コンタクトホールの穴底を観察する場合、プリドーズとして実施する電子線照射によって試料表面の電位の変化あるいはプリドーズ後に電位が抜けていく状況を正確に把握することが重要である。コンタクトホールが密集するようなパターンでは基板からの電子の供給やあるいは試料観察時の一次電子線照射によって帯電が緩和されている状況が発生し、これが穴底の信号電子の引上げに影響を与えることも少なくない。
また、アスペクト比30〜40を超えるようなコンタクトホールでは穴底からの信号電子の引上げために、数百Vにも試料表面を帯電させなければならない状況にもなってきている。このような状況では、穴底を観察するために必要な表面電位を得るための電子線照射時間も長くなる。ただし、半導体デバイスの検査、計測装置には高スループットな処理が要求されることから、帯電形成時間の増加によるスループットの低下は避けなければならない。したがって、半導体デバイスの検査、計測において求められるプリドーズの最適条件とは、最短時間で検査、計測が行える表面電位に正帯電させるビーム条件となる。表面電位を制御するパラメータは、主に加速電圧(電子ビームの試料への到達エネルギー)、プローブ電流、倍率であるが、これらのパラメータの設定はオペレータの経験に頼らざるを得ない状況にあるであった。また、最適条件を見つけるためには、測定と検証を繰り返し行うことになり、長時間の作業が必要となる。あるいは最適か否かの判定もオペレータの判断に委ねられるため、場合によっては最適な条件に設定されず、検査、測定が不安定な状況となることも考えられる。
以下に説明する実施例では、高アスペクトなコンタクトホールを観察するために、プリドーズ照射条件として、加速電圧、倍率、プローブ電流を変更したときの表面電位の変化を計測し、試料帯電を最短で実施するための条件を一次電子線条件にフィードバックすることで、高速且つ高精度な検査、計測を可能にする走査電子顕微鏡について説明する。
以下に説明する実施例によれば、例えば、高アスペクトなコンタクトホールの穴底観察のために必要な試料の表面電位条件を正確に求めることができ、またその照射条件の最適化によって高スループットな検査、計測が可能になる。
以下、図面を用いてプリドーズ条件を適正に設定することのできる走査電子顕微鏡、及びビーム照射条件設定方法について説明する。
図1は走査電子顕微鏡の構成を示した例である。陰極1と第一陽極2の間には制御演算装置40(制御プロセッサ)で制御される高電圧制御電源30により電圧が印加され、所定のエミッション電流が陰極1から引き出される。陰極1と第二陽極3の間には制御演算装置40で制御される高電圧制御電源30により加速電圧が印加されるため、陰極1から放出された一次電子線4は加速されて後段レンズ系に進行する。一次電子線4は、第一集束レンズ5で集束され、絞り板8で一次電子線4の不要な領域が除去された後に、第二集束レンズ制御電源32で制御された第二集束レンズ6および対物レンズ制御電源36で制御された対物レンズ7により、試料ステージ11上に載せられた試料(半導体ウェハ)10に微小スポットとして集束される。対物レンズ7の磁界中には加速電極電源38によって正の電圧を印加した加速電極19が配置される構成を持つものでも良い。また、試料ステージ11には、一次電子線4の低エネルギー照射による高分解能化のためのリターディング方式として、試料印加電源37により負の電圧を印加することができる。
一次電子線4は、偏向コイル制御電源33によって制御された走査用の上下段の偏向コイル13、14が発生する偏向磁場によって試料10上を二次元的に走査される。
試料10から発生した二次電子、反射電子等の二次信号電子12は、対物レンズ7による磁界、あるいは試料10に印加されたリターディング電位や加速電極19に印加したブースティング電位による引上げ電界の作用を受けて対物レンズ7の上方に進行し、反射板9によって変換信号電子15に変換される。この変換された信号電子は電磁界直交型偏向器16(いわゆるExB)によって信号検出器17の方向に進行し検出され信号増幅器18で増幅された後、画像メモリ41に転送されて、像表示装置42にSEM像として表示される。図1では反射板9によって変換された変換信号電子を検出する例を示したが、試料から発生した信号電子12を半導体検出器で直接検出するようなものでも良い。
