本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
<第1実施形態>
===予測システムについて===
本実施形態では、現実の電力需要量が、電力需要量の予測値から変動する要因の一つに、気温変動に起因する冷暖房需要の変動があるという理解に基づき、所定時間帯の気温の確率分布から、当該時間帯における電力需要量の確率分布を算出するものである。
そして、本実施形態の後述する予測システムは、当該時間帯の電力需要量の確率分布に基づいて、一定量の電力取引を行った場合の利益値の確率分布を算出している。
図1に、本実施形態における、電力取引における利益額の予測を実現する予測システムの一例を示す。本実施形態に係る予測システムは、予測装置100と取引情報提供装置200等から構成される。これらの装置は、LAN接続等による通信網300を利用して、データの送受信を行う。
予測装置100は、使用者が操作を行うコンピュータである。また、取引情報提供装置200は、予測装置100からのリクエストに応じてデータを送信するコンピュータである。本実施形態に係る予測装置100は、取引情報提供装置200から、取引価格等に関する取引情報を取得することで、利益額を予測する構成としている。
図2Aに、本実施形態の予測装置100のハードウェア構成を示す。
予測装置100は、制御手段100A、記憶手段100B、通信手段100C、入力手段100D、表示手段100Eを有している。
制御手段100Aは、CPU等であり、バス等を介して、記憶手段100B、通信手段100C、入力手段100D、表示手段100Eと接続されている。そして、制御手段100Aは、記憶手段100Bに記憶されたコンピュータプログラムに基づいて、記憶手段100B、通信手段100C、入力手段100D、表示手段100Eとデータ通信を行うとともに、それらの動作を制御する。
記憶手段100Bは、揮発性メモリー(RAM)、不揮発性メモリー(フラッシュメモリー)等からなる。そして、記憶手段100Bには、予測装置100を制御するためのコンピュータプログラム、後述する電力需要量と発電費用を対応付けるデータ等が記憶されている。尚、記憶手段100Bは、後述する回帰モデル、各機能部で計算された中間データ、最終データ、取得した分析対象データ等を記憶する記憶部も有している(図示せず)。
通信手段100Cは、通信コントローラ等であり、有線や無線によるLAN接続による通信網300等を利用して、取引情報提供装置200とデータの送受信を行う。
入力手段100Dは、スイッチ、タッチパネル等であり、予測装置100に対する使用者の操作指示を受付ける。
表示手段100Eは、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ等であり、後述する予測される利益額の確率分布等を表示する。
図2Bに、本実施形態の取引情報提供装置200のハードウェア構成を示す。
取引情報提供装置200は、制御手段200A、記憶手段200B、通信手段200Cを有している。
制御手段200Aは、CPU等であり、バス等を介して、記憶手段200B、通信手段200Cと接続されている。そして、制御手段200Aは、記憶手段200Bに記憶されたコンピュータプログラムに基づいて、通信手段200C、記憶手段200Bとデータ通信を行うとともに、それらの動作を制御する。
記憶手段200Bは、揮発性メモリー(RAM)、不揮発性メモリー(フラッシュメモリー)等からなる。そして、記憶手段200Bには、取引情報提供装置200を制御するためのコンピュータプログラム、後述する取引情報に関するデータM3等が記憶されている。
通信手段200Cは、通信コントローラ等であり、有線や無線によるLAN接続による通信網300等を利用して、予測装置100とデータの送受信を行う。
本実施形態の予測装置100の記憶手段100Bに記憶された電力需要量と発電費用を対応付けるデータは、後述する発電手段に関するデータテーブルM1と、発電手段の稼働優先度に関するデータテーブルM2に基づいて算出される。
図3Aに、本実施形態の発電手段に関するデータテーブルM1の一例を示す。
発電手段に関するデータM1は、電力供給者が有する複数の発電手段についての最低発電量(MWh/h)、発電可能量(MWh/h)、限界費用(円/MWh)である。
電力供給者は、水力発電、太陽光発電、原子力発電、火力発電等、複数の発電手段を有している。そして、それらの限界費用、発電可能量等は、発電手段の種類、又、発電効率等の性能により異なっている。例えば、原子力発電は、稼働の停止が困難であるため、常に稼働させる発電手段として予定されることになる。一方、火力発電は、燃料価格等に応じて、限界費用が高騰する場合もある。その他、水力発電は、他の発電手段に比して、限界費用が安価である等の特徴もある。
図3Aのデータテーブルに示す、発電手段A、B、C・・・は、それらの発電手段の一つを表す。また、最低発電量(例えば1MWh/h)は、マストラン電源(上記した原子力発電のように、発電費用等の観点から、稼働の停止が困難であり、常に稼働させる発電手段として予定される発電源)による発電量を表す。また、発電可能量(例えば1MWh/h)は、それらの各発電手段の発電能力の限界値である。また、限界費用(円/MWh)とは、単位発電量(例えば1MWh)あたりに必要となる発電費用を表す。
ここで、限界費用は、その稼働率、すなわち当該発電手段の発電能力の限界値のうち発揮させている発電能力に応じて異なるように設定してもよいし、稼働率0〜100%の平均値を設定してもよい。尚、図3Aのデータテーブルで、発電手段A、B、C・・の限界費用について、A(x1)、B(x2)、C(x3)・・・と記載しているのは、各発電手段の稼働率x1、x2、x3・・・に応じた限界費用関数を表す。尚、その記憶形式は、テーブル形式等であってもよい。
図3Bに、本実施形態における、発電手段の稼働優先度に関するデータテーブルM2の一例を示す。
発電手段の稼働優先度に関するデータM2は、マストラン電源に関する優先度、限界費用に関する優先度の2種類を有している。マストラン電源に関する優先度は、限界費用に関する優先度よりも高い優先度が設定されている。また、限界費用に関する優先度は、限界費用が低いものから優先的に稼働するように設定されている。尚、上記実施形態では、稼働優先度に関するデータとして、マストラン電源に関する優先度、限界費用に関する優先度を記載したが、限界費用に関する優先度のみが設定される態様であってもよいし、その他の優先度が設定されてもよい。また、各発電手段の稼働優先度に関するデータM2は、使用者が各々の発電手段の状況等を考慮して設定するものであってもよいし、利益額を算出するときに都度、利益予測部104等が設定するものであってもよい。
図3Cに、本実施形態の取引情報提供装置200の記憶手段200Bに記憶された取引情報に関するデータテーブルM3の一例を示す。
取引情報に関するデータM3は、取引の対象となっている所定時間帯(例えば11時〜12時)の単位発電量(例えば1MWh/h)あたりの取引価格に関するデータ、及び取引可能量に関するデータである。ここで、取引情報に関するデータは、確定値であっても、予測値であってもよい。尚、データテーブルM3には、1時間ごとの取引価格及び取引可能量が記憶されている。
