[実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車101は、駆動力伝達装置1,エンジン(主駆動源)102,トランスミッション103,主駆動輪としての一対の前輪104L,104R及び補助駆動輪としての一対の後輪105L,105Rを備えている。
駆動力伝達装置1は、四輪駆動車101におけるトランスミッション103側から後輪側に至る駆動力伝達経路にフロントディファレンシャル106及びリヤディファレンシャル107と共に配置され、かつ四輪駆動車101の車体(図示せず)にデフキャリア40(図2に示す)を介して配置されている。
そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト(駆動力伝達軸)2,第1の駆動力断続部3及び第2の駆動力断続部4を有し、四輪駆動車101の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
フロントディファレンシャル106は、前輪側アクスルシャフト108L,108Rに連結された一対のサイドギヤ109L,109R、一対のサイドギヤ109L,109Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ110、一対のピニオンギヤ110を回転可能に支持するピニオンギヤ支持部材130、及び一対のピニオンギヤ110,ピニオンギヤ支持部材130,一対のサイドギヤ109L・109Rを収容するフロントデフケース111を有し、トランスミッション103と第1の駆動力断続部3との間に配置されている。
リヤディファレンシャル107は、後輪側アクスルシャフト112L,112Rに連結された一対のサイドギヤ113L,113R、一対のサイドギヤ113L,113Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ114、一対のピニオンギヤ114を回転可能に支持するピニオンギヤ支持部材115、及びピニオンギヤ支持部材115,一対のピニオンギヤ114,一対のサイドギヤ113L・113Rを収容するリヤデフケース116を有し、プロペラシャフト2と後輪側アクスルシャフト112L,112Rとの間に配置されている。リヤデフケース116は、デフキャリア40内に円すいころ軸受117,118(図2に示す)を介して回転可能に支持されている。
エンジン102は、トランスミッション103及びフロントディファレンシャル106を介して駆動力を一対の前輪側アクスルシャフト108L,108Rに出力することにより一対の前輪104L,104Rを駆動する。
エンジン102は、トランスミッション103,第1の駆動力断続部3,プロペラシャフト2及びリヤディファレンシャル107を介して駆動力を後輪側アクスルシャフト112Rに出力することにより一方の後輪105Rを、またトランスミッション103,第1の駆動力断続部3,プロペラシャフト2,リヤディファレンシャル107及び第2の駆動力断続部4を介して駆動力を後輪側アクスルシャフト112Lに出力することにより他方の後輪105Lをそれぞれ駆動する。
〔駆動力伝達装置1の全体構成〕
図2は駆動力伝達装置を示す。図3はポンプを示す。駆動力伝達装置1は、図1及び図2に示すように、プロペラシャフト2,第1の駆動力断続部3及び第2の駆動力断続部4に制御部としての車両用のECU(Electronic Control Unit)5を加えて大略構成されている。
(プロペラシャフト2の構成)
プロペラシャフト2は、複数のシャフト部20(図2では下方のシャフト部のみ図示)及び連結部21を有し、第1の駆動力断続部3と第2の駆動力断続部4との間に配置されている。そして、プロペラシャフト2は、エンジン102の駆動力をフロントデフケース111から受けて前輪104L,104R側から後輪105L,105R側に伝達する。プロペラシャフト2の前輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン60及びリングギヤ61からなる前輪側の歯車機構6が配置されている。プロペラシャフト2の後輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン70及びリングギヤ71からなる歯車機構7が配置されている。
シャフト部20は、デフキャリア40内に円すいころ軸受30,31を介して回転可能に支持されている。
連結部21は、シャフト部20を挿通させてその外周面に取り付けられ、全体が鍔部付きの無底円筒部材によって形成されている。連結部21の外周面には、デフキャリア40の上方開口部を閉塞するカバー部材32が取り付けられている。また、連結部21の外周面には、デフキャリア40の内周面との間に介在する冷却機構Aが配置されている。