試料に到達する一次電子線の照射エネルギー(到達エネルギー)は高電圧制御電源30で加速された電子のエネルギーとリターディング電圧に印加された負電位によって減速される電圧差として制御される。つまり、一次電子線4が陰極1から出射後、加速電圧V0とリターディング電圧Vrの差であるから、試料に入射する一次電子線の実加速電圧Vaccは、式(1)となる。
Vacc=V0−Vr ・・・・(1)
以上のような構成をもつ走査電子顕微鏡で、試料表面電位を測定する手段としては、リターディング電位を一次電子線のエネルギーよりも高く設定し、試料に入射しない状態(ミラー状態)にした状態で、試料から放出された電子の到達位置や倍率の変化、像回転角等をモニタし、予め記憶されているこれらパラメータと帯電量の関係式、或いはテーブルに基づいて、帯電量を測定する(例えば特許第4969231号(対応米国特許公開公報US2009/0272899))。このミラー状態で反射する電子は、試料表面電位によって影響を受ける変位量、倍率が異なることから、この変化量をSEM情報から取得することで、帯電量を計測することができる。この方法を用いれば、試料に電子を入射させないで表面電位を計測できるため、試料へのダメージ抑制や、一次線照射による電位変化の影響を抑えることが可能になる。一般的に市販されているような表面電位計を搭載し、試料ステージ11によって場所を移動し、観察対象位置の電位を測定するような方法も可能であるが、位置再現性よく高速に測定するのは困難である。ミラー状態での表面電位測定では、リターディング電圧の変更や、フォーカス条件の変更などが必要になるが、ステージ移動のような物理的な移動を伴わないため、高速な表面電位計測が可能になる。本実施例では、試料表面の電位状態を測定した結果を記録装置43に記録し、制御演算装置40を用いて一次電子線の制御に反映する手段を有する。
図2〜図4に、コンタクトホールの形状例とプリドーズによる信号電子の引上げ効果の概略図を示す。コンタクトホール52は、半導体デバイスの基板50と配線の導通をとるために作られる。基板50はシリコンなどの導体で形成され、その上層には絶縁膜51が形成されており、コンタンクトホール52は絶縁膜51をエッチングすることで形成される。最終的には金属が埋め込まれて上層にある配線と電気的な接続がとられる。コンタクトホール52の検査、計測の目的は、絶縁物をエッチングしたホールの開口およびその穴底部の確認である。基板50がコンタクトホール52の底にしっかりと露出していないと金属を埋めても、導体の基板との接続ができないため導通不良となる。このため、コンタクトホールの穴底を観察し、基板が露出していることをSEMで検査、計測することが要求される。
図2では、試料帯電が形成されない場合の信号電子の軌道とそのときのコンタクトホールのSEM観察像を表している。ここで、コンタクトホールの穴底を検査、計測する上で重要な信号電子は穴底から出る信号電子53であるが、穴底から出た信号電子のほとんどはコンタンクトホールの側壁に衝突し消失してしまう。かろうじてホールを脱出した信号電子が二次電子検出器によって検出されることもあるが、信号強度が低く観察が困難である。
図3では、プリドーズによって試料表面が正に帯電した状態の信号電子の軌道とそのときのコンタクトホ−ルのSEM観察像を表している。試料表面電位が正に帯電すると穴底から出た信号電子は、試料表面と穴底の間に形成される電界の作用を受けて開口部に向かって電子が引上げられる。帯電状態を制御することによって穴底の信号電子を効率良く引上げることができる。本実施例では、表面電位を制御するパラメータであるプローブ電流、倍率、加速電圧と、像観察が可能な表面電位の関係を取得することができる。したがって、プリドーズを効率良く行うための照射条件を求めることができるようになる。あるいは、開き角、焦点深度、ビームプロファイルなどを変えた時の試料電位の変化や、加速電極19に印加する制御電圧を変えた時の試料表面電位の変化を正確に把握することで、照射条件の最適化を実施できるようになる。
図4では、プリドーズによって正に帯電した表面電位がプリドーズ後に減少する例を示している。一次電子線の照射によって発生した正帯電の電位は、基板から供給される電子55や観察条件にしたときに試料に照射する一次電子線56の影響を受けて、正帯電が崩される。例えばコンタクトホールが密集しているような場所では、基板からの電子の供給量が多く、正帯電の電位が減少する。したがって、この表面電位が減少する状況を正確につかみ、高速に像観察、検査、測定を実施しなければならない。表面電位の減少が速い試料の場合は、測定可能な表面電位に到達していても、電位の低下が影響し、測定時には穴底の情報が得られていない場合も想定される。本実施例を用いれば、この試料表面電位の減少特性を測定し、一次電子線の制御に反映することができるようになるため、効率的な測定が可能になるとともに、誤測定を減らすことができる。
