以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
[1.第一実施形態]
[1−1.装置構成]
本実施形態に係る車両1の制御装置20の構成について、図1及び図2を用いて説明する。図1は本制御装置20の全体構成を示すブロック図であり、図2は本制御装置20を備えた車両1の構成図である。
図2に示すように、車両1は、エンジン2及び回転電機としてのモータジェネレータ3を駆動源とするパラレル式のハイブリッド電気自動車である。車両1の前部には、前輪(車輪)6Fを駆動するエンジン2が搭載され、エンジン2の出力軸にはクラッチ4を介して変速機5が接続される。車両1の後部には後輪(車輪)6Rを駆動するモータジェネレータ3が搭載される。
エンジン2は、例えば一般的な直噴式やポート噴射式のガソリンエンジンであって、その吸気通路には、電子制御スロットル(何れも図示略)が介装される。この電子制御スロットルは、図示しないエンジン制御部によって開度が制御され、吸気通路を流通する吸気の流量を調整する。また、エンジン2の吸気ポートにはインジェクタ(何れも図示略)が装備され、吸気の流量に適した量の燃料がインジェクタから噴射され、吸気と混合された後に燃焼室内に導入される。吸気ポートの燃焼室側の端部には吸気弁が設けられ、排気ポートの燃焼室側の端部には排気弁(何れも図示略)が設けられる。これら吸気弁及び排気弁は、エンジン制御部によりエンジン2の上部に設けられる可変動弁機構(図示略)が制御されることで、バルブリフト量及びバルブタイミングが変更される。
モータジェネレータ3は、モータ(電動機)としての機能とジェネレータ(発電機)としての機能とを兼ね備えた電動発電機であり、インバータ7を介してバッテリ8に接続される。モータジェネレータ3は、運転者がアクセルペダル9を踏み込み操作した場合にモータとして作動する。この場合、バッテリ8に蓄えられた直流電力がインバータ7で交流電力に変換され、モータジェネレータ3に供給される。モータジェネレータ3で発生した出力(モータ駆動力)は後輪6Rに伝達され、車両1を駆動する。
また、モータジェネレータ3は、アクセルペダル9の踏み込み操作がされない場合(アクセルオフの場合)にジェネレータとして作動する。例えば車両1がアクセルオフで惰性走行している場合や減速している場合、アクセルオフ且つブレーキペダル(図示略)が踏み込み操作されて車両1が制動される場合は、モータジェネレータ3は後輪6Rの回転を利用して回生発電する。つまり、後輪6Rの回転による運動エネルギがモータジェネレータ3で交流電力に変換されることにより、回生制動力(回生ブレーキ)を発生する。この交流電力はインバータ7で直流電力に変換された後、バッテリ8に充電され、後輪6Rの回転による運動エネルギが電気エネルギとして回収される。
インバータ7は、バッテリ8と電気的に接続されており、バッテリ8に蓄電されている直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータ3へ供給する。モータジェネレータ3の回転速度(モータ回転数)Nmはインバータ7で変換される交流電流の周波数に比例し、インバータ7が制御されることでモータ回転数Nmが制御される。
クラッチ4は、エンジン2と前輪(駆動輪)6Fとの間の動力伝達を断接するものであり、クラッチ4の接続時にはエンジン2の出力(駆動力)が変速機5に伝達され、適切な速度に変速された後に前輪6Fに伝達される。また、クラッチ4の接続時にアクセルオフで走行する場合には、エンジン2で燃料が噴射されないため、エンジン2の回転抵抗によって前輪6Fが制動され、エンジンブレーキがかかる。一方、クラッチ4の切断(開放)時にはエンジン2と変速機5との間で動力伝達は行われず、エンジンブレーキも発生しない。クラッチ4の断接はアクチュエータ4Aにより実施され、このアクチュエータ4Aは後述のクラッチ制御部23bにより制御される。つまり、クラッチ制御部23bによりクラッチ4の断接が制御されることになる。
変速機5は、運転者が変速段(変速比)を選択する際に操作するシフトレバー(変速段選択装置)10と電気的に接続されたシフトバイワイヤ式であり、アクチュエータ5Aとコントローラとしての後述する変速段制御部23cとによって構成される。変速機5の実際の変速段(以下、実変速段Xrと呼ぶ)は、アクチュエータ5Aにより切り替えられ、このアクチュエータ5Aは変速段制御部23cによりシフトレバー10で選択された変速段(以下、要求変速段Xiと呼ぶ)に応じて制御される。さらにここでは、変速段制御部23cによって、要求変速段Xiに関わらず実変速段Xrが制御される目標変速段制御が実施される。目標変速段制御については後述する。
変速機5は、シフトレバー10のポジション操作や「+・−」などのスイッチやパドルスイッチの操作により運転者が変速段を選択することができるものであり、かかる機能を有する自動変速機(AT)や無段変速機(CVT)を適用可能である。さらに、例えば手動変速機(MT)のクラッチペダル操作とシフトレバー操作とを自動制御化したオートメーテッドマニュアルトランスミッション(AMT)やデュアルクラッチトランスミッション(DCT)なども好適である。言い換えると、シフトレバー10で選択できる前進がDポジションのみであり、「+・−」スイッチやパドルスイッチ等がなく、運転者が変速を切り替え操作することができないような変速機は含まれない。
バッテリ8は、バッテリケース内に複数の電池モジュールが収容されて構成された二次電池(例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池といったエネルギ密度の高い蓄電装置)であり、モータジェネレータ3に対して電力を入出力可能(充放電可能)に構成されている。つまり、バッテリ8は、モータジェネレータ3への駆動用の電力供給と、モータジェネレータ3からの発電電力の充電とが可能である。各電池モジュールは、例えばそのケース内に複数の電池セルが直列に接続されて収容された組電池である。なお、バッテリケースは、車室内や車室外(例えば、車両1のトランクルーム内や床下等)に固定される。
バッテリ8は、予め使用(運用)することができる充電率(State of Charge,SOC)の範囲(運用充電率範囲)が設定されており、この運用充電率範囲内であれば充放電が可能である。運用充電率範囲は、例えばバッテリ8の耐久性やバッテリ8を搭載した電気機器が要求する出力,バッテリ8の運用上の要請等によって定められた電池内部の充電量の変動範囲である。
