しかしながら、乳酸菌と黄麹菌の共発酵にて好気培養した乳酸菌発酵液をアルコール製造工程に添加することは開示されてはいない(図1左図参照)。
[大麦麹の破砕と発酵最適温度、振盪培養]
大麦麹の破砕処理と発酵温度についての官能試験結果は表2,3に示すごとく、大麦白麹+ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)および大麦黄麹+ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)では原料の破砕処理による乳酸発酵における効果が認められた。発酵温度は、乳酸菌が健全に増殖する条件(破砕処理、30℃、3−4日間)であれば問題ないと思われるが、培養温度が低いほどオフフレーバーの発生が抑えられた。
また、振盪培養することでオフフレーバーの発生が抑えられ、フルーツ香、果実香を増強させることができた。さらに、麹の糖化が促進されて、乳酸菌による大麦麹原料の資化効率が向上した(表4参照)。
[不活化酵母菌の選抜]
乳酸菌培養液(A)では、不活化酵母菌を不飽和脂肪酸の供給源として用いるが、不活化酵母菌として適している酵母を選抜するために、焼酎酵母(BAW-6)、ワイン酵母(W2)、ウイスキー酵母(DCL M-strain)、清酒酵母(K701)の不活化酵母菌を用いて乳酸菌発酵試験〔破砕大麦黄麹+ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)〕を25℃、30℃培養で実施した。
その結果、25℃培養では清酒酵母(K701)、30℃培養ではウイスキー酵母(DCL M-strain)を不活化酵母菌として使用した際に、果実香、ピーチ香の香気生成を示唆するコメントが多かった(表5参照)。
酵母の不活化処理方法は、沸騰浴中で5分間の煮沸による処理により酵母が完全に不活化することを確認した。
[乳酸菌発酵液の添加時期]
乳酸菌発酵液は、アルコール製造工程の任意の工程および蒸留工程前から選ばれる1回またはそれ以上において添加される。
製造した乳酸菌発酵液を蒸留酒発酵工程へ添加する時期は任意の段階であるが、通常、一次仕込、二次仕込、および蒸留前のいずれかの工程あるいはこれらの工程の複数の組み合わせにおいて行われる。例えば、乳酸菌発酵液(A)〔黄麹、乳酸菌ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)、不活化酵母菌DCL M-strain〕では特に添加時期は特定されないが、乳酸菌発酵液(B)〔白麹、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)〕では二次仕込1日目が最も効果が期待できる。乳酸菌発酵液の添加時期の一例を表7に示す。ここで、添加のタイミングを示す3個の英字のうち、左端は一次仕込の工程で、中央は二次仕込の工程で、右端は蒸留工程前での乳酸菌培養体を添加することを示す。添加をしなかったことは[0]で示す。乳酸菌発酵液(A)(B)の添加のタイミングAAA,ABA,AA0,AB0を設定して蒸留酒の製造を行い、蒸留前の醪の成分分析を行うとともに官能試験の結果から、乳酸発酵液(A)を蒸留前の段階で添加する00A仕込と、一次仕込前段階と蒸留前段階で乳酸菌発酵液(A)を添加し二次仕込段階で乳酸菌発酵液(B)を添加するABAタイプが特に優れていることが判明した。
次の試験では、00A,AB0,ABAタイプの仕込を行い蒸留前の醪の成分分析および官能試験を行い、ともに優れた結果を得た。
ABAタイプの原酒と00Aタイプの原酒を1:1でブレンドして1か月貯蔵した規格品では、乳酸菌発酵由来の香味(ピーチ香、果実香、なめらか、味しっかり)強度が強いとの評価が得られた。
