JP6147090B2 - ディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤及び軽質燃料油組成物 - Google Patents

ディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤及び軽質燃料油組成物 Download PDF

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Description

本発明は、発電用やポンプ用の動力源に使用される産業用ディーゼルエンジンや船舶用ディーゼルエンジンに対して、燃料に軽質燃料油を使用した際に発生し得るリークを抑制するための抑制剤、及びこの抑制剤と軽質燃料油とを含有する軽質燃料油組成物に関する。
従来からディーゼルエンジンは、発電用やポンプ用の動力源として、様々な産業施設等に広く利用されている。特に、ビル、ポンプ所、工場、病院、商業施設、ごみ焼却施設などの産業施設や大型の船舶などでは、常用の発電用電源、停電時の非常用電源などとしてディーゼル発電機が広く利用されている。
特に最近では、災害時における電力の確保が重要視されており、運搬や貯蔵が容易な液体燃料を利用してのディーゼル発電が再び注目されている。
通常、このようなディーゼル発電機に利用される液体燃料としては、重油や軽油が使用される。しかし、重油や軽油を用いると、排出ガスにPM(粒子状物質)、黒鉛等が多く含まれるので、周辺環境への大気汚染に繋がることが懸念されている。
一方、重油や軽油に代替することができる燃料として、軽質燃料油が挙げられる。この軽質燃料油の代表としては、灯油や船舶用軽質燃料油が挙げられる。
灯油は軽油や重油に比べ、沸点留分が低く、燃焼した際に排気ガスがクリーンであることが知られているが、潤滑性が乏しいので、燃料噴射ポンプの摺動部にて摩耗や焼付きが起こることが懸念されている。
また、近年では、船舶から排出される大気汚染物質を規制する様々な規則が適用されており、船舶用ディーゼル燃料についても低硫黄ディーゼル燃料をはじめとしたクリーンな軽質燃料油が普及し始めている。これらの中でもDM級と言われる船舶用軽質燃料油等は、従来の船舶用燃料油と比較し、含有硫黄分が低いため排気ガス自体はクリーンとなるが、粘度が低く、潤滑性が乏しいことが知られており、燃料噴射ポンプにて異常摩耗が発生することが懸念されている。
上述のように、灯油や一部の船舶用燃料などに代表される軽質燃料油は、粘度が低くかつ、潤滑性に乏しいため、ディーゼルエンジンを稼動させた際に、噴射ポンプにて摩耗や焼付きが起こることが懸念されている。
このような課題を解決するために、例えば、特許文献1には、白灯油に特A重油を2:1〜1:3の割合で混合させることで、潤滑性を軽油と同程度にしつつ、低公害化を図ることが開示されている。
また、特許文献2には、重機用燃料として、100℃における動粘度が2.4〜7.6mm/sである動粘度調整剤、アルコール類及びパラフィン類から選ばれる排ガス浄化剤、潤滑剤、セタン価向上剤を灯油に添加することで、環境負荷の少ないディーゼルエンジン燃料が得られることが開示されている。
さらに、特許文献3には、パラフィン、脂肪酸エステル等を配合した灯油用添加剤が、灯油の油性及び極圧潤滑性を向上させることが開示されている。
しかし、産業用や船舶用として使用されるディーゼルエンジンに対して軽質燃料油を用いて運転する際は、潤滑性不良以外の問題も抱えている。
一般的に産業用や船舶用ディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプの内部はプランジャーとバレルとで構成されており、プランジャーの往復動によって燃料油が圧送されて燃焼室に燃料油が噴射される。ところが、燃料に軽質燃料油を使用すると、プランジャーとバレルとの隙間に対する密閉性が低くなり、多量の燃料油がリーク(漏れ)するおそれがある。
