以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について詳述する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る回転電機の冷却構造1を示す図であり、図2は、図1におけるIII−III線断面図である。なお、図1および図2においては、図を簡略化するため、断面を示す斜線の一部を省略している。
図1,2における二点鎖線の矢印は、冷却液の流れを表している。他の図においても同様である。なお、後述のステータ用循環経路4を流れる冷却液は冷却油であり、後述のインバータ用循環経路33を流れる冷却液は冷却水である。
図1に示されるように、第1実施形態に係る回転電機の冷却構造1は、回転電機3(モータ、発電機、またはモータ兼発電機)と、ステータ用循環経路4と、排出流路5と、タンク6と、戻し流路7と、バルブ装置8と、インバータ冷却機構34とを備えている。
本実施形態に係る回転電機の冷却構造1は、回転電機3を駆動源とする電気自動車(EV)に搭載される。
以下、各構成要素について詳細に説明する。
<回転電機3の構成>
図1及び図2に示される回転電機3は、冷却油を循環させることが可能な冷却構造を備えた回転電機である。この回転電機3は、円筒状のステータ10と、その内側に配置されるロータ12と、これらステータ10及びロータ12を収容し、かつロータ12を回転自在に支持するケース16とを含む。
ケース16は、円筒板17と、この円筒板17の両端を塞ぐように当該円筒板17の軸方向両端に固定される円形の一対の側板18とから構成されている。
ロータ12は、円柱状のロータ本体13と、その中心に一体的に設けられるロータ側シャフト14(ロータ回転軸)とを備えている。ロータ12は、ロータ側シャフト14がベアリング15を介して側板18に支持されることにより、ケース16に回転自在に支持されている。なお、以下の説明では、ロータ側シャフト14と平行な方向を「シャフト方向」と称し、ロータ側シャフト14周りの方向を「周方向」と称する。
ステータ10は、ロータ12のロータ本体13との間に一定の微小隙間を隔てた状態で、ロータ12の周囲に配置されている。
ステータ10は、複数のコアユニット20を含み、当該複数のコアユニット20が周方向に連結されることにより構成されている。図2に示される例では、24個のコアユニット20からステータ10が構成されている。
各コアユニット20は、図3〜5に示すように、分割コア22と、この分割コア22の周囲に装着されるボビン23と、分割コア22に対してボビン23の外側から巻回されるコイル24(図5では図示略)と、分割コア22とボビン23との間をシールするシール部材25とを含む。
分割コア22は、ステータコアを構成するものであり、上記の通り、複数のコアユニット20が周方向に連結されることにより、各コアユニット20の分割コア22が協働して円環状のステータコアを形成する。
分割コア22は、周方向(図4の左右方向)に延びるバックコア部30と、その中心からロータ中心に向かって延びるティース部35とを有した、側面視(回転軸方向視)略T字型の形状を有している。図面中で明示していないが、分割コア22は、上記略T字型に形成された所定枚数の電磁鋼板がシャフト方向に積層されることにより構成されており、これにより、シャフト方向に適度の厚みを有した、全体としてブロック状を成している。
バックコア部30のうち、周方向における一方側の端部(図4の右側端部)には、周方向に突出してシャフト方向に延びる、断面略台形状の係合凸部30aが設けられ、他方側の端部には、係合凸部30aに対応する断面形状を有しかつシャフト方向に延びる係合凹部30bが設けられている。つまり、隣接するコアユニット20の分割コア22は、図3に示すように、それらのうちの一方側の分割コア22の係合凸部30aが、他方側の分割コア22の係合凹部30bに差し込まれることで、互いに係合した状態で周方向に連結される。
また、分割コア22のうち、ティース部35の先端部35aは、周方向(図4の左右方向)に僅かに広がっており、先端部35aのうち、ロータ本体13に対向する面は、ロータ本体13の外周面の曲率に対応した円弧状に形成されている。これにより、分割コア22とロータ本体13との間に、一定の微小隙間が確保される。
ボビン23は、図4及び図5(a)に示すように、分割コア22のうち、ティース部32を包囲する筒状部40と、その下端部(図4で下端部)から回転軸方向に沿って延設される連結部42と、筒状部40の上端部から分割コア22のバックコア部30に沿って広がる鍔状部44と、を有する。ボビン23は、絶縁性を有する樹脂材料から形成されている。当例では、ボビン23は、図5(b)に示すように、筒状部40をシャフト方向に二分するように予め成型された一対の分割片23a、23bから構成されており、分割コア22のティース部35を両側から挟み込むようにこれら分割片23a、23bが互いに嵌合されることにより、分割コア22に装着される構成となっている。
なお、ボビン23の連結部42のうち、周方向における一方側の端部(図4の右側端部)には、周方向に突出して回転軸方向に延びる凸部42aが設けられ、他方側の端部には、凸部42aが嵌合可能な凹部42bが設けられている。つまり、隣接するコアユニット20のボビン23は、図3に示すように、それらのうちの一方側のボビン23の凸部42aが、他方側のボビン23の凹部42bに嵌合されることで周方向に連結される。
シール部材25は、図4及び図5(b)に示すように、分割コア22のティース部35とボビン23の筒状部40との間に介設される。シール部材25は、例えば水密性および弾性を有した樹脂材が前記ティース部35を一周するようにその外周面上に塗布されることにより形成されたものであり、ティース部35を両側から挟み込むようにボビン23(分割片23a、23b)が分割コア22に装着されることで、ボビン23とティース部35との間をシールする。
コイル24は、上記のように、分割コア22に装着されたボビン23のうち、筒状部40の外周面上に集中的に巻回されている。なお、図5では、コイル24の図示は省略されている。
ステータ10を構成する複数のコアユニット20は、図3に示すように、周方向に並べられた状態で、隣接するコアユニット20同士が周方向に連結されることにより、全体として円筒状に形成されている。具体的には、上記の通り、互いに隣接する分割コア22(バックコア部30)のうち、一方側の分割コア22の係合凸部30aが、他方側の分割コア22の係合凹部30bに差し込まれることで、各コアユニット20の分割コア22が互いに周方向に連結されている。また、隣接するコアユニット20のボビン23のうち、一方側のボビン23の凸部42aが、他方側のボビン23の凹部42bに嵌合されることで、各コアユニット20のボビン23が互いに周方向に連結されている。
そして、このように隣接するコアユニット20のボビン23同士が連結される、詳しくは、連結部42同士が連結されることにより、各コアユニット20のボビン23によって、ケース16内が、ロータ12が配置されるロータ室Rrと、その外側であってコイル24等が配置されるステータ室Srとに区画されている。換言すると、各コアユニット20のボビン23(連結部42)によって、ケース16内をロータ室Rrとステータ室Srとに区画する円筒状の区画壁W1が形成されている。
