JP6085573B2 - 分岐光線路の特性解析装置および分岐光線路の特性解析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、光ファイバを分岐する光スプリッタの下流側の光ファイバ(以下では分岐光線路と称する)の特性を、光スプリッタの上流側から解析する技術に関する。
光センシングは構造物の周辺の歪みや温度変化をモニタリングする技術である。非特許文献1に記載のブリルアンOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)や、非特許文献2に記載のBOCDA(Brillouin Optical Correlation - domain analysis)などが知られている。非特許文献3に記載の、FBG(Fiber Bragg Grating)を配置する方法も提案されている。
FTTH(Fiber to the Home)を志向する光通信分野では、PON(Passive Optical Network)型ネットワークにおける分岐光線路の特性(損失など)を個別にモニタリングしたいというニーズがある。関連技術が非特許文献4に開示される。非特許文献4に示される技術は、光スプリッタの上流側の光ファイバにプローブ光パルスとポンプ光パルスとを入射し、両光パルスの衝突位置でのブリルアン利得を解析して分岐光線路の特性分布を個別に測定するという技術である。さらに、関連する技術が非特許文献5にも開示される。
H. Ohno, H. Naruse, M. Kihara, and A. Shimada, "Industrial Applications of the BOTDR Optical Fiber Strain Sensor," Optical Fiber Technology 7, 45-64,(2001). K. Hotate and T. Hasegawa, IEICE Trans. Electron. E83-C, 405, (2000). Y.J. Rao, "Recent progress in applications of in-fibre Bragg grating sensors," Optics and Lasers in Engineering 31, 297-324, (1999). H. Takahashi, F. Ito, C. Kito, and K. Toge, "Individual loss distribution measurement in 32-branched PON using pulsed pump-probe Brillouin Analysis," Optics Express, Vol.21, No.6, 6739, (2013). H. Takahashi, K. Toge, C. Kito, and F. Ito, "Individual PON Monitoring Using maintenance Band Pulsed Pump-Probe Brillouin Analysis," 2013 18th OECC, ThP1-4, (2013).
非特許文献4および5に示される技術では、被測定光ファイバに一対のプローブ光パルスとポンプ光パルス(以下、パルス対と称する)が入射された後は、このパルス対が被測定光ファイバから排出されるのを待たねばならない。つまり第1波のパルス対を被測定光ファイバに入射後このパルス対が被測定光ファイバから消滅するまで、第2波以降のパルス対を被測定光ファイバに入射することができない。これは、プローブ光とポンプ光とが光ファイバ内で多重に衝突するとブリルアン利得ピークから正確な特性分布情報を取得できなくなるからで、よって測定に時間のかかることがネックである。
しかも非特許文献4および5に示される技術では、SN比(信号対雑音比)を改善するために数万回のオーダで計測を繰り返して平均値を求めるようにしているので、必要な時間はますます長くなる。まして被測定線路が長いケースや分解能向上のため測定点を多点化したケースにおいては結果を得られるまでの時間はさらに長くなるので、抜本的な対処を求められている。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、分岐光線路の個別の特性分布を高速で測定することの可能な分岐光線路の特性解析装置および分岐光線路の特性解析方法を提供することにある。
本発明に係る分岐光線路の特性解析装置は、例えば以下のような態様とする。
