たばこフィルター用の繊維トウは、内部に濾過部と口金部とを備えたノズルパックを利用して製造されている。すなわち、酢酸セルロース(アセテート)フレークを溶媒(アセトンなど)に溶解したドープを、ノズルパック内の濾過部で濾過し、口金部から吐出させ、溶媒を蒸発させて紡糸する乾式紡糸方法により前記繊維トウが製造されている。
なお、ノズルパックの上部には、パイプを通じて濾過処理されたドープを送液するための筒状部が形成され、この筒状部には、ノズルパックと接続するためのジョイント部が形成されている。
一方、たばこフィルター用の繊維トウは、例えば、微細な単繊維(例えば、1〜5デニール程度の単繊維)をトータルデニール3万〜4万デニール程度の繊維束(すなわち、数千乃至数万の繊維本数の繊維束)とすることにより形成されている。従って、複数の紡糸筒から紡糸された繊維束(バンド)を合一させて製造する方法、一つの紡糸筒における吐出孔の数を増大させ、口金の口径を大きくする方法が採用されている。このように、吐出孔が穿孔されている口金を含むノズルパックは大型化しており、この大型化したノズルパックを筒状部のジョイント部に確実に固定する必要がある。一方、吐出孔は非常に微細な孔であるため、ノズルパック内部の濾過部を通り抜けた異物などにより吐出孔が閉塞することもある。そのため、ノズルパック及び/又は口金を必要に応じて簡便に交換できることが要求される。
特公昭48−33412号公報(特許文献1)には、パック本体(ノズルキャップ又は上部ホルダー)内で耐圧板により支持された濾過部と、この耐圧板に対して押さえ板(下部ホルダー)により下方から支持された口金板と、前記パック本体と押さえ板とを締結するための締結ボルトとを備えた溶融紡糸口金パックが開示されている。この文献には、口金板と押さえ板との間に板状のパッキンを配設し、パック本体(ノズルキャップ又は上部ホルダー)と押さえ板(下部ホルダー)との間(ホルダー同士が垂直方向に接する接触面)に締結ボルトにより弾性変形しやすいOリングを配設することが記載されている。
特開昭55−163204号公報(特許文献2)には、パック本体の中間部にパック本体と一体に耐圧板又は集配板を設けて上部の逆円錐状濾過室と下部の円錐状口金室とを形成し、口金室に、ガスケット(デッドスペースの減少に効果的なリム付き金属フィルター)を介してパック本体の下部に押さえ板により口金板を脱着可能に挿着し、この口金板に対応するバック本体下部に、径の異なる口金板を装着するため、段部による段付き面を形成した溶融紡糸用口金パックが開示されている。この文献でも、パック本体に対して押さえ板をボルトで締結している。
しかし、インパクトレンチなどを用いてパック本体(上部ホルダー)と押さえ板(下部ホルダー)とを締結ボルトで締結すると、金属粉が混入し、吐出孔でのドープ吐出不良による糸切れが生じる。また、締め付けるボルトの本数が多いため、作業負荷が多くなるとともに、片寄って片締めが生じると、ドープ漏れが発生する。
また、ノズルキャップとジョイント部とは、通常、ねじ込み方式で接続されており、ノズルパックの交換において、ネジ部にドープが付着したままノズルパックを取り付けると、ネジ部の損傷やドープ漏れが発生する。そのため、両者の接続に際しては、ネジ部の清掃が必要になり、ノズルパックの交換作業が煩雑化する。
さらに、パック本体(ノズルキャップ)の内面が円錐状の形態で広がっているため、ノズルパック内部でドープが部分的に滞留し、ドープの温度ムラや流量ムラによるフィラメント繊度ムラが生じる。
