JP6079917B1 - 着色ポリエチレン繊維および製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】濃色に着色されているにも拘わらず、有機溶媒に浸漬させたときの着色材料の溶出が少なく、また染色堅牢度にも優れる着色ポリエチレン繊維及びその製造方法を提供する。【解決手段】CIE−L*a*b*表色系によるL*値80以下、且つ摩擦に対する染色堅牢度が乾燥状態及び湿潤状態で3級以上、又は所定の測定法による耐溶剤性が75%以上である着色ポリエステル繊維であり、これは極限粘度[η]5.0dL/g以上25dL/g以下、エチレンの繰り返し単位が90%以上のポリエチレンを溶解させた溶液を紡糸してポリエチレン繊維状物を得る工程、20質量%未満の有機溶媒を含むポリエチレン繊維状物を、着色材料と有機溶媒とを含む温度0℃以上60℃未満の着色液と接触させる工程、及び着色液が付与され、繊維重量に対し25%未満の有機溶媒を含むポリエチレン繊維状物を温度が110℃以上で10秒以上熱処理する工程を含む方法より製造される。【選択図】なし

Description

本発明は、着色ポリエチレン繊維に関する。
従来、着色繊維の製造方法としては様々な技術が開示されている。しかしながら、高強力ポリエチレンは、化学構造的に単純であることや、結晶化度が非常に高いことから、市場の要求を満たすほどの色合いや染色堅牢度を有するポリエチレン繊維を得ることは困難であるとの問題があった。斯かる問題を解決することを目的として、例えば特許文献1には染料を原料調合段階から添加し、原着糸として得る方法が開示され、また特許文献2には、中間延伸糸に加熱下で染料を付与する方法が開示されている。
特許第3143886号公報 特開平4−289212号公報
しかしながら、原着糸の場合、原料調合段階で添加できる染料の濃度には限界があるため濃色の着色が困難という問題があり、また中間延伸糸に加熱下で染料を付与する場合には、中間延伸糸への熱履歴がその後の延伸に影響し繊維の太細ムラが生じ、繊維長手方向における強度の均一化や、ムラの少ない染色が実現し難いといった問題があった。
本発明の目的は、上記の従来の問題点を解決することにある。すなわち、濃色に着色され、色落ちや色移りし難いポリエチレン繊維、さらには、ムラの少ない均一な染色と高い強度を両立した着色ポリエチレン繊維及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の条件下で着色材料をポリエチレン繊維状物に付与し、熱処理工程を行うことで、濃色で、染色堅牢度に優れる着色ポリエチレン繊維が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明に係る着色ポリエチレン繊維は、
CIE−L***表色系によるL*値が80以下であり、且つ、摩擦に対する染色堅牢度が、乾燥状態及び湿潤状態のいずれについても3級以上であるところに要旨を有するものである。
着色ポリエチレン繊維の長手方向の任意の10箇所で測定した引張強度の下記式2で定義される変動係数(CV)が10%以下であるのが好ましい。
引張強度の変動係数(%)=(引張強度の標準偏差/引張強度の平均値)×100 (式2)
本発明には、下記測定方法により求められる耐溶剤性が75%以上である着色ポリエチレン繊維も含まれる。
[耐溶剤性の測定方法]
アセトンに対して、0.1g/mLとなるように着色ポリエチレン繊維を浸漬し、室温下で24時間静置する。着色ポリエチレン繊維の浸漬に使用したアセトンと、着色ポリエチレン繊維を浸漬し20±5℃で24時間静置した後のアセトンについて、紫外可視分光光度計を使用して波長350nm〜780nmの範囲の透過率を測定し、得られた透過率曲線から上記波長領域における透過率の積分値を求め、下記式1より耐溶剤性を算出する。
耐溶剤性(%)=(T1/T0)×100 (式1)
式1中、T0は波長350nm〜780nmにおけるアセトンの透過率の積分値を示し、T1は波長350nm〜780nmにおける着色ポリエチレン繊維浸漬後のアセトンの透過率の積分値を示す。
また、着色ポリエチレン繊維の長手方向の繊度ムラが10%以下であるのが好ましく、また引張強度は18cN/dtex以上であることが望ましい。さらに、着色ポリエチレン繊維が着色材料を含み、上記着色材料が油溶性染料であるのが好ましい。着色ポリエチレン繊維の単糸の繊度は1dtex以上、80dtex以下であるのが好ましい。
また本発明には上記着色ポリエチレン繊維を少なくとも1本含む組紐、上記着色ポリエチレン繊維を含む釣糸、手袋、ロープ、ネット、織物又は編物を含む。上記組紐から解いた繊維の強度は15cN/dtex以上であるのが好ましい。
本発明の着色ポリエチレン繊維の製造方法とは、極限粘度[η]が5.0dL/g以上、25dL/g以下であり、その繰り返し単位が90モル%以上エチレンからなるポリエチレンを濃度0.5〜40質量%となるように有機溶媒に溶解させたポリエチレン溶液を紡糸してポリエチレン繊維状物を得る工程、
20質量%未満の有機溶媒を含むポリエチレン繊維状物を、着色材料と有機溶媒とを含む、温度が0℃以上、60℃未満の着色液と接触させる工程、
着色液が付与され、繊維重量に対し25%未満の有機溶媒を含むポリエチレン繊維状物を110℃以上で10秒以上加熱する熱処理工程、及び
ポリエチレン繊維状物を延伸する工程、を含むところに特徴を有する。
着色液と接触させるポリエチレン繊維状物の温度は50℃以下であるのが好ましく、上記熱処理工程は、ポリエチレン繊維状物に0.8〜6.5cN/dtexの張力をかけながら行うのが好ましい。また、着色液との接触工程の後には、2倍以上の延伸倍率でポリエチレン繊維状物を延伸する工程を含むことが望ましい。
本発明によれば、濃色に着色され、摩擦に対する染色堅牢度及び/又は耐溶剤性に優れた着色ポリエチレン繊維を提供できる。また、このポリエチレン繊維は、高い強度を有するものであり、強度、繊度のムラが少ないため、組紐、釣糸、手袋、ロープ、ネット、織物及び編物等の材料として好適に用いられる。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の着色ポリエチレン繊維は、
(I)CIE−L***表色系によるL*値が80以下であり、且つ、摩擦に対する染色堅牢度が、乾燥状態及び湿潤状態のいずれについても3級以上であるか、又は
(II)下記測定方法により求められる耐溶剤性が75%以上、であるところに特徴とする。
[耐溶剤性の測定方法]
アセトンに対して、0.1g/mLとなるように着色ポリエチレン繊維を浸漬し、室温下で24時間静置する。着色ポリエチレン繊維の浸漬に使用したアセトンと、着色ポリエチレン繊維を浸漬し20±5℃で24時間静置した後のアセトンについて、紫外可視分光光度計を使用して波長350nm〜780nmの範囲の透過率を測定し、得られた透過率曲線から上記波長領域における透過率の積分値を求め、下記式1より耐溶剤性を算出する。
耐溶剤性(%)=(T1/T0)×100 (式1)
式1中、T0は上記波長領域におけるアセトン(ブランク、着色ポリエチレン繊維未浸漬)の透過率の積分値を示し、T1は上記波長領域における着色ポリエチレン繊維浸漬後のアセトンの透過率の積分値を示す。
本発明の着色ポリエチレン繊維は、濃色に着色されており、着色ポリエチレン繊維あるいは着色ポリエチレン繊維から得られる加工物をCIE−L***色差測定法で測定した際に得られるL*値が80以下である。L*値が小さいほどポリエチレン繊維が濃色に着色されていることを意味する。したがって、L*値は75以下であるのが好ましく、より好ましくは70以下であり、さらに好ましくは65以下である。なおL*値の下限は特に限定されない。
本発明の着色ポリエチレン繊維は、摩擦に対する染色堅牢性に優れるものである。より具体的には、摩擦に対する染色堅牢度が乾燥時及び湿潤時のいずれにおいても3級以上である。摩擦に対する染色堅牢度はその等級が高いほど、色落ち及び色移りし難い繊維であることを示す。したがって、摩擦に対する染色堅牢度は4級以上であるのが好ましく、より好ましくは5級である。摩擦に対する染色堅牢度は、JIS L 0801(2000)に準じて調製した試料について、学振形摩擦試験機を使用してJIS L 0849(2004)に準じた摩擦堅牢度試験を行い、汚染用グレースケール(JIS L 0805(2005))を使用して評価を行う。試験及び評価方法の詳細は実施例において説明する。
