(第一の実施の形態)
本発明の第一の実施の形態に係る連結車1を図1に示す。連結車1は、図1に示すように、牽引車2と被牽引車3とがカプラ4を介して連結された車両である。牽引車2は、不図示のエンジンを運転室下部に搭載し、非駆動輪である前輪5を有し、駆動輪である後輪6を牽引車シャーシ7に有する。被牽引車3は、2軸の車輪8,9を荷台としての被牽引車シャーシ10の後方に有し、被牽引車3の前方は、カプラ4を介して牽引車シャーシ7に脱着自在に接続されている。図1の例では、荷台としての被牽引車シャーシ10に、コンテナ13が積載されている。
本発明の実施の形態に係る重心位置推定装置11は、運転室に取り付けられており、少なくとも表示部(後述)は運転者が視認できる位置に取り付けられている。牽引車2の後輪6の付近には、エアサスペンション(以下では、エアサスと略して称する。)を構成するエアベローズ12が設けられている。エアベローズ12には、後述するエアタンクから空気が供給される。なお、図1の例では、前輪5は、不図示のリーフ式(板バネ式)のサスペンションを有する。図1に示した被牽引車3は、2軸(2組の被牽引車輪8,9を有する。)であるが3軸のものもある。なお、被牽引車3は、牽引車2に連結されていないときには、不図示のランディングギヤによって水平を保ち自立することができる。
以下の説明では、連結車1の左右に一対設けられている部材の符号(たとえばエアベローズ12など)については、進行方向の右側であればR(たとえばエアベローズ12R)、左側であればL(たとえばエアベローズ12L)をそれぞれ付与して説明する場合もある。
また、重心位置推定装置11は、運送業者側で、予め積み荷の状態を目視確認できない場合に有効である。よって、以下の説明では、運送業者が荷主の許可無しに積荷の状態を目視確認できないコンテナ13を積載することを主な業務とする連結車1を例示して説明する。しかしながら本発明の重心位置推定装置11は、連結車1以外の貨物車両においても適用することができ、本発明の適用範囲を連結車1に限定するものではない。
連結車1は、図2に示すように、連結車1のエアサスペンションを構成するエアベローズ12R,12Lには、エアタンク14からの空気圧がメインバルブ15またはサブバルブ16を介して供給される。メインバルブ15は、不図示の車両制御用のECU(Electric Control Unit)によって開閉制御されるものであり、従来から一般的に採用されているものである。たとえば牽引車シャーシ7に積荷が積載されるなどして車高が低くなると、ECUは、メインバルブ15を開状態にすることによって、エアベローズ12R,12L内に空気圧を供給して車高を元の状態に戻すように制御する。
一方、サブバルブ16は、本実施の形態で新規に採用されたものであり、重心位置推定装置11によって開閉制御が行われる。また、重心位置推定装置11は、メインバルブ15についても開閉制御を行うことができる。一例として、重心位置推定装置11が上述したECUに対してメインバルブ15の開閉を指示することによって重心位置推定装置11が間接的にメインバルブ15の開閉を制御することができる。
たとえば重心位置推定装置11がサブバルブ16を閉状態に制御しているときには、エアタンク14の空気圧は、分岐点B1を通って全てメインバルブ15に流入する。メインバルブ15に流入した空気圧は、分岐点B3,B4を通ってエアベローズ12R,12Lに供給される。これに対し、重心位置推定装置11がメインバルブ15およびサブバルブ16を開状態に制御しているときには、エアタンク14の空気圧は、分岐点B1で分岐されてメインバルブ15およびサブバルブ16の双方に流入する。メインバルブ15に流入した空気圧は、分岐点B3,B4を通ってエアベローズ12R,12Lに供給され、サブバルブ16に流入した空気圧は、分岐点B2で分岐され、その後、分岐点B3,B4を通ってエアベローズ12R,12Lに供給される。このようにメインバルブ15およびサブバルブ16が双方共に開状態のときには、エアベローズ12R,12Lには、メインバルブ15およびサブバルブ16の双方から同時に空気圧が供給されるので、メインバルブ15のみが開状態の場合と比べて、短時間にエアベローズ12R,12L内の空気圧を上昇させることができる。
重心位置推定装置11は、図3に示すように、表示部20、車高センサ21R,21L、圧力センサ22R,22L、および制御手段および受付手段としての重心位置推定部23により構成される。重心位置推定部23は、情報処理装置の一例であり、予めインストールされている所定のプログラムを情報処理装置が実行することによって、その情報処理装置に重心位置推定部23の機能が実現される。たとえば情報処理装置は、メモリ、CPU(Central Processing Unit)、入出力ポートなどを有する。情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、情報処理装置には、重心位置推定部23の機能が実現される。また、表示部20の表示制御機能など、その他の機能についてもソフトウェアにより実現可能な機能については情報処理装置とプログラムとによって実現することができる。なお、上述したCPUの代わりにASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などを用いてもよい。
