以下に本方法を詳しく説明する。
<有機ボロン酸のアート型錯体について>
本発明で使用する有機ボロン酸アート型錯体は、下記一般式で示される、シロ−イノシトールまたは1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールとの錯体である。
<安定アート型錯体、および有機合成反応用試薬の説明>
本発明に係る有機ボロン酸の安定アート型錯体、または有機合成反応用試薬の陰イオンの部分は、上記一般式(I)、(II)で表されるシロ−イノシトール−アルキル、アルケ
ニル、アルキニル、アリール、ヘテロサイクリック、またはアラルキル−ボロン酸安定アート型錯体陰イオン、並びに1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール−アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロサイクリック、またはアラルキル−ボロン酸安定アート型錯体陰イオンである。
上記の一般式中、R1およびR2で表される有機基のうち、置換基を有していても良いアルキル基としては、直鎖状、分枝状または環状でも良い。直鎖状、分枝状のアルキル基としては、通常炭素数1〜20、好ましくは1〜12のものが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が例示される。また、環状アルキル基としては、通常炭素数3〜20、好ましくは3〜12のものが挙げられ、その具体例としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基等を例示することができる。なお、アルキル基においては、連続しない−CH2−が−O−に置き換えられてもよい。すなわち、−R−(OR’)n−OR”のように表示されるものであってもよい。ここでのR、R’はいずれも直鎖または分岐したアルキレン基を表し、R”はアルキル基を表す。nは0〜4の整数を表すが、特に0〜1が好ましい。これらR、R’、R”は、硫黄や窒素等のヘテロ原子を含んでいてもよい。また、アルキル基はヒドロキシル基を含むヒドロキシアルキル基であってもよい。
置換基を有していても良いアルケニル基としては、直鎖状、分枝状或いは環状の何れでも良く、通常炭素数2〜20、好ましくは2〜12のものが挙げられ、具体的には、例えばビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチルアリル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、2−メチル−2−ペンテニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、4−ヘプテニル基、5−ヘプテニル基、6−ヘプテニル基、2−メチル−2−ヘキセニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、1-シクロブテニル基、1-シクロペンテニル基、1-シクロヘキセニル基等が例示される。
置換基を有していても良いアルキニル基としては、通常炭素数2〜20、好ましくは2〜12のものが挙げられ、直鎖状、分岐状、または環状の何れでも良く、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、1−ぺンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、3−メチル−1−ブチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、シクロオクチニル基、シクロノニニル基、 シクロデシニル基等が例示される。
置換基を有していても良いアリール基としては、通常炭素数6〜20、好ましくは6〜12のものが挙げられ、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基等が例示される。
置換基を有していても良いヘテロ環基としては、通常炭素数2〜20、好ましくは2〜12のものであり、通常5員環または6員環を形成し、例えば1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を環内に含んでいるものが挙げられ、例えばピロリル基、ピロリニル基、ピロリジニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラゾ
リル基、ピラゾリジニル基、ピラゾリニル基、イミダゾリル基、キナゾリニル基、キノリル基、アクリジニル基、トリアゾリル基、トリアジニル基、カルバゾリル基、インドリル基、ピロリジル基、ピラゾリジニル基、ピラゾリニル基、ピペラジニル基、キヌクリジニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、モルホリニル基、チエニル基、チアゾリル基、チアジアオリル基等が例示される。
上記の置換基を有していても良いアラルキル基とは、前述のアルキル基にアリール基が接続した官能基である。このアラルキル基に含まれるアルキル基の部分は、前述のように直鎖や分岐したものが例示される。また、アラルキル基に含まれるアリール基については、前述したような特徴を持つものに加え、例えば1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を環内に含んでいるヘテロアリール基であっても良い。通常炭素数7〜20のものが挙げられ、例えばベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルイソプロピル基、2−フェニルイソプロピル基、4−フェニルベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルイソプロピル基、2−フェニルイソプロピル基、4−フェニルベンジル基、ピリジルメチル、ピリジルエチル、フルフリル基、チエニルメチル基等が例示される。
R1およびR2で示される置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基またはアラルキル基の置換基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
置換基としてのアルキル基としては上記のような直鎖または分岐したアルキル基、もしくはシクロアルカンを含むアルキル基であり、例えば炭素数は1〜10、好ましくは1〜5のものである。なお、アルキル基においては、上記と同様に、連続しない−CH2−が−O−に置き換えられてもよい。また、硫黄や窒素等のヘテロ原子を含んでいてもよい。また、アルキル基はヒドロキシル基を含むヒドロキシアルキル基であってもよい。
置換基としてのアルコキシ基としては、直鎖状、分枝状、または環状のものでも良く、−OR'''のように表示されるものであってもよい。ここでのR'''は前述のアルキル基を表す。例えば炭素数は1〜10、好ましくは1〜5であり、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
置換基としてのアルケニル基またはアルキニル基としては、炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜5のもので、炭素原子同士の二重結合、三重結合を複数有していてもよい。
置換基としてのアリール基としては、炭素数6〜20のものであり、特に炭素数6〜12のものが好ましい。例えばフェニル基やナフチル基が例示され、これらアリール基にアルキル基、アシル基、アミノ基、スルホン基やハロゲン基などの置換基を有するものも含まれる。さらに環内に窒素、酸素、硫黄原子などヘテロ原子を含むヘテロアリール基も含まれる。
置換基としてのアシル基としては、一般に−CO−Rで表される官能基を持つものであればいずれのものでもよい。上記に示したRの部分は前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基のいずれかを表すものである。炭素数は2〜10、特に2〜5のものが好ましい。
一般式(I)、(II)中において、R
1およびR
2で表される官能基として、ボロン酸を置換基として有する、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環
基またはアラルキル基も含まれる。その場合、シロ−イノシトールや、1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールによってボロン酸部分はアート型錯体を形成するため、前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基またはアラルキル基のうちの任意の箇所にボロン酸のアート型錯体が結合している物質になる(例えば、下記の本発明化合物(24)〜(27))。より具体的に説明すると、R
1およびR
2において、シロイノシトールまたは1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールに結合したボロン酸以外にボロン酸がある場合、以下のようなアリール基およびヘテロ環の結合した化合物などが例示される(波線はシロイノシトールまたは1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールとボロン酸の錯体部分を示す)。
1分子にボロン酸が少なくとも2つある有機ボロン酸をシロ−イノシトールと反応させた場合は、シロ−イノシトールが有機ボロン酸2箇所に結合するため、物質はポリマー状態になる。
次に、上記の一般式(I)、(II)の対となる陽イオンについて説明する。
アルカリ金属イオンとしては例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等が挙げられ、このうち、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましい。アルカリ土類金属イオンとしては、例えばベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等が例示される。
ホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラ−n−ブチルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン等が例示される。
さらに、アンモニウムイオンまたは、第1級〜第4級アンモニウムイオンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンのカチオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラ−n−プロピルアンモニウムイオン、テトラ−n−ブチルアンモニウムイオンが例示される。
<選択的クロスカップリング反応用試薬についての説明>
前記一般式(I)の安定アート型錯体において、R
1およびR
2がそれぞれ独立して、ハロゲンまたはトリフラート基を有するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基またはアラルキル基を表す化合物(下記一般式(III))は、選択的クロスカップリング反応用試薬として使用することができる。
本発明の選択的クロスカップリング反応に使用される有機合成反応用試薬の陰イオンの部分は、上記一般式(III)で表されるシロ−イノシトール−アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロサイクリック、またはアラルキル−ボロン酸安定アート型錯体陰イオンである。
この一般式(III)の化合物は選択的クロスカップリング反応に使用されるために、R3およびR4には、一般式(I)で説明した中のアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基またはアラルキル基を表し、Xはハロゲンまたはトリフラート基を表し、nはそれぞれ独立に1から5の整数を示す。
ここで必要なハロゲンとしては、反応性の高い臭素原子、ヨウ素原子が例示される。選択的クロスカップリングにおいては、シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体におけるシロイノシトール部分は保護基として作用させ、上述のハロゲン部分が反応を行う箇所である。
選択的クロスカップリング反応用試薬として、上述の陰イオンの対になる陽イオンには、一般式(I)の対となるような陽イオンが使用できる。
<有機ボロン酸の安定アート型錯体の調製方法>
有機ボロン酸の安定アート型錯体は、以下の(i)、(ii)、(iii)の物質を、適当な溶媒中で混合すれば製造できる。以下、具体的に調製法を述べる。
(i)シロ−イノシトールまたは1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール
(ii)1種類の有機ボロン酸、または複数の有機ボロン酸の混合物
(iii)アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、または第1級〜第4級アンモニウム水酸化物