燃料油がリークすることで、燃料油の消費量が増加してしまうことに加え、リークした燃料油は潤滑油に混入するので、潤滑油が低粘度化、劣化し、エンジンそのものが故障する原因となる。このように産業用や船舶用ディーゼルエンジンにおいては、燃料に軽質燃料油を使用することで、潤滑性不良以外の問題として、多量の燃料油リークという問題も生じるおそれがあるが、上述の先行技術では未だ対応できていないというのが現状であった。
特開平6−166879号公報 特開2011−6561号公報 特開2009−203448号公報
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、詳しくは、産業用や船舶用ディーゼルエンジン用燃料として軽質燃料油を使用した際に、燃料噴射ポンプでの燃料油のリークを抑制することができるディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤、及びこの抑制剤と軽質燃料油とを含有する軽質燃料油組成物を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のブロック共重合体水素化物を軽質燃料油に添加することにより、上記課題を解決し、燃料油のリークを抑制できることを見出した。
すなわち本発明は、下記の(A)及び(B)ブロックを構成単位とするブロック共重合体の水素化物からなり、上記ブロック共重合体の水素化物の数平均分子量が80, 000〜500, 000であり、共重合体の水素化物全体に占める(A)ブロックの割合が5〜30モル%、(B)ブロックの割合が70〜95モル%であり、かつC 13 −NMRにより測定され、下記式で算出される分岐度が7〜30モル%であるディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤である。
(A)ポリスチレンブロック
(B)水素化ポリ1,3−ブタジエンブロック、水素化ポリイソプレンブロック、又は水素化(ポリ1,3−ブタジエン・ポリイソプレン混合)ブロック
分岐度=(B)ブロックの側鎖分岐鎖末端メチル基の数/ブロック重合体水素化物全体の炭素数
本発明はまた、本発明のディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤と軽質燃料油とを含有し、前記軽質燃料油に対し、前記抑制剤を0. 0005〜1質量%含有する軽質燃料油組成物である。
本発明のディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤(以下、単にリーク抑制剤ともいう。)は、軽質燃料油を用いて産業用や船舶用ディーゼルエンジンを稼動させる際に、軽質燃料油のリークを抑制でき、潤滑油への混入を低減することができるため、エンジン本体の故障を防止し、安全にエンジンを稼働させることができる。
また、本発明の軽質燃料油組成物は、本発明のリーク抑制剤と軽質燃料油とを含有するので、ディーゼルエンジンに対して燃料として使用した際に、上記の効果に加えて、重油や軽油よりも排気ガスがクリーンとなり、環境への負荷を抑えることができる。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
まず、本発明のディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤について説明する。
なお、本明細書において記号「〜」を用いて規定された数値範囲は「〜」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2〜5」は2以上5以下を表す。
〔ディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤〕
本発明のリーク抑制剤は、以下の(A)及び(B)ブロックを構成単位とするブロック共重合体の水素化物からなる。
(A)炭素数8〜10の芳香族ビニル単量体を重合することにより形成されたブロック
(B)炭素数4〜6のジエン単量体を重合することにより形成されたブロック
(A)ブロックは、炭素数が8〜10の芳香族ビニル単量体を重合することにより形成されたブロックである。かかる芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、ジメチルスチレン等が挙げられる。好ましくは、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレンであり、より好ましくはスチレンである。すなわち、(A)ブロックは、ポリスチレンブロックが好ましい。
