JP6031158B1 - ユーグレナの培養方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】揮発性の栄養源を、簡易な方法により安定的に連続供給可能な微生物の培養方法及び装置を提供する。【解決手段】固体,液体又は溶液の溶質からなる微生物の窒素源及び/又は炭素源である栄養源物質から、栄養源物質の蒸気を発生させ、蒸気を、微生物の培地の表面に接触する気相に供給して、培地で、微生物の培養を行う。外部との通気が制限された気体容器内に、気体容器内の気相に表面を接触させて、培地を配置する配置工程と、気相に、栄養源物質の蒸気を供給しながら、微生物の培養を行う培養工程と、を行う。【選択図】図9

Description

本発明は、新規な方法で栄養源を培地に供給するユーグレナの培養方法に関する。
微生物の培養には、培養する生物に応じて炭素源、窒素源、ミネラル、ビタミンを組み合わせた培地が使われている。
培地成分の添加方法としては、培養の初発培地に1回のみ添加する方法が一般的であるが、培養中に間欠的に、又は連続的に添加する方法も知られている。
例えば、微細藻ユーグレナの場合、従属栄養培養では炭素源としてグルコース、エタノールが主に使用されており、独立栄養培養では炭素源として二酸化炭素が用いられている。窒素源としては従属栄養培養、独立栄養培養ともにアンモニア態窒素が用いられている。
エタノールのような揮発性物質では、初発培地に1回のみ添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、エタノールやアンモニアは産業廃液に含まれることがあり、廃棄物の削減につなげることも期待して、焼酎粕等を培地に添加して微生物を培養する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
特許第2997767号公報(段落0011) 特開2014−54240号公報
しかし、特許文献1のように、揮発性の栄養源を初発培地に1回のみ添加した場合、微生物に資化される以外に液面から揮発してしまうことがあった。また、初発培地に高濃度で添加するとかえって増殖を抑制してしまうことがあった。
そのため、初発培地にエタノールを添加し、その消費と共に培養中に添加する方法があるが、培地中のエタノール濃度を定量測定しながら適量を間欠的に又は連続的に添加する方法は操作が煩雑となり、培養コスト増加の要因となる。
また、特許文献2の方法では、産業廃液には、微生物にとって栄養源となる成分以外に有害となる成分も含まれている可能性があるため、産業廃液を直接培養液に添加するためには添加濃度の検討等を入念に行う必要があった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、揮発性の栄養源を、簡易な方法により安定的に連続供給可能なユーグレナの培養方法を提供することにある。
前記課題は、本発明の培養方法によれば、外部との通気が制限された容器内に、該容器内の気相に表面を接触させて、ユーグレナの培地を配置すると共に、前記容器内又は該容器と通気可能に接続された密閉容器内に、5〜10重量%のエタノール水溶液を配置する配置工程と、前記気相に前記エタノール水溶液の蒸気を供給し、前記気相から前記培地の表面を介して前記培地に前記蒸気を供給しながら、前記ユーグレナの培養を行う培養工程と、を行うこと、により解決される。
このように構成しているので、炭素源となる栄養源物質のエタノールが気相を介して、培地の表面を通って培地に溶けることにより、ユーグレナの増殖の栄養源として資化させることができる。また、前記容器内又は該容器と通気可能に接続された密閉容器内に、5〜10重量%のエタノール水溶液を配置しており、気相及び培地の表面を介して、間接的に栄養源物質を培地に供給できるため、培地中の栄養源物質の濃度を簡単に一定の値以下に制御することができ、栄養源物質が過分に供給されてユーグレナの増殖が阻害されることを抑制できる。
また、外部との通気が制限され、気体を内部に保持する容器を用いるため、気相中の栄養源物質の蒸気が容器外に漏れることが抑制され、気相中の栄養源物質の濃度を一定の値に制御できる。従って、培地への栄養源物質の安定供給が可能となる。
前記配置工程では、前記容器内に、前記培地として状の培養液を配置すると共に、前記エタノール水溶液を前記容器内に配置すると好適である。
このように構成しているため、一旦エタノール水溶液を配置すれば、頻繁に追加等を行う必要がなく、工程、操作の単純化が図れる。
また、栄養源物質のエタノールが揮発性であるため、栄養源として、栄養源物質の純度の高い固体,液体又は溶液を準備する必要がなく、非揮発性の不純物や微生物の増殖を阻害する物質,微生物の増殖に悪影響を及ぼす物質等を含んだ状態で、栄養源として用いることが可能である。
従って、海水や産業廃棄物であっても、揮発性の栄養源物質のエタノール及び非揮発性の不純物や微生物の増殖を阻害する物質を含んだ溶液,懸濁液,乳化液等を、栄養源物質のエタノールの純度を高めることなく、そのまま、栄養源として用いることができる。
本発明によれば、微生物の増殖に必要な炭素源及び窒素源を、簡単な操作、装置で安定供給できる。
本発明によれば、ユーグレナの培養を行うため、食糧,飼料,燃料等としての利用が有望視されているユーグレナについて、新規な培養方法が提供される。
