(詳細な説明)
本開示のより詳細な説明の前に、本開示は記載されている特定の実施形態に限定されず、したがって、当然、変更され得ることが理解されるべきである。本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書において使用される用語法は特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定的なものではないことも理解される。
値の範囲が提供される場合、文脈により明確に別段の規定がなされない限り下限の単位の10分の1までの間に入る値のそれぞれ、その範囲の上限と下限の間およびその明示された範囲内の任意の他の明示されたまたは間に入る値が本開示に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限と下限は、それぞれ独立に、より小さな範囲内に含まれ、本開示にも包含され、明示された範囲の任意の具体的に排除される限界にさらされる。明示された範囲が限界の一方または両方を含む場合、これらの含まれる限界のいずれか、またはその両方を除く範囲も本開示に包含される。
別段の定義のない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と類似した、またはそれと等しい任意の方法および材料も本開示の実施または試験において使用することができ、好ましい方法および材料がここに記載されている。
本明細書において引用されている刊行物および特許はすべて、個々の刊行物または特許が具体的にかつ個別に参照により組み込まれることが示されたかのように参照により本明細書に組み込まれ、引用された刊行物に関連して方法および/または材料を開示し、説明するために参照により本明細書に組み込まれる。いずれの刊行物の引用も出願日より前のその開示に対するものであり、本開示が、先行する開示に基づいてそのような刊行物に先行する権限がないと容認するものであると解釈されるべきではない。さらに、提供されている刊行物の日付は実際の刊行物の日付とは異なる可能性があり、それぞれ独立に確認する必要があり得る。
本開示を読めば当業者には明らかであるように、本明細書に記載され、例示されている個々の実施形態のそれぞれは、本開示の範囲または主旨から逸脱することなく、任意の他のいくつかの実施形態の特徴と容易に切り離すこと、またはそれと組み合わせることができる別個の構成要素および特徴を有する。列挙された方法はいずれも、列挙された事象の順序で、または論理的に可能性のある任意の他の順序で行うことができる。
本開示の実施形態は、別段の指定のない限り、医学、有機化学、生化学、分子生物学、薬理学などの技法を用い、これらは当技術分野の技術の範囲内である。そのような技法は、文献において十分に説明されている。
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the(その)」は、文脈により明確に別段の規定がなされない限り、複数の指示対象を包含することに留意しなければならない。したがって、例えば、「支持体(a support)」への言及は、複数の支持体を包含する。本明細書およびそれに続く特許請求の範囲において、反対の意図が明らかでない限り、以下の意味を有すると定義されるいくつもの用語を参照する。
本明細書で使用される場合、以下の用語は、特に指定のない限り、それらに帰する意味を有する。本開示では、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」および「有する(having)」などは、米国特許法におけるそれらに帰する意味を有し得、「含む(includes)」、「含む(including)」などを意味し得る。「から本質的になる(consisting essentially of)」または「から本質的になる(consists essentially)」などは、本開示に包含される方法および組成物に適用する場合、本明細書に開示されているような組成物を指すが、追加的な構造群、組成物成分または方法のステップ(または上記の、その類似体もしくは誘導体)を含有してよい。しかし、そのような追加的な構造群、組成物成分または方法のステップなどは、対応する本明細書に開示されている組成物または方法と比較して、組成物または方法の基本的な新規の特性(複数可)には実質的に影響を及ぼさない。「から本質的になる(consisting essentially of)」または「から本質的になる(consists essentially)」などは、本開示に包含される方法および組成物に適用される場合、米国特許法におけるそれらに帰する意味を有し、この用語はオープンエンド形式であり、列挙されているもの以上のものが存在することにより列挙されているものの基本的または新規の特性が変化しない限りは、列挙されている以上のものが存在することが許容されるが、先行技術の実施形態は排除される。
(定義)
本発明の説明および特許請求の範囲では、以下の用語法が下記の定義に従って使用される。
さらなる定義は以下の文脈で提供される。特に定義されていなければ、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、分子生物学の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等である方法および材料を本開示の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料が本明細書に記載されている。
特に定義されていなければ、本明細書において使用される技術分野の用語、表示法および他の科学的な用語法はすべて、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味を有するものとする。いくつかの場合には、一般に理解される意味を有する用語は、明瞭さおよび/または即時参照のために本明細書で定義されており、そのような定義を本明細書に包含することは、当技術分野において一般に理解されているものとの必ずしも実質的な差異を示すと解釈されるべきではない。本明細書において説明または参照されている技法および手順は、一般に、十分に理解されており、一般に、当業者により慣習的な方法体系、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版(2001)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausbelら編、John Wiley&Sons、Inc.2001)に記載の広範に利用されている分子クローニング方法体系などを使用して用いられる。必要に応じて、市販のキットおよび試薬の使用を伴う手順は、一般に、特に断りのない限り、製造者により規定されたプロトコールおよび/またはパラメータに従って行う。
本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、タンパク質およびその断片を指す。ポリペプチドはアミノ酸残基配列として本明細書に開示されている。これらの配列は、左から右にアミノ末端からカルボキシ末端の方向で記載されている。標準の命名法に従って、アミノ酸残基配列は以下に示されている通り3文字または1文字のコードのいずれかにより命名されている:アラニン(Ala、A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(lle、I)、ロイシン(Leu、L)、リシン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)、およびバリン(Val、V)。
本明細書で使用される「変異体」という用語は、参照ポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは異なるが、基本的な性質を保持するポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。ポリペプチドの典型的な変異体は、別の、参照ポリペプチドとはアミノ酸配列が異なる。一般に、差異は限定されており、その結果、参照ポリペプチドおよび変異体の配列が全体的に極めて類似し(相同である)、多くの領域において同一である。変異体および参照ポリペプチドは、アミノ酸配列が1つまたは複数の修飾(例えば、置換、付加、および/または欠失)により異なってよい。置換または挿入されたアミノ酸残基は、遺伝暗号によりコードされているものであってもなくてもよい。ポリペプチドの変異体は、対立遺伝子の変異体などの天然に存在するものであってよく、または、天然に存在することが知られていない変異体であってもよい。
本開示のポリペプチドの構造に修飾および変化をもたらすことができ、依然としてポリペプチドと同様の特性を有する分子がもたらされる(例えば、保存されたアミノ酸置換)。例えば、特定のアミノ酸を、活性の認識できるほどの損失を伴わずに配列内の他のアミノ酸と置換することができる。これは、ポリペプチドの生物学的機能活性を規定するポリペプチドの相互作用的な能力および本質であるので、ポリペプチド配列内で特定のアミノ酸配列の置換をもたらすことができ、それにもかかわらず、同様の性質を有するポリペプチドが得られる。
そのような変化をもたらすことにおいて、アミノ酸の疎水性親水性指標を考えることができる。ポリペプチドに相互作用的な生物学的機能を付与することにおけるアミノ酸の疎水性親水性指標の重要性は、当技術分野において一般に理解されている。特定のアミノ酸を、同様の疎水性親水性指標またはスコアを有し、依然として同様の生物活性を有するポリペプチドをもたらす他のアミノ酸と置換することができることが知られている。各アミノ酸にはその疎水性および電荷特性に基づいて疎水性親水性指標が割り当てられている。これらの指標は、イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/システイン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);トレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リシン(−3.9)、アルギニン(−4.5)である。
アミノ酸の相対的な疎水性親水性特性により、得られるポリペプチドの二次構造が決定され、今度はそれにより、ポリペプチドと他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、抗体、抗原などとの相互作用が規定されると考えられている。アミノ酸を、同様の疎水性親水性指標を有する別のアミノ酸で置換することができ、依然として機能的に等価のポリペプチドが得られることが、当技術分野で知られている。そのような変化では、疎水性親水性指標が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内の疎水性親水性指標が特に好ましく、さらには±0.5以内の疎水性親水性指標が特に好ましい。
同様のアミノ酸の置換は、特に、それにより創出される生物学的に機能的等価であるポリペプチドまたはペプチドを免疫学的実施形態において使用することが意図されている場合、親水性に基づいて行うこともできる。以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0 ±1);グルタミン酸(+3.0 ±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);プロリン(−0.5 ±1);トレオニン(−0.4);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。アミノ酸を同様の親水性値を有する別のアミノ酸と置換することができ、依然として生物学的に等価、詳細には、免疫学的に等価のポリペプチドが得られることが理解される。そのような変化では、親水性値が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1である親水性値が特に好ましく、さらには±0.5である親水性値が特に好ましい。
上に概説されている通り、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基、例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどの相対的な類似性に基づく。前述の特性のうちの1つまたは複数を考察に入れた例示的な置換は当業者にはよく知られており、それらとしては、(Ala:Gly、Ser)、(Arg:Lys)、(Asn:Gln、His)、(Asp:Glu、Cys、Ser)、(Gln:Asn)、(Glu:Asp)、(Gly:Ala)、(His:Asn、Gln)、(Ile:Leu、Val)、(Leu:Ile、Val)、(Lys:Arg)、(Met:Leu、Tyr)、(Ser:Thr)、(Thr:Ser)、(Tip:Tyr)、(Tyr:Trp、Phe)、および(Val:Ile、Leu)(元の残基:例示的な置換)が挙げられるが、それだけに限られない。したがって、本開示の実施形態は、上記のポリペプチドの機能的または生物学的等価物を意図している。詳細には、ポリペプチドの実施形態は、対象のポリペプチドに対して約50%、60%、70%、80%、90%、および95%の配列同一性を有する変異体を含んでよい。
本明細書で使用される「同一性」という用語は、配列を比較することによって決定される2つ以上のポリペプチド配列間の関係を指す。当技術分野では、「同一性」とは、そのような配列の一続き間の一致によって決定されるポリペプチド間の配列関連性の程度も指す。「同一性」および「類似性」は、Computational Molecular Biology、Lesk,A.M.編、Oxford University Press、New York、1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects、Smith,D.W.編、Academic Press、New York、1993;Computer Analysis of Sequence Data、Part I、Griffin,A.M.、およびGriffin,H.G.編、Humana Press、New Jersey、1994;Sequence Analysis in Molecular Biology、von Heinje,G.、Academic Press、1987、Sequence Analysis Primer、Gribskov,M.およびDevereux,J.編、M Stockton Press、New York、1991、Carillo,H.、およびLipman,D.、SIAM J Applied Math.、48:1073、(1988)に記載のもの(それだけに限られない)を含めた既知の方法によって容易に算出することができる。
同一性を決定するための好ましい方法は、試験される配列間に最も大きな一致がもたらされるように設計される。同一性および類似性を決定するための方法は、一般に入手可能なコンピュータプログラムに体系化されている。2つの配列間の%同一性は、NeedelmanおよびWunsch(J.Mol.Biol.、48:443〜453、1970)アルゴリズム(例えば、NBLAST、およびXBLAST)を組み入れた解析ソフトウェア(すなわち、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group、Madison Wis.)を使用することによって決定することができる。初期状態のパラメータを使用して本発明のポリペプチドの同一性を決定する。
例として、ポリペプチド配列は参照配列と同一であってよく、それは100%同一であってよく、または、参照配列と比較して、100%未満の%同一性になるようなある特定の整数までのアミノ酸の変更を含んでよい。そのような変更は、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換(保存された置換および保存されていない置換を含む)、または挿入から選択され、前記変更は、参照ポリペプチド配列のアミノ末端位またはカルボキシ末端位において、またはこれらの末端位の間のどこにおいても、参照配列内のアミノ酸の間に個別に分散して、または参照配列内の1つまたは複数の連続した群に分散して起こり得る。所与の%同一性に対するアミノ酸の変更の数は、参照ポリペプチド内のアミノ酸の総数にそれぞれの%同一性の数値パーセントを掛け(100で割り)、次いでその積を前記参照ポリペプチド内のアミノ酸の総数から引くことによって決定する。
保存されたアミノ酸変異体は、天然に存在しないアミノ酸残基も含んでよい。天然に存在しないアミノ酸としては、トランス−3−メチルプロリン、2,4−メタノプロリン、シス−4−ヒドロキシプロリン、トランス−4−ヒドロキシプロリン、N−メチル−グリシン、アロトレオニン、メチルトレオニン、ヒドロキシ−エチルシステイン、ヒドロキシエチルホモシステイン、ニトロ−グルタミン、ホモグルタミン、ピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、デヒドロプロリン、3−メチルプロリンおよび4−メチルプロリン、3,3−ジメチルプロリン、tert−ロイシン、ノルバリン、2−アザフェニル−アラニン、3−アザフェニルアラニン、4−アザフェニルアラニン、ならびに4−フルオロフェニルアラニンが挙げられるが、これらに限定されない。天然に存在しないアミノ酸残基をタンパク質に組み入れるためのいくつかの方法が当技術分野で知られている。例えば、化学的にアミノアシル化されたサプレッサーtRNAを使用してナンセンス突然変異を抑制する場合にin vitro系を使用することができる。アミノ酸を合成するための方法およびtRNAをアミノアシル化するための方法は、当技術分野で知られている。ナンセンス突然変異を含有するプラスミドの転写および翻訳は、大腸菌S30抽出物ならびに市販の酵素および他の試薬を含む無細胞系において行う。タンパク質はクロマトグラフィーによって精製する。(Robertsonら、(1991)J.Am.Chem.Soc.113:2722;Ellmanら、(1991)Methods Enzymol.202:301;Chungら、Science(1993)259:806〜809、Chungら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:10145〜10149)。第2の方法では、アフリカツメガエルの卵母細胞において、突然変異したmRNAおよび化学的にアミノアシル化されたサプレッサーtRNAのマイクロインジェクションにより翻訳を行う(Turcattiら、(1996)J.Biol.Chem.271:19991〜19998)。第3の方法の中では、大腸菌細胞を、交換される天然のアミノ酸(例えば、フェニルアラニン)の不在下、かつ所望の天然に存在しないアミノ酸(複数可)(例えば、2−アザフェニルアラニン、3−アザフェニルアラニン、4−アザフェニルアラニン、または4−フルオロフェニルアラニン)の存在下で培養する。天然に存在しないアミノ酸がその天然の対応物の代わりにタンパク質に組み込まれる。(Koideら、(1994)Biochem.33:7470〜7476)。天然に存在するアミノ酸残基は、in vitroでの化学的な修飾によって天然に生じない種に変換することができる。化学的な修飾を部位特異的突然変異誘発と組み合わせて、置換の範囲をさらに拡大することができる(Wynnら、(1993)Protein Sci.2:395〜403)。
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指し、これは、修飾されていないRNAもしくはDNAまたは修飾されたRNAもしくはDNAであってよい。したがって、例えば、ポリヌクレオチドとは、本明細書で使用される場合、とりわけ、一本鎖DNAおよび二本鎖DNA、一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖RNAおよび二本鎖RNA、ならびに一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖またはより一般には二本鎖または一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であってよいDNAとRNAとを含むハイブリッド分子を指す。「核酸」、「核酸配列」または「オリゴヌクレオチド」という用語は、上記で定義されたポリヌクレオチドも包含する。
本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドという用語は、1つまたは複数の修飾塩基を含有する上記のDNAまたはRNAを包含する。したがって、安定性のためまたは他の理由で骨格が修飾されたDNAまたはRNAは、本明細書において意図される「ポリヌクレオチド」である。さらに、例を2つだけ挙げると、イノシンなどの普通ではない塩基、またはトリチル化された塩基などの修飾塩基を含むDNAまたはRNAは、本明細書で使用されるところのポリヌクレオチドである。
当業者に既知の、多くの有用な目的に役立つ多種多様の修飾が、DNAおよびRNAに対して行われていることが理解されよう。ポリヌクレオチドという用語は、本明細書で使用される場合、そのような化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態のポリヌクレオチド、ならびに、とりわけ単純な細胞および複雑な細胞を含めたウイルスおよび細胞に特徴的な化学的な形態のDNAおよびRNAを包含する。
例として、本開示のポリヌクレオチド配列は、参照配列と同一であってよく、それは100%同一であってよく、または、参照配列と比較してある特定の整数までのヌクレオチドの変更を含んでよい。そのような変更は、塩基転位および塩基転換、または挿入を含めた少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、置換を含む群から選択され、前記変更は、参照ヌクレオチド配列の5’末端位または3’末端位において、またはそれらの末端位の間のどこにおいてでも、参照配列内のヌクレオチドの中で個別に分散して、または参照配列内の1つまたは複数の連続した群に分散して起こり得る。ヌクレオチドの変更の数は、参照ヌクレオチド内のヌクレオチドの総数にそれぞれのパーセント同一性の数値パーセントを掛け(100で割り)、その積を前記参照ヌクレオチド内のヌクレオチドの総数から引くことによって決定する。ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の変更により、そのような変更に従ってポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドが変更され得る。
本明細書で使用される場合、DNAは任意の方法によって得ることができる。例えば、DNAとは、mRNAから調製された相補DNA(cDNA)、ゲノムDNAから調製されたDNA、化学合成によって調製されたDNA、RNAまたはDNAを鋳型として用いたPCR増幅によって得られたDNA、およびこれらの方法を適切に組み合わせることによって構築されたDNAを包含する。
cDNAは、タンパク質をコードするmRNAから、例えば、下記の方法によってクローニングすることができる。
まず、タンパク質を発現および産生している上記の組織または細胞から、タンパク質をコードするmRNAを調製する。mRNAは、グアニジン−チオシアン酸法(Chirgwinら、Biochemistry、18:5294、1979)、ホットフェノール法、またはAGPC法などの既知の方法によって全RNAを単離し、それをオリゴ−dTセルロースまたはポリUセファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーに供することにより調製することができる。
次いで、鋳型として得られるmRNAを用いて、例えば、逆転写酵素を用いるよく知られた方法、例えば、Okayamaら(Mol.Cell.Biol.2:161(1982);Mol.Cell.Biol.3:280(1983))の方法またはHoffmanら(Gene 25:263(1983))の方法などによってcDNAを合成し、二本鎖cDNAに変換する。cDNAライブラリーを、このcDNAを有するプラスミドベクター、ファージベクター、またはコスミドベクターを用いて大腸菌を形質転換することによって、またはin vitroパッキング後に大腸菌をトランスフェクトすることによって調製する。
本明細書で使用される場合、「単離された核酸」は、構造が、天然に存在する核酸のいずれとも、または4つ以上の遺伝子にわたる天然に存在するゲノム核酸の断片のいずれとも同一ではない核酸である。したがって、この用語は、例えば、(a)天然に存在するゲノムDNA分子の一部の配列を有するが、それが天然に存在する生物体のゲノム内の分子の一部と隣接するコード配列のどちらとも隣接しないDNA;(b)生じる分子が天然に存在するベクターまたはゲノムDNAのいずれとも同一ではないようにベクターまたは原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み入れられた核酸;(c)cDNA、ゲノムの断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって作製される断片、または制限断片などの別々の分子;および(d)ハイブリッド遺伝子、すなわち、融合タンパク質をコードする遺伝子の一部である組換えヌクレオチド配列を包含する。ランダムな、特徴付けられていない異なるDNA分子の混合物、トランスフェクトされた細胞、または細胞クローン、例えば、cDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリーなどのDNAライブラリーにおいて見いだされるものに存在する核酸は、この定義から具体的に排除される。
「実質的に純粋な」という用語は、本明細書で所与のポリペプチドに関して使用される場合、ポリペプチドが他の生物学的な巨大分子を実質的に含まないことを意味する。例えば、実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量で少なくとも75%、80%、85%、95%、または99%純粋である。純度は、当技術分野で既知の任意の適切な標準方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定することができる。
本明細書において使用されるプラスミドベクターは、宿主において複製され、維持される限りは限定されない。宿主において複製され得る任意のファージベクターも使用することができる。一般に使用されるクローニングベクターの例は、pUC19、λgt10、λgt11などである。ベクターを下記の免疫学的スクリーニングに適用する場合、宿主において所望のタンパク質をコードする遺伝子を発現させることができるプロモーターを有するベクターを使用することが好ましい。
cDNAは、例えば、Maniatisら(Molecular Cloning、Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、1.53頁、1989)の方法によってプラスミドに挿入することができる。cDNAは、例えば、Hyunhら(DNA cloning、practical approach、1、49頁(1985))の方法によってファージベクターに挿入することができる。これらの方法は、市販のクローニングキット(例えば、Takara Shuzoの製品)を使用することによって簡単に実施することができる。これにより得られる組換えプラスミドまたはファージベクターを原核生物(例えば、大腸菌株HB101、DH5a、MC1061/P3など)などの適切な宿主細胞に導入する。
プラスミドを宿主に導入するための方法の例は、Molecular Cloning、Laboratory Manual(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、1.74頁(1989))に記載の塩化カルシウム法、塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、リポソーム(lipidsome)法、および電気穿孔法である。ファージベクターは、例えば、ファージDNAをin vitroパッケージング後に成長した宿主に導入する方法によって宿主細胞に導入することができる。in vitroパッケージングは、市販のin vitroパッケージングキット(例えば、StratageneまたはAmershamの製品)を用いて容易に実施することができる。
本明細書に開示されているサイトカイン様AIDタンパク質の刺激に応じてその発現が増大したタンパク質をコードするcDNAの同定は、例えば、2つのcDNAライブラリー、すなわち、刺激された細胞に由来するmRNAから構築されたcDNAライブラリー(テスターcDNAライブラリー)および刺激されていない細胞に由来するmRNAから構築されたcDNAライブラリー(ドライバーcDNAライブラリー)を用いた、抑制PCR作用((1995)Nucleic Acids Res.23:1087〜1088)を利用するサプレッションサブトラクトハイブリダイゼーション(supression subtract hybridization)(SSH)((1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.93:6025〜6030;Anal.Biochem.(1996)240:90〜97)によって行うことができる。
本開示の実施形態は、本発明で使用されるタンパク質をコードするDNAを含む組換えベクターに関する。本明細書に開示されている組換えベクターとして、原核宿主細胞および/または真核宿主細胞のそれぞれにおいて複製または自己増殖を保持することができる限りは、プラスミドベクターおよびファージベクターを含めた任意のベクターを使用することができる。組換えベクターは、タンパク質をコードするDNAを、当技術分野において利用可能な組換え用ベクター(プラスミドDNAおよびバクテリオファージDNA)と、通常の方法によってライゲーションすることによって、容易に調製することができる。
