JP6071738B2 - サーモスタット - Google Patents

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Description

本発明は、自動車のエンジンを冷却する冷却システムにおいて冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を変化させるサーモスタットに関するものである。
自動車のエンジンを冷却する冷却システムにおいては、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を変化させるサーモスタットが設けられている。このサーモスタットは、冷却水の温度が低い状態で行われる冷却水の交換作業時には閉弁状態となっているため、冷却水を注水した際に空気がサーモスタットの周囲に停滞することから、サーモスタットにはエア抜き弁が併設されている。
このようなサーモスタットに併設されるエア抜き弁には、周囲が冷却水で満たされることでフロートに作用する浮力を利用して閉弁させる構成のものが知られている(特許文献1参照)。
特開平11−93666号公報
しかしながら、前記従来の技術では、フロートに作用する浮力が重力方向に依存するため、サーモスタットの取付角度によっては十分な面圧を得ることができない場合があり、確実に弁閉状態とすることが難しいという問題があった。また、エア抜き弁はサーモスタットの取付フランジ部に設けられることから、寸法に制約があり、十分な浮力が得られるようにフロートを大きく形成することができない場合があり、確実に閉弁状態とすることが難しいという問題があった。また、サーモスタットの近傍に停滞する空気が気泡状をなす場合には、フロートに作用する浮力を十分に得ることができないために、エア抜き弁が十分に開いた状態とならず、エア抜きが十分に行われない可能性があるという問題があった。
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、サーモスタットの取付角度に関係なく、また、エア抜き弁の寸法を大きくすることなく、また、サーモスタットの近傍に停滞する空気が気泡状をなす場合でも、エア抜きを安定にかつ確実に行うことができるように構成されたサーモスタットを提供することにある。
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、内燃機関と放熱器との間で冷却水を循環させる冷却水通路に設けられるサーモスタットであって、当該サーモスタットの周囲に停滞する空気を排出するエア抜き弁を備え、このエア抜き弁は、エア抜き孔を閉鎖する弁体部と、断面形状が反転するように変形可能な傘状部と、この傘状部の中心部と前記弁体部とを相互に連結する弁棒部と、前記傘状部の外周部を保持した状態で前記傘状部を収容するとともに、前記傘状部より前記エア抜き孔側の部分に内外を連通する開口が形成された有底筒状の箱状部と、を備え、前記エア抜き弁の周囲の圧力状態の変化により生じる前記傘状部の反転変形に応じて前記弁体部が前記エア抜き孔を開閉するようにした構成とする。
これによると、浮力により弁体部を開閉動作させるのではなく、傘状部に作用する圧力で弁体部を開閉動作させるため、サーモスタットの取付角度に関係なく、また、エア抜き弁の寸法を大きくすることなく、また、サーモスタットの近傍に停滞する空気が気泡状をなす場合でも、エア抜きを安定にかつ確実に行うことができる。
また、第2の発明は、前記弁体部を収容するとともに、開弁状態にある前記弁体部より前記エア抜き孔側の部分に内外を連通する開口が形成された蓋状部をさらに備えた構成とする。
これによると、弁体部が蓋状部で覆われるため、弁体部が離脱することを防止することができる。さらに、弁体部が蓋状部の周壁部で案内されるようにすると、弁体部が開閉動作を円滑に行うことができる。
また、第3の発明は、前記箱状部における前記開口の少なくとも底壁部側に、前記傘状部の離脱を防止するために内向きに突出する突出部が形成された構成とする。
これによると、傘状部と、弁棒部を介して傘状部と一体化された弁体部とが箱状部から離脱することを防止することができる。
また、第4の発明は、前記箱状部は金属材料で形成され、この箱状部の周壁部にはその外周面側から打ち抜き加工を行うことにより前記開口が開設され、前記突出部は前記打ち抜き加工により発生するかえりにより形成された構成とする。
これによると、開口の開設と同時に突出部を形成することができるため、製造が容易になる。
