実施例では、観察対象に荷電粒子線を照射することにより得られる信号を検出して観察対象の画像を取得する試料観察方法において、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入することを開示する。
また、実施例では、観察対象の表面と内部にイオン液体を含む溶液を浸透させることを開示する。また、イオン液体を含む溶液が表面と内部に浸透した観察対象に荷電粒子線を照射して観察することを開示する。
また、実施例では、観察対象に荷電粒子線を照射することにより得られる信号を検出して観察対象の画像を取得する試料観察方法の試料前処理方法において、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入することを開示する。
また、実施例では、観察対象の表面と内部にイオン液体を含む溶液を浸透させることを開示する。
また、実施例では、観察対象の画像を取得した後に、さらに、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入することを開示する。
また、実施例では、観察対象を載置するステージと、観察対象に荷電粒子線を照射する電子光学系と、荷電粒子線の照射により得られる信号を検出する検出器と、信号に基づいて生成された観察対象の画像を表示する表示装置と、備え、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入する注入機構を備える荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、表示装置に、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入する過程を表示できることを開示する。
また、実施例では、注入機構が、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入できる微細管を備えることを開示する。また、微細管に、目盛りが設けられていることを開示する。
また、実施例では、注入機構が、イオン液体を含む溶液を付着させた状態で観察対象に突き刺すことができる針を備えることを開示する。
また、実施例では、注入機構が、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入できる溝が設けられた針を備えることを開示する。
また、実施例では、注入機構により観察対象に注入されるイオン液体を含む溶液の量を制御する注入量制御装置を備えることを開示する。
また、実施例では、観察対象にイオン液体を含む溶液を注入する過程を観察できる光学観察装置を備えることを開示する。
また、実施例では、ステージの材質が吸水性を有することを開示する。
また、実施例では、試料室の内部で動かすことができるプローブを備えることを開示する。
以下、上記およびその他の本発明の新規な特徴と効果について、図面を参酌して説明する。なお、図面はもっぱら発明の理解のために用いるものであり、権利範囲を限定するものではない。
図1には、本実施例にかかる電子顕微鏡の装置構成を示す。本実施例の電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡である。電子線を発生する電子銃1、電子線を集束するレンズ系と電子線が試料上を走査するように偏向する偏向器とを含む電子光学系2、電子光学系を制御する制御部3、二次電子を検出する二次電子検出器4、反射電子を検出する反射電子検出器5、検出器からの信号に基づいて試料の画像を生成する画像生成部6、撮像した画像を表示するディスプレイ等の表示部7、走査電子顕微鏡の各機能を操作するマウスや操作卓等の操作部8、モーターステージを制御するステージ制御部9、電子源や電子光学系を内部に有するカラムを真空排気する真空ポンプ10を備える。この真空ポンプ10によって試料室を低真空または高真空に排気しても良いし、別の真空ポンプによって試料室を排気しても良い。通常、電子顕微鏡の試料室は真空状態に保たれているので、試料は真空状態の下で観察される。なお、上記の制御部3、ステージ制御部9、画像生成部6は、専用の回路基板によってハードとして構成されていてもよいし、電子顕微鏡に接続されたコンピュータ11で実行されるプログラムによって構成されてもよい。ステージがモーターステージの場合は、ステージ制御部9が必要であるが、手動ステージの場合にはステージ制御部は不要である。
なお、本実施例では走査電子顕微鏡(SEM)を例にあげて説明するが、これに限定されるものではない。走査透過電子顕微鏡(STEM)やイオン顕微鏡などの荷電粒子線を用いた試料観察装置等による観察に適用可能である。
