本発明のタイヤは、樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体を有し、前記樹脂材料が、熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとが動的架橋された樹脂組成物を含む。
本発明のタイヤは、タイヤ骨格体が熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとが動的架橋された樹脂組成物を含む樹脂材料で形成されているため、耐熱性及び高温永久歪性を優れたレベルで発揮することができる。また、本発明のタイヤは、樹脂材料を用いてタイヤ骨格体が形成されているため、射出成形によってタイヤ骨格体を形成することも可能であることから、生産性に優れる。本発明において、タイヤの耐熱性は、ASTM D648に規定される荷重撓み温度を指標として判断することができ、当該温度が高いほどタイヤ骨格体の耐熱性が良好となる。また、本発明において、タイヤの高温永久歪性は、100℃における圧縮永久歪の測定値を指標として判断することができ、当該値が高い程高温永久歪性に優れる(高温下においても残留歪みが少ない)。
《樹脂材料》
上述のように前記タイヤは、樹脂材料を用いたタイヤ骨格体を有する。前記樹脂材料は、少なくとも熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとが動的架橋された樹脂組成物を含む。本発明において、「樹脂材料」は、前記樹脂組成物以外に添加剤など他の成分を含んでいてもよい。前記樹脂材料が前記樹脂組成物以外の成分を含有しない場合、樹脂材料は前記樹脂組成物のみで構成されることとなる。また、本明細書において「樹脂」とは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含む概念であるが、天然ゴムは含まない。さらに、熱可塑性樹脂には、熱可塑性エラストマーが含まれる。ここで、「エラストマー」とは、結晶性で融点の高いハードセグメント若しくは高い凝集力のハードセグメントを構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる樹脂を意味する。
(樹脂組成物)
前記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(樹脂成分)とブチル系ゴム(エラストマー成分)とを動的架橋することで調製することができる。ここで「動的架橋」とは、熱可塑性樹脂と、ブチル系ゴムとが高剪断条件下で架橋される架橋工程を意味する。このように高剪断条件下でブチル系ゴムを熱可塑性樹脂に架橋させると、架橋の際にブチル系ゴムを熱可塑性樹脂のマトリックス中に微粒子として分散させやすい。前記動的架橋は、ロールミル、バンバリー(登録商標)ミキサー、連続ミキサー、ニーダー又は混合用押出機(例えば2軸押出機)などの混合装置の中で、混合物の架橋温度又はそれよりも高い温度で各成分を混合することによって行われる。このように、熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとを動的架橋することで、樹脂材料の耐熱性及び高温永久歪性を向上させることができる。
−熱可塑性樹脂−
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン系熱可塑性樹脂、オレフィン系熱可塑性樹脂、塩化ビニル系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂、ポリエステル系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性樹脂等が挙げられ、ポリアミド系熱可塑性樹脂が特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/66/610共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体、ポリエステル系樹脂(例えばポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンイソフタレート共重合体、ポリアリレート、ポリブチレンナフタレート、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル)、ポリニトリル系樹脂(例えばポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体)、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂(例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル)、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール/エチレン共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体)、セルロース系樹脂(例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース)、フッ素系樹脂(例えばポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロルフルオロエチレン、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体、イミド系樹脂(例えば芳香族ポリイミド)などを挙げることができる。
−ブチル系ゴム−
前記熱可塑性樹脂に動的架橋させるブチル系ゴムには、ブチルゴムのみならず、変性ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、又は、他のモノマーとブチルゴムとの共重合体等やこれらの混合物が含まれる。
−−変性ブチルゴム−−
前記変性ブチルゴムとしては、例えば、特許第4779354号公報に記載の変性ブチルを挙げることができる。例えば、ハロゲン化ブチルゴムを無水マレイン酸を用いて変性すると、ハロゲン基の少ないブチルゴムの動的架橋物を非連続的に熱可塑性樹脂中に分散させた樹脂組成物の、耐久性や気体保持性を向上させることができる。