表示部20は、不図示の表示制御部が含まれる。また、表示部20は、画像情報を表示するための画面24と音声情報を送出するためのスピーカ25とを有する。表示部20は、連結車1の運転に必要な様々な情報を表示する表示パネルの1つの機能として重心位置推定部23の重心位置の推定結果についても表示画面上に表示するものである。あるいは表示部20は、重心位置推定部23の重心位置の推定結果だけを表示する特化されたものであってもよい。なお、表示部20の画面24およびスピーカ25は、牽引車2の運転席の計器パネルなどに設置される。
車高センサ21R,21Lは、連結車1の左右の車高をそれぞれ検出するセンサである。なお、車高センサ21R,21Lが実際に測定する部分は、たとえば牽引車シャーシ7の車軸(後述する図4の符号30)とフレーム(後述する図4の符号31)との間の距離である。
圧力センサ22R,22Lは、牽引車シャーシ7のエアベローズ12R,12Lの空気圧を検出する。
重心位置推定部23は、後述する図5のフローチャートの処理を行うことにより被牽引車3にコンテナ13が積載された状態での連結車1の左右の重心位置を推定する。また、重心位置推定部23は、メインバルブ15およびサブバルブ16の開閉状態を制御することができる。重心位置推定部23には、車高センサ21R,21Lおよび圧力センサ22R,22Lの検出結果が入力されると共に、連結車1に設けられているCAN(Control Area Network)による通信を介して車速情報、ハンドルの操舵角情報、およびヨーレート情報などが不図示の各センサから伝達される。
図4は、連結車1の牽引車2の要部構成を示す図である。図4は、運転室やエンジンなどの部材の図示は省略し、参考までに、被牽引車3の被牽引車シャーシ10およびコンテナ13内の貨物50の状態を破線で示してある。また、図4は、牽引車2を後方から見た状態であり、後輪6R,6Lのみが図示されており、前輪5は、後輪6R,6Lに隠れて見えない状態である。よって、前輪5に関する構成部材の説明は省略する。
牽引車2は、図4に示すように、カプラ4、牽引車シャーシ7、エアベローズ12R,12L、車高センサ21R,21L、圧力センサ22R,22L、車軸30、フレーム31、およびシャーシ支持部32R,32Lを有する。また、符号40は重心位置を示すマークである。なお、このマークは説明のために図示したもので、車両そのものに付されているものではない。また、図4では、車軸30の上に、直接的に、エアベローズ12R,12Lおよび車高センサ21R,21Lが描かれているが、実際には不図示の車軸30の支持部材等の構造物の上にエアベローズ12R,12Lおよび車高センサ21R,21Lが設置されている。
エアベローズ12R,12Lは、牽引車2のエアサスペンションを構成し、牽引車2のカプラ4に被牽引車3が接続され、エアベローズ12R,12Lがその重さによって沈み込み、牽引車2の車高が下がったことを車高センサ21R,21Lが検出したときには、不図示のエアサスペンション制御機能(前述した車両制御用のECU)によって、エアベローズ12R,12L内の空気圧が調整され、所定の車高を保つように制御される。また、エアベローズ12R,12Lには、重心位置推定装置11の重心位置推定部23のメインバルブ15およびサブバルブ16の開閉制御によってもエアタンク14からの空気圧が供給される。
なお、エアベローズ12R,12Lは互いに連通しており、個々のエアベローズ12R,12Lの空気圧が個別に制御されるようにはなっていない。すなわち、いずれか一方のエアベローズ12Rまたは12Lに荷重が偏って沈み込むと他方のエアベローズ12Lまたは12Rに空気が移動して浮き上がる。これにより荷重の偏りの状態が牽引車2の車体の傾きに反映される。
次に、重心位置推定装置11の重心位置推定部23の動作について図5のフローチャートを参照しながら説明する。
STARTにおいて、運転者が連結車1のキーを操作するなどにより、連結車1の電気系統が作動を開始する。これにより重心位置推定装置11が起動され、重心位置推定部23を構成する情報処理装置は、予めインストールされているプログラムを実行し、その情報処理装置に重心位置推定部23の機能が実現されて、フローはステップS1に進む。
