JP6015527B2 - エンドミル - Google Patents

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Description

本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、エンドミル本体の先端から後端側に向けて延びる複数条の切屑排出溝が形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部にそれぞれ外周刃が形成されるとともに、エンドミル本体の先端部にはこれらの外周刃の先端から内周側に延びる底刃が形成されたエンドミルに関するものである。
このようなエンドミルとして、特許文献1には、耐摩耗性の向上を図るため、外周刃や底刃を有する当該エンドミルの切刃部を硬質被覆層で覆ったものが提案されている。
特許第3792947号公報
ところで、エンドミルにあっては、切削時において底刃の回転中心付近は周速度が遅く高熱にはなりにくいため、あまり強い耐摩耗性を要求されない反面、切屑が留まりがちであり、切屑を如何に速やかに排出するかという問題がある。特に、エンドミルを縦送りして穴加工を行う場合やエンドミルを斜め下方に送り込むランピング加工を行う場合において、前記問題は顕著となる。
一方、エンドミルの底刃の外周部は、例え縦送りして穴加工を行う場合やランピング加工を行う場合であっても、周速度が速いため高熱となりやすく、耐摩耗性が重要視される。
つまり、エンドミルにあっては、底刃の回転中心付近では耐摩耗性よりも切屑排出性が重要視され、底刃の外周部では切屑排出性よりも耐摩耗性が重要視される。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、底刃の外周部における耐摩耗性を良好に維持しつつ、底刃の回転中心付近の切屑排出性を高めることができるエンドミルを提供することを課題としている。
ここで、発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、エンドミルにおいて硬質被膜層の有無が切屑排出性に大きく寄与していることを見い出し、本発明をなすに至った。
すなわち、前記課題を解決するために、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、前記エンドミル本体の先端から後端側に向けて延びる複数条の切屑排出溝が形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部にそれぞれ外周刃が形成されるとともに、前記エンドミル本体の先端部にこれらの外周刃の先端から前記エンドミル本体の内周側に延びる底刃が形成され、少なくとも前記外周刃及び前記底刃を有する切刃部が硬質被覆層で被覆されたエンドミルにおいて、前記底刃のすくい面のうち、エンドミル回転中心を含みそこから前記エンドミル本体の径方向外方に向かい以下の(1)式で表されるXの範囲にわたる領域が、前記硬質被覆層を有しておらず前記エンドミル本体の基材が露出された領域であることを特徴とする。
0.1D≦X≦0.25D …(1)
(D:エンドミル本体の外径)
このように構成されたエンドミルでは、底刃のすくい面の硬質被覆層が、エンドミル回転中心を含みそこからエンドミル本体の径方向外方に向かって、該エンドミル本体の外径Dに対し0.1D〜0.25Dの範囲にわたって除去されている。つまり、すくい面の回転中心付近の硬質被覆層が除去されている。
このため、すくい面の回転中心付近では、硬質被膜層を有しておらず基材が直接露出しており、当然に硬質皮膜層の表面に生じがちなドロップレット(硬質皮膜層を形成する際に生じる表面の凹凸欠陥となる微粒子)を有していないから、切削時において底刃の中心付近によって生成される切屑は、この基材が露出するすくい面上を速やかに移動する。これにより、良好な切屑排出性が確保される。なお、切削時において底刃の回転中心付近は周速度が遅く高熱になりにくいため、耐摩耗性はあまり要求されない。
一方、切削時において底刃の外周部は、周速が速いため高熱となりやすく、耐摩耗性の点が懸念されるが、この部分にはもともと硬質被膜層によって被膜されているので、耐摩耗性の問題は生じない。
また、底刃のすくい面の硬質被覆層が、エンドミル回転中心を含みそこからエンドミル本体の径方向外方に向かって0.25Dの範囲を超える広い範囲除去されると、底刃の外周部近傍まで硬質皮膜層が除去されることとなり、底刃の外周部の耐摩耗性の点で問題が生じる。
