特許文献1には、先幕としての電子シャッターによって電荷の蓄積を開始するタイミングを領域毎に制御する情報である走査パターンを光学系ユニットの属性に対応付けてデジタルカメラに複数記憶しておくことが記載されている。このように記憶された走査パターンのいずれかが、撮影に使用される光学系ユニットの属性に応じて選択される。
ところでこのような走査パターンの適正値を、焦点位置、射出瞳距離、フォーカス時のレンズ操り出し量、絞りの開口径、レンズ光軸のオフセット量、レンズのあおり角度等の属性値から算出することは容易ではない。そして、機械シャッターによる遮光特性に対する電子シャッターの不適合から生ずる露出ムラは、露出時間が短いほど顕在化する。しかし、特許文献1には、光学系ユニットの属性値から走査パターンを正確に導出する方法について具体的な開示がない。
本発明は、光学系ユニットの属性に応じて変わる機械シャッターの影に対して先幕としての電子シャッターを正確に適合させることを目的の1つとする。
(1)上記目的を達成するためのデジタルカメラは、光学系ユニットを通過した光を受光して電荷を蓄積する撮像素子と、前記撮像素子の領域毎に電荷の蓄積を開始させる電子シャッターと、前記撮像素子に入射する光を遮る機械シャッターと、前記撮像素子が電荷の蓄積を開始するタイミングを領域毎に定める先幕制御情報を前記光学系ユニットの属性毎に記憶する記憶ユニットと、前記光学系ユニットの属性に対応する前記先幕制御情報に基づいて前記電子シャッターを制御する制御ユニットと、を備える。そして、前記先幕制御情報は、所定の属性を有する前記光学系ユニットを通過した光を受光した前記撮像素子の出力に基づいて編集され前記記憶ユニットに記憶される。ここで光学系ユニットの属性とは、焦点位置、射出瞳距離、フォーカス時のレンズ操り出し量、絞りの開口径、レンズ光軸のオフセット量、レンズのあおり角度といった、光学系ユニットの光学特性を決める要素あるいはそれらの要素によって決まる光学系ユニットの光学特性を示す情報である。したがって光学系ユニットの属性は、焦点位置等の属性値で構成されても良いし、光学系ユニットの機種識別子や固体識別子で構成されても良いし、光学系ユニットの光学特性の分類を示す識別子で構成されても良い。
撮像素子に投影される機械シャッターの影は、焦点位置、射出瞳距離、フォーカス時のレンズ操り出し量、絞りの開口径、レンズ光軸のオフセット量、レンズのあおり角度など、使用されている光学系ユニットの実際の属性に応じて変わる。本発明によると、撮像素子が電荷の蓄積を開始するタイミングを領域毎に定める先幕制御情報は、実際に、所定の属性を有する光学系ユニットを通過した光を撮像素子に受光させ、その結果得られる撮像素子の出力に基づいて編集されるものである。このように定められる先幕制御情報は、光学系ユニットの属性の仕様値と実際の属性との誤差や、計算誤差等の影響を大きく受けることなく、撮像素子に投影される機械シャッターの影と正確に適合させることが可能である。したがって本発明によると、光学系ユニットの属性に応じて変わる機械シャッターの影に対して先幕としての電子シャッターを正確に適合させることができる。なお、先幕制御情報は、デジタルカメラに実際に取り付けられている光学系ユニットを用いて編集されたものでもよいし、デジタルカメラに実際に取り付けられている光学系ユニットに対応する標準個体を用いて編集されたものでもよいし、デジタルカメラに実際に取り付けられている光学系ユニットと光学特性が近似している別の光学系ユニットを用いて編集されたものでもよい。
(2)上記目的を達成するためのデジタルカメラにおいて、前記先幕制御情報は、第一の面均一な光を前記光学系ユニットに入射させたとき、領域毎に一定期間だけ前記撮像素子に電荷を蓄積させて得られる前記撮像素子の出力と、第二の面均一な光を前記光学系ユニットに入射させたとき、前記撮像素子を照射する光を、前記撮像素子の各領域が同時に電荷の蓄積を開始した後に前記機械シャッターで遮って得られる前記撮像素子の出力と、に基づいて編集される。ここで、「前記撮像素子の各領域が同時に電荷の蓄積を開始した後に前記機械シャッターで遮って」とは、領域毎に、電荷の蓄積開始後に機械シャッターによる遮光が行われることを意味し、機械シャッターの始動が電荷の蓄積に先行してもよい。