冷却機構Aは、プロペラシャフト2と車体側との相対回転によって作動する冷却用のポンプ33を有し、冷却用の油圧回路Bに配置されている。そして、冷却機構Aは、冷却用の油圧回路Bにおける作動油(潤滑油)によってアクチュエータ(副駆動源)としての電動モータ35(例えばステータコア350aのティース)を冷却する。
冷却用のポンプ33は、図2及び図3に示すように、内外2つの歯車330,331及び一対の側板332,333を有する例えばトロコイドポンプからなり、冷却用の油圧回路Bに配置されている。そして、冷却用のポンプ33は、各歯車330,331の相対回転(本実施の形態では歯車330の回転)によって作動し、電動モータ35の外装部材としてのモータケーシング353内に潤滑油を供給する。
一方の歯車330は、プロペラシャフト2における連結部21の外周面に取り付けられ、全体がトロコイド歯形の外歯歯車によって形成されている。
他方の歯車331は、一方の歯車330の外周囲にその中心軸線よりも中心軸線を偏心(偏心量δ)させて配置され、かつデフキャリア40の内周面に取り付けられ、全体が一方の歯車330に噛合するトロコイド歯形の内歯歯車によって形成されている。
一対の側板332,333は、一方の歯車330及び他方の歯車331を介して互いに対向し、プロペラシャフト2における連結部21の外周面とデフキャリア40の内周面との間に介在して配置されている。そして、一対の側板332,333は、一方の歯車330と他方の歯車331との間に形成されるポンプ空間部33aを密閉する。一方(下方)の側板332には吸込口332aが、また他方の側板333には吐出口333aがそれぞれポンプ空間部33aに連通して設けられている。他方の側板333は、一方の側板332とは反対側への移動が止め輪119によって規制されている。
冷却用の油圧回路Bには、カム機構9にモータ回転力(モータ駆動力a)を付与する電動モータ35が冷却用のポンプ33と共に配置されている。冷却用の油圧回路Bは、冷却用のポンプ33の吐出口333aから吸込口332aに至る潤滑油供給路として機能し、プロペラシャフト2とデフキャリア40との相対回転による冷却用のポンプ33の作動によって潤滑油を電動モータ35(モータケーシング353内)に供給する。
電動モータ35は、図2及び図4に示すように、ステータ350,ロータ351,モータ軸352及びモータケーシング353を有し、冷却用の油圧回路Bに配置され、かつ回転軸線O(図2に示す)と平行な軸線L上でカム機構9に減速機構24(後述)を介して連結されている。また、電動モータ35は、ステータ350がECU5(図1に示す)に接続されている。そして、電動モータ35は、ステータ350がECU5から制御信号S2,S6を入力してカム機構9を作動させるためのモータ駆動力aをロータ351との間で発生させ、ロータ351をモータ軸352と共に回転させる。
ステータ350は、ステータコア350a及びコイル350bを有し、電動モータ35の外周側に配置され、かつモータケーシング353に固定されている。
ステータコア350aは、例えば複数の珪素鋼板を積層してなり、全体が円筒部材によって形成されている。ステータコア350aには、ロータ351側に突出し、かつ円周方向に等間隔をもって並列する複数のティース3500aが設けられている。また、ステータコア350aには、モータケーシング353側に開口する円環状の油路3501aが設けられている。
コイル350bは、車載バッテリ(図示せず)からの電力供給を受ける電線からなり、ステータコア350aのティース3500aに巻回されている。
ロータ351は、ロータコア351a及びセグメント磁石(図示せず)を有し、電動モータ35の内周側に配置され、かつモータ軸352の外周面に取り付けられている。
ロータコア351aは、例えば複数の珪素鋼板を積層してなり、全体が円筒部材によって形成されている。
セグメント磁石は、ロータ径方向内側からロータ径方向外側に向かってN極,S極に着磁した複数の永久磁石、及びロータ径方向外側からロータ径方向内側に向かってN極,S極に着磁した複数の永久磁石からなり、これら両種の永久磁石を円周方向に交互に並列させてロータコア351aの外周面に等間隔をもって接着されている。
モータ軸352は、軸線L上に配置され、かつ第2のキャリアエレメント401内に取り付けられている。モータ軸352には、電動モータ35のモータ駆動力aを減速機構24に出力する駆動歯車354が取り付けられている。
モータケーシング353は、油路3501aに連通するオイル導入口353a及びオイル導出口353bを有し、第2のキャリアエレメント401の開口部401b内に取り付けられている。オイル導入口353aは冷却用のポンプ33の吐出口333aに配管403を介して、またオイル導出口353bは冷却用のポンプ33の吸込口332aに配管404を介してそれぞれ接続されている。
