JP6024104B2 - 求心性迷走神経活性化剤、食欲抑制剤、脂肪消費促進剤、脂肪肝治療剤、糖尿病治療剤、及びヒトを除く家畜動物種及び野生動物の求心性迷走神経活性化方法 - Google Patents
求心性迷走神経活性化剤、食欲抑制剤、脂肪消費促進剤、脂肪肝治療剤、糖尿病治療剤、及びヒトを除く家畜動物種及び野生動物の求心性迷走神経活性化方法 Download PDFInfo
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Description
従来技術1の薬学的組成物は、神経伝達物質とそのシグナル伝達系に働きかけること、及びホルモンやアディポカインを利用して、動物、特にヒトの肥満症を処置するのに有用性を有する薬学的組成物および方法を提供していた。
これに加え、非特許文献1を参照すると、近年、オキシトシンがエネルギー代謝に重要な役割を果たすことを示唆されている。非特許文献1は、末梢オキシトシン投与により、ラットの食欲低下が誘発されることを最初に示した文献である。
従来技術2の治療薬は、摂食・代謝調節に関するペプチドを導入した遺伝子改変酵母および/または乳酸菌を投与することによって、患者集団、例えば、飽食因子の望ましくないレベルを有する患者を治療することができる。
これに対して、オキシトシンの脳内神経伝達物質としての機能と役割は極めて限局されており、又、既に陣痛促進剤等として医療用に用いられており、副作用の少ない肥満・メタボリックシンドローム治療薬として期待できる。
ここで、従来技術2のペプチドは、段落[0010]を参照すると、「38)オキシトシン」なる記載があり、段落[0014]に「食物摂取および/または体重を低下させることが目的である場合、」投与される肥満関連ペプチドは、「〜、37)〜43)」とあり、オキシトシンが体重減少に用いられるように記載されていた。
しかしながら、従来技術2の実施例においては、ヒトPYYを酵母に組み込み、乳酸菌には合成したエキセンディン−4を組み込んで実験しており、オキシトシンについて裏付けがなかった。
また、従来、オキシトシンの食欲減退作用並びに脂肪分解を含む異化作用、それらの作用機序、及び期間についての詳細は不明だった。
実際のところ、末梢オキシトシン投与による根本的な食欲減退及び異化作用の機序の大部分は未知であり、オキシトシンを肥満・メタボリックシンドロームの治療薬として用いるための、好適な投与量、投与期間、投与方法も不明であった。このため、未知の副作用を鑑みると、オキシトシンを治療薬として用いることはできなかった。
よって、オキシトシンを用いた、作用機構の明らかな肥満・メタボリックシンドローム治療薬が求められていた。
本発明の求心性迷走神経活性化剤は、前記所定投与量は、800μg/kg/日〜2000μg/kg/日であることを特徴とする。
本発明の求心性迷走神経活性化剤は、前記所定投与量は、1600μg/kg/日〜2000μg/kg/日であることを特徴とする。
本発明の求心性迷走神経活性化剤は、収縮期血圧の正常レベルに影響を与えないことを特徴とする。
本発明の求心性迷走神経活性化剤は、前記所定期間の投与後にも1ヶ月〜数ヶ月間、摂食抑制の効果を持続させることを特徴とする。
本発明の求心性迷走神経活性化剤は、精神活動に悪影響を及ぼさないことを特徴とする。
本発明の求心性迷走神経活性化剤は、浸透性ミニポンプ又は皮下投与を用いることを特徴とする。
本発明の求心性迷走神経活性化剤は、前記所定期間は、前記所定投与量を10日〜1ヶ月間維持することを特徴とする。
本発明の食欲抑制剤は、前記求心性迷走神経活性化剤を用いることを特徴とする。
本発明の脂肪消費促進剤は、前記求心性迷走神経活性化剤を用い、呼吸商の低下、及び脂肪細胞肥大化抑制を含む機構により、内蔵脂肪量を減らすことを特徴とする。
本発明の脂肪肝治療剤は、前記求心性迷走神経活性化剤を用い、呼吸商の低下、及び脂肪細胞肥大化抑制を含む機構により、内蔵脂肪量を減らすことを特徴とする。
本発明の糖尿病治療剤は、前記求心性迷走神経活性化剤を用い、インスリン分泌を促進することを特徴とする。
本発明の求心性迷走神経活性化方法は、ヒトを除く家畜動物種及び野生動物の求心性迷走神経活性化方法であって、所定投与量と所定期間でオキシトシンを末梢投与し、血液脳関門−視床下部弓状核経由及び/又は求心性迷走神経経由で、前記血液脳関門−視床下部弓状核経由では、視床下部の弓状核及び室傍核を活性化し、前記求心性迷走神経経由では、オキシトシン受容体を介して前記求心性迷走神経を直接活性化し、当該求心性迷走神経経由の情報伝達の結果により、脳幹の孤束核、迷走神経背側核複合体、及び青斑核におけるc−Fos発現を誘発することで摂食抑制させ、前記所定投与量は、400μg/kg/日〜2000μg/kg/日であることを特徴とする。
本発明者らは、副作用の少ない肥満症・メタボリック症候群治療剤を開発することを目的としていた。このため、既に陣痛促進剤として臨床使用されているペプチドホルモンであるオキシトシンの、主に末梢投与に注目した。
具体的には、本発明者らは、鋭意実験と研究を行い、摂食量とエネルギー収支に対する末梢オキシトシンの長期投与の影響、及び作用機序と投与量等を明確にし、末梢オキシトシン投与によって刺激された脳領域を同定した。実際に、本発明者らは、末梢オキシトシン投与に応じて、摂食・代謝に関与する視床下部と脳幹の多くで明白なc−Fos発現があることを示した。
これにより、本発明者らは、腹腔内・皮下オキシトシン投与の好適な濃度や期間等を求めることができ、本発明の実施の形態に係る肥満・メタボリックシンドローム治療薬及び治療方法を完成させた。
本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、皮下注入された浸透性ミニポンプによる長期オキシトシン投与で、効率的に摂食量を抑えることができる。また、高脂肪食(HFD)により誘発された肥満マウスの体重減少、特に内臓脂肪量の低下を観察し、同時に、脂肪細胞サイズの縮小、脂肪肝並びに耐糖能障害改善の効果があることを見いだした。