ステップS1において、重心位置推定部23は、連結車1(車両)が停車中であるか否かを車速(V)が0km/h(時速0キロメートル)であるか否かによって判定する。ステップS1において、連結車1が停車中であると判定されると、フローはステップS2に進む。一方、ステップS1において、連結車1が停車中ではないと判定されると、フローはステップS1を繰り返す。
ステップS2において、重心位置推定部23は、現在の荷重と1秒前の荷重との差が250kg以上か否かを判定する。ステップS2では、短期間(たとえば1秒以内)のうちに大きな荷重の変化(たとえば250kg)があることを検出することで、牽引車シャーシ7へのコンテナ13の積載の開始を検出する。ステップS2において、現在の荷重と1秒前の荷重との差が250kg以上であると判定されると、フローはステップS3に進む。一方、ステップS2において、現在の荷重と1秒前の荷重との差が250kg以上でないと判定されると、フローはステップS1に戻る。
ステップS3において、重心位置推定部23は、測定中画面の表示と音を発生させてフローはステップS4に進む。すなわちステップS3では、重心位置推定のための測定が開始された旨をユーザ(運転者)に伝達するために、画面24には測定中である旨を示す文字または絵もしくは写真などによる視覚表示を行い、同時に、スピーカ25には測定中である旨を示す音(「ピッ!」など)を送出する。
ステップS4において、重心位置推定部23は、現在を時刻A点に設定し、10秒前のロール角度をゼロ値として不図示のメモリに格納してフローはステップS5に進む。すなわちステップS4では、牽引車シャーシ7にコンテナ13の積載が開始された時点を時刻A点として設定し、牽引車シャーシ7に未だコンテナ13の積載が開始されていないときのロール角度が安定している時点(たとえば時刻A点の10秒前)のロール角度をゼロ値としてメモリに格納する。なお、重心位置推定部23は、稼働中には、ロール角度やその他の情報を不図示のメモリに記憶しているものとする。ただし、所定時間以上(たとえば1分以上)が経過した古い情報については新しい情報によって上書きされるようにしてもよい。
ステップS5において、重心位置推定部23は、車高が所定値以下であるか否かを判定する。ステップS5において、車高が所定値以下と判定されると、フローは、ステップS6に進む。一方、ステップS5において、車高が所定値よりも高いと判定されると、フローは、ステップS7に進む。なお、上述の車高の所定値は、連結車1の走行時に最適な車高として設定されている車高を標準車高とすれば、標準車高をたとえば数センチメートル(たとえば3cm)程度下回る車高である。
本フローの処理においては、連結車1への積荷の積載開始前と積載が終了してエアベローズ12内の空気圧が調整された後とでロール角度の差を算出することによって、重心位置の推定を行うが、この際に、積荷の積載開始前と積載終了後とで車高の条件を一致させておくことによって、連結車1のロール角度の測定精度を高くすることができる。よって、ステップS2で積荷の積載開始によって連結車1の車高は低下するが、ステップS5に続く、ステップS6またはステップS7のフローにおいて、積荷の積載開始前と積載終了後とで車高を一致させる処理を実施する。
なお、「START」の時点における連結車1にコンテナ13が積載されていない状態では、車高センサ21R,21Lの検出結果は、ほぼ均等であるのに対し、連結車1にコンテナ13が積載されると、車高センサ21R,21Lの検出結果は、左右で異なる場合がある。このような場合には、左右の車高センサ21R,21Lの検出結果の平均値をとって、これを車高とすればよい。
ステップS6において、重心位置推定部23は、メインバルブ15とサブバルブ16でエアベローズ12R,12Lに車高の所定値に達するまで空気圧を供給し、フローは、ステップS8に進む。
ステップS7において、重心位置推定部23は、メインバルブ15でエアベローズ12R,12Lに車高の所定値に達するまで空気圧を供給し、フローは、ステップS8に進む。
ここでステップS6またはS7において、メインバルブ15および/またはサブバルブ16で、エアベローズ12に供給する空気圧は、予め定められた空気圧まで一気に供給する。その後に、車高センサ21R,21Lの検出結果に基づいて車高を微調整する。これにより、素早く車高を所定の高さまで回復させることができる。なお、上述の予め定められた空気圧とは、たとえば連結車1の定積状態における空気圧である。このような空気圧の値は、事前の実験によって、連結車1を定積状態とすることによって取得できる。このようにして取得した空気圧の値は、重心位置推定部23のメモリ(不図示)に予め記憶させておき、ステップS6またはS7の処理を実施する際に、メモリから読み出して使用する。