電力取引は、当該取引価格に基づいて行われる。具体的には、電力供給者が、所定量の電力の売りを行った場合、当該取引価格に基づいて、電力供給者は、その売り分を余分に電力供給する代わりに、その売り分を収益として得ることができる。同様に、電力供給者が、所定量の電力の買いを行った場合、当該取引価格に基づいて、電力供給者は、その買い分の電力供給を取引対象者から受ける代わりに、その買い分の金額を支払うという態様である。また、取引可能量は、電力供給者が電力取引において取引が可能な上限値を表す。
尚、取引可能量に関するデータは、電力供給者の発電手段の運用上の都合で設定するものであってもよい。例えば、上記したとおり、マストラン電源は、常時稼働させておくことが前提となっているため、当該マストラン電源の稼働による電力分は取引不能として設定しておいてもよい。また、取引可能量に関するデータは、必ずしも設定されている必要はない。
図4に、本実施形態の予測装置100の機能構成の一例を示す。
予測装置100は、記憶手段100Bに記憶されたコンピュータプログラム、及び上記したハードウェア構成(100A〜100E)により、以下に説明する取得部101、気温予測部102、需要予測部103、利益予測部104、提示部105の機能を実現する。
取得部101は、取引情報提供装置200等他の装置と通信をしてデータを取得する。
気温予測部102は、気象庁の予測した予測最高気温、予測最低気温、天気情報等に基づいて、未来の所定時間帯の予測気温の確率分布に関するデータを算出する。
需要予測部103は、予測気温の確率分布に関するデータ、気温と電力需要量の関係式に基づいて、未来の所定時間帯の電力需要量の確率分布に関するデーを算出する。
利益予測部104は、電力需要量の確率分布に関するデータと、電力需要量と発電費用を対応付けるデータとに基づいて、所定量の電力取引を行った場合の発電費用の変化費用を確率分布として算出する。そして、所定量の電力取引を行った場合の取引価格を算出し、当該発電費用の変化費用との差を電力取引の利益額の確率分布として算出する。ここで、電力需要量と発電費用を対応付けるデータは、例えば、発電手段に関するデータM1と、発電手段の稼働優先度に関するデータM2を利用して算出された限界費用線に関するデータである。
提示部105は、利益額の確率分布データに対して所定の画像処理を施して、予測装置100の使用者が予測利益の確率分布を認識できるような態様で提示する。一例として、提示部105は、利益額の確率分布として、95%の確率で実現値としてとり得る、利益額の最低額と最大額の範囲を表示手段100Eに表示する。
尚、本実施形態における確率分布に関するデータ(以下、「確率分布データ」という)とは、実現し得る値の予測値からのばらつきを示すものであり、例えば、未来の所定時間帯(例えば、2013/2/1の7時)に95%の確率で実現し得る予測気温、電力需要量、利益額の幅(信頼区間)を意味する。また、確率分布データは、予測値に関する確率密度関数を表すデータや、確率分布関数を表すデータ、サンプルの累積確率より算出された信頼区間に関するデータ、実現し得る確率と予測値の幅の対応関係を示すデータ、予測値に関する分散係数等であってもよい。
===予測システムの動作について===
次に、予測システムの動作について説明する。
図5に、本実施形態のフローチャートの一例を示す。
(S1)は、予測装置100の使用者が、予測対象の期間(例えば、2013/2/1の7時〜8時)を入力する工程である。
(S2)は、予測装置100が、取引情報提供装置200から、取引情報を取得する工程である。具体的には、予測装置100の取得部101は、取引情報提供装置200に対して、予測対象の期間に関する取得価格、及び取引可能量をリクエストする。そして、取引情報提供装置200は、当該リクエストを受けて、取引情報に関するデータテーブルM3より予測対象の所定時間帯に関する取引価格及び取引可能量を、予測装置100に送信する。
(S3)は、予測装置100の気温予測部102が、気象庁の予測した予測最高気温、予測最低気温、天気情報等に基づいて、予測対象の所定時間帯の気温の予測値を確率分布として算出する工程である。ここで、電力取引の対象期間が数時間に跨る長い時間である場合、対応する複数の時間帯についての気温の予測値を算出してもよい。図6に、予測気温の確率分布のイメージ図を示す。図6は、理解容易のため説明変数Xを一つとした場合の予測気温の確率分布を示している。
尚、本実施形態は、予測気温のばらつきが、電力需要量のばらつきに繋がるという理解に基づくものであり、予測気温の確率分布の算出方法は、一定の精度であれば任意である。予測気温の確率分布の算出方法の一例については、後述する。
(S4)は、予測装置100の需要予測部103が、(S3)で算出した予測気温の確率分布データ、曜日情報、昨年の同月同日における電力需要量等に基づいて、予測対象の所定時間帯の電力需要量の予測値を確率分布として算出する工程である。
本実施形態では、現実の電力需要量が、電力需要量の予測値から変動する要因の一つに、気温変動に起因する冷暖房需要の変動があるという理解に基づき、所定時間帯の予測気温の確率分布から、当該時間帯における電力需要量の確率分布を算出している。これによって、電力需要量の確率分布を正確に算出することができる。尚、電力需要量の確率分布の算出方法は、一定の精度であれば任意であり、気温と電力需要量との関係を表すデータを予めデータテーブルとして記憶していてもよい。需要予測の確率分布の算出方法の一例については、後述する。
(S5)は、利益予測部104が、発電手段に関するデータM1、マストラン電源に関する優先度、限界費用に関する優先度に関するデータM2に基づいて、電力取引の対象となる期間において、複数の発電手段をどのように稼働させるか、すなわち限界費用線に関するデータを算出する工程である。限界費用線に関するデータは、電力需要量と発電費用を対応付けるデータの一例であり、必要とする発電量(電力需要量)と対応させて、当該発電量を補うためにどのように発電手段を稼働させるについて特定したデータである。尚、限界費用線に関するデータが予め記憶されている場合、(S5)の工程は省略することができる。
以下に、(S5)で算出する限界費用線に関するデータについて、グラフ化した限界費用線により説明する。
図7Aは、発電手段に関するデータM1、及び発電手段の稼働優先度に関するデータM2より算出された限界費用線である。横軸は必要とする発電量(電力需要量)を表し、縦軸はそれぞれの発電手段の限界費用を表している。右方向にいくほど発電量(電力需要量)が大きいことを表し、上方向にいくほど限界費用が大きいことを表す。また、限界費用線下の区画は、稼働させる発電手段の違いを表している(図7B、図7Cも同様)。ここで、マストラン電源に関する優先度を限界費用に関する優先度よりも高い優先度として設定しているため、限界費用線は、マストラン電源優先領域Aと、限界費用優先領域Bの2領域から構成されている。すなわち、発電手段A、B、Cを、限界費用が低い発電手段Dよりも先に稼働させることを表している。
図7Bは、電力需要量の予測値と、稼働させる発電手段との関係を示す。図7Bでは、電力需要量がNのとき、発電手段Fまで稼働させることを表している。
(S6)は、利益予測部104が、所定量Cの電力取引を行った場合の発電費用の変化費用を算出する工程である。