また本発明には、上記(II)に記載した測定方法により求められる耐溶剤性が75%以上である着色ポリエチレン繊維も含まれる。耐溶剤性は80%以上であるのが好ましく、より好ましくは85%以上である。耐溶剤性は、着色ポリエチレン繊維から抽出される着色材料の量を指標するものであり、その値が大きいほど着色ポリエチレン繊維から抽出される着色材料の量が少ないことを意味する。したがって、耐溶剤性の値は大きいほど好ましく、耐溶剤性は98%以上であるのがより一層好ましい。
着色ポリエチレン繊維は、上記(I)と(II)を同時に満たすものであるのが好ましい。斯かるポリエチレン繊維は、濃色に着色されていることに加えて、摩擦や、有機溶媒に対して優れた耐性を有するものであり、色落ちや色移りし難い繊維といえる。
本発明における着色ポリエチレン繊維の引張強度は18cN/dtex以上であることが好ましい。引張強度は20cN/dtex以上であるのがより好ましく、さらに好ましくは25cN/dtex以上である。引張強度の上限は特に限定されないが、引張強度が60cN/dtexを超えるポリエチレン繊維を得ることは、技術的、工業生産的に困難である。
また、着色ポリエチレン繊維は、繊維の長手方向の任意の10箇所で強度試験を行ったときに、下記式2より求められる引張強度の変動係数(CV)(%)が10%以下であることが好ましい。
引張強度の変動係数(%)=(引張強度の標準偏差/引張強度の平均値)×100 (式2)
引張強度の変動係数(%)は9%以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは8%以下であり、より一層好ましくは5%以下である。引張強度の変動係数(%)が上記範囲内であるポリエチレン繊維は、長さ方向における強度のバラツキが小さいものであるので好ましい。
着色ポリエチレン繊維の伸度は3.0%以上であることが好ましい。より好ましくは3.5%以上であり、さらに好ましくは3.7%以上である。伸度の上限は特に限定されないが、好ましくは6.0%以下である。
着色ポリエチレン繊維の初期弾性率は500cN/dtex以上、2000cN/dtex以下であることが好ましい。初期弾性率は600cN/dtex以上であるのがより好ましく、さらに好ましくは700cN/dtex以上であり、1600cN/dtex以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは1400cN/dtex以下である。初期弾性率が高すぎると、ロープや組紐への成型加工時にポリエチレン繊維の引き揃えが困難になり、また単糸切れも発生し易くなる虞があるが、初期弾性率が上記範囲内であれば斯かる問題が生じ難いので好ましい。
ポリエチレン繊維を構成する単糸の繊度は1dtex以上、80dtex以下であるのが好ましい。単糸繊度が80dtexを超えると、ポリエチレン繊維が硬くなるのと同時に、強度を高め難くなる虞がある。好ましくは70dtex以下、より好ましくは60dtex以下である。1dtex未満の繊維はその製造工程における延伸時や、ポリエチレン繊維の実使用時に毛羽等が発生し易くなる虞がある。好ましくは2dtex以上、より好ましくは5dtex以上である。
また、着色ポリエチレン繊維の繊度ムラ(総繊度の変動係数)は10%以下であることが好ましい。繊度ムラが10%を超えると、強度ムラが生じ易くなるだけでなく、繊度のばらつきに起因して着色ムラも生じ易くなり、見た目の色合いにバラつきが生じる虞があるが、繊度ムラが10%以下の場合は斯かる問題が生じ難いので好ましい。繊度ムラは6%以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは5%以下である。
着色ポリエチレン繊維は着色材料を含む。着色材料としては、有機物の着色材料が好ましく、特に有機溶媒に可溶な染料が好ましく用いられる。斯かる染料としては、油溶性染料、分散染料、酸性染料、及びカチオン染料などが挙げられる。これらの中でも油溶性染料及び分散染料はポリエチレンとの相溶性がよく、濃色に着色ポリエチレン繊維を実現し易いので好ましい。好ましい油溶性染料としては、例えば、C.I. Solvent Yellow 2(以下「C.I. Solvent Yellow」を省略),6,14,15,16,19,21,33,56,61,80,C.I. Solvent Orange 1(以下「C.I. Solvent Orange」を省略),2,5,6,14,37,40,44,45,C.I. Solvent Red 1(以下「C.I. Solvent Red」を省略),3,8,23,24,25,27,30,49,81,82,83,84,100,109,121,C.I. Solvent Violet 8(以下「C.I. Solvent Violet」を省略),13,14,21,27,C.I. Solvent Blue 2(以下「C.I. Solvent Blue」を省略)11,12,25,58,36,55,73,C.I. Solvent Green 3等が挙げられる。分散染料としては、C.I. Disperse Red 4(以下「C.I. Disperse Red」を省略),5,11,17,60,74,75,86,91,92,152,153,167,179,200,221,302,C.I. Disperse Blackに分類される分散染料,C.I. Disperse Orange 3(以下「C.I. Disperse Orange」を省略),13,25,31,37,45,61,76,C.I. Disperse Greyに分類される分散染料,C.I. Disperse Yellow 3(以下「C.I. Disperse Yellow」を省略),5,42,49,79,82,104,134,149,198,211,241,C.I. Disperse Greenに分類される分散染料,C.I. Disperse Violet 1(以下「C.I. Disperse Violet」を省略),3,28,43,C.I. Disperse Brownに分類される分散染料,C.I. Disperse Blue 1(以下「C.I. Disperse Blue」を省略),3,56,60,72,77,106,148,165,183,257,360等が挙げられる。これらの着色材料は、単独で用いてもよいし、色味の異なる複数の着色材料を組み合わせて用いてもよい。
着色ポリエチレン繊維に含まれる着色材料の量は0.2質量%以上、5質量%以下であるのが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、1.0質量%以上がさらに好ましく、より一層好ましくは2質量%以上である。上限としては、より好ましくは4質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。着色材料の含有量が上記範囲内であれば、濃色な着色を実現でき、また、繊維の力学特性に影響を及ぼす虞も少ないので好ましい。着色ポリエチレン繊維に含まれる着色材料の量は、実施例に記載の方法により求めることができる。
次に、本発明に係る製造方法について説明する。
本発明では溶液形成法により着色ポリエチレン繊維を製造する。溶液形成法としては従来公知の方法を採用すればよく、特に制限はないが、例えば、デカリンやテトラリンなどの揮発性の有機溶媒やパラフィン等の非揮発性の有機溶媒にポリエチレンを溶解させてポリエチレンを繊維状に成形する溶液紡糸法を採用するのが好ましい。