ステップS8において、重心位置推定部23は、連結車1(車両)が停車中であるか否かを車速(V)が0km/hであるか否かによって判定する。ステップS8において、連結車1が停車中であると判定されると、フローはステップS9に進む。一方、ステップS8において、連結車1が停車中ではないと判定されると、フローはステップS17に進む。
ステップS9において、重心位置推定部23は、時刻A点から30秒以内でかつ現在の荷重と1秒前の荷重との差が250kg未満か否かを判定する。ステップS9では、短期間(たとえば1秒以内)のうちに大きな荷重の変化(たとえば250kg)が無いことを検出することで、牽引車シャーシ7へのコンテナ13の積載の終了を検出する。ステップS9において、現在の荷重と1秒前の荷重との差が250kg未満であると判定されると、フローはステップS10に進む。一方、ステップS9において、現在の荷重と1秒前の荷重との差が250kg未満でないと判定されると、フローはステップS11に進む。
ステップS10において、重心位置推定部23は、3秒後のロール角度を終値とし、この終値からメモリ(不図示)に格納されているゼロ値を減算してこれを計測値とし、フローはステップS13に進む。すなわち、ステップS10で牽引車シャーシ7へのコンテナ13の積載の終了を検出してから牽引車シャーシ7の揺れが収まる時間(たとえば3秒)を待ちロール角度の終値としている。
ステップS11において、重心位置推定部23は、ステップS4で時刻A点が設定されてから31秒以上が経過したか否かを判定する。ステップS11において、31秒以上が経過していると判定されると、フローはステップS12に進む。一方、ステップS11において、31秒以上が経過していないと判定されると、フローはステップS8に戻る。
ステップS12において、重心位置推定部23は、時刻A点の設定を解除して1周期分の処理を終了する(END)。
ステップS13において、重心位置推定部23は、ステップS10で計算された計測値が注意喚起閾値を超えているか否かを判定する。ステップS13において、計測値が注意喚起閾値を超えていると判定されると、フローはステップS14に進む。一方、ステップS13において、計測値が注意喚起閾値以下であると判定されると、フローはステップS15に進む。
ステップS14において、重心位置推定部23は、注意喚起画面の表示と音の送出を5秒程度継続させてフローはステップS16に進む。すなわちステップS14では、注意喚起に相当する重心の偏りが計算された旨をユーザ(運転者)に伝達するために、画面24には注意を喚起する文字または絵もしくは写真などによる視覚表示を行い、同時に、スピーカ25には注意を喚起する音(「ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!」など)を送出する。
ステップS15において、重心位置推定部23は、通常の角度表示画面の表示と音の送出を5秒程度継続させてフローはステップS16に進む。すなわちステップS15では、注意喚起閾値以下である計測値をユーザ(運転者)に伝達するために、画面24には角度を表示する文字または絵もしくは写真などによる視覚表示を行い、同時に、スピーカ25には音(「ピッ!ピッ!」など)を送出する。
ステップS16において、重心位置推定部23は、ステップS14における注意喚起画面またはステップS15における通常の角度表示画面を裏の画面として保持して1周期分の処理を終了する(END)。すなわちステップS14における注意喚起画面またはステップS15における通常の角度表示画面を裏の画面として保持することで、ユーザ(運転者)が再度、ステップS14における注意喚起画面またはステップS15における通常の角度表示画面の表示を確認したいときには、ユーザが所定の操作を行うことで、いつでも画面24の表示の内容を注意喚起画面または角度表示画面に切り替えることができる。
ステップS17において、重心位置推定部23は、車速が10km/hを超え、ハンドルの舵角が10°未満であり、連結車1のヨーレートが10°/sec未満である状態が3秒間以上継続しているか否かを判定する。すなわち、車速が10km/hを超え、ハンドルの舵角が10°未満であり、連結車1のヨーレートが10°/sec未満である状態とは、連結車1がほぼ直進走行している状態である。ステップS17において、車速が10km/hを超え、ハンドルの舵角が10°未満であり、連結車1のヨーレートが10°/sec未満である状態が3秒間以上継続したと判定されると、フローはステップS18に進む。一方、ステップS17において、車速が10km/hを超え、ハンドルの舵角が10°未満であり、連結車1のヨーレートが10°/sec未満である状態が3秒間以上継続していない判定されると、フローはステップS19に進む。
