JP2016134490A - サーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサ - Google Patents

サーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサ Download PDF

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Abstract

【課題】 フィルム等に非焼成で直接成膜することができ、高い耐熱性を有して信頼性が高いサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサを提供すること。
【解決手段】 サーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、一般式:(M1−uAl(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。このサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法は、M−Y−Al合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜する成膜工程を有している。
【選択図】図1

Description

本発明は、フィルム等に非焼成で直接成膜可能なサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサに関する。
温度センサ等に使用されるサーミスタ材料は、高精度、高感度のために、高いB定数が求められている。従来、このようなサーミスタ材料には、Mn,Co,Fe等の遷移金属酸化物が一般的である(特許文献1〜3参照)。また、これらのサーミスタ材料では、安定なサーミスタ特性を得るために、550℃以上の焼成等の熱処理が必要である。
また、上記のような金属酸化物からなるサーミスタ材料の他に、例えば特許文献4では、一般式:M(但し、MはTa,Nb,Cr,Ti及びZrの少なくとも1種、AはAl,Si及びBの少なくとも1種を示す。0.1≦x≦0.8、0<y≦0.6、0.1≦z≦0.8、x+y+z=1)で示される窒化物からなるサーミスタ用材料が提案されている。また、この特許文献4では、Ta−Al−N系材料で、0.5≦x≦0.8、0.1≦y≦0.5、0.2≦z≦0.7、x+y+z=1としたものだけが実施例として記載されている。このTa−Al−N系材料では、上記元素を含む材料をターゲットとして用い、窒素ガス含有雰囲気中でスパッタリングを行って作製されている。また、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理を行っている。
また、サーミスタ材料とは異なる例として、例えば特許文献5では、一般式:Cr100−x−y(但し、MはTi、V、Nb、Ta、Ni、Zr、Hf、Si、Ge、C、O、P、Se、Te、Zn、Cu、Bi、Fe、Mo、W、As、Sn、Sb、Pb、B、Ga、In、Tl、Ru、Rh、Re、Os、Ir、Pt、Pd、Ag、Au、Co、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Alおよび希土類元素から選択される1種または2種以上の元素であり、結晶構造が主としてbcc構造または主としてbcc構造とA15型構造との混合組織である。0.0001≦x≦30、0≦y≦30、0.0001≦x+y≦50)で示される窒化物からなる歪センサ用抵抗膜材料が提案されている。この歪センサ用抵抗膜材料は、窒素量x、副成分元素M量yをともに30原子%以下の組成において、Cr−N基歪抵抗膜のセンサの抵抗変化から、歪や応力の計測ならびに変換に用いられる。また、このCr−N−M系材料では、上記元素を含む材料等のターゲットとして用い、上記副成分ガスを含む成膜雰囲気中で反応性スパッタリングを行って作製されている。また、必要に応じて、得られた薄膜を200〜1000℃で熱処理を行っている。
近年、樹脂フィルム上にサーミスタ材料を形成したフィルム型サーミスタセンサの開発が検討されており、フィルムに直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれている。すなわち、フィルムを用いることで、フレキシブルなサーミスタセンサが得られることが期待される。さらに、0.1mm程度の厚さを持つ非常に薄いサーミスタセンサの開発が望まれているが、従来はアルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、フィルムを用いることで非常に薄いサーミスタセンサが得られることが期待される。
しかしながら、樹脂材料で構成されるフィルムは、一般的に耐熱温度が150℃以下と低く、比較的耐熱温度の高い材料として知られるポリイミドでも200℃程度の耐熱性しかないため、サーミスタ材料の形成工程において熱処理が加わる場合は、適用が困難であった。上記従来の酸化物サーミスタ材料では、所望のサーミスタ特性を実現するために550℃以上の焼成が必要であり、フィルムに直接成膜したフィルム型サーミスタセンサを実現できないという問題点があった。そのため、非焼成で直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれているが、上記特許文献4に記載のサーミスタ材料でも、所望のサーミスタ特性を得るために、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理する必要があった。また、このサーミスタ材料では、Ta−Al−N系材料の実施例において、B定数:500〜3000K程度の材料が得られているが、耐熱性に関する記述がなく、窒化物系材料の熱的信頼性が不明であった。
また、特許文献5のCr−N−M系材料は、B定数が500以下と小さい材料であり、また、200℃以上1000℃以下の熱処理を実施しないと、200℃以内の耐熱性が確保できないことから、フィルムに直接成膜したフィルム型サーミスタセンサが実現できないという問題点があった。そのため、非焼成で直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれていた。
そこで、本願の発明者らは、非焼成でフィルムに直接成膜できるサーミスタ材料として、特許文献6に記載のサーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるサーミスタ用金属窒化物材料を開発した。