面均一な光を光学系ユニットに入射させて領域毎に一定期間だけ撮像素子に電荷を蓄積させると、光学系ユニットへの入射光量、絞りの開口径、および、光学系ユニットによる周辺光量低下に応じた出力が撮像素子から得られる。なお、領域毎に一定期間だけ撮像素子に電荷を蓄積させるとは、機械シャッターの特性による領域毎の蓄積時間の誤差が露光時間に対して十分小さい状態で電荷を蓄積させることを意味する。具体的には例えば、露光時間を十分長くすることにより、機械シャッターの特性による領域毎の蓄積時間の誤差が露光時間に対して占める割合を小さくして領域毎の電荷蓄積時間を一定にすることを含む。一定期間だけ撮像素子に電荷を蓄積させる方法としては、領域毎に電荷蓄積時間を精度良く一定に制御できる方法であればよく、機械シャッターを先幕および後幕に用いても良いし、電子シャッターを先幕および後幕に用いても良いし、機械シャッターと電子シャッターを併用しても良い。機械シャッターを先幕または後幕に用いる場合であっても、シャッター速度が高くなければ領域毎に電荷蓄積時間を精度良く一定に制御できる。以下、領域毎に一定期間だけ撮像素子に電荷を蓄積させて得られる撮像素子の出力を基準出力というものとする。ここで、撮像素子の各領域の基準出力は、光学系ユニットへの入射光量、絞りの開口径、および、電荷の蓄積期間に比例する成分と、光学系ユニットの周辺光量低下成分とを含む。光学系ユニットの周辺光量低下成分は、最大の基準出力が得られる領域の出力と注目領域の出力との差分であるため、撮像素子の各領域の基準出力に基づいて導出することができる。
面均一な光を光学系ユニットに入射させるとき、撮像素子を照射する光を、撮像素子の各領域が同時に電荷の蓄積を開始した後に機械シャッターで遮ると、光学系ユニットへの入射光量、絞りの開口径、および、光学系ユニットによる周辺光量低下に加えて、焦点位置、射出瞳距離、フォーカス時のレンズ操り出し量、絞りの開口径、レンズ光軸のオフセット量およびレンズのあおり角度に応じて変わる機械シャッターの影の走行特性に応じた出力が撮像素子から得られる。以下、この出力を比較出力というものとする。撮像素子の各領域の比較出力は、光学系ユニットへの入射光量、絞りの開口径、および、電荷の蓄積開始から機械シャッターの影が各領域に到達するまでの期間に比例する成分と、光学系ユニットの周辺光量低下成分とを含む。
第一の面均一な光と第二の面均一な光が同じ明るさである場合、撮像素子の各領域について、比較出力と光学系ユニットの周辺光量低下成分との差分は、光学系ユニットへの入射光量、絞りの開口径、および、電荷の蓄積開始から機械シャッターの影が各領域に到達するまでの期間に比例する成分となる。このことから、比較出力と基準出力に基づけば、機械シャッターの影の変位に応じた各領域の電荷の蓄積開始タイミングを正確に導出できることがわかる。なお、第一の面均一な光と第二の面均一な光の明るさが異なる場合でも、基準出力、比較出力のいずれかを増幅すれば同じ結果を得ることができる。
すなわち、比較出力と基準出力に基づいて先幕制御情報を編集することにより、機械シャッターの影に対して先幕としての電子シャッターを正確に適合させることができる。
(3)上記目的を達成するためのデジタルカメラにおいて、前記デジタルカメラに取り付けられた前記光学系ユニットに対応する前記先幕制御情報を編集する先幕制御情報編集ユニットをさらに備えてもよい。
デジタルカメラに実際に取り付けられている光学系ユニットを用いて先幕制御情報を編集することにより、より正確に、機械シャッターの影に対して電子シャッターを適合させることができる。また、光学系ユニットが着脱可能である場合、不特定多数の先幕制御情報を記憶しておかなくても、デジタルカメラに実際に取り付けられている光学系ユニットに応じた先幕制御情報を利用可能になる。
(4)上記目的を達成するためのデジタルカメラにおいて、前記光学系ユニットは前記デジタルカメラに着脱可能であって、前記記憶ユニットは、複数の前記先幕制御情報を記憶し、前記制御ユニットは、前記デジタルカメラに取り付けられた光学系ユニットの属性に応じて前記複数の先幕制御情報のいずれかを選択し、選択した前記先幕制御情報に基づいて前記電子シャッターを制御してもよい。
これにより、光学系ユニットが着脱可能であっても、実際に取り付けられている光学系ユニットに応じて電子シャッターを正確に適合させることができる。
(5)上記目的を達成するための先幕制御方法は、光学系ユニットを通過した光を受光して電荷を蓄積する撮像素子と、前記撮像素子の領域毎に電荷の蓄積を開始させる電子シャッターと、前記撮像素子に入射する光を遮る機械シャッターと、を備えるデジタルカメラの先幕制御方法である。そして、前記撮像素子が電荷の蓄積を開始するタイミングを領域毎に定める先幕制御情報であって所定の属性を有する前記光学系ユニットを通過した光を受光した前記撮像素子の出力に基づいて編集され前記光学系ユニットの当該属性に対応付けられている先幕制御情報を前記光学系ユニットの属性毎に記憶し、前記光学系ユニットの属性に対応する前記先幕制御情報に基づいて前記電子シャッターを制御する、ことを含む。
