以下、図面を参照して、本発明による作業車両の一実施の形態を説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、第1の実施の形態に係る作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダは、アーム111、バケット112、および、前輪等を有する前部車体110と、運転室121、機械室122、および、後輪等を有する後部車体120とで構成される。
アーム111はアームシリンダ117の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ116の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
機械室122は、上方がエンジンフード140で、側方が開閉可能な建屋カバー141で覆われている。エンジンフード140には、エンジン190の駆動に必要な空気を外部から取り込むための吸気管170と、排ガスを排出するためのテールパイプ171が取り付けられている。機械室122内には、エンジン190および排ガス浄化装置160が配設されている。
図2は、ホイールローダの概略構成を示す図である。ホイールローダは、エンジン190の回転をトルクコンバータ(以下、トルコン2と記す)、トランスミッション3、プロペラシャフト4、アクスル5を介してタイヤ113に伝達する走行駆動装置(走行系)を備えている。エンジン190の出力軸にはトルコン2の入力軸が連結され、トルコン2の出力軸はトランスミッション3に連結されている。トルコン2は周知のインペラ、タービン、ステータからなる流体クラッチであり、エンジン190の回転はトルコン2を介してトランスミッション3に伝達される。トランスミッション3は、その速度段を1速〜4速に切り換えるクラッチを有し、トルコン2の出力軸の回転はトランスミッション3で変速される。変速後の回転は、プロペラシャフト4、アクスル5を介してタイヤ113に伝達されて、ホイールローダが走行する。
ホイールローダは、油圧ポンプ11、コントロールバルブ21、アクチュエータ30、アーム111およびバケット112を含んで構成されるフロント作業装置(作業系)を備えている。作業用の油圧ポンプ11は、エンジン190により駆動され、圧油を吐出する。油圧ポンプ11は、押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧ポンプである。油圧ポンプ11の吐出流量は、押しのけ容積と油圧ポンプ11の回転速度に応じて決定される。レギュレータ11bは、油圧ポンプ11の吸収トルクが、コントローラ10によって設定された最大ポンプ吸収トルクを超えないように、押しのけ容積を調節する。後述するように、最大ポンプ吸収トルクの設定値は、エンジン190の実回転速度や、尿素水の残量に応じて変更される。
油圧ポンプ11から吐出された圧油はコントロールバルブ21を介して作業用のアクチュエータ30に供給され、アクチュエータ30が駆動される。コントロールバルブ21はコントロールレバー31により操作され、油圧ポンプ11からアクチュエータ30への圧油の流れを制御する。なお、図2では、便宜上、アーム操作レバー、バケット操作レバーを総称してコントロールレバー31と記し、アームシリンダ117、バケットシリンダ115を総称してアクチュエータ30と記し、アーム用コントールバルブあるいはバケット用コントロールバルブを総称してコントロールバルブ21と記している。アーム操作レバーは、アーム111の上昇/下降指令を出力し、バケット操作レバーは、バケット112のチルト/ダンプ指令を出力する。
トルコン2は入力トルクに対して出力トルクを増大させる機能、つまりトルク比を1以上とする機能を有する。トルク比は、トルコン2の入力軸の回転速度Niと出力軸の回転速度Noの比であるトルコン速度比e(=出力回転速度No/入力回転速度Ni)の増加に伴い小さくなる。たとえばエンジン回転速度が一定状態で走行中に走行負荷が大きくなると、トルコン2の出力軸の回転速度Noが低下、つまり車速が低下し、トルコン速度比eが小さくなる。このとき、トルク比は増加するため、より大きな走行駆動力(牽引力)で車両走行可能となる。
トランスミッション3は、1速〜4速の各速度段に対応したソレノイド弁を有する自動変速機である。これらソレノイド弁は、コントローラ10からトランスミッション制御部20へ出力される制御信号によって駆動され、トランスミッション3は制御信号に応じて変速される。本実施の形態では、トルコン速度比eが所定値に達すると変速するトルコン速度比基準制御により、トランスミッション3の速度段が制御される。
排ガス浄化装置160は、還元剤溶液として、たとえば尿素水溶液(以下、尿素水と記す)を用いて、エンジン190から排出される排ガス中の窒素酸化物を浄化する処理を行う処理装置161と、処理装置161に供給される尿素水を蓄える尿素水タンク162と、尿素水タンク162内の尿素水の残量を検出する残量センサ163とを備えている。
コントローラ10は、CPUや記憶装置であるROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ10には、トルコン2の入力軸の回転速度Niを検出する回転速度検出器14と、トルコン2の出力軸の回転速度Noを検出する回転速度検出器15とが接続されている。
コントローラ10は、回転速度検出器14で検出したトルコン2の入力軸の回転速度Niと、回転速度検出器15で検出したトルコン2の出力軸の回転速度Noとに基づき、トルコン速度比e(=出力回転速度No/入力回転速度Ni)を算出する。
図2に示すように、コントローラ10には、車両の前後進を指令する前後進切換スイッチ17が接続され、前後進切換スイッチ17の操作位置(前進(F)/中立(N)/後進(R))がコントローラ10によって検出される。コントローラ10は、前後進切換スイッチ17が前進(F)位置に切り換えられると、トランスミッション3の前進クラッチ(不図示)を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御部20に出力する。コントローラ10は、前後進切換スイッチ17が後進(R)位置に切り換えられると、トランスミッション3の後進クラッチ(不図示)を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御部20に出力する。
トランスミッション制御部20では、前進または後進クラッチ(不図示)を係合状態とするための制御信号を受信すると、トランスミッション制御部20に設けられているクラッチ制御弁(不図示)が動作して、前進または後進クラッチ(不図示)は係合状態とされ、作業車両の進行方向が前進側または後進側に切り換えられる。
コントローラ10は、前後進切換スイッチ17が中立(N)位置に切り換えられると、前進および後進クラッチ(不図示)を解放状態とするための制御信号をトランスミッション制御部20に出力する。これにより、前進および後進クラッチ(不図示)は解放状態とされ、トランスミッション3は中立状態となる。