特開2000−068110号公報 特開2000−348903号公報 特開2006−324520号公報 特開2004−319737号公報 特開平10−270201号公報 特開2013−179161号公報
上記特許文献6に記載のサーミスタ用金属窒化物材料だけでなく、この材料と同様の特性が得られ、非焼成でフィルムに直接成膜できる他のサーミスタ材料の開発が望まれている。
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、フィルム等に非焼成で直接成膜することができ、高い耐熱性を有して信頼性が高いサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサを提供することを目的とする。
本発明者らは、窒化物材料の中でもAlN系に着目し、鋭意、研究を進めたところ、絶縁体であるAlNは、最適なサーミスタ特性(B定数:1000〜6000K程度)を得ることが難しいが、Alサイトを電気伝導を向上させる特定の金属元素で置換すると共に、特定の結晶構造とすることで、非焼成で良好なB定数と耐熱性とが得られることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
すなわち、第1の発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料は、サーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、一般式:(M1−uAl(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とする。
このサーミスタ用金属窒化物材料では、サーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、一般式:(M1−uAl(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
なお、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(M+Y+Al))が0.70未満であると、ウルツ鉱型の単相が得られず、NaCl型相との共存相又はNaCl型のみの結晶相となってしまい、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(M+Y+Al))が0.98を超えると、抵抗率が非常に高く、きわめて高い絶縁性を示すため、サーミスタ材料として適用できない。
また、上記「z」(すなわち、N/(M+Y+Al+N))が0.4未満であると、金属の窒化量が少ないため、ウルツ鉱型の単相が得られず、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「z」(すなわち、N/(M+Y+Al+N))が0.5を超えると、ウルツ鉱型の単相を得ることができない。このことは、ウルツ鉱型の単相において、窒素サイトにおける欠陥がない場合の化学量論比が0.5(すなわち、N/(M+Y+Al+N)=0.5)であることに起因する。
第2の発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料は、第1の発明において、膜状に形成され、前記膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
第3の発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料は、第1又は第2の発明において、膜状に形成され、前記膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向していることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向しているので、a軸配向が強い場合に比べて高いB定数が得られ、さらに耐熱性に対する信頼性も優れている。
第4の発明に係るフィルム型サーミスタセンサは、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルム上に第1から第3のいずれかの発明のサーミスタ用金属窒化物材料で形成された薄膜サーミスタ部と、少なくとも前記薄膜サーミスタ部の上又は下に形成された一対のパターン電極とを備えていることを特徴とする。
すなわち、このフィルム型サーミスタセンサでは、絶縁性フィルム上に第1から第3のいずれかの発明のサーミスタ用金属窒化物材料で薄膜サーミスタ部が形成されているので、非焼成で形成され高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部により、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルムを用いることができると共に、良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。
また、従来、アルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、本発明においてはフィルムを用いることができるので、例えば、厚さ0.1mmの非常に薄いフィルム型サーミスタセンサを得ることができる。
第5の発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法は、第1から第3のいずれかの発明のサーミスタ用金属窒化物材料を製造する方法であって、M−Y−Al合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中でスパッタ(反応性スパッタ)を行って成膜する成膜工程を有していることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法では、M−Y−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記(M1−uAlからなる本発明のサーミスタ用金属窒化物材料を非焼成で成膜することができる。