後述するように、ステータ室Sr内では冷却油が流れるが、その冷却油の一部(図1に示す冷却油37)が、区画壁W1の互いに隣接するボビン23の継ぎ目などを通じて、ロータ室Rr内に漏れ出すことがある。また、その漏れに伴い、ロータ室Rr内のエアが、ステータ室Sr内に侵入することがある。冷却油37がロータ室Rr内に漏れ出した場合には、その漏れ出した冷却油37は、ロータ室Rr内を流下し、区画壁W1の下端部に到達する。
<インバータ冷却機構34の構成>
インバータ冷却機構34は、インバータ32を冷却するためのものであり、図1に示されるように、冷却水が循環するインバータ用循環経路33と、インバータ用循環経路33に設けられたインバータ32、ラジエータ27、およびインバータ側ポンプ28とを有する。
インバータ32は、バッテリ(図示略)から出力される直流電流を、走行に適した周波数の交流電流に変換するものである。
インバータ用循環経路33は、閉じた流路である。冷却水は、インバータ側ポンプ28の圧送力によりインバータ用循環経路33を循環する。インバータ32で発生した熱は冷却水に吸収され、冷却水が吸収した熱はラジエータ27により外部に放熱される。従って、冷却水およびインバータ32は、ラジエータ27による冷却により、低温状態が維持される。
<ステータ用循環経路4の構成>
ステータ用循環経路4は、冷却油が循環する経路であり、図1に示されるように、ステータ室Sr内の流路と、外部流路4aとを有する。
ステータ室Sr内の流路は、ステータ10と側板18との間の空間(以下、「側板側流路」と称する)と、ステータ10と円筒板17との間の空間(以下、「円筒板側流路」っと称する)と、隣接するコイル24の間の空間(以下、「コイル間流路」と称する)とを有する。
側板18には、ロータ室Rrを大気開放する連通孔18bが形成されている。この連通孔18bの外側端部には、大気開放管38aが接続されている。
円筒板17の上端部には、冷却油を導入する冷却油導入口17aが形成されている。また、円筒板17の下端部には、冷却油を導出する冷却油導出口17bが形成されている。
冷却油導入口17aからステータ室Srの上部に導入された冷却油は、円筒板側流路およびコイル間流路を経由してステータ室Sr内をシャフト方向に流れ、側板側流路を経由してステータ室Sr内を周方向下向きに流れる。
外部流路4aは、回転電機3の外部に設けられた流路である。外部流路4aの上流端部は、冷却油導出口17bに接続されている。また、外部流路4aの下流端部は、冷却油導入口17aに接続されている。
外部流路4aには、熱交換器31およびステータ側ポンプ9が設けられている。
ステータ側ポンプ9は、冷却油を圧送するポンプである。ステータ側ポンプ9は、外部流路4a内の冷却油を、冷却油導出口17b側から冷却油導入口17a側へ圧送する。
熱交換器31は、外部流路4aを流れる冷却油と、インバータ用循環経路33を流れる冷却水との間で熱交換を行うためのものであり、外部流路4aとインバータ用循環経路33との間に介在している。熱交換器31は、間接式熱交換器である。熱交換器31の内側には、外部流路4aから冷却油が導入されるとともに、インバータ用循環経路33から冷却水が導入される。そして、熱交換器31は、冷却油と冷却水との間で間接的に熱交換を行わせた後、冷却油を外部流路4aに戻すとともに、冷却水をインバータ用循環経路33に戻す。
ステータ室Sr内を流れる冷却油は、ステータ10が発した熱を吸収する。冷却油が吸収した熱は、熱交換器31で行われる熱交換によって冷却水に吸収された後、ラジエータ27によって外部に放熱される。
<排出流路5の構成>
図1に示されるように、排出流路5は、ロータ室Rrと後述のタンク6とを繋ぐ管路である。排出流路5は、ロータ側シャフト14の長手方向におけるロータ本体13の両側の位置に各々配置されている。各排出流路5の上流端部は、ロータ室Rrの下端部に位置している。また、各排出流路5の下流端部は、ケース16の下方に配置されたタンク6内に位置している。各排出流路5の中途部は、ステータ室Srの下部を通過している。排出流路5とステータ室Srとは互いに連通していない。従って、ステータ室Srからロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37は、ステータ室Srに流入せずに、排出流路5を通じてタンク6内に排出される。
<タンク6の構成>
タンク6は、排出流路5を通じて排出された冷却油を貯留するものである。タンク6は、回転電機3の下方、つまりケース16の下方に配置されている。図1に示される例では、タンク6の上端部は、円筒板17の下部に取り付けられている。
タンク6の下端部には、冷却油が通過可能な冷却油通過口6aが形成されている。タンク6の側面部には開口部が形成され、この開口部に、冷却油供給管36が接続されている。
冷却油供給管36は、横方向に延びる横部と、当該横部の先端から上方向に立ち上がる立ち上がり部とを有している。立ち上がり部の上端は、区画壁W1の下端部よりも高い位置にある。
冷却油供給管36の上端部(立ち上がり部の上端)には、当該上端部を塞ぐ図外の蓋が着脱可能に取り付けられている。この蓋には、棒状の冷却油レベルゲージ(図示略)が設けられている。蓋を冷却油供給管36の上端部に取り付けることにより、冷却油レベルゲージが冷却油供給管36の立ち上がり部内に差し込まれるようになっている。
ユーザは、蓋を冷却油供給管36の上端部に取り付けることによって冷却油レベルゲージを立ち上がり部内の冷却油に漬け込み、その後、冷却油レベルゲージを冷却油供給管36から抜き取ることにより、タンク6内の冷却油の液面位置を測定し、タンク6内に貯留されている冷却油の量を把握することができる。
また、ユーザは、タンク6内の冷却油の量が所定の量よりも少ないと判断した場合には、冷却油供給管36の上端部から冷却油を供給することができる。
また、タンク6の上部には、タンク室内を大気開放する連通孔が形成されている。この連通孔の外側端部には、大気開放管38bが接続されている。大気開放管38bの上端部は、区画壁W1の下端部よりも高い位置にある。
<戻し流路7の構成>
戻し流路7は、ステータ用循環経路4とタンク6とを繋ぐ流路である。具体的には、戻し流路7の一方側の端部が冷却油通過口6aに接続され、他方側の端部が外部流路4aの中途部に接続されている。
<バルブ装置8の構成>
バルブ装置8は、戻し流路7に設けられている。バルブ装置8は、図6(a)に示されるように、プレッシャバルブと、バキュームバルブと、これらのバルブを収容するバルブケース81とを備えている。
プレッシャバルブは、弾性部86と支持部87とが貼り合されて成る円板状の弁体94と、筒状部85と、筒状部85の周囲に設けられたプレッシャ側スプリング84(圧縮コイルばね)と、弁体94とプレッシャ側スプリング84との間に設けられて、プレッシャ側スプリング84の伸び縮みに応じて筒状部85の周面に沿って移動可能なリング状のスライド部材88とを有する。筒状部85の周壁には、開口部85aが形成されている。
