以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る鍵盤装置の縦断面図である。この鍵盤装置は、一例として電子鍵盤楽器に適用される。この鍵盤装置は、棚板15上に、複数の鍵10(白鍵10W及び黒鍵10B)が、並列に配列される。鍵10は各々、鍵支点Fk(FkW、FkB)で上下方向に揺動自在に配設される。図1の右側が奏者側であって前方、左側が後方である。鍵10は前部14が押離操作される。
鍵10は、前端から鍵支点Fkのやや後方の部分までは真っ直ぐであるが、後側の部分の途中で下方に屈曲していて段差形状となっている。この段差形状における下側となっている下部領域12に後端部13が属する。棚板15は、鍵10の上記屈曲した部分に対応して上面位置が低く形成され、棚板15の第11上面15aに比し後方の第2上面15bが低くなっている。第2上面15bには鍵ストッパ18が配設される。
鍵10の後端部13の上面13aはほぼ水平であり、そのいずれの箇所も鍵支点Fkの位置より低くなっている。後端部13の上面13aには、キャプスタン部11が設けられている。各鍵10に対応してアクション機構ACTが設けられる。各アクション機構ACTは、対応する鍵10の後端部13の上面13aの上方に配設される。各アクション機構ACTの構成は白鍵10W及び黒鍵10Bについて共通である。
図2は、1つのアクション機構ACTを示す図1の拡大図である。アクション機構ACTは、主にウィッペン20、ハンマアセンブリであるハンマ体HM、及びジャック30を備える。棚板15に固定されたセンターレール23の下端に、ウィッペンフレンジ22が固定される。ウィッペンフレンジ22の下端に、前後方向に長いウィッペン20の後端がウィッペン回動軸Fwを介して軸支され、ウィッペン20の前端部が上下方向(同図時計及び反時計方向)に回動自在になっている。ウィッペン20の前部下部には、ウィッペンクロス21が設けられる。ウィッペン20は、対応する鍵10のキャプスタン部11によってウィッペンクロス21を介して突き上げ駆動される。ウィッペン20のうちキャプスタン部11に直接当接する部分がウィッペンクロス21の被駆動点21aである。被駆動点21aは、押離鍵行程において前後に少し変位する。
ウィッペン20の、ウィッペン回動軸Fwより前側の部分にジャックフレンジ34が突設されている。ジャックフレンジ34の上端に、ジャック30が、ジャック回動軸Fjを中心に前後方向(同図時計及び反時計方向)に回動自在に軸支される。ジャック30は側面視形状がL字状に形成されており、上方に伸びる一腕がジャック大30Aで、水平方向前方に伸びる他腕がジャック小30Bとなっている。ジャック小30Bとウィッペン20の前端部との間には、ジャックスプリング25が介装され、これによって、ジャック30にはウィッペン20に対して同図反時計方向の回動習性が付与されている。
ウィッペン20の前端部にはさらに、バックチェックワイヤ(BC棒)27が前方に傾斜して植設されている。バックチェックワイヤ27の上端にはハンマ体HMのキャッチャ49を弾性的に受け止めるバックチェック28が配設されている。
ハンマ体HMは、主にバット40及びハンマシャンク43を備える。バット40は、基部42及び被打部41からなる。センターレール23の肩部に固定されたバットフレンジ24に、バット40が、ハンマ回動軸Fhを介して同図時計及び反時計方向に回動自在に配設されている。ハンマシャンク43は、真直な棒状に形成されて基部42から延設され、非押鍵状態において自由端部43bの側にいくにつれて下方に傾斜している。
基部42の後部にはシャッタ片46が取り付けられている。基部42の前部下部にはキャッチャ49が設けられる。被打部41の下部後部にはバットフェルト44が取り付けられている。ハンマ体HMは、図2に示す非押鍵状態において、その自重によって全体として同図時計方向に付勢されている。また、基部42の前側にはバットスプリング45が設けられ、バット40に対して復帰方向(同図時計方向)に付勢力が付加されている。
非押鍵状態においては、鍵10の後端部13が鍵ストッパ18に当接して鍵10の初期位置が規定され、キャプスタン部11にウィッペン20のウィッペンクロス21が当接することで、ウィッペン20の初期位置が規定される。また、本鍵盤楽器にはハンマーレール62が設けられ、ハンマーレール62にフェルト63が固着されている。ハンマ体HMの初期位置は、ハンマシャンク43がハンマーレール62にフェルト63を介して当接することで規定される。
