JP6101948B2 - ずれ防止用コート剤 - Google Patents
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加工においては一般にレンズの表裏面からチャック装置によって挟むように保持するが、加工装置の切削刃はコバ側からレンズに接触してそのレンズを押圧するため、動摩擦係数の低いレンズを挟んでもその押圧力でチャック装置の軸位置がずれないように(つまりレンズの保持位置がずれないように)チャック先端とレンズ面との当接部位に粘着テープを貼着するようにしている。このような粘着テープによるレンズの保持位置のずれを防止する手段の一例として特許文献1を示す。
そのため、動摩擦係数が低い撥水コート層が成膜されているレンズの表裏面上に更にコートして成膜するためのずれ防止用のコート剤であって、粘着テープを貼着した例えば保持手段としてのチャック装置によってレンズの表裏面から挟んで保持して加工装置によって加工する際にチャック装置の軸ずれが生じにくくなるものが求められている。
1)撥水性のレンズ表面に対する表面張力を低下させて十分な濡れ性を示すこと。
2)加工においては加工部位に潤滑を兼ねて冷却水を噴霧するようにする。成膜されたコート剤は、水に不溶であると切削時に切削装置内を汚したりレンズを傷つける要因となるため水溶性であることが必要である。また水溶性であると玉型加工後のレンズより成膜されたコート剤の除去作業が有利になる。
3)フレームに枠入れする前提として加工直前にレンズメーターでアイポイント位置の度数を測定するので、透明でなければならないこと。
が必要条件となる。従来のレンズの加工の際の軸ずれを防止するためのコート剤の一例として例えば、特許文献2を挙げる。但し、特許文献2は上記要件の2)を満たしていない。
このような状況において上記1)〜3)を充足し、レンズの加工の際の軸ずれを防止できるコート剤が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、レンズの加工の際の軸ずれを防止できる水溶性で少なくとも硬化後に透明な外観を呈するずれ防止用コート剤を提供することにある。
パーフルオロ基を有する界面活性剤としては、例えばパーフルオロ基が分岐した次のような示性式(化1)で示されるものが挙げられる。化1の式は分岐したパーフルオロ基の一例を示す式である。親水基としてはオキシエチレンエーテル基を有する。オキシエチレンエーテル基を有する親水性樹脂はコート層を成膜した際に柔軟性を備えているため、保持した際のチャック装置の固定化を高めることとなりこの発明のコート層として好適である。この式ではオキシエチレン基は8以上の偶数でなければならない。6以下では親水基側の分子量が相対的に疎水基に対して少なすぎて本発明の界面活性剤として妥当ではなくなる。オキシエチレン基が多すぎても相対的に疎水基に対して多すぎて本発明の界面活性剤として妥当ではなくなる。化1の界面活性剤ではオキシエチレン基は22までが妥当である。
レンズには動摩擦係数の低い撥水コート層が成膜されることになるが、プラスチックレンズであれば一般にレンズ基材にハードコート層、反射防止層が成膜された上層に撥水コート層が成膜されることとなり、ガラスレンズであればハードコート層は不要で反射防止層が成膜された上層に撥水コート層が成膜される。また、レンズに反射防止層を成膜させずに撥水コート層を成膜させるようにしてもよい。
オルガノシロキサン系樹脂はアルコキシシランを加水分解し縮合させて得られるものが好ましい。
反射防止層は公知の蒸着法やイオンスパッタリング法等により形成される。反射防止層はプラスチックレンズではハードコート層の上層に成膜される。反射防止層は、光学理論に基づいた多層構造膜が採用される。膜材料としては、例えばSiO、SiO2、Al2O3、Y2O3、Yb2O3、CeO2、ZrO2、Ta2O5、TiO2、Nb2O5、インジウム含有酸化スズ(ITO)など一般的な無機酸化物を使用することができる。
反射防止層は特性の異なるこれらを材料とした薄膜を周知の手段(例えば蒸着)により定石に従って順に低屈折率層と高屈折率層を蒸着して形成される。最上層には低屈折率層が配置される。
撥水コート層はフッ素シラン化合物や反応性シリコーンを主成分とすることができる。 撥水コート層は非反応性溶媒に上記成分を混合させて調整した溶液を吸水層表面にディッピング法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法などの湿式法を用いて成膜させることが可能である。また、真空蒸着法やCVD法のような乾式法用いて成膜させることも可能である。
上記非反応性溶媒はフッ素系撥水コート用としては含フッ素溶剤が挙げられ、シリコーン系撥水コート用としてはヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤性溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤等が挙げられる。撥水コートの厚さは1〜20nm、好ましくは防汚性の向上のためにある程度の厚みを有するように形成が好ましい。防汚性に優れた高機能性レンズとしては、水接触角105度以上、動摩擦係数0.20以下であると汚れが付きにくく、また付着した汚れが拭き取りやすい撥水コートとして位置づけられている。
