JP6027364B2 - コネクティングロッドの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、破断分割される大端部を備えたコネクティングロッドの製造技術に関する。
エンジンには、クランク軸とピストンとを連結するコネクティングロッド(以下、コンロッドという)が組み込まれている。コンロッドの大端部にクランク軸のクランクピンを装着するため、コンロッドの大端部は本体部とキャップ部とに分割されている。一般的に、分割された本体部とキャップ部とを位置決めするため、本体部とキャップ部との間にはノックピン等が設けられている。しかしながら、ノックピンを用いて位置決めすることは、コンロッドの高コスト化を招く要因であった。そこで、コンロッドの大端部を破断分割する所謂クラッキング製法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。このクラッキング製法により、本体部とキャップ部との破断面に適度な凹凸を形成することができるため、ノックピンを用いることなく本体部とキャップ部とを高精度に位置決めすることが可能となる。
特開2005−188741号公報
ところで、コンロッドの大端部とクランク軸のクランクピンとの間には、滑り軸受である軸受メタルが取り付けられている。このような軸受メタルの位置ズレを防止するため、大端部の内周面には軸受メタルを保持するメタル溝が形成されている。しかしながら、クラッキング製法においては破断面の表面粗さにバラツキが生じることから、この破断面の表面粗さによってはメタル溝加工時に欠けが発生してしまうことがある。このメタル溝加工時における欠けの発生つまり品質不良の発生は、コンロッドの製造コストを引き上げる要因となっていた。
本発明の目的は、大端部が破断分割されるコンロッドの品質不良を抑制することにある。
本発明の一実施の形態では、大端部が破断分割されるコネクティングロッドの製造方法であって、前記大端部を厚み方向に貫通する貫通穴を径方向に拡張させ、前記大端部を本体部とキャップ部とに破断分割する破断工程と、前記本体部と前記キャップ部との少なくともいずれか一方に、前記本体部または前記キャップ部の破断面にかけて軸受取付溝を形成する溝加工工程とを有し、前記破断工程では前記大端部の厚み方向の一方側を他方側よりも先に破断させ、前記溝加工工程では前記大端部の前記他方側に前記軸受取付溝を形成している。
本発明の他の実施の形態では、前記破断工程では、前記大端部の厚み方向の一端面を治具に接触させ、前記大端部の厚み方向の他端面を治具から離した状態のもとで、前記大端部を破断分割させている。
本発明の他の実施の形態では、前記破断工程で処理されるコネクティングロッドの半製品は、前記貫通穴の一方の開口端に形成される第1面取り部と、前記貫通穴の他方の開口端に形成される第2面取り部とを有し、前記第1面取り部と前記第2面取り部との形状が異なっている。
本発明によれば、破断工程では大端部の厚み方向の一方側を他方側よりも先に破断させ、溝加工工程では大端部の他方側に軸受取付溝を形成している。これにより、破断面の凹凸が細かく形成された部位に軸受取付溝を加工することができ、溝加工工程における欠けの発生を抑制することが可能となる。
(a)はコンロッドを示す正面図である。(b)は図1(a)のB−B線に沿ってコンロッドを示す断面図である。(c)は図1(a)のC−C線に沿ってコンロッドを示す断面図である。 (a)はクランクピンに対するコンロッドの取付構造を示す分解図である。(b)はクランクピンに取り付けられたコンロッドを示す正面図である。 コンロッドの製造工程の一例を示す説明図である。 破断分割工程で使用される破断装置の一例を示す概略図である。 (a)および(b)は破断分割工程におけるワークの加工状況を示す説明図である。 (a)はメタル溝加工工程を経た本体部の一部を示す斜視図である。(b)はメタル溝加工工程を経たキャップ部の一部を示す斜視図である。 (a)は破断分割工程で処理されるワークを示す正面図である。(b)は図7(a)のB−B線に沿ってワークを示す断面図である。(c)は図7(a)のC−C線に沿ってワークを示す断面図である。 