第6の発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法は、第5の発明において、前記成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射する工程を有していることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法では、成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射するので、膜の窒素欠陥が少なくなって耐熱性がさらに向上する。
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料によれば、一般式:(M1−uAl(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。また、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法によれば、M−Y−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記(M1−uAlからなる本発明のサーミスタ用金属窒化物材料を非焼成で成膜することができる。さらに、本発明に係るフィルム型サーミスタセンサによれば、絶縁性フィルム上に本発明のサーミスタ用金属窒化物材料で薄膜サーミスタ部が形成されているので、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルムを用いて良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。さらに、基板材料が、薄くすると非常に脆く壊れやすいセラミックスでなく、樹脂フィルムであることから、厚さ0.1mmの非常に薄いフィルム型サーミスタセンサが得られる。
本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサの一実施形態において、サーミスタ用金属窒化物材料の組成範囲を示す(Ti+Y)−Al−N系3元系相図である。 本実施形態において、フィルム型サーミスタセンサを示す斜視図である。 本実施形態において、フィルム型サーミスタセンサの製造方法を工程順に示す斜視図である。 本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサの実施例において、サーミスタ用金属窒化物材料の膜評価用素子を示す正面図及び平面図である。 本発明に係る実施例及び比較例において、25℃抵抗率とB定数との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例及び比較例において、Al/(Ti+Y+Al)比とB定数との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例において、Al/(Ti+Y+Al)=0.86としたc軸配向が強い場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。 本発明に係る実施例において、c軸配向が強い実施例を示す断面SEM写真である。
以下、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサにおける一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料は、サーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、一般式:(M1−uAl(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))の単相である。
例えば、M=Tiの場合、本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料は、一般式:(Ti1−uAl(0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。すなわち、このサーミスタ用金属窒化物材料は、図1に示すように、(Ti+Y(イットリウム))−Al−N系3元系相図における点A,B,C,Dで囲まれる領域内の組成を有し、結晶相がウルツ鉱型である金属窒化物である。
なお、上記点A,B,C,Dの各組成比(x,y,z)(atm%)は、A(15.0,35.0,50.0),B(1.0,49.0,50.0),C(1.2,58.8,40.0),D(18.0,42.0,40.0)である。
上述したように、ウルツ鉱型の結晶構造は、六方晶系の空間群P6mc(No.186)であり、TiとYとAlとは同じ原子サイトに属し、いわゆる固溶状態にある(例えば、Ti0.050.05Al0.9Nの場合、同じ原子サイトにTiとYとAlとが5%,5%,90%の確率で存在している。)。ウルツ鉱型は、(Ti,Y,Al)N四面体の頂点連結構造をとり、(Ti,Y,Al)サイトの最近接サイトがN(窒素)であり、(Ti,Y,Al)は窒素4配位をとる。
なお、Ti以外に、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)が同様に上記結晶構造においてTi、Yと同じ原子サイトに存在することができ、Mの元素となり得る。有効イオン半径は、原子間の距離を把握することによく使われる物性値であり、特によく知られているShannonのイオン半径の文献値を用いると、論理的にもウルツ鉱型の(V,Y)AlN,(Cr,Y)AlN,(Mn,Y)AlN,(Fe,Y)AlN,(Co,Y)AlNが得られると推測できる。
以下の表1にAl,Ti,Y,V,Cr,Mn,Fe,Coの各イオン種における有効イオン半径を示す(参照論文 R.D.Shannon, Acta Crystallogr., Sect.A, 32, 751(1976))。
ウルツ鉱型は4配位であり、Mに関して4配位の有効イオン半径を見ると、2価の場合、Co<Fe<Mnであり、3価の場合、Al<Feであり、4価の場合、Mn<Cr<Tiであり、5価の場合、Cr<Vとなっている。これらの結果より、(Al,Co)<Fe<Mn<Cr<(V,Ti)であると考えられる。(Ti及びV、もしくは、Co及びAlのイオン半径の大小関係は判別できない。)ただし、4配位のデータは価数がそれぞれ異なっているので、厳密な比較とはならないため、参考で3価イオンに固定したときの6配位(MN八面体)のデータを見ると、イオン半径が、Al<Co<Fe<Mn<Cr<V<Ti<Yとなっていることがわかる。(表1中のHSは高スピン状態、LSは低スピン状態を示す。)