使用される組換え用ベクターの具体例は、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13、およびpUC19などの大腸菌由来のプラスミド、pSH19およびpSH15などの酵母由来のプラスミド、ならびにpUB110、pTP5、およびpC194などのBacillus subtilis由来のプラスミドである。ファージの例は、ラムダファージなどのバクテリオファージ、ならびにレトロウイルス、ワクシニアウイルス、および核多角体病ウイルスなどの動物ウイルスまたは昆虫ウイルス(pVL1393、Invitrogen)である。
「発現ベクター」は、本発明で使用されるタンパク質をコードするDNAを発現させるために、およびタンパク質を産生させるために、有用である。発現ベクターは、タンパク質をコードする遺伝子を種々の原核宿主細胞および/または真核宿主細胞において発現させ、このタンパク質を産生させる限りは限定されない。その例はpMAL C2、pEF−BOS((1990)Nucleic Acids Res.18:5322など)、pME18S pCDNA(Experimental Medicine:SUPPLEMENT、「Handbook of Genetic Engineering」(1992))などである。
細菌、特に大腸菌を宿主細胞として使用する場合、発現ベクターは、一般には、少なくとも、プロモーター/オペレーター領域、開始コドン、タンパク質をコードするDNA、終結コドン、ターミネーター領域、およびレプリコンを含む。
酵母、動物細胞、または昆虫細胞を宿主として使用する場合、発現ベクターは、少なくとも、プロモーター、開始コドン、タンパク質をコードするDNAおよび終結コドンで構成されることが好ましい。発現ベクターは、シグナルペプチドをコードするDNA、エンハンサー配列、タンパク質をコードする遺伝子の5’非翻訳領域および3’非翻訳領域、スプライシングジャンクション、ポリアデニル化部位、選択マーカー領域、およびレプリコンも含んでよい。発現ベクターは、必要であれば、通常使用される遺伝子増幅のための遺伝子(マーカー)も含有してよい。DNAプラスミドを哺乳動物細胞に直接導入してタンパク質を発現させることもできる。
細菌においてタンパク質を発現させるためのプロモーター/オペレーター領域は、プロモーター、オペレーター、およびシャインダルガーノ(SD)配列(例えば、AAGG)を含む。例えば、宿主が大腸菌属(Escherichia)である場合、プロモーター/オペレーター領域は、Trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、tacプロモーターなどを含むことが好ましい。酵母においてタンパク質を発現させるためのプロモーターの例は、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどである。宿主がバチルス属(Bcillus)の場合、プロモーターの例はSL01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどである。宿主が哺乳動物細胞などの真核細胞である場合、プロモーターの例は、SV40由来プロモーター、レトロウイルスプロモーター、熱ショックプロモーターなどであり、SV−40由来プロモーターおよびレトロウイルス由来プロモーターであることが好ましい。当然のことながら、プロモーターは上記の例に限定されない。さらに、エンハンサーを使用することが発現させるために有効である。
好ましい開始コドンは、例えば、メチオニンコドン(ATG)である。
一般に使用される終結コドン(例えば、TAG、TAA、TGA)が終結コドンとして例示されている。通常使用される天然または合成のターミネーターがターミネーター領域として使用される。
「レプリコン」とは、宿主細胞において全DNA配列を複製することができるDNAを意味し、天然のプラスミド、人工的に改変されたプラスミド(天然のプラスミドから調製されたDNA断片)、合成のプラスミドなどを包含する。好ましいプラスミドの例は、大腸菌に対してはpBR322またはその人工的な誘導体(pBR322またはpRSETを適切な制限酵素で処理することによって得られるDNA断片)であり、酵母に対しては、酵母2μプラスミドまたは酵母染色体DNAであり、哺乳動物細胞に対しては、pRSVneo ATCC37198、pSV2dhfr ATCC37145、pdBPV−MMTneo ATCC37224、pSV2neo ATCC37149などである。
当技術分野において通常使用されるエンハンサー配列、ポリアデニル化部位、およびスプライシングジャンクション、例えば、SV40に由来するものなども使用することができる。
通常使用される選択マーカーを通常の方法に従って使用することができる。その例は、テトラサイクリン、アンピシリン、またはカナマイシンなどの抗生物質に対する耐性遺伝子である。
遺伝子増幅のための遺伝子の例は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、グルタミン酸シンターゼ遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子、オルニチンデカルボキシラーゼ遺伝子、ハイグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、アスパラギン酸トランスカルバミラーゼ遺伝子などである。
本発明で使用される発現ベクターは、少なくとも上記のプロモーター、開始コドン、タンパク質をコードするDNA、終結コドン、およびターミネーター領域を連続的かつ環状に連結して適切なレプリコンにすることによって調製することができる。所望であれば、適切なDNA断片(例えば、リンカー、制限部位など)を、通常の方法、例えば、制限酵素を用いた消化またはT4 DNAリガーゼを使用したライゲーションなどによって使用することができる。
HisタグおよびGSTなどのアフィニティータグを配列の末端に付加して、ウエスタンブロットおよびプルダウンアッセイによるタンパク質の精製および認識を容易にすることができる。HAおよびFLAGなどの他のタグの例を付加して構築物のさらなる操作を可能にすることもできる。
本明細書で使用される場合、「形質転換体」は、上記の発現ベクターを宿主細胞に導入することによって調製することができる。
本明細書で使用される場合、「宿主」細胞は、上記の発現ベクターと適合し、形質転換することができる限りは限定されない。その例は、技術分野において通常使用される野生型細胞または人工的に確立された組換え細胞(例えば、細菌(大腸菌属(Escherichia)およびバチルス属(Bcillus))、酵母(サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)など)、動物細胞、または昆虫細胞)などの種々の細胞である。
大腸菌または動物細胞を使用することが好ましい。具体例は、大腸菌株DH5アルファ、TB1、HB101など、マウス由来細胞(COP、L、C127、Sp2/0、NS−1、NIH3T3など)、ラット由来細胞(PC12、PC12h)、ハムスター由来細胞(BHK、CHOなど)、サル由来細胞(COS1、COS3、COS7、CV1、Veloなど)、ならびにヒト由来細胞(Hela、二倍体の線維芽細胞由来細胞、骨髄腫細胞、およびHepG2など)である。
発現ベクターは、既知の方法によって宿主細胞に導入(形質転換(トランスフェクト))することができる。形質転換は、例えば、宿主が細菌(大腸菌、Bacillus subtilisなど)である場合はCohenら((1972)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.69:2110)の方法、プロトプラスト法((1979)Mol.Gen.Genet.168:111)、またはコンピテント法((1971)J.Mol.Biol.56:209)、宿主がSaccharomyces cerevisiaeである場合はHinnenら((1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.75:1927)の方法、またはリチウム法((1983)J.Bacteriol.153:163)、宿主が動物細胞である場合にはGraham((1973)Virology52:456)の方法、宿主が昆虫細胞の場合にはSummersら((1983)Mol.Cell.Biol.3:2156〜2165)の方法に従って実施することができる。
本明細書に開示されているタンパク質は、上記の通り調製した発現ベクターを含む形質転換体(以下、この用語はトランスフェクタントを包含する)を栄養培地で培養することによって作製することができる。
栄養培地は、宿主細胞(形質転換体)の成長に必要な炭素供給源、無機または有機の窒素供給源を含むことが好ましい。炭素供給源の例はグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、およびスクロースであり、無機または有機の窒素供給源の例はアンモニウム塩、硝酸、アミノ酸、コーンスチープリカー、ペプトン、カゼイン、肉抽出物、ダイズ粕、およびジャガイモ抽出物である。所望であれば、栄養培地は、他の栄養分(例えば、無機塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、および塩化マグネシウム)、ビタミン、抗生物質(例えば、テトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシンなど)を含んでよい。
細胞系統の培養は当技術分野で既知の方法によって実施する。温度、培地のpH、および培養時間などの培養条件は、タンパク質が多量に産生されるように適切に選択する。
当業者に既知の、多くの有用な目的に役立つ多種多様の修飾が、DNAおよびRNAに対して行われていることが理解されよう。ポリヌクレオチドという用語は、本明細書で使用される場合、そのような化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態のポリヌクレオチド、ならびに、とりわけ、単純な細胞および複雑な細胞を含めたウイルスおよび細胞に特徴的な、化学的な形態のDNAおよびRNAを包含する。
例として、本開示のポリヌクレオチド配列は参照配列と同一であってよく、それは100%同一である、または、参照配列と比較してある特定の整数までのヌクレオチドの変更を含んでよい。そのような変更は、塩基転位および塩基転換、または挿入を含めた少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、置換を含む群から選択され、前記変更は、参照ヌクレオチド配列の5’末端位または3’末端位において、またはそれらの末端位の間のどこにおいてでも、参照配列内のヌクレオチドの中で個別に分散して、または参照配列内の1つまたは複数の連続した群に分散して起こり得る。ヌクレオチドの変更の数は、参照ヌクレオチド内のヌクレオチドの総数にそれぞれのパーセント同一性の数値パーセントを掛け(100で割り)、その積を前記参照ヌクレオチド内のヌクレオチドの総数から引くことによって決定する。ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の変更により、そのような変更に従ってポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドが変更され得る。
「コドン」という用語は、アミノ酸または終結シグナルを構成するDNA鎖またはmRNA内のモノヌクレオチドの特定のトリプレットを意味する。
「変性ヌクレオチド配列」という用語は、1つまたは複数の変性コドンを含む(ポリペプチドをコードする参照ポリヌクレオチド分子と比較して)ヌクレオチドの配列を意味する。変性コドンは、異なるヌクレオチドのトリプレットを含有するが、同じアミノ酸残基をコードする(例えば、GAUトリプレットおよびGACトリプレットはそれぞれAspをコードする)。
本明細書で使用される場合、「外因性DNA」または「外因性核酸配列」または「外因性ポリヌクレオチド」という用語は、外部の供給源から細胞または細胞小器官に導入された核酸配列を指す。一般には、導入された外因性配列は組換え配列である。
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、核酸配列を生細胞の膜に囲まれた空間の内部に導入することを指し、核酸配列を細胞の細胞質ゾル、ならびにミトコンドリア、核または葉緑体の内部空間に導入することを含む。核酸は、種々のタンパク質を伴う裸のDNAまたはRNAの形態であってよく、または核酸は、ベクターに組み入れられていてよい。
「DNA調節配列」とは、本明細書で使用される場合、宿主細胞におけるコード配列の発現をもたらし、かつ/または調節するプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、終結シグナルなどの、転写制御配列および翻訳制御配列である。
「プロモーター配列」は、細胞においてRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始させることができるオペロン内のDNA調節領域である。プロモーター配列は、その3’末端に転写開始部位が結合し、バックグラウンドを超えて検出可能なレベルで、転写を開始するために必要な最小数の塩基またはエレメントを含むように上流(5’方向)に伸長する。プロモーター配列内に転写開始部位、ならびにRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメインが見い出される。真核生物のプロモーターは、多くの場合、常にではないが、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含有する。誘導性プロモーターを含めた種々のプロモーターを使用して、本開示の種々のベクターを駆動することができる。
「キメラ」、「融合」および「複合体」という用語は、そうでなけれは天然では直接(共有結合的に)連結しては見い出されないという意味で互いに異種性である、少なくとも2つの構成部分を含有するタンパク質、ペプチドドメインまたはヌクレオチド配列または分子を示すために使用される。より詳細には、構成部分は、天然では同じ連続的なポリペプチドまたは遺伝子において、少なくとも、同じ順序または配向では、またはキメラタンパク質または複合体ドメインに存在するのと同じ間隔では見い出されない。そのような材料は、少なくとも2つの異なるタンパク質または遺伝子に由来する、または同じタンパク質または遺伝子の少なくとも2つの隣接しない部分に由来する成分を含有する。複合体タンパク質、およびそれをコードするDNA配列は、そうでなければ天然では直接連結して(共有結合的に)は見いだされない少なくとも2つの構成成分を含有するという意味で組換え型である。
「ドメイン」という用語は、この場合は、単一の別個の折り畳みドメインに限定されるものではない。
「レポーターポリヌクレオチド」とは、RNAまたはレポーターポリペプチドであってよい検出可能な遺伝子産物を発現する任意の遺伝子を包含する。レポーター遺伝子は、転写産物および/または翻訳産物が容易に検出可能または選択可能なコード配列を含む。
「挿入」または「付加」とは、本明細書で使用される場合、対応する天然に存在する分子と比較して、それぞれ、1つまたは複数のアミノ酸残基またはヌクレオチド残基の付加または挿入をもたらすアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の変化を指す。
「欠失」または「サブトラクション」とは、本明細書で使用される場合、対応する天然に存在する分子と比較して、それぞれ、1つまたは複数のアミノ酸残基またはヌクレオチド残基の欠失またはサブトラクションをもたらすアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の変化を指す。
「置換」とは、本明細書で使用される場合、1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチドの、それぞれ、異なるアミノ酸またはヌクレオチドとの交換を指す。
「突然変異」とは、参照「野生型」DNA配列と比較した、DNA配列における遺伝性の変化である。突然変異は、一塩基の変化、多塩基の変化、またはDNA配列への2つ以上のヌクレオチドの付加または欠失の結果として起こり得る。
「突然変異体」という用語は、参照野生型タンパク質と何らかの違いがあるタンパク質を指すために広範に使用され、タンパク質は参照野生型(例えば、天然に存在する)タンパク質の生物学的特性を保持してよく、または参照野生型タンパク質とは異なる生物学的特性を有してもよい。対象タンパク質の「生物学的特性」という用語は、最大発光、量子収率、および輝度などのスペクトル特性;in vivoおよび/またはin vitroにおける安定性(例えば、半減期)などを包含する(それだけに限られない)。突然変異体は、単一のアミノ酸の変化(点突然変異)、1つまたは複数のアミノ酸の欠失(点欠失)、N末端の切断、C末端の切断、挿入などを含んでよい。突然変異体は分子生物学の標準の技法を使用して生成することができる。
「遺伝子突然変異」とは、完全に1つの遺伝子内で、またはその上流の調節配列で起こる突然変異を指し、完全に1つの遺伝子内で起こる点突然変異または他の通常の染色体の構造の破壊のいずれかを包含し得る。
「野生型」株には、あらゆる範囲の代謝活性の能力がある。例えば、サルモネラ属(Salmonella)の野生型株は、20種のアミノ酸すべてを単一の炭素供給源から合成することができる。
「突然変異体」株には、それが由来する野生型株の活性のすべての能力はない。例えば、アミノ酸ヒスチジンを合成する能力が不完全である突然変異細菌株(his株)が増殖するためには外因性ヒスチジンが存在する必要がある。
「点突然変異」は、DNA配列内の1つまたは少数の塩基対の変化である。点突然変異は、塩基対の置換、または、わずかな挿入もしくは欠失に起因し得る。
「塩基転位」は、プリンがプリンと交換されるか、またはピリミジンがピリミジンと交換される点突然変異である。
「塩基転換」は、プリンがピリミジンと交換されるか、ピリミジンがプリンと交換される点突然変異である。一般的に言えば、塩基転位は校正酵素により検出されないので、塩基転換よりも一般的である。
あるいは、点突然変異により、終止コドン(アンバー、オーカー、オパール)の挿入によって生じるナンセンス突然変異もまた、引き起こされ得る。翻訳終止コドンを生成する塩基対突然変異により、コードされるタンパク質の翻訳の中途終結が引き起こされる。
「フレームシフト突然変異」は、遺伝子内の1つまたは複数のヌクレオチドの挿入または欠失により生じる。遺伝子の「読み枠」とは、mRNAの翻訳の出発点に基づく塩基の順序を指す。単一の塩基対が欠失することにより、すべてのコドンの1つの塩基が前に進み、これは多くの場合、正のフレームシフトと称される。1つの塩基対が付加されること(または、2つの塩基対が損失すること)により、読み枠が1つの塩基分後ろにシフトし、これは多くの場合、負のフレームシフトと称される。
本明細書で使用される場合、「ハイブリダイゼーション」という用語は、2つの核酸鎖が会合して、向かい合った核酸鎖の残基間の水素結合によって安定化された逆平行の2重鎖を形成するプロセスを指す。
「ハイブリダイズすること」と「結合」は、ポリヌクレオチドに関しては互換的に使用される。「特異的にハイブリダイズすること」および「特異的なハイブリダイゼーション」および「選択的にハイブリダイズする」という用語は、本明細書で使用される場合、核酸分子がストリンジェントな条件下で特定のヌクレオチド配列と優先的に結合すること、二重鎖形成すること、またはハイブリダイズすることを指す。
「ストリンジェントなアッセイ条件」という用語は、本明細書で使用される場合、アッセイにおいて所望のレベルの特異度をもたらすために十分な相補性の核酸の結合対、例えば、表面結合および液相核酸の産生には適合するが、所望の特異度をもたらすためには相補性が不十分である結合メンバー間の結合対の形成に対しては適合性が低い条件を指す。ストリンジェントなアッセイ条件は、ハイブリダイゼーション条件と洗浄条件の総和または組み合わせ(全体)である。
本開示によると、本開示のセンサーの「検出可能量」は、臨床使用のために利用可能な装置を用いて許容できる画像をもたらすために十分な量と定義される。検出可能量の本開示のセンサーは、2回以上の注射により投与することができる。本開示のセンサーの検出可能量は、個体の感受性の程度、個体の年齢、性別、および体重、個体の特異体質的応答、用量測定値などの因子に応じて変動し得る。本開示のセンサーの検出可能量は、計器およびフィルムに関連する因子によっても変動し得る。そのような因子の最適化は、十分に当業者のレベルの範囲内である。
「投与」とは、本開示のセンサーを対象に導入することを意味する。センサーの好ましい投与経路は静脈内である。しかし、経口、局部、皮下、腹膜内、動脈内、吸入、膣内、直腸内、鼻内、脳脊髄液への導入、または体の区画への滴下注入などの任意の投与経路を使用することができる。
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、天然に存在するポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体、または宿主細胞とは異なる環境にあるポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体、または宿主細胞について説明するものである。
本明細書で使用される場合、「タンパク質のベータカン(beta−can)構造」という句は、逆平行のベータ鎖で形成された小型の円柱として特徴付けられるタンパク質を指す。
「蛍光タンパク質」とは、適切な電磁気照射で励起されると光を放出することができる任意のタンパク質を指す。蛍光タンパク質は、天然または工学的に作製されたアミノ酸配列を有するタンパク質、例えばAequorea関連蛍光タンパク質に由来する蛍光タンパク質などを包含する。「蛍光タンパク質」とは、本明細書で使用される場合、Aequorea victoria緑色蛍光タンパク質(GFP)、GFPの構造変異体(すなわち、環状の円順列変異体(permutant)、単量体型)、GFPの折り畳み変異体(すなわち、より可溶型、スーパーフォルダー(superfolder)型)、GFPのスペクトル変異体(すなわち、YFP、CFP)、およびGFP様蛍光タンパク質(すなわち、DsRedおよびmcherry)である。蛍光タンパク質は、異なる資源由来であってよい。ヒドロ虫綱(Hydrozoa)クラスについては、GFPはAequorea victoria、Mitrocoma(Halistauraとシノニム)、Obelia、Phialidiumなど由来であってよい。花虫綱(Anthozoa)クラスについては、GFPは、Acanthopilum、Cavernularia、Renilla、PtilosarcusおよびPennatula、Stylatulaなど由来であってよい。本発明者らは、Anemonia majna由来のGFP様タンパク質、Anemonia sulcata由来のFP595、Zoanthus由来のFPなども有する。「GFP様蛍光タンパク質」という用語は、GFPの11−ベータ鎖「バレル」構造を共有する花虫綱(Anthozoa)蛍光タンパク質のメンバー、ならびにその構造変異体、折り畳み変異体およびスペクトル変異体を指すために使用される。「GFP様非蛍光タンパク質」および「GFP様クロモフォアタンパク質」(または、単に「クロモフォアタンパク質」または「色素タンパク質」)という用語は、GFPの11−ベータ鎖「バレル」構造を共有する花虫綱(Anthozoa)クロモフォアタンパク質およびヒドロ虫綱(Hydrozoa)クロモフォアタンパク質、ならびにその構造変異体、折り畳み変異体およびスペクトル変異体を指すために使用される。GFP様タンパク質はすべて、分子状酸素以外に、付帯的な補因子、外部の酵素の触媒作用または基質を必要とすることなく内部のクロモフォアを形成する能力を(制限なく)含めた、共通の構造特性および機能特性を共有する。
分子内の再配置または蛍光を促進する補因子の付加に起因して蛍光を放出するタンパク質を含めた種々の蛍光タンパク質を本開示において使用することができる。例えば、刺胞動物の生物発光におけるエネルギー転移アクセプターとしての機能を果たす刺胞動物の緑色蛍光タンパク質が、蛍光指標において使用するために適した蛍光タンパク質である。緑色蛍光タンパク質(「GFP」)は、緑色の光を放出するタンパク質であり、青色蛍光タンパク質(「BFP」)は、青色の光を放出するタンパク質である。GFPは太平洋岸北西部のクラゲAequorea victoria;ウミシイタケRenilla reniformis、Phialidium gregariumから単離されている(Wardら、(1982)Photochem.Photobiol.35:803〜808およびLevineら、(1982)Comp.Biochem.Physiol.、72B:77〜85を参照されたい)。赤色蛍光タンパク質であるmCherryは587nmにおける励起波長および610nmにおける最大発光を有する(Shaner、N.C.ら、(2004)Nat.Biotech.)。
有用な励起および発光スペクトルを有する種々のAequorea関連GFPが、Aequorea victoria由来の天然に存在するGFPのアミノ酸配列を改変することによって工学的に作製されている。Prasherら、(1992)Gene111:229〜233;Heimら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.、USA91:12501〜12504;米国特許出願第08/337,915号、1994年11月10日出願;国際出願第PCT/US95/14692号、1995年11月10日出願;および米国特許出願第08/706,408号、1996年8月30日出願を参照されたい。GFPのcDNAは多くの他のタンパク質をコードするcDNAと鎖状につながっている可能性があり、生じる融合物は多くの場合、蛍光性であり、パートナータンパク質の生化学的特徴を保持する。Cubittら、(1995)Trends Biochem.Sci.20:448〜455を参照されたい。突然変異誘発研究により、励起または発光の波長がシフトしたGFP突然変異体が作製された。Heim&Tsien(1996)Current Biol.6:178〜182を参照されたい。適切な対、例えば青色−シフトGFP突然変異体P4−3(Y66H/Y145F)および改善された緑色突然変異体S65Tは、それぞれ、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)のドナーおよびアクセプターとして機能し得る。Tsienら、(1993)Trends Cell Biol.3:242〜245を参照されたい。蛍光タンパク質は、蛍光タンパク質の150アミノ酸の連続した配列のいずれかが、野生型Aequorea緑色蛍光タンパク質由来の連続した、または連続していないアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有するAequorea関連蛍光タンパク質である。蛍光タンパク質は、蛍光タンパク質の200アミノ酸の連続した配列のいずれかが、野生型Aequorea緑色蛍光タンパク質由来の連続した、または連続していないアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するAequorea関連蛍光タンパク質であることがより好ましい。同様に、蛍光タンパク質は、同じ基準を用いて、Renilla野生型蛍光タンパク質またはPhialidium野生型蛍光タンパク質に関連するものであってよい。
本開示の実施形態において使用される、F64LおよびS65において2つの突然変異を有するGFPの変異体は高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を含む。そのクロモフォアは、488nmにおいて最大励起を有し、510nmにおいて最大発光を有する。その蛍光シグナルはこれらの2つの突然変異を有さない野生型GFPの蛍光シグナルを有意に超える。
別のGFPの変異体はCycle3と称されている(参照により本明細書に包含されるPattersonら、(1997)Biophys.J.73:2782〜2790を参照されたい)。野生型GFPにおけるF99S、M153TおよびV163Aの突然変異を有するこのGFP変異体は、折り畳みが改善されており、37℃以上でクロモフォアが形成される。
他の蛍光タンパク質、例えば、Vibrio fischeri株Y−1由来の黄色蛍光タンパク質、渦鞭毛藻類Symbiodinium種由来のペリジニン−クロロフィルa結合タンパク質、シネコッカス属(Synechococcus)などの海洋のシアノバクテリア由来のフィコビリタンパク質、例えば、フィコエリトリンおよびフィコシアニン、またはフィコエリスロビリンを用いて再構築されたエンバク由来のエンバクフィトクロムなどを蛍光指標に使用することができる。これらの蛍光タンパク質は、Baldwinら、(1990)Biochemistry29:5509〜5515、Morrisら、(1994)Plant Mol.Biol.、24:673〜677、およびWilbanksら、(1993)J.Biol.Chem.268:1226〜1235、およびLiら、(1995)Biochemistry34:7923〜7930に記載されている。
本明細書で使用される「連結する」という用語は、物理的な連結ならびに生物学的粒子、例えば、ファージ、細菌、酵母または他の真核細胞内に共存することによって起こる連結を指す。
対象のポリペプチドの発現をコードする配列を有する細胞にトランスフェクトするために使用される核酸は、一般に、ポリペプチドの発現をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結した発現制御配列を含む発現ベクターの形態である。ポリペプチドの「発現をコードするヌクレオチド配列」という用語が使用される場合、mRNAが転写され、翻訳されるとポリペプチドを産生する配列を指す。これは、例えば、イントロンを含有する配列を包含し得る。本明細書で使用される場合、「発現制御配列」という用語は、それが作動可能に連結している核酸配列の発現を調節する核酸配列を指す。発現制御配列は、発現制御配列により、核酸配列の転写、および必要に応じてその翻訳が制御および調節される場合に、核酸配列に作動可能に連結している。したがって、発現制御配列は、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子の前の開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、適切なmRNAの翻訳を可能にするためのその遺伝子の正確な読み枠の維持、および終止コドンを含んでよい。