図2には、本実施例にかかる電子顕微鏡の試料室内の構成を示す。試料室12の内部システムは、電子顕微鏡の対物レンズ13、対物レンズ13からイオン液体を含浸させた試料14に照射される電子ビーム15、イオン液体を含浸させた試料14からの二次電子信号16を検出する二次電子検出器4、イオン液体を含浸させた試料14からの反射電子信号17を検出する反射電子検出器5から構成される。試料に電子ビームを照射することにより得られる信号である二次電子や反射電子等を総称して二次粒子ということもある。イオン液体を含浸させた試料14は、電子顕微鏡用の試料台18の上に乗せてある。図2の試料台18は、直径15mm、高さ6mmの円筒形の形状である。ただし、必ずしも円筒形の形状である必要はなく、試料14の大きさに応じて試料台18の大きさを変えてよい。試料台18の材質としはアルミニウムが一般的であるが、試料台上の余分なイオン液体を除去する効果を得るために、吸水性の材質、例えばカーボン製の試料台を使用することも可能である。また、一般的なアルミニウム材質の試料台においても、試料台上の余分なイオン液体を除去する効果を得るために、試料台の上に吸水加工を施してよい。例えば、濾紙を貼ることや、フィルターを載せることや、導電性ペーストなど吸水効果を持つ素材を試料台に乗せる手法が考えられる。試料台18は、手動あるいはモーターによりX軸およびY軸の駆動が可能な試料ステージ19に設置される。試料ステージが、R軸、Z軸およびT軸にも可動であると、試料を様々な角度から観察することができる。
次に、試料14にイオン液体を注入するための注射器について説明する。図3の注射器は、注射筒20と注射針21から構成される。注射器は、注射針21を注射筒20に差し込んで接続するものでも、注射針21と注射筒20が一体型のものでも良い。図4は、注射針の先端部を拡大した説明図である。注射針21を試料14にどの程度の深さまで刺したかを見極めるために、注射針21には目盛22が付いていることが望ましい。注射針20の材質は、金属でも、プラスチックでもよい。注射針21は、一般的な医療用注射針の最小規格(外径0.3mm)よりも細いことが望ましく、外径10μmから外径100μmが望ましいが、試料の大きさや、観察目的などの性質に応じて、これよりも細く、あるいは太くできる。例えば、一個の細胞内にイオン液体を注入する場合には、外径10μmよりも細いことが必要であるが、昆虫などの一個の生物体内にイオン液体を注入する場合には、外径100μmよりも太いことが望ましい。注射針21の材質は金属に限らず、例えば、ガラスや樹脂を使用しても良い。注射筒20は、微量用のものが望ましく、最小単位が0.1ml以下であることが望ましい。
ここでは、イオン液体の注入に注射器を用いたが、試料14へのイオン液体の注入法はこれに限定されるものではない。例えば、パスツールピペットのようにガラス管の先を長く細く引き伸ばし、金属製の注射針を使用しないで、試料に刺すことができるようにしたピペットを使用しても良い。微量のイオン液体を注入することを目的として、マイクロピペットを使用しても良く、マイクロピペットに注射針や、パスツールピペットなどの刺針を組み合わせても良い。注射筒20の代わりにスポイドや駒込ピペットを使用しても良い。ジェット・インジェクターに代表される圧縮空気を用いて薬剤を注入する装置を用いて、注射針を用いずにイオン液体を試料に注入しても良い。
イオン液体の注入量を機械的に制御するシステムとして、先端部に注射針を接続したカテーテル、シリコン製チューブ、ゴム製チューブ、ビニール製チューブ、プラスチック製チューブなどの注入チューブなどの注入器具に、モーター駆動式の送液ポンプや、注入量を計測するためのセンサを組み合わせて用いても良い。
注射針の直径より小さな領域にイオン液体を注入する方法として、先端部にイオン液体を付着させた針を試料に突き刺すことにより、試料内部にイオン液体を注入しても良い。針の材質は、どのような素材を用いても良く、例えば、金属製、プラスチック製、または木製の針などが考えられる。親水性のイオン液体を用いる場合には、針にイオンスパッタや塗膜処理や界面加工などの親水化処理を行っても良い。疎水性のイオン液体を用いる場合には、塗膜処理や界面加工などの疎水化処理を行っても良い。針の形状は円錐形である必要はなく、図5の針先端部の説明図のようにイオン液体を効率よく注入するための溝23を作っても良い。溝23は直線的である必要はなく、針の円筒や円錐の面に沿って螺旋状の溝を設けてもよい。溝23は1本である必要はなく、複数あっても良い。
注射器や針などの注入機を用いない方法として、イオン液体を染み込ませたガーゼ、紙、樹脂、綿、布、多孔質材料などを試料内に埋め込み、試料内にイオン液体を浸透させても良い。