本発明は、絶縁体のAlNのAlサイトをTi等に置き換えることにより、キャリアドーピングし、電気伝導が増加することで、サーミスタ特性が得られるものであるが、例えばAlサイトをTiに置き換えた場合は、AlよりTiの方が有効イオン半径が大きいので、その結果、AlとTiとの平均イオン半径は増加する。その結果、原子間距離が増加し、格子定数が増加すると推測できる。
AlNのAlサイトをTi等に置き換えることによる格子定数の増加は、X線データより確認されている。例えば、M=Tiとした場合の後述するX線回折データ(図7)は、AlNのピークよりも(Ti,Y)AlNのピークの方がピークが低角側にシフトしており、その結果より、AlNよりも格子定数が大きいことがわかる。また、AlNに相当するX線回折ピークが分裂しているわけではないので、その結果とあわせて、AlサイトにTiとYとが固溶していることがわかる。本試験で、格子定数が増加した主な理由は、Ti等MおよびYのイオン半径がAlのイオン半径よりも大きいため、(M+Y)/(M+Y+Al)比の増加により平均イオン半径が増加したためと考えられる。なお、ウルツ鉱型を維持するための、AlサイトへのMおよびYの置換量には固溶限界があり、(M+Y)/(M+Y+Al)が0.3よりも大きくなると(すなわち、Al/(M+Y+Al)が0.7より小さくなると)、ウルツ鉱型よりもNaCl型の方が生成されやすくなる。
また、V,Cr,Mn,Fe,Coのイオン半径は、AlとTiとの間の値をとるため、ウルツ鉱型の格子定数の観点から、AlサイトをTiで置き換えるよりも、V,Cr,Mn,Fe,Coで置き換えた方が、同じ置換量に対して格子定数の増加が少ないので、ウルツ鉱型結晶構造を維持しやすくなると考えられる。Ti同様、V,Cr,Mn,Fe,Coも3d電子、4s電子をもっており、Alサイトにキャリアドーピングすることが可能である。
本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料は、膜状に形成され、前記膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶である。さらに、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向していることが好ましい。
なお、膜の表面に対して垂直方向(膜厚方向)にa軸配向(100)が強いかc軸配向(002)が強いかの判断は、X線回折(XRD)を用いて結晶軸の配向性を調べ、(100)(a軸配向を示すhkl指数)と(002)(c軸配向を示すhkl指数)とのピーク強度比から、「(100)のピーク強度」/「(002)のピーク強度」が1未満である場合、c軸配向が強いものとする。
次に、本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料を用いたフィルム型サーミスタセンサについて説明する。このフィルム型サーミスタセンサ1は、図2に示すように、絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2上に上記サーミスタ用金属窒化物材料で形成された薄膜サーミスタ部3と、少なくとも薄膜サーミスタ部3上に形成された一対のパターン電極4とを備えている。
上記絶縁性フィルム2は、例えばポリイミド樹脂シートで帯状に形成されている。なお、絶縁性フィルム2としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも構わない。
上記一対のパターン電極4は、例えばCr膜とAu膜との積層金属膜でパターン形成され、薄膜サーミスタ部3上で互いに対向状態に配した櫛形パターンの一対の櫛形電極部4aと、これら櫛形電極部4aに先端部が接続され基端部が絶縁性フィルム2の端部に配されて延在した一対の直線延在部4bとを有している。
また、一対の直線延在部4bの基端部上には、リード線の引き出し部としてAuめっき等のめっき部4cが形成されている。このめっき部4cには、リード線の一端が半田材等で接合される。さらに、めっき部4cを含む絶縁性フィルム2の端部を除いて該絶縁性フィルム2上にポリイミドカバーレイフィルム5が加圧接着されている。なお、ポリイミドカバーレイフィルム5の代わりに、ポリイミドやエポキシ系の樹脂材料層を印刷で絶縁性フィルム2上に形成しても構わない。
このサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法及びこれを用いたフィルム型サーミスタセンサ1の製造方法について、図3を参照して以下に説明する。
まず、本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法は、M−Y−Al合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜する成膜工程を有している。
また、上記反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、1.5Pa未満に設定することが好ましい。
さらに、上記成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射することが好ましい。
より具体的には、例えば図3の(a)に示す厚さ50μmのポリイミドフィルムの絶縁性フィルム2上に、図3の(b)に示すように、反応性スパッタ法にて上記本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料で形成された薄膜サーミスタ部3を200nm成膜する。その時のスパッタ条件は、M=Tiとした場合、例えば到達真空度:5×10−6Pa、スパッタガス圧:0.33Pa、ターゲット投入電力(出力):300Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において窒素ガス分圧:20%とする。また、メタルマスクを用いて所望のサイズにサーミスタ用金属窒化物材料を成膜して薄膜サーミスタ部3を形成する。なお、形成された薄膜サーミスタ部3に窒素プラズマを照射することが望ましい。例えば、真空度:6.7Pa、出力:200W及びNガス雰囲気下で、窒素プラズマを薄膜サーミスタ部3に照射させる。