前記変性ブチルゴムは、例えば、ハロゲン化ブチルゴムをカルボン酸金属塩(例えばナフテン酸亜鉛、2−エチルヘキサン亜鉛、ステアリン酸亜鉛)などの脱ハロゲン化水素剤を作用させて脱ハロゲン化水素し、共役ジエン単位を有するブチルゴムが生成させ、そこに無水マレイン酸などの親ジエン化合物を反応させることによって製造することができる。これらの技術は、例えば特開昭48−90385号公報、米国特許第3965213号などに開示されている。また、ハロゲン化水素を受容できる酸受容体、具体的には金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩(酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム)などと、単官能性ヒンダードアミン系(例えば6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジクミルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、p−(p−ツルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミンなど)もしくは、単官能性ヒンダードフェノール系(例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオン酸ステアレート、(α−メチルベンジル)フェノール、2,6−ジ−t−4−エチルフェノール)の老化防止剤を添加し、同様の機構により無水マレイン酸を臭素化ブチルゴムに導入し、加工性良好な変性ブチルゴムを製造することができる(例えば、特開2004−91766号公報参照)。これらの方法は臭素化ブチルゴムや塩素化ブチルゴムに適用することができ、酸無水物基、カルボン酸基、水酸基、エポキシ基などの官能基をハロゲン化ブチルゴムに導入することができるのみならず、脱ハロゲン化水素を導入することによりポリマー上のハロゲンを減少させることができる。
前記変性ブチルゴムは変性率(変性ブチルゴムに対する酸無水物の割合)が0.01〜2.0モル%であることが好ましく、0.01〜1.5モル%が更に好ましい。前記数平均分子量は20万〜50万が好ましく、20万〜40万が更に好ましい。変性率が低過ぎると分散粒子径が大きくなりすぎる場合がある。また、変性率が高過ぎると混合中にゲル化が発生することがある。
−−ハロゲン化ブチルゴム−−
前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、特開2006−514141号公報に記載のハロゲン化イソブチレンエラストマー等が挙げられる。当該ハロゲン化イソブチレンエラストマーは、例えば、欧州特許出願第0344021号に記載のように、イソブチレン及びp−アルキルスチレンの共重合体を含み、実質的に均質の組成分布を有する。p−アルキルスチレン部分の好ましいアルキル基は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5の1級ハロアルキル基、2級ハロアルキル基及びこれらの混合物である。好ましい共重合体はイソブチレン及びp−メチルスチレンを含む。
前記ハロゲン化イソブチレンエラストマーとしては、数平均分子量Mnが少なくとも約25,000、好ましくは少なくとも約50,000、好ましくは少なくとも約100,000、好ましくは少なくとも約150,000の共重合体(例えば臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体)が挙げられる。これらの共重合体は、また、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比、即ちMw/Mnが約6より小さく、好ましくは約4より小さく、更に好ましくは約2.5より小さく、最も好ましくは約2.0より小さくすることができる。別の態様において、適当なハロゲン化イソブチレンエラストマー成分は125℃におけるムーニー粘度(1+4)(ASTMD1646−99に準拠して測定)が25以上、好ましくは30以上、更に好ましくは40以上の共重合体(例えば臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体)が挙げられる。
前記臭素化イソブチレン及びp−メチルスチレンの共重合体としてはp−メチルスチレン5〜12質量%、臭素化p−メチルスチレン0.3〜1.8モル%及び125℃でのムーニー粘度(1+4)30〜65(ASTMD1646−99に準拠して測定)を有する共重合体が挙げられる。
前記ハロゲン化イソブチレンエラストマーは、イソブチレンとコモノマーとの合計量に対し、約0.5〜25質量%、好ましくは約2〜20質量%のp−アルキルスチレン、好ましくはp−メチルスチレンから、そしてハロゲン化することにより製造することができる。ハロゲン(例えばBr及び/又はCl、好ましくはBr)の含量は、共重合体合計量に対し約10質量%より少ないのが好ましく、約0.1〜7質量%であるのが更に好ましい。
前記共重合は、例えば1989年11月29日に公開された欧州特許出願公開第34402号(EP34402A)に記載のような公知の方法で実施することができ、前記ハロゲン化は、例えば米国特許第4548995号に記載のような公知の方法で実施することができる。
特に前記ブチル系ゴムとしてハロゲン化イソブチレンエラストマーを用いる場合、例えば、以下のような熱可塑性樹脂(熱可塑性ポリアミド樹脂)と動的架橋させることで好ましい前記樹脂組成物を調製することができる。このような、前記熱可塑性樹脂の例としては、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ナイロン6IP)、そして11−アミノ−ウンデカン酸の縮合生成物(ナイロン11)である。ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン610、ナイロン46、ナイロンMXD6、ナイロン69及びナイロン612などが挙げられる。また、これらの共重合体、や任意のブレンドなども使用することができる。満足できるポリアミドの追加の例(特に軟化点が275℃より低いもの)は、Kirk−Othmer,EncyclopediaofPolymerScienceandTechnology、10巻、392〜414頁及びEncyclopediaofPolymerScienceandTechnology、10巻、392〜414頁に記載されている。本発明においては、市販の熱可塑性ポリアミドを適宜用いることができ、軟化点又は溶融点が160〜230℃の線状結晶ポリアミドが特に好ましい。
前記ハロゲン化イソブチレンエラストマーと熱可塑性ポリアミド樹脂との配合量は、それぞれ、ハロゲン化イソブチレンエラストマー/ポリアミド(両者の合計量は100質量部)で、95〜25質量部/5〜75質量部が好ましく、90〜25質量部/10〜75質量部であること好ましい。
また、前記他のモノマーとブチルゴムとの共重合体としては、例えば、特許第3236257号公報に記載されているイソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物を用いることもできる。本発明においては、前記イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物と、例えば、融点160〜230℃のナイロン樹脂とを組み合わせ、動的架橋させることが好ましい。
前記融点160〜230℃のナイロン樹脂としては、例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66共重合体、ナイロン610及びナイロン612等が挙げられる。前記ナイロン樹脂の融点が、160℃未満であると、動的架橋時になど樹脂組成物が融解したり取り扱い性に劣る場合がある。また、前記融点が230℃を超えると、前記樹脂組成物のヤング率が大きくなりすぎてしまう。