なお、乾式紡糸用口金パック(ユニット)では、濾過部において、濾布台は放射方向に孔部が形成された蓮型の構造を有しており、このような濾布台には濾布が上下から挟み込む方式で装着されている。具体的には、押さえ板(下部ホルダー)の円形状開口部に、口金の凹状の口金本体部を下方に突出した形態で挿入し、この口金本体部から延びる鍔部を押さえ板(下部ホルダー)の周縁部に係止するとともに、凹状の口金本体部内に濾布台を配置し、濾布の周縁部を上下からそれぞれパッキン(テフロンR製パッキン)で挟持した状態で、濾布を口金の鍔部とパック本体(ノズルキャップ)との間に配設し、押さえ板(下部ホルダー)とパック本体(ノズルキャップ)とをボルトで締結している。この締結構造では、押さえ板(下部ホルダー)とパック本体(ノズルキャップ)との間に、口金の鍔部、パッキン、濾布、パッキンが介在している。しかし、濾布台が蓮型であると、円周方向においてドープ吐出量の差異が発生し、フィラメントの繊度ムラが生じる。また、パック本体(ノズルキャップ)と口金との間では、濾布がテフロンR製パッキンで挟まれているため、パック本体(ノズルキャップ)と押さえ板(下部ホルダー)との接続が片締めになると、ドープ漏れが発生する。
従って、本発明の目的は、糸切れを有効に防止できる紡糸口金パック及びそれを備えた紡糸装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、繊度ムラを有効に防止できる紡糸口金パック及びそれを備えた紡糸装置を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、熟練を要することなく、ドープ漏れを有効に防止できる紡糸口金パック及びそれを備えた紡糸装置を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、ボルトによる締結を利用することなく、簡単な操作で口金パックを組み立てることができるとともに部品を交換できる紡糸口金パック及びそれを備えた紡糸装置を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ホルダー又はノズルキャップに周方向に延びる複数の摺接溝を形成し、これらの摺接溝に対して、周方向への回転に伴って嵌合しつつノズルキャップとホルダーとを締結可能な嵌合部をリング状締結部材に形成すると、リング状締結部材を用いた非ネジ機構によりノズルキャップとホルダーとを締結でき、ノズルキャップの内部空間に金属粉などが混入することがなく、簡単な操作で、ホルダーとノズルキャップとを均等に締結でき、糸切れおよび紡糸液の漏れを防止できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の紡糸口金パックは、紡糸液(ドープなど)の供給パイプに接続可能なジョイント部を備えたノズルキャップと、このノズルキャップの下流部に順次配設可能な前記濾過部(例えば、ドープを濾過するための濾過部)及び前記口金(例えば、濾過されたドープを糸状に吐出するための口金)と、前記濾過部及び口金の周縁部を係止可能なホルダー(例えば、濾過部及び口金の周縁部を係止可能な段部を有するホルダー)と、このホルダーとノズルキャップとを締結可能な締結部材とを備えており、前記締結部材は、前記ホルダー及び前記ノズルキャップの一方の部材に周方向に延びて形成された複数の摺接溝に対して嵌合可能であり、かつ周方向への回転に伴ってノズルキャップとホルダーとを締結可能な嵌合部を有するリング状締結部材で構成されている。
このような締結部材を用いると、ボルトで締結する必要がなく、しかもノズルキャップの外側でホルダーと締結できるため、ノズルキャップの内部空間に金属粉などが混入するおそれもない。また、熟練を要することなく、ホルダーとノズルキャップとを周方向において均等に締結できるため、片締めが生じることもない。そのため、紡糸液の漏れがない。
なお、摺接溝の上下壁面及び/又は延出嵌合部の上下壁面は、リング状締結部材の周方向への回転に伴ってノズルキャップとホルダーとが近づく方向に傾斜した傾斜壁面を形成していてもよい。また、ホルダーの上部内壁に、周方向に延びる複数の摺接溝を周方向に間隔をおいて形成し、締結部材は、リング部と、このリング部の外周部に間隔をおいて側方向に延出して形成され、かつ前記摺接溝に嵌合可能な複数の延出嵌合部とを有していてもよく、延出嵌合部の上壁面及び/又は摺接溝の上壁面は、周方向への回転に伴ってノズルキャップとホルダーとを締結可能(例えば、ノズルキャップをホルダー側に押圧可能、又はホルダーをノズルキャップ側に押圧可能)なテーパー状(傾斜面)に形成してもよい。具体的には、延出嵌合部の上壁面及び/又は摺接溝の上壁面は、以下の形態(a)(b)で傾斜したテーパー面(傾斜面)を形成してもよい。