(1) 特性解析装置は、光スプリッタに接続される複数の分岐光線路に入射される試験光パルスを発生する試験光パルス発生部と、入射された試験光パルスに由来する戻り光パルスを受光して電気信号を発生する受光部と、電気信号を処理する信号処理部とを具備する。試験光パルス発生部は、光周波数の等しいX個(Xは2以上の自然数)のプローブ光パルスを発生するプローブ光パルス発生部と、複数の分岐光線路の遠端でそれぞれ反射されたX個のプローブ光パルスに分岐光線路内で対向伝搬して衝突時にプローブ光パルスとインタラクションするポンプ光パルスを発生するポンプ光パルス発生部と、受光された戻り光パルス同士の干渉を防止すべくX個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御する制御部とを備える。信号処理部は、電気信号を解析して得られる戻り光パルスのブリルアン(Brillouin)利得スペクトル分布に基づいて複数の分岐光線路の特性を個別に解析する。
(2) 特性解析装置は、(1)において、最長の分岐光線路と最短の分岐光線路との長さの差をΔLmaxとし、プローブ光パルスのパルス幅をτprobeとし、光ファイバ中の光速をνとし、隣り合うプローブ光パルスの入射時間差をTとしたとき、制御部は、T≧τprobe+2ΔLmax/νを満たすべくX個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御する。
(3) 特性解析装置は、(1)において、ポンプ光パルスの光周波数をfとし、既定の設定ブリルアン周波数シフトをfとしたとき、プローブ光パルス発生部は、光周波数(f−f)のプローブ光パルスを発生する。
(4) 特性解析装置は、(1)において、信号処理部が、プローブ光パルスとポンプ光パルスとの光周波数差を変化させ、戻り光パルスの光強度から得られる距離毎のブリルアン利得スペクトルの最大値を取るブリルアン周波数シフト量に基づいて、当該ブリルアン周波数シフト量の変化に寄与する物理量の特性分布を複数の分岐光線路毎に取得する。
また、本発明に係る分岐光線路の特性解析方法は、例えば以下のような態様とする。
(5) 特性解析方法は、光スプリッタに接続される複数の分岐光線路に試験光パルスを入射し試験光パルスに由来する戻り光パルスを受光する、分岐光線路の特性解析方法において、光周波数の等しいX個(Xは2以上の自然数)のプローブ光パルスを発生することと、受光された戻り光パルス同士の干渉を防止すべくX個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御することと、X個のプローブ光パルスを入射することと、複数の分岐光線路の遠端でそれぞれ反射されたX個のプローブ光パルスに分岐光線路内で対向伝搬し衝突時にプローブ光パルスとインタラクションするポンプ光パルスを発生することと、X個のプローブ光パルスが入射された後にポンプ光パルスを入射することと、受光された戻り光パルスを電気信号に変換することと、電気信号を解析して得られる戻り光パルスのブリルアン(Brillouin)利得スペクトル分布に基づいて複数の分岐光線路の特性を個別に解析することとを具備することを特徴とする。
(6) 特性解析方法は、(5)において、最長の分岐光線路と最短の分岐光線路との長さの差をΔLmaxとし、プローブ光パルスのパルス幅をτprobeとし、光ファイバ中の光速をνとし、隣り合うプローブ光パルスの入射時間差をTとしたとき、制御することは、T≧τprobe+2ΔLmax/νを満たすべくX個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御する。
(7) 特性解析方法は、(5)において、ポンプ光パルスの光周波数をfとし、既定の設定ブリルアン周波数シフトをfとしたとき、プローブ光パルスを発生することは、光周波数(f−f)のプローブ光パルスを発生する。
(8) 特性解析方法は、(5)において、解析することが、プローブ光パルスとポンプ光パルスとの光周波数差を変化させ、戻り光パルスの光強度から得られる距離毎のブリルアン利得スペクトルの最大値を取るブリルアン周波数シフト量に基づいて、当該ブリルアン周波数シフト量の変化に寄与する物理量の特性分布を複数の分岐光線路毎に取得する。
本発明によれば、分岐光線路の個別の特性分布を高速で測定することの可能な分岐光線路の特性解析装置および分岐光線路の特性解析方法を提供することが可能になる。
図1は、実施形態に係る特性解析装置の一例を示すブロック図である。 図2は、実施形態に係る特性解析装置による測定手順の一例を示すフローチャートである。 図3は、実施形態における解析の手順の一例を示す模式図である。 図4は、分岐光線路毎のブリルアン利得スペクトル分布を示す図である。