原料ポリエチレンとしては、極限粘度[η]が5.0dL/g以上、25dL/g以下であり、繰り返し単位が90モル%以上エチレンからなるポリエチレンを使用する。極限粘度は7.0〜22dL/gであるのがより好ましく、さらに好ましくは8〜20dL/gである。極限粘度が小さすぎると、寸法安定性が劣り、経時での力学物性の変動が大きくなる傾向があり、また10cN/dtex以上の強度を実現し難くなる虞がある。一方、極限粘度が大きすぎる場合には、高強度、高弾性率は実現し易くなるが、ポリエチレン繊維を組紐等の製品に加工する後工程において単糸切れが多発する虞がある。極限粘度が上記範囲内にあるポリエチレンを原料とすることで、ポリエチレンの分子末端基が適正範囲となり、繊維や繊維製品中の構造欠陥数を減少させることができる。その結果、ポリエチレン繊維の強度や弾性率等の力学物性、寸法安定性、および耐磨耗性能を向上させることができ、さらに経時での力学物性の変動も抑制できる。
原料ポリエチレンは、繰り返し単位の90モル%以上がエチレンである。エチレンの繰り返し単位は92モル%以上であるのが好ましく、94モル%以上であるのがより好まく、最も好ましいのはエチレンの単独重合体である。なお、ポリエチレン繊維の物性に好ましくない影響を与えない範囲であれば、原料ポリエチレンはエチレン以外の成分を含んでいてもよい。例えば、エチレンと少量の他のモノマー、具体的には、α−オレフィン、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、ビニルシラン及びその誘導体等の他のモノマーとエチレンとの共重合体を原料ポリエチレンとして使用することができる。
また、極限粘度が上述の範囲内にあるものであれば、原料ポリエチレンは、例えば高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンのブレンド、低密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンのブレンドを含む重量平均分子量が異なるポリエチレンのブレンドであってもよい。さらに、原料ポリエチレンは、重量平均分子量が異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレンのブレンドでもよく、分子量分布が異なる2種類以上のポリエチレンのブレンドであってもよい。
しかしながら、エチレン以外の成分の含有量が増えすぎると、却って延伸の阻害要因になる場合がある。そのため、高強度繊維を得るという観点から、ポリエチレン中に存在する分岐数は、主鎖炭素原子1000個あたり3個以下であることが好ましい。より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1.5個以下である。
ポリエチレン繊維の物性低下を抑制するため、原料ポリエチレンに酸化防止剤、耐光剤等の添加剤を添加してもよい。添加剤として酸化防止剤を使用する場合には着色ポリエチレン繊維の強度といった機械的物性に加えて、色相の変化も抑制できる。着色材料の紫外線による劣化メカニズムは、基本的にポリエチレン繊維の劣化のメカニズムと同様であると考えられるからである。したがって、ポリエチレン繊維に酸化防止剤が含まれている場合には、ポリエチレン繊維の劣化による強度の低下が抑制されるのと同様に、着色材料の劣化も抑制され、その結果、着色ポリエチレン繊維の色相の変化も抑制されるものと考えられる。添加剤の使用量は、原料ポリエチレン100質量部に対して0.01質量部〜10質量部とするのが好ましい。
上述の原料ポリエチレンを有機溶媒に溶解させてポリエチレン溶液を調製する。ポリエチレンの濃度は、0.5質量%以上、40質量%以下であり、好ましくは2.0質量%以上、30質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以上、20質量%以下である。ポリエチレン濃度が低すぎると、生産効率が低下する傾向がある。一方、ポリエチレンの濃度が高すぎると、原料ポリエチレンの分子量が非常に大きいことに起因して、溶液紡糸法では後述するノズルから吐出させ難くなる傾向がある。
原料ポリエチレンを溶解させる有機溶媒としては、原料ポリエチレンを溶解できる溶媒であって、原料ポリエチレンの融点以上の沸点を有する有機溶媒が好ましく、原料ポリエチレンの融点よりも20℃以上高い沸点を有する有機溶媒がより好ましい。斯かる溶媒としてはn−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−テトラデカン、n−オクタデカン、あるいは流動パラフィン、灯油等の脂肪族炭化水素系溶媒、キシレン、ナフタリン(ナフタレン)、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)、デカリン、ブチルベンゼン、p−シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、ビシクロヘキシル、メチルナフタリン、エチルナフタリン等の芳香族炭化水素系溶媒あるいはその水素化誘導体、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、1,2,3−トリクロロプロパン、ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等の鉱油が挙げられる。これらの有機溶媒の中でも揮発性の有機溶媒は、後述する延伸工程において延伸と同時に、ポリエチレン繊維状物から有機溶媒を除去できるので好ましい。
ポリエチレン溶液は、原料ポリエチレンの融点よりも10℃以上高い温度(原料ポリエチレンの融点+10℃以上)で加熱した後、紡糸ノズル(紡糸口金)を通過させてポリエチレン繊維状物(未延伸糸)とするのが好ましい(紡糸工程)。加熱温度は原料ポリエチレンの融点+20℃以上であるのがより好ましく、更に好ましくは原料ポリエチレンの融点+30℃以上である。上記温度範囲内で加熱することで、有機溶媒中に分散している原料ポリエチレンを溶解させ均一な溶液とすることができる。
紡糸口金の温度は、原料ポリエチレンの融点+5℃以上、ポリエチレン溶液に使用した有機溶媒の沸点以下にすることが好ましい。より好ましくは原料ポリエチレンの融点+10℃以上である。紡糸口金の温度が低すぎると、原料ポリエチレンの粘度が低下することにより所望する速度でのポリエチレン繊維状物の引き取りが困難になる場合がある。一方、紡糸口金の温度が有機溶媒の沸点を超えると、ポリエチレン溶液が紡糸口金から吐出された直後に有機溶媒が沸騰してしまい、紡糸口金直下で糸切れが頻繁に発生する虞がある。
紡糸ノズルとしては、直径が0.2mm〜3.5mmのオリフィス(孔)を有するものが好ましい。オリフィスの直径は0.5mm〜2.5mmであるのがより好ましく、さらに好ましくは0.8mm〜2.0mmである。
紡糸ノズルからの吐出成形物を冷却、固化し、引き取ってポリエチレン繊維状物を得る。冷却方法は特に限定されず、紡糸口金からの吐出成形物を雰囲気温度にさらすことで自然に冷却してもよく、あるいは冷却装置を使用してもよい。冷却装置による冷却方法としては、空気や窒素等のガスによる乾式クエンチ法でもよいし、ポリエチレン溶液に使用した有機溶媒と混和可能な液体、もしくは水等、ポリエチレン溶液に使用した有機溶媒とは混和し難い液体を用いた冷却方法であってもよい。
吐出成形物は、冷却され、固化してポリエチレン繊維状物となるまでに、1.1倍以上、100倍以下の倍率で変形させることが好ましい。変形倍率は2.0倍以上、80倍以下とするのがより好ましく、更に好ましくは5.0倍以上、50倍以下である。変形に要する時間は3分以内とすることが好ましい。より好ましくは2分以内、更に好ましくは1分以内である。変形に要する時間が3分を超えると、ポリエチレン繊維状物を構成するポリエチレン分子鎖の緩和が発生し、高強度・高弾性率のポリエチレン繊維が得られ難くなる虞がある。ポリエチレン溶液を紡糸し、ポリエチレン繊維状物を得る工程では、ポリエチレン繊維状物に含まれる溶媒の一部を除去してもよい。
次いで、得られたポリエチレン繊維状物(未延伸糸)を加熱し、数倍に延伸する(延伸工程)。延伸工程は、1段延伸であってもよく、2段以上の多段延伸であってもよい。ポリエチレン繊維の強力を高める観点からは2段以上の多段延伸を行うのが好ましい。なお、本明細書において「ポリエチレン繊維状物」とは、紡糸工程後、予め設定した延伸倍率にまで延伸される前のポリエチレン繊維状物を意味する。
