JP6156845B2 - マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックス - Google Patents

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本発明は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスに関する。
質量分析におけるイオン化法の1つとしてマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法が知られている。MALDI法は、レーザ光を試料に短時間照射して瞬間的に試料を気化させることにより、試料中の測定対象物質の分子を分解することなくイオン化するものである。
MALDI法では一般に測定対象物質の溶液をマトリックス溶液と混合し、さらに必要であれば別のイオン化助剤を混合した上で、試料プレート上に塗布し、溶媒を除去することにより試料を調製する。こうして調製された試料は、測定対象物質が多量のマトリックスとほぼ均一に混合された状態にある。この試料にレーザ光を照射すると、マトリックスがレーザ光のエネルギーを吸収して熱エネルギーに変換する。このときにマトリックスの一部が急速に加熱され、測定対象物質とともに気化する。その過程で測定対象物質がイオン化される。
こうしたMALDI法をイオン化に利用した質量分析装置、特に、マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOFMS=Time of Flight Mass Spectrometer)は、タンパク質などの高分子化合物をあまり開裂させることなく分析することが可能であり、しかも微量分析にも好適であることから、近年、生命科学や工業材料の分野などで広範に利用されている(非特許文献1)。
従来、MALDI法においてマトリックスとして用いられている化合物は、例えば、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)、ジスラノール、2−(4−ヒドロキシルフェニルアゾ)安息香酸(HABA)などの、いわゆる低分子有機化合物が一般的である。また、MALDI法におけるイオン化効率やイオン化の安定性などを改善するために、従来より、マトリックスとして用いられる化合物の改良が試みられている(例えば特許文献1〜3、5参照)。
これまでMALDI法は、特に高分子化合物のイオン化に利用されてきたが、MALDI法が非常に簡便で且つ高感度なイオン化法であることから、近年、低分子化合物への適用の要望が非常に高まっている。上記のような従来のマトリックスを用いてMALDI−TOFMS分析を行った場合、マススペクトルにはマトリックス由来の夾雑物イオンピークが低質量領域(低 m/z領域)に顕著に観測される。測定対象物質が高分子化合物である場合には、そうした低質量領域の妨害ピークの存在は問題にならない。しかしながら、測定対象物質が低分子化合物である場合には、マススペクトル上で、目的とする低分子化合物由来の各種分子イオンピークと上記妨害ピークとが混在したり、場合によっては重なったりしてしまい、目的ピークを正確に把握することができなくなる。このような理由により、従来のマトリックスを用いたMALDI−TOFMSで低分子化合物を適切に分析することは困難であった。
一方、有機化合物であるマトリックスを用いずにMALDI−TOFMSにより低分子化合物を分析する技術として、従来、いくつかの提案がなされている。例えば非特許文献2には、多孔質シリコン(ポーラスシリコン)を基板としたDIOS(Desorption/Ionization on Silicon)と呼ばれるレーザ脱離イオン化法が提案されている。また、非特許文献3には、「ナノ・フラワー」と名付けられた白金ナノ粒子を無機マトリックスとして用いたレーザ脱離イオン化法が提案されている。また、特許文献4には、分子線エピタキシー法を用いてシリコン単結晶上にGeナノドットを形成したプレートを使用したレーザ脱離イオン化法が提案されている。さらにまた、マススペクトル上で低質量領域にマトリックス由来のピークを生じさせないために、従来よりも分子量がかなり大きな、いわゆる高分子マトリックスを使用したレーザ脱離イオン化法の例も報告されている。
特開2010−204050号公報 特開2004−347595号公報 特開2008−261824号公報 特開2006−201042号公報 特開2013−234974号公報
Shrivas K, ほか4名、「イオニック・マトリックス・フォー・エンハンスド・マルディ・イメージング・マス・スペクトロメトリー・フォー・アイデンティフィケーション・オブ・フォスフォリピッズ・イン・マウス・リバー・アンド・セレベラム・ティッシュ・セクションズ(Ionic matrix for enhanced MALDI imaging mass spectrometry for identification of phospholipids in mouse liver and cerebellum tissue sections)」、アナリティカル・ケミストリー(Anal Chem.)、2010年、第82(21)巻、pp.8800-8806 ウェイ(J.Wei)ほか2名、「デソープション-アイオナイゼイション・マス・スペクトロメトリー・オン・ポーラス・シリコン(Desorption-ionization mass spectrometry on porous silicon)」、ネイチャー(Nature)、1999年5月20日、第339巻、pp.243-246 カワサキ(H.Kawasaki)ほか3名、「プラチニウム・ナノフラワーズ・フォー・サーフェス-アシステッド・レーザ・デソープション/アイオナイゼイション・マス・スペクトロメトリー・バイオモレキュールズ(Platinum Nanoflowers for Surface-Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry of Biomolecules)」、ザ・ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・C(The Journal of physical chemistry C)、2007年、第11巻、pp.16278-16283