また、車両1の運転席下部にはアクセルペダル9が設けられ、このアクセルペダル9の近傍には、アクセルポジションセンサ(APS)11が設けられる。アクセルポジションセンサ11は、アクセルペダル9の位置Apを検出するものであり、このアクセル位置Apはドライバの要求する出力の大きさ(要求出力)に対応する。つまり、ドライバの要求する出力が大きい場合(加速要求がある場合)は、ドライバによるアクセルペダル9の踏み込み量は大きくなり、ドライバの要求する出力が小さい場合(定常走行や減速要求がある場合)は、アクセルペダル9の踏み込み量は小さくなる。アクセルポジションセンサ11は、例えばドライバによるアクセルペダル9の踏み込み操作量に応じた位置信号(位置情報)を出力する。アクセルポジションセンサ11で検出された位置情報は、後述の制御装置20へ伝達される。
車両1の図示しないインストルメントパネルには、車両の状態を表示するコンビネーションメータ(表示手段)12が取り付けられる。コンビネーションメータ12は、速度計,エンジン回転速度計,燃料計,水温計等の計器類や燃料残量警告灯,ブレーキ警告灯,変速段表示灯などのランプがパッケージングされたものであり、車速,外気温度,燃料残量,変速段等の情報を表示する。なお、コンビネーションメータ12に表示される変速段は、運転者がシフトレバー10を操作して選択した要求変速段Xiである。
また、車両1には、車速Vを検出する車速センサ13が設けられ、車速センサ13で検出された車速Vは制御装置20へ伝達される。車両1にはこの他にも、エンジン2の回転速度を検出する回転速度センサ,エンジン2のスロットルバルブの開度を検出する開度センサ,ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキセンサ等(何れも図示略)、様々なセンサが設けられており、これらのセンサで検出された各情報は、制御装置20へ伝達される。
車両1には、これら装置を制御する制御装置20が設けられる。制御装置20は、各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUでの演算結果等が一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート、時間をカウント(計測)するタイマー等を備えたコンピュータである。
[1−2.制御構成]
本実施形態に係る制御装置20は、アクセルオフでの走行時にモータジェネレータ3をジェネレータとして作動させて回生発電を実施する回生制御と、要求変速段Xiに関わらず変速機5の実変速段Xrを制御する目標変速段制御とを実施することで、運転者に違和感を与えることなく減速しながらエネルギ回収を行う。本実施形態では、運転者が要求するエンジンブレーキに相当するトルク(要求ブレーキトルクTb)を車両1に与えながら、できる限り回生発電を実施してより多くの運動エネルギを電気エネルギとして回収する。
このような制御を実施するために、制御装置20には演算部21,設定部22及び制御部23が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。なお、ここでは一つの制御装置20に全ての要素が設けられている場合を例示しているが、これらの要素が複数の制御装置に分けて設けられ、各制御装置が情報伝達可能に構成されていてもよい。
演算部21は、回生制御と目標変速段制御とを実施するために必要な演算を行うものである。図1に示すように、演算部21には、充電率演算部21a,要求演算部21b及び上限値演算部21cが設けられる。演算部21での各演算結果は、設定部22及び制御部23へ伝達される。
充電率演算部21aは、バッテリ8の電圧やインバータ7とバッテリ8との間に流れる電流等を検出し、これらの検出結果からバッテリ8の充電率(充電容量)SOCを演算するものである。この演算手法としては、例えばバッテリ8の初期の充電量に対し、充電された電力量を加算していく一方、放電された電力量を減算し、バッテリ8から充放電される電力量を追跡計算していく方法がある。
要求演算部21bは、アクセルオフでの走行時に車速センサ13で検出された車速Vとシフトレバー10で選択されている要求変速段Xiとに基づいて、運転者の要求するエンジンブレーキに相当する要求ブレーキトルクTbを演算するものである。要求ブレーキトルクTbとは、運転者によるアクセルペダル9の踏み込み操作が中断されたときに、車両1に発生するであろうと予測されるエンジンブレーキの大きさに相当するトルクである。
要求演算部21bは、例えばマップや数式等を用いて車速Vと要求変速段Xiとからエンジン2の回転速度(エンジン回転数)Neを演算し、さらにこのエンジン回転数Neとエンジン2の抵抗(エンジン2に作用する抵抗)との関係からエンジンブレーキ相当の要求ブレーキトルクTbを演算する。なお、エンジン2の抵抗は、例えば電子制御スロットル弁の開度,吸気弁及び排気弁の弁開度やバルブリフト量やバルブ作動停止,オルタネータやエアコンコンプレッサ等の補機類の作動停止により変化しうるが、ここではそれらは考慮せず、エンジン回転数Neに基づいて要求ブレーキトルクTbを演算する。以下、要求演算部21bにより演算された要求ブレーキトルクTbを「Tb(V,Xi)」とも表記する。これは、要求ブレーキトルクTbが車速Vと要求変速段Xiとに応じて決まることを意味する。
上限値演算部21cは、アクセルオフでの走行時に車速センサ13で検出された車速Vに基づいて、モータジェネレータ3で回生発電できる上限値(最大負荷トルク)である回生上限値TmMAXを演算するものである。回生上限値TmMAXは主にモータ回転数Nmに依存するため、上限値演算部21cは、例えばマップや数式等を用いて車速Vからモータ回転数Nmを演算し、このモータ回転数Nmから回生上限値TmMAXを演算する。また、アクセルオフでの走行中のモータ回転数Nmを直接検出して回生上限値TmMAXを演算してもよい。以下、上限値演算部21cにより演算された回生上限値TmMAXを「TmMAX(V)」とも表記する。これは、回生上限値TmMAXが車速Vに応じて決まることを意味する。