本発明によると、光学系ユニットの属性に応じて変わる機械シャッターの影に対して先幕としての電子シャッターを正確に適合させることができる。
(6)上記目的を達成するための先幕制御情報の編集方法は、光学系ユニットを通過した光を受光して電荷を蓄積する撮像素子と、前記撮像素子の領域毎に電荷の蓄積を開始させる電子シャッターと、前記撮像素子に入射する光を遮る機械シャッターと、前記光学系ユニットの属性に対応する先幕制御情報に基づいて前記電子シャッターを制御する制御ユニットと、を備えるデジタルカメラにおいて用いられる前記先幕制御情報の編集方法である。そして、所定の属性を有する前記光学系ユニットを通過した光を受光した前記撮像素子の出力に基づいて、前記光学系ユニットの当該属性に対応付けて編集される、ことを含む。
本発明によると、光学系ユニットの属性に応じて変わる機械シャッターの影に対して先幕としての電子シャッターを正確に適合させる先幕制御情報を編集することができる。
なお、各ユニットの機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、又はそれらの組み合わせにより実現される。また、各ユニットの機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。さらに、本発明は先幕制御プログラム、先幕制御情報の編集プログラムまたはそれらの記録媒体としても成立する。むろん、その記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体であってもよい。
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
1.第一実施例
(1)デジタルカメラの構成
図1は本発明の一実施形態にかかるデジタルカメラ1の構成を示すブロック図である。デジタルカメラ1には、図示しない筐体に光学系ユニット10を着脱可能であって、機械シャッター13、撮像素子としてのエリアイメージセンサー15、画像処理のためのASIC200、タイミングジェネレーター30、表示部40、メインCPU50、VRAM51、SD−RAM52、ROM53、RAM54、操作部55等が備えられている。操作部55はシャッターボタンと、モードを切り換えるためのモード切換手段としてのスイッチと、絞りとシャッター速度を切り換えるためのスイッチと、各種の設定メニューを操作するためのキーとを備えている。ユーザーは操作部55に対する操作によってデジタルカメラ1に対して各種の指示を与えることができる。制御ユニットとしてのメインCPU50は、ユーザーから与えられる指示に応じ、VRAM51、SD−RAM52、RAM54を適宜利用してROM53に記録されたプログラムを実行可能である。当該プログラムによりメインCPU50は、操作部55に対する操作に応じて機械シャッター13を駆動し、エリアイメージセンサー15にて撮影された被写体を示す画像データを生成する機能を実行する。記憶ユニットとしてのROM53には、機械シャッター13を制御するための先幕制御情報が記録されている。
光学系ユニット10は、レンズ11、絞り12、レンズ駆動回路11c、絞り駆動回路12a、レンズCPU16等を備える。光学系ユニット10は、デジタルカメラ1の図示しない筐体に交換可能に取り付けられる。レンズ11は図1では簡略化して1枚のレンズで表しているが、光軸方向に並べられた複数枚のレンズを含み、各レンズは外縁部で支持される。レンズ駆動回路11cは、光軸方向に少なくとも1枚のレンズを移動させることにより、エリアイメージセンサー15に被写体を結像させたり、ズーム倍率を調整する。絞り12は、開口径を変化させることのできる複数の遮光板で構成されている。絞り駆動回路12aは、絞り12を駆動して絞り12の開口径を制御する。レンズCPU16は、メインCPU50と通信可能に接続され、光学系ユニット10の属性としてのレンズID、レンズの操出量、ズーム位置、絞りの開口径等を示す属性値をメインCPU50に通知する。
光学系ユニット10とエリアイメージセンサー15の間には、機械シャッター13およびローパスフィルター14が備えられている。機械シャッター13は先幕と後幕とを備えるフォーカルプレーン型である。メインCPU50の指示に従ってシャッター駆動回路13aが先幕と後幕を駆動することで、レンズ11を通過した光がエリアイメージセンサー15を照射する状態と、レンズ11を通過した光を機械シャッター13の先幕と後幕の少なくとも一方で遮光する状態と、を切り替えることができる。