本実施例では、図2〜図4に示すように試料の表面電位とSEM像から得られる情報との相関を得ることを特徴とする。試料表面電位とSEM画像とを比較することで、コンタクトホールの穴底を観察するために必要な表面電位を計測する。穴底の信号電子の増減は、試料表面の電位量が支配的であることから、予めこの信号電子量と表面電位の関係を取得することで、必要な表面電位を知ることができるようになる。必要電位量を求める方法としては、穴底からの信号電子の量の増減がわかるようなものでよく、例えば穴底の測長結果57の求めた寸法値であったり、得られたSEM像のコンタクトホール穴底の信号強度を画像から求めた結果であったりしても良い。また、オペレータがSEM像を確認し、良否を判定するというものであっても良い。
図5は、加速電圧と二次電子発生効率δの関係を示したものである。二次電子の発生効率が1の場合、一次電子線照射によって試料に入る入射電子と、試料から出る出射電子の個数が同じになるため、試料帯電がなく安定したSEM像が得られる。一方、二次電子の発生効率が1を超える場合、入射電子より出射電子の個数が増えるため試料は正に帯電する。プリドーズは一次電子線の予備照射によって試料を正に帯電させるため、この二次電子が1を超える条件で使用されなければならない。試料の物質によって二次電子の発生効率は異なるが、一般的に図5に示すような範囲の加速電圧(20〜30Vから1〜2kV程度)が二次電子発生効率が1を超える条件である。正に帯電させる加速電圧として二次電子発生効率が1を超える領域のどの加速電圧で照射すればよいかを、オペレータの判断に委ねると、経験的に行われてきた加速電圧を踏襲して実施するようなことになる。ただし、二次電子の発生効率は絶縁膜の材料あるいは膜質によって異なり、この発生効率は帯電を形成するスピードと相関がある。したがって、プリドーズの最適条件としては、この2次電子の発生効率が最も高くなる条件を求めることが重要となる。
本実施例によれば、加速電圧条件(到達エネルギー条件)を変更したときの電位変化を測定することができるので、最も発生効率の高い加速電圧62を測定することが可能になる。
また、試料表面に正帯電(Vs)が形成することによって、試料に照射する実加速電圧60は(2)式に示すように上昇する。
Vacc=V0−Vr−Vs ・・・(2)
高アスペクトのコンタクトホールの検査、計測では、穴底からの信号電子を引上げるために、数10〜数100Vの帯電が必要な場合もある。このような場合にはプリドーズによる正帯電によって2次電子の発生効率が低下することで、所定の帯電を形成する時間が長くなってしまう。これに対しては、プリドーズ照射と帯電電位の測定を交互に繰り返すことによって、プリドーズによる帯電電位の時間的変化を求め、プリドーズ照射時の一次電子線の加速電圧62にフィードバックさせることで常に最適な条件に設定することが可能になる。具体的には、リターディング電圧Vrに表面電位Vsと等しくなるようなオフセット電圧ΔVrを印加し(式(3)、(4))、表面電位の変化が実加速電圧に影響しないように制御することが有効な手段となる。
Vacc=V0−(Vr−ΔVr)−Vs ・・・(3)
ΔVr=Vs ・・・(4)
図6〜図8では、プリドーズ時の加速電圧、倍率、プローブ電流等のビーム条件に対する試料帯電状態の時間的推移を示す。材料によって傾向が違うが、絶縁物の正帯電の状況は大きくは図6〜8に示す時間推移で帯電が形成される。
図6では倍率、プローブ電流が一定の場合に、加速電圧の違いによる表面電位(正帯電)の時間的変化を示している。加速電圧に対する二次電子の発生効率は異なるため、加速電圧によって図6の傾きは試料によって違う。ただし、表面電位はある一定の値(飽和電位量)以上にはならない。本実施例では、加速電圧による表面電位の変化を測定し、図5に示す二次電子の発生効率を間接的に求めることが可能になる。二次電子の発生効率が最も高くなる加速電圧62に設定することで帯電量を形成するための時間を短時間に抑えることができる。高アスペクトなコンタクトホールでは検査、計測に必要な試料帯電電位が大きくなるため、高スループット化のためには、短時間で帯電が蓄積できる最適な加速電圧の選定は非常に有益な手段となる。