利益予測部104は、(S4)の工程で算出した電力需要量の確率分布データ、及び(S5)で算出した限界費用線に関するデータに基づいて、所定量Cの電力取引を行った場合の発電費用の変化費用を算出する。
ここで、図7B、図7Cにより、所定量Cの電力取引を行った場合の発電費用の変化費用について説明する。図7Bは、電力需要量がNである場合に必要となる発電費用を表している。図7Bの斜線で示す領域の面積の合計値が、必要となる発電費用となる。したがって、このとき発電費用は、式(1)より表すことができる。
(F(W)は、発電量Wと対応した限界費用を示す限界費用線を表す)
ここで、F(W)は、各発電手段の限界費用に関するデータM1、及び稼働優先度等に基づいて算出される。
また、図7Cは、電力取引の対象となる期間に取引量Cの取引(電力買い)を行った場合の発電費用の変化費用(減少)を示す。図7Cに示すように、取引量Cの電力買いを行った場合の発電費用の変化費用は、F(W)が、W軸の電力需要量Nと取引後N−Cで囲まれる領域である。具体的には、発電費用の変化費用は、式(2)より表すことができる。
尚、本実施形態では、電力需要量Nは確率分布として算出されるため、発電費用の変化費用も確率分布として表される。
(S7)は、利益予測部104が、取引情報に関するデータM3に基づいて、電力取引の対象となる期間に所定量の電力取引を行った場合の取引収支を算出する工程である。具体的には、電力取引の対象となる期間の取引価格が一定値Rである場合、所定量Cの取引(電力買い)を行った場合の取引収支(支払額)は、式(3)より表すことができる。
(S8)は、利益予測部104が、(S6)において算出した所定量の取引を行った場合の発電費用の変化費用と、(S7)において算出した所定量の取引を行った場合の取引収支の差により、利益額の確率分布を算出する工程である。具体的には、電力買いの場合、発電費用の変化費用(減少)から取引収支(支払額)を減じた差分が大きくなるほど、電力供給者にとって利益額が大きいことなる。すなわち、電力買いの場合の電力供給者の利益額Yは、式(2)、式(3)より、式(4)と表せる。
尚、取引可能量が設定されている場合、当該取引可能量を上限値として、取引量Cは設定される。
ここで、上記したとおり、電力需要量は、確率分布を含むデータとなっている。これより、電力需要量の確率分布データに基づいて、利益額Yの確率分布を算出することができる。尚、(S6)、(S7)の工程は、実質的に(S8)の工程に集約されるから省略してもよい。
尚、利益額の確率分布の算出方法の具体的内容については、後述する。
(S9)は、提示部105が、(S8)において算出された電力取引における利益額の確率分布を予測装置100の使用者が認識できるように所定の画像処理を施して提示する工程である。例えば、提示部105は、予測利益の確率分布として、所定量の電力取引を行った場合、95%の確率で実現し得る予測利益の幅等をテキストデータとして表示手段100Eに表示する。
このように、本実施形態によって、本システムの使用者は、気温変動に起因した電力需要量の変動を考慮して、電力取引における利益額の確率分布を把握することができる。
また、上記実施形態では、電力買いの場合について説明したが、電力売りの場合についても同様である。すなわち、電力売りの場合、取引収支(収入額)から発電費用の変化費用(増額)を減じた差分が、電力供給者にとっての利益となる。このとき、利益額Yは、式(5)と表せる。
また、上記実施形態では、電力需要量と発電費用を対応付けるデータとして、発電手段に関するデータM1と発電手段の稼働優先度に関するデータM2により限界費用線を算出して、所定量の電力取引を行った場合の発電費用の変化費用を算出した。しかし、電力需要量と発電費用を対応付けるデータは、電力需要量と発電費用を対応させてテーブル形式で記憶されたデータ等であってもよい。
また、上記実施形態では、取引価格Rは、取引量Cによらず一定である場合について説明した。しかし、取引価格Rが、取引量Cに応じて変動するものであってもよい。その場合、式(4)のRは、Cの関数R(C)として表せる。
また、上記実施形態では、予測システムは、利益額を算出するものとしたが、利益値に関するデータであれば、利益額に限らず、所定のポイント等であってもよい。
===気温予測部の動作について===
次に、気温予測部102の動作の一例について説明する。
本実施形態では、気温は、その日の予測最高気温、予測最低気温、及びそのときの時間帯と関係性を有するという理解に基づいて、気温の予測を行う。すなわち、過去の気温の測定結果、予測最高気温、予測最低気温より、回帰分析により、その時間帯における気温と予測最高気温、予測最低気温の関係性を回帰式として算出する。そして、回帰分析における、誤差項の標準偏差sより予測気温の確率分布を算出する。
図8に、本実施形態のフローチャートを示す。
本実施形態では、予測装置100が、気象情報予測装置400とLAN接続等による通信網300を利用して(図1には図示せず)、過去の日に関する、気温の実測値、予測最高気温、予測最低気温等のデータ、未来の日に関する、予測最高気温、予測最低気温の予測データ等の送受信を行うことで、気温の予測を行う。
尚、気象情報予測装置400は、予測装置100からのリクエストに応じてデータを送信するコンピュータである。また、気象情報予測装置400は、図2Bに示す取引情報提供装置200と同様のハードウェア構成となっている。
図9A〜図9Cに、気象情報予測装置400の記憶手段に記憶された、気温に関するデータテーブルの一例を示す。図9Aは過去の日の気温の実測値、図9Bは過去の日の予測最高気温、予測最低気温、図9Cは未来の予測最高気温、予測最低気温に関するデータである。
図9Aは、1時間毎に測定された気温のデータテーブルM4である。このデータテーブルM4には、所定時に測定された気温の測定結果(以下、「実測値」という)が測定日時と対応づけられて記憶されている。ここで、測定結果は、例えば、1時間単位で、外気の気温を温度計で測定したものである。測定日時は、当該測定がなされた年月日、及び時刻である。
図9Bは、気象庁等で予測された気温のデータテーブルM2である。このデータテーブルM5には、気象庁等で予測された予測最高気温T1max、予測最低気温T1minであって、過去の日に関するデータが、当該予測の対象となった日と対応づけられて記憶されている。尚、データテーブルM4の気温の測定日は、データテーブルM5の日と対応する形式で記憶されておればよく、同一のデータテーブル内に対応づけられた形式で記憶されていてもよい。また、年月日に代えて、所定の符号で対応づけられた形式で記憶されていてもよい。また、測定がなされた時刻についても、1日のうちの時刻と関連する、所定のタイミング等の形式で記憶されていてもよい。
図9Cは、予測対象となる日について、事前に、気象庁等で予測された気温のデータテーブルM6である。このデータテーブルM6には、気象庁等で予測された予測最高気温T2max、予測最低気温T2minであって、未来の日に関するデータが、予測対象日と対応づけられて記憶されている。
図8の(S31)は、予測装置100の取得部101が、気象情報提供装置400に対して、過去のデータのうち、電力取引の対象である所定時間帯に測定された測定温度、及び当該測定日に関する予測最高気温T1max、予測最低気温T1minを要求する工程である。