ステップS18において、重心位置推定部23は、連結車1の10秒間のロール角度の平均値を終値とし、この終値からゼロ値を減算して計測値を算出し、フローはステップS13に進む。すなわち重心位置推定部23は、連結車1が直進走行状態にあるとして、そのロール角度の10秒間の平均値を算出してこれを終値とする。なお、本フローは、コンテナヤード内で実行されるものであるので、連結車1が直進走行状態となる路面は、コンテナヤード内の特定の路面であることが予めわかっている。したがって、コンテナヤード内の前述の特定の路面については、極力、平坦な路面になるように、予め整備されていることが好ましい。
ステップS19において、重心位置推定部23は、ステップS4で時刻A点が設定されてから10秒以上が経過したか否かを判定する。ステップS19において、10秒以上が経過していると判定されると、フローはステップS20に進む。一方、ステップS19において、10秒以上が経過していないと判定されると、フローはステップS8に戻る。
ステップS20において、重心位置推定部23は、時刻A点の設定を解除して1周期分の処理を終了する(END)。
以上説明したように、ステップS2で、連結車1が停車中の連結車1への積荷の積載開始を検出し、ステップS4で、ステップS2で検出された積載開始から10秒前の連結車1のロール角度をロール角度の基準点に設定した直後に、ステップS5で、車高が所定値以下であるときには、ステップS6で、メインバルブ15とサブバルブ16で急速にエアベローズ12R,12Lに空気圧を供給し、エアベローズ12R,12L内の空気圧が予め定められた空気圧になるように制御する。これによりステップS2でコンテナ13を積載した被牽引車3が牽引車シャーシ7のカプラ4に連結されたときに、車高が所定値以下となった場合も速やかに車高を回復させることができる。このようにして車両の重心位置の推定に要する時間を短縮することができる。
すなわちエアベローズ12内に空気圧を供給する2系統のバルブであるメインバルブ15およびサブバルブ16と、連結車1への積荷の積載開始前の連結車1のロール角度と連結車1への積荷の積載が終了してエアベローズ12内の空気圧が調整された後のロール角度との差に基づいて積荷が積載された連結車1の重心位置を推定する重心位置推定部23と、を有し、重心位置推定部23は、連結車1への積荷の積載開始と共に、車高が所定値以下のときには、メインバルブ15およびサブバルブ16の双方を併用してエアベローズ12内の空気圧が予め定められた空気圧になるように制御するので、連結車1の重心位置の推定に要する時間を短縮することができる。
さらに、ステップS9で、連結車1が停車中であり基準点が設定された後の30秒以内における連結車1への積荷の積載終了を検出し、ステップS10で、積載終了検出時から3秒後の連結車1のロール角度から基準点となるロール角度を減算し、あるいは、ステップS17で、積載開始が検出された後に連結車1の直進走行状態を検出し、ステップS18で、ステップS17で連結車1の直進走行状態が検出されたときに、10秒間の連結車1のロール角度の平均値から基準点となるロール角度を減算し、ステップS13で、ステップS10またはステップS18の減算結果が閾値を超えているときには、ステップS14で、注意喚起のための表示を行うようにしたので、連結車1の重心位置の推定をコンテナヤード内で行うことができる。
これによれば、連結車1が公道に出る前に重心位置の推定結果をユーザ(運転者)は知ることができるので、必要ならば重心位置を改善する対策を採ることができ、連結車1の安全な運行を図ることができる。また、連結車1がコンテナヤード内で停車中または直進走行中に、重心位置の推定が実施できるので、重心位置推定のために別途時間を設ける必要がなく、コンテナヤード内における通常の作業中に、重心位置の推定を完了できるので、連結車1の運行業務の効率を低下させることがないようにできる。
また、ステップS11で、連結車1が停車中であり基準点が設定されてから31秒以上経過しても連結車1への積荷の積載終了が検出されないとき、またはステップS19で、積載開始が検出された後に連結車1が走行状態であるが10秒以上経過しても連結車1の直進走行状態を検出しないときには、ステップS12,S20で、基準点の設定をいったん解除するので、常に同じ条件の下で連結車1の重心位置の推定を行うことができるため、重心位置の推定精度を一定に保つことができる。
(第二の実施の形態)
本発明の第二の実施の形態に係る重心位置推定装置11Aについて図6および図7を参照しながら説明する。重心位置推定装置11Aの重心位置推定部23Aは、図6に示すように、ユーザ(運転者等)から重心位置推定のための計測開始の情報を外部から受付けるための受付手段として押しボタンスイッチ(不図示)などのスイッチ操作のON/OFF状態を入力するための入力部55を有する。なお、押しボタンスイッチは、機械的な押しボタンスイッチでもタッチパネル上に設けられたアイコンとしての仮想的な押しボタンスイッチでもよい。前者の押しボタンスイッチであれば、入力部55は、押しボタンスイッチの電線が接続されるI/Oポートなどであり、後者の仮想的な押しボタンスイッチであれば、入力部55は、タッチパネルの所定の位置にユーザの指が触れたことを検出する論理回路などである。また、前述のタッチパネルは、たとえば画面24に設置されてもよい。