バルブケース81は、戻し流路7のステータ用循環経路4側の部分に接続される循環経路側開口部83と、戻し流路7のタンク6側の部分に接続されるタンク側開口部82とを有する。バルブケース81におけるタンク側開口部82近傍の部分には、プレッシャバルブの弁座として機能する屈曲部93が形成されている。
バキュームバルブは、円板状の弁体91と、弁体91を支持する棒状の支持部材89と、支持部材89の周囲に設けられたバキューム側スプリング90(引張コイルばね)とを有する。支持部材89は、円柱状部89bと、円柱状部89bの一端部に設けられて、円柱状部89bの径よりも拡径されたストッパ部89aとを有している。
プレッシャバルブの弁体94の中央部には貫通孔92が形成されている。この貫通孔92には、バキュームバルブの円柱状部89bが遊嵌状態に嵌挿されている。つまり、貫通孔92の内周面と円柱状部89bの周面との間には隙間が形成されている。
プレッシャバルブの弁体94は、バキュームバルブの弁座としても機能する。
このように構成されたバルブ装置8においては、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲(図6(b)に示す圧力Pa以上Pb以下の範囲)にある場合には、図6(a),(b)に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブおよびバキュームバルブが閉弁する。すなわち、プレッシャバルブの弁体94が屈曲部93に当接することによりプレッシャバルブが閉弁し、バキュームバルブの弁体91がプレッシャバルブの弁体94に当接することによりバキュームバルブが閉弁する。これにより、バルブ装置8は、戻し流路7(図1参照)を閉鎖する。戻し流路7が閉鎖されることにより、ステータ用循環経路4(外部流路4a)とタンク6との間の冷却油の流通が遮断される。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲を超えた場合(圧力Pbを超えた場合)には、図6(b),図8に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブが開弁し、バキュームバルブが閉弁する。すなわち、プレッシャバルブの弁体94が循環経路側開口部83から流入する冷却油から高い圧力を受けることにより、プレッシャ側スプリング84が縮み、その結果、プレッシャバルブの弁体94が屈曲部93から離れる。そうすると、図8に示されるように、循環経路側開口部83から流入した冷却油は、プレッシャバルブの弁体94と屈曲部93との間の隙間、タンク側開口部82、および戻し流路7(図7参照)を通じて、タンク6に流入する(二点鎖線の矢印を参照)。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、減圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲未満となった場合(圧力Pa未満となった場合)には、図6(b),図10に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブが閉弁し、バキュームバルブが開弁する。すなわち、循環経路側開口部83における冷却油の圧力が低い圧力(負圧)となるため、バキュームバルブの弁体91が循環経路側開口部83側へ引っ張られて、バキューム側スプリング90が伸び、その結果、バキュームバルブの弁体91がプレッシャバルブの弁体94から離れる。そうすると、図10に示されるように、タンク側開口部82から流入した冷却油は、開口部85a、貫通孔92、バキュームバルブの弁体91とプレッシャバルブの弁体94との間の隙間、循環経路側開口部83、および戻し流路7(図9参照)を通じて、外部流路4a(ステータ用循環経路4)に流入する(二点鎖線の矢印を参照)。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、増圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
次に、本実施形態に係る回転電機の冷却構造1の動作について説明する。
まず、回転電機3が始動されると、バッテリからインバータ32に直流電流が供給される。インバータ32は、その直流電流を交流電流に変換し、その交流電流を回転電機3のステータ10に供給する。また、ポンプ用の電源回路(図示略)を介して、インバータ側ポンプ28およびステータ側ポンプ9に電力が供給される。回転電機3の回転数、インバータ側ポンプ28の吐出量、およびステータ側ポンプ9の吐出量は、図外のECU(Electronic Control Unit)により制御される。ここでは、そのECUによる制御手順についての説明を省略する。
インバータ側ポンプ28に電力が供給されると、インバータ用循環経路33を冷却水が循環する。冷却水が循環することにより、インバータ32が発した熱は冷却水を介してラジエータ27から放熱され、冷却水は低温状態が維持される。
ステータ側ポンプ9に電力が供給されると、冷却油がステータ用循環経路4を循環する。この循環の際、冷却油はステータ室Srを通過する。ところが、冷却油がステータ室Srを通過する際に、図1に示されるように、区画壁W1における連結部42の継ぎ目(凸部42aと凹部42bの継ぎ目)などを通じて、ステータ室Srからロータ室Rr内に冷却油37が漏れ出すことがある。この漏れ出しは、原則的には発生しないが、冷却油の温度が上昇することにより冷却油が膨張して、その膨張度合いが高いときに例外的に発生することがある。
冷却油が熱交換器31を通過する際に、冷却油と冷却水との間で熱交換が行われることで、冷却油の熱は冷却水に吸収されて、ラジエータ27から放熱される。しかしながら、回転電機3の駆動負荷が高いときには、冷却油はステータ10から大量の熱を吸収するため、冷却油の熱がラジエータ27から十分には放熱されず、冷却油の温度が高くなり易い。
ステータ室Srからロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37は、ロータ室Rr内を流下し、ロータ室Rr内の下端部に到達し、そして、排出流路5を通じてタンク6内に排出される。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲(図6(b)に示す圧力Pa以上Pb以下の範囲)にある場合には、図6(a),(b)に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブおよびバキュームバルブが閉弁する。これにより、バルブ装置8は、戻し流路7(図1参照)を閉鎖する。戻し流路7が閉鎖されることにより、ステータ用循環経路4(外部流路4a)とタンク6との間の冷却油の流通が遮断される。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲を超えた場合(圧力Pbを超えた場合)には、図6(b),図8に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブが開弁し、バキュームバルブが閉弁する。