(第1の駆動力断続部3の構成)
第1の駆動力断続部3は、図1に示すように、例えばドグクラッチからなり、四輪駆動車101の前輪104L,104R側に配置され、かつアクチュエータ55を介してECU5に接続されている。そして、第1の駆動力断続部3は、プロペラシャフト2とフロントデフケース111とを断続可能に連結する。
(第2の駆動力断続部4の構成)
第2の駆動力断続部4は、図2に示すように、多板クラッチ8及びカム機構9を有し、四輪駆動車101の後輪105L,105R側に配置され、かつデフキャリア40内に収容されている。
そして、第2の駆動力断続部4は、プロペラシャフト2(図1に示す)と後輪側アクスルシャフト112L(図1に示す)とを断続可能に連結する。すなわち、後輪側アクスルシャフト112Lとプロペラシャフト2とは第2の駆動力断続部4を介在させて連結されている。後輪側アクスルシャフト112Rとプロペラシャフト2とは第2の駆動力断続部4を介在させることなく連結されている。
これにより、第2の駆動力断続部4による連結時には、後輪側アクスルシャフト112Lとプロペラシャフト2とが及び後輪側アクスルシャフト112Rとプロペラシャフト2とが共に歯車機構7及びリヤディファレンシャル107を介してトルク伝達可能に連結される。一方、第2の駆動力断続部4による連結の解除時には、後輪側アクスルシャフト112Lとプロペラシャフト2との連結が遮断されるが、後輪側のアクスルシャフト112Rとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル107を介して連結されたままである。
デフキャリア40は、駆動力伝達装置1の構成部品を収容する第1のキャリアエレメント400,第2のキャリアエレメント401及び第3のキャリアエレメント402からなり、四輪駆動車101(図1に示す)の車体に搭載されている。
第1のキャリアエレメント400は、四輪駆動車101の前方及び左方に開口し、デフキャリア40の一方側(図2では右側)に配置されている。そして、第1のキャリアエレメント400は、プロペラシャフト2の一部及びリヤディファレンシャル107を内部に収容する。
第1のキャリアエレメント400には、後輪側アクスルシャフト112Rを挿通させるシャフト挿通孔400aが設けられている。シャフト挿通孔400aの内周面には、後輪側アクスルシャフト112Rの外周面との間に介在するシール機構38が配置されている。第1のキャリアエレメント400における上方開口部の内周面には、プロペラシャフト2における連結部21の外周面との間に介在するシール機構39が配置されている。
第2のキャリアエレメント401は、第1のキャリアエレメント400側に開口し、デフキャリア40の他方側(図2では左側)に配置されている。そして、第2のキャリアエレメント401は、一方の回転部材としてのハウジング12の一部及び他方の回転部材としてのインナシャフト13を収容する。
第2のキャリアエレメント401には、後輪側アクスルシャフト112Lを挿通させるシャフト挿通孔401aが設けられている。また、第2のキャリアエレメント401には、第1のキャリアエレメント400側とは反対側(図2では左側)に開口する開口部401bが設けられている。第2のキャリアエレメント401内には、潤滑油を貯溜する潤滑油貯溜用の空間部401cが設けられている。潤滑油貯溜用の空間部401cは冷却用の油圧回路Bに接続されている。
第2のキャリアエレメント401の内周面には、後輪側アクスルシャフト112Lの外周面との間に介在するシール機構41が配置されている。
第3のキャリアエレメント402は、第1のキャリアエレメント400と第2のキャリアエレメント401との間に介在してデフキャリア40の中間部に配置され、全体がフロントハウジング18(後述)の軸部18a(後述)を挿通させる円環部材によって形成されている。第3のキャリアエレメント402の内周面には、多板クラッチ8側で軸部18aの外周面との間に介在するシール機構42が配置されている。
多板クラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81を有し、一方の回転部材としてのハウジング12と他方の回転部材としてのインナシャフト13との間に介在して配置されている。そして、多板クラッチ8は、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う内外のクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング12とインナシャフト13とを断続(トルク伝達)可能に連結する。
インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。