当業者によく知られた方法を用いて、蛍光指標のコード配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法としては、in vitro組換えDNA技法、合成法およびin vivo組換え/遺伝子組換えが挙げられる(例えば、Maniatisら、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、N.Y.、1989に記載の技法を参照されたい)。
種々の宿主−発現ベクター系を利用して、生物発光の指標のコード配列を発現させることができる。これらとしては、カルシウム感受性系配列を含有する組換えバクテリオファージDNA発現ベクター、プラスミドDNA発現ベクターまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌などの微生物;カルシウム感受性系配列を含有する組換え酵母発現ベクターで形質転換した酵母;組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)を感染させた、または組換えプラスミド発現ベクター(例えば、カルシウム感受性系配列を含有するTiプラスミドベクター)で形質転換した植物細胞系;カルシウム感受性系配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)ベクターを感染させた昆虫細胞系;または、組換えウイルス発現ベクター(例えば、カルシウム感受性系配列を含有するレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターを感染させた形質転換した動物細胞系、または安定発現のために工学的に作製された形質転換動物細胞系が挙げられる(それだけに限られない)。
利用する宿主/ベクター系に応じて、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含めたいくつもの適切な転写エレメントおよび翻訳エレメントの任意のものを発現ベクターにおいて使用することができる(例えば、Bitterら、Methods in Enzymology 153:516〜544、1987)を参照されたい。例えば、細菌系におけるクローニングの場合、誘導性プロモーター、例えば、バクテリオファージlamda、plac、ptrp、ptacのpL(ptrp−lacハイブリッドプロモーター)などを用いることができる。哺乳動物細胞系におけるクローニングの場合、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、レトロウイルスの長い末端反復;アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を用いることができる。組換えDNAまたは合成法によって作製されるプロモーターは、挿入された蛍光指標のコード配列の転写をもたらすためにも用いることができる。
細菌系では、いくつもの発現ベクターを、カルシウム感受性系を対象とする使用に応じて有利に選択することができる。
酵母では、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含有するいくつものベクターを用いることができる。概説については、Current Protocols in Molecular Biology、2巻、Ausubelら編、Greene Publish.Assoc.&Wiley Interscience、Ch.13、1988;Grantら、Expression and Secretion Vectors for Yeast、in Methods in Enzymology、Wu&Grossman編、31987、Acad.Press、N.Y.、153巻、516〜544頁、1987;Glover、DNA Cloning、II巻、IRL Press、Wash.、D.C.、Ch.3、1986、Bitter、Heterologous Gene Expression in Yeast、Methods in Enzymology、Berger&Kimmel編、Acad.Press、N.Y.、152巻、673〜684頁、1987、The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces、Strathernら編、Cold Spring Harbor Press、I巻およびII巻、1982を参照されたい。酵母の構成的プロモーター、例えば、ADHまたはLEU2など、または誘導性プロモーター、例えば、GALなどを用いることができる(Cloning in Yeast、Ch.3、R.Rothstein In:DNA Cloning、11巻、Practical Approach、DM Glover編、IRL Press、Wash.、D.C.、1986)。あるいは、酵母染色体への外来DNA配列の組み込みを促進するベクターを用いることができる。
突然変異アッセイ系を発現させるために用いることができる代替の発現系は、昆虫系である。1つのそのような系では、Autographa californica核多角体病 ウイルス(AcNPV)を、外来遺伝子を発現させるためのベクターとして使用する。このウイルスは、Spodoptera frugiperda細胞において成長する。カルシウム感受性系配列をウイルスの非必須領域(例えば、ポリヘドリン遺伝子)にクローニングし、AcNPVプロモーター(例えば ポリヘドリンプロモーター)の制御下に置くことができる。カルシウム感受性系配列の上首尾の挿入により、ポリヘドリン遺伝子が不活化され、非閉塞組換えウイルス(すなわち、ポリヘドリン遺伝子によりコードされるタンパク質被膜を欠くウイルス)が産生される。次いで、これらの組換えウイルスを使用して、挿入された遺伝子を発現させるSpodoptera frugiperda細胞を感染させる。Smithら、J.Viol.46:584、1983;Smith、米国特許第4,215,051号を参照されたい。
本開示の突然変異アッセイ系をコードするDNA配列は、DNAを適切な宿主細胞に移行させることにより、in vitroで発現させることができる。「宿主細胞」はベクターが繁殖し、そのDNAを発現させることができる細胞である。この用語は、対象宿主細胞の任意の後代も包含する。複製の間に突然変異が起こり得るので、すべての後代が親細胞と同一であるわけではないことが理解される。しかし、そのような後代は、「宿主細胞」という用語が使用される場合、それに含まれる。安定な移行、言い換えれば、外来DNAを宿主において連続的に維持する方法は、当技術分野で知られている。
「物理的な連結」とは、介在性ドメインを伴うかまたは伴わない組換え融合、インテイン媒介性融合、非共有結合性の会合、共有結合(例えば、ジスルフィド結合および他の共有結合)、水素結合;静電気的な結合、配座結合、例えば、抗体−抗原会合、およびビオチン−アビジン会合を(制限なく)含めた、2つの分子を機能的に接続する(2つの分子は「物理的に連結した」と称される)ための、当技術分野で既知の任意の方法を指す。
「融合した」とは、共有結合により連結していることを指す。
本明細書で使用される場合、「細胞小器官」という用語は、葉緑体、ミトコンドリア、および核などの細胞膜に結合した構造を指す。「細胞小器官」という用語は、天然の細胞小器官および合成の細胞小器官を包含する。
本明細書で使用される場合、「非核細胞小器官」という用語は、細胞に存在する、核以外の任意の細胞膜に結合した構造を指す。
本明細書で使用される場合、「宿主」または「生物体」という用語は、ヒト、哺乳動物(例えば、ネコ、イヌ、ウマなど)、生細胞、および他の生きている生物体を包含する。生きている生物体は、例えば単一の真核細胞のように単純であってよく、または哺乳動物のように複雑であってよい。本開示の実施形態を投与することができる典型的な宿主は哺乳動物、特に霊長類、特にヒトである。獣医学への適用については、多種多様な対象、例えば、家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタなど;家禽、例えば、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウなど、家畜動物、特に愛玩動物、例えば、イヌおよびネコなどが適切である。診断または研究への適用については、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター)、ウサギ、霊長類、およびブタ、例えば、純系のブタなどを含めた多種多様な哺乳動物が適切な対象である。さらに、in vitroにおける適用、例えば、in vitroにおける診断および研究への適用については、上記の対象の体液および細胞試料、例えば、哺乳動物(特に、ヒトなどの霊長類)の血液試料、尿試料、もしくは組織試料、または獣医の適用に関して言及した動物の血液試料、尿試料、もしくは組織試料などが使用に適している。
「分析物」は、タンパク質またはペプチドに結合させることができる原子、分子またはイオンである。分析物は、可逆的または不可逆的に結合してよく、そのような結合は共有結合性または非共有結合性であってよい。本開示の好ましい実施形態では例示的な分析物としてCa2+、Ln3+およびPb2+が使用されているが、本開示に適する分析物は、IIA族金属イオン、遷移金属イオン、およびランタニド系列イオンを含めた金属イオンを包含する(それだけに限られない)ことが理解される。
「分析物」は、タンパク質に結合させてセンサーの光学特性を変化させることができるH+またはOH−であってもよい。「結合部位」とは、分析物との結合の形成に関与するペプチドまたはタンパク質の任意の区域を指す。
「結合モチーフ」は、多くの場合、より大きなタンパク質の中の結合部位の一部である。結合部位という用語は、結合モチーフという用語と互換的に使用することができ、逆もまた同じである。
「化学反応」は、既知の手段によるイオン性、共有結合性、または非共有結合性の構造の形成または解離を含んでよい。化学反応は、pH、イオン強度、および温度などの環境条件の変化を含んでよい。
「コンフォメーション」は、分子の側基を含めた、分子の一次構造、二次構造、および三次構造、およびいくつかの場合には分子の四次構造の三次元の配置であり、分子の三次元構造が変化するとコンフォメーションの変化が起こる。コンフォメーションの変化は、アルファヘリックスからベータ−シートへのシフトまたはベータ−シートからアルファヘリックスへのシフトであってよい。
「検出可能な変化」または「反応性」とは、タンパク質の、その微小環境に対する任意の反応を意味する。そのような検出可能な変化または反応性は、センサーポリペプチドのアミノ酸またはペプチド断片の配向の小さな変化またはシフト、ならびに、例えば、プロトン化、電気ポテンシャルおよび化学ポテンシャルならびに/またはコンフォメーションの変化を含めた、ポリペプチドの一次構造、二次構造、または三次構造、およびいくつかの場合にはポリペプチドの四次構造の変化であってよい。
活性な状態と不活性な状態の間の任意の蛍光特性の「測定可能な差異」が、活性についてのアッセイにおける本開示の蛍光タンパク質基質の有用性のために十分である。測定可能な差異は、任意の定量的蛍光特性の量、例えば、特定の波長における蛍光シグナルまたは放出スペクトルに対する蛍光の積分を測定することによって決定することができる。
「作動的に挿入された」または「連結した」とは、そのように記載された成分が、それらの意図された様式で機能することが可能になる関係にある近位を指す。コード配列に作動可能に連結した制御配列は、コード配列の発現が制御配列と適合する条件下で実現されるようにライゲーションされている。
「反応する」とは、ポリペプチドまたはタンパク質の、分析物との相互作用に対する任意の反応を包含するものとする。
「蛍光の寿命」とは、フルオロフォアシグナルの強さではなく、その寿命を指す。蛍光の寿命は、蛍光試料からの蛍光の指数関数的な減衰速度の差異に基づいて画像を作製するための画像化技法である蛍光寿命画像化顕微鏡法(FLIM)を使用して測定することができる。これは、共焦点顕微鏡法、二光子励起顕微鏡法、および多光子断層撮影法における画像化技法として用いることができる。蛍光の寿命を測定することには、試料の厚い層における光子の散乱の影響が最小化されるという利点がある。
(説明)
分析物センサー、分析物センサーを作製および使用するための方法、分析物の活性を検出および/もしくは測定し、pHの変化を検出し、かつ/または系における分析物の濃度を制御する方法が開示されている。本開示による分析物センサーの実施形態は、in vivo環境およびin vitro環境の両方において、特に生細胞画像化において、分析物の活性を特徴付けるため、pHの変化を検出するため、系における分析物の濃度を制御するためなどの、正確かつ便利な方法を提供することができる。
Ca2+は、多数の生物学的プロセスを、細胞質ゾルCa2+濃度の時空間的変化およびその後のCa2+ 結合タンパク質との相互作用を通じて調節する。小胞体(ER)は、細胞内Ca2+貯蔵所としての機能を果たし、細胞質ゾルCa2+ の恒常性において重要な役割を果たす。特定の細胞内環境において、それ自体が細胞におけるシグナル伝達分子として関与する天然のCa2+結合タンパク質、例えばカルモジュリンなどを用いることなく、リアルタイムの定量的なCa2+測定をすることができるCa2+センサーを開発する強い必要性がある。そのようなセンサーを、Ca2+結合モチーフを緑色蛍光タンパク質内のクロモフォア感受性位置に組み込むことによって創出するための戦略が開示されている。工学的に作製されたCa2+センサーは、Ca2+がERにおいて見い出されるCa2+濃度に対応する親和性(0.4〜2mMにわたるKd値)で結合すると、大きなレシオメトリックな蛍光および吸収の変化を示す。新しく開発されたCa2+センサーの光学的な結合特性および金属結合特性を種々の分光法を用いて特徴付けることに加えて、ストップフロー分光蛍光分析を用いて動力学的特性も検査して、動的なCa2+の変化の正確なモニタリングを確実にした。開発されたCa2+センサーを哺乳動物細胞系のERにターゲティングして、アゴニストを用いた刺激に反応してこの区画で起こるCa2+の変化をモニターした。このクラスのCa2+センサーは、他の細胞区画内のCa2+を測定するためにさらに改変し、それにより、細胞のCa2+シグナル伝達に対するこれらの区画の寄与を試験するためのツールをもたらすことができると考えられる。
EGFPに基づくCa2+センサーを、連続的なCa2+結合部位を有するEF−ハンドモチーフを野生型EGFPに足場タンパク質として移植することによって首尾よく創出した[35]。生成したCa2+センサー(G1)は398nmおよび490nmにおいて励起させると二重の510nmの蛍光強度レシオメトリック変化を示し、それをモニターしてCa2+の濃度を決定した。哺乳動物細胞画像化における動的範囲は相対的に小さい(僅か10〜15%の変化)が、この研究は、Ca2+に誘導されるコンフォメーションの変化を導入することによりGFPクロモフォアを変更することができるという仮説を強力に支持する。部位特異的突然変異誘発によるCa2+センサーの利点は以下の通り列挙される。1)EGFPの表面上にCa2+結合部位を直接設計することにより、それのクロモフォアとの距離が移植アプローチよりも短ければ、より大きな動的範囲のシグナルの変化が創出されると推測される。これは、GFPの表面とクロモフォアとの間の最短距離はおよそ10Åだけであるが、移植されたEF−ハンドに結合したCa2+はクロモフォアに対して30Å超離れてクロストークすることによる。この新しい戦略は、クロモフォアに対してより直接的な影響を有し得る。2)EGFP(野生型GFPのS65T突然変異体)は生理的条件下で安定であり、無毒性であり、かつ頑強な光学的な蛍光を示すので、本発明者らはそれを足場タンパク質として選択した[36]。折り畳みが不十分であると蛍光強度が低いことに起因して細胞画像化が不適格になるだけでなく、Ca2+結合部位の機能障害もが引き起こされるので、足場タンパク質においてcycle2突然変異(M153G、V163A)[37]を創出して、高い温度におけるタンパク質の折り畳み効率を改善した。野生型GFPは深く冷たい海中に住むAequor Jellyfishによりコードされるので、哺乳動物細胞の生理的温度は不都合に高い。3)CD2に基づくCa2+ 結合タンパク質設計の成功[38]に従って、異なるCa2+結合親和性を有するタンパク質を、局所的な負荷電配位リガンドに由来する結合部位の静電ポテンシャルを交番させることによって容易に開発することができる。4)設計されたGFPに基づくCa2+センサーは、異なるシグナルペプチドと融合することによって種々の細胞の細胞小器官または組織に特異的にターゲティングすることができる。5)設計されたGFPに基づくCa2+センサーは、現在報告されている天然のCa2+結合タンパク質に基づくCa2+センサーの、Ca2+シグナル伝達の攪乱に起因する制限[39]を克服することができる。さらに、本発明者らは、クロモフォアの環境およびクロモフォアのコンフォメーションの変化に影響を及ぼす特定の分子の機構を探究するために、核磁気共鳴分析を行うことを提案する。これにより、多様な分子を検出するGFPに基づくバイオセンサーを開発することについての確かな理論的な証拠がもたらされる。
GFPの表面上に部位特異的突然変異誘発によってCa2+結合部位を設計することの理論的根拠:図1は、以下の考察に基づいてEGFP中に設計したCa2+センサーを示す(7E15.EGFP)。第1に、このCa2+結合部位を設計して、側鎖カルボキシル酸素が五角両錐形状に配向された5つの負荷電残基によって形成される、CD2における7E15のCa2+結合部位を模倣して、同様のCa2+結合親和性を可能にした。第2に、タンパク質の折り畳みに対する突然変異の耐容能を考慮して蛍光強度の攪乱を回避した。本発明者らは、この部位を公開された論文に従って選択し、この領域の周囲の3つのかさのある芳香族残基を正に荷電した残基に突然変異させて、二量体の形成を妨げた[40]。第3に、蛍光は、クロモフォアを溶媒に曝露させることによって消光される傾向があるので、クロモフォアの溶媒接近可能性、特に位置によって蛍光感度スポットを決定した。Richmondにより、残基204および147の部位特異的突然変異誘発による、10〜100μMのCu2+に反応して40%超の蛍光が消光されるCu2+指標が報告され[41]、これにより、この領域の周辺への高い水の接近可能性が実証されている。本発明者らは、側鎖電荷の反発により逆平行ベータシート間の水素結合を弱めるために、この領域周辺の5つの負荷電残基すべてを適用した。第4に、クロモフォアとカルシウム結合部位の間の幾何学的距離(geological distance)は、Ca2+とクロモフォアの相互作用が最大であると最小になる。クロモフォアを有し水素ネットワークに関与するいくつかの残基、例えば222および203などが、この領域内に圧縮された最短距離を有することが報告された。
本開示による分析物センサーの実施形態は、蛍光ホストポリペプチドと、分析物(例えば、カルシウム(もしくは本明細書において示されている他の金属)またはその微小環境におけるカルシウムのフラックス)と相互作用する分子認識モチーフとを含む。分析物が分子認識モチーフと相互作用すると、分析物センサーにより、分析物に曝露されている間に生じる光学的に検出可能なシグナルが生成される(または、光学的に検出可能なシグナルが変更されるか、もしくはシグナルの寿命が変化する)。分子認識モチーフは、蛍光ホストポリペプチド(アミノ酸配列の内部)に組み込まれるか、または作動的に連結される。分析物と分子認識モチーフの相互作用により、分析物の量に基づいて、分析物センサーの蛍光特性の検出可能な変化(例えば、強度、または吸収の最大波長もしくは画像化、伝達される光、蛍光の励起もしくは発光の変化、光散乱、シグナルの寿命、ならびに/またはクロモフォアおよびタンパク質のエネルギー転移)が生じる。
関連する分子認識モチーフを使用して、分析物センサーを、疾患の機構を調査するため、疾患のプロセスを追跡するために、および分析物の活性に関連するいくつかの疾患を診断するために、in vitro、生細胞およびin vivoにおいて使用することができる。さらに、特異的なシグナルペプチドも、それらによる種々の細胞区画におけるカルシウム(または、本明細書において示されている他の金属)の活性に関連する疾患の活性化または阻害などの機構をリアルタイムかつin situで調査するために有用であり得、このことは、バイオテクノロジー、細胞生物学および医薬品化学、疾患の診断および予後判定、カルシウム阻害薬のスクリーニングおよび薬物の開発において有用である。
分析物センサーの実施形態は、複数の負荷電残基を含む金属イオン結合部位を有する工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドであって、負荷電残基が、五角両錐形状に配向された複数のカルボキシル酸素を含み、前記形状により、工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドのクロモフォア領域と作動的に相互作用する金属イオン結合部位がもたらされ、その結果、金属イオン分析物と分子認識モチーフが結合することにより、蛍光ホストポリペプチドにより放出される蛍光シグナルの放出、および任意選択で、工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドの吸収スペクトルが調節される、蛍光ホストポリペプチドを含む。
分析物(例えば、カルシウム、鉛、ランタニドなど)が分析物結合部位と相互作用すると、分析物センサーにより、相互作用する前の分析物センサーと比較してシグナルの変更が生じる。これに関して、分析物が分析物結合部位と相互作用すると蛍光ホストポリペプチド内のクロモフォアの相対的な三次元の位置が変更され、そのような変更により、シグナルの変更が生成される。
言い換えれば、分析物センサーは、三次元空間において、特異的なシグナルを生じる折り畳み配置を有する。分析物センサーは、分析物結合部位を有する分析物(例えば、カルシウム、鉛、またはランタニド)の誘導下で、クロモフォアの微小環境の変更を伴う別の折り畳み配置への局所的なコンフォメーションの変化を受ける可能性がある。コンフォメーションの変化を検出し、測定し、分析物と相互作用する前にカルシウムセンサーによって生成されるシグナルと比較することができる。
本開示の実施形態の利点としては、以下の1つまたは複数を挙げることができる。(i)本開示の実施形態は、生細胞または生物体における多数の細胞の事象を生細胞画像化によってモニターすることができる。本開示の実施形態により、細胞の事象および刺激または薬物によるそれらの反応に関する連続的な動画をもたらすことができる。本開示の実施形態により、分析物の作用に関する1枚のスナップショットを伴う現在商業的に利用可能な小分子色素、ペプチド/模倣体プローブの制限が大きく克服される。(ii)本開示の実施形態は、細胞環境下で2つの蛍光タンパク質を使用したFRET対よりもより容易かつ、より良く移行して、in situで分析物の反応をプローブする単一の蛍光タンパク質を含む。シグナルペプチドを付加すると、これらの分析物センサーをER、ミトコンドリア、ゴルジ体または核などの細胞環境において特異的に発現/位置させて、細胞の事象を、時間分解能に加えて空間分解能を伴ってモニターすることができる。現在利用可能な色素検出方法は、単にプローブが膜を通じて受動的に拡散することに依拠し、カルシウムの作用の短いスナップショットのみが可能になり、ターゲティングされた細胞の場所における反応を検出することができない。これらのプローブでは、細胞の寿命および特異性が限られているので、カルシウムの作用の連続的な動的画像化はもたらされない。(iii)本開示の実施形態では、金属イオン(例えば、カルシウム、鉛、またはランタニド)を感知するために既存の/天然のカルシウム結合性タンパク質を使用せず、したがって、細胞のネットワークの攪乱が最小限になる。(iv)本開示の実施形態は、蛍光退色を起こしやすく、それらのサイズが大きいことに起因して細胞区画における配向性および移行が不十分であるFRETに基づくセンサーにおいて認められる制限を克服する単一の蛍光タンパク質ユニットを含む。(v)398nmおよび490nmにおける吸収または励起に伴う本開示の実施形態のシグナルのレシオメトリック変化により、カルシウム(または、本明細書において示されている他の金属)の作用を、センサーの濃度変化ならびに蛍光シグナルの細胞および機器による干渉を正規化することによって定量的かつ正確に測定することが可能になる。(vi)異なる分析物親和性を有する異なるセンサーを創出することにより、細胞の反応を高い正確度および感度でモニターすることが可能になる。(vii)本開示の実施形態において使用される構造モチーフにより、化学反応のために必要な最適な分子認識に加え最大の光学反応が可能になる。(viii)開発された分析物センサーは、細菌、哺乳動物細胞、および動物、例えば、マウスなどにおいて、本明細書に記載のものなどの良好な光学特性を伴って発現させることができる。金属イオン結合により誘導される、本開示の工学的に作製されたポリペプチドの蛍光特性および吸収特性の変化は、逆の変化をもたらす金属イオンの除去を検出するためにも使用することができる。
したがって、本開示の系、センサー、および方法を用いて、分析物と分析物結合部位の間の相互作用を、in vitroおよびin vivoにおいて検出し、測定し、定量化し、画像化することができる。具体的には、本開示の実施形態を用いて、カルシウムの相互作用または事象をin vitroにおいて、ならびに細胞、組織、およびin vivoにおいて検出し(かつ可視化し)かつ/または定量化することができる。さらに、本開示の系、センサー、および方法を使用して、分析物結合部位のpHの変化をin vitroおよびin vivoにおいて検出し、測定し、定量化することができる。さらに、本開示の系、センサー、および方法は、系における分析物の濃度を制御するために用いることができる。
本開示による分析物センサーは、複数の負荷電残基を含む金属イオン結合部位を有する工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドであって、負荷電残基が五角両錐形状に配向された複数のカルボキシル酸素を含み、前記形状により、工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドのクロモフォア領域と作動的に相互作用する金属イオン結合部位がもたらされ、その結果、金属イオン分析物と分子認識モチーフが結合することにより、蛍光ホストポリペプチドにより放出される蛍光シグナルの放出、および任意選択で、工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドの吸収スペクトルが調節される蛍光ホストポリペプチドを含んでよい。ある実施形態では、負荷電残基が3つの逆平行ベータシートの表面上にある。ある実施形態では、負荷電残基はベータカン構造を有するタンパク質の3つの鎖に広がっている。
蛍光タンパク質のネイティブなシグナルは、蛍光ホストポリペプチドのアミノ酸配列内の分析物結合部位および構造モチーフを含めることによって変更される。具体的には、本開示の実施形態により、分析物結合部位の挿入位置がもたらされ、その結果、分析物センサーにより、2つ以上の波長で放出が生じる。これに関して、蛍光ホストポリペプチド内のクロモフォアの相対的な三次元の位置は、分析物結合部位および構造モチーフを含めることによって変更され、そのような変更により、シグナルの変更が生成される。
分析物(例えば、カルシウム、鉛、および/またはランタニド)が分析物結合部位と相互作用すると、分析物センサーにより、相互作用する前の分析物センサーと比較してシグナルの変更が生じる。これに関して、分析物が分析物結合部位と相互作用すると蛍光ホストポリペプチド内のクロモフォアの相対的な三次元の位置が変更され、そのような変更により、シグナルの変更が生成される。相互作用した後のシグナル(クロモフォアシグナル)のレシオメトリック変化により、(例えば、in vitroおよびin vivoにおいて、正規化されたセンサー濃度を用いて)分析物の活性を正確に測定することが可能になる。構造モチーフを含めることにより、特定の種類の分析物に必要な必須の構造的特性および化学的特性が組み入れられることによって最適な分子認識が可能になる。例えば、構造モチーフを含めることにより、カルシウムに容易に接近するための溶媒接近可能性、認識のために必要な柔軟性、相互作用するための特別な幾何的ポケット、結合プロセスを容易にする親水性表面または荷電した環境およびリアルタイム測定するために必要な、良好なオフ速度(off rate)などの高速のカイネティクス速度に必要な環境が可能になる。
カルシウム結合性GFPの設計:緑色蛍光タンパク質におけるカルシウム結合性タンパク質の設計を、確立された設計計画および五角両錐形状に基づく所与のパラメータを用いて行った(Biochemistry 44:8267〜8273;J.Am.Chem.Soc.127:2085〜2093;J.Am.Chem.Soc.125:6165〜6171)。3000を超える潜在的なカルシウム結合部位を計算的に構築した。
いくつかの基準を適用して、部位を順位づけ、選択した。(i)中心のヘリックス(すなわち、アミノ酸56〜71)に突然変異を含有する部分をいずれも除去した。(ii)折り畳みの破壊を回避するために、覆い隠された疎水性残基が荷電残基で交換された部位を除去した。(iii)多くのカルシウム結合部位で溶媒接近可能性が観察されるので、Phe8などの溶媒が到達しにくい残基を伴う部位を排除した。溶媒接近可能性はGetAreaプログラムを使用して評価した。(iv)柔軟性が高いループ領域における突然変異は、タンパク質の折り畳みを攪乱することなく「安全」であるとみなしたが、β鎖上に突然変異を伴う部位はより侵攻性であるとみなした。(v)突然変異が少ないとネイティブなタンパク質のコンフォメーションをかき乱す可能性が低いので、リガンドとして存在している残基がより多いと予測される部位が好ましい。(vi)カルシウムセンサーの電位の発生についてクロモフォアからの距離も評価した。タンパク質の過剰パッキングを検査し、近くの残基との衝突を回避した。さらに、カルシウム結合性タンパク質についての統計学的な結果に基づいて、3〜4つの負荷電リガンド残基を有する部位を選んだ。(vii)潜在的なカルシウムに誘導される蛍光変化をさせるために、クロモフォア感受性位置を蛍光タンパク質の動的特性およびコンフォメーション特性に基づいて解析した。