次に、重心位置推定装置11Aの重心位置推定部23Aの動作について図7のフローチャートを参照して説明する。ただし、図7のフローチャートでは、「START」、ステップS1〜S20の処理の内容は、図5に示すものと同じであるので、これらの処理についての説明は省略または簡略化する。
ステップS30において、重心位置推定部23Aは、入力部55に接続されている押しボタンスイッチなどのスイッチ操作によるユーザからの計測開始の指示が入力されたか否かを判定する。たとえばスイッチ操作によるON/OFF状態がOFF状態からON状態に反転することを受けて重心位置推定部23Aは、ユーザからの計測開始の指示が入力されたと判定する。ステップS30において、計測開始の指示が入力されたと判定されると、フローは、ステップS31に進む。一方、ステップS30において、計測開始の指示が無いと判定されると、フローは、ステップS2に進む。
ステップS31において、重心位置推定部23Aは、エアベローズ12R,12L内の空気圧を所定値まで充填して待機状態とし、フローは、ステップS32に進む。ここで所定の空気圧とは、連結車1が空積の状態において、連結車1が空積の状態の車高と同じ車高を連結車1が定積になっても保てる空気圧である。したがってステップS31の段階では未だ空積状態であるため、車高は上限値に達している。なお、所定の空気圧の値は、たとえば事前の実験により、連結車1を定積状態として所定の車高に調整した後に、エアベローズ12R,12L内の空気圧はそのままにして、連結車1を空積状態とする。このときのエアベローズ12R,12L内の空気圧を上述の所定の空気圧の値として採用する。このようにして取得した空気圧の値は、重心位置推定部23のメモリ(不図示)に予め記憶させておき、ステップS31の処理を実施する際に、メモリから読み出して使用する。また、このとき、エアベローズ12R,12L内への空気圧の充填には、連結車1の車高が前述した所定値以下であれば、メインバルブ15およびサブバルブ16の双方を併用してもよい。このようにしてメインバルブ15およびサブバルブ16の双方を併用することにより、ステップS31の処理に要する時間を短縮することができる。
ステップS32において、重心位置推定部23Aは、エアベローズ12R,12L内の空気圧の変動の検出の有無を判定する。たとえば連結車1にコンテナ13が積載されれば、エアベローズ12R,12L内の空気圧は上昇するので、エアベローズ12R,12L内の空気圧の変動(上昇)が検出されたことによって、連結車1への積荷の積載の開始を検出することができる。ステップS32において、エアベローズ12R,12L内の空気圧の変動(上昇)が検出されたと判定されると、フローは、ステップS4に進む。一方、ステップS32において、エアベローズ12R,12L内の空気圧の変動(上昇)が検出されないと判定されると、フローは、ステップS31に戻る。
なお、図7のフローでは、ステップS6またはS7でエアベローズ12R,12Lに対し、空気圧を供給する以前に、ステップS31で既にエアベローズ12R,12Lに対して空気圧を充填している。このためステップS5でNoとなった後に、ステップS7では空気圧の供給が不要である場合も有り得る。この場合には、ステップS7における空気圧の供給量をゼロとして処理することとする。
このように、図7のフローチャートの処理によれば、ステップS2において、重心位置推定部23Aが積載の開始を直接検出するのに加え、連結車1へのコンテナ13の積載開始に先立つ、ユーザ(運転者等)の計測開始指示によってエアベローズ12R,12L内の空気圧を予め定められた空気圧になるように制御できる。このように、ユーザによる計測開始指示によれば、重心位置推定部23Aが積載の開始を検出するための検出時間が短縮されると共に、実際に積荷の積載が開始されるよりも前に、エアベローズ12R,12L内の空気圧を予め高めておくことができるので、車両の重心位置の推定に要する時間を短縮することができる。
(表示例)
次に、表示部20における表示例を図8〜図12に示す。図8に示す画面24の表示例その1は、水平位置に固定的に表示されている後車輪を表す図形60および後車軸を表す図形61、コンテナ13を表す図形62、棒グラフ63、および文字情報64R,64Lにより構成される。