逆に、底刃のすくい面の硬質被覆層が、エンドミル回転中心を含みそこからエンドミル本体の径方向外方に向かって0.1Dの範囲よりも狭い範囲だけしか除去されない場合には、すくい面の回転中心付近での良好な切屑排出性が確保されなくなる。
前記底刃のすくい面の硬質被膜層が、該すくい面の先端からエンドミル本体基端側に向かって0.02D以上の範囲にわたって除去されていることが好ましい。
生成された直後の切屑は、温度が高く溶着しやすい。しかしながら、前記のようにすくい面の先端からエンドミル本体の基端側へ所定距離にわたって硬質皮膜層が除去されており、良好な切屑排出性を確保されているので、この部分に切屑が溶着されるのを未然に防ぐことができる。
一方、生成された切屑はすくい面を移動する際に次第に冷却されて硬化する。硬化した切屑を受ける部分、すなわち、すくい面の先端からエンドミル本体の基端側へ所定距離以上至った部分は、もともと硬質被膜層によって被膜されているので、硬化した切屑から過度の負荷が加わる場合でも、損傷されにくい。
前記底刃のすくい面の硬質皮膜層が除去された部分のエンドミル本体径方向外側及びエンドミル本体基端側に、硬質皮膜層の厚さが他の硬質皮膜層よりも薄い中間層がそれぞれ形成されていることが好ましい。
すくい面において、硬化被覆層が被覆されたままの部分と硬化被覆層が除去された部分との間では性状が異なる。つまり、これらの部分は、切屑の排出性や耐摩耗性の点で大きく異なり、また、硬質被膜層の有無により厚さも異なる。これらの両部分の間に硬質皮膜層の厚さが他の硬質皮膜層よりも薄い中間層、つまり双方の部分の性状を併せ持つ中間層を設けることにより、該中間層がこれら両部分の緩衝的な役割を果たす。
このため、切屑がすくい面上を移動する際に該切屑から両部分の境界部分に過度の荷重が加わり、その境界部分が集中的に損傷されるのを未然に防ぐことができる。
以上説明したように、本発明によれば、底刃の外周部における耐摩耗性を良好に維持しつつ、底刃の回転中心付近の切屑排出性を高めることができ、この結果、切屑詰まりによるエンドミル本体の回転駆動力の増大や加工面粗度の低下を防ぐことができるとともに、工具の長寿命化の図ることができる。
本発明の一実施形態を示す斜視図である。 図1に示す実施形態の側面図である。 図1に示す実施形態の拡大正面図である。 図3におけるIV方向に沿った斜め方向から見た斜視図である。 図3におけるV方向に沿った斜め方向から見た斜視図である。 図3におけるVI方向に沿った斜め方向から見た斜視図である。
図1ないし図6は、本発明の一実施形態を示すものであり、図1は斜視図、図2は側面図、図3は拡大正面図である。
本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料により軸線Oを中心とした外形略円柱状をなし、その後端部(図1において右上部分。図2、3においては右側部分)は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端部(図1において左下部分。図2、3においては左側部分)は切刃部3とされる。このようなエンドミルは、前記シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ軸線Oに交差する方向に送り出されて切刃部3により金属材料等の被削材の溝加工や肩削り加工を行ったり、軸線O方向にも繰り出されて縦削り加工やランピング加工を行ったりする。
切刃部3の外周には、この切刃部3の先端すなわちエンドミル本体1の先端に開口して後端側に向かうに従いエンドミル回転方向T後方側に捩れる複数条の切屑排出溝4が周方向に間隔をあけて形成されている。本実施形態では、第1〜第3の3条の切屑排出溝4A〜4Cがエンドミル回転方向Tに向けて順に形成されている。
これらの切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面4aの外周側辺稜部、すなわち該壁面4aと切刃部3の外周側を向く外周逃げ面5との交差稜線部には、壁面4aをすくい面とする外周刃6がそれぞれ形成されている。従って、本実施形態では第1〜第3の3枚の外周刃6A〜6Cがエンドミル回転方向Tに向けて順に形成されることになり、これら第1〜第3の外周刃6A〜6Cは、それぞれ第1〜第3の切屑排出溝4A〜4Cと等しいリードでエンドミル本体1の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向T後方側に捩れることになる。なお、これらの外周刃6が軸線O回りになす回転軌跡は、該軸線Oを中心とする1つの円筒面とされる。