しかしながら、上述したマトリックスを使用しない方法や無機マトリックスを使用する方法は、従来の有機化合物のマトリックスを用いたMALDI法に比べて分析コストがかなり高くなる。一方、高分子有機マトリックスを使用する方法では、マトリックスの粘性が高いために扱いにくく、試料の調製が難しいという問題がある。
本発明はこうした点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分子量500以下の低分子化合物をMALDI−TOFMS分析の測定対象物質としても、該測定対象物質の分子イオンピークがマトリックス由来の分子イオンピークによって妨害されることのない、低分子有機化合物である、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックスを提供することにある。
現在、マトリックスとして使用されている2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)やα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)などの化合物は、ベンゼン環を基本として水酸基やカルボン酸などを含んだものである。特にカルボン酸は、測定対象物質の分子のイオン化時における該分子へのプロトン付加に寄与しているとされ、該分子のイオン化に重要な役割を担っていると考えられている。そこで本願発明者は、カルボン酸と同様の性質を有する官能基を有する低分子有機化合物を探索した。具体的には、カルボン酸は酸性基であるから、酸性を示し、MALDI−TOFMS分析に適するように沸点が高いこと、並びに、できるだけ分子量が小さいこと等を官能基の探索条件とした。
本願発明者は、上記条件に適合する化合物として、カルボン酸とほぼ同じpKaを有する5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン環に着目し、種々の低分子5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン誘導体をデザイン及び合成し、実分析による実験を行った。その結果、MALDI−TOFMS分析の正イオン測定モードにおいてマトリックス由来のプロトン付加イオンが測定対象物質の分子イオン検出を妨げることなく、CHCAと同程度の感度またはCHCAよりも高感度で低分子化合物を測定することができる、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックスとして好都合な新規5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン誘導体を創製するに至った。
上記課題を解決するためになされた本発明に係るマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックスは、
一般式(1)
Figure 0006156845
で表される5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン誘導体から成ることを特徴とする。
上記の一般式において、R1は酸素原子を表し、R2〜R6は水素原子及びハロゲン元素のいずれかを表す。特に、R1が酸素原子、R2及びR6がフッ素原子、R3が塩素原子、R4及びR5が水素原子である構造、R1が酸素原子、R3及びR5が臭素原子、R2、R4及びR6が水素原子である構造、R1が酸素原子、R3がフッ素原子、R4が塩素原子、R2、R5及びR6が水素原子である構造は、MALDI−TOFMS分析の正イオン測定モードにおいてマトリックスの分子イオンが検出されないか、検出されても比較的低強度であり、MALDI質量分析用マトリックスとして有用である。
本発明に係る5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン誘導体をマトリックスとして使用した場合、MALDI−TOFMS分析の正イオン測定モードにおいて、マトリックスの分子イオンは、全く検出されないか又は検出されても無視できる程度である。このため、低分子化合物を測定対象試料とする場合でも、この試料由来の分子イオンピークを正確に把握することが可能となる。従って、それまで困難であった低分子化合物のMALDI−TOFMS分析を容易に行うことができる。
また、本発明に係る5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン誘導体は比較的短いステップで合成できるため、安価に製造することができる。従って、従来の無機マトリックス又は高分子有機マトリックスを使用する方法に比べて分析コストを抑えることができる。さらに、本発明に係る5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン誘導体は分子量が500以下と低いため、従来の高分子有機マトリックスに比べて粘性が低く、取扱いが容易である。
