JP6087287B2 - タンパク質の精製方法 - Google Patents
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Description
このようなタンパク質吸着材として、特許文献1乃至5及び非特許文献1に記載されるようなタンパク質吸着多孔膜が挙げられる。
また、上述したように、近年は大量生産、大量精製の需要から、タンパク質吸着多孔膜の吸着能力をより大きくすることが望まれている。吸着能力を大きくする方法として、限られた膜の細孔表面にタンパク質を多層に吸着させる方法が有効であるが、より多くのタンパク質を限られた膜の細孔表面に多層に吸着させればさせるほど、タンパク質吸着多孔膜を再生させ、使用を繰り返す際の吸着能力が低下するという課題がより顕著になる。
[1]
タンパク質吸着能を有する高分子で基材表面が被覆された多孔膜によるタンパク質の精製方法であって、
前記多孔膜に吸着対象タンパク質を含有する原液を通液させ、該吸着対象タンパク質を前記高分子に吸着させる吸着工程と、
前記多孔膜に溶出液を通液させ、前記高分子に吸着された前記吸着対象タンパク質を該溶出液へ溶出させる溶出工程とを含み、
前記溶出工程において、少なくとも1種の溶出液を、前記吸着工程における前記原液の通液方向とは反対方向に通液する、タンパク質の精製方法。
[2]
前記溶出液が、塩を含む水溶液、pHが調整された水溶液、水、有機溶剤、及びこれらの混合溶液からなる群から選ばれる、[1]に記載のタンパク質の精製方法。
[3]
前記溶出工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向の順方向及び反対方向に前記溶出液を通液する、[1]又は[2]に記載のタンパク質の精製方法。
[4]
前記高分子が前記基材表面にグラフトされ、かつ、前記高分子のグラフト率が5%以上200%以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載のタンパク質の精製方法。
[5]
前記高分子のグラフト率が30%以上90%以下である、[4]に記載のタンパク質の精製方法。
[6]
前記多孔膜がイオン交換膜であり、かつ、前記溶出液が塩を含む水溶液又はpHが調整された水溶液を含む、[1]乃至[5]のいずれかに記載のタンパク質の精製方法。
[7]
前記多孔膜の多層度が1.1以上である、[1]乃至[6]のいずれかに記載のタンパク質の精製方法。
[8]
前記多孔膜が、弱塩基性陰イオン交換膜又は弱酸性陽イオン交換膜であり、かつ、
前記溶出工程が、
前記吸着対象タンパク質の等電点と前記多孔膜の等電点の間以外にpHが調整された水溶液を通液する工程、及び、
塩を含む水溶液を通液する工程、を含み、
いずれかの工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向とは反対方向に通液する、[6]又は[7]に記載のタンパク質の精製方法。
[9]
pHが調整された水溶液を通液する前記工程、及び、塩を含む水溶液を通液する前記工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向の反対方向に通液する、[8]に記載のタンパク質の精製方法。
[10]
前記多孔膜が、弱塩基性陰イオン交換膜又は弱酸性陽イオン交換膜であり、かつ、
前記溶出工程が、
塩を含む水溶液を通液する第一の工程、
前記吸着対象タンパク質の等電点と前記多孔膜の等電点の間以外にpHが調整された水溶液を通液する第二の工程、及び、
塩を含む水溶液を通液する第三の工程、を含み、
前記第一の工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向の順方向に通液し、
前記第二の工程及び前記第三の工程において、吸着工程における前記原液の通液方向の反対方向に通液する、[6]又は[7]に記載のタンパク質の精製方法。
[11]
前記溶出液が前記吸着対象タンパク質の安定pHで調整される、[1]乃至[10]のいずれかに記載のタンパク質の精製方法。
[12]
前記溶出液が0.3mol/L以上の中性塩を含む水溶液である、[1]乃至[11]のいずれかに記載のタンパク質の精製方法。
[13]
前記多孔膜が、液体又は蒸気により湿潤化した状態で50〜110℃に加熱する処理を行って製造される、[1]乃至[12]のいずれかに記載のタンパク質の精製方法。
本実施形態において用いられる多孔膜は、基材と、該基材の表面に被覆されたタンパク質吸着能を有する高分子と、を含む膜であり、「タンパク質吸着多孔膜」と記載する場合がある。
なお、本実施形態においては、「タンパク質吸着多孔膜」とは、モノリスと呼ばれる、中空部を1本あるいは複数本有する円筒状の多孔質焼結体に、タンパク質吸着能を有する高分子が被覆された形態をも含む概念として用いている。したがって、本実施形態においては、「タンパク質吸着能を有する高分子で基材表面が被覆された多孔膜」とは、タンパク質吸着能を有する高分子で表面が被覆された、モノリス(中空円筒状の多孔質焼結体)をも包含する。
本実施形態においては、「タンパク質吸着多孔膜」との記載による例示により、かかる高分子で被覆されたモノリス(中空円筒状の多孔質焼結体)についてもその要旨の範囲内に包含する。
本実施形態においては、該膜を通過した後の溶液は「透過液」と記載する。
通常、医薬品を製造する際の実製造ラインでは、原液には、目的タンパク質の他に、不用なタンパク質、菌体、ウイルス、濁質成分などが含まれる。前処理によって、原液から濁質成分かつ/または菌体が除かれる場合もある。本実施形態においては、目的タンパク質を吸着対象としてタンパク質吸着多孔膜に吸着させ、その他の成分を透過させたのち、目的タンパク質のみを溶出させて回収する精製方法であってもよく、その他のタンパク質(例えば不用なタンパク質)を吸着対象として吸着させ、目的タンパク質を透過させて回収する精製方法であってもよい。すなわち、「吸着対象タンパク質」とは、タンパク質吸着多孔膜に吸着するタンパク質であり、目的タンパク質に限定されるものではない。精製方法に応じて、目的タンパク質でもよく、不用なタンパク質でもよい。また、原液に含まれる吸着対象タンパク質は1種であってもよく、またそれ以上であってもよい。
本実施形態において、タンパク質吸着多孔膜に、溶出液を通液して、被吸着タンパク質をタンパク質吸着多孔膜から溶出させる工程を、「溶出工程」と記載する場合がある。
本実施形態においては、溶出工程とは、タンパク質吸着多孔膜から被吸着タンパク質が溶出されるだけではなく、タンパク質吸着多孔膜を再生するために、溶出液を通液する工程であってもよい。すなわち、溶出工程における、被吸着タンパク質の溶出液における含有量は特に問題とされない。