(a)延出嵌合部の上壁面が、前記摺接溝への入り口側よりも深部側で高いテーパー状に形成されている
(b)摺接溝の上壁面が、入り口側よりも深部側で低いテーパー状に形成されている
なお、前記ノズルキャップは、下流方向にいくにつれて断面放物線状の形態で拡がる内壁を有していてもよい。ノズルキャップの内部空間が、断面放物線状の形態で拡がっていていると、紡糸液を濾過部及び口金に向かって均等に流動させることができ、滞留部(デッドスペース)が生じるのを有効に防止できる。
ノズルキャップは、軸芯(ジョイント部から延びる軸芯)を中心として対称形状の内壁を有し、この内壁が、下流方向にいくにつれて断面放物線状の形態で拡がり、かつ下流域で側部方向に裾野状に拡がっていてもよい。また、裾野状に拡がって、最下流域で湾曲して濾過部に至ってもよい。
なお、濾過部は、多孔部を備えた濾布台と、この濾布台の多孔部を覆う濾布と、濾布台の多孔部を濾布で覆った状態で濾布の周辺部を濾布台の周壁で挟着(又は固定)するためのリング状装着部材とを備えていてもよい。このような濾過部の構造では、リング状装着部材の装着という簡単な操作で、濾布を緊張させて濾布台に装着でき、ノズルキャップとホルダーとを前記リング状締結部材で周方向において均等に締結できるため、片締めを生じることがなく、ドープ漏れが発生することもない。
さらに、紡糸液の供給パイプとジョイント部とは、リテーナで接続可能であってもよい。例えば、紡糸液の供給パイプとジョイント部とに、それぞれ実質的に同じ外径に突出し、かつ互いに突き合わせ可能な周壁を形成し、リテーナは、これらの周壁を突き合わせた状態で周壁の上下壁に嵌着可能な嵌合壁を有していてもよい。このようなリテーナを用いると、差し込み式に供給パイプとジョイント部とを連結できるため、組み立て接続及び交換(又は分解)を効率よく簡便に行うことができる。なお、口金の周縁部と濾過部の周縁部との間、濾過部の周縁部とノズルキャップの下端面との間、及びジョイント部とパイプとの間に、それぞれパッキンが配設される。
このような紡糸口金パックは、溶融紡糸に利用してもよいが、ポリマーと溶媒(特に有機溶媒)とを含むドープを乾式紡糸するために適している。
本発明は、このような紡糸口金パックを備えた紡糸装置も開示する。
なお、本明細書中、「紡糸口金パック」は、口金パック、紡糸ノズルパック、紡糸口金ユニットなどと同義に用いる。また、「紡糸液」は、紡糸過程で液状の紡糸原料を意味し、ポリマーの溶融液であってもよく、ポリマーと溶媒とのドープであってもよい。
本発明では、口金パック(特に、ノズルパック)内への異物の混入を防止できるため、糸切れが低減できる。また、作業者の熟練度合いに起因する片締めなどが生じることがなく、紡糸液(例えば、ドープ)の漏れを防止できる。さらに、口金パックの内部空間で紡糸液(例えば、ドープ)を均一に流動させることができ、全ての吐出孔に亘り均一にドープを吐出できるため、繊度ムラを低減できる。さらには、ボルトによる締結を利用することなく、しかも熟練を要することなくワンタッチ式操作で簡便に口金パックを精度よく組み立てることができ、ノズルパック、口金などの部品を容易に交換でき、部品交換の作業時間を低減できる。
以下に、添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。これらの例では、紡糸液としてドープが使用されている。