延伸工程においてポリエチレン繊維状物を加熱する方法は特に限定されず、空気、窒素等の不活性ガス、水蒸気、液体等の媒体を使用して加熱してもよく、また、加熱ローラー、接触式ヒーター等を使用してもよい。延伸温度は110℃以上が好ましく、より好ましくは120℃以上であり、さらに好ましくは130℃以上である。延伸温度の上限は、繊維が溶断しない範囲であればよい。
ポリエチレン繊維の延伸倍率はローラーでの総延伸倍率として、8倍以上とするのが好ましく、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは12倍以上である。延伸倍率の上限は特に限定されず、所望の強度、伸度、弾性率のポリエチレン繊維が得られるように決定すればよい。
ポリエチレン溶液が揮発性の有機溶媒を含む場合、ポリエチレン繊維状物の延伸と同時に、当該繊維状物に含まれる有機溶媒も除去することができる(脱溶媒)。一方、ポリエチレン溶液を構成する有機溶媒が不揮発性である場合は、抽出によりポリエチレン繊維状物から不揮発性の有機溶媒を除去すればよい。抽出には、例えば、クロロホルム、ベンゼン、トリクロロトリフルオロエタン(TCTFE)、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、エタノール、高級アルコール等の有機溶媒を使用できる。
ポリエチレン繊維状物から有機溶媒を除去する脱溶媒工程は、延伸工程とは別個の工程として実施してもよいし、延伸工程と同時に行ってもよい。
本発明の製造方法は、上述の紡糸工程、延伸工程に加えて、ポリエチレンの繊維状物を着色液と接触させる工程を含む(着色液接触工程)。着色液接触工程では、20質量%未満の有機溶媒を含むポリエチレン繊維状物に、着色材料と有機溶媒とを含む、温度が0℃以上、60℃未満の着色液を接触させる。これにより、ポリエチレン繊維状物に着色材料を付与することができる。
着色液接触工程は、有機溶媒量が20質量%未満であるポリエチレン繊維状物に対して行う限りその実施時期は限定されない。但し、ポリエチレンの結晶化が完了した後では、着色材料を繊維状物内部にまで移動させ難い場合があるので、予め設定した延伸倍率までポリエチレン繊維状物を延伸する最終延伸の前に行う実施するのが好ましい。したがって、着色液接触工程は、紡糸工程後延伸工程前に行うのが好ましく、2段以上の多段延伸を行う場合は延伸工程の間、例えば2段延伸であれば、1段目と2段目の延伸工程の間に行ってもよい。
ポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒量(残留溶媒量)は18質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、1質量%以上であるのが好ましく、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。溶媒が完全に除去される前であれば、ポリエチレン繊維状物の内部にまで着色材料を移動させ易いため、個々の繊維状物の芯部にまで着色材料を存在させられるものと考えられる。したがって、濃色で、均一な着色を実現する観点からはポリエチレン繊維状物がある程度残留溶媒を含む状態で着色液接触工程を行うのが好ましい。しかしながら、残留溶媒量は多すぎても、少なすぎても着色材料の繊維状物内部への移動が阻害される傾向がある。なお、残留溶媒量が多すぎる場合は、着色液接触工程前に上述の脱溶媒を行って、残留溶媒量を上記範囲内にしておくことが推奨される。
着色液に含まれる有機溶媒としては、ポリエチレン溶液の調製で例示した有機溶媒や、脱溶媒工程で例示した抽出用の有機溶媒を使用することができる。ポリエチレン溶液の調製に使用した有機溶媒を使用する場合には、溶媒の種類に応じて脱溶媒工程の条件を変更する必要がなく、また脱溶媒工程後に回収された溶媒を個々の溶媒ごとに分離する必要もないので好ましい。
着色材料としては、上述したものが好ましく用いられる。より好ましくは油溶性染料又は分散染料である。着色液中の着色材料の濃度は、着色ポリエチレン繊維中に着色材料が0.2〜5質量%含まれるように調整すればよいが、一般的には、着色液中の着色材料の濃度は1質量%〜28質量%とするのが好ましい。より好ましくは1.5質量%以上、25質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上、23質量%以下である。着色材料の濃度が低すぎると濃色な着色を実現し難くなる虞があり、着色材料濃度が高すぎる場合は、過剰な着色材料が繊維表面に残留してしまい、ポリエチレン繊維の染色堅牢度を低下させることがあるため好ましくない。
着色液の温度は0℃以上、60℃未満である。より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは8℃以上、より一層好ましくは10℃以上であり、好ましくは50℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下である。
また、着色液と接触させるポリエチレン繊維状物の温度は、50℃以下であるのが好ましく、より好ましくは45℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下である。ポリエチレン繊維状物の温度の下限に制限はないが、一般的に室温以上であるのが好ましい。ポリエチレン繊維状物の温度は、例えば赤外線温度計の非接触タイプの温度計により測定することができる。
着色液の温度が高すぎると、有機溶媒が速やかに蒸発して着色材料だけがポリエチレン繊維状物表面に残り、ポリエチレン繊維状物の内部にまで着色材料を移動させ難くなる傾向がある。この場合、続く工程において周辺部材を汚染したり、また得られたポリエチレン繊維が用いられた製品から着色材料が脱落して汚染を生じる虞がある。さらに斯かる問題を解消するためには表面に付着した染料を洗浄する工程が必要となり、作業効率を低下させる虞がある。また着色液温度が高すぎる場合には、これと接触するポリエチレン繊維状物の温度が上昇し、着色液接触工程後に行われる熱処理工程や延伸工程でポリエチレン繊維状物に負荷される張力の影響が大きくなり、その結果、繊度ムラや強度ムラ(糸ムラ)が生じる虞もある。特に、着色液接触工程に続けて延伸工程を行う場合、ポリエチレン繊維状物の温度が高すぎると延伸点が固定されず、延伸ムラが生じる虞がある。
なお、ポリエチレン繊維状物の温度が十分低くても、着色液の温度が高い場合には、着色液との接触時にポリエチレン繊維状物内に形成された結晶構造が崩れて、結果的に着色ムラが生じる虞がある。着色液の温度、及びポリエチレン繊維状物の温度が上記範囲内であれば、上述の問題は生じ難いので好ましい。
ポリエチレン繊維状物と着色液との接触方法は、ポリエチレン繊維状物に着色材料を付与できるものであれば特に限定されず、様々な手法を用いることができる。具体的な接触方法としては、ガイドオイリングによりポリエチレン繊維状物と着色液とを接触させる方法、染料溶液を付着させた回転ローラーの表面にポリエチレン繊維状物を接触させる方法、走行中のポリエチレン繊維状物に着色液を噴霧する方法、着色液のバス中にポリエチレン繊維状物を通過させて接触させる方法等が挙げられる。また、ポリエチレン溶液が不揮発性の有機溶媒(例えばパラフィン等)を含む場合には、脱溶媒工程で使用する抽出溶媒に着色材料を溶解させた着色液を抽出浴とし、この抽出浴中にポリエチレン繊維状物を通過させて、ポリエチレン繊維状物と着色液とを接触させてもよい。
ポリエチレン繊維状物への着色液の付与量は、ポリエチレン繊維状物に対して0.1〜15質量%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。着色液の付与量が少なすぎると濃色に着色し難くなる虞があり、一方着色液の付与量が多すぎると、過剰な着色材料が繊維表面に残留して染色堅牢度が悪化する虞があり、また工程通過中に着色材料が繊維状物から脱落し、周辺部材を汚染する虞がある。
