JP6071834B2 - 片面サブマージアーク溶接用フラックス - Google Patents
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また、このフラックスは、Mnを0.1〜0.9質量%の範囲で含有していてもよい。
Si、及びFe−SiなどのSi合金は、脱酸作用を有し、溶接金属中の酸素と反応してSiO2を生成し、このSiO2は、粘結剤やスラグ造滓剤として作用する。また、Si酸化物も同様に、スラグ造滓剤として作用する。
CaOは、溶融スラグの粘度を低下させ、スラグの流動性を高めて、表ビード幅を広げる効果がある。しかしながら、CaO含有量が9質量%を超えると、溶融スラグの凝固温度が高くなり過ぎて、表ビード形状が損なわれる。一方、CaO含有量が3質量%未満の場合、溶融スラグの流動性を高める効果が得られず、表ビード幅が不足するため、アンダーカットが発生しやすくなる。よって、CaO含有量は3〜9質量%とする。
MgOは、前述したCaOと同様に、溶融スラグの粘度を低下させ、スラグの流動性を高めて、表ビード幅を広げる効果がある。ただし、MgOの含有量が15質量%未満の場合、溶融スラグの流動性を高める効果が得られず、表ビード幅が不足し、アンダーカットが発生しやすくなる。
TiO2は、片面溶接におけるスラグ剥離性の改善に、特に有効な成分である。しかしながら、その含有量が23質量%を超えると、表ビードの波目が粗くなる。また、TiO2含有量が5質量%未満の場合、前述したスラグ剥離性の改善効果が得られず、更には鉄粒が発生しやすくなる。よって、TiO2含有量は5〜23質量%とする。
Al2O3は中性成分であり、スラグの粘性及び凝固温度の調整に有効な成分である。しかしながら、Al2O3含有量が5質量%未満の場合、スラグの粘性及び凝固温度が低下し、ビード幅が不揃いになる。一方、23質量%を超えてAl2O3を添加すると、スラグの凝固温度が高くなり過ぎて、ビードが広がり難くなり、ビード形状が凸型となる。よって、Al2O3含有量は5〜23質量%とする。
CaF2は、フラックス全体の溶融性を良好にする成分であり、特に片面サブマージアーク溶接のように、短時間にフラックスを溶かし、スラグを生成しなければならない溶接方法においては、不可欠な成分である。しかしながら、CaF2含有量が10質量%を超えると、アーク安定性が劣化し、アーク切れを発生しやすくなる。一方、CaF2含有量が2質量%未満の場合、フラックスの溶融性改善効果が得られず、ビード蛇行が発生する。よって、CaF2含有量は2〜10質量%とする。
CO2は、溶接金属への窒素の侵入抑制と、拡散性水素量の低減に有効な成分であり、金属炭酸塩としてフラックス中に添加される。しかしながら、CO2含有量が2質量%未満の場合、溶接金属中の拡散性水素量が高くなり、耐低温割れ性が劣化する。一方、CO2含有量が9質量%を超えると、ガス発生量が過大となり、表ビードにポックマークが発生する。よって、CO2含有量は2〜9質量%とする。
Na2Oはアーク安定性の確保のために必要な成分である。具体的には、Na2O含有量が0.5質量%未満の場合、アークが極端に不安定となり、アーク切れが発生し、ビード形状及び溶込みが不均一となる。一方、Na2O含有量が3質量%を超えると、耐吸湿性が低下して、耐低温割れ性が劣化する。よって、Na2O含有量は0.5〜3質量%とする。
B2O3は、溶接中に還元され、溶接金属中にBとして存在して、靭性の確保に有効に作用する。しかしながら、B2O3含有量が0.1質量%未満の場合、その効果が十分に発揮されず、靭性が劣化する。一方、B2O3含有量が1質量%を超えると、強度が過大となり、高温割れが発生する。よって、B2O3含有量は0.1〜1質量%とする。
Moは、焼入れ性向上に有効な成分であり、Mo単体の他、Fe−Moなどの合金の形態で、フラックスに添加される。ただし、Mo含有量が0.2質量%未満の場合、溶接金属の組織が粗大化し、靭性が劣化する。一方、1質量%を超えてMoを添加すると、溶接金属の強度が過大となり、高温割れが発生する。よって、Mo含有量は0.2〜1質量%とする。
鉄粉は、一度に多量の溶着金属が必要とされる片面サブマージアークにおいて必須の添加成分である。そして、鉄粉含有量が10質量%未満の場合、溶着金属量を補う効果が得られなくなると共に、フラックスの見掛密度が小さくなるため、耐吹き上げ性が劣化する。一方、30質量%を超えて鉄粉を含有させると、溶融・凝固中のフラックス内で鉄粉が凝集しやすくなり、凝集鉄粉が沈降する量が多くなって、ビード表面に鉄粒が付着しやすくなる。加えて、フラックスの見掛密度が高くなり、ビード幅が確保できなくなる。よって、鉄粉の含有量は10〜30質量%とする。
Tiは、前述したSiやSi合金と同様に、溶接金属中の酸素量低減に有効な成分であるが、この効果はSi及び/又はSi合金の添加などによって十分達成可能であるため、本実施形態のフラックスにおいて、Tiは必須の成分ではない。また、Ti含有量が1質量%を超えると、スラグがビード表面に焼付き、スラグ剥離性が劣化する。よって、Ti含有量は1質量%以下に規制する。