そうすると、図8に示されるように、循環経路側開口部83から流入した冷却油は、プレッシャバルブの弁体94と屈曲部93との間の隙間、タンク側開口部82、および戻し流路7(図7参照)を通じて、タンク6に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、減圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲未満となった場合(圧力Pa未満となった場合)には、図6(b),図10に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブが閉弁し、バキュームバルブが開弁する。そうすると、図10に示されるように、タンク側開口部82から流入した冷却油は、開口部85a、貫通孔92、バキュームバルブの弁体91とプレッシャバルブの弁体94との間の隙間、循環経路側開口部83、および戻し流路7(図9参照)を通じて、外部流路4a(ステータ用循環経路4)に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、増圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、ステータ室Srからロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37がタンク6に貯留され、ステータ用循環経路4を流れる冷却液の圧力が所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)にある場合に戻し流路7が閉鎖され、ステータ用循環経路4を流れる冷却液の圧力が上記所定の圧力範囲を超えた場合および上記所定の圧力範囲未満となった場合に戻し流路7が開放されるので、ステータ室Srを含むステータ用循環経路4内の圧力が一定の範囲内に保たれる。従って、区画壁W1を構成するボビン23同士の隙間(連結部42同士の隙間)などを通じてステータ室Srからロータ室Rr内に冷却油37が漏れ出したり、その漏れに伴い、上記の隙間などを通じてロータ室Rrからステータ室Sr内にエアが侵入するのを抑制することができる。これにより、ステータ10に対する冷却能力の低下を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、排出流路5が、ロータ室Rrとタンク6とを繋ぐ管路であるので、ロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37を、簡単な構成でタンク6に導くことができる。
また、本実施形態によれば、排出流路5は、ロータ側シャフト14の長手方向におけるロータ本体13の両側の位置に各々配置され、各排出流路5の上流端部は、ロータ室Rrの下端部に位置しているので、ロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37を、タンク6へ速やかに排出することができる。
すなわち、ロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37は、ロータ室Rr内の下部に溜まる。本実施形態では、排出流路5の上流端部がロータ室Rrの下端部に位置しているため、ロータ室Rrの下部に溜まった冷却油37を、排出流路5を通じて確実に排出することができる。また、ロータ本体13と区画壁W1とが近接している場合には、ロータ本体13と区画壁W1との隙間が狭いため、その隙間を通じて冷却油が流通しにくい。本実施形態では、排出流路5は、ロータ側シャフト14の長手方向におけるロータ本体13の両側の位置に各々配置されているため、ロータ側シャフト14の長手方向におけるロータ室Rrの一方側(図1における左側)の空間に漏れ出した冷却油37は、ロータ本体13と区画壁W1との隙間を通過することなく、ロータ側シャフト14の長手方向一方側(図1における左側)に位置する排出流路5を通じて排出される。同様に、ロータ側シャフト14の長手方向におけるロータ室Rrの他方側(図1における右側)の空間に漏れ出した冷却油37は、ロータ本体13と区画壁W1との隙間を通過することなく、ロータ側シャフト14の長手方向他方側(図1における右側)に位置する排出流路5を通じて排出される。従って、ロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37を、排出流路5を通じて速やかに排出することができる。
また、本実施形態によれば、連通孔18bおよび大気開放管38aを通じてロータ室Rrが大気開放されるので、ロータ室Rr内の気圧が高圧となることが抑制される。従って、ロータ室Rr内のエアが、区画壁W1を構成するボビン23同士の隙間などを通じてステータ室Sr内に侵入することが抑制される。
また、本実施形態によれば、連通孔および大気開放管38bを通じてタンク6内が大気開放されるので、仮にロータ室Rrの下端に冷却油37が満たされ排出流路5が一時的に塞がることがあっても、タンク6内の気圧が高圧もしくは低圧となることが抑制される。タンク6内の気圧が高圧にならないため、排出流路5の塞がりは速やかに解消されて、ロータ室Rrに漏れ出した冷却油37は、タンク6内の気圧の抵抗を受けることなく、排出流路5を通じてタンク6内に流れ込むことが可能となる。
(第1実施形態の変形例)
図11は、第1実施形態の変形例に係る回転電機の冷却構造1Aを示す図である。第1実施形態と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
本変形例では、ステータ用循環経路4に圧力センサ60が設けられている。図11に示される例では、圧力センサ60は、ステータ用循環経路4における熱交換器31と冷却油導入口17aとの間に設けられている。この圧力センサ60は、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力を検出し、その検出値を示す信号を後述のECU61に送信する。
また、本変形例では、戻し流路7にバルブ装置8に代えて、電磁バルブ80が設けられている。この電磁バルブ80は、ECU61から受けた制御信号に基づいて開閉動作を行い、その開閉動作により、戻し流路7を開放および閉鎖する。
ECU61は、CPU、ROM、RAM等から構成されている。ECU61は、圧力センサ60から入力した信号に基づいて、電磁バルブ80の開閉動作を制御する。具体的には、圧力センサ60の検出値が所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)にある場合に電磁バルブ80が閉弁し、圧力センサ60の検出値が上記所定の圧力範囲を超えた場合および上記所定の圧力範囲未満となった場合に電磁バルブ80が開弁するように、電磁バルブ80を制御する。