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に示される実施の形態は一例であり、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではない。
図1は、実施形態に係る特性解析装置の一例を示すブロック図である。図1に示される特性解析装置は、被測定光ファイバ23に試験光を入射し、その戻り光を解析して被測定光ファイバ23の光線路特性を解析することが可能である。光線路特性は、例えば、距離に対する光減衰量、曲げ障害の位置、曲げの程度、断線障害の位置、距離に対する温度変化量などである。試験光には2種類あり、一方はプローブ光と称される。他方はポンプ光と称され、プローブ光と対向伝搬してプローブ光にブリルアン利得を与える。
プローブ光をパルス化してプローブ光パルスが得られる。ポンプ光をパルス化してポンプ光パルスが得られる。分岐光線路の遠端で反射されポンプ光パルスによるブリルアン増幅を受けて戻るプローブ光パルスを、戻り光パルスと称する。
図1において、レーザ光源11から出力される連続光は分岐素子12で2分岐され、一方は光周波数シフタ13および光パルス化装置16を経てプローブ光パルス(第1試験光)となる。他方は光パルス化装置18を経てポンプ光パルス(第2試験光)となる。
LiNbOを用いた位相変調器、あるいはSSB(Single Side Band)変調器などを光周波数シフタ13として用いることができる。この種の変調器にオシレータ14から正弦波を与え、正弦波の周波数に応じて変調側波帯の周波数を変化させてプローブ光を外部変調し、周波数シフトを与えることができる。光周波数シフタ13は、プローブ光の光周波数を既定の設定ブリルアン周波数シフトfだけ変化させる。
周波数シフトを受けたプローブ光は、入射時間制御部15の制御に基づいて光パルス化装置16でパルス化される。実施形態では特に、光周波数の等しい複数のプローブ光パルスを発生させる。ポンプ光は、入射時間制御部17の制御に基づいて光パルス化装置18でパルス化される。光パルス化装置16,18は、例えば音響光学素子をパルス駆動する音響光学スイッチ、あるいはLiNbOを用いた電気光学素子をパルス駆動する導波路スイッチなどを用いることができる。つまり光デバイス(音響光学変調器やLiNbO変調器)を電気パルスで変調すれば光パルスを得られる。電気パルスで駆動された時間に応じて連続光がパルス化される。
入射時間制御部15,17は、複数の分岐光線路からの戻り光パルス同士が干渉することを防止するために、複数のプローブ光パルスのパルス間隔を制御する。つまり入射時間制御部15,17は、プローブ光パルスが被測定光ファイバ23に入射される時間(タイミング)とポンプ光パルスが被測定光ファイバ23に入射される時間(タイミング)とに、時間差を与える。
入射時間制御部15,17は、例えば光パルス化装置16,18を駆動する電気パルスの変調時間を変化させることで実施可能である。上記光デバイスを変調するタイミングを変化させることで光パルスの生成されるタイミングを制御することができる。光パルス化装置16,18の各出力光を合波素子21で合波すれば、入射時間の異なるプローブ光パルス列(複数のプローブ光パルス)およびポンプ光パルスを生成することが可能となる。光パルス化装置16,18に与えられる電気パルスのうち一方の電圧をゼロにすれば、プローブ光パルスまたはポンプ光パルスの一方だけを入射することも可能となる。
光パルス化装置16からのプローブ光パルスは光アンプ19で測定に必要なレベルにまで増幅され、合波素子21に入射される。光パルス化装置18からのポンプ光パルスは光アンプ20で測定に必要なレベルにまで増幅され、合波素子21に入射される。プローブ光およびポンプ光は合波素子21から光サーキュレータ22を介して基幹光ファイバ230に入射され、さらに被測定光ファイバ23に入射される。被測定光ファイバ23は、光スプリッタ231と、光スプリッタ231の分岐下流側の分岐光線路232i(iは1〜Nの自然数)とを備える。各分岐光線路232iはその終端に光反射フィルタ233iを有する。なお終端面が十分な反射率を有していれば光反射フィルタ233iを省略してもよい。
光反射フィルタ233iで反射された試験光(プローブ光、ポンプ光)、あるいはブリルアン後方散乱光などの戻り光は光サーキュレータ22経由で光フィルタ24に入射される。光フィルタ24は解析に必要なプローブ光だけを通過させる特性を持ち、プローブ光だけが光受信機26に達する。光受信機26は受光したプローブ光を光/電変換し、プローブに基づく電気信号(出力電流)をA/D変換機27に入力する。A/D変換機27は電気信号をA/D(アナログ/ディジタル)変換し、ディジタルデータを生成する。このディジタルデータはパーソナルコンピュータ(PC)などの信号処理装置28に入力される。次に、上記構成における作用を詳しく説明する。