図1及び図2に示されるように、紡糸口金パックは、ドープの供給パイプ1に接続可能なジョイント部4を備えたノズルキャップ6と、供給パイプ1とジョイント部4とを連結するためのリテーナ9と、前記ノズルキャップ6の下流部内に順次配設可能な濾過部(濾過ユニット)14及び口金19と、前記口金及び濾過部の周縁部22,16を係止可能な段部を有するホルダー23と、このホルダーと前記ノズルキャップ6とを締結可能な締結部材28とを備えている。
この例では、供給パイプ1の接続端部には、外方向に突出した環状周壁2と、この環状周壁よりも小さな径で端面に至り、ジョイント部4に装着可能な装着壁3とが形成されており、ジョイント部4には、前記装着壁3を受け入れ可能な環状装着周壁5が突出して形成されており、前記供給パイプ1の環状周壁2とジョイント部4の環状装着周壁5とは、それぞれ実質的に同じ外径に形成されている。また、供給パイプ1の環状周壁2及び装着壁3と、ジョイント部4の環状装着周壁5とは、互いに突き合わせ可能であり、これらの周壁を突き合わせた状態で前記供給パイプ1とジョイント部4とはリテーナ9で連結可能である。すなわち、リテーナ9は、前記突出した環状周壁2及び環状装着周壁5と実質的に同じ内径を有する装着凹部10と、この装着凹部の上下部において、環状周壁2及び環状装着周壁5の上下壁に嵌着可能な嵌合壁11とを有している。そして、供給パイプ1の装着壁3とジョイント部4の環状装着周壁5との間にO−リング12を配設し、供給パイプ1の環状周壁2及び装着壁3と、ジョイント部4の環状装着周壁5とを突き合わせた状態で、リテーナ(差し込みジョイント)9の装着凹部10を軸部(周壁部)に装着又は差し込むことにより、供給パイプ1とジョイント部4とを緊密に連結又は接続可能である。そのため、フランジ部のボルトによる接合を利用することなく、供給パイプ1とジョイント部4とを接続でき、口金パック(ノズルパック)の組立時に発生する異物の混入を防止でき、糸切れを低減できる。なお、供給パイプ1とジョイント部4とをフランジ接合する場合、ノズルパックの交換作業において、ネジ部にドープが付着したままノズルパックを取り付けると、ネジ部の損傷やドープ漏れが発生する。そのため、両者のフランジ接合に際しては、ネジ部の清掃が必要になり、ノズルパックの交換作業が大きな負担となる。これに対して、前記リテーナ9により差し込み式に供給パイプ1とジョイント部4とを接続すると、このような問題も解消できる。
前記ノズルキャップ6は前記ジョイント部4から下流方向に拡がって延びて形成されており、ドープを均等に流動させて分配するため、軸芯を中心として対称形状の内壁を有しており、下流方向にいくにつれて断面放物線状の形態で拡がり、かつ下流域で側部方向に裾野状に拡がる内壁を有している。また、この内壁は、最下流部で湾曲(又は大きな曲率で湾曲)して前記濾過部13に至っており、屈曲した段部のない滑らかな湾曲形状を有している。なお、この例では、放物線状の内壁の曲率Rは30〜40mm(例えば、33〜37mm)程度に形成されている。また、ノズルキャップ6の外周壁の途中部には、平坦な被押圧部8が形成され、下部には、前記ホルダーの装着壁に装着可能な外周壁7が形成されている。
このような内部空間を有するノズルキャップ6を用いると、デッドスペースを生じることなく、ノズルキャップ6の内部空間で、ドープに均等な圧力を作用させつつ、ドープを均等に流動できるとともに、濾過部13で均一に濾過したドープを口金から均等に吐出できる。そのため、繊度ムラが生じるのを有効に防止できる。
ノズルキャップ6内に配設される濾過部(濾過ユニット)13は、全体として凸状(逆皿状)の形態を有しており、立ち上がった環状周壁15を有する多孔板状の濾布台(支持台)14と、前記環状周壁15の下端部から側部方向に延出する周縁部16と、前記濾布台14を覆う濾布17と、この濾布で濾布台14を覆った状態で、前記環状周壁15に装着可能なリング状装着部材18とを備えている。そのため、濾布台14を濾布17で覆い、リング状装着部材18を装着することにより、濾布17の周辺部を濾布台14の周壁15で挟着でき、濾布17を緊張させて濾布台14に取り付けることができる。特に、濾布台14を多孔板状に形成しているため、円周方向にドープを均等に吐出でき、フィラメントの繊度ムラが生じることがない。また、濾布17とノズルキャップ6及び口金との間にパッキンを介在させることなく、濾布台14に濾布17を均等に張設することができ、ドープ漏れが生じることがない。