次に、試料14にイオン液体を注入して、電子顕微鏡で観察する手順を説明する。図6は、本実施例により、ヨコエビの電子顕微鏡画像を得る手順を示した説明図である。本実施例はヨコエビに限定されず、導電性がなく、乾燥に弱い観察対象に対して有効である。観察対象としては、例えば、エビなどの甲殻類や、ワムシやアメーバなどの動物プランクトン、藍藻や緑藻などの植物プランクトン、カビや細菌などの微生物、水生無脊椎動物、節足動物、昆虫類、線虫類、ギョウチュウ、ヒル、ミミズなどの小動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などの動物や動物の組織、コケなどの乾燥に弱い植物、花や葉などの植物組織、植物細胞や動物細胞を培養した培養細胞や培養組織、ホルマリンやエタノールなどの固定液で標本化された生物組織、果実、豆腐、寒天、ゼリー、ゼラチン、コンニャクなどの食品のように乾燥により変形が生じるものが考えられる。乾燥には耐性があるものの導電性がない試料を観察対象としても良く、例えば、電子顕微鏡観察用にグルタールアルデヒドなどで標本化された生物組織、米や麺類、菓子などの加工食品や加工食品の標本、麻、綿、ナイロン、ビニロン、ポリエステルなどの繊維、糸や生地、木材、紙、岩石、粘土、セメント、コンクリート、陶器、多孔質セラミック、多孔質ガラス、多孔質樹脂が考えられる。他には、錠剤やカプセル薬などの医薬品、砂糖、塩、ポリビニルアルコール(PVA)などの水に可溶性の試料を観察対象としても良い。プリント基板、電子部品を実装したプリント基板などの、部分的に導電性がない試料を観察対象としても良い。
最初にエタノール溶液中に保存していたヨコエビを、水中に入れ、エタノールを水で置換する。本実施例のヨコエビは、濃度90%以上のエタノール溶液中に4ヶ月間保存していたものであるが、採取直後の試料を用いてもかまわない。水で置換することにより、エタノール溶液中では半透明であったヨコエビの体色が、白色に変化する。本実施例では、ヨコエビを水に浸した時間は60分であったが、体色の変化が確認されれば、もっと短い時間でも良い。次に、水中からヨコエビを引き上げ、電子顕微鏡用の試料台に乗せ、余分な水分を濾紙などで吸引する。以上のステップは、採取直後のヨコエビを使う場合など、試料の内部に予め水が含まれている場合には省略可能である。
余分な水分を吸い取った後、試料が乾燥する前に手早く少量のイオン液体を、注射器を用いてヨコエビの内部に注入する。図7は、本実施例の手法を用いてイオン液体を注入中のヨコエビを光学顕微鏡により撮影したに光学顕微鏡画像24である。注射針21により、ヨコエビの腹部25にイオン液体を注入している。
ヨコエビの場合では、イオン液体を注入することにより、体色が白色から透明に変更するため、注入量の過不足を判断することができる。具体的には、イオン液体注入部以外の体色が白色から、透明に変化すれば、イオン液体がヨコエビ全体に浸透したと判断できる。
イオン液体に着色料や蛍光を発する塗料を含ませることにより、試料中のイオン液体の浸透過程を目視、光学顕微鏡、または蛍光顕微鏡下で観察し、試料に対するイオン液体の注入量の過不足を観察し、注入量を調整しても良い。
なお、イオン液体が観察対象に浸透したかの判断はこれに限られることなく、例えば、観察対象の重量から判断しても良い。注入するイオン液体の量は、試料の含水量と同程度が望ましいが、過剰なイオン液体は注射針の刺口から漏れ出すので、試料と同程度の体積であれば、試料の含水量よりも多くても、少なくてもよい。
図8に示すように、試料14に注射針21を刺し、イオン液体を注入した時に、刺口26から過剰なイオン液体27が漏れ出すことがあるが、試料台18の素材がカーボンなど吸水性の素材であれば、過剰なイオン液体27を試料台18が吸収する。試料14の表面や、試料14の開口部からイオン液体が漏れ出た場合にも、試料台18がイオン液体を吸収する効果が得られる。また、一般的なアルミニウム材質の試料台に濾紙やフィルターを載せることや、導電性ペーストなど吸水効果を持つ素材を張り付けて、過剰なイオン液体を吸収する効果を得ても良い。
試料14にイオン液体を注入した後に、イオン液体を注入した試料14を図1の走査電子顕微鏡で観察する。試料14と試料14を設置した試料台18は、図2の電子顕微鏡の試料室12の試料ステージ18に取り付けられる。
なお、ここでのイオン液体は、イオン(陽イオン、陰イオン)から構成される融点が低い塩のことである。非特許文献1によれば、イオン液体、またはイオン性液体と称される塩は、より正確には常温イオン液体のことであり、蒸気圧がほとんど無く、難燃性、イオン性であるが低粘性、高い分解電圧を持つ特徴を持ち、空気中で安定、常温常圧下で液体の塩のこととされており、有機塩のなかに、このような性質を持つ塩が存在する。
イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類などのアンモニウム系、ホスホニウム系イオン、無系イオンなどの陽イオンを持つものと、臭化物イオンやトリフラートなどのハロゲン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン系などの陰イオンを組み合わせたものが考えられる。一般にイオン液体は有機イオンを含む塩であるが、室温で溶融する塩であれば無機イオンだけから構成される塩でも良い。
本実施例ではC8H15N2BF4の化学式を有する親水性のイオン液体を使用した。ヨコエビの場合は親水性のイオン液体を使用したが、試料が疎水性の特徴を持つ場合には、疎水性のイオン液体を使用しても良い。ヨコエビの場合、最適なイオン液体の濃度は100%であったが、試料の性質の違い、例えば浸透圧の違いによって、イオン液体を水で希釈してもよい。水以外の溶媒を用いて良く、溶媒としては、例えばエタノール、メタノール、グリセリン、アセトン、ヘキサン、エーテル、ホルムアルデヒドを含むホルマリンが考えられる。前述したように、着色料や、蛍光を発する塗料をイオン液体に含ませても良い。