(B)ブロックは、炭素数4〜6のジエン単量体を重合することにより形成されたブロックである。かかるジエン単量体としては、例えば、1, 3−ブタジエン、1, 2−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、1, 3−ペンタジエン、2−メチル−1, 3−ペンタジエンなどが挙げられる。好ましくは、1, 3−ブタジエン、イソプレン、1, 3−ペンタジエンであり、より好ましくは、1, 3−ブタジエン、イソプレン又はこれらの混合物である。すなわち、(B)ブロックは、ポリ1, 3−ブタジエンブロック、ポリイソプレンブロック、又はポリ1, 3−ブタジエンとポリイソプレンとからなる混合ブロックのいずれかのブロックが好ましい。
ブロック共重合体の重合方法としては、例えば、(A)及び(B)をそれぞれブロックとして重合した(A)−(B)型、(A)−(B)−(A)型、((A)−(B))n型を使用することができる。好ましくは、(A)−(B)型、(A)−(B)−(A)型である。
水素化を行っていない重合体の場合、リーク量抑制効果は得ることができるが、エンジン燃焼室内で燃焼した際に不完全燃焼が起こったり、ガム状物質が生成しスラッジ化したりするおそれがあるので、本発明では重合体の水素化物を使用する。本発明における重合体の水素化率の割合は、通常、70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
なお、重合体の水素化は、公知の方法に従って行なうことができ、重合体の水素化率の割合は、H1-NMRを用いて重合体の水素化前後における不飽和結合の減少割合から算出することができる。
本発明において好ましいブロック共重合体水素化物としては、スチレンと1, 3−ブタジエンジエン又はイソプレンとの共重合体の水素化物であり、より好ましくは、(A)−(B)型のスチレン/1, 3−ブタジエン共重合体水素化物、スチレン/イソプレン共重合体水素化物、スチレン/1, 3−ブタジエン・イソプレン共重合体水素化物、(A)−(B)−(A)型のスチレン/1, 3−ブタジエン/スチレン共重合体水素化物、スチレン/イソプレン/スチレン共重合体水素化物、スチレン/1, 3−ブタジエン・イソプレン/スチレン共重合体水素化物である。
本発明に使用するブロック共重合体水素化物における(A)ブロックの占める割合は5〜30モル%であり、(B)ブロックの占める割合は70〜95モル%である。
(A)ブロックの割合が5モル%未満であり、(B)ブロックの割合が95モル%を超える場合は、軽質燃料油に添加した際のリーク量が抑制できないおそれがある。一方、(A)ブロックの割合が30モル%を超え、(B)ブロックの割合が70モル%未満である場合は、軽質燃料油への溶解性が低下するので、軽質燃料油が冷却された際にブロック共重合体水素化物が析出するおそれがあり、また、(A)ブロックの割合が高くなることで、燃料ポンプ内にて高圧にさらされた際、共重合体水素化物の分子鎖が切れてリーク量が増大するおそれがある。
本発明における好ましい割合は(A)ブロックが7〜28モル%であり、(B)ブロックが72〜93モル%、より好ましくは(A)ブロックが10〜25モル%であり、(B)ブロックが75〜90モル%である。
なお、本発明における(A)ブロック及び(B)ブロックの割合は、重クロロホルムにブロック共重合体水素化物を溶解させ、C13−NMRにより測定した値により求めることができる。
以下にC13−NMRの測定条件の一例を示す。
(測定条件)
・分析機器:C13−NMR
・溶媒:重クロロホルム
・内部標準物質:テトラメチルシラン
上記測定条件にて測定されたブロック共重合体水素化物のC13−NMRチャートを解析することで、炭素全体における(A)ブロック及び(B)ブロックの割合を求めることができる。