次に、スパッタ法にて、例えばCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を200nm形成する。さらに、その上にレジスト液をバーコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、図3の(c)に示すように、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部4aを有したパターン電極4を形成する。なお、絶縁性フィルム2上に先にパターン電極4を形成しておき、その櫛形電極部4a上に薄膜サーミスタ部3を成膜しても構わない。この場合、薄膜サーミスタ部3の下にパターン電極4の櫛形電極部4aが形成されている。
次に、図3の(d)に示すように、例えば厚さ50μmの接着剤付きのポリイミドカバーレイフィルム5を絶縁性フィルム2上に載せ、プレス機にて150℃,2MPaで10分間加圧し接着させる。さらに、図3の(e)に示すように、直線延在部4bの端部を、例えばAuめっき液によりAu薄膜を2μm形成してめっき部4cを形成する。
なお、複数のフィルム型サーミスタセンサ1を同時に作製する場合、絶縁性フィルム2の大判シートに複数の薄膜サーミスタ部3及びパターン電極4を上述のように形成した後に、大判シートから各フィルム型サーミスタセンサ1に切断する。
このようにして、例えばサイズを25×3.6mmとし、厚さを0.1mmとした薄いフィルム型サーミスタセンサ1が得られる。
このように本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料では、一般式:(M1−uAl(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
また、このサーミスタ用金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
さらに、このサーミスタ用金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸を強く配向させること、a軸配向が強い場合に比べて高いB定数が得られる。
本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法では、M−Y−Al合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記(M1−uAlからなる上記サーミスタ用金属窒化物材料を非焼成で成膜することができる。
さらに、成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射するので、膜の窒素欠陥が少なくなって耐熱性がさらに向上する。
したがって、本実施形態のサーミスタ用金属窒化物材料を用いたフィルム型サーミスタセンサ1では、絶縁性フィルム2上に上記サーミスタ用金属窒化物材料で薄膜サーミスタ部3が形成されているので、非焼成で形成され高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部3により、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルム2を用いることができると共に、良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。
また、従来、アルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、本実施形態においてはフィルムを用いることができるので、例えば、厚さ0.1mmの非常に薄いフィルム型サーミスタセンサを得ることができる。
次に、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物材料及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサについて、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、図4から図8を参照して具体的に説明する。
<膜評価用素子の作製>
本発明の実施例及び比較例として、図4に示す膜評価用素子121を次のように作製した。なお、以下の本発明の各実施例では、M=Tiとし、(Ti1−uAlであるサーミスタ用金属窒化物を用いたものを作製した。
まず、反応性スパッタ法にて、様々な組成比のTi−Y−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表2に示す様々な組成比で形成されたサーミスタ用金属窒化物材料の薄膜サーミスタ部3を形成した。その時のスパッタ条件は、到達真空度:5×10−6Pa、スパッタガス圧:0.1〜1.5Pa、ターゲット投入電力(出力):100〜500Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分圧を10〜100%と変えて作製した。
次に、上記薄膜サーミスタ部3の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を200nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部124aを有するパターン電極124を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価及び耐熱性試験用の膜評価用素子121とした。
なお、比較として(Ti1−uAlの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
<膜の評価>
(1)組成分析
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表2に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。一部のサンプルに対して、最表面から深さ100nmのスパッタ面における定量分析を実施し、深さ20nmのスパッタ面と定量精度の範囲内で同じ組成であることを確認している。
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をAlKα(350W)とし、パスエネルギー:46.95eV、測定間隔:0.1eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Ti+Y+Al+N)の定量精度は±2%、Al/(Ti+Y+Al)の定量精度は±1%である。
(2)比抵抗測定
