以下に、本発明にかかる電源装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
実施の形態1にかかる電源装置100について説明する。図1は、電源装置100の構成を示す図である。
電源装置100は、イオン加速を行うための放電機器であるイオン加速装置10に用いる電源装置である。イオン加速装置10は、例えば、人工衛星などに搭載される電気推進装置であり、例えば、図1に示すようなSPT型(Stationary Plasma Thruster)のホールスラスタである。
電源装置100は、イオン加速装置10及びカソード部20を制御する。カソード部20は、電子を発生させてイオン加速装置10へ供給する。イオン加速装置10は、供給された電子を用いてイオンを発生させ加速させる。
イオン加速装置10は、例えば、環状の装置であり(図2参照)、図1では、イオン加速装置10の中心軸を通り、中心軸に平行な面でのイオン加速装置10の断面図を示し、図2では、イオン加速装置10を図1のA−A線で切った場合の断面図を示している。
イオン加速装置10は、図1及び図2に示すように、アノード電極12、磁場発生部11、ガス供給部15、チャネル内壁16、及びチャネル外壁17を有する。
アノード電極12は、例えば、中空円盤状の導体板で形成されている。アノード電極12は、イオン加速装置10の軸方向におけるガス供給部15側に配されている。アノード電極12は、アノード電極12と磁場発生部11との間の環状のチャネル空間18に面している。
アノード電極12は、電源装置100から供給されるアノード電流Iaと、電源装置100により印加されるアノード電圧Vaとに従って、アノード電極12からイオン加速装置10の軸方向に沿って離れる電界を発生させる。
磁場発生部11は、アノード電極12に隣接した位置に配されている。すなわち、磁場発生部11は、内部コイル13、外部コイル14、ヨーク32、及びポールピース19を有する。内部コイル13は、アノード電極12の内側でアノード電極12に隣接し、例えば、アノード電極12の内側からイオン加速装置10の軸方向に沿ってカソード部20側に延びた略円柱形状を有している。外部コイル14は、アノード電極12の外側でアノード電極12に隣接し、例えば、アノード電極12の外側からイオン加速装置10の軸方向に沿ってカソード部20側に延びた略円筒形状のものが、一般に複数個、チャネル外壁17の外側に配置されている。
内部コイル13及び外部コイル14は、ポールピース19を介してそれぞれ電源装置100から供給されるコイル電流Icに従って、環状のチャネル空間18を径方向に貫く磁場を発生させる。ポールピース19は、チャネル空間18の出力端近傍において、内部コイル13及び外部コイル14に対応して設けられている。ポールピース19は、例えば、内部コイル13及び外部コイル14におけるチャネル空間18の出力端側を覆う。
ガス供給部15は、アノード電極12側から環状のチャネル空間18にガスを供給する。すなわち、ガス供給部15は、イオン化させるべきガスをチャネル空間18に供給する。イオン化させるべきガスは、例えば、Xeガスである。
ガス供給部15は、例えば、供給管15a及びガス流量調節器15bを有する。供給管15aは、アノード電極12に設けられた供給口15a1を介してチャネル空間18に連通されている。ガス流量調節器15bは、ガス供給源(図示せず)と供給管15aとの間に設けられ、ガス供給源から供給管15aへ導かれるガスの流量を調節する。ガス流量調節器15bは、例えば、開度を調整可能な調整弁である。
チャネル内壁16は、アノード電極12の内側側方からイオン加速装置10の軸方向に沿ってカソード部20側に延びた略円筒形状を有している。
チャネル外壁17は、アノード電極12の外側側方からイオン加速装置10の軸方向に沿ってカソード部20側に延びた略円筒形状を有している。
カソード部20は、イオン加速装置10の略軸方向に沿ってアノード電極12から離間した位置に配されている。カソード部20は、チャネル空間18の出力端に隣接した位置に配されている。
カソード部20は、例えば、ホローカソード21、供給管22、及びガス流量調節器23を有する。供給管22は、ホローカソード21内の空間に連通されている。ガス流量調節器23は、ガス供給源(図示せず)と供給管22との間に設けられ、ガス供給源から供給管22へ導かれるガスの流量を調節する。ガス流量調節器23は、例えば、開度を調整可能な調整弁である。すなわち、供給管22及びガス流量調節器23は、電子を発生させるために用いるガスをホローカソード21内の空間に供給する。電子を発生させるために用いるガスは、例えば、Xeガスである。ホローカソード21は、その空間に面した位置にヒータ21aを有し、供給されたガスをヒータ21aで加熱して電子を発生させる。ホローカソード21は、発生させた電子をチャネル空間18内及びチャネル空間18の出力端近傍へ供給する。
チャネル空間18は、チャネル内壁16、チャネル外壁17、及びアノード電極12に囲まれて形成された例えば略円筒状の空間である。このチャネル空間18の一方(図1の下方)からチャネル空間18内にガス供給部15によりガスが供給される。このとき、カソード部20からチャネル空間18内に電子も供給され、供給された電子は、磁場発生部11で発生された径方向の磁界の磁束によるホール効果のために、環状のチャネル空間18内を周方向にドリフトする。これによって、電子がガスを電離(イオン化)させてイオンを生成する。
チャネル空間18内でガスが電離(イオン化)されて生成されたイオンは、アノード電極12で発生された軸方向の電界により加速され、他方(図1の上方)から出力される。このイオンの出力の反作用によってイオン加速装置10の推力が得られる。
イオンを加速するために、アノード電極12にアノード電流Iaが供給され、それに応じて、陰極であるホローカソード21とアノード電極12との間にアノード電圧Vaが印加される。イオンを選択的かつ効率的に加速するために、電子は、上記のホール効果により軸方向の動きが抑制され環状のチャネル空間18内に閉じ込められる。
この磁場は、環状のチャネル空間18の内部および外部に設けられた電磁石すなわち内部コイル13及び外部コイル14によって形成され、チャネル空間18の出口付近のポールピース19によって、円環の半径方向にほぼ均一に印加されるように設計されている。内部コイル13、外部コイル14、ヨーク32、及びポールピース19を含む磁気回路の設計によって、例えば、チャネル空間18の出口付近の磁束密度が例えば最も高くなるように設計されている。
電磁石は内部(内部コイル13)だけ、あるいは外部(外部コイル14)だけ、あるいは一部が永久磁石で構成されている場合もある。一般には、内部および外部の電磁石に流れるコイル電流Icによって磁束密度を変化させる。このとき、コイル電流Icは、直流電流によって駆動され、この電流源の電流を制御することによってチャネル内部に形成される磁束密度を制御することが一般的である。
イオン加速装置10(例えば、ホールスラスタ)は、イオンを選択的に加速して噴射するものであるので、同時に電子を噴射して電気的中性を保つための電子源が必要である。図1に示すホローカソード21がこの電子源である。イオン加速装置10のアノード電極12には、ホローカソード21に対して例えば200〜300V程度の正の電圧が印加され、この電位差によりチャネル空間18内部に生じた電界によってイオンが加速される。このようなイオン加速装置10のシステムでは、イオン加速装置10およびカソード部20を駆動し、制御するための電源および制御システムが必要である。