溶出工程において、少なくとも1種の溶出液を、吸着工程における原液の通液方向とは反対方向に通液することにより、タンパク質を精製し、タンパク質吸着多孔膜を再生することができる。
本実施形態においては、タンパク質吸着能を有する高分子で基材表面が被覆された多孔膜によるタンパク質の精製方法において、タンパク質の吸着能力の低下を抑制する、被吸着タンパク質の溶出方法を提供するだけではなく、被吸着タンパク質の溶出は、タンパク質吸着多孔膜の再生処理の一部であるので、タンパク質吸着多孔膜の再生方法を提供することができると言い換えることもできる。
通常、溶出工程において、溶出液は、吸着工程における原液の通液方向に順方向で通液される。
以下の理論に拘泥されるものではないが、本実施形態におけるように、少なくとも1回は、溶出液の流れ方向を、原液の通液方向とは反対方向に変えて通液することによって、タンパク質吸着多孔膜における基材の表面に導入されたタンパク質吸着能を有する高分子鎖が、揺り動かされる効果により、被吸着タンパク質を溶出することができると考えられる。すなわち、タンパク質は隣接する高分子鎖の間に入り込むように、多層に積み重なって吸着されることがあり、奥深くに潜りこんだタンパク質は、溶出されにくい。高分子鎖は吸着工程において、原液の流れ方向にたなびいていると考えられる。したがって、溶出工程において原液の流れ方向とは反対方向に溶出液を流すことで、高分子鎖が逆撫でされ、奥深くに潜りこんだタンパク質が効率的に溶出されるので、繰り返し使用する際に吸着能力の低下が抑制された膜として、タンパク質吸着多孔膜を再生することができると考えられる。
平膜とは、シート状の膜であり、シートの表面と裏面とが、貫通孔である細孔によって連続しているものを意味する。
中空糸膜とは、中空部分を有する円筒状又は繊維状の膜であり、中空糸膜の中空側(内側)と外側とが貫通孔である細孔によって連続しているものを意味する。
タンパク質吸着多孔膜の形状は、貫通孔によって、表面から裏面又は裏面から表面に、また、内側から外側又は外側から内側に、液体又は気体が透過することが可能であれば、特に限定されない。
ポリオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのオレフィンの単独重合体、該オレフィンの2種以上の共重合体などが挙げられる。
溶出液としてアルカリ性溶液が用いられる場合は、これらの中でも、機械的強度が特に優れ、アルカリ耐性があるポリエチレンがより好ましい。
熱誘起相分離法は、ポリオレフィン系重合体などの高分子の溶液を高温で溶解し、その後冷却する方法である。冷却過程において、高分子溶液が、高分子と溶媒とに網目状に相分離するので、冷却後に溶媒を除去すると多孔膜が得られる。細孔径分布の小さい多孔膜が得られることが特徴である。
非溶媒相分離法は、高分子溶液を非溶媒中に浸漬する方法である。非溶媒が高分子溶液に浸透することで、高分子の溶解度が低下し、高分子が網目状に析出し、多孔膜が得られる。細孔径の傾斜が付いた多孔膜が得られることが特徴である。
電子線照射法は、膜状にした高分子に電子線を照射し、複数の貫通孔を作り、多孔膜を得る方法である。均一な細孔径の多孔膜が得られる。
本実施形態では、これらの方法から作製するタンパク質吸着多孔膜の設計に応じて適当なものを選ぶことができる。
基材中の細孔の占める体積比率である空孔率は、タンパク質吸着多孔膜の形状を保持しかつ通液速度が達成可能な範囲であれば特に限定されない。形状保持が可能なように空孔率の上限が設計され、所望の通液速度を達成可能なように平均細孔径の下限が設計されるが、該空孔率は、好ましくは5%〜99%であり、より好ましくは10%〜95%であり、実用上、さらに好ましくは30〜90%である。
平均細孔径及び空孔率の測定は、例えば、Marcel Mulder著「膜技術」(株式会社アイピーシー)に記載されているような、当業者にとって通常の方法により行うことができる。測定法の具体例としては、電子顕微鏡による観察、バブルポイント法、水銀圧入法、透過率法などが挙げられる。
高分子としては、例えば、直鎖状高分子、架橋型の高分子などが挙げられる。反対向きの溶出液の流れが、高分子鎖の間に入り込んだタンパク質を効率的に溶出させることが可能であることから、直鎖状高分子が好ましい。
本実施形態において、これらの官能基は、被吸着タンパク質の種類、好ましくは、目的タンパク質の種類、要求する精製度などに応じて適当なものを選ぶことができる。
強塩基性陰イオン交換膜の官能基としては、例えば、四級アンモニウム基(Q、−N+R3)、四級アミノエチル基(QAE、−(CH2)2−N+R3)などが挙げられる。ここで、Rは特に限定されず、同一のNに結合するRが同一又は異なっていてもよく、好ましくは、アルキル基、アリール基などの炭化水素基を表す。より具体的には、トリメチルアミノ基(TMA、−N+Me3)などが挙げられる。
弱塩基性陰イオン交換膜の官能基としては、例えば、1級アミノ基(−NH2)、2級アミノ基(−NHR)、3級アミノ基(−NR2)などが挙げられ、具体的には、ジエチルアミノエチル基(DEAE、−(CH2)2−NEt2)、ジエチルアミノプロピル基(DEAP、−(CH2)3−NEt2)などが挙げられる。ここでも、Rは特に限定されず、同一のNに結合するRが同一又は異なっていてもよく、好ましくは、アルキル基、アリール基などの炭化水素基を表す。
放射線グラフト重合法には、(1)タンパク質吸着能を有する官能基を有するモノマーを直接基材にグラフト重合させる方法、又は、(2)タンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を含むモノマーを基材にグラフト重合し、続いて、タンパク質吸着能を有する官能基を導入する方法があるが、いずれも採用することができる。
本実施形態において、グラフト重合によって導入された高分子を「グラフト鎖」と呼ぶ場合がある。
(1)の方法において用いられる上記モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メタクリレート誘導体、ビニル化合物、アリル化合物などが挙げられ、具体的には、ジエチルアミノエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルアミンなどが挙げられる。
(2)の方法において用いられる上記モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、反応性の高いエポキシ基を有するグリシジルメタクリレート(GMA)などが挙げられる。
