始めに、実施例1の乗物用シートの取付構造について、図1〜図11を用いて説明する。本実施例の乗物用シートの取付構造は、図1〜図2に示すように、自動車のリヤシート1のシートクッション3を車両のフロアパネルFP上に取り付けて固定するための取付構造である。ここで、リヤシート1は、横幅の長い3人掛用のシートとして構成されており、着座乗員の背凭れとなる図示しないシートバックと、着座部となるシートクッション3と、を備えた構成となっている。シートクッション3は、3人掛け用の長い横幅を有したひと続きの構成となっているが、図示しないシートバックは、左右に6:4の比率で分割された構成となっている。ここで、フロアパネルFPが本発明の「ベース」に相当する。
上述した6:4分割された図示しないシートバックの各部分は、それぞれ、それらの互いに内向する内側の下端部が、フロアパネルFP上に設けられたヒンジブラケット30の各可動具31に結合されており、フロアパネルFPに対してヒンジブラケット30の回転軸33まわりに前後回転することができる状態に枢着された状態とされている。また、上記分割された図示しないシートバックの各部分は、それらの外側の下端部が、それぞれ、フロアパネルFP上に設けられた図示しないヒンジ構造部に連結されており、フロアパネルFPに対して上記ヒンジブラケット30の回転軸33と同軸回りに前後回転することができる状態に枢着された状態とされている。上記分割された図示しないシートバックの各部分は、常時は、それらの車両外側の肩口部に設けられた各係合部が車体の各側壁部に設けられた被係合部に係合して回転止めされていることにより、それぞれの背凭れ角度が定位置に固定されて保持された状態とされている(図示省略)。
ここで、上述したヒンジブラケット30は、フロアパネルFP上に固定されたL字板状の固定具32と、固定具32の立板部分に回転軸33によって回転可能な状態に枢着された可動具31と、から成る構成となっている。固定具32は、そのL字状に折り曲げられた底板側の部分がフロアパネルFP上にボルト締結されて一体的に結合された状態とされており、その立板部分がシート幅方向に面を向けた状態として、前後方向にかけられる曲げの負荷に対して強い状態に配設された状態とされている。可動具31は、上記固定具32の左右両側の側部にそれぞれ設けられており、回転軸33によりそれぞれが個別に自由に回転することができるように固定具32に枢着された状態とされている。
シートクッション3は、その前部の左右2箇所に底面側に突出して設けられた各押込みワイヤ3F1bが、それぞれ、フロアパネルFP上の左右2箇所に設置された各差込み具10内に押し込まれて係合されることにより、フロアパネルFP上に一体的に結合されて取り付けられた状態とされている。このように、シートクッション3は、フロアパネルFPとの間に設けられた左右2箇所の押込み式の結合構造ST1により、フロアパネルFPに対して簡単な押し込み操作によって取り付けられるようになっている。
しかし、このような取り付けが簡単な押込み式の結合構造ST1だけでは、車両の衝突発生時に生じる大荷重には耐え切れず、シートクッション3がフロアパネルFP上から剥離してしまうおそれがある。そこで、このような大荷重に耐えられるようにするために、シートクッション3の左右両側部とフロアパネルFPとの間には、更に、シートクッション3が車両の衝突発生に伴う大荷重の入力を受けて前後方向に押し動かされることがあっても、互いに掛かり合うことでシートクッション3の剥離移動を防止する非常用の掛かり構造ST2が設けられている。また、シートクッション3の後方中央部とフロアパネルFP(前述したヒンジブラケット30の固定具32)との間にも、シートクッション3が車両の衝突発生に伴う大荷重の入力を受けて前後方向に押し動かされることがあっても、互いに掛かり合うことでシートクッション3の剥離移動を防止する非常用の掛かり構造ST3が設けられている。
上述した各非常用の掛かり構造ST2,ST3は、それぞれ、上述した押込み式の結合構造ST1を押し込みによって結合させる際に、それらの非常時に掛かり合う部材同士を互いに前後方向に向かい合わせた状態となるように位置合わせするのみで、非常時にシートクッション3の剥離移動を防止するように機能するようになっている。具体的には、各非常用の掛かり構造ST2,ST3は、それぞれ、上述した押込み式の結合構造ST1を押し込みによって結合させた通常の状態時には、それぞれ、それらの非常時に掛かり合う部材同士が互いに前後方向に隙間を有して離間した状態に向かい合わされた状態とされており、シートクッション3が車両の衝突発生に伴う大荷重の入力を受けて前後方向に押し動かされることにより互いに相対的に接近する方向に押し動かされて掛かり合う構成とされている。