電源装置100は、主電源110、電源処理部120、ガス制御部130、及び主制御部140を有する。主電源110は、主電源を発生させ、電源処理部120へ供給する。電源処理部120は、供給された主電源を用いて、所定の電源を生成しイオン加速装置10及びガス制御部130へ供給する。ガス制御部130は、電源処理部120から供給された電源を用いて動作し、イオン加速装置10及びカソード部20におけるガスの流量を制御する。主制御部140は、主電源110、電源処理部120、及びガス制御部130の各部を全体的に制御する。
電源処理部120は、アノード電源122、内部コイル電源123、外部コイル電源124、ヒータ電源126、及びキーパ電源127を有する。ガス制御部130は、ガス流量制御装置131及びガス流量制御装置132を有する。
電源装置100は、例えば、アノード電極12と、磁場生成用コイルである内部コイル13および外部コイル14と、ガス流量調節器15bとを制御する。アノード電源122は、アノード電極12へアノード電圧Vaを印加する。コイル電源である内部コイル電源123および外部コイル電源124は、磁場生成用コイルである内部コイル13および外部コイル14へコイル電流Icを流す。ガス流量制御装置131は、ガス流量調節器15bを介してガス流量を調整する。主制御部140は、アノード電極12へ印加されるアノード電圧Vaと磁場生成用コイルである内部コイル13および外部コイル14へ流されるコイル電流Icとガス流量調節器15bを介して流されるガス流量とを制御してイオン加速装置10のイオン加速量を調整し、少なくともアノード電圧とコイル電流とに関係付けられた関数に従ってアノード電圧とコイル電流とガス流量とを制御する。
ガス流量制御装置131は、主制御部140からの指令に従ってイオン加速装置10のガス導入部におけるガス流量を制御する。また、主制御部140からの指令に従って内部コイル電源123および外部コイル電源124は、内部コイル13および外部コイル14に流れるコイル電流Icを制御する。内部コイル13および外部コイル14には、一定の直流電流であるコイル電流Icを流し、このコイル電流Icによってチャネル空間(イオン加速領域)18内に一定の磁界が形成される。内部コイル電源123および外部コイル電源124によって、内部コイル13に流れる電流および外部コイル14に流れる電流は、それぞれ独立して設定することができ、これによってチャネル空間(イオン加速領域)18内の磁束密度の微調整および磁界分布の微調整を行うことができる。
アノード電源122は、アノード電極12に印加するアノード電圧を制御する。定常運転時には、略一定値すなわち直流のアノード電圧Vaがアノード電極12へ印加される。アノード電圧Vaによってイオンが加速され、イオン加速装置10の推力が得られる。また、通常、アノード電圧Vaは100〜400Vの範囲の中で設定される。加速されたイオンによるイオン電流および放電空間内の電子の移動による電子電流は、回路上ではアノード電源122によって流されることになる。このため、アノード電源122は、イオン加速装置10の推力を得るためのエネルギを供給する部分であり、イオン加速装置10のシステムでは最も容量の大きな電源である。
電子源であるホローカソード21は、ホローカソード21に供給されるガスの流量を制御するためのガス流量制御装置132、ホローカソード21の陰極を過熱するためのヒータ電源126、およびホローカソード21からの電子の流れを安定に維持するためのキーパ電源127によって制御されている。
イオン加速装置10を駆動するための主制御部140は、イオン加速装置10を搭載する人工衛星のシステム(図示せず)または地上からの指令(図示せず)によって制御されている。本実施の形態では、主制御部140によって、少なくとも、アノード電源122、コイル電源123、124およびガス流量制御装置131、132が制御されている。
例えば、アノード電極12とホローカソード21との間には、上記のように直流のアノード電圧Vaが印加される。このとき、直流のアノード電圧Vaを印加しているにもかかわらず、アノード電極12に供給されるアノード電流Iaが激しく振動するという現象が発生する。これがいわゆる放電振動の現象である。図3はその様子を示したものである。図3において、縦軸はアノード電圧Va及びアノード電流Iaそれぞれの振幅を示し、横軸は時間を示す。アノード電圧Vaは略一定値で安定しているがアノード電流Iaが大きく変動している。電源のインピーダンスが十分に大きくない場合は電流の変動の影響を受けてアノード電圧が若干変動するが、通常その変動は十分小さくなるように設計される。
この変動現象は理論的には詳細な説明が行われているが、そもそもの原因はイオン加速装置10内部(チャネル空間18内)の電子密度の変動であり、非常に単純に言えば放電が点いたり消えたりしている、という現象であると考えられる。この振動の周波数はイオン加速装置10の放電に関するさまざまなパラメータに依存しており、したがって周波数はコイル電流やガス流量などの運用条件、スラスタチャネル(すなわち、チャネル空間を形成する隔壁)の状態、経年劣化などによって変動しうるが、それほど極端に変動するわけではない。しかしながら条件によってはこの振動が非常に大きくなり、電源の動作やイオン加速装置10の寿命に影響を与えることになる。
上記のように、アノード電圧とガス流量とコイル電流との組み合わせで、放電振動が十分に少なくなる安定制御領域が存在する。この安定制御領域の内部でアノード電圧とガス流量とコイル電流とを制御することで、放電振動の生じない安定な動作が可能になる。たとえばコイル電流およびガス流量をある値に設定した場合、アノード電圧を安定制御領域に設定することで、安定動作が可能になる。
しかし、この安定制御領域は、チャネル空間18を形成する隔壁であるスラスタチャネル(すなわち、図1に示すチャネル内壁16、チャネル外壁17、及びアノード電極12)の状態に強く依存するため、イオン加速装置10を長時間動作させた場合、この安定制御領域が変化してしまう。安定制御領域の経年的な変化は、1つにはスラスタチャネルの磨耗に起因する。
ここで、仮に、イオン加速装置10、カソード部20、及び電源装置100を含むシステムの出荷前に、アノード電流の振動の強さがアノード電圧とガス流量とコイル電流とに関係付けられた関数を実験的に得て、電源装置100に設定しておく場合を考える。この場合、イオン加速装置10、カソード部20、及び電源装置100を含むシステムの出荷後に、イオン加速装置10を長時間動作させてスラスタチャネル(チャネル内壁16、チャネル外壁17、及びアノード電極12)が経年的に変化した場合、それに応じて、放電振動を抑制する安定制御領域も変化してしまい、放電振動を安定的に制御することが困難になる傾向にある。
それに対して、本発明では、アノード電流がなんらかの周期で振動する、という特性があるのであれば、アノード電源122から印加するアノード電圧Vaの波形をそれに近い周期で変動させてやれば、放電のしやすさがアノード電源122の周波数によって決定されるので、アノード電流Iaの振動もその周波数に同期する。
すなわち、図3に示すような直流的に安定したアノード電圧Vaによる通常の駆動方法において、放電振動は、例えばコイル電流Icに非常に敏感であり、スラスタチャネルの状態が変化するとコイル電流Icの適正値も変化してしまい、新たな調整が必要になる。