したがって、本発明者らは、解明した長期の末梢オキシトシン投与による摂食調節の機構を基に、体重及び脂肪質量を確実に減少させられる肥満・メタボリックシンドローム治療薬を完成させた。本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、肥満を始めとする肥満・メタボリックシンドロームの主要な症状を改善するため、好適に用いられる。
本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬に用いられる浸透性ミニポンプとしては例えば、Alzet社製のmini−osmotic pump、Model 2002等と同様に、所定期間、浸透圧等により所定投与量の薬剤を放出するものが望ましい。この浸透性ミニポンプは、例えば、あらかじめカプセル内に入れた薬液を、浸透圧により体内に注入する。この際に、所定期間、所定流量で本実施形態のオキシトシンを動物の体内に連続注入できる。このような浸透性ミニポンプは、例えば、非透過性のリザーバーと、リザーバーを包む浸透剤を含むシール膜及び半透過膜外筒メンブランと、薬液排出用のフローモデレーターより構成される。本実施形態のオキシトシンが充てんされた浸透性ミニポンプが体液に接すると、浸透剤が半透過性膜で、所定レートで水分を吸収する。吸収された水分は、リザーバーに対して水圧として働き、この水圧によりフローモデレーターを介してリザーバー内のオキシトシンを所定流速で放出させる。浸透性ミニポンプの流速は、例えば固定されており、製造する際に決定できる。また、数時間の始動時間の後の流速は、ポンプ機能が止まるまで所定量で放出させる。
また、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬が注射液である場合、所定投与量、投与時間、投与回数により、血中オキシトシンの濃度が平均して所定濃度となるように調整された注射液を用いる。
ここで、本実施形態のオキシトシンの所定投与量としては、腹腔内に400μg/kg単回投与すると、摂食量が6時間は確実に抑制されることが分かっている(図1A参照)ため、下限として好適である。また、1日24時間としたときに、400μg/kgの4倍のdoseの所定投与量として、1600μg/kg/日に設定することが好適である。また、後述する実施例のように、800μg/kg/日でも、充分な体重抑制効果が得られる。
さらに、後述する実施例のように、1600μg/kg/日の投与を14日続けることで10%前後の体重減少が肥満動物で充分見られる。このため、2000μg/kg/日が程度を所定投与量の上限とすることが好適である。
実際のところ、オキシトシンの腹腔内投与が濃度依存性に摂食抑制を誘発するためには、2つの経路を推測することができる。この2つの経路としては、(1)視床下部弓状核の血液脳関門(BBB)経路、及び(2)迷走神経の求心経路が考えられる。視床下部弓状核は、血液脳関門に入り込むホルモンを含む末梢信号を感じる一次センターと考えられている。実際、末梢投与されたペプチドの0.002%が中枢神経系に達することが知られている(Mens WB, Witter A, Van Wismersma Graidanus TB、「Penetration of neurophyseal hormones from plasma into cerebrospinal fluid (CSF): half−times of disappearance of these neuropeptides from CSF.」、Brain Res.、、、1983、262、、p.143−149、を参照)。
本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬に上述の腹腔内オキシトシン投与において、上述の所定投与量を用いることで、求心性迷走神経軸索が投射する孤束核のc−Fosの顕著な発現を誘発することができる。
したがって、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、オキシトシンの末梢投与により、血液脳関門−視床下部弓状核及び/又は求心性迷走神経ルートを経由して、食欲抑制を誘発するよう構成する。
まず、従来より、中枢セロトニン・ノルアドレナリン・カンナビノイド系に作動する食欲抑制薬が開発され臨床使用されている。
その多くが、肺高血圧症、心弁膜症等などの循環系の障害、うつ病や自殺者の増加を起したために中止されている。実際、日本で唯一、臨床使用可能な食欲抑制薬であるマジンドールは、ノルアドレナリン系作動薬であるため副作用があり、重度肥満に短期間使用が許可されているのみで、抗肥満効果は限定的であった。
このように、脳の神経伝達に作用する物質は重篤な副作用を伴っており、これは従来技術1の薬学的組成物も同様であった。
実際に、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、後述する実施例を所定投与量でオキシトシンを投与することで、マウスの自発運動量に変化が見られなかった。これにより、精神活動に悪影響を及ぼす可能性が低いと考えられる。つまり、鬱状態や吐き気等の副作用もないことが推測される。実際に、近年、オキシトシンの中枢作用として、信頼形成・自閉症改善作用が明らかになっており、本実施形態の所定投与量で所定期間投与しても、鬱や自殺を引き起こす可能性は考えにくい。
さらに、オキシトシンの日々の皮下注射で体重を低減させる効果は、オキシトシン注射の終了の後に9日〜2週間程度続いており、投与後も継続する効果があることを示唆している。
これに対して、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、浸透圧ミニポンプ等を用いた皮下投与で時間をかけて拡散させることにより、急激に高濃度に達することを避けることができる。