図14は、基準(表1)に基づいて選択されたGFPの3つの異なる位置に位置する5つのカルシウム結合部位(GFP.D1、GFP.D2、GFP.D2’、GFP.D2’’、およびGFP.D3と称される)を示す。GFP.D1はループ領域内のバレルの末端に位置する。GFP.D1は、ループ領域の柔軟性に起因して、EGFPの折り畳みおよび構造に対する影響が少ないことが予想される。GFP.D2、GFP.D2’、およびGFP.D2’’は、GFP.D1とは反対側のバレルの末端のループ領域内に位置する。これらは、4つの同一のリガンド残基を含有し、1つの残基が異なる。GFP.D2はリガンドL194E、S86D、S2D、D82、およびE5を有する。L194はGFP.D2’およびGFP.D2’’のどちらにおいてもNに突然変異している。GFP.D2’は、K85D突然変異を含有するが、GFP.D2およびGFP.D2’’はS86Dを含有する。これにより、Lys、Glu、Asn、およびSerのサイズおよび電荷の性質が異なることに起因して、局所的な環境における側鎖のパッキングおよび静電気的相互作用が変化する。GFP.D3はバレルの中央に位置し、クロモフォアまで14Åである。2つの天然のリガンド残基および3つの突然変異を含めたすべてのリガンド残基がβ鎖上に位置する。
設計されたタンパク質のクロモフォアおよびコンフォメーション特性:異なる光学特性を示す4つのカルシウム結合部位をEGFP内に工学的に作製した。大腸菌における細菌により発現されたタンパク質のすべての中で、GFP.D2のみが緑色の蛍光色を保持する。図15Aおよび15Bに示されているように、細菌により発現され、精製されたGFP.D2およびその系列および野生型EGFPは490nmにおいて吸収極大を示す。490nmにおける励起により、510nmにおける最大発光がもたらされる。対照的に、残りの細菌により発現されたタンパク質であるGFP.D1およびGFP.D3は無色であり、これは、細菌の発現系においてクロモフォアが形成されていないことを示している。図15Bは、これらの設計されたタンパク質の遠紫外CDスペクトルがEGFPと同様に216nmにおいて陰性極大を有することを示し、これは、カルシウム結合性リガンド残基が導入された後に優性のβシート構造が変更されなかったにもかかわらずクロモフォアの形成が攪乱されたことを示している。
GFPはクラゲ由来であり、真核細胞はタンパク質の折り畳みを補助する機構を含有するので、真核生物の発現系によりクロモフォアの形成を容易にすることができることが報告された(J.Mol.Biol.353:397〜409)。図16は、GFP.D1およびGFP.D2がどちらも、Hela細胞において発現されると蛍光を呈することを示す。対照的に、GFP.D3は、哺乳動物細胞において発現された場合も、細菌系におけるその発現と同様に無色のままである。これらの結果は、カルシウム結合性のためのいくつかの荷電残基を導入することは、タンパク質の折り畳みおよび構造には影響を及ぼさないが、環境の変化に対する耐容能が低いクロモフォアの合成および形成には影響を及ぼすことを示唆している。
金属結合親和性および設計されたGFP変異体の選択性:設計されたGFP変異体のカルシウムおよびその類似体ランタニドイオンに対する金属結合能を、細菌により発現され、精製されたタンパク質を使用した4つの異なる方法を用いて検査した。正しく形成されたクロモフォアを有するGFP.D2については、金属結合親和性は、金属濃度に応じた蛍光シグナルの変化をモニターすることによって直接決定した。図17Aに示されているように、0〜10mMのカルシウムを添加することにより、398nmにおいて励起させた際の510nmにおける蛍光シグナルが徐々に減少する。510nmにおけるわずかな変化は1:1のカルシウム:タンパク質複合体を形成する式にうまくあてはめることができる。カルシウムの解離定数は107±13である。他方では、野生型EGFPは、金属イオンの添加に際していかなる有意な蛍光シグナルの変化も有さない。
市販のカルシウム結合性色素であるローダミン−5N(Molecular Probes)を使用して、色素競合アッセイによりカルシウム親和性およびランタニド親和性を得た。図17Bに示されているように、ローダミン−5Nは、カルシウムがGFP.D1に結合すると大きな蛍光シグナルの増加を示す。色素競合アッセイにおいて、色素およびタンパク質の濃度が一定である溶液を、飽和が観察されるまでカルシウムで滴定した(図17B、挿入図)。設計されたタンパク質の結合親和性を、スペクトルを金属および2つのリガンドモデルに全体的にあてはめることによって得た。表1に示されているように、蛍光シグナルの変化を直接測定することによって得られたGFP.D2のカルシウム結合性親和性は、色素競合法によって得られた親和性と一致する。
120、177、および194について、テルビウム親和性を20mMのPIPES、10mMのKCl、1mMのDTT、1%グリセロール、pH6.8中で測定した。194について、テルビウム親和性を10mMのTris、1mMのDTT、1%グリセロール、pH7.4中で測定した。4つの部位すべてについてカルシウム親和性を10mMのTris、1mMのDTT、1%グリセロール、pH7.4中で測定した。
次いで、カルシウム結合性色素の競合を用いて、これらの細菌により発現されたタンパク質GFP.D1、GFP.D2、GFP.D2’およびGFP.D2’’ならびにGFP.D3についてのカルシウム結合性親和性を得た。これらのカルシウム結合性親和性は、それぞれ60±5μM、57±2μM、96±7μMおよび38±5μMである。
設計されたタンパク質の金属結合性をさらに特徴付けるために、テルビウム感作蛍光共鳴エネルギー転移を用いた。テルビウムは、同様のイオンのサイズおよび結合形状を有するカルシウムの類似体であり、本来、545nmにおいて蛍光性であり、芳香族残基から転移したエネルギーを受容することができる。EGFPは、1Trpおよび10Tyrを含有し、TrpはGFP.D1およびGFP.D2の30Åの範囲内にあり、GFP.D3およびGFP.D4の17Åの範囲内にある(表1)。図17Cに示されているように、タンパク質にテルビウムを添加することにより、280nmにおける励起で545nmにおけるテルビウム−FRETシグナルが大きく増加する。1:1の金属:タンパク質複合体を仮定したテルビウム濃度に応じた増強により、結合親和性がもたらされる(表1)。pH7.4で試験した3つのタンパク質のうち、GFP.D1が最も強力なテルビウム親和性(1.9±0.4μM)を有している。GFP.D2はそれよりもわずかに弱い親和性4.9±0.2μMを有し、一方GFP.Ca2’は15分の1の弱い親和性32±13μMを示す。pH6.8では、GFP.D2’’は、2.9±0.3μMのテルビウムに対する結合親和性を示す。カルシウムおよびランタンをテルビウム−タンパク質複合体に付加すると、競合によりテルビウムによる蛍光の増強が有意に低下した。
図17Dに示されているように、1mMのカルシウムを添加することにより、GFP.D1についてテルビウムの蛍光が大きく減少し、これは、カルシウムがタンパク質に結合し、テルビウムの結合と競合することを示す。100μMのランタンを添加することにより、蛍光が半分に減少し、これは、金属結合親和性が推定で5分の1低い(約10μM)ことを示唆している。他方では、より高濃度のマグネシウム(10mM)を添加することにより比較的小さな減少がもたらされ、これは、結合親和性が比較的弱いことを示す。同様に、GFP.D2’は、1mMのカルシウムまたは100μMのランタンで蛍光の最大半量の減少を示し、これもマグネシウムより有効である。総合すると、カルシウムおよびランタニドはタンパク質の同じポケットに結合し、マグネシウムの20倍超の選択性を有する。本開示のカルシウム結合部位は38〜96μMの範囲内のKdを有するカルシウム結合性親和性を有する。金属選択性は、細胞外の環境において、または細胞質ゾルよりもカルシウム濃度がはるかに高いERにおいて、タンパク質がマグネシウムに干渉されずにカルシウムと結合するためにも十分である。
本開示の実施形態は、分析物(例えば、カルシウム、鉛、および/またはランタニド)に結合する分子認識モチーフおよび分子認識モチーフが作動的に連結されたまたは組み込まれた蛍光ホストポリペプチドを含む分析物センサーを提供する。分析物と分子認識モチーフの相互作用により、検出可能な変化が生じる。表2には、分析物センサーのいくつかの実施形態、対応する配列番号、および特定の分析物センサーの特性が列挙されており、他の分析物センサーは、配列番号115〜159に記載されている。配列番号1〜99、および104〜105および115〜159は特定の順序のアミノ酸を含むが、各群(例えば、分子認識モチーフ、蛍光ホストポリペプチドなど)は、分析物センサーにより、本明細書に開示されている実施形態と一致する結果が生じる限りは違うように位置づけることができる。
配列番号105はCaratERセンサーに対応する。カルレティキュリンシグナルペプチド由来のERターゲティング配列の残基がN末端に付着しており、ER保持配列がC末端に付着している。配列番号105は、新しい結合部位ならびにERターゲティング配列および保持配列の突然変異をそれぞれN末端およびC末端に含む。センサーの追加的な配列は、配列番号115〜159に記載されている。
蛍光ホストポリペプチドは、蛍光ホストポリペプチドに、いくつもの場所のうちの1つにおいて挿入された、または組み込まれた分子認識モチーフを有してよく、異なる挿入ポイントのそれぞれにより、異なる特性の分析物センサーがもたらされる。例えば、蛍光ホストポリペプチドが、高感度蛍光タンパク質(EGFP)である場合、152位、172位、または170位に分子認識モチーフを挿入することができる。
蛍光ホストポリペプチドに2つまたは3つの突然変異を含めることにより、蛍光ホストポリペプチドを改変して、分析物センサーの熱安定性および/または蛍光特性を増強することができることにも留意すべきである。具体的には、EGFPは、2つの突然変異(M153T、V163A)および/または3つの突然変異(F99S、M153T、V163A)を含んでよく、これにより、本明細書に記載の熱安定性および/または蛍光特性が増大する。これらの突然変異は、それぞれ配列番号16〜45、配列番号48〜51、配列番号54〜57、および配列番号72〜99に示されている。本開示の特定の実施形態を説明する追加的な詳細および例が以下に提供される。
分析物センサーの蛍光特性に基づいて、分析物センサーのDNA構築物を、組換えDNA手順に都合よく供することができる組換えベクターまたは任意の適切なベクターに挿入することができる。具体的なベクターは宿主細胞の種類に左右され得る。例えば、染色体外の実体として存在し得る組換えDNAプラスミドベクターが適切なベクターであり得る。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されると、宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体(複数可)と一緒に複製されるベクターであってよい。分析物センサーが構築されたら、蛍光核酸分子を含むベクターを、宿主細胞のトランスフェクトに用いる溶液(例えば、緩衝溶液)などの種々の組成物に配合することができる。
蛍光ホストポリペプチドまたはその変異体は、分子に直接的に、または間接的に、タンパク質−分子複合体が曝露される条件下で安定である任意の連結を用いて連結することができる。したがって、蛍光ホストポリペプチドおよび分子は、タンパク質上に存在する反応性基と分子の間の化学反応により連結することができる、または連結は、蛍光ホストポリペプチドおよび分子に特異的な反応性基を含有するリンカー部分によって媒介されてよい。蛍光ホストポリペプチド変異体と分子を連結するために適した条件は、例えば、分子の化学的性質および所望の連結の種類に応じて選択されることが理解されよう。対象の分子がポリペプチドである場合、蛍光ホストポリペプチド変異体と分子を連結するための都合のよい手段は、それらを、例えば、ポリペプチド分子をコードするポリヌクレオチドに作動的に連結された蛍光ホストポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換え核酸分子から融合タンパク質として発現させることによる。
分析物センサーの一実施形態は、組換えDNA技術により、キメラタンパク質として作製することができる。蛍光ホストポリペプチドを含むタンパク質の組換え作製は、タンパク質をコードする配列を有する核酸を発現させることを含む。蛍光ホストポリペプチドをコードする核酸は、当技術分野で既知の方法によって得ることができる。例えば、タンパク質をコードする核酸は、A.victoriaから、A.victoriaのGFPのDNA配列に基づくプライマーを使用してDNAのポリメラーゼ連鎖反応によって単離することができる。蛍光ホストポリペプチドの突然変異型は、蛍光タンパク質をコードする他の核酸の部位特異的突然変異誘発によって、または0.1mMのMnCl2および不均衡なヌクレオチド濃度を用いた元のポリヌクレオチドのPCRのエラー率の上昇によって引き起こされるランダム突然変異誘発によって作出することができる。
分子認識モチーフは、分析物結合部位、1つまたは複数の構造モチーフ、およびターゲティングモチーフを含んでよい。分析物結合部位および構造モチーフは、上記のものを含んでよい。ターゲティングモチーフは、細胞小器官および亜細胞小器官(sub−organelles)、例えば、ER、ミトコンドリア、ゴルジ体、核、チャネル、ギャップ結合、および細胞外空間など(それだけに限らない)にターゲティングすることができる。ターゲティングモチーフとしては、標的細胞小器官に位置するタンパク質においてコードされるシグナルペプチドが挙げられる(それだけに限られない)。ターゲティングモチーフは、配列番号5〜6、20〜21、35〜36、65〜66、79〜80、93〜94に列挙されているものを含み、特異的なアミノ酸配列は上述されている。上記の通り、モチーフは、開示された実施形態と一致する特性を有する限りは、本明細書の記載とは違うように位置づけることができる。本開示の特定の実施形態を説明する追加的な詳細および例が以下に提供される。
本開示は、金属イオン分析物(例えば、カルシウム、鉛、および/またはランタニド)に結合する分子認識モチーフおよび分子認識モチーフが作動的に連結されたか、または組み込まれた蛍光ホストポリペプチドを含む分析物センサーを提供する。分析物と分子認識モチーフの相互作用により、検出可能な変化が生じる。分析物センサーは、配列番号5、6、20、21、35、36、80、81、94、および95から選択される分子認識モチーフおよび蛍光ホストポリペプチドを含むタンパク質配列を有する。
分析物センサーの一実施形態は、以下から選択される少なくとも1つの特性を有する。約30℃を超える温度において安定であること、蛍光および光学特性が増強されていること(例えば、蛍光タンパク質の突然変異(例えば、F99S、M153TおよびV163A)に由来する)、およびそれらの組み合わせ。具体的には、分析物センサーの実施形態(C2変異体またはC3変異体と称される)(配列番号16〜45、48〜51、54〜57、および72〜99)は、哺乳動物細胞および細菌細胞のどちらにおいても蛍光を維持することができる。本明細書に記載の実施形態のそれぞれは、カルシウムおよび他の金属イオン(Pb2+、Tb3+、La3+、およびGd3+を含めた(それだけに限られない))と結合することができる。
本開示の分析物センサーの一実施形態は、まず、金属イオン分析物と反応することができる分析物結合部位を含む分子認識モチーフを構築し、次いで、分子認識モチーフを蛍光ホストポリペプチドに作動的に挿入することによって生成することができる。分子認識モチーフは、一般には、ほとんどの場合一次構造、二次構造、および三次構造を含み、いくつかの場合には四次構造を含み、その少なくとも1つを、分析物センサーに合わせて調整し、所望のレベルの分析物の感度を実現することができる。すなわち、一次構造、二次構造、三次構造、および存在する場合は四次構造のそれぞれを、それぞれ独立に、または1つまたは複数の他の構造と組み合わせて分析物センサーに合わせて調整して、分析物に対するセンサーの所望のレベルの感度を実現することができる。例えば、分析物が分子認識モチーフに結合することにより、検出可能なシグナル(例えば蛍光)の変化が生じ、分子認識モチーフを操作することにより、センサーの反応性が操作されることが好ましい。
分析物センサーの一実施形態は、励起されると検出可能な変化を生じることができる分子認識モチーフ、タンパク質の発現、分析物センサーに興奮がもたらされること、次いで、検出可能な変化を数量化することに起因して、分析物の数量化も可能にすることができる。好ましくは、タンパク質は、発光強度が微小環境における分析物の量と相対的である蛍光ホストポリペプチドを含んでよい。
分子認識モチーフを創出するための1つの方法は、組み込み法を用いることによるものである。組み込み法は、同定された結合部位の一次構造、二次構造、三次構造、および/または四次構造を修飾することにより分子認識モチーフを工学的に作製し、構築することに焦点を合わせている。
組み込み法を用いて分子認識モチーフを構築するための例示的な方法は、まず、分析物に特異的に結合する分析物結合性ペプチドを同定し、次いで、分析物結合性ペプチドをコードする核酸配列の少なくとも一部分を突き止めることを含む。これが実現されたら、分析物結合性ペプチドをコードする核酸配列を、分析物結合部位を含む分子認識モチーフ内に合わせて調整する。合わせて調整することが完了した後、蛍光ホストポリペプチドを選択し、蛍光ホストポリペプチドの核酸配列の関連する部分を同定し、合わせて調整された分析物結合性ペプチドをコードする核酸配列を分子認識モチーフ配列内の蛍光ホストポリペプチド核酸配列に作動的に連結する。最後に、分子認識モチーフ配列を発現させる。この方法では、分析物に対して所望の特異性を有する分子認識モチーフを実現するために、分析物結合性ペプチドをコードする核酸配列を合わせて調整する。分析物結合性ペプチドをコードする核酸配列は、他の分析物を超える分析物に対する特異性を有するように合わせて調整することが好ましい。その結果生じる分子認識モチーフ配列によりコードされるタンパク質は本開示の有用な産物である。
分析物結合部位の一次構造は、分析物結合性ペプチドをコードする核酸配列に少なくとも1つのコドンを挿入することによって選択的に修飾することができる。同様に、分析物結合性ペプチドをコードする核酸配列に荷電アミノ酸のコドンを挿入することができる。他の方法としては、分析物結合部位を、ヘリックス、ループ、橋またはリンカーを選択的に操作し、付加することによって修飾することもできる。分析物結合性ペプチドをコードするアミノ酸配列に荷電アミノ酸を挿入することができ、かつ/または分析物結合性ペプチドをコードするアミノ酸配列に芳香族アミノ酸を導入することができる。
所望の分子認識モチーフを生成するための別の方法は、新規の分子認識モチーフを工学的に作製し構築するための計算的方法が、分析物の、他の部分との最適な結合特性に基づく計算的手法の使用によるものである。例示的な一実施形態では、Ca2+結合データを評価するための確立された基準を使用して、所望の感度のCa2+結合部位を分子モデリングによって構築することができる。例えば、そのような計算アルゴリズムを使用して、金属の結合形状、宿主タンパク質の折り畳み、蛍光タンパク質における電荷の場所、特定のクロモフォア、およびCa2+結合データに特異的な他の基準などのパラメータに基づいて所望のイオン結合モチーフを開発することができる。
分子認識モチーフは選択された分析物に対する特異性を有することが好ましいことに留意して、分析物結合部位に関する構造データを含む公共のデータベースおよび/または民間のデータベースにアクセスし、構造データから、特定の予め選択された基準に基づいて少なくとも1つの予備的な分析物結合部位を生成し、予備的な分析物結合部位から1つまたは複数の適切な分析物結合部位を選択し、選択された分析物結合部位を合わせて調整することによって分析物結合モチーフを構築し、宿主タンパク質に作動的に連結することにより分子認識モチーフを構築するために、計算的手法を用いることができる。構造データは、一般には、タンパク質バンクおよび遺伝子バンクにおけるものなどのアミノ酸配列、二次構造、核酸配列、幾何的パラメータ、静電気的特性ならびに分析物結合部位の配位特性を含んでよい。
計算的手法は、分析物結合部位に関する構造データ、分子認識モチーフに関連する構造データの一部から予備的な分析物結合部位を生成し、予備的な分析物結合部位を選択された基準および選択された分析物に対する特異性に基づいて評価するためのアルゴリズム、およびデータベースを照会して予備的な分析物結合部位を生成するためにアルゴリズムを実行するためのコンピュータを含む少なくとも1つのデータベースを含むシステムにおいて、またはそれにより実施することができる。アルゴリズムは、一般に、入力された基準に基づいてデータベースを照会する比較的単純な検索アルゴリズムである。
分子認識モチーフを合わせて調整し、蛍光ホストポリペプチドに作動的に連結したら、分析物センサーにより、分析物依存的な蛍光の変動に対する反応性が示され得る。分析物センサーの反応性は、蛍光ホストポリペプチドと分子認識モチーフの相互作用によって引き起こされ、次いで、それにより、分析物の濃度またはフラックスに比例した蛍光特性が示され得る。具体的には、反応性は、蛍光タンパク質のクロモフォアの配向およびプロトン化の変化によって引き起こされると考えられている。分析物と蛍光ホストポリペプチドの間の相互作用により、発光スペクトル、量子収率、および/または吸光係数がシフトする可能性があり、これは、リアルタイムで定量的に分析して、微小環境を探索することができる。
使用および適用において、分析物センサーの一実施形態を用いて、試料中の分析物の濃度およびそのフラックスを非レシオメトリック色素として検出し、数量化することができる。より詳細には、分析物センサーを試料に挿入し、次いで、試料を照射により励起させ、次いで光学デバイスを使用して試料からの蛍光を測定し、次いで、蛍光またはそのフラックスを分析して、試料中の分析物の濃度を数量化または検出する。試料を分析するために、既知の分析物の濃度から生成される蛍光に基づいて検量線を作成することが必要であり得る。具体的には、試料中の分析物の濃度を決定するために、分析物センサーの蛍光シグナルを検量線の蛍光と比較する。
蛍光ホストポリペプチド:本開示による分析物センサーは、蛍光ホストポリペプチドまたはポリペプチド(「光学的に活性な蛍光ホストポリペプチド」または「光学的に活性な蛍光タンパク質」とも称される)を含んでよい。蛍光タンパク質のネイティブなシグナルは、蛍光ホストポリペプチドのアミノ酸配列内の分析物結合部位を含めることによって変更される。本開示の実施形態は、蛍光ホストポリペプチド内の特異的な分析物結合部位の挿入位置を提供し、その結果、分析物センサーにより、分析物が分析物結合部位と相互作用すると変更される発光が生じる。これに関して、蛍光ホストポリペプチド内のクロモフォアの相対的な三次元の位置は、分析物結合部位を含めることによって変更され、そのような変更により、シグナルの変更が生成される。一実施形態では、分析物センサーは、2つ以上の区別可能な波長において発光し得る。
本開示の分析物センサーにおいて使用するために適した蛍光ホストポリペプチドとしては、Aequorea victoriaから単離された緑色蛍光タンパク質(GFP)、ならびに高感度蛍光タンパク質(EGFP)などのいくつものGFP変異体が挙げられる(それだけに限られない)。特に、Aequorea緑色蛍光タンパク質(GFP)およびその高感度蛍光タンパク質は、単一のポリペプチド鎖に約238アミノ酸残基を有する。ネイティブな分子は、その内因性の蛍光を、完全に変性した状態から再生することが示されている。GFPは、238アミノ酸配列の65〜67位にトリペプチドSer−Tyr−Gly配列を有するクロモフォアの自己環化(autocyclization)および酸化により生成されると考えられている強力な可視の吸収および蛍光を示す。GFPに対する突然変異により、吸収および蛍光の種々のシフトがもたらされた。GFPの有用性は、追加的な補因子を必要としないGFPからの蛍光に由来し、フルオロフォアは、ペプチド骨格の環化反応を介して自己組織化する。
GFPのクロモフォアは、トリペプチドSer65−Tyr66−Gly67が環化することにより形成される。このクロモフォアは、11本の逆平行の鎖および単一の中心αヘリックスで構成されるβバレルの内側に位置する。βバレルの末端にキャップ形成する短いヘリックスが存在する。クロモフォアはタンパク質フレームとの大規模な水素結合を有し、異なる折り畳みの状態で水分子の影響を受ける可能性がある。しっかりと構築されたβバレル内のクロモフォアは、400nmおよび480nmにおいて吸収ピークを示し、510nmにおいて発光ピークを示し、470nmにおいて励起させると量子収率が約0.72である。突然変異S65Tを有するGFPである高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)内のクロモフォアは、蛍光強度および感温性が改善されている。
2つの追加的な突然変異(M153T、V163A)、または3つの追加的な突然変異(F99S、M153T、V163A)をEGFPに付加して37℃以上におけるタンパク質の発現、安定性、クロモフォアの形成を増加させた。
例えば、表2に示されている配列番号1〜58に示されているように、170位、172位、および157位の間に特異的な分析物結合部位を含むリンカーを移植することができる。
分析物結合部位の一実施形態は、配列の連続した一続きからのアミノ酸を用いずに適切な結合ポケットを形成するための蛍光タンパク質における突然変異によって創出することができる。例えば、表2に示されている配列番号59〜99に示されている配列のすべてである。
分析物結合部位:本開示による分析物センサーは、分析物結合部位を含む分子認識モチーフを有してよい。蛍光タンパク質のネイティブなシグナルは、蛍光ホストポリペプチドのアミノ酸配列内に分析物結合部位を組み込むことにより変更することができる。蛍光ホストポリペプチド内のクロモフォアの相対的な三次元の位置は、分析物結合部位を含めることによって変更することができ、そのような変更により、シグナルの変更が生成される。このセンサーのシグナルの変化により、レシオメトリック変化、すなわち、吸収および/または蛍光の励起の両方の、ある波長における1つの増加、1つの減少、または複数の増加と、別の波長における逆の変化とがもたらされる。
分析物結合部位の一実施形態は、金属イオン分析物と相互作用することによって機能し、そのような相互作用により、相互作用する前の分析物センサーと比較して、分析物センサーが変更されたシグナルを生じるようになる。蛍光ホストポリペプチド内のクロモフォアの相対的な三次元の位置は、分析物が分析物結合部位と相互作用すると変更され得、そのような変更により、シグナルの変更が生成される。
分析物結合部位は、分析物が分析物センサーに結合する結合部位を含んでよい(それだけに限られない)。結合部位は、分析物が分析物センサーに結合する場所であってよい。通常、特定の連続的配置または特定の空間的配置にある特定の種類のアミノ酸を、特定の種類の分析物に対して使用することができる。結合の反応および性質ならびにクロモフォアの相対的な変更に応じて、分析物の結合により分析物センサーシグナルの変更が引き起こされ得る。しかし、切断反応により、センサーシグナルの大きな変化が引き起こされる。これは、シグナルの変更をもたらす蛍光ホストポリペプチド内のクロモフォアの三次元の位置の局所的な環境が変更されることに起因し得る。そのような変更は、水素ネットワーク、動的特性、溶媒接近可能性または化学的特性、例えば疎水性相互作用および静電気的相互作用などが攪乱されることに起因し得る。
分析物結合部位切断部位を挿入するための蛍光ホストポリペプチド内の部位の一実施形態は、金属イオン分析物がその場所に接近可能なように選択することができることが好ましい。さらに、蛍光ホストポリペプチド内の場所は、その場所により蛍光ホストポリペプチドからの蛍光が実質的に低下しないように、かつ、その場所により蛍光ホストポリペプチドまたはクロモフォアのタンパク質の折り畳みが実質的に変性または変化しないように選択することができる。さらに、分析物結合部位切断部位を挿入するための蛍光ホストポリペプチド内の部位は、以下の基準の1つまたは複数に基づいて選択することができる:効率的な酵素作用を可能にするための溶媒接近可能性の最大化、分析物結合部位が蛍光ホストポリペプチドに作動的に組み入れられた際の、蛍光シグナル/光学シグナルの最大化;分析物結合部位と分析物が相互作用した後のクロモフォアの環境の破壊の最小化;蛍光ホストポリペプチドのタンパク質の折り畳みおよびパッキングに対する影響の最小化;ならびに、in vitroまたはin vivoにおける分析物の活性の正確な測定を可能にするための分析物結合部位と分析物の相互作用に起因するクロモフォアシグナルのレシオメトリック変化の最大化。分析物結合部位は、蛍光ホストポリペプチドのモチーフの内部またはそれらの間、例えば、二次構造モチーフ、三次構造モチーフ、または四次構造モチーフの内部またはそれらの間に含めることができることに留意するべきである。具体的には、分析物結合部位は、βバレルのループ内、およびループ間に挿入することができる。
構造モチーフ:分子認識モチーフに構造モチーフを含めることにより、特定の種類の分析物に必要な必須の構造的特性および化学的特性が組み入れられることによって最適な分子認識が可能になる。例えば、分析物が容易に接近するための良好な溶媒接近可能性、認識ために必要な良好な柔軟性、相互作用のための特別な幾何ポケット、結合プロセスを容易にするための親水性の表面または荷電した環境、およびリアルタイム測定するために必要な、良好なオフ速度などの高速のカイネティクス速度に必要な環境。