ECU61がこのような制御を行うことにより、第1実施形態と同様に、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力に応じて戻し流路7内を冷却油が流れ、その結果、ステータ用循環経路4内の圧力が一定の範囲内に保たれる。従って、区画壁W1を構成するボビン23同士の隙間などを通じてステータ室Srからロータ室Rr内に冷却油37が漏れ出したり、その隙間などを通じてロータ室Rrからステータ室Sr内にエアが侵入するのを抑制することができる。これにより、ステータ10に対する冷却能力の低下を抑制することができる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図12は、本発明の第2実施形態に係る回転電機の冷却構造1Bを示す図であり、図13は、図12に示す回転電機のV−V線断面図である。第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
第2実施形態に係る回転電機の冷却構造1Bは、動力源として電動モータ(回転電機3A)とエンジンとを備えたハイブリッド車両に搭載される。
第2実施形態に係る回転電機3Aは、クラッチ装置51を備えている。
クラッチ装置51は、ロータ側シャフト14とエンジンの動力が出力されるエンジン側シャフト50との接続状態を変更可能なクラッチ56と、クラッチ56を収容するクラッチ室54が形成されたクラッチケース52とを含む。
具体的には、クラッチ56は、ロータ側シャフト14とエンジン側シャフト50との連結状態を、これらシャフト14,50が互いに係合して一体に回転する係合状態と、これらシャフト14,50の係合が解除されてシャフト14,50間で回転力が伝達されない解除状態とに変更する。
クラッチ56は、既存のものが用いられればよく、その詳細構造の説明は省略するが、簡単に述べると、クラッチ56は、ロータ側シャフト14と一体に回転するクラッチプレートと、エンジン側シャフト50と一体に回転するクラッチディスクと、クラッチプレートにクラッチディスクを押し付けるクラッチピストンとを有する。クラッチプレートとクラッチディスクとが、クラッチピストンに供給されたクラッチ用オイルの油圧に応じて当接あるいは離間することで、クラッチ56は、ロータ側シャフト14とエンジン側シャフト50との連結状態を変更する。
クラッチケース52は、ロータ側シャフト14の外周面から径方向外側に延びている。具体的には、クラッチケース52は、ロータ側シャフト14の外周面から径方向外側に延びる円板状の第1側壁52aと、第1側壁52aの径方向外側端からエンジン側シャフト50側に向かって延びる円筒状の周壁52bと、周壁52bのエンジン側シャフト50側の軸方向端部から径方向内側に延びる円板状の第2側壁52cとを有する。
第2側壁52cは、エンジン側シャフト50の外周面と若干の隙間を隔てて対向している。クラッチケース52の側壁52a,52cおよび周壁52bによって囲まれた円環状の空間が、クラッチ室54となっている。このように構成されたクラッチケース52は、ロータ側シャフト14と一体に回転する。
クラッチケース52の周壁52bの外側の面には、ロータ12Bが設けられている。ロータ12Bは、円筒状に形成されており、電磁鋼板が軸方向に積層されて、この積層された電磁鋼板に複数の磁石12aが埋め込まれることで構成されている。ロータ12Bには、シャフト方向に延びてロータ12Bを貫通する複数の磁石孔12bが周方向に並んで形成されている。磁石孔12bは、磁石12aよりも大きい孔である。各磁石12aは、磁石孔12bの内周面と磁石12aの外周面との間にロータ12Bをシャフト方向に貫通する通路12cを形成しつつ、これら磁石孔12b内に挿入されている。
第2実施形態に係る回転電機の冷却構造1Bは、クラッチ用循環経路70を備えている。クラッチ用循環経路70は、シャフト内通路55、クラッチ室54、クラッチケース貫通路57、クラッチケース52とケース16との間の空間、排出流路5、および外部流路70aを有する。外部流路70aには、クラッチ側ポンプ41および変速機39が設けられている。
タンク6には、冷却油導出口6bが形成されている。外部流路70aの上流端部は、冷却油導出口6bに接続されている。また、外部流路70aの下流端部は、ロータ側シャフト14の外周面に形成された後述の開口部14aに接続されている。
シャフト内通路55は、ロータ側シャフト14の外側から内側に冷却油を導入する流路であり、ロータ側シャフト14の軸方向に延びている。シャフト内通路55は、クラッチ室51と連通している。詳細には、シャフト内通路55は、ロータ側シャフト14の外周面のうちケース16の外側に位置する部分に設けられた開口部14aから、ロータ側シャフト14の径方向内側に延びた後、エンジン側シャフト50側に屈曲し、シャフト方向に沿って延びてロータ側シャフト14のエンジン側シャフト50側のシャフト方向端面に開口している。そのシャフト方向端面の開口部とクラッチ室51とが連通している。
クラッチケース貫通路57は、クラッチケース52の第1側壁52aに形成された貫通孔である。クラッチケース貫通路57は、クラッチケース52の外側の空間(ロータ室Rr)とクラッチ室54とを連通させる。
図14に示されるように、ステータ室Srにおけるステータ10の両側(シャフト方向の両側)の位置には各々、周方向に一定間隔(コイル24二つ分の間隔)を隔てて複数の誘導板59が設けられている。各誘導板59は、ステータ室Srに沿って流動する冷却油を、隣接するコイル24の間に誘導するものである。これら誘導板59のうち、ステータ10の一方側(図14では左側)に配置される各誘導板59と、他方側に配置される各誘導板59とは、同図に示されるように、互いにコイル24一つ分だけ周方向にオフセットされており、その結果、誘導板59が全体として千鳥状に配置されている。これにより、同図中に破線矢印で示すように、冷却油が隣接するコイル24の間を経由して蛇行しながらステータ室Sr内を下方(周方向)に流動するようになっている。
次に、本実施形態に係る回転電機の冷却構造1Bの動作について説明する。
まず、回転電機3Aが始動されると、バッテリからインバータ32に直流電流が供給される。インバータ32は、その直流電流を交流電流に変換し、その交流電流を回転電機3のステータ10に供給する。また、ポンプ用の電源回路(図示略)を介して、インバータ側ポンプ28およびステータ側ポンプ9に電力が供給される。
インバータ側ポンプ28に電力が供給されると、インバータ用循環経路33を冷却水が循環する。冷却水が循環することにより、インバータ32が発した熱は冷却水を介してラジエータ27から放熱され、冷却水は低温状態が維持される。
ステータ側ポンプ9に電力が供給されると、冷却油がステータ用循環経路4を循環する。この循環の際、冷却油はステータ室Srを通過する。ところが、冷却油がステータ室Srを通過する際に、図12,13に示されるように、区画壁W1における連結部42の継ぎ目などを通じて、ステータ室Srからロータ室Rr内に冷却油37が漏れ出すことがある。
クラッチ側ポンプ41の圧送力により、外部流路70a内の冷却油は、シャフト内通路55、クラッチ室54、クラッチケース貫通路57を通じて、ロータ室Rr内に流入する。ロータ室Rr内に流入した冷却油の一部はすぐに下向きに流れ、残りの冷却油は、ロータ12Bの通路12cを通じてエンジン側シャフト50側に流れた後、ロータ室Rr内を下向きに流れる。