本発明の実施例1である5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのNMR分析結果(a)、(b)。 5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをマトリックスとし、ドーパミンを測定対象物質として正イオン測定モードでMALDI−TOFMS分析を行って得られたマススペクトル(a)、5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの負イオン測定モードのマススペクトル(b)。 本発明の実施例2である5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのNMR分析結果(a)、(b)。 5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをマトリックスとし、ドーパミンを測定対象物質として正イオン測定モードでMALDI−TOFMS分析を行って得られたマススペクトル(a)、5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの負イオン測定モードのマススペクトル(b)。 本発明の実施例3である、5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのNMR分析結果(a)、(b)。 5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをマトリックスとし、ドーパミンを測定対象物質として負イオン測定モードでMALDI−TOFMS分析を行って得られたマススペクトル(a)、5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの負イオン測定モードのマススペクトル(b)。
本発明は以下の一般式(1)で表される5−ベンジリデンチアゾリジン−4−オン誘導体である。
Figure 0006156845
一般式(1)において、R1は酸素原子であり、R2〜R6は水素原子及びハロゲン元素のいずれかである。
R1が酸素原子、R2及びR6がフッ素原子、R3が塩素原子、R4及びR5が水素原子である5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの実施例1、R1が酸素原子、R3及びR5が臭素原子、R2、R4及びR6が水素原子である5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの実施例2、R1が酸素原子、R3がフッ素原子、R4が塩素原子、R2、R5及びR6が水素原子である5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの実施例3について順に説明する。
(1)5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの製造方法
チアゾリジン−2,4−ジオン(Thiazolidine-2,4-dione)0.663gと 3−クロロ−2,6−ジフルオロベンズアルデヒド(3-chloro-2,6-difluorobenzaldehyde)1.0g及びトリエチルアミン 4mlをエタノール 5mlに加え、18時間加熱還流したのち、室温で2時間放置した。この溶液に濃塩酸を加えてpH2とした後、水 20mlを加えると赤色の沈殿物が析出した。この赤色沈殿物を濾取し、熱エタノール 20mlに溶解したのち、室温で 1時間放置した。これにより析出した結晶を濾過した後、減圧下で乾燥し生成物 0.922gを得た。この生成物の融点を測定したところ、146℃であった。
(2)生成物の同定
得られた生成物の化学構造を13C-NMR分析、及び1H-NMR分析にて同定した。13C-NMR分析及び1H-NMR分析の結果を図1の(a)及び(b)に示す。なお、NMR分析試料調製用の溶媒として重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を使用した。これらの分析結果により、得られた生成物は、以下の式(2)で示される5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン(分子式:C10ClFNOS、分子量:275)であると同定された。
Figure 0006156845
(3)5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのMALDI−TOFMS分析結果
得られた生成物である5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン-2,4−ジオンをマトリックスとして用い、ドーパミン(分子量:153.18)を測定対象試料として調製した測定試料をMALDI−TOFMSで測定した。なお、測定試料は以下の方法により調製した。
5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン20nM/μLジメチルホルムアミド溶液と、ドーパミン塩酸塩 2nM/?L50%アセトニトリル水溶液 を調製し、それぞれを0.5μLずつステンレス製ターゲットプレート(株式会社島津製作所製)上に載せて風乾し、測定試料とした。この測定試料をMALDI−TOFMS(株式会社島津製作所製AXIMA CFRplus)で測定した。
正イオンモードで得られたマススペクトルの一例を図2(a)に示す。