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、4端子法(van der pauw法)にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表2に示す。また、25℃と50℃との抵抗値より負の温度特性をもつサーミスタであることを確認している。
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
これらの結果からわかるように、(Ti1−uAlの組成比が図1に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1500K以上のサーミスタ特性が達成されている。
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、図5に示す。また、Al/(Ti+Y+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、図6に示す。これらのグラフから、Al/(Ti+Y+Al)=0.7〜0.98、かつ、N/(Ti+Y+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。なお、図6のデータにおいて、同じAl/(Ti+Y+Al)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量が異なる、もしくは窒素欠陥等の格子欠陥量が異なるためである。
表2に示す比較例2は、Al/(Ti+Y+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。
このように、Al/(Ti+Y+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
表2に示す比較例1は、N/(Ti+Y+Al+N)が0.40に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
(4)薄膜X線回折(結晶相の同定)
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。一部のサンプルについては、入射角を0度とし、2θ=20〜100度の範囲で測定した。
その結果、Al/(Ti+Y+Al)≧0.7の領域においては、ウルツ鉱型相(六方晶、AlNと同じ相)の単一相であった。一方で、Al/(Ti+Y+Al)≦0.6の領域においては、NaCl型相(立方晶、TiNと同じ相)の単一相であった。0.6<Al/(Ti+Y+Al)<0.7においては、ウルツ鉱型相とNaCl型相との共存する結晶相の組成域が存在すると考えられる。
このように(Ti+Y)−Al−N系においては、高抵抗かつ高B定数の領域は、Al/(Ti+Y+Al)≧0.7のウルツ鉱型相に存在している。なお、本発明の実施例では、不純物相は確認されておらず、ウルツ鉱型の単一相である。
なお、表2に示す比較例1は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
次に、本発明の実施例は全てウルツ鉱型相の膜であり、配向性が強いことから、Si基板S上に垂直な方向(膜厚方向)の結晶軸においてa軸配向性とc軸配向性とのどちらが強いか、XRDを用いて調査した。この際、結晶軸の配向性を調べるために、(100)(a軸配向を示すhkl指数)と(002)(c軸配向を示すhkl指数)とのピーク強度比を測定した。
なお、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、同様にウルツ鉱型の単一相が形成されていることを確認している。また、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、配向性は変わらないことを確認している。
c軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、図7に示す。この実施例は、Al/(Ti+Y+Al)=0.86(ウルツ鉱型六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(100)よりも(002)の強度が非常に強くなっている。
なお、グラフ中(*)は装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している。また、入射角を0度として、対称測定を実施し、そのピークが消失していることを確認し、装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであることを確認した。
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例に関して、さらに結晶構造と電気特性との相関を詳細に比較した。
表2に示すように、Al/(Ti+Y+Al)比が近い比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である実施例の材料とa軸である実施例の材料とがある。
これら両者を比較すると、Al/(Ti+Y+Al)比がほぼ同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が大きいことがわかる。
また、Y/(Ti+Y)比が近い比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である実施例の材料とa軸である実施例の材料とがある。この場合も、Y/(Ti+Y)比が同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が大きいことがわかる。
また、N量(N/(Ti+Y+Al+N))に着目すると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、窒素量がわずかに大きいことがわかる。窒素欠陥のない理想的な化学量論比:N/(Ti+Y+Al+N)=0.5であることから、c軸配向が強い材料の方が、窒素欠陥量が少なく理想的な材料であることがわかる。
<結晶形態の評価>
次に、薄膜サーミスタ部3の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に280nm程度成膜された実施例(Al/(Ti+Y+Al)=0.86,ウルツ鉱型六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、図8に示す。