図7では、加速電圧、倍率が一定の場合に、異なるプローブ電流での表面電位の時間的変化を示している。電流が多いほど、二次電子量も多くなるため、帯電量は増加する。ただし、表面電位はある一定の値(飽和電位量)以上にはならない。
図8では、加速電圧、プローブ電流が一定の場合に、異なる倍率での表面電位の変化を示している。倍率が低いほど、飽和電位量は増大するが、検査、計測に必要な電位を形成するための時間は長くなる。一方、倍率が高いほど、飽和電位量は減少するが、所定の電位を形成するための時間は短くなる。
本実施例によれば、加速電圧、プローブ電流、倍率を変更したときの図6〜図8の試料表面電位の状態を正確に把握することができるため、図5で示した検査、測定に必要な試料表面電位を速く上昇させるための条件を適切に求めることができるようになる。具体的には、二次電子の発生効率を高く、電流を大きく、必要電位量を確保できる倍率を最適に設定することが可能になる。
図9は、本実施例による表面電位測定によるプリドーズ条件最適化のための処理フローを示している。図6〜8で示したパラメータのうち加速電圧は二次電子発生効率を変えるものであり、二次電子発生効率が最も高くなる最適条件が存在する。プローブ電流や設定倍率については、装置構成上おおよそ決まってしまうパラメータであり、その設定範囲内で最適条件を求めることになる。例えば、半導体デバイスを検査、計測する観察倍率でいえば、測定対象物が数nm〜数十nmのライン&スペースやコンタクトホールであるため、高精度に観察するためには数万〜数十万倍での観察倍率が主である。一方、低倍率観察用としては測定点移動のためのアドレッシングや測定対象物のパターン特定のための簡易観察が主な目的であり、観察倍率としては数千倍程度の観察が一般的である。それ以下の低倍率設定も可能ではあるが、高分解能化のため対物レンズの短焦点化が行われている場合には、歪曲収差が増大することや、また偏向器の歪なども問題となるため、極端な低倍率の観察は現実的ではない。
したがって、数千倍から数十万倍の設定倍率から条件を選択することになる。また、プローブ電流については、半導体プロセス向けの高輝度安定な電子源としてショットキーエミッション電子源があるが、高分解能観察を実施するためには、光源の縮小率を上げる必要があるため、現実的には数pA〜数百pA程度が限界である。本実施例では、そのような装置構成上の制約がつくようなプリドーズの照射条件として処理時間を短時間に実施できるような最適条件を求めるための処理手順となる。
プリドーズ条件最適化のための処理フローは、図9に示すように加速電圧による最適条件を第一に求めることが特徴的なフローとなる。まず、測定対象物となるウェハパターン上で、加速電圧を変えたときの電位上昇のデータを取得する(ステップ501〜504)。この時の表面電位の測定は、上述したミラー状態による測定を行うことを想定している。また、加速電圧条件を変える手段としては、試料に印加する試料印加電圧37を変化させて試料に到達する一次電子線のエネルギー(到達エネルギー)を変える方法が望ましい。
プリドーズ時の加速電圧の最適条件を求める場合、図6で示す項目として重要なのは電位量が飽和するまでの表面電位の時間変化(傾き)である。この傾きが最大になるものが、短時間で帯電量を形成する状態、つまり二次電子発生効率が高い最適条件(最適加速電圧62)となる。この条件を求めるための判定値としては、電位が飽和するまでの時間が最短になる条件を求めることでも良いし、ある一定時間照射させた後の試料表面電位の値(傾き)を求めて、傾きが最大になる条件を求めることでも良い。この傾きは、単位時間あたりの表面電位(帯電量)の変化を示すものであり、傾きが急峻な程、早く所望の帯電が形成されるビーム条件である。よって、傾きが最も大きいもの(単位時間当たりの表面電位の変化が最も大きいもの)、或いは傾きが所定値より大きいもの(単位時間当たりの電位の変化量が所定値を超えているもの)をビーム条件として選択するようにすれば、プリドーズを高速に行い得るビーム条件を設定することが可能となる。帯電量の所定値は、必要な予備帯電量が予め分かっている場合に、その値以上となるように設定することが望ましい。