<シロ−イノシトールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造>
シロ−イノシトールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造は、例えば、対応する有機ボロン酸に対して、0.4〜3.0当量、より好ましくは0.5〜0.7当量のシロ−イノシトール、および上記のアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、または第1級〜第4級アンモニウム水酸化物のいずれかを0.8〜1.5当量、好ましくは0.9〜1.1当量用いることで行うことができる。反応溶媒としては、いわゆる極性溶媒を用いることができるが、入手しやすく、安価、安全であり、かつ環境にも悪影響を与えない、水が好ましい。溶媒の容量としては、当該有機ボロン酸に対し1〜100重量部、より好ましくは5〜25重量部用いる。通常、反応温度は特に限定されず、常温(5〜35℃)、あるいは加熱加圧(40〜120℃)下に反応が行われるが、特に70〜100℃が好ましい。反応時間は、用いた原料が消費され、目的の本発明化合物であるシロ−イノシトール−有機ボロン酸錯体が生成するまでの時間と同等であれば良いが、通常1〜3時間で完了する。反応終了後は、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒(後に減圧留去で溶媒を除く際、反応溶媒の水と共沸し留去しやすいエタノールが好ましい)を、反応溶媒である水の5〜20重量部、好ましくは7.5〜15重量部加え、攪拌することにより、未反応のシロ−イノシトールが沈殿し、ろ過することによりこれを容易に除くことができる。次いで、ろ液を減圧留去し、必要であれば得られた残渣を、例えばトルエンなどの非極性有機溶媒で洗浄することにより、本発明化合物であるシロ−イノシトール−アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロサイクリック、またはアラルキル−ボロン酸安定アート型錯体を得ることができる。また、必要に応じてエタノールや、メタノールなどの極性溶媒を用いて再結晶を行い、高純度の有機ボロン酸安定アート型錯体を得ることができる。さらに、得られた結晶が溶媒和物である際は、加熱下(40〜150℃、好ましくは70〜105℃)で乾燥させることにより、溶媒を含まない固体を得ることができる。
<1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造>
1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造は、例えば、対応する有機ボロン酸に対して、0.8〜3.0当量、より好ましくは1.0〜2.5当量の1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール、および上記のアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、または第1級〜第4級アンモニウム水酸化物のいずれかを0.8〜1.5当量、好ましくは0.9〜1.1当量用いることで行うことができる。反応溶媒としては、いわゆる極性溶媒を用いることができるが、上記と同様の理由により水が好ましい。溶媒の容量としては、当該有機ボロン酸に対し1〜50重量部、より好ましくは5〜25重量部用いる。通常、反応温度は特に限定されず、常温(5〜35℃)、あるいは加熱加圧(40〜120℃)下に反応が行われるが、特に70〜100℃が好ましい。反応時間は、用いた原料が消費され、目的の本発明化合物である1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール−有機ボロン酸錯体が生成するまでの時間と同等であれば良いが、通常1〜3時間で完了する。反応終了後は、溶媒を減圧留去し、必要であれば得られた残渣を、例えばトルエンなどの非極性有機溶媒で洗浄することにより、本発明化合物である1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール−アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロサイクリック、またはアラルキル−ボロン酸安定アート型錯体を得ることができる。また、必要に応じてエタノールや、メタノールなどの極性溶媒を用いて再結晶を行い、高純度の有機ボロン酸安定アート型錯体を得ることができる。さらに、得られた結晶が溶媒和物である際は、加熱下(40〜150℃、好ましくは70〜105℃)で乾燥させることにより、溶媒を含まない固体を得ることができる。
以上により得られた本発明化合物は安定なアート型錯体であるので、脱水三量化を引き起こしやすい遊離の有機ボロン酸と比較して正確な定量が容易であり、また例えば無溶媒物を用いれば、炭素−窒素結合反応の一つであるN−アリール化のように、厳密に禁水条件を必要とする反応に用いることが可能である。
本発明化合物である、上記一般式(I)、(II)で表されるシロ−イノシトールおよび有機ボロン酸からなる安定アート型錯体、または、1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールのおよび有機ボロン酸からなる安定アート型錯体の具体的な例として、以下に本発明化合物(1)〜(27)を例示するが、必ずしも本発明化合物はこれらに限定されるものではない。
<本発明化合物を用いたクロスカップリングにおける反応基としての使用例>
本発明化合物であるシロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体および1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール−有機ボロン酸安定アート型錯体は、穏和な温度条件で合成でき、脱水三量化しない、塩基等による活性化を必要としない等の利点を有しているため、安定かつ高活性な有機ホウ素試薬、即ち、炭素−炭素結合形成反応、炭素−窒素結合形成反応、炭素−酸素結合形成反応、炭素−硫黄結合形成反応等の有機合成反応(より具体的には、例えばクロスカップリング反応、付加反応等)用試薬として用いることができる。
<シロ−イノシトールの有機ボロン酸安定アート型錯体を用いた反応方法>
一般式(I)で表される化合物(単に本発明化合物(I)という)を反応基として利用する場合の試薬の量は、シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体は1分子中に2個の反応点を有しているため、これを0.5モル当量とした時、反応させる有機ハロゲン化合物または有機トリフラート化合物は1.0〜1.2モル当量が望ましい。また、触媒は0.1〜6%モル当量を使用するのが望ましい。
反応溶媒は上述の試薬が溶解するか、半溶解すればよい。好ましくは、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、メトキシエタノール、水などが例示される。好ましくは、本発明化合物(I)は錯体の塩であることから、極性の高い溶媒や、これらの有機溶媒と水を混合した溶媒系において最も良く溶解する。さらに、本発明化合物(I)は溶媒にジオール系溶媒を加えることにより、反応が顕著に促進される。添加するジオール系溶媒の種類は、エチレングリコール、プロパンジオール、またはブタンジオールが例示されるが、この中ではエチレングリコールの効果が最も高い。添加する量は、5%容量部以上含有すれば反応速度は顕著に増加するが、50%容量部以上加えても反応速度はそれ以上あまり増加しない。
反応触媒は、鉄触媒、ルテニウム触媒、オスミウム触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、白金触媒、コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒、銅触媒、銀触媒、金触媒が例示されるが、例えば鈴木カップリング反応に用いられるものは、好ましくはパラジウム触媒である。パラジウム触媒の具体例としては、Pd(OH)2等の水酸化パラジウム触媒、PdO等の酸化パラジウム触媒、PdBr2、PdCl2、PdI2等のハロゲン化パラジウム触媒、パラジウムアセテート(Pd(OAc)2),パラジウムトリフルオロアセテート(Pd(OCOCF3)2)等のパラジウム酢酸塩触媒などが例示される。
本発明化合物(I)を用いたクロスカップリングにおいて、触媒に配位子を有する化合物を使用すると反応速度は低下することが判っているので、一般的な配位子であるトリフェニルホスフィン(PPh3),ジフェニルホスフィノフェロセン(DPPF),トリメチルホスフィン(P(CH3)3),トリエチルホスフィン(PEt3),トリtert-ブチルホスフィン(PtBu3),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3),などは使用しないことが好ましい。
本発明化合物(I)を用いたクロスカップリングにおいて用いられる有機ハロゲン化合物は例えばアリールハロゲン化合物、アルケニルハロゲン化合物、アルキニルハロゲン化合物、ヘテロ環ハロゲン化合物など、通常の鈴木カップリングに使用されるハロゲン化合物が例示される。ハロゲンの種類は反応の容易さから、臭素、ヨウ素による置換体が好ましい。また、本発明化合物(I)を用いたクロスカップリングにおいて、アリールトリフレート化合物、アルケニルトリフレート化合物、アルキニルトリフレート化合物、アリールトリフレート化合物、ヘテロ環トリフレート化合物などの有機トリフラート化合物も用いることが出来る。
反応系の制御は、加熱が必要であれば高温下において反応を促進させることが可能である。また、反応時間を長く取ることで収率を上げることも可能であるが通常24時間以内に終了する。反応の経過と共に、シロ−イノシトールが反応系に遊離し、この物質は水以
外の有機溶媒にはほとんど溶解しないため、反応液中に析出して濁る傾向がある。
反応終了後は、必要ならば溶媒を留去する操作を加え、有機溶媒を添加して目的物を溶解し、反応液をろ別することで、反応物質を含むろ液を得ることができる。この溶液を一般的な方法(分液操作、カラムクロマトグラフィーや、結晶化など)で精製を行うことによって目的物質を得ることが可能である。必要があればろ別した固体からシロ−イノシトールを抽出回収することが可能である。
<1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの有機ボロン酸安定アート型錯体を用いた反応方法>
本発明化合物(II)を反応基として利用する場合の試薬の量は、1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール−有機ボロン酸安定アート型錯体が、1.0モル当量とした時、反応させる有機ハロゲン化合物または有機トリフラート化合物は1.0〜1.2モル当量が望ましい。また、触媒は0.1〜6%モル等量を使用するのが望ましい。
反応溶媒は上述の試薬が溶解するか、半溶解すればよい。好ましくは、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、メトキシエタノール、水などが例示される。好ましくは、本発明化合物(II)は錯体の塩であることから、極性の高い溶媒や、これらの有機溶媒と水を混合した溶媒系において最も良く溶解する。また、本発明化合物(II)は特に溶媒にジオール系溶媒を加えることによる効果は特に無い。
反応触媒は、鉄触媒、ルテニウム触媒、オスミウム触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、白金触媒、コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒、銅触媒、銀触媒、金触媒が例示されるが、例えば鈴木カップリング反応に用いられるものは好ましくはパラジウム触媒である。パラジウム触媒の具体例としては、Pd(OH)2等の水酸化パラジウム触媒、PdO等の酸化パラジウム触媒、PdBr2、PdCl2、PdI2等のハロゲン化パラジウム触媒、パラジウムアセテート(Pd(OAc)2),パラジウムトリフルオロアセテート(Pd(OCOCF3)2)等のパラジウム酢酸塩触媒などが例示される。また、例えば炭素−窒素結合を形成するN−アリール化反応において好ましくは銅触媒が用いられる。銅触媒の具体例としては、酢酸銅、またはトリフルオロ酢酸銅などの銅酢酸塩触媒が例示される。
一般式(II)で表される化合物(単に本発明化合物(II)という)を用いたクロスカップリングにおいて、配位子を使用することができる。従って、一般的な配位子であるトリフェニルホスフィン(PPh3),ジフェニルホスフィノフェロセン(DPPF),トリメチルホスフィン(P(CH3)3),トリエチルホスフィン(PEt3),トリtert-ブチルホスフィン(PtBu3),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)などの使用が例示される。