本実施形態において、グラフト率(dg[%])は、放射線グラフト重合前後の、基材に対する増加重量に基づいて定義され、下記式(1)により求めることができる。
W1:放射線グラフト重合後の重量(g)
W1:放射線グラフト重合後の重量(g)
W2:タンパク質吸着能を有する官能基導入後の全体重量(g)
M1:グラフト鎖モノマー単位の分子量(g/mol)
M2:タンパク質吸着能を有する官能基の分子量(g/mol)
a:グラフト鎖モノマー1分子あたりの、タンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基数
例えば、モジュール成形工程の後、タンパク質吸着多孔膜に液体又は蒸気により湿潤化した状態で加熱する処理(湿熱処理)工程を実施してもよい。該湿熱処理によって、吸着能力が向上することがあるので、該湿熱処理を実施するのが好ましい。
該湿熱処理に用いられる液体は、好ましくは純水又は水溶液である。水溶液は無機塩を含む水溶液であれば、特に限定されない。処理装置の保全の観点、水溶液調整の作業負荷軽減の観点から純水を用いることが好ましい。
また、該湿熱処理の温度は、50〜110℃が好ましく、純水を使用した場合の作業性及び該湿熱処理の効果の観点から60〜95℃がより好ましい。
すなわち、特許文献1に記載の膜は、反対方向に溶出液を流して、ポリマー鎖を逆撫でし、被吸着タンパク質を効率的に溶出する本精製方法が特に効果的に作用する膜といえる。
多層度の概念自体は、degree of multilayer binding of proteinとして、例えば、非特許文献1に掲載されており、当業者にとって既知の概念である。
本実施形態において、多層度は下記式(3)で求められる値である。
「吸着容量」とは、吸着量を単位膜量当たりの値に換算した数値を意味し、「吸着量」とは、タンパク質吸着多孔膜が吸着する被吸着タンパク質の重量を意味する。
なお、吸着容量を評価する際は、実際の製造ラインに用いる場合とは違い、精製されたタンパク質を溶液にした原液で評価することが一般的である。
C:原液透過液のタンパク質濃度[g/L]
Q:累積の原液透過液量[L]
Qe:吸着平衡に達したときの原液透過液量[L]
W:タンパク質吸着多孔膜の重量[g]
SP:タンパク質1分子の占有面積[m2]
Mr:BSAの分子量[g/mol]
NA:アボガドロ数[/mol]
タンパク質吸着多孔膜の比表面積SMは窒素吸着法(BET法)で測定することができる。
上記(1−1)工程は、緩衝液を通液することにより、タンパク質吸着機能を担う高分子の状態(電荷状態など)を平衡化させる工程であり、タンパク質吸着の準備手順として行われる。
上記(1−2)工程は、平衡化されたタンパク質吸着多孔膜に対し、吸着対象タンパク質を含有する原液を通液することにより、吸着対象タンパク質をタンパク質吸着多孔膜へ吸着させる工程であり、本実施形態における吸着工程として必須手順として行われる。
(1−2)工程においては、吸着させるタンパク質は、適宜選択されるが、目的タンパク質を吸着させ、後から溶出回収する方法と、不用なタンパク質を吸着させ、目的タンパク質を通過させて回収する方法とが挙げられる。
いずれの場合においても、本実施形態においては、溶出工程において、溶出液は、1種又は複数種の溶出液を切り替えて通液してもよく、少なくとも1種の溶出液を吸着工程における原液の通液方向とは反対方向に通液することにより、タンパク質吸着多孔膜が再生される。
本実施形態においては、溶出工程において、複数回溶出が行われる場合には、そのうちの少なくとも1回、吸着工程における原液の通液方向とは反対方向に溶出液が通液されればよく、反対方向に溶出液が通液される回数は、特に限定されず、複数回反対方向に通液されてよい。複数回の溶出全てにおいて、吸着工程における原液の通液方向とは反対方向に溶出液が通液されてもよい。
溶出液としては、塩を含む水溶液、pHが調整された水溶液、水、有機溶剤、及びこれらの混合溶液からなる群から選択されるが、被吸着タンパク質の種類、分離目的、タンパク質吸着能を有する官能基の種類(疎水性相互作用膜、イオン交換膜、群特異アフィニティ吸着膜、個別特異アフィニティ吸着膜)などそれぞれのプロセスに応じて適切なものを1種以上選ぶことができる。吸着工程における原液の通液方向とは反対方向に通液する少なくとも1種の溶出液は、上記溶出液から選択される。
なお、被吸着タンパク質を回収する必要がある場合は、被吸着タンパク質の安定pHで調整された溶出液を用いるのが好ましい。安定pHとは、被吸着タンパク質が変性しないpH領域を意味する。
「pHが調整された水溶液」を用いた場合は、溶出工程における通液方向が、吸着工程における原液の通液方向とは、順方向であっても、反対方向であっても、その後に中和操作を行うのが好ましい。斯かる中和操作における通液も、順方向であっても、反対方向であってもよい。中和操作は、「塩を含む水溶液」として所望のpHに調整した塩を含む緩衝液を用いてもよいし、「pHが調整された水溶液」として、所望のpHに調整した緩衝液を用いることも可能である。
単なる塩を含む水溶液は、酸性・塩基性のどちらでもなく、中性となるが、本実施形態における「塩を含む水溶液」としては、中性塩を含み、さらに、pH調節された緩衝液であってもよい。すなわち、中性塩を含む緩衝液は「塩を含む水溶液」に分類する。
特許文献1に記載のように低濃度の塩を含む溶液中であれば、タンパク質の吸着が可能であることから、塩濃度はより効率的な溶出を施すために、好ましくは0.3mol/L以上であり、より好ましくは0.5mol/L以上であり、さらに好ましくは0.8mol/L以上であり、よりさらに好ましくは1mol/L以上である。0.3mol/L以上で、タンパク質吸着多孔膜の機械的強度及び形状が保持され、通液圧などの使用上問題がない濃度以下の中性塩を含む水溶液が、本実施形態においては、好適に通液されるが、かかる通液は、順方向であっても反対方向に通液されてもよい。
塩濃度とは、中性塩の濃度であり、他の溶質の濃度は問わない。したがって単なる中性塩水溶液、中性塩を含む緩衝液などから適当なものを選ぶことができる。
溶出工程において、タンパク質吸着多孔膜を平衡化のために緩衝液を通液させることが一般に行われるので、再度吸着工程に移ることを考慮し、操作の簡略化の観点から、溶出工程における原液と同じpHに調節された、塩を含む緩衝液を用いることが好ましい。
以下、イオン交換膜における本実施形態をより具体的に説明する。