また、第5の発明は、前記箱状部の底壁部と前記傘状部との間に、気体を密封状態で封入した気体封入部が設けられた構成とする。
これによると、傘状部の表面側に冷却水および空気の圧力が作用し、傘状部の裏面側に気体封入部の圧力が作用する。そして、エア抜き弁の周囲の圧力状態が変化することで、傘状部の表面側に作用する圧力と、傘状部の裏面側に作用する圧力との大小関係が逆転することで、傘状部が反転変形して弁体部を開閉動作させることができる。
また、第6の発明は、前記傘状部の受圧面積が前記弁体部の受圧面積より大きく設定された構成とする。
これによると、傘状部の受圧面積(弁体部の動作方向に冷却水の圧力が作用する面積)が弁体部の受圧面積より大きいため、エア抜き弁の周囲が大気圧より高い正圧状態で、弁体部が閉弁状態にある場合には、弁体部と傘状部とを弁棒部で連結した全体では閉弁方向の力が常時作用する。このため、通常時(エンジン運転時)には、エア抜き弁が閉弁状態に保持され、冷却水の小さな圧力変動で弁体部が動作することを避けることができる。
また、第7の発明は、前記傘状部は、冷却水注水時のバキュームの際に前記エア抜き弁の周囲が大気圧より低い所定の負圧状態となることで前記弁体部を開弁動作させる反転変形が生じる剛性に設定された構成とする。
これによると、冷却水注水時にバキュームが行われることで、エア抜き弁を確実に開弁させることができる。
また、第8の発明は、前記傘状部は、ウォータポンプの加圧または暖機に伴う水圧上昇により前記エア抜き弁の周囲が大気圧より高い所定の正圧状態となることで前記弁体部を閉弁動作させる反転変形が生じる剛性に設定された構成とする。
これによると、冷却水交換作業の後に初めてエンジンが始動されることで、エア抜き弁を確実に閉弁させることができる。
このように本発明によれば、浮力により弁体部を開閉動作させるのではなく、傘状部に作用する圧力で弁体部を開閉動作させるため、サーモスタットの取付角度に関係なく、また、エア抜き弁の寸法を大きくすることなく、また、サーモスタットの近傍に停滞する空気が気泡状をなす場合でも、エア抜きを安定にかつ確実に行うことができる。
第1実施形態に係るサーモスタットが適用されるエンジンの冷却システムを示す模式図である。 図1に示したサーモスタットの断面図である。 図2に示したエア抜き弁を詳しく示す断面図である。 図3に示したエア抜き弁の圧力状態を示す断面図である。 第2実施形態に係るサーモスタットのエア抜き弁を示す断面図である。 図1に示した内燃機関の冷却システムの変形例を示す模式図である。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るサーモスタットが適用されるエンジンの冷却システムを示す模式図であり、図1(A)に冷却水の温度が低い状態での冷却水の循環状況を、図1(B)に冷却水の温度が高い状態での冷却水の循環状況をそれぞれ示す。
この冷却システム1は、エンジン(内燃機関)2とラジエータ(放熱器)3との間で冷却水を循環させることでエンジン2を冷却するものであり、エンジン2から排出された冷却水をラジエータ3に導く第1の主通路4と、ラジエータ3から排出された冷却水をエンジン2に戻す第2の主通路5と、エンジン2から排出された冷却水をラジエータ3を介さずにエンジン2に戻すバイパス通路6と、冷却水を循環させるウォータポンプ7と、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を変化させるサーモスタット8と、を備えている。
また、この冷却システム1は、いわゆる出口制御式であり、エンジン2の出口側にサーモスタット8が設けられており、エンジン2内のウォータジャケットを流通してエンジン2から排出された冷却水の温度がサーモスタット8で検知される。
サーモスタット8は冷却水の温度に応じて開閉動作し、これに応じて冷却水の循環経路が変化する。すなわち、冷却水の温度が低い状態では、サーモスタット8が閉じており、この状態では、ラジエータ3に向かう主通路4が遮断され、図1(A)に示すように、冷却水がラジエータ3を経由せずにバイパス通路6を通って循環する。これにより、エンジン2の暖機が速やかに行われる。そして、冷却水の温度が高くなると、サーモスタット8が開き、この状態では、図1(B)に示すように、冷却水がラジエータ3を経由して循環する。これにより、冷却水が適温に維持される。