それに対して、本実施の形態では、電源装置100の主制御部140は、アノード電極12に印加されるアノード電圧Vaが、直流電圧に交流電圧が重畳された電圧波形(図4〜図6参照)を有するように制御する。こういったパルス駆動を行うと、アノード電流Iaの振動の周期がアノード電源122の駆動周波数に同期するため、振動の周波数がコイル電流Ic、つまり磁束密度に比較的鈍感になることが期待される。このため、イオン加速装置10(例えば、ホールスラスタ)の安定性及び制御性を大幅に向上できる。
具体的には、電源装置100のアノード電源122は、直流電圧源122a、交流電圧源122b、及び合成部122cを有する。直流電圧源122aは、主制御部140による制御のもと、直流電圧を発生させる。交流電圧源122bは、主制御部140による制御のもと、交流電圧を発生させる。合成部122cは、直流電圧源122aにより発生された直流電圧に、交流電圧源122bにより発生された交流電圧を重畳させて、アノード電圧Vaを合成する。合成部122cは、合成されたアノード電圧Vaをアノード電極12へ供給する。
主制御部140により、例えば、図4に示すようにアノード電圧Vaを変動させた場合、アノード電圧Vaつまり電界が強いときに振動が強くなる。電界が強くなり電子の速度を抑制できなくなるため、振動が生じやすくなる、と考えられる。これはつまり一定の周期で振動の生じやすい状況が発生するわけで、したがって、アノード電流Iaの波形は、図4に示すように、アノード電圧Vaの強いところで強くなるような形状になると思われる。図4に示すアノード電圧Vaの波形WV1は、直流電圧DC1に例えば矩形波の交流電圧AC1が重畳された電圧波形である。なお、図4の横軸は、時間である。
なお、図4に示すアノード電圧Vaの電圧波形は、直流電圧DC1に例えば矩形波の交流電圧AC1が重畳されたものであるが、本実施の形態の目的は、電圧の波形によって放電の生じやすさを一定周期で変化させるということであるので、矩形波のパルス幅は任意、つまり非常に細いパルス幅でも効果があると思われる。
あるいは、例えば、図5に示すようにアノード電圧Vaを変動させてもよい。この場合も、アノード電流Iaの波形は、図5に示すように、アノード電圧Vaの強いところで強くなるような形状になると思われる。図5に示すアノード電圧Vaの波形WV2は、直流電圧DC2に例えば略正弦波の交流電圧AC2が重畳された電圧波形である。なお、図5の横軸は、時間である。
あるいは、レベルが略ゼロである直流電圧に、最低値がゼロあるいは一部マイナスに振れているような矩形波、あるいは正弦波などの波形の交流電圧を重畳させたアノード電圧Vaをアノード電極12に印加してもかまわない。
例えば、図6に示すようにアノード電圧Vaを変動させてもよい。この場合も、アノード電流Iaの波形は、図6に示すように、アノード電圧Vaの強いところで強くなるような形状になると思われる。図6に示すアノード電圧Vaの波形WV3は、レベルが略ゼロである直流電圧DC3に例えば矩形波の交流電圧AC3が重畳された電圧波形である。なお、図6の横軸は、時間である。
以上のように、実施の形態1では、電源装置100の主制御部140は、アノード電極12に印加されるアノード電圧Vaが、直流電圧に交流電圧が重畳された電圧波形(図4〜図6参照)を有するように制御する。これにより、スラスタチャネル(チャネル内壁16、チャネル外壁17、及びアノード電極12)の状態によらず、アノード電源122の駆動周期に同期してアノード電流を振動動作させることができる。すなわち、イオン加速装置10が自分で勝手に振動を始めるのではなく、その振動のしやすさを外部から例えばパルス的に変調することができる。これにより、放電振動の周期を外部から制御できるため、イオン加速装置10を安定に制御することができる。すなわち、経年的にイオン加速装置10の安定制御領域が変動しても放電振動を安定的に制御できる。
また、実施の形態1では、直流電圧に重畳される交流電圧の周波数は、イオン加速装置10の放電振動の周波数と略同じ値を有する。これにより、放電振動の周期をアノード電源122の駆動周期に同期したものに制御することが容易になる。
実施の形態2.
次に、実施の形態2にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態1では、直流電圧に重畳される交流電圧の周波数がイオン加速装置10の放電振動の周波数と略同じ値を有するが、実施の形態2では、直流電圧に重畳される交流電圧の周波数がイオン加速装置10の放電振動の周波数から若干ずれた値を有する。
例えば、イオン加速装置10の放電振動の周期とは、直流の電圧を印加してイオン加速装置10を動作させた場合にアノード電流Iaが振動する周波数であると定義することができる。この周波数は、イオン加速装置10の放電に関するさまざまなパラメータに依存しているが、イオン加速装置10の構造や大きさが決まれば概ね近い値になり、大きく変動するわけではない。このイオン加速装置10の放電が振動しやすい周波数でアノード電圧Vaを変動させるため、イオン加速装置10の放電状態とアノード電源122とを安定して同期させることができる。もっとも、同じような周波数で駆動するが、厳密には同じ周波数か、少し高い周波数か、少し低い周波数かで現象が若干違ってくる。
実施の形態1では、アノード電源122の周波数をイオン加速装置10の振動周波数とほぼ同じに設定した場合のアノード電圧Vaとアノード電流Iaとの波形の例を図4〜図6に示している。放電が周期的に変動しやすい周波数を選んでいるので、安定的にアノード電源122の周波数に同期させることができる。
一方、実施の形態2では、例えば、イオン加速装置10の本来の振動周波数よりも高い周波数でアノード電源を変動させた場合、アノード電圧Vaとアノード電流Iaとの波形は、図7に示すようなものになる。放電が成長をはじめるよりも若干早くアノード電圧Vaが立ち上がるため、アノード電圧Vaに対してアノード電流Iaが遅れる遅れ位相の状態になる。アノード電源122の変動が積極的に放電の成長を促すような形になるので、安定性が向上すると思われる。なお、図7に示すアノード電圧Vaの波形WV4は、直流電圧DC4に例えば矩形波の交流電圧AC4が重畳された電圧波形である。図7の横軸は、時間である。
あるいは、例えば、イオン加速装置10の本来の振動周波数よりも低い周波数で電源を変動させた場合、アノード電圧Vaとアノード電流Iaとの波形は、図8に示すようなものになる。アノード電圧Vaが高くなるよりも前に放電が変動し始めているため、アノード電圧に対してアノード電流Iaが進む進み位相の状態になる。放電の変化をアノード電圧Vaが助長するような状態になる。なお、図8に示すアノード電圧Vaの波形WV5は、直流電圧DC5に例えば矩形波の交流電圧AC5が重畳された電圧波形である。図8の横軸は、時間である。
このように、実施の形態2では、直流電圧に重畳される交流電圧の周波数がイオン加速装置10の放電振動の周波数から若干ずれた値を有する。この場合も、放電振動の周期をアノード電源122の駆動周期に同期したものに制御することができる。
なお、図7及び図8では、アノード電圧Vaの波形は、パルス的に生成することを念頭に直流電圧に重畳される交流電圧を矩形波形で示しているが、直流電圧に重畳される交流電圧の波形は、正弦波の波形でもかまわない。あるいは、例えば、レベルが略ゼロである直流電圧に、最低値がゼロあるいは一部マイナスに振れているような矩形波、あるいは正弦波などの波形の交流電圧を重畳させたアノード電圧Vaをアノード電極12に印加してもかまわない。
実施の形態3.
