JP6012653B2 - 繊維強化プラスチック成形体の製造方法 - Google Patents
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繊維強化プラスチックは、一般に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂などのマトリックス樹脂を繊維強化材に含浸して硬化させることによって得られた複合材料であり、その耐熱温度及び使用環境は概ね200℃以下である。
しかしながら、縮合反応型硬化性イミド樹脂を用いた繊維強化プラスチックは、その製造工程、特に縮合反応型硬化性イミド樹脂の縮重合の際に水などの反応副生成物が発生し、これがボイドとして残留することで繊維強化プラスチックの強度が低下するという問題がある。また、この繊維強化プラスチックは、350℃以上の高温で成形する必要があるため、コストが上昇すると共に生産性が低下するという問題もある。水などの反応副生成物の発生を抑制することができる熱硬化性ポリイミドを用いた繊維強化プラスチックの開発も行われているが、成形温度が高いという問題は抱えたままである。
他方、レジンフィルムインフュージョン(RFI)による繊維強化プラスチック成形体の製造方法も知られているが、プリプレグとの併用が主であり、プリプレグを用いないと、繊維強化材に樹脂が十分に含浸されず、均質な繊維強化プラスチック成形体が得られない。
前記脱泡混合物をフィルム状に成形して冷却し、短繊維含有樹脂フィルムを作製する工程と、
前記短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物とを積層し、積層体を作製する工程と、
前記ビスアリルナジイミドの溶融温度に前記積層体を加熱して加圧又は減圧し、前記短繊維含有樹脂フィルム中の前記ビスアリルナジイミドを溶融させつつ前記強化繊維織物に含浸させる工程と、
前記ビスアリルナジイミドの硬化温度に前記積層体を加熱し、前記積層体中の前記ビスアリルナジイミドを硬化させる工程と
を含むことを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法である。
以下、本発明の繊維強化プラスチック成形体の製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態の繊維強化プラスチック成形体の製造方法のフローを示す図である。
本実施の形態の繊維強化プラスチック成形体の製造方法は、図1に示すように、脱泡混合物の調製工程、短繊維含有樹脂フィルムの作製工程、積層体の作製工程、溶融・含浸工程、硬化工程及び脱型工程を含む。
以下、各工程について詳細に説明する。
脱泡混合物は、加熱溶融させたビスアリルナジイミド(以下、「BANI」と略す。)に短繊維を配合し、真空下で混合攪拌することによって調製される。
この工程において使用されるBANIは、無水アリルナジック酸及びジアミンから合成される、脱水閉環反応が完結した両末端にアリル基を持つ付加型熱硬化性イミドモノマーである。BANIは、嵩高く、比較的強固なアリルノルボルネン骨格を有しているため、溶融温度(融点)が低い。また、BANIは、従来のイミド樹脂などに比べて硬化温度が低いため、繊維強化プラスチック(以下、「FRP」と略す。)成形体の樹脂材料として用いた場合に、FRP成形体を低温(約300℃以下)で作製することができる。さらに、BANIは、最低粘度が約20cpであり、100cp以下の粘度領域も約100〜220℃までと比較的広いため、成形性も良好である。しかも、BANIの硬化物は、耐熱性が高く、接着性にも優れるという特徴を有する。
また、上記の化学式で表されるBANIは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ただし、数種類のBANIを組み合わせて用いると、配合比によって短繊維含有樹脂フィルムのタック性(粘調度合い)を調整することができる一方、耐熱性が低下することがある。したがって、単一成分のBANIを用いることが好ましい。
短繊維は、短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物との一体化を高める観点から、強化繊維織物の開口幅(クロス目の幅)よりも小さな繊維長を有することが好ましい。すなわち、例えば、強化繊維織物の開口幅が3mmである場合、短繊維の繊維長は3mm未満とすることが好ましい。短繊維が、強化繊維織物の開口幅よりも大きな繊維長を有すると、強化繊維織物の開口部に短繊維が導入されず、強化繊維織物の表面に残存したままとなり、短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物との一体化が十分でないことがある。ここで、本明細書において「短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物との一体化」とは、下記で説明する積層体の作製工程、溶融・含浸工程及び硬化工程によって短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物とを複合化することを意味する。また、強化繊維織物の「開口幅」とは、強化繊維織物中に存在する開口部の幅、例えば、強化繊維織物を構成する縦糸と横糸との間に形成された開口部の幅のことを意味する。