図7(a)のD−D線に沿ってワークを示す拡大断面図である。 (a)および(b)は破断装置に対するワークの拘束状態を示す説明図である。 大端部に作用する引張荷重の変動状況を示す線図である。 大端部に作用する引張荷重の変動状況を示す線図である。 破断分割工程において破断分割されるワークの拡大断面図である。 (a)および(b)はワークの面取り形状を示す説明図である。 大端部に作用する引張荷重の変動状況を示す線図である。 大端部に作用する引張荷重の変動状況を示す線図である。 (a)はワークの大端部を示す部分拡大図である。(b)は図16(a)のA−A線に沿ってワークを示す拡大断面図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1(a)はコネクティングロッド10(以下、コンロッドという)を示す正面図である。図1(b)は図1(a)のB−B線に沿ってコンロッド10を示す断面図であり、図1(c)は図1(a)のC−C線に沿ってコンロッド10を示す断面図である。また、図2(a)はクランクピン11に対するコンロッド10の取付構造を示す分解図であり、図2(b)はクランクピン11に取り付けられたコンロッド10を示す正面図である。
図1(a)〜(c)に示すように、コンロッド10は、ピストンピン穴12を備える小端部13と、クランクピン穴(貫通穴)14を備える大端部15と、小端部13と大端部15とを連結するロッド部16とを有している。小端部13には図示しないピストンのピストンピンが組み付けられ、図2(a)および(b)に示すように、大端部15にはクランク軸のクランクピン11が組み付けられる。また、図2(a)に示すように、コンロッド10の大端部15は、本体部17とキャップ部18とに分割されている。クランクピン11に対してコンロッド10を組み付ける際には、本体部17の内周面14aに軸受メタル19が装着され、キャップ部18の内周面14aに軸受メタル20が装着される。続いて、本体部17とキャップ部18とによってクランクピン11を挟み込んだ後に、コンロッドボルト21がボルト孔22に挿入されて本体部17にキャップ部18が固定される。また、図1(b)および(c)に示すように、クランクピン穴14の内周面14aにはメタル溝(軸受取付溝)23,24が形成されている。これらのメタル溝23,24に軸受メタル19,20の爪部19a,20aを係合させることにより、クランクピン穴14に対して軸受メタル19,20が位置決めされる。
大端部15を本体部17とキャップ部18とに分割する際には、生産性や位置決め精度を向上させるため、大端部15の内径を拡張して破断分割させる所謂クラッキング製法が用いられる。このクラッキング製法を用いることにより、本体部17とキャップ部18との破断面25,26に対し、適度な粗さを持った凹凸を形成することが可能となる。これにより、本体部17に対してキャップ部18を組み付ける際には、破断面25,26の凹凸を互いに噛み合わせることができ、本体部17とキャップ部18との位置決め精度を向上させることが可能となる。また、コンロッド10から位置決め用のノックピン等を削減することができ、コンロッド10の生産性を向上させることが可能となる。
次いで、コンロッド10の製造方法について説明する。図3はコンロッド10の製造工程の一例を示す説明図である。図3に示すように、素材鍛造工程S1では、切り出された炭素鋼材やチタン合金材に熱間鍛造等が施され、小端部13、ロッド部16および大端部15が一体となるワークが製造される。また、研削工程S2では、研削盤を用いて小端部13および大端部15に側面研削が施される。続いて、小端穴加工工程S3では、小端部13にドリル加工やリーマ加工等が施され、小端部13にピストンピン穴12が加工される。この小端穴加工工程S3においては、小端部13にピストンピン穴12が加工されるとともに、ピストンピン穴12の開口端のそれぞれに面取り加工が施される。また、大端穴加工工程S4では、大端部15にドリル加工やリーマ加工等が施され、大端部15にクランクピン穴14が加工される。この大端穴加工工程S4においては、大端部15の厚み方向に貫通するクランクピン穴14が加工されるとともに、クランクピン穴14の開口端のそれぞれに面取り加工が施される。さらに、ボルト穴加工工程S5では、大端部15にドリル加工やリーマ加工等を施すことにより、大端部15にボルト孔22が加工される。続いて、ノッチ加工工程S6では、クランクピン穴14の内周面14aに対し、互いに対向する一対の切り欠きつまりノッチ27,28が形成される。そして、破断分割工程(破断工程)S7では、後述する破断装置30を用いて大端部15の内径が拡張され、ノッチ27,28を起点に大端部15が本体部17とキャップ部18とに破断分割される。