実施例1
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例1では水溶性樹脂としてメトローズ(信越化学株式会社製)を使用した。メトローズの主成分はメチルセルロースである。
また、実施例1では界面活性剤としてフタージェント251(株式会社ネオス社製)を使用した。フタージェント251の主成分は上記化1の式で示される示性式においてn=8のフッ素系界面活性剤である。
上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が1.5重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
ハードコート層及び反射防止層をそれぞれ成膜させた屈折率1.6、アッベ数40の光学特性を有するS度数−3.00D,C度数−1.00Dのプラスチックレンズに、次のように撥水コート層を成膜させた。
パーフルオロポリエーテル型シラン化合物A(信越化学工業株式会社製「KY−8」)とパーフルオロポリエーテル型シラン化合物B(信越化学工業株式会社製「X−71−166」)を固形分比率7対3の割合(A/B=7/3)で混合させ、フッ素系溶剤(住友スリーエム株式会社製「ノベックHFE−7200」)によって希釈して固形分濃度0.2%とした処理溶液を調整した。この処理溶液を反射防止層が形成されたレンズ基体上に浸漬時間30秒,引き上げ速度180mm/minでディッピングしてコートし、更に60度・湿度80%の恒温恒湿環境下で硬化を行い、撥水コート層を得た。この撥水コート層の水接触角は、2.0μLの水滴を防汚層に付着させて測定し、その平均値を求めたところ、107.9°であった。また、動摩擦係数は、新東科学株式会社製表面性測定機HEIDON−14Dにより不織布(リブドゥコーポレーションTRISEPTAIIIリヨセル100%)を用いて荷重200g、擦り速度100mm/minにて測定し、その平均値を求めたところ、0.05であった。
尚、以下の実施例及び比較例ではすべて同じレンズを使用した。
ずれ防止用コート剤にプラスチックレンズを室温で浸漬を行い、引き上げ速度180mm/minにてレンズ全面に塗膜した。予め50℃に保たれたオーブンにて乾燥を20分行い、樹脂溶液を硬化した。
尚、以下の実施例及び比較例ではすべて同様に成膜した。
結果を表1にまとめた。
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例2では水溶性樹脂としてポリビニルアルコール(重合度2000,けん化度98.5mol%以上,日本合成化学工業株式会社製)を使用した。
また、実施例2でも実施例1と同様に界面活性剤としてフタージェント251(株式会社ネオス社製)を使用した。
上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が5.0重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例3では水溶性樹脂として実施例1と同じメトローズ(信越化学株式会社製)を使用した。
また、実施例3では界面活性剤としてFTX−212M(株式会社ネオス社製)を使用した。FTX−212Mの主成分は上記化1の式で示される示性式においてn=12のフッ素系界面活性剤である。
上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が1.5重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例4では水溶性樹脂としてポリビニルピロリドンを使用した。
また、実施例4でも実施例1と同様に界面活性剤としてフタージェント251(株式会社ネオス社製)を使用した。
上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が5重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例5では水溶性樹脂としてポリエチレングリコールを使用した。
また、実施例5でも実施例1と同様に界面活性剤としてフタージェント251(株式会社ネオス社製)を使用した。
上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が20.0重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例6では水溶性樹脂として実施例1と同じメトローズ(信越化学株式会社製)を使用した。
また、実施例6では界面活性剤としてフタージェント250(株式会社ネオス社製)を使用した。フタージェント250の主成分は上記化1の式で示される示性式においてn=22のフッ素系界面活性剤である。
上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が1.5重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例7では水溶性樹脂として実施例1と同じメトローズ(信越化学株式会社製)を使用した。