また、前記濾過部13の下流には、口金19が位置しており、この口金は、全体として凹状(皿状)の形態を有しており、底部に微細な吐出孔が穿設された吐出部20と、この吐出部の周縁から起立した周壁21と、この周壁の上端部から側部方向に延出する周縁部22とを備えている。
さらに、前記ノズルキャップ6と締結可能なホルダー23は、底部が開口した断面段状の筒状の形態を有しており、前記ノズルキャップ6の下部に形成された外周壁7が装着可能な装着壁24と、この装着壁の下端から内方へ屈曲した係止壁25とを備えており、前記装着壁24の上部は肉厚に形成されている。前記係止壁25には、口金19の周縁部22と濾布台14の周縁部16が係止した状態で順次配設されており、組み立てた状態では、濾布台14の環状周壁15とノズルキャップ6下部の外周壁との間には、濾布台14を覆う濾布17とリング状装着部材18とが隣接して位置しており、ホルダー23の係止壁25には、口金19の周縁部22と濾布台14の周縁部16が、ノズルキャップ6の外周壁7の下端面で押圧されている。なお、口金19の周縁部22と濾布台14の周縁部16との間、濾布台14の周縁部16とノズルキャップ6の外周壁7の下端面との間には、それぞれO−リング32,33が配設されている。
さらに、ノズルキャップ6の被押圧部8に対応するホルダー23の装着壁24の内壁には、周方向に間隔をおいて周方向に延びる複数の摺接溝(この例では、等間隔に4つの摺接溝)26が形成され、これらの複数の摺接溝26の間には、後述する締結部材28の延出嵌合部30が上下方向に装着可能な切り欠き部(又は挿入部)27が形成されている。この摺接溝26を利用して、リング状締結部材28により前記ノズルキャップ6とホルダー23とが締結可能である。すなわち、ホルダー23の装着壁24の上部内壁に形成された複数の摺接溝26の上壁面(上部の天壁面)26aは、図3及び図4に示すように、一方の方向から他方の方向(この例では、時計方向)にいくにつれて(入り口側から深部側にいくにつれて)低く狭まった形態に傾斜したテーパー面として形成されている。このように、平坦な上端面を有する装着壁24において、摺接溝26を形成する溝形成壁26bの厚みは、入り口側から深部側にいくにつれて大きく形成され、摺接溝26の高さは、上壁面(上部の天壁面)26aの下降に伴って入り口側の高さH1よりも深部側の高さH2が小さく形成されている(H1>H2)。一方、締結部材28は、リング部29と、このリング部の外周部に間隔をおいて側方向に延出して形成された複数の延出嵌合部(この例では、等間隔に4つの延出嵌合部)30とを備えており、これらの延出嵌合部30には、嵌合操作を補助するための操作棒状部31が形成されている。そして、各延出嵌合部30は、ホルダー23の装着壁24の内壁の切り欠き部(又は挿入部)27に上方向から挿入し、周方向へ回転させることにより前記摺接溝26に嵌合可能である。すなわち、複数の延出嵌合部30の上壁面(上部の天壁面)30aは、図3及び図4に示すように、一方の方向から他方の方向にいくにつれて(入り口側から深部側にいくにつれて)高い形態に傾斜したテーパー面として形成されている。この例では、延出嵌合部30の上壁面30aが入り口側で切削されて薄く形成され、延出嵌合部30の高さ(幅)は、深部側にいくにつれて上壁面(上部の天壁面)30aが上昇(厚みが増加)していることに伴って入り口側(先頭部)の高さH3よりも深部側(後尾側)の高さH4が大きく形成されている(H3<H4)。なお、摺接溝26の高さ及び延出嵌合部30の厚みは、前記の関係を満たす限り、特に制限されず、リング部29の半径、摺接溝26及び延出嵌合部30の長さなどに応じて選択でき、例えば、H1=8〜12mm,H2=7.5〜11.5mm(H1−H2=0.5〜2.5mm)、H3=4〜9mm,H4=4.5〜12mm(H4−H3=0.5〜2.5mm)程度に形成してもよい。