続くボルト締付工程S8では、コンロッドボルト21を締め付けることにより、本体部17に対してキャップ部18が組み付けられる。また、仕上げ研削工程S9では、破断分割後における大端部15の段差を除去したり、小端部13および大端部15の平面度や平行度を確保したりするため、研削盤を用いて小端部13および大端部15に側面研削が施される。さらに、油穴加工工程S10では、小端部13および大端部15にドリル加工が施され、小端部13および大端部15に潤滑用の油穴が加工される。続いて、メタル溝加工工程(溝加工工程)S11では、大端部15に切削加工等が施され、クランクピン穴14の内周面14aに軸受メタルを固定するメタル溝23,24が加工される。また、ホーニング工程S12では、ピストンピン穴12やクランクピン穴14の加工精度を確保するため、小端部13および大端部15に対してホーニング加工が施される。なお、ホーニング工程S12においては、ピストンピン穴12やクランクピン穴14の内周面14aに仕上げ加工が施されるだけでなく、ピストンピン穴12やクランクピン穴14の開口端の面取り部に対しても仕上げ加工が施される。そして、洗浄工程S13でコンロッド10に付着する切粉等を除去した後に、完成検査工程S14でコンロッド10の完成検査が実施される。
図4は破断分割工程S7で使用される破断装置30の一例を示す概略図である。また、図5(a)および(b)は破断分割工程S7におけるワークXの加工状況を示す説明図である。なお、図5(a)に示されるワークXは、破断分割工程S7で処理されるワークXであり、本発明の一実施の形態であるコネクティングロッドの半製品つまり製造過程における中間製品である。
図4に示すように、破断装置30は、ベース部材31と、これに移動自在に組み付けられる一対のスライダ(治具)32,33とを有している。一方のスライダ32には、小端部13のピストンピン穴12に挿入される位置決めピン34と、大端部15のクランクピン穴14に挿入される加圧治具35とが設けられる。また、他方のスライダ33には、大端部15のクランクピン穴14に挿入される加圧治具36が設けられる。さらに、破断装置30は、油圧シリンダ37によって上下に駆動される楔38を有している。この楔38は、上昇して加圧治具35,36から離れる退避位置と、下降して加圧治具35,36間に挿入される加圧位置とに移動自在となっている。破断分割時には、図5(a)に示すように、破断装置30のスライダ32,33を互いに近づけた状態のもとで、位置決めピン34にワークXの小端部13を取り付け、双方の加圧治具35,36にワークXの大端部15を取り付ける。そして、図4に黒塗りの矢印で示すように、楔38を加圧位置に向けて下降させ、図4および図5(b)に白抜きの矢印で示すように、一対の加圧治具35,36を互いに離れる方向に移動させる。これにより、加圧治具35,36を用いてワークXの大端部15の内径が拡張され、ノッチ27,28を起点に大端部15は本体部17とキャップ部18とに破断分割される。すなわち、大端部15の径方向の一方側を構成する吸気側連結部39がノッチ27を起点に破断され、大端部15の径方向の他方側を構成する排気側連結部40がノッチ28を起点に破断される。なお、吸気側連結部39とは、コンロッド10をエンジンに組み付けた際に吸気ポート側に位置する部位である。また、排気側連結部40とは、コンロッド10をエンジンに組み付けた際に排気ポート側に位置する部位である。