この実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
この写真からわかるように、本発明の実施例は緻密な柱状結晶で形成されている。すなわち、基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、Si基板Sをへき開破断した際に生じたものである。
なお、図中の柱状結晶サイズについて、図8のc軸配向が強い実施例は、粒径が15nmφ(±10nmφ)、長さ280nm程度であった。なお、ここでの粒径は、基板面内における柱状結晶の直径であり、長さは、基板面に垂直な方向の柱状結晶の長さ(膜厚)である。
柱状結晶のアスペクト比を(長さ)÷(粒径)として定義すると、本実施例は10以上の大きいアスペクト比をもっている。柱状結晶の粒径が小さいことにより、膜が緻密となっていると考えられる。
なお、熱酸化膜付きSi基板S上に200nm、500nm、1000nmの厚さでそれぞれ成膜された場合にも、上記同様、緻密な柱状結晶で形成されていることを確認している。
<耐熱試験評価>
表2に示す実施例及び比較例の一部において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表3に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同程度量のB定数をもつ実施例で比較したとき、(Ti+Y)−Al−N系の方が抵抗値上昇率、B定数上昇率がともに小さく、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、(Ti+Y)−Al−N系の方が優れている。なお、実施例1はc軸配向が強い材料である。
なお、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)の結果、比較例のTa−Al−N系材料の結晶相は、ウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなかった。比較例のTaAlN系がウルツ鉱型相でないがゆえ、ウルツ鉱型の(Ti+Y)−Al−N系の方が耐熱性が良好であると考えられる。
<窒素プラズマ照射による耐熱性評価>
表2に示す実施例1の薄膜サーミスタ部3を成膜後に、真空度:6.7Pa、出力:200WでNガス雰囲気下で、窒素プラズマを照射させた。この窒素プラズマを実施した膜評価用素子121と実施しない膜評価用素子121とで耐熱試験を行った結果を、表4に示す。この結果からわかるように、窒素プラズマを行った実施例では、比抵抗の上昇率が小さく、膜の耐熱性が向上している。これは、窒素プラズマによって膜の窒素欠陥が低減され、結晶性が向上したためである。なお、窒素プラズマはラジカル窒素を照射するとさらに良い。
このように上記評価において、N/(Ti+Y+Al+N):0.4〜0.5の範囲で作製すれば、良好なサーミスタ特性を示すことができることがわかる。しかしながら、窒素欠陥がない場合の化学量論比は0.5(すなわち、N/(Ti+Y+Al+N)=0.5)であり、今回の試験においては、窒素量が0.5より小さく、材料中に窒素欠陥があることがわかる。このため、窒素欠陥を補うプロセスを加えることが望ましく、その一つとして上記窒素プラズマ照射などが好ましい。
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施例では、M=Tiとして(Ti+Y)−Al−N系のサーミスタ用金属窒化物材料を作製したが、V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種をTiの少なくとも一部に対して置換可能であり、同様の特性を得ることができる。
1…フィルム型サーミスタセンサ、2…絶縁性フィルム、3…薄膜サーミスタ部、4,124…パターン電極

Claims (6)

  1. サーミスタに用いられる金属窒化物材料であって、
    一般式:(M1−uAl(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。0.0<u<1.0、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、
    その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料。
  2. 請求項1に記載のサーミスタ用金属窒化物材料において、
    膜状に形成され、
    前記膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料。
  3. 請求項1又は2に記載のサーミスタ用金属窒化物材料において、
    膜状に形成され、
    前記膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向していることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料。
  4. 絶縁性フィルムと、
    該絶縁性フィルム上に請求項1から3のいずれか一項に記載のサーミスタ用金属窒化物材料で形成された薄膜サーミスタ部と、
    少なくとも前記薄膜サーミスタ部の上又は下に形成された一対のパターン電極とを備えていることを特徴とするフィルム型サーミスタセンサ。
  5. 請求項1から3のいずれか一項に記載のサーミスタ用金属窒化物材料を製造する方法であって、
    M−Y−Al合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe及びCoの少なくとも1種を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜する成膜工程を有していることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法。
  6. 請求項5に記載のサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法において、
    前記成膜工程後に、形成された膜に窒素プラズマを照射する工程を有していることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物材料の製造方法。
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