設定部22は、要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとに基づいて、エンジン2で発生させるエンジンブレーキトルクTeと、モータジェネレータ3で回生発電させる回生発電トルクTmとを設定するものである。具体的には、設定部22は要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとを比較し、その大小関係に応じてエンジンブレーキトルクTe及び回生発電トルクTmを設定する。設定部22で設定されたエンジンブレーキトルクTe及び回生発電トルクTmは、制御部23へ伝達される。
まず、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下の場合(Tb≦TmMAX)を説明すると、この場合は、要求ブレーキトルクTbをモータジェネレータ3のみで発生させることができるため、設定部22は以下の式(1)に示すように回生発電トルクTmを要求ブレーキトルクTbとして設定する。
Tm=Tb(V,Xi) ・・・(1)
また、この場合はエンジンブレーキトルクTeを発生させる必要がないため、設定部22はエンジンブレーキトルクTeをゼロと設定する。
一方、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXを上回る場合(Tb>TmMAX)について説明すると、この場合は、モータジェネレータ3の回生発電トルクTmだけで要求ブレーキトルクTbをまかなうことができない。そのため、この場合はエンジンブレーキトルクTeを発生させ、回生発電トルクTmとエンジンブレーキトルクTeとを組み合わせて要求ブレーキトルクTbを車両1に与える。これにより、運転者が減速状況に違和感を感じないようにする。このときのエンジンブレーキトルクTeの大きさは、変速機5の実変速段Xrに応じて決まり、変速機5の実変速段Xrが高いほどエンジンブレーキトルクTeは小さくなる。
設定部22は、この場合、要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとの差分ΔTを演算し、エンジンブレーキトルクTeが差分ΔT以上となり、且つ、差分ΔTに最も近くなる変速機5の変速段を目標変速段Xdとして設定する。なお、ここで設定される目標変速段Xdは要求変速段Xiよりも高い変速段である。このように目標変速段Xdを設定することで、エンジンブレーキトルクTeを必要最小限とし、回生発電トルクTmをモータジェネレータ3の回生上限値TmMAXに接近させる。
設定部22により目標変速段Xdが設定されると、後述の変速段制御部23cによって変速機5の実変速段Xrが目標変速段Xdに制御される(Xr=Xd)。これにより、エンジンブレーキトルクTeは、車速Vと目標変速段Xdに制御された実変速段Xrとに応じたものとなる。以下、このエンジンブレーキトルクTeを「Te(V,Xr)」とも表記する。これは、エンジンブレーキトルクTeが車速Vと実変速段Xrとに応じて決まることを意味する。
さらに設定部22は、回生発電トルクTmを以下の式(2)に示すように設定する。つまり、要求ブレーキトルクTbから目標変速段Xdに対応するエンジンブレーキトルクTeを減算した値を回生発電トルクTmとして設定する。これにより、要求ブレーキトルクTbの不足分(すなわち、要求ブレーキトルクTbからエンジンブレーキトルクTeを差し引いた分)を回生発電トルクTmで調整するように、後述の回生制御部23aがモータジェネレータ3を制御することができる。
Tm=Tb(V,Xi)−Te(V,Xr) ・・・(2)
制御部23は、回生制御と目標変速段制御とを実施するものである。図1に示すように、制御部23には、回生制御部23a,クラッチ制御部23b,変速段制御部23c及び報知部23dが設けられる。
回生制御部23aは、インバータ7を制御することでモータジェネレータ3を制御して、モータジェネレータ3をジェネレータとして作動させ、設定部22で設定された回生発電トルクTmを発生させて回生制御を実施するものである。つまり、要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとの大小関係に応じて、上記の式(1)又は(2)で演算された回生発電トルクTmをモータジェネレータ3に発生させ、エンジンブレーキトルクTeだけでは足りない要求ブレーキトルクTbの不足分を調整する。
回生制御部23aは、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下(Tb≦TmMAX)の場合は、モータジェネレータ3を回生駆動して上記の式(1)で演算された回生発電トルクTmを発生させる。この場合は、運転者の要求するエンジンブレーキ相当の要求ブレーキトルクTbをモータジェネレータ3だけでまかなうことができる。
一方、回生制御部23aは、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXを上回る(Tb>TmMAX)場合は、モータジェネレータ3を回生駆動して上記の式(2)で演算された回生発電トルクTmを発生させる。この場合は、運転者の要求するエンジンブレーキ相当の要求ブレーキトルクTbをモータジェネレータ3だけでまかなうことができないため、エンジンブレーキトルクTeを組み合わせて要求ブレーキトルクTbとする。このとき、できる限り回生発電トルクTmを回生上限値TmMAXに近づけて、できるだけ多くの運動エネルギを電気エネルギとして回収する。
ただし、回生制御部23aは、充電率演算部21aで演算された充電率SOCが所定値SOCTHよりも高い場合には、回生制御ができないと判断して回生制御を実施しない。この所定値SOCTHは、上記の運用充電率範囲の上限値に近い値であり、予め制御装置20に設定されている。つまり、バッテリ8の充電率SOCが高い場合はバッテリ8に充電することができないため、回生制御を実施しない。
クラッチ制御部23bは、設定部22から伝達された情報に基づいてアクチュエータ4Aを制御することでクラッチ4の断接を制御するものである。クラッチ制御部23bは、設定部22においてエンジンブレーキトルクTeをゼロに設定された場合にクラッチ4を切断する。つまり、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下(Tb≦TmMAX)の場合はクラッチ4を開放することで、エンジン2と前輪6Fとの動力伝達を遮断し、エンジン2の回転抵抗を車両1に作用させない。
