JP5969235B2 - 熱交換器用アルミニウムクラッド材およびその製造方法 - Google Patents

熱交換器用アルミニウムクラッド材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明はろう付性および耐食性に優れた熱交換器用アルミニウムクラッド材に関する。
絶縁基板にアルミニウム回路層を接合した電子素子搭載用基板をヒートシンクにろう付した放熱装置において、熱抵抗が低減して良好な放熱性が得られることは特許文献1に示されている。また、前記放熱装置では、絶縁基板とヒートシンクとの間に発生する応力を緩和するために応力吸収空間として複数の貫通穴を有する応力緩和層を介在させている。かかる積層構造の放熱装置では、応力緩和層が電子素子搭載用基板に搭載した電子素子の排熱経路となる。
また、特許文献2には、自動車用熱交換器のチューブ用材料として、Mn,Cu、Si、Feを含むアルミニウム合金心材の一方の面に犠牲腐食層を積層し、他方の面にろう材を積層したろう付用クラッド材が記載されている。前記クラッド材は犠牲腐食層が内側となるように曲成し、外面に波形フィンをろう付するチューブの内面防食を図ったものである。
特開2006−294699号公報 特開2000−202680号公報
特許文献2に記載されたチューブの外面にろう付されるのは波形のフィンであるから、接合部は線状であり接合面積は小さい。一方、特許文献1の放熱装置ではヒートシンクの外面は応力緩和層と広い面積で接合される。前記応力緩和層の貫通穴は冷熱サイクル下の応力吸収空間として必要であり、ろう付時に酸化膜を排出する空間としても必要であるが、ヒートシンクに排熱する際の熱抵抗を低減し、また放熱装置の設計自由度を向上のために、貫通穴の面積を可及的に小さくすることが求められている。このため、ヒートシンクと応力緩和層とは広い面積でろう付される。広い面積を良好にろう付する場合は、線状のろう付よりもさらにろうの濡れ拡がり性を高めて酸化膜の排出を促す必要がある。
また、ヒートシンクの作動流体として水を用いる場合は内面においても高い耐食性が求められる。
しかしながら、特許文献2に記載されたろう付用クラッド材は波形フィンを線状に接合するために使用されるものであり、広い面積をろう付するためにはさらにろう材の濡れ拡がり性の良い材料が必要である。
本発明は上述した背景技術に鑑み、ろう付性および耐食性に優れた熱交換器用アルミニウムクラッド材の提供を目的とする。
即ち、本発明は下記[1]〜[9]に記載の構成を有する。
[1]アルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面にAl−Si系合金ろう材が積層されたクラッド材であって、
前記心材を構成するアルミニウム合金は、Mn:0.7〜1.2質量%、Fe:0.05〜0.5質量%およびSi:0.05〜0.4質量%を含有し、かつAl−Fe系金属間化合物の面積率が0.3〜1.5%であり、結晶の平均粒径が50〜500μmであることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
[2]前記心材を構成するアルミニウム合金は、さらにCu:0.2〜0.7質量%、Mg:0.05〜0.4質量%、Zr:0.05〜0.4質量%、V:0.05〜0.4質量%およびTi:0.05〜0.4質量%のうちの少なくとも1種を含有する前項1に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
[3]前記Al−Si系合金ろう材は、Bi:0.03〜0.3質量%およびSr:0.005〜0.2質量%のうちの少なくとも1種を含有する前項1または2に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
[4]心材がMn:0.7〜1.2質量%、Fe:0.05〜0.5質量%およびSi:0.05〜0.4質量%を含有を含有するアルミニウム合金からなり、
前記心材に600〜640℃で6〜24時間の均質化処理を行い、この心材の少なくとも一方の面にAl−Si系合金ろう材を重ねてクラッド圧延することを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材の製造方法。
[5]前記クラッド材に350〜450℃で1〜12時間の焼鈍を行う前項4に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材の製造方法。
[6]内部に中空部を有する熱交換器の外壁が前項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムクラッド材で構成され、前記中空部内を循環する作動流体が水であることを特徴とする熱交換器。