したがって、上記のような結合作業が簡単な押込み式の結合構造ST1と、上記結合作業時に位置合わせされて非常時に掛かり合うように動作する非常時に掛かり合うように動作する非常用の掛かり構造ST2,ST3とが組み合わされた構成により、シートクッション3のフロアパネルFPへの取付構造を、取り付けが簡素でありながら大荷重にも耐えられる構成とすることができる。以下、上述した押込み式の結合構造ST1と非常用の掛かり構造ST2,ST3の各構成について、シートクッション3の構成と併せて具体的に詳しく説明していく。
上述したシートクッション3は、図3に示すように、そのクッション構造を成す発泡ウレタン製のクッションパッド3Pの内部に、クッションパッド3Pの骨格を成す四角枠状に組まれた金属製のワイヤフレーム3Fが埋設された構成となっている。なお、上述したクッションパッド3Pの表面には、図示しない布製のクッションカバーが被せ付けられて張設された状態とされているが、本実施例では、上述したクッションパッド3P及びその内部に埋設されたワイヤフレーム3Fの構成を分かりやすく示すために、クッションカバーの図示及び説明は省略されている。ここで、クッションパッド3Pが本発明の「パッド」に相当し、ワイヤフレーム3Fが本発明の「フレーム」に相当する。
上述したワイヤフレーム3Fは、図1〜図2に示すように、クッションパッド3Pの前側部の骨格を成すフロントワイヤ3F1と、クッションパッド3Pの両外側の骨格を成す両サイドワイヤ3F2と、クッションパッド3Pの後側部の骨格を成すリヤワイヤ3F3と、がひとつに繋げられて、クッションパッド3Pの外周縁形状に沿って形を延ばす四角枠状に組まれた構成となっている。上述したワイヤフレーム3Fは、クッションパッド3Pの発泡成形時に成形型内にセットされることにより、同型内で発泡成形されたクッションパッド3P内に一体的に接着成形された状態となって形成された状態とされている。上述したワイヤフレーム3Fには、更に、上述したフロントワイヤ3F1の左右の端部間に前方側に張り出して架橋される形でシート幅方向に延びる形状出しワイヤ3F1cが一体的に付設されている。この形状出しワイヤ3F1cは、そのフロントワイヤ3F1の前側に張り出した形状によって、クッションパッド3Pの前側部の左右両側部に形成される前方側に膨らんだ形状を内側から支えて、同部の形状が上述した図示しないクッションカバーの張設力などによって潰れないようにするための形状出し部材として機能するものとなっている。
更に、上記フロントワイヤ3F1の左右両端側の2箇所には、それぞれ、シート後方側にU字状に折り曲げられて両端がフロントワイヤ3F1に固定されて設けられた付設ワイヤ3F1aと、これら付設ワイヤ3F1aとフロントワイヤ3F1とによって囲まれた前後の各枠部間に架橋されて設けられた押込みワイヤ3F1bと、が一体的に付設されている。これら押込みワイヤ3F1bは、それぞれ、下方側にU字状に折り曲げられた形に形成されており、フロアパネルFP上の前方側の左右2箇所の位置に設置された樹脂製の差込み具10内にそれぞれ上方側から差し込まれることにより、これら差込み具10によって抜け止めされた状態に装着されて保持されるようになっている。これら押込みワイヤ3F1bがフロアパネルFP上の各差込み具10内に差し込まれて抜け止めされた状態に結合される構成が、前述した押込み式の結合構造ST1に相当するものとなっている。これら押込み式の結合構造ST1により、シートクッション3をフロアパネルFP上に簡便に取り付けられるようになっている。なお、これら押込み式の結合構造ST1の具体的な構成については、後に、図4〜図5を用いて詳しく説明することとする。
また、図1〜図2に示すように、上述した各サイドワイヤ3F2の前後方向の中間部には、それぞれ、シート内方側に形状が折り曲げられて両端が各サイドワイヤ3F2に固定されて設けられた付設ワイヤ3F2aと、これら付設ワイヤ3F2aと各サイドワイヤ3F2とによって囲まれた左右の枠部間に架橋されて設けられた前後方向に並ぶ各2本の掛ワイヤ3F2bと、これら前後方向に並ぶ各2本の掛ワイヤ3F2b間に架橋されて設けられた架橋ワイヤ3F2cと、が一体的に付設されている。