ここで、図6(a)はメタル溝加工工程S11を経た本体部17の一部を示す斜視図であり、図6(b)はメタル溝加工工程S11を経たキャップ部18の一部を示す斜視図である。図6(a)に示すように、本体部17に形成されるメタル溝24は、クランクピン穴14の内周面14aから本体部17の破断面25にかけて形成されている。また、図6(b)に示すように、キャップ部18に形成されるメタル溝24は、クランクピン穴14の内周面14aからキャップ部18の破断面26にかけて形成されている。このように、内周面14aから破断面25,26にかけてメタル溝24を加工する際には、メタル溝24と破断面25,26との境界付近に欠けが発生するおそれがあるため、メタル溝加工工程S11において欠けの発生を抑制することが望まれている。そこで、本発明者は、メタル溝加工工程S11における欠けの発生を抑制するため、鋭意研究を行った結果、破断面25,26の表面の凹凸が粗い部位(表面粗さが大きい部位)にメタル溝23,24を加工した場合には欠けが発生し易く、破断面25,26の表面の凹凸が細かい部位(表面粗さが小さい部位)にメタル溝23,24を加工した場合には欠けが発生し難くなることを見出した。すなわち、メタル溝加工工程S11での加工品質を高めるためには、破断分割工程S7において破断面25,26の表面粗さを調整し、メタル溝23,24が加工される部位の凹凸を細かく形成することが重要であることを見出した。以下、破断面25,26の表面粗さを調整するためのワーク構造および破断分割方法について説明する。
図7(a)は破断分割工程S7で処理されるワークXを示す正面図である。図7(b)は図7(a)のB−B線に沿ってワークXを示す断面図であり、図7(c)は図7(a)のC−C線に沿ってワークXを示す断面図である。また、図8は図7(a)のD−D線に沿ってワークXを示す拡大断面図であり、破断分割工程S7での破断状況が示されている。なお、図8には加圧治具35,36を省略した状態で破断状況が示されている。まず、図7(a)〜(c)に示すように、ワークXの大端部15には、大端部15を厚み方向αに貫通するクランクピン穴14が設けられる。また、クランクピン穴14の一方の開口端には第1面取り部41が形成されており、クランクピン穴14の他方の開口端には第1面取り部41よりも小さな第2面取り部42が形成されている。すなわち、第1面取り部41と第2面取り部42とは異なる形状に形成されている。なお、図7(b)の部分拡大図に示すように、第1面取り部41の幅寸法w1(例えば、1.35mm)と第2面取り部42の幅寸法w2(例えば、0.5mm)とが相違しており、第1面取り部41の高さ寸法h1(例えば、2.35mm)と第2面取り部42の高さ寸法h2(例えば、0.86mm)とが相違している。続いて、図8に示すように、破断分割工程S7においては、第1面取り部41側の端面43がスライダ32,33から離れるとともに、第2面取り部42側の端面44がスライダ32,33に接触するように、破断装置30に対してワークXが取り付けられる。すなわち、第1面取り部41側の端面43がスライダ32,33から解放される一方、第2面取り部42側の端面44がスライダ32,33に拘束されるように、破断装置30に対してワークXが取り付けられる。
そして、破断装置30の楔38を加圧位置に降ろしてワークXの大端部15を径方向に拡張させると、吸気側連結部39と排気側連結部40とのそれぞれについて、図8に矢印S1,S2で示すように、大端部15の内径側から外径側にき裂が伸展して大端部15が破断分割される。このとき、図8に矢印S1,S2で示すように、大端部15の厚み方向の一方側の部位Z1と他方側の部位Z2との破断速度を変えることが可能となる。すなわち、大きな第1面取り部41が形成される側の部位Z1が、小さな第2面取り部42が形成される側の部位Z2よりも、速い破断速度S1で破断分割されることになる。このように、大端部15の厚み方向の一方側の部位Z1と他方側の部位Z2との破断速度S1,S2を変えることにより、速い破断速度S1で破断される部位Z1の凹凸を粗くすることが可能となり、遅い破断速度S2で破断される部位Z2の凹凸を細かくすることが可能となる。すなわち、各破断面25,26の全ての部位に同程度の凹凸を形成するのではなく、各破断面25,26のうち一方側の部位Z1と他方側の部位Z2とで凹凸の粗さを積極的に変えることが可能となる。そして、図8に破線で示すように、遅い破断速度S2で分離される部位Z2、つまり細かな凹凸が形成される部位Z2に対し、メタル溝23,24を形成することにより、メタル溝加工工程S11における欠けの発生を抑制することが可能となる。なお、破断速度が高い側の部位Z1には高い応力が作用する一方、破断速度が低い側の部位Z2には低い応力が作用している。このため、破断速度が高い側の部位Z1が先に破断し、破断速度が低い側の部位Z2が後に破断する。換言すれば、先に破断する部位Z1の破断速度は、後に破断する部位Z2の破断速度よりも高くなっている。