さらに、初期位置にあるハンマ体HMの被打部41は、ジャック大30Aの先端部であるジャック30の先端部30aにも当接している。ジャック30の初期位置は、バットフェルト44に先端部30aが当接することで規定される。
ジャック30のジャック小30Bの上方には、脱進機能を果たすレギュレーティングボタン26が、センターレール23に対して固定的に配設されている。レギュレーティングボタン26は、押鍵行程において、ジャック小30Bと当接してジャック30の上昇運動をその上昇途中において阻止し、ジャックスプリング25に抗して、ウィッペン20に対して相対的にジャック30を時計方向に回動させる。これによりジャック30がバット40の被打部41の下部から一時的に前方に脱進するように構成されている。
また、センサ部16が、本楽器に対して固定的に配設されている。センサ部16は、フォトセンサ等の光学的センサであり、シャッタ片46の移動により変化する光量に応じた信号を出力する。すなわち、ハンマ体HMの動作検出を介して各鍵10の動作を検出する。なお、不図示の鍵センサで鍵10の動作を検出し、その検出結果とセンサ部16の検出結果とを併せて各鍵10の動作を検出するようにしてもよい。また、本楽器には、不図示の楽音発生部が設けられる。この楽音発生部は、押鍵操作に応じてセンサ部16から出力された検出信号に基づいて楽音信号を生成し、音響を発生させる。なお、ハンマ体HMまたは鍵10の動作を検出できるセンサ部であればよく、光学的センサ以外の検出機構を採用してもよい。
また、ハンマ体HM用の上限ストッパ17が、本楽器に対して固定的に配設されている。ハンマ体HMは、基部42が上限ストッパ17に当接することで、押鍵方向に対応する回動方向における限界位置が規定される。また、棚板15において、鍵10の前部14の下方には押鍵ストッパ61が設けられる(図1参照)。鍵10の押鍵方向の限界位置は、前部14が押鍵ストッパ61に当接することで規定される。ウィッペン20の、回動方向における位置は、被駆動点21aでの当接状態が維持されている限りにおいて、対応する鍵10の揺動位置によって定まる。
回動方向の呼称については次のように定める。ウィッペン20、ジャック30、ハンマ体HMのいずれも、非押鍵状態における位置が初期位置となり、押鍵の往行程において初期位置から回動していく方向が往方向の回動となる。そして、初期位置に復帰していく方向が復方向の回動となる。
また、ジャックストッパ32が、センターレール23に対して固定的に設けられる。ジャックストッパ32の上部後部には、ストッパフェルト33が固着される。一方、ジャック30の先端部30aの前部には、側面視三角形の突設係合部31が設けられている。突設係合部31は、樹脂等でジャック30と一体に形成してもよいし、ジャック30とは別体に形成して先端部30aに固着してもよい。
ジャック30の突設係合部31の前側の面である当接部31aは、前方下方を向いた平坦な斜面となっている。また、ストッパフェルト33の後ろ側の面である受け部33aは、後方上方を向いた平坦な斜面となっていて、当接部31aと対向している。前後方向の位置でみると、当接部31a及び受け部33aのいずれも、ジャック回動軸Fjに近い側ほど後ろ側に位置し、すなわち、初期位置におけるジャック30の先端部30aの位置に近くなるように形成されている。ウィッペン20に対するジャック30の相対的な往方向における回動位置は、当接部31aが受け部33aに当接することで規定される。
図3(a)〜(d)は、押鍵行程におけるアクション機構ACTの要部の動きを示す遷移図である。図4(a)は、ジャック30の先端部30aの突設係合部31とジャックストッパ32のストッパフェルト33の受け部33aとの関係を示す模式図である。図4(b)は、押離鍵の行程におけるジャック30の先端部30aのある所定の点の側面視による移動軌跡を示す図である。