[7]前記外壁の外面に少なくとも1箇所の面接合されたろう付部を有する前項6に記載の熱交換器。
[8]前項7に記載の熱交換器の外面に、絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板が面接合によってろう付されていることを特徴とする放熱装置。
[9]前記熱交換器と電子素子搭載用基板との間に貫通穴を有する応力緩和層が介在し、この応力緩和層が熱交換器の外面に面接合によってろう付されている前項8に記載の放熱装置。
上記[1]に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材は、心材の金属組織においてAl−Fe系金属間化合物の面積率および結晶の平均粒径が所定範囲に制御されるように、心材の化学組成が規定されているので、高いろう付性および耐食性が得られる。ひいては、このクラッド材で作製した熱交換器を他の部材と広い面積で接合する場合もろう材が十分に濡れ拡がるので良好なろう付を達成できる。また、熱交換器の作動流体として水を使用する等、厳しい腐食環境においても熱交換器寿命を延ばすことができる。
上記[2]に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材によれば、さらに高いろう付性および耐食性が得られる。
上記[3]に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材は、Al−Si系合金ろう材にBi、Srが添加されているので、さらに高いろう付性が得られる。
上記[4]に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材の製造方法によれば、心材の化学組成を規定し、かつ心材に対して所定の均質化処理を行うことにより、Al−Fe系金属間化合物の面積率を0.3〜1.5%、結晶の平均粒径50〜500μmの範囲に制御することができる。
上記[5]に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材の製造方法によれば、クラッド材を所定条件で焼鈍することによって、より高いろう付性および耐食性が得られる金属組織を形成することができる。
上記[6]に記載の熱交換器は外壁が上記[1]〜[3]のいずれかに記載されたクラッド材で構成されているので、作動流体として水を使用する厳しい腐食環境においても長い寿命が得られる。
上記[7]に記載の熱交換器においては、外壁に面接合される部材とのろう付性が優れている。
上記[8]に記載の放熱装置は、上記[7]に記載の熱交換器の外壁に電子素子搭載用基板が広い面積で面接合によってろう付されているので、電子素子の熱を熱交換器に排熱する際の熱抵抗が少なく優れた放熱性能が得られる。
上記[9]に記載の放熱装置は、電子素子搭載用基板が応力緩和層を介して面接合によってろう付されているので。電子素子の熱を熱交換器に排熱する際の熱抵抗が少なく優れた放熱性能が得られる。
本発明にかかる二層構造のクラッド材を用いて作製したヒートシンクと、このヒートシンクと電子素子搭載用基板とを一体化した放熱装置の断面図である。 本発明にかかる三層層構造のクラッド材を用いて作製したヒートシンクと、このヒートシンクと電子素子搭載用基板とを一体化した放熱装置の断面図である。 本発明にかかる他の放熱装置の断面図である。 本発明にかかるさらに他の放熱装置の断面図である。
図1は、本発明のクラッド材を用いて作製するヒートシンク(10)と電子素子搭載用基板(20)とを応力緩和層(30)を挟んで積層して作製する放熱装置(1)の仮組物を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。
ヒートシンク(10)は、凹部(12)を有する2枚の皿状部材(11)を合わせることによって形成される扁平中空部が作動流体を循環させる作動流体通路(13)となされ、この作動流体通路(13)に波板形のインナーフィン(14)が内挿されている。前記皿状部材(11)は、心材(15)の一方に面にろう材(16)を積層した平板状のクラッド材を、ろう材(16)が凹部(12)の内側となるようにプレス加工し、凹部(12)の開口周縁から略水平方向に延びる部分を接合用周縁部(17)としたものである。前記ヒートシンク(10)は2枚の皿状部材(11)をろう材(16)が内側となるように向かい合わせに配置し、凹部(12)でインナーフィン(14)を挟み付け、互いの接合用周縁部(17)が当接し、作動流体通路(13)の内壁にインナーフィン(14)が当接した状態に仮組されている。前記皿状部材(11)の材料であるクラッド材は本発明のクラッド材である。