具体的には、(A)ブロックの芳香族ビニルを構成する炭素のうち、芳香環の炭素及び芳香環の2〜6位に結合した炭素は、ケミカルシフトが120〜150ppmに現れるので、これを部位(I)とする。上記以外の炭素は、ケミカルシフトが10〜100ppmに現れるので、これを部位(II)とする。
・部位(I)=(A)ブロックの芳香族ビニルを構成する炭素のうち、芳香環の炭素及び芳香環の2〜6位に結合した炭素;現れるシフト位置:120〜150ppm
・部位(II)=部位(I)以外の炭素;現れるシフト位置:10〜100ppm
上記、2箇所の部位のピークをそれぞれ積分して得られた値を以下のように計算し、(A)ブロック及び(B)ブロックの割合(モル%)とする。
(A)ブロックの割合(モル%)=(100×Cn×(I)の積分値)/((I)の積分値+(II)の積分値)
(B)ブロックの割合=100−((A)ブロックの割合)
ここで、Cnは、以下を表す。
Cn=(A)を構成する芳香族ビニル単量体の総炭素数/(6+芳香環の2〜6位に結合した炭素の数)
本発明におけるブロック共重合体水素化物の数平均分子量は、80, 000〜500,000である。数平均分子量が80, 000未満であると、軽質燃料油に対して十分な増粘効果を付与し難くなるので、結果的にリーク量も増大してしまうことがある。一方、数平均分子量が500, 000を超えると、軽質燃料油に対する溶解性が低くなり、軽質燃料油に添加できなくなることがある。また、燃料噴射ポンプ内にて燃料油が加圧され、せん断力が加わった際、分子が切断され易く、十分な機能を発揮できないおそれもある。好ましい数平均分子量は85, 000〜400, 000であり、さらに好ましくは90, 000〜300, 000である。
なお、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて測定し、ポリスチレン換算することで算出することができる。
また、本発明のブロック共重合体水素化物は、(A)ブロックがポリスチレンブロックであり、(B)ブロックが、ポリイソプレンブロック、又はポリ1, 3−ブタジエンとポリイソプレンとからなる混合ブロックのいずれかのブロックであり、C13−NMRにより測定された分岐度が7〜30モル%であることが好ましい。
ここで、分岐度とは以下のように定義される。
分岐度=(B)ブロックの側鎖分岐鎖末端メチル基の数/ブロック重合体水素化物全体の炭素数
分岐度は、重クロロホルムにブロック共重合体水素化物を溶解させ、C13−NMRにより測定したブロック共重合のスペクトルのうち、ブロック重合体水素化物全体の炭素数における(B)ブロックの側鎖分岐鎖の末端メチル基数の割合を表す。
以下にC13−NMRの測定条件の一例を示す。
分岐度が測定可能なブロック共重合体水素化物
(A)ブロック:ポリスチレンブロック
(B)ブロック:水素化ポリ1, 3−ブタジエンブロック、水素化ポリイソプレンブロック、水素化(ポリ1, 3−ブタジエン・ポリイソプレン混合)ブロック
(測定条件)
・分析機器:C13−NMR
・溶媒:重クロロホルム
・内部標準物質:テトラメチルシラン
上記測定条件にて測定されたブロック共重合体水素化物のC13−NMRチャートを解析することで、分岐度を求めることができる。
具体的には、(B)ブロックがポリ1, 3−ブタジエン、ポリイソプレン又はこれらの混合物の水素化物である場合、側鎖分岐鎖の末端メチル基の炭素は、ケミカルシフトが10〜20ppmに現れるので、これを部位(III)とする。また、(A)ブロックのスチレンを構成する炭素は、ケミカルシフトが120〜150ppmに現れるので、これを部位(IV)とする。さらに、ブロック共重合体水素化物の上記部位(III)以外の炭素と(IV)以外の炭素(側鎖分岐鎖の末端メチル基の炭素以外の炭素と、スチレンを構成する炭素以外の炭素)は、全て20〜50ppmに現れるので、これを部位(V)とする。このように、上述した(III)、(IV)、(V)の3箇所の部位を分けることが可能となる。
・部位(III)=(B)ブロックの側鎖分岐鎖の末端メチル基の炭素;現れるシフト位置:10〜20ppm
・部位(IV)=(A)ブロックのスチレンを構成する炭素;現れるシフト位置:120〜150ppm