また、各切屑排出溝4の先端部には、それぞれの切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く前記壁面4aをエンドミル本体1の内周側に向けて切り欠くようにして、凹溝状のギャッシュ7が形成されている。このギャッシュ7は、エンドミル本体1の外周側から見て図3や図4に示すように先端側に向かうに従い漸次幅広となるV字状をなしており、エンドミル回転方向Tを向く壁面7aとエンドミル回転方向T後方側を向く壁面7bとを有している。従って、本実施形態では、やはり第1〜第3の切屑排出溝4A〜4Cの先端部に、それぞれ第1〜第3のギャッシュ7A〜7Cがエンドミル回転方向Tに向けて順に形成されることになる。ここで前記壁面7aは、後述する底刃を考慮するとすくい面となる。以下、この壁面7aをすくい面という。
そして、これらギャッシュ7のエンドミル回転方向Tを向く各すくい面7aと、切屑排出溝4およびギャッシュ7によって切刃部3の先端面が切り欠かれて形成された先端逃げ面8との交差稜線部には、外周刃6の先端に連なり、エンドミル本体1の内周側に向けて延びる底刃9がそれぞれ形成されている。なお、先端逃げ面8は、本実施形態では底刃9に交差する逃げ角の小さい第1逃げ面8aと、この第1逃げ面8aのエンドミル回転方向T後方側に連なる逃げ角の大きい第2逃げ面8bとにより形成されている。
ここで、切刃部3の先端面には、第1〜第3の3つの切屑排出溝4A〜4Cおよびギャッシュ7A〜7Cによって第1〜第3の3つの先端逃げ面8A〜8Cが形成されることになる。そして、エンドミル回転方向Tに向けて順に、第1のギャッシュ7Aの前記すくい面7aと第1の先端逃げ面8Aとの交差稜線部に第1の底刃9Aが形成され、第2のギャッシュ7Bのすくい面7aと第2の先端逃げ面8Bとの交差稜線部に第2の底刃9Bが形成され、第3のギャッシュ7Cのすくい面7aと第3の先端逃げ面8Cとの交差稜線部に第3の底刃9Cが形成される。
これら第1〜第3の底刃9A〜9Cは、軸線O回りの回転軌跡が、該軸線Oに直交する1つの平面上、または内周側に向かうに従い軸線O方向後端側に極僅かに凹む1つの凹円錐面上に位置するようにされており、本実施形態のエンドミルは底刃9が外周刃6に回転軌跡において直交または僅かに鋭角に交差するスクエアエンドミルとされている。また、軸線O方向先端視において、各底刃9は直線状に延び、該底刃9に平行で軸線Oを通る直線よりも僅かにエンドミル回転方向T側に位置するようにされて、いわゆる芯上がりの配置とされている。
前記第1〜第3の底刃9A〜9Cのうち、第1の底刃9Aは、他の第2、第3の底刃9B、9Cよりもエンドミル本体1の内周側に長く延びる長底刃とされている。この長底刃とされた第1の底刃9Aは、軸線O方向先端視に図2に示すように、外周刃6Aの先端からエンドミル本体1の径方向において軸線Oを越える位置まで延びている。
また、この第1の底刃9Aのエンドミル回転方向T側に隣接する第2の底刃9Bは、第1〜第3の底刃9A〜9Cのうちで最も短い短底刃とされている。さらに、第2の底刃9Bのエンドミル回転方向T側、すなわち第1の底刃9Aのエンドミル回転方向T後方側に隣接する第3の底刃9Cは、長短底刃とされた第1、第2の底刃9A、9Bの中間の長さの中底刃とされている。
このような第1〜第3の底刃9A〜9Cの長短は、第1〜第3のギャッシュ7A〜7Cを異なる大きさとすることによって形成される。第1の底刃9Aがすくい面7aと第1の先端逃げ面8Aとの交差稜線部に形成された第1のギャッシュ7Aは、そのエンドミル回転方向T側に隣接する第2の先端逃げ面8Bの内周部分を大きく切り欠いて第2のギャッシュ7Bに連通するように形成されている。
また、第2の底刃9Bがすくい面7aと第2の先端逃げ面8Bとの交差稜線部に形成された第2のギャッシュ7Bは、そのエンドミル回転方向T側に隣接する第3の先端逃げ面8Cの内周部分を切り欠いて第3のギャッシュ7Cに連通するものの、この第2のギャッシュ7Bが第3の先端逃げ面8Cを切り欠く大きさは、第1のギャッシュ7Aが第2の先端逃げ面8Bを切り欠く大きさよりは小さくされている。