先ず、実施形態において、以下に示される(条件1)〜(条件4)が満たされることが重要である。
(条件1) 光周波数シフタ13による周波数シフトのレンジは、被測定光ファイバ23で生じるブリルアン周波数シフトの距離方向の周波数変化量よりも広いこと。条件1は、被測定光ファイバ中の全ての距離(位置)でプローブ光パルスとポンプ光パルスとがインタラクション(相互作用)して誘導ブリルアン散乱を生じるために必要な条件である。
(条件2) プローブ光パルスのパルス幅τprobeが、分岐光線路遠端(終端)からの戻り光の時間差2nΔL/cの最小値より狭いこと。なおΔLは分岐光線路232i(iは1〜Nの自然数)の長さの差の最小値である。また真空中の光速をcとし、nは光ファイバの屈折率である。すなわちc/nは光ファイバ中の光速νとなる。
条件2は、分岐光線路毎の戻り光(誘導ブリルアン散乱光)が光受信機26おいて重なること(干渉)を防ぐために必要な条件である。条件2が満たされなければ分岐光線路毎の戻り光(誘導ブリルアン散乱光)が光受信機26において干渉し、各分岐光線路を時間的に切り分けることができなくなる。つまり各分岐光線路を区別できなくなる。
(条件3) 光受信機26およびA/D変換機27の帯域が、パルス幅τprobeを受光可能な程度に広いこと。一般に、パルス幅τの光パルスを精確に測定するためには、光受信機26およびA/D変換機27の帯域が1/τより広い必要がある。
(条件4) 最長の分岐光線路と最短の分岐光線路との長さの差をΔLmaxとし、光ファイバ中の光速をνとし、隣り合うプローブ光パルスの入射時間差をTとしたとき、T≧τprobe+2ΔLmax/νが満たされること。条件4も条件2と同様に、分岐光線路毎の戻り光パルスが光受信機26おいて重なることを防ぐために必要な条件である。
なお、分岐光線路の長さの差のばらつきによっては、条件4の数式が測定速度に対して最適とならない場合もある。光受信機26への到達時に戻り光パルス同士が干渉しない範囲で、Tを自由に設定して良い。
実施形態では、分岐光線路の特性の解析に先立ちΔLmaxを測定する。ΔLmaxは例えば、プローブ光パルスを1波だけ入射して各分岐光線路からの戻り時間を測定し、最短の戻り時間と最長の戻り時間(いずれも往復時間)との差にνを乗算して2で割ることで求めることができる。次に、上記構成における作用を説明する。
図2は、実施形態に係る特性解析装置による測定手順の一例を示すフローチャートである。信号処理装置28は、先ず、プローブ光パルスとポンプ光パルスの周波数差fを設定する(ステップS1)。つまりプローブ光パルスとポンプ光パルスとの設定周波数差f=fであり、各プローブ光パルスの光周波数は光周波数f−fである。ここでfはポンプ光パルスの光周波数、fはブリルアン後方散乱による光周波数シフト量(Brillouin Frequency Shift:BFS)である。
次に信号処理装置28は、プローブ光パルス列に含まれる各プローブ光パルスとポンプ光パルスとの入射時間差t,t,t,…,tを設定する(ステップS2)。
図3は、実施形態における解析の手順を示す模式図である。図3において、白抜き矢印が進行するプロー光ブパルス列を示し、黒塗り矢印は進行するポンプ光パルスを示す。図3の(I)に示されるように、パルス幅τprobeで入射されるプローブ光パルスは、互いに条件4に基づく時間差Tで入射される。すなわちプローブ光パルス列は、パルス間隔Tで並ぶX個のプローブ光パルスを含む。以下の説明では、X個(X波)を含むプローブ光パルス列のi番目のプローブ光パルスとポンプ光パルスの入射時間差をtとする。この入射時間差によりプローブ光パルスとポンプ光パルスとの衝突位置が変化し、各分岐光線路における長手方向の測定位置が決定される。
図2に戻り、信号処理装置28は、プローブ光パルス列を光ファイバに入射し、X個のプローブ光パルスの入射が完了した後にポンプ光パルスを光ファイバに入射する(ステップS3,S4)。上記したようにプローブ光パルス列に含まれるプローブ光パルスとポンプ光パルスはそれぞれt,t,t,…,tの入射時間差を持つ。図3にはX=3のケースが示される。
次に、信号処理装置28は戻り光パルスの光受信機26への到達時間(戻り時間)に基づいて、各戻り光パルスを反射した分岐光線路を個別に識別する(ステップS5)。つまりA/D変換機27から出力されるディジタルデータがどの分岐光線路の情報を反映するのかが判断される。そして、得られたディジタルデータに基づいて、信号処理装置28は誘導ブリルアン散乱光を解析する(ステップS6)