また、前記配置工程では、前記容器内に、前記培地として、上方に開口を有する容器体からなる培養槽に貯留された液状の培養液を配置すると共に、前記エタノール水溶液として、上方に開口を有する容器体からなる栄養源貯留槽に貯留された前記エタノール水溶液を、前記容器内の前記培養槽の下方に配置し、前記培養工程では、前記培養液を撹拌しながら前記ユーグレナの培養を行うと好適である。
また、前記配置工程では、前記容器内に、前記培地として液状の培養液を貯留すると共に、該培養液内の該培養液の液面より下方に、開口を下方に向けて固定された容器体からなる気相容器を配置し、該気相容器内に、開口を上方に向けて配置された容器体からなる栄養源貯留槽に、前記エタノール水溶液を貯留すると好適である。
本発明によれば、炭素源となる栄養源物質のエタノールが気相を介して、培地の表面を通って培地に溶けることにより、ユーグレナの増殖の栄養源として資化させることができる。また、前記容器内又は該容器と通気可能に接続された密閉容器内に、5〜10重量%のエタノール水溶液を配置しており、気相及び培地の表面を介して、間接的に栄養源物質を培地に供給できるため、培地中の栄養源物質の濃度を簡単に一定の値以下に制御することができ、栄養源物質が過分に供給されてユーグレナの増殖が阻害されることを抑制できる。
本発明の一実施形態で用いられる培養装置の概略構成図である。 本発明の他の実施形態で用いられる培養装置の概略構成図である。 本発明の更に他の実施形態で用いられる培養装置の概略構成図である。 試験例1の5日間培養後における24穴プレートの各ウェルの外観写真である。 試験例1の5日間培養後におけるユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定した結果を示すグラフである。 試験例2の5日間培養後における24穴プレートの各ウェルの外観写真である。 試験例2の5日間培養後におけるユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定した結果を示すグラフである。 試験例3の3日間培養後におけるユーグレナ培養液の外観写真である。 試験例4において、実施例1及び対比例1の培養液のユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定した結果を示すグラフである。 試験例4において、実施例1のユーグレナ培養液及び対比例2の水におけるエタノール濃度の測定結果を示すグラフである。 試験例5において、参考及び対比例3の培養3日目におけるユーグレナ培養液の外観写真である。 試験例5において、参考及び対比例3の培養前後におけるユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定した結果を示すグラフである。 試験例6において、実施例及びの培養液のユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定した結果を示すグラフである。 試験例6において、実施例及びのユーグレナ培養液におけるエタノール濃度の測定結果を示すグラフである。
以下、本発明のユーグレナの培養方法について、説明する。
本発明の実施形態に係るユーグレナの培養方法は、液体培地の表面に、窒素源及び/又は炭素源となり、培養温度において液体又は溶液の溶質である栄養源物質の蒸気を含む気相を接触させて、この培地でユーグレナの培養を行う方法である。
「蒸気」とは、「気体」と同義であって、液体状態と共存しうる気体状態にある物質、すなわち臨界温度以下の温度にある気体、特に、室温で液体又は固体である物質の気体を含む(岩波 理化学辞典 第5版)。
「相」とは、明確な物理的境界により他と区別される物質系の均一な部分をいい、それが気体、液体、固体の状態であるのに応じて、それぞれ気相、液相、固相という(岩波
理化学辞典 第5版)。
「溶質」とは、溶液に溶解した液体,固体又は気体をいう。
本実施形態で用いられる栄養源物質は、微生物の培養温度において、液体又は溶液中の溶質であるエタノールである
本実施形態のユーグレナの培養方法は、栄養源として窒素源及び炭素源を必要とするあらゆる微生物について適用することができる。例えば、微細藻類を含む藻類等の真核生物、光合成を行う光合成微生物等にも好適に適用できる。
微細藻類は、水中を浮遊しつつ生息する生物である。また、微細藻類は、昆布やワカメと異なり、通常、単細胞性であり、大きさが概ね数マイクロメートルから数十マイクロメートルの微小な藻類である。
微細藻類としては、光合成によって増殖する光独立栄養微細藻類、ブドウ糖などの有機性栄養素を栄養源として利用して増殖する従属栄養微細藻類等が挙げられる。
光独立栄養微細藻類としては、ユーグレナ属に属する生物のように光合成することができ且つ有機性栄養素を栄養源として利用できる生物もある。