上の試験結果から得られた結論は、1. 乳酸菌発酵液は、香りに果実香を付与するAタイプ(大麦黄麹(破砕処理)、ラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)、不活化酵母菌DCL M-strain、30℃、3日間、振盪培養)と味にまろやかさを付与するBタイプ(大麦白麹(破砕処理)、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)、30℃、3日間、振盪培養)の発酵法が好ましく、2. 乳酸菌発酵液を添加するタイミングは、(1)乳酸菌発酵液(A)を蒸留前段階でのみ添加する00A仕込、(2)一次仕込前と蒸留前段階で乳酸菌発酵液(A)および二次仕込前段階で乳酸菌発酵液(B)を添加するABA仕込(三段)の仕込方法が好ましいことを確立した(図4)。特に、乳酸菌発酵液(A)によるラクトン生成の報告は他に見当たらない。従来法はウイスキー発酵に認められる現象であり、微生物として乳酸菌、不活化酵母菌、酵母菌が関与するが、今回の発酵法では、乳酸菌、不活化酵母菌、黄麹菌しか使用していないことから、乳酸菌と黄麹菌の好気的条件下における共生発酵という大変興味深い現象によるものと考えている。
次に、本発明の具体例を、焼酎の製造を例にして以下の実施例により説明するが、本発明がこれらの実施例により限定されるものではない。
[予備試験の目的]
蒸留酒として麦焼酎を取り上げ、麦焼酎に積極的に乳酸菌を利用した焼酎製造を検討するための予備的試験を行った。
[方法]
供試菌株
予備試験で使用した乳酸菌は、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis NBRC12005)(以下、L.brevisと称することがある。)、ラクトバチルス プランタルム サブスピーシーズ プランタルム(Lactobacillus plantarum subsp. plantarum NBRC3070)(以下、L. plantarumと称することがある。)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis NBRC12007)(以下、L. lactisと称することがある。)、ラクトバチルス クルヴァトス(Lactobacillus curvatus NBRC15884)(以下、L. curvatusと称することがある。)を使用した。
[予備乳酸菌選抜試験方法]
殺菌した300ml三角フラスコに大麦麹(白麹菌)30gと水140mlを加え、酵母BAW-6培養液10mlと50mlMRS培地で培養した乳酸菌を遠心分離し10cells/mlになるように添加し、25℃で5日間培養した。発酵の経時変化は炭酸ガス減少量にてモニタリングした。発酵終了時に、一般分析および糖・有機酸分析に供した。官能検査は、試留機によりアルコール度数が約10%になるように回収したアルコール原酒を用いてパネリスト4名で実施した。
[予備試験乳酸菌選抜の結果と考察]
麦焼酎製造に利用が可能と考えられた乳酸菌4種類について各2回の選抜試験を実施した。発酵経過からはL. brevisを添加した場合のみ発酵を抑制した。それ以外の乳酸菌添加による発酵への影響はなかった。糖・有機酸分析結果からはL. brevisを添加した醪中には酢酸が約1.7g/L、乳酸が約5g/L含まれていたことから、L.brevisが生産した酢酸、乳酸の影響で発酵が阻害されたものと考えられた。
発酵終了後にサンプル原酒の官能検査を実施し、その結果を表1に示す。無添加とは異なる香りや甘味が付与されたサンプルを選抜対象とし、マイナス評価のサンプルを除外した。その結果、L. curvatus、L. plantarumを選抜した。
[供試菌株]
乳酸菌は、ラクトバチルス プランタルム サブスピーシーズ プランタルム(Lactobacillus plantarum subsp. plantarum NBRC3070)(以下、L. plantarumと称することがある。)、ラクトバチルス クルヴァトス(Lactobacillus curvatus NBRC15884)(以下、L. curvatusと称することがある。)を使用した。酵母菌は、焼酎酵母としてBAW-6、ワイン酵母としてW2、ウイスキー酵母としてDCL MStrain、清酒酵母としてK701を使用した。麹菌については、白麹菌としてビオックK型菌、黄麹菌として清酒用黄麹菌には吟味(秋田今野商店)を使用した。
[乳酸菌発酵試験]
