以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る熱処理装置1の要部構成を示す図である。この熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対して裏面から光を照射することによって当該半導体ウェハーWの加熱処理(バックサイドアニール)を行うランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
熱処理装置1は、主たる構成として、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを保持する保持部7と、保持部7に保持された半導体ウェハーWに光を照射する光照射部4と、半導体ウェハーWの裏面の温度を測定するパイロメータ20と、半導体ウェハーWの表面から放射される赤外線を受光する赤外線カメラ80と、を備えている。また、熱処理装置1は、これらの各部を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
チャンバー6は、上下が開口された略円筒形状の側壁を有している。チャンバー6は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されている。チャンバー6の下側開口には石英窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の下端に配置された石英窓64は、石英(SiO2)により形成された円板形状部材であり、光照射部4から照射された光をチャンバー6内に透過する。
また、チャンバー6の上側開口には赤外透過窓63が装着されて閉塞されている。チャンバー6の上端に配置された赤外透過窓63は、シリコン(Si)により形成された円板形状部材である。赤外透過窓63の径は半導体ウェハーWと同様である(φ300mmまたはφ400mm)。このような赤外透過窓63としては、例えば半導体ウェハーWを切り出すシリコン単結晶のインゴットから所定厚さ(本実施形態では3mm)の円板を切り出したものを用いるようにすれば安価に製作することができる。後に詳述するように、シリコンは可視光に対しては不透明(可視光を透過しない)であるが、波長1μmを超える赤外線を透過する性質を有する。従って、光照射部4からの光照射を受けて昇温した半導体ウェハーWから放射された赤外線はチャンバー6上端の赤外透過窓63を透過してチャンバー6の上方に放出される。
石英窓64、赤外透過窓63およびチャンバー6の側壁によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。熱処理空間65の気密性を維持するために、石英窓64および赤外透過窓63とチャンバー6とは図示省略のOリングによってそれぞれシールされており、これらの隙間から気体が流出入するのを防いでいる。具体的には、石英窓64の上面周縁部とチャンバー6との間にOリングを挟み込み、クランプリング66を石英窓64の下面周縁部に当接させ、そのクランプリング66をチャンバー6にネジ止めすることによって、石英窓64をOリングに押し付けている。同様に、赤外透過窓63の下面周縁部とチャンバー6との間にOリングを挟み込み、クランプリング62を赤外透過窓63の上面周縁部に当接させ、そのクランプリング62をチャンバー6にネジ止めすることによって、赤外透過窓63をOリングに押し付けている。
また、チャンバー6の側壁には、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部67が設けられている。搬送開口部67は、図示を省略するゲートバルブによって開閉可能とされている。搬送開口部67が開放されると、図外の搬送ロボットによってチャンバー6に対する半導体ウェハーWの搬入および搬出が可能となる。また、搬送開口部67が閉鎖されると、熱処理空間65が外部との通気が遮断された密閉空間となる。
保持部7は、円板形状の半導体ウェハーWの周縁部を下方から支持する円環形状の部材である。保持部7は例えば炭化ケイ素(SiC)にて形成されている。円環形状の保持部7の内径は半導体ウェハーWの直径よりも小さく、外径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。保持部7は、水平姿勢となるようにチャンバー6の内部に固定設置されている。この保持部7によって半導体ウェハーWをチャンバー6内にて水平姿勢(半導体ウェハーWの法線が鉛直方向に沿う姿勢)に保持することができる。