電子素子搭載用基板(20)は、絶縁基板(21)と、この絶縁基板(21)の一方の面に重ねられたアルミニウム回路層(22)と、他方の面に重ねられたアルミニウム層(23)とで構成されている。これらの部材(21)(22)(23)はろう材箔(24)(25)を挟んで仮組みされている。
前記電子素子搭載用基板(20)とヒートシンク(10)とは応力緩和層(30)を介して積層されている。前記応力緩和層(30)は心材(31)の両面にろう材(32)(33)を積層したアルミニウムクラッド材であり、クラッド後に応力吸収空間として複数の円形貫通穴(34)を穿設したパンチングメタルである。なお、本発明の放熱装置(1)に用いる応力緩和層(30)は貫通穴(34)の有るものに限定されないし、応力吸収空間の形状も限定されない。
前記放熱装置(1)は前記仮組物を一括してろう付加熱され、全ての部材がろう付される。また、ヒートシンク(10)のろう付においては、皿状部材(11)を構成するクラッド材のろう材(16)によって接合用周縁部(17)がろう付されて作動流体通路(13)が形成されるとともに、作動流体通路(13)の壁面にインナーフィン(14)がろう付される。その後アルミニウム回路層(22)上に電子素子(図示省略)が搭載されてはんだ付される。ろう付後の放熱装置(1)において、アルミニウム回路層(22)が絶縁基板(21)、アルミニウム層(23)および応力緩和層(30)を介してヒートシンク(16)と熱的に結合され、電子素子が発する熱はヒートシンク(10)に排熱される。
[クラッド材の構成]
前記ヒートシンク(10)は、内面にあっては、作動流体として水を用いた場合でも十分に長い寿命が得られるように高い耐食性が求められる。また、外面にあっては、応力緩和層(30)がヒートシンク(10)への排熱経路となる構造であり、ろう付不良によるろう付面積の低下は放熱性能の低下となるため、ヒートシンク(10)の外面と応力緩和層(30)は良好なろう付が求められる。前記ヒートシンク(10)と応力緩和層(30)のろう付においては、酸化膜がろう材の濡れ拡がりによって接合部の外周部および貫通穴(34)に排出されることによって良好なろう付が達成される。
本発明は、アルミニウム合金中のAl−Fe系金属間化合物が耐食性とろう付性に影響を及ぼし、結晶径がろう付性に影響を及ぼすことに着目し、クラッド材(11)の心材(15)を構成するアルミニウム合金の化学組成を規定した上で、金属組織においてAl−Fe系金属間化合物量を任意の断面における面積率および結晶の平均粒径を規定する。
以下に心材(15)の化学組成および金属組織について詳述する。
前記心材(15)は、所定量のMn、FeおよびSiを含有するアルミニウム合金を用いる。また、前記アルミニウム合金の任意添加元素として、Cu、Mg、Zr、V、Tiを推奨できる。以下に各元素の含有意義と濃度範囲の限定理由について詳述する。
Feは、Al−Fe系金属間化合物の面積率を上記範囲内に制御するためにその濃度を0.05〜0.5質量%とする。Fe濃度が0.05質量%未満ではAl−Fe系金属間化合物量が少なくためにろう付性が低下し、かつ材料精製の点においても不経済である。一方、0.5質量%を超えるとAl−Fe系金属間化合物量が増えて耐食性が低下する。好ましいFe濃度は0.1〜0.45質量%である。
Mnは、Al−Fe−Mn系金属間化合物量を制御するためにその濃度を0.7〜1.2質量%とする。Mn濃度が0.7質量%未満ではAl−Fe−Mn系金属間化合物量が少なくなって上述した金属間化合物の面積率が得られず、ろう付性が低下する。一方、1.2質量%を超えるとAl−Fe−Mn系金属間化合物量が増えて耐食性が低下する。好ましいMn濃度は0.7〜1.2質量%である。
Siは、Al−Fe−Si系金属間化合物量を制御するためにその濃度を0.05〜0.4質量%とする。Si濃度が0.05質量%未満ではAl−Fe−Si系金属間化合物量が少なくなって上述した金属間化合物の面積率が得られず、ろう付性が低下する。一方、0.4質量%を超えるとAl−Fe−Si系金属間化合物量が増えて耐食性が低下する。好ましいSi濃度は0.1〜0.3質量%である。
Cu、Mg、Zr、V、Tiは耐食性に影響を及ぼす元素であり、これらのうちの少なくとも1種を添加することによって耐食性を向上させることができる。これらの元素を添加する場合、合金中のCu濃度が0.2〜0.7質量%、Mg濃度が0.05〜0.4質量%、Zr濃度が0.05〜0.4質量%、V濃度が0.05〜0.4質量%、Ti濃度が0.05〜0.4質量%となるように添加する。各元素の濃度が下限値未満では耐食性向上効果が得られず、上限値を超える添加は不経済である。各元素の特に好ましい濃度は、Cu:0.25〜0.65質量%、Mg:0.1〜0.35質量%、Zr:0.1〜0.3質量%、V:0.1〜0.3質量%、Ti:0.1〜0.3質量%である。