次に、実施の形態3にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態1における図6に示す制御動作では、アノード電圧Vaの最低値が略ゼロであるような電圧波形でアノード電圧Vaを変動させている。このような動作は可能であるが、実際上は推進効率などの点であまり良い動作とはいえない。アノード電圧Vaがゼロになる期間があり、その間はイオン加速装置10のチャネル空間18内には電位差が生じていないので、電流が流れることができず、放電も消えてしまう可能性がある。これはイオン加速装置10のプラズマの効率、ひいては推進効率を低下させる可能性がある。
そこで、実施の形態3では、プラズマの効率の観点から、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルを適正なレベルにすることを考える。
具体的には、電源装置100の主制御部140は、アノード電圧Vaの電圧波形における最低電圧が50V以上250V以下になるように制御する。すなわち、主制御部140は、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルが、50V以上250V以下になるように制御する。
仮に、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルが50Vより小さいと、アノード電圧Vaが低い期間に、電位差が不足して、流れかけた電流が流れにくくなり、すなわち放電が起こりにくくなり、プラズマが消滅する可能性がある。
あるいは、仮に、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルが250Vより大きいと、アノード電圧Vaが低い期間に急激にプラズマが増大して電流が増えてしまい、本発明で目的とした周期的なアノード電流の変動が生じなくなる可能性がある。そもそもイオン加速装置10(例えば、ホールスラスタ)は、200V〜350VなどのDC電圧で駆動されるので、たとえば電圧の最低値を250V以下とすれば、そこから十分に大きな電圧を重畳させて本発明の動作を得ることが容易になる。
このように、実施の形態3では、電源装置100の主制御部140は、アノード電圧Vaの電圧波形における最低電圧が50V以上250V以下になるように制御する。これにより、アノード電圧Vaの電圧波形における最低電圧を、放電が完全に消失してしまうような電圧より高く、かつ強い放電が急激に生じてしまう電圧よりも低く、設定できる。この結果、放電を安定に維持でき、同時にアノード電圧Vaの周期駆動(例えば、パルス駆動)の効果を損なわないようにすることができる。
実施の形態4.
次に、実施の形態4にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態3と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態3では、放電を維持しながらアノード電圧Vaの周期駆動の効果を損なわないようにするという観点から、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルを決めているが、実施の形態4では、交流電圧が重畳されるべき直流電圧の作りやすさも加味して、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルを決める。
具体的には、実施の形態4では、イオン加速装置10が衛星(人工衛星)の電気推進装置である場合を想定している。この場合、電源の観点から、交流電圧が重畳されるべき直流電圧、あるいはアノード電圧Vaの電圧波形の最低電圧部分をどのように作るか、と考えた場合に、もっとも簡便な方法のひとつが、衛星のバス電圧をそのまま持ってくる、という方法である。すなわち、電源装置100の主制御部140は、イオン加速装置10が衛星の電気推進装置である場合、アノード電圧Vaの電圧波形における最低電圧が、衛星のバス電圧と均等であるように制御する。
衛星のバス電圧には衛星ごとにいろいろな電圧が用いられているが、例えば100Vである。この電圧は実施の形態3で述べたように、電圧の最低電圧値として適している。バス電圧をそのまま、交流電圧が重畳されるべき直流電圧として用いて、アノード電源122で交流電圧を作って直流電圧に重畳させてアノード電圧Vaを生成する。すなわち、アノード電源122は、内部で直流電圧を発生せずに、バス電圧の供給を受けてそのバス電圧をアノード電圧Vaの生成用の直流電圧として流用する。これにより、アノード電源122は、直流電圧源122aを省略した構成とすることができる。
このように、実施の形態4では、電源装置100の主制御部140は、イオン加速装置10が衛星の電気推進装置である場合、アノード電圧Vaの電圧波形における最低電圧が、衛星のバス電圧と均等であるように制御する。これにより、アノード電源122の構成を簡略化でき非常に単純な電源の構成とすることができる。
実施の形態5.
次に、実施の形態5にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態3と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態3では、放電を維持しながらアノード電圧Vaの周期駆動の効果を損なわないようにするという観点から、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルを決めているが、実施の形態5では、交流電圧が重畳されるべき直流電圧の作りやすさも加味して、交流電圧が重畳されるべき直流電圧のレベルを決める。
具体的には、実施の形態5では、イオン加速装置10が人工衛星に用いられるのではなく、商用の交流電源につないで用いられる場合を想定している。この場合、電源の観点から、交流電圧が重畳されるべき直流電圧、あるいはアノード電圧Vaの電圧波形の最低電圧部分をどのように作るか、と考えた場合に、もっとも簡便な方法の1つが、商用交流電圧を全波整流化する方法である。すなわち、電源装置100の主制御部140は、イオン加速装置10が商用交流電源で駆動される場合、アノード電圧Vaの電圧波形における最低電圧が、商用交流電源が整流化された電圧のレベルと均等であるように制御する。
例えば、100Vの商用交流電圧を全波整流化して平滑化すれば、約140Vの直流電圧が得られる。この電圧は実施の形態3で述べたように、電圧の最低電圧値として適している。全波整流・平滑化された直流電圧をそのまま、交流電圧が重畳されるべき直流電圧として用いて、アノード電源122で交流電圧を作って直流電圧に重畳させてアノード電圧Vaを生成する。すなわち、アノード電源122は、内部で直流電圧を発生せずに、全波整流化・平滑化された直流電圧の供給を受けてその全波整流化・平滑化された直流電圧をアノード電圧Vaの生成用の直流電圧として流用する。これにより、アノード電源122は、直流電圧源122aを省略した構成とすることができる。
このように、実施の形態5では、電源装置100の主制御部140は、イオン加速装置10が商用交流電源で駆動される場合、アノード電圧Vaの電圧波形における最低電圧が、商用交流電源が整流化された電圧のレベルと均等であるように制御する。これにより、アノード電源122の構成を簡略化でき非常に単純な電源の構成とすることができる。
なお、商用交流電源を全波整流化・平滑化するための構成として、ダイオードやコンデンサを用いた公知の回路構成を適用でき、また、その回路構成は、電源装置100の外部に設けられていてもよいし、電源装置100の内部に設けられていてもよい。
実施の形態6.