インナクラッチプレート80は、その内周部にストレートスプライン嵌合部80aを有し、ストレートスプライン嵌合部80aを円筒部13a(インナシャフト13)のストレートスプライン嵌合部130aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
複数のインナクラッチプレート80のうちカム機構側最端部のインナクラッチプレートは、多板クラッチ8の入力部として機能し、カム機構9からアウタクラッチプレート81側に押付力(カム推力)Fを受けると、この押付方向への移動によって多板クラッチ8側(インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが互いに摩擦係合する方向)に移動する。
アウタクラッチプレート81は、その外周部にストレートスプライン嵌合部81aを有し、ストレートスプライン嵌合部81aをリヤハウジング19のストレートスプライン嵌合部190a(後述)に嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
ハウジング12は、フロントハウジング18及びリヤハウジング19からなり、後輪側アクスルシャフト112L(図1に示す)の軸線(回転軸線O)上でデフキャリア40内に円すいころ軸受43を介して回転可能に支持されている。
フロントハウジング18は、軸部18a及び連結部18bを有し、ハウジング12の軸線方向一方側(図2の右側)に配置され、かつリヤハウジング19に相対回転不能に連結されている。
軸部18aは、フロントハウジング18のリヤディファレンシャル107側(図2では右側)に配置され、かつ回転軸線O上でサイドギヤ113Lにスプライン嵌合によって連結されている。
連結部18bは、フロントハウジング18のカム機構9側(図2では左側)に配置され、かつ軸部18aに一体に設けられ、全体がカム機構9側に開口する有底円筒部材によって形成されている。
リヤハウジング19は、ハウジング12の軸線方向他方側(図2の左側)に配置され、かつデフキャリア40内に収容され、全体がフロントハウジング18側と反対側に開口する有底円筒部材によって形成されている。そして、リヤハウジング19は、フロントハウジング18と共に回転軸線Oの回りに回転する。リヤハウジング19の内周面には、アウタクラッチプレート81のストレートスプライン嵌合部81aにスプライン嵌合するストレートスプライン嵌合部19aが設けられている。
一方、インナシャフト13は、各外径が互いに異なる3つの円筒部13a〜13c、及び円筒部13a,13c内を軸線方向に2分する仕切部13dを有し、ハウジング12の回転軸線O上に配置され、かつハウジング12内に玉軸受52を介して回転可能に支持され、全体が軸線方向両側に開口する無底円筒部材によって形成されている。円筒部13a〜13cにおいて、円筒部13aの外径は最大の寸法(最大外径)に、円筒部13bの外径は最小の寸法(最小外径)に、また円筒部13cの外径は円筒部13aの外径と円筒部13bの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。そして、インナシャフト13は、その開口部内に後輪側アクスルシャフト112L(図1に示す)の先端部を挿入させて収容する。後輪側アクスルシャフト112Lは、デフキャリア40(第2のキャリアエレメント401)の内周面に円すいころ軸受43を介して回転可能に支持され、インナシャフト13にスプライン嵌合によって相対回転不能に連結されている。
最大外径の円筒部13aは、最小外径の円筒部13bと中間外径の円筒部13cとの間に介在して配置されている。最大外径の円筒部13aの外周面には、インナクラッチプレート80のストレートスプライン嵌合部80aに対応するストレートスプライン嵌合部130aが設けられている。
最小外径の円筒部13bは、インナシャフト13のリヤディファレンシャル107側(図2では右側)に配置され、かつリヤハウジング19の内周面に玉軸受52を介して回転可能に支持されている。
中間外径の円筒部13cは、インナシャフト13のカム機構9側(図2では左側)に配置されている。中間外径の円筒部13cの内周面には、後輪側アクスルシャフト112Lにスプライン嵌合するストレートスプライン嵌合部130cが設けられている。中間外径の円筒部13cの外周面には、第2のキャリアエレメント401内に露出するストレートスプライン嵌合部131cが設けられている。
仕切部13dは、後輪側アクスルシャフト112Lの先端面に対向し、インナシャフト13内を閉塞する閉塞部材によって形成されている。