図3の(II)に示されるように、光スプリッタ231でN分岐されたプローブ光パルス列とポンプ光パルスは分岐光線路中でインタラクションし、誘導ブリルアン散乱による後方散乱光が発生する。これによりプローブ光パルス列はポンプ光パルスからブリルアン利得を得る。プローブ光パルス列はX個のプローブ光パルスを含むので、ポンプ光パルスは異なる位置でX回のインタラクションを生じることになる。図3においては分岐光線路毎に3か所の衝突位置がある。
ブリルアン増幅を受けたX×N個のプローブ光パルスは、ポンプ光パルスを伴って光スプリッタ231で合波されたのち光サーキュレータ22(図1)に戻り、光フィルタ24に入射される。光フィルタ24はポンプ光パルスを除去し、これによりブリルアン増幅を受けたX×N個のプローブ光パルスだけが光受信機26で受光される。(条件4)が満たされているので、図3の(III)に示されるように、光受信機26において戻り光パルスが重なることはない。
光受信機26からの電気信号はA/D変換機27でディジタルデータに変換され、信号処理装置28に入力される。信号処理装置28は図2のステップS6の解析を行い、解析結果を出力する(ステップS7)。
最長の分岐光線路からポンプ光パルスが受光されると(ステップS8でYes)1つの小シーケンスが終了する(ステップS2〜ステップS7)。この小シーケンスは入射時間差t,t,t,…,tをΔtだけ増加させつつ(ステップS10)、t=ti+1となるまで繰り返される。
小シーケンスが完了すると、信号処理装置28はプローブ光パルスとポンプ光パルスとの周波数差fをΔfだけ変化させつつ(ステップS12)、ステップS1〜ステップS9の大シーケンスを繰り返す。この大シーケンスはf=Fになるまで繰り返される(ステップS11でYes)。ステップS11までの手順が完了すると、既に得られたブリルアン利得スペクトル分布に基づいて距離ごとのブリルアン利得スペクトラムのピーク分布を解析することができる。次に、数式を用いて上記作用を詳しく説明する。
(i)プローブ光パルス列とポンプ光パルスによる誘導ブリルアン散乱の測定について
プローブ光パルス列に含まれるプローブ光パルスとポンプ光パルスとがインタラクションすると誘導ブリルアン散乱が発生する。プローブ光パルス列とポンプ光パルスとの周波数差がfのとき、プローブ光パルスは誘導ブリルアン散乱により式(1)に示される増幅を受ける。
式(1)のα(z,f)は入射端からzの位置でインタラクションし、ブリルアン周波数差がfのときの誘導ブリルアンによる利得を示す。g(f)はプローブ光パルスとポンプ光パルスの周波数差がfであるときの誘導ブリルアン散乱係数を示す。zは分岐光線路入射端からプローブ光パルスとポンプ光パルスがインタラクションした位置までの距離を示す。Ipump(z)は分岐光線路入射端から距離zだけ離れた位置におけるポンプ光パルスの強度を示す。
分岐光線路#i(図3ではiは1〜4の自然数)の損失係数をα、分岐光線路#iを往復する光の全損失をLとする。そうすると分岐光線路に入射されたのち終端で反射され、入射端から距離zの位置でポンプ光パルスと衝突したプローブ光パルスの当該入射端における強度Iprobe(2L,z)は、式(2)で表される。
式(2)に示されるように、分岐光線路入射端でのプローブ光パルスの強度Iprobe(2L,z,f)は、g(f)とIpump(z)の関数になる。Ipump(z)は式(3)で表される。
また、プローブ光パルスだけを入射した場合の入射端に戻る反射プローブ光パルス強度Iref(2L)は、式(4)に示される。
従って式(2)を式(3)および式(4)を用いて変換すると式(5)が得られる。
ブリルアン散乱光の利得を解析することにより、式(5)に基づいてインタラクションした場所までの損失をポンプ光パルス幅で積分した値とブリルアン散乱係数との積を算出できる。従って、被測定光ファイバ23における損失を加味したブリルアン利得強度を得ることができる。
なお実施形態では、ポンプ光パルスが複数のプローブ光パルスと衝突するので複数回のインタラクションによるポンプディプレッションを生じ、ブリルアン利得強度が式(5)よりも抑圧されることが考えられる。しかし実施形態の手法によればブリルアン利得強度の絶対値情報は必要無いので、ポンプディプレッションへの特段の配慮は必要ない。必要な情報は、ブリルアン利得強度がピーク値を取るブリルアン周波数シフト量であり、ブリルアン利得強度のピーク値をモニタ(ピークサーチ)できれば良いからである。測定距離ごとのブリルアン利得スペクトルは、プローブ光パルスとポンプ光パルスとの周波数差fを変化させて測定を繰り返すことで取得される。
