JP6082633B2 - 多糖ナノゲルおよびその製造方法、ならびにそれを用いた創傷治癒剤 - Google Patents

多糖ナノゲルおよびその製造方法、ならびにそれを用いた創傷治癒剤 Download PDF

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Description

本発明は、多糖ナノゲルおよびその製造方法、ならびにそれを用いた創傷治癒剤に関し、より詳細には、安全性に優れた多糖ナノゲルおよびその製造方法、ならびにそれを用いた創傷治癒剤に関する。
水溶性多糖類の一部の水酸基を構成する水素原子が疎水性分子で置換した疎水化多糖が水中で疎水的相互作用により自己会合し、ナノサイズの会合体微粒子(ナノゲル)を形成することが報告されている(非特許文献1および2)。このナノゲルは様々なタンパク質・疎水性薬物と複合化することも明らかとなっており、特にタンパク質との相互作用において変性状態のタンパク質と選択的に複合化することも報告されている。また、ナノゲルに取り込まれたタンパク質をシクロデキストリン(CD)の疎水性分子包接能を利用した会合制御によりナノゲルから放出させ、リフォールディングさせ得ることも明らかとなっており(非特許文献3)、汎用性人工分子シャペロンシステムの研究が展開されている。さらには、ナノゲルのシャペロン機能を応用したタンパク質デリバリーシステムも開発されており、静注ワクチンキャリア(非特許文献4)や経鼻ワクチンキャリア(特許文献1および非特許文献5)への応用が進められている。
一方、高齢化社会の進行に伴い、寝たきりまたは介護が必要な高齢者は増加の一途をたどっている。医療および介護の現場で、寝たきりもしくは介護が必要な高齢者、または入院患者に特有の問題としては、床ずれなどが挙げられる。あるいは、がんまたは脳卒中により入院を余儀なくされた場合、その治療が成功した後の患者のQOL向上においては、床ずれなどの皮膚の創傷の予防および改善は重要な課題である。床ずれなどの創傷患部に細菌が感染した場合、患者の死に繋がることも多く、特に、免疫力が低下した高齢者にとって重要な課題である。また、たとえ健康であっても、加齢に伴い、皮膚が乾燥しやすくなり、それに伴う創傷も大きな問題である。
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する細菌(以下、「ビフィズス菌」ともいう)は、腸管内の腸内細菌群の中で優勢を示す細菌の一つであり、その整腸作用および免疫調節作用が数多く報告されている。
一部のビフィズス菌は、菌体外に多糖類を産生することが報告されているが、その多くは、多糖の特徴的な構成成分および構造についての報告である(特許文献2)。ビフィズス菌が産生する多糖の機能については、免疫賦活効果(特許文献3)および抗アレルギー効果(特許文献4)に関する報告がある。
特開2010−105968号公報 国際公開第07/007562号 特開昭58−203913号公報 特開2011−201781号公報
K. Akiyoshiら, Macromolecules, 1993年, 26巻, 3062-3068頁 K. Akiyoshiら, Macromolecules, 1997年, 30巻, 857-861頁 Y. Sasakiら, The Chemical Record, 2010年, 1巻, 366-376頁 A. Uenakaら, Cancer Immunity, 2007年, 7巻, 9頁 T. Nochiら, Nature Materials, 2010年, 9巻, 572-578頁
本発明は上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、安全かつ増粘性に優れた、多糖ナノゲルおよびその製造方法を提供するとともに、高齢者や長期入院患者における創傷(床ずれ)の予防または改善のために、副作用の心配がなく、安全性を有し、かつ効率的に創傷患部を治癒することができる、創傷治癒剤を提供することにある。
本発明は、ガラクトース、グルコース、およびラムノースからなるオリゴ糖単位の繰り返しにより構成され、かつピルビン酸で修飾されている多糖から構成され、
該多糖中の一部の水酸基を構成する水素原子が、
コレステロール;
コレステロール誘導体;
からC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
ウレタン結合を介した水素;
ウレタン結合を介したコレステロール;
ウレタン結合を介したコレステロール誘導体;または
ウレタン結合を介したCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
で置換されている、多糖ナノゲルである。
1つの実施態様では、上記オリゴ糖単位は、上記ラムノース1molに対して、それぞれ上記ガラクトースが3molから5molであり、かつ上記グルコースが1molから3molであるモル比で構成されている。
1つの実施態様では、上記オリゴ糖単位は、オリゴ糖単位1molあたり0.8molから1molの上記ピルビン酸で修飾されている。
1つの実施態様では、上記多糖の平均分子量は、50,000から1,000,000である。
1つの実施態様では、上記多糖は、以下の式(I)で表される構造:
Figure 0006082633
(式(I)中、
からX20は、それぞれ独立して、水素原子、コレステリル基、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基で置換されたコレステリル基、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基、および−CO−NH−Yからなる群から選択される基であり、
Yは、水素原子、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基、および−(CH−NH−CO−O−Z(ここで、pは0から20の整数である)からなる群から選択される基であり、そして
Zは、水素原子、コレステリル基、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基で置換されたコレステリル基、およびCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基からなる群から選択される基であり、
但し、XからX20のすべてが水素原子である場合を除く)を含む。
1つの実施態様では、上記多糖中の水酸基を構成する水素原子は、単糖100残基内の総水酸基に対して、1個から10個の割合で置換されている。
1つの実施態様では、上記多糖はビフィズス菌由来である。
さらなる実施態様では、上記ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)JBL05株(NITE BP−82)由来である。
本発明はまた、上記多糖ナノゲルと、タンパク質またはペプチドとを含む、複合体である。
本発明はまた、多糖ナノゲルの製造方法であって、
(1)ビフィズス菌から、多糖を調製する工程、
(2)該多糖を有機溶媒に溶解する工程、
(3)工程(2)で溶解した多糖の一部の水酸基を構成する水素原子を、
コレステロール;
コレステロール誘導体;
からC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
ウレタン結合を介した水素;
ウレタン結合を介したコレステロール;
ウレタン結合を介したコレステロール誘導体;または
ウレタン結合を介したCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;で置換して、置換多糖を得る工程、および
(4)該置換多糖をゲル化する工程、を含む、方法である。
本発明はまた、多糖を有効成分として含有し、該多糖が、ガラクトース、グルコース、およびラムノースからなるオリゴ糖単位の繰り返しにより構成され、かつピルビン酸で修飾されている、創傷治癒剤である。