これら第1、第2のギャッシュ7B、7Cに対して、第3の底刃9Cがすくい面7aと第3の先端逃げ面8Cとの交差稜線部に形成された第3のギャッシュ7Cは、そのエンドミル回転方向T側に隣接する第1の先端逃げ面8Aを第1のギャッシュ7Aに連通するまでは切り欠いておらず、第1、第3のギャッシュ7A、7C間には第1の先端逃げ面8Aが軸線O方向先端視において該軸線Oを越えるまで内周側に残されることになる。従って、これにより、第1〜第3の底刃9A〜9Cがそれぞれ長、短、中底刃とされる。
図4は図3におけるIV方向に沿った斜め方向から見た斜視図、図5は図3におけるV方向に沿った斜め方向から見た斜視図、図6は図3におけるVI方向に沿った斜め方向から見た斜視図である。
エンドミル本体1の少なくとも切刃部3の部分は、底刃9のすくい面7aの一部を除いて大部分が例えば硬質被覆層によって覆われている。
ギャッシュ7(7A、7B、7C)のエンドミル回転方向Tを向く壁面、すなわち、底刃のすくい面7aには、図4〜図6に示すように硬質被覆層が除去された領域Za、Zb、Zcが設けられている。これら硬質被覆層が除去された領域Za、Zb、Zcは、エンドミル回転中心Oを含みそこからエンドミル本体1の径方向外方に向かい前記(1)式で表されるXの範囲であり、かつ、すくい面7aの先端を含みそこからエンドミル本体1の基端側に向かって0.02D〜0.1Dの範囲に設定されている。
例えば、エンドミル本体1の外径Dが10mmの場合、第1〜第3の底刃9A、9B、9Cに対応する各すくい面7aa、7ab、7acの硬質被覆層が除去された領域Za、Zb、Zcについて述べると、図4に示すように、第1の底刃9Aに対応するすくい面7aaの硬質被覆層が除去された領域Zaは、エンドミル回転中心Oからエンドミル本体の径方向外方に向かう幅wが1.03mmの範囲、かつすくい面の先端からエンドミル本体1の基端側に向かう高さhが0.35mmの範囲に設定されている。
図5に示すように、第2の底刃9Bに対応するすくい面7abの硬質被覆層が除去された領域Zbは、エンドミル回転中心からエンドミル本体の径方向外方に向かう幅wが2.20mmの範囲、またすくい面の先端からエンドミル本体1基端側に向かう高さhが0.22mmの範囲に設定されている。
図6に示すように、第3の底刃9Cに対応するすくい面7acの硬質被覆層が除去された領域Zcは、エンドミル回転中心からエンドミル本体の径方向外方に向かう幅wが1.84mmの範囲、またすくい面の先端からエンドミル本体1の基端側に向かう高さhが0.23mmの範囲に設定されている。
このように第1〜第3の底刃9A、9B、9Cに対応する各すくい面7aa、7ab、7acの硬質被覆層が除去された領域Za、Zb、Zcが異なるのは、次の理由である。すくい面7aのエンドミル回転中心Oからエンドミル本体1の径方向外方に向かって硬質皮膜層を除去された領域Za、Zb、Zcを一義的に決めると、短底刃9Bの場合には、硬質皮膜層を除去された領域Zbが設けられない場合が生じ、この場合、短底刃9Bに付随するすくい面7abの良好な切屑排出性が得られなくなる。一方、長底刃9Aの場合には、硬質皮膜層を除去された領域Zaが広くなりすぎてしまい、この長底刃9Aの外周部に近いすくい面7aaでは、耐摩耗性の点で問題が生じるからである。
また、すくい面7aの先端からエンドミル本体1の基端側に向かって硬質皮膜層を除去された領域Za、Zb、Zcを一義的に決めると、長底刃9Aと短底刃9Bとでは、そこで生成される切屑の量が異なるため、短底刃9Bの場合には、切屑の量に対して硬質皮膜層を除去された領域Zbが広くなりすぎてしまう現象が生じ、長底刃9Aの場合には、切屑の量に対して硬質皮膜層を除去された領域Zaが狭くなりすぎてしまう現象が生じてしまうからである。
このように、第1〜第3の底刃9A、9B、9Cに対応する各すくい面7a、7b、7cの硬質被覆層が除去された領域Za、Zb、Zcは、一義的ではなく、第1、第2、第3の底刃9A、9B、9Cの大きさ等の性状によって決定される。
次に、前記実施形態の作用に説明する。
Figure 0006015527
表1は、底刃のすくい面の硬質皮膜層がエンドミル回転中心を含みそこからエンドミル本体の径方向外方に向かって、エンドミル本体の外径Dに対し0.1D〜0.25Dの範囲にわたって除去された領域を有する本発明1と、底刃のすくい面の硬質皮膜層がエンドミル回転中心を含みそこからエンドミル本体の径方向外方に向かって、0.1D未満の範囲にわたって除去された領域を有する比較例1と、底刃のすくい面の硬質皮膜層がエンドミル回転中心を含みそこからエンドミル本体の径方向外方に向かって、0.25Dを超える範囲にわたって除去された領域を有する比較例2とを比較したものである。