上記のような構造からなるアクション機構ACTの動作について説明する。図1、図2に示す非押鍵状態から、鍵10の前部14を押下操作して後端部13を上昇させると、キャプスタン部11がウィッペン20を突き上げる。すると、ウィッペン回動軸Fwを中心にウィッペン20の前端部が上昇回動し、これにより、ジャック30が上昇する。ジャック30が上昇するとバット40の被打部41が突き上げられ、ハンマ回動軸Fhを介してハンマ体HMが往方向(反時計方向)に回動していく。
やがて、ジャック小30Bがレギュレーティングボタン26に当接すると(図3(a))、ジャック30がウィッペン20に対して往方向(時計方向)に回動し始める。そして、ジャック30の先端部30aがバット40の被打部41から逃げる方向(前方)に変位して、被打部41から離間したとき、脱進となる。脱進の前の段階でセンサ部16とシャッタ片46とによって押鍵操作が検出される。通常または強押鍵の場合は、脱進後、ハンマ体HMは自由に回動していき、基部42が上限ストッパ17に当接して跳ね返る(図3(c))。ただし、弱押鍵の場合は、ハンマ体HMは上限ストッパ17に当接しない。
脱進後、ハンマ体HMが復方向に回動すると、ハンマ体HMのキャッチャ49がバックチェック28に弾性的に受け止められてバックチェック状態となり(図3(d))、押鍵状態が維持される限りはアクション機構ACTの全体がその姿勢で安定する。ここで、押鍵の往行程において押鍵ストロークの終端位置近くまで押鍵がされると、ジャック30の突設係合部31とジャックストッパ32のストッパフェルト33とが当接する。この当接は、バックチェック状態となるのとほぼ同じタイミングで生じる。ストッパフェルト33は弾性を有するので、少し縮んでつぶれた状態となる。
ジャック30は、ジャック小30Bがレギュレーティングボタン26に当接している限りにおいては、レギュレーティングボタン26よって復方向への回動が規制される。離鍵がなされると、ジャック30は、ジャック小30Bとレギュレーティングボタン26とが離間する分だけ、復方向への回動が許容され、ジャックスプリング25による付勢力で復帰できることになる。仮に、バックチェック状態が安定的に維持された後に離鍵された場合は、従来と同様に、ジャック30は、上記許容される回動量だけ速やかに戻って、先端部30aが再び被打部41の下に入り込むことができる。
しかしながら、押鍵から離鍵までの動作の態様は様々であり、従来、ジャック30に往方向へ回動する慣性が残った状態で離鍵がなされた場合等、離鍵時に、ジャック30が上記許容される回動量だけ戻れない場合があった。ところが、本実施の形態では、ジャック30の当接部31a及びジャックストッパ32の受け部33aが、上記のような斜面に形成されているため、復行程において突設係合部31が受け部33aに当接(摺接)係合する限りにおいてはガイドされることになる。具体的には、ガイドされることによる前後方向における前側の限界位置については、先端部30aは、低い位置にあるときほど後方、すなわち、初期位置における先端部30aの位置に近くなる。
非押鍵状態では、当接部31aと受け部33aとの間には間隙が存在する(図2参照)。図4(a)に示すように、押鍵終了(押し切り)状態においては、突設係合部31がストッパフェルト33を少しつぶすように当接状態となる(突設係合部31A)。離鍵行程において、当接部31aが受け部33aに当接しながらウィッペン20及びジャック30が復帰する際には、突設係合部31が徐々に後方に変位していく(突設係合部31B)。
図4(b)に示すように、非押鍵状態(図2が対応)、ジャック30の脱進開始位置(図3(a)が対応)、押し切り位置(図3(d)が対応)における、ジャック30の先端部30aのある所定の点の位置を、それぞれ始点Ps、脱進開始点Pr、終点Peとする。相対的な位置を考察するので、「所定の点」はどこでもよいが、例えば、先端部30aの最上端且つ最後端の点とする。押鍵の往行程においては、上記所定の点は、往軌跡L1を辿って始点Ps、脱進開始点Pr、終点Peへと遷移する。
従来の鍵盤装置、及び本実施の形態のいずれでも、バックチェック状態が安定的に維持された後に離鍵されたような場合は、所定の点は、往軌跡L1に近い軌跡を逆方向に辿る。しかし、従来の鍵盤装置においては、離鍵行程(復行程)においては、最も前側の軌跡を辿る場合としては、復軌跡L2を辿って始点Psに復帰する場合があった。ただし厳密にみて、個々の鍵盤装置の設計上、復行程においてジャックがジャックストッパに当たる場合は、その反動で後ろ側(図4(b)でいう左側)にジャックが戻される。そのため、図4(b)に示すものよりも復軌跡L2は少し内側(図4(b)でいう左側)となる。