ヨコエビは導電性がないため、従来、電子顕微鏡観察するためには、イオンスパッタや真空蒸着による金属コーティングによって、試料表面の導電処理を行う必要があった。しかし、本実施例の方法においては、試料内部に注入したイオン液体が試料表面、あるいは表層まで浸透すれば、イオン液体による導電効果が得られるため、イオンスパッタや真空蒸着による試料表面の導電処理を行う必要はない。したがって、試料内部に注入したイオン液体が試料表面、あるいは表層まで浸透した後に、速やかに、試料14を走査電子顕微鏡で観察することができる。
試料14の試料表面、あるいは表層にまでイオン液体が浸透していない場合には、走査電子顕微鏡で観察中に帯電現象が生じる場合がある。この場合は、観察を一時的に中断し、イオン液体を試料14の内部に追加注入するか、イオン液体が試料表面に浸透するまで観察を中断する。イオン液体が試料表面に浸透すれば、帯電現象は軽減する。試料内部のイオン液体の量が少ない場合には、帯電現象だけでなく、試料14に凹みが生じることがあるが、この場合も、イオン液体を試料14に追加注入することで形態の復元を行うことができる。
イオン液体を過剰注入したことによって試料内部から表面にイオン液体が滲み出すことがあり、さらに注射針の刺孔からイオン液体が漏れることによって、試料の表面がイオン液体によって汚れる場合がある。濾紙や紙製ウエスによる拭き取りも可能ではあるが、試料表面に付着した液滴状のイオン液体をブロアーなどで吹き飛ばして除去すれば、試料に損傷を与えることがない。多量のイオン液体が試料表面に付着してしまった場合は、水やアルコールなどの溶媒で試料表面に付着したいイオン液体を洗い流すと良い。
ヨコエビなどの非導電性試料の観察において、低い加速電圧、例えば加速電圧1kVで観察し、帯電現象を軽減する手法もあるが、本実施例の方法を用いれば、加速電圧の設定に制限はなく、低い加速電圧でも高い加速電圧でも試料を観察できる。一般的には、高い加速電圧の方が、電子顕微鏡の分解能が高いため、高倍率での測定が可能である。高い加速電圧、例えば加速電圧15kV以上で生物試料を観察する場合、電子ビームが試料の内部に侵入し、試料表面の導電処理を行っても、試料内部の導電性がないために帯電現象が生じることがある。しかしながら、本実施例の方法では、試料内部から、試料表面、あるいは表層までイオン液体が浸透しているために、試料表層から内部まで試料全体にわたって導電性が確保される。したがって、本実施例の方法を用いることにより、加速電圧15kV以上の高い加速電圧での生物試料の観察が可能になる。
ヨコエビなどの生物試料の場合、観察に先立って、実体顕微鏡下で、針やピンセットを用いて、体全体の向きや、脚や、触覚の向きを整えても良い。電子顕微鏡の試料室内に、プローブが設置されている場合には、プローブを使用して電子顕微鏡の観察途中に体全体の向きや、脚や、触覚の向きを整えることも可能である。このようにして、イオン液体注入後のヨコエビの頭部を走査電子顕微鏡で観察した例が、図9のヨコエビ頭部の電子顕微鏡画像28である。図9は、図2の二次電子検出器4で観察したものである。50倍の低倍率で撮影した画像であるが、電子顕微鏡は、生物顕微鏡や実体顕微鏡などの光学顕微鏡と比較して焦点深度が深いために、光学顕微鏡よりも立体的な画像を得ることができる。ヨコエビの種類を同定するためには、図9のヨコエビの口器29の構造を詳細に観察する必要があるため、さらに高倍率で電子顕微鏡の観察を行っても良い。
試料14を解体し、内部構造を電子顕微鏡で観察しても良い。解剖例として、例えば、ヨコエビの脚や、口の構造を分解し、個別に観察することが考えられる。剖出した試料内部は、イオン液体の浸透により導電性が得られているため、解剖後にイオンスパッタや真空蒸着による金属コーティングによる試料内部の導電処理を行う必要はない。試料14は大気中で1年程度、条件が良ければ1年以上保管が可能であるので、何度でも繰り返し電子顕微鏡で観察することが可能である。試料14からイオン液体が流出し、試料に凹みが生じた場合には、イオン液体を再注入しても良い。
本実施例ではヨコエビを例に、電子顕微鏡の観察手法を説明したが、他の試料においても同様の手順で観察を行うことが可能である。
生体組織の切片やプランクトンなどの微細な試料の内部にイオン液体を注入する場合、注射器を用いた目視でのイオン液体注入作業は困難な場合がある。この場合、顕微鏡観察を行いながら、イオン液体の注入を行えばよい。ここでは、走査電子顕微鏡の観察下で、微細な試料の内部にイオン液体を注入する場合の実施例を説明する。本実施例では、注入作業の観察に使用する顕微鏡として、走査電子顕微鏡を例に説明するが、本実施例はこれに限定されるものではなく、走査透過電子顕微鏡(STEM)やイオン顕微鏡などの荷電粒子線を用いた試料観察装置等による観察に適用可能である。さらに、実体顕微鏡などの光学顕微鏡、あるいは可視光や赤外光を用いたTVカメラ、CCDカメラなどの光学カメラなどの光学観察装置を用いて、イオン液体の注入作業を行ってよい。なお、走査電子顕微鏡の試料室に入る大きさであれば、試料の大きさに上限はない。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