Mnは、前述したMoと同様に、焼入れ性を向上させる効果があり、強度及び靭性の向上に有効な成分であるが、Mn含有量が0.9質量%を超えると、スラグがビード表面に焼付き、スラグ剥離性が劣化する。また、本実施形態のフラックスでは、Moを添加しており、それにより焼入れ性の効果が得られるため、Mn含有量は0.9質量%以下に規制する。
Alは、溶接金属の組織を微細にして、靭性の向上に有効な成分である。しかしながら、この効果は他成分の添加により十分達成可能であるため、本実施形態のフラックスにおいて、Alは必須の成分ではない。また、Al含有量が3質量%を超えると、焼入れが過度となり、強度が上昇して低温割れが発生する。よって、Al含有量は3質量%以下に規制する。また、溶接金属の組織微細化のため、下限濃度については好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上に規制する。
なお、Alは、Al単体の他、Fe−AlやAl−Mgなどの合金の形態で、フラックスに添加される。
本実施形態のフラックスでは、10〜30質量%含まれる鉄粉中、粒径300μm以下の鉄粉の構成割合を90質量%以上とする。ここで、「粒径300μm以下の鉄粉」とは、JIS Z8815(ふるい分け試験方法通則)に準拠した方法により、JIS Z8801(試験用ふるい)に基づく目開き300μmのふるいを用いて鉄粉のふるい分けを行った際に、そのふるいを通過した鉄粉を意味する。そのため、「粒径300μm以下の鉄粉」における粒径の下限値は特に限定されるものではない。例えば、使用される粒径300μm以下の鉄粉のうち、粒径のより小さい鉄粉としては、JIS Z8815に準拠した方法により、JIS Z8801に基づく目開き45μmのふるいを用いて鉄粉のふるい分けを行った際に、そのふるいを通過した鉄粉(粒径45μm以下の鉄粉)の構成割合が60質量%以下であることが好ましい。
本実施形態では、粒径300μm以下の鉄粉を鉄粉全質量に対して90質量%以上用いる。「粒径300μm以下の鉄粉」の鉄粉全質量に対する構成割合の上限は特に限定されず、例えば、その構成割合を90質量%以上100質量%以下とすることができる。
また、本実施形態のフラックスでは、各成分の含有量を前述した範囲にすると共に、上記式(I)の([MgO]+[Al2O3]+[TiO2])/[Fe]≧2.5を満たすように、MgO含有量、Al2O3含有量、TiO2含有量、及び鉄粉含有量をそれぞれ調整する。
よって、フラックス中に含まれる鉄粉は、粒径300μm以下の構成割合を90質量%以上とし、かつ([MgO]+[Al2O3]+[TiO2])/[Fe]≧2.5とする。
本実施形態のフラックスにおける上記以外の成分は、例えばFeO、ZrO2、及びK2Oなどである。
また、上記表4及び表5に示す「T.SiO2」は、フラックス中に含まれる、Si、Si合金及びSi酸化物の総含有量を表し、「MAT」は、MgO、Al2O3、及びTiO2の総含有量を表す。したがって、上記表4及び表5に示す「MAT/Fe」は、MgO、Al2O3、及びTiO2の総含有量と、鉄粉含有量との比(([MgO]+[A12O3]+[TiO2])/[Fe])を表す。
更に上記表4及び表5の「鉄粉構成」の欄において、「A」は、粒径300μm以下の鉄粉の構成割合が使用した鉄粉全質量に対して90質量%以上のものを表し、「B」は、粒径300μm以下の鉄粉の構成割合が鉄粉全質量に対して90質量%未満のものを表す。
2 溶接金属
2a ビード表面
3 未溶融のフラックス
4 溶融・凝固中のフラックス(スラグ)
5 鉄粉
6 鉄粉の凝集
7 凝集鉄粉(鉄粒)
Claims (3)
- Si、Si合金及びSi酸化物からなる群から選択される少なくとも1種(SiO2換算値):合計で6〜12質量%、
CaO:3〜9質量%、
MgO:15〜35質量%、
TiO2:5〜23質量%、
CaF2:2〜10質量%、
Al2O3:5〜23質量%、
CO2:2〜9質量%、
Na2O:0.5〜3質量%、
B2O3:0.1〜1質量%、
Mo:0.2〜1質量%、
鉄粉:10〜30質量%
を含有すると共に、
Mn:0.9質量%以下、
Ti:1質量%以下、
Al:3質量%以下
に規制され、
前記鉄粉中、粒径300μm以下の鉄粉の構成割合が90質量%以上であり、かつ、
MgOの含有量(質量%)を[MgO]、Al2O3の含有量(質量%)を[Al2O3]、TiO2の含有量(質量%)を[TiO2]、及び鉄粉の含有量(質量%)を[Fe]としたとき、下記式(I)を満たす片面サブマージアーク溶接用フラックス。
- Tiを0.1〜1質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の片面サブマージアーク溶接用フラックス。
- Mnを0.1〜0.9質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の片面サブマージアーク溶接用フラックス。
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