ステータ室Srからロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37、およびクラッチ室54からクラッチケース貫通流路55を通じてロータ室Rr内に流入した冷却油は、ロータ室Rr内を流下してその下端部に到達し、さらに、排出流路5を通じてタンク6内に排出される。ここで、クラッチケース貫通路57から流出してすぐに流下した冷却油は、ロータ側シャフト14側に位置する排出流路5を通じてタンク6に排出される。一方、ロータ12Bの通路12cを通じてエンジン側シャフト50側に流れた後に流下した冷却油は、エンジン側シャフト50側に位置する排出流路5を通じてタンク6に排出される。
タンク6内の冷却油は、クラッチ側ポンプ41の圧送力により、タンク6の冷却油導出口6bを通じて外部流路70a内に流入し、その後、変速機39内を流れる。変速機39内を流れた冷却油は、再び冷却油導入口14aを通じてクラッチ室54に流入する。つまり、冷却油がクラッチ用循環経路70を循環する。この冷却油の循環により、クラッチ56および変速機39が冷却される。
なお、変速機39内の詳細構造については記載していないが、変速機39内に有する冷却機構により冷却油は冷却される。クラッチ56および変速機39を適正に作動させるためには、回転電機3Aよりもある程度高めの温度の冷却油によって冷却することが好ましい。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲(図6(b)に示す圧力Pa以上Pb以下の範囲)にある場合には、図6(a),(b)に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブおよびバキュームバルブが閉弁する。これにより、バルブ装置8は、戻し流路7(図12参照)を閉鎖する。戻し流路7が閉鎖されることにより、ステータ用循環経路4(外部流路4a)とタンク6との間の冷却油の流通が遮断される。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲を超えた場合(圧力Pbを超えた場合)には、図6(b),図8に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブが開弁し、バキュームバルブが閉弁する。そうすると、図8に示されるように、循環経路側開口部83から流入した冷却油は、プレッシャバルブの弁体94と屈曲部93との間の隙間、タンク側開口部82、および戻し流路7(図15参照)を通じて、タンク6に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、減圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲未満となった場合(圧力Pa未満となった場合)には、図6(b),図10に示されるように、バルブ装置8のプレッシャバルブが閉弁し、バキュームバルブが開弁する。そうすると、図10に示されるように、タンク側開口部82から流入した冷却油は、開口部85a、貫通孔92、バキュームバルブの弁体91とプレッシャバルブの弁体94との間の隙間、循環経路側開口部83、および戻し流路7(図16参照)を通じて、外部流路4a(ステータ用循環経路4)に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、増圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
本実施形態によれば、クラッチ用循環経路70は、クラッチ室54、ロータ室Rr、排出流路5、およびタンク6を経由するので、当該タンク6を、ステータ室Srからロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37を貯留するタンク6と共通化することができるとともに、当該排出流路5を、ステータ室Srからロータ室Rr内に漏れ出した冷却油37をタンク6へ排出する排出流路5と共通化することができる。従って、クラッチ用循環経路70とステータ用循環経路4とを備えた回転電機の冷却構造1Bにおいて、部品の共通化を図り、製造コストを低減することができる。この構成は、動力源として電動モータとエンジンとを備えたハイブリッド車両において有効である。
また、本実施形態によれば、クラッチ用循環経路70とステータ用循環経路4とは、戻し流路7のみを介して繋がっているため、クラッチ室54でクラッチ56により加熱されて高温となった冷却油が、ステータ用循環経路4に流入する量が抑制される。すなわち、クラッチ用循環経路70とステータ用循環経路4とは、戻し流路7のみを介して繋がっており、戻し流路7を通じたステータ用循環経路4への冷却油の流入は、バルブ装置8によって制御されているため、クラッチ56により加熱されて高温となった冷却油がステータ用循環経路4に大量に流入することが防止される。従って、ステータ10に対する冷却性能の低下を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、ステータ室Srに誘導板59が設けられ、冷却油が蛇行しながら流動するように流路が形成されているため、単純な円筒状のステータ室において冷却油を流下させる場合と比べると、ステータ10と冷却油との実質的な伝熱面積が広くなる。従って、回転電機3Aを効果的に冷却することができる。
また、本実施形態によれば、連通孔および大気開放管38bを通じてタンク6内が大気開放されるので、ロータ室Rrの下端に冷却油が満たされ排出流路5が一時的に塞がることがあっても、タンク6内の気圧が高圧もしくは低圧となることが抑制される。タンク6内の気圧が高圧にならないため、排出流路5の塞がりは速やかに解消されて、ロータ室Rr内の冷却油は、タンク6内の気圧の抵抗を受けることなく、排出流路5を通じてタンク6内に流れ込むことが可能となる。
(第2実施形態の変形例)
図17は、第2実施形態の変形例に係る回転電機の冷却構造1Cを示す図である。第2実施形態と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
本変形例では、ステータ用循環経路4に圧力センサ60が設けられている。この圧力センサ60は、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力を検出し、その検出値を示す信号を後述のECU61に送信する。
また、本変形例では、戻し流路7にバルブ装置8に代えて、電磁バルブ80が設けられている。この電磁バルブ80は、ECU61から受けた制御信号に基づいて開閉動作を行い、その開閉動作により戻し流路7を開放および閉鎖する。
ECU61は、CPU、ROM、RAM等から構成されている。ECU61は、圧力センサ60から入力した信号に基づいて、電磁バルブ80の開閉動作を制御する。具体的には、圧力センサ60の検出値が所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)にある場合に電磁バルブ80が閉弁し、圧力センサ60の検出値が上記所定の圧力範囲を超えた場合および上記所定の圧力範囲未満となった場合に電磁バルブ80が開弁するように、電磁バルブ80を制御する。