(ii)分岐光線路の距離に対するブリルアン散乱光分布の測定について
簡単のため、プローブ光パルス列のうち先頭のプローブ光パルスが、ポンプ光パルスに対して時間tだけ先に入射する場合だけを説明する。プローブ光パルス列に含まれる他のプローブ光パルスについても、時間tをt,t,…,tとすれば同様の説明が成り立つ。
被測定光ファイバ23の入射端から分岐光線路#a(aは1≦a≦Nの自然数)の終端までの長さをLとする。プローブ光パルスは光反射フィルタにより反射される。分岐光線路終端からの距離をlとし、光ファイバの屈折率をnとし、真空中の光速をcとすると、反射されたプローブ光パルスはt/2秒後にl=c/n×t/2だけ進むので、入射端からの距離をlx1とすると式(6)が得られる。
プローブ光パルスが入射されてから分岐光線路に進入し、光反射フィルタで反射してlx1に達するまでの時間tは、式(7)で表される。
プローブ光パルスが入射されてからt秒後にポンプ光パルスを入射するとする。ポンプ光パルスがt秒後に到達する入射端からの距離lx2は、式(8)で表される。
x1=lx2の位置、つまり式(6)=式(8)となる位置でポンプ光パルスはプローブ光パルスとインタラクションする。インタラクションのタイミングは光反射フィルタでプローブ光パルスが反射されてからt/2秒後である。つまり、プローブ光パルスとポンプ光パルスとを被測定光ファイバ23に入射する時間差を変化させることで、プローブ光パルスとポンプ光パルスとがインタラクションする位置を制御できる。これにより、距離に対する誘導ブリルアン散乱の特性分布を求めることができる。
実施形態において、プローブ光パルス列とポンプ光パルスが被測定光ファイバを一往復する間にインタラクションする位置は、プローブ光パルス列に含まれるプローブ光パルスの数Xだけ存在する。つまり多点(X点)の測定点のブリルアン利得情報を一括して取得することができるので、プローブ光パルスとポンプ光パルスの入射時間差を変化させて測定する回数をX分の1に削減でき、測定時間をX分の1に削減することができる。
(iii)分岐光線路#aの誘導ブリルアン散乱光が光受信機26に到達する時間の測定について
プローブ光パルスが光受信機26に到達する時間をtdaとする。プローブ光パルスは、分岐光線路終端の光フィルタで反射されて光受信機26に入射される。プローブ光パルスの光受信機26への到達時間tdaは式(9)で表される。
他の分岐光線路#b(1≦b≦Nの整数)から戻るプローブ光パルスが光受信機26に到達する時間tdbは、式(10)で表される。
よって、光受信機26に戻る時間差は、式(11)で表される。
≠Lであれば、光受信機26に到達する時間が異なる。
(条件2)は、式(12)で表される。
式(12)および(条件4)が満たされていれば、各分岐光線路から戻ったプローブ光パルスは光スプリッタ231で合波された後も重ならない。よって光受信機26への到達時間を測定することで、どの分岐光線路から戻ってきたプローブ光パルスであるかを特定できる。とまり各分岐光線路を時間的に切り分けることができる。
上記(i)〜(iii)により、分岐光線路個別のブリルアン利得スペクトル分布を、既存の技術(特に非特許文献4)のX倍の速度で高速に測定することが可能になる。測定されたブリルアン利得ピークの分布から温度、歪み、ファイバ構造パラメータの違いの特性分布を算出することももちろん可能である。
以上述べたように実施形態では、信号処理装置28は、或る設定ブリルアン周波数シフトfでの測定が完了した後、設定ブリルアン周波数シフトを設定ブリルアン周波数シフト間隔変化させて測定を繰り返し、設定ブリルアン周波数全帯域幅Fになると測定を終了する。
得られた距離に対するブリルアン利得分布を周波数毎に並べることで、距離に対するブリルアン利得スペクトル分布を求める。このブリルアン利得スペクトル分布において、演算処理により、距離ごとにブリルアン利得スペクトルの強度ピークをとる周波数がブリルアン周波数シフト量であり、被測定光ファイバ長手方向のブリルアン周波数シフト量の測定結果を出力することで、距離に対する特性分布を求める。つまり温度や歪、ファイバ構造パラメータの違いなどの、ブリルアン周波数シフト量の変化をもたらす物理量の分岐光線路毎の距離方向の特性分布を算出することができる。
以上の測定において、実施形態によれば、既存の手法に比べて単位時間当たりX倍の速度で測定点の情報を得ることができる。従って測定時間をX分の1にすることが可能になる。