実際に、下記の実施例によると、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、副作用として問題となる血圧に変化を及ぼさなかった。つまり、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、抗肥満結果が得られた1,600μg/kg/日のオキシトシン投与においては、安全性の指標である、収縮期血圧の正常レベルに影響を与えなかった。
さらに、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬による、所定投与量のオキシトシン投与は、交感神経性活動、心不全、心筋梗塞、狭心症、ストレスレベル等に関連する尿中カテコールアミン(図示せず)のレベルも有意に変化させなかった。
これにより、本発明の実施の形態に係る肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、急性の有害な副作用を避けることができ、さらに安全性が高まる。よって、安全な食欲抑制剤として用いることが可能である。また、皮下投与はドラッグデリバリーのための有用な方法であり、患者の負担が少ないという効果も得られる。
具体的には、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、自発運動量(後述する実施例の図4EおよびF)を著しく変えずに、特にマウスで明期(図4AおよびB)の呼吸商(Respiratory quotient、RQ)を減少させ、脂肪消費亢進を示した。この際、コントロール群とオキシトシン投与群(図示せず)間で明期の摂食量は異なっていなかったことから呼吸商の低下は、摂食量の変化に起因しないことが示唆されている。
これらの結果は、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬が、浸透圧ミニポンプ等を用いて所定投与量で皮下投与することで、エネルギー基質として脂肪の消費を促進することを示す。
つまり、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、中枢神経系の食欲抑制効果に加え、脂肪組織に分布した交感神経を賦活する効果、及び脂肪細胞に対する直接の刺激等を含む多数の機構により、末梢オキシトシン投与により、脂肪量を減らすことができる。
脂肪肝はグルコースと脂質代謝を阻害し、それによって、2型糖尿病、メタボリック症候群及び心疾患を促進し、また肝硬変及び肝癌のリスクを増加させる。
このため、肝臓での脂肪蓄積の抑制は肥満・メタボリックシンドロームの治療において、重要である。末梢オキシトシン投与は肝細胞への直接または中枢を介した間接的作用により肝臓脂肪を分解または蓄積阻害すると考えられる。
これにより、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、糖尿病等の治療剤にも用いることができる。
実際、迷走神経のコリン作動性ニューロンは、インスリン分泌を促進することが知られている。このため、オキシトシンは、後述した実施例に示したように、膵β細胞に神経を分布させる迷走神経のコリン作動性ニューロンを活性化させることで、マウスの膵β細胞からのインスリン放出を刺激すると考えられる。
しかも、これらの変化は、このモデルマウスの正常血圧レベルを変えずに、脂肪肝の改善及び耐糖能障害の改善を行うことができる。
すなわち、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、充分安定した抗肥満効果があり、肥満・メタボリックシンドロームに関わる摂食亢進症、内臓の肥満、脂肪肝及び耐糖能障害のすべてを改善することができる。
また、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、長期末梢オキシトシン投与により、肥満、摂食亢進症及び2型糖尿病の患者自体を治療することもできる。
このキャリアとしては、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン等の生体親和性材料を含んでもよい。あるいはまた、種々の乳濁液であってもよい。
さらには、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤などから選択される1または2以上の製剤用添加物を含有させてもよい。
本発明の実施の形態に係る医薬組成物の投与経路は、特に限定されないが、非経口的に投与することが好ましい。
非経口投与としては、例えば、経皮、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内または腹腔内の投与が挙げられる。この際、1日〜数日毎の末梢/脳内注射、又は皮下投与を用いることが好適である。特に、上述したような浸透圧ミニポンプのインプラントを用いることが好適である。
投与回数および期間は、1日1回約2〜4週間程度投与して状態をモニターし、その状態により再度あるいは繰り返し投与を行う。
この脊椎動物は特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物を含む。
このため、本発明の実施の形態に係る肥満・メタボリックシンドローム治療薬は、広く動物の治療、家畜の発育等の対象とすることができる。
また、疾病の予防や健康増進のため、健康食品のような食物、動物用の飼料、又は食餌に含ませることもできる。
このような他の組成物として、例えば、Cholecystokinin(CCK)やCCKの部分ペプチドで活性領域であるCCK−8や、これのアゴニスト/アンタゴニストを用いることができる。