また、チャンバー6の内部には移載機構5が設けられている。移載機構5は、一対の移載アーム51と、各移載アーム51の上面に設けられたリフトピン52とを備える。2本の移載アーム51のそれぞれには、例えば2本のリフトピン52が設けられている。2本の移載アーム51および4本のリフトピン52はいずれも石英にて形成される。一対の移載アーム51は、図示省略の昇降駆動部によって鉛直方向に沿って昇降移動される。一対の移載アーム51が上昇すると、計4本のリフトピン52が円環形状の保持部7の内側を通過し、その上端が保持部7の上面よりも上方に突き出る。一方、移載アーム51が下降しているときには、図1に示すように、リフトピン52の上端が保持部7よりも下方に位置している。なお、移載アーム51が下降している状態において、開閉機構によって一対の移載アーム51を水平方向に沿って開閉するようにしても良い。
また、チャンバー6の内部にはパイロメータ20が設けられている。パイロメータ20は、保持部7よりも下方に設置されている。パイロメータ20は、円環形状の保持部7に保持された半導体ウェハーWの裏面から放射された赤外線を受光して、その強度(光量)から半導体ウェハーWの温度を非接触で測定する放射温度計である。本実施形態のパイロメータ20の測定波長域は波長5.0μm〜10μmのいわゆる遠赤外線である。パイロメータ20は、光照射部4からの光照射の障害とならないように、保持部7に保持される半導体ウェハーWの斜め下方に設けられている。パイロメータ20のプローブは円環形状の保持部7の中空部に向けられており、当該中空部を介して半導体ウェハーWの裏面から放射された赤外線をパイロメータ20が受光する。
光照射部4は、チャンバー6の下方に設けられている。光照射部4は、複数本のハロゲンランプHLおよびリフレクタ43を備える。本実施形態では、光照射部4に40本のハロゲンランプHLを設けている。複数のハロゲンランプHLは、チャンバー6の下方から石英窓64を介して熱処理空間65への光照射を行う。図2は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。本実施形態では、上下2段に各20本ずつのハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
また、図2に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも端部側の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、光照射部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段の各ハロゲンランプHLの長手方向と下段の各ハロゲンランプHLの長手方向とが直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
また、リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLの下方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ43の基本的な機能は、複数のハロゲンランプHLから出射された光をチャンバー6内の熱処理空間65に反射するというものである。リフレクタ43は例えばアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(ハロゲンランプHLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
図1に戻り、チャンバー6の上方には赤外線カメラ(サーモグラフィ)80が設けられている。本実施形態の赤外線カメラ80は、波長3.5μm〜5.0μmのいわゆる中赤外線を受光してその強度を測定する。赤外線カメラ80は、チャンバー6の上方に、撮像レンズを赤外透過窓63に対向させて配置されている。シリコンにて形成された赤外透過窓63は波長1μm以上の赤外線を透過する(後述の図6参照)。すなわち、チャンバー6内の熱処理空間65から放射された波長3.5μm〜5.0μmの赤外線は赤外透過窓63を透過して赤外線カメラ80によって検出されることとなり、赤外線カメラ80は赤外透過窓63よりも下側の熱処理空間65を撮像することが出来るのである。
赤外線カメラ80は、その視野内に保持部7に保持された半導体ウェハーWの全面を収める高さ位置に設置される。従って、赤外線カメラ80は、保持部7に保持された半導体ウェハーWの表面の全面を赤外透過窓63を通して撮像することができる。なお、赤外線カメラ80と赤外透過窓63との距離は、赤外線カメラ80が赤外透過窓63から放射される赤外線を検出することがないように、半導体ウェハーWを被写体としたときにピントが合っている範囲である被写界深度の半分以下の距離に設定されている。例えば、赤外線カメラ80として被写界深度の最短距離が30cmのものを設けた場合、赤外線カメラ80から赤外透過窓63までの距離は、0cmから15cmの範囲となるように設定され、好ましくは、赤外線カメラ80と赤外透過窓63との距離は出来うる限り短い方が良い。