・部位(V)=上記部位(III)以外の炭素と、部位(IV)以外の炭素;現れるシフト位置:20〜50ppm
上記3箇所の部位のピークをそれぞれ積分して得られた値を以下のように計算して分岐度を求める。
分岐度=(100×(III)の積分値)/((III)の積分値+(IV)の積分値+(V)の積分値)
上述のように、本発明のブロック共重合体水素化物全体に占める、(B)ブロックの末端メチル基の炭素の割合を求めることによって、分岐度を規定することができる。
分岐度は7〜30モル%であることが好ましい。分岐度が7モル%未満である場合は、(B)ブロックの主鎖がエチレン連鎖となる割合が高くなり、軽質燃料油への溶解度が著しく低下し、十分な機能を発揮できないおそれがある。一方、分岐度が30モル%を超える場合は、軽質燃料油に対する増粘効果が不十分となり、結果的にリーク量が増大するおそれがある。分岐度が7〜30モル%である場合、軽質燃料油に対する溶解性が極めて高く、軽質燃料油への増粘効果も高く、かつ燃料ポンプ内にて高圧化にさらされても安定であるので、軽質燃料油のリーク量を抑えることができる。より好ましい分岐度は10〜20モル%である。
本発明のブロック共重合体水素化物は、効果を損なわない範囲で、さらに別の単量体と共重合させることも可能である。この場合、別の単量体の割合は、(A)ブロック及び(B)ブロックの合計100モル%に対して、20モル%未満であることが好ましい。
さらに本発明のブロック共重合体水素化物は、添加時のハンドリング性等を考慮して、予め溶剤等で希釈し、液状化してから軽質燃料油に添加することもできる。
希釈に用いる溶剤としては、ブロック共重合体水素化物が十分に溶解し、ハンドリング時の温度においても析出しない溶剤が好ましい。好ましい溶剤としては、アルキルベンゼン系溶剤、n−パラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、ナフテン系溶剤などが挙げられる。より好ましいのは、アルキルベンゼン系溶剤、ナフテン系溶剤であり、さらに好ましくはアルキルベンゼン系溶剤である。またアルキルベンゼン系溶剤のなかでも、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ベンゼンに付加したアルキル基の炭素数が3のアルキルベンゼン(C3アルキルベンゼン)、ベンゼンに付加したアルキル基の炭素数が4のアルキルベンゼン(C4アルキルベンゼン)や、これらの混合物が特に好ましい。
本発明のリーク抑制剤は、産業用や船舶用ディーゼルエンジン、特に燃料噴射ポンプの内部がプランジャーとバレルとから構成され、プランジャーの往復動によって燃料油が圧送されて燃焼室に燃料油が噴射される型の燃料噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンに対して、燃料として軽質燃料油を使用する際に、軽質燃料油に添加することによって、燃料噴射ポンプでの燃料油のリーク(漏れ)を抑制することができる。
本発明のリーク抑制剤は、軽質燃料油に添加することで、燃料油リーク量を抑制することができる。これは、本発明のリーク防止剤が、燃料油自体の粘度を向上させることができ、かつ噴射ポンプ内で燃料油が加圧され、せん断力が加わった際でも、分子鎖が切断されることが少ないためである。燃料ポンプ内で、燃料油が加圧され、せん断力が加わった際に分子鎖が切断された場合は、燃料油自体の粘度も低下するため、リーク量が増大する。
本発明において燃料として用いる軽質燃料油とは、例えば、沸点範囲が100〜400℃程度の燃料油である。例えば、原油を常圧蒸留または減圧蒸留することにより得られる燃料油、およびそれらを改質することにより得られる燃料油が挙げられる。これらの燃料油に対し、必要により残渣油を配合しても良い。残渣油としては、常圧残油、残油脱硫重油、減圧残油、スラリー油、エキストラクト油、動植物油脂等が挙げられる。