図8に示す表示例その1では、図5,図7のフローチャートのステップS10またはステップS18で計算された計測値に基づいて、連結車1のロール角度が右方向に2.5°傾いている状態を示している。コンテナ13を表す図形62が実際に、右方向に2.5°傾いて表示される。コンテナ13を表す図形62の傾き度合いは、水平位置に固定的に表示されている後車輪を表す図形60および後車軸を表す図形61と比較することにより明確化される。
さらに、棒グラフ63のバー(ハッチング部分)が右方向に2.5°の位置まで伸びている。これによっても連結車1のロール角度が右方向に2.5°傾いている状態であることを認識できる。さらに、「右」を表す文字情報64Rの輝度が「左」を表す文字情報64Lの輝度と比較して高い(明るい)ので、これによっても連結車1のロール角度が右方向に傾いている状態であることを認識できる。
次に、図8に示す画面24の表示例その1において、連結車1のロール角度が左方向に2.5°傾いている状態を図9に示す。コンテナ13を表す図形62が実際に、左方向に2.5°傾いて表示される。コンテナ13を表す図形62の傾き度合いは、水平位置に固定的に表示されている後車輪を表す図形60および後車軸を表す図形61と比較することにより明確化される。
さらに、棒グラフ63のバー(ハッチング部分)が左方向に2.5°の位置まで伸びている。これによっても連結車1のロール角度が左方向に2.5°傾いている状態であることを認識できる。さらに、「左」を表す文字情報64Lの輝度が「右」を表す文字情報64Rの輝度と比較して高い(明るい)ので、これによっても連結車1のロール角度が左方向に傾いている状態であることを認識できる。
次に、画面24Aの表示例その2を図10に示す。図10に示す表示例その2は、画面24Aの下部に、別窓65を設けている。図10に示す表示例その2は、連結車1の傾きが無い状態、あるいは未だコンテナ13を載せた被牽引車3が牽引車シャーシ7に積載されていない状態である。このような状態では、別窓65には、たとえば年月日および時刻などが表示されている。また、棒グラフ63も0°を中心にして左右対称の図形を示し、連結車1の傾きが無い状態を示している。
図11は、画面24Aの表示例その2において、連結車1のロール角度が右方向に2.5°傾いている状態を示している。別窓65には、「傾き角度 右2.5°」としてロール角度とその方向が文字情報として表示される。
次に、画面24Bの表示例その3を図12に示す。図12の表示例その3は、画面24Bの右上部に、重量表示部66を設けている。重量表示部66は、コンテナ13の重量の推定結果を表示するものであり、図12の例では、カプラ4に掛かる重量をそのまま表示し、これをコンテナ13の重量の推定値としている。なお、カプラ4に掛かる重量は、第五輪荷重とも呼ばれており、カプラ4に設けた荷重センサ(不図示)などにより測定することができる。
以上説明した図8〜図12に示す表示例によれば、後車輪および後車軸を表現する図形60,61は、その表示位置が所定の位置に固定されて表示され、コンテナ13を表現する図形62は、その表示位置が連結車1のロール角度を表す複数の位置のいずれかに表示されるので、これらの図形60,61,62の状態は、実際の状態に近く、コンテナ13を表現する図形62の傾きから直感的に、連結車1の横転の危険性を判断することができる。すなわち、平常のロール時に傾くのは連結車1のコンテナ13の部分(図形62)のみであり、車輪(図形60)および車軸(図形61)は、接地しているので水平状態を保っているが、このような状態も忠実に表現されている。
さらに、ロール角度およびその方向を水平方向に伸縮する棒グラフ63で表示することにより、コンテナ13を表現する図形62の傾きから直感的に、連結車1の横転の危険性を判断することができるのに加え、棒グラフ63によってさらに明確に、連結車1の横転の危険性を判断することができる。
さらに、連結車1のロール角度が右方向または左方向のいずれの側のロール角度であるかを「右」または「左」を表す文字情報で表示することにより、コンテナ13を表現する図形62の傾きから直感的に、連結車1の横転の危険性を判断する際に、左右いずれの方向への傾きであるのかを明確に認識することができる。
さらに、ロール角度およびその方向を文字または数字で表示することにより、コンテナ13を表現する図形62の傾きから直感的に、連結車1の横転の危険性を判断することができるのに加え、文字または数字によってさらに明確に、連結車1の横転の危険性を判断することができる。
さらに、コンテナ13の重量を推定し、推定されたコンテナ13の重量を表示することにより、コンテナ13の重量によっても連結車1の横転の危険性を判断することができる。すなわち、コンテナ13を表現する図形62の傾きの状態が同じであっても、コンテナ13の重量が重たい場合と軽い場合とでは、連結車1の横転の危険性が異なるので、このようなコンテナ13の重量の違いによる連結車1の横転の危険性についても認識することが容易になる。