また、熱処理装置1には赤外透過窓63を冷却する冷却部69が設けられている。本実施形態では、冷却部69として送風機を用いている。冷却部69は、チャンバー6の外部に設けられており、赤外透過窓63の上面に向けて送風することにより赤外透過窓63を空冷する。冷却部69は、送風する風を温調するための温調機構を備えていても良い。
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、制御部3には、パイロメータ20によって測定された温度および赤外線カメラ80によって測定された赤外線の強度が伝達される。さらに、光照射部4の各ハロゲンランプHLの発光出力も制御部3によって制御される。
上記の構成以外にも熱処理装置1は、熱処理空間65の雰囲気調整を行う機構、例えば窒素(N2)、酸素(O2)、水素(H2)、塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)などの処理ガスを熱処理空間65に供給する給気機構および熱処理空間65内の雰囲気を装置外に排気する排気機構を備えていても良い。また、光照射部4からの光照射によるチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するための水冷管をチャンバー6の側壁に設けるようにしても良い。
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。処理対象となる半導体ウェハーWの表面にはデバイス製造のためのパターンが形成されている。図3は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
まず、熱処理に先立って図示省略のゲートバルブが開いて搬送開口部67が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部67を介して処理対象となるシリコンの半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される。搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構5の一対の移載アーム51が上昇することにより、計4本のリフトピン52が保持部7の内側を通過して保持部7よりも上方に突き出て搬送ロボットから半導体ウェハーWを受け取る。
半導体ウェハーWがリフトピン52に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出して搬送開口部67が閉鎖されることにより熱処理空間65が密閉空間とされる。そして、一対の移載アーム51が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構5から保持部7に受け渡される。半導体ウェハーWは、その周縁部が保持部7によって下方より支持されて水平姿勢にて保持される。半導体ウェハーWは、パターン形成がなされた表面を上面として保持部7に保持される。つまり、パターン形成がなされていない裏面が下面となっている。
半導体ウェハーWが保持部7によって水平姿勢にて保持された後、光照射部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して光照射加熱(ランプアニール)が開始される(ステップS1)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された石英窓64を透過して保持部7に保持された半導体ウェハーWの裏面から照射される。
ハロゲンランプHLから出射されて石英窓64を透過した光は保持部7に保持された半導体ウェハーWの裏面に照射され、それによって半導体ウェハーWが加熱されて目標とする処理温度にまで昇温する。本実施形態においては、パターンの形成されていない半導体ウェハーWの裏面に光が照射されるため、均一な光照射加熱を行うことができる(いわゆるバックサイドアニール)。すなわち、パターン形成がなされていない半導体ウェハーWの裏面には光吸収率のパターン依存性が存在しないため、裏面全面にわたって光吸収率は均一であり、その結果ハロゲンランプHLの光が均一に吸収されるのである。なお、移載機構5の移載アーム51およびリフトピン52も石英にて形成されているため、ハロゲンランプHLによる光照射加熱の障害となることは無い。