CCK/CCK−8の末梢投与も、求心性迷走神経を介して食欲抑制を誘発することが可能である。後述する実施例で示すように、CCK−8投与は、本発明の末梢のオキシトシン注射によって活性化された脳領域と同じ孤束核、最後野、青斑核、及び室傍核のc−Fos発現を誘発するため、本実施形態の肥満・メタボリックシンドローム治療薬の効果を増強するのに用いることが可能である。
また、GLP−1(Glucagon−like peptide−1)は、食後に腸から分泌されインスリン分泌促進作用を持つインクレチンホルモンの代表であり、そのアゴニスト及び分解酵素阻害剤が最近2型糖尿病治療薬として発売され、体重増加を起さない糖尿病治療薬として注目されている。その背後に摂食抑制作用があると推察されている。さらにその作用が迷走神経求心路を介することも明らかにされている。このため、GLP−1のアゴニスト及び分解酵素阻害剤を他の組成物として用いることもできる。
さらに、末梢投与Nesfatin−1も迷走神経求心路を介して摂食を抑制することを本発明者らは明らかにしているため、これも他の組成物として用いることもできる。
オキシトシンと、これらの他の組成物を同時に投与することで、使用濃度を低下させることができ、副作用を起こさない投与量で有効な摂食抑制効果を得ることが可能になると期待される。
つまり、求心性迷走神経オキシトシン受容体に対する高感受性アゴニストを開発し、より副作用の少ない安全な肥満・メタボリックシンドローム治療薬として用いることができる。
以下で、本発明の実施の形態に係る治療用組成物について、具体的な実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
(動物)
6週齢オスマウス(C57BL/6J:日本エスエルシー株式会社)を使用し、これらのマウスを12時間の明期/暗期周期で飼育した。
マウスは、8週間、水、及び標準食(Srandard Diet)若しくは高脂肪食(High Fat Diet: HFD)を自由摂取条件下で飼育した。標準食は、CE−2(日本クレア株式会社製)を用いた。また、高脂肪食は、HFD32(食餌中脂肪重量32%:日本クレア株式会社製)を用いた。
また、動物の実験手順及び処理は、自治医科大学の動物倫理委員会の規定に従って実行した。
動物は暗期の2時間前から絶食し、暗期の始めに、オキシトシンを200若しくは400μg/10ml/kgを腹腔内(IP)、又は1,600μg/5ml/kgを皮下投与した。この投与用オキシトシンは、株式会社ペプチド研究所製のオキシトシンを用いた。
その際、0.5時間、1時間、2時間、3時間、及び6時間経過時の累積摂食量を測定した。
vehicleとして、滅菌した生理的食塩水(0.9%NaCl)を使用した。
オキシトシン投与群は、HFD誘発肥満マウス(DIOマウス、体重43.9±0.8g)に、17日間にわたり、暗期の2時間前に、皮下にvehicle又は投与量1,600μg/5ml/kgのオキシトシンを投与した。1600μg/kg/dayに設定した理由としては、400μg/kgの腹腔内単回投与で、摂食量が6時間は確実に抑制されていたため、1日を24時間としたときにその4倍のdoseを設定した。
コントロール群は、17日間、vehicleのみ投与した。
その後10日間、両群の動物はvehicleを投与した。体重と摂食量は毎日の皮下投与の際、同時間に測定した。
上述したように、DIOマウス(体重35.5±0.8g)に、浸透圧ミニポンプ(Alzet社製、Alzet mini−osmotic pump モデル2002)を使用して、14日間、生理的食塩水又は1,600μg/kg/日のオキシトシンを皮下投与した。投与開始後14日目に、コントロール群(Cont)及びオキシトシン投与群(Oxt)の肝臓、腸間膜、及び精巣周囲脂肪重量を測定した。これらの組織断片を4%のパラホルムアルデヒドに浸漬、固定し、パラフィンに包埋した。
5μmのパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリンとエオシンで染色した。脂肪細胞のサイズ(相対面積)は、NIHイメージ・ソフトウェア(イメージJ 1.44p、米国国立保健研究所NIH製)によって測定した。
オキシトシン(400μg/kg)の腹腔内投与の90分後に、4%パラホルムアルデヒドにより灌流固定した。
120μm間隔での前額断切片を作成しc−Fos免疫染色に供試した。
抗体はウサギ抗c−Fos (sc−52: Santacruz CA)を1:5000の希釈倍率で使用した。
マウスの呼吸商(RQ)及びエネルギー消費量(Energy expenditure、EE)は、オキシマックス(Colombus Instrument社製)を使用して、間接熱量測定法によって測定した。
DIOマウスを、オキシトシン投与開始9〜14日目に、HFDと水に自由摂取の条件下で、アクリル製のカロリーメータチャンバーにそれぞれ入れ、20〜24時間チャンバーに馴化させた後測定を開始した。0.6L/minの空気流量下で、VO2とVCO2は1つのチャンバーにつき1分の測定を5分毎、24時間測定した。呼吸商(RQ)は 1分あたりのVCO2/O2 により計算し、
エネルギー消費量(EE)は、
EE = (3.85 + 1.232 × RQ) × VO2
として計算した。
自発運動量(Locomotor Activity)は、個々のマウスを入れたカロリーメータチャンバーに設置したマウス用運動量測定装置(ACTIMO−100、株式会社シンファクトリー製)を使用して、XおよびY方向の両方の赤外線ビームを遮った数によって推定した。
糖負荷試験(GTT)については、4時間絶食させたDIOマウスに、グルコース(2g/kg)を腹腔内投与した。
インスリン負荷試験(ITT)については、4時間絶食させたDIOマウスに、ヒトインスリン(1 IU/kg)を腹腔内投与した。
血糖値はGlucocard(アークレイ株式会社製)により測定した。
糖負荷試験は、オキシトシン投与後7日目に、インスリン負荷試験は11日目に行った。