続いて、破断装置30に対するワークX1の拘束状態と、この拘束状態によって得られるワークX1の破断状況との関係について説明する。ここで、図9(a)および(b)は破断装置30に対するワークX1の拘束状態を示す説明図である。また、図10は大端部15に作用する引張荷重の変動状況を示す線図であり、図9(a)に示されるワーク拘束状態のもとで大端部15に作用する引張荷重を示している。また、図11は大端部15に作用する引張荷重の変動状況を示す線図であり、図9(b)に示されるワーク拘束状態のもとで大端部15に作用する引張荷重を示している。なお、図10および図11に端面Aとして示した線は、図9(a)および(b)に符号a1で示した部位に作用する引張荷重を意味し、図10および図11に端面Bとして示した線は、図9(a)および(b)に符号b1で示した部位に作用する引張荷重を意味している。また、図9において、図8に示した部位と同様の部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図9(a)および(b)に示すように、ワークX1には、クランクピン穴14の一方の開口端に面取り部51が形成され、クランクピン穴14の他方の開口端に面取り部51と同じ形状の面取り部52が形成される。ここで、図9(a)においては、端面Aつまり大端部15の厚み方向の一端面がスライダ32,33に接触するとともに、端面Bつまり大端部15の厚み方向の他端面がスライダ32,33から離れるように、破断装置30に対してワークX1が取り付けられる。すなわち、図9(a)のワーク拘束状態とは、端面Aが拘束される一方、端面Bが解放される状態である。また、図9(b)においては、端面Aがスライダ32,33から離れるとともに、端面Bがスライダ32,33に接触するように、破断装置30に対してワークX1が取り付けられる。すなわち、図9(b)のワーク拘束状態とは、図9(a)のワーク拘束状態とは逆に、端面Aが解放される一方、端面Bが拘束される状態である。
図10に示すように、端面Aを拘束して端面Bを解放した場合には、端面Aに対して端面Bよりも大きな引張荷重が作用する。そして、図10に符号αで示すように、大きな引張荷重が作用していた端面Aが破断した後に、符号βで示すように、小さな引張荷重が作用していた端面Bが破断することになる。つまり、図9(a)に示すように、端面Aはスライダ32,33に押し付けられることから、加圧治具35,36から離れる方向に撓み難くなる一方、端面Bはスライダ32,33から離れることから、加圧治具35,36から離れる方向に撓み易くなると考えられる。これにより、端面A側の部位Xaには大きな引張荷重が作用して、端面A側の部位Xaは速い破断速度Saで破断分割される一方、端面B側の部位Xbには小さな引張荷重が作用して、端面B側の部位Xbは遅い破断速度Sbで破断分割されると考えられる。
逆に、図11に示すように、端面Bを拘束して端面Aを解放した場合には、端面Bに対して端面Aよりも大きな引張荷重が作用する。そして、図11に符号βで示すように、大きな引張荷重が作用していた端面Bが破断した後に、符号αで示すように、小さな引張荷重が作用していた端面Aが破断することになる。つまり、図9(b)に示すように、端面Bはスライダ32,33に押し付けられることから、加圧治具35,36から離れる方向に撓み難くなる一方、端面Aはスライダ32,33から離れることから、加圧治具35,36から離れる方向に撓み易くなると考えられる。これにより、端面B側の部位Xbには大きな引張荷重が作用して、端面B側の部位Xbは速い破断速度Sbで破断分割される一方、端面A側の部位Xaには小さな引張荷重が作用して、端面A側の部位Xaは遅い破断速度Saで破断分割されると考えられる。