本発明における軽質燃料油は、ディーゼルエンジンに使用した際に、リーク(漏れ)を多く発生するおそれのある燃料油であるので、本発明のリーク抑制剤を添加した際により高いリーク抑制効果が得られるものが好ましい。このため、軽質燃料油の動粘度は低い方が好ましく、具体的には、40℃における動粘度が3.0mm/s以下が好ましく、より好ましくは2.5mm/s、さらに好ましくは2.0mm/s以下である。
上記軽質燃料油の代表としては、灯油や船舶用燃料として使用されるDM級燃料油等が挙げられる。
灯油とは、原油を常圧蒸留又は減圧蒸留することにより得られる中間留分であり、主に暖房やランプ等に使用される燃料油のことをいうが、これと同等の物性であれば、原料や製造方法などが異なるものも包含される。灯油は海外においては、ケロシンやヒーティングオイルなどと称されることのある燃料油である。沸点範囲は軽油よりも低い範囲となり、一般的には、100〜350℃程度である。含有成分としては、パラフィン分、ナフテン分、アロマ分が主成分となる。
また、本発明における灯油は、産業用ディーゼルエンジンに使用した際にリーク(漏れ)を多く発生するおそれのある燃料油であるので、本発明のリーク抑制剤を添加した際により高いリーク抑制効果が得られる灯油であることが好ましい。このため、動粘度の低い灯油が好ましく、具体的には、40℃における動粘度が3.0mm/s以下の灯油が好ましく、より好ましくは2.0mm/s、さらに好ましくは1.5mm/s以下の灯油である。日本国内においては、日本工業規格(JIS K2203)において規定されている、1号灯油又は2号灯油が好ましく、より好ましくは1号灯油である。
なお、動粘度は、JIS K2283によって測定することができる。
船舶用燃料として使用される低硫黄燃料のDM級燃料油としては、DMX燃料油、DMA燃料油、DMB燃料油、DMC燃料油などが挙げられ、これらは硫黄分を低減することを目的として製造された燃料油であり、ISO(国際標準化機構)8217に規定されている。本発明においては、これらの中でも、より軽質で低粘度のDMX燃料油、DMA燃料油が好ましい。DMX燃料油は硫黄分が1.0%以下、DMA燃料油は硫黄分が1.5%以下である。また、ISO(国際標準化機構)8217には、40℃における動粘度がDMX燃料油は1.4〜5.5mm/s、DMA燃料油は1.5〜6.0mm/sと定められている。取り分けこれらの中でも、40℃における動粘度が3.0mm/s以下、より好ましくは2.5mm/s以下、更に好ましくは2.0mm/s以下であるDMXまたはDMA燃料油に対して、本発明のリーク抑制剤を使用することで際立った効果が得られる。
さらに、本発明における軽質燃料油として、灯油や船舶用燃料以外の燃料油も使用することができ、例えば、沸点範囲が100〜400℃の範囲内にあり40℃における動粘度が3.0mm/s以下の燃料油も使用することができる。
上記燃料油の例としては、天然ガス、石炭、バイオマス等を合成ガスに変換し、フィッシャー・トロプシュ反応により得られた、又はそれをさらに異性化したフィッシャー・トロプシュ燃料油などが挙げられる。例えば、GTL(Gas−to−Liquids)燃料油、CTL(Coal−to−Liquids)燃料油、BTL(Biomass−to−liquids)燃料油などがこれらに該当する。
本発明において使用できる他の燃料油としては、藻類などから得られる炭化水素分であり、灯油や船舶用燃料と同等の物性や粘度を有する燃料油なども挙げられる。
〔軽質燃料油組成物〕
次に、本発明の軽質燃料油組成物について説明する。
本発明の軽質燃料油組成物は、本発明のリーク抑制剤と軽質燃料油とを含有する。軽質燃料油としては、灯油や船舶用燃料として使用されるDM級燃料油が挙げられる。灯油としては、上記のものを用いることができ、1号灯油又は2号灯油が好ましく、より好ましくは1号灯油である。船舶用燃料としは、上記のDM級燃料油を使用することができ、DMX燃料油、DMA燃料油、DMB燃料油、DMC燃料油が好ましく、より好ましくはDMX燃料油、DMA燃料油である。また、灯油や船舶用燃料以外の燃料油であっても、これらと同等の物性や粘度を有する燃料油も用いることができる。
本発明の軽質燃料油組成物は、軽質燃料油に対し、本発明のリーク抑制剤を0. 0005〜1質量%含有する。
