JP6116404B2 - 放熱装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電子素子を搭載する回路基板とヒートシンクとを一体化した放熱装置に関する。
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
電子素子が発生する熱を放散させる方法として、電子素子を搭載する回路基板をヒートシンクにろう付してこれらを一体化した放熱装置が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1に記載された放熱装置は、セラミックからなる絶縁層の一方の面に回路層を積層し、他方の面にアルミニウム層を介して金属製ヒートシンクを積層し、各層をろう付することによって一体化したものである。このような積層構造の放熱装置は、各層間にろう材を挟んで放熱装置を仮組みし、仮組体を加熱することによって各層が一括してろう付される。
特開2004−153075号公報
一般に、セラミックと金属のろう付は金属同士のろう付よりも難しく、接合されにくい。
前記放熱装置は、セラミック製絶縁層とアルミニウム層、アルミニウム層と金属製ヒートシンクというろう付性に難易差のある接合部を有しているため、仮組体を一括ろう付すると接合されにくい絶縁層とアルミニウム層との間のろう材がヒートシンク側に流れる傾向があり、ろう材が不足することがある。
絶縁層−アルミニウム層間のろう材不足を解消するためにろう材量を増やすと、これらの接合界面でろう材による侵食が増大するおそれがある。ヒートシンク側への流出量も増えるので、流出したろう材によるヒートシンクへの侵食が発生するおそれがある。また、アルミニウム層は絶縁層とヒートシンクとの間の応力緩和層であり応力吸収力の大きいパンチングメタルを使用することがあるが、パンチングメタルを用いた放熱装置では流出したろう材で穴が塞がることがある。パンチングメタルの穴がろう材で塞がると応力吸収力が低下する。このように、絶縁層とアルミニウム層のろう付性をろう材量を増やすことによって改善しようとすると、余剰ろう材による弊害も増大することになる。
本発明は上述した技術背景に鑑みて、ろう付性に難易差のある複数の接合部を有する放熱装置のろう付において、余剰ろう材による弊害を増大させることなく良好にろう付する技術の提供を目的とする。
即ち、本発明は下記[1]〜[8]に記載の構成を有する。
[1]絶縁層の一方の面側に電子素子を搭載する回路層が積層され、他方の面側にアルミニウム層を介してヒートシンクが積層されて、これらが一体化された放熱装置であって、
前記絶縁層とアルミニウム層とが第1ろう材によって接合され、前記アルミニウム層とヒートシンクとが第2ろう材によって接合され、
前記第1ろう材および第2ろう材をこれらのうちの固相線温度の低い方のろう材の固相線温度よりも高い温度で1分保持したときに溶融するろう材量について、ろう付面積1mmあたりのろう材の厚さ(μm)を第1ろう材の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)とするとき、
前記第1ろう材の溶融量X(μm/mm)と第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)とがX>Yの関係を満たしていることを特徴とする放熱装置。
[2]前記第1ろう材の溶融量Xが15〜70μm/mmであり、第2ろう材の溶融量Yが5〜50μm/mmである前項1項に記載の放熱装置。
[3]前記第1ろう材の厚さt1(μm)と第2ろう材の厚さt2(μm)とがt1>t2の関係を満たしている前項1または2に記載の放熱装置。
[4]前記第1ろう材および第2ろう材がいずれもAl−Si系合金ろう材またはAl−Si−Mg系合金ろう材であり、
前記第1ろう材の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)を、これらのろう材を600℃で1分保持したときに溶融するろう材量で表す前項1〜3のうちのいずれ1項に記載の放熱装置。