イオン交換膜のうち、強酸性陽イオン交換膜、弱酸性陽イオン交換膜、強塩基性陰イオン交換膜、及び弱塩基性陰イオン交換膜の全てで、「塩を含む水溶液」を溶出液として使用可能であり、特に弱酸性陽イオン交換膜、弱塩基性陰イオン交換膜においては「pHが調整された水溶液」も溶出液として使用可能である。
弱酸性陽イオン交換膜では、膜のpI以下では電荷の偏りがなく、pIを超えると負に帯電する。したがって、タンパク質のpI以上かつ膜のpI以上のpH領域では両者とも負に帯電するため、被吸着タンパク質は溶出する。また、タンパク質のpI以下かつ膜のpI以下でも、両者の静電的な相互作用はなくなるため、被吸着タンパク質は溶出する。すなわち、タンパク質が膜に吸着しうるpH領域はタンパク質のpIと膜のpIの間であり、それ以外のpH領域に「pHが調整された水溶液」は溶出液として用いることができる。
タンパク質吸着状態でいきなりpHを変えて溶出させてもよいが、pH変化による被吸着タンパク質の変性を防止する観点から、工程(A)を行って、工程(B)を行うことで、被吸着タンパク質の溶出効率を上げることができる。
モジュール成型した中空糸状タンパク質吸着多孔膜の場合、内圧式(内側から外側への通液)で通液する場合は、好ましくは1MV/min〜110MV/minであり、より好ましくは3MV/min〜40MV/minであり、さらに好ましくは4MV/min〜15MV/minである。外圧式(外側から内側への通液)で通液する場合は、好ましくは1MV/min〜15MV/minであり、より好ましくは3MV/min〜10MV/minであり、さらに好ましくは4MV/min〜10MV/minである。ここで、MVとは膜体積を意味する。つまり1MV/minとは1分間に膜体積と同量の液量を通液することを意味する。膜体積の算出方法について詳しくは後述する。
微粉ケイ酸(アエロジル(登録商標)R972グレード)27.2質量部、ジブチルフタレート(DBP)54.3質量部、及びポリエチレン樹脂粉末(旭化成ケミカルズ株式会社製サンファイン(商標)SH−800グレード)18.5質量部を予備混合し、2軸押出し機で中空糸状に押出して、中空糸状の膜を得た。次いで、この膜を塩化メチレン及び水酸化ナトリウム水溶液に順次浸漬することにより、ジブチルフタレート(DBP)及びケイ酸を抽出し、その後、水洗、乾燥処理を施し、ポリエチレン製の中空糸多孔膜を得た。
バブルポイント法で測定した得られた中空糸多孔膜の平均細孔径は0.3μmであった。測定は、ASTM規格のF316−86に記載されている平均孔径の測定方法(別称:ハーフドライ法)に準拠して測定した。6cm長の中空糸多孔膜に対し、液体としてエタノール、加圧用気体として窒素を用いて行った。得られたハーフドライ平均圧力に対して、平均細孔径は、下記式(6)により算出した。
空孔率は69%であった。空孔率は、下記式(7)により算出した。
p:ハーフドライ平均圧力(Pa)
Wdry:乾燥時の中空糸多孔膜の重量(g)
ρ:測定時の水温における水の密度(g/mL)
V:中空糸の円環断面積体積(mL)
Do:中空糸の外径(cm)
Di:中空糸の内径(cm)
製造例1で製造したポリエチレン製の中空糸多孔膜を密閉容器にいれ、容器内を窒素置換した。次いで、中空糸多孔膜が入った密閉容器をドライアイスとともに発泡スチロール製の箱に入れ、冷却しながらγ線200kGyを照射し、ポリエチレンにラジカルを発生させ、中空糸多孔膜を活性化させた。
活性化された中空糸多孔膜を、窒素雰囲気の密閉容器内で室温まで戻した。その後、中空糸多孔膜を反応容器に投入し、密閉して真空状態(100Pa以下)にした。グリシジルメタクリレート(GMA)5質量部とメタノール95質量部とを混合し、窒素バブリングして予め準備した反応液を、真空状態の反応容器内に圧力差を利用して送液した。送液された反応液を40℃で4時間循環し、一終夜静置後、反応液を排出した。メタノール、次いで水によって中空糸多孔膜を十分に洗浄し、ポリエチレン主鎖にグリシジルメタクリレートがグラフト重合したグラフト中空糸多孔膜を得た。
得られたグラフト中空糸膜の一部を採取し、乾燥させて重量を測定し、式(1)でグラフト率を算出すると、グラフト率は66〜73%であった。
グラフト中空糸多孔膜の入った反応容器に、50体積濃度のジエチルアミン水溶液を入れ、30℃で5時間を循環し、一終夜静置後、ジエチルアミン水溶液を排出した。次いで中空糸多孔膜を水で十分に洗浄し、乾燥させ、グラフト鎖にジエチルアミノ基を有するグラフト中空糸多孔膜をタンパク質吸着多孔膜として得た。
得られたタンパク質吸着多孔膜の一部を採取し、乾燥させて重量を測定し、式(2)でリガンド転化率を算出すると、リガンド転化率は91%であった。
またタンパク質吸着多孔膜の外径は3.6mm、内径は2.2mmであった。
製造例2で製造したタンパク質吸着多孔膜を、糸有効長9.4cm、糸本数1本入りのモジュールに成型した。
タンパク質吸着多孔膜の吸着能力を表す用語として、「平衡吸着容量」(又は「静的吸着容量」)と「動的吸着容量」とがあり、当業界では広く用いられている。
「動的吸着容量」とは、タンパク質吸着多孔膜に対してタンパク質を含む原液を通液させる際に、その原液の透過液のタンパク質濃度が基準濃度に達する時点までの吸着容量を指す。この基準濃度は破か点と呼び、一般的に破か点としては通液する原液のタンパク質濃度に対する、その原液の透過液のタンパク質濃度が5%〜20%の範囲から選ぶ。
製造例2で得られたタンパク質吸着多孔膜の比表面積SMは、6.8m2/gであった。なお、測定にはBECKMAN COULTER株式会社製比表面積・細孔分布測定装置(コールターSA3100シリーズ)を用いて、BET法にて行った。
BSA1分子の占有面積SP=16×10−18(m2)、分子量Mr=67500(g/mol)、アボガドロ数NA=6.02×1023(/mol)を式(5)に代入して計算し、理論単層吸着容量4.8×10−2(g/g)と算出した。
平衡吸着容量は、BSAを用いて行い、原液の透過液の280nm吸光度をモニターした。BSAの平衡吸着量(式4の分子)は45mgであり、モジュール成形したタンパク質吸着多孔膜の重量Wは226mgであった。従って、式(4)により平衡吸着容量は、0.20g/gであった。
したがって、多層度は式(3)により、4.2と算出された。
モジュールを上述の汎用HPLCシステムに接続し、吸着工程、洗浄工程及び溶出工程を繰り返し行って、吸着工程における動的吸着容量を算出した。なお測定には、BSAを用い、原液の透過液の280nm吸光度をモニターした。