コントローラ10には、1速〜4速の間で速度段の上限を指令するシフトスイッチ18が接続されており、トランスミッション3はシフトスイッチ18により選択された速度段を上限として自動変速される。たとえばシフトスイッチ18により2速が選択されたときは速度段は1速または2速となり、1速が選択されたときは速度段は1速に固定される。
コントローラ10には、アクセルペダル152のペダル操作量(ペダルストロークまたはペダル角度)を検出するアクセル操作量検出器152aと、エンジン190の実回転速度を検出して、実回転速度信号をコントローラ10に出力する回転速度センサ13とが接続されている。
コントローラ10は、アクセル操作量検出器152aで検出したアクセルペダル152のペダル操作量(踏込量)に応じてエンジン190の目標エンジン回転速度を設定する。アクセルペダル152のペダル操作量が大きくなると目標エンジン回転速度は大きくなり、ペダル最大踏み込み時の目標エンジン回転速度は後述する定格点における定格回転速度となる。
コントローラ10は、設定した目標エンジン回転速度に対応した制御信号をエンジンコントローラ9に出力する。エンジンコントローラ9は、回転速度センサ13で検出されたエンジン190の実回転速度と、コントローラ10からの目標エンジン回転速度とを比較して、エンジン190の実回転速度を目標エンジン回転速度に近づけるために燃料噴射装置(不図示)を制御する。
コントローラ10には、尿素水タンク162内の尿素水の残量を検出して、残量信号をコントローラ10に出力する残量センサ163が接続されている。残量センサ163は尿素水タンク162内の尿素水の水位を検出する水位センサである。コントローラ10には、油圧ポンプ11の吐出圧(負荷圧)を検出して、圧力信号をコントローラ10に出力する圧力センサ12が接続されている。
図3は、第1の実施の形態に係るホイールローダのトルク線図であり、アクセルペダル152を最大に踏み込んだときのエンジン回転速度とトルクの関係を示しており、エンジン出力トルク特性、ポンプ吸収トルク特性、および、トルコン入力トルク特性を示している。コントローラ10の記憶装置には、複数のエンジン出力トルク特性A0,A1,A2と、複数のポンプ吸収トルク特性B0,B1,B2がルックアップテーブル形式で記憶されている。後述するように、特性A0,B0は尿素水の残量が第1所定量以上(非制限段階)のときに用いられ、特性A1,B1は尿素水の残量が第1所定量未満かつ第2所定量以上(第1制限段階)のときに用いられ、特性A2,B2は尿素水の残量が第2所定量未満(第2制限段階)のときに用いられる。
エンジン出力トルク特性A0,A1,A2は、それぞれエンジン回転速度と最大エンジン出力トルクとの関係を示している。なお、最大エンジン出力トルクとは、各回転速度において、エンジン190が出力可能な最大のトルクを意味する。エンジン出力トルク特性(最大トルク線)で規定される領域がエンジン190が出し得る性能を示している。ホイールローダに搭載されるエンジンは、定格点(定格最高トルク)P0を超える回転速度領域では、急激にトルクが低減するドループ特性を有している。図中、ドループ線は、定格点とポンプ無負荷状態におけるエンジン最高回転速度とを結ぶ直線により定義される。ホイールローダでは、このようなエンジン出力トルク特性を利用してマッチング制御を行い、後述するマッチング点でエンジン190および油圧ポンプ11が運転される。
図3(a)に示すように、エンジン出力トルク特性A0では、エンジン回転速度が最低回転速度(ローアイドル回転速度)Ns以上Nv0以下の範囲においてエンジン回転速度の上昇に応じてトルクが増加し、エンジン回転速度がNv0のときに、特性A0におけるトルクの最大値となる(最大トルク点Tm0)。なお、ローアイドル回転速度とは、アクセルペダル152の非操作時のエンジン回転速度である。エンジン出力トルク特性A0では、エンジン回転速度がNv0より大きくなると、エンジン回転速度の上昇に応じてトルクが減少し、定格点P0に達すると、定格出力が得られる。エンジン回転速度が定格点P0における定格回転速度を超えて上昇すると、急激にトルクが減少する。
図3(b)に示すように、エンジン出力トルク特性A1は、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上閾値Nq1以下の範囲では特性A0と同一の特性である。閾値Nq1は、最低回転速度(ローアイドル回転速度)Nsより大きい(Nq1>Ns)。エンジン出力トルク特性A1では、エンジン回転速度が閾値Nq1より大きくなると、エンジン回転速度の上昇に応じたトルクの増加率が、特性A0に比べて減少する。エンジン出力トルク特性A1では、エンジン回転速度がNv0よりも小さいNv1のときに(Nv1<Nv0)、特性A1におけるトルクの最大値となる(最大トルク点Tm1)。エンジン出力トルク特性A1では、エンジン回転速度がNv1より大きくなると、エンジン回転速度の上昇に応じてトルクが減少する。
図3(c)に示すように、エンジン出力トルク特性A2は、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上閾値Nq2以下の範囲では特性A0と同一の特性である。閾値Nq2は、最低回転速度(ローアイドル回転速度)Nsより大きく(Nq2>Ns)、閾値Nq1より小さい(Nq2<Nq1)。エンジン出力トルク特性A2では、エンジン回転速度が閾値Nq2より大きくなると、エンジン回転速度の上昇に応じたトルクの増加率が、特性A0に比べて減少する。エンジン出力トルク特性A2では、エンジン回転速度がNv1よりも小さいNv2のときに(Nv2<Nv1)、特性A2におけるトルクの最大値となる(最大トルク点Tm2)。エンジン出力トルク特性A2では、エンジン回転速度がNv2より大きくなると、エンジン回転速度の上昇に応じてトルクが減少する。
ポンプ吸収トルク特性B0,B1,B2は、それぞれエンジン回転速度と最大ポンプ吸収トルク(最大ポンプ入力トルク)の関係を示している。図3(a)に示すように、ポンプ吸収トルク特性B0では、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上閾値Nt未満の範囲ではエンジン回転速度にかかわらず特性B0におけるトルクの最小値となる。特性B0では、エンジン回転速度が閾値Nu0以上では、エンジン回転速度にかかわらず特性B0におけるトルクの最大値となる。特性B0では、エンジン回転速度が閾値Nt以上、かつ、Nu0未満の範囲ではエンジン回転速度の上昇に応じて徐々にトルクが増加する。
図3(b)に示すように、ポンプ吸収トルク特性B1は、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上閾値Nu1未満の範囲では特性B0と同一の特性である。ポンプ吸収トルク特性B1では、エンジン回転速度が閾値Nu1以上になると、エンジン回転速度にかかわらず特性B1における最大値となる。閾値Nu1は閾値Nu0よりも小さい(Nu1<Nu0)。特性B1におけるトルクの最大値TB1maxは、特性B0におけるトルクの最大値TB0maxよりも小さい(TB1max<TB0max)。