カム機構9は、電動モータ35の回転力を減速機構24から受けて回転するコントロールカム90、このコントロールカム90にハウジング12の回転軸線Oに沿って並列するメインカム91、及びこのメインカム91とコントロールカム90との間に介在するカムフォロア92を有し、多板クラッチ8と減速機構24との間に介在して配置され、かつリヤハウジング19の内側に収容されている。そして、カム機構9は、電動モータ35からの回転力を受けて多板クラッチ8のクラッチ動作力(摩擦係合力)となるカム推力Fに変換し、多板クラッチ8にカム推力Fを押付力として付与する。
コントロールカム90は、カム機構9の多板クラッチ8側とは反対側(図2では左側)でインナシャフト13(円筒部13c)の外周囲に配置され、全体が円環部材によって形成されている。コントロールカム90の外周面には、太陽歯車としての外歯歯車を形成するための外歯90aが設けられている。
コントロールカム90には、その円周方向に並列し、かつカムフォロア92側に開口する複数(本実施の形態では3個)のカム溝90bが設けられている。複数のカム溝90bは、その溝底がカムフォロア92の初期位置(カム溝90bの中立位置)からコントロールカム90の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝、すなわち中立位置に連続してカム推力Fを発生させるための傾斜面を有する凹溝によって形成されている。
メインカム91は、カム機構9の多板クラッチ8側(図2では右側)でインナシャフト13(円筒部13c)の外周囲に回転軸線Oに沿って移動可能に配置され、全体が円環部材によって形成されている。
メインカム91の外周面には、リヤハウジング19のストレートスプライン嵌合部19aに嵌合するストレートスプライン嵌合部91aが設けられている。
メインカム91には、その円周方向に並列し、かつカムフォロア92側に開口する複数(本実施の形態では3個)のカム溝91bが設けられている。複数のカム溝91bは、その溝底がカムフォロア92の初期位置(カム溝91bの中立位置)からメインカム91の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝、すなわち中立位置に連続してカム推力Fを発生させるための傾斜面を有する凹溝によって形成されている。
カムフォロア92は、コントロールカム90のカム溝90bとメインカム91のカム溝91bとの間に転動可能に配置され、全体が球体(ボール)によって形成されている。
減速機構24は、第1の遊星歯車機構24A及び第2の遊星歯車機構24Bからなり、カム機構9と電動モータ35との間に介在して配置されている。
第1の遊星歯車機構24Aは、リング歯車R1,複数の遊星歯車P1,太陽歯車S1及びキャリアC1を有し、減速機構24の電動モータ35側に配置されている。
リング歯車R1は、遊星歯車P1及び駆動歯車354に噛合し、回転軸線O上に回転可能に配置されている。
複数の遊星歯車P1は、リング歯車R1及び太陽歯車S1に噛合し、リング歯車R1と太陽歯車S1との間に回転軸線O回りに並列して配置され、かつ回転軸rに回転可能に支持されている。そして、複数の遊星歯車P1は、太陽歯車S1の外周囲を公転する。
太陽歯車S1は、インナシャフト13(円筒部13c)のストレートスプライン嵌合部131cに嵌合するストレートスプライン嵌合部S11を有し、回転軸線O上でコントロールカム90に針状ころ軸受22を介して回転可能に支持されている。そして、太陽歯車S1は、止め輪23によって第2の遊星歯車機構24B側とは反対側への移動が規制されている。
キャリアC1は、回転軸線O上に回転可能に配置され、かつ第2の遊星歯車機構24BのキャリアC2に回転軸rを介して連結されている。そして、キャリアC1は、複数の遊星歯車P1を第2の遊星歯車機構24Bにおける複数の遊星歯車P2と共に自転可能に収容する。
第2の遊星歯車20Bは、リング歯車R2,複数の遊星歯車P2,太陽歯車S2及びキャリアC2を有し、減速機構24の多板クラッチ8側に配置されている。
リング歯車R2は、遊星歯車P2に噛合し、第2のキャリアエレメント401に取り付けられている。
複数の遊星歯車P2は、リング歯車R2及び太陽歯車S2に噛合し、リング歯車R1と太陽歯車S1との間に回転軸線O回りに並列して配置され、かつ回転軸rに回転可能に支持されている。そして、複数の遊星歯車P2は、太陽歯車S2の外周囲を公転する。
太陽歯車S2は、カム機構9のコントロールカム90からなり、回転軸線O上に配置されている。
キャリアC2は、回転軸線O上に回転可能に配置され、かつ第1の遊星歯車機構24AのキャリアC1に回転軸rを介して連結されている。そして、キャリアC2は、複数の遊星歯車P2を第1の遊星歯車機構24Aにおける複数の遊星歯車P1と共に自転可能に収容する。
(ECU5の構成)