このような傾きの程度の演算と、ビーム条件の選択は、例えば制御演算装置40に内蔵されている演算装置を用いて行う。なお、ビーム条件を変えて傾きを求める場合、同じ照射領域で異なるビーム条件での傾きの評価を行ってしまうと、1のビーム条件による帯電が蓄積した状態で、他のビーム条件での評価を行ってしまうことになるため、ビーム条件ごとに照射位置を変えて傾き評価を行うことが望ましい。この場合、制御演算装置40は、ビーム条件ごとに異なる照射位置にビームが照射されるように試料ステージ11を駆動する。また、図示しない視野移動用の偏向器を用いて、ビーム条件ごとに視野を移動し、傾き評価を行うようにしても良い。
また、最適値を求めるための手法としては、数点の加速電圧条件から得た点からフィッテイングカーブを作成し、最適値を求めるような手法でも良い。例えば、予め100V、300V、500V、700V、900Vのように予め測定する加速電圧を決めておき、加速電圧毎の表面電位の時間変化を装置が自動で取得し、その結果からフィッテイングカーブを作成し、そのカーブの最大値になる加速電圧を最適値とするような手順で最適値を求めることができる。その際、正確な電位変化を測定するためには、一度も一次電子線が照射されていないフレッシュなパターンで測定することが重要であるため、フレッシュなパターンへの移動、プリドーズ条件としての加速電圧の変更、一次電線線照射と所定の時間間隔での電位測定の繰り返しを一連の動作として行う。この処理を複数回行うことを自動で装置が実施できるようにしておくことで、オペレータの負荷は軽減できる。
制御演算装置40は、加速電圧の最適値が得られた場合に、その加速電圧を装置条件として設定(ステップ505)し、この設定状態で以下のビーム条件決定ステップに移行するよう、各構成要素を制御する。
次に、倍率、プローブ電流を変更して、表面電位測定を実施する(ステップ506〜510)。飽和電位量は倍率に依存して変化することから、電位量を上げたい場合には、倍率を低くすることが望ましい。ただし、必要電位量到達までの時間が長くなるため、低倍率設定による飽和電位量の上昇と必要な電位量を付帯するための時間の短縮はトレードオフの関係にある。したがって、図7と図8に示した倍率とプローブ電流の設定条件は、両者を合わせてパラメータとして設定し、比較することが最適条件を決める上で効率が良い。
図10および図11には、倍率とプローブ電流を設定するための条件設定の一例を示している。図10では図7、図8で求める飽和時間、飽和電位量を装置で設定できるプローブ電流と倍率をマトリクスで表したものである。飽和電位量はプローブ電流にはよらず倍率に依存するため図10で示すような飽和電位の矢印の向きに大小関係をもつ。一方、飽和するまでの時間あるいは所定の帯電量を付帯する時間は、プローブ電流が大きく、倍率が高い場合に処理時間が短くなるため、図11に示すような矢印の向きに設定されることが望ましい。プリドーズ条件の最適条件を求める上では、例えば次のような2つのシケンスに分けて行うことで効率的な処理が可能になる。第一に、マトリクスの右側の列を上下に設定して比較することで、飽和電位を求め、検査、計測に必要な電位量を求める。第二に、検査、『計測に必要な電位量』>飽和電位量となる領域において、倍率と、プローブ電流条件を変化させながら、飽和時間が最短時間になる条件を求める。
ステップ503、509では実際の観察条件に設定して、表面電位と観察条件の関係を取得するものである。つまり、図2〜4を用いて説明した検査、計測する必要電位量をここで判定する。ただし、ステップ503は加速電圧条件の設定は最適となる二次電子発生効率を求めることが目的となることから、図9に示すフローの中で省略することが可能である。必要電位量の判定としては、SEM画像で得られた穴底の輝度の変化をモニタし、予め決められた閾値以上になった状態が安定になったという判断とすることや、穴径を計測し計測結果が一定になった状態が安定になったという判断とすることで、一連の動作を自動で行えるようにすることが可能である。もちろん、従来のようにオペレータが結果を確認するという手段でも良い。ただし、条件設定とデータ取得の一連を動作は装置が自動で行い、ステップ511で一連の測定結果を表示させオペレータが良否を判定できるようにすることで、オペレータの負荷を軽減することができる。