図2(a)から明らかなように、測定対象試料であるドーパミンのプロトン付加分子イオン[M+H]+ のピークが m/z 154の位置に出現している。また、m/z 210-340領域に5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来と考えられるピークが多数観察されたが、これらはいずれもドーパミン由来のイオンとは明確に区別された。このことから、マトリックスとしての5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来のイオンは測定対象物質由来のイオンの検出を妨げないことが分かる。
一方、5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをMALDI−TOFMSで測定した場合の負イオンモードで得られたマススペクトルを図2(b)に示す。図2(b)から分かるように、負イオンモードのマススペクトルには、5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのプロトン脱離イオン[M-H]-のピークがm/z 274の位置に観察される。これは、レーザ脱離イオン化により、本実施例の生成物から1個のプロトンが容易に脱離すること、言い換えると、正イオン化の際に、5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来のプロトンが測定対象試料に付加してプロトン付加イオンが容易に生成されることを示している。これにより、5−(3−クロロ−2,6−ジフルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンが低分子化合物の正イオン測定に有用なマトリックスであることが分かる。
(1)5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの製造方法
チアゾリジン−2,4−ジオン 0.843g と3,5−ジブロモベンズアルデヒド(3,5-dibromobenzaldehyde)1.0g 及びトリエチルアミン 4mlをエタノール 5mlに加え、16時間加熱還流したのち、室温で2時間放置した。この溶液に濃塩酸を加えてpH2とした後、水 400mlを加えると赤褐色の沈殿物が析出した。この沈殿物を濾別し、粉末沈殿物を得た。得られた粉末状沈殿物は、エタノール 10mlで熱時溶解した後、酢酸エチルを加え加熱し、その後、ヘキサン 10mlを加えて室温で1時間放置した。これにより析出した結晶は濾過した後、減圧下で乾燥し、生成物0.786gを得た。この生成物の融点を測定したところ、222℃であった。
(2)生成物の同定
得られた生成物の化学構造を13C-NMR分析、及び1H-NMR分析にて同定した。13C-NMR分析、及び1H-NMR分析の結果を図3の(a)及び(b)に示す。なお、NMR分析試料調製用の溶媒として重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を使用した。これらの分析の結果により、得られた生成物は、式(3)で示される5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン(分子式:C10BrNOS、分子量:363)であると同定された。
Figure 0006156845
(3)5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのMALDI−TOFMS分析結果
得られた生成物である5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをマトリックスとして用い、ドーパミン(分子量:153.18)を測定対象試料として調製した測定試料をMALDI−TOFMSで測定した。なお、測定試料の調は実施例1と同様に行った。
正イオンモードで得られたマススペクトルの一例を図4(a)に示す。
図4(a)から明らかなように、測定対象試料であるドーパミンのプロトン付加分子イオン[M+H]+のピークが m/z 154の位置に出現している。また、m/z 240-340領域に5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来と考えられるピークが多数観察されたが、これらはいずれもドーパミン由来のイオンとは明確に区別された。このことから、本実施例のマトリックスである5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来のイオンは測定対象物質由来のイオンの検出を妨げないことが分かる。
一方、5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをMALDI−TOFMSで測定した場合の負イオンモードで得られたマススペクトルを図4(b)に示す。図4(b)から分かるように、5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのプロトン脱離イオン[M-H]-のピークがm/z 360の位置に観察される。これは、レーザ脱離化により、本実施例の生成物から1個のプロトンが容易に脱離すること、言い換えると、正イオン化の際に、5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来のプロトンが測定対象試料に付加してプロトン付加イオンが容易に生成されることを示している。これにより、5−(3,5−ジブロモベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンが低分子化合物の正イオン測定に有用なマトリックスであることが分かる。
(1)5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンの製造方法