(S32)は、気象情報提供装置400が、当該要求を受けて、過去データの実測値に係るデータテーブルM4から対応する所定時間帯に測定された実測値を取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する工程である。加えて、気象情報提供装置400は、過去データの事前に気象庁等で予測された予測最高気温、予測最低気温に関するデータテーブルM5から、当該実測値の測定日に対応する予測最高気温T1max、予測最低気温T1minを取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する。
一例として、電力取引の対象期間が、2013/2/1の7時〜8時である場合、取得部101は、過去の測定気温に関するデータM4の7時、又は8時に測定された実測値と、当該測定日の予測最高気温T1max、予測最低気温T1minを取得する。
尚、本実施形態において、(S31)で過去データから取得する、予測を希望する時間帯に関するデータは、時間帯と予測最高気温、予測最低気温の関係性を明らかにするうえで支障のない範囲内を意味する。そのため、例えば、予測対象とする時間帯が7時〜8時である場合、過去の実測値が7時15分や6時45分に測定されたデータであっても、7時を示す過去データとして取得対象となる。また、同様に、本発明における「時間帯」の語義は、必ずしも14時00分〜15時00分等の時分を表すものではなく、一日の時刻の推移の中での所定の区間を意味する。
(S33)は、予測装置100の気温予測部102が、取得した過去のデータに基づいて、気温予測式を算出する工程である。具体的には、予測装置100は、実測値T1、予測最高気温T1max、予測最低気温T1minに基づいて、回帰分析を実行し、当該所定時間帯における予測気温T2に係る気温予測式を算出するとともに、予測気温T2の確率分布を算出する。
回帰分析は、例えば、予測最高気温と予測最低気温を説明変数とする式(6)の回帰モデルについて、最小二乗法により行う。
(β
0は母切片、β
1、β
2は母回帰係数、E
iは誤差項を表す。また、各変数の末尾のiは、各観測点iを表し、サンプルとして取得した過去のデータの各実測値、予測最高気温、予測最低気温を表す。)
これより、当該回帰モデルのβ
0、β
1、β
2を決定し、気温予測式として回帰式(7)を算出する。
(Tの上部の^は、回帰式におけるTの表記である)
また、このとき、予測気温の確率分布を算出するため、予測気温のばらつきに関する係数として、誤差項の標準偏差sを、式(8)に基づいて算出する。
(Ti^は、各観測点iについて、予測最高気温T1
maxと予測最低気温T1
minを回帰式(7)に代入したときのTの値を表す。)
そして、本実施形態では、各実測値の分布は、以下の正規分布に従うとすると、予測気温T2の確率分布は、説明変数の値によらず、一律に誤差項の標準偏差s
2を母分散とする正規分布とみなすことができる。
この場合、予測気温T2の確率分布は、上記回帰式(7)、及び式(8)の誤差項の標準偏差sから表すことができる。例えば、予測気温T2の確率分布は、確率密度関数f(T3)として、式(10)のように表すことができる。
図10に、予測気温T2の確率分布のイメージ図に示す。
(T3は算出された予測気温T2からずれた気温を表す)
また、予測気温T2の確率分布は、信頼区間として算出することもできる。例えば、信頼区間は、確率密度関数f(T3)の区間積分に基づいて算出することができる。この場合、68.2%の信頼区間は、予測気温T2からsだけずれた気温T2±sの間の気温となる。
図10の斜線部は、68.3%の信頼区間と確率密度関数f(T3)の関係を表している。
(S34)は、予測装置100の取得部101が、気象情報提供装置400に対して、予測対象日である2013/2/1に関する予測最高気温T2Max、予測最低気温T2minを要求する工程である。
(S35)は、気象情報提供装置400が、当該要求を受けて、気象庁等で予測された予測最高気温T2max、予測最低気温T2minであって、未来の日に関するデータM6から、予測対象日(例えば、2013/2/1)に関する予測最高気温T2max、予測最低気温T2minを取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する工程である。
(S36)は、予測装置100の気温予測部102が、取得した予測データと、算出された気温予測式、及び予測気温T2のばらつきに関する係数に基づいて、予測対象日の所定時間帯(例えば、2013/2/1の7時〜8時)の予測気温T2、及びその確率分布データを算出する工程である。
このように、本実施形態の気温予測部102によって、気象情報から予測気温の確率分布を高い精度で算出することができる。
尚、確率分布データは、確率に応じた信頼区間を算出してもよく、その場合、標準偏差sに対して信頼度に応じた係数を乗ずることによって算出することができる。例えば、信頼度70%の場合、標準偏差sに対して係数1.28を乗ずればよいし、信頼度90%の場合、標準偏差sに対して係数1.53を乗ずればよい。
また、確率分布データは、過去データにおける累積分布関数により、信頼区間を算出してもよい。図11は、過去データから取得した複数のサンプルにより、累積確率を算出し、信頼区間を算出した一例である。誤差の列は回帰式(7)に対する誤差項Eiの値を表し、頻度の列は当該誤差に対応するサンプル数、確率密度の列はサンプル数と頻度から算出される確率密度、累積確率の列はサンプル数と頻度から算出される累積確率を表す。例えば、図11では、回帰式から予測される値からの誤差0.8℃の範囲が70%の信頼区間であることを表している。
また、上記実施形態では、電力取引の時間帯が2013/2/1の7時〜8時の1時間の場合に、気温予測部102が7時〜8時に関する回帰式を算出することを記載した。しかしながら、電力取引の時間帯が2013/2/1の7時〜10時の3時間の場合等、長時間を取引対象とする場合、7時〜8時、8時〜9時、9時〜10時等に関する回帰式を別々に算出してもよい。
また、上記実施形態では、予測最高気温と予測最低気温のみを説明変数とする予測気温を算出する回帰モデルを用いた。しかしながら、気象情報から予測気温の確率分布をある程度の精度で算出することができれば、回帰モデルは、上記に限る必要はない。例えば、予測最高気温、予測最低気温の一方のみを説明変数とする回帰モデルを用いてもよい。予測気温の確率分布を算出するために参照する気象情報としては、予測最高気温、予測最低気温、天気情報、風速情報、大気圧等があげられる。他方、予測精度を向上させるため、説明変数として、季節情報、地域情報等を追加してもよい。また、サンプルの分散を安定化させるため、分散安定化変換を行って、回帰モデルを適応してもよい。
尚、季節情報を反映させた回帰式の一例を、式(11)に示す。
(β
0は切片、β
1は回帰係数、ν
jは季節ごとの季節調整係数を表す)
回帰式(11)によれば、予測最高気温T
max、予測最低気温T
minの影響度と、季節による影響度を適切に調整した予測気温を算出することができる。尚、図12に、回帰式(11)により、時刻毎に算出した予測気温の信頼区間の結果の一例を示す。