また、前記イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物は、他のゴム成分を併用することもできる。前記他のゴム成分としては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物(例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム(高シスブタジエンゴム及び低シスブタジエンゴム)、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化スチレンブタジエンゴム)、オレフィン系ゴム(例えば、エチレンプロピレンゴム、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム、アイオノマー)、含ハロゲンゴム(例えば、Br−ブチルゴム、Cl−ブチルゴム、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物、クロロプレンゴム、ヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン)、シリコーンゴム(例えば、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えば、ポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)等を挙げることができる。
また、前記その他のゴム成分には、好ましくは、エチレン性不飽和ニトリル−共役ジエン系高飽和共重合体ゴム、エポキシ化天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ヒドリンゴム、アクリルゴム等を挙げられることができる。これらを用いると、相溶性が大きく異なるナイロンとイソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物との相溶性を向上させることができる。前記他のゴムを併用する場合、エラストマー成分の総量に対してイソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物を30質量%以上を配合することが熱可塑性エラストマー組成物の耐空気透過性、耐熱性向上の観点から好ましい。
前記イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物と特定のナイロン樹脂を動的架橋して樹脂組成物を調製する場合、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物を含むエラストマー成分は、ナイロン/エラストマー成分が30/70〜70/30の範囲の質量比で配合することができ、35/65〜50/50の範囲が好ましい。
前記イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物と特定のナイロン樹脂との好ましい組み合わせとしては、前記ナイロン樹脂成分として、ナイロン11又はナイロン12とナイロン6/66共重合体を用い、前記イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物との組成比(質量比)が10/90〜90/10、好ましくは、30/70〜85/15として動的架橋させた樹脂組成物が挙げられる。このような樹脂組成物を用いたタイヤ骨格体は、耐久性にも優れ、かつ耐空気透過性にも優れ、そしてこれらの諸特性をバランスよく有する熱可塑性エラストマーが得られるという点で、特に好ましいものである。また、前記樹脂組成物中のナイロン11又はナイロン12とナイロン6/66共重合体とのブレンド物の分子量分布(Mw/Mn)が、二軸混練後の樹脂抽出測定による分子量分布でMw/Mn<10.0、好ましくはMw/Mn<5.0、さらに好ましくはMw/Mn<3.0となるような樹脂組成物は、前記諸特性に加えて、更に疲労耐久性に優れる。樹脂組成物中の樹脂成分(ナイロン11又はナイロン12とナイロン6/66共重合体とのブレンド物)には、2軸混練時の高温高剪断の条件とエラストマー成分の架橋剤に用いられる成分(例えば、アミン系加硫促進剤、金属酸化物とハロゲン化物によって生成するハロゲン化金属等)によって分子切断が生じる。分子切断が生じると、樹脂成分の分子量分布は大きくなる傾向がある。
−他の添加物−
また、熱可塑性樹脂として、ポリアミド系熱可塑性樹脂を用いた場合、ポリアミド系熱可塑性樹脂と親和性のあるポリマーを併用することもできる。ポリアミド系熱可塑性樹脂と親和性のあるポリマーとしては、ポリアミド樹脂と反応性を有する官能基を有する変性用ポリマーや、他の熱可塑性樹脂を使用することもできる。
前記ポリアミド樹脂と反応性を有する官能基を有する変性用ポリマーとしては、例えば、特表2010−516835号公報に記載の変性用ポリマーを挙げることができる。
例えば、前記熱可塑性樹脂として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6・66、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6・66・610、ナイロンMXD6等のポリアミド系熱可塑性樹脂用いた場合、これらポリアミド系熱可塑性樹脂と反応性を有する官能基としては、例えば酸無水物基、エポキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びその他の官能基を挙げることができ、酸無水物基、例えばマレイン酸無水物基が好ましい。前記変性用ポリマーとしては、前記反応性を有する官能基を有するポリマーを用いることができる。
例えば、前記無水物基を有する変性用ポリマーとしては、オレフィンのホモポリマー又はコポリマーを挙げることができる。エチレンと、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテンから選択された少なくとも1種のα−オレフィンとのコポリマーは、破断時伸び及び破断時強度の観点から特に好ましい。
前記ポリアミド系熱可塑性樹脂を用いた場合、前記変性用ポリマーとしては、破断時引張応力がポリアミド樹脂の30〜70%、破断時引張伸びが100〜500%(共に、JIS K6251に従って−20℃で測定したもの)を有するものを用いることが好ましい。
また、前記樹脂材料には、熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとの相溶化剤を用いることもできる。前記相溶化剤は、層間の表面エネルギーを近づける作用を有するものでもよいし、反応性の官能基を有するものでも良い。前記反応性基とは、カルボニル基、ハロゲン基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等が好適に用いられる。主な相溶化剤としては、マレイン酸変性ポリオレフィン、ポリオレフィンにアクリル酸又はグリシジルメタクリレートをグラフト重合させたポリマー、ポリオレフィンとナイロンとのブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体のマレイン酸変性体等が挙げられる。