1つの実施態様では、上記オリゴ糖単位は、上記ラムノース1molに対して、それぞれ上記ガラクトースが3molから5molであり、かつ上記グルコースが1molから3molであるモル比で構成されている。
1つの実施態様では、上記オリゴ糖単位は、オリゴ糖単位1molあたり0.8molから1molの上記ピルビン酸で修飾されている。
1つの実施態様では、上記多糖の平均分子量は、50,000から1,000,000である。
1つの実施態様では、上記多糖はビフィズス菌由来である。
さらなる実施態様では、上記ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)JBL05株(NITE BP−82)由来である。
1つの実施態様では、上記多糖中の一部の水酸基を構成する水素原子は
コレステロール;
コレステロール誘導体;
からC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
ウレタン結合を介した水素;
ウレタン結合を介したコレステロール;
ウレタン結合を介したコレステロール誘導体;または
ウレタン結合を介したCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
で置換されている。
1つの実施態様では、上記多糖中の水酸基を構成する水素原子は、単糖100残基内の総水酸基に対して、1個から10個の割合で置換されている。
1つの実施態様では、本発明の創傷治癒剤は外用剤として用いられる。
本発明によれば、安全かつ増粘性に優れた多糖ナノゲルを提供することができる。上記多糖ナノゲルは、ビフィズス菌産生多糖(以下、「BPS」ともいう)と比較して、顕著な増粘効果を有し、さらにタンパク質またはペプチドを取り込み、該タンパク質またはペプチドと複合体を形成する効率が高い。よって、BPSの特性である保湿・保水性を損なわず、使用用途に合わせたゾル−ゲルマテリアルの設計が可能となる。
さらに本発明によれば、副作用の心配がなく、安全性を有し、かつ効率的に創傷患部を治癒する創傷治癒剤を提供することができる。上記創傷治癒剤は、医薬品、化粧品、石鹸、皮膚塗布剤、坐剤などの種々の分野に利用することができる。
実施例1において、圧力下にて低分子化させたBPSの重量平均分子量をSEC-MALLSを用いて測定した結果を示すグラフである。 実施例3において、BPSからCH−BPS−S2.0が合成されたことを、H−NMR測定によって確認したことを示すチャートである。 実施例5において、超音波照射がCH−BPS−S2.0ナノゲルへ及ぼす影響を、動的光散乱(DLS)測定の結果によって示したグラフである。 実施例6において、CH−BPS−M2.1の増粘性を、マイクロレオロジーを用いて測定した結果を示すチャートである。 実施例6において、CH−BPS−S2.0の増粘性を、マイクロレオロジーを用いて測定した示すチャートである。 実施例6において、CH−BPS−S2.0溶液の増粘性を示した写真である。 実施例7において、CH−BPS−S2.0ナノゲルとFITC−Insとの複合体量を、紫外可視分光光度計を用いて測定した結果を示すグラフである。 実施例8〜10において、調製例1および実施例2で得られた各種BPSを塗布したマウスの創傷患部組織の経日変化を示す写真である。 実施例11〜13において、調製例1および実施例3で得られた各種BPSを塗布したマウスの創傷患部組織の経日変化を示す写真である。
以下、本発明を詳細に説明する。
(多糖)
本発明において用いられる多糖は、ガラクトース、グルコース、およびラムノースからなるオリゴ糖単位の繰り返しにより構成され、かつピルビン酸で修飾されている、多糖である(以下、単に「多糖」という)。
上記オリゴ糖単位は、ガラクトース、グルコース、およびラムノースの単糖同士が結合することによって形成される。
一つの実施態様では、上記オリゴ糖単位は、上記ラムノース1molに対して、それぞれ上記ガラクトースが3mol〜5molのモル比で構成されており、そして上記グルコースが1mol〜3molのモル比で構成されている。
上記オリゴ糖単位は、例えば0.8mol/オリゴ糖単位〜1mol/オリゴ糖単位、好ましくは0.86mol/オリゴ糖単位〜0.97mol/オリゴ糖単位にてピルビン酸で修飾されている、および/または上記多糖の総質量に対して、4質量%〜7質量%のピルビン酸が多糖を構成する単糖を修飾している。
上記多糖は、以下の式(II):
Figure 0006082633
で表される繰り返しにより構成される構造を含む。式(II)中のGalpはガラクトピラノースを表し、Glcpはグルコピラノースを表し、Rhapはラムノピラノースを表し、これらガラクトース、グルコース、およびラムノースでピラノース構造を構成する。
このような構造を有する多糖は、ビフィズス菌、すなわち、ビフィドバクテリウム属に属する微生物、好ましくはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)によって培養液中に産生され得る。例えば、ヒトの腸内から単離されたビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05株(NITE BP−82)(以下、単に「JBL05株」ということがある)によって産生され得る。したがって、本明細書中では、便宜上、「多糖」のうち、このようなビフィズス菌により産生され得る多糖を「BPS」(ビフィズス菌産生多糖)ともいうが、この表現によってBPSを産生する微生物種またはその菌株を限定するものではない。
本発明においては、ビフィドバクテリウム属に属しかつBPSを菌体外に産生する微生物もまた用いられる。「多糖を菌体外に産生する」とは、培養液中に多糖を分泌すること、あるいは微生物が細胞膜の周囲に夾膜状の多糖を産生することをいう。この様に多糖を菌体外に産生するビフィズス菌を、本明細書中では、便宜上、「菌体外多糖産生ビフィズス菌」ともいう。
本発明においては、BPSの調製のために用いられる微生物として、または菌体外多糖産生ビフィズス菌として、JBL05株を例示することができる。JBL05株の菌学的性質は以下の表1の通りである。
Figure 0006082633
これらの表現形質による分類学的性質に基づき、JBL05株は、バージーズ・マニュアル・オブ・システマチック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)Vol.2(1984)に従ってビフィドバクテリウム・ロンガムであると同定された。そして、2005年3月3日(原寄託日)に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託され、受託番号NITE BP−82が付与された。
多糖の調製のために、上記JBL05株を適切な培地で培養し得る。培養の手順を、以下の例示によって説明するが、この例示に限定されない。
培地としては、ビフィドバクテリウム属に属する微生物が利用できる炭素源および窒素源、ならびに、必要に応じて、システイン塩酸塩、アスコルビン酸ナトリウム、微量の無機塩などを含む培地が挙げられる。特に、多糖を多量に調製するためには、脱脂乳または乳成分を含む培地が好ましい。この場合、脱脂乳をプロテアーゼなどの酵素で分解した酵素分解脱脂乳に、魚肉エキス、ラクトース、アスコルビン酸ナトリウムなどを加えた培地が好ましく用いられ得る。
上記培地を用い、JBL05株を、培養温度、例えば20〜45℃にて、嫌気条件下、撹拌あるいは静置して、pHを、例えば4〜7、好ましくは5〜6に制御しながら、例えば12〜60時間、好ましくは15〜50時間培養を行うことにより、培養液中に粘性物質(多糖)が産生され得る。