また、気温予測部102は、予測気温の確率分布を正確に把握することによって、電力需要量の確率分布を算出することを目的としているから、その他の既知の予測気温の確率分布の算出方法を採用してもよい。
===需要予測部の動作について===
次に、需要予測部103の動作の一例について説明する。
本実施形態では、現実の電力需要量が、電力需要量の予測値から変動する要因の一つに、気温変動に起因する冷暖房需要の変動があるという理解に基づいて、電力需要量の予測を行う。すなわち、気温予測部102で算出した予測気温の確率分布より、電力需要量の確率分布を算出する。そして、本実施形態では、需要予測部103は、気温の実測値と過去の電力需要量の実測値に基づいて、気温と電力需要量の関係式を算出することにより、電力需要量の確率分布を算出する。
図13に、本実施形態のフローチャートの一例を示す。
本実施形態では、予測装置100が、気象情報提供装置400、需要情報提供装置500とLAN接続等による通信網300を利用して(図1には図示せず)、気温の実測値、及びそのときの電力需要量に関する過去のデータ等の送受信を行うことで、電力需要量の予測を行う。
尚、需要情報提供装置500は、予測装置100からのリクエストに応じてデータを送信するコンピュータである。また、需要情報提供装置500は、図2Bに示す取引情報提供装置200と同様のハードウェア構成となっている。
図14に、需要情報提供装置500の記憶手段に記憶された、過去に実測された電力需要量に関するデータテーブルM7の一例を示す。このデータテーブルM7には、所定時間帯の電力需要量が日時と対応づけられて、1時間単位で記憶されている。
図13の(S41)は、予測装置100の取得部101が、需要情報提供装置500に対して、電力取引の対象である所定時間帯に関する過去の電力需要量を要求する工程である。
(S42)は、需要情報提供装置500が、当該要求を受けて、過去の電力需要量に係るデータテーブルM7から、電力需要量を取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する工程である。
一例として、電力取引の対象期間が、2013/2/1の7時〜8時である場合、取得部101は、過去(昨年度の同月)の電力需要量に関するデータM7の7時〜8時のデータを取得する。尚、当該取得する対象の電力需要量の時間帯等は、電力取引の対象期間との類似性等を考慮して適宜変更することができる。
(S43)は、予測装置100の取得部101が、気象情報提供装置400に対して、(S42)で取得した電力需要量の時間帯に関する、過去の気温の実測値を要求する工程である。
(S44)は、気象情報提供装置400が、当該要求を受けて、過去の測定気温に係るデータテーブルM4から、実測値を取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する工程である。
一例として、(S42)で取得した電力需要量の時間帯が、2012/2/1〜2012/2/8の7時〜8時である場合、取得部101は、2012/2/1〜2012/2/8の測定気温に関するデータM4の7時、又は8時のデータを取得する。
(S45)は、予測装置100の需要予測部103が、取得した過去のデータに基づいて、需要予測式を算出する工程である。具体的には、予測装置100は、(S44)で取得した所定時間帯の気温の実測値T1、及び電力需要量N1に基づいて、電力需要量と気温の関係式を算出するための回帰分析を行う。
回帰分析は、例えば、電力需要量Nを目的変数、標準気温18℃と実測値の差、及び標準気温18℃と実測値の差の二乗を説明変数とする、式(12)の回帰モデルについて、最小二乗法により行う。
(γ
0、δ
0は母切片、γ
1、γ
2、δ
1、δ
2は母回帰係数、E
iは誤差項を表す。また、各変数の末尾のiは、各観測点iを表し、サンプルとして取得した過去のデータの各実測値T1、電力需要量N1を表す。)
ここで、標準気温18℃と実測値(気温)の差を説明変数としているのは、冷暖房需要による電力需要量の変動量は、標準気温18℃のときには、冷暖房需要は実質的に0であるとみなせるためである。また、標準気温18℃と実測値(気温)の差の二乗を説明変数とすることによって、冷暖房の需要は、気温が標準気温18℃から離れるにつれて、急激に増加するという一般的社会現象をより正確に反映させることができる。
また、式(12)は、18℃以上か18℃以下かによって式を2分し、冷房需要と暖房需要とを別としている。尚、式(12)では省略しているが、天気情報、曜日情報等の説明変数を追加して回帰分析を行ってもよい。
これより、当該回帰モデルのγ0、γ1、γ2、δ0、δ1、δ2を決定し、需要予測式として回帰式(13)を算出する。
(S46)は、予測装置100の需要予測部103が、上記回帰式(13)と、気温予測部102が算出した予測気温の確率分布データに基づいて、電力需要量の確率分布を算出する工程である。
一例として、予測気温の確率分布データが、予測気温の期待値T2と、68.2%の信頼区間として気温T2±sで表されている場合、電力需要量の確率分布(信頼区間)は、次のようになる。
すなわち、式(13)の気温Tに対して、予測気温の確率分布の期待値T2を代入することによって、電力需要量の期待値を算出する。そして、電力需要量の予測値の信頼区間の上限値と下限値は、式(13)にT2+s、T2−sそれぞれを代入することによって算出することができる(式(13A)は、気温Tについて単調減少関数とみなせる。式(13B)は、気温Tについて単調増加関数とみなせる。)
尚、予測気温の確率分布の期待値T0は、予測気温の確率密度関数がf(T)である場合、式(14)より算出できる。
このように、需要予測部103によって、電力需要量の確率分布を高い精度で算出することができる。
尚、本実施形態では、標準気温18℃と実測値(気温)の差、及び標準気温18℃と実測値(気温)の差の二乗を説明変数とする、回帰モデルを用いた。しかしながら、予測気温の確率分布から電力需要量の確率分布をある程度の精度で算出することができれば、回帰モデルは、上記に限る必要はない。例えば、標準気温18℃と実測値(気温)の差の二乗については、説明変数を省略してもよいし、標準気温18℃と実測値(気温)の差に代えて、通常の実測値(気温)を説明変数としてもよい。また、標準気温は略18℃であればよく、17℃や19℃と設定してもよい。また、説明変数として予測最高気温、予測最低気温、天気情報、地域情報、曜日情報等を追加してもよい。
また、上記実施形態では、需要予測式を算出する際、需要情報提供装置500から、予測対象日の時刻と同時刻の過去データを取得する構成とした。しかし、予測対象日の時刻と同時刻の過去データに基づいて、気温予測式を算出する手法であれば、他の方法であってもよい。例えば、予め式(12)の回帰モデルにダミー変数として時刻に係る変数を追加し、予測装置100の需要予測部103が回帰分析を行う際に、他の時刻情報が除外される方法であってもよい。この場合、同時刻であるときには1、それ以外は0となるように設定すればよい。
また、サンプルの分散を安定化させるため、分散安定化変換を行って、回帰モデルを適応してもよい。需要予測式を算出する式(12)の回帰モデルにおいて、分散安定化変換を行った場合の一例を、式(15)に示す。
(γ
0は母切片、γ
1・・γ
N+4は母回帰係数、E