吸着工程後は、洗浄工程、溶出工程を経て吸着容量を測定するという手順を複数回繰返し、その都度の動的吸着容量を測定した。1回目の動的吸着容量(すなわち、タンパク質を初めて吸着させた際の動的吸着容量)を100として、溶出工程後の吸着時における動的吸着容量の比を「保持率(%)」として算出し、溶出方法による効果の度合いを比較した。保持率が100に近いほど、溶出効果が大きいといえる。
なお、動的吸着容量は、動的吸着量(mg)を、式(8)で求められる膜体積V(mL)で割り、単位はmg/mLとした。
<トリス塩酸塩緩衝液(緩衝液)>
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(ナカライテスク株式会社製)4.84gを超純水約1.9Lに溶解し、塩酸を加えpH8に調整後、メスアップして2Lとして濃度20mmol/L(pH8)とした。その後、孔径0.45μmのフィルターを通したものを用いた。
モデルタンパク質として一般に用いられるBSA(牛血清アルブミン、シグマアルドリッチ製)を用いた。バイオテクノロジーの精製装置の性能表示を行う際、精製されたタンパク質溶液をモデルとして用いられるのは一般的である。
20mmol/L(pH8)トリス塩酸緩衝液1Lに対しBSA1gを溶解させ、孔径0.45μmのフィルターを通したものを用いた。
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(ナカライテスク株式会社製)4.84gを超純水約1.9Lに溶解し、次いでNaCl(和光純薬工業株式会社製試薬特級)117gを溶解後、塩酸を加えpH8に調整した。メスアップして2Lとして濃度1mol/Lの塩化ナトリウムを含む緩衝液を調製した。その後、孔径0.45μmのフィルターを通したものを用いた。
1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製試薬特級)を使用した。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールに対して、吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向で通液した。そして、溶出工程として、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、反対方向)、塩緩衝液(20mL、反対方向)を通液した。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールに対して、吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向で通液した。そして、溶出工程として、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、順方向)、塩緩衝液(20mL、反対方向)を通液した。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールに対して、吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向で通液した。そして溶出工程として、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、反対方向)、塩緩衝液(20mL、順方向)を通液した。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールに対して、溶出工程で、全て順方向にて通液した以外は、実施例1と同じ溶出液、通液順、及び通液量で通液した。
吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向で通液した。そして溶出工程として、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、順方向)、塩緩衝液(20mL、順方向)を通液した。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールに対して、製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールを、吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを反対方向に、次いで緩衝液10mLを順方向に通液した。そして溶出工程として、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、順方向)、塩緩衝液(20mL、順方向)を通液した。
比較例2において、洗浄工程で緩衝液を反対方向に通液通液した場合、10回繰り返し後に吸着容量の保持率が77%であった。実施例1〜3で、溶出液を反対方向に通液することによる効果が実証された。
1種類の溶出液として、塩緩衝液を用いて溶出工程を行った場合の実施例を示す。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールに対して、吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向に通液した。そして、溶出工程として、塩緩衝液(20mL、反対方向)を通液した。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュールに対して、溶出工程で、順方向にて通液した以外は、実施例4と同じ溶出液及び通液量で通液した。
吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向に通液した。そして溶出工程として、塩緩衝液(20mL、順方向)を通液した。
製造例1で製造したポリエチレン製中空糸多孔膜を基材として、グラフト反応により、タンパク質吸着多孔膜を得た。グラフト反応は、反応液中のグリシジルメタクリレート(GMA):メタノールの混合比を13.9質量部:86.1質量部とした以外は、製造例2に従った。得られたタンパク質吸着多孔膜のグラフト率は195%、リガンド転化率は98%であった。また、外径は4.4mm、内径は2.8mmだった。
得られたタンパク質吸着多孔膜を3本採取し、それぞれ製造例3と同様にモジュール(5A,5B,5C)を成形した。
モジュール5Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、5.5であった。
モジュール5Bを評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向で通液した。そして、溶出工程として、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、反対方向)、塩緩衝液(20mL、反対方向)を通液した。