[5]前記第1ろう材中のSi濃度S1(質量%)と第2ろう材中のSi濃度S2(質量%)とがS1>S2の関係を満たしている前項4に記載の放熱装置。
[6]前記第1ろう材のろう数Xstをろう材中のSi濃度S1(質量%)×ろう材の厚さt1(μm)で表し、前記第2ろう材のろう数Ystをろう材中のSi濃度S2(質量%)×ろう材の厚さt2(μm)で表すとき、第1ろう材のろう数数Xstと第2ろう材のろう数Ystとが2<Xst−Yst<500の関係を満たしている前項4に記載の放熱装置。
[7]前記第1ろう材中のSi粒子の平均粒径d1(μm)と第2ろう材中のSi粒子の平均粒径d2(μm)とがd1<d2の関係を満たしている前項4〜6のうちのいずれか1項に記載の放熱装置。
[8]前記第1ろう材および第2ろう材のうちの少なくとも一方がAl−Si系合金ろう材およびAl−Si−Mg系合金ろう材以外のろう材であり、
前記第1ろう材の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)を、これらのろう材のうちの固相線温度の低い方ろう材の固相線温度よりも30℃高い温度で1分保持したときに溶融するろう材量で表す前項1〜3のうちのいずれか1項に記載の放熱装置。
[1]に記載の発明は、接合され難い絶縁層とアルミニウム層とを接合する第1ろう材の溶融量X(μm/mm)と接合され易いアルミニウム層とヒートシンクとを接合する第2ろう材溶融量Y(μm/mm)とがX>Yの関係を満たしている。X>Yにより、ろう付過程初期においては第1ろう材の溶融量が多く第2ろう材の溶融量が少ないので、接合界面からはみ出した第2ろう材の第1ろう材側への伝い流れが抑えられる。このため、アルミニウム層の側面上で第2ろう材が第1ろう材と繋がることが防がれて、第2ろう材が第1ろう材の接合界面からの流出を促すことがなく、第1ろう材は絶縁層とアルミニウム層との接合に費やされるのでこれらは良好に接合される。ろう付過程が進行すると双方のろう材の溶融量が増え、第1ろう材がヒートシンク側に流れ、あるいは第1ろう材と第2ろう材が繋がるが、その時点では絶縁層とアルミニウム層との接合に必要な量のろう材が接合界面に保持されているのでろう材不足となることはない。また、アルミニウム層とヒートシンクはもとよりろう付性が良く、しかもヒートシンク側に流れた第1ろう材がアルミニウム層とヒートシンクとの接合界面に入り込んで接合に供されるので、アルミニウム層とヒートシンクも良好にろう付される。
このようにろう付性に難易差のある2つの接合部が共に良好に接合されるので、流出を見越した過剰量のろう材を供給する必要がなく、余剰ろう材による侵食を抑えることができる。また、アルミニウム層に貫通孔を設けた場合は貫通孔が余剰ろう材で塞がることがなく、応力吸収力が低下することもない。
[2]に記載の発明によれば、上述した効果に基づく適正量の第1ろう材および第2ろう材によって良好に接合することができる。
[3]に記載の発明によれば、第1ろう材および第2ろう材の厚さ(t1、t2)の関係によって2つのろう材を選定することができる。
[4]に記載によれば、前記第1ろう材および第2ろう材がいずれもAl−Si系合金ろう材またはAl−Si−Mg系合金ろう材である場合に、ろう付過程初期のろう材の溶融状態を的確に把握することができる。
[5]に記載の発明によれば、第1ろう材および第2ろう材中のSi濃度(S1、S2)の関係によって2つのろう材を選定することができる。
[6]に記載に発明によれば、ろう材中のSi濃度(S1、S2)とろう材の厚さ(t1、t2)の積であるろう数Xst、Ystの関係によって2つのろう材を選定することができる。
[7]に記載によれば、第1ろう材および第2ろう材中のSi粒子の平均粒径(d1、d2)の関係によって2つのろう材を選定することができる。
[8]に記載によれば、前記第1ろう材および第2ろう材のうちの少なくとも一方がAl−Si系合金ろう材およびAl−Si−Mg系合金ろう材以外のろう材である場合に、ろう付過程初期のろう材の溶融状態を的確に把握することができる。
本発明にかかる放熱装置の一実施形態の断面図である。
[放熱装置の構成]
