JP6115824B2 - サーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにサーミスタセンサ - Google Patents
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Description
上記従来のサーミスタ材料では、高いB定数が得られるものもあるが、抵抗値が低いという不都合があった。また、従来のサーミスタ材料は、耐熱性が低く、高温環境では抵抗値が大きく変化してしまい測定精度が低くなってしまうという問題もあった。さらに、従来のスピネル酸化物を用いたサーミスタ材料では、550℃以上の熱処理が必要であり、550℃以上の耐熱性を有する基材上にしか成膜ができないため、これよりも低い温度で成膜可能な材料が要望されている。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
このサーミスタ用金属窒化物材料では、サーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、一般式:TixAly(N1−wCw)z(0.0<w<0.3、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、高い抵抗と良好なB定数とが得られると共に高い耐熱性を有している。特に、炭素(C)が含まれることで、結晶内の窒素欠陥を炭素が埋める、もしくは、格子間炭素が導入される等の効果によって耐熱性が向上する。また、従来のスピネル酸化物のサーミスタ材料よりも低い温度で成膜が可能であり、耐熱性の高い絶縁性フィルム等にも成膜することが可能になる。
また、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.98を超えると、抵抗率が非常に高く、きわめて高い絶縁性を示すため、サーミスタ材料として適用できない。
また、上記「z」(すなわち、(N+C)/(Ti+Al+N+C))が0.4未満であると、金属の窒化量が少ないため、ウルツ鉱型の単相が得られず、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「z」(すなわち、(N+C)/(Ti+Al+N+C))が0.5を超えると、ウルツ鉱型の単相を得ることができない。このことは、ウルツ鉱型の単相において、窒素サイトにおける欠陥がない場合の化学量論比が、(N+C)/(Ti+Al+N+C)=0.5であることに起因する。
また、上記「w」(すなわち、C/(N+C))が0.3以上であると、ウルツ鉱型単相の結晶性の優れた膜を得ることができない。このことは、y/(x+y)=0、かつ、w=1では、NaCl型構造をもつTiC相であり、y/(x+y)=1、かつ、w=1では、ウルツ鉱型(六方晶系、空間群P63mc、No.186)とは異なるAl4C3構造(六方晶系、空間群R−3m、No.166)をとるAl4C3相であることを考慮すると理解できる。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
すなわち、このサーミスタセンサでは、絶縁性基材上に第1又は第2のいずれかの発明のサーミスタ用金属窒化物材料で薄膜サーミスタ部が形成されているので、高抵抗かつ高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部により、良好なサーミスタ特性を有したサーミスタセンサが得られる。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法では、Ti−Al合金ターゲットを用いて窒素及び炭素含有雰囲気中でアークイオンプレーティング(AIP)法により成膜する成膜工程を有しているので、上記TiAlNCからなる本発明のサーミスタ用金属窒化物材料を成膜することができる。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法では、成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射するので、膜の窒素欠陥が少なくなって耐熱性がさらに向上する。
すなわち、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料によれば、一般式:TixAly(N1−wCw)z(0.0<w<0.3、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、良好なB定数が得られると共に高い抵抗と高い耐熱性とを有している。また、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法によれば、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素及び炭素含有雰囲気中でアークイオンプレーティング法により成膜するので、上記TiAlNCからなる本発明のサーミスタ用金属窒化物材料を成膜することができる。
なお、上記点A,B,C,Dの各組成比(x,y,z)(atm%)は、A(15.0,35.0,50.0),B(1.0,49.0,50.0),C(1.2,58.8,40.0),D(18.0,42.0,40.0)である。
なお、膜の表面に対して垂直方向(膜厚方向)にa軸配向(100)が強いかc軸配向(002)が強いかの判断は、X線回折(XRD)を用いて結晶軸の配向性を調べることで、(100)(a軸配向を示すhkl指数)と(002)(c軸配向を示すhkl指数)とのピーク強度比から、「(100)のピーク強度」/「(002)のピーク強度」が1未満であることで、c軸配向が強いものとする。
上記一対のパターン電極4は、例えばCr膜とAu膜との積層金属膜でパターン形成され、薄膜サーミスタ部3上で互いに対向状態に配した櫛形パターンの一対の櫛形電極部4aと、これら櫛形電極部4aに先端部が接続され基端部が絶縁性基材2の端部に配されて延在した一対の直線延在部4bとを有している。
・炉内圧力:2.7Pa
・導入ガス:窒素(N2)ガス及びメタン(CH4)ガスの混合気体
・導入ガス中のメタンガス流量比率:3〜8vol%
・導入ガス中の窒素ガス流量比率:92〜97vol%
・炉内温度:370〜450℃
・アーク放電電流:90A
・基板(絶縁性基材)回転条件:ターゲットに対面状態でテーブルに固定し、テーブルを2周/分の回転速度で回転
という条件のもと、前記Ti−Al合金ターゲット12からAlとTiとの混合プラズマを発生させ、反応ガスである窒素ガス及びメタンガスと反応させることによって、絶縁性基材2の表面に、所定の組成および目標平均層厚の(Ti,Al)(N,C)層からなる炭窒化物層を蒸着形成することにより、サーミスタ用金属窒化物材料で形成された薄膜サーミスタ部3を成膜する。
また、メタルマスクを用いて所望のサイズにサーミスタ用金属窒化物材料を成膜して薄膜サーミスタ部3を形成する。なお、形成された薄膜サーミスタ部3に窒素プラズマを照射することが望ましい。例えば、真空度:6.7Pa、出力:200W及びN2ガス雰囲気下で、窒素プラズマを薄膜サーミスタ部3に照射させる。
また、このサーミスタ用金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