ECU61がこのような制御を行うことにより、ステータ用循環経路4内の圧力が一定の範囲内に保たれるため、区画壁W1を構成するボビン23同士の隙間などを通じてステータ室Srからロータ室Rr内に冷却油37が漏れ出したり、その隙間などを通じてロータ室Rrからステータ室Sr内にエアが侵入するのを抑制することができる。これにより、ステータ10に対する冷却能力の低下を抑制することができる。
(第3実施形態)
図18は、第3実施形態に係る回転電機の冷却構造1Dを示す図である。第2実施形態と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
第3実施形態に係る回転電機の冷却構造1Dは、ステータ室Srの上部とタンク6とを繋ぐ第1の戻し流路7aと、外部流路4aとタンク6とを繋ぐ第2の戻し流路7bとを有する。
ケース16の円筒板17の上端部には、冷却油導出口17bが形成されている。タンク6には、冷却油導入口6cが形成されている。
第1の戻し流路7aの上流端部は、冷却油導出口17bに接続されている。また、第1の戻し流路7aの下流端部は、冷却油導入口6cに接続されている。第1の戻し流路7aには、後述の第1のバルブ装置8aが設けられている。第2の戻し流路7bには、後述の第2のバルブ装置8bが設けられている。
第1のバルブ装置8aは、図19(a)に示されるように、プレッシャバルブであり、図6(a)に示されるバルブ装置8のプレッシャバルブと同様のものをバルブケース81aに収容したものである。
具体的には、第1のバルブ装置8aは、弾性部86と支持部87とが貼り合されて成る円板状の弁体94と、筒状部85と、筒状部85の周囲に設けられたプレッシャ側スプリング84(圧縮コイルばね)と、弁体94とプレッシャ側スプリング84との間に設けられて、プレッシャ側スプリング84の伸び縮みに応じて筒状部85の周面に沿って移動可能なリング状のスライド部材88とを有する。
バルブケース81aは、第1の戻し流路7aのステータ室Sr側の部分に接続されるステータ室側開口部83aと、第1の戻し流路7aのタンク6側の部分に接続されるタンク側開口部82aとを有する。バルブケース81aにおけるステータ室側開口部83a近傍の部分には、プレッシャバルブの弁座として機能する屈曲部93が形成されている。
第2のバルブ装置8bは、図20(a)に示されるように、バキュームバルブであり、図6(a)に示されるバルブ装置8のバキュームバルブと同様のものをバルブケース81bに収容したものである。
具体的には、第2のバルブ装置8bは、弾性部86と支持部87とが貼り合されて成る円板状の弁体94と、円板状の弁体91と、弁体91を支持する棒状の支持部材89と、支持部材89の周囲に設けられたバキューム側スプリング90(引張コイルばね)とを有する。支持部材89は、円柱状部89bと、円柱状部89bの一端部に設けられて、円柱状部89bの径よりも拡径されたストッパ部89aとを有している。
弁体94の中央部には貫通孔92が形成されている。この貫通孔92には、円柱状部89bが遊嵌状態に嵌挿されている。つまり、貫通孔92の内周面と円柱状部89bの周面との間には隙間が形成されている。
弁体94の周縁部は、バルブケース81bの内側面に固定されている。弁体94は、第2のバルブ装置8bの弁座として機能する。
第1のバルブ装置8aは、第1の戻し流路7aから導入された冷却油に混入したエアも一緒に通して、タンク6内へ導き、エアはタンク6内に解放される。
このように構成されたバルブ装置8a,8bにおいては、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲(図19(b),図20(b)に示す圧力Pa以上Pb以下の範囲)にある場合には、図19(a),(b)に示されるように第1のバルブ装置8aが閉弁するとともに、図20(a),(b)に示されるように第2のバルブ装置8bが閉弁する。
すなわち、図19(a)に示されるように、第1のバルブ装置8aの弁体94が屈曲部93に当接することにより第1のバルブ装置8aが閉弁し、図20(a)に示されるように、第2のバルブ装置8bの弁体91が弁体94(弁座)に当接することにより第2のバルブ装置8bが閉弁する。これにより、第1のバルブ装置8aは、第1の戻し流路7a(図18参照)を閉鎖し、第2のバルブ装置8bは、第2の戻し流路7b(図18参照)を閉鎖する。第1の戻し流路7aが閉鎖されることにより、ステータ室Srとタンク6との間の冷却油の流通が遮断される。また、第2の戻し流路7bが閉鎖されることにより、外部流路4aとタンク6との間の冷却油の流通が遮断される。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲を超えた場合(圧力Pbを超えた場合)には、図19(b)および図23に示されるように、第1のバルブ装置8aが開弁し、図20(a),(b)に示されるように、バルブ装置8bが閉弁する。すなわち、バルブ装置8aの弁体94がステータ室側開口部83aから流入する冷却油から高い圧力を受けることにより、プレッシャ側スプリング84が縮み、その結果、第1のバルブ装置8aの弁体94が屈曲部93から離れる。そうすると、図23に示されるように、ステータ室側開口部83aから流入した冷却油は、第1のバルブ装置8aの弁体94と屈曲部93との間の隙間、タンク側開口部82a、および第1の戻し流路7a(図22参照)を通じて、タンク6に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、減圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲未満となった場合(圧力Pa未満となった場合)には、図19(a),(b)に示されるように、第1のバルブ装置8aが閉弁し、図20(b)および図25に示されるように、第2のバルブ装置8bが開弁する。すなわち、循環経路側開口部83bにおける冷却油の圧力が低い圧力(負圧)となるため、第2のバルブ装置8bの弁体91が循環経路側開口部83b側へ引っ張られて、バキューム側スプリング90が伸び、その結果、第2のバルブ装置8bの弁体91が弁体94から離れる。そうすると、図25に示されるように、タンク側開口部82bから流入した冷却油は、貫通孔92、弁体91と弁体94との間の隙間、循環経路側開口部83b、および第2の戻し流路7b(図24参照)を通じて、外部流路4a(ステータ用循環経路4)に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、増圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
第1のバルブ装置8aは、第1の戻し流路7aから導入された冷却油に混入するエアを外部に排出する通路としての機能を有する。
各誘導板59の上部には、エアが通過可能なエア通し穴59a(図21参照)が形成されている。エア通し穴59aは、誘導板59を貫通する貫通孔である。
次に、本実施形態に係る回転電機の冷却構造1Dの動作について説明する。