一方、クラッチ制御部23bは、設定部22において目標変速段Xdが設定された場合にクラッチ4を接続する。つまり、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXよりも大きい(Tb>TmMAX)場合はクラッチ4を係合することで、エンジン2と前輪6Fとの間で動力伝達が行われるようにし、エンジンブレーキトルクTeを車両1に作用させる。なお、クラッチ制御部23bは、回生制御部23aにより回生制御が実施されない場合(すなわち、充電率演算部21aで演算された充電率SOCが所定値SOCTHよりも高い場合)もクラッチ4を接続し、車両1にエンジンブレーキトルクTeを作用させる。
変速段制御部23cは、シフトレバー10で選択された要求変速段Xiに応じて変速機5の実変速段Xrを制御する通常制御と、要求変速段Xiに関わらず変速機5の実変速段Xrを制御する目標変速段制御と、誤操作時のフェイルセーフ制御とを実施するものである。フェイルセーフ制御は、シフトレバー10が急激にシフトアップ操作又はシフトダウン操作された場合のように、運転者によってシフトレバー10が誤操作された場合に実施される。例えば、6速で走行中に、突然運転者が1速にシフトレバー10を操作した場合に実変速段Xrを6速から1速へ切り替えるとエンジン2が過回転し故障するおそれが高いため、変速段制御部23cは実変速段Xrを徐々にシフトダウンする。
通常制御は、目標変速段制御及びフェイルセーフ制御のどちらかが実施される場合を除いて実施されるものであり、実変速段Xrを運転者が操作したシフトレバー10の変速段(要求変速段)Xiに対応させる(同じ変速段とする)制御である。通常制御は従来からあるシフトバイワイヤ式の変速機で実施される制御と同様である。
目標変速段制御は、設定部22において目標変速段Xdが設定された場合に、実変速段Xrを目標変速段Xdとする制御である。つまり、変速段制御部23cは、設定部22で目標変速段Xdが設定されてその情報が伝達された場合は、要求変速段Xiに関わらず実変速段Xrが目標変速段Xdとなるように実変速段Xrを制御する。これにより、車両1に作用するエンジンブレーキトルクTeは必要最小限の大きさとなる。
報知部23dは、シフトレバー10で選択されている要求変速段Xiをコンビネーションメータ12に表示して、運転者により選択されている変速段を運転者に対して報知するものである。ここで実変速段Xrではなく要求変速段Xiを表示するのは、運転者には実際に噛合っている変速段(実変速段Xr)ではなく、自己が選択した変速段(要求変速段Xi)を認識させればよいからである。
なお、アクセルペダル9の踏み込み操作がされているときは、走行モード(例えばEV走行モードやシリーズ走行モード,パラレル走行モード等)に応じて、制御部23によりエンジン2,モータジェネレータ3,クラッチ4及び変速機5等がそれぞれ制御される。
[1−3.具体例(作用)]
次に、具体的な例を用いて回生制御及び目標変速段制御について説明する。以下の例では、変速機5が1速から6速までの変速段を有するものとする。
(A)アクセルオンからアクセルオフにされたとき
運転者によりシフトレバー10で4速が選択された状態でアクセルペダル9の踏み込み操作がされているときに、アクセルペダル9の踏み込み操作が中断された場合を考える。
アクセルオフになった瞬間は、実変速段Xrは要求変速段Xiと同じ4速となっている。このとき、上記の演算部21により4速のエンジンブレーキに相当する要求ブレーキトルクTb(V1,4)が演算され、さらにこの時の車速V1から回生上限値TmMAX(V1)が演算される。ここで、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下であれば、回生制御のみが実施される。つまり、設定部22により回生発電トルクTmが要求ブレーキトルクTb(V1,4)に設定され、回生制御部23aによりモータジェネレータ3が制御されて回生発電トルクTmが発生される。なお、クラッチ制御部23bによりクラッチ4は開放される。また、実変速段Xrは4速のまま維持される。
一方、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXよりも大きければ、エンジンブレーキトルクTeを車両1に与える必要があるため、回生制御に加えて目標変速段制御が実施される。すなわち、設定部22により、差分ΔT1(=Tb−TmMAX)以上であって差分ΔT1に最も近くなるエンジンブレーキトルクTeとなる変速段が目標変速段Xdとして設定される。この目標変速段Xdは、要求変速段Xiよりも高い変速段(この場合は5速又は6速)である。これは、差分ΔT1は要求ブレーキトルクTbよりも必ず小さい値となり、上記したように変速機5の実変速段Xrが高いほどエンジンブレーキトルクTeは小さくなるためである。
設定部22により、5速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V1,5)と6速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V1,6)とが演算されて、差分ΔT1以上であるか否かが判断される。何れも差分ΔT1以上であれば、どちらのエンジンブレーキトルクTeの方が差分ΔT1に近い値となるのかが判断される。仮に、何れのエンジンブレーキトルクTeも差分ΔT1以上であれば、6速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V1,6)の方が差分ΔT1に近いことになり、設定部22により目標変速段Xdが6速に設定される。設定部22から変速段制御部23cに目標変速段Xdの情報が伝達されると、変速段制御部23cにより実変速段Xrがシフトアップされ、4速から6速に切り替えられる。さらにクラッチ制御部23bによりクラッチ4が接続される。
一方、回生制御部23aにより、上記の式(2)に示すように、6速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V1,6)が要求ブレーキトルクTb(V1,4)から減算されて回生発電トルクTmが求められ、この回生発電トルクTmを発生させるようにモータジェネレータ3が制御される。このときの回生発電トルクTmは、回生上限値TmMAX未満の値となる。結果的に、モータジェネレータ3による回生発電トルクTmと、エンジン2によるエンジンブレーキトルクTe(V1,6)とが共に発生し、車両1には要求ブレーキトルクTb(V1,4)が作用する。