ハロゲンランプHLからの光照射加熱によって昇温した半導体ウェハーWからは、その温度に応じた強度の赤外線が放射される。半導体ウェハーWから放射される赤外線の強度は温度(絶対温度)の4乗に比例することが知られている(シュテファン=ボルツマンの法則)。昇温した半導体ウェハーWの裏面から放射された赤外線はパイロメータ20によって受光され、表面から放射された赤外線はシリコンの赤外透過窓63を透過して赤外線カメラ80によって受光される。そして、本実施形態においては、パイロメータ20および赤外線カメラ80の測定結果から半導体ウェハーWの全面の温度を求めている。
図4は、半導体ウェハーWの温度算定を概念的に示す図である。光照射部4のハロゲンランプHLから出射された光は石英窓64を透過した後に半導体ウェハーWの裏面から照射され、これにより半導体ウェハーWが加熱されて処理温度にまで昇温する。図5は、石英の分光透過率を示す図である。同図に示すように、石英は波長2.5μm以下の比較的短波長の光はほとんど透過させるのに対して、波長2.5μmを超えるいわゆる中赤外線よりも長波長の光については透過率が大幅に低下する。そして、パイロメータ20の測定波長域である波長5.0μm〜10μm、および、赤外線カメラ80の検出波長域である波長3.5μm〜5.0μmの赤外線はほとんど石英を透過しない。従って、ハロゲンランプHLから出射されて石英窓64を透過した光がパイロメータ20および赤外線カメラ80の外乱光となることは防止される。すなわち、ハロゲンランプHLから熱処理空間65に入射した光がパイロメータ20によって検知されることはない。また、赤外線カメラ80は赤外透過窓63よりも下側の熱処理空間65を撮像することは出来るものの、石英窓64よりも下側のハロゲンランプHLの光を検出することはできない。
パイロメータ20は、ハロゲンランプHLからの光の影響を受けることなく、昇温した半導体ウェハーWの裏面から放射された赤外線を受光し、その強度から半導体ウェハーWの裏面温度を測定する(ステップS2)。このときに、パイロメータ20は、受光可能なエリアが限られているという特性上、半導体ウェハーWの一部領域の裏面から放射された赤外線を受光して当該一部領域の温度を測定する。パイロメータ20は半導体ウェハーWの斜め下方に設けられているため、一部領域の形状は略楕円形となる。半導体ウェハーWの一部領域の裏面から放射された赤外線の強度から温度を算定するには、黒体輻射についてのプランクの法則或いはそれから導かれるステファン・ボルツマンの法則を利用した公知の演算手法用いることができる。なお、上記一部領域のサイズは特に限定されるものではないが、大きすぎると後述の処理に支障が生じるため、その大きさは例えば短径約10mm×長径約50mm程度である。
この温度測定には、半導体ウェハーWの裏面の放射率が必要となる。半導体ウェハーWの裏面にはパターンが形成されておらず、その放射率は既知であり、裏面の全面について均一である。ここで、放射率が既知とは、予め半導体ウェハーWの裏面の温度を測定する際に既知になっていればよく、半導体ウェハーWの裏面の温度測定直前にその裏面の放射率を測定し、放射率を得る場合も含む概念である。半導体ウェハーWの裏面にも不可避的に膜が形成されている場合もあるが、パイロメータ20の測定に使用する長波長域(波長5.0μm〜10μm)での温度測定への影響は小さい。なお、裏面に形成された膜が温度測定に影響を与える場合には、熱処理装置1に搬入する前に薬液処理等によって半導体ウェハーWの裏面から膜を剥離しておくようにしても良い。
放射率が定まっていれば、パイロメータ20は限られた面積の一部領域の裏面温度を正確に測定することができる。パイロメータ20によって測定された半導体ウェハーWの一部領域の裏面温度は制御部3に伝達される。ハロゲンランプHLからの光照射加熱による昇温レート程度であれば、半導体ウェハーWの表裏面に温度差はほとんど生じない。すなわち、パイロメータ20によって測定された半導体ウェハーWの一部領域の裏面温度は、その一部領域の表面温度と等しい。
一方、昇温した半導体ウェハーWの表面から放射された赤外線はチャンバー6の上端に設けられたシリコンの赤外透過窓63を透過する。図6は、厚さ3mmのシリコンの分光透過率を示す図である。同図に示すように、可視光を含む波長1μm以下の光はシリコンを全く透過しないのに対して、波長1μmを超える赤外線はある程度シリコンを透過する。赤外線カメラ80の検出波長域である波長3.5μm〜5.0μmの赤外線もシリコンを透過する。従って、昇温した半導体ウェハーWの表面から放射された波長3.5μm〜5.0μmの赤外線はシリコンの赤外透過窓63を透過して赤外線カメラ80によって検出されることとなる。