例として(しかし限定することを意図するものではなく)、溶媒接近可能性および柔軟性のためには、ヘリックス−ループ−ヘリックスまたは部分的なモチーフなどが有用であり得る。これらのヘリックス−ループ−ヘリックスモチーフは、カルモジュリンまたはトロポニンC(trponic c)、S100などのカルシウム結合性タンパク質のEF−ハンドモチーフ由来、または核結合モチーフ由来などであってよい。さらに、例えば表2に列挙されている通り、ベータ−ループ−ベータもしくはベータ−ループ−ヘリックスなどの他の構造モチーフ、またはコイル状構造、または切断配列を含有し、クロモフォアの環境を変化させる能力を有するクロモフォアと比較して感受性の場所に位置するドメインおよび断片などを、本開示の実施形態において使用することができる。
ターゲティングモチーフ:ターゲットモチーフは、試料または宿主の正常な状態または病的状態、生物学的事象または生理的事象に関連する細胞、組織、小分子、タンパク質、細胞小器官、亜細胞小器官などの標的に対する親和性を有してよい。ターゲティングモチーフは、1つまたは複数の標的に対する親和性を有してよい。ターゲティングモチーフは特異的または非特異的であってよい。
非特異的なターゲティング部分は、以下の1つまたは複数を行うように選択してよい:細胞または細胞型に進入すること、脈管構造に進入すること、細胞外の空間に進入すること、細胞内の空間に進入すること、細胞表面に対する親和性を有すること、細胞膜を通じて拡散すること、細胞膜上の非特異的部分と反応すること、漏出性の脈管構造が原因で腫瘍に進入することなど。非特異的なターゲティング部分は、プローブの細胞への取り込みを容易にする化学的実体、生化学的実体、または生物学的実体を含んでよい。非特異的なターゲティング部分としては、細胞浸透性ペプチド、ポリアミノ酸鎖、小分子、およびペプチド模倣体を挙げることができる(それだけに限られない)。
本開示の精製されたタンパク質を細胞または細胞の空間に直接注射して、分析物の濃度を測定することもできる。配列番号1〜99、104〜105および115〜159から選択されるセンサータンパク質を使用して、溶液中などのin vitroにおける分析物の変化を測定することもできる。精製されたタンパク質は、in vitroおよびin vivoにおいて分析物の濃度を制御するための緩衝液またはキレート化剤としても機能し得る。
使用方法:本開示の分析物センサーはin vivoおよび/またはin vitroにおいて使用することができると考えられる。本開示の分析物センサーまたは系は、細胞または宿主に導入することができ、分析物センサーまたは系は、系において発現させることができ、かつ/または、分析物センサーまたは系は、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物に含めることができる。分析物センサーは、分析物センサーを異なる細胞内区画(subcellular compartment)、例えば、細胞質ゾル、核、ミトコンドリアのマトリックス、小胞体、ゴルジ体およびペルオキシソームなどに送達するための特異的なシグナルペプチドを含んでよい。
本開示の実施形態は、金属イオン分析物を検出し、測定する方法を提供する。この方法は、分析物センサーを系に導入するステップと、分析物センサーを、分析物センサーの分析物結合部位と相互作用することができる対象の分析物と相互作用させるステップと、フルオロフォアに由来する蛍光特性または変化を検出または測定するステップとを含んでよい。分析物センサーの蛍光活性の変化は、対象の分析物の活性の代理であるので、この方法により、分析物の活性を試験し、評価するための手段がもたらされる。
本開示の方法の実施形態は、分析物センサーをコードするプラスミドを、標準の遺伝子移入方法によって宿主細胞に導入するステップと、宿主細胞において分析物センサーを発現させるステップと、分析物センサーを、分析物センサーの分析物結合部位と相互作用することができる対象の分析物と相互作用させるステップと、それにより、蛍光シグナルまたは変化を検出または測定するステップとを含んでよい。分析物センサーの蛍光活性の変化は、対象の分析物の活性の代理であるので、この方法により、分析物の活性を試験し、評価するための手段がもたらされる。
本発明の方法は、分析物センサーを系に導入するステップと、分析物センサーを、分析物センサーの分析物結合部位と相互作用することができる金属イオン分析物と相互作用させるステップと、pHの変化と相関し得る蛍光特性または変化を検出または測定するステップとを含んでよい。
本開示の実施形態は、1つまたは複数の金属イオン分析物の濃度を制御する方法をさらに提供する。一実施形態では、この方法は、分析物センサーを系に導入するステップと、分析物センサーを、分析物センサーの分析物結合部位と相互作用することができる分析物と相互作用させるステップとを含んでよい。分析物と分析物センサーとの結合により、細胞または宿主における分析物の量が制御される。
本開示で有用な試料としては、生体試料、環境試料、または、その中に特定の分子が存在するかどうかを決定することが望まれる任意の他の試料が挙げられる。試料は、動物または植物から得ることができる生細胞または細胞抽出物であってよい(それだけに限られない)。あるいは、細胞は、細菌細胞が起源であってよく、またはそれに由来してよい。さらに、細胞は、そのような細胞の培養物、例えば、細胞系統から得ることができるか、または、生物体から単離することができる。方法を、インタクトな生細胞または新鮮に単離された組織もしくは臓器試料を使用して実施する場合、生細胞における対象の分子の存在を同定し、したがって、例えば、分子の細胞内の区画化をリアルタイムで決定するための手段をもたらすことができる。
分析物センサーの検出:分析物センサーまたは分析物センサーを含有し発現している細胞を検出するための方法は、分析物センサーまたは分析物センサーを発現している細胞が放射を放出するように、分析物センサーまたはセンサーを発現している細胞を照明源で照明するステップを含んでよい(それだけに限られない)。そのような検出方法では、白熱光源、蛍光光源、ハロゲン光源、太陽光、レーザ光、および他の等価の供給源などの照明源を使用することができる。そのような照明源により照明すると、分析物センサーにより、肉眼による光学的観察または他の定性的方法もしくは定量的方法によって検出することができる蛍光が放出され得る。試料の蛍光を測定するための適切な方法は当業者に既知であり、理解されている。
遅いカイネティクスの制限を克服するために(Zouら、Brioche、2007)、GFPに基づくCa2+センサーにおいてカルモジュリンとそのターゲティングペプチドの間の結合界面を再設計することにより、オフ速度定数koffを256s−1に改善した。GFPに基づくCa2+センサーのクロモフォアのプロトン化速度を最適化することにより、正確度をさらに増強する手段がもたらされ、それを用いてCa2+シグナルを高い時間分解能で測定することができる。
CatchERの光学特性のCa2+に誘導される変化:本発明者らが設計したCa2+センサーであるCatchERのモデル構造は、足場タンパク質EGFPに基づく。結合部位は、クロモフォア(Y66フェノールの酸素の上の右側)に近接し、H148、T203、およびE222に隣接する(図20A)。その蛍光感度は水素結合による相互作用に起因し得る。X線結晶構造により、溶媒への接近をもたらす、タンパク質表面から突出している突然変異した残基側鎖が示される。この推定上のCa2+結合部位は、残基147、202、204、223、および225により形成され、これにより、Ca2+を好む幾何的特性が付与される(図20B)。これらの位置に荷電残基を導入することにより、5つの変異体を創出した(図20D〜20H)。
CatchER(D11)およびその変異体(D8〜D10およびD12)を細菌によって発現させ、確立された方法を用いて精製した(Heim&Tsien(1996)Curr.Biol.6:178〜182;Zouら、(2007)Biochemistry 46:12275〜12288)。酸性のリガンド残基を導入することにより、490nmのピークが失われ、398nmにおける吸収極大が付加された(図20I)。このEGFPの特徴は、陰イオン性のクロモフォアが優性であることに関連づけられる。吸収極大比395/488は、荷電した残基がないEGFPについての0.2から、4つの酸性残基を有するD10についての2.3に上昇した(図20J)。488nmにおいて励起させた510nmの蛍光極大は吸収極大に匹敵する(図25A〜25L)。
CatchERおよびその変異体D9およびD10にCa2+が結合することにより、490nmにおける吸収が増加し、398nmにおける吸収が減少し(図25C〜25E、25M)、これは、Ca2+が結合することにより、陰イオン性のクロモフォアが増加することを示している。対照的に、510nmの最大発光は、395nmおよび488nmのどちらで励起させた場合も増加した(図25I〜25K、25M)。すべての変異体の中で、CatchERが、Ca2+が結合した際の最も大きな蛍光の増強(約80%)を有し(図25Kおよび図25M)、およそ50%のEGFP蛍光強度が達成された。D8の蛍光反応は、おそらくD8が有するリガンド残基が少なく、Ca2+結合親和性が低いことが原因で、無視できるものであった。
Ca2+の存在下でCatchERのpKaが6.9の値に対して0.7ユニット減少し、EGFPのpKaに近いことによって示されている通り、金属の結合によりクロモフォアの形成が補助された(図26B)。Ca2+が結合することにより、荷電したリガンド残基を付加することに伴う蛍光特性の変化が逆転し、これは、おそらく、488nmおよび395nmで励起させた時に蛍光が増強される一方で過剰な負電荷が中和されることによる。総合すると、これらの結果により、蛍光の回復およびクロモフォアのイオン形態の切り換えを同時に伴うCatchERに独特の機構が示唆される。
金属結合特性:一連の証拠により、単純なCatchER−Ca2+ストイキオメトリー反応が裏付けられる。ジョブプロット(Job Plot)により、Ca2+がCatchERと1:1複合体を形成し(図26C)、Ca2+滴定に反応した蛍光変化は1:1結合式にあてはめることができる(図21B)ことが示唆される。ミオグロビン(非カルシウム結合性タンパク質)、EGFP(非カルシウム結合性タンパク質)、CatchER、およびα−ラクトアルブミン(Kd=10−9MのCa2+結合タンパク質)をCa2+と一緒に使用した平衡透析実験により、CatchERがCa2+と弱い親和性で結合することが実証される(図27Aおよび27B)。
設計されたCatchERのCa2+結合部位の近くのいくつかの残基のCa2+に誘導される化学シフトの変化(図22A〜22C)も1:1結合プロセスにあてはめることができ、Kd値は蛍光変化によって決定されるKd値と一致する。CatchERは最も強力なCa2+結合親和性を示し、見かけのKdは0.18±0.02mMであり、一方D9は最も弱いCa2+結合親和性を有し、見かけのKdは10mMのTris、pH7.4中で0.95±0.08mMである(図20L)。CatchERの解離定数は、100mMのKClの存在下で0.48±0.07mMまで増加し、これは、Ca2+の静電気的相互作用と一致する。Na+、K+、Cu2+、Zn2+、Mg2+、ATP、GTP、およびGDPは、Ca2+とCatchERとの結合について競合することができず(図21C)これは、その良好な選択性を実証している。
CatchERのin vitroにおける動力学的特性:ストップフロー分光光度計を用いて、10μMのCatchERを種々の濃度のCa2+と混合した際の蛍光変化を記録した。ベースラインは、Ca2+を含まない緩衝液と混合したCatchERに対応した。ストップフロー分光光度計の遅延時間(すなわち、2.2ms)内に40%から60%の間の最初の蛍光の増加が起こった。Ca2+濃度に応じたΔFのプロットにより、双曲的なパターンがもたらされ、Kd値は0.19±0.02mMであり、同じ条件における蛍光平衡滴定によって決定されたKd0.18±0.02mMと合理的に一致した(図20L)。観察された速度定数は、50μMから1000μMの間のカルシウム濃度には依存せず、平均値は73±16s−1であった。
CatchER:Ca2+オフ速度を、10μMのCatchERを10μMのCa2+と、それに加えてEGTAを用いて平衡化した後の蛍光シグナルの変化を直接モニターすることによって測定した。計器の遅延時間(2.2ms)内に約70%の蛍光変化が完了し、これは非常に速いCa2+放出と一致した。CatchERからのCa2+放出のために必要な種類の一次プロセスの75%を完了するために2つの半減期が必要である場合、図26Eのデータから約700s−1のkoff値を推定することができる。本発明者らが知る限り、CatchERが報告されたCa2+センサーすべての中で最も速いオフ速度を示す。
高分解能NMRによるCa2+−CatchER相互作用の構造解析:設計されたCa2+結合部位を導入した後、CatchERとEGFPの間のCα化学シフトについて、結合部位の近くのY143、T153などの残基またはクロモフォアの周囲のV68は1.5ppmを超える変化を示したが、大多数の残基の変化は0.4ppm未満であった(図29C)。この所見は、荷電したリガンド残基を付加することにより、局所的なクロモフォアのコンフォメーションが変化し、蛍光が低下し、クロモフォアがイオンの状態からその中性の状態にシフトすることを示唆している。
動的NMRによると、Ca2+センサーは溶液中で単量体のままである。Ca2+が結合することにより、設計されたCa2+結合部位の近くに位置するT153残基、Y143残基、L42残基、およびT43残基のHSQCスペクトルの有意な化学シフトの変化がもたらされる(図29C)。設計された部位の近くのY143の主鎖が最も大きなシフトを示したことに留意されたい。これらの化学シフトは1:1結合式にあてはまり、Kd値は蛍光測定によって決定されたKd値と一致し(図21B)、これは、これらの残基間の高い相関を示唆している。他方では、クロモフォアに向かって突き出ているが、設計されたCa2+結合部位からは離れている残基R96、Q94、F165、およびV61は、有意な化学シフトの変化を示さず、これは、Ca2+が設計された部位に特異的に結合することを示している。
NMRにより、HSQCスペクトルのクロモフォアシグナルの欠如にもかかわらず、Ca2+に誘導されるクロモフォアの変化がさらに明らかになり得る。Q69はタンパク質の内側に覆い隠されており、クロモフォアと水素結合を形成する。その単一の共鳴はCa2+の付加に伴って徐々に2つになり(図22B)、これは、Ca2+が結合することにより、Q69が速い交換状態から2つの異なる遅い交換コンフォメーションに変換されることを示唆している。E222のカルボキシル基とクロモフォアのフェノールの酸素の間に形成される水素結合が、その蛍光強度にとって極めて重要であり、この残基により、報告されている野生型EGFPのX線構造におけるL42との主鎖水素結合が形成される(pdb ID=1EMA)。L42は、有意なCa2+に誘導される化学シフトの変化も示す。吸収および蛍光試験ならびに高分解能NMRから、速いカイネティクスを伴うCa2+に誘導される蛍光の増強を、2つのクロモフォアのイオンの状態の化学的な交換を減速させる、設計されたCa2+結合部位の近くの局所的なコンフォメーションの変化に帰することができる(金属結合により起こる蛍光)。さらに、直接的な金属相互作用による蛍光変化は、コンフォメーションの変化による間接的な相互作用よりも速い可能性がある。G1について観察された通り、Ca2+の結合に誘導される蛍光変化は遅い速度でイオンの状態の間を迂回もし、これにより本開示のセンサーとGCaMPが区別されるが、どちらもCa2+に反応して488nmにおいて同様の蛍光の増強を示す。
種々の細胞型における小胞体Ca2+の濃度および放出:CatchERを、足場EGFPのN末端またはC末端において、それぞれカルレティキュリンシグナルペプチドおよびKDELと融合して、それをERにターゲティングした(図23B)。HEK−293細胞およびC2C12細胞に共局在するCatchERおよびERトラッカーDsRed2−ERの共焦点顕微鏡により、ERに対するCatchERのターゲティング特異性がさらに確認される(図30Aおよび30B)。
CatchERのCa2+結合親和性を決定するために、透過処理したC2C12筋芽細胞を記載の通り濃度を漸増させたCa2+に曝露させた。CatchERのKdは、BHK細胞では1.07±0.26mMであり、C2C12細胞では1.09±0.20mMであった。実験の最後に、蛍光強度は較正前の値に完全に回復し、これは、透過処理したBHK細胞およびC2C12細胞においてCatchERが洗い流されなかったことを実証し、さらに、そのERへのターゲティングおよびERにおける保持を裏付ける。HeLa細胞、HEK293細胞、およびC2C12細胞における安静時のERのCa2+濃度は、それぞれ396±13.2(n=7)、742±134(n=5)、および813±88.6μM(n=11)であり、いくつかのカメレオンに基づくERセンサーを使用して報告されたERのCa2+濃度100〜900μMと一致した。
ATPによるERのCa2+放出の惹起を、インタクトなC2C12筋芽細胞において測定し(図23A)、同じバッチの細胞をジギトニンによって透過処理してIP3に誘導されるCa2+シグナル伝達を検出した(図23B)。IP3を洗い落とすと蛍光が回復し、タプシガルジンを添加することによりERのCa2+濃度の減少が遅くなった。再度IP3を添加することにより、蛍光が急速に減少して以前のようにプラトーになり、洗浄した後に回復は観察されず、これはタプシガルジンによりSERCAポンプが完全に阻害されたことを示唆している。
インタクトな細胞において、CatchERにより、4−クロロ−m−クレゾール(4−CmC)によって引き出されるリアノジン受容体を通じたCa2+放出を検出することができる。対照的に、ERにおいて同時発現させたmCherryについては薬物に関連する反応は観察されなかった(図23Cおよび23D)。C2C12筋芽細胞において、Fura−2を用いて細胞質ゾルCa2+をモニターした(図24)。4−CmCにより濃度依存性のSRのCa2+枯渇が引き出され、一方、500μMの4−CmCおよび2μMのタプシガルジンを一緒に添加することにより、完全なSRのCa2+枯渇が誘導された(図23E)。CatchERにより、HeLa細胞およびHEK293などの興奮性細胞および非興奮性細胞における、ATP、ヒスタミン、タプシガルジン、およびシクロピアゾン酸に反応したERのCa2+放出が報告される(図31E〜31G、31J)。
キット:本開示は、本開示による分析物センサー、タンパク質を所望の行先および方向へと送達することを容易にすることができる関連する作用剤(それらの使用のための使用説明書)を含み得る(それだけに限られない)キットをさらに包含する。上に列挙されている成分は、本明細書に記載の通りモニターされる特定の生物学的な事象に合わせて調整することができる。宿主細胞をトランスフェクトすることにおいて使用するため、または分析物センサーを用いて標的ポリペプチドを標識するためのキットは、分析物センサーをコードする核酸分子を使用して組み立てることができる。宿主細胞トランスフェクションキットは、分析物センサーをコードする核酸分子(または、上記の核酸分子またはプラスミドのうちの1つまたは複数を含む組成物)のうちの1つまたは複数を含有する少なくとも1つの容器を含んでよく、核酸分子はプラスミドを含むことが好ましい。キットは、上に列挙されている成分の種々の組み合わせを宿主細胞または宿主生物体に投与するための当技術分野で既知の適切な緩衝液および試薬をさらに含んでよい。本開示の成分および担体は、溶液中で、または凍結乾燥した形態で提供することができる。キットの成分が凍結乾燥した形態である場合、キットは、任意選択で、滅菌した生理的に許容される再構成用媒体、例えば、水、生理食塩水、緩衝生理食塩水などを含有してよい。
したがって、本開示の一態様は、複数の負荷電残基を含む金属イオン結合部位を有する工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドを含む分析物センサーであって、負荷電残基が五角両錐形状に配向された複数のカルボキシル酸素を含み、前記形状により、工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドのクロモフォア領域と作動的に相互作用する金属イオン結合部位がもたらされ、その結果、金属イオン分析物と分子認識モチーフが結合することにより、蛍光ホストポリペプチドにより放出される蛍光シグナルの放出、および任意選択で、工学的に作製された蛍光ホストポリペプチドの吸収スペクトルが調節される、分析物センサーの実施形態を包含する。
本開示のこの態様の実施形態では、負荷電残基が3つの逆平行ベータシートの表面上にある。
本開示のこの態様の実施形態では、負荷電残基はベータカン構造を有するタンパク質の3つの鎖に広がっている。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーのアミノ酸配列は、配列番号104〜105および113〜159からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の類似性を有し得る。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーのアミノ酸配列は、配列番号105からなる群から選択される配列に対して少なくとも95%の類似性を有し得る。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーのアミノ酸配列は、配列番号104〜105および113〜159からなる群から選択される配列に従う。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーのアミノ酸配列は、配列番号105に対して少なくとも90%の類似性を有し得る。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーのアミノ酸配列は、配列番号105からなる群から選択される配列に対して少なくとも95%の類似性を有し得る。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーのアミノ酸配列は配列番号105に従う。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーを、カルシウムイオン、鉛イオン、ガドリニウムイオン、ランタンイオン、テルビウムイオン、アンチモンイオン、ストロンチウムイオン、水銀イオン、およびカドミウムイオンからなる群から選択される金属イオンに結合させることができる。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、分析物センサーを、カルシウムイオンからなる群から選択される金属イオンに結合させることができる。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーは、細胞の小胞体または筋小胞体を選択的にターゲティングするためのターゲティングモチーフさらに含んでよい。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーは、それに結合した分析物の存在下で蛍光シグナルを放出し、その蛍光シグナルにより分析物と分析物センサーとの結合が示される。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物センサーは、分析物の不在下で第1の蛍光シグナルを放出することができ、分析物センサーに結合した分析物の存在下で第2の蛍光シグナルを放出することができ、第1の蛍光シグナルと第2の蛍光シグナルとが区別できる状態で検出可能である。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、センサーは可溶化されている。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、センサーは固体表面に付着している。
本開示の別の態様は、試験試料において分析物を検出するために配合することができる分析物センサーの一実施形態を含む組成物の実施形態を包含する。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、組成物は、動物またはヒト宿主の組織または細胞において分析物を検出するために配合することができる。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、組成物は、単離された細胞もしくは組織において、または培養細胞もしくは培養組織において分析物を検出するために配合することができる。
本開示のこの態様の実施形態では、組成物は、液体において分析物を検出するために配合することができる。
本開示のこの態様の実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでよい。
本開示のさらに別の態様は、本開示による分析物センサーおよび分析物センサーにより分析物を検出するために分析物センサーを使用するための説明書を含むパッケージを含むキットの実施形態を包含する。
本開示のさらに別の態様は、分析物を検出するための方法であって、(i)本開示による分析物センサーを用意するステップと、(ii)分析物センサーの分子認識モチーフに対する親和性を有する分析物を含むことが疑われる試験試料を用意するステップと、(iii)分析物センサーの分子認識モチーフに対する親和性を有する分析物を含むことが疑われる試験試料の不在下で分析物センサーにより放出される第1の蛍光シグナルを検出するステップと、(iv)分析物センサーを試験試料と接触させるステップと、(v)試験試料と接触している分析物センサーにより放出される第2の蛍光シグナルを検出するステップと、(vi)第1の蛍光シグナルと第2の蛍光シグナルを比較するステップであって、シグナルのレシオメトリック変化により、試験試料中の分析物が分析物センサーと相互作用していることが示されるステップとを含む方法の実施形態を包含する。
本開示のさらに別の態様は、分析物を検出するための方法であって、(i)本開示による分析物センサーを用意するステップと、(ii)分析物センサーの分子認識モチーフに対する親和性を有する分析物を含むことが疑われる試験試料を用意するステップと、(iii)分析物センサーの分子認識モチーフに対する親和性を有する分析物を含むことが疑われる試験試料の不在下で分析物センサーに由来する第1の吸収シグナルを検出するステップと、(iv)分析物センサーを試験試料と接触させるステップと、(v)試験試料と接触している分析物センサーに由来する第2の吸収シグナルを検出するステップと、(vi)第1の吸収シグナルと第2の吸収シグナルを比較するステップであって、吸収シグナルのレシオメトリック変化により、試験試料中の分析物が分析物センサーと相互作用していることが示されるステップとを含む方法の実施形態を包含する。
本開示のさらに別の態様は、分析物を検出するための方法であって、(i)本開示による分析物センサーを用意するステップと、(ii)分析物センサーの分子認識モチーフに対する親和性を有する分析物を含むことが疑われる試験試料を用意するステップと、(iii)分析物センサーの分子認識モチーフに対する親和性を有する分析物を含むことが疑われる試験試料の不在下で分析物センサーにより放出される第1の蛍光シグナルを検出するステップと、(iv)分析物センサーを試験試料と接触させるステップと、(v)試験試料と接触している分析物センサーにより放出される第2の蛍光シグナルを検出するステップと、(vi)第1の蛍光シグナルと第2の蛍光シグナルを比較するステップであって、シグナルの寿命のレシオメトリック変化により、試験試料中の分析物が分析物センサーと相互作用していることが示されるステップとを含む方法の実施形態を包含する。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、分析物の不在下での第1の蛍光シグナルはゼロ放出である。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、第1の蛍光シグナルと第2の蛍光シグナルは波長が異なり、波長の違い、および任意選択でその強度の違いにより、試験試料中の分析物が分析物センサーと相互作用していることが示される。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、第1の蛍光シグナルと第2の蛍光シグナルの強度が異なり、強度の違いにより、試験試料中の分析物が分析物センサーと相互作用していることが示される。
本開示のこの態様の実施形態では、シグナルの強度のレシオメトリック変化により、試験試料中の分析物の定量的測定がもたらされる。
本開示のこの態様の実施形態では、吸収におけるシグナルの強度のレシオメトリック変化により、試験試料中の分析物の定量的測定がもたらされる。
本開示のこの態様の実施形態では、寿命シグナルの変化により、試験試料中の分析物の定量的測定がもたらされる。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、分析物は、カルシウムイオン、鉛イオン、ガドリニウムイオン、ランタンイオン、テルビウムイオン、アンチモンイオン、ストロンチウムイオン、水銀イオン、およびカドミウムイオンからなる群から選択される金属イオンである。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、試験試料は、動物もしくはヒト対象の細胞もしくは組織、または動物もしくはヒト対象から単離された細胞もしくは組織である。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、該方法をin vitroで実施する。
本開示の別の態様は、本開示による分析物センサーをコードする組換え核酸の実施形態を包含する。
本開示のこの態様の実施形態では、組換え核酸は、ベクター核酸配列をさらに含んでよい。
本開示の別の態様は、本開示による組換え核酸を含む遺伝子改変細胞の実施形態を包含する。
本開示のこの態様の実施形態では、細胞は、組換え核酸によりコードされる分析物センサーを発現する。
本開示のこの態様の実施形態では、細胞において発現される分析物センサーにより検出可能な蛍光シグナル、吸収シグナル、および/または寿命の変化がもたらされ得、前記シグナルにより、細胞中の分析物の定性的または定量的指標がもたらされる。