図4は、分岐光線路毎のブリルアン利得スペクトル分布を示す図である。図4においては#1〜#8の8つの分岐光線路が想定される。各グラフは直行する3つの軸に距離、光周波数シフト量(Brillouin Frequency Shift:BFS)および損失をそれぞれプロットしたグラフである。なお分岐光線路#1,#7,#8に、基幹光ファイバ230とファイバ構造パラメータの異なる光ファイバを用いることを仮定した。
グラフ上の段差から一見して分かるのは、9.5kmの距離に光スプリッタ231があり、9.5km以遠が分岐光線路であることである。また各グラフによれば、分岐光線路#1、#7、#8のブリルアン周波数シフト量が基幹光ファイバ230と異なることが分かる。ブリルアン周波数シフト量は歪みや温度変化に対して線形な応答変化を示すので、実施形態によれば各分岐光線路を識別可能となり、かつ、歪みや温度変化を分岐光線路毎に測定することができる。
以上のように実施形態では、光スプリッタ231で複数に分岐された各分岐光線路の長さの差ΔLを利用し、波長の異なる二種のパルス試験光を用意する。予め設定された入射時間差を持つX個の試験光パルス列(プローブ光パルス列)を先に入射する。この入射時間差は分岐光線路の長さの最大値に基づいて最適化されるので、光受信機26でプローブ光パルスどうしが重なることはない。全てのプローブ光パルスの入射が完了したのち、ポンプ光パルスが入射される。
プローブ光パルス列は分岐光線路遠端、あるいは遠端に設置される反射フィルタで反射される。これによりポンプ光パルスが分岐光線路内の各位置(X箇所)で対向衝突し、誘導ブリルアン後方散乱光が生じる。この誘導ブリルアン後方散乱光を光受信機26で受信し、光受信機26の出力電流を2nΔL/c(cは光速)よりも高い時間分解能で解析することで、分岐光線路232i(1〜i〜N)のどれから戻った誘導ブリルアン後方散乱光であるかを特定することが可能となる。
また、プローブ光パルスとポンプ光パルスとの周波数差fを変化させながら測定を繰り返すことで分岐光線路毎のブリルアン利得スペクトル分布を取得する。そして、取得されたブリルアン利得スペクトル分布において、距離ごとにブリルアン利得スペクトルがピーク値を取るブリルアン周波数シフト量を取得(ピークサーチ)する。ブリルアン周波数シフト量は温度変化や歪み変化に対して線形な変化応答を示すので、ブリルアン周波数シフト量に寄与する物理量変化を分岐光線路毎に測定することができる。
要するに、或る設定ブリルアン周波数シフトfでの距離方向のブリルアン利得スペクトルを得るのに、既存の技術ではX回(10〜20回:分岐光線路長とサンプリング距離間隔に依存)の測定を要していたのに対し、実施形態によれば1回の測定で足りる。すなわち、予めプローブ光パルスを1波だけ入射して(N分岐の被測定光ファイバからの戻り時間から)分岐光線路の最長と最短の差ΔLmaxを測定したうえで、周波数の等しいX個のプローブ光パルス(周波数f−f)をτ+2ΔLmax/ν以上の時間差をもって入射するプローブ光パルス列と、プローブ光パルス列とは周波数の異なる1個のポンプ光パルス(周波数f)を更に時間差をもって入射することで、プローブ光パルス列とポンプ光パルスとの対向伝搬によりブリルアン利得スペクトルを求める。
そして、或る設定ブリルアン周波数シフト(f)での測定が完了した後、プローブ光パルス列とポンプ光パルスの周波数差を設定ブリルアンシフト間隔(Δf)ずつ変化させて設定ブリルアン周波数全帯域(F)まで測定を繰り返し、距離方向に対するブリルアン利得分布を得ることで、光線路の特性分布を求めることができる。
以上から実施形態によれば、分岐光線路の個別の特性を測定することができる。しかも分岐光線路毎にX個のデータを一気に取得できるので、試験光入射待機時間を大幅に削減でき、従って測定時間を大幅に短縮することができる。
これらのことから実施形態によれば、分岐光線路の個別の特性分布を高速で測定することの可能な分岐光線路の特性解析装置および分岐光線路の特性解析方法を提供することが可能となる。
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
11…レーザ光源、12…分岐素子、13…光周波数シフタ、14…オシレータ、15…入射時間制御部、16…光パルス化装置、17…入射時間制御部、18…光パルス化装置、19…光アンプ、20…光アンプ、21…合波素子、22…光サーキュレータ、23…被測定光ファイバ、24…光フィルタ、26…光受信機、27…A/D変換機、28…信号処理装置、230…基幹光ファイバ、231…光スプリッタ、232i…分岐光線路、233i…光反射フィルタ

Claims (8)

  1. 光スプリッタに接続される複数の分岐光線路に入射される試験光パルスを発生する試験光パルス発生部と、
    前記入射された試験光パルスに由来する戻り光パルスを受光して電気信号を発生する受光部と、