エリアイメージセンサー15としては、例えばベイヤー配列されたカラーフィルターと、光量に応じた電荷を光電変換によって画素ごとに蓄積する複数のフォトダイオードとを備えるCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサー、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサー等の固体撮像素子が用いられる。エリアイメージセンサー15の画素の位置は直交座標系における座標で規定され、一方の座標軸に平行な方向に並ぶ複数の画素によってラインが構成され、複数のラインが他方の座標軸に平行な方向に並ぶように構成されている。本明細書では、ラインに平行な方向を水平方向、ラインに垂直な方向を垂直方向と呼ぶ。また本実施形態においてエリアイメージセンサー15の全画素によって構成される1画面を1フレームと呼ぶ。
エリアイメージセンサー15はタイミングジェネレーター30が出力する各種信号に同期した動作を行う。エリアイメージセンサー15は、垂直同期信号SVsyncに応じて1フレーム分の出力データSDの出力を開始し、水平同期信号SHsyncにて規定される期間内にドットクロック信号SDotclockに応じたタイミングでエリアイメージセンサー15の1ライン分の画素に対応するフォトダイオードの検出結果を示す出力データSDを逐次読み出す。またエリアイメージセンサー15は、水平リセット信号(SHreset)に応じて、対応する1ライン分のフォトダイオードの電荷を破棄する。
表示部40は、被写体を示す画像を表示してユーザーに記録前の被写体を把握させるディスプレイユニットである。表示部40は、図示しないインターフェース回路、液晶パネルドライバー40a,液晶パネル40b等を備えている。液晶パネルドライバー40aは、各サブピクセルに電圧を印加して液晶を駆動するための信号を液晶パネル40bに対して出力する。液晶パネルドライバー40aは、液晶パネル40bにおける表示を行うための各種信号、例えば、1フレーム分の表示を行うための期間を規定する垂直同期信号(DVsync)、1ライン分の表示を行うための期間を規定する水平同期信号(DHsync)、各ライン内での画像データの取り込み期間を規定するデータアクティブ信号(DDactive)、各画素の画像データの取り込みタイミング等を規定するドットクロック信号(DDotclock)、各画素の画像データ(DD)を出力するように構成されている。
ASIC200は、画像データ生成部20と画像データ出力部201を備えている。画像データ生成部20は、画素補間部20a、色再現処理部20b、フィルター処理部20c、ガンマ補正部20dおよびリサイズ処理部20eを備えている。画素補間部20a、色再現処理部20b、フィルター処理部20c、ガンマ補正部20dおよびリサイズ処理部20eは、SD−RAM52に予め確保された複数ライン分のラインバッファー52a〜52dを利用し、表示部40にて被写体の像を表示するための画像データをパイプライン処理によって生成する処理を行う回路である。
具体的には、エリアイメージセンサー15から出力データが出力されると画像データ生成部20によって当該出力データがラインバッファー52aに一時記録される。画素補間部20aは、ベイヤー配列において各画素で欠落している2チャネルの色を生成するために必要な画素数のデータをラインバッファー52aから取り込みながら補間処理によって当該2チャネルの色を生成する。この結果、各画素において3チャネルのデータが生成される。次に、色再現処理部20bは、生成されたデータに基づいて3×3の行列演算を行うことによって色再現処理とカラーマッチングのための色変換処理を同時に行う。これら一連の色変換処理によって生成されたデータはラインバッファー52bに一時記録される。次にフィルター処理部20cは、シャープネス調整やノイズ除去処理などをフィルター処理によって実行する。次にガンマ補正部20dはエリアイメージセンサー15の出力データの階調値が示す色と表示部40で扱う画像データの階調値が示す色との特性差を補償するガンマ補正を実行する。ガンマ補正によって生成されたデータはラインバッファー52cに一時記録される。次にリサイズ処理部20eは、ラインバッファー52cから読み込むデータに対して、リムーバブルメモリ56への画像データの記録サイズや表示部40の画面サイズに応じて縮小処理を実施する。縮小された画像データはラインバッファー52dに一次記憶される。