ECU5は、図1に示すように、四輪駆動車101の車体に搭載され、かつ第1の駆動力断続部3のアクチュエータ55及び第2の駆動力断続部4のアクチュエータ(電動モータ)35に接続されている。また、ECU5は、フロントデフケース111の回転数を検出する回転センサ15、及びプロペラシャフト2の回転数を検出する回転センサ16に接続されている。
アクチュエータ55は、四輪駆動車101の車体に配置されている。そして、アクチュエータ55は、ECU5から制御信号S1,S5を受け、第1の駆動力断続部3(ドグクラッチ)を作動させるための駆動力を第1の駆動力断続部3に付与する。これにより、フロントディファレンシャル106のフロントデフケース111と歯車機構6のリングギヤ61との断続が行われる。
そして、ECU5は、四輪駆動車101の二輪駆動状態から四輪駆動状態への切替時に回転センサ15からの出力信号S3及び回転センサ16からの出力信号S4を入力し、第2の駆動力断続部4による連結を第1の駆動力断続部3による連結よりも先行させて実行する制御信号S1,S2をそれぞれ第1駆動力断続部3のアクチュエータ55と第2駆動力断続部4の電動モータ35とに出力する。制御信号S1,S2は、予め記憶されたデータ、及び入力されたデータを用いてプログラムに応じた演算を実行した後にECU5から出力される。入力されたデータには、各車輪の車輪速や操舵角などの各信号が含まれる。
また、ECU5は、四輪駆動車101の走行中における四輪駆動状態から二輪駆動状態への切替時に第2の駆動力断続部4による連結の解除を第1の駆動力断続部3による連結の解除よりも先行して実行させるための制御信号S5,S6をそれぞれ第1の駆動力断続部3のアクチュエータ55と第2の駆動力断続部4の電動モータ35にそれぞれ出力する。制御信号S5,S6は、予め記憶されたデータ、及び入力されたデータを用いてプログラムに応じた演算を実行した後にECU5から出力される。入力されたデータには、各車輪の車輪速や操舵角などの各信号が含まれる。
〔駆動力伝達装置1の動作〕
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1及び図2を用いて説明する。
図1において、四輪駆動車101の二輪駆動時には、エンジン102の回転駆動力がトランスミッション103を介してフロントディファレンシャル106に伝達され、さらにフロントディファレンシャル106から一対の前輪側アクスルシャフト108L,108Rを介して一対の前輪104L,104Rに伝達され、一対の前輪104L,104Rが回転駆動される。
ここで、ECU5の制御に基づく電動モータ35の駆動制御によってステータ350に供給される電力量を漸次増加させ、カム機構9のメインカム91を多板クラッチ8側(インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが互いに摩擦係合する方向)に移動させると、多板クラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが摩擦係合され、第2の駆動力断続部4による連結が実行される。これに伴い、後輪105L,105Rの回転トルクがプロペラシャフト2に伝達され、プロペラシャフト2が回転する。
この場合、電動モータ35のモータ駆動力aは、駆動歯車354を介してリング歯車R1に伝達され、さらにリング歯車R1から遊星歯車P1を介して太陽歯車S1及びキャリアC1に伝達され、キャリアC1が回転軸線O回りに回転する。インナシャフト13の回転抵抗が非常に大きいことから、インナシャフト13にスプライン嵌合する太陽歯車S1は実質的に固定状態にあり、このため電動モータ35のモータ駆動力aが太陽歯車S1の回転に使用されず、キャリアC1のみの回転に使用される。キャリアC1の回転力は、回転軸rを介してキャリアC2に伝達され、キャリアC2が回転軸線O回りに回転する。また、遊星歯車P1の回転力も回転軸rを介して遊星歯車P2に伝達され、遊星歯車P2が遊星歯車P1と共に回転する。そして、遊星歯車P2の回転によって太陽歯車S2(コントロールカム90)が回転し、カム機構9が作動する。これに伴い、カム機構9において電動モータ3のモータ駆動力aがカム推力Fに変換され、メインカム91を多板クラッチ8側に移動させる。
次に、回転センサ15によってフロントデフケース111の回転数が、また回転センサ16によってプロペラシャフト2の回転数がそれぞれ検出され、これら回転数の差が「所定の閾値である」とECU5で確認されると、第1の駆動力断続部3による連結が実行される。
これにより、四輪駆動車101の走行中において二輪駆動状態から四輪駆動状態への切り替えが行われる。
一方、四輪駆動車101の走行中における四輪駆動状態から二輪駆動状態への切替時には、第1の駆動力断続部3による連結が行われているため、プロペラシャフト2が回転状態である。この状態において、プロペラシャフト2とデフキャリア40との相対回転によって冷却用のポンプ33が作動中である。