収縮期血圧の測定は、MK−2000ST(室町機械株式会社製)を用いて、Tail−Cuff法により測定した。マウスを測定に馴化させるために、マウスにオキシトシン投与開始5日前から血圧測定を開始した。
収縮期血圧は、オキシトシン投与手術から完全に回復したと考えられる8日目からデータとした。5回測定した平均値をデータとした。
2群間の平均値の差の統計解析は、対応のないt−検定により行った。多群間の平均値の差の統計解析は一元配置分散分析により行った。
Averin麻酔下(tribromoethanol 200mg/kg、腹腔内注射)のC57BL6/J(雄性)に対して、カプサイシン(capsaicin、50mg/kg and 75 mg/kg containing 10% ethanol and 10% Tween80 in saline)を、低用量から順に1日おきに皮下投与した。
さらに1日おいて、カプサイシン(5mg/kg)を無麻酔下で腹腔投与した。2日間以上回復させた後、2週間以内に実験を行った。
Averin麻酔下(tribromoethanol 200 mg/kg、腹腔内注射)のC57BL6/J(雄性)の腹部を、正中線に沿って開腹した。食道を露出するために臓器を左右に移動させ、食道と平行して走行する迷走神経束を同定し、この周囲の組織から露出後、神経束を切断した。
位置を移動させた臓器を元に位置に戻し、開腹部を縫合した。この迷走神経束を露出までし、切断しなかった動物を偽手術群(Sham群)とした。
術後は液体食(乳幼児用粉ミルク)と水を自由摂取させ、一週間以上回復期間を与え、その後実験を行った。
雄性ICRマウスのNGを摘出、酵素処理(Collagenase/Dispase)により単一細胞を調製し、FBS、抗生物質含有MEM培地で一晩培養した。灌流下にfura−2蛍光画像解析により[Ca2+]iをリアルタイム計測し、ホルモン添加の作用を調べた。
蛍光は画像カメラ(ICCD(インテンシファイア付電荷結合素子)カメラ又はCCDカメラ)により検出された。また、レシオ(比)・イメージは、蛍光画像解析装置であるARGUS−50システム又はAquacosmosシステム(浜松ホトニクス社製、浜松、日本)を用いて取得した。
細胞は、340及び380nmで交互に12.0秒ごとに励起され、510nm蛍光はICCDカメラ又はCCDカメラにより検出された。
また、レシオ(F340/F380)イメージはARGUS−50あるいはAquacosmosシステムで取得した。
データは従来に報告された手順により、形態学的及び生理学的なニューロン判定基準を満たす細胞から得られた。
薬剤に応じた[Ca2+]i増加のピーク振幅が、自発的な変動の2倍以上だった場合、それらは[Ca2+]i応答であるとした。
薬剤に応じた[Ca2+]i増加の振幅は、ピーク[Ca2+]iレシオから刺激前の基準となる[Ca2+]iレシオを引くことにより計算された。
阻害剤の影響を調査する実験では、刺激性の薬剤に誘発された[Ca2+]i増加の振幅が30%以上阻害剤で抑えられた場合、抑制と判定した。
(オキシトシンの腹腔内投与による摂食量抑制及び視床下部のc−Fos発現)
まず、図1A〜Fを参照して、オキシトシンの腹腔内投与の実験について説明する。
オキシトシンの腹腔内投与は摂食量を抑制し、c−Fosを視床下部と脳幹において発現させる。c−Fosの発現は、神経興奮のマーカーとしてよく用いられている。つまり、オキシトシンの腹腔内投与は、視床下部および脳幹のニューロンを活性化し、摂食量を抑制する。
オキシトシン(200μg/kg及び400μg/kg)の腹腔内投与は、コントロール(図1A)と比較して、1〜6時間の摂食量を有意に抑制した。
なお、図1Eにおいて、図中のCCは中心管(central canal)を示す。
室傍核、青斑核、孤束核、迷走神経背側運動核、最後野において、顕著にc−Fosの発現が増加していることが分かる。
対照的に、視交叉上核(suprachiasmatic nucleus、SCN)、視索上核(supraoptic nucleus、SON)、背内側核(dorsomedial hypothalamic nucleus、DMH)および腹内側核(ventromedial hypothalamic nucleus、VMH)にはオキシトシン投与によりc−Fos発現は増加しなかった。
次に、図2A〜図2Dを参照して、オキシトシンを毎日繰り返し皮下投与した際の、摂食量と体重の変化ついて説明する。
図2A及び図2Bは、標準食マウス(図2A)及びDIOマウス(図2B)にオキシトシンを1,600μg/kgの投与量で単回皮下投与した際の、1、2、3、6、24時間(横軸)の累積的な摂食量(縦軸)を示すグラフである。オキシトシン投与群及びコントロール群はそれぞれn=5である。結論として、単回のオキシトシン(1,600μg/kg)皮下投与は、標準食を与えたマウス(図2A)及びHFDを与えたマウス(図2B)の両方の摂食量を有意に抑制した。
図2C及び図2Dは、DIOマウスにおいて、一日に一回の皮下オキシトシン投与(1,600μg/kg)した際の、日々の摂食量(図2C)及び体重変化量(図2D)を示すグラフである。図2Cおよび図2Dのそれぞれのグラフで、横軸は投与開始からの日数、縦軸は摂食量(g)を示す。また、灰色のエリアは、投与開始から1日〜17日目のオキシトシン投与期間を示す。また、オキシトシン皮下投与は17日目でまでとし18日目からvehicleのみを投与した。
図2Cによると、オキシトシン(1,600μg/kg)を、17日間、毎日、皮下投与したところ、DIOマウスで最初の6日(図2C)まで、摂食量を減少させた。6日目以降の摂食量においてコントロールとオキシトシンのグループ間に有意差はなかった。
図2Dによると、体重変化量は、オキシトシンを投与開始してから9日目まで減少した。オキシトシン投与を中止した17日目に、体重変化量は−1.6(±0.4)gで、投与日(0日目)の体重の−3.6%に匹敵した。体重変化量の減少は、オキシトシン投与期間には、コントロールのレベルには回復しなかった。体重変化量の顕著な減少は、9日目から26日目まで継続して観察された。