このように、重心位置推定結果を、図8〜図12に示したように、運転者に対して分かり易く通知することにより運転者の安全運転に寄与することができる。
上述した本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り様々に変更が可能である。たとえば図5および図7のフローチャートにおけるステップS18で10秒間のロール角度の平均値を終値として計算する際に、ステップS17で連結車1が直進走行する路面は、コンテナヤード内の特定の路面である。すなわちコンテナヤード内の特定の路面であれば、予め路面の凹凸状況が判明している。そこで、この特定の路面に対し、重心位置に偏りが無いことが確認されているコンテナ13を積載した連結車1による事前の走行テストを行うことによって、この特定の路面の凹凸状況に起因する連結車1のロール角度の変化の情報を予め取得することができる。
このようにして取得した情報を重心位置推定部23のメモリ(不図示)に記憶させておけば、重心位置推定部23は、ステップS18において、連結車1が直進走行中に発生するロール角度の変化から予め記憶している特定の路面の凹凸状況に起因するロール角度の変化の情報に基づくロール角度の変化を差し引いたロール角度の変化を計測値の算出に用いることができる。
これによれば、コンテナヤード内の特定の路面が良好に整備されて凹凸が少ない平坦路でなくても、重心位置推定部23の演算処理によって、路面の凹凸状況に起因して発生するロール角度の変化の影響をステップS18の処理において除去することができる。これにより、ステップS18の処理によって得られる計測値の精度を路面の凹凸状況に係わらずに高いものとすることができる。
また、図5および図7のフローチャートにおける時間、重量、車速、舵角、およびヨーレートなどの数値については一例であり、数値をこれに限定するものではなく、ユーザの都合やコンテナヤードの環境などに合わせて適宜に変更してよい。
また、図5および図7のフローチャートのステップS3,S14,S15などの音(「ピッ!」、「ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!」、「ピッ!ピッ!」など)に代えて、音声情報(「測定を開始します」、「注意してください」、「(ロール)角度を表示します」など)をスピーカ25から送出するようにしてもよい。
また、図8〜図12の画面24,24A,24Bの各表示例に加え、スピーカ25からは合成音声によって「重心偏りが大きいです。ご注意ください。」または「傾き角度は右2.5度です。ご注意ください。」などとアナウンスを行う構成としてもよい。さらに、図9の表示例では、「重心偏りが大きいです。ご注意ください。カプラ重量は4トンです。」などとアナウンスを行う構成としてもよい。
また、図12の表示例は、重心位置の推定結果に併せてコンテナ13の荷重を表示する画面24Bの例であるが、コンテナ13の荷重の情報は、荷重センサの代わりに圧力センサ22R,22Lの空気圧の情報から導出することもできる。たとえば試験的に、コンテナ13に様々な荷重の積荷を積載し、そのときの圧力センサ22R,22Lの値を記録することで、コンテナ13の荷重と圧力センサ22R,22Lの値との対応関係をグラフまたは表として予めメモリに保持しておけば、圧力センサ22R,22Lの値からコンテナ13の荷重を推定することができる。
また、重心位置推定部23,23Aを構成する情報処理装置が実行するプログラムは、重心位置推定装置11,11Aの出荷前に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、重心位置推定装置11,11Aの出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、プログラムの一部が、重心位置推定装置11,11Aの出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。重心位置推定装置11,11Aの出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されるプログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
また、プログラムは、情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
このように、情報処理装置とプログラムによって重心位置推定部23,23Aの機能を実現することにより、大量生産や仕様変更(または設計変更)に対して柔軟に対応可能となる。
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。