以上の制御内容をまとめると、以下の表1のようになる。なお、表1中「A1」とは、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下の場合を意味し、「A2」とは、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXよりも大きい場合を意味する。
(B)アクセルオフでの走行中にシフトダウン操作されたとき
ところで、運転者はアクセルオフでの走行中にエンジンブレーキをさらにかけようとしてシフトダウン操作を行うことがある。この場合について上記の例を用いてさらに説明する。運転者によりシフトレバー10で4速が選択されている場合、アクセルオフの状態が続けば車両1には4速のエンジンブレーキに相当する要求ブレーキトルクTb(V1,4)が作用する。ここで、アクセルオフでの走行中に、運転者がシフトレバー10を操作して2速にシフトダウンしたとする。つまり、要求変速段Xiは4速から2速に変更される。
これにより、演算部21,設定部22及び制御部23では、上記した処理と同様の処理が繰り返される。すなわち、演算部21により新たに2速のエンジンブレーキに相当する要求ブレーキトルクTb(V2,2)が演算され、さらにこの時の車速V2から回生上限値TmMAX(V2)が演算され、設定部22により要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとの大小関係が判断される。これにより、以下の三つの場合が想定される。
第一に、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下である場合は、回生発電トルクTmが要求ブレーキトルクTb(V2,2)に設定されて、回生制御のみ実施される。つまり、クラッチ制御部23bによりクラッチ4が開放されるとともに、回生制御部23aによりモータジェネレータ3が制御されて回生発電トルクTmが発生される。さらにこの場合は、実変速段Xrはアクセルオフにされた瞬間の4速のまま維持される。
第二に、ドライバによるシフトダウン操作が行われる前は要求ブレーキトルクTb(V1,4)が回生上限値TmMAX(V1)以下であったが、シフトダウン操作により要求ブレーキトルクTb(V2,2)が回生上限値TmMAX(V2)よりも大きくなった場合を説明する。なおこの場合、シフトダウン操作前の実変速段Xrは4速である。
設定部22により、差分ΔT2(=Tb−TmMAX)以上であって差分ΔT2に最も近くなるエンジンブレーキトルクTeとなる変速段が目標変速段Xdとして設定される。この目標変速段Xdは、要求変速段Xi(すなわち2速)よりも高い変速段となるため、設定部22により3速以上の変速段にしたときのエンジンブレーキトルクTeがそれぞれ演算され、どのエンジンブレーキトルクTeが差分ΔT2以上で差分ΔT2に近い値となるのかが判断される。
仮に6速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V2,6)が差分ΔT2以上で最も差分ΔT2に近いとすると、設定部22により目標変速段Xdが6速に設定される。そして、設定部22から変速段制御部23cに目標変速段Xdの情報が伝達され、変速段制御部23cにより実変速段Xrがシフトアップされ、4速から6速に切り替えられる。さらにクラッチ制御部23bによりクラッチ4が接続される。
一方、回生制御部23aにより、上記の式(2)に示すように、6速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V2,6)が要求ブレーキトルクTb(V2,2)から減算されて回生発電トルクTmが求められ、この回生発電トルクTmを発生させるようにモータジェネレータ3が制御される。このときの回生発電トルクTmは、回生上限値TmMAX未満の値となる。結果的に、モータジェネレータ3による回生発電トルクTmと、エンジン2によるエンジンブレーキトルクTe(V2,6)とが共に発生し、車両1には要求ブレーキトルクTb(V2,2)が作用する。
第三に、ドライバによるシフトダウン操作が行われる前にすでに要求ブレーキトルクTb(V1,4)が回生上限値TmMAX(V1)よりも大きく、シフトダウン操作後も要求ブレーキトルクTb(V2,2)が回生上限値TmMAX(V2)よりも大きい場合を説明する。なおこの場合、シフトダウン操作前の実変速段Xrは6速である。
設定部22により、差分ΔT2(=Tb−TmMAX)以上であって差分ΔT2に最も近くなるエンジンブレーキトルクTeとなる変速段が目標変速段Xdとして設定される。この目標変速段Xdは、要求変速段Xi(すなわち2速)よりも高い変速段となるため、設定部22により3速以上の変速段にしたときのエンジンブレーキトルクTeがそれぞれ演算され、どのエンジンブレーキトルクTeが差分ΔT2以上で差分ΔT2に近い値となるのかが判断される。
仮に5速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V2,5)が差分ΔT2以上で最も差分ΔT2に近いとすると、設定部22により目標変速段Xdが5速に設定される。そして、設定部22から変速段制御部23cに目標変速段Xdの情報が伝達され、変速段制御部23cにより実変速段Xrがシフトダウンされ、6速から5速に切り替えられる。変速段制御部23cは、実変速段Xrを切り替える場合、クラッチ4を変速時のみ一時的に開放し、変速後すぐに接続するようにクラッチ制御部23bに指令を発する。
一方、回生制御部23aにより、上記の式(2)に示すように、要求ブレーキトルクTb(V2,2)から5速にしたときのエンジンブレーキトルクTe(V2,5)が減算されて回生発電トルクTmが求められ、この回生発電トルクTmを発生させるようにモータジェネレータ3が制御される。このときの回生発電トルクTmは、回生上限値TmMAX未満の値となる。結果的に、モータジェネレータ3による回生発電トルクTmと、エンジン2によるエンジンブレーキトルクTe(V2,5)とが共に発生し、車両1には要求ブレーキトルクTb(V2,2)が作用する。