これまで説明したように、端面Aを拘束して端面Bを解放した場合には、端面A側の部位Xaの破断速度Saが大きくなる一方、端面Bを拘束して端面Aを解放した場合には、端面B側の部位Xbの破断速度Sbが大きくなる。すなわち、破断装置30に対するワークX1の置き方により、大端部15の厚み方向の一方側と他方側との破断速度Sa,Sbを変化させることが可能となる。ここで、図12は破断分割工程S7において破断分割されるワークX1の拡大断面図である。なお、図12において、図8に示した部位と同様の部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。図12に示すように、面取り部61と面取り部62との形状が同一である場合には、メタル溝23,24を形成する側の端面63つまり大端部15の厚み方向の一端面がスライダ32,33から離して設置され、端面63とは反対側の端面64つまり大端部15の厚み方向の他端面がスライダ32,33に接触して設置される。これにより、拘束される端面64側の部位Z1つまり大端部15の厚み方向の一方側の部位よりも、解放される端面63側の部位Z2つまり大端部15の厚み方向の他方側の部位を、遅い破断速度S2で破断させることが可能となる。これにより、メタル溝23,24が形成される部位Z2の破断面25,26に細かな凹凸を形成することができ、メタル溝加工工程S11における欠けの発生を抑制することが可能となる。
続いて、ワークX2に形成される面取り部の形状と、この面取り形状によって得られるワークX2の破断状況との関係について説明する。ここで、図13(a)および(b)はワークX2の面取り形状を示す説明図である。また、図14は大端部15に作用する引張荷重の変動状況を示す線図であり、図13(a)に示されるワークX2の大端部15に作用する引張荷重を示している。また、図15は大端部15に作用する引張荷重の変動状況を示す線図であり、図13(b)に示されるワークX2の大端部15に作用する引張荷重を示している。なお、図14および図15に端面Aとして示した線は、図13(a)および(b)に符号a1で示した部位に作用する引張荷重を意味し、図14および図15に端面Bとして示した線は、図13(a)および(b)に符号b1で示した部位に作用する引張荷重を意味している。また、図13において、図8に示した部位と同様の部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図13(a)および(b)に示すように、ワークX2には、クランクピン穴14の一方の開口端に第1面取り部71が形成され、クランクピン穴14の他方の開口端に第1面取り部71よりも大きな第2面取り部72が形成される。ここで、図13(a)においては、端面Aつまり大端部15の厚み方向の一端面がスライダ32,33に接触するとともに、端面Bつまり大端部15の厚み方向の他端面がスライダ32,33から離れるように、破断装置30に対してワークX2が取り付けられる。すなわち、図13(a)のワーク拘束状態とは、小さな第1面取り部71側の端面Aが拘束される一方、大きな第2面取り部72側の端面Bが解放される状態である。また、図13(b)においては、端面Aがスライダ32,33から離れるとともに、端面Bがスライダ32,33に接触するように、破断装置30に対してワークX2が取り付けられる。すなわち、図13(b)のワーク拘束状態とは、図13(a)のワーク拘束状態とは逆に、小さな第1面取り部71側の端面Aが解放される一方、大きな第2面取り部72側の端面Bが拘束される状態である。
図14に示すように、小さな第1面取り部71側の端面Aを拘束して大きな第2面取り部72側の端面Bを解放した場合には、端面Bに対して端面Aよりも大きな引張荷重が作用する。そして、図14に符号βで示すように、大きな引張荷重が作用していた端面Bが破断した後に、符号αで示すように、小さな引張荷重が作用していた端面Aが破断することになる。つまり、図13(a)に示すように、第1面取り部71に比べて第2面取り部72が大きいことから、大端部15の厚み方向の中心線L1よりも端面B側の破断面面積は、中心線L1よりも端面A側の破断面面積に比べて小さくなる。これにより、端面B側の部位Xbには大きな応力が作用して、端面B側の部位Xbは速い破断速度Sbで破断分割される一方、端面A側の部位Xaには小さな応力が作用して、端面A側の部位Xaは遅い破断速度Saで破断分割されると考えられる。