心材(15)を構成するアルミニウム合金の化学組成において、残部はAlおよび不可避不純物である。
心材を構成するアルミニウム合金の金属組織において、Al−Fe系金属間化合物の面積率は0.3〜1.5%とし、結晶の平均粒径は50〜500μmとする。
本発明において、「Al−Fe系金属間化合物」はAlおよびFeを含有する全て金属間化合物を意味し、心材(15)を構成するアルミニウム合金において形成されるAl−Fe系金属間化合物は、Al−Fe、Al−Fe−Si、Al−Fe−Mn、Al−Fe−Si−Mn等であり、これらのAl−Fe系金属間化合物の全てが面積率の規定の対象となる。前記Al−Fe系金属間化合物の面積率が0.3%未満ではろう材の濡れ広がりが悪くなってろう付性が低下する。一方、1.5%を超えるAl−Fe系金属間化合物が存在すると耐食性が悪くなる。好ましいAl−Fe系金属間化合物の面積率は0.3〜1%である。
また、結晶の平均粒径が50μm未満では結晶粒界が多くなってろう材が心材を侵食するためにろう材の流動性が悪くなる。一方、平均粒径が500μmを超えると結晶粒界が少なくなるので結晶粒界に存在するAl−Fe系金属間化合物量も少なくなり、その結果ろう材の流動性が悪くなる。従って、結晶の平均粒径が50μm未満および500μm超ではろう付性が低下する。結晶の平均粒径の好ましい範囲は50〜300μmである。
前記心材(15)にクラッドするろう材(16)は、Al−Si系合金であれば限定されず、好ましいSi濃度は6〜12質量%である。また、ろう付方法はフラックスろう付でも真空ろう付でも良い。真空ろう付の場合はMg濃度が0.5〜2質量%のAl−Si−Mg系合金を推奨でき、フラックスろう付の場合はMg濃度が0.1質量%以下のろう材を使用することが好ましい。いずれのろう材においても残部はAlおよび不可避不純物である。また、ろう付性を高めるために、これらのろう材にBiおよびSrのうちの少なくとも1種を添加することが好ましい。これらの元素を添加する場合、Al−Si系合金中のBi濃度が0.03〜0.3質量%、Sr濃度が0.005〜0.2質量%となるように添加することが好ましい。各元素の濃度の下限値未満ではろう付性向上効果が得られず、上限値を超える多量添加は不経済である。各元素の特に好ましい濃度は、Bi:0.05〜0.25質量%、Sr:0.01〜0.1質量%である。
また、二層構造のクラッド材(11)の心材(15)の他面側に部材をろう付する場合のろう材も上記クラッド材(11)のろう材(16)に準じる。例えば、図1の放熱装置(1)において、ヒートシンク(10)の外面にろう付する応力緩和層(三層クラッド材)(30)のろう材(32)(33)として上記組成のAl−Si系合金ろう材を推奨できる。
本発明のクラッド材は、心材の一方の面にのみろう材をクラッドした二層クラッド材であっても、心材の両面にろう材をクラッドした三層クラッド材であっても良い。図1に示したヒートシンク(10)を構成する2個の皿状部材(11)は心材(15)の一方の面にろう材(16)をクラッドした二層クラッド材で作製したものである。また、図2の放熱装置(2)のヒートシンク(40)を構成する2個の皿状部材のうち、電子素子搭載用基板(20)側(応力緩和層側)の皿状部材(41)は心材(15)の両面にろう材(16)(18)をクラッドした三層クラッド材であり、他方の皿状部材(11)は二層クラッド材である。
また、クラッド材の総厚およびろう材のクラッド率は限定されず、作製する熱交換器に応じて心材およびろう材の厚みを適宜設定することができる。
[クラッド材の製造方法]
本発明のクラッド材は、上述した化学組成の心材とろう材とを重ねて熱間圧延してクラッドし、要すればさらに所要厚さに圧延することにより作製される。この工程において、圧延前の心材に所定の均質化処理を施すことによって金属間化合物量および結晶粒径を制御し、金属組織においてAl−Fe系金属間化合物の面積率および結晶の平均粒径を本発明の範囲内とすることができる。
心材の均質化処理は600〜640℃で6〜24時間保持することにより行う。600℃未満または6時間未満では所期する金属組織が得られず、良好なろう付性と耐食性が得られない。一方、640℃または24時間の処理を行えば所期する金属組織が得られるので、それを超える高温または長時間の処理はエネルギー面で不経済である。均質化処理の好ましい温度は600〜630℃であり、好ましい処理時間は8〜20時間である。