以上の制御内容をまとめると、以下の表2のようになる。なお、表2中「B1」とは、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下の場合を意味し、「B2」とは、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXよりも大きい場合を意味する。また、「A1→B1」は、表1中の「A1」の状態から「B1」の状態になったことを意味し、同様に「A1→B2」は表1中の「A1」の状態から「B2」の状態になったことを意味し、「A2→B2」は表1中の「A2」の状態から「B2」の状態になったことを意味する。
[1−4.フローチャート]
次に、図3及び図4(a),(b)を用いて本実施形態に係る制御装置20で実行されるアクセルオフでの走行中の回生制御及び目標変速段制御の手順の例を説明する。図3はメインフローチャートであり、図4(a)はサブフローチャートA,図4(b)はサブフローチャートBである。これらのフローチャートは、所定の周期で繰り返し実施される。
図3に示すように、ステップS10では、アクセルポジションセンサ11により検出されたアクセル位置Apと充電率演算部21aで演算されたバッテリ8の充電率SOCとが取得される。ステップS20では、ステップS10で取得されたアクセル位置Apに基づいてアクセルオフであるか否かが判定される。アクセルオフでない場合はステップS130へ進み、走行モードに応じて各制御が実施され、このフローをリターンする。
アクセルオフである場合は、ステップS30において充電率SOCが所定値SOCTH未満であるか否かが判定され、充電率SOCが所定値SOCTH以上の場合は回生制御を実施できないため、ステップS140においてクラッチ制御部23bによりクラッチ4が接続状態にされる。これにより、その時の実変速段Xrに応じたエンジンブレーキトルクTeが発生し、このフローをリターンする。なお、すでにクラッチ4が接続状態であれば、ステップS140ではそのクラッチ4の状態が保持される。
充電率SOCが所定値SOCTH未満であれば、ステップS40において運転者がシフトレバー10により選択している変速段(要求変速段)Xiが取得され、続くステップS50において報知部23dにより要求変速段Xiがコンビネーションメータ12に表示される。そして、ステップS60において車速センサ13で検出された車速Vが取得され、ステップS70において要求変速段Xi及び車速Vに基づいて要求ブレーキトルクTb(V,Xi)が演算される。さらにステップS80において、車速Vに基づいて回生上限値TmMAX(V)が演算される。
ステップS90では、ステップS70で演算された要求ブレーキトルクTbがステップS80で演算された回生上限値TmMAX以下であるか否かが判定される。要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下であるときはステップS100へ進み、図4(a)に示すサブフローAを実行し、このフローをリターンする。一方、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXよりも大きいときはステップS110へ進み、図4(b)に示すサブフローBを実行し、このフローをリターンする。
図4(a)に示すように、サブフローAのステップA10では、クラッチ制御部23bによりクラッチ4が切断される。そして、ステップA20において、回生制御部23aにより回生発電トルクTmがステップS70で演算された要求ブレーキトルクTbとなるように、モータジェネレータ3が制御される。そして、図3に示すメインフローへリターンする。
図4(b)に示すように、サブフローBのステップB10では、設定部22により要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとの差分ΔT以上で且つ差分ΔTに最も近いエンジンブレーキトルクTeとなる目標変速段Xdが設定される。そして、ステップB20において、変速段制御部23cにより目標変速段制御が実施される。つまり、クラッチ4が一旦切断され、実変速段Xrが目標変速段Xdに制御されて、すぐにクラッチ4が接続される。
これにより、実変速段Xrに応じたエンジンブレーキトルクTeが発生する。そして、ステップB30において、回生制御部23aにより回生発電トルクTmが、ステップS70で演算された要求ブレーキトルクTbからステップB20で発生するエンジンブレーキトルクTeを減算した値となるように、モータジェネレータ3が制御される。そして、図3に示すメインフローへリターンする。
図3のメインフローへのリターン後は、ステップS10からの処理が繰り返し実施され、制御周期ごとに目標となる要求ブレーキトルクTbや回生上限値TmMAXが演算される。そのため、アクセルオフでの走行中に運転者によるシフトダウン操作があり要求変速段Xiが変更した場合や、車速Vが変化した場合でも、変更後の要求変速段Xiや変化後の車速Vに応じた要求ブレーキトルクTbや回生上限値TmMAXが演算され、回生制御及び目標変速段制御が実施される。
[1−5.効果]
したがって、本実施形態に係る車両1の制御装置20によれば、アクセルオフでの走行時に、要求変速段Xiに応じたエンジンブレーキに相当する要求ブレーキトルクTbをエンジンブレーキと回生発電トルクとを組み合わせて車両1に与えるため、運転者に違和感を与えることなく車両1にブレーキを発生させることができる。つまり、運転者が減速に違和感を感じることを防ぐことができる。また、要求変速段Xiに応じたエンジンブレーキに相当する要求ブレーキトルクTbを全てエンジンブレーキトルクTeとするのではなく、モータジェネレータ3の回生発電トルクTmを利用するため、アクセルオフでの走行時のエネルギを回収することができる。
また、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXを上回った場合には、クラッチ4を接続してエンジンブレーキトルクTeを利用するため、モータジェネレータ3の能力を超える要求があった場合でも、要求通りの制動力を車両1に与えることができる。一方、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXよりも小さい場合には、クラッチ4を切断することでエンジン2を動力伝達経路から分離し、車両1にエンジンブレーキトルクTeが作用しないようにする。つまり、モータジェネレータ3のみで要求に応えることができる場合は、回生発電トルクTmのみを発生させることで効率的にエネルギを回収することができる。なお、エンジンブレーキトルクTeを使用しない場合はクラッチ4を切断すればよいため、速やかにエンジン2を動力伝達経路から切り離すことができる。