また、赤外線カメラ80は、その視野内に保持部7に保持された半導体ウェハーWの全面を収める。よって、赤外線カメラ80は、パイロメータ20によって温度測定される一部領域を完全に含む半導体ウェハーWの全領域の表面から放射される赤外線を受光して当該赤外線の強度を測定する(ステップS3)。
このときに、半導体ウェハーWから放射された光の一部は赤外透過窓63を透過するものの、残部は赤外透過窓63に吸収され、赤外透過窓63自体が加熱される。すなわち、光照射加熱によって昇温した半導体ウェハーWからの輻射熱によって、半導体ウェハーWと同じ材質(シリコン)の赤外透過窓63が加熱されるのである。シリコンは、常温のときには図6に示すような分光透過率特性を示すが、加熱されて昇温するとほとんど赤外線を透過しなくなるという性質を有する。従って、半導体ウェハーWが昇温してからの経過時間が長くなるにつれて赤外透過窓63も昇温し、半導体ウェハーWから放射された赤外線が赤外透過窓63を透過しにくくなって赤外線カメラ80による検出が困難となる。
このため、赤外透過窓63を冷却するための冷却部69が設けられている。冷却部69は、少なくともハロゲンランプHLが点灯している間は赤外透過窓63の上面に向けて継続して送風する。これにより、ハロゲンランプHLからの光照射加熱によって半導体ウェハーWが昇温しても、赤外透過窓63の温度は冷却部69によって150℃以下に維持されることとなる。150℃以下であれば赤外透過窓63は波長3.5μm〜5.0μmの赤外線を透過することができる。なお、より確実に赤外線を透過するためには、冷却部69によって赤外透過窓63を100℃以下に冷却しておくのが好ましい。
赤外線カメラ80によって測定された赤外線強度は制御部3に伝達される。既述したように、半導体ウェハーWの表面にはパターンが形成されているため、表面の放射率は未知である。また、一般には、パターン形成のなされた半導体ウェハーWの表面においては放射率が均一ではない。従って、赤外線カメラ80によって半導体ウェハーWの全領域の表面から放射される赤外線の強度を測定したとしても、そのままでは温度を求めることはできない。
このため、本実施形態では、パイロメータ20および赤外線カメラ80の測定結果からまず半導体ウェハーWの表面の放射率を制御部3の放射率算定部31が算定している(ステップS4)。なお、放射率算定部31、後述する温度算定部32および温度補正部33は、いずれも制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって実現される機能処理部である。
パイロメータ20によって正確に測定された半導体ウェハーWの一部領域の裏面温度は、その一部領域の表面温度と等しい。すなわち、半導体ウェハーWの当該一部領域の表面温度については正確な値が実測されているものとみなすことができる。放射率算定部31は、パイロメータ20によって測定された一部領域の裏面温度(=表面温度)に基づいて、赤外線カメラ80が測定した当該一部領域の赤外線強度から当該一部領域の表面の放射率を算定する。具体的には、半導体ウェハーWを黒体(放射率=1)と仮定したときに、パイロメータ20によって測定された温度と等温の一部領域から放射されて赤外線カメラ80によって受光される赤外線の強度(以下、黒体放射強度とする)を予め算定して制御部3のメモリ等に格納しておく。そして、放射率算定部31は、赤外線カメラ80によって実測された一部領域の赤外線強度を上記黒体放射強度で除することにより、半導体ウェハーWの一部領域の表面の放射率を算定する。
赤外線カメラ80は、二次元的に配列されたグリッド状の測定点での赤外線強度を測定する。上記演算の過程で一部領域の赤外線強度を算定するに際しては、当該一部領域に含まれるグリッドの測定値を平均化することによって測定精度を向上させることができる。
次に、上述のようにして求められた半導体ウェハーWの表面の放射率に基づいて、温度算定部32が半導体ウェハーWの全面の温度を算定する(ステップS5)。温度算定部32は、放射率算定部31によって求められた半導体ウェハーWの表面の放射率に基づいて、赤外線カメラ80が測定した半導体ウェハーWの全領域の赤外線強度からその全領域の温度を算定する。放射率が求められていれば、パイロメータ20によるのと同様の公知の演算手法によって赤外線強度から半導体ウェハーWの全領域の温度を算定することは可能である。但し、上述したように、パターンが形成されている半導体ウェハーWの表面においては放射率が均一ではない。このため、以下のようにして半導体ウェハーWの全領域の温度を算定している。
図7は、半導体ウェハーWの表面に形成されたパターンの一例を示す図である。同図に示すように、半導体ウェハーWの表面には、正方形のデバイスが二次元的に規則的に配列されたパターンが形成されている。なお、図7においては、理解容易のために各デバイスのサイズを誇張して記載している。