着色液接触工程では、ポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒の量が増加する場合がある。しかしながら、ポリエチレン繊維状物に過剰な有機溶媒が存在すると、結晶構造に緩みが生じ易くなったり、延伸ロール上で繊維状物が滑り易くなる結果、均一な延伸が困難になり、繊度、強度のムラが生じ易くなる虞がある。したがって、着色液と接触後のポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒の量(着色液接触工程に供されるポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒と、着色液接触工程で増加した有機溶媒の量の合計)は25質量%未満であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下である。有機溶媒量の下限は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上である。
着色液接触工程は、ポリエチレン繊維状物に0.05cN/dtex以上、3cN/dtex以下の張力をかけながら実施するのが好ましい。より好ましくは0.1cN/dtex以上、1cN/dtex以下であり、さらに好ましくは、0.2cN/dtex以上、0.8cN/dtex以下である。ポリエチレン繊維状物に負荷される張力が小さすぎる場合には、ポリエチレン繊維状物を安定走行させ難く、振れが生じ、着色材料の付与斑が生じる虞がある。一方、張力が大きすぎると、ポリエチレン繊維状物が収束した状態になり着色液が個々の繊維状物内部にまで浸透し難くなる虞がある。この場合、単糸の染色均一性が損なわれるだけでなく、着色材料の多くがポリエチレン繊維状物表面に残り、結果として、染色堅牢度が低下する虞がある。
本発明では、着色液が付与されたポリエチレン繊維状物を110℃以上で10秒以上加熱する熱処理工程を実施する(熱処理工程)。これにより着色液のポリエチレン繊維状物内部への浸透が促進され、ポリエチレン繊維状物の芯部にまで着色材料を移動させ易くなる。その結果、濃色で、染色堅牢度が一層高められた着色ポリエチレン繊維が得られる。熱処理工程を行うことにより、ポリエチレン繊維状物の内部(芯部)に着色材料を存在させた状態で延伸工程を実施することとなり、延伸によるポリエチレンの結晶化により、着色材料をポリエチレン繊維の内部(芯部)に閉じ込めることができるためと考えられる。
熱処理工程は、着色液接触工程の後であればどのタイミングで行ってもよい。また、熱処理工程は単独で行ってもよく、延伸工程と同時に行ってもよい。熱処理工程を延伸工程と同時に行う場合には、着色液の浸透によるポリエチレン繊維状物内部への着色材料の移動と、延伸によるポリエチレンの結晶化を同時に進行させることができる。また、熱処理工程と延伸工程とを別個に行う場合には、熱処理工程により着色材料がポリエチレン繊維状物内部に移動した後に、延伸工程を行うことができるため、染色堅牢度を一層高めることができる。好ましくは、熱処理工程を延伸工程と同時に行うことである。
加熱温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。加熱温度の上限は溶断により糸切れが生じない温度、すなわちポリエチレンフィラメントの融点以下とすることが推奨される。
加熱方法には特に制限がなく、例えば熱風、ホットローラー、輻射パネル、スチームジェット、ホットピンなどの公知の手法を採用することができる。なお、着色材料による汚染を最小限に抑える観点からは、熱風、輻射パネル、及びスチームジェット等を使用する非接触タイプの加熱方法を採用するのが好ましい。
加熱時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは12秒以上、さらに好ましくは15秒以上である。加熱時間の上限は特に限定されないが、例えば150秒以下であるのが好ましく、より好ましくは120秒以下、さらに好ましくは100秒以下である。熱処理工程を単独で実施する場合には、上述の範囲内で熱処理工程と延伸工程とを実施するのが好ましい。
熱処理工程は、ポリエチレン繊維状物に張力をかけながら行うことが好ましい。ポリエチレン繊維状物に負荷する張力は0.8cN/dtex〜6.5cN/dtexとするのが好ましい。より好ましくは1cN/dtex以上であり、さらに好ましくは2cN/dtex以上であり、より好ましくは6cN/dtex以下であり、さらに好ましくは5cN/dtex以下である。
熱処理工程で上述の範囲の張力を負荷することでポリエチレンの分子鎖が引き伸ばされることにより毛細管現象が生じ、着色液の繊維状物内部への浸透が一層促進されるので好ましい。熱処理工程での張力が小さすぎる場合には、毛細管現象が生じにくくなる虞がある。一方張力が高すぎると毛羽等が生じ、繊度、強度ムラの少ないポリエチレン繊維を得ることが困難になる虞がある。
熱処理工程の後、又は熱処理工程と同時に行う延伸工程では、少なくとも2倍の倍率でポリエチレン繊維状物を延伸するのが好ましい。より好ましくは2.5倍以上である。上限としては強度を高める目的では可能な限り延伸倍率を高めることが好ましいが、高くしすぎると糸切れや毛羽の発生が見られる虞がある。したがって延伸倍率は30倍以下とすることが好ましい。
通常、高強力ポリエチレンの製造では、繊維の強度を高めるため高い延伸倍率で延伸を行う。しかしながら、延伸工程前に比較的温度の高い着色液と接触させる場合には、延伸工程に供される段階でポリエチレン繊維状物が軟化するので、この状態で高倍率の延伸を行うと、延伸点が固定されず繊度や強度にムラを生じる虞がある。したがって、熱処理工程の後、又は熱処理工程と同時に行う延伸工程での延伸倍率は上述の範囲内とすることが好ましい。
本発明の着色ポリエチレン繊維は、濃色に着色されており、また摩擦に対する染色堅牢度及び/又は耐溶剤性に優れるものであるので、組紐、釣糸、手袋、ロープ、ネット、織物及び編物等の材料として好適に用いられる。これらの用途に用いられる全ての糸を上述の着色ポリエチレン繊維としてもよく、また一部に着色ポリエチレン繊維を用いてもよい。例えば、組紐の場合は、着色ポリエチレン繊維を少なくとも1本含んでいることが望ましい。
組紐は、当該組紐から解いた繊維(マルチフィラメント)の強度が15cN/dtex以上であるのが好ましい。より好ましくは18cN/dtex以上であり、さらに好ましくは20cN/dtex以上である。繊度の上限は上述の着色ポリエチレン繊維と同様である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
(1)色の測定(L,a,b)
測定条件として、JIS Z 8781−4 2013に準拠して測定を行った。SPECTROPHOTOMETER CM−3700d(コニカミノルタ株式会社製)を用い、データカラー・スペクトラフラッシュ(Datacolor Spectraflash)モデルSF−300比色計(ニュージャージー州、ローレンスビルのデータカラー・インターナショナル(Datacolor International))を用いてD65/10度光源を使用して行った。
測定用試料は、実施例、比較例で得られたポリエチレン繊維をステンレス製(SUS304)の板に出来るだけ隙間が生じ無いように巻きつけて作製した。
測定はCIELABのL色空間の基準色座標を使用する“Commission Internationale de L’Eclairage”(パリ、フランス)(照明に関する国際協会(International Society for Illumination/Lighting))(“CIE”)により公表された国際基準色測定方法を使用した。「L」は明度座標を示し、「a」は赤色/緑色座標を示し(+aは赤色を示し、−aは緑色を示し)、「b」は黄色/青色座標を示している(+bは黄色を示し、−bは青色を示す)。
(2)摩擦に対する染色堅牢度