図3(c)に示すように、ポンプ吸収トルク特性B2は、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上閾値Nu2未満の範囲では特性B0と同一の特性である。ポンプ吸収トルク特性B2では、エンジン回転速度が閾値Nu2以上になると、エンジン回転速度にかかわらず特性B2における最大値となる。閾値Nu2は閾値Nu1よりも小さい(Nu2<Nu1)。特性B2におけるトルクの最大値TB2maxは、特性B1におけるトルクの最大値TB1maxよりも小さい(TB2max<TB1max)。
特性Cは、トルコン速度比eが所定値e1(0<e1<1)のときのトルコン2の入力トルク(以下、トルコン入力トルクと記す)の特性を代表して示している。トルコン入力トルクは、トルコン入力軸の回転速度Niの2乗に比例して増加し、図3(a)の矢印で示すように、トルコン速度比eが大きいほど小さくなる。特性A0,A1,A2のそれぞれと特性Cとの交点MC0,MC1,MC2および特性A0と特性B0との交点MB0、特性A1と特性B1との交点MB1、特性A2と特性B2との交点MB2は、マッチング点である。
フロント作業装置(作業系)を作動させずに走行駆動装置(走行系)を作動させている状態(以下、走行系単独動作状態と記す)でのエンジン出力トルクおよびトルコン入力トルクは、交点MC0,MC1,MC2の値となる。走行駆動装置(走行系)を作動させずにフロント作業装置(作業系)を作動させている状態(以下、作業系単独動作状態と記す)でのエンジン出力トルクおよびポンプ吸収トルクは、交点MB0,MB1,MB2の値となる。
図2に示すように、コントローラ10は、残量判定部10aと、選択部10bとを機能的に備えている。残量判定部10aは、残量センサ163で検出された尿素水の残量(水位)hが所定量以上であるか所定量未満であるかを判定する。残量判定部10aは、尿素水の残量hが第1所定量h1以上である場合、すなわち尿素水が十分に蓄えられている場合、非制限段階と判定する。残量判定部10aは、尿素水の残量hが第1所定量h1未満かつ第2所定量h2以上である場合に第1制限段階であると判定する。残量判定部10aは、尿素水の残量hが第2所定量h2未満である場合に第2制限段階であると判定する。第1所定量h1および、第1所定量h1よりも小さい第2所定量h2の情報は、コントローラ10の記憶装置に予め記憶されている。
選択部10bは、残量判定部10aで判定された結果に応じて、エンジン出力トルク特性を選択するとともに、ポンプ吸収トルク特性を選択する。選択部10bは、残量判定部10aで非制限段階であると判定されている場合に、エンジン出力トルク特性A0およびポンプ吸収トルク特性B0を選択する。選択部10bは、残量判定部10aで第1制限段階であると判定されている場合に、エンジン出力トルク特性A1およびポンプ吸収トルク特性B1を選択する。選択部10bは、残量判定部10aで第2制限段階であると判定されている場合に、エンジン出力トルク特性A2およびポンプ吸収トルク特性B2を選択する。
図4は、土砂等をダンプトラックへ積み込む方法の1つであるVシェープローディングについて示す図である。図5は、ホイールローダによる掘削作業を示す図である。Vシェープローディングでは、矢印aで示すように、ホイールローダを土砂等の地山130に向かって前進させる。
図5に示すように、地山130にバケット112を突入し、バケット112を操作してからアーム111を上げ操作する、あるいはバケット112とアーム111を同時に操作しながら最後にアーム111のみを上げ操作して掘削作業を行う。
掘削作業が終了すると、図4の矢印bで示すように、ホイールローダを一旦後退させる。矢印cで示すように、ダンプトラックに向けてホイールローダを前進させて、ダンプトラックの手前で停止し、すくい込んだ土砂等をダンプトラックに積み込み、矢印dで示すように、ホイールローダを元の位置に後退させる。以上が、Vシェープローディングによる掘削、積み込み作業の基本的な動作である。
上記した掘削、積み込み作業中、たとえば、図4の矢印bで示すように、後進中のホイールローダを矢印cで示すように前進させる際に、運転者はアクセルペダル152を戻し操作し、前後進切換スイッチ17を後進から前進に切り換え操作して、アクセルペダル152を踏み込み操作する。さらに、ダンプトラックでの積み込み作業を考え、後進から前進への移行の際にアーム操作レバーを上げ側に操作してアーム111を上昇させることもある。後進から前進への移行の際には、後方への車体の慣性エネルギーが、トルクコンバータ2を介してエンジン190に負荷として作用する。このため、前後進切換スイッチ17を切り換え操作したときに、車体およびフロント作業装置を駆動させるために必要なエンジン出力トルクが不足してエンジンストールが起こりやすい。
本実施の形態では、上述したようなポンプ吸収トルク特性B0が設定されるため、次に説明するように、後進から前進への移行の際におけるエンジンストールが防止される。すなわち、後進から前進への移行の際に、アクセルペダル152の戻し操作によりエンジン回転速度が低下するが、図3(a)に示すように、エンジン回転速度の低下に応じて最大ポンプ吸収トルクが減少し、エンジン回転速度がNt未満になると最大ポンプ吸収トルクが最小値に制限される。このように、後進から前進への移行の際に後方への車体の慣性エネルギーがエンジン190に負荷として作用した場合であっても、最大ポンプ吸収トルクが制限されることでエンジンストールが防止される。
本実施の形態では、特性A0,A1,A2のようにエンジン出力トルク特性を尿素水の残量に応じて変更し、エンジン出力トルク特性におけるトルクの最大値は減少させるが(最大トルク点Tm0,Tm1,Tm2)、上述したように、エンジン回転速度が低回転速度域にあるときには、すべての特性A0,A1,A2において、エンジン回転速度に対するエンジン出力トルク特性を同一としている。
すなわち、図3(b)に示すように、第1制限段階で選択されるエンジン出力トルク特性A1は、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上閾値Nq1以下の範囲ではエンジン出力トルク特性A0と同じ特性としている。また、図3(c)に示すように、第2制限段階で選択されるエンジン出力トルク特性A2は、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上閾値Nq2以下の範囲ではエンジン出力トルク特性A0と同じ特性としている。これにより、尿素水の残量の減少に応じて各エンジン出力トルク特性におけるトルク最大値(最大トルク点Tm0,Tm1,Tm2におけるトルク値)を減少させることができるとともに、エンジン回転速度が低回転速度域にあるときにはエンジン出力が低下することを防止できる。トルク最大値を減少させることで運転者に尿素水が減少していることの注意喚起を行うことができ、低回転速度域におけるエンジン出力の低下を防止することで、たとえば後進から前進への移行の際のエンジンストールを防止できる。
以下、尿素水の残量に応じて行われるエンジン出力トルクとポンプ吸収トルクの制限制御を、図6のフローチャートを用いて説明する。図6は、コントローラ10によるエンジン出力トルクとポンプ吸収トルクの制限制御処理の動作を示したフローチャートである。イグニッションスイッチ(不図示)がオンされると、図6に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ10で繰り返し実行される。