また、BANIに対する短繊維の配合割合は、特に限定されないが、作製される短繊維含有樹脂フィルムの柔軟性に対して影響を与える。例えば、複雑な形状を有するFRP成形体を作製する場合、短繊維含有樹脂フィルムの柔軟性を高めることが望ましいため、BANIの量を多くすればよい。ただし、BANIの量が多すぎると、FRP成形体の耐熱性が低下する可能性がある。そのため、BANIと短繊維との合計中(すなわち、短繊維樹脂フィルム中)の短繊維の割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。
攪拌方法としては、特に限定されないが、短繊維の種類によっては凝集などが生じ、気泡が混入され易くなることがある。したがって、短繊維の種類に応じて、公知の攪拌方法を適宜選択する必要がある。
また、真空脱泡処理の条件(例えば、圧力など)は、特に限定されず、使用する原料や設備の種類に応じて適宜設定すればよい。
短繊維含有樹脂フィルムは、脱泡混合物をフィルム状に成形して冷却することで作製される。
通常、BANIは加熱溶融した後に冷却すると、形状を維持することができない場合が多いが、加熱溶融させたBANIに短繊維を含有させることでフィルム状への成形が可能となる。
フィルム状への成形方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、離型処理を施した金型に脱泡混合物を流し込んで加圧成形した後、冷却することによってフィルム状に成形することができる。得られた短繊維含有樹脂フィルムは、脱型した後、次の工程で用いられる。離型処理としては、特に限定されず、公知の離型剤を金型の表面に塗布したり、離型フィルムを配置したりすればよい。また、上記の方法の他、真空ラミネーター、ドクターブレードを用いてフィルム状に成形してもよい。
積層体は、短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物とを積層することで作製される。
この工程で用いられる強化繊維織物としては、耐熱性を有する繊維から形成されるものであれば特に限定されず、FRP成形体に用いられる公知の強化繊維織物を用いることができる。強化繊維織物の例としては、炭素繊維、ガラス繊維、ケブラー繊維などの無機繊維、アラミド繊維などの有機繊維から形成される強化繊維織物が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
短繊維含有樹脂フィルム及び強化繊維織物の枚数は、特に限定されず、FRP成形体の厚さに応じた枚数を用いればよい。したがって、短繊維含有樹脂フィルム及び強化繊維織物の枚数はそれぞれ、1枚のみならず、2枚以上を用いてもよい。
短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物との積層順序は、特に限定されないが、次工程における含浸処理を効率良く行う観点から、短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物とを交互に積層することが好ましい。例えば、図2に示すように、型1内に、強化繊維織物2、短繊維含有樹脂フィルム3及び強化繊維織物2を順次配置して積層させればよい。
また、積層の際、加熱することで、短繊維含有樹脂フィルム3を軟化させて粘性を高め、短繊維含有樹脂フィルム3と強化繊維織物2との接着性を向上させてもよい。例えば、強化繊維織物2上に短繊維含有樹脂フィルム3を積層し、短繊維含有樹脂フィルム3に用いたBANIの軟化温度に加熱した後、短繊維含有樹脂フィルム3上に強化繊維織物2を積層することで、短繊維含有樹脂フィルム3と強化繊維織物2との間の配置のずれを防止することができる。
ここで、本明細書においてBANIの「軟化温度」とは、加熱したときに、BANIが軟化し、変形し始める温度のことを意味する。この軟化温度は、使用するBANIの種類に応じて適宜設定すればよく、一般に35℃以上100℃以下、好ましくは40℃以上90℃以下、より好ましくは40℃以上80℃以下である。
溶融・含浸工程は、BANIの溶融温度に積層体を加熱して加圧又は減圧することによって行われる。これにより、短繊維含有樹脂フィルム3中のBANIを溶融させつつ強化繊維織物2に含浸させることができる。加熱温度が溶融温度未満であると、BANIが溶融せず、短繊維含有樹脂フィルム3中のBANIを強化繊維織物2に含浸させることができない。一方、加熱温度が高すぎると(例えば、硬化温度にすると)、短繊維含有樹脂フィルム3中のBANIが強化繊維織物2に十分に含浸される前に硬化してしまい、均質なFRP成形体を得ることができない。
硬化工程は、BANIの硬化温度に積層体を加熱することによって行われる。これにより、積層体中のBANIを硬化させることができる。加熱温度が硬化温度未満であると、BANIが硬化せず、所望の機械的特性を有するFRP成形体を得ることができない。