本発明化合物(II)を用いたクロスカップリングにおいて用いられる有機ハロゲン化合物は例えばアリールハロゲン化合物、アルケニルハロゲン化合物、アルキニルハロゲン化合物、ヘテロ環ハロゲン化合物など、通常の鈴木カップリングに使用されるハロゲン化合物が例示される。ハロゲンの種類は反応の容易さから、臭素、ヨウ素による置換体が好ましい。また、本発明化合物(II)を用いたクロスカップリングにおいて、アリールトリフレート化合物、アルケニルトリフレート化合物、アルキニルトリフレート化合物、アリールトリフレート化合物、ヘテロ環トリフレート化合物などの有機トリフラート化合物も用いることが出来る。
本発明化合物(II)を用いた炭素−窒素結合反応において、用いられるアミン化合物は、置換基を有していても良い、直鎖または分岐、または脂環式の第1〜第2級のアルキルアミン(好ましくは炭素数1〜5)が例示される。
本発明化合物(II)を用いた炭素−酸素結合反応において、用いられるアルコール化合物は、置換基を有していても良い、直鎖または分岐、または脂環式の第1〜第3級のアルコール(好ましくは炭素数1〜5)、あるいは、置換基を有しても良いフェノールが例示される。
本発明化合物(II)を用いた炭素−硫黄結合反応において、用いられるチオアルコール化合物は、置換基を有していても良い、直鎖または分岐、または脂環式の第1〜第3級のチオアルコール(好ましくは炭素数1〜5)、あるいは、置換基を有しても良いチオフェノールが例示される。
反応系の制御は、加熱が必要であれば高温下において反応を促進させることが可能である。また、反応時間を長く取ることで収率を上げることも可能であるが通常24時間以内に終了する。
反応終了後は、必要ならば溶媒を留去する操作を加え、有機溶媒を添加して目的物を溶解し、反応液をろ別することで、反応物質を含むろ液を得ることができる。この溶液を一般的な方法(分液操作、カラムクロマトグラフィーや、結晶化など)で精製を行うことによって目的物質を得ることが可能である。
<本発明化合物の連続的クロスカップリングにおける保護基としての使用例>
連続的クロスカップリングとは、ハロゲンまたはトリフラート基と保護基(シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体部分)を付けた有機ボロン酸化合物(上記一般式III:単に本発明化合物(III)という)を用いて、これのハロゲンまたはトリフラート基に他の有機ボロン酸(R
5-B(OH)
2:R
5はアリール基、アルケニル基、アルキニル基またはヘテロ環を示す)を反応させて第一カップリング産物(R
5-R
3-Art-R
4-R
5:Artはシロ−イノシトール−ボロン酸安定アート型錯体部分)を得た後に、保護基を外した有機ボロン酸を得(R
5-R
3-B(OH)
2およびR
5-R
4-B(OH)
2)、さらに他の有機ボロン酸化合物(上記一般式III)を連続的に反応させる一連の操作を言う。以下にその例として、本発明化合物(III)を用いたオリゴアレーンの製造を説明する。
図のように、反応を連続させることによって、A環、B環、B'環と連続的に結合させることができる反応を言う。本発明化合物(III)はB環、B'環のような化合物を提供するものである。例示は最も単純な構造であるベンゼン環を記載したがこの構造に限定されるものではない。
本発明化合物(III)を利用する場合の試薬の量は、シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体(図中、B環化合物に相当)が、1分子に2個の反応点を有する分子が結合しているため0.5モル当量とした時、反応させる有機ボロン酸化合物(図中、A環化合物に相当)は1.0〜1.2モル当量が望ましい。また、触媒は0.1〜6%モル当量を使用するのが望ましい。また、B環物質のハロゲンは反応性の高い方が良いため、臭素かヨウ素が望ましい。ハロゲンの位置はB環のオルトの位置以外の位置が好ましい(
オルト位は反応性が低い)。
反応溶媒は上述の試薬が溶解するか、半溶解すればよい。好ましくは、トルエン、THF、メタノール、エタノール、DMF、DMSO、アセトニトリル、ジメトキシエタン、メトキシエタノール、水などが例示される。好ましくは、本発明化合物(III)は塩であることから、極性の高い溶媒や、これらの有機溶媒と水を混合した溶媒系において最も良く溶解する。この反応ではシロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体は保護基として用いるために、すなわち、本発明化合物(III)の化合物同士が反応することを避けるため、ジオール系溶媒は加えないことが好ましい。
反応触媒は、鉄触媒、ルテニウム触媒、オスミウム触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、白金触媒、コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒、銅触媒、銀触媒、金触媒が例示されるが、好ましくはパラジウム触媒である。パラジウム触媒の具体例としては、Pd(OH)2等の水酸化パラジウム触媒、PdO等の酸化パラジウム触媒、PdBr2、PdCl2、PdI2等のハロゲン化パラジウム触媒、パラジウムアセテート(Pd(OAc)2),パラジウムトリフルオロアセテート(Pd(OCOCF3)2)等のパラジウム酢酸塩触媒などが例示される。
保護基として本発明化合物(III)を用いた場合、触媒に配位子を有する化合物を使用することが好ましく、一般的な配位子であるトリフェニルホスフィン(PPh3),ジフェニルホスフィノフェロセン(DPPF),トリメチルホスフィン(P(CH3)3),トリエチルホスフィン(PEt3),トリtert-ブチルホスフィン(PtBu3),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)などはA環化合物と反応すれば使用して構わない。
本発明化合物(III)を用いたクロスカップリングにおいて用いられる有機ボロン酸化合物(A環化合物)は例えばアリールボロン酸化合物、アルケニルボロン酸化合物、アルキニルボロン酸化合物、ヘテロ環ボロン酸化合物など、通常の鈴木カップリングに使用される有機ボロン酸化合物が例示される。有機ボロン酸は、無保護の有機ボロン酸のほか、有機ボロン酸ピナコラートエステル、有機ボロン酸エチレングリコールエステルなどの有機ボロン酸エステル類が使用可能である。
反応系の制御は、加熱が必要であれば高温下において反応を促進させることが可能である。また、反応時間を長く取ることで収率を上げることも可能であるが通常24時間以内に終了する。
反応終了後は、脱保護を行う場合、反応溶液を塩酸のような一般的な酸を添加してpH3以下にすることで容易に脱保護し、反応溶液中にシロ−イノシトールが析出する。必要ならば溶媒を留去する操作を加え、有機溶媒を添加して目的物を溶解し、反応液をろ別することで、反応物質を含むろ液を得ることができる。この溶液を一般的な方法(分液操作、カラムクロマトグラフィーや、結晶化など)で精製を行うことによって目的物質を得ることが可能である。必要があればろ別した固体からシロ−イノシトールを抽出回収することが可能である。
その後、さらに図中、B'環化合物を用いて、第二カップリング反応を同様の操作で結合させることで連続的に目的の環を結合させた化合物が製造できる。ここではアリール基を例示したが、同じ方法で、アルケニル基、アルキニル基、ヘテロ環基またはアラルキル基の結合が可能である。
<本発明化合物(III)の選択的クロスカップリングにおける保護基及び反応基としての使用例>
選択的クロスカップリングの利用法として、ハロゲンまたはトリフラート基と保護基(
シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体部分)を付けた本発明化合物(III)を用いて、これのハロゲンまたはトリフラート基に他の有機ボロン酸(R
5-B(OH)
2:R
5はアリール基、アルケニル基、アルキニル基またはヘテロ環を示す)を反応させて第一カップリング産物(R
5-R
3-Art-R
4-R
5:Artはシロ−イノシトール−ボロン酸安定アート型錯体部分)を得た後に、保護基を外さずに、さらに上述したような有機ハロゲン化合物または有機トリフラート化合物を選択的に反応させる方法が可能である。以下にその例として、本発明化合物(III)を用いたオリゴアレーンの製造を説明する。
図の第二カップリング反応の部分に示されるように、反応条件を変更することによって、保護基から反応基に切り替え、脱保護工程を行わず、A環、B環、C環と選択的に結合させることができる。例示は最も単純な構造であるベンゼン環を記載したがこの構造に限定されるものではない。本発明化合物(III)はB環のような化合物を提供するものであり、1Pot合成のような工業的有用価値がある反応である。
本発明化合物(III)を利用する場合の試薬の量は、シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体(図中、B環化合物に相当)が、1分子に2個の反応点を有する分子が結合しているため0.5モル当量とした時、反応させる有機ボロン酸化合物(図中、A環化合物に相当)は1.0〜1.1モル当量が望ましい。また、触媒は0.1〜6%モル当量を使用するのが望ましい。また、B環物質のハロゲンは反応性の高い方が良いため、臭素かヨウ素が望ましい。ハロゲンの位置はB環のオルト位以外の位置が好ましい(オルト位は反応性が低い)。
反応溶媒は上述の試薬が溶解するか、半溶解すればよい。好ましくは、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、メトキシエタノール、水などが例示される。好ましくは、本発明化合物(III)は錯体の塩であることから、極性の高い溶媒や、これらの有機溶媒と水を混合した溶媒系において最も良く溶解する。この第一カップリング反応ではシロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体は保護基として用いるために、すなわち、本発明化合物(III)の化合物同士が反応することを避けるため、ジオール系溶媒は加えないことが好ましい。そして、第二カップリング反応の際にジオール系溶媒を加えることが好ましい。
反応触媒は、鉄触媒、ルテニウム触媒、オスミウム触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、白金触媒、コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒、銅触媒、銀触媒、金触媒が例示されるが、好ましくはパラジウム触媒である。パラジウム触媒の具体例としては、Pd(OH)2等の水酸化パラジウム触媒、PdO等の酸化パラジウム触媒、PdBr2、PdCl2、PdI2等のハロゲン化パラジウム触媒、パラジウムアセテート(Pd(OAc)2),パラジウムトリフルオロアセテート(Pd(OCOCF3)2)等のパラジウム酢酸塩触媒などが例示される。
保護基として本発明化合物(III)を用いた場合、触媒に配位子を有する化合物を使用してもよく、一般的な配位子であるトリフェニルホスフィン(PPh3),ジフェニルホスフィ
ノフェロセン(DPPF),トリメチルホスフィン(P(CH3)3),トリエチルホスフィン(PEt3),トリtert-ブチルホスフィン(PtBu3),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)などはA環化合物と反応すれば使用して構わないが、触媒に配位子を有する化合物は第二クロスカップリング反応を触媒する効率が低下するため、第二クロスカップリング反応も同じ触媒を用いる場合には、配位子を有する触媒は使用しないほうが好ましい。
本発明化合物(III)を用いたクロスカップリングにおいて用いられる有機ボロン酸化合物(A環化合物)は例えばアリールボロン酸化合物、アルケニルボロン酸化合物、アルキニルボロン酸化合物、ヘテロ環ボロン酸化合物など、通常の鈴木カップリングに使用される有機ボロン酸化合物が例示される。有機ボロン酸は、無保護の有機ボロン酸のほか、有機ボロン酸ピナコラートエステル、有機ボロン酸エチレングリコールエステルなどの有機ボロン酸エステル類が使用可能である。
反応系の制御は、加熱が必要であれば温度をかけて反応を促進させることが可能である。また、反応時間を長く取ることで収率を上げることも可能であるが通常24時間以内に終了する。
反応終了後、必要があれば「連続的クロスカップリングにおける保護基としての使用例」で述べたような脱保護して精製を行うことが可能であるが、当該使用例では精製することなく、引き続き、第二カップリング反応を行うことが可能である。
第二カップリング反応では、溶媒にエチレングリコールを5〜50%容量、好ましくは20%容量添加して混合後に、C環化合物(最も単純な物質の例として、ブロモベンゼンのような有機ハロゲン化合物)を1.0〜1.5モル当量添加することで反応を開始することができる。触媒は特に追加する必要は無いが、第一カップリング反応と同じ触媒を0.1〜6%モル当量を使用すると反応速度が向上する。