前記樹脂材料には、所望に応じて、ゴム、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ)、老化防止剤、オイル、可塑剤、着色剤、耐候剤、補強材等の各種添加剤を含有させてもよい。前記添加剤の樹脂材料(タイヤ骨格体)中の含有量は特に限定はなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜用いることができる。前記樹脂材料に添加剤など樹脂以外の成分を加える場合、前記樹脂材料中の樹脂成分の含有量は、樹脂材料の総量に対して、50質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましい。尚、樹脂材料中の樹脂成分の含有量は、前記樹脂成分の総量から各種添加剤の総含有量を差し引いた残部となる。
前記老化防止剤としては、例えば、国際公開WO2005/063482号公報に記載の老化防止剤が挙げられる。具体的には、例えばフェニル−2−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン等のナフチルアミン系、4,4’−α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p−(P−トルエン・スルフォニルアミド)−ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系などのアミン系老化防止剤や、これらの誘導体もしくは混合物などが挙げられる。
更に、トリフォスファイト老化防止剤、ヒンダードフェノール老化防止剤単独又は他の老化防止剤と組合せた老化防止剤を、好ましくは5phr(即ちゴム100質量部当りの質量部)以下、更に好ましくは4phr以下、更にもっと好ましくは3phr以下、更に一層好ましくは2phr下、最も好ましくは1phr以下用いることができる。前記トリフォスファイト老化防止剤の典型例はトリス(ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス−ノニルフェニルホスファイトであり、ヒンダードフェノール老化防止剤の典型例は、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−o−クレゾールが挙げられる。
(動的架橋)
上述のように、前記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとを動的架橋することによって調製される。
また、前記樹脂組成物中における熱可塑性樹脂とブチル系ゴム(エラストマー成分)との配合比は、前記ブチル系ゴムの総量100質量部に対し、熱可塑性樹脂の含有量が40〜500質量部であることが好ましく、50〜450質量部であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとの配合比が前記の範囲にあると、熱可塑性樹脂の海相(連続相又はマトリックス相ともいう)に対して、ブチル系ゴムが島相(非連続相、分散層又はドメインともいう)となる所謂海島構造を形成しやすい。
ブチル系ゴムを含む島相が熱可塑性樹脂を含む海相中に微分散していることは、SEM(走査型電子顕微鏡、scanning electron microscope)を用いた写真観察から確認することができる。また、ブチル系ゴムを含む島相のサイズ(島相の長径)は、0.4μm〜10.0μm程度であることが好ましく、0.5μm〜7μm程度であることが更に好ましく、0.5μm〜5μm程度であることが特に好ましい。これら各相のサイズは、SEMを用いた観察写真を用いて測定することができる。
動的架橋工程においては、まず、ブチル系ゴム(エラストマー成分)と所定の架橋剤を予め一般のニーダー、バンバリーミキサー等を用いて、均一混合状態が得られるまで混練される。この際、前記エラストマー成分には、カーボン、オイル、その他炭酸カルシウム等の充填剤を適当量添加してもよい。また、混練際、材料温度が高すぎると混練機中でゴム成分が架橋反応を起こしてしまうため、温度は、120℃以下の低温に抑えて混練することが好ましい。
次いで、前記から得られた架橋剤含有エラストマー成分と熱可塑性樹脂(樹脂成分)とを2軸混練機等に投入し、溶融混練を行ないながら、ゴム成分を動的架橋させて、連続相(マトリックス相)を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散相(ドメイン)として分散させる。また、熱可塑性樹脂やブチル系ゴムに対する添加剤(後述する加硫剤は除く)は、前記混練中に添加してもよく、予め混練前に混合しておくこともできる。
前記混練に用いられる混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、2軸混練押出機等が使用できる。なかでも熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとの混練及びその動的架橋には、2軸混練押出機を使用するのが好ましい。更に、複数の混練機を使用し、順次混練してもよい。前記溶融混練の条件として、温度は所定のナイロン樹脂が溶融する温度以上であればよい。また、混練時の剪断速度は500〜7500sec−1であるのが好ましい。混練全体の時間は、30秒間〜10分間程度が好ましい。
前記から得られた樹脂組成物は、連続相を形成する熱可塑性樹脂のマトリックス中に不連続相を形成するブチル系ゴム(エラストマー成分)が分散相(ドメイン)として分散した所謂海島構造を有している。このような分散構造をとることによって、樹脂組成物の耐熱性や高温永久歪性を向上させることができる。尚、動的に加硫する場合の加硫剤(架橋剤)、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、添加するブチル系ゴムの組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
次に、動的架橋に用いられる架橋剤(加硫剤)としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。具体的には、イオウ系加硫剤としては粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等を例示でき、例えば、0.5〜4phr(エラストマー成分100質量部当りの質量部)程度用いることができる。また、有機過酸化物系の加硫剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ビクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が例示され、例えば、1〜20phr程度用いることができる。更に、フェノール樹脂系の加硫剤としては、アルキルフェノール樹脂の臭素化物や、塩化スズ、クロロプレン等のハロゲンドナーとアルキルフェノール樹脂とを含有する混合架橋系等が例示でき、例えば、1〜20phr程度用いることができる。その他として、亜鉛華(5phr程度)、酸化マグネシウム(4phr程度)、リサージ(10〜20phr程度)、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロソベンゼン(2〜10phr程度)、メチレンジアニリン(0.2〜10phr程度)が例示できる。また、前記加硫剤には、必要に応じて加硫促進剤を添加してもよい。加硫促進剤としては、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオ酸塩系、チオウレア系等の一般的な加硫促進剤を、例えば0.5〜2phr程度用いることができる。