図1は本発明の放熱装置の一実施形態を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。
放熱装置(1)は、絶縁層(11)の一方の面側に電子素子(14)を搭載する回路層(12)が積層され、他方の面側にはアルミニウム層(13)を介してヒートシンク(20)が積層され、これらが一体に接合されている。前記回路層(12)および絶縁層(11)とヒートシンク(13)とはアルミニウム層(13)を介して熱的に結合され、回路層(12)に搭載された電子素子(14)が発する熱はヒートシンク(20)に排熱される。
前記放熱装置(1)は、回路層(12)、絶縁層(11)、アルミニウム層(13)およびヒートシンク(20)をそれぞれの部材間にろう材を配置して仮組みし、仮組体を一括ろう付し、その後に電子素子(14)をはんだ付したものである。以下の説明において、前記絶縁層(11)とアルミニウム層(13)との接合部を第1接合部(31)、前記アルミニウム層(13)とヒートシンク(20)との接合部を第2接合部(32)、前記絶縁層(11)と回路層(12)との接合部を第3接合部(33)と略称し、第1接合部(31)、第2接合部(32)および第3接合部(33)を接合するためのろう材をそれぞれ第1ろう材(41)、第2ろう材(42)および第3ろう材(43)と称する。
前記放熱装置(1)を構成する各層の好ましい材料は以下のとおりである。
前記絶縁層(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
前記回路層(12)を構成する金属としては、導電性が高くかつ絶縁層(11)とろう付またははんだ付が可能な金属を用いるものとし、特に高純度アルミニウムを推奨できる。
前記アルミニウム層(13)は、剛性の高いセラミック製の絶縁層(11)とヒートシンク(20)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質の金属を用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。また、図示例のアルミニウム層(13)のように、応力吸収空間として複数の円形貫通穴(13a)を有するパンチングメタルを用いることも好ましい。
前記ヒートシンク(20)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金やAl−Fe系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(20)はアルミニウム層(13)側の外面がフラットであればアルミニウム層(20)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、アルミニウム層(20)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。図示例のヒートシンク(20)は膨出部を有する上板(21)と平板からなる底板(22)とを組み合わせて形成される冷媒室(23)にインナーフィン(24)をはめ込んで接合したものである。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、中空部を有する形材で構成したチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
[ろう材の溶融量]
本発明は上述した3つのろう材のうちの第1ろう材(41)および第2ろう材(42)の特性を規定する。
第1接合部(31)と第2接合部(32)はアルミニウム層(13)の両面に位置し、これらはアルミニウム層(13)によって隔てられており、その隔たりはアルミニウム層(13)の厚み分である。アルミニウム層(13)の側面は平坦であるから、接合界面からはみ出した溶融ろう材は妨げられることなくアルミニウム層(13)の側面を伝うことができる状態である。また、接合界面から貫通穴(13a)にはみ出した溶融ろう材も貫通穴(13a)の壁面を伝うことができる状態である。