反応系の制御は、加熱が必要であれば温度をかけて反応を促進させることが可能である。また、反応時間を長く取ることで収率を上げることも可能であるが通常24時間以内に終了する。
反応終了後は、反応溶液中にシロ−イノシトールが析出する。必要ならば溶媒を留去する操作を加え、有機溶媒を添加して目的物を溶解し、反応液をろ別することで、反応物質を含むろ液を得ることができる。この溶液を一般的な方法(カラムクロマトグラフィーや、結晶化など)で精製を行うことによって目的物質を得ることが可能である。必要があればろ別した固体からシロ−イノシトールを抽出回収することが可能である。
<本発明化合物(III)の選択的クロスカップリングにおける反応基としての使用例>
ハロゲンまたはトリフラート基と保護基(シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体部分)を付けた本発明化合物(III)を用いた選択的クロスカップリングの利用法として、該有機ボロン酸化合物におけるハロゲンとボロン酸の位置が隣接(オルト位)の場合に限り、安定アート型錯体の嵩高さが隣接するハロゲンの反応性を著しく弱めるために、安定アート型錯体をジオール系溶媒中で、上述したような有機ハロゲン化合物または有機トリフラート化合物(アリールBr体など)と、活性化された反応基として反応させることができる。以下にその例として、本発明化合物(III)を用いたオリゴアレーンの製造を説明する。
図のカップリング反応の部分に示されるように、反応条件を変更することによって、反応基として利用し、選択的なハロゲンと反応させ、A環−X1、B環−ボロン酸と選択的に結合させることができる。例示は最も単純な構造であるベンゼン環を記載したがこの構造に限定されるものではない。本発明化合物(III)はB環のようなハロゲンとボロン酸の位置が隣接(オルト位)している化合物を提供するものであり、位置選択的ハロゲン化物の合成のような工業的有用価値がある反応である。
本発明化合物(III)を利用する場合の試薬の量は、シロ−イノシトール−有機ボロン酸安定アート型錯体(図中、B環化合物に相当)が、1分子に2個の分子が結合しているため0.5モル当量とした時、反応させる有機ハロゲン化物(図中、A環化合物に相当)は1.0〜1.1モル当量が望ましい。また、触媒は0.1〜6%モル当量を使用するのが望ましい。また、A環物質のハロゲンは反応性の高い方が良いため、臭素かヨウ素が望ましい。
反応溶媒は上述の試薬が溶解するか、半溶解すればよい。好ましくは、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、メトキシエタノール、水などが例示される。好ましくは、本発明化合物(III)は錯体の塩であることから、極性の高い溶媒や、これらの有機溶媒と水を混合した溶媒系において最も良く溶解する。
このクロスカップリング反応では本発明化合物(III)は活性化された反応基として用いるために、ジオール系溶媒を加えると活性が著しく増加する。添加するジオール系溶媒は、例えば、エチレングリコールを5〜50%容量、好ましくは20%容量添加するのが望ましい。
反応触媒は、鉄触媒、ルテニウム触媒、オスミウム触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、白金触媒、コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒、銅触媒、銀触媒、金触媒が例示されるが、好ましくはパラジウム触媒である。パラジウム触媒の具体例としては、Pd(OH)2等の水酸化パラジウム触媒、PdO等の酸化パラジウム触媒、PdBr2、PdCl2、PdI2等のハロゲン化パラジウム触媒、パラジウムアセテート(Pd(OAc)2),パラジウムトリフルオロアセテート(Pd(OCOCF3)2)等のパラジウム酢酸塩触媒などが例示される。
本発明化合物(III)を用いたカップリングにおいて用いられる有機ハロゲン化物(A環化合物)は例えばアリールハロゲン化物、アルケニルハロゲン化物、アルキニルハロゲン化物、ヘテロ環ハロゲン化物など、通常の鈴木カップリングに使用される有機ハロゲン化物が例示される。
反応系の制御は、加熱が必要であれば温度をかけて反応を促進させることが可能である。また、反応時間を長く取ることで収率を上げることも可能であるが通常24時間以内に終了する。
反応終了後は、反応溶液中にシロ−イノシトールが析出する。必要ならば溶媒を留去す
る操作を加え、有機溶媒を添加して目的物を溶解し、反応液をろ別することで、反応物質を含むろ液を得ることができる。この溶液を一般的な方法(カラムクロマトグラフィーや、結晶化など)で精製を行うことによって目的物質を得ることが可能である。必要があればろ別した固体からシロ−イノシトールを抽出回収することが可能である。
<不安定な有機ボロン酸を安定アート型錯体の塩として精製する方法>
不安定な有機ボロン酸として、ビニルボロン酸、またはビニルボロン酸を基本構造とするアルケニルボロン酸、もしくは、エチニルボロン酸、またはエチニルボロン酸を基本構造とするアルキニルボロン酸などが例示される。これらのボロン酸は重合、酸化などの反応が生じやすく不安定であり、ボロン酸の状態での取り扱いは品質が安定しにくい。
これらの不安定な有機ボロン酸を取り扱う場合は、上述した「シロ−イノシトールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造」及び「1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造」に記載した方法を基本的に使用可能であるが、以下の留意点がある。
これらのボロン酸の安定アート型錯体の塩を形成させる方法として留意する点は、酸、アルカリの強い条件や、高い温度条件は避けることが好ましい。具体的には、これらのボロン酸を水にアルカリを加えながら溶解する時は、pHが極端にアルカリにならないように徐々にアルカリを加え、pHが12以下で溶解操作を終えるのが好ましい。
反応温度は室温〜50℃が好ましい。反応時間は温度が低い場合、通常よりも長く、反応は数日以内に完了する。反応終了後の処理は、「シロ−イノシトールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造」及び「1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの有機ボロン酸安定アート型錯体の製造」に記載した基本的な精製方法を使用して再結晶操作を行うことができるが、得られた結晶が溶媒和物である際は、加熱は避け、減圧下(50℃以下、好ましくは室温)で乾燥させ、溶媒を除去するほうが好ましい。
[実施例]
次に本発明の化合物について試験例を挙げて具体的に示す。
<有機ボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体の調製>
有機ボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体の調製について実験例を挙げて説明する。
式中、M
+は上記したアルカリ金属イオン、または、第4級アンモニウムイオンを表す。
(本発明区1)4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体の
調製
728mg(4.05mmol)のシロ−イノシトール、413mg(7.36mmol)の水酸化カリウムおよび1.00g(7.34mmol)の4−メチルフェニルボロン酸を15mLの熱水に懸濁させた。1時間加熱還流した後、溶液が透明になっていることを確認し、室温まで放冷した。150mLのエタノールを加えよく攪拌し、生じた不溶物をろ過によって除いた。ろ液を減圧濃縮し、残渣をトルエンで洗浄し、減圧乾燥した。得られた粉末を150℃において重量が恒量となるまで乾燥し、白色粉末として、1.41g(84%)の4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩が得られた。
C20H20B2K2O6 MW:456.19(計算値)、1H−NMR(400MHz/DMSO−d6)δ(ppm):2.18(s、6H)、3.73(s、6H)、6.77−6.79(m、4H)、7.23−7.25(m、4H)、13C−NMR(100MHz/DMSO−d6)δ(ppm):21.07、70.64、126.07、134.52、132.20、(ホウ素と結合している炭素のピークは観察されなかった)
(本発明区2)n−ブチルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体の調製
437mg(2.43mmol)のシロ−イノシトール、247mg(4.41mmol)の水酸化カリウムおよび450mg(4.41mmol)のn−ブチルボロン酸を7mLの熱水に懸濁させた。1時間加熱還流した後、溶液が透明になっていることを確認し、室温まで放冷した。70mLのエタノールを加えよく攪拌し、生じた不溶物をろ過によって除いた。ろ液を減圧濃縮し、残渣をトルエンでよく洗浄した。得られた粉末を真空乾燥し、重量が恒量となるまで105℃で加熱したところ、白色粉末として、735mg(86%)のn−ブチルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩が得られた。
C14H24B2K2O6 MW:388.16(計算値)、1H−NMR(400MHz/DMSO−d6)δ(ppm):−0.29(t、J=8.0Hz、4H)、0.77(t、J=7.1Hz、6H)、0.99−1.14(m、8H)、3.46(s、6H)、13C−NMR(100MHz/DMSO−d6)δ(ppm):14.56、26.65、28.7、70.32、(ホウ素と結合している炭素のピークは観察されなかった)
本発明区3〜20は、同様のモル数比によって試薬量を調整して、同様の操作を行った。有機ボロン酸には4−メチルフェニルボロン酸、フェニルボロン酸、4−メトキシフェニルボロン酸、4−n−ブトキシフェニルボロン酸、4-トリフルオロメチルフェニルボロン酸、2−メチルフェニルボロン酸、4−フルオロフェニルボロン酸、4−クロロフェニルボロン酸、4−ブロモフェニルボロン酸、3−ブロモフェニルボロン酸、2−ブロモフェニルボロン酸、4−ヨードフェニルボロン酸、4−ビフェニルボロン酸、3−ピリジルボロン酸、4−アセチルフェニルボロン酸、ナフチルボロン酸、4−n−ブチルフェニルボロン酸、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラブチルアンモニウムを組み合わせて試験した結果を表に記載した。
結果から明らかなように、高い収率で本発明化合物であるシロ−イノシトールと有機ボロン酸からなる安定アート型錯体が得られる。また、NMR測定から、いずれも高純度でシロ−イノシトールの安定アート型錯体を得られたことが判明している。
<1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体の調製>
1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体の調製について実験例を挙げて説明する。
式中、M
+は上記したアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ホスホニウムイオン、アンモニウムイオンまたは、第1級〜第4級アンモニウムイオンを表す。
(本発明区21)1,3,5−シス−シクロヘキサントリオール500mg(3.78mmol)、4−メチルフェニルボロン酸1.03g(7.56mmol)、水酸化カリウム282mg(3.78mmol)を7mL中の熱水に懸濁し、1時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却し、エタノールと共沸させながら、減圧濃縮した。残渣をトルエンでよく洗浄し、減圧下乾燥させたところ、白色粉末として906mgの1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールとシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩が得られた(89%)。なお、この粉末を105℃で4時間加熱したが、重量および1H
−NMRスペクトルに変化はなかった。
C13H16BKO3 MW:270.17(計算値)、1H−NMR(400MHz/DMSO−d6)δ(ppm):1.46(d、J=11.0Hz、3H)、2.10−2.13(m、3H)、2.17(s、3H)、4.03(br s、3H)、6.76−6.78(m、2H)、7.20−7.22(m、2H)、13C−NMR(100MHz/DMSO−d6)δ(ppm):21.06、66.02、126.06、131.85、(ホウ素と結合している炭素のピークは観察されなかった)
本発明区22〜27は、同様のモル数比によって試薬量を調整して、同様の操作を行った。有機ボロン酸には4−メトキシフェニルボロン酸、4−ブロモフェニルボロン酸、パラ−フェニルジボロン酸、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムを組み合わせて試験した結果を表に記載した。