図12は、本実施例を適用した場合のプリドーズ照射および測定対象物の検査、計測の処理フローを示している。プリドーズ時には図9で予め求めた加速電圧、プローブ電流、倍率を設定し(ステップ602)、図9で求めた時間が経過した後に、検査、計測のための観察条件を設定する。ただし、観察条件にする前に、表面電位を測定することで、図9で示した条件が正しいかを確認することができる。このようにプリドーズ後の表面電位測定(ステップ603)を実施するようにしておけば、所定のプリドーズ条件が正しく実施されたかを確認することが可能になる。ここで、所定の表面電位に達しない場合には、誤測定の可能性があるので、追加のプリドーズを実行し、所定の電位条件になるまで実行する。場合によっては、表面電位が上昇しすぎる場合もあるため、電位判定条件では、上限値および下限値を決めておくことで、誤測定を回避することも可能になる。また、複数台の装置で上記のような管理を行うことで表面電位の違いによる検査、計測結果の違いを抑えることが可能になるため、装置性能の機差低減につながる。
図13は図4に示したようにプリドーズによって形成した試料帯電が緩和する場合に、本実施例を適用した一例を示している。本実施例によれば、プリドーズ後の観察条件時の表面電位の減少特性を取得することが可能になる。具体的には、プリドーズ後に、観察条件による一次電子線照射と、表面電位測定を繰り返すことによって表面電位の時間的変化を求める。例えば、プリドーズ後に電子線を照射しないでミラー状態で表面電位測定を継続した場合には基板から電子供給されて表面電位が減少する特性曲線71が取得できるし、観察条件で表面電位測定を行えば一次電線照射による帯電量緩和と基板からの電子供給による帯電緩和の合成特性曲線72を取得できる。また、一次電線線照射によって表面電位が減少する特性曲線についても特性曲線71と特性曲線72の差分値から求めることができる。図9のフローで示したように検査、計測を行う上で必要な電位量を予め求めておくことで、必要電位量を保持する観察最大時間73が求まる。この観察最大時間73の範囲内で、画像取得するように条件を決めることで、検査、計測の誤測定を抑制することができるようになる。一方、一次電子線照射による表面電位の減少特性については、一次電子線の偏向方法(間引きスキャンや高速スキャンなど)やスポットビームの制御(開き角、ビームプロファイルなど)を変更することで、減少特性の傾向が変わる場合もある。本実施例では、このような一次電子線を特殊に制御した場合において、表面電位の減少を抑制する効果を定量的に測定することができるため、最適な観察条件を求めることができるようになる。
図14は帯電量緩和の測定を実際に行う処理フローの一例を示している。このフローは図5のフローと同時に行い、プリドーズ条件を選定するためのフローに組み込むことが望ましい。例えば、図9で示すフローによって求めたプリドーズ条件を設定し、飽和電位量に到達するまで、プリドーズ条件の一次電子線照射と表面電位測定を繰り返す(ステップ901〜903)。その後、一次電子線を観察条件に設定し、所定の時間ステップ毎に表面電位を計測する(ステップ904〜907)。この観察条件での一次電子線照射と表面電位測定を繰り返すことで、表面電位の時間的変化を計測することができる。所定の観察条件において、必要電位量を下回る条件になった場合は不適切な条件であることを、オペレータに知らせる機能を持たせることで、信頼性の高い測定を実現することができる。また、一連の動作を自動で実施し、複数の一次電子線の照射条件による表面電位測定を実施することもできるため(ステップ908)、装置が自動で条件を設定し、最適な条件を求めるようにすることもできるようになる。
図15では、本実施例が適用される光学系において帯電電圧が飽和しない状態で使用する場合に有効となる実施例を示している。図15はある倍率、プローブ電流でプリドーズを実施したとき表面電位の時間的変化を示している。ここで、飽和に達するまでの領域を不飽和領域、帯電量が飽和した状態を飽和領域とする。通常は、飽和電位に到達した時間をプリドーズ照射条件にすべきであるが、飽和電位に到達しない状態でも、信号電子の引上げが可能な条件であれば、検査、計測には支障がないため、不飽和領域でプリドーズ条件を設定することは可能である。最近の半導体デバイスのコンタクトホールではアスペクトが大きく、信号電子を引上げるために表面電位を高くしなければならない状況が多く、図2の飽和電位の特性に従い倍率を低く設定する場合が多い。この場合、図8に示したように、一定の帯電量を形成するために長時間が必要となるためスループットの低下となる。そこで、スループット低下を極力抑えるために、不飽和領域で表面電位が必要電位量81よりも高い条件をプリドーズ条件とすることは有効な手段である。また、表面電位がある電位以上になると、基板と絶縁膜の間に形成される電界が増大し、絶縁破壊を生じてしまう。最近のデバイスでは、この絶縁破壊が至る電界は3MV/cm程度であることが示されているが、このような場合においては絶縁破壊電圧81に至らない倍率を設定すること、また不飽和領域で使用することが有効な手段となる。