第1接合部(31)はセラミックと金属の異種材料の接合であるから、金属同士の第2接合部(32)よりも接合されにくく接合に時間がかかる。このため、ろう付過程において、溶融した第2ろう材(41)は接合に費やされて接合界面に保持されているが、溶融した第1ろう材(41)は接合界面における保持力が第2ろう材(42)よりも弱いために接合界面から流出し易い、という状態にある時期がある。ろう付過程の初期にこのような状態になると、第1ろう材(41)が接合に費やされることなく接合界面からアルミニウム層(13)の側面および貫通穴(13a)に流出し易くなる。また、このとき、第2ろう材(42)がアルミニウム層(13)の側面および貫通穴(13a)にはみ出していると、はみ出した第2ろう材(42)と第1ろう材(41)とがアルミニウム層(13)の側面上および貫通穴(13a)の壁面上で繋がることがある。しかも、第2接合部(32)の接合界面からはみ出す第2ろう材(42)の量が多いほど、第2ろう材(42)はアルミニウム層(13)の側面を第1接合部(31)側に伝い流れる量が増えて第1接合部(31)に近づき、第2ろう材(42)が第1ろう材(41)を迎えに行くことになって第1ろう材(41)と繋がり易くなる。両方の溶融ろう材が繋がってろう材の道すじが形成されると、接合界面での保持力の弱い第1ろう材(41)は第2ろう材(42)が呼び水となって接合界面からの流出が促され、第1ろう材(41)が単独で流出するよりも多量のろう材が接合界面から流出する。その結果、第1接合部(31)はろう材が不足して接合不良となる。
本発明は、ろう付過程初期において第2ろう材(42)を第1ろう材(41)流出の呼び水にしないために、第1ろう材(41)および第2ろう材(42)をろう材の溶融量X、Y(μm/mm)に基づいて規定する。
前記第1接合部(31)に配置する第1ろう材(41)の溶融量X(μm/mm)および第2接合部(32)に配置する第2ろう材(42)の溶融量Y(μm/mm)は、第1ろう材(41)および第2ろう材(42)をこれらのうちの固相線温度の低い方のろう材の固相線温度よりも高い温度で1分保持したときに溶融するろう材量について、ろう付面積1mmあたりのろう材の厚さ(μm)で表した数値とするする。
前記第1ろう材(41)の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材(42)の溶融量Y(μm/mm)は、絶縁層(11)、第1ろう材(41)、アルミニウム層(13)、第2ろう材(42)、ヒートシンク(20)を重ねて仮組し、第1接合部(31)および第2接合部(32)を同時に加熱するろう付において、ろう付過程初期のろう材の溶融状態を表している。そして、本発明においては、第1ろう材(41)の溶融量X(μm/mm)と前記第2ろう材(42)の溶融量Y(μm/mm)とがX>Yの関係を満たすろう材を用いる。
「X>Y」は、ろう付過程初期において、接合され難い第1接合部(31)に存在する溶融ろう材量が接合され易い第2接合部(32)に存在する溶融ろう材量よりも多い状態を示している。第2接合部(32)の溶融ろう材量が少ないことで、接合界面からアルミニウム層(13)の側面にはみ出すろう材量も抑えられ、第2ろう材(42)の第1ろう材(41)側へ伝い流れが抑えられて、第2ろう材(42)が第1接合部(31)の接合界面からはみ出した第1ろう材(41)と繋がることを防ぐことができる。第2ろう材(42)は第1ろう材(41)と繋がらない限り第1ろう材(41)流出の呼び水になることはないので、第1ろう材(41)は接合界面から失われることなく接合に費やされる。ろう付過程が進行すると双方のろう材の溶融量が増え、第1ろう材(41)が第2接合部(32)側に流れ、あるいは第1ろう材(41)と第2ろう材(42)が繋がるが、その時点では第1接合部(31)の接合に必要な量のろう材が接合界面に保持されているのでろう材不足となることはない。また、第2接合部(32)はもとよりろう付性が良く、しかも第2接合部(32)側に流れた第1ろう材(41)が第2接合部(32)の接合界面に入り込んで接合に供されるので、第2接合部(32)に十分な量のろう材が供給されて良好にろう付される。