微細藻類としては、ユーグレナ(Euglena)属に属する生物、クロレラ(Chlorella)属に属する生物、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属する生物、オーキセノクロレラ(Auxenochlorella)属に属する生物、ボツリオコッカス(Botryococcus)属に属する生物、ナンノクロリス(Nannochloris)属に属する生物、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する生物、ネオクロリス(Neochloris)属に属する生物、シュードコリシスチス(Pseudochoricystis)属に属する生物、セネデスムス(Scenedesmus)属に属する生物、シゾキトリウム(Schizochytorium)属に属する生物からなる群より選択された少なくとも1種が好ましい。
光独立栄養微細藻類としては、ユーグレナ(Euglena)属に属する生物、クロレラ(Chlorella)属に属する生物、オーキセノクロレラ(Auxenochlorella)属に属する生物、ボツリオコッカス(Botryococcus)属に属する生物、ナンノクロリス(Nannochloris)属に属する生物、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する生物、ネオクロリス(Neochloris)属に属する生物、シュードコリシスチス(Pseudochoricystis)属に属する生物、セネデスムス(Scenedesmus)属に属する生物からなる群より選択された少なくとも1種が好ましい。
従属栄養微細藻類としては、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属する生物、又は、シゾキトリウム(Schizochytorium)属に属する生物が好ましい。
供給する栄養源物質としては、微生物の培養に適した温度において揮発、蒸発又は昇華することによって気体になり得る物質であれば用いることができ、揮発性、昇華性の物質を用いることができる。例えば、炭素源となるエタノール、ドライアイス、窒素源となるアンモニア等を用いることができるが、本実施形態では、エタノールを用いる
エタノールは、室温又は培養温度において液体又は溶液の溶質からなる栄養源物質に該当し、アンモニアは、室温又は培養温度において溶液の溶質からなる栄養源物質に該当し、ドライアイスは、室温又は培養温度において固体からなる栄養源物質に該当する。供給する栄養源物質の量は、栄養源物質の濃度、量によって調整することができるが、気相の圧力を上下させることによっても調整できる。
ここで、「揮発」とは、常温で気体となること、「蒸発」とは、液体がその表面から気化する現象、「昇華」とは、固体が、液体を経ないで直接気体になることをいう。
また、「揮発性」とは、常温・常圧で、空気中に揮発、蒸発し易い性質をいい、「非揮発性」とは、常温・常圧で、空気中に揮発、蒸発し難い性質をいう。
栄養源物質は、液体又は固体の栄養源物質、栄養源物質の水溶液、栄養源物質を含む懸濁液等の状態で用いることができる。栄養源物質の水溶液としては、例えば、エタノール水溶液、アンモニア水溶液等を用いることができるが、本実施形態では、エタノールを用いる
エタノールを資化できる微生物は少ないため、エタノールを資化できる目的微生物以外の微生物が繁殖するコンタミネーションのリスクが少なく、独立培地に添加した場合グルコースよりも単独での資化効率が高い場合は、屋外培養において、利用しやすい有機物である。
また、栄養源物質の供給源として、揮発性の栄養源物質と、非揮発性の不純物や、微生物の増殖を阻害する非揮発性の物質とを含む溶液、懸濁液、乳化液等の液体を用いてもよい。
例えば、栄養源物質の供給源として、エタノール及び/又はアンモニアを含む産業廃液等の産業廃棄物を用いてもよい。産業廃液としては、例えば、醸造酒等の製造工程で発生した麦汁、清酒粕、焼酎粕、酵母、酵母自己消化物、廃糖蜜を含む廃棄物や、その他の産業廃液、醸造酒、堆肥製造工程で発生したアンモニアを水に溶解させた溶液等を、エタノール及び/又はアンモニアの供給源として用いてもよい。
醸造酒は、糖分を含む原料を酵母によってアルコール発酵させて作られたものであり、蒸留処理が施されていないものである。即ち、単糖類又は二糖類を含む原料を酵母によってアルコール発酵させたものから固形分を除いた蒸留処理が施されていない液状のものである。
醸造酒としては、清酒、ワイン、ビール、穀物を原料とした醸造酒、マメを原料とした醸造酒、イモを原料とした醸造酒、又は、糖を原料とした醸造酒等が挙げられる。
ビールは、少なくとも麦芽に含まれるデンプンを麦芽内の酵素によって糖化させて糖を産生させ、さらにこの糖分をビール酵母によってアルコール発酵させて作られたものである。
ビールとしては、例えば、酒税法によって分類されるいわゆるビール、発泡酒、その他の発泡性酒類(その他の醸造酒、リキュールといったいわゆる第3のビール)と称されるものが挙げられる。
清酒(日本酒)は、米に含まれるデンプンを麹によって糖化させて糖分を産生させ、さらにこの糖分を酵母によってアルコール発酵させて作られたものである。
ワインは、少なくともブドウ果汁を酵母によってアルコール発酵させて作られたものである。
穀物を原料とした醸造酒としては、例えば、トウモロコシ、コウリャンなどの穀物を原料として、該原料に含まれる多糖類を糖化した糖分を酵母によってアルコール発酵させて作られたものが挙げられる。
マメを原料とした醸造酒としては、例えば、ダイズ、アズキ、リョクトウ、インゲンマメ、ラッカセイ、エンドウ、又はソラマメなどを原料として、該原料に含まれる多糖類が糖化された糖分を酵母によってアルコール発酵させて作られたものが挙げられる。