また、サーモスタット8は、いわゆるインライン型であり、図1(B)に示すように、サーモスタット8が開いた状態では、ラジエータ3に向かう主通路4とバイパス通路6との双方に冷却水が流れ、冷却水の温度に応じて変化するサーモスタット8の開弁量(図2に示す弁体部23のリフト量)により、主通路4およびバイパス通路6の流量が調整される。
図2は、図1に示したサーモスタット8の断面図である。このサーモスタット8は、いわゆるワックス・ペレット型であり、サーモエレメント21の内部に充填されたワックス22の熱膨張を利用して弁体部23を作動させるものである。冷却水の温度が低い状態では、弁体部23が閉弁方向にスプリング24で付勢されることで、全閉状態となっている。そして、冷却水の温度が高くなると、ワックス22が熱膨張することで、弁体部23が弁座25から離れて開弁状態となり、冷却水の温度が高くなるのに応じて弁体部23のリフト量も大きくなる。
より具体的に説明すると、ロッド26がサーモエレメント21の内部に挿入されており、このロッド26は基部側を第1のフレーム27で支持されている。一方、サーモエレメント21は第2のフレーム28でロッド26の軸方向に移動可能に支持されており、ワックス22が熱膨張すると、ワックス22の熱膨張力がロッド26に対してサーモエレメント21を押し出すように作用する。これにより、冷却水の温度が高くなると、サーモエレメント21と一体的に設けられた弁体部23が開弁方向に動作する。
また、このサーモスタット8は、通路部材に対してサーモスタット8を固定するための取付フランジ部29を備えている。この取付フランジ部29には、サーモスタット8を挟んで一方の側に停滞する空気を他方の側に排出するエア抜き弁31が設けられている。以下、このエア抜き弁31について詳しく説明する。
図3は、図2に示したエア抜き弁31を詳しく示す断面図である。エア抜き弁31は、エア抜き孔32を閉鎖する弁体部33と、断面形状が反転するように変形可能な傘状に形成された傘状部34と、傘状部34の中心部と弁体部33の中心部とを相互に連結する弁棒部35と、傘状部34の外周部を保持した状態で傘状部34を収容する有底筒状の箱状部36と、を備えている。
エア抜き孔32は円形に形成され、弁体部33はエア抜き孔32と相互補完的な円形の平板状に形成され、弁体部33がエア抜き孔32に嵌入することでエア抜き孔32が閉鎖される。弁棒部35は円柱状に形成されている。弁体部33および弁棒部35は、金属材料や樹脂材料などで形成すればよい。
傘状部34は、半球状(ドーム状)、すなわち径方向の断面形状が円弧状をなすように形成されている。この傘状部34の反転変形に応じて弁体部33がエア抜き孔32を開閉する。すなわち、傘状部34が表面(上面)34a側が凸となる状態で、弁体部33がエア抜き孔32を開放する開弁状態となり、傘状部34が裏面(下面)34b側が凸となる状態に反転変形することで、弁体部33がエア抜き孔32を閉鎖する閉弁状態となる。
傘状部34は、金属材料、樹脂材料およびゴム材料などで形成すればよい。特に、この傘状部34では、冷却水の小さな圧力変動で容易に反転変形しない剛性を確保する必要があり、金属製の板材を曲げ加工したものや、肉厚なゴム材で形成されたものなどが好適である。
箱状部36は、円筒状をなす周壁部37と、円板状をなす底壁部38とを有している。特に、箱状部36は、サーモスタット8の取付フランジ部29(図2参照)に一体的に形成されており、例えば取付フランジ部29を形成する鋼材に絞り加工で形成することができる。また、箱状部36は、エア抜き孔32を挟んで開弁状態にある弁体部33と相反する側に配置されており、周壁部37の一端側にエア抜き孔32が位置し、周壁部37の他端側に底壁部38が位置する。なお、箱状部36を取付フランジ部29と別体で形成して、ねじや溶接などの適宜な固着手段で箱状部36を取付フランジ部29に固定するようにしてもよい。
周壁部37における傘状部34よりエア抜き孔32側の部分には、内外を連通する開口39が形成されており、エア抜き孔32が開放された開弁状態で、開口39を空気や冷却水が流れ、一方の側に停滞する空気が他方の側に排出される。この開口39の大きさは、冷却水の粘度や停滞する空気の量などに基づいて、エア抜きを円滑にかつ迅速に行うことができるように設定され、例えば2mm〜5mm程度とするとよい。
箱状部36における開口39の底壁部38側には、傘状部34の離脱を防止する突出部40が形成されている。この突出部40は、周壁部37における開口39の縁部の内周面側から内向きに突出した状態に形成され、傘状部34の外周部を係止する。これにより、傘状部34と、弁棒部35を介して傘状部34と一体化された弁体部33とが、箱状部36から離脱することを防止することができる。