図示例のアルミニウム層(13)は応力吸収空間として貫通穴(13a)を有しており、貫通穴(13a)の壁面においても側面と同様の現象が起こる。即ち、ろう付過程初期においては第2ろう材(42)よる呼び水作用を防いで第1接合部(31)の接合界面に接合に要する第1ろう材(41)を保持し、ろう付過程が進行すれば貫通穴(13a)を通じて第1ろう材(41)が第2接合部(32)に供給される。
以上のように、本発明によれば、接合され難い第1接合部(31)はろう付過程初期に接合界面に第1ろう材(41)が保持されるので良好にろう付される。第2接合部(31)はもとより接合され易い上に、ろう付過程の進行に伴って第1ろう材(41)が供給されるので良好にろう付される。このようにろう付性に難易差のある2つの接合部が共に良好に接合される。また、第1接合部(31)に流出を見越した過剰量のろう材を供給する必要がないので、余剰ろう材による侵食を抑えることができる。また、アルミニウム層(13)の貫通孔(13a)が余剰ろう材で塞がることがなく、応力吸収力が低下することもない。
前記第3接合部(33)は絶縁層(11)と回路層(12)は異種材料の接合であり、第1接合部(31)と同様に接合され難い接合部である。しかし、回路層(12)の短絡を防止するために絶縁層(11)の寸法は回路層(12)よりも大きく設定されているので、第3接合部(33)は大きい絶縁層(11)によって第1接合部(31)および第2接合部(32)との間の連絡が完全に断ち切られている。このため、第3接合部(33)の接合に時間がかかったとしても第3ろう材(43)が接合界面から失われることなない。従って、第3ろう材(43)を第1ろう材(41)および第2ろう材(42)の溶融量との関係に基づいて設定する必要はなく、第3ろう材(43)は絶縁層(11)と回路層(12)とのろう付性のみを考慮して選定すれば良い。また、本発明は絶縁層(11)と回路層(12)の接合方法をろう付に限定するものではなく、はんだ付によって接合する場合も本発明に含まれる。
前記第1ろう材(41)および第2ろう材(42)は、上述した溶融量X,Yの関係を満たす限り組成や形態は限定されない。
ろう材の組成として、Al−Si系合金ろう材を推奨でき、真空ろう付にはAl−Si−Mg系合金ろう材を推奨できる。また、これらのSi含有合金をベースにして種々の元素を添加したろう材を使用することも好ましい。例えば、ろう材の流動性を高めるために、BiまたはSrを添加したろう材を使用することも好ましい。また、Al−Si系合金ろう材およびAl−Si−Mg系合金ろう材以外のろう材として、Al−Cu系合金、Al−Cu−Mg系合金を例示できる。
ろう材の溶融量を求めるための保持温度は、ろう材の固相線温度よりも高い温度範囲で適宜設定することができる。溶融量の差を求めるために設定する温度であるからろう材の種類毎に細かく温度を変更するには及ばないが、ろう付過程初期のろう材の溶融状態を的確に把握するために、ろう付温度またはその近傍の温度に設定することが好ましい。かかる観点より、前記第1ろう材(41)および第2ろう材(42)がAl−Si系合金ろう材またはAl−Si−Mg系合金ろう材である場合は600℃とすることが好ましい。また、前記第1ろう材(41)および第2ろう材(42)のうち少なくとも一方がAl−Si系合金ろう材およびAl−Si−Mg系合金ろう材以外のろう材である場合は、これらのろう材のうちの固相線温度の低いろう材の固相線温度よりも30℃高い温度とすることが好ましい。
また、ろう材の溶融量を求めるための保持時間は1分とする。前記保持時間はろう付時の昇温速度に鑑みて設定された時間であり、保持時間を1分とすることでろう付過程初期のろう材の溶融状態を把握することができる。
前記第1ろう材(41)の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材(42)の溶融量Y(μm/mm)はX>Yの関係を満たす限り限定されないが、好ましい範囲は以下のとおりであり、第1接合部(31)および第2接合部(32)を、上述した効果に基づく適正量のろう材によって良好に接合することができる。前記第1ろう材(41)の溶融量Xは15〜70μm/mmが好ましく、特に15〜60μm/mmが好ましい。また、前記第2ろう材(42)の溶融量Yは5〜50μm/mmが好ましく、特に15〜40μm/mmが好ましい。