画像データ出力部201は、ライブビュー表示モードにおいて、ラインバッファー52dに記録された画像データ(DD)を表示部40に対して線順次に出力する。この結果、エリアイメージセンサー15で撮影された被写体の像が液晶パネル40bに表示される。また、画像データ出力部201は、液晶パネル40bの表示を行う際に、VRAM51に記録されたOSDデータを画像データ(DD)として表示部40に対して線順次に出力する。この結果、撮影条件等の文字が液晶パネル4bに表示される。また、画像データ出力部201は、記録モードにおいて、ラインバッファー52dに記録された画像データ(DD)をリムーバブルメモリ56に記録する。
(2)電子先幕制御方法
ライブビュー表示モードにおいてユーザーが操作部55のシャッターボタンを操作して記録指示を行った場合、画像データがリムーバブルメモリ56に記録されるまでの期間中、ライブビュー表示モードから記録モードに一時的に遷移する。記録モードにおいて、メインCPU50は、次のように機械シャッター13、タイミングジェネレーター30、ASIC200を制御して画像データをリムーバブルメモリ56に記録する。なお、本実施例では露光時間が短く、電子シャッターによる先幕と機械シャッターによる後幕を用いる電子先幕制御方法について説明する。
まず記録指示が行われるとき、機械シャッター13は光学系ユニット10からエリアイメージセンサー15への光路を開いた状態にあるため、エリアイメージセンサー15には光が入射しており、各画素は受光量に応じた電荷を蓄積している。そしてユーザーがシャッターボタンを押しきることによって行われる記録指示に先行して、ユーザーがシャッターボタンを所定量押し下げることによってフォーカスロック指示が行われる。フォーカスロック指示が行われると、メインCPU50は撮影条件を取得する。撮影条件には、光学系ユニット10の種類と状態(レンズの操出量、絞りの開口径、ズーム位置等)を示す光学系ユニット10の属性と、シャッター速度とが含まれている。次にメインCPU50は、シャッター速度と光学系ユニット10の属性に対応する先幕制御情報を取得する。
ユーザーがシャッターボタンを次の所定位置まで押しきると、取得した先幕制御情報によって定められるタイミングにおいてタイミングジェネレーター30からエリアイメージセンサー15の各ラインに水平リセット信号を出力させる。水平リセット信号が入力されると、エリアイメージセンサー15の対応するラインを構成する全画素において、蓄積されていた電荷が一旦全て破棄され、その後に再び電荷の蓄積が開始される。すなわち、タイミングジェネレーター30は、エリアイメージセンサー15の領域毎に電荷の蓄積を開始させる電子シャッターとして機能する。最初の水平リセット信号がエリアイメージセンサー15に入力されてからシャッター速度に対応する所定の時間が経過すると、メインCPU50は光学系ユニット10を通過した光を機械シャッター13の後幕によって遮らせる。
図2は、エリアイメージセンサー15と機械シャッター13の後幕とをレンズ11側からレンズ11の光軸方向に見た模式的な平面図である。図2に示す矢印Sは機械シャッター13の後幕の走行方向を示している。xy軸は、エリアイメージセンサー15の画素の位置を示すための座標軸である。x軸はラインに平行であり、y軸は画像の上から下に向かって増加するようにエリアイメージセンサー15の下から上に向かって正方向がとられている。そして矢印Sで示すように、機械シャッター13の後幕はエリアイメージセンサー15の下から上に向かって走行する。
先幕に相当する水平リセット信号は、機械シャッター13の後幕に先行するように、エリアイメージセンサー15の下から上に向かって順次エリアイメージセンサーに入力される。エリアイメージセンサー15の撮像領域aのうち電荷蓄積領域bは、水平リセット信号が入力されたことによって、記録される画像データの画素値に対応する電荷を蓄積している領域である。電荷蓄積領域bは、時間の経過に伴ってエリアイメージセンサー15の下から上に向かって拡張していく。このとき、電荷蓄積領域bの先端の位置は、先幕制御情報に定められたタイミングで1ラインずつ上昇するが、そのタイミングは機械シャッター13の走行速度に合わせられている。具体的には、露光ムラは各画素の電荷蓄積時間の不一致によるものであるため、各画素の電荷蓄積時間が一致するように水平リセット信号の出力タイミングが定められるのである。したがって、機械シャッター13の後幕の走行速度が一定でない場合は、電荷蓄積領域bの先頭ラインと後幕の先端との距離は後幕の走行速度に応じて増減する。ここで電荷蓄積時間は、ある画素に水平リセット信号が印加されてから、その画素に機械シャッター13の後幕の影の先端が到達するまでの期間である。したがって、各画素に機械シャッター13の後幕の影の先端が到達するタイミングから一定時間前のタイミングに水平リセット信号が印加されるように、先幕制御情報で水平リセット信号のタイミングを定めることになる。