結果から明らかなように、高い収率で本発明化合物である1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールと有機ボロン酸からなる安定アート型錯体の塩が得られる。
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における使用例1>
シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における反応試薬または保護化型試薬としての使用例について実験例を挙げて説明する。
(本発明区28)反応基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩100mg(0.219mmol)、4−Br−安息香酸メチル79mg(0.366mmol)、酢酸パラジウム4mg(0.02mmol)を脱気したDMF:水:エチレングリコール(4:1:1)混合溶媒3.6mLに懸濁し、室温で4時間攪拌し反応させた。反応終了後10mLの水を加え、40mLのジエチルエーテルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、白色粉末として80mgの目的物が得られた(収率97%)。
C15H14O2 MW:226.27(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):2.40(s、3H)、3.93(s、3H)、7.25−7.28(m、2H)、7.51−7.54(m、2H)、7.63−7.66(m、2H)、8.07−8.10(m、2H)、13C−NMR(100MHz/CDCl3)δ(ppm):21.14、52.07、126.77、127.09、128.58、129.63、130.06、137.08、138.10、145.56、167.04
(本発明区29)保護基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩100mg(0.219mmol)、4−Br−安息香酸メチル79mg(0.366mmol)、トリフェニルホスフィン配位子-パラジウム10mg(0.02mmol)を脱気したDMF:水:エチレングリコール(4:1:1)混合溶媒3.6mLに懸濁し、室温で4時間攪拌し反応させた。反応終了後、10mLの水を加え、40mLのジエチルエーテルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したが、反応は進行せず、目的物は得られなかった。
(本発明区30)保護基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩100mg(0.219mmol)、4−Br−安息香酸メチル79mg(0.366mmol)、酢酸パラジウム4mg(0.02mmol)を脱気したDMF:水(5:1)混合溶媒3.6mLに懸濁し、室温で4時間攪拌し反応させた。反応終了後、10mLの水を加え、40mLのジエチルエーテルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、14mgの目的物が得られた(収率20%)。
(本発明区31)保護基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩100mg(0.219mmol)、4−Br−安息香酸メチル79mg(0.366mmol)、トリフェニルホスフィン配位子-パラジウム10mg(0.02mmol)を脱気したDMF:水(5:1)混合溶媒3.6mLに懸濁し、室温で4時間攪拌し反応させた。反応終了後、10mLの水を加え、40mLのジエチルエーテルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したが、反応は進行せず、目的物は得られなかった。
(比較区1〜4)比較区1〜4は、番号が相当する本発明区28〜31に使用した4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩100mgの代わりに、錯体を形成していない4−メチルフェニルボロン酸60mg(0.438mmol)、炭酸カリウム60mg(0.438mmol)を添加した以外は、本発明区1〜4と同様に操作を行った。その結果、比較区1では78mg(収率95%)の目的物が得られ、次いで試験区2は73mg(収率89%)、試験区3は77mg(収率93%)、試験区4は53mg(収率64%)の目的物が得られた。
結果を以下の表に示した。反応溶媒の違いと、触媒の違いに分けて、単離収率を表示した。
試験結果から示されるように、4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応において、本発明区28では、エチレングリコールを含む溶媒で、酢酸パラジウムを使用すると反応が効率よく進行することがわかる。すなわち本発明区28の条件は、シロ−イノシトールの安定アート型錯体を活性化された反応基として用いることができることを示している。
また、本発明区29、31のクロスカップリング反応では、溶媒条件に依存せず、配位子を有するパラジウム触媒を用いることにより反応が進行しないことが判る。比較区2、4の無保護の4−メチルフェニルボロン酸はこの条件で反応していることを考えると、エチレングリコールの添加は、シロ−イノシトールの安定アート型錯体を分解している訳ではないことが判る。このことから本発明区29、31によって示されるように、本発明化合物は配位子を有する金属触媒の存在下では保護基化された反応試薬として利用できることが提示される。
さらに、本発明区30ではエチレングリコールがない場合でも、反応の速度は遅くなるがクロスカップリング反応は進行することがわかる。しかし、その反応速度は比較区3と比べるとより遅いことがわかる。
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における使用例2>
シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における反応試薬または保護化型試薬としての使用例について実験例を挙げて説明する。
上記スキームに示すように、4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩82mg(0.18mmol)、種々の置換基を有するアリールBr体0.40mmolを、触媒として酢酸パラジウム1.7mg(0.01mmol)または、トリフェニルホスフィン配位子-パラジウム4.3mg(0.01mmol)を
、反応溶媒としてエタノール:水:エチレングリコール(4:1:1)混合溶媒3.6mLまたは、エタノール:水(5:1)混合溶媒3.6mLに懸濁し、室温で24時間攪拌した。反応後の評価は、シリカゲルTLCを用いて、反応液2μlを酢酸エチル:ヘキサン(1:1)溶媒で展開し、原料の4−メチルフェニルボロン酸を過マンガン酸カリウムで発色させ、画像解析により減少程度を測定し、反応変換率を算出した。但し、画像解析は精度が低いため10%単位での評価になる。
結果を以下の表に示した。各官能基別に、反応条件の違いにより得られた反応変換率を表示した。
試験結果から示されるように、本発明区32は、エチレングリコールがあり、かつ触媒に配位子が無い試験区は置換基によって反応収率は異なるが、90%以上の反応変換率を示す試験区が多いことが判る。特に電子吸引性の置換基の結合したBr体の反応性が高い傾向があり、また、電子供与性の置換基の結合したBr体や、立体障害のあるBr体の反応性は低い傾向があった。
本発明区34の反応条件は、エチレングリコールが無く、かつ触媒に配位子が無い試験区である。本発明区34の反応収率は置換基によって反応収率は異なるが、高くても60%であり、反応性の低いBr体では0%であることが判る。特に電子吸引性の置換基の結合したBr体の反応性が高い傾向があり、また、電子供与性の置換基の結合したBr体や、立体障害のあるBr体の反応性は消失する傾向があった。
本発明区32と本発明区34を比べると、配位子の無い触媒を用いたときに、エチレングリコールが添加されるとシロ−イノシトールの安定アート型錯体部分は活性化した反応基になることがわかる。
また、本発明区33、35は、エチレングリコールの有無に関わらず、配位子のある触媒を用いた場合、全ての試験区で反応が進行しないことが判る。従って、配位子のある触媒を用いた場合、シロ−イノシトールの安定アート型錯体部分は保護基として作用していることがわかる。
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における使用例3>
実施例3、4で説明したシロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応を、各種官能基を有するアリールBr体と反応させ、反応性の比較を行った。
(本発明区36)本発明区28において用いるアリールBr体を、1−ブロモ−4−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン55μL(0.366mmol)とした以外は、本発明区28と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区37)本発明区28において用いるアリールBr体を、4−ブロモ−ニトロベンゼン74mg(0.366mmol)とした以外は、本発明区28と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区38)本発明区28において用いるアリールBr体を、1−ブロモ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン51μL(0.366mmol)とした以外は、本発明区28と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区39)本発明区28において用いるアリールBr体を、4−ブロモトルエン45μL(0.366mmol)とした以外は、本発明区28と同様の手順で反応を行った。
(本発明区40)本発明区28において用いるアリールBr体を、1−ブロモ−4−メトキシベンゼン46μL(0.366mmol)とした以外は、本発明区28と同様の手順で反応を行った。
本発明区36〜40の試験結果を以下の表にまとめて示す。
試験結果から示されるように、本発明化合物(1)で表される4−メチルフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体は、種々のアリールハライドとクロスカップリング反応を行うことが出来る。なお、本発明区36〜40において得られる生成物の物性データは以下の通りである。
本発明区36:C14H11F3O MW:252.23(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):2.40(s、3H)、7.25−7.27(m、4H)、7.44−7.46(m、2H)、7.56−7.59(m、2H)、13C−NMR(100MHz/CDCl3)δ(ppm):21.09、121.19、126.93、128.21、129.59、136.96、137.52、139.92
本発明区37:C13H11NO2 MW:213.23(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):2.42(s、3H)、7.29−7.31(m、2H)、7.52−7.54(m、2H)、7.71−7.73(m、2H)、8.27−8.29(m、2H)13C−NMR(100MHz/CDCl3)δ(ppm):21.19、124.08、127.20、127.47、129.87、135.85、139.07、146.85、147.57
本発明区38:C14H13F3 MW:238.25(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):2.41(s、3H)、7.27−7.29(m、2H)、7.49−7.51(m、2H)、7.67(s、4H)、13C−NMR(100MHz/CDCl3)δ(ppm):21.13、125.63、125.66、126.79、127.10、127.16、129.41、129.69、136.86、138.14
本発明区39:C14H14 MW:182.26(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):2.38(s、6H)、7.22−7.24(m、4H)、7.46−7.48(m、4H)、13C−NMR(100MHz/CDCl3)δ(ppm):21.07、126.80、129.42、136.69、138.29
本発明区40:C14H14OMW:198.26(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):2.38(s、3H)、3.84(s、3H)、6.95−6.97(m、2H)、7.21−7.23(m、2H)、7.43−7.45(m、2H)、7.49−7.52(m、2H)、13C−NMR(100MHz/CDCl3)δ(ppm):21.03、55.32、114.14、126.56,127.93、129.41、133.74、136.33、137.96、158.91