前記ろう材の溶融量X、Yに影響を及ぼす要因として、ろう材の厚さ、Si濃度、Si粒子径を挙げることができる。従って、X>Yの関係を満たす第1ろう材(41)および第2ろうろう材(42)の選定に際しては、これらの要因に差を付けることを目安とすることができる。ただし、ろう材の溶融量X、Yは複数の要因によって決まるものであるから、以下の要因のうちのいずれかの条件を満たしていない場合でも他の要因の条件を満たすことでX>Yの関係が満たされることがある。
ろう材は厚さが厚いものほどその溶融量が多くなる。このため、第1ろう材(41)の厚さt1(μm)と第2ろう材(42)の厚さt2(μm)をt1>t2の関係を満たすように2つのろう材を選定することが好ましい。第1ろう材(41)の好ましい厚さt1は15〜120μmであり、特に好ましい厚さは15〜100μmである。第2ろう材(42)の好ましい厚さt2は10〜100μmであり、特に好ましい厚さは10〜80μmである。
Al−Si系合金ろう材またはAl−Si−Mg系合金ろう材においては、ろう材中のSi濃度が高いほど溶融量が多くなる。従って、前記第1ろう材(41)および第2ろう材(42)がいずれもAl−Si系合金ろう材またはAl−Si−Mg系合金ろう材である場合は、前記第1ろう材(41)中のSi濃度S1(質量%)と第2ろう材(42)中のSi濃度S2(質量%)とがS1>S2の関係を満たすように2つのろう材を選定することが好ましい。Si含有合金ではSi濃度が6質量%以上であればろう材として用いることができる。前記第1ろう材(41)中の好ましいSi濃度は8〜14質量%であり、特に9〜12質量%が好ましい。前記第2ろう材(42)中の好ましいSi濃度は7〜12質量%であり、特に8〜11.5質量%が好ましい。
また、ろう材の厚さとSi濃度の両方で規定するとなお一層的確にろう材を選定することができる。本発明においては、ろう材のSi濃度と厚さの積をろう数として表し、これらの関係に基づいてろう材を選定することを推奨する。第1ろう材(41)のろう数Xstおよび第2ろう材(42)のろう数Ystは以下のとおりである。
第1ろう材のろう数Xst=Si濃度S1(質量%)×厚さt1(μm)
第2ろう材のろう数Yst=Si濃度S2(質量%)×厚さt2(μm)
2つのろう材のろう数Xst、YstはXst>Ystの関係を満たすことが好ましい。さらに好ましい関係は2<Xst−Yst<500であり、この関係を満たすように第1ろう材(41)および第2ろう材(42)を選定することが好ましい。特に好ましい関係は2<Xst−Yst<400である。また、第1ろう材(41)のろう数はXstは120〜1680(質量%・μm)が好ましく、特に120〜1300(質量%・μm)が好ましい。第2ろう材(42)のろう数Ystは70〜1200(質量%・μm)が好ましく、特に70〜1000(質量%・μm)が好ましい。
また、ろう材中のSi粒子はろう材の溶けやすさに影響を及ぼす要因であり、Si粒子が微細化された組織は溶けやすく、Si粒子が粗くなると溶けにくくなる。ろう材の溶けやすさはろう付過程初期のろう材の溶融量に影響を及ぼす。従って、前記第1ろう材(41)中のSi粒子の平均粒径d1(μm)と第2ろう材(42)中のSi粒子の平均粒径d2(μm)とがd1<d2の関係を満たすように第1ろう材(41)および第2ろう材(42)を選定することが好ましい。また、第1ろう材(41)中のSi粒子の好ましい平均粒径d1は0.01〜0.5μmであり、特に0.02〜0.4μmが好ましい。第2ろう材(42)中のSi粒子の好ましい平均粒径d2は0.05〜2μmであり、特に0.1〜2μmが好ましい。ろう材中のSi粒子が微細化されたろう材として、溶湯の急冷凝固によって得た粉末ろう材、溶湯から直接圧延して得たシート状ろう材を例示できる。
前記第1ろう材(41)および第2ろう材(42)の形態は何ら限定されす、ろう材箔やろう材粉末として接合部に配置しても良いし、アルミニウム層(13)をブレージングシートで構成しても良い。