図10には、本実施例にかかる、電子顕微鏡にイオン液体を注入するシステムを搭載した装置の構成を示す。本実施例のイオン液体を注入するシステムは、試料にイオン液体を注入するための注射針21、注射針21を試料に刺すために動かすための注射針駆動部30、イオン液体を注射針21に送る送液ポンプ31、注射針21と送液ポンプ31を繋ぐ送液チューブ32、送液ポンプ31にイオン液体を供給するイオン液体タンク33から構成される。イオン液体タンク33の内部はイオン液体で満たされている。
イオン液体の送液ポンプ31は、注射針21にイオン液体を送るためのものである。注射針21の内部にはイオン液体34が入っているが、イオン液体34が真空環境下の電子顕微鏡試料室の内部に飛散することを防止するために、イオン液体の送液ポンプ31により単位時間当たりのイオン液体送液量を制御してイオン液体の供給量を制御する。イオン液体供給量の制御には、イオン液体注入制御コンピュータ36が用いても良い。送液ポンプ31は、例えば、チューブポンプやチュービングポンプのように、単位時間当たりの送液量を調整できるものが望ましい。送液量は1ml/1分よりも小さいことが望ましい。
次に、電子顕微鏡に搭載されているプローブ35について説明する。本実施例における、電子顕微鏡にイオン液体を注入するシステムを搭載した装置には、注射針を刺すことが困難な固い試料に孔を削孔したり、注射針を刺すときに試料を固定したり、試料を動かしたりすることを目的として、プローブ35が搭載されている。ただし、注射針のみで、試料にイオン液体を注入できれば、プローブ35は必ずしも必須ではない。
本実施例の装置は、イオン液体の注入作業を制御、表示、および操作するための装置を含む。この装置は、注射針21とプローブ35の動きや、イオン液体の注入量を制御するためのイオン液体注入制御コンピュータ36、注射針21とプローブ35の動きや位置、およびイオン液体の注入量を表示するためのイオン液体注入表示モニタ37、注射針21とプローブ35の動きや、イオン液体の注入量を操作するための、イオン液体注入操作部38などから構成される。ただし、イオン液体の注入作業を制御、表示、および操作する機能を、電子顕微鏡に付属する装置で代用しても良い。具体的には、撮像した画像を表示するディスプレイ等の表示部7、走査電子顕微鏡の各機能を操作するマウスや操作卓等の操作部8、およびコンピュータ11を用いても良い。
次に、大気圧下および真空環境下で、試料室の内部を可視光あるいは赤外光で観察する光学観察装置39について説明する。電子顕微鏡は、大気圧の環境下では画像を表示することができないために、大気圧環境での試料室の状態を観察するための光学観察装置39が付属している。光学観察装置39は、試料や注射針などの観察対象物を拡大して観察できる機能を有するカメラである。なお、この光学観察装置39を用いずともイオン液体の注入は可能である。
次に、図11を用いて、試料室12の内部の注射針について具体的に説明する。注射針21は、イオン液体34を試料の内部に注入するためのものである。注射針21は、一般的な医療用注射針の最小規格(外径0.3mm)よりも細いことが望ましく、外径10μmから外径100μmが望ましいが、試料の大きさや、観察目的などの性質に応じて、これよりも細く、あるいは太くできる。注射針21を試料にどの程度の深さまで刺したかを見極めるために、注射針21には図4に示す目盛22が付いていることが望ましい。注射針21の材質としては、金属、プラスチック、ガラスなどが考えられるが、プラスチックやガラスなどの非導電性素材は電子顕微鏡での観察中に帯電現象を起こし、像障害の原因となる可能性があるため、金属などの導電性素材を使用することが望ましい。ただし、導電性素材であれば、金属である必要はない。注射針21の針先は傷みやすいため、注射針21と注射針駆動装置30の間に注射針ソケット部40を設け、注射針21を交換できるようにしている。
注射針21は、注射針駆動部30によって動かすことが可能である。注射針駆動部30は、注射針21を、X軸、Y軸、Z軸、R軸、およびT軸に動かせる。注射針の動きは、図10のイオン液体注入操作部38を使用して操作する。注射針の操作にはマウスのほか、ジョイスティックなどの入力装置を使用しても良い。試料14と注射針21の位置確認には、二次電子画像あるいは反射電子画像を使用するか、光学観察装置39を使用する。
次に、図11を用いて、試料室12の内部のプローブシステムについて具体的に説明する。プローブシステムは、イオン液体を試料内部に打ち込むためのイオン液体注入用プローブ41、イオン液体注入用プローブ41を、X軸、Y軸、Z軸、R軸、およびT軸に動かすことが可能なイオン液体注入用プローブ駆動部42、試料を固定する試料固定用プローブ43、試料固定用プローブ43を、X軸、Y軸、Z軸、R軸、およびT軸に動かすことが可能な試料固定用プローブ駆動部44から構成される。