このため、冷却用のポンプ33の作動によるポンプ作用によって潤滑油貯溜用の空間部401cの潤滑油が冷却用の油圧回路B(配管404)を介して吸込口332aからポンプ空間部33aに吸い込まれ、ポンプ空間部33aを流動して吐出口333aから冷却用の油圧回路B(配管403)に吐き出される。そして、冷却用のポンプ33から吐き出された潤滑油が電動モータ35のモータケーシング353内(油路3501a)にオイル導入口353aから導入され、油路3501aを通過してオイル導出口353bから配管404(モータケーシング353c外)に導出される。この際、配管403,404からの放熱によって温度低下した潤滑油によって電動モータ35のステータ350(例えばステータコア350aのティース3500a)が冷却される。
ここで、ECU5の制御に基づく電動モータ35の駆動制御によってステータ350供給される電力量を漸次減少させ、メインカム91を多板クラッチ8側と反対側(インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との摩擦係合が解除される方向)に移動させると、多板クラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との摩擦係合が解除され、第2の駆動力断続部4による連結の解除が実行される。これに伴い、プロペラシャフト2から後輪側アクスルシャフト112L,112Rへのトルク伝達が遮断される。その後、第1の駆動力断続部3による連結の解除が実行される。
これにより、四輪駆動車101の走行中における四輪駆動状態から二輪駆動状態への切り替えが行われる。
また、四輪駆動車101の四輪駆動状態において、ECU5の制御に基づく電動モータ35の駆動制御によってステータ350に供給される電力量を増減させ、メインカム91を多板クラッチ8側あるいはその反対側へ移動させると、多板クラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との摩擦係合力が可変される。これにより、前輪104L,104R側と後輪105L,105R側とへのエンジン102の駆動トルクの配分が行われる。
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
(1)四輪駆動車101の四輪駆動時にポンプ作用による潤滑油の電動モータ35への供給によって電動モータ35を冷却することができるため、電動モータ35の発熱によるモータトルクの低下を抑制することができ、ハウジング12とインナシャフト13との間で所望の伝達トルクを得ることができる。この場合、電動モータ3の冷却は、潤滑油が冷却用の油圧回路Bを流動する間に配管403,404からの放熱によって温度低下し、この温度低下した潤滑油で行われる。
(2)四輪駆動車101の二輪駆動時にはプロペラシャフト2が回転しないため、冷却用のポンプ33が作動せず、冷却用のポンプ33を長期間にわたって使用することができる。
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
(1)上記実施の形態では、冷却用の油圧回路Bに用いる配管403,404を単なる管部材である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、クーラー配管(例えばフィン付きの管部材)などを用いてよく、この場合には潤滑油の冷却性を向上させることができる。
(2)上記実施の形態では、電動モータ35のモータケーシング353を冷却用の油圧回路Bに配置し、モータケーシング353内に潤滑油を供給して電動モータ35を冷却する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば電動モータ35を収容する収容ケースを冷却用の油圧回路に配置し、収容ケース内に潤滑油を供給して電動モータを冷却してもよい。また、本発明の冷却方式としては、油冷式に代えて水冷式としてもよい。この場合、冷却水を貯溜するためのタンクを冷却回路に配置することが望ましい。
(3)上記実施の形態では、第2の駆動力断続部4にハウジング12及びインナシャフト13を配置して駆動力伝達装置1が構成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、第1の駆動力断続部にハウジング及びインナシャフトを、又は第1の駆動力断続部及び第2の駆動力断続部にハウジング及びインナシャフトをそれぞれ配置して駆動力伝達装置を構成してもよい。すなわち要するに、本発明は、第1の駆動力断続部及び第2の駆動力断続部のうち少なくとも一方の駆動力断続部に互いに相対回転可能な一対の回転部材を配置して駆動力伝達装置を構成してもよい。