iは誤差項を表す。D
nは曜日、平・休日に対応するダミー変数を表す。)
式(12)の回帰モデルの場合、気温の値によっては、ばらつきが大きくなる傾向があるが、式(15)の回帰モデルによれば、ばらつきを均一にすることができる。
また、需要予測部103は、電力需要量の確率分布を正確に把握することによって、利益額の確率分布を算出することを目的としているから、回帰式に代えて、既知の電力需要量の確率分布の算出方法を採用してもよい。
===利益予測部の動作について===
次に、利益予測部104の動作について説明する。
本実施形態では、利益予測部104は、需要予測部103が算出した電力需要量の確率分布データに基づいて、利益額Yの確率分布データを算出する。
利益額Yの算出方法については、上記式(4)又は式(5)において説明したとおりである。以下では、電力需要量の確率分布データが、電力需要量の期待値N0と、信頼区間に関するデータN2〜N3である場合について、利益額Yの確率分布を算出する方法を説明する。
利益額Yの期待値は、式(4)の電力需要量Nに対して、電力需要量の期待値N0を代入することによって、算出することができる。
また、利益額Yの信頼区間の上限値Y2と下限値Y3は、式(4)にN2、N3それぞれを代入することによって算出することができる(式(4)は、Cが一定のとき電力需要量Nについて単調増加関数とみなせる)。
このように、利益予測部104によって、電力需要量の確率分布に基づいて、利益額の確率分布を算出することができる。
以上のように、本実施形態によれば、利益額の確率分布に、時間単位で算出された予測気温の確率分布を反映させることが可能となる。すなわち、利益額の確率分布に、時間単位で冷暖房需要に起因する電力需要量の変動を反映させた態様とすることができる。
これより、システム使用者は、一定量の電力取引を行った場合の利益額の確率分布を認識することが可能となる。
尚、上記実施形態では、電力取引における取引量を所定量Cとしたが、利益額Yの確率分布に基づいて、利益額Yが最大となるC’を最適取引量として算出してもよい。その場合、例えば、電力需要量の予測値Nが期待値N0の場合について、Yが最大となるC’を算出すればよい。
<第2実施形態>
本実施形態では、電力需要量の予測基準値が、中央給電指令所等により提示している場合に、電力需要量の予測基準値について確率分布を算出する方法について説明する。
中央給電指令所等が、過去の実績、気象情報等に基づいて、電力需要量の予測基準値を算出し、電力供給者に提示する場合がある。そして、このように算出された電力需要量の予測基準値は、過去の実績を反映した高い精度を担保した情報となっている。
しかし、このように算出された電力需要量の予測値であっても、第1実施形態で述べたとおり、気温の変動があった場合には、冷暖房需要の変動に起因して変動するものである。
そこで、本実施形態では、需要予測部103’は、中央給電指令所等により提示された電力需要量の予測基準値を活用しつつ、その確率分布を算出する。すなわち、需要予測部103’は、過去のデータに基づいて、予測気温から、気温が1度変化した場合に、電力需要量が予測基準値からどの程度の変動するのかの関係式を明らかにする。そして、当該関係式と、予測気温の確率分布に基づいて、電力需要量の確率分布を算出する。本実施形態では、算出された予測気温の確率分布の期待値T0に対して、1度気温がずれた場合の電力需要量の変動量を算出する関係式を算出する。
尚、需要予測部103’以外の構成については、第1実施形態と共通するため説明を省略する。
図15に、本実施形態の需要予測部103’の動作を表すフローチャートの一例を示す。
本実施形態では、予測装置100が、気象情報提供装置400、需要情報提供装置500とLAN接続等による通信網300を利用して(図1には図示せず)、気温の実測値、及びそのときの電力需要量に関する過去のデータ等の送受信を行うことで、電力需要量の予測を行う。
図16Aに、需要情報提供装置500の記憶手段に記憶された、過去の電力需要量に関するデータテーブルM8の一例を示す。このデータテーブルM8には、過去のデータとして、所定時間帯の電力需要量の実測値、当該所定時間帯について予測されていた電力需要量、当該所定時間帯について予測されていた気温(℃)が、日時と対応づけられて1時間単位で記憶されている。
また、図16Bに、需要情報提供装置500の記憶手段に記憶された、電力需要量の予測値(以下、「電力需要量の予測基準値」と言う。)に関するデータテーブルM9の一例を示す。このデータテーブルM9には、未来の電力需要量の予測値が、日時と対応づけられて1時間単位で記憶されている。
図15の(S41’)は、予測装置100の取得部101が、需要情報提供装置500に対して、電力取引の対象である所定時間帯に関する過去の電力需要量を要求する工程である。ここで、取得部101は、過去のデータのうち、予測気温T2のときの電力需要量を要求する。
尚、予測気温T2について回帰式を算出するのは、冷暖房需要に起因した電力需要量の変化量は、気温ごとに異なっているからである。例えば、予測気温19℃から現実には20℃に変化した場合と、予測気温30℃から現実には31℃に変化した場合とで、電力需要量の変化量は異なっている。
(S42’)は、需要情報提供装置500が、当該要求を受けて、過去の電力需要量に係るデータテーブルM8から、実測された所定時間帯の電力需要量、当該所定時間帯について予測されていた電力需要量、当該所定時間帯について予測されていた気温を取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する工程である。
一例として、電力取引の対象期間が、2013/2/1の7時〜8時であり、予測気温の期待値が20度である場合、取得部101は、過去(昨年度の同月)の電力需要量に関するデータM8の7時〜8時でかつ、予測気温が20度のときのデータを取得する。
(S43’)は、予測装置100の取得部101が、気象情報提供装置400に対して、(S42’)で取得した電力需要量の時間帯に関する、過去の気温の実測値を要求する工程である。
(S44’)は、気象情報提供装置400が、当該要求を受けて、過去の測定気温に係るデータテーブルM4から、実測値を取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する工程である。
一例として、(S42’)で取得した電力需要量の時間帯が、2012/2/1〜2012/2/8の7時〜8時である場合、取得部101は、2012/2/1〜2012/2/8の測定気温に関するデータM4の7時、又は8時のデータを取得する。
(S45’−1)は、予測装置100の需要予測部103’が、取得した過去のデータに基づいて、需要予測式を算出する工程である。具体的には、予測装置100は、(S42’)と(S44’)で取得した所定時間帯の実測された電力需要量、当該所定時間帯について予測されていた電力需要量、当該所定時間帯について予測されていた気温、及び所定時間帯の気温の実測値に基づいて、予測気温T0から1℃気温が変化したとき、電力需要量が、電力需要量の予測値からどの程度変化するかについて、回帰分析を行う。