さらに、圧延後のクラッド材に対して、350〜450℃で1〜12時間の焼鈍を行うことが好ましい。上記条件で焼鈍することによって所期する金属組織の形成をより確実なものとして、より高いろう付性および耐食性が得られる金属組織を形成することができる。特に好ましい焼鈍温度は360〜430℃であり、特に好ましい焼鈍時間は2〜10時間である。
[クラッド材で作製する熱交換器]
本発明のクラッド材を使用する熱交換器は、ろう付で作製され作動流体通路用の中空部を有するものである限りその種類は限定されない。熱交換器は腐食環境で使用されるのでいかなる種類の熱交換器も耐食性が要求されるからである。クラッド材を用いて作製する熱交換器として、電子素子冷却用熱交換器、蒸発器、凝縮器、ヒータコア、オイルクーラ、インタークーラ等を例示できる。また、熱交換器の形状、平板形状のクラッド材からの成形方法も限定されない。
本発明のクラッド材は従来の熱交換器用材料よりもろう材の濡れ拡がりが良くかつ耐食性が高いことから、広い面積でろう付される熱交換器、あるいはより厳しい腐食環境で使用される熱交換器の材料としての適用意義が大きい。そのような熱交換器の一つの例が、図1等に示した放熱装置(1)に組み込んで電子素子を冷却するヒートシンク(10)である。前記ヒートシンク(10)は応力緩和層(30)と面接合されるのでろう付面積が広く、かつ作動流体が水である場合は外面のみならず内面においても高い耐食性が要求されるからである。
本発明における面接合とは接合部の短辺が5mm以上の接合を意味する。接合部の形状は限定されず、幅が5mm以上の線状接合部、直径5mm以上の円形接合部は面接合に該当する。前記ヒートシンク(10)においては、ヒートシンク(10)の外面と応力緩和層(30)は面接合である。広い面積の面接合が良好にろう付されるのであるから、当然ながら幅が5mm未満の線状ろう付や直径5mm未満の点状ろう付は良好に行われる。前記ヒートシンク(10)の内面とインナーフィン(14)は線状接合であるが、当然ながら良好にろう付される。
[放熱装置]
放熱装置は、ヒートシンクが本発明のクラッド材で作製され、かつこのヒートシンクと電子素子搭載用基板とが直接的または応力緩和層を介して間接的に面接合されたものである限り各部材の材料や構造は限定されない。電子素子搭載用基板または応力緩和層はヒートシンクに面接合されているので、電子素子の熱をヒートシンクに排熱する際の熱抵抗が少なく、優れた放熱性能が得られる。
電子素子搭載用基板は絶縁基板(21)の少なくとも一方の面にアルミニウム回路層(22)が接合されていれば足り、他方の面は図1のようにアルミニウム層(23)が接合されていても良いし、図3および図4の電子素子搭載用基板(26)のように他面側にアルミニウム層が無く絶縁基板(21)が直接応力緩和層(30)(37)に接合されていても良い。さらには、絶縁基板が直接ヒートシンクに接合されている場合(図示なし)も本発明に含まれる。
電子素子搭載用基板において、絶縁基板(21)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。また、アルミニウム回路層(22)およびアルミニウム層(23)は導電性および伝熱性の良い高純度アルミニウムを推奨できる。
応力緩和層は、応力吸収空間となりかつろう付時に酸化膜の排出場所となる貫通穴を有するものが好ましいが、本発明は貫通穴の無い応力緩和層を排除するものではない。また、ヒートシンクと応力緩和層と接合するためのろう材の供給方法も限定されず、どちらか一方または両方の部材にろう材をクラッドして一体化しても良いし、ろう材をクラッドせずにろう材箔またはブレージングシートを介在させてもよい。図1の放熱装置(1)においては、応力緩和層(30)として心材(31)にろう材(32)(33)を一体化したクラッド材を用いている。図2の放熱装置(2)においては、ヒートシンク(40)の材料として心材(15)の両面にろう材(16)(18)を一体化した三層クラッド材(41)を用いている。図3の放熱装置(3)においては、ヒートシンク(10)と応力緩和層(36)との間にろう材箔(38)を配置している。図4の放熱装置(4)においては、ヒートシンク(10)と応力緩和層(37)との間に両面ブレージングシート(39)配置している。前記両面ブレージングシート(39)は応力緩和層(37)の貫通穴(34)に重なる位置に同寸の貫通穴(39a)が穿設されている。
クラッド材を用いてヒートシンクを作製し、他の部材とともに図1および図2に参照される放熱装置(1)(2)を作製した。
[実施例1〜9、比較例1〜4]