得られた培養液からの多糖の回収には、加熱、酵素処理、遠心、濾過、膜処理、濾別などの、当業者が通常、培養液から多糖を回収する方法が用いられる。例えば、多糖等の粘性物質および微生物菌体を含む培養液を遠心し、菌体を除去する。培養液の粘性が高い場合は、例えば、培養液を水で希釈した後、遠心することにより菌体を除去することができる。次いで、得られた上清に適切な有機溶媒を加えてタンパク質だけを析出させ、例えば遠心分離によって沈殿を除去し、さらに得られた上清にさらに有機溶媒を添加して多糖を沈殿させ、例えば遠心分離によって、多糖を回収する。詳細には、菌体を除去した培養上清に、終濃度が、例えば20容量%となるようにエタノールを添加し、遠心分離を行ってタンパク質を含む沈殿物を除去し、さらに得られた上清に終濃度が、例えば50容量%となるようにエタノールを添加し、遠心分離を行って沈殿物を回収することにより、粗精製多糖を得ることができる。
あるいは、得られた培養液からの多糖の回収には、有機溶剤とカチオンとを組み合わせて多糖を回収する方法を用いられる。例えば、1価のカチオンと有機溶剤とを用いる回収方法、2価のカチオンと有機溶剤とを用いる回収方法(特開昭58−5301号公報)、3価のカチオンと有機溶剤とを用いる回収方法(特開昭59−196099号公報)などと同様の方法を用いられる。カチオンは、多糖の回収率を高める点から、好ましく用いられる。1価カチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。2価カチオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどが挙げられる。3価カチオンとしては、アルミニウムイオンなどが挙げられる。これらのカチオンをエタノールなどの有機溶剤とともに、多糖が含まれる粘性溶液に添加することにより、より多くの多糖を回収することができる。2価あるいは3価のカチオンは、1価のカチオンよりも多糖の回収率を高めることが可能である。
回収した粗精製多糖からの精製には、当業者が通常行う方法、例えば、イオン交換樹脂を用いる分画法、ゲル濾過による分画法、これらを組み合わせる方法が用いられる。イオン交換樹脂を用いる方法としては特に制限されず、例えば、陰イオン交換樹脂(例えば、商品名DEAE Sephadex A−50(ファルマシア社)など)に多糖を吸着させ、塩化ナトリウムの濃度勾配にかけ多糖を溶出させる方法が挙げられる。ゲル濾過による方法としては、商品名TOYOPEARL HW65S(東ソー株式会社)などを用いる方法などが挙げられる。
多糖の構造は以下のような方法で決定される。まず、精製した多糖を、例えば、蟻酸、希塩酸、トリフルオロ酢酸などで酸加水分解し、この加水分解物をHPLCで分析することにより、多糖を構成する糖(単糖)が決定される。次いで、この酸加水分解物を、常法によりアセチル化し、ガスクロマトグラフィーで分析(GC分析)することにより、多糖を構成する糖組成(構成糖の比率)が求められる。さらに、精製した多糖を常法によりメチル化した後に酸加水分解し、この加水分解物を還元後アセチル化して得られる生成物をGC−MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析)などで分析することにより、多糖の結合様式(結合位置)が決定される。また、NMR分析により、各単糖どうしの結合構造が明らかにされる。多糖に結合しているピルビン酸は、NADH存在下、乳酸デヒドロゲナーゼによるピルビン酸還元により生じる乳酸を測定することにより、定性的かつ定量的に測定できる。
JBL05株は、以下の特徴を有する多糖を産生し得る:
(1)多糖は、ガラクトース、グルコース、およびラムノースからなるオリゴ糖単位の繰り返しにより構成され、かつピルビン酸で修飾されている。
(2)上記オリゴ糖単位が、1オリゴ糖単位あたり0.8mol〜1molの上記ピルビン酸を含む、および/または上記多糖の総質量に対して、4〜7質量%の上記ピルビン酸を含む。
(3)平均分子量は、TOYOPEARL HW65Sによるゲルろ過で約200,000〜2,500,000である。
(4)比旋光度は、約+130°である。
(5)アセチル基を含有する。
なお、BPSの分子量は、培養条件および回収・精製条件により調整することが可能である。また、以下に詳述するが、BPSの分子量は、BPSを超音波処理または圧力下にて処理することにより調整することも可能である。
このようなJBL05株が産生するBPSは、例えば、以下の式(II):
Figure 0006082633
で表される繰り返しにより構成される構造を含む。ここで、Galpはガラクトピラノースであり、Glcpはグルコピラノースであり、Rhapはラムノピラノースである。
このような構造を有する多糖は、ヒトの腸内から単離されたJBL05株より産生され得るが、このような多糖の調製のためにJBL05株以外の微生物を利用してもよい。そのような微生物としては、例えば、腸内細菌を分離・培養し、培養液中に多糖を産生することが判明した株の多糖を回収・精製し分析することにより、上記ビフィズス菌産生多糖の特徴を有するものであれば、本発明の多糖ナノゲルの製造に用いることができる。この際、多糖の回収および精製は、上記に準じて行われ得る。
菌体外多糖産生ビフィズス菌として、JBL05株が例示されるが、ビフィズス菌産生多糖を菌体外に産生する他のビフィズス菌もしくは他の微生物もまた本発明に用いられ得る。
(多糖の低分子化方法)
多糖を圧力で処理することなどによって、重量平均分子量(Mw)および/または数平均分子量(Mn)を低下させることができる(低分子化)。具体的には、多糖の低分子化方法は、(1)多糖を溶媒に溶解させる工程、および(2)工程(1)で溶解した多糖を圧力で処理することによって微粒化する工程を含む。
上記多糖を圧力で処理する方法としては、特に限定されない。例えば、多糖を超音波処理する、多糖を高圧で噴射し、多糖同士を超高速で斜向衝突させる(噴射衝突)、および/または多糖をセラミックスのボールへ衝突させる(ボール衝突)ことによって微粒化させる方法が挙げられる。
多糖の低分子化には、例えば市販の微粒化装置を用いてもよい。市販の微粒化装置として、湿式微粒化装置(Star Burst Mini、HJP-25001H、株式会社スギノマシン製)が挙げられるがこれに限定されるものではない。
上記(1)多糖を溶媒に溶解させる工程において、多糖を溶解させるために用いる溶媒は特に限定されないが、好ましくは水である。多糖を溶媒に溶解させる場合の溶解濃度は特に限定されないが、0.1W/V%〜1W/V%、好ましくは、0.4W/V%〜0.5W/V%である。また、上記溶媒にはナトリウム塩および/またはカリウム塩などの塩類が含まれていてもよい。
多糖を処理するための圧力は、例えば50MPa〜300MPa、好ましくは少なくとも245MPaである。上記圧力で処理する回数(以後、「圧力処理回数」ともいう)(回)は、多糖が所望の分子量(重量平均分子量および/または数平均分子量)になるように適宜設定される。圧力が高い方が、多糖の平均分子量(Mw)はより小さくなる傾向にある。
低分子化したBPSの平均分子量は、例えば、50,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜300,000、より好ましくは50,000〜200,000、さらにより好ましくは50,000〜100,000である。BPSの平均分子量が小さくなると、BPSのゲル化濃度が低下する。
(多糖ナノゲルおよびその製造方法)
本発明において「多糖ナノゲル」とは、親水性多糖の一部の水酸基を構成する水素原子が、以下に詳述する疎水性の所定の置換基で置換された構造を有する疎水化多糖が、水中で疎水性相互作用により自己会合して形成したナノサイズの会合体微粒子(ナノゲル)ををいう。
多糖ナノゲルは、多糖の一部の水酸基を構成する水素原子が
コレステロール;
コレステロール誘導体;
からC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
ウレタン結合(−O−CO−NH−)を介した水素;
ウレタン結合を介したコレステロール;