(樹脂材料の物性)
次に、タイヤ骨格体を構成する樹脂材料の好ましい物性について説明する。本発明におけるタイヤ骨格体は、上述の樹脂材料を用いるものである。
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体の融点(又は軟化点)としては、通常100℃〜350℃、好ましくは100℃〜250℃程度であるが、タイヤの生産性の観点から120℃℃〜250℃程度が好ましく、120℃〜200℃が更に好ましい。
このように、融点が120℃〜250℃の樹脂材料を用いることで、例えばタイヤの骨格体を、その分割体(骨格片)を融着して形成する場合に、120℃〜250℃の周辺温度範囲で融着された骨格体であってもタイヤ骨格片同士の接着強度が十分である。このため、本発明のタイヤは耐パンク性や耐摩耗性など走行時における耐久性に優れる。尚、前記加熱温度は、タイヤ骨格片を形成する樹脂材料の融点(又は軟化点)よりも10℃〜150℃高い温度が好ましく、10℃〜100℃高い温度が更に好ましい。
前記樹脂材料は、必要に応じて各種添加剤を添加して、公知の方法(例えば、溶融混合)で適宜混合することにより得ることができる。
溶融混合して得られた樹脂材料は、必要に応じてペレット状にして用いることができる。
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張降伏強さは、5MPa以上が好ましく、5MPa〜20MPaが好ましく、5MPa〜17MPaがさらに好ましい。樹脂材料の引張降伏強さが、5MPa以上であると、走行時などにタイヤにかかる荷重に対する変形に耐えることができる。
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張降伏伸びは、10%以上が好ましく、10%〜70%が好ましく、15%〜60%がさらに好ましい。樹脂材料の引張降伏伸びが、10%以上であると、弾性領域が大きく、リム組み性をよくすることができる。
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張破断伸びとしては、50%以上が好ましく、100%以上が好ましく、150%以上がさらに好ましく、200%以上が特に好ましい。樹脂材料の引張破断伸びが、50%以上であると、リム組み性がよく、衝突に対して破壊しにくくすることができる。
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)としては、50℃以上が好ましく、50℃〜150℃が好ましく、50℃〜130℃がさらに好ましい。樹脂材料の荷重たわみ温度が、50℃以上であると、タイヤの製造において加硫を行う場合であってもタイヤ骨格体の変形を抑制することができる。
[第1の実施形態]
以下に、図面に従って本発明のタイヤの第1の実施形態に係るタイヤを説明する。
本実施形態のタイヤ10について説明する。図1(A)は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。図1(B)は、リムに装着したビード部の断面図である。図1に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
図1(A)に示すように、タイヤ10は、図1(B)に示すリム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する1対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14と、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)と、からなるタイヤケース17を備えている。
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、樹脂材料として、例えば、ナイロン6と臭素化ブチルゴムとを2:1の割合で含有し前記ブチル系ゴムが動的架橋された樹脂組成物に各添加剤を含めたものを用いることができる。
本実施形態においてタイヤケース17は、単一の樹脂材料で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(サイド部14、クラウン部16、ビード部12など)に異なる特徴を有する熱可塑性樹脂材料を用いてもよい。また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
本実施形態のタイヤケース17は、樹脂材料で形成された一対のタイヤケース半体(タイヤ骨格片)17A同士を接合させたものである。タイヤケース半体17Aは、一つのビード部12と一つのサイド部14と半幅のクラウン部16とを一体として射出成形等で成形された同一形状の円環状のタイヤケース半体17Aを互いに向かい合わせてタイヤ赤道面部分で接合することで形成されている。なお、タイヤケース17は、2つの部材を接合して形成するものに限らず、3以上の部材を接合して形成してもよい。
前記樹脂材料で形成されるタイヤケース半体17Aは、例えば、真空成形、圧空成形、インジェクション成形、メルトキャスティング等で成形することができる。このため、従来のようにゴムでタイヤケースを成形する場合に比較して、加硫を行う必要がなく、製造工程を大幅に簡略化でき、成形時間を省略することができる。
また、本実施形態では、タイヤケース半体17Aは左右対称形状、即ち、一方のタイヤケース半体17Aと他方のタイヤケース半体17Aとが同一形状とされているので、タイヤケース半体17Aを成形する金型が1種類で済むメリットもある。
本実施形態において、図1(B)に示すようにビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様の、スチールコードからなる円環状のビードコア18が埋設されている。しかし、本発明はこの構成に限定されず、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題なければ、ビードコア18を省略することもできる。なお、スチールコード以外に、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、又は硬質樹脂などで形成されていてもよい。