上述した各掛ワイヤ3F2bは、それぞれ、フロアパネルFP上の左右2箇所に設置されたブラケット20をそれらの間に通すように上方側から落とし込まれてセットされている。これにより、各掛ワイヤ3F2bは、常時は、各ブラケット20とは前後方向に離間した状態とされるが、前述した車両衝突が発生した非常時には、各ブラケット20と掛かり合ってシートクッション3の剥離移動を防止するように機能するものとなっている(図6〜図8参照)。これら掛ワイヤ3F2bがフロアパネルFP上の各ブラケット20と掛かり合う構成が、前述した非常用の掛かり構造ST2に相当するものとなっている。ここで、上記各掛ワイヤ3F2bがそれぞれ本発明の「掛ワイヤ」に相当し、各ブラケット20がそれぞれ本発明の「ブラケット」に相当する。なお、これら非常用の掛かり構造ST2の具体的な構成については、後に、図6〜図8を用いて詳しく説明することとする。
また、図1〜図2に示すように、上述したリヤワイヤ3F3の中間部には、シート後方側にU字状に張り出すように折り曲げられて両端がリヤワイヤ3F3に固定されて設けられたU字ワイヤ3F3aが一体的に付設されている。そして、上記U字ワイヤ3F3aの左右の枠部間には、L字状に折り曲げられた形の架橋ワイヤ3F3bがシート幅方向に一体的に架橋されて設けられている。上述したU字ワイヤ3F3aは、前述したフロアパネルFP上の後方中央部に設置されたヒンジブラケット30の固定具32から切り起こされて形成された切り起こし部32Aの先端の下方側に折れ曲がった形の曲がり部32A1に、そのU字を下方側から通した状態にセットされるようになっている。これにより、U字ワイヤ3F3aは、その上部にかかるヒンジブラケット30の固定具32の切り起こし部32Aによって、上方側への剥離移動が抑えられた状態に保持されるようになっている。
上述したU字ワイヤ3F3aは、常時は、そのU字の曲げ返し部分(後端)と上述した曲がり部32A1とが前後方向に離間した配置とされると共に、架橋ワイヤ3F3bがヒンジブラケット30の固定具32と前後方向に離間した配置状態とされており、車両衝突が発生した非常時に、そのU字の曲げ返し部分(後端)が曲がり部32A1と掛かり合ったり、架橋ワイヤ3F3bがヒンジブラケット30の固定具32に掛かり合ったりして、シートクッション3の剥離移動を防止するように機能するようになっている(図9〜図11参照)。これらU字ワイヤ3F3aや架橋ワイヤ3F3bがフロアパネルFP上のヒンジブラケット30の固定具32と掛かり合う構成が、前述した非常用の掛かり構造ST3に相当するものとなっている。ここで、上記U字ワイヤ3F3a及び架橋ワイヤ3F3bがそれぞれ本発明の「掛ワイヤ」し、ヒンジブラケット30の固定具32が本発明の「ブラケット」に相当する。なお、この非常用の掛かり構造ST3の具体的な構成については、後に、図9〜図11を用いて詳しく説明することとする。
ここで、図3に示すように、上述したクッションパッド3Pの後縁部には、その左右2箇所の部位に、図示しないシートベルト装置のバックルを下方側から通すために高さ方向に貫通したバックル通し孔3P1が形成されている。そのため、クッションパッド3Pの後側部に沿って通されているリヤワイヤ3F3は、これら2箇所のバックル通し孔3P1からの露出を避けるために、各バックル通し孔3P1の近傍箇所を通る2箇所の部位が、それぞれシート前方側にクランク状に折り曲げられた形に形成されている。上述したクッションパッド3Pは、上述したように、ワイヤフレーム3F全体を外部に露出させないように内部に埋設させた形に形成されているが、上述した両サイドワイヤ3F2に付設された各掛ワイヤ3F2bの間の箇所や、リヤワイヤ3F3に付設されたU字ワイヤ3F3aのU字内箇所には、それぞれ、図1〜図2で上述した各ブラケット20やヒンジブラケット30の固定具32に形成された切り起こし部32Aの曲がり部32A1を内部に通せるようにするためのブラケット通し孔3P2や曲がり部通し孔3P3が形成されている。