<1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における反応基としての使用例1>
1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における反応基としての使用例について実験例を挙げて説明する。
(本発明区41)窒素ガス雰囲気下、4-メチルフェニルボロン酸と1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体カリウム塩100mg(0.370mmol)、4−Br−安息香酸メチル72mg(0.337mmol)、酢酸パラジウム4mg(0.02mmol)を脱気したDMF:水(5:1)混合溶媒3.4mLに懸濁し、室温で4時間攪拌した。5mLの水を加え、20mLのジエチルエーテルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジエチルエーテル=97:3)で精製したところ、71mgの目的物が得られた(93%)。なお、得られた生成物の物性データは本発明区1に記載のものと同様であった。
試験結果から示されるように、4−メチルフェニルボロン酸と1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応は効率よく進行することがわかる。
<1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における反応基としての使用例2>
実施例6で説明した1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応を、各種官能基を有するアリールBr体と反応させ、反応性の比較を行った。
(本発明区42)本発明区41において用いるアリールBr体を、1−ブロモ−4−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン50μL(0.337mmol)とした以外は、本発明区41と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区43)本発明区41において用いるアリールBr体を、4−ブロモ−ニトロベンゼン68mg(0.337mmol)とした以外は、本発明区41と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区44)本発明区41において用いるアリールBr体を、1−ブロモ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン47μL(0.337mmol)とした以外は、本発明区41と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区45)本発明区41において用いるアリールBr体を、4−ブロモトルエン42μL(0.337mmol)とした以外は、本発明区41と同様の手順で反応を行った。
(本発明区46)本発明区41において用いるアリールBr体を、1−ブロモ−4−メトキシベンゼン42μL(0.337mmol)とした以外は、本発明区41と同様の手順で反応を行った。
本発明区42〜46の試験結果を以下の表にまとめて示す。
試験結果から示されるように、本発明化合物(21)で表される4−メチルフェニルボロン酸と1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体は、種々のアリールハライドとクロスカップリング反応を行うことが出来る。
なお、本発明区42〜46において得られる生成物の物性データは、上記に示した本発明区36〜40に記載のものと同様である。
<1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体を用いた炭素−窒素結合形成反応における反応基としての使用例>
(本発明区47)窒素ガス雰囲気下、4-メチルフェニルボロン酸と1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体カリウム塩270mg(1.00mmol)、ピペリジン66μL(0.667mmol)、酢酸銅(II)(無水)18mg(0.10mmol)に、脱水トルエン4mLを加え、室温で24時間攪拌した。反応溶液をセライトろ過し、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、無色アモルファス状の目的物が72mg得られた(収率63%)。
C12H17NMW:175.27(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):1.52−1.58(m、2H)、1.69−1.75(m、4H)、2.26(s、3H)、3.09(t、J=5.3Hz)、6.86−6.88(m、2H)、7.05−7.07(m、2H)、13C−NMR(100MHz/CDCl3)δ(ppm):20.40、24.22、25.87、51.43、117.02、128.97、129.52、150.07
試験結果から示されるように、4−メチルフェニルボロン酸と1,3,5−シス−シクロヘキサントリオールの安定アート型錯体を用いた炭素−窒素結合形成反応は効率よく進行することがわかる。
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体型塩を用いた連続的クロスカップリング反応における使用例>
連続的クロスカップリングとは、ハロゲンと保護基を付けた有機ボロン酸化合物を用いて、これに他の有機ボロン酸を反応させた後に、保護基を外した有機ボロン酸、さらに連続的に反応させる一連の操作を言う。以下にその実施例を示す。
(本発明区48)窒素ガス雰囲気下、4-メチルフェニルボロン酸(VI)500mg(3.68mmol)と、4-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩(本発明化合物(12))862mg(1.47mmol)、炭酸カリウム507mg(3.68mmol)を脱気したエタノール:水(5:1)混合溶媒30mLに懸濁溶液を調製し、ここにトリフェニルホスフィン配位子-パラジウム77mg(0.11mmol)をエタノール:水(5:1)混合溶媒2mLに懸濁した触媒溶液を加えて、室温で攪拌して第一クロスカップリング反応を開始した。反応液中には、(VII)化合物が生成する。反応8時間後、エタノール溶媒を減圧で留去し、反応を停止した。ここにpH3になるように1N塩酸溶液を7ml加えると、安定アート型錯体は分解し、溶液内にシロ−イノシトールが遊離した。この溶液に、水と酢酸エチルを加えてろ過し、不溶物を除去した。有機層に溶解してきた(VIII)化合物を抽出した。酢酸エチル抽出液を水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をヘキサン:酢酸エチル(8:2)溶液10mlに懸濁し洗浄した。ろ過して残留した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4'−メチルビフェニル4−ボロン酸(VIII)480mg(2.26mmol)を得た(第一カップリング収率77%)。
C13H13BO2 MW:212.05(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD)δ(ppm):2.34(s、3H)、7.22(d、2H)、7.48−7.64(m、6H)
次に、得られた(VIII)を原料にして第二カップリング反応を行った。窒素ガス雰囲気下、(VIII)445mg(2.10mmol)と、3-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩(本発明化合物(13))492mg(0.84mmol)、炭酸カリウム290mg(2.10mmol)を脱気したエタノール:水(5:1)混合溶媒30mLに懸濁溶液を調製し、ここにトリフェニルホスフィン配位子-パラジウム44mg(0.06mmol)をエタノール:水(5:1)混合溶媒30mLに懸濁した触媒溶液を加えて、室温で攪拌して第二クロスカップリング反応を開始した。反応液中には、(IX)化合物が生成する。反応8時間後、エタノール溶媒を減圧で留去し、反応を停止した。ここに1N塩酸溶液をpH3になるように4ml加えると、安定アート型錯体は分解し、溶液内にシロ−イノシトールが遊離する。この溶液に、水と酢酸エチルを加えてろ過し、不溶物を除去した。有機層に溶解してきた(X)化合物を抽出する。酢酸エチル抽出液を水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をヘキサン:酢酸エチル(8:2)溶液10mlに懸濁し、洗浄する。ろ過して残留した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4”−メチル−1”,4':1',1−ターフェニル3−ボロン酸(X)275mg(0.95mmol)を得た(第二カップリング収率57%)。
C19H17BO2 MW:288.15(計算値)、1H−NMR(400MHz/Toluene−D8)δ(ppm):2.23(s、3H)、7.10−7.59(m、12H)
結果から明らかなように、シロ−イノシトールの安定アート型錯体部分を保護基として利用し、脱保護した後に、同様の反応を繰り返し、連続的に有機ボロン酸を結合させることが可能であることが判る。また、単離された(X)化合物はさらに連続クロスカップリング反応に供することが可能である。
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いた選択的クロスカップリング反応における使用例>
選択的クロスカップリングの利用法として、ハロゲンと保護基を付けた有機ボロン酸化合物を用いて、これに他の有機ボロン酸を反応させた後に、保護基を外さずに、さらに選択的に反応させる方法が可能である。以下にその例を例示する。
(本発明区49)窒素ガス雰囲気下、4-メチルフェニルボロン酸(VI)500mg(3.68mmol)と、4-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩(本発明化合物(12))862mg(1.47mmol)、炭酸カリウム507mg(3.68mmol)を脱気したエタノール:水(5:1)混合溶媒30mLに懸濁溶液を調製し、ここに酢酸パラジウム20mg(0.11mmol)をエタノール:水(5:1)混合溶媒2mLに懸濁した触媒溶液を加えて、室温で攪拌して第一クロスカップリング反応を開始した。反応液中には、(VII)化合物が生成する。反応8時間後、第二クロスカップリングを開始するために、エチレングリコール6mLを加え混合した後に、4−ブロモ安息香酸メチル869mg(4.04mmol)を加え、室温で攪拌して第二クロスカップリング反応を開始した。反応20時間後、溶液内にシロ−イノシトールが遊離し液の濁度が増加した。エタノール溶媒を減圧で留去し、この溶液に、水と酢酸エチルを加えてろ過し、不溶物を除去した。有機層に溶解してきた(XI)化合物を抽出する。酢酸エチル抽出液を水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4”−メチル−1”,4’:1’,1−ターフェニル4−カルボン酸メチル(XI)697mg(2.31mmol)を得た。本発明化合物(12)からの総収率は79%であった(本発明化合物(12)は2分子の出発物質を含むことに注意)。
C21H18O2 MW:302.37(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):2.42(s、3H)、3.93(s、3H)、7.25(d、2H)、7.52(d、2H)、7.77(m、6H)、8.09(d、2H)
結果から明らかなように、シロ−イノシトールの安定アート型錯体部分を保護基として利用し、脱保護工程を行わず、1つの反応容器内で、活性型反応基として利用し、2回目のクロスカップリング反応を行い、有機ボロン酸を結合させることが可能であることが判る。
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いた選択的クロスカップリング反応におけ
る使用例>
ハロゲンと保護基を付けた有機ボロン酸化合物を用いた選択的クロスカップリングの利用法として、ハロゲンとボロン酸の位置が隣接(オルト位)の場合に限り、安定アート型錯体の嵩高さが隣接するハロゲンの反応性を著しく弱めるために、安定アート型錯体をジオール系溶媒中で、他のアリールBr体などと、活性化された反応基として反応させることができる。以下にその例を例示する。