図1に示す放熱装置(1)をろう材を変えて仮組し、ろう付試験を行った。
[放熱装置の構成部材とろう材]
放熱装置(1)の仮組体は、各例で共通の回路層(12)、絶縁層(11)、アルミニウム層(13)およびヒートシンク(20)と、各例で異なるろう材とからなる。
前記回路層(12)は99.99%以上の高純度アルミニウムからなる28.3mm×28.3mm×厚さ0.6mmの平板である。
前記絶縁層(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。
前記アルミニウム層(13)は、99.99%以上の高純度アルミニウムからなり、28.3mm×28.3mm×厚さ1.6mmの平板に直径2mmの13個の貫通穴(13a)を穿設したパンチングメタルである。
前記ヒートシンク(20)の上板(21)および底板(22)の材料は、A3003からなる心材にAl−10質量%Si−1質量%Zn合金からなるろう材をクラッドした片面ブレージングシートである。前記ブレージングシートの厚さは1.0mmであり、ろう材のクラッド率は5%である。上板(21)は前記ブレージングシートにプレス加工で平面視50mm×50mmの膨出部を形成し、膨出部の開口周縁を接合用継ぎ手部としたものである。底板(22)は前記ブレージングシートを上板(21)の接合用継ぎ手部の寸法に合わせて切断した平板である。インナーフィン(24)は厚さ0.3mmのA1100からなるベア材をコルゲート形に曲成したものである。前記ヒートシンク(20)は前記上板(21)および底板(22)をろう材側の面同士を対向させ、冷媒室(23)内にインナーフィン(14)を装填して組み立てたものである。
前記絶縁層(11)とアルミニウム層(13)とを接合する第1ろう材(41)、およびアルミニウム層(13)とヒートシンク(20)とを接合する第2ろう材(42)として、実施例1のみAl−Cu系合金ろう材箔を用い、実施例2〜5および比較例の1、2はAl−Si−Mg合金ろう材箔を用いた。
実施例1の第1ろう材(41)の組成はAl−7質量%Cu合金であり、第2ろう材(42)の組成はAl−7質量%Cu合金であり、固相線温度およびろう材の厚さt1、t2は表1に示すとおりである。
実施例2〜5および比較例1、2の第1ろう材(41)および第2ろう材(41)は表1に示す濃度(S1、S2)のSiおよび1質量%のMgを含有するAl−Si−Mg合金ろう材箔である。これらのろう材箔の厚さt1、t2および、固相線温度は表1に示すとおりである。また、Si濃度S1、S2と厚さt1、t2の積であるろう数Xst、Ystを表1に示す。
各例の第1ろう材(41)および第2ろう材(42)についてろう材の溶融量X、Y(μm/mm2)を調べた。第1ろう材(41)および第2ろう材(42)の平面寸法は、前記アルミニウム層(13)と同一寸法の28.3mm×28.3mmであり、ろう付面積は800mmである。実施例1は固相線温度よりも30℃高い604℃で1分保持したときに溶融したろう材量に基づいて溶融量X、Y(μm/mm)を求めた。また、実施例2〜4および比較例の1、2のAl−Si−Mg合金ろう材箔については、600℃で1分保持したときに溶融したろう材量に基づいて溶融量X、Y(μm/mm)を求めた。
さらに、実施例4、5、比較例1、2のろう材箔についてはSi粒子の平均粒径を調べたところ、表1に示すとおりであった。
前記絶縁層(11)と回路層(12)とを接合する第3ろう材(33)は各例で共通であり、厚さが40μmのAl−10質量%Si−1質量%Mg合金ろう材箔を用いた。
[ろう付試験]
回路層(12)、第3ろう材(43)、絶縁層(11)、第1ろう材(41)、アルミニウム層(13)、第1ろう材(42)、ヒートシンク(20)をこの記載順に重ねて放熱装置(1)を仮組し、真空中で600℃×20分加熱して一括ろう付した。
ろう付した放熱装置(1)について、絶縁層(11)とアルミニウム層(13)の第1接合部(31)、およびアルミニウム層(13)とヒートシンク(20)の第2接合部(32)の接合状態を超音波探傷して接合面積率を調べ、下記の基準で評価した。