殺菌した300ml三角フラスコに大麦麹(白麹菌または黄麹菌)30g(破砕無または破砕有)と水140mlを加え、酵母BAW-6培養液10mlから集菌した酵母菌体を冷凍/融解処理を繰り返すことで不活化させた後に添加し、100mlMRS培地(Difco社)で培養した乳酸菌(L. plantarum、L. curvatus)を遠心分離し10cells/mlになるように添加して、30℃、35℃、40℃で3日間培養した。官能検査はパネル5名で実施した。振盪培養の場合、150rpm、回転振盪で行った。糖・有機酸分析は定法に従った。
[乳酸菌発酵試験における大麦麹の破砕の有無と発酵温度]
乳酸菌発酵の糖化と発酵を考慮して大麦白麹+L.plantarumおよび大麦黄麹+L.curvatusの組み合わせで原料破砕処理および酵母不活化菌の有無の条件下で培養後に官能検査した結果を表2、3に示す。大麦白麹+L.plantarumの場合、原料を破砕処理することで乳酸菌発酵による効果が認められ、培養温度が30℃の場合は3日目および4日目で「果実香、フルーティ」のコメントが得られた。35℃以上になると2日目で良好な評価が得られたが、培養温度は低いほうがオフフレーバー(燻製臭、漬物臭)の発生は抑えられた。大麦黄麹+L.curvatusの場合、35℃培養で不活化酵母菌を添加したほうがピーチ香の甘香が認められたが、オフフレーバー(燻製臭、酸臭)も確認された。
一部の発酵体にアルコール臭を感じたことから、冷凍/溶解処理で完全に酵母菌が不活化しているかどうかを確認したところ、生存率がゼロではないことを確認した。従って、酵母菌の不活化処理方法を煮沸処理(沸騰湯浴中で5分煮沸)に変更することで完全に不活化させることに成功した。
ウイスキーにおけるラクトン生成機構は、不活化した酵母菌から供給される不飽和脂肪酸を乳酸菌が酸化してヒドロキシ酸に変換し、酵母菌(生菌)によるβ酸化によってラクトンに変換される(図1左図参照)。不飽和脂肪酸からラクトンを生成させるためには酸素が必要である。そこで、静置培養から振盪培養に変更して乳酸菌培養を実施した。
大麦黄麹作成に乳酸菌にL.curvatusとL.plantarumを使用して、30℃、35℃、40℃で振盪培養した。その結果、前回と同様に培養温度が低いほうがオフフレーバーの発生が抑えられた(表4)。また、黄麹菌とL.curvatusの組み合わせでフルーツ香、果実香を増強させることができた。また、振盪培養したほうが糖化が促進され、乳酸菌による大麦麹原料の資化効率が向上したことからL.plantarumによる大麦白麹培養においても破砕処理することとした。
[不活化酵母菌の選抜試験]
不飽和脂肪酸を供給する不活化酵母として適している酵母菌を選抜するために、焼酎酵母(BAW-6)、ワイン酵母(W2)、ウイスキー酵母(DCL M-strain)、清酒酵母(K701)を不活化酵母に用いて乳酸菌発酵試験(破砕大麦黄麹+L.curvatus)を25℃、30℃培養で実施した。その結果、25℃培養では清酒酵母(K701)、30℃培養ではウイスキー酵母(DCL M-strain)を不活化酵母として使用した際に、果実香、フルーツ様の香気生成を示唆するコメントが多かった(表5)。特に、特徴香の強度が強かったウイスキー酵母(DCL M-strain)を選抜した。
[糖・有機酸分析]
乳酸菌発酵を検討した結果、2タイプ、つまり香りに果実香を付与するAタイプ(破砕大麦黄麹+L.curvatus、煮沸処理済みDCL M-strain、30℃、3日間、振盪培養)と味にまろやかさを付与するBタイプ(破砕大麦白麹+L.plantarum、30℃、3日間、振盪培養)の発酵法を確立することができた。実際に2タイプの方法で発酵させた培養液の糖・有機酸分析した結果を表6に示す。両タイプとも大麦麹から溶出したと考えられるグルコースがほぼ資化されていたことから健全な発酵がなされたと考えられた。
[予備小仕込試験方法]
乳酸菌の特徴を引き出す仕込方法として、通常大麦焼酎製造(二段仕込)へ乳酸発酵体の投入工程を3箇所(一次仕込前、二次仕込前、蒸留前)に設定した。乳酸菌発酵液(Aタイプ、Bタイプ)と乳酸菌添加タイミングの組み合わせにより、4パターン(3段AAA、3段ABA、2段AA0、2段AB0)で、全量375g原料で仕込試験を実施した(表7)。左端のアルファベットは一次仕込み前での乳酸菌発酵液の添加、中央のアルファベットは二次仕込前での乳酸菌発酵液の添加、右端尾アルファベットは蒸留前での乳酸菌発酵液の添加を示し、0は添加操作を行なわなかったことを示す。