本実施形態では、ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分に、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料、例えば、ゴムからなる円環状のシール層24が形成されている。このシール層24はタイヤケース17(ビード部12)とビードシート21とが接触する部分にも形成されていてもよい。タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料としては、タイヤケース17を構成する樹脂材料に比して軟質な材料を用いることができる。シール層24に用いることのできるゴムとしては、従来一般のゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料のみでリム20との間のシール性が確保できれば、ゴムのシール層24は省略してもよく、前記樹脂材料よりもシール性に優れる他の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)を用いてもよい。このような他の熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系熱可塑性樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂やこれら樹脂とゴム若しくはエラストマーとのブレンド物等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーを用いることもでき、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、或いは、これらエラストマー同士の組み合わせや、ゴムとのブレンド物等が挙げられる。
図1に示すように、クラウン部16には、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26がタイヤケース17の周方向に巻回されている。補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、補強コード層28を形成している。補強コード層28のタイヤ径方向外周側には、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるクラウン30が配置されている。
図2を用いて補強コード26によって形成される補強コード層28について説明する。図2は、第1実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。図2に示されるように、補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、タイヤケース17の外周部の一部と共に図2において破線部で示される補強コード層28を形成している。補強コード26のクラウン部16に埋設された部分は、クラウン部16(タイヤケース17)を構成する樹脂材料と密着した状態となっている。補強コード26としては、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又は、スチール繊維を撚ったスチールコードなどこれら繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態において補強コード26としては、スチールコードが用いられている。
また、図2において埋設量Lは、タイヤケース17(クラウン部16)に対する補強コード26のタイヤ回転軸方向への埋設量を示す。補強コード26のクラウン部16に対する埋設量Lは、補強コード26の直径Dの1/5以上であれば好ましく、1/2を超えることがさらに好ましい。そして、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されることが最も好ましい。補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/2を超えると、補強コード26の寸法上、埋設部から飛び出し難くなる。また、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されると、表面(外周面)がフラットになり、補強コード26が埋設されたクラウン部16上に部材が載置されても補強コード周辺部に空気が入るのを抑制することができる。なお、補強コード層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。
上述のように補強コード層28のタイヤ径方向外周側にはクラウン30が配置されている。このクラウン30に用いるゴムは、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、クラウン30の代わりに、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したクラウンを用いてもよい。また、クラウン30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるクラウンパターンが形成されている。
以下、本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
(タイヤケース成形工程)
まず、上述のようにナイロン6と臭素化ブチルゴムと動的架橋させた樹脂組成物を含む樹脂材料を用いて、タイヤケース半体を形成する。これらタイヤケースの形成は、射出成形で行うことが好ましい。次に、薄い金属の支持リングに支持されたタイヤケース半体同士を互いに向かい合わせる。次いで、タイヤケース半体の突き当て部分の外周面と接するように図を省略する接合金型を設置する。ここで、前記接合金型はタイヤケース半体17Aの接合部(突き当て部分)周辺を所定の圧力で押圧するように構成されている。次いで、タイヤケース半体の接合部周辺を、タイヤケースを構成する樹脂材料の融点(又は軟化点)以上で押圧する。タイヤケース半体の接合部が接合金型によって加熱・加圧されると、前記接合部が溶融しタイヤケース半体同士が融着しこれら部材が一体となってタイヤケース17が形成される。尚、本実施形態においては接合金型を用いてタイヤケース半体の接合部を加熱したが、本発明はこれに限定されず、例えば、別に設けた高周波加熱機等によって前記接合部を加熱したり、予め熱風、赤外線の照射等によって軟化又は溶融させ、接合金型によって加圧して。タイヤケース半体を接合させてもよい。
(補強コード部材巻回工程)
次に、補強コード巻回工程について図3を用いて説明する。図3は、コード加熱装置、及びローラ類を用いてタイヤケースのクラウン部に補強コードを埋設する動作を説明するための説明図である。図3において、コード供給装置56は、補強コード26を巻き付けたリール58と、リール58のコード搬送方向下流側に配置されたコード加熱装置59と、補強コード26の搬送方向下流側に配置された第1のローラ60と、第1のローラ60をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第1のシリンダ装置62と、第1のローラ60の補強コード26の搬送方向下流側に配置される第2のローラ64と、及び第2のローラ64をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第2のシリンダ装置66と、を備えている。第2のローラ64は、金属製の冷却用ローラとして利用することができる。また、本実施形態において、第1のローラ60又は第2のローラ64の表面は、溶融又は軟化した樹脂材料の付着を抑制するためにフッ素樹脂(本実施形態では、テフロン(登録商標))でコーティングされている。なお、本実施形態では、コード供給装置56は、第1のローラ60又は第2のローラ64の2つのローラを有する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、何れか一方のローラのみ(即ち、ローラ1個)を有している構成でもよい。
また、コード加熱装置59は、熱風を生じさせるヒーター70及びファン72を備えている。また、コード加熱装置59は、内部に熱風が供給される、内部空間を補強コード26が通過する加熱ボックス74と、加熱された補強コード26を排出する排出口76とを備えている。