ステップS100において、残量センサ163で検出された残量、すなわち尿素水タンク162内の水位の情報を取得して、ステップS110へ進む。
ステップS110において、残量判定部10aは、ステップS100で取得した尿素水の残量hが第1所定量h1未満であるか否かを判定する。ステップS110で否定判定されると、残量判定部10aは非制限段階であると判定してステップS120へ進み、肯定判定されると、ステップS130へ進む。
ステップS120において、選択部10bは、記憶装置からエンジン出力トルク特性A0とポンプ吸収トルク特性B0を一括して選択し、ステップS100へ戻る。
ステップS130において、残量判定部10aは、ステップS100で取得した尿素水の残量hが第2所定量h2未満であるか否かを判定する。ステップS130で否定判定されると残量判定部10aは第1制限段階であると判定して、ステップS140へ進み、肯定判定されると、残量判定部10aは第2制限段階であると判定してステップS150へ進む。
ステップS140において、選択部10bは、記憶装置からエンジン出力トルク特性A1とポンプ吸収トルク特性B1を一括して選択し、ステップS100へ戻る。
ステップS150において、選択部10bは、記憶装置からエンジン出力トルク特性A2とポンプ吸収トルク特性B2を一括して選択し、ステップS100へ戻る。
このように、本実施の形態では、尿素水残量の減少に応じてエンジン出力トルク特性を変更するとともに、ポンプ吸収トルク特性を変更する。コントローラ10は、選択部10bにより選択された特性テーブル(A0,A1,A2)を参照して、アクセルペダル152による目標エンジン回転速度と回転速度センサ13で検出された実回転速度とに基づいて、エンジン190の燃料噴射量を制御する。コントローラ10は、選択部10bにより選択された特性テーブル(B0,B1,B2)を参照して、回転速度センサ13で検出された実回転速度に基づいて最大ポンプ吸収トルク値を演算し、圧力センサ12で検出された吐出圧(負荷圧)と回転速度センサ13で検出された実回転速度に基づいて、この最大ポンプ吸収トルクを超えないように、油圧ポンプ11の押しのけ容積を制御する。
これにより、尿素水の残量の減少に応じてエンジン190を低出力に制御しても、車両の動作状態が変化したときのエンジン回転速度の変化量を小さくすることができる。その結果、エンジン190が低出力に制御された場合であっても、車両の動きを円滑にすることができる。また、燃費を向上することができる。以下、トルク線図を用いて詳細に説明する。
図3(a)に示すように、非制限段階での走行系単独動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC0の値となり、非制限段階での作業系単独動作状態におけるポンプ吸収トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MB0の値となる。非制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC0と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度NB0の差はΔN0となる。
図3(b)に示すように、第1制限段階での走行系単独動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC1の値となり、第1制限段階での作業系単独動作状態におけるポンプ吸収トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MB1の値となる。第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC1と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度NB1の差はΔN1となる。
図3(c)に示すように、第2制限段階での走行系単独動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC2の値となり、第2制限段階での作業系単独動作状態におけるポンプ吸収トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MB2の値となる。第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC2と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度NB2の差はΔN2となる。なお、各段階におけるエンジン回転速度の大小関係は、NC0>NC1>NC2,NB0>NB1>NB2となる。
図7は、比較例に係るホイールローダのトルク線図である。図7では、アクセルペダル152を最大に踏み込んだときのエンジン回転速度とトルクの関係を示しており、エンジン出力トルク特性A0,A1,A2、ポンプ吸収トルク特性B0、および、トルコン速度比e=e1におけるトルコン入力トルク特性Cとを示している。比較例では、尿素水の残量の減少に応じて、エンジン出力トルク特性がA0→A1→A2へと段階的に低下するが、ポンプ吸収トルク特性B0は変化しない。
比較例では、非制限段階における走行系単独動作状態ならびに作業系単独動作状態でのマッチング点MC0,MB0、ならびに、第1および第2制限段階における走行系単独動作状態でのマッチング点MC1,MC2は、本実施の形態と同じである。一方、比較例では、第1および第2制限段階における作業系単独動作状態でのマッチング点はMBc1,MBc2となり、第1の実施の形態と異なる。
比較例において、第1制限段階での作業系単独動作状態におけるポンプ吸収トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MBc1の値となる。第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC1と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度NBc1の差はΔNc1となる。比較例において、第2制限段階での作業系単独動作状態におけるポンプ吸収トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MBc2の値となる。第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC2と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度NBc2の差はΔNc2となる。なお、各段階におけるエンジン回転速度の大小関係は、NB0(図3(a)参照)>NBc1>NBc2となる。