これらブラケット通し孔3P2や曲がり部通し孔3P3は、それぞれ、両サイドワイヤ3F2に付設された各掛ワイヤ3F2bやリヤワイヤ3F3に付設されたU字ワイヤ3F3a及び架橋ワイヤ3F3bをそれぞれ外部に露呈させないように空けられている。これにより、上述した各掛ワイヤ3F2bやU字ワイヤ3F3a及び架橋ワイヤ3F3bが、それぞれ、クッションパッド3Pの形状によって外側から覆われた状態とされており、これらが通常時、車両走行時のガタ付きなどによって、ブラケット通し孔3P2に通された金属製のブラケット20や、曲がり部通し孔3P3に通された金属製の曲がり部32A1にそれぞれ直接接触して異音を発生させないように保護された状態とされている。なお、上述したフロントワイヤ3F1に付設された各押込みワイヤ3F1bは、クッションパッド3Pの底面部から下方側に突出して外部に露呈した状態となっているが、これらは、前述したように樹脂製の差込み具10内に差し込まれて抜け止めされた状態に係合する構成となっているため、上記のような金属同士の接触に伴う異音は発生しないようになっている。
次に、図4〜図5を参照しながら、上述した各押込み式の結合構造ST1の構成について詳しく説明する。各押込み式の結合構造ST1は、上述したように、シートクッション3のフロントワイヤ3F1に付設されたU字状の各押込みワイヤ3F1bが、フロアパネルFP上に設置された各固定ブラケットFP1の差込孔FP1a内に装着された樹脂製の各差込み具10内に上方側から押し込まれることにより、各差込み具10が各押込みワイヤ3F1bに弾性的に引掛けられるように係合して、各差込み具10内に抜け止めされた状態に装着される構成となっている。具体的には、上述した各差込み具10は、フロアパネルFP上に結合された台座状に立設する各固定ブラケットFP1の差込孔FP1a内に上方側から差し込まれて取り付けられた状態とされている。
各差込み具10は、各固定ブラケットFP1の差込孔FP1a内に一体的に装着された状態に固定される有底横長円筒型の固定部11と、固定部11の筒内に設けられて各押込みワイヤ3F1bが上方側から内部に押込まれることにより固定部11に底付きする位置まで押込まれて嵌合する可動部12と、を有した構成となっている。上記固定部11は、その頭部が差込孔FP1aよりも広い外形を有した形状に形成されており、その下方側に延びる筒部が差込孔FP1a内に上方側から差し込まれることにより、上記頭部の下部周縁に傘状に広がる形に形成されたスタビライザ11Cが、固定ブラケットFP1の上面に当接して係止される位置に装着された状態とされている。
可動部12は、上記固定部11の筒内に嵌め込まれて固定部11の筒形状に沿って高さ方向に摺動することができる状態に装着された有底横長円筒形状に形成されている。この可動部12は、上述した押込みワイヤ3F1bを上方側から内部に受け入れることのできる長円形状の受入孔12Aと、受入孔12Aの短手方向に対向する各壁部から受入孔12A内に向かって突出するように形成された各係止爪12Bと、可動部12の短手方向に対向する各壁部の上縁部に外側に張り出す形となって形成された各戻り防止爪12Cと、を有する形に形成されている。上記各係止爪12Bは、それぞれ、図4(a)に示すように、可動部12の各壁部にU字状に切込みが入れられることで、それらの上縁部のみが可動部12に繋がっていて、これらの上縁部を支点に全体が内外に撓み変形することができる構成とされており、図4(b)に示すように、それぞれ、自由状態時には、互いの先端同士を受入孔12A内に突出させて接近させた状態に保たれた状態とされている。
各係止爪12Bは、図5(a)(b)に示すように、押込みワイヤ3F1bが可動部12の受入孔12A内に押し込まれてくることにより、この押込みワイヤ3F1bによって押し退けられる形で互いの先端同士が引き離される方向に撓み変形し、押込みワイヤ3F1bが可動部12の底部12Dに底付きする位置まで押し込まれることにより、それぞれ復元変形して互いの先端同士を受入孔12A内で接近させた初期位置の状態に戻されるようになっている。