特に本実施形態では、周壁部37の外周面側からパンチにより打ち抜き加工を行うことにより開口39が開設され、突出部40が打ち抜き加工により発生するかえり(バリ)により舌状に形成されている。このようにすると、開口39の開設と同時に突出部40を形成することができるため、製造が容易になる。なお、開口39は周方向に一定の間隔をおいて複数形成されており、この開口39ごとに突出部40が形成されるため、傘状部34の外周部を安定にかつ確実に係止することができる。
また、本実施形態では、弁体部33および傘状部34が収容される筒状部36が軸方向に同一の断面に形成され、弁体部33と傘状部34とが同一の外径に形成されており、傘状部34が湾曲している分だけ、傘状部34の受圧面積(弁体部33の動作方向に冷却水の圧力が作用する面積)が弁体部33の受圧面積より大きくなる。
箱状部36における底壁部38と傘状部34との間には、気体を密封状態で封入された気体封入部41が設けられている。特に、本実施形態では、気体封入部41が、内部の気泡が相互に連通されていない独立気泡を有するスポンジ材料(発泡体)で形成されている。なお、気体封入部41は、エラストマー材料などで形成された可撓性の密閉袋に空気などの気体を充填したものでもよい。
この気体封入部41は、底壁部38と傘状部34との間に挟み込まれているため、気体封入部41内に封入された空気などの気体の圧力が傘状部34の裏面34b側に作用する。この傘状部34の裏面34b側に作用する気体封入部41の圧力は、気体封入部41を圧縮状態で組み付けるか否かにより異なるが、例えば傘状部34の表面34a側が凸となる状態で気体封入部41を非圧縮状態で組み付ければ、傘状部34の表面34a側が凸となる状態では、傘状部34の裏面側に作用する圧力は常圧(大気圧と同程度の圧力)となり、傘状部34の裏面34b側が凸となる状態では、気体封入部41が圧縮変形することで、傘状部34の裏面34b側に作用する圧力は常圧より高くなる。なお、気体封入部41を圧縮状態で組み付ければ、その分だけ傘状部34の裏面34b側に作用する圧力は高くなる。
一方、傘状部34の表面34aには冷却水や空気が接しており、この冷却水や空気の圧力が傘状部34の表面34a側に作用する。このため、傘状部34の表面34a側に作用する冷却水や空気の圧力と、傘状部34の裏面34b側に作用する気体封入部41の圧力との大小関係に応じて、傘状部34に向きの異なる力が作用し、その力が傘状部34を反転変形させるのに要する力を超えると、傘状部34が反転変形して、弁体部33を開閉動作させることができる。
すなわち、弁体部33が開弁状態にある場合に、エア抜き弁31の周囲の圧力が高くなり、傘状部34の表裏に発生する圧力差が、傘状部34を反転変形させるのに要する力を超えると、傘状部34の裏面34b側が凸となる状態に反転変形し、この傘状部34の反転変形に応じて弁体部33が閉弁方向に移動して、弁体部33がエア抜き孔32を閉鎖する閉弁状態となる。
一方、弁体部33が閉弁状態にある場合に、エア抜き弁31の周囲の圧力が低くなる、特にエア抜き弁31の周囲の圧力が大気圧より低い負圧になり、傘状部34の表裏に発生する圧力差が、傘状部34を反転変形させるのに要する力を超えると、傘状部34の表面34a側が凸となる状態に反転変形し、この傘状部34の反転変形に応じて弁体部33が開弁方向に移動して、弁体部33がエア抜き孔32を開放する開弁状態となる。
以下、このエア抜き弁31の開閉動作について詳しく説明する。
図4は、図3に示したエア抜き弁31の圧力状態を示す断面図であり、図4(A)に通常時(エンジン運転時)を、図4(B)に冷却水交換時を、図4(C)に冷却水交換後のエンジン始動時を、それぞれ示す。なお、ここでは、矢印の長さで圧力の高さを表現している。
通常時(エンジン運転時)では、図4(A)に示すように、エア抜き弁31の周囲に冷却水が充満し、エア抜き弁31が閉弁状態にある。この状態では、弁体部33の傘状部34側の面に作用する冷却水の圧力と、傘状部34の表面側に作用する冷却水の圧力とは等しくなるが、傘状部34が弁体部33より受圧面積が大きくなるため、弁体部33と傘状部34とを弁棒部35で連結した全体では、閉弁方向の力が作用する。また、気体封入部41の圧力が傘状部34の裏面34b側に作用するが、この傘状部34の裏面34b側に作用する圧力は、大気圧よりわずかに高くなる程度のものであり、冷却水の圧力より十分に小さい。このため、弁体部33と傘状部34とを弁棒部35で連結した全体は、常時閉弁方向に付勢されて、エア抜き弁31は閉弁状態に保持され、冷却水の小さな圧力変動でエア抜き弁31が開弁することはない。