また、実施例7では界面活性剤としてフタージェント100(株式会社ネオス社製)を使用した。フタージェント100の主成分は上記化2の式で示される示性式のフッ素系界面活性剤である。
上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が1.5重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
A[ずれ防止用コート剤について]
比較例1では水溶性樹脂として実施例1と同じメトローズ(信越化学株式会社製)を使用した。
また、比較例1では界面活性剤として水性塗料への分散性に優れ、有機化合物との相溶性を高める下記化学式で示されるポリエーテルシリコーンオイルを使用した。上記水溶性樹脂を樹脂分濃度が1.5重量%となるように60℃に加熱した純水に溶解させ、この樹脂水溶液に対して界面活性剤を全容量の0.05重量%となるように混合して室温(25℃)までゆっくり冷却してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表2にまとめた。
(a)成膜外観について
硬化後の光学レンズ表面に塗布している保護膜の外観を目視によって検査し、塗り斑や膜厚にしたときの状態について評価した。評価基準は次の通りである。
◎:レンズ全体に成膜されており、厚い膜を成膜しても外観が良好である。
○:レンズ全体に成膜されている。
△:保護膜が部分的に剥がれてしまっている。
×:保護膜が成膜されていない
ここに、◎と○は使用にまったく問題がない膜状態であり、特に◎は厚膜化してもレベレング性が維持されきれいに成膜できる非常に良好な状態である。成膜外観のよさは玉型加工評価と連動する傾向である。
(b)玉型加工評価について
レンズの光学中心にレンズ加工用両面テープ(住友3M株式会社製 LEAPIIIテープ)を貼り付ける。その後チャック装置を備えた玉摺り加工機(株式会社NIDEK製 LE−9000SX)を用いてレンズの玉型加工を行った。玉型加工前後の光学中心における軸ズレと中心ズレ量を評価した。
◎:軸ズレ、中心ズレなし
○:軸ズレ2°以内でかつ、中心ズレ1mm以内
△:軸ズレ2〜5°以内でかつ、中心ズレ1〜2mm以内
×:軸ズレ5°以上、もしくは中心ズレ2mm以上
(c)透明性
保護膜を成膜した光学レンズをレンズメーター(株式会社NIDEK製 LM−990A)にて度数測定を行った。樹脂膜の形成前後における光学中心の位置及び度数がほぼ同一であるか評価した。
○: 光学中心の位置が1mm以内であり、度数が±0.05D以内であった。
×: 光学中心の位置が1mm超過もしくは、度数が±0.05D超過であった。
しかし、実施例4及び5では透明性は良好であるものの成膜外観において厚膜化できるほどではなかった。また、界面活性剤のみ実施例1とは異なるコート剤として調整した実施例6及び7では透明性は良好であるものの成膜外観に部分的に剥がれが生じ、実施例7では軸ずれも他の実施例よりも若干劣る結果となった。実施例6については、ポリオキシエチレンエーテル部分が大きいために界面活性剤の親水性が強いためにずれ防止用コート内にまで分散することとなり、コートの硬度が低くなったことが要因と考えられる。
また実施例7については、スルホン酸ナトリウム塩の親水性が高いために、その硬化が抑制され成膜が全面にできなく、チャックが緩くなったものと考えられる。
一方、比較例1では成膜外観において成膜できない状態であり、玉型加工評価も軸ずれが大きく防止用コート剤として妥当ではないという結果になった。比較例1は界面活性剤にフッ素基を有していないためにレンズ撥水コート表面とずれ防止用コート剤水溶液間の表面張力を十分に下げることができないため、成膜ができない状態になったと考えられる。
Claims (5)
- 撥水コート層が成膜されているレンズのコバを切削加工してフレームに応じた形状とする際に保持手段によって保持される前記レンズの表裏面の保持位置のずれを防止するために前記レンズの表裏面の少なくとも一方にコートするずれ防止用コート剤であって、
親水性樹脂とパーフルオロ基を有する界面活性剤とを主成分とする水溶液からなり、少なくとも成膜後に透明な外観を呈することを特徴とするずれ防止用コート剤。 - 前記界面活性剤のパーフルオロ基は分岐していることを特徴とする請求項1に記載のずれ防止用コート剤。
- 前記界面活性剤はポリオキシエチレンエーテル基を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のずれ防止用コート剤。
- 前記親水性樹脂はポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のずれ防止用コート剤。
- 前記親水性樹脂はメチルセルロースであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のずれ防止用コート剤。
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