    前記電気信号を処理する信号処理部とを具備し、
    前記試験光パルス発生部は、
    光周波数の等しいX個(Xは2以上の自然数)のプローブ光パルスを発生するプローブ光パルス発生部と、
    前記複数の分岐光線路の遠端でそれぞれ反射された前記X個のプローブ光パルスに前記分岐光線路内で対向伝搬して衝突時にプローブ光パルスとインタラクションするポンプ光パルスを発生するポンプ光パルス発生部と、
    前記受光された戻り光パルス同士の干渉を防止すべく前記X個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御する制御部とを備え、
    前記信号処理部は、
    前記電気信号を解析して得られる前記戻り光パルスのブリルアン(Brillouin)利得スペクトル分布に基づいて前記複数の分岐光線路の特性を個別に解析することを特徴とする、分岐光線路の特性解析装置。
  2. 最長の分岐光線路と最短の分岐光線路との長さの差をΔLmaxとし、
    前記プローブ光パルスのパルス幅をτprobeとし、
    光ファイバ中の光速をνとし、
    隣り合うプローブ光パルスの入射時間差をTとしたとき、
    前記制御部は、T≧τprobe+2ΔLmax/νを満たすべく前記X個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御する、請求項1に記載の分岐光線路の特性解析装置。
  3. 前記ポンプ光パルスの光周波数をfとし、既定の設定ブリルアン周波数シフトをfとしたとき、
    前記プローブ光パルス発生部は、光周波数(f−f)のプローブ光パルスを発生する、請求項1に記載の分岐光線路の特性解析装置。
  4. 前記信号処理部は、
    前記プローブ光パルスと前記ポンプ光パルスとの光周波数差を変化させ、
    前記戻り光パルスの光強度から得られる距離毎のブリルアン利得スペクトルの最大値を取るブリルアン周波数シフト量に基づいて、当該ブリルアン周波数シフト量の変化に寄与する物理量の特性分布を前記複数の分岐光線路毎に取得する、請求項1に記載の分岐光線路の特性解析装置。
  5. 光スプリッタに接続される複数の分岐光線路に試験光パルスを入射し前記試験光パルスに由来する戻り光パルスを受光する、分岐光線路の特性解析方法において、
    光周波数の等しいX個(Xは2以上の自然数)のプローブ光パルスを発生することと、
    前記受光された戻り光パルス同士の干渉を防止すべく前記X個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御することと、
    前記X個のプローブ光パルスを入射することと、
    前記複数の分岐光線路の遠端でそれぞれ反射された前記X個のプローブ光パルスに前記分岐光線路内で対向伝搬し衝突時にプローブ光パルスとインタラクションするポンプ光パルスを発生することと、
    前記X個のプローブ光パルスが入射された後に前記ポンプ光パルスを入射することと、
    前記受光された戻り光パルスを電気信号に変換することと、
    前記電気信号を解析して得られる前記戻り光パルスのブリルアン(Brillouin)利得スペクトル分布に基づいて前記複数の分岐光線路の特性を個別に解析することとを具備することを特徴とする、分岐光線路の特性解析方法。
  6. 最長の分岐光線路と最短の分岐光線路との長さの差をΔLmaxとし、
    前記プローブ光パルスのパルス幅をτprobeとし、
    光ファイバ中の光速をνとし、
    隣り合うプローブ光パルスの入射時間差をTとしたとき、
    前記制御することは、T≧τprobe+2ΔLmax/νを満たすべく前記X個のプローブ光パルスのパルス間隔を制御する、請求項5に記載の分岐光線路の特性解析方法。
  7. 前記ポンプ光パルスの光周波数をfとし、既定の設定ブリルアン周波数シフトをfとしたとき、
    前記プローブ光パルスを発生することは、光周波数(f−f)のプローブ光パルスを発生する、請求項5に記載の分岐光線路の特性解析方法。
  8. 前記解析することは、
    前記プローブ光パルスと前記ポンプ光パルスとの光周波数差を変化させ、
    前記戻り光パルスの光強度から得られる距離毎のブリルアン利得スペクトルの最大値を取るブリルアン周波数シフト量に基づいて、当該ブリルアン周波数シフト量の変化に寄与する物理量の特性分布を前記複数の分岐光線路毎に取得する、請求項5に記載の分岐光線路の特性解析方法。
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