本開示の別の態様は、分析物の細胞活性を特徴付けるための方法であって、(i)請求項1に記載の分析物センサーを発現する組換え核酸を含む遺伝子改変細胞を用意するステップと、(ii)遺伝子改変細胞において分析物センサーを発現させ、分析物センサーから生じるシグナルを測定するステップと、(iii)分析物センサーにより放出される第1の蛍光シグナルを検出するステップと、(iv)細胞において生理的事象が誘導された後に分析物センサーにより放出される第2の蛍光シグナルを検出するステップと、(v)第1の蛍光シグナルと第2の蛍光シグナルを比較するステップであって、シグナルのレシオメトリック変化により、細胞における生理的事象に関連する細胞における分析物のレベルの変化が示されるステップとを含む方法の実施形態を包含する。
本開示の別の態様は、分析物の細胞活性を特徴付けるための方法であって、(i)本開示による分析物センサーを発現する組換え核酸を含む遺伝子改変細胞を用意するステップと、(ii)遺伝子改変細胞において分析物センサーを発現させ、分析物センサーから生じるシグナルを測定するステップと、(iii)分析物センサーにより放出される第1の吸収シグナルを検出するステップと、(iv)細胞において生理的事象が誘導された後に、分析物センサーにより放出される第2の吸収シグナルを検出するステップと、(v)第1の吸収シグナルと第2の吸収シグナルを比較するステップであって、吸収シグナルのレシオメトリック変化により、細胞における生理的事象に関連する細胞における分析物のレベルの変化が示されるステップとを含む方法の実施形態を包含する。
本開示の別の態様は、分析物の細胞活性を特徴付けるための方法であって、(i)本開示による分析物センサーを発現する組換え核酸を含む遺伝子改変細胞を用意するステップと、(ii)遺伝子改変細胞において分析物センサーを発現させ、分析物センサーから生じるシグナルを測定するステップと、(iii)分析物センサーにより放出される第1の蛍光シグナルを検出するステップと、(iv)細胞において生理的事象が誘導された後に分析物センサーにより放出される第2の蛍光シグナルまたは吸収シグナルを検出するステップと、(v)第1の蛍光シグナルと第2の蛍光シグナルを比較するステップであって、シグナルの寿命のレシオメトリック変化により、細胞における生理的事象に関連する細胞における分析物のレベルの変化が示されるステップとを含む方法の実施形態を包含する。本開示のこの態様の実施形態では、遺伝子改変細胞は、単離された遺伝子改変細胞である。
本開示のこの態様の実施形態では、分析物は、カルシウムイオン、鉛イオン、ガドリニウムイオン、ランタンイオン、テルビウムイオン、アンチモンイオン、ストロンチウムイオン、水銀イオン、およびカドミウムイオンからなる群から選択される金属イオンである。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態では、分析物はカルシウムイオンである。
以下の実施例は、どのように方法を実施し、本明細書において開示され、特許請求されている組成物および化合物を使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために提示される。数(例えば、量、温度など)に関して正確さを確実にするための試みが行われているが、いくらかの誤差および偏差を考慮に入れるべきである。別段の指定のない限り、部は重量部であり、温度は℃単位であり、圧力は、大気または大気付近の圧力である。標準の温度および圧力は、20℃および1気圧と定義される。
比率、濃度、量、および他の数値的なデータは、本明細書では範囲形式で表され得ることに留意するべきである。そのような範囲形式は便宜上、簡潔にするために使用され、したがって、範囲の制限として明確に記載されている数値が含まれるだけでなく、その範囲内に包含される個々の数値または部分範囲もすべて、各数値および部分範囲が明確に記載されているかのように含まれるように柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。例示として、「約0.1%〜約5%」の濃度範囲は、明確に記載された濃度である約0.1wt%〜約5wt%を含むだけでなく、示されている範囲内の個々の濃度(例えば、1%、2%、3%、および4%)および部分範囲(例えば、0.5%、1.1%、2.2%、3.3%、および4.4%)も包含すると解釈されるべきである。ある実施形態では、「約」という用語は、従来の数値の有効数字による丸めを包含し得る。さらに、「約「x」〜「y」」という句は、「約「x」〜約「y」」を包含する。
(実施例1)
EGFPに基づいたCa2+センサーの構築:CaM、ループ−IIIのCa2+結合モチーフ(DKDGNGYISAAE(配列番号113)およびEFハンドモチーフEEEIREAFRVFDKDGNGYISAAELRHVMTNL(配列番号114))を、以前に報告されている高感度GFP(EGFP)内に挿入し(本明細書に参照により組み込まれている、J.Biotechnol.119:368〜378)、その挿入物を自動化DNAシークエンシングにより検証した。
Ca2+結合モチーフを移植したEGFP変異体をコードするcDNAを、BamH1とEcoR1制限酵素部位との間に、細菌および哺乳動物発現ベクター内にクローニングした。細菌発現のために、6×His−タグを有するベクターpET28(a)を利用した。哺乳動物発現のために、タンパク質をコードするDNAをpcDNA3.1+ベクター内にサブクローニングした。ER保持配列、KDELをC末端に付着させ、カルレティキュリン(CRsig)のERターゲティング配列、MLLSVPLLLGLLGLAAAD(配列番号112)を、PCRによりEGFPに基づいたCa2+センサーのN末端に付着させた。コザックコンセンサス配列を、哺乳動物細胞におけるタンパク質発現の最適な開始のためにカルレティキュリン配列のN末端に配置した。N末端およびC末端においてそれぞれ、CRsigおよびKDELシグナルペプチドを含有する、DsRed2−ER(BD Biosciences Clontech)を、共局在化実験においてERのためのマーカーとして使用した。37℃における折り畳みを改良するために、2つのさらなる突然変異体、M153TおよびV163Aもまた、Ca2+センサー(Nature Biotechnol.14:315〜319、Biochemistry 39:12025〜12032、それらの各々は本明細書に参照により組み込まれる)に加えた。
(実施例2)
EGFPおよびその変異体の発現および精製:EGFPおよびその変異体を大腸菌BL21(DE3)において発現させた。0.2mMのイソプロピルβ−D−チオガラクトシド(IPTG)とのタンパク質インキュベーションの前に、0.6より大きいO.D.600まで、30μg/mlのカナマイシンを含有するLB培地中で37℃にて細胞を増殖させた。EGFPはin vivoで37℃にて減少した蛍光を呈示したので、EGFPの可溶性の成熟形態の高レベルの発現が、30℃にてLB培養液中で培養物を一晩増殖させることにより達成された。EGFPおよびその変異体を、細胞ペレットの超音波処理および20分間、22,500×gでの遠心分離により精製した。Hitrap Ni2+キレートカラム(Amersham Biosciences)に接続した高速液体クロマトグラフィー(FPLC)システム、AKTAprime内に上清を注入した。タンパク質は、50mMのNaH2PO4/Na2HPO4および250mMのNaCl(pH7.4)中のイミダゾールの勾配でカラムから溶出し、質量分析により確認した。10mMのTrisおよび1mMのDTT(pH7.4)に対する透析によりイミダゾールを除去した。
紫外・可視吸収分光法:EGFPおよびその変異体の紫外・可視吸収スペクトルを、Shimadzu UV−1601分光光度計を用いて決定した。タンパク質濃度を、芳香族残基(1Trpおよび11Tyr)(TrpおよびTyrについてそれぞれ5500および1490M
−1cm
−1)の寄与から算出したEGFP−wtについての21,890M
−1cm
−1のモル減衰係数を使用して280nmでの吸光度により決定した。EGFP変異体の減衰係数(398nmまたは490nmにて)を式(1)を用いて得た。
式中、εpはEGFP変異体の398nmまたは490nmにおける減衰係数であり、εp,280nmはEGFP変異体の280nmにおける減衰係数であり、Apは398nmまたは490nmにおけるEGFP変異体の吸収であり、Ap,280nmは280nmにおけるEGFP変異体の吸収である。EGFPはEGFP変異体の減衰係数の測定における基準として使用した。
蛍光分光法:EGFPおよびその変異体の特性を、20℃で10mmの経路長石英セルを用いる蛍光分光光度計(Photon Technology International,Inc.)を使用してモニターした。タンパク質におけるクロモフォアの蛍光スペクトルを、398および490nmの励起波長をそれぞれ用いて410〜600nmおよび500〜600nmの発光領域において測定した。Ca
2+濃度に応じて398および490nmにて励起した場合、500〜600nmにおける発光比を利用して、式2に1:1金属結合式を適合させることにより、種々のEGFPに基づいたCa
2+センサーのCa
2+結合についての見かけの解離定数K
dを算出した。
式中、fはCa
2+結合タンパク質の画分であり、[P]
Tは全タンパク質濃度(mM)であり、[Ca]
Tは全Ca
2+濃度(mM)であり、K
dはタンパク質のCa
2+解離定数である。Ca
2+と結合したタンパク質の画分は式3に従って算出した。
式中、R
min、R、R
maxはそれぞれ、Ca
2+を含まない、Ca
2+が結合した、およびCa
2+が飽和したタンパク質についての蛍光発光比(398および490nmで励起される)またはストップフロー分光蛍光光度計を用いて測定した振幅である。蛍光発光比(398および490nmで励起される)は式4にデータを適合させることによって得た。
式中、F(398nm)およびF(490nm)はそれぞれ、398および490nmで励起される500〜600nmの範囲における積分した蛍光強度である。Ca2+センサーのダイナミックレンジの値は、Ca2+が飽和した状態(Rmax)の398および490nmで励起される蛍光発光比をCa2+を含まない状態(Rmin)のもので割ることにより算出した。
EGFPに基づいたCa2+センサーのCa2+結合についての見かけの解離定数(Kd)もまた、ローダミン−5Nとの競合滴定により測定した。ローダミン−5Nは、100mMのTris、pH7.4中のCa2+について319±13μMのKdを有する蛍光色素(Molecular Probes)である。552nmにおいて63,000M−1cm−1の減衰係数を使用して色素濃度を算出した。色素(10μM)およびタンパク質の濃度を一定に維持することによって異なるCa2+濃度による測定を実施した。552nmで励起される1cmの経路長のセルを用いて560〜650nmの蛍光発光シグナルを測定した。励起および発光のスリット幅はそれぞれ2および4nmに設定した。金属および2つのリガンドモデルを用いるSpecfit/32(Spectrum Software Associates)を使用して560〜650nmのスペクトルを全体的に適合させることによって見かけの解離定数を得た。
0.1μMのCu
2+、0.1mMのZn
2+、10.0mMのMg
2+、5.0μMのTb
3+、または5.0μMのLa
3+を含む金属イオンの存在下で1.0mMのCa
2+を用いて蛍光比F
(398nm)/F
(490nm)の変化をモニターすることによってEGFPに基づいたCa
2+センサーのCa
2+選択性を検査した。式5を使用して比の正規化した変化(ΔR)を算出した。
式中、R0は、Ca2+の不在下でのEGFPに基づいたCa2+センサーと、金属イオンとの比であり、RCaは、EGFPに基づいたCa2+センサーと、金属イオンの不在下での1.0mMのCa2+との比であり、Rmetalは、EGFPに基づいたCa2+センサーと、金属イオンの存在下での1.0mMのCa2+との比である。式(5)をまた使用して、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、グアノシン三リン酸(GTP)、グアノシン二リン酸(GDP)、およびグルタチオン(GSH)を含む低分子の、GFPに基づいたCa2+センサーのCa2+応答に対する効果を検査した。データを百分率として表す。
ストップフロー分光蛍光分析:ストップフロー動力学測定を、以前に記載されているように(J.Am.Chem.Soc.127:2067〜2074)、20℃にて1:1(v/v)比のタンパク質センサーとカルシウムを用いてHi−Tech SF−61ストップフロー分光蛍光光度計(10mmの経路長、2ms未満の不感時間)で実施した。398nmおよびロングパス455nmフィルタにおける励起を用いて10mMのTrisおよび1mMのDTT(pH7.4)中でCa
2+とCa−G1とを混合することによりCa−G1に対するCa
2+の結合に関連する蛍光発光変化を決定した。Ca
2+の濃度は0〜10mMの範囲であった。10mMのTrisおよび1mMのDTT(pH7.4)中のCa
2+を予め負荷したCa−G1と同じ緩衝液との混合時に、Ca−G1からのCa
2+の解離に関連する蛍光発光変化を測定した。全体として、各点について6回の繰り返し測定を実施し、最後の3回を適合させて、観察比、k
obsを得た。式6に示した単一指数関数に従ってストップフロートレースを適合することによって、各Ca
2+濃度についてのk
obsを得た。
式中、Ftは任意のストップフロー時間における蛍光強度であり、F0は開始蛍光強度であり、Ampは所与のCa2+濃度におけるプロセスの終わりの蛍光シグナルの最終値であり、kobsは、蛍光変化(s−1)の観察比であり、tは反応時間(s)である。測定は典型的に繰り返し実験の間で1%未満だけ異なった。
(実施例3)
細胞培養およびトランスフェクション:BHK−21細胞およびHeLa細胞の両方を、加湿インキュベーションチャンバー中で5%のCO2を用いて37℃にて、44mMのNaHCO3、pH7.2を有し、10%(v/v)のウシ胎仔血清(FBS)、100U/mlのペニシリンおよび0.1mg/mlのストレプトマイシン(Pen/Strep)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)入りの100mm培養ディッシュまたは35mm培養ディッシュ中のガラスのカバースリップ(0.5〜1.0×106細胞/ディッシュ)で増殖させた。Ca2+センサープラスミド構築物を用いた一過性トランスフェクションの前に、細胞を播種し、一晩増殖させた。
トランスフェクションのために使用したプラスミドDNAを、QIAGENミニプレッププロトコール(Qiagen)を使用して形質転換した大腸菌(DH5α)から回収した。GFP変異体の各々を、製造業者の指示書により、Lipofectamine−2000(Invitrogen Life Technologies)および無血清Opti−MEMI(Gibco Invitrogen Corporation)を用いてBHK−21およびHeLa細胞内に個々にかつ一過性にトランスフェクトした。1:1から1:3(μg/μl)の間のDNA対Lipofectamineの比を用いてプラスミドDNA(2μg)を典型的なトランスフェクションにおいて全体的に使用した。37℃にて4時間のインキュベーション後、DNA−Lipofectamine複合体を含有する培地を除去し、FBSおよびPen/Strepを豊富に有するDMEMと交換した。次いで蛍光または共焦点顕微鏡画像化前に、30または37℃にて5%のCO2を用いて加湿チャンバー内で細胞を1〜3日間増殖させた。
(実施例4)
共焦点顕微鏡画像化:100×油浸対物レンズ(Zeiss、Fluar、1.30n.a.)を使用するLSM510レーザ共焦点顕微鏡(Carl Zeiss Inc.、Thornwood、NY)での生の画像化実験のために、BHK−21細胞およびHeLa細胞を、DMEMから、10mMのHEPES、5mMのNaHCO3、1mMのEGTA、およびpH7.2を有する、二価カチオンを有さないハンクス平衡塩類溶液(HBSS(−−)、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)培地に移した。画像化前に、細胞および緩衝液を周囲温度にもたらし、室内の空気と平衡化した。EGFPに基づいたCa2+センサーの局在化を、488nmラインのアルゴンレーザを用いたEGFPの励起により可視化し、最も狭いバンドパスフィルタ(505〜530nm)を発光のために利用した。543nmラインのHe−Neレーザを用いてDsRed2−ERを励起し、ロングパスフィルタ(560nm超の発光)により発光を検出した。Zeiss LSM510ソフトウェア(Carl Zeiss,Inc.)を使用して、画像収集パラメータを制御した。高解像度(1024×1024)ですべての画像を獲得した。
(実施例5)
蛍光顕微鏡画像化およびその定量化:BHK−21細胞を、GFP変異体でのトランスフェクションの1〜3日後に画像化した。二重励起能力を用いてMetafluorソフトウェア(Universal Imaging)を作動しているNikon TE200顕微鏡を細胞画像化実験のために使用した。385nmおよび480nmの励起波長に応答するEGFPに基づいたCa
2+センサー(510nmにて測定した)の蛍光発光の比を測定して、時系列実験において[Ca
2+]
ERの変化をモニターした。式7に従ってBHK−21細胞における[Ca
2+]
ERを定量した。
式中、Rは開始状態における385nm/480nm励起についての蛍光発光比(510nmにおいて測定した)であり、RminはCa2+を含まない状態において決定した発光比の最小であり、RmaxはCa2+が飽和した状態における発光比の最大であり、Kdは見かけの解離定数(mM)であり、nはヒル係数(n=1)である。Ca2+を含まない、およびCa2+が飽和した状態をそれぞれ、5μMのイオノマイシンで処理した細胞で得て、1.0mMのEGTAおよび1.0mMのCa2+に曝露した。
(実施例6)
単一の挿入したCa2+結合モチーフを用いたEGFPに基づいたCa2+センサーの設計:図1は、Ca2+結合モチーフ、CaMループ−IIIおよびその隣接ヘリックスの組み合わせを、以下の基準に基づいてEGFPに組み込むことにより作製したCa2+センサーの設計を例示する。最初に、CaM由来のループ−IIIまたはインタクトなEF−ハンドモチーフIIIなどのCa2+結合モチーフを使用して、EGFPにおいてCa2+結合部位を作製した。EF−ハンドモチーフにおける12残基によりCa2+をキレート化する。したがって、CaMのEF−モチーフのペプチド断片がいずれかのCaM標的酵素と相互作用し、それにより、細胞シグナル伝達事象を妨げる可能性が低いセンサーを生成する。移植したループのCa2+結合親和性を、ループおよび隣接ヘリックスにおける変化した残基を修飾することにより変化させることができ(J.Am.Chem.Soc.127:3743〜3750、J.Inorg.Biochem.99:1376〜1383、それらの各々は本明細書に参照により組み込まれる)、任意の設計されたセンサーのCa2+結合親和性を改変する。
3つの組み込み部位を選択した:EGFPのループ−9内のGlu172−Asp173(1位)、ループ−8内のGln157−Lys158(2位)、およびループ−7内のAsn144−Tyr145(3位)。隣接ヘリックスを有するかまたは有さないCaMのループ−IIIを、Ca2+結合モチーフとして使用し、EGFPに基づいたCa2+センサーを構築するために3つの位置に移植した(図1A)。次に、突然変異体M153TおよびV163Aを構築物Ca−G1内に挿入して、37℃にて改良した発現によりセンサーを作製した(Ca−G1−37)(Nature Biotechnol.14:315〜319、Biochemistry 39:12025〜12032、それらの各々は本明細書に参照により組み込まれる)。最後に、Ca−G1を哺乳動物細胞のERに対して特異的に標的とする、ERターゲティング配列および保持配列の両方を有する構築物を設計し、Ca−G1−ERと称する。
(実施例7)
EGFPに基づいたCa
2+センサーおよびEGFPの感受性位置の分光学的特性:Ca
2+センサーの分光学的特性を、精製したタンパク質(pH7.4)を使用して最初に調べた。図2Aおよび2Bは、EGFP−wtおよび異なるCa
2+センサー構築物の可視吸光度および蛍光発光スペクトルを示す。Ca
2+センサーの減衰係数および量子収量を含む分光学的特性を表3に要約する。
EGFP(Ca−G2’およびCa−G2(Ca−G2’のみを図2Aおよび2Bに示す)、図1A)のGln157−Lys158におけるCaMのループ−IIIの挿入により、吸光度強度がわずかに減少したEGFP−wtと同様の分光学的特性を有するタンパク質が得られた。490nmにおける主要な吸光度ピークおよび398nmにおける微小な吸光度ピークは、クロモフォアのアニオン性および中性状態の相対的集団を反映することに留意すべきである。図2Bは、398nmにおける励起(中性状態)が510nmにおける発光ピークに非常に寄与していたことを示す。
表3に示すように、Gln157−Lys158(2位)(Ca−G2’およびCa−G2)に移植したCa2+結合モチーフを有する構築物は、EGFP−wtのものと同様の分光学的特性(398nmおよび490nmの両方における減衰係数および量子収量定数)を有した。EGFP(Ca−G1’)のGlu172−Asp173におけるCaMの組み込んでいるループIIIにより、EGFP−wtと比較して、398nmにおける吸光度のわずかな増加および490nmにおける吸光度の低下を示したタンパク質の形成が得られた。さらに、同じ位置(Ca−G1)にて隣接するEF−ヘリックスを含有するループIIIの挿入により、398nmにおける吸光度がさらに増加し、490nmにおいて低下したタンパク質が得られた。Ca−G1の減衰係数は、EGFP−wtと比較して398nmにおいて2.6倍増加し、490nmにおいて約60%低下した。同時に、蛍光発光の対応する増加がCa−G1’およびCa−G1の両方について観察された(図2B)。
対照的に、クロモフォアはEGFP(Ca−G3’)のAsn144−Tyr145におけるループIIIの挿入後に形成されず、細菌発現および精製したタンパク質における緑色蛍光の欠如により示された。したがって、EGFP内のGlu172−Asp173におけるCa2+結合モチーフの組み込みは、490nmピークにより示されるアニオン性状態から398nmピークにより示される中性状態までのクロモフォアの集団を著しく変化させる。EGFPのGlu172−Asp173はクロモフォア感受性位置の可能性がある。
Ca2+センサー構築物のクロモフォア特性の変化が構造的変化に起因するかどうかを試験するために、CD分析を実施した。すべてのCa2+センサー構築物はEGFP−wt(図7)のものと同様のCDスペクトルを呈示し、Ca2+結合モチーフのEGFP内への挿入が、GFPのβ−シート構造の折り畳みを著しく変化させなかったことを示唆している。
Ca−G1’の光学的特性のpH感受性は、少数のGFPに基づいたバイオセンサーであるので、pH感受性であると報告されている。図8Aおよび8Bは、pHに応じたCa−G1’の吸光度スペクトルを示す。9.0〜5.0までのpHの変化により、398nmにおける吸光度の増加および488nmにおける吸光度の低下が生じた。Ca−G1’のpKaは7.45±0.05であるのに対して、EGFPのpKaは6.0である。これらのデータは、設計したCa2+センサーの光学的特性が、EGFP−wtのものより生理学的pHにおいてpHに対して、より感受性であることを示唆している。
(実施例8)
EGFPに基づいたCa2+センサーの分光学的特性に対するCa2+結合の効果:図3Aに示すように、490nmにおける低下と同時に起こる398nmにおける吸光度の増加が、Ca−G1−37へのCa2+の添加に応答して観察された。同様に、Ca2+結合により、398nmにおける励起での蛍光の増加(図3B)および490nmにおける励起での低下(図3C)が生じた。
ダイナミックレンジ値は1.8であり、Ca
2+が飽和した状態(R
max)の398および490nmにて励起される蛍光発光比を、Ca
2+を含まない状態(R
min)のもので割ることにより算出した(実験手順を参照のこと)。図3Dは、Ca
2+濃度に応じたCa−G1−37の蛍光発光比、F
(398nm)/F
(490nm)を示す。正規化した蛍光発光比の変化は、1:1のCa−G1−37−Ca
2+複合体(式2)として適合でき、そのCa
2+結合親和性についての見かけの解離定数(K
d=0.44±0.04mM)が得られる。EGFPに基づいたCa
2+センサーのCa
2+結合親和性もまた、ローダミン−5N競合滴定アプローチを使用して決定した。これらのCa
2+センサーのCa
2+結合親和性は、異なる技術により決定されるように、0.4〜2mMまで変化した(表4)。
これらの値は、ERなどの細胞コンパートメント内で見いだされたおおよそのカルシウム濃度と一致し、これらのCa2+センサーを、生細胞における生理学的実験のための有望な候補にした。
(実施例9)
EGFPに基づいたCa2+センサーのCa2+選択性:Ca2+についての開発したCa2+センサーの結合選択性を、種々の金属イオンの添加前後に、1.0mMのCa2+の存在下で、比F(398nm)/F(490nm)の変化を測定することにより検査した。細胞中で、Cu2+、Zn2+、およびMg2+についての全金属濃度をそれぞれ、約10μM、約0.1mM、および10mM超と推定する。しかしながら、これらの金属イオンの遊離レベルは全濃度より著しく低く、潜在的な毒性反応に対して細胞を保護する。例えば、細胞内遊離銅は検出されず、その標的タンパク質に直接、銅を割り当てるために銅シャペロンがin vivoで使用される。
図4Aは、Cu2+、Zn2+、Mg2+、Tb3+、およびLa3+の存在下で、センサーCa−G1−37のCa2+応答を示す。Ca2+についてのセンサーの蛍光応答に対するCu2+(0.1μM)の効果は観察されなかった(1.0mMのCa2+についての100%の基準値と比較して101.95±3.02%)ことは留意すべきである。Zn2+(0.1mM)およびMg2+(10.0mM)は蛍光応答のわずかな変化のみを生じた(それぞれ85.71±3.34%および74.29±1.22%に減少)。Tb3+(5.0μM)およびLa3+(5.0μM)などの非生理学的金属イオンは、Ca2+と同様の金属配位特性を有し、センサーのCa2+応答とより強力に競合できる(それぞれ0.15±5.4%および16.0±9.0%)。これらの結果は、開発されたCa2+センサー、Ca−G1−37が、Ca2+、La3+およびTb3+についての十分な金属選択性を有し、他の生理学的金属イオンではより低い程度のみであることを示唆している。
GFPに基づいたCa2+センサーのCa2+応答に対する、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、グアノシン三リン酸(GTP)、グアノシン二リン酸(GDP)、およびグルタチオン(GSH)を含む低分子の効果もまた、それらの添加前後に、1.0mMのCa2+の存在下で、比F(398nm)/F(490nm)の変化を測定することにより分析した。
図4Bは、ATP(0.2mM)、ADP(0.2mM)、GTP(0.1mM)、GDP(0.1mM)、およびGSH(1.0mM)の添加が蛍光応答のわずかな低下のみを生じたことを示す(それぞれ、85.75±13.98%、96.17±1.36%、88.30±8.09%、93.29±1.01%、および89.18±2.90%に減少)。これらの結果は、開発したCa2+センサー、Ca−G1−37が、細胞内環境中でATP、ADP、GTP、GDP、およびGSHを含む低分子と競合する高いCa2+結合親和性を有することを示す。
(実施例10)
EGFPに基づいたCa2+センサーに対するCa2+結合のカイネティクス:図5Aに示すように、Ca−G1と種々の濃度のCa2+との混合により、398nmでの励起を用いて510nmにおいて蛍光発光の急速な増加が生じた。蛍光シグナルの変化は単一指数関数(式6)と一致し、蛍光発光変化についての観察比(kobs)および振幅(Amp)が得られる。
図5Bに示すように、Ca−G1のkobs値はCa2+の濃度を増加させるにつれて低下し、これはスキーム1の動力学モデルと一致し、ここでCa2+は、バイオセンサーの第2の形態と平衡にあるCa−G1の1つの種と急速に会合する。図5Aに示すようにCa2+結合時に観察されるCa−G1の398nmにおいて励起される蛍光発光の増加はさらに、Ca−G1の中性形態がCa2+に結合する種(スキーム1におけるE**)であるのに対して、バイオセンサーのアニオン性形態(E*)はCa2+に結合しないことを示唆している。
この動力学モデルによれば、k
1はCa−G1の中性種へのアニオン性種の変換のための一次速度定数(s
−1)であり、k
2はCa−G1のアニオン性形態への中性種の変換のための一次速度定数(s
−1)であり、K
d2はCa−G1(mM)の中性形態へのCa
2+の結合のための見かけの解離定数を表す。
Ca
2+濃度に応じて決定したk
obs値を式8に適合させることにより、k
1およびk
2値をそれぞれ、9.5±0.3s
−1および14.0±0.6s
−1であると推定し、0.8±0.1mMのK
d2値を決定した。式2を使用することによりCa
2+の濃度に応じた蛍光発光における正規化した振幅を適合することにより、K
d2値を0.6±0.1mMであると独立して推定した(図5C)。測定と関連する誤差の範囲内で、ストップフロー蛍光分光法を使用して決定したK
d値は、分光蛍光光度計を使用する静的滴定において独立して決定したK
d値と一致し、0.8±0.1mMのK
d値を生じた(表1)。同様に、これは、Ca−G1へのCa
2+結合についてのスキーム1の提案されている最小動力学的機構の妥当性を強力に支持し、ここでCa−G1の中性種へのCa
2+結合に関連する蛍光変化の比は、バイオセンサーへのおよびバイオセンサーからのCa
2+の急速な会合および解離と比較して、Ca−G1の中性およびアニオン性形態の相互変換の比を反映する。