本実施の形態のエンジン回転速度の差ΔN1,ΔN2(図3(b)、図3(c)参照)のそれぞれと、比較例のエンジン回転速度の差ΔNc1,ΔNc2(図7参照)のそれぞれとの大小関係は、ΔN1<ΔNc1,ΔN2<ΔNc2となる。つまり、尿素水の減少に伴うエンジン出力トルク特性の変更に応じて、ポンプ吸収トルク特性を変更する本実施の形態では、特性A1,A2が選択されたときに、比較例に比べて走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度の差を小さくすることができる。その結果、尿素水の残量の減少に応じてエンジン190を低出力に制御した場合において、走行系単独動作状態から作業系単独動作状態へと移行したとき、あるいは、作業系単独動作状態から走行系単独動作状態へと移行したときのエンジン回転速度の変化を小さくすることができ、ホイールローダを円滑に動作させることができる。さらに、エンジン回転速度の変化が小さくなるため、燃費が向上する。
図8(a)は本実施の形態に係るホイールローダのトルク線図であり、図3(c)のトルク線図に特性D3,D4,D5を追記したものである。特性D3は、特性A0を特性B0で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、特性D4は、特性A1を特性B1で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、特性D5は、特性A2を特性B2で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、それぞれ走行系で使用可能なエンジン出力トルクである。
図8(b)は比較例に係るホイールローダのトルク線図であり、図7のトルク線図に特性D3,Dc4,Dc5を追記したものである。特性D3は、特性A0を特性B0で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、特性Dc4は、特性A1を特性B0で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、特性Dc5は、特性A2を特性B0で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、それぞれ走行系で使用可能なエンジン出力トルクである。
本実施の形態においてフロント作業装置(作業系)と走行駆動装置(走行系)とを複合して作動している状態(以下、複合動作状態と記す)でのエンジン回転速度と、走行系単独動作状態でのエンジン回転速度との差は、各段階で次のようになる。図8(a)に示すように、非制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC3の値となる。第1制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC4の値となる。第2制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC5の値となる。
非制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC0(図3(a)参照)と複合動作状態におけるエンジン回転速度NC3の差はΔN3(不図示)となる。第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC1(図3(b)参照)と複合動作状態におけるエンジン回転速度NC4の差はΔN4(不図示)となる。第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC2(図3(c)参照)と複合動作状態におけるエンジン回転速度NC5の差はΔN5(不図示)となる。なお、各段階におけるエンジン回転速度の大小関係は、NC3>NC4>NC5となる。
比較例において複合動作状態でのエンジン回転速度と、走行系単独動作状態でのエンジン回転速度でのエンジン回転速度の差は、各段階で次のようになる。図8(b)に示すように、非制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、本実施の形態と同じマッチング点MC3となる。第1制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MCc4の値となる。第2制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MCc5となる。
非制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC0(図3(a)参照)と複合動作状態におけるエンジン回転速度NC3の差は、本実施の形態と同じΔN3(不図示)となる。第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC1(図7参照)と複合動作状態におけるエンジン回転速度NCc4の差はΔNc4(不図示)となる。第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC2(図7参照)と複合動作状態におけるエンジン回転速度NCc5の差はΔNc5(不図示)となる。なお、各段階におけるエンジン回転速度の大小関係は、NC3>NCc4>NCc5となる。
本実施の形態のエンジン回転速度の差ΔN4,ΔN5のそれぞれと、比較例のエンジン回転速度の差ΔNc4,ΔNc5のそれぞれとの大小関係は、ΔN4<ΔNc4,ΔN5<ΔNc5となる。つまり、尿素水の減少に伴うエンジン出力トルク特性の変更に応じて、ポンプ吸収トルク特性を変更する本実施の形態では、特性A1,A2が選択されたときに、比較例に比べて走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と複合動作状態におけるエンジン回転速度の差を小さくすることができる。その結果、尿素水の残量の減少に応じてエンジン190を低出力に制御した場合において、走行系単独動作状態から複合動作状態へと移行したとき、あるいは、複合動作状態から走行系単独動作状態へと移行したときのエンジン回転速度の変化を小さくすることができ、ホイールローダを円滑に動作させることができる。さらに、エンジン回転速度の変化が小さくなるため、燃費が向上する。
以上説明した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)尿素水タンク162内の尿素水の残量の減少に応じて、エンジン190の出力トルクを低下させるとともに、油圧ポンプ11の最大吸収トルクを低下させるようにした。これにより、運転者は通常時に比べて運転状態が悪化していることから尿素水の残量が少ないことを認識することができる。つまり、本実施の形態によれば、尿素水の残量が減少した状態での高出力運転が防止され、運転者へ尿素水の補給を促すことができる。
また、エンジン190の出力トルクが低下した場合に、ポンプ吸収トルクとトルコン入力トルクの和がエンジン出力トルクを超えることが防止され、エンジンストールが生じることを防止できる。
さらに、作業系単独動作状態、走行系単独動作状態および複合動作状態との間で変化するエンジン回転速度の差を抑えることができるため、尿素水残量が所定量まで減少し、エンジン出力が低下した状態においてもホイールローダに円滑な動作をさせることができる。また、尿素水残量が所定量まで減少し、エンジン出力が低下した状態での燃費を向上できる。