そのため、ホルダー23の係止壁25に口金19の周縁部22を配置するとともに、O−リング32を介して、濾過部13の周縁部16を配置し、O−リング33を介して、ノズルキャップ6の外周壁7をホルダー23の装着壁24に装着し、ホルダー23の摺接溝26の入り口側に締結部材28の延出嵌合部30を位置させてリング状締結部材28を時計方向に回転させると、回転に伴って延出嵌合部30がノズルキャップ6の被押圧部8を押圧し、摺接溝26の深部に延出嵌合部30が進入すると、ホルダー23とノズルキャップ6とが緊密に締結される。より具体的には、摺接溝26の上壁面(上部テーパー面)26a及び延出嵌合部30の上壁面(上部テーパー面)30aが時計方向にいくにつれて高く形成されているため、延出嵌合部30が摺接溝26内に進入するにつれて、摺接溝26の上壁面(上部テーパー面)26aに案内されて延出嵌合部30が下降し、延出嵌合部30及びリング部31がノズルキャップ6の被押圧部8を押圧し、摺接溝26の深部では延出嵌合部30によりホルダー23とノズルキャップ6とが緊密かつ強固に締結される。
このような締結部材28を利用すると、回転操作によりノズルキャップ6とホルダー23とを緊密に締結でき、作業者の熟練を要することなく片締めを防止できる。そのため、作業負荷の大きな多数のボルトによる締結作業が必要でなくなり、ドープの漏れを防止できる。特に、ボルトの締結に伴って発生する異物が混入することがなく、吐出孔でのドープの吐出不良による糸切れを低減できる。
さらに、供給パイプ1とジョイント部4との連結、及びホルダー23に対するノズルキャップ6の締結を、リテーナ9及び締結部材28を用いてワンタッチ式に簡便に行うことができるとともに、ホルダー23に対して口金19及び濾過部13を配置するだけで、ホルダー23及びノズルキャップ6内で口金19及び濾過部13を緊密に配設できるため、ノズルパックの組み立てのみならず、各部品の交換作業も容易に行うことができる。
なお、ドープの供給パイプにはジョイント部が接続又は連結可能であればよく、前記リテーナに限らず、種々の接続又は連結手段が採用できる。異物の混入を防止するためには、非ねじ込み式連結機構により供給パイプとジョイント部とを接続するのが好ましい。このように非ねじ込み式連結機構は、供給パイプとジョイント部とに形成したフランジ部をボルトで締結するフランジ接合、開閉可能な一対の湾曲した挟着片を有するバックル状連結部材による接合などであってもよいが、ワンタッチ式に簡便かつ強固に供給パイプとジョイント部とを接続又は連結可能な機構、例えば、リテーナによるジョイント機構が有利である。このようなリテーナを利用する場合、通常、供給パイプとジョイント部とにそれぞれ実質的に同じ外径に突出し、かつ互いに突き合わせ可能な周壁が形成されており、リテーナは、これらの周壁を突き合わせた状態で周壁の上下壁に嵌着可能な嵌合壁を有していてもよい。なお、供給パイプとジョイント部とにそれぞれ実質的に同じ径の凹溝を形成し、リテーナには、前記凹溝に対して嵌着可能な凸状嵌合壁を形成してもよい。
前記濾過部及び口金は、口金パック内(ノズルキャップの下流部)に順次配設又は保持可能であればよい。また、濾過部は、ドープを濾過可能であればよく、前記構造に限らず、濾過材と、この濾過材を収容する収容部とで構成してもよく、濾布を用いる濾過部では、濾布の周縁部を両側から挟着可能なリング状保持部材で挟持してホルダーに取り付けてもよく、濾布台の上下部を濾布で挟み込み又は包み込む形態で濾布を取り付けてもよい。好ましい形態では、濾布台と、この濾布台の多孔部を覆う濾布と、濾布台の多孔部を濾布で覆った状態で濾布の周辺部を濾布台の周壁で挟着するためのリング状装着部材とを備えており、濾布台には、多孔板などにより均一に分布した孔部を有する多孔部を形成するのが好ましい。