表1からも分かるように、比較例1におけるすくい面の回転中心部では、硬質皮膜層が除去された領域が狭すぎるので、良好な切屑排出性が得られない。また、同比較例1におけるすくい面の外周部では、回転中心付近まで硬質皮膜層が形成されているので、良好な切屑排出性が得られないものの、耐摩耗性は良好となる。
比較例2におけるすくい面の回転中心部では、硬質皮膜層が除去された領域が広すぎるので、切屑排出性が良好となる。また、同比較例2におけるすくい面の外周部では、外周部付近まで硬質皮膜層が除去されているので、切屑排出性は良好となるものの、要求される良好な耐摩耗性が得られない。
一方、本発明1では、すくい面の回転中心部において、硬質被膜層を有しておらず基材が直接露出しており、当然に硬質皮膜層の表面に生じがちなドロップレットを有していないから、切削時において底刃の中心付近によって生成される切屑は、この基材が露出するすくい面上を速やかに移動する。これにより、良好な切屑排出性が確保される。なお、耐摩耗性は硬質皮膜層で被覆されたものに比べ劣るものの、切削時において底刃の回転中心付近は周速度が遅く高熱にはなりにくいため、耐摩耗性はあまり要求されず、問題は生じない。
また、本発明1におけるすくい面の外周部においては、切削時に底刃の外周部が周速が速いため高熱となりやすく、耐摩耗性の点が懸念されるが、この部分にはもともと硬質被膜層によって被膜されているので、耐摩耗性の問題は生じない。切屑排出性についても通常の性能は得られる。
つまり、エンドミルにおいて、すくい面の回転中心部では耐摩耗性よりも切屑排出性が要求され、すくい面の外周部では切屑排出性よりも耐摩耗性が要求されるが、本発明1は、それらの要求に充分応えることができる。
Figure 0006015527
表2は、底刃のすくい面の硬質皮膜層が該すくい面の先端を含みこの先端からエンドミル本体基端側に向かって0.02D〜0.1Dの範囲にわたって除去された領域を有する本発明1と、底刃のすくい面の硬質皮膜層が該すくい面の先端からエンドミル本体基端側に向かって0.02D未満の範囲にわたって除去された領域を有する本発明2と、底刃のすくい面の硬質皮膜層が該すくい面の先端からエンドミル本体基端側に向かって0.1Dを超える範囲にわたって除去された領域を有する本発明3と、を比較した図である。
底刃9A〜9Cによる切削の際に生成された切屑は、すくい面7a、7b、7cをエンドミル本体基端側へ移動するが、このとき生成された直後の切屑は高温であるもののそれらから次第に冷却されて硬化する。
本発明2では、すくい面の硬質皮膜層が除去された領域が、すくい面の先端からエンドミル本体基端側に向かって0.02D未満と若干狭いものの、すくい面の硬質皮膜層が除去された該領域を有しており、この領域において良好な切屑排出性が得られるので、生成された直後の高温状態にある切屑が、すくい面に溶着するのを防ぐことができる。
一方、本発明1では、すくい面の硬質皮膜層が除去された領域が、すくい面の先端を含みこの先端からエンドミル本体基端側に向かって0.02D〜0.1Dの範囲と十分広いので、この広い領域において良好な切屑排出性が得られる。このため、生成された直後の高温状態にある切屑が、すくい面に溶着するのを広範囲にわたって防ぐことができ、より好ましい。
また、本発明1では、前述したようにすくい面の硬質皮膜層が除去された領域が、すくい面の先端を含みこの先端からエンドミル本体基端側に向かって0.02D〜0.1Dの範囲とされ、該領域よりもエンドミル本体基端側のすくい面は硬質皮膜層で被覆されている。すくい面上を移動するときに冷却されて硬化した切屑は、この硬質皮膜層で被覆されたすくい面上を移動することになり、したがって、硬化した切屑から過度の負荷が加わる場合でも損傷されにくい。
これに対し、本発明3では、底刃のすくい面の硬質皮膜層が該すくい面の先端からエンドミル本体基端側に向かって0.1Dを超える範囲にわたって除去されたより広い領域を有しているので、良好な切屑排出性が得られるものの、硬化した切屑から過度の負荷が加わる場合には、本発明2よりも損傷されやすくなる。
前記底刃のすくい面の硬質被覆層が除去された部分のエンドミル本体径方向外側及びエンドミル本体1の基端側には、硬質皮膜層の厚さが他の硬質皮膜層よりも薄い中間層Xがそれぞれ形成されている。