次に、実施の形態6にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
図9は実施の形態6の回路構成を示す図である。実施の形態1では、例えば直流電圧源122aで発生した直流電圧に交流電圧源で発生した交流電圧を重畳してアノード電圧Vaを生成しているが、実施の形態6では、2つの直流電圧源を用意し、スイッチによってこれらの電圧を切り替えることで、直流電圧に交流電圧が重畳されたアノード電圧を生成する。
具体的には、電源装置100iは、例えば、第1の電圧源VS1、第2の電圧源VS2、切り替え部SWU、及び主制御部140iを備える。第1の電圧源VS1は、第1の電圧レベルV1を発生する。第2の電圧源VS2は、第2の電圧レベルV2を発生する。第2の電圧レベルV2は、第1の電圧レベルV1より高い電圧レベルである。
例えば、第1の電圧源VS1は、例えば、電圧値V1の直流電圧を発生させる直流電圧源E1を有する。これにより、第1の電圧源VS1は、第1の電圧レベルV1を発生する。第2の電圧源VS2は、例えば、その直流電圧源E1と、電圧値Vpの直流電圧を発生させる直流電圧源E2とが直列接続された構成を有する。これにより、第2の電圧源VS2は、電圧値V1と電圧値Vpとの和に相当する第2の電圧レベルV2を発生する。
なお、直流電圧源E1の両端には、コンデンサC1が接続されていてもよい。直流電圧源E2の両端には、コンデンサC2が接続されていてもよい。
主制御部140iは、第1の電圧源VS1及び第2の電圧源VS2を用いて、第1の電圧レベルV1と第2の電圧レベルV2とが交互に現れる電圧波形を有する電圧をアノード電圧Vaとして生成する。すなわち、主制御部140iは、切り替え部SWUを制御して、第1の状態と第2の状態とに交互に切り替える。言い換えると、主制御部140iは、第1の状態と第2の状態とをパルス的に切り替えることで、切り替え部SWUの出力ノードN1から出力されるアノード電圧Vaのレベルを2段階でパルス的に変化させる。これにより、主制御部140iは、アノード電極12に印加されるアノード電圧Vaが、直流電圧DC6に交流電圧AC6が重畳された電圧波形WV6を有するように制御する。
なお、主制御部140iは、パルス信号源141iから供給する制御信号(パルス信号)のパルス幅を変化させることで、重畳させるパルスの幅を変化させることができるし、直流電圧源の発生する電圧値を変化させることで2段階のパルスの電圧値を変化させることができる。
切り替え部SWUは、主制御部140iから制御信号を受け、その制御信号に従って、第1の電圧源VS1により発生された第1の電圧レベルV1がアノード電極12に供給される第1の状態と、第2の電圧源VS2により発生された第2の電圧レベルV2がアノード電極12に供給される第2の状態とを切り替える。
具体的には、主制御部140iは、パルス信号源141iを有する。パルス信号源141iは、HレベルとLレベルとが交互に周期的に現れる制御信号を生成して切り替え部SWUへ供給する。
切り替え部SWUは、アンプAM、インバータINV、スイッチSW1、及びスイッチSW2を有する。アンプAMは、パルス信号源141iから供給された制御信号(パルス信号)を増幅してスイッチSW1へ供給する。インバータINVは、パルス信号源141iから供給された制御信号を増幅するとともに論理反転させてスイッチSW2へ供給する。これにより、トランジスタTr1及び還流ダイオードD1を含むスイッチSW1と、トランジスタTr2及び還流ダイオードD2を含むスイッチSW2とが、排他的にオン・オフされる。
すなわち、スイッチSW1がオフしスイッチSW2がオンしている期間に、切り替え部SWUの出力ノードN1が第1の電圧源VS1の高圧側ノードN3に接続されるとともに第2の電圧源VS2の高圧側ノードN4から遮断され、上記の第1の状態になる。スイッチSW1がオンしスイッチSW2がオフしている期間に、切り替え部SWUの出力ノードN1が第1の電圧源VS1の高圧側ノードN3から遮断されるとともに第2の電圧源VS2の高圧側ノードN4に接続され、上記の第2の状態になる。
このように、実施の形態6では、電源装置100iの主制御部140iは、第1の電圧源VS1及び第2の電圧源VS2を用いて、第1の電圧レベルV1と第2の電圧レベルV2とが交互に現れる電圧波形WV6を有するアノード電圧Vaを生成する。これにより、直流電圧DC6に交流電圧AC6が重畳された電圧波形WV6を有するアノード電圧Vaを簡易な方法で生成することができる。
なお、第1の電圧源VS1及び第2の電圧源VS2は、例えば、電源装置100iにおける主電源110(図1参照)内に設けられていてもよい。この場合、切り替え部SWUは、例えば、アノード電源122内に設けられていてもよい。あるいは、第1の電圧源VS1及び第2の電圧源VS2は、例えば、電源装置100iにおけるアノード電源122内に設けられていてもよい。この場合、切り替え部SWUは、例えば、アノード電源122内に設けられていてもよい。
あるいは、切り替え部SWU1は、図10に示すように、インバータINV及びスイッチSW2(図9参照)に代えて、ダイオードD21を有していてもよい。ダイオードD21は、カソードが第1の電圧源VS1の高圧側ノードN3に接続されており、アノードが切り替え部SWU1の出力ノードN1に接続されている。
この場合、印加されるアノード電圧Vaが第2の電圧レベルV2=V1+Vpに上昇したときに負荷(アノード電極12及びホローカソード21)両端に電流が流れなければ電圧が第1の電圧レベルV1まで低下しないため、負荷の電圧はパルス信号源141iで設定したパルス形状にはならないかもしれないが、アノード電圧Vaが高くなったときに放電がちゃんと点火し、負荷のインピーダンスが低下していれば動作としては、図9に示す構成の場合に近いものになる。さらに、電圧を強制的に第1の電圧レベルV1にするような機構を持たず、放電を外部から弱めることがないので、より安定的に動作できると思われる。
実施の形態7.
次に、実施の形態7にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態6の変形例と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態6の変形例では、スイッチSW1がオンした際に第2の電圧源VS2から切り替え部SWU1の出力ノードN1に流れ込む電流の大きさについて特に考慮していないが、アノード電圧Vaのレベルを2段階でパルス的に変化させる場合、アノード電圧Vaのレベルが瞬間的に大きくなる可能性がある。
例えば、アノード電圧Vaのレベルが第2の電圧レベルV2=V1+Vpに上昇したとき、放電が非線形な特性を持つため、パルス電流が極端に大きくなってイオン加速装置10や電源装置100iの動作に影響を与える可能性がある。このため、高いパルス電流が流れる部分では電源にある程度電流を制限するような機構を設けておくことが望ましい。一方、アノード電圧Vaのレベルが第2の電圧レベルV2より低い第1の電圧レベルV1の場合は、過電流を生じる可能性が少ない。
そこで、実施の形態7では、第2の電圧源VS2からアノード電極12へ流れる電流を制限する。具体的には、図11に示すように、電源装置100iは、第2の電圧源VS2からアノード電極12へ流れる電流を制限する電流制限素子128iをさらに備える。
電流制限素子128iは、第2の電圧源VS2の高電圧側の経路に定電流特性を持たせることで、第2の電圧源VS2からアノード電極12へ流れる電流を制限する。電流制限素子128iは、例えば、定電流源CS1を有する。定電流源CS1は、例えば、第2の電圧源VS2の高圧側ノードN4と、切り替え部SWU1の出力ノードN1との間の電流経路上に設けられる。図11では、高圧側ノードN4とスイッチSW1との間に定電流源CS1が電気的に接続される場合が例示されているが、スイッチSW1と出力ノードN1との間に定電流源CS1が電気的に接続される構成であってもよい。
このように、実施の形態7では、電流制限素子128iが、第2の電圧源VS2からアノード電極12へ流れる電流を制限する。これにより、アノード電圧Vaのレベルが第1の電圧レベルV1から第2の電圧レベルV2に切り替わる瞬間等にアノード電極12へ流れる電流の急激な増大を抑制でき、イオン加速装置10や電源装置100iを安定して動作させることができる。
なお、図12に示すように、電流制限素子128i1は、定電流源CS1に代えて、抵抗R1を有していてもよいし、あるいは、定電流源CS1に代えて、図示しないリアクトルを有していてもよい。この場合でも、高電圧時に発生するパルス電流が過電流になるのを抑制でき、安定な動作を実現できる。
実施の形態8.