イモを原料とした醸造酒としては、例えば、ジャガイモ、サツマイモなどを原料として、該原料に含まれる多糖類が糖化された糖分を酵母によってアルコール発酵させて作られたものが挙げられる。
糖を原料とした醸造酒としては、例えば、サトウキビやテンサイの絞汁を原料として、該原料に含まれるショ糖を酵母によってアルコール発酵させて作られたものが挙げられる。
また、堆肥製造工程や廃棄物処理工程等で発生するアンモニアを水に溶解させたアンモニア溶液を用いてもよい。
以下、本発明の一実施形態に係るユーグレナの培養方法について、図1〜図14を参照しながら説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
<<ユーグレナ>>
本明細書において、「ユーグレナ」とは、動物学や植物学の分類でユーグレナ属(Euglena)に分類される微生物、その変種、その変異種のすべてを含む。
ここで、ユーグレナ属(Euglena)の微生物とは、動物学では原生動物門(Protozoa)の鞭毛虫綱(Mastigophorea)、植物鞭毛虫亜綱(Phytomastigophorea)に属するミドリムシ目(Euglenida)のユーグレノイディナ亜目(Euglenoidina)に属する微生物である。一方、ユーグレナ属の微生物は、植物学ではミドリムシ植物門(Euglenophyta)のミドリムシ藻類綱(Euglenophyceae)に属するミドリムシ目(Euglenales)に属している。
ユーグレナ属の微生物としては、具体的には、Euglena acus、Euglena caudata、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena oxyuris、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridis、Euglena vermiformis、Euglena intermedia、Euglena pirideなどが挙げられる。
ユーグレナ細胞としては、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM−ZK株(葉緑体欠損株)や変種のvar. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株由来のβ−1,3−グルカナーゼ、Euglena intermedia, Euglena piride、及びその他のユーグレナ類、例えばAstaia longaであってもよい。
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。
本発明のユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え,形質導入,形質転換等により得られたものも含有される。
<<ユーグレナの培養装置>>
本実施形態で用いられるユーグレナの培養装置は、培地の表面に、窒素源及び/又は炭素源であって、固体液体又は溶液の溶質からなる栄養源物質の蒸気を含む気体を接触させて、ユーグレナの培養を行う装置である。
体中の栄養源物質の濃度を所望の濃度に維持することができれば、培養装置は、密閉型、開放型のいずれでもよいが、密閉型の培養装置とすると、栄養源物質蒸気の濃度の制御が、より容易となる。開放型の培養装置としては、気体中の栄養源物質の濃度が大きく低下しない程度に換気可能な開口を備えていてもよい。
◎密閉型の培養装置S1
図1に、密閉型の培養装置S1の概略構成を示す。
図1の培養装置S1は、外部との通気が遮断され密閉されたチャンバ1と、培養チャンバ1内に配置された培養槽2、栄養源貯留槽3とを備えている。
チャンバ1は、開閉可能な不図示の扉を備え、閉扉時には外部との通気が遮断された密閉式の内空筐体からなる。チャンバ1は、光独立栄養条件における微生物培養が可能なように、アクリル樹脂やガラス等の透明材料から形成されている。但し、従属栄養条件下でのみ培養を行う場合には、遮光性の材料から形成されていてもよい。
チャンバ1内は、内部の空間5となっており、この空間5に、空気等の気体が保持される。
チャンバ1は、完全に気密である必要はなく、空間5内の気相中の栄養源物質の濃度が大きく低下しない程度に換気可能な隙間を外壁に備えていてもよい。
チャンバ1内には、ユーグレナ及び培地を貯留するための容器体からなる培養槽2が配置されている。培養槽2は、培地の表面が、チャンバ1内の空間5に保持される気体と接触するよう、上方が開口した筒状となっている。また、培養槽2は、不図示の撹拌翼等の撹拌装置を備えている。
なお、培養槽2は培地の表面が空間5内の気体と接触可能なように、培地表面側に開口を備えていればよく、図1のように、上部全体が開口している形状には限定されない。例えば、上部に蓋を備え、この蓋に、気体が連通可能な孔が設けられていてもよい。
また、チャンバ1内には、窒素源又は炭素源である栄養源物質を貯留するための容器体からなる栄養源貯留槽3が配置されている。
栄養源貯留槽3には、エタノール、エタノール水溶液、アンモニア水溶液、ドライアイスや、清酒粕や焼酎粕、酒類の廃棄物等、エタノール及び/又はアンモニアを含む産業廃液等の産業廃棄物を貯留し、エタノール及び/又はアンモニアからなる栄養源成分をチャンバ1内の空間5の気相に揮発,蒸発又は昇華させることにより、気相を介して培地表面から培地内に栄養源成分を供給する。