ウレタン結合を介したコレステロール誘導体;または
ウレタン結合を介したCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
で置換された多糖(置換多糖)から形成される。なお、置換多糖のうち、多糖の一部の水酸基を構成する水素原子が
コレステロール;
コレステロール誘導体;
ウレタン結合を介したコレステロール;または
ウレタン結合を介したコレステロール誘導体;
で置換された多糖を総じて「CH−BPS」ということがある。一方、多糖の一部の水酸基を構成する水素原子が、
からC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
ウレタン結合を介した水素;あるいは
ウレタン結合を介したCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
で置換された多糖を総じて「R−BPS」ということがある。
多糖中の水酸基を構成する水素原子の置換数は、平均分子量100,000の多糖中の水酸基を構成する水素原子が、単糖100残基内の総水酸基に対して、例えば1〜10個、好ましくは2個〜5個である。
置換多糖であるCH−BPSまたはR−BPSを製造する方法は、(1)多糖を有機溶媒に溶解する工程、および(2)工程(1)で溶解した多糖の一部の水酸基を構成する水素原子を、
コレステロール;
コレステロール誘導体;
からC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
ウレタン結合を介した水素;
ウレタン結合を介したコレステロール;
ウレタン結合を介したコレステロール誘導体;および
ウレタン結合を介したCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
からなる群から選択される物質
で置換する工程を含む。
このような水酸基内の水素原子を置換するために用いることができる物質(以下、「水酸基置換物質」という)としては、例えば、非特許文献1に従い合成したN−(6−イソシアネートヘキシル)コレステリルカルバメート(以下、「CHI」ともいう)、N−(6−イソシアネートヘキシル)アルキルカルバメート(以下、「R−Ic」ともいう)が挙げられる。
上記(1)多糖を有機溶媒に溶解する工程において、多糖を溶解させるために用いる溶媒としては、例えば有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)、エタノール、メタノール、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、イソプロパノールなどが挙げられる。好ましくはDMSO、より好ましくは脱水DMSOである。有機溶媒の量(mL)は、多糖500mg(3.086×10−3mol(単糖換算量))に対して50mL〜250mLが好ましいが、特に限定されない。有機溶媒の量(mL)は、当業者によって適宜設定され得る。
上記(2)の工程において、水酸基置換物質は、多糖中の水酸基を構成する水素原子が、単糖100残基内の総水酸基に対して、例えば、1個〜10個置換されるように、多糖と反応させ得る。例えば、モル比にて、多糖1mol(単糖換算量)に対して、水酸基置換物質が1×10−2〜10×10−2molである。当該水酸基置換物質の量(molまたはmg)は、多糖において置換すべき水酸基の個数に応じて、適宜設定することができる。
上記方法では、必要に応じて、上記(1)多糖を有機溶媒に溶解する工程の前に、多糖を乾燥させる工程があってもよい。多糖を乾燥させる方法としては、例えば、減圧乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥、および凍結乾燥が挙げられる。好ましくは減圧乾燥である。減圧乾燥の条件(例えば、気圧、温度または時間)は多糖の平均分子量(Mw)および/または質量(mg)に応じて適宜設定することができる。
上記方法によって得ることができるCH−BPSおよびR−BPSは、以下の式(I)で表される構造:
Figure 0006082633
(式(I)中、
からX20は、それぞれ独立して、水素原子、コレステリル基、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基で置換されたコレステリル基、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基、および−CO−NH−Yからなる群から選択される基であり、
Yは、水素原子、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基、および−(CH−NH−CO−O−Z(ここで、pは0から20の整数である)からなる群から選択される基であり、そして
Zは、水素原子、コレステリル基、CからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基で置換されたコレステリル基、およびCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基からなる群から選択される基であり、
但し、XからX20のすべてが水素原子である場合を除く)を含む。
CH−BPSまたはR−BPSは水中にて、負電荷を有する大きさの均一な多糖ナノゲル(以下、この多糖ナノゲルを「CH−BPSナノゲル」または「R−BPSナノゲル」ともいう)を形成する。CH−BPSナノゲルまたはR−BPSナノゲルの粒径は、例えば100nm〜200nmである。
CH−BPSナノゲルまたはR−BPSナノゲルの形成は、上記CH−BPSまたはR−BPSを適切な溶媒(例えば、水)でゲル化させることにより行うことができる。
本発明の多糖ナノゲルを有効成分として含有する組成物の用途としては、食品、医薬品および化粧品が挙げられる。組成物の形態としては、特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、ペースト状、クリーム状、ゼリー状、液体状が挙げられる。本発明の多糖ナノゲルは、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの無機物または有機物と混合して使用され得る。組成物の製造は、食品、医薬品および化粧品の製造について当業者に周知の方法が用いられ得る。
(多糖ナノゲルを含む複合体)
多糖ナノゲルを含む複合体は、ナノゲルとナノゲルに複合体を形成させるために用いられる物質(以下、複合化物質という)を共存させ、相互作用させることにより、複合化物質を多糖ナノゲル中の空隙に取り込ませることによって形成される。
上記複合化物質としては、各種の酵素、抗体、抗原、ホルモン等のタンパク質またはぺプチド、核酸、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、酵素基質、酵素基質類似物、補酵素、レクチン、多糖類、グリコプロテイン、ヒストン、およびホルモン受容体などの生理活性物質受容体を例示することができ、特に限定されないが、タンパク質またはペプチドが好ましい。タンパク質またはペプチドとしては、例えばインスリン、成長ホルモン、ソマトメジン、グルカゴン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、脳性ナトリウム利尿ペプチド、カルシトニンなどのペプチドホルモン、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの造血因子、γ−インターフェロンなどのインターフェロン類、およびアンチ-α-チュブリン、抗TNFアルファ抗体、抗ヒトCD20ヒト・マウスキメラ抗体などの抗体が挙げられる。
多糖ナノゲルと複合化物質との混合比は、用いる多糖ナノゲルと複合化物質の種類に応じて適宜設定される。