また、図7には、パイロメータ20によって温度測定がなされる半導体ウェハーWの一部領域PAを示している。ステップS4にて放射率算定部31によって算定される放射率は、この一部領域PAの表面の放射率である。一部領域PAの表面に形成されているパターンと異なるパターンを有する領域の放射率は、一部領域PAの放射率と異なる。一方、一部領域PAの表面に形成されているパターンと同一のパターンが形成されている領域の放射率は、一部領域PAの放射率と等しい。図7において、点線で囲まれている各領域は、一部領域PAの表面に形成されているパターンと同一のパターンが形成されている領域であり、その放射率は一部領域PAの放射率(つまり、ステップS4にて放射率算定部31によって算定される放射率)と等しい。
温度算定部32は、一部領域PAの表面に形成されているパターンと同一のパターンが形成されている領域、すなわちステップS4にて放射率が正確に求められている領域の赤外線強度より当該領域の温度を算定するのである。図7に示すように、デバイスが規則的に配列された半導体ウェハーWには、一部領域PAの表面に形成されているパターンと同一のパターンが形成されている領域が多数含まれている。これらの領域は相互に一部が重複していても良い。温度算定部32がそれら複数の領域の温度を個別に算定することによって、半導体ウェハーWの全領域の温度を算定することができる。
一部領域PAの表面に形成されているパターンと同一のパターンが形成されている領域を制御部3が認識する方法としては、例えば予めCCDカメラなどによって半導体ウェハーWの表面を撮像し、その撮像した画像を解析することによって行うことができる。また、熱処理装置1での処理手順および処理条件を記述したレシピに同一パターンの領域を指定しておくようにしても良い。さらに、本実施形態のように、デバイスが規則的に配列されたパターンが形成されている場合には、一部領域PAをパターンサイズ(隣り合うデバイスの中心間の距離)の整数倍だけ図7のX方向および/またはY方向にシフト移動させることによって同一パターンの領域を指定するようにしても良い。
以上のようにして半導体ウェハーWの全面の温度が算定された後、その算定結果に基づいて半導体ウェハーWの温度補正を行う(ステップS6)。本実施形態においては、半導体ウェハーWの全面について温度を求めているため、局所的な温度低下をも検出することができる。制御部3の温度補正部33は、温度算定部32によって算定された半導体ウェハーWの全領域の温度に基づいて、相対的に温度が低い領域を加熱するように光照射部4を制御する。例えば、温度算定部32による算定結果から半導体ウェハーWの周縁部に温度低下領域が現出していることが判明した場合には、その温度低下領域に対向するハロゲンランプHLの発光出力を高めるように温度補正部33が光照射部4を制御する。これにより、温度低下領域が選択的に強く加熱されて昇温し、温度低下領域が解消して半導体ウェハーWの面内温度分布が均一となる。
所定時間の光照射加熱が終了した後、ハロゲンランプHLが消灯して半導体ウェハーWの降温が開始される。ハロゲンランプHLが消灯して所定時間が経過し、半導体ウェハーWが十分に降温した後、移載機構5の一対の移載アーム51が上昇し、リフトピン52が保持部7に保持されていた半導体ウェハーWを突き上げて保持部7から離間させる。その後、搬送開口部67が再び開放され、装置外部の搬送ロボットのハンドが搬送開口部67からチャンバー6内に進入して半導体ウェハーWの直下で停止する。続いて、移載アーム51が下降することによって、半導体ウェハーWがリフトピン52から搬送ロボットに渡される。そして、半導体ウェハーWを受け取った搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出することにより、半導体ウェハーWがチャンバー6から搬出され、熱処理装置1における光照射加熱処理が完了する。
本実施形態においては、ハロゲンランプHLからの光照射加熱によって昇温した半導体ウェハーWの表面から放射された赤外線を赤外線カメラ80によって測定し、裏面から放射された赤外線をパイロメータ20によって測定している。半導体ウェハーWの裏面の放射率は既知であり、パイロメータ20は半導体ウェハーWの一部領域の裏面から放射された赤外線を受光して当該一部領域の温度を正確に測定する。