チアゾリジン−2,4−ジオン 0.738gと4−クロロ−3−フルオロベンズアルデヒド(4-chloro-3-fluorobenzaldehyde)1.0g及びトリエチルアミン4mlをエタノール5mlに加え、18時間加熱還流したのち、室温で2時間放置した。この溶液に濃塩酸を加えてpH2とした後、水40mlを加えると、赤色沈殿物が析出した。この沈殿物を濾別し、熱エタノール20mlに溶解したのち、室温で1時間放置した。これにより析出した結晶は濾過した後、減圧下で乾燥して生成物1.215gを得た。この生成物の融点を測定したところ、115℃であった。
(2)同定
得られた生成物の化学構造を13C-NMR分析、及び1H-NMR分析にて同定した。13C-NMR分析、及び1H-NMR分析の結果を図5の(a)及び(b)に示す。なお、NMR分析試料調製用の溶媒として重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を使用した。この分析結果により、得られた生成物は、式(4)
Figure 0006156845
で示される5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン(分子式:C10ClFNOS、分子量:257)であると同定された。
(3)5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのMALDI−TOFMS分析結果
得られた生成物である5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをマトリックスとして用い、ドーパミン(分子量:153.18)を測定対象試料として調製した測定試料をMALDI−TOFMSで測定した。なお、測定試料の調製は実施例1と同様に行った。
正イオンモードで得られたマススペクトルの一例を図6(a)に示す。
図6(a)から明らかなように、測定対象試料であるドーパミンのプロトン付加分子イオン[M+H]+ のピークが m/z 154の位置に出現している。また、m/z 230-340領域に5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来と考えられるイオンのピークが多数観察されたが、これらはいずれもドーパミン由来のイオンとは明確に区別された。このことから、本実施例のマトリックスである5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのイオンが測定対象物質由来のイオンの検出を妨げないことが分かる。
一方、5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンをMALDI−TOFMSで測定した場合の負イオンモードで得られたマススペクトルを図6(b)に示す。図6(b)から分かるように、負イオンモードのマススペクトルには、5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンのプロトン脱離イオン[M-H]-のピークがm/z 256の位置に観察される。これは、レーザ脱離化により、本実施例の生成物から1個のプロトンが容易に脱離すること、言い換えると、正イオン化の際に、5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオン由来のプロトンが測定対象試料に付加してプロトン付加イオンが容易に生成されることを示している。これにより、5−(4−クロロ−3−フルオロベンジリデン)チアゾリジン−2,4−ジオンが低分子化合物の正イオン測定に有用なマトリックスであることが分かる。
なお、上記した実施例1〜3に係る3つの化合物のマススペクトルと既存のマトリックスCHCAのマススペクトル(図示せず)の比較から、実施例1〜3の化合物の検出感度はCHCAの検出感度と同等であった。また、実施例1〜3の化合物のスペクトルバックグラウンドの夾雑ピークはCHCAと比較して明らかに抑制されていた。
また、上記実施例は本発明のいくつかの例に過ぎず、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更、修正、追加を行っても当然に本願特許請求の範囲に包含される。

Claims (4)

  1. マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析に供する試料をイオン化するためのマトリックスであって、次の一般式(1)
    Figure 0006156845
    で表される、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックス。
    ここで、R1は酸素原子を表し、R2〜R6は水素原子及びハロゲン元素のいずれかを表す。
  2. R1が酸素原子、R2及びR6がフッ素原子、R3が塩素原子、R4及びR5が水素原子である請求項に記載のマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックス。
  3. R1が酸素原子、R3及びR5が臭素原子、R2、R4及びR6が水素原子である請求項に記載のマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックス。
  4. R1が酸素原子、R3がフッ素原子、R4が塩素原子、R2、R5及びR6が水素原子である請求項に記載のマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックス。
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