図3は、レンズ11、機械シャッター13およびエリアイメージセンサー15をx軸方向から見た模式図である。図3において、レンズ11aは焦点距離が相対的に短いレンズを示し、レンズ11bは焦点距離が相対的に長いレンズを示している。図3Aに示すように、機械シャッター13の後幕の先端がレンズ11の光軸を横切るまでは、機械シャッター13の後幕の影の先端は、機械シャッター13の後幕自体よりも遅く走行する。そして、焦点距離の長いレンズ11bを通る光によって投影される機械シャッター13の後幕の影の方が、焦点距離の短いレンズ11aを通る光によって投影される機械シャッター13の後幕の影よりも速く走行する。一方、図3Bに示すように機械シャッター13の後幕の先端がレンズ11の光軸を横切った後は、機械シャッター13の後幕の影の先端は、機械シャッター13の後幕自体よりも速く走行する。そして、焦点距離の短いレンズ11aを通る光によって投影される機械シャッター13の後幕の影の方が、焦点距離の長いレンズ11bを通る光によって投影される機械シャッター13の後幕の影よりも速く走行する。このように機械シャッター13の後幕の影の走行速度は、後幕の走行速度と一致しないし、レンズ11の焦点距離によっても異なる。また、機械シャッター13の後幕の影の走行速度は、レンズ11の操出量やあおり角度によっても異なる。さらにまた、絞り12の開口径によっても異なる。
したがって、ある画素に水平リセット信号が印加されてから、その画素に機械シャッター13の後幕の影の先端が到達するまでの期間を全画素について一定にするためには、機械シャッター13の後幕の走行特性のみならず、レンズ11の焦点距離、操出量、あおり角度および絞り12の開口径に応じて水平リセット信号のタイミングを個別に定める必要がある。しかし、これらの光学系ユニット10の属性値に基づいて水平リセット信号のタイミングを正確に導出することは、設計仕様値に対応する属性値と製造公差によって個体毎に異なる実際の値との誤差や、導出過程で生ずる計算誤差があるため、極めて困難である。そこで本実施形態では、光学系ユニット10の属性値を計算自体に利用するかわりに、リニアイメージセンサー15の出力に基づいて、水平リセット信号のタイミングを次のように定める。
水平リセット信号のタイミングを定める先幕制御情報は、デジタルカメラ1に光学系ユニット10を取り付けた状態で編集され、ROM53に記憶される。特定の光学系ユニット10の属性に対応する先幕制御情報を編集するために、少なくとも2回、エリアイメージセンサー15において電荷を蓄積させて出力させる。
1回の出力は、面均一な光を特定の属性の光学系ユニット10に入射させたとき、エリアイメージセンサー15の全ラインに一定期間だけ電荷を蓄積させて得る。この出力が基準出力となる。基準出力は機械シャッター13の後幕の走行特性と実質的に無関係に定める必要があるため、機械シャッター13の後幕と先幕の走行間隔を長くして各ラインの露光時間を長く制御することが好ましい。
別の1回の出力は、面均一な光を当該光学系ユニット10に入射させたとき、エリアイメージセンサー15を照射する光を、エリアイメージセンサー15の全ラインが同時に電荷の蓄積を開始した後に所定のシャッター速度で駆動される機械シャッター13の後幕で遮って得る。この出力が比較出力となる。タイミングジェネレーター30から水平リセット信号をエリアイメージセンサー15の全ラインに同時に印加することにより、エリアイメージセンサー15の全ラインが同時に電荷の蓄積を開始する。その後にエリアイメージセンサー15の各ラインに入射する光を機械シャッターの後幕で遮ることで電荷の蓄積を終了し、その結果蓄積された電荷が比較出力としてエリアイメージセンサー15から出力される。したがって比較出力は機械シャッター13の後幕の走行特性を示すものとなる。なお、基準出力を得るために用いる面均一な光と、比較出力を得るために用いる面均一な光の特性は、同一であることが好ましいが、同一でない場合は基準出力及び比較出力を正規化すればよい。また、後幕としての機械シャッター13の走行開始タイミングは、各ラインに電荷を蓄積させる時間の長さによって、電荷の蓄積タイミングよりも先行する場合もあれば、電荷の蓄積タイミング後になる場合もある。