各戻り防止爪12Cは、図4(b)に示すように、可動部12に押込みワイヤ3F1bが押し込まれる前の初期時には、それらの外側に張り出した傾斜面形状が固定部11の上方側に傾斜した内周面上に乗り上がった状態として、固定部11のスタビライザ11Cよりも上方側に位置した状態(固定ブラケットFP1の差込孔FP1aよりも上方側に位置した状態)に保持された状態とされている。各戻り防止爪12Cは、図5(b)に示すように、押込みワイヤ3F1bが可動部12の底部12Dに底付きする位置まで押し込まれた後、更なる押込みによって可動部12の底部12Dが固定部11の底部11Bに向けて底付きする位置まで押し込まれることにより、固定部11の筒内に弾性的に押し窄められながら入り込んでいき、それらの上縁部が固定ブラケットFP1の差込孔FP1a内に入り込んだところで、固定部11の壁部に形成された孔からその上縁部の爪形状を弾発力によって外側に張り出させて、同爪形状を固定ブラケットFP1の差込孔FP1aの内周面に下方側から引掛けて上方側に抜けないように係止させた状態となって保持されるようになっている。
そして、上記可動部12は、上記の押し込みによってその底部12Dが固定部11の底部11Bに底付きするまで押し込まれて、上記各戻り防止爪12Cが固定ブラケットFP1の差込孔FP1aに引掛けられて係止された状態となる時には、その両係止爪12Bが、固定部11の筒内の内径が狭められた狭小域11A内に押し込まれた状態となって、その外側への撓み変形が禁止されたロック状態へと移行するようになっている。このような状態となることにより、可動部12は、上記押込みワイヤ3F1bに上方側に引き抜かれる方向の力がかけられても、各戻り防止爪12Cの上縁部が固定ブラケットFP1の差込孔FP1aに引掛けられて抜け止めされていると共に、各係止爪12Bが固定部11の狭小域11Aにあって開けなくなっているために、押込みワイヤ3F1bを上記各係止爪12Bの先端と底部12Dとの間に挟み込んだ状態に保持し続けることができるようになっている。
次に、図6〜図8を参照しながら、上述したシートクッション3の左右両側部とフロアパネルFPとの間に設けられた各非常用の掛かり構造ST2の構成について詳しく説明する。図6に示すように、各非常用の掛かり構造ST2は、上述もしたように、シートクッション3の各サイドワイヤ3F2に付設された前後一対の各掛ワイヤ3F2bが、これらの間にフロアパネルFP上に設置されたL字板状のブラケット20を通すように上方側から落とし込まれることにより、非常時に各掛ワイヤ3F2bがブラケット20に引掛かってシートクッション3の剥離移動を防止する状態にセットされるようになっている。
ここで、上述した各サイドワイヤ3F2は、その前部領域と後部領域とが、中間領域に対してシート内側に傾くように折り曲げられた形に形成されている。そして、これらシート内側に折り曲げられた各サイドワイヤ3F2の前部領域と後部領域との間に、これらとはシート幅方向に対称向きの形に折り曲げられた各付設ワイヤ3F2aが架橋されており、これらによって囲まれた左右の枠部間に前後一対の掛ワイヤ3F2bが架橋された状態とされている。このように、各サイドワイヤ3F2とこれらに付設される各付設ワイヤ3F2aとが互いにシート幅方向に対称向きに折り曲げられた形とされて結合された構成となっていることにより、それぞれが曲げの負荷に強い構造強度の高められた構成とされており、これらの間に架橋される各掛ワイヤ3F2bを強い力で支えることができるようになっている。
各ブラケット20は、そのL字状に折り曲げられた底板側の部分がフロアパネルFP上にボルト締結されて一体的に結合された状態として、その立板部分がシート幅方向に面を向けた状態に配設された状態とされている。そして、上記各ブラケット20の立板部分の前後側の各縁部の上部には、それぞれ前後側に爪形状を張り出させる形のフック部21が形成されている。ここで、各フック部21がそれぞれ本発明の「フック部」に相当する。各フック部21は、それらの下面に上述した各掛ワイヤ3F2bを前方側或いは後方側から受け入れて、上方側へ逃がさないように拘束することのできる引掛け形状とされている。
上記各ブラケット20は、図6に示すように、シートクッション3がフロアパネルFP上に落とし込まれて取り付けられた状態とされる通常時には、それらの前後側の各フック部21が、シートクッション3の前後側の各掛ワイヤ3F2bとは当接せず、各フック部21の方が各掛ワイヤ3F2bよりも僅かに高い位置に配置されてはいるものの、両者は互いに前後方向に離間した配置状態とされるようになっている。したがって、各非常用の掛かり構造ST2は、上述したように互いに離間した非接触状態でセットされる構成となっていることにより、図1〜図2で前述したように、シートクッション3をフロアパネルFP上に落とし込んで取り付ける際には、上述した左右各側の押込み式の結合構造ST1を位置合わせして結合する作業によって、左右各側の各掛ワイヤ3F2bの間に各ブラケット20が通されるように位置合わせされるため、特段の位置合わせ作業を要することなく簡便に、各非常用の掛かり構造ST2を非常時に有効に機能させられる状態にセットすることができる。