さらに、成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射するので、膜の窒素欠陥が少なくなって耐熱性がさらに向上する。
本発明の実施例及び比較例として、図5に示す膜評価用素子121を次のように作製した。なお、以下の本発明の各実施例では、TixAly(N1−wCw)zであるサーミスタ用金属窒化物を用いたものを作製した。
まず、上述したAIP法にて、様々な組成比のTi−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表1に示す様々な組成比で形成されたサーミスタ用金属窒化物材料の薄膜サーミスタ部3を形成した。
なお、比較としてTixAly(N1−wCw)zの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
(1)組成分析
AIP法で得られた薄膜サーミスタ部3について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表2に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。一部のサンプルに対して、最表面から深さ100nmのスパッタ面における定量分析を実施し、深さ20nmのスパッタ面と定量精度の範囲内で同じ組成であることを確認している。
AIP法で得られた薄膜サーミスタ部3について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表2に示す。また、25℃と50℃との抵抗値より負の温度特性をもつサーミスタであることを確認している。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
このように、Al/(Ti+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
表1に示す比較例1は、(N+C)/(Ti+Al+N+C)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
AIP法で得られた薄膜サーミスタ部3を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。一部のサンプルについては、入射角を0度とし、2θ=20〜100度の範囲で測定した。
なお、表1に示す比較例1は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
なお、グラフ中(*)は装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している。また、入射角を0度として、対称測定を実施し、そのピークが消失していることを確認し、装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであることを確認した。
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例に関して、さらに組成比と電気特性との相関を詳細に比較した。
Al/(Ti+Al)比が近い比率(実施例1〜5)のものに対し、C/(N+C)比の異なる材料がある。これらを比較すると、C/(N+C)比が大きくなるにつれて、25℃抵抗値が上昇する傾向がある。したがって、窒素と炭素との雰囲気をコントロールすることによって、抵抗値の調整が可能となる(C/(N+C)比と抵抗値との関係にばらつきがあるのは、XPS定量精度に起因した組成比ばらつきのためと考えられる。)。
次に、薄膜サーミスタ部3の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に500nm程度成膜された実施例(Al/(Ti+Al)=0.83,ウルツ鉱型、六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、図9に示す。
この実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
柱状結晶のアスペクト比を(長さ)÷(粒径)として定義すると、本実施例は10以上の大きいアスペクト比をもっている。柱状結晶の粒径が小さいことにより、膜が緻密となっていると考えられる。
表1に示す実施例及び比較例の一部において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表2に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同程度量のB定数をもつ実施例で比較したとき、Ti−Al−(N+C)系の方が抵抗値上昇率、B定数上昇率がともに小さく、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、Ti−Al−(N+C)系の方が優れている。なお、実施例3はa軸配向が強い材料である。
表1に示す実施例3の薄膜サーミスタ部3を成膜後に、真空度:6.7Pa、出力:200WでN2ガス雰囲気下で、窒素プラズマを照射させた。この窒素プラズマを実施した膜評価用素子121と実施しない膜評価用素子121とで耐熱試験を行った結果を、表3に示す。この結果からわかるように、窒素プラズマを行った実施例では、比抵抗の上昇率が小さく、膜の耐熱性が向上している。これは、窒素プラズマによって膜の窒素欠陥が低減され、結晶性が向上したためである。なお、窒素プラズマはラジカル窒素を照射するとさらに良い。
Claims (5)
- サーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、
一般式:TixAly(N1−wCw)z(0.0<w<0.3、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、
その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料。 - 請求項1に記載のサーミスタ用金属窒化物材料において、
膜状に形成され、
前記膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料。 - 絶縁性基材と、
該絶縁性基材上に請求項1又は2に記載のサーミスタ用金属窒化物材料で形成された薄膜サーミスタ部と、
少なくとも前記薄膜サーミスタ部の上又は下に形成された一対のパターン電極とを備えていることを特徴とするサーミスタセンサ。 - 請求項1又は2に記載のサーミスタ用金属窒化物材料を製造する方法であって、
Ti−Al合金ターゲットを用いて窒素及び炭素含有雰囲気中でアークイオンプレーティング法により成膜する成膜工程を有していることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法。 - 請求項4に記載のサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法において、
前記成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射する工程を有していることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法。
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