吸着1回目の動的吸着容量は73.9mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は69.5mg/mLで保持率は94%であった。
実施例5で製造したモジュール5Cに対して、溶出工程において、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、順方向)、塩緩衝液(20mL、順方向)と、溶出液をすべて順方向に通液した以外は、実施例5と同じように評価を行った。
吸着1回目の動的吸着容量は75.0mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は52.7mg/mLで保持率は70%であった。
多層度5.5の場合、比較例4の保持率70%に対して、実施例5で保持率94%と保持率が向上した。なお、保持率の向上度を、(反対方向での溶出実施時の保持率)/(順方向のみでの溶出実施時の保持率)で表すと、134%となった。
製造例1で製造したポリエチレン製中空糸多孔膜を基材として、グラフト反応により、タンパク質吸着多孔膜を得た。グラフト反応は、反応液中のグリシジルメタクリレート(GMA):メタノールの混合比を9.4質量部:90.6質量部とした以外は、製造例2に従った。得られたタンパク質吸着多孔膜のグラフト率は131%、リガンド転化率は97%であった。また、外径は4.1mm、内径は2.5mmだった。
得られたタンパク質吸着多孔膜を3本採取し、それぞれ製造例3と同様にモジュール(6A,6B,6C)を成形した。
モジュール6Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、4.5であった。
モジュール6Bを評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は実施例5と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において、反対方向への通液を行った。)
吸着1回目の動的吸着容量は56.4mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は54.1mg/mLで保持率は96%であった。
実施例6で製造したモジュール6Cに対して、評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は比較例4と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において溶出液をすべて順方向に通液した。)
吸着1回目の動的吸着容量は56.0mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は40.9mg/mLで保持率は73%であった。
多層度4.5の場合、比較例5の保持率73%に対して、実施例6で保持率96%と保持率が向上した。保持率の向上度は131%となった。
製造例1で製造したポリエチレン製中空糸多孔膜を基材として、グラフト反応により、タンパク質吸着多孔膜を得た。グラフト反応は、反応液中のグリシジルメタクリレート(GMA):メタノールの混合比を6.1質量部:93.9質量部とした以外は、製造例2に従った。得られたタンパク質吸着多孔膜のグラフト率は85%、リガンド転化率は95%であった。また、外径は3.8mm、内径は2.4mmだった。
得られたタンパク質吸着多孔膜を3本採取し、それぞれ製造例3と同様にモジュール(7A,7B,7C)を成形した。
モジュール7Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、4.3であった。
モジュール7Bを評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は実施例5と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において、反対方向への通液を行った。)
吸着1回目の動的吸着容量は55.0mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は53.9mg/mLで保持率は98%であった。
実施例7で製造したモジュール7Cに対して、評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は比較例4と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において溶出液をすべて順方向に通液した。)
吸着1回目の動的吸着容量は54.4mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は41.0mg/mLで保持率は75%であった。
多層度4.3の場合、比較例6の保持率75%に対して、実施例7で保持率98%と保持率が向上した。保持率の向上度は130%となった。
製造例1で製造したポリエチレン製中空糸多孔膜を基材として、グラフト反応により、タンパク質吸着多孔膜を得た。グラフト反応は、反応液中のグリシジルメタクリレート(GMA):メタノールの混合比を3.6質量部:96.4質量部とした以外は、製造例2に従った。得られたタンパク質吸着多孔膜のグラフト率は50%、リガンド転化率は98%であった。また、外径は3.4mm、内径は2.1mmだった。
得られたタンパク質吸着多孔膜を3本採取し、それぞれ製造例3と同様にモジュール(8A,8B,8C)を成形した。
モジュール8Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、3.8であった。
モジュール8Bを評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は実施例5と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において、反対方向への通液を行った。)
吸着1回目の動的吸着容量は46.0mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は44.6mg/mLで保持率は97%であった。
実施例8で製造したモジュール8Cに対して、評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は比較例4と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において溶出液をすべて順方向に通液した。)