多糖ナノゲルを含む複合体の好適な形成条件としては、多糖ナノゲルと複合化物質とをバッファー中で混合し、例えば20℃〜70℃、好ましくは30℃〜50℃にて、10分間〜48時間、好ましくは1時間〜24時間静置する。多糖ナノゲルを含む複合体の形成に用いるバッファーは、多糖ナノゲルと複合化物質の種類により適宜選択される。
このような複合体もまた、例えば、食品、医薬品および化粧品として用いられる。本発明の複合体もまた、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの無機物、有機物と混合され得る。
(創傷治癒剤)
次に、本発明の創傷治癒剤について詳述する。
本明細書において、「創傷」とは、ヒトまたは哺乳動物の体表組織に生じる損傷であって、外的、内的要因によって生じる物理的な損傷のことをいう。創傷としては、特に限定されず、例えば、切創、裂創、刺創、咬創、擦過傷、銃創、挫傷、熱傷、褥瘡、糖尿病性潰瘍、および化学損傷が挙げられる。
本明細書において、「創傷治癒」とは、上記損傷した組織または細胞が、再生および/または修復するこという。
本発明の創傷治癒剤は、有効成分として、多糖(例えば、BPS)の一部の水酸基を構成する水素原子を、
コレステロール;
コレステロール誘導体;
からC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
ウレタン結合(−O−CO−NH−)を介した水素;
ウレタン結合を介したコレステロール;
ウレタン結合を介したコレステロール誘導体;または
ウレタン結合を介したCからC20の分岐または環を有していてもよいアルキル基;
で置換した多糖(CH−BPSまたはR−BPS)、あるいはこれらの組み合わせ(以下、「有効成分多糖」ともいう)を含有する。多糖、CH−BPSまたはR−BPSは、それぞれ、上記低分子化された多糖、CH−BPSまたはR−BPSであってもよい。
(創傷治癒剤の製造および使用方法)
上記創傷治癒剤は、医薬品または化粧品として使用することができる。上記創傷治癒剤の形態としては、特に限定されず、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状、ペースト状、クリーム状、ゼリー状、および液体状が挙げられる。このような創傷治癒剤の製造には、医薬品または化粧品の製造について当業者に周知の方法が用いられ得る。
医薬品または化粧品として使用する場合、有効成分多糖の配合量、あるいは有効成分多糖として、多糖、CH−BPSおよびR−BPSのうち任意の組合せを用いる場合の多糖、CH−BPSおよびR−BPSの質量(mg)比は、その目的、用途、形態、剤型、症状、または体重などに応じて任意に定めることができる。
本発明の創傷治癒剤は、有効成分多糖以外に、例えば、創傷治癒作用を奏するおよび/または他の薬理効果を有する他の薬剤成分、および/または当該技術分野の当業者に周知の他の添加剤を含有していてもよい。本発明において、上記他の薬剤成分および/または他の添加剤の含有量は、上記多糖が有する創傷治癒作用を阻害しない範囲において、当該技術分野の当業者により、任意の量が設定され得る。
上記他の添加剤としては、特に限定されず、例えば、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、等張剤、懸濁剤、コーティング剤などの各種調剤用配合成分が挙げられる。
上記多糖を有効成分として含有する創傷治癒剤は、外用剤として用いられ得る。外用剤としては、例えば、化粧品または医薬品が挙げられる。上記外用剤として用いられる創傷治癒剤が配合され得る医薬品としては、特に限定されず、例えば、皮膚への塗布または投与用の創傷治癒剤(例えば、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ゲル剤、ローション剤、チック剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、パッチ剤、エアゾール剤、および坐剤など)、眼粘膜への投与用の創傷治癒剤(例えば、点眼剤、洗眼剤など)、ならびに咽喉粘膜への投与用の創傷治癒剤(例えば、うがい薬、洗口剤、およびトローチなど)が挙げられる。このような医薬品には、貼布剤(有効成分多糖を練りこんだ不織布を包含する)、傷保護剤、救急絆創膏などの衛生材料も含まれ得る。
上記創傷治癒剤を、皮膚または粘膜の創傷患部に塗布もしくは投与することにより、上記創傷患部は治癒され得る。上記外用剤として用いられる創傷治癒剤を塗布または投与する方法としては、特に限定されず、創傷患部に創傷治癒剤を直接塗布または投与し、必要に応じて、創傷患部にリトン布またはガーゼを貼付してもよい。また、必要に応じて、創傷治癒剤の塗布前に創傷患部およびその周辺を、例えば、電気バリカンで毛刈りし、例えば、電気シェーバーで皮膚表面を除毛しておいてもよい。
上記外用剤として用いられる創傷治癒剤を、皮膚または粘膜の創傷患部に塗布もしくは投与する場合、化粧品または医薬品における上記有効成分多糖の配合量は、特に限定されないが、医薬品または化粧品の全質量に対して、例えば、0.001質量%〜10質量%、好ましくは0.01質量%〜1質量%である。
上記外用剤として用いられる創傷治癒剤が配合され得る化粧品としては、特に限定されず、例えば、洗顔料、化粧水、美容液、乳液、スプレー剤、パックシート、クリーム、軟膏剤、および入浴剤などが挙げられる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(調製例1:菌体外多糖産生ビフィズス菌の培養およびビフィズス菌産生多糖の調製)
ビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05株(NITE BP−82)の培養および該微生物が産生する多糖の精製は、特許文献2の記載に従った。より詳細には以下の通りであった。
まず、9質量%の脱脂乳溶液に、パンクレアチン(天野エンザイム株式会社)およびシリコンをそれぞれ終濃度が0.36質量%および0.01質量%となるように加えた。次いで、10N NaOHで溶液のpHを8.0に調整し、55℃にて4時間パンクレアチンを反応させて、酵素分解脱脂乳を得た。これに、カルチベータ、ラクトース、およびアスコルビン酸ナトリウムを、それぞれ終濃度で、3.0質量%、2.5質量%、および0.2質量%となるように加え、これを121℃にて15分間オートクレーブで滅菌し、液体培地として使用した。
上記で調製した液体培地を用いて前培養したビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05株(NITE BP−82)を、1%(v/v)となるように、5Lの同じ液体培地に接種し、37℃にて40時間静置嫌気培養を行い、粘性物質を産生させた。培養液を遠心分離し、菌体を除去した後、上清に終濃度20%となるようエタノールを加え、これを4℃に静置保存した。一晩静置後、遠心分離によりタンパク質を含む沈澱物を除去し、上清に終濃度50%となるようエタノールを加え、これを4℃にて静置保存した。一晩静置後、遠心分離により沈澱物を回収し、得られた粗精製多糖画分を凍結乾燥して保存した。
上記凍結乾燥した粗精製多糖画分を水で溶解し、DEAE Sephadex A−50充填カラム(ファルマシア株式会社製)を用いてさらに分画し、0.07M〜0.5MのNaClで溶出された画分を凍結乾燥し、精製多糖画分とした。
調製した上記精製多糖画分を水で溶解し、TOYOPEARL HW65S充填カラム(東ソー株式会社製)を用いてゲル濾過し、GPC−MALLS(ゲル浸透クロマトグラフィー−多角度レーザー光散乱)により重量平均分子量(Mw)を調べたところ、約540,000であった。
次に、ゲル濾過画分(多糖)に蟻酸を加え、加水分解した。この加水分解液を減圧乾固後、さらにトリフルオロ酢酸を加えて加水分解し、加水分解生成物を得た。ION−300カラム(東京化成工業株式会社製)を用いたHPLC分析により、この多糖が、ガラクトース、グルコース、およびラムノースから構成されることがわかった。