一方、冷却水の交換作業で冷却水を注水する際には、ラジエータ3の冷却水注入口でバキューム(真空引き)が行われる。この状態では、図4(B)に示すように、エア抜き弁31の周囲が負圧になり、傘状部34の表面側に作用する空気の圧力が、傘状部34の裏面側に作用する気体封入部41の圧力より小さくなり、この圧力差が、傘状部34を反転変形させるのに要する圧力差を超えることで、傘状部34が表面側が凸となる状態に反転変形して、弁体部33がエア抜き孔32を開放する開弁状態となる。これにより、冷却水を注水した際にサーモスタット8の周囲に停滞する空気を排出するエア抜きが円滑に行われる。
そして、冷却水の注水が終了した後に最初にエンジン2を始動すると、図4(C)に示すように、冷却水の圧力が上昇し、傘状部34の表面側に作用する冷却水の圧力が、傘状部34の裏面側に作用する気体封入部41の圧力より大きくなり、この圧力差が、傘状部34を反転変形させるのに要する圧力差を超えると、傘状部34が裏面側が凸となる状態に反転変形して、図4(A)に示す閉弁状態に戻る。これにより、エンジン2の暖機を速やかに行うことができる。
なお、エンジン2を始動してウォータポンプ7の加圧が開始されると、冷却水の圧力が上昇し、この水圧上昇に応じて閉弁動作を行わせるようにすればよいが、ウォータポンプ7の加圧のみでは、エンジン2の始動後に低回転状態が続く場合など、十分な水圧が得られない場合があり、このような場合でも、エンジン2の暖気により冷却水が熱膨張することにより安定して水圧が上昇するので、確実に閉弁動作を行わせることができる。
以上のように、本実施形態では、浮力により弁体部33を開閉動作させるのではなく、傘状部34に作用する圧力で弁体部33を開閉動作させるため、サーモスタット8の取付角度に関係なく、また、エア抜き弁31の寸法を大きくすることなく、また、サーモスタット8の近傍に停滞する空気が気泡状をなす場合でも、エア抜きを安定にかつ確実に行うことができる。
また、本実施形態では、弁体部33および傘状部34が弁棒部35で一体化された状態で箱状部36に固定されるため、エア抜き弁31が重力方向に対して傾斜した状態で配置されている場合でも、弁体部33の開閉動作に影響を及ぼさないため、サーモスタット8の取付角度に左右されることなく、エア抜きを安定にかつ確実に行うことができる。
また、本実施形態では、傘状部34が、冷却水注水時のバキュームの際にエア抜き弁31の周囲が大気圧より低い所定の負圧状態となることで、弁体部33を開弁動作させる反転変形が生じる剛性に設定されている。このため、冷却水注水時にバキュームが行われることで、エア抜き弁31を確実に開弁させることができる。そして、冷却水を注水する際に作用する圧力で閉弁しないように傘状部34の剛性を設定することで、冷却水の注水時に閉弁することを避けることができ、これによりエア抜きが円滑にかつ十分に行われる。
また、本実施形態では、傘状部34が、ウォータポンプ7の加圧または暖機に伴う水圧上昇によりエア抜き弁31の周囲が大気圧より高い所定の正圧状態となることで、弁体部33を閉弁動作させる反転変形が生じる剛性に設定されている。このため、冷却水交換作業の後に初めてエンジン2を始動させることで、エア抜き弁31を確実に閉弁させることができる。そして、エア抜き弁31が一旦閉弁すると、エンジン運転状態で発生する小さな圧力変動では、傘状部34の表裏に発生する圧力差が、傘状部34を反転変形させるのに要する圧力差を超えないため、エンジン2の運転状態でエア抜き弁31から冷却水が漏れることを避けることができ、これによりエンジン2の暖気を迅速に行うことができる。
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係るサーモスタット8のエア抜き弁51を示す断面図である。なお、ここで特に言及しない点は第1実施形態と同様である。
この第2実施形態では、弁体部33を覆う蓋状部52が設けられている。この蓋状部52は、円筒状をなす筒状部53と、円板状をなす頂壁部54とを有している。筒状部53の頂壁部54と相反する側にはフランジ部55が設けられており、蓋状部52は全体として断面がハット形状をなすように形成されている。この蓋状部52は、ねじおよび溶接などの適宜な固着手段によりサーモスタット8の取付フランジ部29に固定される。なお、蓋状部52を取付フランジ部29に一体的に形成して、箱状部36を取付フランジ部29と別体で形成するようにしてもよい。