すくい面において、硬化被覆層が被覆されたままの部分と硬化被覆層が除去された部分との間では性状が異なる。つまり、これらの部分は、切屑の排出性や耐摩耗性の点で大きく異なり、また、硬質被膜層の有無により厚さも異なる。これらの両部分の間に硬質皮膜層の厚さが他の硬質皮膜層よりも薄い中間層X、つまり双方の部分の性状を併せ持つ中間層Xを設けることにより、該中間層Xがこれら両部分の緩衝的な役割を果たす。
このため、切屑がすくい面上を移動する際に該切屑から両部分の境界部分に過度の荷重が加わり、その境界部分が集中的に損傷されるのを未然に防ぐことができる。
なお、一旦コーティングした硬質皮膜層を除去したり中間層Xを形成する方法としては、例えば、ブラスト処理が挙げられる。
なお、本実施形態では、第2の底刃9Bが短底刃、第3の底刃9Cが中底刃とされているが、逆に第2の底刃9Bが中底刃、第3の底刃9Cが短底刃とされていてもよく、また第2、第3の底刃9B、9Cが互いに等しい長さとされていてもよく、また、第1、第2、第3の底刃9A、9B、9Cが全て等しい長さとされていても良い。
さらに、本実施形態では、外周刃6と底刃9とが回転軌跡で互いに直交または僅かに鋭角に交差するスクエアエンドミルに本発明を適用した場合について説明したが、外周刃と底刃とが1/4円弧等の凸曲線状をコーナ刃を介して連なるラジアスエンドミルにも本発明を適用することが可能である。
また、本実施形態では3枚刃エンドミルに本発明を適用した場合について説明したが、切屑排出溝や外周刃、ギャッシュ、底刃等が複数であれば2枚刃のエンドミルや4枚刃以上のエンドミルに適用することも可能である。例えば、4枚刃のエンドミルであれば、長底刃と短底刃とが交互に形成されていてもよい。
1 エンドミル本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 切屑排出溝
4A〜4C 第1〜第3の切屑排出溝
4a 切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面
4b 切屑排出溝4のエンドミル回転方向T後方側を向く壁面
5 外周逃げ面
6 外周刃
6A〜6C 第1〜第3の外周刃
7 ギャッシュ
7A〜7C 第1〜第3のギャッシュ
7a、7aa、7ab、7ac (側壁)すくい面
9 底刃
9A 第1の底刃(長底刃)
9B 第2の底刃(短底刃)
9C 第3の底刃(中底刃)
Za、Zb、Zc 硬質被覆層が除去された領域
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向

Claims (3)

  1. 軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、前記エンドミル本体の先端から後端側に向けて延びる複数条の切屑排出溝が形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部にそれぞれ外周刃が形成されるとともに、前記エンドミル本体の先端部にこれらの外周刃の先端から前記エンドミル本体の内周側に延びる底刃が形成され、少なくとも前記外周刃及び前記底刃を有する切刃部が硬質被覆層で被覆されたエンドミルにおいて、
    前記底刃のすくい面のうち、エンドミル回転中心を含みそこから前記エンドミル本体の径方向外方に向かい以下の(1)式で表されるXの範囲にわたる領域は、前記硬質被覆層を有しておらず前記エンドミル本体の基材が露出している領域であることを特徴とするエンドミル。
    0.1D≦X≦0.25D …(1)
    (D:エンドミル本体の外径)
  2. 前記底刃のすくい面において前記基材が露出している領域は、該すくい面の先端からエンドミル本体基端側に向かって0.02D以上の範囲にわたって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンドミル。
  3. 前記底刃のすくい面において前記基材が露出している領域のエンドミル本体径方向外側及びエンドミル本体基端側に、硬質皮膜層の厚さが他の硬質皮膜層よりも薄い中間層がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエンドミル。
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