この加水分解生成物を水素化ホウ素ナトリウムで還元し、無水酢酸とピリジンを加えてアセチル化したものを、R−225カラム(J&W Scientific株式会社製)を用いてGC分析した。その結果、この多糖を構成するガラクトースと、グルコースと、ラムノースとのモル比は4:2:1であると判定した。
上記加水分解生成物に、NADHの存在下、乳酸デヒドロゲナーゼを作用させたところ、乳酸が生じた。したがって、この多糖画分にピルビン酸が存在することがわかった。また、多糖中のピルビン酸含有率は、5質量%であることがわかった。
多糖の結合様式を明らかにするため、メチル化して分析を行った。ゲル濾過画分(多糖)をメチル化した後に蟻酸を加えて加水分解し、この加水分解物を還元後アセチル化して得られた生成物をGC−MS測定にかけ、分析した。その結果、1,5−ジ−O−アセチル−2,3,4,6−テトラ−O−メチル−グルシトール、1,5−ジ−O−アセチル−2,3,4,6−テトラ−O−メチル−ガラクチトール、1,3,4,5−テトラ−O−アセチル−2,6−ジ−O−メチル−ラムニトール、1,3,5−トリ−O−アセチル−2,4,6−トリ−O−メチル−ガラクチトール、1,4,5−トリ−O−アセチル−2,3,6−トリ−O−メチル−グルシトール、1,4,5−トリ−O−アセチル−2,3,6−トリ−O−メチル−ガラクチトール、および1,4,5,6−テトラ−O−アセチル−2,3−ジ−O−メチル−ガラクチトールのメチル化された糖が得られた。
また、NMR分析により、結合状態を検討した。これらのデータから、上記多糖は、ガラクトース、グルコース、およびラムノースからなる群より選択される少なくとも1種の単糖からなるオリゴ糖の繰り返しにより構成され、かつピルビン酸で修飾されており、上記多糖が、以下の式(II)の繰り返しにより構成されることがわかった。
Figure 0006082633
(実施例1:BPSの低分子化条件の検討)
調製例1で得られたBPS100mgを水20mLに溶解した(0.5W/V%)。湿式微粒化装置(Star Burst Mini、HJP-25001H、株式会社スギノマシン製)を用いて圧力50MPaにて、30回処理し、5、10、20、および30回処理の時に、200μLの溶液をサンプリングした。圧力245MPaにて同様の操作を行った。サンプリングした溶液に、0.2N KNO溶液50μLを加え(BPS濃度0.4W/V%)、SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィー−多角度レーザー光散乱)を用いて、重量平均分子量(Mw)を測定した。結果を図1に示す
図1に示すように、湿式微粒化装置を用いて、BPSを低分子化できることがわかった。また、処理圧力が高い場合、調製されるBPSの重量平均分子量(Mw)は低いため、例えば、最も効率的に重量平均分子量(Mw)100,000以下のBPSを調製するためには、圧力245MPaにて20回程度の処理を行うことがよいとわかった。
(実施例2:低分子化BPSの調製)
上記湿式微粒化装置を用いて、BPSを低分子化し、重量平均分子量(Mw)の異なる2種類のサンプルを調製した。まず、調製例1で得られたBPS1gを水200mLに溶解した(0.5W/V%)。次に、圧力245MPaにて4回の圧力処理を行い、処理された溶液100mLを回収した。残りの溶液100mLに対し、さらに16回の圧力処理を行った(計20回)。4回および20回処理を行った溶液を凍結乾燥した。得られたサンプルを、SEC-MALLSを用いて重量平均分子量(Mw)を測定し、次いでH−NMR測定、ピルビン酸量の定量を行った。結果を表2に示す。
Figure 0006082633
表2に示すように、ピルビン酸量は圧力処理の前後でほとんど変わらなかった。湿式微粒化装置を用いた場合、ピルビン酸の修飾を維持したまま、BPSの重量平均分子量(Mw)を低下させることができた。
(実施例3:CH−BPS合成)
BPS(BPS−S:重量平均分子量(Mw)125,000(上記湿式微粒化装置(Star Burst Mini、HJP-25001H、株式会社スギノマシン製)を用いて圧力245MPaにて10回)、BPS−M:重量平均分子量(Mw)300,000)(上記湿式微粒化装置(Star Burst Mini、HJP-25001H、株式会社スギノマシン製)を用いて圧力50MPaにて、30回)の水酸基にコレステロールまたはコレステロール誘導体を部分的に置換したコレステロール置換ビフィズス菌産生多糖(CH−BPS)を以下のようにして合成した。
CH−BPSの合成にあたり、まずN−(6−イソシアネートヘキシル)コレステリルカルバメート(CHI)を以下のようにして合成した。
コレステロール25g(65mmol)、トルエン300mLを加えて溶解し、さらにピリジン17mL(120mmol)を加えた。そこへ、トルエン300mLに溶解したヘキサメチレンジイソシアネート161g(960mmol)を加え、窒素雰囲気下、80℃で約6時間反応させた。反応終了後、トルエンと過剰のヘキサメチレンジイソシアネートを減圧除去し、生成した淡黄色の結晶をヘキサンを用いて十分洗浄操作を行った後、室温で3時間減圧乾燥した。これにより、N−(6−イソシアネートヘキシル)コレステリルカルバメート(CHI)を得た。
70℃にて7日間減圧乾燥したBPS−S(Mw125,000、100mg、3.086×10−3mol(単糖換算量))を、フレームドライ(熱風乾燥)した三ツ口フラスコ中に移し、窒素ガス雰囲気下にて脱水DMSO(和光純薬)100mLに溶解させた。その後、DBTDL(和光純薬)を50μL(8.439×10−5mol)加え、45℃にて15分間撹拌した。得られた溶液に脱水ピリジン(和光純薬)に溶解させた上記N−(6−イソシアネートヘキシル)コレステリルカルバメート(CHI)(34.2mg、6.172×10−5mol)を滴下し、窒素ガス雰囲気下、45℃にて24時間反応させた。この反応溶液を再沈殿(溶媒EtO(和光純薬):EtOH(和光純薬)=9:1)にて回収後、DMSOに再溶解させ(約1mg/mL)、分画平均分子量(Mw)3,500の透析膜を用い蒸留水に対して7日間透析した。透析後の溶液を凍結乾燥し、白色粉末を得た。得られた合成物の構造解析をH−NMR(DMSO−d:DO=9:1、80℃)(EX-400、Bruker)により行うとともに、CHIの置換数を求めた。同様に、平均分子量(Mw)の異なるBPS−M(重量平均分子量(Mw)300,000)を用いてCH−BPS−Mを合成した。
H−NMR測定結果(図2)およびM. Kohnoらの報告(M. Kohnoら, Carbohydrate Polymers, 2009年, 77巻, 351-357頁)より、CHIが置換した水酸基を構成する水素原子数(CHI置換量)は、上記BPS−S中の水酸基において、単糖100残基内の総水酸基に対しておよそ2.0個であった(白色粉末、収量442mg、収率86%)。重量平均分子量(Mw)の大きなBPS−Mを用いて合成したCHI置換体のCHI置換量は、単糖100残基内の総水酸基に対しておよそ2.1個であった(収量161.09mg、収率32%)。同様にして、CHI置換量の異なるCH−BPS−S3.1(置換数3.1CHI/単糖100残基)、S5.1(置換数5.1CHI/単糖100残基)を合成した。CH−BPSの合成条件および結果を表3に示す。
Figure 0006082633
表3に示すように、CH−BPS合成における、置換される水酸基の数は、特に、DMSO量(mL)、コレステロールまたはその誘導体の量(molまたはmg)、BPSの平均分子量(Mw)の影響を受けた。
(実施例4:R−BPS(ST−BPS−S)合成)
BPS(BPS−S:重量平均分子量(Mw)125,000、BPS−M:平均分子量(Mw)300,000)の水酸基にステアリル基を部分的に置換したステアリル基置換ビフィズス菌産生多糖(ST−BPS−S(R−BPS))を以下のようにして合成した。