発酵終了時に、一般分析および糖・有機酸分析、香気成分分析、アミノ酸分析に供した。蒸留方法は、減圧蒸留と常圧蒸留で比較した。官能検査は、貯蔵一ヶ月後にパネル5名で実施した。
[予備小仕込試験結果と考察]
二連で実施しているのでその平均値の発酵経過を図2に示す。Aタイプの乳酸菌発酵では乳酸菌による糖質の資化によりブランクと重量減少量に差が認められた。また、二次仕込開始時に加えたタイプ間による重量減少量には差はなかった。
蒸留後一ヶ月貯蔵した25%Alc焼酎の官能検査結果を表8に示す。減圧蒸留タイプと常圧蒸留タイプで比較すると、意外なことに減圧蒸留タイプのほうが欠点(トイレ芳香剤様、黄麹臭、雑味多い)が多かった。常圧蒸留タイプでは、3段ABA仕込みが香り評価で乳酸菌の特徴を引き出したコメントがあった。また、2段AB0仕込は、味評価で甘味、まろやかさが付加されていた。 以上の結果より、小仕込試験の本仕様を決定した。すなわち、シンプルさを求めた乳酸菌発酵液Aタイプを蒸留前段階でのみ添加する00A仕込と一次仕込み前段階で乳酸菌発酵液Aタイプおよび二次仕込前段階で乳酸菌発酵液Bタイプを添加するAB0仕込(2段)と一次仕込前と、蒸留前段階で乳酸菌発酵液Aタイプおよび二次仕込前段階で乳酸菌発酵液Bタイプを添加するABA仕込(3段)を行い、常圧蒸留することとした。
[小仕込試験]
乳酸菌発酵液はAタイプとBタイプを用いた。乳酸菌発酵液の添加タイミングにより3パターンの仕込方法((1)蒸留前段階で乳酸菌発酵液Aタイプのみ(1段00A)、(2)一次仕込前段階で乳酸菌発酵液Aタイプおよび二次仕込前段階で乳酸菌発酵液Bタイプ(2段AB0)、(3)一次仕込前段階で乳酸菌発酵液Aタイプおよび二次仕込前段階で乳酸菌発酵液Bタイプおよび+蒸留前段階で乳酸菌発酵液Aタイプ(3段ABA))で全量900gで仕込試験を実施した(表9)。蒸留方法は常圧蒸留をそれぞれ各3回実施した。常圧蒸留後和水して25度に調整したサンプルについて、香気成分分析および官能検査は一ヶ月貯蔵後にパネル4名で実施した。
[小仕込試験結果と考察]
発酵経過を図3に示す。AB0仕込、ABA仕込では乳酸菌発酵で糖源が資化されることからブランクと比較して重量減少量が少なかったが、予備小仕込試験と同様の傾向であった。表10には蒸留前醪および25度和水後焼酎の分析結果を示す。AB0仕込、ABA仕込では蒸留前醪のアルコール度数は約3%低かった。25度焼酎の香気成分分析結果からは、乳酸菌発酵液を添加することで、アセトアルデヒド、リノール酸エチルは増加し、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、酢酸β-フェネチルは減少した。予想に反してダイアセチルは乳酸菌発酵液を添加しても大きな増加は認められなかった。表11に25度焼酎の官能検査結果を示す。乳酸菌発酵の大きな特徴香である「ピーチ香、果実香」の香りはABA仕込で最も強く、次に00A仕込であったが、AB0仕込では香味バランスが悪かった。蒸留前段階で香味に特徴を有する発酵体を添加したことで効率よく焼酎に移行したものと考えられた。表12に25度焼酎のGC-MS分析結果を示す。乳酸菌を利用した焼酎製造で新規香気成分が生成されたことが確認できた。
[規格酒調整]
規格酒調整を行った。特徴香が感じられたABA仕込原酒と00A仕込原酒をブレンドした。表13に25名の別メンバーの官能検査の結果を示す。乳酸菌発酵由来の香味(ピーチ香、果実香、なめらか、味しっかり)の強度が強く評価は分かれた。
[結論]
以上の結果から、1. 乳酸菌発酵液は、香りに果実香を付与するAタイプ(粉砕大麦黄麹+L. curvatus、煮沸処理済みDCL M-strain、30℃、3日間、振盪培養)と味にまろやかさを付与するBタイプ(破砕大麦白麹+L.plantarum、、30℃、3日間、振盪培養)の発酵法、2. 乳酸菌発酵液を添加するタイミングは、(1)乳酸菌発酵液Aタイプを蒸留前段階でのみ添加する00A仕込、(2)一次仕込前と蒸留前段階で乳酸菌発酵液Aタイプおよび二次仕込前段階で乳酸菌発酵液Bタイプを添加するABA仕込(3段)の仕込方法を確立した(図4参照)。従来法はウイスキー発酵に認められる現象であり、微生物として乳酸菌、不活化酵母菌、酵母菌が関与するが、今回の発酵法では、乳酸菌、不活化酵母菌、黄麹菌しか使用していないことから、乳酸菌と黄麹菌の好気的条件下における共生発酵という大変興味深い現象によるものと考えている(図1参照)。