口金は、濾過されたドープを吐出孔から糸状に吐出可能であればよく、吐出孔の形状は、特に制限されず、例えば、三角形状、四角形状、円形状、楕円形状などであってもよい。なお、本発明ではドープを均等に流動できるため、吐出孔の密度を高めても、糸切れを防止しつつ、効率よく紡糸できる。
前記濾過部及び口金は、口金パックの構造を簡素化し、組み立てを容易にするため、ホルダーに対して係止可能であるのが好ましく、前記濾過部及び口金とホルダーとの係止機構は、特に制限されず、前記ホルダーに係止部(係止壁など)を形成し、濾過部及び口金に、この係止部に対して係止可能な被係止部(周縁部など)を有するのが好ましい。
ノズルキャップの外形は、所定の形状の内壁を有し、締結部材によりホルダーと締結可能であれば特に制限されないが、通常、ジョイント部から下流方向に拡がって延びる形態を有している。ノズルキャップは、ドープが均等に流動可能な内部空間を形成するのが好ましく、ノズルキャップの内壁は、軸芯を中心として湾曲した対称形状、特に、下流方向にいくにつれて、少なくとも断面放物線状の形態で拡がる内壁を有している。この放物線の曲率Rは、口金パックのサイズなどに応じて、10〜100mm程度であってもよく、通常、20〜70mm(例えば、30〜50mm)程度であってもよい。
前記ノズルキャップの内壁は、下流方向にいくにつれて断面放物線状の形態で拡がり、かつ下流域で側部方向に裾野状に拡がっている場合が多く、最下流部では濾過部の両側部で直線的又は湾曲して収束した形状を有している場合が多い。
さらに、ノズルキャップは、通常、締結部材による被押圧部を有している。この被押圧部は、ノズルキャップの外壁部に周方向の全体に亘って形成してもよく、周方向の部分的に形成してもよい。被押圧部は、通常、平坦面で構成する場合が多い。
前記ホルダーは、前記濾過部及び口金の周縁部を係止可能であり、かつノズルキャップと締結可能であればよい。前記濾過部及び口金の周縁部は、ホルダーの内壁の適所(前記の例では、下部開口部の周縁部)に形成した係合段部(係止壁など)などで係止してもよい。なお、構造を簡素化するためには、締結部材による締結に伴って、ホルダーの係止部とノズルキャップとで濾過部及び口金の周縁部を押圧するのが好ましい。
締結部材は、ノズルキャップがドープを均等に流動可能な内部空間を有する場合、ホルダーとノズルキャップとを締結可能であればよく、ボルト・ナットなどの締結部材、クランプなどの締結部材であってもよいが、簡単な操作で組み立て・分解が可能であるとともに、異物が混入せず、周方向に均一な締結可能な締結部材であるのが好ましい。このような締結部材は、回転操作に伴ってホルダー及びノズルキャップと協働して両者を締結可能なリング状締結部材であってもよい。特に、進行方向(深部方向)にいくにつれてノズルキャップとホルダーとが近づく方向に傾斜した傾斜壁(下降した下降壁又は上昇した上昇壁)を有し、かつホルダーと協働して、周方向への回転に伴ってノズルキャップとホルダーとを相対的に引き寄せ(下降又は上昇)させてノズルキャップとホルダーとを締結可能(例えば、ノズルキャップをホルダー側へ押圧する態様又はその逆の態様でホルダーとノズルキャップとを引き寄せ又は締結可能)な締結部材であるのが好ましい。このような締結機構では、前記ホルダー及びノズルキャップの一方の部材に周方向に延びて複数の摺接溝が周方向に間隔をおいて形成される。摺接溝は、通常、ホルダーの上部内壁に周方向に間隔をおいて(特に、等間隔に)形成される。一方、リング状締結部材は、前記摺接溝に対して嵌合可能な嵌合部を有しており、リング状締結部材の周方向への回転に伴ってノズルキャップとホルダーとを相対的に引き寄せて締結可能な嵌合部(例えば、ノズルキャップを押圧するための嵌合部)を備えている。すなわち、リング状締結部材は、リング部と、このリング部の外周部に間隔をおいて(特に、等間隔に)側方向に延出して形成された複数の延出嵌合部を有しており、これらの延出嵌合部は前記摺接溝に嵌合可能である。前記摺接溝の上下壁面及び/又は延出嵌合部の上下壁面は、リング状締結部材の周方向への回転に伴ってノズルキャップとホルダーとが近づく方向に傾斜した傾斜壁面を形成している。