本実施形態では、培地への汚染を防ぐため、栄養源貯留槽3を、培養槽2の下に配置しているが、培養槽2の横等、他の位置関係で配置してもよい。
栄養源貯留槽3には、チャンバ1の外壁を貫通する栄養源供給用のパイプを連結し、このパイプを通じて、チャンバ1外から、栄養源物質を連続的に供給可能としてもよい。
◎密閉型の培養装置S2
本発明で用いることができる培養装置は、図2の培養装置S2のようにも構成可能である。
図2の培養装置S2は、図1の栄養源貯留槽3を備える代わりに、チャンバ1とパイプ6で通気可能に連結された密閉型の栄養源チャンバ11を備え、栄養源チャンバ11内に、栄養源貯留槽13が配置されている。
栄養源貯留槽13は、栄養源貯留槽3と同様に構成してもよく、また、不図示のヒーターを備え、栄養源貯留槽13をこのヒーターで加熱することにより、栄養源成分のガスを発生させるように構成してもよい。
パイプ6は、バルブ7を備えており、バルブ7を開閉することにより、チャンバ1内の空間5の気相内における栄養源成分の比率を調整可能である。
◎培養装置S3
本発明で用いることができる培養装置は、図3の培養装置S3のようにも構成可能である。
図3の培養装置S3は、密閉型のチャンバ1を備えない開放型の例である。
培養装置S3は、ユーグレナ及び培地を貯留するための容器体からなる培養槽22と、培養槽22に貯蔵される培地の表面Aよりも下方に、開口を下方に向けて固定され、容器体からなる気相容器21と、気相容器21内に、開口を上方に向けて、固定具24により固定され、容器体からなる栄養源貯留槽23とを備えている。
栄養源貯留槽23は、気相容器21より高さ及び縦横が小さく形成されており、全体が、気相容器21内に格納されている。また、気相容器21は、培養槽22より高さ及び縦横が小さく形成されており、全体が、培養槽22内に格納されている。
栄養源貯留槽23は、固定具24によって気相容器21に対して固定され、気相容器21は、不図示の固定具によって培養槽22に対して固定されている。
気相容器21の壁部には、図3に示すように、培養槽22の外部に連結するパイプ26、28が設けられ、パイプ26、28には、バルブ27、29がそれぞれ設けられている。
パイプ26は、空気等の気体を、培養槽22の外部から気相容器21内の空間25に供給、又は、空間25から培養槽22の外部に排出するために用いられる。パイプ28は、先端が栄養源貯留槽23の底面近傍まで延びており、栄養源物質の液体等の流体を、培養槽22の外部から気相容器21内の栄養源貯留槽23に供給、又は、栄養源貯留槽23から培養槽22の外部に排出するために用いられる。
培養装置S3は、培養槽22にユーグレナ及び培地を供給しながら、パイプ26から気相容器21内に気体を供給し、パイプ28から栄養源貯留槽23に栄養源物質の液体等の流体を供給することにより、図3に示すように、気相容器21内に、培地の表面Bが形成され、培地の表面Bが、栄養源貯留槽23から揮発,蒸発又は昇華した栄養源物質に、空間25内の気相を介して接触し、培地に栄養源物質が供給可能となる。
<<ユーグレナの培養方法>>
次に、本発明のユーグレナの培養方法について、図1の培養装置S1を用いてユーグレナを培養する場合を例として説明する。
まず、チャンバ1の不図示の扉を開けて、培養槽2に、培地を投入する。
培地としては、例えば、窒素源,リン源,ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液、例えば、改変Cramer-Myers培地(以下、CM培地という。)や、改変CM培地の(NHHPOを(NHSOやNHaqに変換した培地,ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、株式会社学会出版センター)の記載に基づき調製される公知のHutner培地,Koren-Hutner培地を用いることができる。
培地のpHは好ましくは2以上、また、その上限は、好ましくは6以下、より好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
次いで、ユーグレナ等の微生物を培地に接種する。
また、栄養源貯留槽3に、炭素源となるエタノール、ドライアイス、窒素源となるアンモニア等や、産業廃液等の栄養源物質を投入する。
その後、チャンバ1の不図示の扉を閉め、培地を不図示の撹拌翼又はスターラーで撹拌し、培地の温度を通常20〜34℃、好ましくは28〜30℃に保持しながら、微生物の培養を行う。
また、培養条件にもよるが、ユーグレナは通常、培養開始後2〜3日で対数増殖期となり、4〜5日程度で定常期に到達する。
ユーグレナは、光照射下で培養(明培養)されてもよく、無照射で培養(暗培養)されてもよい。
本実施形態のユーグレナの培養方法は、揮発性又は昇華性の栄養源物質を培地の表面に接する気相に供給するため、屋外のオープン培養よりも、閉空間での培養が適している。例えば、屋外の大規模オープンポンド等における培養の前に行う前培養において、好適に実施可能である。