次に、実施の形態8にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態1では、例えば直流電圧源で発生した直流電圧に交流電圧源で発生した交流電圧を重畳してアノード電圧を生成しているが、実施の形態8では、例えば直流電圧源で発生した直流電圧を用いてパルス的に変換を行うことで、直流電圧に交流電圧が重畳されたアノード電圧を生成する。
具体的には、図13に示すように、電源装置100jは、チョッパ回路160jを備える。チョッパ回路160jは、例えば、直流電圧源E3から受けた直流電圧を異なるレベル直流電圧へ変換する。チョッパ回路160jは、例えば、チョッパ昇圧回路であり、直流電圧源E3から受けた直流電圧をより高いレベルの直流電圧へ昇圧する。なお、図13では、チョッパ回路160jが昇圧型のチョッパ回路である場合を例示的に示しているが、フライバックコンバータなどの絶縁型のチョッパ回路であってもよい。
チョッパ回路160jは、リアクトルL1、スイッチング素子SW3、ダイオードD4、及び平滑コンデンサC3を有する。リアクトルL1及びダイオードD4は、チョッパ回路160jにおける高圧側ラインLp上で直列に接続されている。スイッチング素子SW3及び平滑コンデンサC3は、それぞれ、チョッパ回路160jにおける高圧側ラインLpと低圧側ラインLnとの間の接続されている。スイッチング素子SW3は、トランジスタTr3及び還流ダイオードD3を含む。
スイッチング素子SW3は、主制御部140jから周期的にレベルが変化する制御信号(例えば、パルス信号)を受け、制御信号に従って、例えば数kHz〜数十kHz程度の周波数でスイッチング動作を行う。スイッチング素子SW3がオンしている期間に直流電圧源E3から電流が流れてリアクトルL1にエネルギーが蓄えられ、スイッチング素子SW3がオフしている期間にそのエネルギーがパルス電流となってダイオードD4を通って平滑コンデンサC3に蓄えられる。スイッチング素子SW3がオン・オフしない場合は、平滑コンデンサC3の電圧が入力側の直流電圧すなわち直流電圧源E3の電圧と等しくなり、スイッチング素子SW3がオン・オフするスイッチング動作によって平滑コンデンサC3の電圧がそれより高くなる。通常は平滑コンデンサC3をスイッチングによるリップル電流よりも十分に大きなものにしておき、負荷から見た電圧がほぼ一定になるようにする。
もしもこの平滑コンデンサC3の容量が十分に小さい場合、平滑コンデンサC3の電圧は、スイッチング素子SW3のスイッチングによるリップル電流によって大きく変動する。負荷(イオン加速装置10)の状態にもよるが、基本的には、出力電圧の波形は、入力の直流電圧にリップルによる交流電圧が重畳されたような形になる。
つまり、この電源構成は、この発明の目的の電圧波形を実現するために利用することができる。入力にたとえばバス電圧の100Vを用いて、スイッチング素子SW3によるスイッチングの周波数をイオン加速装置10(例えば、ホールスラスタ)の振動の周波数の近くに設定すれば、100Vに近い電圧から、イオン加速装置10の放電の周波数に近い周波数で変動する交流波形が重畳された電圧波形が出力される。スイッチング素子SW3のパルス幅すなわちデューティで重畳される交流成分の大きさを変化させることができ、これはすなわちイオン加速装置10の推力を変化させることになる。平滑コンデンサC3の容量を調節すれば、重畳される交流電圧の、最大値と最小値の差、つまり変動の大きさを調節することができる。
すなわち、主制御部140jは、スイッチング素子SW3によるスイッチング動作を行わせる第1の制御とスイッチング動作を行わせない第2の制御とを交互に行うことで、チョッパ回路160jが昇圧動作を行う第1の動作とチョッパ回路160jが昇圧動作を行わない第2の動作とを交互に行うように制御する。
この回路方式の優れている点は、電圧を印加して放電を開始させるという動作と、電流を流して放電を維持する、という放電の開始および維持に必要な動作を、電源側で実現していることである。つまり、出力に設けられたコンデンサC3による定電圧特性で、安定な放電開始が可能であり、一方でリアクトルL1に蓄えられたエネルギーによる定電流特性によって、放電を安定に維持し、放電が消えることを防ぐことができる。
なお、イオン加速装置10の放電振動の周波数は、8kHz〜20kHzなどであり、スイッチング電源のスイッチング周波数に近いので、リアクトルL1のインダクタンス値も現実的なものとすることができる。
このように、実施の形態8では、主制御部140jは、チョッパ回路160jを用いて、直流電圧に交流電圧が重畳された電圧波形を有する電圧を生成する。すなわち、直流電圧源で発生した直流電圧を用いてパルス的に変換を行うことで、直流電圧に交流電圧が重畳されたアノード電圧Vaを生成する。これにより、直流電圧に交流電圧が重畳されたアノード電圧Vaの生成を、スイッチング素子SW3のスイッチング動作で実現できるので、電源装置100jの構造を小型化することが可能になる。
また、実施の形態8では、チョッパ回路160jにおける平滑コンデンサC3の容量を十分に小さくすることで、アノード電源122の駆動周波数をそのままイオン加速装置10の放電の周波数に同期させることが容易になる。
また、実施の形態8では、チョッパ回路160jのスイッチング周波数は、直流電圧に重畳させるべき交流電圧の周波数と均等である。これにより、アノード電源の駆動周波数をそのままイオン加速装置10の放電の周波数に同期させることが容易になる。
なお、直流電圧源E3は、例えば、電源装置100jにおける主電源110(図1参照)内に設けられていてもよい。この場合、チョッパ回路160jの全体がアノード電源122内に設けられていてもよいし、チョッパ回路160jの構成における直流電圧源E3側の一部の構成が主電源110内に設けられ残りの構成がアノード電源122内に設けられていてもよい。あるいは、直流電圧源E3は、例えば、電源装置100jにおけるアノード電源122内に設けられていてもよい。この場合、チョッパ回路160jの全体がアノード電源122内に設けられていてもよい。
実施の形態9.