本工程においては、まず、コード加熱装置59のヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。次に、リール58から巻き出した補強コード26を、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、補強コード26の温度を100〜200℃程度に加熱)する。加熱された補強コード26は、排出口76を通り、図3の矢印R方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻きつけられる。ここで、加熱された補強コード26がクラウン部16の外周面に接触すると、接触部分の樹脂材料が溶融又は軟化し、加熱された補強コード26の少なくとも一部がクラウン部16の外周面に埋設される。このとき、溶融又は軟化した樹脂材料に加熱された補強コード26が埋設されるため、樹脂材料と補強コード26とが隙間がない状態、つまり密着した状態となる。これにより、補強コード26を埋設した部分へのエア入りが抑制される。なお、補強コード26をタイヤケース17の樹脂材料の融点(又は軟化点)よりも高温に加熱することで、補強コード26が接触した部分の樹脂材料の溶融又は軟化が促進される。このようにすることで、クラウン部16の外周面に補強コード26を埋設しやすくなると共に、効果的にエア入りを抑制することができる。
また、補強コード26の埋設量Lは、補強コード26の加熱温度、補強コード26に作用させるテンション、及び第1のローラ60による押圧力等によって調整することができる。そして、本実施形態では、補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/5以上となるように設定されている。なお、補強コード26の埋設量Lとしては、直径Dの1/2を超えることがさらに好ましく、補強コード26全体が埋設されることが最も好ましい。
このようにして、加熱した補強コード26をクラウン部16の外周面に埋設しながら巻き付けることで、タイヤケース17のクラウン部16の外周側に補強コード層28が形成される。
次に、タイヤケース17の外周面に加硫済みの帯状のクラウン30を1周分巻き付けてタイヤケース17の外周面にクラウン30を、接着剤などを用いて接着する。なお、クラウン30は、例えば、従来知られている更生タイヤに用いられるプレキュアクラウンを用いることができる。本工程は、更生タイヤの台タイヤの外周面にプレキュアクラウンを接着する工程と同様の工程である。
そして、タイヤケース17のビード部12に、加硫済みのゴムからなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
(作用)
本実施形態のタイヤ10では、タイヤケース17が、熱可塑性樹脂とブチル系ゴムとが動的架橋された樹脂組成物を含む樹脂材料によって形成されているため、耐熱性及び高温永久歪性に優れる。また、タイヤ10は従来のゴム製のタイヤに比して構造が簡易であるため重量が軽い。このため、本実施形態のタイヤ10は、耐摩擦性及び耐久性が高い。更に、タイヤケース17を射出成形できることから生産性にも非常に優れる。
また、本実施形態のタイヤ10では、樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に前記樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26が周方向へ螺旋状に巻回されていることから耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ10の周方向剛性が向上する。なお、タイヤ10の周方向剛性が向上することで、樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクリープが防止される。
また、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視(図1に示される断面)で、樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に補強コード26の少なくとも一部が埋設され且つ樹脂材料に密着していることから、製造時のエア入りが抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのが抑制される。これにより、補強コード26、タイヤケース17、及びクラウン30に剥離などが生じるのが抑制され、タイヤ10の耐久性が向上する。
このように補強コード層28が、樹脂材料を含んで構成されていると、補強コード26をクッションゴムで固定する場合と比してタイヤケース17と補強コード層28との硬さの差を小さくできるため、更に補強コード26をタイヤケース17に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。
更に、補強コード26がスチールコードの場合に、タイヤ処分時に補強コード26を加熱によって樹脂材料から容易に分離・回収が可能であるため、タイヤ10のリサイクル性の点で有利である。また、樹脂材料は加硫ゴムに比して損失係数(tanδ)が低いため、補強コード層28が樹脂材料を多く含んでいると、タイヤの転がり性を向上させることができる。更には、樹脂材料は加硫ゴムに比して、面内せん断剛性が大きく、タイヤ走行時の操安性や耐摩耗性にも優れるといった利点がある。
そして、図2に示すように、補強コード26の埋設量Lが直径Dの1/5以上となっていることから、製造時のエア入りが効果的に抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのがさらに抑制される。
また、路面と接触するクラウン30を、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性のあるゴム材で構成していることから、タイヤ10の耐摩耗性が向上する。
さらに、ビード部12には、金属材料からなる環状のビードコア18が埋設されていることから、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、リム20に対してタイヤケース17、すなわちタイヤ10が強固に保持される。
またさらに、ビード部12のリム20と接触する部分に、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性のあるゴム材からなるシール層24が設けられていることから、タイヤ10とリム20との間のシール性が向上する。このため、リム20とタイヤケース17を構成する樹脂材料のみとでシールする場合と比較して、タイヤ内の空気漏れがより一層抑制される。また、シール層24を設けることでリムフィット性も向上する。
上述の実施形態では、補強コード26を加熱し、加熱した補強コード26が接触する部分のタイヤケース17の表面を溶融又は軟化させる構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を加熱せずに熱風生成装置を用い、補強コード26が埋設されるクラウン部16の外周面を加熱した後、補強コード26をクラウン部16に埋設するようにしてもよい。