以下、本発明のユーグレナの培養方法について、ユーグレナを培養する具体的実施例に基づき説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<試験例1 24穴プレート オープン培養>
表1に示す改変CM培地2mLずつを24穴プレート(TPP,24ウェル細胞培養プレート)の各ウェルに加え、Euglena gracilis Z株を接種した。各ウェルには0、0.05、0.1、1、5、10重量%のエタノールを、炭素源として3ウェルずつそれぞれ添加した。24穴プレートには蓋をせず、24穴プレート用の振盪培養器(アズワン、NS-4P)を用いて100rpmの強度で攪拌しながら室温で5日間培養した。
各エタノール濃度のウェルの5日間培養後の培養液のユーグレナ細胞濃度を、波長680nmの吸光度(Optical Dencity 680, OD680)により、分光光度計(島津製作所、UVmini-1240)を用いて測定した。各ウェルの外観写真を図4に、OD680の測定結果を図5に示す。
図4,図5に示すように、培養5日後の培養液のユーグレナ細胞濃度には、エタノールの添加濃度に関わらず大きな差は認められなかった。
<試験例2 24穴プレート クローズ培養>
試験例1と同様に、改変CM培地2mLずつを24穴プレート(TPP,24ウェル細胞培養プレート)の各ウェルに加え、Euglena gracilis Z株を接種した。各ウェルには0、0.05、0.1、1、5、10重量%のエタノールを炭素源として3ウェルずつそれぞれ添加した。24穴プレートに蓋をして密閉し、24穴プレート用の振盪培養器(アズワン、NS-4P)を用いて100rpmの強度で攪拌しながら室温で5日間培養した。
各エタノール濃度のウェルの5日間培養後の培養液のユーグレナ細胞濃度を、波長680nmの吸光度(Optical Dencity 680, OD680)により、分光光度計(島津製作所、UVmini-1240)を用いて測定した。各ウェルの外観写真を図6に、OD680の測定結果を図7に示す。
図6、図7に示すように、培養5日後の培養液は試験例1と異なり、エタノール濃度5%以上でOD680が0未満となっており、ユーグレナが死滅してしまっていた。また、エタノール添加濃度が低いほどユーグレナの終濃度は高くなっており、エタノールを添加していないウェルの藻体濃度が最も高くなっていた。
この結果より、少なくとも5%以上の濃度のエタノールをユーグレナの培養液に添加するとユーグレナの増殖を阻害することがわかった。
一方、試験例1と2との間では、24穴プレートに蓋をするかしないかの違いにより、エタノール添加なしのウェルの藻体濃度に約6倍の差が出ていた。系内にある炭素源はエタノールだけであったため、エタノール濃度10%、5%等の他のウェルから揮発したエタノールがエタノール濃度0%の培養液に溶解して、その溶解したエタノールを炭素源としてユーグレナが増殖したことが示唆された。
<試験例3 100%エタノール揮発添加 ビーカー培養>
試験例1と試験例2より、揮発したエタノールが密閉空間を通じて培養液に溶解し、溶解したエタノールを資化してユーグレナが増殖する可能性が示唆された。そこで、試験例1及び2の現象を再現するため、以下の実験を行った。
改変CM培地200mLを200mL容のビーカーに入れ、Euglena gracilis Z株を接種したものを一対用意し、一方は、アクリル樹脂製の中空筐体内に、100%エタノール100mLを入れたものと、磁気撹拌装置と共に格納し、密閉した。
もう一方のユーグレナ培養液を入れたビーカーは、アクリル樹脂製の中空筐体内に、磁気撹拌装置と共に格納したが、エタノールを入れたビーカーを格納せずに、密閉した。
双方のユーグレナ培養液を入れたビーカーについて、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で撹拌しながら室温で3日間培養した。
培養3日後の写真を図8に示す。100%エタノールを同一密閉空間に置いていないユーグレナの培養液では、ユーグレナが増殖していたが、100%エタノールを同一密閉空間に置いたユーグレナの培養液では、培養3日後には、ユーグレナが死滅してしまった。この結果から、同一密閉空間に置いたエタノールの揮発がユーグレナ培養液に影響を及ぼしたことが示唆された。また、100%濃度のエタノールを同一密閉空間に置いた場合、ユーグレナ培養液のエタノール濃度がユーグレナの増殖に悪影響を及ぼす程の高濃度になってしまうことがわかった。
<試験例4 10%エタノール揮発添加 ビーカー培養>
100%濃度のエタノールを同一密閉空間に置いた場合、ユーグレナ培養液のエタノール濃度がユーグレナの増殖に悪影響を及ぼす程の高濃度になることが試験例3で分かったことから、本試験例では、同一空間に置くエタノール溶液の適切な濃度を検討するため、以下の実験を行った。
改変CM培地100mLを100mL容のビーカーに入れ、Euglena gracilis Z株を接種したものを、2つ用意した。
2つの培養液のうち1つは、アクリル樹脂製の箱で密閉した空間に、磁気撹拌装置ごと格納すると共に、同じ空間内に水100mLを入れたビーカーを格納して、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で培養液を撹拌しながら室温で4日間培養した(対比例1)。