(2)本実施の形態では、尿素水の残量の減少に応じて、エンジン190の出力トルクおよび油圧ポンプ11の最大吸収トルクとを一括して段階的に低下させるようにした。このため、エンジン出力トルクとポンプ吸収トルクとを個別の尿素水残量の閾値に応じて低下させる場合、たとえばエンジン190の出力トルクを先に低下させ、ある程度エンジン出力トルクが低下した状態となってから、油圧ポンプ11の最大吸収トルクを低下させる場合に比べて、より確実にエンジンストールを防止することができる。
(3)尿素水の残量が減少して非制限段階から第1制限段階に変化した場合であっても、エンジン190の実回転速度が閾値Nq1以下では、エンジン190の出力トルクを低下させないようにした。尿素水の残量が減少して第1制限段階から第2制限段階に変化した場合であっても、エンジン190の実回転速度が閾値Nq2以下では、エンジン190の出力トルクを低下させないようにした。これにより、エンジン190が低回転速度域で回転している状態におけるエンジンストールを防止することができる。たとえば、後進から前進への移行の際におけるエンジンストールを防止することができる。つまり、本実施の形態では、尿素水が減少し、エンジン出力トルクが低下した場合であっても、作業を継続することができ、運転者は所定の作業を完了させるなどした後、所望の時期に尿素水の補給を行うことができる。
(4)非制限段階では、エンジン190の実回転速度がNt以上かつNu0未満の範囲において、実回転速度の上昇に応じて油圧ポンプ11の最大吸収トルクを徐々に増加させるようにした。第1制限段階では、エンジン190の実回転速度がNt以上かつNu1未満の範囲において、実回転速度の上昇に応じて油圧ポンプ11の最大吸収トルクを徐々に増加させるようにした。第2制限段階では、エンジン190の実回転速度がNt以上かつNu2未満の範囲において、実回転速度の上昇に応じて油圧ポンプ11の最大吸収トルクを徐々に増加させるようにした。これにより、尿素水の残量にかかわらず、エンジン190が低回転速度域で回転している状態におけるエンジンストールを防止することができる。たとえば、後進から前進への移行の際におけるエンジンストールを防止することができる。つまり、本実施の形態では、尿素水が減少し、エンジン出力トルクが低下した場合であっても、作業を継続することができ、運転者は所定の作業を完了させるなどした後、所望の時期に尿素水の補給を行うことができる。
−第2の実施の形態−
図9を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、第1の実施の形態との相違点について主に説明する。第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、コントローラ10の記憶装置に記憶されているエンジン出力トルク特性である。図9は、本発明の第2の実施の形態に係るホイールローダのトルク線図である。
図9に示すように、第2の実施の形態では、尿素水の残量の減少に応じて、エンジン190の出力トルクを低下させるとともに、エンジン190の最高回転速度を低下させる。コントローラ10の記憶装置には、第1の実施の形態で説明したエンジン出力トルク特性A1,A2に代えて、エンジン出力トルク特性A21,A22が記憶されている。特性A0、特性B0,B1,B2および特性C(e=e1)は、第1の実施の形態と同様である。
エンジン出力トルク特性A21は、特性A0を低回転、低トルク側にシフトした特性であり、エンジン出力トルク特性A22は、特性A21をさらに低回転、低トルク側にシフトした特性である。
P0,P1,P2は、それぞれ特性A0,A1,A2において定格出力が得られる定格点である。定格点P0におけるエンジン回転速度はNP0であり、定格点P1におけるエンジン回転速度はNP0よりも小さいNP1であり、定格点P2におけるエンジン回転速度はNP1よりも小さいNP2である(NP2<NP1<NP0)。
つまり、第2の実施の形態では、尿素水の残量の減少に応じて、各特性における定格出力を得るためのエンジン回転速度が段階的に小さくなるように設定される。換言すれば、ポンプ無負荷時のエンジン最高回転速度が特性A0、特性A21、特性A22の順で小さくなるように、各特性が設定されている。さらに換言すると、所定のトルコン速度比eにおけるマッチング点のエンジン回転速度が特性A0、特性A21、特性A22の順で小さくなるように、各特性が設定されている。
図9(b)に示すように、第1制限段階での走行系単独動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC21の値となり、第1制限段階での作業系単独動作状態におけるポンプ吸収トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MB21の値となる。マッチング点MC21は、エンジン出力トルク特性A21におけるドループ線DL1上に位置する。換言すれば、マッチング点MC21でのエンジン回転速度は、定格点P1でのエンジン回転速度よりも高い。また、マッチング点MC21でのトルク値は、定格点P1でのトルク値よりも低い。第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC21と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度NB21の差はΔN21(不図示)となる。
図9(b)に示すように、第2制限段階での走行系単独動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC22の値となり、第2制限段階での作業系単独動作状態におけるポンプ吸収トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MB22の値となる。マッチング点MC22は、エンジン出力トルク特性A22におけるドループ線DL2上に位置する。換言すれば、マッチング点MC22でのエンジン回転速度は、定格点P2でのエンジン回転速度よりも高い。また、マッチング点MC22でのトルク値は、定格点P2でのトルク値よりも低い。第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC22と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度NB22の差はΔN22(不図示)となる。なお、各段階におけるエンジン回転速度の大小関係は、NC0>NC21>NC22,NB0>NB21>NB22となる。
第2の実施の形態のエンジン回転速度の差ΔN21,ΔN22のそれぞれと、図7に示す比較例のエンジン回転速度の差ΔNc1,ΔNc2のそれぞれとの大小関係は、ΔN21<ΔNc1,ΔN22<ΔNc2となる。つまり、尿素水の減少に伴うエンジン出力トルク特性の変更に応じて、ポンプ吸収トルク特性および定格点におけるエンジン回転速度を変更する本実施の形態では、特性A21,A22が選択されたときに、比較例(図7参照)に比べて走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度の差を小さくすることができる。その結果、尿素水の残量の減少に応じてエンジン190を低出力に制御した場合において、走行系単独動作状態から作業系単独動作状態へと移行したとき、あるいは、作業系単独動作状態から走行系単独動作状態へと移行したときのエンジン回転速度の変化を小さくすることができ、ホイールローダを円滑に動作させることができる。さらに、エンジン回転速度の変化が小さくなるため、燃費が向上する。