次に、図3A〜図3Nを参照して、浸透圧ミニポンプによって長期オキシトシン投与(1,600μg/kg/日)をした際の、DIOマウスの、体重および摂食量と内臓脂肪の測定について説明する。
図3Aは、浸透圧ミニポンプによるオキシトシン(1,600μg/kg/日)投与後の体重変化量を示す。横軸はオキシトシン投与開始からの日数、縦軸は体重変化量(g)を示す。結論として、浸透圧ミニポンプによる長期オキシトシン投与(1,600μg/kg/日)は、DIOマウスで、有意な体重変化量の減少につながった。また、浸透圧ミニポンプをインプラントした最初の2日間に、体重変化量の急激な低下が検出された。オキシトシン投与群の13日目の体重変化量は−4.6(±1.2)gであり、これはオキシトシン投与群の0日目の体重の−13%に匹敵した。
図3Bは、図3Aにおける日々の摂食量を示すグラフである。横軸はオキシトシン投与開始からの日数、縦軸は摂食量(g)を示す。
図3Cは、図3Bから計算された累積的な1〜6日の摂食量である。白いバーはコントロール群、黒いバーはオキシトシン投与群を示す。縦軸は、累積的な1〜6日の摂食量(g)を示す。最初の6日間の摂食量は、有意に減少した。
結論として、長期にわたるオキシトシン投与は、体重変化量、摂食量、を有意に減少させた。
図3H〜図3Iは、各群のマウスの、精巣周囲脂肪の湿重量(g)(図3H)、脂肪細胞の相対面積(%)(図3I)を示す。また、図3J〜図3Kは、コントロール群(図3J)および、オキシトシン投与群の精巣周囲脂肪組織の顕微鏡写真(図3K)である。
図3Lは、各群のマウスの肝臓の脂肪の湿重量(図3L)を示す。また、図3M〜図3Nは、コントロール群(図3M)および、オキシトシン投与群の肝臓組織の顕微鏡写真(図3N)を示す。
図3A〜図3Nのそれぞれのグラフで、白いバーはコントロール群、黒いバーはオキシトシン投与群を示す。
図3A〜図3Nの顕微鏡写真の目盛バーは50μmを示す。これらの結果によると、オキシトシン投与により腸間膜脂肪(図3D〜図3G)及び精巣周囲脂肪(図3H〜図3K)の湿重量及び脂肪組織の相対面積、脂肪細胞サイズが有意に減少した。さらに、肝臓細胞に蓄積する脂肪含量が有意に減少し、脂肪肝の顕著な改善が観察された(図3L〜図3N)。
次に、図4A〜図4Iを参照して、浸透圧ミニポンプによる長期オキシトシン投与時の脂肪の消費と耐糖能への影響について説明する。
エネルギー消費およびその基質利用に対するオキシトシンの影響を同定するため、投与後7〜11日目における、呼吸商(図4A、図4B)、エネルギー消費量(図4C、図4D)および自発運動量(図4E、図4F)を調べた。結論として、長期オキシトシン投与は、脂肪の消費を促進することが明らかになった。
図4Bは、図4Aの明期と暗期における呼吸商の平均を示す。白いバーはコントロール群、黒いバーはオキシトシン投与群を示す。また、「Light」は明期を示し、「Dark」は暗期を示す。
結果として、呼吸商は、オキシトシン投与グループ(図4A、図4B)で、明期特異的に有意に減少した。つまりオキシトシン投与によりエネルギー基質として脂肪の利用が増加した。
図4Dは、図4Cにおいて、明期と暗期のエネルギー消費量の平均を示す。白いバーはコントロール群、黒いバーはオキシトシン投与群を示す。また、「Light」は明期を示し、「Dark」は暗期を示す。
コントロールとオキシトシン投与グループ間のエネルギー消費量の平均値に明期、暗期ともに有意な差はなかった(図4D)が、オキシトシン投与グループのいくつかの測定ポイントでわずかに増加した(図4C)。
図4Fは、明期と暗期の累積自発運動量(count)の平均を示す。白いバーはコントロール群、黒いバーはオキシトシン投与群を示す。また、「Light」は明期を示し、「Dark」は暗期を示す。
コントロールとオキシトシンの投与グループ間の自発運動量に差異はなかった(図4E、図4F)。
空腹時血糖はコントロールとオキシトシンの投与グループ間で差はなかった。しかしながら、オキシトシン投与群のマウスは、ブドウ糖腹腔内投与15分後の血糖上昇が、コントロール群と比較して抑制されており、耐糖能改善作用を示した。
図4Hの各計測点で、血糖値は、コントロール群とオキシトシンの投与群間で差はなかった。
図4Iは、この正常血圧に対する持続的なオキシトシン投与の影響を検討するために、オキシトシン投与後8〜12日間の5日間の収縮期血圧を測定した結果を示す。横軸は、オキシトシン投与後の日数(日)、縦軸は血圧(mmHg)である。
DIOマウスの血圧は正常値を示した。
これら5日間の測定において、コントロールとオキシトシンの投与グループの間で、血圧(図4I)レベルと心拍数(図示せず)の差はなかった。
また、オキシトシンの腹腔内投与の後にc−Fosタンパク質は、室傍核(PVN)、孤束核(NTS)及び弓状核を含むいくつかの脳領域に分布した。
このように、オキシトシンの腹腔内投与により、正常又は食物誘発された食餌性肥満(Diet Induced Obesity)マウスの摂食行動が抑制された。具体的には、17日間、食餌性肥満マウスのオキシトシンを皮下投与したところ、摂食量と体重を減少させた。浸透圧ミニポンプによる13日の長期オキシトシン処理では、摂食量を減少させ、体重を13%減少させた。
さらに、オキシトシンは腸間膜及び精巣周囲脂肪の組織量及びサイズを減少させた。
その上に、オキシトシンは、食餌性肥満マウスの脂肪肝及び耐糖能を改善した。また、オキシトシンは呼吸商を減少させて、わずかにエネルギー消費を増加させた。
しかし、オキシトシン処理は自発運動と血圧には、影響しなかった。
これらの結果は、オキシトシン処理されたマウスの腹部脂肪量の減少は、摂食量の減少とエネルギー基質としての脂肪消費の亢進に起因すると考えられる。