図4は、特定の属性のレンズ11が用いられたときの基準出力のうちエリアイメージセンサー15の垂直方向に並ぶ1列分の画素領域の値を示すグラフである。横軸にはエリアイメージセンサー15の各画素のy位置をとり、縦軸には画素値に対応する輝度をとっている。図4に示すように、基準出力はエリアイメージセンサー15の垂直方向の中央領域で最大となり、垂直方向の両端部に向かって小さくなる。これは、レンズ11の光軸から離れるほどエリアイメージセンサー15への入射光量が低下するためである。したがって、基準出力のうち水平方向に並ぶ1列分、すなわち1ラインの値をとった場合も同様に、エリアイメージセンサー15の水平方向の中央領域で最大となり、水平方向の両端部に向かって小さくなる。つまり、基準出力は、レンズ11の光軸上の画素が最大値を取り、レンズ11の光軸上の画素を中心としてエリアイメージセンサー15の外側に向かうにつれて低くなる。ここで基準出力の最大値と基準出力の各画素の値との差分を周辺光量低下成分というものとする。各画素の基準出力は電荷の蓄積時間に比例するため、特定の面均一な光に対して特定の電荷蓄積時間を設定して基準出力の最大値を得ると、任意の電荷蓄積時間に対して得られる基準出力の最大値を導出することができる。
図5は機械シャッター13の後幕の走行特性を示すグラフである。細線は後幕自体の走行特性を示し、太線は後幕の影の走行特性を示している。横軸には後幕が走行開始してから経過した時間をとり、縦軸には後幕の先端の変位をエリアイメージセンサー15のy軸の変位としてとっている。既に述べたとおり、後幕自体の走行速度は、後幕の先端がレンズ11の光軸を横切るまで後幕の影の走行速度よりも高く、後幕の先端がレンズ11の光軸を横切った後には後幕の影の走行速度よりも低くなる。グラフは、後幕の先端変位がy=ycになったときに後幕の先端がレンズ11の光軸を横切ったことを表している。なお、機械シャッター13とレンズ11とエリアイメージセンサー15の位置が図3に示す関係にある場合には、後幕の先端がレンズ11の光軸を横切ったときに後幕自体の変位と後幕の影の変位は一致する。しかし、後幕自体の変位と後幕の影の変位が一致するタイミングは、機械シャッター13とレンズ11とエリアイメージセンサー15の位置関係によって変動し、必ずしも後幕の先端がレンズ11の光軸を横切ったときに後幕自体の変位と後幕の影の変位が一致するわけではない。
図6に示す破線は、特定の属性のレンズ11が用いられたときに得られる比較出力のうち垂直方向に並ぶ1列分の画素領域の値を示すグラフである。横軸にはエリアイメージセンサー15の各画素のy位置をとり、縦軸には画素値に対応する輝度をとっている。全画素一斉に電荷の蓄積を開始するため、機械シャッター13の後幕の影が相対的に早く到達する画素ほど、電荷蓄積時間が短くなり出力は相対的に小さくなる。また、機械シャッター13の後幕の影が相対的に遅く到達する画素ほど電荷蓄積時間が長くなるため出力が相対的に大きくなる。すなわち、比較出力には各画素の電荷の蓄積開始から各画素に後幕の影が到達するまでの期間に比例する成分が含まれている。
基準出力には周辺光量低下成分が含まれているし、比較出力にも同様に周辺光量低下成分が含まれている。そこでまず、所定の電荷蓄積時間で得られる基準出力の最大値と各画素値の差分を、特定の属性を有する光学系ユニット10に対応する周辺光量低下成分として導出する。次に、各画素について比較出力に周辺光量低下成分を加えると、後幕の影の走行特性に正確に対応するように比較出力を補正できる。なお、周辺光量低下成分の影響を除去するこれらの補正は画素値の対数をとって実施することが好ましい。各画素についてこのように補正した比較出力と一致する基準出力の最大値(なお、基準出力の最大値は電荷蓄積時間の関数であって、周辺光量低下成分を含んでいない。)に対応する電荷蓄積時間を導出すると、機械シャッター13の後幕が走行開始してから各画素に機械シャッター13の影が到達するまでの時間を導出できる。したがって、比較出力を得るときに用いたシャッター速度に対応する先幕制御情報は、このようにして導出する時間をエリアイメージセンサー15の各ラインについて設定することによって編集することができる。
そして、光学系ユニット10の属性を変更しながら、その属性毎にここまで述べた先幕制御情報の編集を実施することによって、光学系ユニット10の属性毎に電荷の蓄積を開始するタイミングを設定した先幕制御情報を編集することができる。このようにして、光学系ユニット10の属性毎に編集された先幕制御情報がデジタルカメラ1のROM53に記録される。そして、記録モードでは、使用されている光学系ユニット10の属性に応じた先幕制御情報が参照され、先幕制御情報で定められたタイミングにおいてエリアイメージセンサー15の各ラインに水平リセット信号が印加される。記録モードにおいて、最初に水平リセット信号が印加されるタイミングと、機械シャッター13の後幕が走行を開始するタイミングの間隔を先幕制御情報に基づいて制御すると、エリアイメージセンサー15の全画素における電荷蓄積時間は正確に一定となる。