スキーム1の最小動力学的機構および図5Aに示したデータによれば、予め負荷したCa−G1からのCa2+の放出は蛍光の低下と関連すると予想され、その蛍光変化の比は、Ca−G1の中性からアニオン性形態への変換の遅速性、すなわちk2を表す。その結果として、ストップフロー分光法を利用して、等体積のCa2+が飽和したセンサーと、10mMのTrisおよび1mMのDTT(pH7.4)とを混合することによりk2を独立して決定した。予想されるように、510nmにおける蛍光強度はCa2+放出後に低下し、蛍光変化の経時変化は単一指数プロセスと一致した(式6)。
図5Dに示すように、16.9±1.0s−1のkobs値を、データを式6に適合させることによってこの実験において推定し、図5Bにおけるデータからのk2について決定した14s−1の値と十分に一致している。同時に、速度論データは、Ca2+がCa−G1の中性形態と急速に会合し、それから解離し、Ca−G1からの蛍光シグナルの強度の変化と関連する中性およびアニオン性種の相対量の変化を生じるという結論を支持している。
Ca−G1に対するCa2+結合により、そのアニオン性と中性状態との間にクロモフォアの化学平衡の急速な変化が生じる(スキーム1)。この結論は、可視吸収、蛍光発光、およびストップフロー蛍光データにより支持される。クロモフォアのアニオン性および中性状態の相互変換についての順および逆速度定数を含む、速度論および熱力学パラメータの両方、ならびにCa−G1へのCa2+の結合についての見かけの解離定数を、ストップフロー蛍光測定を使用して決定した。このアプローチにより、センサーへのおよびセンサーからのCa2+会合および解離の比が、約10から約20s−1の間である、クロモフォアの化学平衡を規定する順および逆一次速度定数(スキーム1におけるk1およびk2)の両方より著しく高くなければならないことが証明された。タンパク質に対するCa2+会合の速度は一般に、1×106M−1s−1と等しいか、またはそれより大きいオン速度(on−rate)(kon)を有する拡散律速プロセスである。Ca−G1についてのこの研究において決定したCa2+結合プロセスについての見かけの解離定数はCa−G1について約0.8mMであるため、約800s−1のオフ速度(koff)がkoff=kon×Kdから推定できる。GFPに基づいたCa2+センサーのオン速度は一般に、Ca2+測定における要因を制限しないのに対して、Ca2+センサーにより呈示される遅いオフ速度は、特に速いCa2+振動について、in vivoでのCa2+濃度の変化をモニターする際にそれらの有用性を制限する。この制限を克服するために、256s−1へのオフ速度定数koffの改良を、GFPに基づいたCa2+センサーにおいてカルモジュリンとそのターゲティングペプチドとの間の結合界面を再設計することにより得た。GFPに基づいたCa2+センサーにおいてクロモフォアのプロトン化速度を最適化することにより、高時間分解能を用いてCa2+シグナルを測定できる、さらなる精度を向上させる手段が提供されるだろう。
(実施例11)
細胞におけるER Ca2+応答のモニタリング:Ca2+センサー、Ca−G1−ERの局在化を、哺乳動物細胞においてこの領域にだけ局在化することが示されているERマーカーDsRed2−ERを細胞に共トランスフェクトすることによりHeLa細胞において確認した。図6は、488および543nmにおいてそれぞれ励起された緑色(A、Ca−G1−ER)および赤色(B、DsRed2−ER)チャネルを通して撮った画像を示す。融合した画像(図6C)は、HeLa細胞のERにおいてERマーカーDsRed2−ERとのCa−G1−ERの完全な共局在化を示す。図6Dは、BHK−21細胞、哺乳動物線維芽細胞系統におけるCa−G1−ERのER分布を示す。図6Aおよび6DにおけるCa−G1−ERの同じ粒状分布は、Ca2+センサーがまた、BHK細胞のERに特異的に局在化することを示唆していることに留意すべきである。対照的に、ERシグナルペプチドを欠いているCa−G1は細胞の細胞質全体にわたって散在的に発現され、それにより、陰性対照(データは図示せず)としての役割を果たした。
BHK−21細胞は、小さな低親和性のCa2+インジケータを使用することによりインタクトな細胞において[Ca2+]ERの生理学的役割を調べるために以前に使用されている。ATP(100μM)は、この細胞種のCa2+動員アゴニストであり、Ins(1,4,5)P3媒介性経路を通してERからのCa2+放出を引き起こす。図6Eに示すように、ATP(100μM)の添加により、510nm(385および480nmにおける励起)において測定した蛍光比の著しい低下(7.3±0.6%の相対変化)が生じた。その実験は同じ実験において画像化した5個の代表的な細胞を示し、その結果は5回の独立した実験において得た典型的な結果である。[Ca2+]ERのこの低下はまた、Ca2+を含まない緩衝液中のATPの適用後に観察され、ATPが、細胞外Ca2+から独立してERからCa2+を放出したことを示唆している。Ca2+保存の補充は、培地中の通常の細胞外Ca2+の存在下で数分を必要とした。同様に、Ca2+を含まない条件下でのCa2+イオノフォア、イオノマイシンの添加は、低下した385nm/480nm蛍光比により示されるようにER保存を著しく空にした。[Ca2+]ERの推定を得るために、式7および表1に示したCa−G1について0.8mMのKdを使用してBHK−21細胞において疑似校正を実施した(図6F)。385nm/480nm蛍光比は、Ca2+を含まない培地(EGTA)での洗浄およびその後のCa2+を含まない培地へのイオノマイシン(約5μM)の添加後、最小値(Rmin)まで低下した(フリーウェアプログラム「Bound and Determined」を使用して10nM未満のCa2+を含有すると推定した)。ミリモル濃度の細胞外Ca2+(約1mM)の添加により、385nm:480nm蛍光比の最大(Rmax)で飽和状態に近づいたプラトーを有するCa2+シグナルの大きな増加が生じた。BHK−21細胞のERの開始Ca2+濃度は式7を使用して1mM未満であると推定し、ATP(100μM)の添加により、[Ca2+]ERが約0.15mMまで減少した(図6F)。予想されるように、野生型対照構築物、EGFP−wt−ERをトランスフェクトした細胞において上記の実験プロトコールに応答する顕著な蛍光シグナルの変化は観察されなかった(データ
は図示せず)。これらの画像化実験により、生細胞におけるこの新規クラスのCa2+センサーの有用性が実証され、それらの将来の適用が、Ca2+シグナル伝達およびCa2+恒常性におけるERの役割の調査を促進すると予測される。
(実施例12)
変異体構築物:不連続カルシウム結合部位(S2D、S86D、L194E)、サイクル3(F99S、M153T、V163A)突然変異体を有するGFP変異体EGFP−D2(配列番号64)を、開始テンプレートとしてEGFP(S65T、F64L、V22L、M218I、H231L)を用いる製造業者の指示に従って、PCRおよびターボpfu(Strategene)を用いて部位特異的突然変異誘発法により作製した。
EGFP−G1は、ターボpfuを利用するPCRの数ラウンドによって挿入された連続したEF−ハンドCa2+結合モチーフIIIを含有する。線状DNAを、製造業者の指示書に従ってT4DNAリガーゼ(Promega)を用いてライゲーションし、環状DNAを、DNA増幅のための大腸菌DH5αコンピテント細胞内に形質転換した。自動化シークエンシングにより変異DNAを検証した。N末端とC末端との間にBamHIおよびEcoRI制限酵素部位を有するEGFP変異体をコードするcDNAを、CMVプロモーターを使用する哺乳動物発現ベクターpcDNA3.1+内にサブクローニングした。
(実施例13)
細菌発現および精製:LB−カナマイシン(30μg/mL)中で大腸菌BL21(DE3)を使用して6×His−タグを有するベクターpet28a(EMD Biosciences)からタンパク質を発現させた。0.2mMのIPTGを用いて0.6のO.D600において発現を誘導し、細胞を遠心分離により収集する前に、発現を21時間継続させた。これらの研究のために、誘導後、30℃および37℃の両方に温度を制御した。EGFPおよびその変異体の発現を、Fluo−star機器を用いて510nmにおける蛍光強度および488nmの励起波長でモニターした。
ニッケルを充填したAmersham−Pharmacia 5mL HiTrapキレートHPカラムを用いてタンパク質精製を行った。20mMのTris、10mMのNaCl、0.1%のTriton X−100、pH8.8中で細胞ペレットを再懸濁し、超音波処理した。遠心分離により細胞残屑を除去し、Amersham−Pharmacia AktaPrime FPLCに接続した準備したHiTrapカラム上にタンパク質を負荷した。汚染タンパク質を除去するために洗浄後、イミダゾール勾配を用いて対象のタンパク質を溶出させた。透析により汚染イミダゾールを除去し、pH8.0にてNaCl勾配を用いてHiTrap Qイオン交換カラム(Amersham)を使用してタンパク質をさらに精製した。SDS−PAGEによりタンパク質精製を検証した。
(実施例14)
哺乳動物細胞培養:5%のCO2加湿インキュベーションチャンバーを用いて37℃にて、44mMのNaHCO3、pH7.2を有し、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS)、100U/mlのペニシリンおよび0.1mg/mlのストレプトマイシン(Pen/Strep)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)入りの60mm培養ディッシュ上でHeLa細胞を増殖させた。HeLa細胞を、一過性トランスフェクション前にコンフルエンスまで増殖させた。
トランスフェクションのために使用したプラスミドDNAを、QIAGENのミニプレッププロトコール(Qiagen)を使用して形質転換した大腸菌(DH5α)から回収した。9個のGFP変異体の各々を、製造業者の指示書により、Liptofectamine−2000(Invitrogen Life Technologies)および無血清Opti−MEMI(Gibco Invitrogen Coroporation)を用いてHeLa細胞内に個々にかつ一過性にトランスフェクトした。典型的なトランスフェクションは、タンパク質構築物に応じて1:1から1:3(μg/μl)の間のDNA対Liptofectamineの比を有する1または2μgのプラスミドDNAからなった。倒立落射蛍光画像化の前に、タンパク質発現を48および72時間進行させた。EGFPによる対照トランスフェクションを各構築物と同じ条件で実施した。
(実施例15)
蛍光強度の測定:3つの1ml試料を発現全体にわたる時点で収集し、14Krpmで3分間、遠心分離した。pH7.4にて1mlのTris緩衝液中で細胞ペレットを再懸濁し、390および/または460nmの励起フィルタならびに510nmにおける発光フィルタを有するFLUOstar OPTIMA(BMG Labtech)プレートリーダーを使用して200μlを分析した。
(実施例16)
蛍光顕微鏡検査/画像化およびその定量化:in vivoでの蛍光強度スクリーニングのために倒立落射蛍光顕微鏡(Zeiss Axiovert 200)を利用した。顕微鏡は、標準的なDAPI、FITC、およびTexas Redフィルタ、ならびに透過光を有する、398nm励起および510nm発光を用いるSapphire GFP用のキセノンアークランプ、フィルタを備えていた。Axiocam5CCDカメラをステージに直角で顕微鏡に接続し、データ収集および分析のためにZeiss Axiovision Rel4.3ソフトウェアを使用した。蛍光強度測定のために、Sapphire GFPおよびFITCフィルタを用いて、50〜2000msの露光時間で40×乾燥対物レンズを使用した。ダイナミックレンジ内の蛍光強度を可能にする露光を用いた画像をデータ分析のために利用した。この時間範囲内で測定した蛍光強度は露光時間の線形関数であった。
トランスフェクトした細胞(n>20個の細胞/画像)の面積および平均蛍光強度の両方を測定し、各々の画像化領域における細胞の全平均蛍光強度を、式(9)の計算により得た。
式中、Fは各々の画像内で細胞の398nmまたは480nmにおいて励起した全平均蛍光強度であり、nは蛍光細胞の数である。Siはi番目の蛍光細胞の面積であり、Fiはi番目の蛍光細胞の398nmまたは480nmにおいて励起される平均(mea)蛍光強度である。
EGFP−G1−C3によるトランスフェクションの3日後に、HeLa細胞の398nmまたは480nmにおいて励起される全平均蛍光強度を基準として使用し、他のGFP変異体と共に異なる時間の間増殖させたHeLa細胞の異なる波長で励起される蛍光強度を、式(10)に従ってEGFP−G1−C3蛍光の百分率として表した。
式中、F’はHeLa細胞の398nmまたは480nmにおいて励起される相対蛍光強度であり、FはHeLa細胞の398nmまたは480nmにおいて励起される全平均蛍光強度であり、F0は、EGFP−G1−C3によるトランスフェクション後に3日間インキュベートしたHeLa細胞の398nmまたは480nmにおいて励起される全平均蛍光強度である。
(実施例17)
紫外線(UV)および可視吸収スペクトルの測定:Shimadzu UVおよび600〜220nmの可視光分光光度計を用いてUVおよび可視吸収スペクトルによりEGFPおよびその変異体の分光学的特性を測定した。芳香族残基(1Trpおよび11Tyr)(TrpおよびTyrについてそれぞれ、5500および1490M
−1cm
−1)の寄与から算出した21,890M
−1cm
−1のモル減衰係数を使用して280nmにおけるUV−vis吸光度によりタンパク質の濃度を決定した。EGFP変異体の398nmまたは490nmにおける減衰係数を式(11)により得た。
式中、εpはEGFP変異体の398nmまたは490nmにおける減衰係数であり、εp,280nmはEGFP変異体の280nmにおける減衰係数であり、Apは398nmまたは490nmにおけるEGFP変異体の吸収であり、Ap,280nmは280nmにおけるEGFP変異体の吸収である。変異体の減衰係数の測定における基準としてEGFPを使用した。
(実施例18)
蛍光励起および発光スペクトル:EGFPおよびその変異体の分光学的特性もまた、室温ならびに10mMのTrisおよび1mMのDTT(pH7.4)中の1μMの濃度にて、1cmの経路長の石英セルを有する蛍光分光光度計(Hitachi Co.Ltd.)において測定した、それらの蛍光スペクトルと共にモニターした。励起および発光のためにそれぞれ3nmおよび5nmのスリット幅を使用した。異なる励起波長を用いてEGFP変異体の量子収量を式(12)の計算により得た。
式中、φpはEGFP変異体の398nmまたは490nmにおいて励起される相対量子収量であり、φrは基準試料の398nmまたは490nmにおいて励起される相対量子収量であり、Apは398nmまたは490nmにおけるEGFP変異体の吸収であり、Arは398nmまたは490nmにおける基準試料の吸収であり、FpはEGFP変異体の398nmまたは490nmにおいて励起される500nm〜600nmの範囲における積分蛍光強度であり、Frは基準試料の398nmまたは490nmにおいて励起される500nm〜600nmの範囲における積分蛍光強度であり、npはEGFP変異体の屈折率であり、nrは基準試料の屈折率である。
EGFP変異体の量子収量の測定における基準試料としてEGFPを使用した。
(実施例19)
統計的分析:ソフトウェアパッケージSuper ANOVA(Abacus Concepts、Berkeley、CA)を用いて統計的分析を実施した。値は平均±SEMとして表した。対照および処理群を、分散分析(ANOVA)を実施することにより比較した。統計的有意性のpost−hoc検定のためにフィッシャーの制約付最小有意差検定(Fisher’s Protected Least Significance Difference Test)(フィッシャーのPLSD)を利用した。1日目と比較した有意水準を以下のように示す:*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001。
(実施例20)
EGFPに基づいたカルシウム結合タンパク質の設計:2つの異なる種類のカルシウム結合部位を高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)において作製した。図9Aは、一般的な五角両錐形状および化学特性に基づいた不連続カルシウム結合部位を含有するEGFP−D2(配列番号64)の設計を示す(J.Am.Chem.Soc.127:2085〜2093、J.Am.Chem.Soc.125:6165〜6171)。それを、突然変異したアミノ酸位置、S2D、L194E、S86D、ならびにD82およびE5の天然リガンドにより側鎖カルボキシル基からの5個の負荷電リガンド残基からの酸素により形成した。図9Aはまた、EGFPの残基E172とD173との間のループ9上に挿入したカルモジュリンのEFハンドカルシウム結合モチーフIIIを組み込むことによる連続したカルシウム結合部位EGFP−G1(配列番号4)の操作を示す。適切な局所的カルシウム結合形状特性および荷電配置を有するようにカルシウム結合についての必要な基準を満たすことに加えて、これらのカルシウム結合部位をまた、クロモフォア形成を補助する基準に基づいて選択した:(i)部位の位置および残基突然変異により、クロモフォア合成またはタンパク質の折り畳みを無効にすべきではない。蛍光タンパク質において保存され、タンパク質構造および折り畳みに必須であるいずれかの残基は突然変異されず、(ii)その位置は、カルシウム結合を可能にする十分な接近可能性を有するように溶媒に曝露された領域にあるべきであり、(iii)導入された荷電したカルシウムリガンド残基によるタンパク質折り畳みおよびクロモフォア形成の劇的な変化を回避するために、必要な少しの突然変異を有するカルシウム結合ポケットが好ましい。
さらなる突然変異体もまた、両方の温度における蛍光に対する折り畳み突然変異の効果を試験するために作製した。サイクル3の突然変異を、適用した突然変異に従って蛍光の相違を検査するために各々のカルシウム結合部位の2つまたは3つのセットに適用した。2つの突然変異、M153TおよびV163Aをそれぞれ、EGFP−D2およびEGFP−G1に適用して、EGFP−D2−C2およびEGFP−G1−C2(配列番号19)構築物を作製した。最後の突然変異F99Sをさらに組み込んで、C3構築物、EGFP−D2−C3およびEGFP−G1−C3(配列番号34)を作製した。同じ突然変異体(C2およびC3)もまた、EGFP−wtに適用した。
図9Bは修飾した移植EGFPセンサーのモデル構造を例示する。1つのEF−ハンドをEGFPの蛍光感受性位置に挿入し、EGFP−G1を生成した。3つの存在する負荷電残基を有するCa2+結合部位を形成するために負荷電残基を導入しているベータシート表面上での部位特異的突然変異誘発。
EGFPカルシウム結合タンパク質の細菌発現:9個のタンパク質、EGFP、EGFP−C2、EGFP−C3、EGFP−D2(配列番号64)、EGFP−D2−C2、EGFP−D2−C3、EGFP−G1(配列番号4)、EGFP−G1−C2(配列番号19)、およびEGFP−G1−C3(配列番号34)を、30℃および37℃にて細菌中で最初に発現させて、510nm(490nmにおいて励起される)における蛍光強度をモニターすることによりクロモフォア成熟の相違を検査した。9個のタンパク質の平均強度を、発現全体を通して5回の時点で得た。
図10はIPTG誘導の22時間後の平均蛍光強度を記載している。30℃と37℃の発現蛍光強度の間の相違もまた、算出した。図10に示すように、30℃での両方の種類のカルシウム結合部位のEGFPへの付加はクロモフォア形成を変化させない。しかしながら、細菌において発現した特性である蛍光強度は著しく減少した。
EGFP−D2(配列番号64)およびEGFP−G1(配列番号4)の両方の蛍光強度は、30℃および37℃の両方でEGFPにおいてより著しく低い。EGFP−D2(配列番号64)におけるC2およびC3突然変異体によりそれぞれ、30℃におけるその蛍光強度の37倍および18倍の増加が生じた。蛍光強度の増加(6倍および4倍)はまた、30℃でのEGFP−G1(配列番号4)におけるC2およびC3突然変異体でも観察された。しかしながら、同様の蛍光強度の増加は、30℃でのEGFPにおけるC2およびC3突然変異体では観察されなかった。30℃にてカルシウム結合部位D2およびG1を加えたタンパク質の510nmにおける蛍光強度はそれぞれ37℃におけるものよりも高かった。EGFPはC2およびC3変異体の両方について蛍光強度の顕著な相違を有さないが、D2およびG1についてのC2構築物は驚くべきことに、C3変異体よりも増加した蛍光を呈示した。サイクル3の突然変異体を加えたタンパク質変異体ほど蛍光が低くはないが、このことは、M153T/V163A構築物に適用される場合、F99Sが実際にタンパク質変異体の折り畳みを妨げることを示す。
(実施例21)
EGFPに基づいたカルシウム結合タンパク質の哺乳動物細胞発現:哺乳動物細胞におけるEGFPカルシウムタンパク質の発現に対するC2およびC3突然変異の効果もまた、蛍光顕微鏡検査を使用してモニターした。図11は、EGFP−G1、EGFP−G1−C2、およびEGFP−G1−C3のトランスフェクション後、30℃および37℃での2日の発現におけるHeLa細胞の蛍光顕微鏡画像化を示す。図11A〜11Cに示すように、2日のトランスフェクションおよび30℃での発現後、EGFP−G1(配列番号4)変異体ならびにそのC2およびC3突然変異体を、それらの強い蛍光シグナルによって示されるように多数のHeLa細胞において発現させ、折り畳んだ。しかしながら、図11Dに示すように、EGFP−G1(配列番号4)は37℃にてその蛍光シグナルを失い、この温度が、HeLa細胞におけるEGFP−G1(配列番号4)の突然変異に適切ではなかったことを示す。対照的に、EGFP−G1(配列番号4)中へのC2およびC3突然変異体の付加により、図11Eおよび11Fに示すように、HeLa細胞中で37℃においてタンパク質の成熟が得られた。
図12Aおよび12Bは、30℃および37℃の両方にてEGFP−D2およびEGFP−G1シリーズの両方をトランスフェクトしたHeLa細胞(20より多い細胞/画像)の蛍光強度の定量分析を示す。EGFP−D2(配列番号64)をトランスフェクトしたHeLa細胞の低い蛍光強度が、EGFP−G1(配列番号4)のものと比較して30℃および37℃(図12A)の両方において観察された。EGFP−D2におけるC2突然変異体は蛍光強度の増加を生じたが、C3突然変異体においてはさらなる増加は観察されなかった。哺乳動物細胞によるこの結果は大腸菌で観察されたものと対応していた。同様の結果がまた、37℃でのEGFP−G1におけるC2突然変異体でも示されたが、EGFP−G1のC2およびC3突然変異の効果は、図12Bに示すように、30℃では観察されなかった。
(実施例22)
カルシウム結合GFPの分光学的特性:この現象をさらに調査するために、タンパク質を精製した。EGFP−D2−C2およびEGFP−G1−C2(配列番号19)は、増加した濃度のタンパク質にて親タンパク質より精製することが非常に難しく、タンパク質の折り畳みがより効果的であり、超音波処理の間に容易に放出され得る可溶性画分がより多く存在したことを示す。これにより、EGFP−D2−C2およびEGFP−G1−C2(配列番号19)が、「折り畳み突然変異体」を有さないそれらの相対物より37倍および19倍高い蛍光を有すると予想された。
精製したタンパク質を使用して、EGFPに基づいたCa
2+結合タンパク質の分光学的特性を調べた。図13Aおよび13Bは、pH7.4におけるEGFP、EGFP−D2(配列番号64)、およびEGFP−G1(配列番号4)の可視吸光度および蛍光発光スペクトルを示す。
表5は、EGFP、EGFP−D2、およびEGFP−G1ならびにそれらのC2およびC3突然変異体の分光学的特性を要約する。図13Aに示すように、488nmにおける主要な吸光度ピークおよび398nmにおける微小な吸光度ピークがEGFPの可視スペクトルで現れ、クロモフォアのアニオン性状態がEGFPにおける主要形態であったことを示す。510nmにおける蛍光発光ピークがEGFP蛍光スペクトルにおいて観察された(図13B)。398nmおよび488nmにおける減衰係数および量子収量定数の両方を含む同様の分光学的特性(表1)はEGFP−C2およびEGFP−C3における可視吸収スペクトルに対するC2およびC3突然変異の効果がないことを示す。3つの突然変異したリガンドS2D、L194EおよびS86DならびにEGFP(EGFP−D2(配列番号64))の2つの天然リガンドD82およびE5を使用することによるCa2+結合部位の形成により、図13Aにおいて観察されるように398nmおよび488nmの両方において可視吸収の低下が生じた。EGFPと比較して、例えば、EGFP−D2(配列番号64)の488nmにおける減衰係数は55,900M−1cm−1から9,324M−1cm−1まで低下した。同時に、510nmにおける蛍光発光ピークはその蛍光スペクトルが低下した(図13B)が、EGFP−D2(配列番号64)の量子収量はEGFPのものとほぼ同じであった。顕著なことに、EGFP−D2(配列番号64)におけるC2およびC3突然変異体の両方は、EGFPのものと同様に488nmにおける主要な吸光度ピークおよび398nmにおける微小な吸光度ピークを再生した(表5)。まとめると、量子収量は、両方の種類のカルシウム結合部位を有するEGFP変異体について著しく増加するが、クロモフォアのイオン中性状態の相対分布は折り畳み突然変異体の付加により変化しなかった。
(実施例23)
コンピュータによる設計:カルシウム結合部位の設計は、37℃での発現を用いた野生型GFPより30,000倍高いその蛍光に起因して、GFPc3構造、1b9cを使用した。潜在的なカルシウム結合部位を、所望の酸素−カルシウム−酸素角度、酸素−カルシウム距離、リガンド種類、およびリガンドの数を用いてコンピュータにより構築した。1つのアンカーAspおよびAsp、Asn、Glu、または骨格由来の4つのさらなる潜在的なリガンドを利用した。カルシウム−酸素長さは2.0〜3.0Åの範囲であった。酸素−カルシウム−酸素角度は、理想的な五角両錐形状の理論的角度から±45°の範囲であった(Biochemistry 44:8267〜73、J.Am.Chem.Soc.127:2085〜2093、J.Am.Chem.Soc.125:6165〜6171)。
(実施例24)
GFP変異体のクローニングおよび精製:部位特異的突然変異誘発法を、pfuまたはターボpfu(Invitrogen)を用いて、ならびに開始テンプレートとしてEGFP DNAを用いて古典的ポリメラーゼ連鎖反応により実施し、フォワードプライマー配列は
である。線状DNAはT4DNAリガーゼ(Promega)を用いてライゲーションし、環状DNAは大腸菌(DH5αまたはTop10のいずれか)コンピテント細胞中で増幅させた。177c3を操作するために突然変異体は、サイクル3(C3)として既知のF99S、M153T、およびV163Aを付加した、上記の突然変異体を含んだ。F99Sフォワードおよびリバースプライマーはそれぞれ、
である。M153TおよびV163Aを、フォワードプライマー
と一緒に作製した。F99Sについて61℃および153/163について63℃のアニーリング温度を用いて製造業者のプロトコールに従って、ターボpfu(Stratagene)を利用して突然変異を実施した。Qiagenミニプレップキットを用いてDNAを精製し、GSUコア施設において自動化シークエンシングにより環状変異体DNAを検証した。
突然変異生成の間に、および細胞質ゾル中での哺乳動物細胞におけるタンパク質の発現のために、ベクターpcDNA3.1+(Invitrogen)を利用した。ERにおけるタンパク質の発現のために、pcDNA3.1+ベクターを、タンパク質のN末端においてカルレティキュリンシグナルペプチドおよびC末端においてKDEL保持配列を含有するようにPCRにより修飾した。カルレティキュリン由来のN末端タグ、MLLSVPLLLGLLGLAAAD(配列番号112)は、ERにおいて開始するために遺伝子の発現を命令する。C末端タグ、KDELは、ERにおいて発現したタンパク質を保持する保持配列であり、それはゴルジにシャッフルされ得ない。N末端タグを、その長さに起因して4つのプライマーを用いて2ラウンドのPCRにおいて挿入した。30μg/mLのカナマイシンを含有するLB培地中でpet28aベクター(EMD Biosciences)を用いてタンパク質を6×ヒスチジンタグに融合させて発現させた。0.2mMのIPTGを用いて0.6のOD600にてタンパク質発現を誘導させ、9500gにて20分間遠心分離により収集する前に、3〜4時間増殖を継続した。超音波処理により細胞を破壊した後、タンパク質を8Mの尿素で溶解した。変性タンパク質を緩衝液(10mMのTris、1mMのDTT、1%のグリセロール、pH7.4)中に10倍希釈によりリフォールディングし、遠心分離して細胞残屑を除去した。Sephadex G−75サイズ排除FPLC(10mMのTris、pH7.3)を使用してリフォールディングしたタンパク質を95%超の純度まで精製した。SDS−PAGEによりタンパク質の発現および純度を分析した。280nmにて21,890M−1cm−1の算出した減衰係数を使用してタンパク質濃度を推定した。精製のために使用したヒスチジンタグは、カルシウムおよびテルビウム結合に対するいかなる効果も有さなかった。
(実施例25)
テルビウム蛍光:この作業における金属結合およびコンフォメーション分析研究についてのすべての緩衝液を、Chelex−100樹脂(Bio−Rad)を用いて前処理した。タンパク質のテルビウム結合を、280nmにおける励起を用いて545nmにおける発光後にPTI蛍光光度計を用いて測定した。テルビウム滴定に関して、開始タンパク質濃度は、タンパク質GFP.Ca1−3について20mMのPIPES、10mMのKCl、1mMのDTT、1%のグリセロール、pH6.8およびGFP.Ca2’’について10mMのTris、1mMのDTT、1%のグリセロール、pH7.4中で3μMであった。同じ濃度のタンパク質を含有する1.0または5.0mMストックのテルビウムをタンパク質試料内に直接加えた。ブランク試料は、タンパク質を有さずテルビウムを増加させた緩衝液からなった。データは補正したベースラインであり、545nmにおけるピークの積分面積を1:1のテルビウム:タンパク質結合を仮定することにより適合させた(J.Am.Chem.Soc.125:6165〜6171)。Specfit/32(Talanta、33、943)を使用してデータをまた分析した。各々の結合親和性は4〜6回の滴定の平均である。金属選択性を調査するために、20μMのテルビウムを有するGFP.Ca1およびGFP.Ca2’(3μm)を、10mMのTris、1mMのDTT、1%のグリセロール、pH7.4中の0.1および1mMのカルシウム、10mMのマグネシウム、または100μMのランタンと共にインキュベートし、各試料のテルビウム蛍光を測定した。