次に、実施の形態9にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態8と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態8では、電源のスイッチング周波数をスラスタの放電振動の周波数に近く設定するが、現状観測されているスラスタの放電振動の周波数は例えば8kHz〜20kHz程度である。一方、スイッチング電源の周波数を高くしていくとリアクトルL1のインダクタンス値を小さくできることから、素子の高速化に伴って高周波化が進んでおり、通常は数十kHz、小型の電源では1MHzに近いものもある。そのように考えるとイオン加速装置10の放電振動の周波数に電源の周波数を合わせなければいけないというのは電源にとって大きな制約となる。
そこで、実施の形態9では、イオン加速装置10(例えば、ホールスラスタ)の放電が非線形な現象であることを考慮して、アノード電源122の周波数が、放電の周波数の近くだけでなく、その定数倍でも同様の効果が期待できることに着目する。例えば、イオン加速装置10の放電の周波数がfdであったとき、アノード電源122の周波数をn×fd(nは整数)の近傍にすることで、実施の形態8と同様の効果が期待できる。これによって電源のリアクトルやトランスを小型化できるなど効果が得られる。
このように、実施の形態9では、チョッパ回路160jのスイッチング周波数は、直流電圧に重畳させるべき交流電圧の周波数の定数倍と均等である。これにより、アノード電源122の駆動周波数をそのままイオン加速装置10の放電の周波数に同期させることが容易になる。
実施の形態10.
次に、実施の形態10にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態8と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態8では、チョッパ回路160jの全体がイオン加速装置10の外部に設けられている。すでに述べたように、イオン加速装置10(例えば、ホールスラスタ)では内部に磁束を形成させるために、多くの場合円筒の内部および外部に電磁石が設けられている。電磁石のコイルには通常DC電流が流される。
そこで、実施の形態10では、チョッパ回路160kの一部であるリアクトルがイオン加速装置10内の一部である電磁石のコイルと共用されている。
具体的には、電源装置100kは、磁場発生部11の少なくとも一部をリアクトルL1kとして用いて変換を行うチョッパ回路160kを備える。例えば、図14に示すように、チョッパ回路160kは、イオン加速装置10の外部コイル14のひとつを図13に示すリアクトルL1に代わるものとみなしてチョッパ回路160kを構成している。実施の形態8と同様に、出力側に設けられた平滑コンデンサC3の容量は比較的小さな値とする。
イオン加速装置10の磁場を形成するためには永久磁石も用いられるが、多くの場合、内部、外部のコイルがあり、後述のように磁場調整用のコイル(トリムコイル)を備える場合もある。この全部を電源のリアクトルとして共用することもできるし、一部だけを用いることもできる。
このように、実施の形態10では、電源装置100kは、磁場発生部11の少なくとも一部をリアクトルL1kとして用いて変換を行うチョッパ回路160kを備える。主制御部140は、チョッパ回路160kを用いて、直流電圧に交流電圧が重畳された電圧波形を有するアノード電圧Vaを生成する。すなわち、磁場発生部の少なくとも一部の電磁石コイルをチョッパ回路160kのリアクトルL1kとして共用するので、電源装置100kの大幅な小型化が可能になる。例えば、電源装置100kにおけるアノード電源122及び外部コイル電源124(図1参照)が共通化された構成としてチョッパ回路160kを用いることができる。
なお、電源装置100kにおいて、チョッパ回路160kと直流電流源E1との間にフィルタ回路150kを設けてもよい。
実施の形態11.
次に、実施の形態11にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態10と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態10では、磁場発生部の少なくとも一部の電磁石コイルをチョッパ回路160kのリアクトルL1kとして共用している。
すなわち、イオン加速装置10の電磁石コイルには一定の磁場を形成するために通常一定電流を流すが、チョッパ回路160kのリアクトルL1kには、原理的にパルス電流、あるいは定電流を重畳したパルス電流が流れる。したがって、図14に示すような構成にした場合、イオン加速装置10の磁束は電源のスイッチングの周波数で変動することになる。チョッパ回路160kを電流連続モードで動作させた場合、コイルの電流は直流電流にパルス電流が重畳されたものになるため、磁場の変動もある値をベースとしてある値で振れるような変動になる。このような磁場の変動がイオン加速装置10の動作に影響する場合もある。
そこで、実施の形態11では、例えば図15に示すように、ホールスラスタの同じ磁気回路の別の部分、つまり、電源のリアクトルとして用いなかった他の電磁石コイルに、この交流的な変動を補正するような電流を流してやる。すなわち、電源装置100qの内部コイル電源123qは、電流源123q1を有する。電流源123q1は、例えばリアクトルL1kに流れる電流に対して位相を180度反転させたような電流を生成し内部コイル13へ供給する。
例えば、主制御部140は、リアクトルL1kに流れる電流を電流検出器(例えば、カレントトランスなど)でモニタし、リアクトルL1kに流れる電流の位相を求める。そして、主制御部140は、求められた位相に対して180度反転させた位相を求め、その180度反転させた位相で電流を発生(変動)させるように内部コイル電源123qの電流源123q1を制御する。
このように、実施の形態11では、電源装置100qの主制御部140が、磁場発生部11におけるリアクトルL1kとして用いられていない部分に、リアクトルL1kとして用いられている部分の電流変動を打ち消す電流を供給されるように制御する。これにより、磁気回路全体としての磁束をほぼ一定値に維持でき、イオン加速装置10の動作を安定させることができる。
なお、磁気回路には、これまで述べたように内部、外部のコイルが設けられることが一般的であるが、内部の磁束分布を調整するために、第3のコイルが設けられることもある。例えば、図16に示すように、磁場発生部11rは、内部コイル13及び外部コイル14に加えて第3のコイル31rを有する。第3のコイル31rは、例えばアノード電極12の近傍に配され、例えば、トリムコイルである。このとき、例えば、第3のコイル31rに、リアクトルL1kとして用いられている部分の電流変動を打ち消す電流を供給する。
例えば、電源装置100rは、第3のコイル電源125rをさらに有する。第3のコイル電源125rは、電流源125r1を有する。主制御部140は、リアクトルL1kに流れる電流を電流検出器(例えば、カレントトランスなど)でモニタし、リアクトルL1kに流れる電流の位相を求める。そして、主制御部140は、求められた位相に対して180度反転させた位相を求め、その180度反転させた位相で電流を発生(変動)させるように第3のコイル電源125rの電流源125r1を制御する。これにより、磁気回路全体としての磁束をほぼ一定値に維持でき、イオン加速装置10の動作を安定させることができる。
また、さらに内部の磁束分布の制御をより積極的に行うので、推進効率を改善できる。
実施の形態12.