吸着1回目の動的吸着容量は46.4mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は35.9mg/mLで保持率は77%であった。
多層度3.8の場合、比較例7の保持率77%に対して、実施例8で保持率97%と保持率が向上した。保持率の向上度は125%となった。
製造例1で製造したポリエチレン製中空糸多孔膜を基材として、グラフト反応により、タンパク質吸着多孔膜を得た。グラフト反応は、反応液中のグリシジルメタクリレート(GMA):メタノールの混合比を2.3質量部:97.7質量部とした以外は、製造例2に従った。得られたタンパク質吸着多孔膜のグラフト率は32%、リガンド転化率は96%であった。また、外径は3.3mm、内径は2.0mmだった。
得られたタンパク質吸着多孔膜を3本採取し、それぞれ製造例3と同様にモジュール(9A,9B,9C)を成形した。
モジュール9Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、2.3であった。
吸着1回目の動的吸着容量は21.1mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は20.7mg/mLで保持率は98%であった。
実施例9で製造したモジュール9Cに対して、評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は比較例4と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において溶出液をすべて順方向に通液した。)
吸着1回目の動的吸着容量は21.4mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は18.5mg/mLで保持率は86.6%であった。
多層度2.3の場合、比較例8の保持率77%に対して、実施例9で保持率98%と保持率が向上した。保持率の向上度は113%となった。
製造例1で製造したポリエチレン製中空糸多孔膜を基材として、グラフト反応により、タンパク質吸着多孔膜を得た。グラフト反応は、反応液中のグリシジルメタクリレート(GMA):メタノールの混合比を1.0質量部:99.0質量部とした以外は、製造例2に従った。得られたタンパク質吸着多孔膜のグラフト率は14%、リガンド転化率は97%であった。また、外径は3.2mm、内径は1.9mmだった。
得られたタンパク質吸着多孔膜を3本採取し、それぞれ製造例3と同様にモジュール(10A,10B,10C)を成形した。
モジュール10Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、1.6であった。
モジュール10Bを評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は実施例5と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において、反対方向への通液を行った。)
吸着1回目の動的吸着容量は10.4mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は10.1mg/mLで保持率は97%であった。
実施例10で製造したモジュール10Cに対して、評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。評価における通液液種、通液順、通液量、通液方向は比較例4と全く同じで行った。(すなわち、溶出工程において溶出液をすべて順方向に通液した。)
吸着1回目の動的吸着容量は10.6mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は9.9mg/mLで保持率は93%であった。
多層度1.6の場合、比較例9の保持率93%に対して、実施例10で保持率97%と保持率が向上した。保持率の向上度は104%となった。
ナイロン6(0.2g)、塩化メチレン(10g)、蟻酸(0.1g)を室温で撹拌し、そこにt−ブチル次亜塩素酸ナトリウム(2g)を添加し、ナイロン6が溶解するのを待った。得られた溶液にさらに塩化メチレンを、全体質量が100gとなるように加えて、コーティング層形成のためのN−クロロ−ナイロン6溶液を得た。
孔径0.45μm、膜厚0.15mmのセルロース誘導体からなる多孔質平膜(日本ミリポア株式会社製)をN−クロロ−ナイロン6溶液に浸漬し、多孔質部に溶液が含浸するのを待った。溶液を含浸させた多孔質平膜から余剰の溶液を除去し、この膜をまず室温で乾燥し、次いで80℃の熱風循環乾燥器内で更に乾燥し、最後に140℃で15分間加熱することで、セルロース誘導体の多孔質平膜及びその表面を覆うN−クロロ−ナイロン6の被膜を有する平膜状の基材を得た。
グリシジルメタクリレート(GMA)5%、Tween80(関東化学株式会社製)0.3%及び亜ジチオン酸ナトリウム0.1%の組成を有するリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)を反応容器内でよく撹拌した。このリン酸ナトリウム緩衝液に、上記の平膜状の基材を投入して、室温で12分間のグラフト重合反応を行った。反応後の膜を、純水、アセトンの順に洗浄の後、80℃で乾燥させることで、GMAがグラフト重合して形成されたグラフト鎖を有するグラフト多孔質平膜を得た。グラフト率は8%であった。
なお、このグラフト率は、N−クロローナイロン6で被膜される前の膜重量に対する、グラフト鎖重量で定義した。すなわちグラフト率は、上述の式(1)を変形した下記式(1)’により算出した。
W0’:グラフト鎖導入前の基材重量(g)
W1:グラフト重合後の重量(g)
この多孔質平膜を用いて、平膜モジュール(11A,11B,11C)を成形した。
モジュール11Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、1.2であった。
モジュール11Bを評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。すなわち、評価流速は、いずれの工程でも5MV/minで行った。吸着工程において、平膜の表面から裏面へと通液し、その後洗浄工程として、緩衝液を表面から裏面(順方向)へと通液した。そして、溶出工程として、塩緩衝液(順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(反対方向)、塩緩衝液(反対方向)を通液した。ここで、反対方向とは、平膜の裏面から表面へと通液したことを意味する。
