JP6024919B2 - 焼き嵌めによる鉄損劣化の小さいモータ - Google Patents

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Description

本発明は、ステータを焼き嵌めによりハウジングに固定することによる鉄損劣化の小さいモータに関するものである。
電気自動車等のモータでは、ステータ(固定子)をハウジングに固定するため、焼き嵌めが行われることがある。焼き嵌めを行うと、ステータには50〜100MPa程度の圧縮応力が付与されるため、モータ効率は著しく低下することが知られている。
このような焼き嵌めによるモータ効率の低下を防止する技術として、例えば、特許文献1には、分割コアにおいて、ティースとヨークの嵌合部にヤング率が1MPa以上20GPa以下の弾性体を挿入することによって、圧縮応力を低減する技術が開示されている。また、特許文献2には、ステータ外周部に空隙部を設けることによって、ステータに加わる圧縮応力を低減し、モータ効率を向上させる技術が開示されている。
特開2006−296075号公報 特開2005−354870号公報
しかしながら、上記の従来技術は、いずれも、焼き嵌めに起因した圧縮応力を低減することによって、ステータの鉄損劣化を低減しようとする技術であり、焼き嵌めによる鉄損劣化をある程度までは低減できるものの、その改善効果は十分に満足できるほどのものではないのが実状である。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼き嵌めによるモータ特性の劣化を、圧縮応力を低減するという従来技術とは異なる観点から、焼き嵌めによる鉄損劣化の小さいモータを提供することにある。
発明者らは、上記課題の解決に向け、焼き嵌めによる圧縮応力を低減するという観点ではなく、鉄損特性の劣化原因を解明し、その原因を除去することが重要であるとの技術思想の下、鋭意検討を重ねた。
その結果、焼き嵌めによる鉄損劣化は、圧縮残留応力によるものよりも、積層した電磁鋼板を締結しステータコアを組立てるために設けられたかしめ部と、ステータコアをモータのハウジングに固定する際に形成される焼き嵌め部を介して短絡回路が形成され、これにより渦電流が増大し、モータ効率の低下が引き起こされていること、したがって、上記短絡回路を遮断するためには、ステータコアとハウジングとの間(焼き嵌め部)に何らかの絶縁層を形成してやることが有効であることを見出し、本発明を開発するに至った。
すなわち、本発明は、電磁鋼板を積層し、かしめにより締結されたステータをハウジングに焼き嵌めで固定してなるモータであって、上記ハウジングの内周面に絶縁層としての酸化皮膜が形成されてなることを特徴とするモータである。
本発明の上記モータは、上記ハウジングの内周面に加えて、ステータの外周面に酸化皮膜が形成されてなることを特徴とする。
また、本発明のモータにおける上記酸化皮膜は、ブルーイング皮膜であることを特徴とする。
本発明によれば、ステータを焼き嵌めによりハウジングに固定するモータの効率を向上することができるので、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池電気自動車等の駆動モータ、エアコン用コンプレッサーモータ、高速発電機等の効率向上に大いに寄与する。
ステータコアをハウジングに焼き嵌めで固定する形式のモータ断面図である。 ハウジングとステータコア間に形成される短絡回路を説明する図である。
本発明を開発するに至った実験について説明する。
焼き嵌めに起因したモータの効率低下、即ち、鉄損特性の劣化原因を調査するため、Siを3mass%含有する板厚0.35mmの無方向性電磁鋼板を積層して、ステータ外径120mm、ステータ内径(ティース先端の内径)60mmの12スロットのステータコアを作製した。なお、上記ステータコアの締結は、図1に示すように、ステータコアの外周から7mmの位置の12箇所に、台形かしめを施すことにより行った。
次いで、上記ステータコアをモータハウジングに、焼き嵌めで、焼き嵌め代を30μmとして固定し、IPMモデルモータを製造した。なお、上記モータのハウジングには、Si:0.1mass%を含有する板厚2.6mmの熱延鋼板を、深絞り成形で円筒状にしたものを用いた。
上記ステータコアについて、焼き嵌め前後における磁束密度1.0T、周波数50Hzでの鉄損W10/50を測定し、焼き嵌めによる鉄損の変化を調査した。なお、上記鉄損の測定は、ステータコアのバックヨークに1次100ターン、二次36ターンの巻き線を施して測定した。この際、バックヨークの外周部に溝を設け、この部分に巻き線を通すことによって、ハウジングの磁束を検出しないように配慮した。
表1に、焼き嵌め前後におけるステータコアの鉄損値を示した。この表から、焼き嵌めによって、ステータコアの鉄損W10/50が1.5倍程度に増加していることがわかった。そこで、発明者らは、さらに上記測定した鉄損値について、鉄損分離を行い、その結果を表1に併記して示した。この結果から、焼き嵌めによって、ヒステリシス損は25%、渦電流損は300%増加していることがわかった。
Figure 0006024919