もう1つの培養液は、アクリル樹脂製の箱で密閉した空間に、磁気撹拌装置ごと格納すると共に、同じ空間内に10%エタノール溶液100mLを入れたビーカーを格納して、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で培養液を撹拌しながら室温で4日間培養した(実施例1)。
対比例1及び実施例1の培養液のユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定した結果を、図9に示す。
エタノール揮発添加なしの対比例1では、培養4日目の濃度の増加が培養初日の2倍程度であったのに対し、10%エタノールを揮発添加した実施例1では、培養4日目の濃度が培養初日の5倍程にまで増加していた。
この結果は、10%エタノール溶液に含まれるエタノールが揮発して密閉空間に充満し、ユーグレナの培養液に溶解することでユーグレナに炭素源として資化されたことを示す。
また、実施例1のユーグレナが資化したエタノールの量を推定することを目的として、実施例1のユーグレナ培養液の代わりに水を同様の条件で撹拌する実験を行った。
すなわち、アクリル樹脂製の箱で密閉した空間に、水100mLを入れたビーカーを磁気撹拌装置ごと格納すると共に、同じ空間内に10%エタノール溶液100mLを入れたビーカーを格納して、室温で4日間、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で水を撹拌した(対比例2)。
実施例1のユーグレナ培養液及び対比例2の水におけるエタノール濃度を、エタノール定量キット(コスモバイオ株式会社)を用いて測定した。
エタノール濃度の測定結果を図10に示す。10%エタノール溶液と共にユーグレナ培養液を密閉空間に置いた実施例1では、時間に応じてエタノール濃度が上昇し、培養4日目の5%で横ばいになった。10%エタノール溶液と共に水を密閉空間に置いた対比例2では、実施例1と同様に時間に応じてエタノール濃度が上昇し、培養4日目の5%で横ばいになった。実施例1と対比例2を比較すると、ユーグレナ培養液を置いた実施例1の方が水を置いた対比例2よりも常に低いエタノール濃度で推移していた。実施例1と対比例2のエタノール濃度の差が、実施例1のユーグレナが資化したエタノールの量を示すと考えられる。
<試験例5 アンモニア揮発添加 ビーカー培養>
本試験例では、アンモニアについても、揮発した気体が密閉空間を通じて培養液に溶解し、ユーグレナが溶解したアンモニアを資化して増殖するかどうかを確認するため、以下の実験を行った。
表2に示す窒素欠乏改変CM培地100mLを100mL容のビーカーに入れ、Euglena gracilis Z株を接種したものを、6つ用意した。
6つの培養液のうち3つは、アクリル樹脂製の箱で密閉した空間に、磁気撹拌装置ごと格納すると共に、同じ空間内に水50mLを入れたビーカーを格納して、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で培養液を撹拌しながら室温で3日間培養した(対比例3)。
残る3つの培養液は、アクリル樹脂製の箱で密閉した空間に、磁気撹拌装置ごと格納すると共に、同じ空間内に28%アンモニア水(和光純薬)を1,000倍に希釈したアンモニア水(以下、1,000倍希釈アンモニア水)50mLを入れたビーカーを格納して、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で培養液を撹拌しながら室温で3日間培養した(参考)。
培養3日目の写真を図11に示す。水のみを同一密閉空間に入れた対比例3では、培地に窒素源が含まれていないため増殖できず培養3日目にユーグレナの緑色が退色してしまったが、1,000倍希釈アンモニア水を同一密閉空間に入れた参考では適度なアンモニア源が培地に供給され、ユーグレナは増殖を示し、緑色も維持されていた。
対比例3及び参考の培養液のユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定し、対比例3及び参考それぞれの培養液の培養前(培養0日目)、培養後(培養3日目)の平均値及び標準偏差(n=3)をグラフ化した結果を図12に示す。
水のみを同一密閉空間に入れた対比例3でも培養3日目には2倍程度の濃度に増加していたが、1,000倍希釈アンモニア水を同一密閉空間に入れた参考では、培養0日目の5倍に濃度が増加していた。
また、培養3日目におけるユーグレナ培養液のアンモニア濃度を、デジタルパックテストマルチ(DPM-MT)(共立理化学研究所)を用いて測定した。培養液に含まれるアンモニア濃度は対比例3では0mg/L、参考では約1.90mg/Lであった。
以上の結果より、参考において、1,000倍希釈アンモニア水から蒸発したアンモニアが同一密閉空間の気相を通じてユーグレナ培養液に溶解し、窒素源としてユーグレナに供給されたことが分かった。
<試験例6 10%塩化ナトリウム+5%エタノール揮発添加 ビーカー培養>
本試験例では、揮発性の栄養源と、ユーグレナの増殖を阻害する非揮発性の物質を含む液体を、ユーグレナ培地と同じ密閉空間内に配置した場合、揮発性の栄養源のみが密閉空間を通じて培養液に溶解し、溶解した栄養源を資化してユーグレナが増殖するのか、又は、ユーグレナの増殖が、非揮発性の物質によって影響を受けるのかを、確認するため、以下の実験を行った。