吸着1回目の動的吸着容量は7.7mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は7.5mg/mLで保持率は97%であった。
実施例11で製造したモジュール11Cに対して、上記実施例11と同様に繰り返し動的吸着容量を評価した。ただし、通液方向はすべて順方向で行った。
吸着1回目の動的吸着容量は8.4mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は7.9mg/mLで保持率は94%であった。
多層度1.2の場合、比較例10の保持率94%に対して、実施例11で保持率97%と保持率が向上した。保持率の向上度は103%となった。
製造例1〜3で得られたタンパク質吸着膜多孔膜のモジュール3本に対して、90℃の熱水を1時間通液する処理を施した(モジュール12A,12B,12C)。
モジュール12Aを評価例1に従って測定を実施し、多層度を算出すると、4.7であった。 モジュール12Bを評価例2に従って繰り返し動的吸着容量の評価を実施した。吸着工程(緩衝液30mL、BSA溶液40mL)を内圧式(中空部内側から外側への通液)で行い、その後洗浄工程として、緩衝液10mLを順方向で通液した。そして、溶出工程として、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、反対方向)、塩緩衝液(20mL、反対方向)を通液した。
吸着1回目の動的吸着容量は58.5mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着容量は56.7mg/mLで保持率は97%であった。
実施例12で製造したモジュール12Cに対して、溶出工程において、塩緩衝液(15mL、順方向)、水酸化ナトリウム水溶液(20mL、順方向)、塩緩衝液(20mL、順方向)と、溶出液をすべて順方向に通液した以外は、実施例5と同じように評価を行った。
吸着1回目の動的吸着容量は58.6mg/mLであり、10回繰返し後の動的吸着量は42.2mg/mLで保持率は72%であった。
90℃の熱水処理によって製造例1〜3の多層度は4.2から4.7へと大きくなった。また、比較例11の保持率72%に対して、実施例12で保持率97%と保持率が向上した。なお、保持率の向上度は、135%となった。
Claims (13)
- タンパク質吸着能を有する高分子で基材表面が被覆された多孔膜によるタンパク質の精製方法であって、
前記多孔膜の形状が中空糸膜であり、
前記多孔膜の一方の面から他方の面に吸着対象タンパク質を含有する原液を通液させ、該吸着対象タンパク質を前記高分子に吸着させる吸着工程と、
前記多孔膜に溶出液を通液させ、前記高分子に吸着された前記吸着対象タンパク質を該溶出液へ溶出させる溶出工程とを含み、
前記溶出工程において、少なくとも1種の溶出液を前記他方の面から前記一方の面に通液させて、前記吸着工程における前記原液の通液方向とは反対方向に通液する、タンパク質の精製方法。 - 前記溶出液が、塩を含む水溶液、pHが調整された水溶液、水、有機溶剤、及びこれらの混合溶液からなる群から選ばれる、請求項1に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記溶出工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向の順方向及び反対方向に前記溶出液を通液する、請求項1又は2に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記高分子が前記基材表面にグラフトされ、かつ、前記高分子のグラフト率が5%以上200%以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記高分子のグラフト率が30%以上90%以下である、請求項4に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記多孔膜がイオン交換膜であり、かつ、前記溶出液が塩を含む水溶液又はpHが調整された水溶液を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記多孔膜の多層度が1.1以上である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記多孔膜が、弱塩基性陰イオン交換膜又は弱酸性陽イオン交換膜であり、かつ、
前記溶出工程が、
前記吸着対象タンパク質の等電点と前記多孔膜の等電点の間以外にpHが調整された水溶液を通液する工程、及び、
塩を含む水溶液を通液する工程、を含み、
いずれかの工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向とは反対方向に通液する、請求項6又は7に記載のタンパク質の精製方法。 - pHが調整された水溶液を通液する前記工程、及び、塩を含む水溶液を通液する前記工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向の反対方向に通液する、請求項8に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記多孔膜が、弱塩基性陰イオン交換膜又は弱酸性陽イオン交換膜であり、かつ、
前記溶出工程が、
塩を含む水溶液を通液する第一の工程、
前記吸着対象タンパク質の等電点と前記多孔膜の等電点の間以外にpHが調整された水溶液を通液する第二の工程、及び、
塩を含む水溶液を通液する第三の工程、を含み、
前記第一の工程において、前記吸着工程における前記原液の通液方向の順方向に通液し、
前記第二の工程及び前記第三の工程において、吸着工程における前記原液の通液方向の反対方向に通液する、請求項6又は7に記載のタンパク質の精製方法。 - 前記溶出液が前記吸着対象タンパク質の安定pHで調整される、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記溶出液が0.3mol/L以上の中性塩を含む水溶液である、請求項1乃至11のいずれか1項に記載のタンパク質の精製方法。
- 前記多孔膜が、液体又は蒸気により湿潤化した状態で50〜110℃に加熱する処理を行って製造される、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のタンパク質の精製方法。
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