上述した各非常用の掛かり構造ST2は、例えば、図7に示すように、車両の後部衝突が発生するなどして、シートクッション3に対して車両後方側への弾みの付いた大荷重が入力された場合に、シートクッション3がその弾みで後方側に変位する動きによって、その左右両側の前側の掛ワイヤ3F2bがこれらを覆うクッションパッド3Pの形状部が引き裂かれながら各ブラケット20の前側のフック部21に当たって引掛けられた状態となり、シートクッション3の後方側及び上方側への移動を規制した状態となる。これにより、シートクッション3が後方側に大きく揺さぶられることがなくなるため、図2で前述したシートクッション3の前側の2箇所をフロアパネルFP上に結合している各押込み式の結合構造ST1が、無理な負荷を受けてこれらの結合状態が強制的に外されることが抑制されるようになっている。もしくは、各押込み式の結合構造ST1の結合状態が強制的に外されることがあっても、各非常用の掛かり構造ST2の引掛かりによって、シートクッション3がフロアパネルFP上から剥離されることが防止されるようになっている。
また、図8に示すように、各非常用の掛かり構造ST2は、車両の前部衝突が発生するなどして、シートクッション3に対して車両前方側への弾みの付いた大荷重が入力された場合には、シートクッション3がその弾みで前方側に変位する動きによって、その左右両側の後側の掛ワイヤ3F2bがこれらを覆うクッションパッド3Pの形状部が引き裂かれながら各ブラケット20の後側のフック部21に当たって引掛けられた状態となり、シートクッション3の前方側及び上方側への移動を規制した状態となる。これにより、シートクッション3が前方側に大きく揺さぶられることがなくなるため、図2で前述したシートクッション3の前側の2箇所をフロアパネルFP上に結合している各押込み式の結合構造ST1が、無理な負荷を受けてこれらの結合状態が強制的に外されることが抑制されるようになっている。もしくは、各押込み式の結合構造ST1の結合状態が強制的に外されることがあっても、各非常用の掛かり構造ST2の引掛かりによって、シートクッション3がフロアパネルFP上から剥離されることが防止されるようになっている。
次に、図9〜図11を参照しながら、上述したシートクッション3の後方中央部とフロアパネルFPとの間に設けられた非常用の掛かり構造ST3の構成について詳しく説明する。図9に示すように、この非常用の掛かり構造ST3は、上述したように、シートクッション3のリヤワイヤ3F3に付設されたシート後方側に延びるU字ワイヤ3F3aが、そのU字内にフロアパネルFP上に設置されたヒンジブラケット30の固定具32に形成された切り起こし部32Aの曲がり部32A1に下方側から通されるように掬い掛けられることにより、常時はこの固定具32とは係合しないが、非常時にU字ワイヤ3F3a又はU字ワイヤ3F3aに架橋された架橋ワイヤ3F3bが上記曲がり部32A1又は固定具32の前縁部に形成された凹部32Bに引掛かってシートクッション3の剥離移動を防止する状態にセットされるようになっている。
ここで、上述したU字ワイヤ3F3aは、図1〜図2に示すように、そのU字の両端がリヤワイヤ3F3に掛けられて固定された状態とされているが、図示右側のU字の一辺3F3a1がリヤワイヤ3F3との固定点よりも更にシート前方側に延び出してフロントワイヤ3F1にも掛けられて固定された状態とされている。これにより、U字ワイヤ3F3aは、その図示右側の一辺3F3a1が、リヤワイヤ3F3にもフロントワイヤ3F1にも固定されて強固に一体的に結合された状態とされている。また、ワイヤフレーム3Fにおいても、上記U字ワイヤ3F3aの図示右側の一辺3F3a1が、リヤワイヤ3F3とフロントワイヤ3F1との間に跨って架橋された状態とされていることにより、その横長な四角枠形状の中間部に、リヤワイヤ3F3とフロントワイヤ3F1とを繋げるワイヤが追加されて両者が互いに前後方向に離れにくいように補強された状態とされている。