JIS L 0801(2000)に準じて試料を準備した。乾燥状態及び湿潤状態の試料について、摩擦試験機II形(学振形)を使用して、JIS L 0849(2013)に準じて摩擦に対する染色堅牢度の試験を行った。結果を、汚染用グレースケール(JIS L 0805(2005))を使用して視覚法により染色堅牢度の判定を行った。
なお、試料は、実施例、比較例及び参考例で得られたポリエチレン繊維の少なくとも1本を学振形摩擦試験機のサンプル台に固定して測定を行った。繊維の長さが十分ある場合は、繊維を複数本並べてサンプル台に固定して測定を行ってもよいし、サンプル台と同程度の大きさの長方形の板紙に、板紙の長辺の方向に平行して密に硬く巻きつけた試料を作製しこれを測定してもよいし、また筒編み等により布帛の状態として測定してもよい。サンプルが布帛の場合はそのまま用いてよい。
(3)耐溶剤性
透明なガラス製の容器内で、アセトンに対して、0.1g/mLとなるように実施例、比較例及び参考例で得られた着色ポリエチレン繊維を浸漬し、室温(20℃)下で24時間静置した。着色ポリエチレン繊維の浸漬に使用したアセトン(ブランクとしてのアセトン)と、着色ポリエチレン繊維を浸漬し24時間静置した後のアセトンについて、紫外可視分光光度計(日立製作所社製、U−3210形)を用いて波長350〜780nmの範囲の透過率を測定し、得られた透過率曲線から上記波長領域における透過率の積分値T0(ブランク、着色ポリエチレン繊維の浸漬に使用したアセトン)、T1(着色ポリエチレン繊維浸漬後のアセトン)を求め、下記式1より耐溶剤性を算出した。
耐溶剤性(%)=(T1/T0)×100 (式1)
(4)糸の繊度、糸の繊度ムラ
位置の異なる3箇所で着色ポリエチレン繊維を各々50cmにカットし、その重量を測定しその平均値を用いて糸の繊度を求めた。単糸繊度は、糸の繊度から算出することができる。
長手方向の繊度ムラは以下の方法で測定した。着色ポリエチレン繊維を10cm毎に連続で10本カットし、その重量を各々測定し以下の式4を用いて繊度ムラ(総繊度の変動係数)を求めた。
繊度ムラ(%) =(繊度の標準偏差/繊度の平均値)×100 (式4)
(5)引張強度・伸度・弾性率
JIS L1013 8.5.1に準拠して測定した。引張強度、弾性率は、株式会社オリエンテック製の「テンシロン万能材料試験機」を用い、試料長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分、雰囲気温度20℃、相対湿度65%の条件下で歪−応力曲線を測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/dtex)、伸度(%)、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dtex)を計算して求めた。このとき測定時にサンプルに印加する初荷重を繊度の1/10(cN/dtex)とした。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
(6)繊維の長手方向の引張強度のムラ(変動係数)
繊維の長手方向に対し、任意の10箇所で上述の強度試験を行い、下記(式2)により引張強度の変動係数(CV)(%)を求めた。なお、試料採取箇所は同一の繊維(糸)から採取する限り特に限定は無く、繊維長手方向で連続して採取してもよいし、1の試料を採取した後、間隔をおいて次の試料を採取してもよい。
引張強度の変動係数(%)=(引張強度の標準偏差/引張強度の平均値)×100 (式2)
(7)極限粘度
135℃のデカリンにてウベローデ型毛細粘度管により、種々の希薄溶液の比粘度を測定し、その粘度の濃度に対するプロットの最小2乗近似で得られる直線の原点への外挿点より極限粘度を決定した。なお、原料ポリエチレンだけでなく繊維、組紐物についても同様にして極限粘度の測定を行った。
(8)有機溶媒量
実施例、比較例及び参考例において、紡糸工程及び着色液接触工程から、ポリエチレン繊維状物(マルチフィラメント)を抜き出して重量を測定(乾燥前の重量)した後、この抜き出したポリエチレン繊維状物を、有機溶媒が揮発する温度で24時間真空乾燥させ、再び重量(乾燥後の重量)を測定する。得られた重量と下記式より、ポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒量(残留溶媒量)を求めた。
残存溶媒量(%)=(乾燥前の重量−乾燥後の重量)/乾燥前重量×100
(実施例1)
極限粘度が18.5dL/gで、繰り返し単位の98%がエチレンである超高分子量ポリエチレンを原料ポリエチレンとし、これをデカヒドロナフタレンに分散させてポリエチレン濃度8質量%の分散液を調製した。この分散液を押出し機にて190℃で加熱して溶液とした後、オリフィス径φ1.0mm、30Hからなる紡糸口金からノズル面温度180℃、単孔吐出量2.0g/minで吐出した。吐出された糸条が固化するまでに8倍で変形し30℃の水冷バスで冷却しポリエチレン繊維状物(未延伸糸)を得た。この未延伸糸中の残存溶媒量は12質量%であった。
次いで、デカヒドロナフタレンに20質量%のC.I. Solvent Blue 58を溶解させた着色液(30℃)をガイドオイリング法により上記ポリエチレン繊維状物の質量に対し6質量%の付着量となるように付着させた。着色液接触時のポリエチレン繊維状物の温度は30℃、張力は1.2cN/dtexであり、着色液接触後のポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒量は16.8質量%であった。
続いて該ポリエチレン繊維状物に3.7cN/dtexの張力をかけながら、120℃の窒素の熱風で11秒間熱処理した後、同温度で3倍の延伸を行った(1段目)。その後、150℃のオーブン中で、1段延伸後のポリエチレン繊維状物を5倍延伸して(2段目)、巻き取った。このとき得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。実施例1で採用した製造条件を表1に、得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
得られた着色ポリエチレン繊維を側色したところ、L*値41.25、a*値1.62、b*値−42.05であった。続いてアセトンに浴比1:20(ポリエチレン繊維:アセトン、質量比)で、室温(20℃)下、24時間静置した後に取り出して同様に測色を行った。アセトン処理後のポリエチレン繊維の色相は、L*値が42.10、a*値が1.73、b*値が−41.06であった。アセトン処理前のポリエチレン繊維と目視で比較しても、色相の変化は認められなかった。
実施例1を例として、繊維に含まれている着色材料の構造及び含有量を調べる方法を説明する。なお、異なる着色材料が用いられている場合は、着色材料に応じた適切な溶媒や装置を使用すれば、同様に、繊維に含まれている着色材料の構造を同定し、その含有量を求めることが出来る。
実施例1で得られた着色ポリエチレン繊維3gを、120mLのアセトンを溶媒として、4時間ソックスレー抽出を行った。抽出液を乾固して得られた残渣15mgを0.6mLの重クロロホルムに溶解し、BRUKER BIOSPIN製AVANCE500を用いて1H−NMRスペクトルの測定を行った。
また、上記残渣1mgを20mLのメタノール/クロロホルム混合溶媒(2/1体積比)に溶解し、BRUKER DALTONICS製micrOTOFを用いてエレクトロスプレーイオン化法により精密質量測定を行った。
得られた1H−NMRスペクトルおよび精密質量測定の結果から、実施例1のポリエチレン繊維には、C.I. Solvent Blue 58が分解等を起こすことなく含有されていることを確認した。