なお、既に述べたとおり、先幕制御情報に基づいて制御されると、最初に水平リセット信号が印加されるタイミングより早いタイミングで機械シャッター13の後幕が走行開始する場合もある。また、一般的に、シャッター速度(露光時間)毎に機械シャッター13の後幕自体の走行特性が変化することはない。そこで、シャッター速度(露光時間)毎に先幕制御情報を編集せずに、先幕制御情報によって決まるリセット信号の印加タイミングをシャッター速度(露光時間)に応じて全ラインについて一定量ずらしてもよい。また、上述した先幕制御情報の編集をシャッター速度毎に実施することにより、シャッター速度毎に電荷の蓄積を開始するタイミングを設定した先幕制御情報を編集してデジタルカメラ1のROM53に記録してもよい。
ところで仮に、面均一な光源を被写体として撮影した場合に一様な輝度値を持つ画像データが記録されることを目的とするならば、面均一な光源を被写体として撮影した場合には全画素に一定の電荷が蓄積されるように先幕制御情報を編集すべきである。しかし、本実施形態では全画素に一定の電荷が蓄積されるのではなく、全画素の電荷蓄積時間が一定になるように先幕制御情報を編集する。したがって本実施形態では、先幕制御情報に基づいて水平リセット信号をエリアイメージセンサー15に印加し、エリアイメージセンサー15に入射する光を機械シャッター13の後幕によって遮って得られる画像データは、光学系ユニット10の周辺光量低下特性を反映した画像を示す。すなわち、その画像は、面均一な光源を被写体としているにもかかわらず、中央が明るく、中央から周辺に向かって徐々に暗くなる。このような画像の特性はASIC200による画像処理によって補正することも可能であるし、これを所謂レンズの味として補正しないことも可能である。
なお、これまでに述べた先幕制御情報の編集処理は、ユーザーの指示に応じて実行しても良いし、デジタルカメラ1の出荷前に初期設定作業として実行しても良い。例えば、先幕制御情報を編集するための先幕制御情報編集モードでデジタルカメラ1が動作するプログラムをROM53に記憶しておく。そして、そのプログラムをユーザーの指示に応じてメインCPU50に実行させることでメインCPU50を先幕制御情報編集ユニットとして機能させ、ユーザーが実際に使用する光学系ユニット10に対応する先幕制御情報をROM53に記憶させても良い。また、例えば、工場出荷前に、そのようなプログラムをリムーバブルメモリ56を用いてデジタルカメラ1に読み込ませた後にメインCPU50で実行させることで、デジタルカメラ1に適合する様々な光学系ユニット10のそれぞれに対応する先幕制御情報をROM53に記憶させても良い。また例えば、デジタルカメラ1の標準固体と、デジタルカメラ1に適合する様々な光学系ユニット10の標準固体とを利用して先幕制御情報を編集し、このように編集された先幕制御情報をデジタルカメラ1の全ての固体のROM53に記憶させても良い。
また、属性が互いに異なる複数種類の光学系ユニット10のそれぞれに対して固有の先幕制御情報をROM53に記憶させることにより、撮影に実際に使用する光学系ユニット10に応じたいずれかの先幕制御情報を選択し、選択した先幕制御情報に基づいて水平リセット信号を印加するタイミングを制御することができる。ここで、メインCPU50はレンズCPU16から光学系ユニット10の属性値を取得し、取得した光学系ユニット10の属性値に応じて先幕制御情報を選択する。すなわち、デジタルカメラ1に取り付ける光学系ユニット10を取り替えた場合には、最適な先幕制御情報が自動的に選択される。なお、ユーザーの指示に応じて先幕制御情報を選択してもよい。また、光学系ユニット10が着脱不可能な場合や、ユーザーの指示に応じて先幕制御情報を編集する場合には、ただ一種類の光学系ユニット10に応じた先幕制御情報だけをROM53に記録しても良い。ただし、この場合であっても、レンズ11の操出量や絞り12の開口径などは可変であるため、これらの光学系ユニット10に応じた先幕制御情報が参照されることはいうまでもない。
なお、先幕制御情報をどのようなまとまりでファイルとして管理するかや、どのようなデータ構造にするかは適宜選択すればよい。例えば、光学系ユニット10の種類毎に、対応する光学系ユニット10の属性値とシャッター速度を参照情報として、水平リセット信号のタイミングを定める別のファイルのアドレスを保持する多次元のルックアップテーブルをファイルとして保存しても良い。また光学系ユニット10の種類も一次元の参照情報として、水平リセット信号のタイミングを定める別のファイルのアドレスを保持するルックアップテーブルをファイルとして保存しても良い。