蓋状部52の筒状部53には、内外を連通する開口56が形成されており、この開口56は、開弁状態にある弁体部33よりエア抜き孔32側の部分に設けられている。これにより、エア抜き孔32が開放された開弁状態で、開口56を冷却水および空気が流通する。
この第2実施形態では、弁体部33が蓋状部52で覆われるため、弁体部が離脱することを防止することができる。さらに、蓋状部52の筒状部53に弁体部33が案内されるため、弁体部33が開閉動作を円滑に行うことができる。
この第2実施形態によるエア抜き弁51の開閉動作状況は、図4に示した第1実施形態と同様であり、詳細な説明は省略する。
なお、エア抜き弁31の周囲が負圧になることで弁体部33が開弁状態となると、蓋状部52の内部に空気が密閉された状態となることで、弁体部33の開弁動作が制限されて、開口56を全開させる位置まで弁体部33が円滑に動かない場合があるが、開口56を十分に大きく形成すれば問題はなく、また、蓋状部52の底壁部54に開口を設け、あるいは、筒状部53と弁体部33との間に隙間が形成されるようにして、蓋状部52の内部に空気が出入りするようにしてもよい。
図6は、図1に示した内燃機関の冷却システムの変形例を示す模式図であり、図6(A)に冷却水の温度が低い状態での冷却水の循環状況を、図6(B)に冷却水の温度が高い状態での冷却水の循環状況をそれぞれ示す。なお、ここで特に言及しない点は第1実施形態と同様である。
この冷却システム101は、いわゆる入口制御式であり、エンジン2の入口側にサーモスタット102が設けられており、ラジエータ3からエンジン2に戻される冷却水の温度がサーモスタット102で検知される。
また、サーモスタット102は、いわゆるボトムバイパス型であり、ボトム(底部)に、バイパス通路6の出口開口を閉鎖するバイパスバルブ103を有している。冷却水の温度が低い状態では、サーモスタット102が閉じており、図6(A)に示すように、冷却水がラジエータ3を経由せずにバイパス通路6を通って循環する。一方、冷却水の温度が高くなると、サーモスタット102が開き、図6(B)に示すように、冷却水がラジエータ3を経由して循環する。このとき、サーモスタット102のバイパスバルブ103がバイパス通路6の出口開口を閉鎖して、バイパス通路6を遮断する。
サーモスタット102には、第1実施形態と同様に、エア抜き弁31が併設されており、このエア抜き弁31により、サーモスタット102の近傍に停滞する空気を排出することができる。
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。また、上記実施形態に示した本発明に係るサーモスタットの各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
すなわち、本実施形態では、図3に示したように、気体封入部41を、独立気泡を有するスポンジ材料で形成したものとしたが、傘状部34の外周部と周壁部37の内周面との間にシール部材(気体封止部材)を設けるようにしてもよい。このようにすると、傘状部34と箱状部36とで囲まれた空間の気密性が保持されるため、傘状部34の裏面側に充填された空気などの気体の圧力を傘状部34の裏面側に作用させて、前記の実施形態と同様に動作させることができる。
また、本実施形態では、図3に示したように、箱状部36における開口39の底壁部38側に突出部40が形成された構成としたが、この突出部40は、箱状部36における開口39の少なくとも底壁部38側に形成されていればよく、例えば突出部40を開口39の全周に渡って形成する、具体的には、バーリング加工により突出部40を筒状に形成するようにしてもよい。
また、本実施形態では、図3に示したように、エア抜き孔32が円形に形成され、弁体部33がエア抜き孔32と相互補完的な円形の平板状に形成されたものとしたが、このエア抜き孔32および弁体部33の形状はこのような円形に限定されるものではなく、例えば多角形や楕円形等の種々の形状が可能である。また、本実施形態では、弁体部33がエア抜き孔32に嵌入することでエア抜き孔32が閉鎖される構成としたが、弁体部33がエア抜き孔32に嵌入せずにエア抜き孔32の開口縁部に当接する構成も可能である。また、本実施形態では、エア抜き孔32の内周面および弁体部33の外周面を軸方向に均一な大きさとしたが、エア抜き孔32および弁体部33をテーパー状に形成するようにしてよい。