ここで、ジャック30が被打部41を適切に駆動するためには、ジャック30の先端部30aが被打部41の適切な位置、すなわち、脱進に対応する位置よりも初期位置に近い側の位置で被打部41の下にもぐり込む必要がある。そのようになるためには、ウィッペン20及びジャック30が往方向に回動するときに、所定の点が図4(b)に示す領域S0を側面視において下から上に横切ればよい。ここで領域S0は、前後方向の範囲を示す線であるが、左右方向の幅を考慮すると曲面として考えてもよい。
従来の鍵盤装置においては、押鍵状態から鍵10を少しだけ戻して直ぐに押鍵するような、同一鍵の速い連打の場合、所定の点が領域S0を横切らないで次の押鍵がなされて、被打部41の突き上げに失敗することがある。
ところが本実施の形態においては、当接部31aと受け部33aとの摺接によって強制的に規制される所定の点の前方限界位置(前後方向においてとり得る前側の限界位置)は、限界軌跡L3である。限界軌跡L3は復軌跡L2に比し領域S0に近くなっている。当接部31aと受け部33aとは押鍵往行程における押鍵終了のはるかに前に当接してしまうとジャック30の変位軌跡が適切でなくなるため、限界軌跡L3は、そのようなことが生じない範囲でなるべく領域S0の側(後方)に寄せて設計している。
当接部31aが受け部33aに当接することにより規制される先端部30aの前後方向における前側の限界位置(所定の点でいえば限界軌跡L3の前後方向における位置)は、先端部30aが低い位置にあるときほど、初期位置における先端部30aの位置(前後方向における始点Psの位置)に近くなるように構成されている。図4(b)を参照すれば、前後方向の位置については、限界軌跡L3は、低い位置ほど後方となり、始点Psの位置に近くなっている(距離D3が短くなっている)。
なお、実際には、ジャック30が復帰する行程において、当接部31aが受け部33aに当接すると、ジャック30に復方向への回動力が付与される(勢いがつく)。そのため、多くの場合において、連打の場合の往行程において、所定の点は限界軌跡L3よりも後方の軌跡を辿り、連打時にも領域S0を横切ることになる。このように、離鍵時においてジャック30の被打部41の下への戻り動作が速くなっている。
ところで、図1に示すように、側面視においてハンマ体HMの重心位置CGを、非押鍵状態(初期位置)、回動の往方向における限界位置(基部42が上限ストッパ17に当接した位置)でそれぞれ、重心位置CG1、重心位置CG2とする。重心位置CGとハンマ回動軸Fhとを通る直線Lhが水平面48に対して成す鋭角θhは、押離鍵の全行程において45°より小さい。これにより、ハンマ体HMの自重による復帰力は、アップライトよりもむしろグランドピアノに近いものとなり、離鍵時におけるハンマ体HMの復帰性が高まっている。なお、鋭角θhを考察する場合の重心位置CGは、図5、図6で後述する質量部47をハンマシャンク43に設ける場合においては質量部47を含めたハンマ体HM全体の質量分布から考える。
また、ハンマシャンク43の軸線43aが水平面48に対して成す鋭角θsも、押離鍵の全行程において45°より小さい。すなわち、ハンマシャンク43が横倒し状態に配設されたことにより、アクション機構ACTの高さ寸法がアップライト型のものに比べて極めて小さくなっている。特に、鋭角θsが、押離鍵の行程途中に0°となる。つまり、軸線43aの傾斜方向が押離鍵の行程途中に変わる。これにより、アクション機構ACTの高さ寸法を効率よく小さくすることができる。
また、鍵10の後端部13の上面13aは鍵支点Fkの位置より低く、しかも、被駆動点21aが、非押鍵状態において鍵支点Fkよりも低い位置に位置する。そして、上面13aの上方にアクション機構ACTが配設されたので、アクション機構ACTの上端位置を低く抑えることができる。特に、上記したハンマシャンク43の横倒配置と相まって、アクション機構ACTの上端位置が極めて低くなっている。