そして、図9に示すように、上記U字ワイヤ3F3aの左右の枠部間には、これらと同じ太さで形成されたL字状に折り曲げられた形の架橋ワイヤ3F3bが架橋されている。上記架橋ワイヤ3F3bは、U字ワイヤ3F3aの図示向かって右側のU字の一辺3F3a1から右方側に延出した延長部3F3b1を有する構成となっており、同延長部3F3b1の延出した先の端部には、シート後方側に折り曲げられた形の折れ曲がり部3F3b2が形成されている。上記架橋ワイヤ3F3bは、上述したU字ワイヤ3F3aのU字内に上記固定具32の切り起こし部32Aの先端に形成された曲がり部32A1が通された状態では、その延長部3F3b1が固定具32の前縁部に形成された凹部32Bの前方側に離間した位置に配置された状態としてセットされるようになっている。
上述したU字ワイヤ3F3aに通された固定具32の曲がり部32A1は、その曲げられた鉤形状によって、U字ワイヤ3F3aの曲げ返し部分(後端)を後方側から受け入れて、上方側へ逃がさないように拘束することのできる引掛け部として機能するようになっている。また、固定具32の前縁部に形成された凹部32Bは、その凹み形状によって、U字ワイヤ3F3aの両枠部間に架橋された架橋ワイヤ3F3bの延長部3F3b1を前方側から受け入れて、上方側へ逃がさないように拘束することのできる引掛け部として機能するようになっている。ここで、上記固定具32に形成された曲がり部32A1と凹部32Bが、それぞれ、本発明の「フック部」に相当する。
したがって、上述した非常用の掛かり構造ST3は、上述したように互いに離間した非接触状態でセットされる構成となっていることにより、図1〜図2で前述したように、シートクッション3をフロアパネルFP上に落とし込んで取り付ける際には、先ず、上述したU字ワイヤ3F3aを固定具32の曲がり部32A1に掬い掛けてから、シートクッション3の前側の各押込み式の結合構造ST1を位置合わせして結合することにより、上述したU字ワイヤ3F3aに架橋された架橋ワイヤ3F3bの延長部3F3b1が上記固定具32の凹部32Bの前方位置に位置合わせされるため、特段の位置合わせ作業を要することなく簡便に、非常用の掛かり構造ST3を非常時に有効に機能させられる状態にセットすることができる。
上述した非常用の掛かり構造ST3は、例えば、図10に示すように、車両の後部衝突が発生するなどして、シートクッション3に対して車両後方側への弾みの付いた大荷重が入力された場合に、シートクッション3がその弾みで後方側に変位する動きによって、上述したU字ワイヤ3F3aに架橋された架橋ワイヤ3F3bの延長部3F3b1が同部を覆うクッションパッド3Pの形状部が引き裂かれながら固定具32の前側の凹部32B内に入り込んで引掛けられた状態となり、シートクッション3の後方側及び上方側への移動を規制した状態となる。これにより、シートクッション3が後方側に大きく揺さぶられることがなくなるため、図2で前述したシートクッション3の前側の2箇所をフロアパネルFP上に結合している各押込み式の結合構造ST1が、無理な負荷を受けてこれらの結合状態が強制的に外されることが抑制されるようになっている。もしくは、各押込み式の結合構造ST1の結合状態が強制的に外されることがあっても、非常用の掛かり構造ST3の引掛かりによって、シートクッション3がフロアパネルFP上から剥離されることが防止されるようになっている。
詳しくは、上述した非常用の掛かり構造ST3は、図2に示すように、シートクッション3の幅方向の右寄りの領域部に設定されているため、上記車両の後部衝突の発生時には、その勢いで、架橋ワイヤ3F3bが固定具32の凹部32Bに当たった点を支点に、シートクッション3の重量比率の重い左側領域が更に後方側に大きく押し込まれるように偏って変位して、架橋ワイヤ3F3bが図示左方側に擦り動かされて外される方向に負荷を受けることがある。しかし、この非常用の掛かり構造ST3は、上述したような左右で偏った負荷がかけられても、図10に示されている架橋ワイヤ3F3bの右側の端部に形成された折れ曲がり部3F3b2が、固定具32の凹部32Bの右側面に引っ掛かることにより、架橋ワイヤ3F3bと凹部32Bとの引掛かり状態を強く維持することができるようになっている。