図11のイオン液体注入用プローブ41は、試料に穿孔し、試料の内部にイオン液体を注入するために用いる。イオン液体注入用プローブ41は、イオン液体注入用プローブ駆動部42によって、X軸、Y軸、Z軸、R軸、およびT軸に動かすことが可能である。なお、プローブ自体をドリルのように回転できるとなお良い。イオン液体注入用プローブ駆動部42の操作には、マウスのほか、ジョイスティックなどの入力装置を使用しても良い。試料14とイオン液体注入用プローブ41の相対位置の確認には、二次電子画像あるいは反射電子画像を使用するか、光学観察装置39を使用する。イオン液体注入用プローブ41にイオン液体を効率的に付着させるために、イオン液体注入用プローブ41に、図5の溝23を設けても良い。溝23は直線的である必要はなく、針の円筒や円錐の面に沿って螺旋状としてもよい。溝23は1本である必要はなく、複数あっても良い。
図11の試料固定用プローブ43は、注射針21やイオン液体注入用プローブ41を使用して試料14にイオン液体を注入する時に、試料14を保持するために使用する。試料14は、試料台18にカーボンテープやカーボンペーストで固定されているが、注射針21やイオン液体注入用プローブ41を試料14に刺す時に、試料台18から外れることがあるためである。ただし、試料14を試料台18に強固に固定できれば、試料固定用プローブ43は使用しなくても良い。また、試料固定用プローブ43は1本でも複数本でも良い。試料固定用プローブ43は、試料固定用プローブ駆動部44によって、X軸、Y軸、Z軸、R軸、およびT軸に動かすことが可能である。試料固定用プローブ43の動きは、図10のイオン液体注入操作部38を使用して操作する。試料固定用プローブ43の操作にはマウスのほか、ジョイスティックなどの入力装置を使用しても良い。試料14と試料固定用プローブ43の相対位置の確認には、二次電子画像あるいは反射電子画像を使用するか、光学観察装置39を使用する。
図11の光学観察装置39は、可視光あるいは赤外光により、試料14、注射針21、イオン液体注入用プローブ41、または試料固定用プローブ43の位置確認を行うためのものである。デジタルマイクロスコープなどのようにモニタに描画できるものでも、実体顕微鏡のように直接観察できるものでも良い。甲殻類などの水生生物などのように大気中でも速やかに乾燥し、変形してしまう試料に対しては、電子顕微鏡試料室12を大気圧にした状態で、光学観察装置39を使用してイオン液体の注入を行っても良い。
次に、注射針21を用いて、試料にイオン液体を注入して、電子顕微鏡で観察する手順を説明する。図12は、イオン液体を注入中の電子顕微鏡試料室12の内部を示した説明図である。イオン液体を注入した試料14は、試料台18の上に固定されている。さらに、注射針21を刺す時に試料14が動かないように、試料固定用プローブ43により試料14を保持している。ただし、試料14と試料台18が強固に固定されていれば、試料固定用プローブ43を使用する必要はない。注射針21は、注入孔45から試料14の内部に挿入している。注射針21の内部にはイオン液体34が入っている。
試料が乾燥している状態であれば、高真空雰囲気中、例えば試料室12の圧力が1Pa以下の状態でイオン液体の注入を行うことができる。この場合、試料と注射針21を二次電子像で観察することができる。図10のイオン液体注入制御モニタ37に表示された電子顕微鏡画像を見ながら、イオン液体注入操作部38を用いることで、注射針を試料の任意の位置に移動する、刺す、抜くなどの操作が行える。イオン液体注入制御モニタ37にステレオグラムの機能があれば、奥行き方向の位置感覚が得られるため便利である。注射針21の操作は、マウスだけでなく、ジョイスティックを用いることもできる。ジョイスティックに、試料に注射針21が触れた時の感覚が伝わるような圧力感知機能があると、操作性が向上する。
試料に注射針を突き刺した場合に、試料が動いてしまう時には、図11の試料固定用プローブ43を試料に突き刺すことや、押し当てることにより試料を保持する。注射針21を操作するためのジョイスティックと、プローブを操作するためのジョイスティックとが別個にあれば、両手を用いて注射針21と試料固定用プローブ43を同時に動かすことが可能である。試料の表面が固いために、注射針が刺さり難いときには、試料固定用プローブ43か、図11のイオン液体注入用プローブ41で試料の表面を崩すと良い。
図12のように試料の形状がブロック状である場合には、試料の中心部まで注射針21を挿入することが望ましい。ただし、イオン液体が浸透し難い試料や、試料の表面付近を観察したい場合、例えば、動物の粘膜を観察するときには、観察位置の直下にイオン液体を注入することが望ましい。このとき、図4に示すように、注射針に目盛を設けておけば、イオン液体注入中に、試料に注射針21を刺した深さを電子顕微鏡観察で確認することが可能である。