また、実施例1の着色ポリエチレン繊維中の着色材料の含有量は、次のようにして求めることができる。上記ソックスレー抽出で得られた残渣をアセトンに溶解して濃度10mg/Lの試料溶液を調製し、紫外可視分光光度計(例えば、株式会社島津製作所製SolidSpec−3700等)を用いて紫外可視吸収スペクトルを測定する。これとは別に、少なくとも3種の異なる濃度のC.I. Solvent Blue 58のアセトン溶液を調製し、同様に紫外可視吸収スペクトルを測定して、波長350nm〜700nmにおける最大吸収波長(C.I. Solvent Blue 58の場合は440nm)における吸光度と、溶液濃度の関係を示す検量線を作成する。そして、この検量線と試料(残渣の10mg/Lアセトン溶液)の測定結果からポリエチレン繊維に含有されている着色材料の量を求めることが出来る。なお、C.I. Solvent Blue 58以外の着色材料が用いられている場合は、着色材料に応じた適切な溶媒や装置を使用すればよい。
(実施例2)
実施例1で用いた原料ポリエチレンに酸化防止剤を1.7質量%添加したこと以外は、実施例1と同様の条件で、紡糸、延伸を行ってポリエチレン繊維を製造した。実施例2で得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。製造条件を表1、得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
(実施例3)
着色液の温度を45℃に変更したことと、2段目の延伸工程における延伸温度を148℃とし、さらに表1に示す条件を採用したこと以外は、実施例1と同様の条件で、紡糸、延伸を行ってポリエチレン繊維を製造した。実施例3で得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。製造条件を表1、得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
実施例1に比べて着色液の温度が高かったため、熱処理工程及び1段目の延伸工程で張力緩和が生じたが、物性が大きく低下することはなかった。
(実施例4)
着色液との接触後に行われる1段目の延伸工程において、延伸速度は一定にしたまま延伸炉の炉長を長くし、熱処理及び延伸温度(1段目)を130℃とし、さらに表1に示す条件を採用したこと以外は実施例1と同様の条件で、紡糸、延伸を行ってポリエチレン繊維を製造した。実施例4で得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。製造条件を表1、得られたポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
他の例に比べて延伸炉の炉長を長くしたため、熱処理時間及び変形時間が長くなり、熱処理時及び1段目の延伸時に張力緩和が生じたが、ポリエチレン繊維の物性は実施例1と比較しても大きな差はなかった。なお実施例4のポリエチレン繊維は、他の実施例のポリエチレン繊維に比べて、濃色に着色されていたにも拘らず(L*値39.32)、アセトンへの着色材料の抽出量が少なく、耐溶剤性(95%)に優れるものであった。これは、他の例と比較して着色液接触後の熱処理温度が高く、また熱処理時間も長かったことから、ポリエチレン繊維内部への着色材料の移動が促進されたためと推察される。
(実施例5)
実施例1において、紡糸工程で得られたポリエチレン繊維状物(未延伸糸)と着色液とを接触させることなく120℃の窒素の熱風で11秒間熱処理し、同温度で延伸倍率3倍の延伸を行った(1段目)。
1段延伸後のポリエチレン繊維状物(残留溶媒量9質量%)に、着色液(20質量%C.I. Solvent Blue 58のデカヒドロナフタレン溶液、30℃)をガイドオイリング法により上記ポリエチレン繊維状物の質量に対し6質量%の付着量となるように付着させた。着色液との接触時のポリエチレン繊維状物の温度は30℃、張力は0.5cN/dtexであった。
続いて着色液接触後のポリエチレン繊維状物を150℃で18秒間熱処理した後(張力4.5cN/dtex)、同温度で5倍の延伸を行って巻き取った。実施例5で得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。製造条件を表1、得られたポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
着色液接触工程を1段目の延伸工程後に行っても、その物性は実施例1と大差なく、濃色に着色され、優れた染色堅牢度及び耐溶剤性を有する着色ポリエチレン繊維が得られた。
(比較例1)
紡糸工程で得られたポリエチレン繊維状物(未延伸糸)と接触させる着色液の温度を140℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で紡糸延伸を行おうとしたが、着色液の温度が高すぎたため、未延伸糸が着色液と接触した時点で軟化してしまい、延伸工程で糸切れが発生しポリエチレン繊維は得られなかった。
(比較例2)
紡糸工程で得られたポリエチレン繊維状物(未延伸糸)と接触させる着色液の温度を110℃、張力を0.02cN/dtexに変更し、熱処理工程及び1段目の延伸工程の温度を110℃、延伸倍率を5倍、2段目の延伸工程における延伸温度を145℃、延伸倍率を4倍に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、紡糸延伸を行ってポリエチレン繊維を得た。比較例2で得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。製造条件を表1、得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
得られた着色ポリエチレン繊維は、実施例に比べると繊度ムラ及び強度ムラが大きいものであった。比較例2では、着色液の温度が高すぎたために、未延伸糸が着色液と接触した時点で軟化してしまい、着色液接触工程で張力を高く維持することができず、また、この状態で1段目の延伸工程を行ったので延伸点が固定されず、均一な延伸が困難であったためと考えられる。
また、ポリエチレン繊維は濃色に着色されていたが、摩擦に対する染色堅牢度も、耐溶剤性も実施例に比べて劣っていた。これは、着色液の温度が高かったため、未延伸糸に付着した着色液から溶媒であるデカリンが速やかに揮発し、繊維表面における染料の濃度が高くなりすぎて、未延伸糸内部への着色材料の移動が生じ難かったためと推定される。
(比較例3)
着色液と接触させる際にポリエチレン繊維状物にかける張力を0.9cN/dtex、続く熱処理を90℃、5秒間、張力4.2cN/dtexで行い、1段目の延伸倍率を2倍とし、2段目の延伸工程の延伸温度を141℃、延伸倍率を2.5倍としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、紡糸延伸を行って着色ポリエチレン繊維を得た。比較例3で得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。製造条件を表1、得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
得られた着色ポリエチレン繊維は、実施例の着色ポリエチレン繊維に比べて摩擦に対する染色堅牢度に劣るものであった。これは、着色液接触工程後の熱処理の温度が低く、また時間も短かったことから、繊維状物内部への着色材料の浸透を促進させ難かったためと考えられる。これは耐溶剤性が64%であることからも明らかである。
また、比較例3の着色ポリエチレン繊維は実施例に比べて強度、弾性率が低く、強度及び繊度にもムラが生じていた。これは、1段目の延伸温度が低かったため、1段目さらには2段目でも延伸倍率を高められなかったことに加えて、繊維状物表面に着色材料と溶剤が多く残った影響で延伸点が固定されず、延伸を均質に行えなかったためと考えられる。
(比較例4)
着色材料(C.I. Solvent Blue 58)の濃度が30質量%の着色液(溶媒:デカヒドロナフタレン)を用い、ポリエチレン繊維状物に対する着色液の付与量を20質量%としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、紡糸延伸を行ってポリエチレン繊維を得た。なお、着色液接触工程後のポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒(紡糸工程後の有機溶媒と着色液由来の有機溶媒の合計量)は26質量%であった。比較例4で得られた着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。製造条件を表1、得られたポリエチレン繊維の物性を表2に示す。