図1に示したヒートシンク(10)の皿状部材(11)の材料となる二層クラッド材を作製した。実施例1〜9および比較例1〜4においてクラッド材の心材(15)およびろう材(16)を構成するアルミニウム合金の化学組成は表1に示すとおりであり、クラッド材の製造条件は共通である。
心材用のアルミニウム合金塊に対して620℃×12時間の均質化処理を施し、ろう材用のアルミニウム合金塊と重ねて熱間圧延してクラッドし、総厚0.8mm、ろう材のクラッド率7%の二層クラッド材とし、このクラッド材を400℃×4時間の焼鈍を行った。
作製したクラッド材はプレス成形により図1に示す皿状部材(11)とした。
また、放熱装置(1)における他の部材は以下のとおりである。
波形のインナーフィン(14)は、厚さ1.2mmの3000系合金板を曲成したものである。絶縁基板(21)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。アルミニウム回路層(22)およびアルミニウム層(23)は純度99.99%以上の高純度アルミニウムからなる厚さ0.6mmの平板である。ろう材箔(24)(25)はAl−10質量%Si−1質量%Mg合金からなり、箔厚は30μmである。応力緩和層(30)は、心材(31)が1000系合金、ろう材(32)(33)がAl−10質量%Si−1質量%Mg合金からなり、総厚が1mm、ろう材(32)(33)のクラッド率が片面につき4%の三層クラッド材であり、28mm×28mmに切断しさらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴(34)を形成したものである。
作製したクラッド材(11)について、Al−Fe系金属間化合物の面積率および結晶の平均粒径を調べたところ、表1に示すものであった。
Figure 0005969235
さらに、各部材を図1に示す構造の積層体に仮組し、仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。ろう付した放熱装置(1)について面ろう付性および耐食性を下記の方法で試験し評価した。評価結果を表1に示す。
(面ろう付性)
ヒートシンク(10)と応力緩和層(30)の接合界面を超音波探傷装置で探傷し、応力緩和層(30)の貫通穴(34)を除く面積(28×28−12×π mm)に対して接合されている面積の割合を調べた。接合面積率が97%以上を「○」、95%以上97%未満を「△」、95%以下を「×」と評価した。
(耐食性)
ヒートシンク(10)の作動流体としてOY水(Cl:195ppm、SO 2−:60ppm、Fe3+、Cu2+:1ppm)を用い、80℃×8時間、常温×16時間を1サイクルとし、20サイクル(480時間)の腐食促進試験を行った。
前記腐食促進試験後のヒートシンク(10)の内面における腐食深さを測定し、腐食深さが300μm未満を「○」、300μm以上600μm未満を「△」、600μm以上を「×」と評価した。
[実施例10〜12]
図2に示したヒートシンク(40)の応力緩和層(35)側の皿状部材(41)の材料となる三層クラッド材を作製した。各例において、心材(15)および内面側ろう材(16)は実施例2と同じ材料であり、外面側(応力緩和層側)のろう材(18)は表2に示すとおりである。
実施例1等と同じ条件で心材用のアルミニウム合金塊に均質化処理を施し、心材材料の両面にろう材料に重ねて熱間圧延してクラッドし、総厚0.8mm、ろう材(16)(18)のクラッド率が片面につき7%の三層クラッド材とし、このクラッド材を実施例1〜9と同じ条件で焼鈍した。
作製したクラッド材はプレス成形により図2に示す皿状部材(41)とした。
放熱装置(2)の作製に際し、ヒートシンク(40)の下側の皿状部材(11)は実施例2と同じものを使用した。また、応力緩和層(35)は、心材(31)の一方の面にろう材(32)をクラッドした二層クラッド材を用い、28mm×28mmに切断しさらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴(34)を形成したものを用いた。この二層クラッド材の心材(31)およびろう材(32)の組成および心材(31)およびろう材(32)の厚みは実施例1〜9で用いた応力緩和層(30)を構成する三層クラッド材の心材(31)およびろう材(32)と同じである。その他の部材は実施例1等と同じである。
図2に示した仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付し、ろう付した放熱装置(2)について、面ろう付性および耐食性を実施例1等と同じ方法で試験し評価した。評価結果を表2に示す。
Figure 0005969235