(本発明区50)窒素ガス雰囲気下、4-ブロモ安息香酸メチル450mg(2.09mmol)と、酢酸パラジウム12mg(0.06mmol)を脱気したエタノール:水:エチレングリコール(4:1:1)混合溶媒18mLに室温で攪拌、溶解し、ここに2-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩(本発明化合物(14))577mg(0.98mmol)を脱気したエタノール:水:エチレングリコール(4:1:1)混合溶媒18mLに溶解した液を滴下し、クロスカップリング反応を開始した。反応液中には、(XII)化合物が生成する。滴下終了から反応8時間後、溶液内にシロ−イノシトールが遊離し液の濁度が増加した。エタノール溶媒を減圧で留去し、この溶液に、水と酢酸エチルを加えてろ過し、不溶物を除去した。有機層に溶解してきた(XI)化合物を抽出する。酢酸エチル抽出液を水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2’−ブロモ−ビフェニル4−カルボン酸メチル(XII)308mg(1.06mmol)を得た。本発明化合物(14)からの総収率は54%であった(本発明化合物(14)は2分子の出発物質を含むことに注意)。
C14H11BrO2 MW:291.14(計算値)、1H−NMR(400MHz/CDCl3)δ(ppm):3.94(s、3H)、7.22(t、1H)、7.30(d、1H)、7.36(t、1H)、7.48(d、2H)、7.67(d、1H)、8.09(d、2H)
結果から明らかなように、シロ−イノシトールの安定アート型錯体部分を反応基として利用し、かつ、オルト位のハロゲンの反応性の低さを利用して、クロスカップリング反応を行い、有機ハロゲン化物を製造できることが判る。
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における保護基としての使用例1>
実施例9、10で説明したシロ−イノシトールの安定アート型錯体を保護基として用いた第一クロスカップリング反応は、アリールボロン酸として4-メチルフェニルボロン酸を使用した。さらに実施例12では、4-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩と、他の各種官能基を有するアリールボロン酸と反応させ
た時の、反応性の比較を行った。
(本発明区51)シロ−イノシトールの安定アート型錯体を保護基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、フェニルボロン酸150mg(1.23mmol)と、4-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩(本発明化合物(12))324mg(0.55mmol)、炭酸カリウム340mg(2.46mmol)を脱気したエタノール:水(5:1)混合溶媒10mLに懸濁溶液を調製し、ここにトリフェニルホスフィン配位子-パラジウム8mg(0.012mmol)をエタノール:水(5:1)混合溶媒1mLに懸濁した触媒溶液を加えて、反応温度50℃で攪拌してクロスカップリング反応を開始した。反応5時間後、反応溶媒を減圧で留去し反応を停止した。残渣に水15mlと酢酸エチル10mlを加えて溶解・抽出し、得られた懸濁液をろ過し、不溶性の触媒を除去した。さらに酢酸エチル層と水層を分液し、水層はさらに少量の酢酸エチルで洗浄した。水層を取り出し、pH2〜3になるように塩酸を加えると、シロ−イノシトール錯体は解離し脱保護反応が進行した。酸性水溶液中で脱保護と共にアリールボロン酸は不溶化した。そこに酢酸エチル15mlを加えてアリールボロン酸を抽出し、分液により酢酸エチル層を得た。水層は再度、酢酸エチル10mlで抽出を行い、最初の酢酸エチル溶液と併せて、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ビフェニル4−ボロン酸187mg(0.95mmol)を得た(収率86%)。
(本発明区52)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、2−メトキシフェニルボロン酸187mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区53)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−メトキシフェニルボロン酸187mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区54)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、3−ハイドロキシメチルフェニルボロン酸187mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区55)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4-カルバモイルフェニルボロン酸203mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区56)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−フルオロフェニルボロン酸172mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区57)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−クロロフェニルボロン酸192mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区58)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−ビフェニルボロン酸244mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区59)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、2−ナフタレンボロン酸212mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区60)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−アセチルフェニルボロン酸199mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区61)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−メトキシカルボニルフェニルボロン酸221mg(1.23mmol)とし、炭酸カリウムの添加量を510mg(3.69mmol)に減じた以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区62)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−カルボキシフェニルボロン酸204mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区63)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−ジメチルアミノフェニルボロン酸203mg(1.23mmol)、触媒をAmphos配位子-パラジウム8mg(0.012mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。反応後の精製は塩酸で酸性にするところまでは発明区51と同様の容量、手順で行った。取り出した水層にpH1〜2になるように塩酸を加えると、シロ−イノシトール錯体は解離し脱保護反応が進行した。酸性水溶液中では生成した物質は3級アミンであるため水層に溶解していた。そこに酢酸エチル15mlを加えて不純物を抽出し、分液により水層を得た。水層は再度、酢酸エチル10mlで抽出を行った。得られた水層に1N水酸化カリウム溶液を加えてpH7.0に調整すると溶液は白濁した。この懸濁液を濃縮し、得られた固体にエタノールを30ml加えて生成物を抽出し、ろ過によってエタノールに不溶の物質を除去した。エタノール抽出液を濃縮し、析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4’−ジメチルアミノビフェニル4−ボロン酸を得た。
(本発明区64)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−シアノフェニルボロン酸181mg(1.23mmol)、触媒をAmphos配位子-パラジウム8mg(0.012mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区65)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−トリフルオロメチルフェニルボロン酸234mg(1.23mmol)、触媒をAmphos配位子-パラジウム8mg(0.012mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で
反応を行った。
(本発明区66)本発明区51において用いるフェニルボロン酸を、4−ホルミルフェニルボロン酸185mg(1.23mmol)とした以外は、本発明区51と同様の容量、手順で反応を行った。
本発明区51〜66の試験結果を以下の表にまとめて示す。
試験結果から示されるように、本発明化合物(12)で表される4-ブロモフェニルボ
ロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩は、本発明化合物中のボロン酸は保護したまま、各種官能基を有するアリールボロン酸とクロスカップリング反応を行うことができることが判る。また、実施例は、ほぼ同一の反応条件下において比較しているため、反応収率は官能基の種類による反応性と関連している。結果として電子吸引性の官能基は反応性が低くなり、電子共与性の官能基は反応性が高い傾向があることが判る。
なお、本発明区51〜66において得られる生成物の物性データは以下の通りである。本発明区51:C12H11BO2MW:198.03(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.31(t、1H)、7.41(t、2H)、7.55−7.61(m、4H)、7.81(d、2H)
本発明区52:C13H13BO3MW:228.05(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):3.75(s、3H)、6.97(t、1H)、7.03(d、1H)、7.25(t、1H)、7.29(d、1H)、7.41(d、2H)、7.73(d、2H)
本発明区53:C13H13BO3MW:228.05(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):3.80(s、3H)、6.96(d、2H)、7.49−7.54(m、4H)、7.75(d、2H)
本発明区54:C13H13BO3MW:228.05(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):4.65(s、2H)、7.31(d、1H)、7.39(t、1H)、7.47(dd、1H)、7.56−7.61(m、3H)、7.79(d、2H)
本発明区55:C12H11BO2MW:241.05(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.64−7.66(m、2H)、7.74−7.76(m、2H)、7.84−7.86(m、2H)、7.95−7.97(m、2H)
本発明区56:C12H10BFO2MW:216.02(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.12(t、2H)、7.51(d、2H)、7.59(d、2H)、7.78(d、2H)
本発明区57:C12H11BO2MW:232.47(計算値)、1H−NMR(400MHz/DMSO−d6(5%D2O含有))δ(ppm):7.51−7.53(m、2H)、7.64−7.65(m、2H)、7.72−7.74(m、2H)、7.87−7.89(m、2H)
本発明区58:C18H15BO2MW:274.12(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.32(t、1H)、7.43(t、2H)、7.60−7.66(m、4H)、7.67−7.72(m、4H)、7.81(d、2H)
本発明区59:C16H13BO2MW:248.08(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.44−7.50(m、2H)、7.71(d、2H)、7.77(d、1H)、7.83−7.86(m、3H)、7.89−7.93(m、2H)、8.08(s、1H)
本発明区60:C14H13BO3MW:240.06(計算値)、1H−NMR(400
MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):2.65(s、3H)、7.66−7.68(m、2H)、7.78−7.80(m、2H)、7.85−7.87(m、2H)、8.07−8.10(m、2H)
本発明区61:C14H13BO4MW:256.06(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):3.90(s、3H)、7.62(d、2H)、7.72(d、2H)、7.82(d、2H)、8.05(d、2H)
本発明区62:C13H11BO4MW:242.04(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.63(d、2H)、7.72(d、2H)、7.82(d、2H)、8.06(d、2H)
本発明区63:C14H16BNO2MW:241.09(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):2.91(s、6H)、6.81−6.85(m、2H)、7.33−7.51(m、6H)
本発明区64:C12H11BO2MW:223.04(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.64−7.66(m、2H)、7.79―7.89(m、6H)
本発明区65:C12H11BO2MW:266.02(計算値)、1H−NMR(400MHz/DMSO−d6(5%D2O含有))δ(ppm):7.71−7.73(m、2H)、7.81−7.93(m、4H)
本発明区66:C13H11BO3MW:226.04(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.64(d、2H)、7.80−7.85(m、4H)、7.96(d、2H)、9.98(s、1H)
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における保護基としての使用例2>
実施例9で説明したシロ−イノシトールの安定アート型錯体を保護基として用いた第二クロスカップリング反応は、アリールボロン酸として4’−メチルビフェニル4−ボロン酸を使用した。さらに実施例13では、3-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩と、他の各種官能基を有するアリールボロン酸と反応させた時の、反応性の比較を行った。
(本発明区67)シロ−イノシトールの安定アート型錯体を保護基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、4−メチルフェニルボロン酸150mg(1.10mmol)と、3-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩(本発明化合物(13))324mg(0.55mmol)、炭酸カリウム304mg(2.20mmol)を脱気したエタノール:水(5:1)混合溶媒10mLに懸濁溶液を調製し、ここにトリフェニルホスフィン配位子-パラジウム8mg(0.012mmol)をエタノール:水(5:1)混合溶媒1mLに懸濁した触媒溶液を加えて、反応温度50℃で攪拌してクロスカップリング反応を開始した。反応5時間後、反応溶媒を減圧で留去し反応を停止した。残渣に水15mlと酢酸エチル10mlを加えて溶解・抽出し、得られた懸濁液をろ過し、不溶性の触媒を除去した。さらに酢酸エチル層と水層を分液し、水層はさらに少量の酢酸エチルで洗浄した。水層を取り出し、pH2〜3になるように塩酸を加えると、シロ−イノシトール錯体は解離し脱保護反応が進行した。酸性水溶液中で脱保護と共にアリールボロン酸は不溶化した。そこに酢酸エチル15mlを加えてアリールボロン酸を抽出し、分液により酢酸エチル層を得た。水層は再度、酢酸エチル10mlで抽出を行い、最初の酢酸エチル溶液と併せて、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4’−ビフェニル3−ボロン酸177mg(0.92mmol)を得た(収率84%)。
(本発明区68)本発明区67において用いる4−メチルフェニルボロン酸を、4−フルオロフェニルボロン酸154mg(1.10mmol)とした以外は、本発明区67と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区69)本発明区67において用いる4−メチルフェニルボロン酸を、2−ナフタレンボロン酸189mg(1.10mmol)とした以外は、本発明区67と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区70)本発明区67において用いる4−メチルフェニルボロン酸を、4−メトキシカルボニルフェニルボロン酸198mg(1.10mmol)とした以外は、本発明区67と同様の容量、手順で反応を行った。
(本発明区71)本発明区67において用いる4−メチルフェニルボロン酸を、4−メトキシフェニルボロン酸167mg(1.10mmol)とした以外は、本発明区67と同
様の容量、手順で反応を行った。
本発明区67〜71の試験結果を以下の表にまとめて示す。
試験結果から示されるように、本発明化合物(13)で表される3-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩は、本発明化合物中のボロン酸は保護したまま、各種官能基を有するアリールボロン酸とクロスカップリング反応を行うことができることが判る。
なお、本発明区67〜71において得られる生成物の物性データは以下の通りである。
本発明区67:C13H13BO2MW:212.05(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):2.34(s、3H)、7.21(d、2H)、7.38(t、1H)、7.46(d、2H)、7.52(d、1H)、7.59(d、1H)、7.77(s、1H)
本発明区68:C12H10BFO2MW:216.02(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.12(t、2H)、7.37(t、1H)、7.57−7.60(m、3H)、7.69(d、1H)、7.94(s、1H)
本発明区69:C16H13BO2MW:248.08(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.41−7.49(m、3H)、7.73−7.79(m、3H)、7.83(d、1H)、7.87−7.91(m、2H)、8.06(s、1H)、8.13(t、1H)
本発明区70:C14H13BO4MW:256.06(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):3.89(s、3H)、7.42(t、1H)、7.66−7.79(m、4H)、8.03−8.07(m、3H)
本発明区71:C13H13BO MW:228.05(計算値)、1H−NMR(40
0MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):3.76(s、3H)、6.93(d、2H)、7.33(t、1H)、7.49−7.56(m、3H)、7.64(d、1H)、7.94(s、1H)
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における保護基としての使用例3>
実施例14では、本発明化合物である3,5-ジブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩と、他の各種官能基を有するアリールボロン酸を反応させた時の、反応性の比較を行った。
(本発明区72)シロ−イノシトールの安定アート型錯体を保護基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、4−メチルフェニルボロン酸300mg(2.20mmol)と、3,5−ジブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩345mg(0.52mmol)、炭酸カリウム608mg(4.40mmol)を脱気したエタノール:水(5:1)混合溶媒20mLに懸濁溶液を調製し、ここにトリフェニルホスフィン配位子-パラジウム30mg(0.044mmol)をエタノール:水(5:1)混合溶媒1mLに懸濁した触媒溶液を加えて、反応温度50℃で攪拌してクロスカップリング反応を開始した。反応5時間後、反応溶媒を減圧で留去し反応を停止した。残渣に水30mlと酢酸エチル20mlを加えて溶解・抽出し、得られた懸濁液をろ過し、不溶性の触媒を除去した。さらに酢酸エチル層と水層を分液し、水層はさらに少量の酢酸エチルで洗浄した。水層を取り出し、pH2〜3になるように塩酸を加えると、シロ−イノシトール錯体は解離し脱保護反応が進行した。酸性水溶液中で脱保護と共にアリールボロン酸は不溶化した。そこに酢酸エチル30mlを加えてアリールボロン酸を抽出し、分液により酢酸エチル層を得た。水層は再度、酢酸エチル15mlで抽出を行い、最初の酢酸エチル溶液と併せて、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3,5−ビス(p−トリル)フェニルボロン酸214mg(0.71mmol)を得た(収率68%)。
(本発明区73)本発明区72において用いる4−メチルフェニルボロン酸を、4−メトキシフェニルボロン酸334mg(2.20mmol)とした以外は、本発明区72と同様の容量、手順で反応を行った。
本発明区72〜73の試験結果を以下の表にまとめて示す。
試験結果から示されるように、3,5−ジブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩は、本発明化合物中のボロン酸は保護したまま、各種官能基を有するアリールボロン酸とクロスカップリング反応を行うことができることが判る。
なお、本発明区72〜73において得られる生成物の物性データは以下の通りである。
本発明区72:C20H19BO2MW:302.17(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):2.34(s、6H)、7.23(d、4H)、7.52(d、4H)、7.76−7.77(m、1H)、7.91(s、2H)
本発明区73:C20H19BO4MW:334.17(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):3.81(s、6H)、6.97(d、4H)、7.57(d、4H)、7.80(m、1H)、7.89(s、2H)
<シロ−イノシトールの安定アート型錯体を用いたクロスカップリング反応における保護基としての使用例4>
実施例15では、4-ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩と、ヘテロ環を有する3−チオフェンボロン酸のクロスカップリング反応を行った。
(本発明区74)シロ−イノシトールの安定アート型錯体を保護基として利用する本発明区は、窒素ガス雰囲気下、3−チオフェンボロン酸150mg(1.17mmol)と、4−ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩275mg(0.47mmol)、炭酸カリウム243mg(1.76mmol)を脱気したエタノール:水(5:1)混合溶媒10mLに懸濁溶液を調製し、ここにAmphos配位子-パラジウム8mg(0.012mmol)をエタノール:水(5:1)混合溶媒 1mLに懸濁した触媒溶液を加えて、反応温度80℃で攪拌してクロスカップリング反応を開始した。反応5時間後、反応溶媒を減圧で留去し反応を停止した。残渣に水20mlを加えて溶解・懸濁し、得られた水溶液にpH2〜3になるように塩酸を加え、シロ−イノシトール錯体を解離させ脱保護反応を進行させた。そこに酢酸エチル15mlを加えてアリールボロン酸を溶解・抽出した。この抽出液をろ過し、不溶性の触媒を除去した。さらに酢酸エチル層と水層を分液し、酢酸エチル層を得た。水層は再度、酢酸エチル10mlで抽出を行い、最初の酢酸エチル溶液と併せて、無水Na2SO4で乾燥した後、濃縮した。析出した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4−(3−チオフェン)フェニルボロン酸139mg(0.68mmol)を得た(収率73%)。
試験結果から示されるように、4−ブロモフェニルボロン酸とシロ−イノシトールの安定アート型錯体カリウム塩は、本発明化合物中のボロン酸は保護したまま、ヘテロ環を有するボロン酸とクロスカップリング反応を行うことができることが判る。
なお、本発明区74において得られる生成物の物性データは以下の通りである。
本発明区74:C10H9BO2SMW:204.05(計算値)、1H−NMR(400MHz/CD3OD(5%D2O含有))δ(ppm):7.43−7.45(m、2H)、7.58−7.62(m、3H)、7.74−7.76(m、2H)