一方、不飽和領域において使用する場合には、倍率の違い、あるいはプローブ電流の違いがあるときに正帯電を付帯する状況に差が発生する。例えば、プリドーズ条件として、2つの観察倍率A>Bと2つのプローブ電流C>Dが存在する場合に、各々の表面電位の変化は図16に示す傾向を示す。コンタクトホールの検査、計測に必要な必要帯電量をとすると、必要電位量に到達する時間がプリドーズ条件によって大きく異なる状況を示している。もちろん、高精度な電流計を用いてプローブ電流を測定することや、倍率を高精度に調整することによってこの影響は抑制できる。ただし、倍率精度については、低倍率時には対物レンズの歪曲収差や、偏向歪の影響によって大きくSEM像が歪む場合が生じてしまうことが多く、低倍率時の倍率調整を高精度に合わせることが困難な場合も多い。したがって、低倍率時の観察倍率誤差が発生する場合に一定時間で形成する表面電位量が異なり、誤測定が発生する。本実施例によれば、表面電位を計測することができるため、例えば複数台の装置機差で、若干のプローブ電流値に違い、あるいは観察倍率の機差が生じてしまった場合にも、表面電位でプリドーズ条件を制御できるため、高精度で誤測定のない検査、計測が可能になる。
図17は、本実施例においてプローブ電流を一次電子線4の制御方法によって変更する場合に適した実施例を示している。一次電子線4のプローブ電流を変化させる方法としては、第一陽極2の電圧を上昇させて陰極1の電界を上げることで、放出電子量を増加させる方法がある。ただし、チップ先端は高電界集中部であるため、過剰な電界上昇は放電の危険性が増すために、第一陽極2の電位はある上限以上にならないように制御されることが多い。そこで、一次電子線4を絞り8に対する開き角を制御することでプローブ電流変化させるようにする。第一集束レンズ5によって形成する一次電子線のクロスオーバ91を絞り穴8に近づけるように制御することでプローブ電流は増加する。
一方、クロスオーバ91を絞り穴から遠ざけるように第一集束レンズを制御することで、プローブ電流は低下する。本実施例では、プリドーズ時の電流条件を変更する場合において、一次電子線のクロスオーバ90を変更すると同時に、第二集束レンズ6で集束するクロスオーバ91を一定に保つように制御することを特徴とする。このように制御すれば、対物レンズ7で試料10に集束する一次電子線の励磁条件が変わらないため、偏向器13、14で制御する偏向量はプローブ電流変化によって影響を受けず倍率を一定に保つことが可能になる。例えば、図16で示したように、不飽和領域で使用するような場合には、プローブ電流変化による倍率の変化は抑制でき、高精度で安定した検査、計測が可能になる。
図18は本実施例を適用した場合に、図9で示した最適なプリドーズ条件を求めるときの調整GUIの一例を示している。オペレータはGUI上のいくつかの項目を入力、設定することで、自動でプリドーズの最適条件を求めることができるようになる。例えば、加速電圧設定条件については、自動取得を選択することで、予め決められた加速電圧毎の表面電位の時間変化を取得し、二次電子発生効率が最も高くなる値を求めることができる。ただし、絶縁膜の材質として二次電子発生効率が最大になる加速電圧がわかっている場合や、既に加速電圧設定条件として最適値を求められているような場合には、加速電圧値を入力し、自動取得のフローを省略できる。
プリドーズの電流、倍率条件については、図10、図11で示した設定条件を視覚的に設定できるようなものをGUIに搭載しておくことで、高い利便性が得られる。オペレータが実施したい条件を図18に示す表中の枠を選択すると、その枠の色が変わり、実施条件として予約する。選択した条件は、図9に示すステップ507〜509の実施条件として実施、表面電位測定と画像取得を実施する。また、本実施例では、電位測定を実施するサンプリング時間を設定できるようにすることで、計測時間の短縮化や高精度な測定の選択をオペレータが判断できるようにすることもできる。また、表面電位上限値を予め設定し、表面電位がこの上限値以上にならない条件を実施条件とする。例えば、絶縁破壊が懸念されるような場合には、この上限値を設定することで、試料を破壊することなく、安全な測定が可能になる。