図4(c)は、非押鍵状態におけるハンマ体HMの被打部41及びジャック30の先端部30aの拡大図である。図4(c)に示すように、被打部41の下部の側面視形状は、単なる弧状ではなく、鈍角の内角を成す2段の平坦面を有している。すなわち、非押鍵状態において水平な第1平坦面41bと前方下方を向いた第2平坦面41cとが、鈍角である角度φを保って形成される。第1平坦面41bと第2平坦面41cとの間は、微小なR形状のR部41aで滑らかに結ばれている。
このような形状により、第1平坦面41bがジャック30の先端部30aにより突き上げ駆動され、R部41aから逃げた瞬間に脱進となる。第2平坦面41cが設けられたことで、R部41aを境に前側が上方に傾斜しているので、脱進時には押鍵に要する力が急減する。これにより、従来と比べて明りょうな脱進感が得られる。
本実施の形態によれば、鍵支点Fkの位置より低い鍵10の後端部13の上面13aの上方にアクション機構ACTが配設され、しかも、非押鍵状態において被駆動点21aが鍵支点Fkよりも低いので、アクション機構ACTの上端位置を低く抑えることができる。また、被駆動点21aだけでなくウィッペン回動軸Fwも十分に低い位置に配置できるので、従来のアップライトピアノのアクション機構に比べると、被駆動点21aにおける前後方向の摺動量(キャプスタン部11とウィッペンクロス21との間の摺動量)が少なくなるよう設計でき、ウィッペン20の駆動効率を高めるような設計を容易にすることができる。
本実施の形態によればまた、側面視において、ハンマ体HMの重心位置CGとハンマ回動軸Fhとを通る直線Lhが水平面48に対して成す鋭角θhは、押離鍵の全行程において45°より小さい。これにより、離鍵時におけるハンマ体HMの復帰性を高めて連打性を向上させると共に、アクション機構ACTの高さ寸法を小さく抑えることができる。また、ハンマシャンク43の軸線43aが水平面48に対して成す鋭角θsが、押離鍵の全行程において45°より小さく、特に、鋭角θsが、押離鍵の行程途中に0°となるので、アクション機構ACTの高さ寸法を効率よく小さく抑えることができる。
このように、アクション機構ACTの高さ寸法を低く抑えることで、鍵盤装置を上下方向にコンパクトにすることができる。さらに、ハンマシャンク43は前方に延設され、自由端部43bがバット40よりも常に前方に位置するので、鍵盤装置を前後方向にもコンパクトにすることができる。
本実施の形態によればまた、当接部31a及び受け部33aは、ジャック回動軸Fjに近い側ほど、初期位置におけるジャック30の先端部30aの位置に近くなるように形成されているので(図2)、当接部31aが受け部33aに当接することにより規制される先端部30aの前後方向における前側の限界位置が、先端部30aが低い位置にあるときほど、初期位置における先端部30aの位置に近くなる。よって、離鍵時にウィッペン20が戻る際に、ジャック30をジャックストッパ32に当接させて強制的に初期位置の方向に戻し、バット40の下への戻り動作を速くさせて、連打性の向上に寄与することができる。上記した、鋭角θhが押離鍵の全行程において45°より小さいことで、ハンマ体HMの復帰性が高められていることと相まって連打性を向上させることができる。
ところで、本実施の形態では、ハンマ体HMにおいてハンマシャンク43は前後方向のうち前方に向かって延設された。しかし、図5に変形例を示すように、アコースティックグランドピアノと同様に後方に向かって延設してもよい。
図5は、変形例の鍵盤装置の縦断面図である。この変形例では、図1の構成に対して、アクション機構ACTの向きを前後方向で逆にしている。アクション機構ACTやそれに付随する構成要素の構成は、前後方向を反転した点以外は同じである。
このように反転した構成を採用した場合、前後方向において、前側から鍵支点Fk、ウィッペン回動軸Fw、被駆動点21aの順に位置する。そしてこれらはほぼ一直線上に並ぶ。詳細には、鍵支点Fkとウィッペン回動軸Fwとを通る直線Lxが、高さ方向において、非押鍵状態から押鍵終了状態までの押離鍵行程の途中で横切るように設計されている。しかも、ウィッペン20の往方向における回動方向が、鍵10と同じ方向(時計方向)となる。
これらにより、被駆動点21aにおける前後方向の摺動量を少なくして、ウィッペン20の駆動状態を適切化し、駆動効率を高めることができる。摺動量が少なくなることから、ウィッペン20を短くして回転角を大きくするといった設計も可能となり、ジャック30の長さも短くすることも可能である。従って、設計の自由度が向上する。