また、本実施形態では、図3に示したように、箱状部36が有底の円筒状に形成されたものとしたが、この箱状部36はこのような形状のものに限定されるものではない。すなわち、周壁部37の断面形状は円形の他に例えば多角形や楕円形等の種々の形状が可能であり、底壁部38の形状も円形の他に例えば多角形や楕円形等の種々の形状が可能である。さらに、弁棒部35の形状も円柱の他に例えば多角柱や錐等の種々の形状が可能である。
また、本実施形態では、図3に示したように、傘状部34が半球状(ドーム状)に形成されたものとしたが、この傘状部34はこのような形状のものに限定されるものではなく、例えば多角錐、円錐、および楕円錘等の種々の形状が可能である。
また、本実施形態では、図1、図2、図3および図6に示したように、弁体部33が、開弁状態でエア抜き孔32よりラジエータ3側に配置され、傘状部34が、エア抜き孔32よりエンジン2側に配置された構成としたが、これとは逆に、弁体部33が、開弁状態でエア抜き孔32よりエンジン2側に配置され、傘状部34が、エア抜き孔32よりラジエータ3側に配置された構成も可能である。
また、第2実施形態では、図5に示したように、弁体部33を覆うように蓋状部52を設けた構成としたが、この蓋状部52の頂壁部54をなくして筒状部53のみとした構成も可能である。
1 冷却システム
2 エンジン(内燃機関)
3 ラジエータ(放熱器)
8 サーモスタット
31 エア抜き弁
32 エア抜き孔
33 弁体部
34 傘状部
35 弁棒部
36 箱状部
37 周壁部
38 底壁部
39 開口
40 突出部
41 気体封入部
52 蓋状部

Claims (8)

  1. 内燃機関と放熱器との間で冷却水を循環させる冷却水通路に設けられるサーモスタットであって、
    当該サーモスタットの周囲に停滞する空気を排出するエア抜き弁を備え、
    このエア抜き弁は、
    エア抜き孔を閉鎖する弁体部と、
    断面形状が反転するように変形可能な傘状部と、
    この傘状部の中心部と前記弁体部とを相互に連結する弁棒部と、
    前記傘状部の外周部を保持した状態で前記傘状部を収容するとともに、前記傘状部より前記エア抜き孔側の部分に内外を連通する開口が形成された有底筒状の箱状部と、を備え、
    前記エア抜き弁の周囲の圧力状態の変化により生じる前記傘状部の反転変形に応じて前記弁体部が前記エア抜き孔を開閉するようにしたことを特徴とするサーモスタット。
  2. 前記弁体部を収容するとともに、開弁状態にある前記弁体部より前記エア抜き孔側の部分に内外を連通する開口が形成された蓋状部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のサーモスタット。
  3. 前記箱状部における前記開口の少なくとも底壁部側に、前記傘状部の離脱を防止するために内向きに突出する突出部が形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のサーモスタット。
  4. 前記箱状部は金属材料で形成され、この箱状部の周壁部にはその外周面側から打ち抜き加工を行うことにより前記開口が開設され、前記突出部は前記打ち抜き加工により発生するかえりにより形成されたことを特徴とする請求項3に記載のサーモスタット。
  5. 前記箱状部の底壁部と前記傘状部との間に、気体を密封状態で封入した気体封入部が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のサーモスタット。
  6. 前記傘状部の受圧面積が前記弁体部の受圧面積より大きく設定されたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のサーモスタット。
  7. 前記傘状部は、冷却水注水時のバキュームの際に前記エア抜き弁の周囲が大気圧より低い所定の負圧状態となることで前記弁体部を開弁動作させる反転変形が生じる剛性に設定されたことを特徴とする請求項6に記載のサーモスタット。
  8. 前記傘状部は、ウォータポンプの加圧または暖機に伴う水圧上昇により前記エア抜き弁の周囲が大気圧より高い所定の正圧状態となることで前記弁体部を閉弁動作させる反転変形が生じる剛性に設定されたことを特徴とする請求項6または請求項7に記載のサーモスタット。
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