第1のバルブ装置8aおよび第2のバルブ装置8bに関する動作以外は、第2実施形態と同様であるので、以下、第1のバルブ装置8aおよび第2のバルブ装置8bに関する動作について説明する。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲(図6(b)に示す圧力Pa以上Pb以下の範囲)にある場合には、図19(a),20(a)に示されるように、第1のバルブ装置8aおよび第2のバルブ装置8bが閉弁する。これにより、第1のバルブ装置8aは、第1の戻し流路7a(図18参照)を閉鎖する。第1の戻し流路7aが閉鎖されることにより、ステータ室Srとタンク6との間の冷却油の流通が遮断される。また、第2のバルブ装置8aは、第2の戻し流路7b(図18参照)を閉鎖する。第2の戻し流路7bが閉鎖されることにより、外部流路4aとタンク6との間の冷却油の流通が遮断される。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲を超えた場合(圧力Pbを超えた場合)には、図23,20に示されるように、第1のバルブ装置8aが開弁し、第2のバルブ装置8bが閉弁する。そうすると、図23に示されるように、ステータ室側開口部83aから流入した冷却油は、第1のバルブ装置8aの弁体94と屈曲部93との間の隙間、タンク側開口部82a、および第1の戻し流路7a(図22参照)を通じて、タンク6に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、減圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
また、ロータ室Rrから区画壁W1のボビン23同士の継ぎ目などを通じてステータ室Sr内にエアが侵入した場合には、そのエアはエア通し穴59aを通じて誘導板59を通過し、ステータ室Srの上端部に到達する。ステータ室Srの上端部に到達したエアは、冷却油導出口17bおよび第1の戻し流路7aを通じて第1のバルブ装置8a内に導入される。そして、第1のバルブ装置8aを通じてタンク6内へ導かれ、タンク6内に解放されて、連通孔および大気開放管38bを通じて外部へ排出される。
ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力が所定の圧力範囲未満となった場合(圧力Pa未満となった場合)には、図19(a),図25に示されるように、第1のバルブ装置8aが閉弁し、第2のバルブ装置8bが開弁する。そうすると、図25に示されるように、タンク側開口部82aから第2のバルブ装置8bに流入した冷却油は、貫通孔92、弁体91と弁体94との間の隙間、循環経路側開口部83a、および第2の戻し流路7b(図24参照)を通じて、外部流路4a(ステータ用循環経路4)に流入する。これにより、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力は、増圧されて、所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)内の圧力となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、ステータ室Sr内にエアが侵入した場合に、そのエアを第1のバルブ装置8aを通じてタンク6内へ導き、タンク6内に解放して、連通孔および大気開放管38bを通じて外部に排出することができる。すなわち、ステータ室Sr内の圧力が高いときにはロータ室Rrから冷却油が漏れることがあり、その漏れに伴ってロータ室Rrからエアが侵入することがある。また、エアは軽いため、ステータ室Sr内に侵入したエアはステータ室Srの上部に溜まり易い。そこで、ステータ室Srにエアが侵入した場合には、第1のバルブ装置8aが第1の戻し流路7aを開放することにより、ステータ室Srの上部から、冷却油と、冷却油に混入したエアとを第1の戻し流路7aに導入し、エアを第1のバルブ装置8aを通じてタンク6内へ導き、タンク6内に解放して、外部に排出することができる。従って、ステータ10に対する冷却性能が低下するのを抑制することができる。
また、本実施形態によれば、各誘導板59の上部にはエア通し穴59aが形成されているため、ステータ室Sr内のエアはそのエア通し穴59aを通じて誘導板59を通過し、ステータ室Sr内を速やかに上昇してステータ室Srの上部に集まる。そして、ステータ室Srの上部に溜まったエアは、第1のバルブ装置8aを通じてタンク6内へ導かれ、タンク6内に解放されて、連通孔および大気開放管38bを通じて外部に排出される。従って、ステータ10に対する冷却性能が低下するのをさらに抑制することができる。
(第3実施形態の変形例)
図26は、第3実施形態の変形例に係る回転電機の冷却構造1Eを示す図である。第3実施形態と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
本変形例では、ステータ用循環経路4に圧力センサ60が設けられている。この圧力センサ60は、ステータ用循環経路4を流れる冷却油の圧力を検出し、その検出値を示す信号を後述のECU61に送信する。
また、本変形例では、第1の戻し流路7aに第1のバルブ装置8aに代えて、第1の電磁バルブ80aが設けられている。この第1の電磁バルブ80aは、ECU61から受けた制御信号に基づいて開閉動作を行い、その開閉動作により第1の戻し流路7aを開放および閉鎖する。
また、第2の戻し流路7bには、第2のバルブ装置8bに代えて、第2の電磁バルブ80bが設けられている。この第2の電磁バルブ80bは、ECU61から受けた制御信号に基づいて開閉動作を行い、その開閉動作により第2の戻し流路7bを開放および閉鎖する。
ECU61は、CPU、ROM、RAM等から構成されている。ECU61は、圧力センサ60から入力した信号に基づいて、第1の電磁バルブ80aおよび第2の電磁バルブ80bの開閉動作を制御する。具体的には、圧力センサ60の検出値が所定の圧力範囲(Pa以上Pb以下)にある場合に第1の電磁バルブ80aおよび第2の電磁バルブ80bが閉弁し、圧力センサ60の検出値が上記所定の圧力範囲を超えた場合に第1の電磁バルブ80aが開弁して、第2の電磁バルブ80bが閉弁し、圧力センサ60の検出値が上記所定の圧力範囲未満となった場合に第1の電磁バルブ80aが開弁して、第2の電磁バルブ80bが開弁するように、第1の電磁バルブ80aおよび第2の電磁バルブ80bを制御する。
ECU61がこのような制御を行うことにより、ステータ用循環経路4内の圧力が一定の範囲内に保たれるため、区画壁W1を構成するボビン23同士の隙間などを通じてステータ室Srからロータ室Rr内に冷却油37が漏れ出したり、その漏れに伴い、上記の隙間などを通じてロータ室Rrからステータ室Sr内にエアが侵入するのを抑制することができる。これにより、ステータ10に対する冷却能力の低下を抑制することができる。
なお、上記第1実施形態における回転電機3は誘導板を有していないが、誘導板を有する構成としてもよい。
また、上記第1の戻し流路7a、第1のバルブ装置8aもしくは第1の電磁バルブ8aと、第2戻し流路7b、第2のバルブ装置8bもしくは第2の電磁バルブ80bとを設ける構造について、クラッチ装置51を備える実施形態(上記第3実施形態および上記第3実施形態の変形例)において説明したが、同様の構造を、クラッチ装置を備えない上記第1実施形態において設ける構成としてもよい。