本発明の軽質燃料油組成物は、本発明の軽質燃料油リーク抑制剤と共に、所望により、燃料油の添加剤として従来から慣用されている各種添加剤等を適宜含有していてもよい。例えば、軽質燃料油自体の潤滑性が不足している場合には、軽油等に使用されている潤滑性向上剤を含有していることが好ましい。
潤滑性向上剤としては、低硫黄軽油や低硫黄灯油等の潤滑性を付与させる目的で使用できる添加剤が好ましく、例えば、ベヘニン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸など長鎖飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミトオレイン酸、エルカ酸などの長鎖不飽和脂肪酸、及び上記長鎖脂肪酸類の混合物;さらにグリセリンモノ・ジオレート等に代表される、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸とグリセリンとの部分エステル類又はこれらの混合物;ソルビトール、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどのポリオールと長鎖飽和又は不飽和脂肪酸との部分エステル類;ステアリルアミン、オレイルアミン、パルミチルアミンなどに代表される長鎖アルキルアミン類;ステアリルアミド、パルミチルアミド、オレイルアミド等に代表される長鎖アルキルアミド類などが挙げられる。
上記潤滑性向上剤のうち好ましく使用できるのは、長鎖不飽和脂肪酸、長鎖飽和脂肪酸、長鎖飽和脂肪酸とグリセリンとの部分エステル、長鎖不飽和脂肪酸とグリセリンとの部分エステル、オレイルアミン、オレイルアミドであり、より好ましくは、長鎖不飽和脂肪酸、長鎖飽和脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸とグリセリンとの部分エステルであり、さらに好ましくは、オレイン酸、リノール酸の混合物、グリセリンモノオレートとグリセリンジオレートの混合物である。
また、本発明の軽質燃料油組成物は、例えば、清浄分散剤、酸化防止剤、セタン価向上剤、黒煙減少剤、導電性改良剤などの各種添加剤等を適宜含有させることができる。
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
表1及び表2に実施例及び比較例で使用したブロック共重合体水素化物を記載する。なお、以下の表中に記載の(A)ブロックの割合、(B)ブロックの割合、分岐度は本文中に記載の方法によりC13−NMRを用いて測定した値であり、動粘度はJIS K2283によって測定した値であり、数平均分子量(Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて測定し、ポリスチレン換算することで算出した値である。
Figure 0006147090
Figure 0006147090
表1及び表2に記載した重合体1〜10をJIS 1号灯油に0.5質量%添加した。さらに、潤滑性向上剤として表3及び表4に記載の化合物を灯油に対して0.03質量%(300ppm)添加した。なお、JIS 1号灯油の40℃における動粘度は1.165mm/sである。
これら添加剤を添加した後の灯油について以下のとおり評価を行なった。なお、重合体及び潤滑性向上剤を添加しない灯油について、同様に評価を行ない、比較例5として表4に示した。
<灯油に対する増粘効果>
添加剤添加後の灯油の動粘度を40℃にて測定した。測定結果を表3及び表4に示す。
<リーク量の測定(燃料噴射系単体試験)>
燃料油のリーク(漏れ)量を測定するため、燃料噴射系単体試験を実施した。同装置は、いわゆる燃料噴射ポンプテスターで、燃料タンク、噴射ポンプ、高圧燃料噴射管およびインジェクターから構成された、実機エンジンから燃料供給噴射系を抜き出したシステムである。
実機エンジンであればギヤを介してエンジンの駆動力を燃料カムに伝える形となっているが、この燃料噴射系単体試験装置では電動モータにより燃料カムが駆動される構造となっている。
インジェクターからは、燃焼室に見立てたタンクに燃料油が噴射されるので実際に噴射した燃料油の量を計測することができる。そして、その実噴射燃料量と燃料消費量との差から、燃料油のリーク量を求めることができる。上記で調製した添加剤添加後の灯油にて、燃料噴射系単体試験を実施した。