ST−BPS−Sの合成にあたり、まずN−(6−イソシアネートヘキシル)ステアリルカルバメート(STI)を以下のようにして合成した。
ステアリルアルコール3.48g(12.9mmol)、トルエン50mLを加えて溶解し、さらにピリジン2.04g(25.8mmol)を加えた。そこへ、トルエン50mLに溶解したヘキサメチレンジイソシアネート30g(178mmol)を加え、窒素雰囲気下、80℃で約3時間反応させた。反応終了後、トルエンおよび過剰のヘキサメチレンジイソシアネートを減圧除去し、生成した淡黄色の結晶をヘキサンで十分洗浄操作を行った後、室温で3時間減圧乾燥した。これにより、N−(6−イソシアネートヘキシル)ステアリルカルバメート(STI)を得た。
次いで、実施例3で使用したN−(6−イソシアネートヘキシル)コレステリルカルバメート(CHI)の代わりに、上記N−(6−イソシアネートヘキシル)ステアリルカルバメート(STI)(9.258×10−5mol)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、多糖中の単糖100残基内の総水酸基に対しておよそ3.1個の水酸基を構成する水素原子がステアリル基置換されたBPS(ST−BPS−S)を得た(H NMR DMSO−d,80℃;収率36%)。
(実施例5:動的光散乱(DLS)法を用いたCH−BPSの粒径およびゼータ電位の測定)
実施例3で得られたCH−BPS−S2.0、S3.1、S5.1およびCH−BPS−M2.1の動的光散乱(DLS)法による粒径測定およびゼータ電位測定を行い、CH−BPSのリン酸バッファー中でのナノゲル形成およびその表面電位特性を検討した。本測定ではNaCl(終濃度140mM)を含有するリン酸バッファー、およびNaClを含有しないリン酸バッファーを用い、ナノゲル形成における塩の影響についても検討を行った。
CH−BPS−S2.0、S3.1、S5.1およびCH−BPS−M2.1を1.0mg/mLになるようにPBS(Dulbecco’s PBS、pH7.4、140mM NaCl、SIGMA)および10mMリン酸バッファー(PB、pH7.4)に撹拌溶解させた。プローブ型超音波照射器(SONIFIRE 450、Branson)を用いて、4℃にて20Wの超音波を15分間照射した後、20,000g、20℃にて30分間遠心分離を行い、不純物を除去した。その上清をポアサイズ0.22μmの親水性PVDEフィルター(Millex(登録商標)-HV、MILLIPORE)にて濾過し、CH−BPS−S2.0、S3.1、S5.1およびCH−BPS−M2.1溶液を得た。これらの溶液をDLS測定用セルに入れ、Zetasizer Nano ZS(Malven Instruments、Malven)を用いてDLS測定を行った。また、ゼータ電位測定用専用セルを入れ、Zetasizer Nano ZSを用いてゼータ電位測定を行った。さらに、溶液調製時の超音波照射時間の影響についても検討を行った。結果を表4および図3に示す。
Figure 0006082633
表4に示すように、CH−BPS−S2.0、M2.1ともにPBSバッファー中では粒径150〜160nmの均一な大きさのナノゲルを形成したが、PBバッファー中では約190nm前後であった。PBバッファー中で粒径が大きくなった理由としてはBPSの負電荷による静電反発が考えられる。これらの結果から、塩による粒径変化の影響は考えられるものの、生理的塩類濃度条件(PBSバッファー中)においてナノゲルを形成することが確認された。
また、図3に示すように、CH−BPS−S2.0に対し、超音波照射時間15分間〜60分間の条件では粒径の変化はほとんど確認されず、15分間の超音波照射時間で均一な大きさのナノゲルを形成することがわかった。また、CH−BPS−M2.1についても同様の結果を得た。以上の結果を表5に示す。
Figure 0006082633
表5に示すように、溶媒をPBS、超音波照射時間を15分間として、CH−BPS S2.0、S3.1、S5.1およびCH−BPS−M2.1の粒経をDLS法にて測定した結果、いずれも流体力学直径(D)が120〜200nmの比較的大きさが均一のナノゲルを形成することが確認された。また、同様の条件で調製した各CH−BPSナノゲルのゼータ電位を測定した結果、−5から−9mVの値となり、CH−BPSはPBSバッファー中で負電荷のナノ微粒子であることが明らかとなった。
(実施例6:CH−BPSナノゲルのマイクロレオロジー特性評価)
単糖100残基内の総水酸基に対して、CH−BPS中の水酸基のCHI置換量、BPSの平均分子量(Mw)およびCH−BPSの濃度がCH−BPS溶液のレオロジー特性に与える影響をマイクロレオロジー測定により検討した。マイクロレオロジー測定とは、ソフトマター中に分散させたプローブ粒子の挙動を解析する(粒子追跡法)ことにより、周囲の媒質の力学的性質に関する情報を得る方法である。
CH−BPSを所定の濃度でミリQ水に溶かし、一晩撹拌した(2mg〜80mg/mL)。DSL測定により約140nmの均一なCH−BPSナノゲルの形成を確認した後、終濃度が2.0×10粒子/μLとなるようにPolybead Hydroxylane Microspheres(1.0μm、Poly Science)を添加し、溶液中に分散したビーズの動きを光学顕微鏡(倍率100倍)で観察した。それぞれのサンプルについて250秒の動画(26fps)を撮り、その画像を解析することにより粘弾率を求めた。
解析には、まず取り込んだaviファイルより1つまたは2つのビーズが映った箇所を、AViソフトウェアを用いて切り出し、次いで、VirtualDubModソフトウェアを用いてファイルを160×120にリサイクルした。WCIF ImageJソフトウェアのプラグインであるMultiTrackerを用いてビーズの軌跡を2次元で数値化した。それらの数値を用いて平均2乗変位(r2)を求め、複素粘弾率G(ω)、損失弾性率G”(ω)、貯蔵弾性率G’(ω)を求めた。
CH−BPS−M2.1およびBPS−M2.1、CH−BPS−S2.0およびBPS−S2.0のマイクロレオロジー測定結果を、それぞれ図4および図5に示す。ゲル化点をG’(ω)(黒線)とG”(ω)(灰色線)とが重なる濃度とすると、BPSでは、BPS M2.1(図4(B))が20mg/mL、BPS−S2.0(図5(B))が70mg/mL付近でゲル化し、低分子量化によりBPSのゲル化濃度が顕著に低下することが確認された。一方、CH−BPSではCH−BPS−M2.1(図4(A))が5mg/mL、CH−BPS−S2.0(図5(A))が20mg/mL付近でゲル化し、コレステリル基が置換されたことで粘性が増加し、ゲル化点が低濃度側に移動したことが明らかとなった。
また、図6に示すように、各濃度におけるCH−BPS−S2.0溶液(図6(A))およびBPS溶液(図6(B))の写真による視覚的な比較からも、BPSへのコレステロールまたはその誘導体の置換により増粘性が向上していることがわかる。
(実施例7:CH−BPSナノゲルにおけるタンパク質複合体形成機能の検討)
CH−BPSナノゲルとタンパク質との相互作用を、FITC−Ins(Sigma社製)をモデルタンパク質として評価し、超遠心分離法を用いてCH−BPSナノゲル−タンパク質複合体の機能について検討を行った。