また、図11に示すように、上述した非常用の掛かり構造ST3は、車両の前部衝突が発生するなどして、シートクッション3に対して車両前方側への弾みの付いた大荷重が入力された場合には、シートクッション3がその弾みで前方側に変位する動きによって、上述したU字ワイヤ3F3aの曲げ返し部(後端)が同部を覆うクッションパッド3Pの形状部が引き裂かれながら固定具32の曲がり部32A1に当たって引掛けられた状態となり、シートクッション3の前方側及び上方側への移動を規制した状態となる。これにより、シートクッション3が前方側に大きく揺さぶられることがなくなるため、図2で前述したシートクッション3の前側の2箇所をフロアパネルFP上に結合している各押込み式の結合構造ST1が、無理な負荷を受けてこれらの結合状態が強制的に外されることが抑制されるようになっている。もしくは、各押込み式の結合構造ST1の結合状態が強制的に外されることがあっても、非常用の掛かり構造ST3の引掛かりによって、シートクッション3がフロアパネルFP上から剥離されることが防止されるようになっている。
このように、本実施例の乗物用シートの取付構造は、押込み式の結合構造ST1と、非常用の掛かり構造ST2,ST3と、を有する。押込み式の結合構造ST1は、シートクッション3とフロアパネルFP(ベース)との間に設けられ、押し込みにより一方が他方に対して弾性的に引掛かるように動作して抜け止めされた状態に結合される構成となっている。非常用の掛かり構造ST2,ST3は、シートクッション3とフロアパネルFPとの間に設けられ、押込み式の結合構造ST1が結合状態とされることにより、互いに所定状態に向かい合わされた状態となり、シートクッション3が乗物の衝突などに伴う大荷重の入力を受けて変位することにより、互いに相対的に接近する方向に押し動かされて掛かり合う構成とされている。これにより、シートクッション3が上記大荷重の入力を受けて押し動かされても、非常用の掛かり構造ST2,ST3が掛かり合って、シートクッション3のフロア上からの剥離が防止されるようになっている。
このような構成とされていることにより、上記押込み式の結合構造ST1によって、シートクッション3をフロアパネルFPに対して単純な押し込み操作によって抜け止めした状態に結合することができる構成でありながら、シートクッション3が乗物の衝突などに伴う大荷重の入力を受けて押し動かされても、非常用の掛かり構造ST2,ST3が掛かり合うことにより、シートクッション3のフロアパネルFP上からの剥離を防止することができる。このように、シートクッション3のフロアへの取付構造を、取り付けが簡素でありながら、大荷重にも耐えられる構成とすることができる。
詳しくは、上述した非常用の掛かり構造ST2,ST3は、それぞれ、シートクッション3のクッションパッド3P(パッド)内に埋設されたワイヤフレーム3F(フレーム)に固定された状態として設けられた掛ワイヤ3F2b又はU字ワイヤ3F3a(掛ワイヤ)と、フロアパネルFP上に固定されて上記掛ワイヤ3F2b又はU字ワイヤ3F3a(掛ワイヤ)を引掛け可能なフック部21を備えたブラケット20又は曲がり部32A1(凹部32B)を備えたヒンジブラケット30の固定具32と、の組み合わせによって構成されている。このように、可動側となるシートクッション3に掛ワイヤ3F2b又はU字ワイヤ3F3a(掛ワイヤ)を設け、固定側となるフロアパネルFP上に引掛け用のフック部21を備えたブラケット20又は曲がり部32A1(凹部32B)を備えたヒンジブラケット30の固定具32を設ける構成とすることにより、作業者によって持ち上げられたり動かされたりするシートクッション3をより安全にフロア上に取り付けられるようにすることができる。
また、押込み式の結合構造ST1が、シートクッション3の前部とフロアパネルFPとの間に設けられ、非常用の掛かり構造ST2が、シートクッション3の横側部とフロアパネルFPとの間に設けられていることにより、シートクッション3をフロアパネルFP上に取り付ける作業を、その前方側の作業位置から目の前で簡便に行うことができる。なおかつ、非常用の掛かり構造ST2が、シートクッション3の横側部とフロアパネルFPとの間に設けられることにより、シートクッション3が乗物の衝突などに伴う大荷重の入力を受けた際にその両側部を上下にバタつかせようとする挙動が、非常用の掛かり構造ST2によって適切に抑えられるようになる。