(実施例26)
カルシウム結合色素競合:タンパク質(30または40μM)およびローダミン−5N(約20μM、Molecular Probes)(J.Biol.Chem.264:19449〜19457)を、10mMのTris、1mMのDTT、1%のグリセロール、pH7.4中でインキュベートした。100mMのCaCl2ストックは同じ濃度の色素を含有していた。タンパク質を混合物に徐々に加え、1cmの経路長のセルおよび552nmの励起を用いて蛍光を測定した。滴定後、63,000M−1cm−1の減衰係数を用いて552nmにおける吸光度により色素濃度を検証した。金属−リガンド−リガンドモデルを用いるSpecfit/32(Talanta、33、943)を使用して560〜650nmのスペクトルを全体的に適合することによりデータを分析した。
(実施例27)
哺乳動物細胞トランスフェクション:トランスフェクトしていないHeLa細胞を、加湿インキュベーションチャンバー内で5%のCO2を用いて37℃にて、44mMのNaHCO3、pH7.2を有し、10%v/vのウシ胎仔血清(FCS、Hyclone)、100U/mlのペニシリンおよび0.1mg/mlのストレプトマイシン(Pen/Strep、Sigma)を添加した、フィルタ滅菌したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma Chemical Co.)入りの100mmの組織培養ディッシュ上に維持した。設計したタンパク質DNAを、EcoRIおよびBamHI消化により哺乳動物細胞中で発現させるためにpcDNA3.1+ベクター(Invitrogen)内にサブクローニングし、続いてT4DNAリガーゼを用いてライゲーションした。自動化シークエンシングにより確認したDNAを、60mmの細胞培養処理したディッシュ上のLipofectamine2000(Invitrogen)を使用して、以前に調製した90%コンフルエントのHeLa(HEK293、Vero、またはCHO)細胞内にトランスフェクトした。Opti−MEMI無血清培地(Invitrogen)中で、DNA(3μg)を1:3比でLipofectamine2000と混合し、Opti−MEMI培地中で細胞に加える前に、暗所で室温にて20分間平衡化させた。37℃および5%のCO2にて4時間、トランスフェクションを進行させた。トランスフェクション培地を除去し、DMEM、10%のFCS、1%のペニシリン−ストレプトマイシン溶液と置き換え、30℃、5%のCO2にて72時間、細胞を増殖させた。Mock−トランスフェクトHeLa細胞を、バックグラウンド対照に対してDNAを添加せずに同じように処理した。
(実施例28)
顕微鏡画像化:GFP.Ca1をトランスフェクトしたHeLa細胞をトランスフェクションの72時間後に画像化した。細胞を有するカバースリップを、マイクロインキュベーションチャンバー(モデルMSC−TD、Harvard Apparatus、Holliston、MA)に移動させた。簡潔には、GFP.Ca1蛍光の画像化を、GFP光学(λex480、λem510、Chroma Technology Corp、Rockingham、VT)のために最適化したNikonフィルタブロック、励起光露光時間を調節するためのMetaltekフィルタホイール(Metaltek Instruments、Raleigh、NC)、75ワットのキセノンショートアークランプ、HamamatsuCCDデジタルカメラ(Hamamatsu Corporation、Bridgewater、NJ)を備え、防振台上に支持したNikon TE300(Nikon Inc.、Melville、NY)倒立顕微鏡で実施した。画像収集のためにMetaFluorソフトウェア(Universal Imaging Corp.、v3.5、Downington、PA)を利用した。トランスフェクション効率に応じて1〜3のゲインを用いて収集時間は50msであった。
一過性にトランスフェクトしたGFP.Ca1またはGFP.Ca1c3の蛍光強度を数分間モニターして、2μMの最終濃度までの槽緩衝液(bath buffer)へのイオノマイシンの添加前にベースライン値を得た。蛍光強度が安定になるまで(典型的には2分間)、設計したタンパク質の蛍光を画像化し、次いで後の濃縮したCaCl2の添加により細胞内カルシウム濃度を操作して、標的とする細胞外カルシウム濃度を得た。CaCl2の複数回添加は典型的に1分の間隔をあけた。細胞外カルシウム濃度を、HBSS++緩衝液の槽灌流により基礎レベルに戻した。カルシウム結合部位を有さないEGFPを対照として利用した。
ERにおいて発現したセンサーのカルシウム応答を試験するために、50〜100μMのATPおよび100μMのヒスタミンを浸漬培地(bathing medium)に添加して、ERからのカルシウム放出を誘導した。ER膜を透過処理し、浸漬培地(10〜100mM)にカルシウムを添加してカルシウム取り込みを可能にするために、より高い濃度のイオノマイシン(2.5〜5μM)を利用した。タプシガルギン(1μM)およびカルミダゾリウム(calmidozolium)(2μM)を浸漬培地に添加して、ER中のカルシウムをゆっくりと空にした。
(実施例29)
Pb2+およびGd3+イオンに対する高親和性および選択性を有する分析物センサーとしてのEGFPの操作した変異体の適用:毒性金属(例えば、Gd3+、La3+、Tb3+、Pb2+、Sm3+、Sr2+、Hg2+およびCd2+)は生物系と悪い相互作用を起こし得る。金属の毒性効果は広範囲に研究されているが、タンパク質との相互作用に対する毒性機構は十分に理解されていない。鉛(Pb2+)は難分解性であり、神経学的障害、貧血症、腎損傷、高血圧症および雄の妊性低下に関連する種々の健康問題の原因となる人為的毒性金属である(Reprod.Toxicol.(2005).20:221〜228、(2000)Am.J.Ind.Med.38:310〜315、(2005)Neurotoxicol.Teratol.27:245〜257、(1997)Annu.Rev.Nutr.17:37〜50、(2001)Int.J.Toxicol.20:113〜120、(2000)Int.J.Dev.Neurosci.18:791〜795、(1987)Ann.N.Y.Acad.Sci.514:191〜203)。ランタニドはヒトおよび動物細胞においてカルシウムチャネルを遮断することが知られており、Pb2+、Cd2+、およびHg2+は電位依存性カルシウムチャネルを特異的に標的化する((2003)J.Bioenerg.Biomembr.2003.35:507〜532)。したがって、天然系において毒性金属を検出し、中和するため、および生物学的修復のための安価な無害の物質を開発する強い必要性が存在する。したがって、本開示は、Pb2+およびGd3+イオンなどに対して高親和性および選択性を有する分析物センサーとしてのこの開示のEGFPの操作した変異体の適用を包含する。GFPおよびその変異体の自己蛍光により、それは、タンパク質におけるクロモフォアへの金属カチオンの近接の結果として蛍光ピークの検出可能な消光を生じる金属結合研究についての多用途のタグとなる((2000)Biochem.Biophys.Res.Commun.268:462〜465)。
(実施例30)
EGFPに基づいたPb2+およびLn3+センサーの開発:金属結合およびプロテアーゼ研究のために設計したEGFPタンパク質変異体を、PCRを使用するサブクローニングにより開発した。6×His−タグを添加することによるNi2+−キレートセファロースカラムでの精製のためにタンパク質を調製した。これらの変異体は突然変異誘発研究のための足場を提供して、高い金属選択性を有し、プロテアーゼセンサーとしての使用のためのタンパク質変異体を提供する。EMD Omnipurトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン(EMD Chemicals,Inc.、Gibbstown、NJ)またはTRISは発現タンパク質のための緩衝剤であった。
形質転換:EGFP変異体をコードする領域を含む組換えpET28aベクターを、42℃にて90秒間、熱ショックにより大腸菌細胞株DE3内に形質転換した。その試料を2分間、氷上に置いた。LB培地(50μL)を加え、選択的培地上に播く前に、試料を37℃にて30分間インキュベートした。
発現:カナマイシンを0.03mg/mLで使用した。1.0LのLB培地培養物を、0.6±0.1のA600までインキュベートし、イソプロピル−ベータ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.2mMの濃度まで加え、温度を20〜25℃に低下させた。1.0mLの試料を3時間、1時間ごとに除去し、続いて次の日に最終試料を除去して、SDS−PAGEゲルを使用してタンパク質発現を評価した。細胞を回収し、4℃で保存した。
精製:約20mLの抽出緩衝液(20mMのTRIS、100mMのNaCl、0.1%のTriton x−100)中に細胞ペレットを懸濁し、氷上に置いた。約5分間隔の超音波処理により、試料を6×30秒間、超音波処理し、約5×104gで20分間、遠心分離した。上清を0.45μmの細孔径フィルタ(Whatman、Florham Park、NJ)を用いて濾過し、FPLCシステムへの注入前に適切な結合緩衝液を用いて希釈した。
UV検出器および280nmの光学フィルタを備えたAktaprime FPLC(Amersham Biosciences、Piscataway、NJ)を使用してEGFP変異体の精製を完了した。大部分の精製のために、Hitrap5mLのHPキレートセファロースカラムを使用した。結合緩衝液Aは1MのK2HPO4、1MのKH2PO4、250mMのNaCl、pH7.4であり、溶出緩衝液Bは緩衝液Aおよび0.5Mのイミダゾールであった。
100mMのEDTA、1MのNaCl、pH8.0を用いてカラムを最初に洗浄して、金属を除去し、蒸留水で洗浄した。次いでカラムを0.1MのNiSO4で洗浄して、そのカラム上にNi2+を結合させ、そのカラムを蒸留水で再び洗浄して、未結合のNiSO4を除去した。
さらなるタンパク質精製のために、Hitrap Qイオン交換カラム(GE Healthcare、Piscataway、NJ)を使用した。結合緩衝液Aは20mMのTRIS、pH8.0であり、溶出緩衝液Bは20mMのTRIS、1MのNaCl、およびpH8.0であった。
カラム上へのタンパク質注入を5〜8mLに制限し、溶出した結合タンパク質を8mL画分中で回収し、それを次いでさらに、2.0Lの10mMのTRIS、1mMのジチオスレイトール、pH7.4中で透析により精製した。タンパク質画分を、72時間、3,500Daの分子量カットオフ値を有する透析バッグ中で透析して、イミダゾールおよび他の不純物を除去した。SDS−PAGEゲルを使用して精製を評価した。
(実施例31)
分光学的分析:EGFP変異体の蛍光スペクトル分析を、タンパク質の光退色を減少させるために励起スリット幅を1nmに設定して行い、発光スリット幅を2nmに設定した。398nmおよび490nmの励起波長を使用した。蛍光光度計からのデータを1nm間隔で収集した。
Pb2+およびGd3+に対するEGFPに基づいたセンサーの選択性を、試験金属イオンの存在下で、1.0mMのCa2+で得た蛍光比F(398nm)/F(490nm)の変化をモニターすることにより検査した。
金属を含まないタンパク質から金属−タンパク質複合体までのレシオメトリック変化を、各々1nm間隔で記録した強度の合計として500〜600nmの発光スキャン(398nmおよび488nm)の各々についてピーク面積を積分することにより算出し、次いで式13に見られるように(F398/F488)の比を評価した。
この比は、機器の変化に起因する絶対強度値に関連する起こり得る誤差を除外している。
1.0μMのEGFP変異体について蛍光レシオメトリック変化(F398/F490)を評価して、10mMのTRIS−Cl、pH7.4中でCa2+と、Pb2+またはGd3+のいずれかとの間の選択性を評価した。最初に、1mMのCa2+をタンパク質に加え、続いて競合金属のアリコートを加えた。
競合イオンの親和性は、式11を使用して算出したように、比(F398/F490)の変化に正比例すると仮定した。競合滴定についてのK
eqを算出するために、競合イオン(F)の画分についての値を評価した濃度の範囲にわたって正規化した。このFの正規化した値(F
Norm)を、式14を用いて算出した。
式14において、F
Ca initialはCa
2+の添加後の初期比(F398/F490)であり、F
M+は競合金属イオンの添加の各点における比であり、F
M+ finalは最終濃度の金属における比である。曲線適合式:
を使用して競合滴定についてのKを算出した。式中、最後の項、(C
*[M]
t)は非特異的結合である。Pb
2+またはGd
3+についてのK
dを、式15から算出したKを用いて式16を使用して算出し、Ca
2+についてのK
dはEGFP−C2変異体について以前に決定したものである440μMであった。
吸光度スキャンは600〜220nmの範囲を包含した。
(実施例32)
この開示の操作したEGFP変異体の結合部位においてGd3+およびPb2+をCa2+と置換する競合滴定から決定した。図18は、Pb2+によるCa2+の置換に関連する正規化したレシオメトリック変化を示す。図19A〜Dは、Pb2+によるCa2+の置換、および10μMのPb2+付近のスペクトルの2〜3nmの赤方偏移から生じる蛍光強度の変化を示す。赤方偏移は、既に起こったCa2+の置換と関連しない、クロモフォアに対するコンフォメーション変化の結果であると考えられている。次いでこれらのデータを使用して、Gd3+およびPb2+の両方についての結合親和性を算出した。
この作業で分析したEGFP−C2変異体に関して、Pb2+およびGd3+に対する結合親和性の両方が、Ca2+についてのものより約200倍高いことを見いだした(図19Bおよび19D)。他のEGFP変異体(配列番号18および19)に関して、Pb2+に対する結合親和性がCa2+より100倍を超えて高いことを見いだした(図19C)。これらのより高い親和性はこれらの金属の結合に関連するコンフォメーション変化と結び付けられ、毒性との重要な関係を示唆している。それはまた、Pb2+およびGd3+に対して高親和性結合できるセンサーも提供する。
(実施例33)
CatchERバイオセンサーファミリーの設計戦略: 蛍光タンパク質のCa2+結合親和性およびCa2+誘導性コンフォメーション変化および確立したクロモフォア特性の微調整に重要な決定因子に基づいて、クロモフォアコンフォメーションを調節するために伸ばしたタンパク質間の相互作用に依存するというよりむしろ、クロモフォアに直接Ca2+結合部位を結合することにより速い蛍光応答を伴うCa2+センサーを設計した。
コンピュータで補助した設計は以下の基準および考慮に基づいた。(i)それは、天然のCa2+結合タンパク質の球状配置特性に位置するタンパク質残基(典型的に、D、E、N、Qのカルボキシル基)から4または5つの酸素リガンド原子を必要とする。(ii)残基変化および種類の適切な選択はCa2+結合親和性および金属選択性を微調整するために選択され得る。(iii)部位に対するCa2+の拡散律速は十分な溶媒接近可能性を必要とする。(iv)クロモフォアへのCa2+誘導性、局所的コンフォメーションおよび静電的変化の伝搬は、それに対して荷電したリガンド残基を適切に位置づけることにより達成され得る。(v)これらの変化は、これらのクロモフォアの原因により中性からアニオン性状態までの変換の速度より急速に起こらなければならない。(v)作製した結合部位はクロモフォアの合成および形成を妨げてはならない。M153T/V163A突然変異体(EGFPサイクル2)を有するEGFP変異体を、その高蛍光強度、折り畳み効率、および耐熱性のために、骨格タンパク質として選択した。
(実施例34)
プラスミド構築物、タンパク質発現、および精製:EGFP変異体D8〜D12のための細菌発現プラスミドを、BamHIとEcoRI制限酵素切断部位との間のベクターであるpET28aベクター(EMD、Biosciences、San Diego、CA)に挿入したサイクル2EGFP(F64L/S65T/M153T/T163A)において部位特異的突然変異誘発法により構築した。これらの2つの制限部位の間の設計したEGFP変異体のDNA配列を切断し、pcDAN3.1+ベクター(Invitrogen、Carlsbad、CA)内に挿入した。カルレティキュリンERターゲティング配列(CRsig)MLLSVPLLLGLLGLAAAD(配列番号112)およびER保持配列KDELをそれぞれN末端およびC末端に加えて、哺乳動物細胞発現プラスミドを構築した。CatchER(D11)およびその変異体(D8〜D10およびD12)を大腸菌BL21(DE3)において細菌で発現し、確立した方法を使用して精製した(Heim & Tsien(1996)Curr.Biol.6:178〜182、Zouら、(2007)Biochemistry 46:12275〜12288)。
(実施例35)
CatchERのCa2+解離定数のin situ測定:BHKおよびC2C12細胞中でCatchERのCa2+解離定数(Kd)を測定した。リンゲル0 Ca2+緩衝液中の100μMのヒスタミンおよび5μMのタプシガルギンを適用することによりBHK細胞中のER Ca2+を枯渇させた。140mMのKCl、10mMのNaCl、1mMのMgCl2、20mMのHepes、pH7.25を含有する細胞内様溶液中の100μMのジギトニン中で細胞を透過処理した。Ca2+を細胞内様溶液に添加することにより校正緩衝液を調製し、0.05、0.1、0.5、1、5、および10mM、ならびに200μMのEGTA緩衝液の最終濃度に到達させた。Ca2+イオノフォアをそれぞれ有さない200μMのEGTAおよび10mMのCa2+中でFminおよびFmaxを決定した。
同様のin situでのKd校正をC2C12筋芽細胞中で行った。10μMのIP3および2μMのタプシガルギンを含有する細胞内緩衝液中で透過性細胞のER Ca2+を枯渇させた。校正のために、1、3、10、および20mMのCa2+緩衝液を5μMのイオノマイシンの存在下で適用した。3mMのEGTAおよび20mMのCa2+中でそれぞれFminおよびFmaxを決定した。
により決定した。KdはBHK細胞中で1.07±0.26mM(0.90±0.19ヒル係数)およびC2C12細胞中で1.09±0.20mM(0.94±0.17ヒル係数)であった。
(実施例36)
ストップフローによるCatchERへのCa
2+結合の動力学的分析:細菌で発現したCatchERの蛍光カイネティクスを、22℃にてSF−61ストップフロー分光蛍光光度計(Hi−Tech Scientific、Salisbury、UK;室温にて10−mmの経路長、2.2−msの不感時間)を使用して調べた。395nmにおける励起を用いる455nmのロングパスフィルタを用いて蛍光強度変化を記録した。pH7.4にて10mMのTris−Cl中の等体積のCa
2+を含まないタンパク質および同じ緩衝液中のCa
2+をストップフロー分光蛍光光度計で混合し、10μMのCatchERならびに50、100、200、300、500、および1000μMのCa
2+の最終濃度を得た。ストップフロートレースを式17〜19に適合させた。式中、Fは任意の所与の時間における蛍光強度、F
∞は無限時間における蛍光、およびΔFは蛍光変化の振幅を示している。
(実施例37)
pHプロファイルによる見かけのpK
a決定:Ca
2+を含まないか、またはCa
2+が負荷されたCatchERの見かけのpK
aを、510nm(λex=488/395nm)における蛍光強度変化を適合することにより細菌で発現したタンパク質を用いて決定した。5μMのタンパク質を、10μMのEGTA(アポ)または4mMのCa
2+(ホロ)のいずれかの存在下で、4.5〜9.5の範囲のpHを有する異なる緩衝液中に溶解し、蛍光を測定した後に実際のpHを決定した。提案される相互作用スキームは
である。H+はプロトンであり、PはCatchERタンパク質であり、fは正規化したΔF変化であり、[P]Tは全タンパク質濃度であり、c1またはc2はそれぞれ、HP+またはP蛍光の減衰係数であり、Fはリアルタイム蛍光であり、Fminは最も低いpHにおける蛍光であり、Fmaxは最も高いpHにおける蛍光であり、cは調整のための定数である。値は理論的にlgeに等しい。単一指数(式11)により適合した見かけのpKaは、488nmにおいて励起したアポおよびホロ型について、それぞれ7.59±0.03および6.91±0.03ならびに395nmにおいて7.14±0.02および6.95±0.06であった。
(実施例38)
Jobのプロットにより研究したCatchER:Ca
2+化学量論:CatchERおよびCa
2+相互作用の化学量論を、Jobのプロット(15)におけるCa
2+が結合したCatchERの最大相対量において決定した。Ca
2+を含まない、および結合した[CatchER]を、式:F=S
f・C
f+S
b・C
b(式中、Fは見かけの蛍光強度であり、S
fおよびS
bはそれぞれ、Ca
2+を含まない、および結合したCatchERの係数であり、C
fおよびC
bはそれぞれ、Ca
2+を含まない、および結合したCatchERの濃度である)に従って蛍光強度に変換した。式(12)を使用してCa
2+が結合したCatchER(C
b・V、V=1)の相対量を算出した。[Ca
2+]:11.3、16.7、20.6、24.9、28.4μMのそれぞれに応答する[CatchER]:28.7、23.3、19.4、15.1、11.6μMを用いて蛍光発光(λ
ex=488/395nm)および吸光度スペクトルを記録した。
(実施例39)
NMR分光法:Varian800または600MHzの分光計を使用してすべてのNMR実験を37℃で実施した。典型的には、NMR試料は、10mMのTris、10mMのKCl、10%のD
2O、pH7.4中で0.3mMの
15N−または
13C、
15N−標識タンパク質を含有した。
1H、
13C、および
15N共鳴の骨格割り当てのために、Varian Inova800MHz分光計でHNCAを収集し、Varian Inova600MHz分光計でCBCA(CO)NHを収集し、両方は低温プローブを備えていた。Ca
2+滴定のために、{
1H、
15N}HSQCスペクトルを収集し、化学シフト摂動を、式Δδ
av={0.5[Δδ(
1H
N)
2+(0.2Δδ(
15N))
2]}
1/2(式中、ΔδはアポとCa
2+が負荷された型との間の化学シフトの変化である)を使用して算出した。共有一定時間相互相関緩和(shared,constant−time,cross−correlated relaxation)(SCT−CCR)パルスシーケンスを使用して回転相関時間(τ
c)を測定した。この測定において、0〜約100msの緩和取得時間において一連の高感度HSQCスペクトルを収集した。次いで残基特異的τ
c値を指数関数的減衰率から抽出した。Varian Inova600MHz分光計でT1およびT2を収集した。0、30、60、100、240、480、720、1000、および1500ms(T1)ならびに10、30、50、70、90、110、130、および150ms(T2)において収集したピークの積分を、I=I
0exp(−t/T
1/2)(式中、I
0はゼロ減衰における強度であり、tは緩和減衰である)に適合させた。以下の式:
に従ってτc値を算出した。
(実施例40)
NMRによるCatcherおよびその変異体の構造分析ならびにX線による検証
センサーに対するカルシウム結合の現実性は、蛍光強度とカルシウム濃度との間の関係の構築後のNMRによるカルシウム滴定によりさらに証明され得る。タンパク質は凝集する傾向を有するベータシートタンパク質であるので、試料調製の条件がNMRスペクトルの質に影響を与えるために非常に重要である。要因の1つはピークの崩壊(desperation)に影響を与える温度であるので、本発明者らは、500MHzのNMRにおいて異なる温度でD11スペクトルの質を試験する。図32は、CatchERの温度依存性のNMR HSQCスペクトル変化を示す。
20℃〜37℃までの温度上昇と共にピーク数は128〜194にまで増加する。EGFPの全アミノ酸数は238であるので、実験操作についての最適温度は37℃超である。
gNhsqcカルシウム滴定の前に、化学シフトをおおよそ検出するために1D NMRカルシウム滴定を操作し、側鎖は約0〜6ppmに分散することに加えて、NH基の主要な化学シフトは約6.6〜7.8ppmであり、これは側鎖NH由来であると後で証明された。8〜11ppmの領域は、識別するのに感受性がなかったものとの膨大な数のピーク重複に起因して明確なシフトを呈示しなかった。
1D実験は、このような巨大なタンパク質を調査するには十分に効果的ではないので、各残基の化学シフトを検証するためにgNhsqcを行う。0.3mMの濃度を有するタンパク質を10mMのpH7.4のTris緩衝液および10%のD2O中に最終濃度で溶解する。操作温度は600MHzのNMRについて40℃である。図33は、Ca2+により引き起こされたCatchERの化学シフト変化の1D NMRスペクトルを示す。
D11が一価のカチオンに非特異的に結合できるかどうかを検証するために塩の効果を最初に検査すべきである。開始点として0.1mMのEGTAを試料に加え、次いで10mMのKClで滴定して化学シフトをモニターした。これらの2つのスペクトルを重複させた後、それらは完全に一致した。これは、高濃度の塩がタンパク質のコンフォメーション変化の原因とはなり得ず、その結果、非特異的結合が存在しないことを暗示した。
Ca2+を含まないCatchER、Ca2+が負荷されたCatchERのX線結晶構造
Ca2+を含まないCatchERは、395nmにおいて主要な吸収ピークおよび490nmにおいて微小なピークを呈示し、これは、in vitroで測定した395nm対490nmの比が3.0であるwtGFPと同様である(Tangら)。Ca2+を含まないおよび負荷された形態のCatchERの結晶構造(図34)から、222の側鎖が回転して、側鎖Glu222およびSer205のカルボキシル基とクロモフォアのヒドロキシル基との間の水素結合の距離を変化させた。クロモフォア周囲の提案される水素ネットワークは、wtGFP(pdbコード:1EMB)およびEGFP(pdbコード:1EMA)の以前に報告されている結晶構造に基づく。クラゲ由来の以前に報告されているwtGFPは、390nm(主要)および490nm(微小)において2つの吸収ピークを有し、クロモフォアの2つの形態の混合物が1つの蛍光タンパク質中に同時に存在したことを示唆している(Heim、1996)。DNA配列アラインメントからの考察だが、部位特異的突然変異誘発法S65Tは大きな相違の原因であるが、しかし、wtGFPおよびEGFPのクロモフォアは結晶構造から十分に重複され得るが、クロモフォア周囲の側鎖は、特にThr203およびGlu222について異なるコンフォメーションを呈示した(Baird、1997)。wtGFPにおいて、Thr203の主鎖は、水分子を介してクロモフォアと離れて相互作用する(Reminton、1996およびTsien、1998)のに対して、EGFPについて、極性側鎖ヒドロキシル酸素はクロモフォアの酸素原子と直接相互作用し、短い水素結合2.5Aを形成し、アニオン性形態でクロモフォアを安定化し、490nmにおいて主要な吸収ピークを生じる。安定化はさらに、E222の側鎖カルボキシル基の特別な方向により高められ、負荷電残基のみがクロモフォアに対して突出し、クロモフォア内でコンジュゲートしたE222、V61およびT65の間で制限された水素ネットワークを形成する。しかしながら、wtGFPのTyr66の酸素のみは、極性残基との水素結合を形成せずにH2Oと直接相互作用し、中性形態を維持し、395nmにおける主要な吸収ピークの原因となる。E222のカルボキシル基の2個の酸素原子は同様に部分的に荷電し、Ser205およびクロモフォアとの水素結合を形成する。T65およびY66のヒドロキシル基の間の水素ブリッジは、E222、S205および水分子を介して形成され、クロモフォア内の極性残基の間の効果的な電子移動を確実にする。E222のカルボキシル基がCa2+を含まない形態のCatchERとCa2+を負荷された形態のCatchERとの間で回転し、E222〜S205のカルボキシル基とクロモフォアとの間の水素結合の距離を変化させる、結晶構造からの観察は興味深い。今まで、特に光学特性の変化と相関する、分析物結合により引き起こされたGlu222の回転は報告されていなかった。単一残基の回転はFRET対に基づいたセンサーにおける長距離のタンパク質間相互作用より速いので、Ca2+に応答するE222側鎖の回転はCatchERの速いカイネティクスの原因となり得る可能性がある。しかしながら、Glu222のこの側鎖回転は、Gd3+を含まないCatchER構造とGd3+を負荷されたCatchER構造とを比較した場合には観察されず(図35)、in vitro滴定の間のGd3+の添加後にCatchERの蛍光強度が劇的に増加したにもかかわらず、GFPのベータ−バレル構造内部に埋もれた残基は、金属浸漬の間でさえ、結晶化後にさらなるコンフォメーションの変化を呈示しなかったことは妥当である。CatchERの他の重要な残基Thr203は、wtGFPと同様に、金属を含まない形態のCatchER、Ca2+が負荷された形態のCatchER、およびGd3+が負荷された形態のCatchERのすべてにおいて、主鎖の酸素とクロモフォアに近接する水との間に1つの水素結合を維持し、Ca2+が負荷されたCatchERの蛍光強度がEGFPの50%しか回復しないという示唆は、wtGFPと同様に維持されるクロモフォアのTyr66のフェノール基に近接する固定された水素結合ネットワークにおそらく起因している。