一方、赤外線カメラ80は半導体ウェハーWの全領域の表面から放射される赤外線を受光して当該赤外線の強度を測定する。パターン形成がなされている半導体ウェハーWの表面の放射率は未知であるものの、パイロメータ20によって測定された上記一部領域の温度と赤外線カメラ80が測定した当該一部領域の赤外線強度とから当該一部領域の表面の放射率が算定される。そして、求められた半導体ウェハーWの表面の放射率に基づいて、半導体ウェハーWの全面の温度を算定している。
このように、本実施形態においては、放射率が既知である半導体ウェハーWの裏面については正確な温度測定ができることと、裏面温度と表面温度とは等しいこととを利用して半導体ウェハーWの表面の放射率を求め、その放射率と赤外線カメラ80の測定結果とに基づいて半導体ウェハーWの全面の温度を算定している。このことは言うなれば、パイロメータ20による正確な温度測定結果に基づいて赤外線カメラ80による測定に必要な半導体ウェハーWの表面の放射率を補正することと同義である。このため、半導体ウェハーWの表面にパターンが形成されて放射率が未知であったとしても、赤外線カメラ80を用いて半導体ウェハーWの全領域の温度を正確に測定することができる。
また、赤外線カメラ80によって半導体ウェハーWの全領域の温度を二次元的に測定しているため、局所的な温度分布の不均一をも検出し、その温度低下領域の温度補正を行うことができる。従って、半導体ウェハーWの全面の温度分布を高精度にて均一化することが可能となる。
また、半導体ウェハーWを回転させることなく、半導体ウェハーWの全領域の温度を二次元的に測定することができるため、チャンバー6内部に回転機構を設ける必要がなく、熱処理装置1の構成が単純なものとなってチャンバー6の容量を小さくすることができる。また、チャンバー6内に回転機構が無ければ、回転機構からパーティクルが発生して熱処理空間65を汚染することも防止される。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、半導体ウェハーWの表面にデバイス製造のためのパターンが形成されていたが、表面にパターンが形成されていない半導体ウェハーWについても本発明に係る温度測定技術を適用して全領域の温度を正確に測定することができる。パターンが形成されていない場合、半導体ウェハーWの表面の全域において放射率が均一であるとみなすことができるため、上記実施形態のように一部領域と同一パターンの領域に限らず、任意の領域の温度を算定することが可能である。
また、上記実施形態においては、半導体ウェハーWの全領域の温度を算定するようにしていたが、これに限定されるものではなく、パイロメータ20によって温度測定がなされる一部領域を完全に包含する任意のサイズの測定対象領域から放射される赤外線を赤外線カメラ80によって受光してその強度を測定し、その測定結果から当該測定対象領域の温度を算定するようにしても良い。例えば、半導体ウェハーWの半分の大きさの測定対象領域の温度を算定するようにしても良い。
また、ステップS6での温度補正専用の加熱部を設け、それによって温度低下領域を選択的に加熱するようにしても良い。このような温度補正専用の加熱部としては、例えば温度低下領域にレーザー光を照射する機構を用いることができる。
また、上記実施形態においては、チャンバー6の下方に光照射部4を設け、半導体ウェハーWの裏面に光を照射して加熱するバックサイドアニールを行っていたが、チャンバー6の上方に光照射部4を設け、パターン形成がなされた半導体ウェハーWの表面に光照射を行うようにしても良い。また、チャンバー6の下方にハロゲンランプHLを備えた光照射部4を設けるとともに、チャンバー6の上方にフラッシュランプを設けたフラッシュランプアニール装置に本発明に係る温度測定技術を適用するようにしても良い。さらには、半導体ウェハーWの加熱は光照射に限定されるものではなく、高周波誘導加熱などの他の熱源によって加熱した半導体ウェハーWの温度を本発明に係る温度測定技術によって測定するようにしても良い。
また、上記実施形態においては、赤外透過窓63をシリコンにて形成していたが、これに限定されるものではなく、赤外線カメラ80の検出波長域の赤外線を透過する素材であれば良く、例えばゲルマニウム(Ge)またはサファイア(Al2O3)にて形成するようにしても良い。もっとも、シリコンの円板は比較的容易に入手できるため、製造コストの観点からはシリコンを用いるのが好ましい。また、光照射部4からの光照射が外乱とならなければ、赤外透過窓63を石英ガラスにて形成するようにしても良い。
また、赤外透過窓63を空冷するの代えて、水冷によって冷却するようにしても良い。水冷によって赤外透過窓63を冷却する場合にも、半導体ウェハーWから放射された赤外線が透過する150℃以下に冷却する。
また、本発明に係る温度測定技術によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。