次に、実施の形態12にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態10と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態10では、イオン加速装置10の磁気回路の材料を特に限定していないが、イオン加速装置10のコイル電流Icをスイッチングの周波数で変動させる場合、イオン加速装置10の磁気回路の全部または一部に、この交流電流の周波数でも十分な透磁率があるような高周波用の磁性材料を用いる必要がある。
すなわち、通常の電磁石コイルでは、直流の電流を流すため、周波数特性は特に必要なく、たとえば電磁軟鉄のような磁性材料が用いられる。しかしながら電磁軟鉄は、スイッチングの周波数として想定される数kHz以上の周波数では透磁率がほとんど1になってしまうので、インダクタンス値としても十分な値を得ることが困難になる。また、コイルにより形成させる磁束密度も数kHzの変動に追従させることが困難になる。
そこで、実施の形態12では、スイッチングの周波数で変動されたコイル電流Icを供給する磁場発生部11における部分(又は全体)を含む磁気回路(すなわち、図1に示す内部コイル13、外部コイル14、ヨーク32、及びポールピース19により形成される磁束の通る回路)の少なくとも一部を、高周波用の磁性材料で形成する。
そのような高周波用の磁性材料は、例えばフェライト、アモルファス、ダストなどの材料である。フェライトは、例えばソフトフェライトであり、例えば、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、又は銅亜鉛フェライトなどである。フェライトは、例えば、軟磁性体の粉末を成型・焼成して製造される。アモルファスは、例えばアモルファス合金であり、例えば軟磁性体を溶融させ急冷して製造される。ダストは、例えばセンダストであり、軟磁性体のバルクを粉末(ダスト)にして押し固めて製造される。
このように、実施の形態12では、スイッチングの周波数で変動されたコイル電流Icを供給する磁場発生部11の部分を含む磁気回路における少なくとも一部を、高周波用の磁性材料で形成する。これにより、直流電流に交流電流が重畳されたコイル電流Icを磁場発生部11の少なくとも一部に供給する場合に、その少なくとも一部に対する高周波特性を向上できる。
実施の形態13.
次に、実施の形態13にかかる電源装置について説明する。以下では、実施の形態10と異なる部分を中心に説明する。
実施の形態10では、電源装置が1つのイオン加速装置を制御する場合について例示しているが、実施の形態13では、電源装置が複数のイオン加速装置を制御する。
すなわち、イオン加速装置(例えば、ホールスラスタ)を複数駆動する場合に、どのような電源構成が適切かについて考える。例えば、図17に示すように、電源装置100sが複数(例えば、3台)のイオン加速装置10−1〜10−3を制御する場合、電源装置100sは、複数のイオン加速装置10−1〜10−3に対応する複数のチョッパ回路160k−1〜140k−3を有する。各チョッパ回路160k−1〜140k−3は、対応するイオン加速装置10−1〜10−3の外部コイル14−1〜14−3のひとつをリアクトルL1k−1〜L1k−3として共用している。
電源装置100sでは、例えば、複数のチョッパ回路160k−1〜140k−3に対して、フィルタ回路150k及び直流電圧源E1が共通化されている。
このとき、各チョッパ回路のスイッチSW3−1、SW3−2、SW3−3のスイッチング周波数をfdとすると、その周期の1/3=1/3/fdだけスイッチングタイミングをずらして駆動する。すなわち、複数のチョッパ回路160k−1、140k−2、140k−3における複数のスイッチSW3−1、SW3−2、SW3−3へ供給する制御信号S1、S2、S3の位相を、互いに、その周期の1/3=1/3/fdだけずらす。
これにより、複数のチョッパ回路160k−1、140k−2、140k−3における複数のリアクトルL1k−1、L1k−2、L1k−3に流れる電流I1、I2、I3の位相も、その周期の1/3ずつずれ、それらの足し合わせである全体の受電電流(I1+I2+I3)は、図17に示すように、電流リップルが例えば1/3に低減する。
このように、実施の形態13では、電源装置が、複数のイオン加速装置10−1〜10−3を並行して制御する。主制御部140は、複数のイオン加速装置10−1〜10−3について、アノード電極12に印加される電圧が、直流電圧に交流電圧が重畳された電圧波形をそれぞれ有し、交流電圧の位相が互いに異なるように、制御する。これにより、受電電流の電流リップルを低減できる。すなわち、スイッチング回路はパルスの電流を流すため、電源には何らかのフィルタ回路150kが必要であるが、このような電源の位相ずらしを行うことによって、電流リップルを低減し、つまり電流の高調波を抑制し、フィルタ回路150kの小型化を可能にすることができる。
また、実施の形態13では、複数台のイオン加速装置10−1〜10−3を並列に動かす場合に、それらの交流成分の位相を分散して駆動するので、電源側の負荷も平準化され、またイオン加速装置がホールスラスタである場合に推力を時間的に平準化することができる。
なお、上記の実施の形態1〜13において、イオン加速装置10は、SPT型(Stationary Plasma Thruster)である場合を例示しているが、チャネル空間に供給された電子をホール効果によりガスに作用させてチャネル空間内でイオン加速を行うようなものであれば、他の型の装置であってもよい。
SPT型は、現在ホールスラスタの方式として主流であり、いくつものフライト実績もあるが、イオン加速装置10(例えば、ホールスラスタ)にはこのほかに、TAL(Thruster with Anode Layer)型と呼ばれるものがあり、若干形状が異なり、スラスタ内部の放電生成領域の維持機構も若干異なる。例えば、図18に示すイオン加速装置10pでは、アノード電極12(図1参照)に代えてホローアノード12pが設けられている。ホローアノード12pは、アノード電極12p1、内側リング12p2、及び外側リング12p3を有する。アノード電極12p1は、例えば、中空円盤状の導体板で形成されている。内側リング12p2は、アノード電極12の内側端部からイオン加速装置10pの軸方向に沿ってカソード部20側に延びた略円筒形状を有している。外側リング12p3は、アノード電極12の外側端部からイオン加速装置10pの軸方向に沿ってカソード部20側に延びた略円筒形状を有している。
TAL型のイオン加速装置(例えば、図18参照)はSPT型のイオン加速装置(例えば、図1参照)に比べて原理的に性能が良いと言われているが、放電振動が非常に不安定なため実用化されていない。しかしながら、上記の実施の形態1〜12に示すような方式を用いれば、振動の安定性が大幅に向上すると思われる。上記の実施の形態1〜6に示すような方式をTAL型のイオン加速装置に適用すれば、非常に大きなメリットがある。
なお、イオン加速装置(例えば、ホールスラスタ)の振動安定性はスラスタの磁束密度に敏感に影響する。このため、磁束密度つまりコイル電流を制御することは、特に出力が変化するときや、スラスタの点火時など、駆動条件がトランジェントに変化する場合の安定制御を行ううえで重要である。コイルには直流電流か、あるいは本発明の方式であれば直流電流に交流成分が重畳されたものが流されるが、この場合コイルの磁性材料が偏磁して、電流を一旦ゼロにしても磁束密度がゼロに戻らず、立ち上げ時などの微妙な制御を行うときに問題となる。これを避けるために、コイル電流を正、負に切り替えることができるような電流源を用いることが考えられる。本発明では交流波形をコイルに流す機構があるため、これをうまく用いるか、あるいは直流電源の電流の向きを切り替える機構を設ける、あるいは正側の電源と負側の電源を設けることが考えられる。
また、本発明は特に、ホールスラスタの振動現象を抑制して、最適な磁場の制御方法を行うためのものであり、ホールスラスタに適用することが有効である。したがって、全ての実施の形態において、イオン加速装置として、ホールスラスタという人工衛星の推進装置について述べている。しかしながら、本発明を、ホールスラスタと同様の装置をイオン源装置として用いる場合などに適用してもよい。また、本発明は、円環状のイオン源装置だけではなく、電圧によってイオンを加速し、磁場によって電子の動きを制限しようとするような一般的な電気推進装置やイオン加速装置、たとえばイオンスラスタなどにも適用が可能である。