測定結果を表3および表4に記載する。
なお、燃料圧力0.5MPaにて10時間試験を実施した。JIS 1号軽油でのリーク量は330ml/10hrであった。
(三相誘導モータ駆動燃料噴射装置)
駆動モータ:11kW、出力軸回転速度96〜480min −1
燃料噴射ポンプ:プランジャ径(直径)25mm、プランジャストローク28mm、静的噴射開始カムリフト6mm、最高噴射圧力150MPa、個数2
燃料噴射ノズル:噴孔径0.44mm、噴孔数10個、噴孔角145°、個数2
その他主要な構成機器:燃料移送ポンプ(1個)、燃料冷却器(2個)、燃料フィルター(1個)等
<潤滑性の評価>
上記で調製した添加剤添加後の灯油について、潤滑性摩耗試験機を用いて潤滑性の評価を行った。潤滑性摩耗試験機としては、振動摩擦摩耗試験機(HFRR試験機)を用い、試験体として、PCSインスツルメンツ社製10mm、厚さ3.0mmのディスク、及び直径6.0mmのベアリングボールを用いた。下記に示す条件で潤滑性を評価した。
試験機:PCSインスツルメンツ製HFR2
試験体材質:ディスク、ボール共にスティールAISIE−52100
温度(℃):60±2
振幅(mm):1.0±0.03
試料量(mL):2.0±0.20
運転時間(分):75±0.1
荷重(g):200±1
振動数(Hz):50±1
試料浴の表面積(cm):6±1
顕微鏡観察により上部ボールの摩耗痕の振動方向と直行方向の直径を測定し、摩耗痕の平均径を求めた。
Figure 0006147090
Figure 0006147090
表3及び表4の結果から明らかなように、本発明にかかる重合体1〜を添加した実施例1〜の灯油については、灯油リーク量が大幅に軽減されていることが分かる。
一方、数平均分子量が本発明規定の範囲外である重合体7、(A)及び(B)ブロックの割合が本発明規定の範囲外である重合体8、(A)ブロックを含まず、(B)ブロックのみからなる重合体9をそれぞれ添加した比較例1〜3の灯油については、灯油リーク量があまり軽減されていないことが分かる。また、(B)ブロックを含まず、(A)ブロックのみからなる重合体10を添加した比較例4の灯油については、重合体10が灯油に溶解しなかったので、評価を行なうことができなかった。
本発明のディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤は、軽質燃料油に添加することによって、燃料噴射ポンプでの燃料油のリークを抑制することができる。したがって、本発明のリーク抑制剤は、産業用ディーゼルエンジンや船舶用ディーゼルエンジン、特に燃料噴射ポンプがプランジャーとバレルとから構成されたディーゼルエンジンの燃料として軽質燃料油を使用する際、軽質燃料油に好適に添加することができる。

Claims (2)

  1. 下記の(A)及び(B)ブロックを構成単位とするブロック共重合体の水素化物からなり、上記ブロック共重合体の水素化物の数平均分子量が80, 000〜500, 000であり、共重合体の水素化物全体に占める(A)ブロックの割合が5〜30モル%、(B)ブロックの割合が70〜95モル%であり、かつC 13 −NMRにより測定され、下記式で算出される分岐度が7〜30モル%であるディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤。
    (A)ポリスチレンブロック
    (B)水素化ポリ1,3−ブタジエンブロック、水素化ポリイソプレンブロック、又は水素化(ポリ1,3−ブタジエン・ポリイソプレン混合)ブロック
    分岐度=(B)ブロックの側鎖分岐鎖末端メチル基の数/ブロック重合体水素化物全体の炭素数
  2. 請求項に記載のディーゼルエンジン用軽質燃料油リーク抑制剤と軽質燃料油とを含有し、前記軽質燃料油に対し、前記抑制剤を0. 0005〜1質量%含有する軽質燃料油組成物。
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