リング状締結部材の周方向への回転に伴って、例えば、ノズルキャップをホルダー側に押圧するなどの形態で、ノズルキャップとホルダーとを相対的に引き寄せるため、延出嵌合部の上壁面及び/又は摺接溝の上壁面は、嵌合部及びリング状締結部材の回転に伴って周方向にいくにつれて下降するテーパー状(テーパー面)に形成されている。より詳細には、(a)延出嵌合部の上壁面が、前記摺接溝への入り口側(上流側又は先頭側)よりも深部側(下流側又は後尾側)が高いテーパー状(下流方向にいくにつれて上昇したテーパー面)に形成されているか、(b)摺接溝の上壁面が、入り口側よりも深部側が低いテーパー状(深部方向にいくにつれて下降したテーパー面)に形成されているか、若しくは延出嵌合部の上壁面及び摺接溝の上壁面の双方が上記テーパー状に形成されている。上記テーパー面(傾斜面)の角度(又は嵌合部の下降角度)は、特に制限されず、口金パックのサイズ、嵌合部の周方向に長さなどに応じて選択でき、例えば、0.5〜10°(例えば、1〜7°、好ましくは2〜5°)程度であってもよい。
なお、嵌合部の下流部(又は摺接溝の深部)には、平坦部などを形成し、摺接溝に嵌合した嵌合部の嵌合強度を高めてもよい。また、必要であれば、摺接溝の深部側の上壁面及び/又は下壁面に湾曲又は屈曲した凹部又は凸部(特に湾曲した凹部又は凸部)を形成し、嵌合部の下流部又は後尾側(又は摺接溝の深部)に、前記凹部又は凸部に対して係止可能な係止部を形成し、凹部又は凸部と係止部とでノズルキャップとホルダーとを固定可能(及び固定解除可能)なロック機構を形成してもよい。
また、前記構造では、適所にパッキンを配設することができる。代表的には、口金の周縁部と濾過部の周縁部との間、濾過部の周縁部とノズルキャップの下端面との間にそれぞれパッキンを配設することにより、口金パックからの液漏れを防止でき、ジョイント部とパイプとの間にパッキンを配設することにより、口金パックへの供給部での液漏れを防止できる。パッキンは、円環板状(テフロンR製パッキンなど)の形態であってもよいが、通常、O−リング(フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴムなどのゴム製O−リング)が使用される。
本発明の紡糸口金パックは、ポリマーを溶融して紡糸する溶融紡糸、ポリマーと有機溶媒とを含むドープを吐出させて乾燥させる乾式紡糸のいずれにも利用できる。好ましい態様では、乾式紡糸に利用できる。乾式紡糸のドープは、種々のポリマー(ポリエステル、ナイロン、アクリルポリマー、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂、酢酸セルロース(セルローストリアセテート、セルロースジアセテート)などの半合成樹脂など)と、このポリマーを可溶な溶媒とで調製できる。なお、タバコフィルターのトウは、酢酸セルロース(セルロースジアセテートなど)を溶媒(アセトンなど)に溶解した溶液(ドープ)を乾式紡糸することにより調製でき、ドープの固形分濃度は、例えば、20〜35重量%(例えば、25〜30重量)程度であってもよい。
本発明は、前記紡糸口金パックを備えた紡糸装置も開示する。この紡糸装置において紡糸口金パックは慣用の形態及び方法で装着でき、溶融紡糸装置は、ポリマーを溶融させるための加熱ユニット、紡糸液を供給するための供給ユニット、口金から吐出した糸を冷却するための冷却ユニットなどを備えていてもよい。また、乾式紡糸においては、熱風又は温風を供給して乾燥するための乾燥ユニットを備えていてもよい。さらには、テンションローラなどのように、口金から吐出した繊維を引き取り又は巻き取るためのユニットを備えていてもよい。