よって、末梢のオキシトシン治療はヒト肥満の治療のための有用な治療の手法でありえる。
次に、図5A〜図5Dを参照して、オキシトシン投与マウスの摂食量に関する影響の結果について説明する。
図5Aは、オキシトシン投与後の摂食量の測定を示すグラフである。図5Aの実験では、標準食で飼育し、実験当日17:30から絶食させた正常マウスに対して、200又は400μg/kgのオキシトシンを、暗期開始時の19:30に末梢(腹腔内)投与し、その後の摂食量を測定した。白いバーは、コントロール(生理的食塩水)投与群の結果を示す。灰色のバーは、200μg/kgのオキシトシン投与群の結果を示す。黒色のバーは、400μg/kgのオキシトシン投与群を示す。図5Aでは、0.5、1、3、6、24時間後の節食量(g)を測定した。
結果として、オキシトシンの末梢投与は、200又は400μg/kgの両容量に対して、6時間まで有意に摂食量を抑制させた。
結果として、カプサイシン全身処理によるカプサイシン感受性感覚神経障害マウスに対しては、200μg/kgの腹腔内投与群で、オキシトシン末梢投与による摂食抑制効果は完全に消失した。400μg/kgオキシトシン腹腔内投与群の摂食抑制効果については、1時間までは完全に消失したが、投与後3時間、6時間の摂食抑制効果は観察された。
従って、末梢オキシトシン投与により、求心性迷走神経が含まれるカプサイシン感受性感覚神経を介して摂食を抑制可能であることが示唆された。
図5CのSham群は、実験前日の18:00から16時間絶食させた条件下においても、200μg/kgのオキシトシンの末梢投与によって1時間まで強い摂食抑制効果が観察された。
一方で、図5Dの迷走神経切断マウスでは、オキシトシン投与による摂食抑制効果は消失した。
従って、末梢オキシトシンは迷走神経を介して摂食を抑制することが示された。
次に、図6A〜図6Dを参照して、オキシトシン末梢投与による摂食抑制効果に対する作用機構について説明する。
ここでは、末梢オキシトシンの摂食抑制に求心性迷走神経が関与することから、オキシトシンの求心性迷走神経への直接作用を検証した。
図6Bは、同様に、10-9M、10-8M、10-7Mのオキシトシンと、55mMのKClを投与した際の[Ca2+]iのグラフである。
図6A、図6Bとも、横軸は時間(分)を示し、縦軸は[Ca2+]i変化を示す。
オキシトシンは単離ニューロンの[Ca2+]iを濃度依存的に増加させた。
図6Dは、オキシトシンの濃度と各単離ニューロンの[Ca2+]i変化量(振幅)を示すグラフである。横軸は、オキシトシンの対数濃度(M)を示す。結果として、オキシトシンは、濃度依存的に、[Ca2+]iの変化量(振幅)も増加させた。
従って、オキシトシンは、直接迷走神経細胞に作用し、神経活性化の指標である[Ca2+]iを濃度依存的に上昇させることが明らかとなった。
次に、図7A〜図7Cを参照して、オキシトシンによる単離ニューロンの[Ca2+]i上昇における、オキシトシン受容体の関与を調べた。近年、単離ニューロンにはオキシトシン受容体が発現していることが報告された(M.G.Welch et al.、、J. Comp. Neurol.、、、2009、vol.512、p.256〜を参照)。
図7Aは、10-8Mのオキシトシンの2回連続投与における、[Ca2+]i変化のグラフである。S1は最初の投与を示し、S2は2回目の投与を示す。また、横軸は時間(分)を示す。
結果として、オキシトシンの2回連続投与では、ほぼ等しい[Ca2+]i上昇が生じた。
具体的に、最初の10-8Mのオキシトシン投与による刺激の際だけ、10-7MのH4928を前投与した。この結果、オキシトシン受容体アンタゴニストH4928存在下でのオキシトシン誘発[Ca2+]i上昇は、アンタゴニスト非存在下での[Ca2+]i上昇と比較して顕著に抑制された。
縦軸は、2回目のオキシトシン誘発の[Ca2+]i増加量を100%としたときの、1回目のオキシトシン誘発[Ca2+]i増加量を%で示した。また、図7Aの結果を左側のグラフに、図7Bの結果を右側のグラフに示した。
オキシトシン受容体アンタゴニスト存在下のオキシトシン誘発[Ca2+]i上昇は、非存在下と比較して統計的に有意に減少した。
従って、単離ニューロンにおけるオキシトシン誘発[Ca2+]i上昇は、オキシトシン受容体を介していることが明らかとなった。
次に、図8A〜図8Cを参照して、オキシトシン、Cholecystokinin(CCK)、及びカプサイシン(capsaicin、CAP)反応ニューロンとの関係を調べた。
従来の研究より、求心性迷走神経に作用して摂食を抑制する末梢因子としてCholecystokininが明らかとなっている。また、上述の結果から、オキシトシン誘発摂食抑制効果はカプサイシン全身処理マウスで消失したことより、カプサイシン感受性感覚神経の関与が示唆された。さらに、近年、本発明者らは、新規摂食抑制ペプチドNesfatin−1の末梢投与が摂食を抑制し、この効果はカプサイシン全身処置マウスで完全に消失することを報告している(H. Shimizu et al.、、Peptides、、2009、Vol30、、p.995−998を参照)。また、本発明者らは、Nesfatin−1が求心性迷走神経の単離ニューロンを直接活性化することを報告している(Y. Iwasaki et al.、、Biochem. Biophys. Res. Commun.、、2009、Vol390、、p.958−962を参照)。従って、オキシトシンによって活性化する求心性迷走神経の単離ニューロンと、CCKの部分ペプチドで活性領域であるCCK−8、カプサイシン、Nesfatin−1によって活性化される単離ニューロンが重複するのか、別々で異なるのか、その反応性の分布を検証した。
図8Bは、図8Aと同様の濃度と順番でオキシトシン(Oxt)、CCK−8、カプサイシン(CAP)投与により応答した各単離ニューロンの割合(%)を示したグラフである。