逆に、図15に示すように、大きな第2面取り部72側の端面Bを拘束して小さな第1面取り部71側の端面Aを解放した場合には、端面Bに対して端面Aよりも大きな引張荷重が作用する。そして、図15に符号βで示すように、大きな引張荷重が作用していた端面Bが破断した後に、符号αで示すように、小さな引張荷重が作用していた端面Aが破断することになる。つまり、図13(b)に示すように、第1面取り部71に比べて第2面取り部72が大きいことから、大端部15の厚み方向の中心線L1よりも端面B側の破断面面積は、中心線L1よりも端面A側の破断面面積に比べて小さくなる。これにより、端面B側の部位Xbには大きな応力が作用して、端面B側の部位Xbは速い破断速度Sbで破断分割される一方、端面A側の部位Xaには小さな応力が作用して、端面A側の部位Xaは遅い破断速度Saで破断分割されると考えられる。
これまで説明したように、第1面取り部71と第2面取り部72との形状を相違させることにより、大端部15の厚み方向の一方側と他方側との破断速度Sa,Sbを変化させることが可能となる。すなわち、前述した図8に示すように、メタル溝23,24を形成する側に小さな面取り部42を形成することにより、メタル溝23,24を形成する側の部位Z2を遅い破断速度S2で破断させることが可能となる。これにより、メタル溝23,24が形成される部位Z2の破断面25,26に細かな凹凸を形成することができ、メタル溝加工工程S11における欠けの発生を抑制することが可能となる。
図9〜図11を用いて説明したように、大端部15の厚み方向の一方側の端面を拘束することにより、拘束された端面側の破断速度を引き上げること、つまり拘束された端面側を先に破断させることが可能となる。また、図13〜図15を用いて説明したように、クランクピン穴14の一方に形成される面取り部を他方に形成される面取り部よりも大きくすることにより、大きく形成された面取り部側の破断速度を引き上げること、つまり大きく形成された面取り部側を先に破断させることが可能となる。このように、ワークの拘束条件やワークの面取り形状を変えることにより、大端部15の厚み方向の一方側と他方側との破断順序(破断速度)を変えることが可能となる。そして、メタル溝23,24が形成される部位が後から破断されるように、つまりメタル溝23,24が形成される部位の破断面25,26に細かな凹凸を形成するように、ワークの拘束条件やワークの面取り形状を調整することにより、メタル溝加工工程S11における欠けの発生を抑制することが可能となるのである。
続いて、本発明の他の実施の形態であるコネクティングロッドの半製品について説明する。図16(a)は本発明の他の実施の形態であるコネクティングロッドの半製品(ワークX3)の大端部15を示す部分拡大図である。また、図16(b)は図16(a)のA−A線に沿ってワークX3を示す拡大断面図であり、図16(b)には破断分割工程S7での破断状況が示されている。なお、図16において、図7および図8に示した部位と同様の部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。前述の説明では、クランクピン穴14の開口端の全周に渡って一様に面取り部を形成しているが、これに限られることはなく、開口端に形成される面取り部の形状を部分的に変化させても良い。図16(a)および(b)に示すように、クランクピン穴14の一方の開口端には第1面取り部81が形成されており、クランクピン穴14の他方の開口端には第2面取り部82が形成されている。第1面取り部81は、クランクピン穴14の開口端の全周に渡って形成される面取り部81aと、クランクピン穴14の開口端の一部に深く形成される面取り部81bとによって構成されている。また、第2面取り部82は、クランクピン穴14の開口端の全周に渡って一様に形成されている。このように、第1面取り部81と第2面取り部82との形状を相違させることにより、吸気側連結部39におけるメタル溝23の形成位置と排気側連結部40におけるメタル溝24の形成位置とが異なる場合であっても、メタル溝23,24の形成位置に合わせて破断速度を調整することが可能となる。