BPS−SおよびCH−BPS−S2.0を1mg/mLになるようにPBSバッファーに溶解させ、プローブ型超音波照射器(SONIFIRE 450、Branson)を用いて、4℃にて20W超音波を15分間超音波照射した後、20,000g、20℃にて30分間遠心分離し、不純物を除去した。その上清をポアサイズ0.22μmの親水性PVDFフィルター(Millex(登録商標)-HV、MILLIPORE)で濾過し、BPS−S2.0およびCH−BPS−S2.0溶液を調製した。次にFITC−Ins溶液の濃度を0.2、0.1、0.05、0.023、および0.0125mg/mLとなるようにPBSバッファーで希釈調製した。このFITC−Ins溶液150μLにBPS−S2.0およびCH−BPS−S2.0溶液に加え、37℃にて3時間または24時間静置し、複合化を行った(混合後のFITC−Ins終濃度0.1、0.1、0.05、0.025、0.0125、および0.00625mg/mL、ナノゲル濃度0.5mg/mL)。24時間後、200,000g、4℃にて1時間超遠心分離を行い、その上清の492nm(FITC−Insにおける最大吸収波長)における吸光度を、紫外可視分光光度計を用いて測定し、CH−BPSナノゲルのFITC−Ins最大取り込み量を算出した。結果を図7に示す。
図7に示すように、複合体形成時間(3時間または24時間)によるCH−BPSナノゲルへのFITC−Ins取り込み変化量について検討を行ったところ、CH−BPS−S2.0のFITC−Ins取り込み量は3時間と24時間とでほぼ差がないことからCH−BPSは3時間以内でほぼ全てのFITC−Insを取り込むことが明らかとなった。
次に、BPS−S2.0とCH−BPS−S2.0とのFITC−Ins複合体形成量の違いを検討したところ、BPS−2.0がFITC−Insを最大1.85μg、CH−BPS−S2.0が最大7.00μgの複合体を形成したことが明らかとなった。コレステロールまたはその誘導体の置換によってFITC−Ins複合化量が顕著に増加することが確認された。これはCH−BPS−Sが疎水性相互作用によってナノゲルを形成し、内部に疎水性の物理架橋点とナノ空間を有することからFITC−Insと効率よく複合化できるためと考えられる。
以上より、コレステロールまたはその誘導体の置換量を制御することが可能なコレステロールまたはその誘導体で置換されたBPS(CH−BPS)を合成することができた。
得られたCH−BPSは、水中で粒径120〜200nmの負電荷を有する大きさの均一なナノ微粒子(CH−BPSナノゲル)を形成し、生理的食塩水条件においても安定であった。
BPSにコレステロールまたはその誘導体を置換したことでナノゲル化が促進され、さらには溶液状態での顕著な増粘効果も認められ、BPSの粘弾性を制御し得ることが明らかとなった。
またCH−BPSナノゲルはBPSと比較して、タンパク質との複合体形成能が飛躍的に向上し、短期間で効率的にFITC−Insを取り込むことが分かった。
(実施例8〜10:各種BPSの塗布による創傷治癒作用の確認)
調製例1および実施例2で得られたBPS(BPS、BPS−A(Mw185,000)、またはBPS−B(Mw76,000))の創傷治癒作用を上皮欠損マウスモデルで評価した。
(実施例11〜13:各種BPSの塗布による創傷治癒作用の確認)
調製例1で得られたBPSならびに実施例3で得られたBPS−S、CH−BPS−Sの創傷治癒作用を上皮欠損マウスモデルで評価した。
生理的食塩水で調製した15mg/mLのストレプトゾトシンを、Balb/cマウス(8週齢、雄、株式会社紀和実験動物研究所)の腹腔内に投与(150mg/kg体重)した。ストレプトゾトシンを投与したマウスをQuickfat(日本クレア株式会社製)で4日間飼育し、その後4時間絶食させて、血糖を測定した。血糖値が300mg/dl以上のBalb/cマウスを糖尿病とみなして、創傷治癒の検討に用いた。
上記血糖値が300mg/dl以上のBalb/cマウスの腹腔内に、泡水クロラール(8%水溶液、和光純薬工業株式会社製)を投与(400mg/kg体重)して麻酔し、動物用バリカンと除毛ムースを用いて背部を広範囲に除毛した。マウスを横向きに寝かせて背後の皮膚を引っ張りながら重ねて、生検トレパン(型番:BPP−40F、4mmサイズ、カイ インダストリーズ株式会社製)を用いて上皮を切り取った。滅菌PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を用いて、各種BPS(BPS、BPS−A、BPS−B、BPS−S、およびCH−BPS−S)水溶液(3mg/mL)を調製し、マウスの創傷患部に、それぞれ30μLずつ毎日塗布した(各種BPS塗布、実施例8〜13:+)。コントロールには、PBSのみを30μLずつ毎日塗布した(BPS未塗布、実施例8〜13:−)。結果を図8および9に示す。
図8に示すように、BPS未塗布の創傷患部(−)に比べて各種BPS塗布の創傷患部(+)では、欠損創の作製後1〜3日目には上皮創傷患部周辺の腫脹・発赤が著しく誘発されていることが確認された。この上皮創傷患部周辺の腫脹・発赤は4〜5日目には観察されなくなり、各種BPS塗布により腫脹・発赤の早期収束が促進されていることがわかる。各種BPS塗布の創傷患部では凝血塊の吸収も促進され、5〜7日目には、凝血塊の大きさは、BPS未塗布の創傷患部の半分以下にまで収縮した。7日目には凝血塊のほぼ完全な吸収とともに再上皮化が観察され、9〜10日目には、ほぼ完全な上皮が確認された。このことから、創傷患部への各種BPSの塗布により、著しい腫脹・発赤の誘発および収束の促進、ならびに凝血塊の収縮・吸収および再上皮化、すなわち創傷治癒が促進されていることがわかる。
図9に示すように、BPS-SおよびCH-BPS−S塗布創傷患部においても、未塗布の創傷患部(−)に比べて、創傷治癒が促進されていることがわかる。BPS−S塗布部においては、4日目の凝血塊が未塗布部の約半分まで収縮し、7日目に凝血塊の剥離後、徐々に再上皮形成が観察されている。また、CH-BPS-S塗布部においては、4日目に凝血塊周辺の剥離が部分的に認められ、7日目に凝結塊の完全な剥離が観察された後、徐々に再上皮形成が観察されている。
本発明によれば、BPSと比較して、顕著な増粘効果を有し、さらにタンパク質またはペプチドとの複合体形成効率が高いCH−BPSナノゲルおよびその製造方法が提供される。上記CH−BPSナノゲルは、BPSの特性である保湿・保水性を損なわず、使用用途に合わせたゾル−ゲルマテリアルの設計が可能であり、例えば飲食品、医薬品、化粧品などに用いられ得る。さらに、本発明の創傷治癒剤は、ヒト、家畜、またはペットなどの哺乳動物を対象とし、医薬品、化粧品、石鹸、皮膚塗布剤、坐剤などの種々の分野に利用することができる。

Claims (7)

  1. 糖尿病患者用の創傷治癒剤であって、多糖を有効成分として含有し、
    該多糖が、以下の式(II)で表される構造:
    Figure 0006082633
    を含み、
    かつピルビン酸が式(II)の繰返し単位1molあたり0.8molから1molのモル比で結合されている、創傷治癒剤。
  2. 前記多糖の平均分子量が、50,000から1,000,000である、請求項1に記載の創傷治癒剤。
  3. 前記多糖がビフィズス菌由来である、請求項1または2に記載の創傷治癒剤。
  4. 前記ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)JBL05株(NITE BP−82)由来である、請求項に記載の創傷治癒剤。
  5. 前記多糖中の一部の水酸基を構成する水素原子が以下の置換基:
    −C(=O)−NH−(CH −NH−C(=O)−O−Z
    (ここで、pは0から20の整数であり、
    Zは、水素原子、コレステリル基、C からC 20 の分岐を有していてもよいアルキル基またはシクロアルキル基で置換されたコレステリル基、およびC からC 20 の分岐を有していてもよいアルキル基またはシクロアルキル基からなる群から選択される基)
    で置換されている、請求項から4のいずれかに記載の創傷治癒剤。
  6. 前記多糖中の水酸基を構成する水素原子が、単糖100残基内の総水酸基に対して、1個から10個の割合で置換されている、請求項に記載の創傷治癒剤。
  7. 外用剤として用いられる、請求項からのいずれかに記載の創傷治癒剤。
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