図10のイオン液体注入制御モニタ37に表示された電子顕微鏡画像により、試料に注射針21が刺さったことが確認できた後に、イオン液体の注入を行う。イオン液体の注入量は、送液ポンプ31で入力するか、イオン液体注入操作部38を用いて入力する。注入量を決める専用のコントローラーがあっても良い。注入量の入力においては、時間当たりの送液量と送液時間の組み合わせ、または全送液量が入力できることが望ましい。時間当たりの送液量の入力だけを行い、イオン液体を試料に送り続けた場合、試料内部に過剰なイオン液体が流入する恐れがあるため、短時間のイオン液体の送液を繰り返し行える機構を備えている方が安全である。
イオン液体の注入を終了するタイミングは、二次電子画像あるいは反射電子画像を観察することによって判断する。例えば、イオン液体注入前と比較して、チャージアップ現象が軽減すれば、イオン液体の注入を停止しても良い。観察中に試料に凹みが生じるなどの変形が生じた場合には、イオン液体の注入を継続する。予め測定しておいた試料の重量と、試料の性質からイオン液体の注入量を決めても良い。
試料が水分を含んでいる場合には、低真空雰囲気中、例えば試料室内部の圧力が1〜5000Paの状態で、試料を少しずつ乾燥させながら、少量ずつイオン液体を注入すると、試料の体積を変化させずに試料内部の水分をイオン液体に置換することができる。このとき、試料ステージ19に試料を冷却する機能があれば、試料を冷却することにより試料の乾燥を遅くすることができるため、試料の堆積変化を小さくすることが可能である。大気圧中でも乾燥による収縮が生じる試料に対しては、大気圧に設定した試料室12のなかで、大気圧条件下でイオン液体の注入を行っても良い。水分を含む試料の場合、イオン液体の注入量は、注入量は試料の含有水分と同量が望ましい。ただし、イオン液体の注入量は、試料の大きさや、空隙の大きさ、浸透圧、または試料室内の圧力によっても異なるため、低真空雰囲気(1〜5000Pa)でも画像を得ることができる反射電子像などの電子顕微鏡画像や、図11の光学観察装置39で観察しながら、少しずつイオン液体を注入することが望ましい。
試料にイオン液体を注入した後に、イオン液体を注入した試料14を走査電子顕微鏡で観察する。試料の形態を観察したい場合には、二次電子検出器4を使用し、試料の組成分布を観察したい場合には、反射電子検出器5を使用する。
イオン液体の注入前は、試料の帯電現象を軽減するために、低加速電圧、例えば加速電圧3kV以下での電子顕微鏡観察を行うことが必要であるが、イオン液体注入後は、高加速電圧での二次電子像および反射電子像による観察、あるいはその他の検出器を用いた電子顕微鏡観察が可能である。一般的に、高加速電圧、例えば加速電圧15kV以上の方が、低加速電圧中よりも分解能が高いために、高い加速電圧を使用することにより、より高解像度の観察が可能になる。また、高加速電圧(15kV以上)を使用すると細胞が透けて見えるために、細胞の内部の核などを観察できる場合がある。
金コロイド法などの免疫染色を行った試料の場合には、高真空雰囲気下、例えば1Pa未満の真空度で、反射電子信号を用いて観察を行う。電子顕微鏡の前処理手法における免疫染色は金粒子などの重元素に抗体を結合させる手法であるが、反射電子信号を用いると、金の存在部位だけを高コントラストで見ることができる。
イオン液体注入用プローブ41と、試料固定用プローブ43を用いて、試料を解体し、内部構造を電子顕微鏡で観察しても良い。例えば、生体組織の粘膜細胞層を除去して、内部の結合組織を剖出させたり、試料の断面を作成したり、試料の向きを変えたりするなどの操作が考えられる。剖出した試料内部は、イオン液体の浸透により導電性が得られているため、解剖後にイオンスパッタや真空蒸着による金属コーティングによる試料内部の導電処理を行う必要はなく、電子顕微鏡館試料室内で解剖しながら試料を観察することができる。
試料14の試料表面、あるいは表層にまでイオン液体が浸透していない場合には、走査電子顕微鏡での観察中に帯電現象が生じる場合がある。この場合は、観察を一時的に中断し、イオン液体を試料14に追加注入する。試料内部のイオン液体の量が少ない場合には、帯電現象だけでなく、試料14に凹みが生じることがあるが、この場合もイオン液体を試料14に追加注入することにより形態の復元を行うことができる。
本実施例では生体組織を例に、電子顕微鏡の観察手法を説明したが、他の試料においても同様の手順で観察を行うことが可能である。
次に、試料の表面が固く、注射針を刺すことが困難な試料の内部にイオン液体を注入する方法を説明する。
本実施例の手法で用いる装置は、実施例2における、電子顕微鏡にイオン液体を注入するシステムを搭載した装置と同一である。
本実施例では、イオン液体注入用プローブ41を用いて試料に穿孔し、図11のイオン液体注入用プローブ41の先端部分にイオン液体を付着させた後に、イオン液体を付着させたイオン液体注入用プローブ41を孔内に挿入し、試料にイオン液体を注入する。以下、実施例1および2との相違点を中心に説明する。