回帰分析は、電力需要量Nfの実測値を目的変数、予測気温T0と実測値Tfの差、及び予測気温T0と実測値Tfの差の二乗を説明変数とする、式(16)の回帰モデルについて、最小二乗法により行う。尚、電力需要量の予測値からのずれ値を算出するための回帰モデルであるため、電力需要量の予測値N0に対する演算式としている。
(γ
1、γ
2、δ
1、δ
2は母回帰係数、E
iは誤差項を表す。N0は電力需要量の予測値、Nfは電力需要量の実測値、T0は気温の予測値、Tfは気温の実測値を表す。また、各変数の末尾のiは、各観測点iを表し、サンプルとして取得した過去のデータの各気温の実測値、電力需要量の実測値、気温の予測値、電力需要量の予測値を表す。)
本実施形態では、気温が予測値から1℃変化した場合の冷暖房需要による電力需要量の変動量を予測するため、予測気温T0と実測値Tfの差、及び予測気温T0と実測値Tfの差の二乗を説明変数とする、2次関数回帰モデルを用いている。また、式(12)と同様に、18℃以上か、18℃以下かによって、式を2分している。
これより、当該回帰モデルのγ1、γ2、δ1、δ2を決定し、需要予測式として回帰式(17)を算出する。
(S45’−2)は、予測装置100の取得部101が、需要情報提供装置500に対して、電力取引の対象である所定時間帯に関する電力需要量の予測値を要求する工程である。
(S45’−3)は、需要情報提供装置500が、当該要求を受けて、未来の電力需要量の予測基準値に係るデータテーブルM9から、予測対象の所定時間帯についての電力需要量の予測基準値を取得し、予測装置100に対して、当該データを送信する工程である。
(S46)は、予測装置100の需要予測部103’が、上記回帰式(17)と、気温予測部102が算出した予測気温の確率分布データに基づいて、電力需要量の確率分布を算出する工程である。
一例として、予測気温の確率分布データが、期待値T0、及び期待値T0からsだけずれた気温T0±sである場合、電力需要量の確率分布(信頼区間)は、式(17)により算出できる。すなわち、電力需要量の信頼区間の上限値と下限値は、式(17)の電力需要量の予測値N0に予測基準値を代入するとともに、Tfに対して予測気温の期待値T0からずれた気温T0±sを代入することにより算出することができる(式(17)は、気温Tについて単調増加関数とみなせる)。
このように、本実施形態の需要予測部103’によって、電力需要量の予測基準値に対する確率分布を高い精度で算出することができる。
尚、上記実施形態では、回帰式(17)を用いた(S46)の工程で、予測気温の確率分布データとして、期待値T0、及び期待値T0からsだけずれた気温T0±sにより、電力需要量の確率分布を算出した。しかし、これに代えて、中央給電指令所が予測気温T0を提示している場合、予測気温T0は、需要情報提供装置500から電力需要量の予測基準値とともに取得する値としてもよい。また、予測気温T0からのずれとして、図11で示した累積確率より算出した信頼区間に関するデータを用いてもよい。そして、予測気温の信頼度ごと(確率ごと)に、電力需要量の基準値に対するぶれ幅を算出してもよい。
尚、上記回帰式(17)に代えて、次の回帰式(18)を用いて、標準気温18℃と実測値との差で、γ1、γ2、δ1、δ2を算出してもよい。
この場合、Nfを電力需要量の実測値、Tfを過去の気温の実績値として、N0を仮想的な電力需要量の予測値として定数とおくことによって、過去の日に関する電力需要量の予測値と予測気温に関するデータを不要とする構成とすることもできる。
そして、電力需要量の予測基準値の確率分布(ぶれ幅)は、算出した回帰式(18)のN0に対して電力需要量の予測基準値を代入するとともに、Tfに対して予測気温の期待値T0からずれた気温T0±sを代入することにより算出することができる。
また、需要情報提供装置500から電力需要量の予測基準値とともに予測気温T0を取得する場合(中央給電指令所の予測気温)、予測気温T0から気温Tfにずれた場合の電力需要量の予測基準値の確率分布(ぶれ幅)は、本実施形態における他の態様として、次の式(19B)を用いることもできる。
(式(19A)は式(15)の回帰式であり、式(19B)は式(15)の回帰係数を用いた式を表す。また、γ
N+1、γ
N+2、γ
N+3、γ
N+4は、式(15)で算出した回帰係数を表す。)
式(19B)のγ
N+1、γ
N+2、γ
N+3、γ
N+4は、式(15)の回帰係数γ
N+1、γ
N+2、γ
N+3、γ
N+4を用いているから、過去の電力需要量の実測値と、過去の気温の実績値から、簡易に予測式を算出することができる。
そして、電力需要量の予測基準値の確率分布(ぶれ幅)は、算出した回帰式(19B)のN0に対して電力需要量の予測基準値を代入するとともに、T0に対して需要情報提供装置500から取得した予測気温、Tfに対して予測気温T0からずれた気温T0±s(又は上記予測気温の信頼区間に関するデータ)を代入することにより算出することができる。
式(19B)において、Δ(デルタを表す。以下同じ。)DT1、ΔDT1 2、ΔDT2、ΔDT2 2を説明変数としているのは、中央給電指令所の予測気温T0からずれてTfとなる場合、電力需要量への影響度は、ΔDT1、ΔDT1 2、ΔDT2、ΔDT2 2により表せるためである。
また、予測気温T0から1℃ずれた場合の電力需要量の変化量に関する係数(気温感応度)は、式(15)ですでに算出しているγN+1、γN+2、γN+3、γN+4と略同一とみなすことができるため、式(19B)において、式(15)で算出したγN+1、γN+2、γN+3、γN+4を用いている。
<その他の実施形態>
上記実施形態では、予測気温の確率分布を、利益額の確率分布に変数変換する際、予測気温の確率分布から算出した所定の信頼区間を、電力需要量の信頼区間に変換し、電力需要量の信頼区間から予測利益の信頼区間に変換する方法を用いた。
しかしながら、予測気温の確率分布を変数変換して、予測利益の確率分布に反映させる算出方法は任意である。
例えば、予測気温の確率密度関数を、回帰式(13)等に基づいて、変数変換して、電力需要量の確率密度関数として表し、同様に、電力需要量の確率密度関数を予測利益の確率密度関数に変換して表してもよい。
図17は、確率密度関数の変数変換のイメージ図である。確率密度関数f(x)を、確率密度関数g(y)に変換する場合、変数変換したg(y)は、式(20)を変形して式(21)のように表せる。
この場合、予測気温の確率密度関数f(x)が正規分布である場合に限らず、T分布、χ
2分布、F分布等、任意の分布関数に適用することができる。
また、同様に、予測気温のばらつきに関する係数(誤差項の標準偏差s)を、上記回帰式(13)に基づいて、電力需要量のばらつきに関する係数に変数変換し、電力需要量のばらつきに関する係数を上記式(4)に基づいて、予測利益のばらつきに関する係数に変数変換してもよい。
また、上記実施形態では、現実の電力需要量が電力需要量の予測値から変動する要因として、気温変動に起因する冷暖房需要の変動が最も大きいとみなして、電力需要量のばらつきを算出する際、式(12)、式(15)、式(16)等の誤差項に関しては、考慮しない態様とした。しかしながら、式(12)、式(15)、式(16)等の誤差項に関しても、式(8)の誤差項の標準偏差sと同様に、誤差項の標準偏差を算出し、電力需要量の確率分布を算出する際に考慮に入れる態様としてもよい。その場合、周知の誤差伝搬の法則により、標準偏差を統合すればよい。