図8Cは、オキシトシン、CCK−8、カプサイシンで応答する単離ニューロンの反応の組み合わせを図で示した。オキシトシンに応答する単離ニューロンの93%がCCK−8に応答し、98%がカプサイシンに応答することが明らかとなった。
従って、オキシトシン誘発の摂食抑制機構は、CCK誘発摂食抑制機構と一部共通している可能性が示された。
図9Bは、Nesf−1及びオキシトシン(Oxt)投与により応答した各単離ニューロンの割合(%)を示すグラフである。
図9Cは、Nesf−1及びオキシトシン(Oxt)で応答する単離ニューロンの反応組み合わせを図で示した。Nesf−1に応答する単離ニューロンは全てオキシトシンに応答することが明らかとなった。
現在、Nesf−1の迷走神経求心路を介した摂食抑制の神経科学的機構も不明である段階であるが、Nesf−1応答単離ニューロンの全てがオキシトシンによっても活性化することより、オキシトシン誘発摂食抑制機構と、Nesf−1誘発摂食抑制機構は一部共通している可能性が示唆された。
さらに、末梢オキシトシンは、求心性迷走神経を介して摂食を抑制することを明らかとした。
また、末梢オキシトシンは、求心性迷走神経の投射先である延髄弧束核に、神経活性化マーカータンパクのc−Fosの発現を誘導することを明らかとした。
また、オキシトシンによって活性化される単離ニューロンは、CCKやNesf−1によっても活性化されることより、求心性迷走神経を介したオキシトシン誘発摂食抑制機構は、CCKやNesf−1の摂食抑制機構と共通である可能性が示唆された。
図10を参照すると、結論として、血液脳関門−視床下部弓状核経由に加え、求心性迷走神経経由でオキシトシンの末梢投与が食欲抑制を誘発すると考えられる。
図11を参照して、上述の実施例と同様に、連続的オキシトシン投与(1回/日)による体重の測定の際、濃度を変化させた結果について説明する。図11では、800μg/kg/日のオキシトシン(n=3)、1600μg/kg/日(n=3)、及びvehicleのみ与えたコントロール(n=4)のデータを示す。横軸は、2010/07/09を浸透性ミニポンプの埋め込み日とした測定日を示し、縦軸は体重(g)を示す。なお、左端の体重は、浸透性ミニポンプの埋め込み前の体重である。
このように、800μg/kg/dayでも同等の体重減少作用はあった。
Claims (13)
- 所定投与量の末梢投与用のオキシトシンにより、血液脳関門−視床下部弓状核経由及び/又は求心性迷走神経経由で所定期間、刺激して摂食抑制させるよう構成され、
前記血液脳関門−視床下部弓状核経由では、視床下部の弓状核及び室傍核を活性化し、
前記求心性迷走神経経由では、オキシトシン受容体を介して前記求心性迷走神経を直接活性化し、当該求心性迷走神経経由の情報伝達の結果により、脳幹の孤束核、迷走神経背側核複合体、及び青斑核におけるc−Fos発現を誘発し、
前記所定投与量は、400μg/kg/日〜2000μg/kg/日である
ことを特徴とする求心性迷走神経活性化剤。 - 前記所定投与量は、800μg/kg/日〜2000μg/kg/日である
ことを特徴とする請求項1に記載の求心性迷走神経活性化剤。 - 前記所定投与量は、1600μg/kg/日〜2000μg/kg/日である
ことを特徴とする請求項1に記載の求心性迷走神経活性化剤。 - 収縮期血圧の正常レベルに影響を与えない
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤。 - 前記所定期間の投与後にも1ヶ月〜数ヶ月間、摂食抑制の効果を持続させる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤。 - 精神活動に悪影響を及ぼさない
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤。 - 浸透性ミニポンプ又は皮下投与を用いる
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤。 - 前記所定期間は、前記所定投与量を10日〜1ヶ月間維持する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤。 - 請求項1乃至8のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤を用いる
ことを特徴とする食欲抑制剤。 - 請求項1乃至8のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤を用い、
呼吸商の低下、及び脂肪細胞肥大化抑制を含む機構により、内蔵脂肪量を減らす
ことを特徴とする脂肪消費促進剤。 - 請求項1乃至8のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤を用い、
呼吸商の低下、及び脂肪細胞肥大化抑制を含む機構により、内蔵脂肪量を減らす
ことを特徴とする脂肪肝治療剤。 - 請求項1乃至8のいずれか1項に記載の求心性迷走神経活性化剤を用い、
インスリン分泌を促進する
ことを特徴とする糖尿病治療剤。 - 所定投与量と所定期間でオキシトシンを末梢投与し、血液脳関門−視床下部弓状核経由及び/又は求心性迷走神経経由で、
前記血液脳関門−視床下部弓状核経由では、視床下部の弓状核及び室傍核を活性化し、
前記求心性迷走神経経由では、オキシトシン受容体を介して前記求心性迷走神経を直接活性化し、当該求心性迷走神経経由の情報伝達の結果により、脳幹の孤束核、迷走神経背側核複合体、及び青斑核におけるc−Fos発現を誘発することで摂食抑制させ、
前記所定投与量は、400μg/kg/日〜2000μg/kg/日である
ことを特徴とするヒトを除く家畜動物種及び野生動物の求心性迷走神経活性化方法。
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