また、本実施形態では、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXを上回る場合は、回生発電トルクTmが回生上限値TmMAXに接近するように目標変速段Xdが設定されて実変速段Xrが制御されるため、より多くのエネルギを回収することができる。
また、コンビネーションメータ12には実変速段Xrではなく要求変速段Xiが表示されるため、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
[2.第二実施形態]
[2−1.構成]
次に、第二実施形態に係る車両1の制御装置20について説明する。本実施形態は、第一実施形態と異なり、運転者がアクセルオフでの走行中にシフトレバー10をシフトダウン操作した場合に、実変速段Xrの切替回数をできるだけ少なくする。つまり、本実施形態に係る車両1の制御装置20は、アクセルオフでの走行中に要求変速段Xiがシフトダウンされた場合の制御内容を除いて、第一実施形態と同様に構成されている。以下、第一実施形態と同様の構成については、第一実施形態と同様の符号を付し、重複する説明は省略する。
制御装置20は、アクセルオフでの走行中に、運転者によってシフトレバー10のシフト操作(通常はシフトダウン操作)が実施されたか否かを常に判定する。
アクセルオフでの走行中にシフトダウン操作されて、要求変速段Xiが変更された場合に、新たに演算された要求ブレーキトルクTb(V,Xi)が回生上限値TmMAX(V)を超えているとき(Tb>TmMAX)は、設定部22は以下の式(3)を満たすか否かを判定する。すなわち、要求ブレーキトルクTb(V,Xi)と回生上限値TmMAX(V)との差分ΔTが、変更前の要求変速段Xiと同じ実変速段Xrで発生するエンジンブレーキトルクTe(V,Xr)以下であるか否かを判定する。
Tb(V,Xi)−TmMAX(V)≦Te(V,Xr) ・・・(3)
つまり、変速機5の実変速段Xrをシフトダウン操作がされる前の状態に維持したときに発生するエンジンブレーキトルクTeが差分ΔT以上であれば、このエンジンブレーキトルクTeを車両1に与えて、要求ブレーキトルクTbの不足分を回生発電トルクTmで調整したとしても、回生発電トルクTmが回生上限値TmMAX以上となることがない。
したがって、設定部22は、上記の式(3)を満たすと判定した場合は、目標変速段Xdを現状の実変速段Xrと同じ変速段に設定する。言い換えると、設定部22は、実変速段Xrを保持する(実変速段Xrを変更しない)。これにより、クラッチ4が接続されればエンジンブレーキトルクTe(V,Xr)が車両1に作用する。そして、設定部22は、回生発電トルクTmを上記した式(2)を用いて演算し、設定する。
例えば、変更前の要求変速段Xiが4速であり、実変速段Xrも4速の場合に、運転者のシフトダウン操作によって要求変速段Xiが2速に変更されたとする。このとき、要求ブレーキトルクTb(V,2)が回生上限値TmMAX(V)を上回り、且つ、これらの差分ΔTが4速のときのエンジンブレーキトルクTe(V,4)以下であれば、上記の式(3)を満たすため、設定部22は実変速段Xrを4速のまま保持する。また、回生発電トルクTmは、要求ブレーキトルクTb(V,2)からエンジンブレーキトルクTe(V,4)を減算した値に設定する。これにより、実変速段Xrの切替回数を減らして、運転者の要求する制動力を車両1に与える。
一方、設定部22は、上記の式(3)を満たさないと判定したときは、第一実施形態と同様、目標変速段Xdを設定する。これは、現状の実変速段Xrの状態でエンジンブレーキトルクTeを発生させ、要求ブレーキトルクTbの不足分を回生発電トルクTmで調整しようとしても、回生発電トルクTmが回生上限値TmMAXを超えてしまい、要求ブレーキトルクTbよりも小さい制動力となってしまうからである。そのためこの場合は、設定部22は、要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとの差分ΔT以上であって、且つ、差分ΔTに最も近くなるエンジンブレーキトルクTeとなる変速段を目標変速段Xdとして設定する。この目標変速段Xdはシフトダウン操作後の要求変速段Xiよりも高い変速段となり、シフトダウン操作される前の実変速段Xrよりも低い変速段となる。
例えば、変更前の要求変速段Xiが4速であり、実変速段Xrも4速の場合に、運転者のシフトダウン操作によって要求変速段Xiが1速に変更されたとする。このとき、要求ブレーキトルクTb(V,1)が回生上限値TmMAX(V)を上回り、且つ、これらの差分ΔTが4速のときのエンジンブレーキトルクTe(V,4)よりも大きい場合、上記の式(3)を満たさないため、設定部22は差分ΔTに基づいて目標変速段Xdを設定する。
仮に、3速のときのエンジンブレーキトルクTe(V,3)が差分ΔT以上であって差分ΔTに最も近くなるとすると、設定部22は、目標変速段Xdを3速に設定する。また、回生発電トルクTmは、要求ブレーキトルクTb(V,1)からエンジンブレーキトルクTe(V,3)を減算した値に設定する。
なお、回生制御部23a,クラッチ制御部23b,変速段制御部23c及び報知部23dは、設定部22での設定内容に応じて、第一実施形態と同様の制御を実施する。
[2−2.フローチャート]
次に、図4〜図6を用いて本実施形態に係る制御装置20で実行されるアクセルオフでの走行中の回生制御及び目標変速段制御の手順の例を説明する。図5は本実施形態に係る制御装置20のメインフローチャートであり、図6はサブフローチャートCである。また、本実施形態においても、第一実施形態で説明した図4(a),(b)のサブフローチャートを用いる。これらのフローチャートは所定の周期で繰り返し動作する。なお、以下の説明では、第一実施形態で説明したフローチャートと同様の内容については、詳細な説明は省略する。
図5に示すように、ステップT10では、アクセル位置Apとバッテリ8の充電率SOCとが取得され、ステップT20ではアクセルオフであるか否かが判定される。アクセルオフでない場合はステップT130へ進み、走行モードに応じて各制御が実施されて、このフローをリターンする。また、アクセルオフである場合は、ステップT30において充電率SOCが所定値SOCTH未満であるか否かが判定され、充電率SOCが所定値SOCTH以上の場合はステップT140へ進み、クラッチ制御部23bによりクラッチ4が接続される。これにより、その時の実変速段Xrに応じたエンジンブレーキトルクTeが発生し、このフローをリターンする。