[実施例13〜15]
実施例2と同じ心材材料とろう材材料を用い、心材の均質化条件およびクラッド後の焼鈍条件を変えて二層クラッド材を作製した。各例の均質化条件および焼鈍条件は表3に示すとおりである。
作製した二層クラッド材についてAl−Fe系金属間化合物の面積率および結晶の平均粒径を調べた。また、この二層クラッド材でヒートシンク(10)用の皿状部材(11)を成形した。この皿状部材(11)以外は実施例1等と同じ部材を用いて放熱装置(1)を仮組し、仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付し、面ろう付性および耐食性を実施例1等と同じ方法で試験し評価した。評価結果を表3に示す。
Figure 0005969235
表1〜3に示したとおり、本発明のクラッド材およびこのクラッド材を用いた熱交換器は広い面積のろう付においても良好なろう付が達成され、かつ耐食性が優れている。
本発明のクラッド材は、ろう付によって作製する熱交換器の材料として好適に用いることができる。
1、2、3、4…放熱装置
10、40…ヒートシンク(熱交換器)
11、41…皿状部材(クラッド材)
15…心材
16、18…ろう材
20、26…電子素子搭載用基板
21…絶縁基板
22…アルミニウム回路層
30、35、37…応力緩和層
34…貫通穴

Claims (9)

  1. アルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面にAl−Si系合金ろう材が積層されたクラッド材であって、
    前記心材を構成するアルミニウム合金は、Mn:0.7〜1.2質量%、Fe:0.05〜0.5質量%およびSi:0.05〜0.4質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、かつAl−Fe系金属間化合物の面積率が0.3〜1.5%であり、結晶の平均粒径が50〜500μmであることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
  2. 前記心材を構成するアルミニウム合金は、さらにCu:0.2〜0.7質量%、Mg:0.05〜0.4質量%、Zr:0.05〜0.4質量%、V:0.05〜0.4質量%およびTi:0.05〜0.4質量%のうちの少なくとも1種を含有する請求項1に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
  3. 前記Al−Si系合金ろう材は、Bi:0.03〜0.3質量%およびSr:0.005〜0.2質量%のうちの少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
  4. 心材がMn:0.7〜1.2質量%、Fe:0.05〜0.5質量%およびSi:0.05〜0.4質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
    前記心材に600〜640℃で6〜24時間の均質化処理を行い、この心材の少なくとも一方の面にAl−Si系合金ろう材を重ねてクラッド圧延し、心材におけるAl−Fe系金属間化合物の面積率を0.3〜1.5%とし、結晶の平均粒径を50〜500μmとすることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材の製造方法。
  5. 前記クラッド材に350〜450℃で1〜12時間の焼鈍を行う請求項4に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材の製造方法。
  6. 内部に中空部を有する熱交換器の外壁が請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムクラッド材で構成され、前記中空部内を循環する作動流体が水であることを特徴とする熱交換器。
  7. 前記外壁の外面に少なくとも1箇所の面接合されたろう付部を有する請求項6に記載の熱交換器。
  8. 請求項7に記載の熱交換器の外面、絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層が接合されている電子素子搭載用基板との間に、面接合されたろう付部を有することを特徴とする放熱装置。
  9. 前記熱交換器と電子素子搭載用基板との間に貫通穴を有する応力緩和層が介在し、この応力緩和層熱交換器の外面との間に面接合されたろう付部を有する請求項8に記載の放熱装置。
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