また、上記実施形態では、予測気温の確率分布は、説明変数の値(予測最高気温、予測最低気温の値)によらず、一律に誤差項の標準偏差s2を母分散とする正規分布とみなした。しかし、予測気温の信頼区間は、説明変数の値(予測最高気温、予測最低気温の値)によって分布関数を異ならせる、t分布に基づく信頼区間として算出してもよい。その場合、予測気温T2のばらつきに関する係数は、自由度n−3で割った不偏推定量としての、誤差項の標準偏差s’は式(22)で表せる。
このとき、回帰式(7)の分布が、以下の正規分布に従うと推定して、t値より、予測気温T2の信頼区間を算出することができる。
(各観測点の平均値が回帰式(7)上の値となり、分散係数が誤差項の標準偏差s’に基づいて決定されることを表す。尚、D
2は予測最高気温T2
Maxと予測最低気温T2
Minにより定まるマハラノビスの距離の2乗を表す)
この場合の予測気温T2の信頼区間は、予測最高気温T2
maxと予測最低気温T2
min、誤差項の標準偏差s’に基づいて、式(24)によって算出することができる。
尚、上記の計算式は、統計学上周知の計算方法のため、詳細な説明は省略する。
このように、予測気温T2の確率分布をt分布に基づく信頼区間として表した場合、観測点の数が少ない場合、観測点に偏りがある場合、予測対象日の予測最高気温T2max、予測最低気温T2minが通常と異なる温度域を示している場合等においても、高い精度で予測気温の確率分布を算出することができる。
また、上記実施形態では、予測気温T2の確率分布を示すデータとして、他の分布関数を利用したものであってもよく、χ2分布やF分布に基づくデータであってもよい。
また、上記実施形態では、回帰分析の手法として、最小二乗法を示した。しかし、最小二乗法に代えて、モーメント法や最丈法を利用してもよい。
また、上記実施形態では、予測対象の日時が設定されるに応じて、気温予測式、及び需要予測式を算出する工程を行うとしたが、気温予測式、及び需要予測式を予め生成して記憶手段100Bに記憶しておき、予測対象の日時が設定されるに応じて、対応する日時の気温予測式、及び需要予測式を記憶手段100Bから取得する態様としてもよい。
また、上記実施形態では、予測装置100が、気温予測部102、需要予測部103、利益予測部104を機能部として有する構成とした。しかし、これらの機能部又はその一部は、他の装置に分散されていてもよい。同様に、各記憶手段に記憶されたデータの記憶領域は、任意の場所でよい。例えば、予測装置100に集約されていてもよいし、複数のコンピュータから構成されるクラウドシステム上に分散して記憶される構成であってもよい。
===結言===
以上より、上記各実施形態は、次のように記載できる。
上記各実施形態は、電力取引における利益値(Y)を予測する予測システムであって、電力取引が行われる時間帯Pの複数の日の気象情報を記憶する第1の記憶部(上記実施形態では、データテーブルM6に対応)と、電力需要量と発電費用との関係を表すデータを記憶する第2の記憶部(上記実施形態では、データテーブルM1、M2により算出された限界費用線に関するデータに対応)と、時間帯Pにおける電力取引量及びと取引価格を記憶する第3の記憶部(上記実施形態では、データテーブルM3に対応)と、気温と電力需要量との関係を表すデータを記憶する第4の記憶部(上記実施形態では、式(13)、式(15)、式(17)、式(18)、式(19)に対応)と、時間帯Pの複数の日の気象情報に基づいて、時間帯Pの予測気温の確率分布データを算出する気温予測部(102)と、予測気温の確率分布データと、気温と電力需要量との関係を表すデータと、に基づいて、時間帯Pの電力需要量(N)の確率分布データを算出する需要予測部(103、103’)と、電力需要量の確率分布データ、前記電力需要量と発電費用を対応付けるデータ、及び電力取引における取引量(C)とから算出される前記取引量の電力取引を行う場合の発電費用の変化費用と、前記取引量の電力取引を行う場合の取引価格との差に基づいて、電力取引における利益値の確率分布データを算出する利益予測部(104)と、を有することを特徴とする予測システムを開示するものである。
これによって、電力供給者は、電力取引を行った場合の利益額の確率分布(例えば、ぶれ幅)を認識することが可能となる。
ここで、予測システムは、測定がなされた時と関連付けて記憶された測定気温に関する過去のデータを記憶する第5の記憶部(上記実施形態では、データテーブルM4に対応)と、測定がなされた時と関連付けて記憶された電力需要量に関する過去のデータを記憶する第6の記憶部(上記実施形態では、データテーブルM7に対応)を更に有し、需要予測部は、測定気温に関する過去のデータと、電力需要量に関する過去のデータに基づいて、気温と電力需要量の回帰式(上記実施形態では、式(13)、式(15)、式(17)、式(18)、式(19)に対応)を算出し、回帰式と予測気温の確率分布データに基づいて、時間帯Pの電力需要量の確率分布データを算出するものであってもよい。このとき、需要予測部は、少なくとも予測気温と略摂氏18度の差と、予測気温と略摂氏18度の差の二乗を説明変数として、回帰式を算出する。また、予測システムは、時間帯Pの電力需要量の予測基準値を記憶する第7の記憶部(上記実施形態では、データテーブルM9に対応)を更に備え、回帰式は、予測気温の確率分布データに基づく、電力需要量の予測基準値からの変動量を表す回帰式(上記実施形態では、式(17)、式(18)、式(19)に対応)であってもよい。
これによって、電力供給者は、気温の確率分布を電力需要量の確率分布に正確に反映させることができる。
ここで、利益予測部は、利益値の確率分布データに基づいて、利益値が最大となる電力取引量を算出するものであってもよい。
これによって、電力供給者は、利益の最大化を図ることができる。
ここで、第2の記憶部に記憶された電力需要量と発電費用との関係を表すデータは、複数の発電手段の発電可能量と、複数の発電手段の単位発電量あたりの発電費用と、複数の発電手段に対する稼働優先度に基づいて算出された限界費用線に関するデータであってもよい。
ここで、第3の記憶部に記憶された時間帯Pの電力取引量と取引価格との関係を表すデータは、単位発電量あたりの取引価格に基づいて、電力取引量に応じた取引価格を算出するデータであってもよい。
また、上記各実施形態は、電力取引における利益値を予測する予測方法であって、時間帯Pの複数の日の気象情報に基づいて、時間帯Pの予測気温の確率分布データを算出する気温予測工程と、予測気温の確率分布データと、気温と電力需要量との関係を表すデータとに基づいて、時間帯Pの電力需要量の確率分布データを算出する需要予測工程と、電力需要量の確率分布データ、電力需要量と発電費用を対応付けるデータ、及び電力取引における取引量とから算出される前記取引量の電力取引を行う場合の発電費用の変化費用と、前記取引量の電力取引を行う場合の取引価格との差に基づいて、電力取引における利益値の確率分布データを算出する利益予測工程と、を有することを特徴とする予測方法を開示するものである。
これによって、電力供給者は、電力取引を行った場合の利益額の確率分布(例えば、ぶれ幅)を認識することが可能となる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。