図13は、イオン液体注入用プローブ41を用いて、固い試料46にイオン液体注入用の孔を穿孔している状態を示した説明図である。本実施例での固い試料は岩石である。穿孔は、イオン液体注入用プローブ41を押しつけて孔や亀裂を作るか、あるいはイオン液体注入用プローブ41により試料の表面を削って試料内部を露出させることで実施する。
穿孔時に固い試料46が試料台18から脱落することを防止するために、試料固定用プローブ43で試料を保持するが、試料46を試料台18に強固に固定できれば、試料固定用プローブ43は使用しなくても良い。
穿孔を行う位置は、試料にイオン液体が浸透する距離によって異なる。最初に、任意の観察位置47から離れた場所で、穿孔とイオン液体注入を行い、イオン液体の浸透距離を確かめると安全である。
図14は、固い試料46にイオン液体注入用の注入孔48を穿孔した後に、イオン液体注入用プローブ41の先端部分をイオン液体の液滴49に接触させることにより、イオン液体注入用プローブ41にイオン液体を付着させている状態である。予め、固い試料46の近くに、図14のイオン液体の液的49のようにイオン液体源を作製しておくと便利である。イオン液体注入用プローブ41の先端部分には、図5の針先端部の説明図のようにイオン液体を効率よく吸着させるための溝23を作っても良い。溝23は直線的である必要はなく、針の円筒や円錐の面に沿った螺旋状でもよい。溝23は1本である必要はなく、複数あっても良い。イオン液体注入用プローブ41とイオン液体の液滴49の位置確認には、二次電子画像あるいは反射電子画像を使用するか、光学観察装置39を使用する。
図15は、固い試料46のイオン液体注入用の注入孔48にイオン液体を注入している状態を示した説明図である。イオン液体注入用の注入孔48に、イオン液体注入用プローブ41の先端部に付着したイオン液体が接触し、イオン液体が注入孔48の内部に浸透していけば、観察位置47を含めた注入孔48の周囲の導電処理が完了する。また、イオン液体が注入孔48の内部に浸透していけば、イオン液体注入用プローブ41を注入孔48の内部まで挿入する必要はない。
イオン液体を注入する過程については、帯電現象の有無を確認するために、電子顕微鏡の二次電子画像あるいは反射電子画像を使用することが望ましい。イオン液体注入前と比較して、観察位置47の帯電現象が軽減すれば、イオン液体の注入操作は終了である。観察位置47の帯電現象が軽減しない場合には、注入孔48に繰り返し、イオン液体を注入するか、観察位置47に近接して新たな孔を穿孔し、孔にイオン液体を注入する作業を繰り返し行うことにより、観察位置47の導電処理を実施する。
導電処理後は、電子顕微鏡で観察を実施する。岩石の電子顕微鏡観察は、目的に応じて、二次電子信号と反射電子信号を使い分ける。岩石中の結晶形態や、破断面の形状などを観察する場合には二次電子信号を用いる。岩石中の結晶分布など、組成分布を観察したい場合には反射電子信号を用いる。高倍率での観察を行いたい場合には、高加速電圧、例えば加速電圧15kV以上で観察すると良い。
イオン液体の注入前は、試料の帯電現象を軽減するために、低加速電圧、例えば加速電圧3kV以下での電子顕微鏡観察を行うことが必要であるが、イオン液体注入後は高加速電圧での二次電子像および反射電子像による観察、あるいはその他の検出器を用いた電子顕微鏡観察が可能である。一般的に、高加速電圧、例えば加速電圧15kV以上の方が、低加速電圧中よりも分解能が高いために、高い加速電圧を使用することで、より高解像度の観察が可能になる。
本実施例では、岩石を例に説明したが、これに限られず、導電性がない試料を観察対象としても良い。例えば、電子顕微鏡観察用にグルタールアルデヒドなどで標本化された生物組織、米や麺類、菓子などの加工食品や加工食品の標本、麻、綿、ナイロン、ビニロン、ポリエステルなどの繊維、糸や生地、木材、紙、岩石、粘土、セメント、コンクリート、陶器、多孔質セラミック、多孔質ガラス、多孔質樹脂などが考えられる。他には、錠剤やカプセル薬などの医薬品、砂糖、塩、ポリビニルアルコール(PVA)などの水に可溶性の試料を観察対象としても良い。プリント基板、電子部品を実装したプリント基板などの、部分的に導電性がない試料を観察対象としても良い。
イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類などのアンモニウム系、ホスホニウム系イオン、無系イオンなどの陽イオンを持つものと、臭化物イオンやトリフラートなどのハロゲン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン系などの陰イオンを組み合わせたものが考えられる。一般にイオン液体は有機イオンを含む塩であるが、室温で溶融する塩であれば無機イオンだけから構成される塩でも良い。不純物として、イオン液体以外の溶媒、例えばエタノール、メタノール、グリセリン、アセトン、ヘキサン、エーテル、ホルムアルデヒドを含むホルマリンを含有しても良いが、真空中での突沸を防止するために溶媒は含有しないほうが望ましい。