改変CM培地100mLを200mL容のビーカーに入れ、Euglena gracilis Z株を接種した培養液を、2つ用意した。
2つの培養液のうち1つは、アクリル樹脂製の箱で密閉した空間に、磁気撹拌装置ごと格納すると共に、同じ空間内に5%エタノール溶液50mLを入れたビーカーを格納して、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で培養液を撹拌しながら室温で3日間培養した(実施例)。
もう1つの培養液は、アクリル樹脂製の箱で密閉した空間に、磁気撹拌装置ごと格納すると共に、同じ空間内に5%エタノール+10% NaCl溶液50mLを入れたビーカーを格納して、磁気撹拌子を用いて100rpmの強度で培養液を撹拌しながら室温で3日間培養した(実施例)。
実施例及び実施例の培養液のユーグレナ細胞濃度(OD680)を、分光光度計を用いて測定した結果を、図13に示す。
5%エタノール揮発添加の実施例では、OD680が0.13から1.6まで増加していた。5%エタノール+10% NaCl揮発添加の実施例では、OD680が0.13から1.5まで増加していた。培養期間を通じてみても、実施例と実施例の間で増殖に大きな差は認められなかった。
実施例及び実施例のユーグレナ培養液におけるエタノール濃度を、エタノール定量キット(コスモバイオ株式会社)を用いて測定した。
エタノール濃度の測定結果を図14に示す。5%エタノール溶液と共にユーグレナ培養液を密閉空間に置いた実施例及び5%エタノール+10% NaCl溶液と共にユーグレナ培養液を密閉空間に置いた実施例は、共に時間とともにエタノール濃度が上昇し、培養3日目のエタノールの終濃度においても、実施例と実施例で同程度であった。
実施例及び実施例のユーグレナ培養液におけるNaCl濃度を、デジタル塩分計YK-31SA(株式会社マザーツール)を用いて測定した。その結果、実施例及び実施例のユーグレナ培養液のNaCl濃度は培養前後で0%であった。
以上の結果より、5%エタノール+10% NaCl溶液を同じ空間内に格納した場合(実施例)、NaClは揮発しないためユーグレナ培養液には供給されないが、エタノールは揮発してユーグレナ培養液に炭素源として供給されることが分かった。
Euglena gracilisは淡水又は汽水で増殖する藻類であり、海水では増殖できない。海水の塩分濃度は約3%であるが、Euglena gracilisは1%以上の塩分濃度で増殖阻害を示す。5%エタノール+10% NaCl溶液をユーグレナ培養液に直接添加すると、エタノールが炭素源として資化される一方、NaClによって増殖阻害が引き起こされてしまう。
本試験例のように、揮発性のある栄養源物質を含むが、細菌や微細藻の増殖に悪影響のある物質も含まれているような溶液を培養に用いる場合、気相を通じた供給により栄養源物質のみを培養液に供給することができることが分かった。
液体から蒸発又は揮発した蒸気を用いると、廃棄物に含まれる非揮発性、非昇華性の物質は、気相には供給されず、培地にも供給されない。従って、廃棄物に含まれる、微生物の増殖を阻害する非揮発性、非昇華性の物質は、培地に供給されないのに対し、揮発性のエタノール及び/又はアンモニアは培地に供給されるので、酒類製造工程等から排出される産業廃棄物を、微生物の培養に用いることが可能となる。
A、B 表面
S1、S2、S3 培養装置
1 チャンバ
2、22 培養槽
3、13、23 栄養源貯留槽
5 空間
6、26、28 パイプ
7、27、29 バルブ
11 栄養源チャンバ
21 気相容器
24 固定具

Claims (4)

  1. 外部との通気が制限された容器内に、該容器内の気相に表面を接触させて、ユーグレナの培地を配置すると共に、前記容器内又は該容器と通気可能に接続された密閉容器内に、5〜10重量%のエタノール水溶液を配置する配置工程と、
    前記気相に前記エタノール水溶液の蒸気を供給し、前記気相から前記培地の表面を介して前記培地に前記蒸気を供給しながら、前記ユーグレナの培養を行う培養工程と、を行うことを特徴とするユーグレナの培養方法。
  2. 前記配置工程では、前記容器内に、前記培地として状の培養液を配置すると共に、前記エタノール水溶液を前記容器内に配置することを特徴とする請求項記載のユーグレナの培養方法。
  3. 前記配置工程では、前記容器内に、前記培地として、上方に開口を有する容器体からなる培養槽に貯留された液状の培養液を配置すると共に、前記エタノール水溶液として、上方に開口を有する容器体からなる栄養源貯留槽に貯留された前記エタノール水溶液を、前記容器内の前記培養槽の下方に配置し、
    前記培養工程では、前記培養液を撹拌しながら前記ユーグレナの培養を行うことを特徴とする請求項1記載のユーグレナの培養方法。
  4. 前記配置工程では、前記容器内に、前記培地として液状の培養液を貯留すると共に、該培養液内の該培養液の液面より下方に、開口を下方に向けて固定された容器体からなる気相容器を配置し、該気相容器内に、開口を上方に向けて配置された容器体からなる栄養源貯留槽に、前記エタノール水溶液を貯留することを特徴とする請求項1記載のユーグレナの培養方法。
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