充電率SOCが所定値SOCTH未満であれば、ステップT40において要求変速段Xiと実変速段Xrとが取得される。続くステップT50〜ステップT90までは、図3のフローチャートのステップS50〜ステップS90までと同様の処理がなされる。つまり、要求変速段Xiがコンビネーションメータ12に表示されるとともに、車速Vが取得される。そして、要求ブレーキトルクTb(V,Xi)と回生上限値TmMAX(V)とが演算されて、これらの大小関係が判定される。
ステップT90において、要求ブレーキトルクTb(V,Xi)が回生上限値TmMAX(V)未満である場合は、ステップT100へ進んで図4(a)に示すサブフローAが実施されて、このフローを終了する。一方、要求ブレーキトルクTb(V,Xi)が回生上限値TmMAX(V)以上である場合は、ステップT95へ進み、運転者によるシフトダウン操作があったか否かが判定される。つまり、前回の周期で取得された要求変速段Xiと今回の周期で取得された要求変速段Xiとが異なるか否かが判定される。シフトダウン操作がされなかった場合はステップT110へ進み、図4(b)に示すサブフローBが実施されて、このフローを終了する。シフトダウン操作がされた場合はステップT120へ進み、図6に示すサブフローCが実施され、このフローを終了する。
図6に示すように、ステップC10では、ステップT70で演算された要求ブレーキトルクTbとステップT80で演算された回生上限値TmMAXとの差(差分ΔT)が、ステップT40で取得された実変速段XrのときのエンジンブレーキトルクTe以下であるか否かが判定される。この条件を満たす場合はステップC20へ進み、実変速段Xrがそのままの状態に保持され、クラッチ4が接続される。これにより、車両1には実変速段XrでのエンジンブレーキトルクTeが発生する。そしてステップC30において、要求ブレーキトルクTbの不足分を回生発電トルクTmで調整するように回生制御が実施され、図5のメインフローへリターンする。
ステップC10において、要求ブレーキトルクTbと回生上限値TmMAXとの差(差分ΔT)がエンジンブレーキトルクTeよりも大きい場合はステップC40へ進む。ステップC40では、差分ΔT以上で差分ΔTに最も近いエンジンブレーキトルクTeとなる目標変速段Xdが設定される。そして、ステップC50において目標変速段制御が実施される。つまり、クラッチ4が一旦切断され、実変速段Xrが目標変速段Xdに制御され、クラッチ4が接続される。そして、ステップC30に進み、回生制御が実施されてメインフローへリターンする。
[2−3.効果]
したがって、本実施形態に係る車両1の制御装置20によれば、第一実施形態と同様の効果を得ながら、アクセルオフでの走行時に要求変速段Xiがシフトダウンされた場合は、実変速段Xrを保持して変速機5の実変速段Xrの切替回数を少なくすることができる。これにより、実変速段Xrの切替時のショックを軽減することができる。
[3.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、上記の各実施形態では、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAX以下の場合に、クラッチ4を切断してエンジンブレーキトルクTeが車両1に発生しないようにしているが、クラッチ4を切断する代わりに、変速機5の実変速段Xrをニュートラルポジション(Nレンジ)に切り替えてもよい。このように構成することで、クラッチ4は接続したままでよいため、クラッチ4の断接制御が不要となり、制御構成を簡素化することができる。
また、上記の各実施形態では、アクセルペダル9を踏んでいない状態での走行(すなわち、惰性走行時や減速時)をアクセルオフでの走行時として説明しているが、ブレーキペダルを踏んでいる制動時であってもよい。
また、演算部21での各演算手法は一例であって、これらに限定されるものではない。
また、車両1は上記した構成のハイブリッド電気自動車に限られない。例えば、モータジェネレータ3がエンジン2の動力でも発電可能に構成されていてもよいし、モータジェネレータ3の代わりに、車輪の回転を利用して発電可能な発電機(ジェネレータ)が搭載されていてもよい。また、運転者が変速段を選択する変速段選択装置はシフトレバー10に限られず、セレクトレバーやスイッチ等であってもよい。さらに、運転者に要求変速段Xiを報知するための表示手段はコンビネーションメータ12に限られない。
また、上記実施形態では、エンジン2の抵抗を考慮せずにエンジン回転数Neに基づいて要求ブレーキトルクTb,エンジンブレーキトルクTeを演算しているが、抵抗は電子制御スロットル弁の開度等を制御することで変更可能である。そこで、エンジン2の抵抗を変更し得る要素を制御する制御部を別に設け、エンジン2の抵抗を変更することでエンジンブレーキトルクTeの大きさを調整してもよい。
例えば、要求ブレーキトルクTbは上記実施形態と同様、エンジン2の抵抗を考慮せずに演算し、上記したように回生上限値TmMAXとの大小関係を比較したとき、要求ブレーキトルクTbが回生上限値TmMAXよりも大きいとする。この場合、上記実施形態では、設定部22により最適な目標変速段Xdが設定されて、変速段制御部23cにより実変速段Xrが目標変速段Xdに制御されることで最適なエンジンブレーキトルクTeを発生させていた。これに対して、エンジン2の抵抗を増減可能な場合は、実変速段Xrを現在の状態から変更させる代わりに、エンジン2の抵抗を増減させることで、変更回数を減らすことができる。
また、上記実施形態には、エンジン2が変速機5を介して前輪6Fを駆動し、モータジェネレータ3が変速機を介することなく後輪6Rを駆動する構成のパラレル式ハイブリッド電気自動車に、本発明を適用したものを例示しているが、本発明の適用できるものにこれに限られない。例えば、クラッチ4と変速機5との間、すなわち変速機5の入力部にモータジェネレータ3を備えたパラレル式ハイブリッド電気自動車に、本発明を適用することもできる。この場合、モータ回転数Nmは変速機5の実変速段Xr(実変速比)に依存するため、回生上限値TmMAXや回生発電トルクTmの算出に実変速比を考慮することが必要となる。