図9(c)は、図9(b)のトルク線図に特性D3,D24,D25を追記し、ポンプ吸収トルク特性B0,B1,B2を省略したものである。特性D3は、第1の実施の形態と同様に、特性A0を特性B0で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性である。特性D24は、特性A21を特性B1で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、特性D25は、特性A22を特性B2で表されるポンプ吸収トルク分だけ差し引いた特性であり、それぞれ走行系で使用可能なエンジン出力トルクである。
第2の実施の形態において複合動作状態でのエンジン回転速度と、走行系単独動作状態でのエンジン回転速度との差は、各段階で次のようになる。図9(c)に示すように、非制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、第1の実施の形態と同様にマッチング点MC3の値となる。第1制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC24の値となる。第2制限段階での複合動作状態では、トルコン入力トルクおよびエンジン回転速度は、マッチング点MC25の値となる。
第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC21と複合動作状態におけるエンジン回転速度NC24の差はΔN24(不図示)となる。第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度NC22と複合動作状態におけるエンジン回転速度NC25の差はΔN25(不図示)となる。なお、各段階におけるエンジン回転速度の大小関係は、NC3>NC24>NC25となる。
第2の実施の形態のエンジン回転速度の差ΔN24,ΔN25のそれぞれと、比較例(図8(b)参照)のエンジン回転速度の差ΔNc4,ΔNc5のそれぞれとの大小関係は、ΔN24<ΔNc4,ΔN25<ΔNc5となる。つまり、尿素水の減少に伴うエンジン出力トルク特性の変更に応じて、ポンプ吸収トルク特性および定格点におけるエンジン回転速度を変更する第2の実施の形態では、特性A21,A22が選択されたときに、比較例(図8(b)参照)に比べて走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と複合動作状態におけるエンジン回転速度の差を小さくすることができる。その結果、尿素水の残量の減少に応じてエンジン190を低出力に制御した場合において、走行系単独動作状態から複合動作状態へと移行したとき、あるいは、複合動作状態から走行系単独動作状態へと移行したときのエンジン回転速度の変化を小さくすることができ、ホイールローダを円滑に動作させることができる。さらに、エンジン回転速度の変化が小さくなるため、燃費が向上する。
このような第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏する。第2の実施の形態では、尿素水の残量の減少に応じて、定格点におけるエンジン190の回転速度を低下させるようにしたので、第1の実施の形態に比べて、作業系単独動作状態、走行系単独動作状態および複合動作状態との間で変化するエンジン回転速度の差をより抑えることができる。その結果、第1の実施の形態に比べ、尿素水残量が所定量まで減少し、エンジン出力が低下した状態においてホイールローダに、より円滑な動作をさせることができる。また、尿素水残量が所定量まで減少し、エンジン出力が低下した状態での燃費を、より向上できる。さらに、定格点におけるエンジン190の回転速度を低下させることで、各速度段における最高車速が低下し、走行加速性が若干低下し、フロント作業装置の動作速度が低下するため、より明確に運転者へ尿素水の補給を促すことができる。
−第3の実施の形態−
図10および図11を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、第1の実施の形態との相違点について主に説明する。第3の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、走行駆動装置(走行系)の構成である。第1の実施の形態に係るホイールローダは、エンジン190の駆動力をトルコン2を介してタイヤに伝達する走行駆動装置を備えていた。これに対して、第3の実施の形態に係るホイールローダは、ポンプとモータとが閉回路接続されたHST走行駆動装置を備えている。
図10は、第3の実施の形態に係るホイールローダの概略構成を示す図である。図10に示すように、ホイールローダは、エンジン190により駆動される油圧ポンプ(以下、HSTポンプ380と記す)と、HSTポンプ380に閉回路接続される油圧モータ381とを有している。HSTポンプ380から吐出される圧油により油圧モータ381が回転すると、油圧モータ381の出力トルクは不図示のギアボックスを介して出力軸386に伝達される。これにより、アクスル387を介してタイヤ313が回転し、車両が走行する。
HSTポンプ380は、傾転角に応じて押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧ポンプである。押しのけ容積はレギュレータ382により制御される。図示しないが、レギュレータ382は傾転シリンダと、前後進切換スイッチ17の操作に応じて切り換わる前後進切換弁とを有する。傾転シリンダには、前後進切換弁を介して制御圧力が供給され、制御圧力に応じて押しのけ容積が制御されるとともに、前後進切換弁の切換に応じて傾転シリンダの動作方向が制御され、HSTポンプ380の傾転方向が制御される。
制御圧力はエンジン回転速度の増加に比例して上昇し、制御圧力が上昇するとHSTポンプ380の押しのけ容積が増加する。その結果、エンジン回転速度が増加すると、HSTポンプ380の回転速度と押しのけ容積の両方が増加するため、HSTポンプ380の吐出流量はエンジン回転速度の増加に応じて滑らかに応答性よく増大し、滑らかで力強い加速性が得られる。
油圧モータ381は、可変容量型モータであり、コントローラ10から図示しない傾転制御装置に制御信号が出力され、押しのけ容積(モータ容量)が制御される。
図11(a)は第3の実施の形態に係るホイールローダのトルク線図であり、図11(b)は比較例に係るホイールローダのトルク線図である。図11(a)は図3(c)と同様の図であり、図11(a)では図3(c)のトルコン入力トルク特性Cに代えて、HSTポンプ380のポンプ入力トルク特性Hを示している。図11(a)に示すように、HSTポンプ380のポンプ入力トルク特性Hは、エンジン回転速度が最低回転速度Ns以上Nh未満の範囲ではエンジン回転速度の上昇に応じてトルクが増加し、エンジン回転速度がNh以上ではエンジン回転速度にかかわらず最大トルクとなる。コントローラ10の記憶装置には、第1の実施の形態と同じ特性A0,A1,A2および特性B0,B1,B2がルックアップテーブル形式で記憶されている。