本発明は、乳酸菌に由来する好ましい香味が付与されながら、乳酸菌、野生酵母および/またはカビなどの増殖による発酵不良およびオフフレーバーの発生が防止された蒸留酒の製造方法に関するものである。好ましくは特徴的な香味を有する焼酎の製造方法に関し、乳酸菌による香味の異なる蒸留酒を製造することが達成された。また、従来の焼酎製造工程と対比すると乳酸菌の添加において相違するだけであり、従来の製造方法や装置を利用することにより簡便に製造することができる。出来上がった原酒は、麹菌や乳酸菌の種類、あるいは乳酸菌の発酵液の添加時期により香味は変化させることができ、多様な蒸留酒を製造することができる。これらの原酒は、ブレンドすることにより従来にはない香味を有する蒸留酒を需要者の好みに合わせて供給することが可能となった。

Claims (12)

  1. 黄麹菌、不活化酵母菌、およびラクトバチルス クルヴァトゥス(Lactobacillus curvatus)を共発酵により好気培養した第乳酸菌発酵液をアルコール製造工程へ添加してアルコール発酵させることを特徴とする蒸留酒の製造方法。
  2. 前記第1乳酸菌発酵液がラクトン類を含む、請求項1に記載の蒸留酒の製造方法。
  3. アルコール製造工程が、少なくとも発酵可能な基質に転換する工程、酵母によるアルコール発酵工程および蒸留工程を含む、請求項1または2に記載の蒸留酒の製造方法。
  4. アルコール製造工程が、少なくとも一次仕込工程、二次仕込工程および蒸留工程を含む、請求項1から3のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
  5. アルコール製造工程が、製麹工程、一次仕込工程、二次仕込工程および蒸留工程からなる、請求項1からのいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
  6. 前記第1乳酸菌発酵液を、アルコール発酵工程または二次仕込み工程の後であり、かつ、前記蒸留工程の前において添加する、請求項2から5のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
  7. さらに黒麹菌および/または白麹菌並びにラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)を共発酵により好気培養した第2乳酸菌発酵液をアルコール製造工程へ添加してアルコール発酵させる、請求項1から6のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
  8. 前記第2乳酸菌発酵液が二次仕込工程に添加される、請求項に記載の蒸留酒の製造方法。
  9. 第1乳酸菌発酵液または第2乳酸菌発酵液は、好気培養により、グルコースの含有量が0.2g/L以下である、請求項1から8のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
  10. 麹が破砕処理されている、請求項1からのいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
  11. 酸菌に由来する香味が付与されながら、発酵不良およびオフフレーバーの発生が防止された蒸留酒である、請求項1から10のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
  12. 蒸留酒が焼酎である、請求項1から11のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
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