また、第1実施形態では、コード加熱装置59の熱源をヒーター及びファンとしているが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を輻射熱(例えば、赤外線など)で直接加熱する構成としてもよい。
さらに、第1実施形態では、補強コード26を埋設した樹脂材料が溶融又は軟化した部分を金属製の第2のローラ64で強制的に冷却する構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、樹脂材料が溶融又は軟化した部分に冷風を直接吹きかけて、樹脂材料の溶融又は軟化した部分を強制的に冷却固化する構成としてもよい。
また、第1実施形態では、補強コード26を加熱する構成としたが、例えば、補強コード26の外周をタイヤケース17と同じ樹脂材料で被覆する構成としてもよく、この場合には、被覆補強コードをタイヤケース17のクラウン部16に巻き付ける際に、補強コード26と共に被覆した樹脂材料も加熱することで、クラウン部16への埋設時におけるエア入りを効果的に抑制することができる。
また、補強コード26は螺旋巻きするのが製造上は容易だが、幅方向で補強コード26を不連続とする方法等も考えられる。
第1実施形態のタイヤ10は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ10とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、完全なチューブ形状であってもよい。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1〜12]
下記表1及び2に記載のエラストマー成分と架橋成分とをバンバリーミキサーに投入し、約2分間混練し、120℃で放出して架橋成分入りエラストマー成分を調製した。調製した架橋成分入りエラストマー成分は、ゴム用ペレタイザーでペレット化した。
その後、前記ペレット化したエラストマー成分と表1及び2に記載の樹脂成分とを所定の配合にてドライブレンドし、2軸混練機に投入し、動的架橋して熱可塑性エラストマー組成物を調製した。動的架橋時の混練条件は、樹脂の溶融温度よりも高い温度とし、温度270℃、剪断速度1000s−1で行なった。
次いで、2軸混練によって作製された熱可塑性エラストマー組成物を水冷し、その後、ペレット化した。更に、当該ペレットを用い、射出成形によって各試験片を作製し、以下の圧縮永久歪及び荷重撓み温度を測定した。
尚、実施例及び比較例を通じて射出成形によって試験片を作製できたものを「○」、射出成形によって試料片を作製できなかったものを「×」として射出成形性を評価した。
[比較例1]
バンバリーミキサーを用いて、表2に記載のエラストマー成分を3分間混練した。この際の混練温度(第1段階温度)は120℃であった。次いで、下記表2に記載の架橋成分を投入し、80℃で1分間混合し、その後、プレス加硫を160℃、15分間行い比較例1におけるゴム材料を作製した。得られた材料は通常の配合ゴムであり、射出成形性は発揮できなかった。
[比較例2]
比較例1と同条件で、混練・加硫を行った後、得られた加硫ゴムを粉砕機にて粉砕し、平均粒径250μmの粉状加硫ゴムを得た。その後、前記ゴムと表2に記載の樹脂成分とを所定の配合でドライブレンドし、2軸混練機に投入し、熱可塑性エラストマー組成物を調製した。次いで、作製された熱可塑性エラストマー組成物を水冷し、ペレット化した。比較例2の熱可塑性エラストマー組成物は、樹脂成分と、ブチル系ゴムとを用いているものの、溶融粘度が高く、射出成形ができなかった。このため、プレス成型にて試料片を作製した。
[比較例3]
下記表2に記載の樹脂成分を2軸混練機に投入し、熱可塑性樹脂組成物を調製した。当該混練条件は、樹脂の溶融温度よりも高い温度とし、温度270℃、剪断速度1000s−1で行なった。
次いで、2軸混練によって作製された熱可塑性エラストマー組成物を水冷し、その後、ペレット化した。更に、当該ペレットを用い、射出成形によって各試験片を作製し、以下の圧縮永久歪及び荷重撓み温度を測定した。
(圧縮永久歪)
JIS K6262−2006に準拠し、直径13mm、厚さ6mmの試験片を用いて、25%圧縮で100℃にて22時間圧縮し、圧縮永久歪を測定した。この際、比較例2の値を100とした場合における各実施例の値を下記表1に示す。尚、当該数値の値が大きい程、高温時における圧縮永久歪性に優れている。
(荷重撓み温度(耐熱性の評価))
ASTM D648に準拠し、127mm×10mm、厚さ4mmの試験片を用いて、0.45MPaの荷重下における荷重撓み温度をHDT/VSPT試験装置を用いて測定した。この際、比較例2の値を100とした場合における各実施例の値を下記表1に示す。尚、当該数値の値が大きい程、耐熱性に優れている。
前記表中の略称は以下を意味する。尚、前記表において、各成分を示す数値は“質量部”を意味する。
・IIR:ブチルゴム、JSR(株)製(製品名:BUTYL268)
・Br−IIR:臭素化ブチルゴム、JSR(株)製(製品名:BROMOBUTYL2255)
・NR:天然ゴム
・BR:ブタジエンゴム、JSR(株)製(製品名:BR01)
・C/B:カーボンブラック、旭カーボン(株)製(製品名:#80)
・老化防止剤6PPD:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(ノクラック6C、大内新興化学工業(株)製)
・老化防止剤A:BASFジャパン(株)製(製品名:イルガノックス(Irganox)1098)
・老化防止剤B:BASFジャパン(株)製(製品名:Tinuvin622LD)
・老化防止剤:CCuI2
・ZnSt:ステアリン酸亜鉛
・ZnO:酸化亜鉛
・加硫促進剤D−G:N,N’−ジフェニルグアニジン(「サンセラーD−G」三新化学工業(株)製)
・加硫促進剤NS−P:N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(「ノクセラーNS−P」大内新興化学工業(株)製)
・ナイロン6:宇部興産(株)製(製品名:1022B)
・ナイロン6/66:宇部興産(株)製(製品名:2020B)
・ナイロン11:アルケマ社(製品名:Rilsan(登録商標) BMN)
・ナイロン12:宇部興産(株)製(製品名:3020U)
・ポリエステル:ウィンテックポリマー(株)製(製品名:ジュラネックス2002)
・ポリスチレン/ポリエチレン複合体:(ポリスチレン)PSジャパン(株)製(製品名:PSJ−ポリスチレン PS680)/(ポリエチレン)東ソー(株)製(製品名:ニポロンL M60)、質量比50/50
・BM−4:大八化学(株)製、n−ブチルベンゼンスルホンアミド
表1及び2からわかるように、動的架橋を施した実施例の樹脂組成物は、動的架橋を施さなかった比較例2及びエラストマー成分を含まない比較例3に比して、高温時における圧縮永久歪及び耐熱性に優れていることがわかる。また、実施例、並びに、比較例3においては、全て射出成形性が良好であった。しかし、比較例2は樹脂成分を用いているものの、溶融粘度が高く、射出成形性に劣っていた。同様に、比較例1はゴム成分のみを用いており、射出成形ができなかった。