図11(a)に示すように、第3の実施の形態では、非制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度との差は、ΔN30となる。第3の実施の形態では、第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度との差は、ΔN31となる。第3の実施の形態では、第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度との差は、ΔN32となる。
図11(b)に示すように、比較例では、尿素水の残量にかかわらずポンプ吸収トルク特性B0が選択される。比較例では、第1制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度との差は、ΔNc31となる。比較例では、第2制限段階での走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度との差は、ΔNc32となる。
第3の実施の形態のエンジン回転速度の差ΔN31,ΔN32のそれぞれと、比較例のエンジン回転速度の差ΔNc31,ΔNc32のそれぞれとの大小関係は、ΔN31<ΔNc31,ΔN32<ΔNc32となる。つまり、尿素水の減少に伴うエンジン出力トルク特性の変更に応じて、ポンプ吸収トルク特性を変更する本実施の形態では、特性A1,A2が選択されたときに、比較例に比べて走行系単独動作状態におけるエンジン回転速度と作業系単独動作状態におけるエンジン回転速度の差を小さくすることができる。その結果、尿素水の残量の減少に応じてエンジン190を低出力に制御した場合において、走行系単独動作状態から作業系単独動作状態へと移行したとき、あるいは、作業系単独動作状態から走行系単独動作状態へと移行したときのエンジン回転速度の変化を小さくすることができ、ホイールローダを円滑に動作させることができる。さらに、エンジン回転速度の変化が小さくなるため、燃費が向上する。
なお、図示しないが、第3の実施の形態においても、尿素水の減少に応じてエンジン出力トルク特性を変更したときにおいて、走行系単独動作状態から複合動作状態へと移行したとき、あるいは、複合動作状態から走行系単独動作状態へと移行したときのエンジン回転速度の変化を小さくすることができ、ホイールローダを円滑に動作させることができる。さらに、エンジン回転速度の変化が小さくなるため、燃費が向上する。
このような第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態で説明した(1)および(2)と同様の作用効果を奏する。さらに、第1の実施の形態で説明した(3)および(4)と同様、低回転速度域におけるエンジンストールの発生を防止することができる。HST走行駆動装置により走行するホイールローダにおいて、ポンプ吸収トルクの特性をエンジン回転速度にかかわらず一定に設定すると、低回転速度域では最大ポンプ吸収トルクと最大エンジン出力トルクとの差が近くなる。このため、低回転速度域において、油圧ポンプ11のリリーフ圧相当の負荷が作用すると、エンジンストールが発生するおそれがある。本実施の形態では、低回転速度域では、エンジン190の出力トルクを低下させないようにした。また、エンジン回転速度がNt未満で最大ポンプ吸収トルクを最小値とし、エンジン回転速度がNt以上でエンジン回転速度の上昇に応じて油圧ポンプ11の最大吸収トルクを徐々に増加させるようにした。これにより、低回転速度域において、油圧ポンプ11のリリーフ圧相当の負荷が作用した場合であっても、エンジンストールが引き起こされることが防止される。つまり、本実施の形態では、尿素水が減少し、エンジン出力トルクが低下した場合であっても、作業を継続することができ、運転者は所定の作業を完了させるなどした後、所望の時期に尿素水の補給を行うことができる。
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(1)複数の実施の形態を組み合わせる例として、たとえば、第2の実施の形態で説明したエンジン出力トルク特性の変更に応じて定格点におけるエンジン回転速度を変更することを第3の実施の形態に適用してもよい。
(2)複数の実施の形態を組み合わせる例として、たとえば、第1制限段階では、第1の実施の形態で説明したエンジン出力トルク特性A1を選択し、第2制限段階では、第2の実施の形態で説明したエンジン出力トルク特性A22を選択してもよい。
(3)上述した実施の形態では、非制限段階と、第1制限段階と、第2制限段階の3段階に応じてエンジン出力トルク特性およびポンプ吸収トルク特性を変更する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、4段階以上に段階を分けて、エンジン出力トルク特性およびポンプ吸収トルク特性を変更してもよい。
(4)上述した実施の形態では、エンジン出力トルク特性およびポンプ吸収トルク特性を一括して変更する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。エンジン出力トルク特性とポンプ吸収トルク特性を変更する尿素水残量の閾値を個別に設定して、それぞれの特性を異なるタイミングで変更させるようにしてもよい。
(5)段階的にエンジン出力トルク特性およびポンプ吸収トルク特性を変更する場合に限らず、連続的に特性を変更するようにしてもよい。
(6)上述した実施の形態では、エンジン出力トルク特性A1は、エンジン回転速度が閾値Nq1以下でエンジン出力トルク特性A0と一致させ、エンジン出力トルク特性A2は、エンジン回転速度が閾値Nq2以下でエンジン出力トルク特性A0と一致させるようにしたが、本発明はこれに限定されない。エンジン出力トルク特性を低下させないエンジン回転速度範囲を決定する閾値は各段階で変更しないようにしてもよい。換言すれば、閾値Nq1,Nq2は、上述のように第1制限段階と第2制限段階とで異なる値(Nq1>Nq2)に設定してもよいし、第1制限段階と第2制限段階とで同じ値(Nq1=Nq2)に設定してもよい。
(7)上述した実施の形態では、エンジン出力トルク特性およびポンプ吸収トルク特性がルックアップテーブル形式でコントローラ10の記憶装置に記憶されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、エンジン回転速度に応じた関数形式で各特性をコントローラ10の記憶装置に記憶させるようにしてもよい。
(8)第2の実施の形態では、特性A21のドループ線DL1上にマッチング点MC21を位置させ、特性A22のドループ線DL2上にマッチング点MC22を位置させるようにしたが、本発明はこれに限定されない。特性A21,A22のうちの一方のドループ線にのみマッチング点を位置させるようにしてもよい。
(9)上述した実施の形態では、作業車両の一例としてホイールローダを例に説明したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、フォークリフト、テレハンドラー、リフトトラック等、他の作業車両であってもよい。
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。