ところで、図1の例では、電子鍵盤楽器を想定したので、弦を打撃するための構成を備える必要はなかった。しかし、図1、図5のいずれの構成においても、図5の仮想線で例示したように、ハンマウッドやハンマフェルトに相当する質量部47を、ハンマ体HMにおいてハンマシャンク43の自由端部43bに設けてもよい。さらに、不図示の弦を張る。弦は、アップライトではなくグランドピアノと同様に、略前後方向に沿って水平に張る。
質量部47を設けた場合、鍵10を押し切り位置に維持した状態において、質量部47の上端位置がアクション機構ACTの上端位置となる。鍵支点Fkからアクション機構ACTの上端位置までの高さ寸法をH1とする。これをアコースティックグランドピアノと比較する。
図6は、図5に示す鍵盤楽器と一般なアコースティックグランドピアノとの、鍵支点Fkからアクション機構の高さを比較するための模式図である。図6に示すように、アコースティックグランドピアノにおいては、鍵110に設けられたキャプスタンスクリュ51で、サポート(ウィッペン)54のサポートヒール52を被駆動点52aにて突き上げるように構成される。鍵110を押し切り位置に維持した状態において、鍵支点Fkから、アクション機構の上限位置であるハンマフェルト等の質量部57の上端位置までの高さ寸法はH0である。
図6に示されるように、H0>H1となっている。これにより、アクション機構ACTをグランドピアノに搭載することが、高さ方向のスペース上、可能となる。従って、アクション機構ACTは、アップライトピアノ、グランドピアノのいずれのタイプにも適用でき、実際に打弦をするアコースティックピアノであっても電子ピアノであっても採用可能であり、汎用性が高い。
なお、グランドピアノに適用する上では、アクション機構ACTの前後方向の向きは、図1よりも図5に示したものが好ましい。すなわち、ハンマシャンク43の自由端部43bがバット40より常に後方に位置するので、前後方向におけるアクション機構の配設スペース及び打弦位置をグランドピアノに合わせて、アクション機構ACTをグランドピアノに搭載することが容易になる。ただし、図1に示すものでも、質量部47を設けてグランドピアノに搭載することは不可能ではない。
ところで、上記実施の形態では、ジャックストッパ32の受け部33aとジャック30の突設係合部31の当接部31aとの係合関係は、両者共に平坦な斜面同士の摺接であったが、離鍵時においてジャック30のバット40の下への戻り動作を速くする上ではこれに限られない。すなわち、前後方向の位置について、先端部30aが、低い位置にあるときほど、初期位置における先端部30aの位置に近くなるような係合関係とすればよい。
図7(a)、(b)に、ジャックストッパ32とジャック30の突設係合部31との係合関係の変形例を模式的に示す。例えば、図7(a)に示すように、ジャックストッパ32の受け部33aを側面視円弧状としてもよい。あるいは、図7(b)に示すように、ジャック30の当接部31aを側面視円弧状としてもよい。このように、受け部33a及び当接部31aの少なくとも一方を斜面とすることで、上記のような係合関係を満たすように構成することが容易にできる。しかし、いずれの面も、平坦な面に限定されるものではなく、湾曲していてもよい。限界軌跡L3(図4(b)参照)は、両者の関係で決まるので、多くの組み合わせが考えられる。
ところで、アクション機構ACTにおいて、ハンマシャンク43を横倒配置したことで、ハンマ体HMを往方向へ回動させるために必要な力(押鍵力)が大きくなり過ぎるような場合は、往方向への付勢力を付加するためのスプリング等の機構を、ハンマ体HMのバット40に設けてもよい。一方、一般のアップライトピアノと同様に、ブライドルワイヤ及びブライドルテープを設け、ハンマ体HMの復方向への回動をウィッペン20の復方向への回動に追従させてもよい。それにより、ハンマ体HMの跳ね返りや、弦を張った場合における弦の2度打ちを防止できると共に、ハンマ体HMの初期位置への復帰を早めることができる。
本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の各一部を適宜組み合わせてもよい。