得られたポリエチレン繊維は濃色であったが、実施例に比べて染色堅牢度も、耐溶剤性も劣り、強度ムラ及び繊度ムラも大きいものであった。これは過剰な着色材料が繊維表面に存在したまま延伸工程を通過させたためと考えられる。また、着色液接触工程後のポリエチレン繊維状物に含まれる残留溶媒量が多かったことから、延伸が不均一になったものと考えられる。
(参考例1、比較例5)
原料ポリエチレン分散液(ポリエチレン濃度8質量%)に、C.I. Solvent Blue 58を溶媒に対して、濃度が0.1質量%(参考例1)、0.01質量%(比較例5)となるように添加したこと、着色液接触工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして紡糸延伸を行って着色ポリエチレン繊維を得た。但し、参考例1の2段目の延伸工程では、延伸倍率を5倍にすると糸切れが多発したため、延伸倍率4倍とした。参考例1の着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであり、比較例5の着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。なお、参考例1の着色ポリエチレン繊維に含まれる着色材料は1.2質量%であり、比較例5の着色ポリエチレン繊維に含まれる着色材料は0.12質量%であった。表1、2に製造条件と物性をそれぞれ示す。
参考例1で得られたポリエチレン繊維は、強度、伸度、弾性率が低く、また繊維(糸)内での強度及び繊度のバラつきも実施例のポリエチレン繊維に比べて大きいものであった。参考例1では紡糸段階で原料ポリエチレン分散液に着色材料を添加しているため、着色材料はポリエチレンの結晶構造内の深部に存在し得るものの、これが異物として働き、延伸倍率を高め難くなったものと考えられる。一方比較例5では、着色材料の含有比率を低減したため異物による効果が低減され、実施例と同程度の強度、伸度及び弾性率を有するポリエチレン繊維が得られたが、着色材料の添加量が少なかったため、L*値が80よりも高く、淡色であった。
(参考例2)
未延伸糸と着色液との接触を行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリエチレン繊維を製造した。参考例2の着色ポリエチレン繊維の極限粘度は16dL/gであった。表1、2に製造条件と物性をそれぞれ示す。
Figure 0006079917
表1中、有機溶媒量1は、着色液接触工程に供したポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒の量を示し、有機溶媒量2は、着色液接触工程後のポリエチレン繊維状物に含まれる有機溶媒の量(有機溶媒1と着色液由来の有機溶媒の合計)を示し、糸温度は着色液接触工程に供給する糸の温度を示す。
Figure 0006079917
本発明によれば、濃色に着色されており、且つ、染色堅牢度及び/又は耐溶剤性に優れる着色ポリエチレン繊維を提供できる。また、この着色ポリエチレン繊維は、強度、繊度のムラが少ないため、組紐、釣糸、手袋、ロープ、ネット、織物及び編物等の材料として好適に用いられる。

Claims (17)

  1. CIE−L***表色系によるL*値が80以下であり、摩擦に対する染色堅牢度が、乾燥状態及び湿潤状態のいずれについても3級以上であり、且つ、長手方向の任意の10箇所で測定した引張強度の下記式2で定義される変動係数(CV)が10%以下であることを特徴とする着色ポリエチレン繊維。
    引張強度の変動係数(%)=(引張強度の標準偏差/引張強度の平均値)×100 (式2)
  2. 着色ポリエチレン繊維の長手方向の繊度ムラが10%以下である請求項1に記載の着色ポリエチレン繊維。
  3. 下記測定方法により求められる耐溶剤性が75%以上であり、且つ、長手方向の繊度ムラが6.9%以下である請求項1又は2に記載の着色ポリエチレン繊維。
    [耐溶剤性の測定方法]
    アセトンに対して、0.1g/mLとなるように着色ポリエチレン繊維を浸漬し、室温下で24時間静置する。着色ポリエチレン繊維の浸漬に使用したアセトンと、着色ポリエチレン繊維を浸漬し20±5℃で24時間静置した後のアセトンについて、紫外可視分光光度計を使用して波長350nm〜780nmの範囲の透過率を測定し、得られた透過率曲線から上記波長領域における透過率の積分値を求め、下記式1より耐溶剤性を算出する。
    耐溶剤性(%)=(T1/T0)×100 (式1)
    [式1中、T0は波長350nm〜780nmにおけるアセトンの透過率の積分値を示し
    、T1は波長350nm〜780nmにおける着色ポリエチレン繊維浸漬後のアセトンの
    透過率の積分値を示す。]
  4. 着色ポリエチレン繊維の引張強度が18cN/dtex以上である請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維。
  5. 着色ポリエチレン繊維が着色材料を含み、上記着色材料が油溶性染料である請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維。
  6. 着色ポリエチレン繊維の単糸の繊度が1dtex以上、80dtex以下である請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維。
  7. 請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維を少なくとも1本含むことを特徴とする組紐。
  8. 組紐から解いた繊維の強度が15cN/dtex以上である請求項に記載の組紐。
  9. 請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維を含む釣糸。
  10. 請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維を含む手袋。
  11. 請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維を含むロープ。
  12. 請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維を含むネット。
  13. 請求項1〜のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維を含む織物又は編物。
  14. 極限粘度[η]が5.0dL/g以上、25dL/g以下であり、その繰り返し単位が90モル%以上エチレンからなるポリエチレンを濃度0.5〜40質量%となるように有機溶媒に溶解させたポリエチレン溶液を紡糸してポリエチレン繊維状物を得る工程、
    20質量%未満の有機溶媒を含むポリエチレン繊維状物を、着色材料と有機溶媒とを含む、温度が0℃以上、60℃未満の着色液と接触させる工程、
    着色液が付与され、繊維重量に対し25%未満の有機溶媒を含むポリエチレン繊維状物を110℃以上で10秒以上加熱する熱処理工程、及び
    ポリエチレン繊維状物を延伸する工程、
    を含むことを特徴とする着色ポリエチレン繊維の製造方法。
  15. 着色液と接触させるポリエチレン繊維状物の温度が50℃以下である請求項14に記載の着色ポリエチレン繊維の製造方法。
  16. ポリエチレン繊維状物に0.8〜6.5cN/dtexの張力をかけながら上記熱処理を行う請求項14又は15に記載の着色ポリエチレン繊維の製造方法。
  17. 着色液との接触工程の後、2倍以上の延伸倍率で延伸する工程を含む請求項1416のいずれかに記載の着色ポリエチレン繊維の製造方法。
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