従来、電磁鋼板のヒステリシス損および渦電流損は、圧縮応力により増加することは知られているが、その増加率は同程度であると考えられていた。しかし、上記のように、ステータコアを焼き嵌めで固定したモータでは、渦電流損が著しく増加している。
発明者らは、上記のように渦電流損が異常に増加する原因について、何らかの短絡現象が生じているものと考え、さらに検討を重ねた。その結果、ステータコアの外周面(打抜加工時の剪断面)およびステータコアのかしめ部には絶縁被膜が欠落していることから、図2に示したように、「鋼板−かしめ部−鋼板−焼き嵌め部−ハウジング−焼き嵌め部−鋼板」という短絡回路が形成され、これにより渦電流損の異常な増加が引き起こされている可能性が最も高いと考えた。
そこで、上述したIPMモータにおいて、ステータコアをハウジングに焼き嵌めする際、ハウジングの内周面に、大気中で550℃×30minの熱処理を行うことによりブルーイング処理を施し、厚さが0.1μmの酸化皮膜を形成した後、ステータコアを焼き嵌めし、バックヨーク部の鉄損を、前述した実験と同様にして測定した。その結果、表2に示したように、酸化皮膜を形成する前と比較し、焼き嵌め後の鉄損を大幅に改善することができることがわかった。
Figure 0006024919
そこで、本発明は、上記実験結果を基に、ステータコアをモータハウジングに焼き嵌めする際、ステータコアの外周面および/またはモータハウジングの内周面に絶縁層として酸化皮膜を形成することで、焼き嵌め部における短絡を防止し、渦電流損の増加を抑制することとした。
ここで、上記酸化皮膜の皮膜厚は、0.05〜0.5μmの範囲とするのが好ましい。0.05μm未満では、酸化皮膜の絶縁層としての効果が不十分であり、一方、0.5μmを超えて酸化皮膜を形成すると、酸化皮膜の形成に時間を要したり、酸化皮膜が剥離を起こしたりするようになるからである。絶縁性の確保および酸化皮膜の形成性の観点からは、より好ましくは0.1〜0.3μmの範囲である。
また、上記酸化皮膜を生成する方法としては、酸化皮膜を形成することができる方法であれば特に限定しないが、大気中や、水蒸気を添加した酸化性の雰囲気中、薬品中等で、200〜550℃の温度でブルーイング処理する方法、750〜800℃でCOを含んだ酸化性ガス中で熱処理する方法等があるが、皮膜強度の点でブルーイング処理が最も好適である。
また、上記酸化皮膜を形成する面は、モータハウジングの内周面、ステータコアの外周面のいずれでもよく、また、上記両面に形成してもよい。ただし、ブルーイング処理を施す場合には、酸化皮膜を均一に形成させる観点、および、電磁鋼板表面に形成してある絶縁被膜に悪影響を及ぼさないようにする観点からは、モータハウジングの内周面に形成するのが好ましい。
板厚0.35mmの無方向性電磁鋼板を、外形が120mm、ロータ外形が60mmのステータ形状に打抜加工し、積み厚50mmに積層して、8極、12スロットのステータコアを組み立てた。積層した鋼板の締結は、図1に示すように、ステータの外周に12箇所の台形かしめを施すことで行った。
次いで、上記ステータコアを、モータハウジングに焼き嵌め代を30μmとした焼き嵌めにより固定し、IPMモータを作製した。なお、上記モータハウジングには、Siが0.1mass%で、板厚が2.6mmの熱延鋼板を深絞り成形して円筒状としたものを用いた。
また、上記焼き嵌めは、上記ハウジングの内面および/またはステータコアの外周面に、大気中で、500〜550℃でブルーイング処理を施し、表3に示したように、種々の膜厚の酸化皮膜を形成した後、行った。
上記ステータコアについて、焼き嵌め前後における磁束密度1.0T、周波数50Hzでの鉄損W10/50を測定し、焼き嵌めによる鉄損の変化を調査した。なお、上記鉄損の測定は、ステータコアのバックヨークに1次100ターン、二次36ターンの巻き線を施して測定した。この際、バックヨークの外周部に溝を設け、この部分に巻き線を通すことによって、ハウジングの磁束を検出しないように配慮した。
表3に、焼き嵌め前後におけるステータコアの鉄損W10/50の測定結果を示した。この表から、ハウジングの内面および/またはステータコアの外周面に酸化皮膜を形成することで、焼き嵌めに伴うモータ鉄損特性の劣化を大幅に低減できることがわかる。
Figure 0006024919
本発明(の技術)は、誘導モータ、エアコンコンプレッサーモータ、HEVモータ等にも(の分野にも)適用(利用)することができる。

Claims (3)

  1. 電磁鋼板を積層し、かしめにより締結されたステータをハウジングに焼き嵌めで固定してなるモータであって、
    上記ハウジングの内周面に絶縁層としての酸化皮膜が形成されてなることを特徴とするモータ。
  2. 上記ハウジングの内周面に加えて、ステータの外周面に酸化皮膜が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
  3. 上記酸化皮膜は、ブルーイング皮膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
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