すなわち、図16(b)に示すように、吸気側連結部39においてはスライダ32,33から解放される端面83側にメタル溝23が形成されるため、双方の端面83,84側に同様の面取り部81a,82が形成される。これにより、メタル溝23が形成される部位Z1aの破断速度S1aを、メタル溝23が形成されない部位Z2aの破断速度S2aよりも遅くすることが可能となる。つまり、部位Z2aよりも部位Z1aを後から破断することができ、部位Z2aよりも部位Z1aの凹凸を細かく形成することが可能となる。また、排気側連結部40においてはスライダ32,33に拘束される端面84側にメタル溝24が形成されるため、解放される端面83側の開口端の一部に面取り部81bが深く形成される。これにより、メタル溝24が形成される部位Z2bの破断速度S2bを、メタル溝24が形成されない部位Z1bの破断速度S1bよりも遅くすることが可能となる。つまり、部位Z1bよりも部位Z2bを後から破断することができ、部位Z1bよりも部位Z2bの凹凸を細かく形成することが可能となる。これにより、吸気側連結部39と排気側連結部40とのメタル溝23,24が対向していない場合であっても、メタル溝23,24の形成位置に合わせて破断速度を調整することができ、メタル溝加工工程S11における欠けの発生を抑制することが可能となる。
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。図示するコンロッド10は、中心線を境に対称形状となる対称型コンロッドであるが、これに限られることはなく、中心線を境に非対称形状となる非対称型コンロッドであっても、本発明の製造技術を有効に適用することが可能である。また、前述の説明では、熱間鍛造されたワークを用いているが、これに限られることはなく、冷間鍛造、焼結鍛造あるいは鋳造されたワークであっても、本発明の製造技術を有効に適用することが可能である。
10 コンロッド(コネクティングロッド)
14 クランクピン穴(貫通穴)
14a 内周面
15 大端部
17 本体部
18 キャップ部
23,24 メタル溝(軸受取付溝)
32,33 スライダ(治具)
41 第1面取り部
42 第2面取り部
71 第1面取り部
72 第2面取り部
63 端面(一端面)
64 端面(他端面)
81 第1面取り部
82 第2面取り部
S7 破断分割工程(破断工程)
S11 メタル溝加工工程(溝加工工程)

Claims (3)

  1. 大端部が破断分割されるコネクティングロッドの製造方法であって、
    前記大端部を厚み方向に貫通する貫通穴を径方向に拡張させ、前記大端部を本体部とキャップ部とに破断分割する破断工程と、
    前記本体部と前記キャップ部との少なくともいずれか一方に、前記本体部または前記キャップ部の破断面にかけて軸受取付溝を形成する溝加工工程とを有し、
    前記破断工程では前記大端部の厚み方向の一方側を他方側よりも先に破断させ、前記溝加工工程では前記大端部の前記他方側に前記軸受取付溝を形成することを特徴とするコネクティングロッドの製造方法。
  2. 請求項1記載のコネクティングロッドの製造方法において、
    前記破断工程では、前記大端部の厚み方向の一端面を治具に接触させ、前記大端部の厚み方向の他端面を治具から離した状態のもとで、前記大端部を破断分割させることを特徴とするコネクティングロッドの製造方法。
  3. 請求項1または2記載のコネクティングロッドの製造方法において、
    前記破断工程で処理されるコネクティングロッドの半製品は、前記貫通穴の一方の開口端に形成される第1面取り部と、前記貫通穴の他方の開口端に形成される第2面取り部とを有し、前記第1面取り部と前記第2面取り部との形状が異なることを特徴とするコネクティングロッドの製造方法。
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