ここで、本明細書においてBANIの「硬化温度」とは、BANIのアリル基及びノボルネン骨格中の二重結合の付加反応により、三次元架橋構造が形成される温度のことを意味する。この硬化温度は、使用するBANIの種類に応じて適宜設定すればよく、一般に200℃以上300℃以下、好ましくは210℃以上280℃以下、より好ましくは220℃以上270℃以下である。
加熱時間は、使用した材料の種類、積層体の大きさなどに応じて適宜調整すればよいが、一般に1〜24時間、好ましくは2〜20時間である。
脱型は、硬化工程を冷却した後、型1からFRP成形体5を除去することによって行われる。冷却方法は、特に限定されず、自然冷却の他、各種媒体を用いて冷却してもよい。
(実施例1)
10gのBANI−M(丸善石油化学株式会社製)を金属製容器に入れ、金属製容器をオーブン内に配置して20分間170℃に加熱し、BANI−Mを溶融させた。次に、溶融させたBANI−Mに0.5gのピッチ系炭素短繊維(繊維長200μm)を配合し、真空下で混合攪拌して脱泡混合物を調製した。
次に、10cm×10cmの大きさに成形可能な1mm厚の金属枠に脱泡混合物を流し込み、加圧してフィルム状に成形し、自然冷却させた。その後、金属枠を除去し、短繊維含有樹脂フィルムを得た。
次に、9cm×9cmの大きさに、炭素繊維織物(T300クロス材、東レ株式会社製)を2枚、上記で得られた短繊維含有樹脂フィルムを1枚それぞれ切り出し、2枚の炭素繊維織物の間に短繊維含有樹脂フィルム1枚を挟んだ積層体を9cm×9cmの型枠内に配置した。
得られたFRP成形体について断面観察を行った結果、マトリックス樹脂及び強化繊維織物の各部分に、目立ったボイド及び強化繊維織物の乱れは確認されなかった。
また、熱分析装置(TMA)によってFRP成形体のTgを測定した結果を図4に示す。図4に示すように、FRP成形体のTgは290℃であり、耐熱性に優れていることが確認された。
実施例1と同様にして短繊維含有樹脂フィルムを作製すると共に、炭素繊維織物(T300クロス材、東レ株式会社製)を準備した。次に、150mm×150mmの大きさに、炭素繊維織物(T300クロス材、東レ株式会社製)を2枚、短繊維含有樹脂フィルムを1枚それぞれ切り出した。
次に、80℃で30分間予備加熱した半球状金型(直径200mm)に炭素繊維織物を1枚配置し、その上に短繊維含有樹脂フィルムを1枚積層させた。この状態のまま3分間保持して短繊維含有樹脂フィルムを軟化させた後、その上に炭素繊維織物を1枚配置した。このとき、短繊維含有樹脂フィルムの軟化によって生じた粘性により、炭素繊維織物の配置のずれを防止することができた。
得られたFRP成形体について断面観察を行った結果、マトリックス樹脂及び強化繊維織物の各部分に、目立ったボイド及び強化繊維織物の乱れは確認されなかった。
また、熱分析装置(TMA)によってTgを測定した結果、Tgは290℃であり、耐熱性に優れていることが確認された。
Claims (6)
- 加熱溶融させたビスアリルナジイミドに短繊維を配合し、真空下で混合攪拌して脱泡混合物を調製する工程と、
前記脱泡混合物をフィルム状に成形して冷却し、短繊維含有樹脂フィルムを作製する工程と、
前記短繊維含有樹脂フィルムと強化繊維織物とを積層し、積層体を作製する工程と、
前記ビスアリルナジイミドの溶融温度に前記積層体を加熱して加圧又は減圧し、前記短繊維含有樹脂フィルム中の前記ビスアリルナジイミドを溶融させつつ前記強化繊維織物に含浸させる工程と、
前記ビスアリルナジイミドの硬化温度に前記積層体を加熱し、前記積層体中の前記ビスアリルナジイミドを硬化させる工程と
を含むことを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法。 - 前記短繊維は、前記強化繊維織物の開口幅よりも小さな繊維長を有することを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
- 前記短繊維樹脂フィルム中の短繊維の割合が20質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
- 前記短繊維は、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
- 前記短繊維含有樹脂フィルムを作製する工程において、前記短繊維含有樹脂フィルムが前記繊維強化プラスチック成形体の形状に予備成形されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
- 前記積層体を作製する工程において、前記強化繊維織物上に前記短繊維含有樹脂フィルムを積層し、前記ビスアリルナジイミドの軟化温度に加熱した後、前記短繊維含有樹脂フィルム上に強化繊維織物を積層して積層体を作製することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
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