○:接合面積率が95%以上
△:接合面積率が85%以上95%未満
×:接合面積率が85%未満
また、第1接合部(31)および第2接合部(32)を観察してろう材の余剰の度合い(エロ−ジョン)調べ、下記の基準で評価した。
○:エロ−ジョンが殆ど見られない
×:エロ−ジョンが激しい
これらの評価結果を表1に併せて示す。
Figure 0006116404
表1に示すように、ろう材の溶融量に基づいてろう材を選定することにより、ろう付性に難易差のある放熱装置を良好にろう付できることを確認した。
本発明は、絶縁層とヒートシンクとをアルミニウム層を介して積層し、これらを一括ろう付して一体化した放熱装置の製造に利用できる。
1…放熱装置
11…絶縁層
12…回路層
13…アルミニウム層
14…電子素子
20…ヒートシンク
41…第1ろう材
42…第2ろう材
43…第3ろう材
t1…第1ろう材の厚さ
t2…第2ろう材の厚さ

Claims (8)

  1. 絶縁層の一方の面側に電子素子を搭載する回路層が積層され、他方の面側にアルミニウム層を介してヒートシンクが積層されて、これらが一体化された放熱装置であって、
    前記絶縁層とアルミニウム層とが第1ろう材によって接合され、前記アルミニウム層とヒートシンクとが第2ろう材によって接合され、
    前記第1ろう材および第2ろう材をこれらのうちの固相線温度の低い方のろう材の固相線温度よりも高い温度で1分保持したときに溶融するろう材量について、ろう付面積1mmあたりのろう材の厚さ(μm)を第1ろう材の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)とするとき、
    前記第1ろう材の溶融量X(μm/mm)と第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)とがX>Yの関係を満たしていることを特徴とする放熱装置。
  2. 前記第1ろう材の溶融量Xが15〜70μm/mmであり、第2ろう材の溶融量Yが5〜50μm/mmである請求項1項に記載の放熱装置。
  3. 前記第1ろう材の厚さt1(μm)と第2ろう材の厚さt2(μm)とがt1>t2の関係を満たしている請求項1または2に記載の放熱装置。
  4. 前記第1ろう材および第2ろう材がいずれもAl−Si系合金ろう材またはAl−Si−Mg系合金ろう材であり、
    前記第1ろう材の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)を、これらのろう材を600℃で1分保持したときに溶融するろう材量で表す請求項1〜3のうちのいずれ1項に記載の放熱装置。
  5. 前記第1ろう材中のSi濃度S1(質量%)と第2ろう材中のSi濃度S2(質量%)とがS1>S2の関係を満たしている請求項4に記載の放熱装置。
  6. 前記第1ろう材のろう数Xstをろう材中のSi濃度S1(質量%)×ろう材の厚さt1(μm)で表し、前記第2ろう材のろう数Ystをろう材中のSi濃度S2(質量%)×ろう材の厚さt2(μm)で表すとき、第1ろう材のろう数数Xstと第2ろう材のろう数Ystとが2<Xst−Yst<500の関係を満たしている請求項4に記載の放熱装置。
  7. 前記第1ろう材中のSi粒子の平均粒径d1(μm)と第2ろう材中のSi粒子の平均粒径d2(μm)とがd1<d2の関係を満たしている請求項4〜6のうちのいずれか1項に記載の放熱装置。
  8. 前記第1ろう材および第2ろう材のうちの少なくとも一方がAl−Si系合金ろう材およびAl−Si−Mg系合金ろう材以外のろう材であり、
    前記第1ろう材の溶融量X(μm/mm)および第2ろう材の溶融量Y(μm/mm)を、これらのろう材のうちの固相線温度の低い方ろう材の固相線温度よりも30℃高い温度で1分保持したときに溶融するろう材量で表す請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の放熱装置。
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